以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、エンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という)内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速機18(以下、無段変速機18という)と、無段変速機18の出力側に連結された有段変速機20とを直列に備えている。また、車両用駆動装置12は、有段変速機20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2電動機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、有段変速機20へ伝達され、その有段変速機20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。なお、無段変速機18や有段変速機20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心)に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。また、車両10が、本発明の電動車両に対応し、第2電動機MG2が、本発明の動力源としての電動機に対応している。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速機18に連結されている。
無段変速機18は、第1電動機MG1と、エンジン14の動力を第1電動機MG1および無段変速機18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2電動機MG2とを備えている。無段変速機18は、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1電動機MG1は、差動用電動機に相当し、また、第2電動機MG2は、動力源として機能する電動機であって、走行駆動用電動機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14および第2電動機MG2を備えたハイブリッド車両である。
第1電動機MG1および第2電動機MG2は、電動機(モータ)としての機能および発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1電動機MG1および第2電動機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1電動機MG1および第2電動機MG2の各々の出力トルク(力行トルクまたは回生トルク)であるMG1トルクTgおよびMG2トルクTmが制御される。バッテリ52は、第1電動機MG1および第2電動機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1電動機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2電動機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速機20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。中間伝達部材30は、有段変速機20の入力軸としても機能する。中間伝達部材30には第2電動機MG2が一体回転するように連結されているので、有段変速機20は、第2電動機MG2と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。有段変速機20は、例えば第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという)とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式ののクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された各係合油圧Pcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク、クラッチトルク)Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態)が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく(すなわち係合装置CBに差回転速度を生じさせることなく)中間伝達部材30と出力軸22との間でトルク(例えば有段変速機20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTi)を伝達する為には、そのトルクに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分(すなわち係合装置CBの分担トルク)が得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。なお、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧Pcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧Pcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
有段変速機20は、第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1,S2、キャリアCA1,CA2、リングギヤR1,R2)が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
有段変速機20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比)γat(=AT入力軸回転速度ωi/AT出力軸回転速度ωo)が異なる複数の変速段(ギヤ段)のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速機20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力軸回転速度ωiは、有段変速機20の入力回転部材の回転速度(角速度)である有段変速機20の入力軸回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、また、第2電動機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωmと同値である。AT入力軸回転速度ωiは、MG2回転速度ωmで表すことができる。出力軸回転速度ωoは、有段変速機20の出力回転部材である出力軸22の回転速度であって、無段変速機18と有段変速機20とを合わせた全体の変速機40の出力軸回転速度でもある。
有段変速機20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(ハイ側のAT4速ギヤ段側)程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置)との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速機20のコーストダウン変速時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時)にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速機20のコーストダウン変速は、駆動要求量(例えばアクセル開度θacc)の減少やアクセルオフ(アクセル開度θaccがゼロまたは略ゼロ)による減速走行中の車速関連値(例えば車速V)の低下によってダウン変速が判断(要求)されたパワーオフダウン変速のうちで、アクセルオフの減速走行状態のままで要求されたダウン変速である。なお、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速機20は、何れのギヤ段も形成されないニュートラル状態(すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態)とされる。
有段変速機20は、後述する電子制御装置80によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放と、係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる(すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される)。つまり、有段変速機20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置CBの係合および解放の切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウン変速(2→1ダウン変速と表す)では、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、AT1速ギヤ段にて係合される所定の係合装置(クラッチC1およびブレーキB2)のうちで2→1ダウン変速前には解放されていた係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が予め定められた変化パターンなどに従って調圧制御される。
図3は、無段変速機18と有段変速機20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速機18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速機20の入力軸回転速度)を表すm軸である。また、有段変速機20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比)ρ0に応じて定められている。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速機18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1電動機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2電動機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速機20へ伝達するように構成されている。無段変速機18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
また、有段変速機20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速機20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0および直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1電動機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1電動機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1電動機MG1の発電電力Wgは、バッテリ52に充電されたり、第2電動機MG2にて消費される。第2電動機MG2は、発電電力Wgの全部または一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2電動機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1電動機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωeはゼロとされ、MG2トルクTm(ここでは正回転の力行トルク)が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。
図3中の破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速機20を介して駆動輪28へ伝達される。後述する電子制御装置80は、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの前進用の低車速側(ロー側)ギヤ段としてのAT1速ギヤ段を形成した状態で、前進用の電動機トルクである前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用の電動機トルクである後進用のMG2トルクTmを第2電動機MG2から出力させることで後進走行を行うことができる。このように、本実施例の車両10では、前進用のATギヤ段(つまり前進走行を行うときと同じATギヤ段)を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。有段変速機20では、有段変速機20内で入力軸回転を反転して出力する、後進走行専用のATギヤ段は形成されない。なお、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2電動機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と差動用電動機(差動用電動機)としての第1電動機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と走行駆動用電動機(走行駆動用電動機)としての第2電動機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構)としての無段変速機18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1電動機MG1とを有して、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速機18が構成される。無段変速機18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωmに対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)の変速比γ0(=ωe/ωm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速機20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1電動機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速機20と無段変速機として作動させられる無段変速機18とで、変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
または、無段変速機18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速機20と有段変速機のように変速させる無段変速機18とで、変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、変速機40において、出力軸回転速度ωoに対するエンジン回転速度ωeの変速比γt(=ωe/ωo)が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する)を選択的に成立させるように、有段変速機20と無段変速機18とを制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、無段変速機18と有段変速機20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速機18の変速比γ0と有段変速機20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速機20の各ATギヤ段と1または複数種類の無段変速機18の変速比γ0との組合せによって、有段変速機20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1または複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当(ギヤ段割付)テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。図5は、図3と同じ共線図上において有段変速機20のATギヤ段がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものであり、出力軸回転速度ωoに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωeとなるように無段変速機18が制御されることによって、各模擬ギヤ段が成立させられる。
図1に戻り、車両10は、さらに、エンジン14、無段変速機18、および有段変速機20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。よって、図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力軸回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、バッテリセンサ76、AT油温センサ78など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe、第1電動機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg、AT入力軸回転速度ωiであるMG2回転速度ωm、車速Vに対応する出力軸回転速度ωo、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量(すなわちアクセルペダルの操作量)であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(操作ポジション)POSsh、バッテリ52のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBに供給される作動油の油温Toilなど)が、それぞれ供給される。また、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1電動機MG1および第2電動機MG2を制御する為の電動機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の(すなわち有段変速機20の変速を制御する為の)油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧Pcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL4等を駆動する為の指令信号(駆動電流)であり、油圧制御回路54へ出力される。なお、電子制御装置80は、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧Pcbの値に対応する油圧指令値(指示圧)を設定し、その油圧指令値に応じた駆動電流を出力する。
シフトレバー56の操作ポジションPOSshは、例えばP,R,N,D操作ポジションである。P操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされ(例えば係合装置CBの何れもの解放によって有段変速機20が動力伝達不能なニュートラル状態とされ)且つ機械的に出力軸22の回転が阻止(ロック)された、変速機40のパーキングポジション(Pポジション)を選択するパーキング操作ポジションである。R操作ポジションは、有段変速機20のAT1速ギヤ段が形成された状態で第2電動機MG2による車両10の後進走行を可能とする、変速機40の後進走行ポジション(Rポジション)を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされた、変速機40のニュートラルポジション(Nポジション)を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、有段変速機20のAT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の総てのATギヤ段を用いて(例えば模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて)自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、変速機40の前進走行ポジション(Dポジション)を選択する前進走行操作ポジションである。従って、シフトレバー56が例えばD操作ポジションからR操作ポジションへ切り替えられると(すなわちD→R操作ポジションとなるシフト操作であるD→R操作が為されると)、変速機40に対してDポジションからRポジションへの切替え要求が為される(つまり前進走行から後進走行への切替えが要求される)。このように、シフトレバー56は、人為的に操作されることで変速機40のシフトポジションの切替え要求を受け付ける切替操作部材として機能する。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ52の充電状態(充電容量)SOCを算出する。また、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbatおよびバッテリ52の充電容量SOCに基づいて、バッテリ52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力)Win、およびバッテリ52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力)Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程低くされ、また、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程低くされる。また、充電可能電力Winは、例えば充電容量SOCが大きな領域では充電容量SOCが大きい程小さくされる。また、放電可能電力Woutは、例えば充電容量SOCが小さな領域では充電容量SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部82、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部84、回生制御手段すなわち回生制御部85、第1変速制御手段すなわち第1変速制御部86、第2変速制御手段すなわち第2変速制御部88、および油温判定手段すなわち油温判定部90を、機能的に備えている。
AT変速制御部82は、予め実験的にあるいは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えばATギヤ段変速マップ)を用いて有段変速機20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速機20の変速制御を実行して有段変速機20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合および解放を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力軸回転速度ωo(ここでは車速Vなども同意)およびアクセル開度θacc(ここでは要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなども同意)を変数とする二次元座標上に、有段変速機20の変速が判断される為の変速線(アップ変速線およびダウン変速線)を有する所定の関係である。
ハイブリッド制御部84は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1電動機MG1および第2電動機MG2の作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1電動機MG1、および第2電動機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部84は、予め定められた関係(例えば駆動力マップ)にアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで要求駆動パワーPdem(見方を換えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem)を算出する。ハイブリッド制御部84は、バッテリ52の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14、第1電動機MG1、および第2電動機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Seおよび電動機制御指令信号Smg)を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度ωeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジンパワーPeの指令値である。電動機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルク(そのときのMG1回転速度ωgにおけるMG1トルクTg)を出力する第1電動機MG1の発電電力Wgの指令値であり、また、そのときのMG2回転速度ωmにおけるMG2トルクTmを出力する第2電動機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速機18を無段変速機として作動させて変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度ωeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1電動機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速機18の無段変速制御を実行して無段変速機18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速機18を有段変速機のように変速させて変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係(例えば模擬ギヤ段変速マップ)を用いて変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速機20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速機18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力軸回転速度ωoに応じて第1電動機MG1によりエンジン回転速度ωeを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力軸回転速度ωoの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力軸回転速度ωoおよびアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップ変速線であり、破線はダウン変速線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速機18と有段変速機20とが直列に配置された変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部84による模擬有段変速制御と、AT変速制御部82による有段変速機20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す)が行われるときにAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間での変速(AT1⇔2変速と表す)が行なわれ、また、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、また、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(図4参照)。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップ変速線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップ変速線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照)。また、図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウン変速線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウン変速線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照)。または、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、AT変速制御部82は、有段変速機20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度ωeの変化を伴って有段変速機20の変速が行なわれるようになり、その有段変速機20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部84は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。また、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ52の充電容量SOCが予め定められた閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。
ハイブリッド制御部84は、シフトレバー56がR操作ポジションとされているときには、有段変速機20のAT1速ギヤ段が形成された状態で、アクセル開度θaccに応じて第2電動機MG2からMG2トルクTmを出力して後進走行を行う。
回生制御部85は、惰性走行時やブレーキペダルの踏み込み操作による減速走行時において、駆動輪28側から伝達される逆駆動力によって第2電動機MG2を発電機として機能させて回転駆動させることにより、運動エネルギを電気エネルギに変換し、インバータ50を介してバッテリ52に充電する回生制御を実行する。回生制御部85は、バッテリ52の充電容量SOC等で構成される、回生制御中における第2電動機MG2のMG2トルクTm(すなわち回生トルクTm)を決定するマップを記憶しており、そのマップから充電容量SOC等を参照することで、第2電動機MG2の回生トルクTmを決定する。回生制御部85は、決定された回生トルクTmが得られるように第2電動機MG2を制御する。また、ブレーキペダルが踏み込まれる場合、運転者による踏み込み操作に基づいて算出される車両制動力(車両制動トルク)TBに対して、第2電動機MG2による回生トルクTmと、図示しないホイールブレーキによるブレーキ制動トルクTbrとの割合が最適になるように協調制御が実施され、回生制御部85は、その回生トルクTmが得られるように第2電動機MG2を制御する。
ところで、回生制御部85による回生制御の実行中に、車速Vが低下するなどして変速線図のダウン変速線を跨ぐと、有段変速機20のダウン変速が実行される。このとき、有段変速機20に大きな回生トルクTmが入力された状態でダウン変速を実行すると、変速進行に必要な係合装置CBの係合トルクTcbも大きくなるに伴い、トルク相中において大きな引き込み感が発生する虞がある。このような引き込み感の発生を抑制するため、回生制御部85による回生制御中に有段変速機20のダウン変速を実行する際には、後述する第1変速制御部86または第2変速制御部88による変速制御が実行される。AT変速制御部82は、回生制御中にダウン変速を実行するよう判断されたときに変速制御を実行するために第1変速制御部86および第2変速制御部88を機能的に備えている。第1変速制御部86による変速制御および第2変速制御部88による変速制御のうち何れを実行するかは、係合装置CBに供給される作動油の油温Toilに基づいて判断される。
油温判定部90は、AT油温センサ78によって検出される係合装置CBに供給される作動油の油温Toilが予め設定されている第1所定値α1よりも低いか否かを判定する。また、油温Toilが第1所定値α1よりも低い場合には、油温判定部90は、油温Toilが第1所定値α1よりも低い第2所定値α2よりも低いか否かを判定する。作動油の油温Toilが予め設定されている第2所定値α2以上(Toil≧α2)と判定される場合、第1変速制御部86による変速制御が実行される。一方、油温Toilが第2所定値α2よりも低い(Toil<α2)と判定される場合、第2変速制御部88による変速制御が実行される。
以下、第1変速制御部86の制御について説明する。第1変速制御部86は、作動油の油温Toilが第1所定値α1以上の範囲(Toil≧α1)にある場合(以下、常温時という)と、油温Toilが第2所定値α2〜第1所定値α1の範囲(α2≦Toil<α1)にある場合(以下、低温時という)とで、制御態様を異ならせる。まず、作動油の油温Toilが常温範囲(Toil≧α1)にある場合の第1変速制御部86の制御について説明する。
第1変速制御部86は、回生制御部85による回生制御中にダウン変速の実行を判断すると、ダウン変速中に解放される解放側係合装置の油圧指令である解放油圧Pcb1を、予め設定されている所定圧まで低下させて定圧待機させるとともに、ダウン変速中に係合される係合側係合装置の油圧指令値である係合油圧Pcb2を一時的に増圧(ファーストフィル)した後、所定の待機圧で定圧待機させる。また、第1変速制御部86は、有段変速機20のダウン変速中におけるトルク相の開始を判断すると、解放側係合装置の油圧指令値である解放油圧Pcb1をゼロに向かって漸減させるとともに、係合側係合装置の係合油圧Pcb2を予め設定されている勾配で増圧させる。また、第1変速制御部86は、イナーシャ相の開始を判断すると、係合側係合装置の係合油圧Pcb2をさらに増圧し、イナーシャ相が終了すると係合側係合装置を完全係合させる。なお、トルク相の開始は、前後加速度Gの変化に基づいて判断され、イナーシャ相の開始は、有段変速機20の入力軸回転速度ωiの変化に基づいて判断される。
ここで、トルク相中において発生する引き込み感を抑制するため、第1変速制御部86は、トルク相中において、係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)の増大に応じて、第2電動機MGによる回生トルクTmを減少させる制御(以下、トルク相補償制御)を実行する。この第1変速制御部86によるトルク補償制御は、回生制御部85による第2電動機MG2の回生制御に優先して実行される。
図7は、作動油の油温Toilが常温時の範囲(Toil≧α1)で回生制御中に、有段変速機20のダウン変速が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。すなわち、油温Toilが常温時において、第1変速制御部86による変速制御が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。図7において、横軸は時間を示し、縦軸は、上から順番にギヤ段、有段変速機20の出力軸トルクTo(AT出力軸トルクTo)、第2電動機MG2の回生トルクTmに相当する有段変速機20の入力軸トルクTi(AT入力軸トルクTi)、有段変速機20の入力軸回転速度ωi(AT入力軸回転速度ωi)、前後加速度G、有段変速機20の解放側係合装置の解放油圧Pcb1(油圧指令値)および係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)を、それぞれ示している。
図7のt1時点において有段変速機20のダウン変速が判断されると、t2時点において有段変速機20のダウン変速が開始される。解放側係合装置にあっては、一点鎖線で示すように、t2時点において、解放油圧Pcb1(油圧指令値)が所定圧まで低下させられ、所定時間だけ定圧待機させられている。そして、t3時点において解放油圧Pcb1がゼロに向かって漸減させられる。また、係合側係合装置にあっては、実線で示すように、係合側係合装置の実際の係合油圧(実油圧)の応答性を向上するため、係合油圧Pcb2(油圧指令値)が一時的に増圧される所謂ファーストフィルが実施される。その後、係合油圧Pcb2が、所定時間だけ定圧待機させられ、トルク相が開始されるt3時点において漸増させられている。なお、トルク相中における解放側係合装置の解放油圧Pcb1および係合側係合装置の係合油圧Pcb2は、何れも油圧指令値(指示圧)であって、予め設定されている値である。
また、t3時点において、例えば前後加速度Gの変化を検出することで、トルク相の開始が判断されると、第1変速制御部86による第2電動機MG2の回生トルクTmを減少する制御、すなわちトルク相補償制御が実行される。図7に示すように、t3時点〜t4時点の間では、係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)の油圧の増大に応じて、第2電動機MG2の回生トルクTmに相当する、有段変速機20の入力軸トルクTiが減少している。すなわち、第2電動機MG2の回生トルクTmを減少させることで、有段変速機20の入力軸トルクTiが減少している。
第1変速制御部86は、例えば、トルク相開始時点の第2電動機MG2回生トルクTmと変速後の有段変速機20の変速比等に基づいて設定される第2電動機MG2の目標回生トルクTm*との差分ΔTm(=Tm*-Tm)を、その目標回生トルクTm*に到達させるための目標到達時間t*で除算(=ΔTm/t*)することで、第2電動機MG2の回生トルクTmの変化勾配S(減少勾配S)を算出し、回生トルクTmが算出された変化勾配Sで変化するように第2電動機MG2を制御する。なお、前記目標到達時間t*は、予め設定される値である。
t4時点においてイナーシャ相の判断が検出されると、有段変速機20の入力軸回転速度ωiが、予め設定されている目標変化勾配(dωi/dt*)で変化するように、第1電動機MG1のMG1トルクTgおよび第2電動機MG2のMG2トルクTm(回生トルクTm)が制御される。
上記のように、トルク相中においてトルク相補償制御が実行されることで、実線で示すように、常温時において前後加速度Gの引き込み感が減少する。しかしながら、作動油の油温Toilが低温になると、油圧の応答性や制御精度が悪化するため、係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)に応じて変化する第2電動機MG2の回生トルクTmに対して、係合側係合装置の実油圧に遅れが生じ、係合側係合装置の係合トルクTcb(クラッチトルク)が不足することで、変速中において前後加速度Gに抜けが発生する虞がある。図7の破線で示す前後加速度Gは、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い場合(Toil<α2:極低温時)において、常温時と同様のトルク相補償制御が実施された場合を示している。破線で示すように、極低温時にトルク相補償制御が実行されると、係合側係合装置のクラッチトルク不足が顕著となり、トルク相中(t3時点〜t4時点)において前後加速度Gの抜けが発生している。また、油温Toilが低温の範囲(α2≦Toil<α1)においてトルク相補償制御が実施された場合であっても、極低温時に比べると小さいものの、前後加速度Gの抜けが発生する。
これに対して、第1変速制御部86は、作動油の油温Toilが低温時の範囲(α2≦Toil<α1)でダウン変速する際、油温Toilが第1所定値α1以上の場合(常温時)のトルク相補償制御の制御量(すなわち回生トルクTmの減少量Dm)に比べて、係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)に対する回生トルクTmの減少量Dmが小さくなるように、第2電動機MG2の回生トルクTmを減少させる。前記係合油圧Pcb2に対する回生トルクTmの減少量Dmは、予め実験または解析によって求められ、変速中に発生する前後加速度Gの抜けが予め設定されている許容範囲内に収まるとともに、前後加速度Gの引き込み感についても予め設定されている許容範囲内に収まる値に設定されている。なお、前後加速度Gの抜けの許容範囲および引き込み感の許容範囲は、それぞれ前後加速度Gで規定されており、何れも運転者が違和感を感じない範囲とされている。すなわち、減少量Dmは、前後加速度Gが、これら許容範囲内となる値に設定されている。また、第1所定値α1は、トルク相補償制御において回生トルクTmを減少しなくとも、前後加速度Gが、これら許容範囲内に収まる範囲の閾値に設定されている。
また、作動油の油温Toilが低温になるほど、作動油の油圧応答性および油圧の制御精度が悪くなる。従って、第1変速制御部86は、作動油の油温Toilが低いほど、トルク相補償制御における回生トルクTmの減少量Dmを小さくする。
第1変速制御部86は、例えば図8に示すような作動油の油温Toilと、回生トルクTmの低減量Dmの補正係数β1とから構成される関係マップを記憶しており、前記関係マップに基づいて、油温Toilが低温時の範囲(α2≦Toil<α1)における、油温Toilに応じた補正係数β1を決定する。さらに、第1変速制御部86は、油温Toilが常温時(Toil≧α1)の場合に設定される回生トルクTmの減少量Dm1に、決定された補正係数β1を乗算(=Dm1×β1)することで、油温Toilに応じた回生トルクTmの減少量Dmを算出する。第1変速制御部86は、算出された減少量Dmだけ第2電動機MG2の回生トルクTmを減少させるトルク相補償制御を実行する。従って、低温時にあっては、常温時に実施されるトルク相補償制御による回生トルクTmの低減量Dm1に比べて回生トルクTmの低減量Dmが小さくなる。
本実施例では、補正係数β1は、油温Toilが低温時の範囲(α2<Toil<α1)において連続的に変化することから、作動油の油温Toilが低いほど、トルク相補償制御における回生トルクTmの減少量Dmが小さくなる。なお、補正係数β1は、予め実験または解析によって求められ、その補正係数β1に基づいて求められる減少量Dmだけ回生トルクTmが減少させられることで、変速中に発生する前後加速度Gの抜けおよび引き込み感が、それぞれ許容範囲内に収まる値に設定されている。
また、第2電動機MG2の回生トルクTmの減少量Dmが常温時に比べて小さくなるため、常温時において設定されている解放側係合装置の解放油圧Pcb1および係合側係合装置の係合油圧Pcb2に基づいて有段変速機20が変速されると、係合装置CBにおいてクラッチトルク不足が発生し、これによる前後加速度Gの抜けが発生する虞がある。
これに対して、第1変速制御部86は、前記クラッチトルク不足を防止するため、トルク相中において、回生トルクTmの減少量Dmに応じて、解放側係合装置の解放油圧Pcb1(油圧指令値)および係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)を常温時に比べて高くする。すなわち、第1変速制御部86は、トルク相補償制御による第2電動機MG2の回生トルクTmの減少量Dmが小さくなった分だけ、解放側係合装置の解放油圧Pcb1および係合側係合装置の係合油圧Pcb2を増圧側に補正する。
第1変速制御部86は、例えば油温Toilが低温時の範囲において適用される、油温Toilと係合側係合装置の係合油圧Pcb2の補正係数β2との関係マップ、および、油温Toilと解放側係合装置の解放油圧Pcb1の補正係数β3との関係マップをそれぞれ記憶しており、これら関係マップに基づいて、油温Toilに応じた係合油圧Pcb2の補正係数β2および解放油圧Pcb1の補正係数β3を決定する。第1変速制御部86は、常温時において予め設定されている係合側係合装置の係合油圧Pcb2に、決定された補正係数β2を乗算することで、油温Toilに応じた係合油圧Pcb2を決定する。また、第1変速制御部86は、常温時において予め設定されている解放側係合装置の解放油圧Pcb1に、決定された補正係数β3を乗算することで、油温Toilに応じた解放油圧Pcb2を決定する。
図9は、作動油の油温Toilと係合側係合装置の係合油圧Pcb2の補正係数β2との関係マップである。図9に示すように、低温時の範囲(α2≦Toil<α1)において、補正係数β2が1.0より高くなっていることから、低温時において係合油圧Pcb2が増圧側に補正されることとなる。また、油温Toilが低温になるほど、補正係数β2が大きい値に設定されている。これは、油温Toilが低温になるほど、トルク相補償制御による回生トルクTmの減少量Dmが小さくなる(すなわち回生トルクTmが大きくなる)とともに、実油圧の応答性も悪くなることから、係合装置CBにおいてクラッチトルク不足が生じやすくなるためである。なお、油温Toilと解放側係合装置の係合油圧Pcb1の補正係数β3との関係マップについても、図9の関係マップと基本的に変わらないため、その説明を省略する。
図10は、作動油の油温Toilが低温時の場合において、回生制御中に有段変速機20のダウン変速が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。すなわち、油温Toilの低温時の範囲(α2≦Toil<α1)において第1変速制御部86による変速制御が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。
図10に示すように、t1時点において有段変速機20のダウン変速の実行が判断されると、t2時点において有段変速機20のダウン変速が開始される。係合側係合装置にあっては、実線で示すように、実油圧の応答性を向上するため、係合油圧Pcb2(油圧指令値)を一時的に増圧させる所謂ファーストフィルが実行され、さらに、係合油圧Pcb2が所定時間だけ定圧待機させられる。また、解放側係合装置にあっては、t2時点において解放油圧Pcb1(油圧指令値)が所定圧まで低下させられた後、所定時間だけ定圧待機させられている。ここで、一点鎖線で示す解放油圧Pcb1が、常温時(Toil≧α1)の油圧指令値を示し、破線で示す解放油圧Pcb1が低温時(α2≦Toil<α1)の油圧指令値を示している。図10に示すように、解放側係合装置においてクラッチトルクを確保するため、低温時では、t2時点〜t3時点の間の解放油圧Pcb1(待機圧)が、常温時の解放油圧Pcb1に比べて増圧側に補正されている。
t3時点において、前後加速度Gの変化が検出されると、トルク相の開始が判断され、第1変速制御部86によるトルク相補償制御が実行される。図10に示すように、破線で示す低温時におけるトルク相補償制御による入力軸トルクTiの減少量(すなわち回生トルクTmの減少量Dm)は、実線で示す常温時におけるトルク相補償制御による入力軸トルクTinの減少量(すなわち回生トルクTmの減少量Dm1)に比べて小さくなっている。また、トルク相補償制御の制御開始時点が、常温時の制御開始時点に比べて早くなっている。従って、トルク相中(t3時点〜t4時点)での有段変速機20の入力軸トルクTi(すなわち回生トルクTm)が、常温時に比べて緩やかに変化している。低温時では、油圧の応答性が常温時に比べて低下するため、トルク相中において回生トルクTmと係合装置CBの実油圧との間でズレが生じやすくなる。これに対して、回生トルクTmが緩やかに変化することで、回生トルクTmと係合装置CBの実油圧とのズレが抑制される。
また、トルク相中においてトルク相補償制御による回生トルクTmの減少量Dmが、常温時に比べて小さくなるのに伴い、二点鎖線で示すように、係合側係合装置の係合油圧Pcb2(油圧指令値)が、実線で示す常温時の係合油圧Pcb2に比べて高くなっている。従って、トルク相補償制御による回生トルクTmの減少量Dmが小さくなることによる係合側係合装置のクラッチトルク不足が防止され、前後加速後Gの抜けが抑制される。
t4時点においてイナーシャ相が開始されると、常温時と同様に、入力軸回転速度ωiが予め設定されている目標変化勾配(dωi/dt*)で変化するように、第1電動機MG1のMG1トルクTgおよび第2電動機MG2のMG2トルクTm(回生トルクTm)が制御され、t5時点において有段変速機20の入力軸回転速度ωiが変速後の同期回転速度に同期させられる。
ここで、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低くなると、油温の応答性悪化が顕著となり、低温時のようにトルク相補償制御における回生トルクTmの減少量Dmを小さくした場合であっても、変速中に発生する前後加速度Gの抜けが大きくなってしまう。このような場合には、第2変速制御部88による変速制御が実行される。前記第2所定値α2は、第1変速制御部86でのトルク相補償制御によって回生トルクTmの減少量Dmを小さくした場合であっても、油圧の応答性悪化に起因して、前後加速度Gの抜けが許容範囲を超える油温Toilの閾値またはその近傍の値に設定されている。
第2変速制御部88は、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い(Toil<α2)場合(極低温)において、回生制御中に有段変速機20のコーストダウン変速を実行するよう判断されると変速制御を実施するものであり、変速の実施に先立って回生トルクTmを減少させる。具体的には、第2変速制御部88は、変速の開始に先立ち、第2電動機MG2によって制御される回生トルクTmを、予め設定されている所定値Tm1まで減少させる。この所定値Tm1は、例えばコースト走行中において、運転者がエンジンブレーキ力(エンブレ力)を感じる程度の値に設定されている。第2変速制御部88は、この回生トルクTmが所定値Tm1まで減少するまでの間、有段変速機20の変速開始を遅延させる。従って、変速開始時点では、有段変速機20の入力軸トルクTiは、エンジンのエンブレによる制動トルク相当まで減少するため、油圧の応答性および制御精度が悪くなっても、前後加速度Gの引き込み感や抜けが許容範囲内に収まることとなる。
図11は、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い場合(極低温時)において、回生制御中に有段変速機20のダウン変速が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。すなわち、油温Toilが極低温時において第2変速制御部88による変速制御が実行されたときの制御作動を示すタイムチャートである。
図11に示すように、t1時点において有段変速機20のダウン変速の実行が判断されると、変速開始前に第2電動機MG2の回生トルクTmを低減する制御が実行される(t1時点〜t2時点)。そして、t2時点において、第2電動機MG2による回生トルクTmが所定値Tm1に到達し、有段変速機20の入力軸トルクTiがエンジン14のエンブレによる制動トルク程度になると、有段変速機20の変速が開始される。なお、このときの有段変速機20の変速制御は、従来の変速制御と何ら変わらないため、詳細な説明を省略する。図11に示すように、変速開始時点で入力軸トルクTiが予めエンブレ相当まで低減されているため、変速中において油圧の応答性悪化によって前後加速度Gが変動するものの、入力軸トルクTi(すなわち回生トルクTm)が予め減少しているため、その大きさは許容範囲内となる。
図12は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち回生制御中にダウン変速を実行する際の制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、回生制御中において有段変速機20のダウン変速を実行する判断が為されたときに実行される。
油温判定部90の制御機能に対応するステップS1(以下、ステップを省略)において、作動油の油温Toilが第1所定値α1よりも低いか否かが判定される。油温Toilが第1所定値α1以上の場合、S1が否定されてS5に進む。第1変速制御部86の制御作動に対応するステップS5では、作動油の油温Toilが第1所定値以上の範囲(Toil≧α1:常温時)において、トルク相中においてトルク相補償制御を伴う有段変速機20の変速制御が実行される。
油温Toilが第1所定値α1よりも低い場合、S1が肯定されてS2に進む。油温判定部90に制御機能に対応するS2では、油温Toilが第2所定値α2よりも低いか否かが判定される。油温Toilが第2所定値α2よりも低い(Toil<α2:極低温時)場合、S2が肯定されてS3に進む。一方、油温Toilが第2所定値α2以上(α2≦Toil<α1:低温時)の場合、S2が否定されてS4に進む。
第2変速制御部88の制御機能に対応するS3では、油温Toilが極低温の範囲(Toil<α2)にあり、油圧の応答性の悪化が顕著であることから、変速開始前に第2電動機MG2の回生トルクTmが低減され、回生トルクTmが所定値Tm1まで低減された後、変速が開始される。従って、変速開始時点において有段変速機20の入力軸トルクTiが所定値Tm1(例えばエンブレ相当)まで減少しているため、油圧の応答性および制御性が悪くなっても、前後加速度Gの抜けや引き込み感が許容範囲内に収められる。
第1変速制御部86の制御機能に対応するS4では、油温Toilが低温の範囲(α2≦Toil<α1)にあるため、トルク相補償制御による回生トルクTmの低減量Dmが、常温時の低減量Dm1に比べて減少させられる。また、トルク相補償制御による回生トルクTmの低減量Dmの減少に伴う係合装置CBのクラッチトルク不足を防止するため、解放側係合装置の解放油圧Pcb1および係合側係合装置の係合油圧Pcb2が、常温時に比べて高められる。このように、低温時においてトルク相補償制御による回生トルクTmの低減量Dmが減少させられることで、前後加速度Gの引き込み感の悪化を抑制しつつ、前後加速度Gの抜けが抑制される。
上述のように、本実施例によれば、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低いときには、コーストダウン変速の実施に先立って回生トルクTmが減少した状態でコーストダウン変速が実施されることから、前後加速度Gの引き込み感の悪化および抜けの発生を抑制することができる。また、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い範囲では、回生トルクTmが所定値Tm1以下になるまで変速開始が遅延されるため、変速が開始される時点では回生トルクTmが小さくなり、変速中において係合装置CBの油圧(実油圧)を精度良く制御できなくても、変速中に発生する前後加速度Gの引き込み感の悪化を抑制しつつ、前後加速度Gの抜けの発生が抑制される。
また、本実施例によれば、作動油の油温Toilが低温時の範囲(α2≦Toil<α1)において、係合装置CBの作動油の油温Toilが低いほど、回生トルクTmの減少量Dmが小さくなるため、作動油の油温Toilが低下するほど、応答性や制御精度が悪化する係合装置CBの実油圧に対して、回生トルクTmの減少量Dmが適切な値に制御され、前後加速度Gの引き込み感の悪化を抑制しつつ、前後加速度Gの抜けの発生を抑制することができる。また、回生トルクTmの減少量Dmに応じて、係合装置CBの油圧指令値が高くなるため、係合装置CBのクラッチトルク不足が防止され、前後加速度Gの抜けの発生を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、無段変速機18と有段変速機20とを直列に備える車両10を例示したが、本発明はこの態様に限らない。例えば、図13に示すような車両100であっても良い。車両100は、走行用の動力源としてのエンジン102、動力源として機能する電動機である電動機MG、および動力伝達装置104を備えたハイブリッド車両である。図13において、動力伝達装置104は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース106内において、エンジン102側から順番に、クラッチK0、トルクコンバータ108、および有段変速機110等を備えている。また、動力伝達装置104は、差動歯車装置112、車軸114等を備えている。トルクコンバータ108のポンプ翼車108aは、クラッチK0を介してエンジン102と連結されていると共に、直接的に電動機MGと連結されている。トルクコンバータ108のタービン翼車108bは、有段変速機110と直接的に連結されている。動力伝達装置104において、エンジン102の動力および/または電動機MGの動力は、クラッチK0(エンジン102の動力を伝達する場合)、トルクコンバータ108、有段変速機110、差動歯車装置112、車軸114等を順次介して駆動輪116へ伝達される。有段変速機110は、遊星歯車式の自動変速機である。
または、車両100におけるエンジン102やクラッチK0やトルクコンバータ108を備えず、有段変速機110の入力側に直接的に電動機MGが連結されるような車両であっても良い。要は、動力源として機能する電動機と、その電動機と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機とを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。なお、車両100では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ108が用いられているが、トルク増幅作用のない流体継手などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。また、トルクコンバータ108は、必ずしも設けられなくても良いし、或いは、単なるクラッチに置き換えられても良い。
また、前述の実施例では、有段変速機20は、前進4段の各ATギヤ段が形成される遊星歯車式の自動変速機であったが、この態様に限らない。例えば、有段変速機20は、複数の油圧式の係合装置のうち所定の係合装置の係合によって複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機であれば良い。
また、前述の実施例では、第2変速制御部88が実施される際には、変速に先立って第2電動機MG2の回生トルクTmがエンブレ相当まで低減されていたが、必ずしもエンブレ相当に限定されない。例えば、回生トルクTmがゼロまたはゼロ近傍まで減少させるものであっても構わない。また、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い範囲において、変速開始時点での回生トルクTmを作動油の油温Toilに応じて変更しても構わない。例えば、作動油の油温Toilが第2所定値α2よりも低い範囲において、油温Toilが低温になるほど回生トルクTmがゼロに近くなる。
また、前述の実施例では、トルク相補償制御による回生トルクTmの低減量Dmが、作動油の油温Toilに応じて線形に変化しているが、油温Toilに応じて段階的に変化するなど適宜変更することができる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。