JP6716410B2 - 銅合金粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物 - Google Patents

銅合金粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物 Download PDF

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Description

本発明は、金属粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物に関する。
特開2011−21218号公報(特許文献1)には、金属粉末を対象とするレーザ積層造形装置(いわゆる「3Dプリンタ」)が開示されている。
特開2011−21218号公報
金属製品の加工技術として、金属粉末を対象とする積層造形法が注目されている。この方法の利点は、切削加工では不可能であった複雑形状の創製が可能なことにある。これまでに、鉄系合金粉末、アルミニウム合金粉末、チタン合金粉末等を用いた積層造形物の製作例が報告されている。しかし現状では、使用可能な金属種が限られており、適用可能な金属製品にも一定の制限がある。
本発明の目的は、機械強度および導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形用の金属粉末、積層造形物の製造方法および積層造形物を提供することである。
〔1〕金属粉末は、積層造形用の金属粉末である。当該金属粉末は、クロムおよび珪素の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、該クロムおよび該珪素の合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅からなる。
〔2〕上記〔1〕の金属粉末は、クロムを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部が銅からなる、金属粉末でもよい。
〔3〕上記〔1〕の金属粉末は、珪素を0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部が銅からなる、金属粉末でもよい。
〔4〕積層造形物の製造方法は、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの金属粉末を含む粉末層を形成する第1工程と、該粉末層において、所定位置の該金属粉末を固化させることにより、造形層を形成する第2工程と、を含む。この製造方法では、第1工程と第2工程とを順次繰り返し、造形層を積層することにより、積層造形物を製造する。
〔5〕上記〔4〕の積層造形物の製造方法は、積層造形物を熱処理する熱処理工程をさらに含んでいてもよい。
〔6〕積層造形物は、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの金属粉末から製造された積層造形物であり、造形後に熱処理が施されていることが望ましい。
〔7〕積層造形物は、銅合金から構成される積層造形物である。銅合金は、クロムおよび珪素の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、該クロムおよび該珪素の合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅からなる。積層造形物は、銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、導電率が26%IACS以上である。
〔8〕上記〔7〕において、銅合金は、クロムを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部が銅からなるクロム含有銅合金でもよい。この場合、積層造形物は、クロム含有銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、導電率が30%IACS以上である。
〔9〕上記〔7〕において、銅合金は、珪素を0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部が銅からなる珪素含有銅合金でもよい。この場合、積層造形物は、珪素含有銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、導電率が26%IACS以上である。
上記によれば、機械強度および導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形物が提供される。
本発明の実施形態に係る積層造形物の製造方法の概略を示すフローチャートである。 STLデータの一例を示す概略図である。 スライスデータの一例を示す概略図である。 積層造形物の製造過程を図解する第1概略図である。 積層造形物の製造過程を図解する第2概略図である。 積層造形物の製造過程を図解する第3概略図である。 積層造形物の製造過程を図解する第4概略図である。 引張試験に用いる試験片を示す平面図である。
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
最初に、本発明者が本実施形態に至った経緯を説明する。
機械強度および導電率を必要とする機械部品には、銅が多用されている。そうした機械部品としては、たとえば溶接トーチ、配電設備の部品等が挙げられる。本発明者は、純銅の地金をアトマイズ加工することにより、銅粉末を得、これを用いて積層造形物の製作を試みた。ところがこの方法では、所望の積層造形物は得られなかった。具体的には、造形物は多数の空隙を有しており、元材に対して密度が大幅に低下していた。さらに導電率も元材に対して大幅に低下していた。密度が低下すれば、当然機械強度も低下すると考えられる。本発明者は、各種条件を変更して物性の改善を試みた。しかし純銅を用いる限り、条件を固定しても、仕上がり物性が安定せず、機械強度および導電率を両立することはできなかった。
そこで、本発明者は銅合金について検討した。その結果、特定の合金組成を有する銅合金粉末を用いることにより、積層造形物において、機械強度および導電率を両立できることが見出された。
ここで「機械強度および導電率を両立できる」とは、積層造形物が次の(a)〜(c)の条件をすべて満たすことを示す。
(a)引張強さが概ね195MPa以上である。すなわち引張強さが無酸素銅(UNS番号:C10200)の地金と概ね同等以上である。引張強さは次の手順で測定する。測定には「JIS B 7721:引張試験機・圧縮試験機‐力計測系の校正方法および検証方法」に基づく等級1級以上の引張試験装置を使用する。図8に示すダンベル状試験片20を製造する。ダンベル状試験片20を、引張試験装置を用いて2mm/minの速度で、破断するまで引っ張る。このとき、つかみ装置または治具には、ダンベル状試験片20の形状に適したものを用いる。またダンベル状試験片20の軸方向に力が加わるように調整する。破断するまでに現れる最大引張応力を測定する。最大引張応力を平行部21の断面積で除することにより、引張強さを算出する。平行部21の断面積は、9.616mm2(=π×3.5mm×3.5mm÷4)である。なおダンベル状試験片20の各部の寸法は次のとおりである。
ダンベル状試験片20の全長L0:36mm
平行部21の長さL1:18±0.5mm
平行部21の直径D1:3.5±0.05mm
肩部23の半径R:10mm
つかみ部22の長さL2:4.0mm
つかみ部22の直径D2:6.0mm。
(b)理論密度に対する相対密度が96%以上である。ここで合金の理論密度は、該合金と同じ組成を有する溶製材の密度を示す。理論密度に対する相対密度は、積層造形物の実測密度を、合金の理論密度で除した値の百分率を示す。
(c)焼鈍標準軟銅(International Annealed Copper Standard:IACS)の導電率を100%IACSとして定義される、導電率が26%IACS以上である。すなわち導電率が黄銅(UNS番号:C26000)の地金と概ね同等以上である。
〔金属粉末〕
本実施形態の金属粉末は、積層造形用の金属粉末である。金属粉末は、通常の2次元プリンタにおけるトナー、インクに相当する。金属粉末は、クロム(Cr)および珪素(Si)の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、CrおよびSiの合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅(Cu)からなる。金属粉末におけるCu含有量は、たとえば98質量%以上でもよいし、98.5質量%以上でもよいし、99.0質量%以上でもよい。
金属粉末におけるCu含有量は、「JIS H 1051:銅および銅合金中の銅定量方法」に準拠した方法により測定できる。Cr含有量は、「JIS H 1071:銅および銅合金中のクロム定量方法」に準拠したICP発光分析法により測定できる。Si含有量は、「JIS H 1061:銅および銅合金中の珪素定量方法」に準拠したICP発光分析法により測定できる。金属粉末において、CrおよびSiの少なくともいずれかの含有量の上限は、0.90質量%でもよいし、0.80質量%でもよいし、0.70質量%でもよいし、0.60質量%でもよい。同含有量の下限は、0.15質量%でもよいし、0.20質量%でもよい。
金属粉末は、Cu、Cr、Siの他に、不純物元素を含有することもある。不純物元素は、製造時に意図的に添加された元素(添加元素)でもよい。つまり本実施形態の金属粉末では、残部がCuおよび添加元素からなることもある。不純物元素は、製造時に不可避的に混入した元素(不可避不純物)でもよい。つまり本実施形態の金属粉末では、残部がCuおよび不可避不純物からなることもある。あるいは残部は、Cu、添加元素および不可避不純物からなることもある。不純物元素としては、たとえば酸素(O)、リン(P)等が挙げられる。不純物元素の含有量は、たとえば0.10質量%未満でもよいし、0.05質量%未満でもよい。
本実施形態の金属粉末には、たとえば以下に示すクロム含有銅合金粉末および珪素含有銅合金粉末が包含される。
(クロム含有銅合金粉末)
クロム含有銅合金粉末は、Crを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部がCuからなる。前述のように、残部は添加元素、不可避不純物を含んでいてもよい。かかる化学組成を有する銅合金粉末によれば、積層造形物において、特に導電率の向上を期待できる。クロム含有銅合金粉末において、Cr含有量の下限は、たとえば0.15質量%でもよいし、0.20質量%でもよいし、0.25質量%でもよい。Cr含有量の上限は、たとえば0.55質量%でもよいし、0.50質量%でもよい。Cr含有量は、たとえば0.22質量%以上0.51質量%以下でもよい。これらの範囲において、機械強度と導電率とのバランスが良くなることもある。
(珪素含有銅合金粉末)
珪素含有銅合金粉末は、Siを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部がCuからなる。前述のように、残部は添加元素、不可避不純物を含んでいてもよい。かかる化学組成を有する銅合金粉末によれば、積層造形物において、特に機械強度の向上を期待できる。珪素含有銅合金粉末において、Si含有量の下限は、たとえば0.15質量%でもよいし、0.20質量%でもよいし、0.25質量%でもよい。Si含有量の上限は、たとえば0.55質量%でもよいし、0.50質量%でもよい。Si含有量は、たとえば0.21質量%以上0.55質量%以下でもよい。これらの範囲において、機械強度と導電率とのバランスが良くなることもある。
(粒度分布)
金属粉末の粒度分布は、粉末製造条件、分級、篩分け等により、適宜調整される。金属粉末の平均粒径は、積層造形物を製造する際の積層ピッチに合わせて調整してもよい。金属粉末の平均粒径は、たとえば100〜200μm程度でもよいし、50〜100μm程度でもよいし、5〜50μm程度でもよい。ここで、本明細書における平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって測定された粒度分布において、積算値50%での粒径(いわゆる「d50」)を示すものとする。金属粉末において、粒子形状は特に限定されない。粒子形状は、たとえば略球状でもよいし、不規則形状でもよい。
(金属粉末の製造方法)
本実施形態の金属粉末は、たとえばガスアトマイズ法または水アトマイズ法によって製造される。すなわちタンデッシュの底部から、溶融状態の合金成分を落下させながら、高圧ガスまたは高圧水と接触させ、合金成分を急冷凝固させることにより、合金成分を粉末化する。この他、たとえばプラズマアトマイズ法、遠心力アトマイズ法等によって、金属粉末を製造してもよい。これらの製造方法で得られた金属粉末を用いることにより、緻密な積層造形物が得られる傾向にある。
〔積層造形物の製造方法〕
次に、上記の金属粉末を用いた積層造形物の製造方法について説明する。ここでは、金属粉末を固化させる手段として、粉末床溶融結合法のうちレーザを用いる態様を説明する。しかし当該手段は、金属粉末の固化が可能である限り、レーザに限定されない。当該手段は、たとえば電子ビーム、プラズマ等でもよい。本実施形態では、粉末床溶融結合法以外の付加製造法(Additive Manufacturing:AM)を利用してもよい。たとえば本実施形態では、指向性エネルギ堆積法を利用することもできる。さらに本実施形態では、造形中に切削加工を実施してもよい。
図1は、本実施形態の積層造形物の製造方法の概略を示すフローチャートである。当該製造方法は、データ処理工程(S10)と、造形工程(S20)とを備える。当該製造方法は、造形工程(S20)の後に、熱処理工程(S30)を備えていてもよい。造形工程(S20)は、第1工程(S21)と第2工程(S22)とを含む。当該製造方法では、第1工程(S21)と第2工程(S22)とを順次繰り返すことにより、積層造形物を製造する。以下、図1〜図7を参照しつつ、当該製造方法を説明する。
1.データ処理工程(S10)
先ず、3D−CAD等により3次元形状データが作成される。3次元形状データは、STLデータに変換される。図2は、STLデータの一例を示す概略図である。STLデータ10dでは、たとえば有限要素法による要素分割(メッシュ化)が行われる。
STLデータから、スライスデータが作成される。図3は、スライスデータの一例を示す概略図である。STLデータは、第1造形層p1〜第n造形層pnのn層に分割される。スライス厚さdは、たとえば10〜150μm程度である。
2.造形工程(S20)
次いで、スライスデータに基づき、積層造形物が造形される。図4は、積層造形物の製造過程を図解する第1概略図である。図4に示されるレーザ積層造形装置100は、ピストン101と、ピストン101に支持されたテーブル102と、レーザ出力部103とを備える。以降の工程は、造形物の酸化を抑制するため、たとえば不活性ガス雰囲気で行われる。不活性ガスは、たとえばアルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)等でよい。あるいは不活性ガスに代えて、たとえば水素(H2)等の還元性ガスを用いてもよい。さらに真空ポンプ等を用いて、減圧雰囲気としてもよい。
ピストン101は、テーブル102を昇降できるように構成されている。テーブル102上において、積層造形物が造形される。
2−1.第1工程(S21)
第1工程(S21)では、金属粉末を含む粉末層が形成される。スライスデータに基づき、ピストン101は、テーブル102を1層分だけ降下させる。テーブル102上に、1層分の金属粉末が敷き詰められる。これにより、金属粉末を含む第1粉末層1が形成される。第1粉末層1の表面は、図示しないスキージングブレード等により、平滑化される。粉末層は、複数種の金属粉末を含んでいてもよい。たとえば、粉末層は、前述のクロム含有銅合金粉末および珪素含有銅合金粉末の両方含むこともある。粉末層は、金属粉末の他、レーザ吸収剤(たとえば樹脂粉末)等を含んでいてもよい。粉末層は、実質的に金属粉末のみから形成されることもある。
2−2.第2工程(S22)
図5は、積層造形物の製造過程を図解する第2概略図である。第2工程(S22)では、積層造形物の一部となるべき造形層が形成される。
レーザ出力部103は、スライスデータに基づき、第1粉末層1の所定位置にレーザ光を照射する。レーザ光の照射に先立ち、予め粉末層を加熱しておいてもよい。レーザ光の照射を受けた金属粉末は、溶融、焼結を経て、固化する。このように、第1粉末層1において所定位置の金属粉末を固化させることにより、第1造形層p1が形成される。
本実施形態のレーザ出力部には、汎用のレーザ装置を採用できる。レーザ光の光源には、たとえばファイバレーザ、YAGレーザ、CO2レーザ、半導体レーザ等が用いられる。レーザ光の出力は、たとえば100〜1000W程度でもよいし、200〜500W程度でもよい。レーザ光の走査速度は、たとえば100〜1000mm/sの範囲内で調整してもよい。またレーザ光のエネルギ密度は、たとえば100〜1000J/mm3の範囲内で調整してもよい。
ここでレーザ光のエネルギ密度は、下記式(I):
E=P÷(v×s×d)・・・(I)
によって算出される値を示す。式(I)中、Eはレーザ光のエネルギ密度[単位:J/mm3]を、Pはレーザの出力[単位:W]を、vは走査速度[単位:mm/s]を、sは走査幅[単位:mm]を、dはスライス厚さ[単位:mm]をそれぞれ示している。
図6は、積層造形物の製造過程を図解する第3概略図である。図6に示されるように、第1造形層p1が形成された後、ピストン101は、テーブル102をさらに1層分だけ降下させる。その後、上記と同様に、第2粉末層2が形成され、スライスデータに基づき第2造形層p2が形成される。以後、第1工程(S21)と第2工程(S22)とを繰り返す。図7は、積層造形物の製造過程を図解する第4概略図である。図7に示されるように、最後に、第n造形層pnが形成され、積層造形物10が完成する。
3.第3工程(S30)
その後、積層造形物を熱処理することが望ましい。すなわち積層造形物は、造形後に熱処理が施されていることが望ましい。熱処理により、積層造形物の機械的性質および導電率の向上が期待できる。熱処理時の雰囲気は、たとえば窒素、大気、アルゴン、水素、真空等の雰囲気でもよい。熱処理温度は、たとえば300℃以上400℃以下でよい。熱処理時間は、たとえば2時間以上4時間以下でよい。
〔積層造形物〕
次に、上記の製造方法によって得られた積層造形物について説明する。積層造形物は、切削加工では実現できない、複雑形状を有し得る。さらに本実施形態の積層造形物は、機械強度および導電率を両立できる。本実施形態の積層造形物は、一例としてプラズマトーチに適用できる。
原料に、本実施形態の金属粉末を用いた場合、積層造形物は次の構成を備え得る。
すなわち本実施形態の積層造形物は、特定の銅合金から構成される積層造形物である。当該銅合金は、CrおよびSiの少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、CrおよびSiの合計量が1.00質量%以下であり、残部がCuからなる。金属粉末と同様に残部は、添加元素、不可避不純物を含んでいてもよい。この積層造形物では、理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、なおかつ導電率が26%IACS以上である。
銅合金において、CrおよびSiの少なくともいずれかの含有量の上限は、0.90質量%でもよく、0.80質量%でもよく、0.70質量%でもよく、0.60質量%でもよい。同含有量の下限は、0.15質量%でもよく、0.20質量%でもよい。
積層造形物の密度は、たとえばアルキメデス法により測定することができる。アルキメデス法による密度測定は、「JIS Z 2501:焼結金属材料‐密度、含油率および開放気孔率試験方法」に準拠して行うことができる。液体には水を用いればよい。
理論密度に対する相対密度が96%以上であれば、実用に耐え得る機械強度を期待できる。相対密度は高いほど望ましい。積層造形物の相対密度は、96.5%以上でもよく、97.0%以上でもよく、97.5%以上でもよく、98.0%以上でもよく、98.5%以上でもよく、99.0%以上でもよい。
導電率は、市販の渦流式導電率計によって測定できる。導電率も高いほど望ましい。積層造形物の導電率は、30%IACS以上でもよく、40%IACS以上でもよく、50%IACS以上でもよく、60%IACS以上でもよい。導電率の上限は、たとえば100%IACSでもよい。
(クロム含有銅合金から構成される積層造形物)
原料に、本実施形態のクロム含有銅合金粉末を使用した場合、積層造形物は次の構成を備え得る。
すなわち積層造形物は、特定のクロム含有銅合金から構成される積層造形物である。当該クロム含有銅合金は、Crを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部がCuからなる。金属粉末と同様に残部は、添加元素、不可避不純物を含んでいてもよい。この積層造形物では、クロム含有銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、なおかつ導電率が30%IACS以上である。この積層造形物において、たとえばCr含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下の場合、98.0%以上の相対密度と、60%IACS以上の導電率との両立を期待できる。
(珪素含有銅合金から構成される積層造形物)
原料に、本実施形態の珪素含有銅合金粉末を使用した場合、積層造形物は次の構成を備え得る。
すなわち積層造形物は、特定の珪素含有銅合金から構成される積層造形物である。当該珪素含有銅合金は、Siを0.10質量%以上0.60質量%以下含有し、残部がCuからなる。金属粉末と同様に残部は、添加元素、不可避不純物を含んでいてもよい。この積層造形物では、珪素含有銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、なおかつ導電率が26%IACS以上である。この積層造形物において、たとえばSi含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下の場合、98.5%以上の相対密度と、45%IACS以上の導電率との両立を期待できる。
以下、実施例を用いて本実施形態を説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
1.金属粉末の準備
表1に示す化学成分を有する金属粉末A1、A2、A3、B1、B2、XおよびYを準備した。
これらの金属粉末は、所定のアトマイズ法によって製造した。金属粉末A1、A2、A3、B1およびB2は実施例に相当する。
金属粉末Xは、市販純銅の地金を原料とした。金属粉末Yは、市販銅合金(製品名「AMPCO940」)の地金を原料とした。金属粉末XおよびYは比較例に相当する。
2.レーザ積層造形装置
以下の仕様のレーザ積層造形装置を準備した
レーザ :ファイバレーザ、最大出力400W
スポット径:0.05〜0.20mm
走査速度 :〜7000mm/s
積層ピッチ:0.02〜0.08mm
造形サイズ:250mm×250mm×280mm。
3.積層造形物の製造
上記の装置を用いて、円柱状の積層造形物(直径14mm×高さ15mm)を製造した。
3−1.市販純銅粉末
図1に示すフローに沿って、金属粉末を含む粉末層を形成する第1工程(S21)と、粉末層の所定位置にレーザ光を照射し、金属粉末を固化させることにより、造形層を形成する第2工程(S22)とを順次繰り返し、No.X−1〜40に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の製造条件を表2および表3に示す。
前述の方法に従って、各積層造形物の相対密度および導電率を測定した。結果を表2および表3に示す。
表2および表3から分かるように、純銅粉末(金属粉末X)を用いた積層造形物では、条件を固定しても、仕上がり物性のバラツキが非常に大きい。表2中の「測定不可」は、空隙が多すぎるために、アルキメデス法では信頼性の高い密度を測定できなかったことを示している。純銅の地金の導電率は、100%IACS程度と考えてよい。純銅を用いた積層造形物では、地金に比し、導電率が大幅に低下している。これらの結果から、純銅粉末を用いた場合、実用的な機械部品の製造は困難といえる。
3−2.市販銅合金粉末
表4に示す各条件で、上記と同様にしてY−1〜7に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の製造条件を表4に示す。
前述の方法に従って、各積層造形物の相対密度および導電率を測定した。結果を表4に示す。
市販銅合金粉末(金属粉末Y)を用いた積層造形物では、純銅に比し、高い密度を実現できた。しかし導電率は、元材(45.5%IACS程度)に比し、大幅に低下した。
3−3.クロム含有銅合金粉末
3−3−1.Cr=0.22質量%
表5に示す各条件で、上記と同様にしてNo.A1−1〜11に係る積層造形物を製造した。さらに、ここでは積層造形物を造形した後に、熱処理工程(S30)を実行した。熱処理条件は、窒素雰囲気下、300℃×3時間とした(以下の熱処理も同様である)。各積層造形物の物性を評価した。評価結果を表5に示す。引張強さは、No.A1−12〜14に示す条件で、別途、図8に示すダンベル状試験片20を製造し、該試験片で測定した(以下の引張強さも同様である)。
表5から分かるように、クロムを0.22質量%含有する銅合金粉末(金属粉末A1)を用いた積層造形物では、前述の純銅に比し、仕上がり物性のバラツキを抑制できた。これらの積層造形物では、実用的な機械強度と導電率とを両立できた。またこの組成では、熱処理後に60%IACS以上の高い導電率を実現できた。
3−3−2.Cr=0.51質量%
表6に示す各条件で、上記と同様にしてNo.A2−1〜12に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の物性を評価した。評価結果を表6に示す。
表6から分かるように、クロムを0.51質量%含有する銅合金粉末(金属粉末A2)を用いた積層造形物では、前述の純銅に比し、仕上がり物性のバラツキを抑制できた。これらの積層造形物では、相対密度が99%を超える緻密さと、35%IACSを超える導電率とを両立できた。引張強さも良好であった。
3−3−3.Cr=0.94質量%
表7に示す各条件で、上記と同様にしてNo.A3−1〜7に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の物性を評価した。評価結果を表7に示す。
表7から分かるように、クロムを0.94質量%含有する銅合金粉末(金属粉末A3)を用いた積層造形物では、前述の純銅に比し、仕上がり物性のバラツキを抑制できた。これらの積層造形物では、実用的な機械強度と導電率とを両立できた。またこの組成では、相対密度が99%を超える緻密さを実現できた。引張強さも良好であった。
3−4.珪素含有銅合金粉末
3−4−1.Si=0.21質量%
表8に示す各条件で、上記と同様にしてNo.B1−1〜11に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の物性を評価した。評価結果を表8に示す。
表8から分かるように、珪素を0.21質量%含有する銅合金粉末(金属粉末B1)を用いた積層造形物では、前述の純銅に比し、仕上がり物性のバラツキを抑制できた。これらの積層造形物では、実用的な機械強度と導電率とを両立できた。またこの組成では、45%IACS以上の高い導電率を実現できた。
3−4−2.Si=0.55質量%
表9に示す各条件で、上記と同様にしてNo.B2−1〜8に係る積層造形物を製造した。各積層造形物の物性を評価した。評価結果を表9に示す。
表9から分かるように、珪素を0.55質量%含有する銅合金粉末(金属粉末B2)を用いた積層造形物では、前述の純銅に比し、仕上がり物性のバラツキを抑制できた。これらの積層造形物では、実用的な機械強度と導電率とを両立できた。またこの組成では、相対密度が99%を超える緻密さを実現できた。
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 第1粉末層、2 第2粉末層、10 積層造形物、10d STLデータ、20 ダンベル状試験片、21 平行部、22 つかみ部、23 肩部、100 レーザ積層造形装置、101 ピストン、102 テーブル、103 レーザ出力部、D1,D2 直径、L0 全長、L1,L2 長さ、R 半径、d 厚さ、p1 第1造形層、p2 第2造形層、pn 第n造形層。

Claims (4)

  1. 積層造形に使用される銅合金粉末であって、
    前記積層造形は、レーザ、電子ビームおよびプラズマからなる群より選択される少なくとも1種を、前記銅合金粉末に照射することにより、前記銅合金粉末を固化させる工程を含み、
    0.22質量%以上0.51質量%以下のクロムと、
    0質量%以上0.1質量%未満の酸素と、
    残部の銅と
    からなる、銅合金粉末。
  2. 請求項1に記載の前記銅合金粉末を含む粉末層を形成する第1工程と、
    前記粉末層において、所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する第2工程と、を含み、
    前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返し、前記造形層を積層することにより、積層造形物を製造する、積層造形物の製造方法。
  3. 前記積層造形物を熱処理する熱処理工程をさらに含む、請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
  4. 銅合金から構成される積層造形物であって、
    前記銅合金は、
    0.22質量%以上0.51質量%以下のクロムと、
    0質量%以上0.1質量%未満の酸素と、
    残部の銅と
    からなり、
    前記銅合金の理論密度に対する相対密度が96%以上100%以下であり、
    導電率が30%IACS以上である、積層造形物。
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