JP6730547B1 - MnZn系フェライトおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
しかし、同時に自動車用途では、軽量化、省スペース化も求められるため、高い破壊靭性値に加え、従来用途と同様に好適な磁気特性を併せ持つことが重要である。
良好な磁気特性に言及したものとしては、特許文献1および2等が、また破壊靭性値を高めたMnZn系フェライトとしては、特許文献3および4等が報告されている。
また、焼成工程において十分な熱を加え、フェライト内の結晶粒を適度に成長させることで、磁化工程における結晶粒内の磁壁の移動を容易化し、さらに粒界に偏析する成分を添加し、適度で均一な厚みの粒界を生成させ、比抵抗を保持させることで、周波数上昇に伴う初透磁率の減衰を抑制し、100kHz領域でも高い初透磁率を実現している。
以上から、自動車車載用電子部品に供するMnZn系フェライトには、高い初透磁率という良好な磁気特性および高い破壊靭性値の両者が求められる。
また、特許文献3および特許文献4では、破壊靭性値の改良については言及されているものの、磁気特性が自動車車載用電子部品の磁心としては不十分であり、やはりこの用途には不適といえる。
その結果、この組成範囲内であれば、磁気異方性および磁歪が小さく、比抵抗も保持し、初透磁率の温度特性が極大値を示すセカンダリピークも23℃近傍に出現させることができ、その結果、同条件下において高い初透磁率を実現することができる適正範囲を見出した。
すなわち、ボイドは、粒界に存在するものと、結晶粒内に存在するものとがあるが、結晶粒内に残存するボイド(以下、結晶粒内ボイドとも称する)を減少させることにより脆性材料であるMnZn系フェライトのき裂伝播が抑制され、その結果、材料の破壊靭性値が向上することが究明されたのである。
まず、フェライトの焼成時に粒成長バランスが崩れることにより、異常粒が出現することがあるが、この異常粒は粒内に多数のボイドを含有する。この異常粒の発生を抑制して、結晶粒内ボイドの数を低減するためには、不純物の含有量を低減する必要がある。なお、異常粒の出現は損失を増大させるため、磁気特性の観点からも異常粒の回避が求められる。
もう1つは、通常のMnZn系フェライトの製造において仮焼工程を経るのだが、この際の仮焼の最高温度、および冷却時の速度もしくは雰囲気を適正に制御することで、材料が過剰に酸素を吸収することを防ぎ、焼成時における還元反応の際に脱離する酸素量を減少させることで、ボイドの出現数を減少させ、結晶粒内ボイドを減少させる手法である。
これら2つの手段を適切に制御することによって、初めて材料の破壊靭性値を高めることが可能になる。
なお、先に述べた特許文献1および特許文献2では、破壊靭性値に関する言及がなされておらず、この改善は不可能といえる。
また、特許文献3および特許文献4では、靱性は改善されているものの、適切な組成範囲を選択できていないために、満足のいく磁気特性が実現できていない。
そのため、これらの知見のみでは実用上有用な自動車車載用電子部品の磁心に適したMnZn系フェライトを作製することはできない。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、Fe2O3、ZnO、MnO換算での鉄、亜鉛、マンガンの合計を100mol%として、
鉄:Fe2O3換算で51.5〜55.5mol%、
亜鉛:ZnO換算で15.5mol%超、26.0mol%以下および
マンガン:MnO換算で22.0〜32.0mol%
であり、
前記基本成分に対して、副成分が、
SiO2:50〜250massppm、
CaO:100massppm以上、1000massppm未満、
Nb2O5:100〜300massppmおよび
Bi2O3:50〜300massppm
であり、
前記不可避的不純物におけるPおよびB量をそれぞれ、
P:10massppm未満および
B:10massppm未満
に抑制し、
前記MnZn系フェライトに占める全ボイド数に対する結晶粒内ボイド数が55%未満であり、さらに
23℃、100kHzにおける初透磁率が4000以上、
JIS R 1607に準拠して測定した破壊靱性値が1.00MPa・m1/2以上である、MnZn系フェライト。
CoO:3500massppm以下
を含む、前記1に記載のMnZn系フェライト。
前記基本成分の混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉に前記副成分を添加して、混合、粉砕して粉砕粉を得る混合−粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加、混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、MnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有し、
前記仮焼工程における仮焼の最高温度が800〜950℃の範囲で、
かつ前記最高温度から100℃までの冷却速度が800℃/hr以上、または前記最高温度から100℃までの冷却時の雰囲気の酸素濃度が5体積%以下の少なくともいずれかを満足する、MnZn系フェライトの製造方法。
前記基本成分の混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉に前記副成分を添加して、混合、粉砕して粉砕粉を得る混合−粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加、混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、MnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有し、
前記仮焼粉の、下記(1)式で示すピーク強度比(X)が0.80以上である、MnZn系フェライトの製造方法。
記
X=(X線回析により分析したスピネル化合物のピーク強度)/(X線回析により分析したα−Fe2O3のピーク強度) ・・・(1)
かつ前記最高温度から100℃までの冷却速度が800℃/hr以上または前記最高温度から100℃までの冷却時の雰囲気の酸素濃度が5体積%以下の少なくともいずれかを満足する、前記4に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
まず、本発明において、MnZn系フェライト(以下、単にフェライトとも称する)の組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、基本成分として本発明に含まれる鉄や亜鉛、マンガンについてはすべてFe2O3、ZnO、MnOに換算した値で示す。また、これらFe2O3、ZnO、MnOの含有量については、Fe2O3、ZnO、MnO換算での鉄、亜鉛、マンガンの合計量100mol%に対するmol%で、一方副成分および不可避的不純物の含有量については基本成分に対するmassppmで表すことにした。
基本成分のうち、Fe2O3が適正範囲よりも少ない場合でも多い場合でも、磁気異方性が大きくなり、また磁歪も大きくなるために、初透磁率の低下を招く。そのため、最低でもFe2O3を51.5mol%以上含有させ、55.5mol%を上限とする。
ZnOが少ない場合にはキュリー温度が過度に高くなるため、23℃における初透磁率が低下することから、最低でも15.5mol%より多く含有させることとする。しかし、含有量が適正量を超えた場合でも初透磁率が極大値を示すセカンダリピーク温度が低下するため、23℃における初透磁率の低下を招く。このため上限を26.0mol%とする。ZnOの含有量は、好ましくは16.0〜25.5mol%の範囲である。
本発明は、MnZn系フェライトであり、主成分組成の残部はMnOでなければならない。なぜなら、MnOでなければ、23℃、100kHzにおける初透磁率が4000以上を実現できないためである。MnOの含有量は、好ましくは22.5〜31.0mol%の範囲である。
なお、基本成分であるFe2O3、ZnO、MnOの合計量は100mol%とするのはいうまでもない。
SiO2:50〜250massppm
SiO2は、フェライトの結晶組織の均一化に寄与することが知られており、添加に伴い結晶粒内に残留する結晶粒内ボイドの数を減少させ、また比抵抗も高めることから、適量の添加により、23℃、100kHzにおける初透磁率を上昇させられるとともに、破壊靭性値を高めることができる。そのため、最低でもSiO2を50massppm含有することとする。しかし、添加量過多の場合には反対に粒内ボイドを多数含む異常粒が出現し、これは破壊靭性値を著しく低下させると同時に初透磁率も著しく悪化させることから、250massppm以下に抑える必要がある。SiO2の含有量は、好ましくは60〜230massppmの範囲である。
CaOは、MnZn系フェライトの結晶粒界に偏析し、結晶粒の成長を抑制する働きがあり、適量の添加により、比抵抗が上昇し、23℃、100kHzにおける初透磁率を上昇させることができる。また、結晶粒成長の抑制に伴い、結晶粒内ボイド数を減少させることで、破壊靱性値も高めることができる。そのため、最低でもCaOを100massppm含有することとする。しかし添加量過多の場合には異常粒が出現し、破壊靭性値の低下および初透磁率の悪化を招くことから、CaOの含有量は1000massppm未満に制限する必要がある。CaOの含有量は、好ましくは130〜850massppmの範囲である。
Nb2O5は、MnZn系フェライトの結晶粒界に偏析し、結晶粒成長を緩やかに抑制し、かつかかる応力を緩和させる効果を有している。そのため、適量の添加により、初透磁率を上昇させることができ、かつ結晶粒内ボイド数を減少させることにより破壊靭性値も高めることができるので、最低でもNb2O5を100massppm含有することとする。しかし、添加量過多の場合には異常粒が出現し、破壊靭性値の著しい低下および初透磁率の悪化を誘発することから、Nb2O5の含有量は300massppm以下に抑制する必要がある。Nb2O5の含有量は、好ましくは120〜280massppmの範囲である。
Bi2O3は、MnZn系フェライトの結晶粒成長を緩やかに促進する効果を有し、従来の粒成長促進添加物と異なり、適量の添加に伴い、結晶組織を均一化することから、破壊靭性値を上昇させ、かつ初透磁率も上昇させることができるので、最低でもBi2O3を50massppm含有することとする。しかし、添加量過多の場合には異常粒が出現し、破壊靭性値の著しい低下および初透磁率の悪化を誘発することから、Bi2O3の含有量は300massppm以下に抑制する必要がある。Bi2O3の含有量は、好ましくは75〜275massppm、さらに好ましくは100〜250massppmの範囲である。
P:10massppm未満、B:10massppm未満
PおよびBは、主に原料酸化鉄中に不可避的に含まれる成分である。これらの含有量がごく微量であれば問題ないが、ある一定以上含まれる場合にはフェライトの異常粒成長を誘発し、結晶粒内ボイド率が高くなるため、破壊靭性値が低下するとともに、初透磁率が低下し、重大な悪影響を及ぼす。よって、PおよびBの含有量はともに10massppm未満に制限することとした。好ましくはP、Bとも8massppm以下である。
JIS R 1607に準拠して測定した破壊靱性値:1.00MPa・m1/2以上
MnZn系フェライトはセラミックスであり、脆性材料であるためほとんど塑性変形しない。そのため、破壊靭性値はJIS R 1607に規定されたSEPB法(Single-Edge-Precracked-Beam method)によって測定される。SEPB法においては、平板状試料の中心部にビッカース圧痕を打痕し、予き裂を加えた状態で曲げ試験をすることで破壊靭性値を測定する。本発明のMnZn系フェライトは高靱性が求められる自動車搭載用を想定しており、破壊靱性値が1.00MPa・m1/2以上であることが求められる。
この条件を満たすためには、粉末成形によって製造するMnZn系フェライトでは、材料内にボイドが残存するが、破面を研磨、フッ硝酸による粒界部エッチングの後、200〜500倍視野で観察した画像を解析し、結晶粒内ボイドの総数を視野内の全残存ボイド総数で除した粒内ボイド率を55%未満とする必要がある。結晶粒内ボイド率は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。これは、MnZn系フェライト内のき裂は、主に結晶粒内ボイドを伝って伝播するために、結晶粒内ボイド率が高い場合にはき裂が伝播しやすく、靱性値が低いため、破壊靱性値:1.00MPa・m1/2以上を満たせなくなるためである。
1つ目は、不可避的不純物であるP、Bの量を10massppm未満に抑制することである。というのは、これらの成分は多数の結晶粒内ボイドを含む異常粒の出現を誘発する成分であり、結晶粒内ボイド率を高めるからである。
基本的に金属酸化物であるMnZn系フェライトの焼成は還元反応であり、この過程で材料が保持する過剰な酸素が放出される。焼成前の成形工程にて、粉体圧縮した成形体の形状を保持するために、成形される造粒粉には有機物バインダーが加えられており、このバインダーは焼成初期段階で燃焼分解され除去される。分解除去の際における還元雰囲気は、酸化物であるフェライト材料から酸素を奪う化学反応を伴うことがあり、この化学反応は体積膨張を伴うことから、成形体を破損させる。このため、これを防ぐために、MnZn系フェライトには仮焼工程にて意図的に酸素を化学量論比よりも過剰に吸収、保持させている。しかし、当然ながら過度に酸素を保持している場合、焼成工程で放出される酸素量は増加する。焼成時の粒成長に伴い、酸素は材料外へと放出されるが、酸素の放出量が多いほど、結晶粒内ボイドの量は増加し、結晶粒内ボイド率が55%以上となると破壊靭性値が所望の1.00MPa・m1/2よりも低下する。そのため、仮焼工程では適切な温度、雰囲気範囲の下で、MnZn系フェライトを処理する必要がある。
具体的には、仮焼の最高温度は800〜950℃の範囲内(好ましくは850〜950℃の範囲内)にするとともに、最高温度から100℃までの冷却速度を800℃/h以上、もしくは最高温度から100℃までの冷却時の酸素濃度が5体積%以下(好ましくは4%以下)の少なくともいずれかを満たす条件下で処理する必要がある。
なお、最高温度から100℃までの冷却時の酸素濃度が5体積%以下とする際の仮焼の最高温度は800〜950℃(より好ましくは850〜930℃)、仮焼雰囲気は空気中とするのが好ましい。
X=(X線回析法により分析したスピネル化合物のピーク強度)/(X線回析法により分析したα−Fe2O3のピーク強度) ・・・(1)
上掲式(1)の意味するところは、波長が1.542ÅであるCu−Kα線を用いてXRD分析を行った際、出現するピークのうち約35°に出現するスピネル化合物のピーク強度を33°に出現するα−Fe2O3のピーク強度で除した比であり、この値が0.80以上であれば、良好な靱性値が得られることを意味する。
CoO:3500massppm以下
CoOは、正の磁気異方性を有するCo2+イオンを含有する成分であり、同成分の添加により初透磁率の極大温度を示すセカンダリピークの温度幅を広げることができる。しかし、添加量過多の場合には他の成分の有する負の磁気異方性と相殺できないことから初透磁率の著しい低下を招く。そのため添加する場合にはCoOの含有量は3500massppm以下に制限する必要がある。CoOの含有量は、より好ましくは3000massppm以下、さらに好ましくは2500massppm以下である。
MnZn系フェライトの製造においては、まず上述した比率となるように、基本成分であるFe2O3、ZnOおよびMnO粉末を秤量し、これらを十分に混合して混合物とした後に、該混合物を仮焼する(仮焼工程)。この際に、好適な磁気特性および破壊靭性値を併有させるために、仮焼の最高温度は800〜950℃の範囲内とすることに加え、最高温度から100℃までの冷却速度を800℃/h以上とするか、もしくは最高温度から100℃までの冷却時の酸素濃度が5体積%以下とするかの少なくともいずれかを満たすことで、仮焼粉を波長が1.542ÅであるCu−Kα線を用いたXRDで分析した時、約35°に出現するスピネル化合物のピーク強度を33°に出現するα−Fe2O3のピーク強度で除した比を0.80以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.95以上の範囲内とする。なお、ここでスピネル化合物とは、(フェライト仮焼粉中に存在する、スピネル型結晶構造を有する化合物であり、一般式AFe2O4(AはMn,Zn)で表される。
ついで、粉砕粉に、ポリビニルアルコール等の公知の有機物バインダーを加え、スプレードライ法等により造粒して造粒粉を得る(造粒工程)。その後、必要であれば粒度調整のための篩通し等の工程を経て、成形機にて圧力を加えて成形して成形体とする(成形工程)。次いで、成形体を公知の焼成条件の下で焼成し、MnZn系フェライトを得る(焼成工程)。
得られたMnZn系フェライトには、適宜表面研磨等加工を施しても構わない。
Fe2O3、ZnOおよびMnOの量が表1に示す比率となるように秤量した各原料粉末を、ボールミルを用いて16時間混合した後、空気中にて900℃で3時間の仮焼を行った。なお、仮焼の最高温度から100℃までの冷却雰囲気は空気中、冷却速度は1600℃/hとした。次に、この仮焼粉に対し、SiO2、CaO、Nb2O5およびBi2O3をそれぞれ130、450、200、100massppm相当分秤量した後に添加し、ボールミルで12時間粉砕した。ついで得られた粉砕粉に、ポリビニルアルコールを加えてスプレードライ造粒し、118MPaの圧力をかけトロイダルコアおよび平板状コアに成形した。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度1350℃で2時間、窒素ガスと空気とを適宜混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダルコアと、縦:4mm、横:35mm、厚み:3mmの焼結体平板状コア(直方体コアともいう)とを得た。
なお、原料として高純度原料を用い、かつボールミル等の媒体は使用前に十分に洗浄し、他材質からの成分混入を抑制したことから、トロイダルコアおよび直方体コアに含まれる不可避的不純物であるPおよびBの量はそれぞれ4および3massppmであった。なお、PおよびBの含有量は、JIS K 0102(IPC質量分析法)に従って定量した。
結晶粒内ボイド率については、得られたトロイダルコアを破断し、破面を研磨後フッ硝酸でエッチングした後、500倍の倍率で光学顕微鏡を用いて観察し、縦120μm、横160μmの視野内に出現したボイドを数え、結晶粒内に残存したボイド数を出現したボイド総数で除することで算出した。
仮焼粉のピーク強度比は、波長が1.542ÅであるCu−Kα線を用いて仮焼粉をXRD分析(リガク製UltimaIV)し、約35°に出現するスピネル化合物のピーク強度を33°に出現するα−Fe2O3のピーク強度で除して算出した。
直方体コアの破壊靭性値については、JIS R 1607に準じ、ビッカース圧子により中央部に打痕した試料に予き裂を加えた後に3点曲げ試験で破断し、その破断荷重と試料の寸法とを元に算出した。得られた結果を表1に示す。
これに対し、Fe2O3を51.5mol%未満しか含まない比較例1-1およびFe2O3が55.5mol%より多い比較例1-2では、高靱性は実現できているものの、磁気異方性と磁歪とが大きくなったため初透磁率が低下しており、23℃、100kHzにおける初透磁率が4000以上を満たせていない。
また、ZnOが不足した比較例1-3では、キュリー温度が過度に上昇し、一方ZnOを適正範囲より多量に含む比較例1-4では、初透磁率が極大値を示すセカンダリピークが低下したため、23℃、100kHzにおける初透磁率が4000以上を満たせていない。
Fe2O3量が53.0mol%、ZnO量が20.0mol%、残部MnOの組成となるよう原料を秤量し、ボールミルを用いて16時間混合した後、空気中に900℃で3時間の仮焼を行った。なお、仮焼の最高温度から100℃までの冷却雰囲気は空気中、冷却速度は1600℃/hとした。次に、この仮焼粉に表2に示す量のSiO2、CaO、Nb2O5、Bi2O3および一部試料にはCoOを加え、ボールミルで12時間粉砕した。ついで、得られた粉砕粉に、ポリビニルアルコールを加えてスプレードライ造粒し、118MPaの圧力をかけトロイダルコアおよび平板状コアに成形した。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度1320℃で2時間、窒素ガスと空気とを適宜混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダルコアと、縦:4mm、横:35mm、厚み:3mmの焼結体直方体コアとを得た。なお、得られたトロイダルコアおよび直方体コアに含まれる不可避的不純物であるPおよびBの量はそれぞれ4および3massppmであった。
これらの各試料について、実施例1と同じ手法、装置を用いそれぞれの特性を評価した。得られた結果を表2に併記する。
一方、SiO2、CaO、Nb2O5およびBi2O3の4成分のうち1つでも適正量未満しか含まない比較例2-1、2-3、2-5および2-7では、粒界生成が不十分となることから比抵抗が低下し、もしくは結晶組織均一化が不十分であるため、これに起因する初透磁率の低下および粒内ボイド率上昇に伴う破壊靭性値の低下がみられる。また、同成分のうち1つでも過多である比較例2-2,2-4、2-6および2-8では、異常粒の出現により初透磁率が著しく劣化しており、また異常粒が多くの結晶粒内ボイドを多く含むことからボイド率が高くなった結果、破壊靭性値も大きく低下している。
実施例1に示した手法により、基本成分および副成分が実施例1−2と同じ組成となるような割合になる一方、含有する不可避的不純物であるP、Bの量が種々に異なる原料を用いて得られた造粒粉を得た。該造粒粉に118MPaの圧力をかけトロイダルコアおよび平板状コアに成形した。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度1320℃で2時間、窒素ガスと空気を適宜混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダルコアと、縦:4mm、横:35mm、厚み:3mmの焼結体直方体コアとを得た。
これらの各試料について、実施例1と同じ手法、装置を用いそれぞれの特性を評価した。得られた結果を表3に示す。
これに対し、両成分のうち一方もしくは両方が規定値以上含まれる比較例3-1、3-2、3-3では、異常粒が出現することから初透磁率が劣化し、同時に粒内ボイド率も高まることから破壊靭性値も低下し、初透磁率、破壊靭性値ともに望ましい値が得られていない。
仮焼工程の熱処理温度、冷却速度、冷却雰囲気を表4に示す条件に変更した以外は、実施例1-2と同様にして造粒粉を作成した。該造粒粉に118MPaの圧力をかけトロイダルコアおよび平板状コアに成形した。その後、これらの成形体を焼成炉に装入して、最高温度1320℃で2時間、窒素ガスと空気を適宜混合したガス流中で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、高さ:5mmの焼結体トロイダルコアと、縦:4mm、横:35mm、厚み:3mmの焼結体直方体コアとを得た。
これらの各試料について、実施例1と同じ手法、装置を用いそれぞれの特性を評価した。得られた結果を表4に併記する。
1)最高温度が800〜950℃の範囲内で、
2)最高温度から100℃までの冷却速度が800℃/h以上、もしくは最高温度から100℃までの冷却時の酸素濃度が5体積%以下の少なくともいずれかを満たす条件下で作製した実施例4-1〜4-6では、冷却の際に過剰な酸素吸収を抑制できているため、XRDで観察したスピネル化合物/α−Fe2O3のピーク比が0.80以上を保持しており、焼成時の酸素放出量が減少したことから結晶粒内ボイド率が低下し、その結果、破壊靭性値が1.00MPa・m1/2以上という良好な破壊靭性値が得られている。
これに対し、上記の範囲外で作製した比較例4-1〜4-8のうち、4-1〜4-4,4-6.4-8では、仮焼工程におけるスピネル化合物の生成量の不足、もしくは冷却時の酸素吸収量増加に伴い、得られる仮焼粉中のα−Fe2O3量が増加している。そのため焼成時の酸素放出量が増加し、結晶粒内ボイド率が上昇した結果、破壊靭性値が所望の値未満となっている。
仮焼温度が適正範囲を超える比較例4-5および4-7に着目すると、破壊靭性値は高い一方でコアの初透磁率が劣化している。これは仮焼時に過度の熱が加わることで反応が過度に進みすぎ仮焼粉の粒径が粗大化し硬化するため、後の粉砕工程において十分に粉砕することができず、そのため焼成時に粉体間の焼結反応が阻害され不十分であったことから、所望の磁気特性が得られなかったものと考えられる。
Claims (5)
- 基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、Fe2O3、ZnO、MnO換算での鉄、亜鉛、マンガンの合計を100mol%として、
鉄:Fe2O3換算で51.5〜55.5mol%、
亜鉛:ZnO換算で15.5mol%超、26.0mol%以下および
マンガン:MnO換算で22.0〜32.0mol%
であり、
前記基本成分に対して、副成分が、
SiO2:50〜250massppm、
CaO:100massppm以上、1000massppm未満、
Nb2O5:100〜300massppmおよび
Bi2O3:50〜300massppm
であり、
前記不可避的不純物におけるPおよびB量をそれぞれ、
P:10massppm未満および
B:10massppm未満
に抑制し、
前記MnZn系フェライトに占める全ボイド数に対する結晶粒内ボイド数が55%未満であり、さらに
23℃、100kHzにおける初透磁率が4000以上、
JIS R 1607に準拠して測定した破壊靱性値が1.00MPa・m1/2以上である、MnZn系フェライト。 - 前記副成分として、さらに
CoO:3500massppm以下
を含む、請求項1に記載のMnZn系フェライト。 - 請求項1または2に記載のMnZn系フェライトを得るMnZn系フェライトの製造方法であって、
前記基本成分の混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉に前記副成分を添加して、混合、粉砕して粉砕粉を得る混合−粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加、混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、MnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有し、
前記仮焼工程における仮焼の最高温度が800〜950℃の範囲で、
かつ前記最高温度から100℃までの冷却速度が800℃/hr以上、または前記最高温度から100℃までの冷却時の雰囲気の酸素濃度が5体積%以下の少なくともいずれかを満足する、MnZn系フェライトの製造方法。 - 請求項1または2に記載のMnZn系フェライトを得るMnZn系フェライトの製造方法であって、
前記基本成分の混合物を仮焼し、冷却して仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉に前記副成分を添加して、混合、粉砕して粉砕粉を得る混合−粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加、混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、MnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有し、
前記仮焼粉の、下記(1)式で示すピーク強度比(X)が0.80以上である、MnZn系フェライトの製造方法。
記
X=(X線回析により分析したスピネル化合物のピーク強度)/(X線回析により分析したα−Fe2O3のピーク強度) ・・・(1) - 前記仮焼工程における仮焼の最高温度が800〜950℃の範囲で、
かつ前記最高温度から100℃までの冷却速度が800℃/hr以上または前記最高温度から100℃までの冷却時の雰囲気の酸素濃度が5体積%以下の少なくともいずれかを満足する、請求項4に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
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