本開示に係る第1の観点のマイクロ波加熱装置は、
被加熱物を収納する加熱部と、
マイクロ波を発生させるマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波発生部が発生させたマイクロ波を伝送する伝送部と、
マイクロ波が伝送する空間を有する導波管構造を有し、前記伝送部のマイクロ波を前記加熱部に放射する導波管構造アンテナと、
前記導波管構造アンテナを回転させる回転駆動部と、を備え、
前記導波管構造アンテナは、前記伝送部のマイクロ波を前記導波管構造の空間に導き、前記回転駆動部により回転可能な結合部と、前記結合部に接合され、前記導波管構造の空間を規定する導波構造部と、を有し、
前記導波構造部は、前記導波管構造の空間内のマイクロ波を放射するマイクロ波吸出し開口を有し、
前記導波構造部において、前記マイクロ波吸出し開口より当該導波構造部の回転中心側の位置に段差領域が形成されている。
上記のように構成された本開示に係る第1の観点のマイクロ波加熱装置は、加熱室内の被加熱物に対して、特に加熱室の中央領域に載置された被加熱物に対して均一に加熱することが可能であると共に、局所加熱も可能な小型のマイクロ波加熱装置となる。
本開示に係る第2の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点における前記段差領域が、前記導波構造部における回転中心を含む領域に形成されている。このように構成された本開示に係る第2の観点のマイクロ波加熱装置は、導波構造部の回転中心を含む加熱室の中央領域に載置された被加熱物に対して確実に加熱することが可能となる。
本開示に係る第3の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点における前記段差領域が、前記結合部との接合部分に対応する領域を含むよう構成されている。このように構成された本開示に係る第3の観点のマイクロ波加熱装置は、加熱室の中央領域に載置された被加熱物に対して確実に加熱することが可能となる。
本開示に係る第4の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点から第3の観点のいずれかの観点における前記段差領域が、前記マイクロ波吸出し開口より当該導波構造部の回転中心側の位置において、前記マイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射する外面に形成された凹部で構成されている。このように構成された本開示に係る第4の観点のマイクロ波加熱装置は、導波構造部の回転中心側に広い空間が形成されるため、被加熱物において反射したマイクロ波の一部がその広い空間に流れやすくなり、マイクロ波吸出し開口の上方に配置された被加熱物の回転中心側が強く加熱される。
本開示に係る第5の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点から第3の観点のいずれかの観点における前記段差領域が、前記マイクロ波吸出し開口より当該導波構造部の回転中心側の位置において、前記マイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射する内面に形成された凸部で構成されている。このように構成された本開示に係る第5の観点のマイクロ波加熱装置は、導波構造部の内部のマイクロ波が狭い空間から広い空間に伝送される構成となり、マイクロ波吸出し開口の吸出し効果と合わせて一気に放射され、加熱室の中央領域を強く加熱することが可能となる。
本開示に係る第6の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点から第3の観点のいずれかの観点における前記段差領域が、前記マイクロ波吸出し開口より当該導波構造部の回転中心側の位置において、前記マイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射する外面に形成された凹部と、前記マイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射する内面に形成された凸部と、により構成されている。このように構成された本開示に係る第6の観点のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波吸出し開口からのマイクロ波が導波構造部の回転中心を含む加熱室の中央領域側にも確実に放射され、導波構造部のの回転中心位置近傍に載置された被加熱物に対して確実に加熱することが可能となる。
本開示に係る第7の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点から第6の観点のいずれかの観点における前記結合部が、前記回転駆動部に接続されて回転し、前記導波管構造における伝送方向に直交する回転軸を有する結合軸と、前記結合軸の周りに形成され、前記導波構造部に接合するためのフランジと、を有し、
前記フランジにおける前記導波構造部との接合部分は、前記導波管構造における伝送方向の長さが、前記伝送方向に直交する方向の長さより短く形成されている。このように構成された本開示に係る第7の観点のマイクロ波加熱装置は、加熱室の中央領域に載置された被加熱物に対して確実に加熱することが可能となる。
本開示に係る第8の観点のマイクロ波加熱装置においては、前記の第1の観点から第7の観点のいずれかの観点における前記マイクロ波吸出し開口が、少なくとも2つの長孔が交差する開口を含む形状を有し、前記導波管構造における伝送方向に延びる管軸に対して一方に偏った位置に形成されている。このように構成された本開示に係る第8の観点のマイクロ波加熱装置は、加熱室に対してマイクロ波吸出し開口から確実に円偏波を放射することが可能となる。
本開示に係る第9の観点のマイクロ波加熱装置において、前記の第1の観点から第8の観点のいずれかの観点における前記導波構造部は、前記マイクロ波吸出し開口を複数有し、複数の前記マイクロ波吸出し開口が前記導波管構造における伝送方向に延びる管軸に対して軸対象に配置され、
前記管軸を間にして対向する2つの前記マイクロ波吸出し開口の開口形状において、前記結合部に近い対向する開口間の距離が前記結合部から遠い対向する開口間の距離より長く形成されている。このように構成された本開示に係る第9の観点のマイクロ波加熱装置は、導波管構造の導波構造部のマイクロ波吸出し開口から放射される円偏波により加熱室内をより均一に加熱することが可能となる。
以下、本開示に係るマイクロ波加熱装置の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態のマイクロ波加熱装置においては電子レンジについて説明するが、電子レンジは例示であり、本開示のマイクロ波加熱装置は電子レンジに限定されるものではなく、誘電加熱を利用した加熱装置、生ゴミ処理機、あるいは半導体製造装置などのマイクロ波加熱装置を含むものである。また、本開示は、以下の実施の形態の具体的な構成に限定されるものではなく、同様の技術的思想に基づく構成が本開示に含まれる。
(実施の形態1)
図1は、本開示に係る実施の形態1のマイクロ波加熱装置である電子レンジの概略構成を示す図であり、電子レンジを正面側から見た断面図である。なお、以下の説明において、電子レンジの左右方向とは図1における左右方向を意味し、前後方向とは図1における紙面に垂直な方向であり装置の前面側と背面側を結ぶ方向を意味する。
図1に示すように、実施の形態1の電子レンジ1は、加熱部2と、マグネトロン3と、導波管4と、導波管構造アンテナ5と、載置台6とを備える。加熱部2は、代表的な被加熱物である食品(図示せず)を載置するための載置台6の上側の空間で構成された加熱室2aと、載置台6の下側の空間で構成された給電室2bとを有する。マグネトロン3は、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生部の一例である。導波管4は、マグネトロン3において発生したマイクロ波を加熱部2に伝送する伝送部の一例である。導波管構造アンテナ5は、伝送部である導波管4内のマイクロ波を加熱部2内に放射するよう構成され、載置台6の下側の給電室2bの空間内部に設けられている。
加熱部2における載置台6は、被加熱物である食品を載置するフラットな面を有する。載置台6は、導波管構造アンテナ5が設けられた給電室2bの全体を覆うことにより、導波管構造アンテナ5が加熱室2a内に露出しないように給電室2bを塞ぐと共に、加熱室2aの底面を構成している。載置台6の上面(載置面)がフラットに形成されているため、ユーザによる食品の出し入れを容易なものとしており、載置台6に付着した汚れなどをふき取りやすく構成されている。載置台6の材料としては、ガラスやセラミックなどのマイクロ波が透過しやすい材料が用いられている。このように載置台6の材料としてマイクロ波が透過しやすい材料を用いることにより、載置台6の下側にある給電室2bの導波管構造アンテナ5から放射されたマイクロ波が載置台6の上側の加熱室2a内の空間に確実に伝搬する構成である。
導波管構造アンテナ5は、導波管4内からマイクロ波を引き出す結合部7と、結合部7により引き出されたマイクロ波が導かれる箱形の導波管構造を有する導波構造部8とを有する。結合部7は、結合軸7aとフランジ7bにより構成されている。結合軸7aは回転駆動部であるモータ15に接続されており、後述する制御部17からの制御信号により、結合部7に接合された導波構造部8は回転制御される構成である。即ち、導波管構造アンテナ5は結合部7の結合軸7aを中心に回転駆動され、停止位置、回転期間、回転速度などが制御される。結合部7は金属、例えば、アルミメッキ鋼板で形成され、結合部7に接続されているモータ15の接続部分は、例えば、フッ素樹脂で形成されている。
図1に示すように、結合部7の結合軸7aは、伝送部である導波管4と給電室2bとを連通する開口を貫通しており、結合軸7aは貫通する開口との間に所定の間隔の隙間、例えば、5mm以上の隙間を有している。結合軸7aが上記の開口を貫通することにより導波管4からのマイクロ波を導波管構造アンテナ5の導波構造部8に効率高く導くように構成されている。
実施の形態1の電子レンジ1は、回転駆動部であるモータ15が導波管構造アンテナ5の結合部7に接合されており、結合部7の回転により導波管構造アンテナ5からのマイクロ波の放射方向が変更される。また、実施の形態1の電子レンジ1には、加熱室2aの側面上方に赤外線センサ16が設けられている。赤外線センサ16は、加熱室2aを複数の領域に区分してそれぞれの領域の庫内温度状態を検出して、その検出信号(検出結果)を制御部17に送信する構成である。制御部17は、赤外線センサ16からの検出信号に基づいて、マイクロ波発生部であるマグネトロン3及び回転駆動部であるモータ15を駆動制御する。赤外線センサ16は、加熱室2aの庫内温度状態、特に、食品の状態を検出する状態検出部の一例であって、食品の状態として食品の表面温度を検出している。上記のように、実施の形態1の電子レンジ1においては、制御部17が赤外線センサ16からの検出信号に基づきマグネトロン3の発振制御及びモータ15の回転制御を行っている。
なお、実施の形態1では、状態検出部の一例として、食品の温度を検出する赤外線センサ16を用いた場合について説明するが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、食品の重量(重心)を検出する重量センサや、食品の画像を取得する画像センサなどを状態検出部として用いた構成も本開示に含まれる。或いは、このような状態検出部を用いない構成であって、予め設定された動作に基づいた駆動制御であっても本開示に含まれる。例えば、ユーザによって選択可能な複数のプログラムを電子レンジ1に記憶させておき、ユーザが選択したプログラムに基づき、制御部17がモータ15を駆動制御して導波管構造アンテナ5の回転位置の制御を行ってもよい。
図2Aは、導波管構造アンテナ5が設けられた加熱部2の給電室2bを示す斜視図であり、載置台6を取り除いた加熱部2の底面部分が示されている。図2Bは図2Aの給電室2bを示す平面図である。図2A及び図2Bに示すように、加熱室2aの直下に配置され、載置台6により加熱室2aと区分される給電室2bには、導波管構造アンテナ5が設けられている。導波管構造アンテナ5における結合軸7aの回転中心Gは、給電室2bの前後方向及び左右方向の中心の位置にあり、即ち、加熱室2aの底面となる載置台6の前後方向及び左右方向の中心の直下の位置である。
図2A及び図2Bに示すように、給電室2bの底面11と載置台6の下面により構成される給電空間は、結合部7の回転中心Gを含む給電室2bの前後方向に延びる中心線J(図2B参照)に対して対称な形状を有している。給電空間の左右壁面には中心側に突出した凸部18がそれぞれ形成されている。一方の凸部18の下方にはマグネトロン3が設けられている。マグネトロン3の出力端3aからのマイクロ波は、給電室2bの直下に形成された伝送部である導波管4を伝送し、結合部7を介して導波管構造の導波構造部8に導かれ、給電室2b内に放射される。
給電室2bの給電空間の側面を形成する側壁面2cは、斜め上方を向く斜面で形成されている。このように形成された側壁面2cは、導波管構造アンテナ5から水平方向に放射されたマイクロ波を反射して、上方の加熱室2aに反射する構成である。
図3は、導波管構造アンテナ5の具体例を示す分解斜視図である。導波管構造アンテナ5における平面視が略四角形である導波構造部8は、図3に示すように、四辺における三辺が直線状であり、残りの一辺が円弧状に形成された導波管構造を有する。導波構造部8における円弧状の一辺は開口しており、導波構造部8内を伝送したマイクロ波を放射する先端開放部13となっている。即ち、先端開放部13は、導波構造部8内を流れるマイクロ波の伝送方向の下流端に形成されている。また、導波構造部8は、載置台6の下面に対向する上壁面9と、上壁面9に繋がる三方の側壁面10a、10b、10cと、三方の側壁面10a、10b、10cのそれぞれから給電室2bの底面に対向して水平外側に延設された低インピーダンス部12とを備える。導波構造部8の上壁面9の下面には、結合部7が接合される接合部分が形成されている。
導波構造部8における側壁面10a、10b、10cは、箱形の導波管構造の導波構造部8の周囲三方を塞ぐように形成されており、導波構造部8からのマイクロ波の漏洩を抑制している。導波構造部8においては、残りの一方となる結合部7から最も離れた位置に先端開放部13が形成されている。先端開放部13の開口からは結合部7から導波構造部8を伝送したマイクロ波が水平方向に放射される。三方の側壁面10a、10b、10cのそれぞれの下端から水平外側に延びる低インピーダンス部12は、給電室2bの底面11とわずかな隙間を有して対向するように平行に形成されている。なお、実施の形態1における導波構造部8においては、給電室2bの底面11との間の隙間を確保するために、低インピーダンス部12の一部に絶縁樹脂スペーサ(図示せず)を装着するための保持部19が形成されている。
図3に示すように、各低インピーダンス部12には複数のスリット12aが形成されている。各スリット12aは、それぞれのスリット12aが形成された低インピーダンス部12に繋がる側壁面10a、10b、10cに直交する方向に延びて形成されている。このように、各側壁面10a、10b、10cの下端から延びる低インピーダンス部12が形成されているため、側壁面10a、10b、10cと給電室2bの底面11との隙間から、側壁面10a、10b、10cに直交する方向のマイクロ波の漏洩が大幅に抑制されている。一方、低インピーダンス部12に形成されている複数のスリット12aは所定間隔で配置することで周期構造を成し、側壁面10a、10b、10cに平行な方向のマイクロ波の漏洩を抑制している。この所定間隔は、導波構造部8を伝送する波長に応じて適宜決定される。
上記のように、導波管構造アンテナ5の導波構造部8においては、略四角形の上壁面9における一辺のみが円弧状に形成されており、この円弧状の縁部分の下方が広く開放された先端開放部13となっている。なお、実施の形態1の電子レンジにおいては、先端開放部13が円弧状に形成された例で説明したが、本開示はこの形状に限定されるものではなく、直線状、曲線状であってもよい。
実施の形態1の電子レンジにおいては、図3に示すように、上壁面9には後述するように特殊な機能を有する複数の開口であるマイクロ波吸出し開口14が形成されている。このように構成された導波管構造アンテナ5においては、導波構造部8の内部のマイクロ波が、先端開放部13と複数のマイクロ波吸出し開口14から制御されて放射される構成である。
図3の分解斜視図に示すように、導波管構造アンテナ5は、箱形の導波管構造の導波構造部8に対して回転中心となる結合部7が固着されている。実施の形態1の構成においては、結合部7に形成されたフランジ7bが接合部分として導波構造部8の上壁面9に対して接合(カシメ、スポット溶接、ビス締め)されている。なお、結合部7と導波構造部8との接合としては、溶接などの接合手段を用いて結合軸7aを上壁面9に直接接合することも可能である。
本開示のマイクロ波加熱装置は、発明者の各種実験に基づき、上記のように構成された導波管構造アンテナ5が後述するように特殊な導波管構造を有するため、加熱室内における被加熱物に対する局所加熱が可能となるとともに、加熱室内の加熱分布の均一化を図ることが可能となる。本開示に係る実施の形態1のマイクロ波加熱装置である電子レンジにおいては、特に、導波管構造アンテナにおける回転中心の直上の加熱室の中央領域において、効率高く加熱することができるとともに、この中央領域の加熱温度の不均一を抑制することができる構成を有する。以下に、実施の形態1のマイクロ波加熱装置である電子レンジにおける特殊な導波管構造について説明する。
[導波管構造]
まず、導波管構造の理解のために、図4を用いて、一般的な導波管300について説明する。最も単純で一般的な導波管300は、図4に示すように、一定の長方形の断面(幅a、高さb)を伝送方向Zに伸ばした直方体からなる方形導波管である。マイクロ波の自由空間での波長をλ0としたときに、導波管300の幅a及び高さbを、λ0>a>λ0/2、及びb<λ0/2の範囲内から選ぶことにより、当該導波管300内をTE10モードでマイクロ波を伝送することが知られている。
TE10モードとは、導波管300内においてマイクロ波の伝送方向Zには磁界成分のみが存在して電界成分は存在しない、H波(TE波;電気的横波伝送(Transverse Electric Wave))における伝送モードのことを指す。
ここで、導波管300内の管内波長λgの説明に先立って、自由空間の波長λ0について説明する。自由空間の波長λ0は、λ0=c/fの式により求められる。この式において、cは光の速度であり、略2.998×108[m/s]で一定である。一方、fは発振周波数であり、電子レンジの場合には2.4〜2.5[GHz](ISMバンド)の幅を有する。発振周波数fはマグネトロンのばらつきや負荷条件によって変化するため、自由空間の波長λ0も変化する。これにり、自由空間の波長λ0は、最小120[mm](2.5GHz時)から最大125[mm](2.4GHz時)まで変化する。
電子レンジに用いる導波管300の場合には、自由空間の波長λ0の範囲等を考慮して、一般的には、導波管300の幅aを80〜100mm、高さbを15〜40mm程度の範囲内から選ぶことが多い。このとき、図4に示した導波管300において、その上下面である幅広面301を、磁界が平行に渦巻く面という意味でH面と呼び、左右面である幅狭面302を、電界に平行な面という意味でE面と呼ぶ。
なお、マイクロ波発生部であるマグネトロンからのマイクロ波をλ0とし、導波管内を伝送するときのマイクロ波の波長を管内波長λgとすると、λg=λ0/√(1−(λ0/(2×a))2)で求められる。従って、管内波長λgは、導波管300の幅aの寸法によって変化するが、高さbの寸法には無関係である。TE10モードにおいては、導波管300の幅方向Wの両端(E面)302で電界が0、幅方向Wの中央で電界が最大となる。
図1及び図3で示した実施の形態1における導波管構造アンテナ5に関しても、図4に示した導波管300と同様の考えを適用することができる。導波管構造アンテナ5の上壁面9と給電室2bの底面11がH面である。導波管構造アンテナ5における対向する側壁面10aと10cがE面である。先端開放部13に対向する側壁面10bは、導波管構造アンテナ5内のマイクロ波を先端開放部13の方向へ全て反射させるための反射端である。実施の形態1における導波管構造アンテナ5は、具体的には、導波管幅(a)が106.5mmである。
導波管構造アンテナ5におけるH面である上壁面9には、前述のように、複数のマイクロ波吸出し開口14が形成されている。マイクロ波吸出し開口14においては、導波管構造アンテナ5の導波管構造における伝送方向に延びる中心線Vである管軸(導波管のH面の幅方向の中心線を一般に管軸と呼ぶ)に対して線対称に2つの第1開口14aが配置されており、同様に2つの第2開口14bが線対称に配置されている。第1開口14a及び第2開口14bの開口部分が管軸(中心線V)を横切らないように形成されている。このように、第1開口14a及び第2開口14bの開口部分が、導波管構造アンテナ5におけるH面の管軸(V)をまたがないように片側に偏って配置することにより、第1開口14a及び第2開口14bから確実に円偏波を放射することができる構成となる。第1開口14a及び第2開口14bの開口部分をH面における管軸(V)のどちらの領域に形成するかにより電界の回転方向が異なり、それによって、円偏波は右旋偏波(CW:clockwise)あるいは左旋偏波(CCW:counter clockwise)となる。第1開口14a及び第2開口14bから円偏波が放射されることにより、それぞれの開口部分から渦状の電界が放射されるため、均等な電界分布を形成することが可能となる。
なお、実施の形態1においては、第1開口14a及び第2開口14bの開口部分が、管軸(V)をまたがないように配置した例で説明したが、それぞれの開口部分の一部が管軸(V)をまたぐ構成としても、円偏波を放出することが可能なマイクロ波吸出し開口となる。ただし、この場合の円偏波は歪んだ円となって放射されるが、加熱室内の温度分布の均一化を図ることは可能である。
[円偏波放射構造]
次に、円偏波について説明する。円偏波は、移動通信及び衛星通信の分野で広く用いられている技術である。身近な使用例としては、ETC(Electronic Toll Collection System)「ノンストップ自動料金収受システム」などが挙げられる。円偏波は、電界の偏波面が進行方向に対して時間に応じて回転するマイクロ波である。円偏波を形成すると、電界の方向が時間に応じて変化し続けて、電界強度の大きさは変化しないという特徴を有している。この円偏波をマイクロ波加熱装置に適用すれば、従来の直線偏波によるマイクロ波加熱と比較して、被加熱物を特に円偏波の周方向に対して均一に加熱することが期待される。なお、円偏波は、前述のように、回転方向から右旋偏波と左旋偏波の2種類に分類されるが、マイクロ波加熱装置の分野においてはどちらの種類の円偏波であっても、均一な加熱分布を形成することが可能である。
円偏波はもともと通信の分野での利用が主であるため、開放空間への放射を対象としていることから、反射波が戻ってこないいわゆる進行波で論じられるのが一般的である。一方、実施の形態1の電子レンジ1において、加熱部2は、外部とは遮蔽された閉空間であるため、反射波が発生して進行波と合成されて定在波となる可能性がある。しかし、食品がマイクロ波を吸収するため、反射波が小さくなるのに加えて、マイクロ波吸出し開口14からマイクロ波が放射される瞬間には定在波のバランスがくずれ、再び安定した定在波に戻るまでの間は進行波が発生していると考えられる。したがって、マイクロ波吸出し開口14を円偏波が放射できる形状とすることにより、前述の円偏波の特長を利用することが可能となり、加熱室2a内の加熱分布をより均一化することができる。
ここで、開放空間の通信分野と閉空間の加熱の分野では、いくつか異なる点があるので説明を加える。通信分野では、他のマイクロ波との混在を避けて必要な情報のみを送受信したいため、送信側は右旋偏波か左旋偏波のどちらかに限定して送信し、受信側もそれに合わせた最適な受信アンテナを選ぶことになる。
一方、加熱の分野では、指向性を有する受信アンテナの代わりに、特に指向性のない食品などの被加熱物がマイクロ波を受けるため、マイクロ波が被加熱物全体に対して照射されることのみが重要となる。したがって、加熱の分野においては、右旋偏波でも左旋偏波でも関係はなく、開口を複数形成して右旋偏波と左旋偏波が混在する状態でも問題はない。
[導波管構造アンテナによる局所加熱]
以下、実施の形態1における導波管構造アンテナのマイクロ波吸出し開口14に関して、食品などの被加熱物が近くにある時ほど導波管構造内のマイクロ波が吸出されて、被加熱物に対して局所加熱を行う吸出し効果について説明する。
まず、吸出し効果について説明する。マイクロ波吸出し開口14と食品との間の距離が、マイクロ波の放射量にどれだけ関係するかについて、CAEを使って、直線偏波と円偏波とを比較した。図5Aは直線偏波を放射するI字形状の開口を有する導波管400のH面を示す平面図であり、図5Bは円偏波を放射するX字形状の開口を有する導波管500のH面を示す平面図である。図5Cは導波管400又は500と被加熱物である食品Fとの位置関係を示す正面図である。
図5Aに示すように、直線偏波を発生する開口401は、導波管400において伝送方向に延びる管軸(幅方向の中心線V)を交差してその両側にわたる直線状(I形状)の開口である。図5Bに示すように、円偏波を発生する2つの開口501は、X字状の開口であり、導波管500の管軸(V)に対して線対称に配置されている。従って、いずれの開口401、501も、それぞれの導波管400又は500の幅方向の中心線Vに対して対称な開口形状である。なお、いずれの開口401又は501もスリット幅を10mm、スリット長さをLmmとした。この構成において、食品Fが配置されていない場合(「食品無し」)と、図5Cに示すように、食品Fが配置された場合(「食品有り」)とについて解析した。なお、図5Cに示したように食品Fが配置された場合、食品Fの高さは30mmで一定とし、食品Fの底面の面積を2種類(100mm角、200mm角)、食品Fの材質を3種類(冷凍牛肉、冷蔵牛肉、水)、導波管400又は500の開口面から食品Fまでの距離Dをパラメータとして測定した。
まず、「食品無し」の場合の開口からのマイクロ波の放射量を基準とするために、「食品無し」のときの開口のスリット長さLによる放射量の変化を図6A及び図6Bにグラフ化して示した。図6Aは、図5Aの直線偏波の開口401による特性を表し、図6Bは、図5Bの円偏波の開口501による特性を表す。図6A及び図6Bにおいて、横軸が、開口のスリット長さL[mm]であり、縦軸が、導波管内を伝送する電力を1.0としたときの開口401又は501から放射される放射量[W]である。
「食品有り」の場合と比較するために、図6Aのグラフにおいてスリット長さLが45.5mmを選択し、図6Bのグラフにおいてスリット長さLが46.5mmを選択した。スリット長さLの選択については、「食品無し」の場合に同じ量(導波管内を伝送する電力の1/10)を放射するスリット長さL(グラフの縦軸が0.1となるL)を選んだ。
次に、スリット長さLを選択した長さに固定して、「食品有り」の条件で解析を行って特性をまとめた結果を図7に示す。食品の種類としては、冷凍牛肉、冷蔵牛肉、水の3種類とし、食品の底面の面積は100mm角と200mm角の2種類で解析した。図7に示したそれぞれのグラフにおいて、横軸は、食品Fから開口面までの距離D[mm]であり、縦軸は、無負荷時の放射量を1.0としたときの相対的な放射量である。即ち、「食品無し」の場合と比較して、「食品有り」の場合には放射量が何倍となるかを示すものであり、食品Fがどれだけマイクロ波を導波管400又は500から吸出すかを示すものである。図7において示したそれぞれのグラフは、破線が直線偏波(I字形状の開口401)、実線が円偏波(2つのX字形状の開口501)を示している。開口401、501のいずれの場合でも、直線偏波より円偏波のほうが放射量が多く、特に、距離Dが20mm以下の実用的な距離において、2倍程度の差があると理解できる。従って、食品Fの種類や食品Fの面積に関わらず、円偏波のほうが直線偏波よりもマイクロ波の吸出し効果が高いことが明らかである。
詳細に見ていくと、食品Fの種類については、特に、距離Dが10mm以下では、誘電率や誘電損失が小さい冷凍牛肉の方が吸出し効果が大きく、誘電率や誘電損失が大きい水の方が吸出し効果は小さくなっている。また、冷蔵牛肉や水の場合、距離Dが大きい時に、特に、直線偏波では放射量が1以下にまで落ち込んでいる。これは、食品Fで反射されたマイクロ波が戻ってきて、相殺されることが原因と考えられる。
なお、食品Fの底面の面積については、100mm角と200mm角でマイクロ波の放射量がほとんど変わらないため、マイクロ波の吸出し効果への影響は少ないと考えられる。
円偏波を発生する開口形状としてはX字形状だけではない。発明者は、開口形状をいろいろと変更して、円偏波を放射できる開口の条件について検討した。その結果、円偏波を発生する好ましい条件としては、開口が導波管の幅方向の中央(中心線V)からずらして配置されること、そして開口形状が交差する長孔(スリット)の開口を含むこと、である。また、発明者の実験によれば、円偏波のマイクロ波を効率よく放射することができるのは、X字形状を有する開口であり、このX字形状の開口が吸出し効果も高いことがわかった。
図8A及び図8Bは、実施の形態1の電子レンジの構成における吸出し効果の例を示す模式図である。図8Aは食品Fが結合部7の直上近傍に配置された場合であり、図8Bは食品Fが加熱室2aの中心から外れ、導波管構造アンテナ5が回動して先端開放部13が食品Fの方向に配置された場合である。したがって、図8A及び図8Bに示す状態においては、結合部7から食品Fまでの距離が異なっている。
図8Aに示す状態においては、食品Fがマイクロ波吸出し開口14の第1開口14aに近いため、第1開口14aにおいて吸出し効果が生じている。すなわち、結合部7から先端開放部13へ向かうマイクロ波のうちの大部分が、食品Fに対して直接照射するマイクロ波として第1開口14aから放射され、中央領域に配置された食品Fに対しても均一に加熱している。
一方、図8Bに示す状態においては、食品Fがマイクロ波吸出し開口14から離れているため、マイクロ波吸出し開口14において吸出し効果は生じない。すなわち、結合部7から先端開放部13へ向かうマイクロ波のうちの大部分が、導波管構造アンテナ5が回動して適切な位置に配置された先端開放部13から食品Fに向かうマイクロ波が放射され、直線偏波により局所的に配置された食品Fに対して直接的に効率高く加熱している。
上記のように、実施の形態1におけるマイクロ波吸出し開口14は、マイクロ波吸出し開口14の近くに食品が配置された時のみマイクロ波の放射量が多くなり、マイクロ波吸出し開口14から離れた位置に配置された時にはマイクロ波の放射量が少なくなるという特殊な制御機能を有する。
[導波管構造アンテナによる均一加熱]
以下、本開示に係る実施の形態1のマイクロ波加熱装置である電子レンジにおいて、導波管構造アンテナが加熱室内の加熱分布の均一化、特に、導波管構造アンテナにおける回転中心の直上の加熱室の中央領域に被加熱物が載置されたときに生じる、中央領域の加熱温度の低下を抑制して加熱分布の均一化を図るための効率的な構成について説明する。発明者は、各種形状の導波管構造を有する導波管構造アンテナを用いて加熱分布の実験を行い、最適な導波管構造を見出したので、その計測実験に用いた導波管構造について説明する。
図9は、発明者が実験で用いた導波管構造アンテナの導波構造部の平面形状を示す図である。図9の(a)〜(c)において、それぞれの導波構造部には伝送方向に平行な中心線V(管軸)に対して線対称に配置された複数のマイクロ波吸出し開口が設けられている。それぞれのマイクロ波吸出し開口は、中心線に対称な2つの第1開口、及び2つの第2開口を有している。なお、図9の(a)〜(c)に示す導波構造部において、第1開口の形状のみを変更しており、第2開口は同じ形状に形成した。図9において、符号7は結合部を示し、符号Gは結合部7の中心軸(回転中心)を示す。
図9の(a)に示す導波構造部600は、マイクロ波吸出し開口の第1開口614a及び第2開口614bのそれぞれが、二本の同じ長さの長孔(スリット)をそれぞれの中心で直交させたX字形状を有している。また、それぞれの長孔の長軸が伝送方向に平行な中心線Vに対して45度斜行している。
図9の(b)に示す導波構造部700において、図9の(a)に示した導波構造部600との違いは、第1開口714aが1つのみ形成されている。
図9の(c)に示す導波構造部800において、図9の(a)に示した導波構造部600との違いは、第1開口814aを構成する長孔において交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分が閉鎖されており、それぞれの第1開口814aがT字形状に形成されている点である。即ち、図9の(c)に示す導波構造部800においては、結合部7に近接してマイクロ波吸出し開口が形成されていない構成である。
図9に示す導波管構造を有する導波管構造アンテナの電子レンジにより被加熱物としての冷凍お好み焼きを載置台6の中心(加熱室2aの中心)に配置して同じ加熱条件で加熱実験を行い、CAEにより検証を行った。
その結果、図9の(a)に示した導波構造部600のように、結合部7の近くに大きなマイクロ波吸出し開口である第1開口614aが近接し、対向して形成されている場合には、互いの開口から出力される円偏波が干渉して、結合部近傍の中央領域の加熱温度が異常に低くなることが分かった。図9の(b)に示した導波構造部700のように、結合部7の近くにおいては大きな開口である第1開口714aを1つのみ形成して、マイクロ波吸出し開口を中心線V(管軸)に対して非対称に形成することにより、結合部7の直上の加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制することができた。また、図9の(c)に示した導波構造部800のように、結合部7の近傍においては、対向する第1開口814aにおける交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分を無くすことにより、加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制することができた。
以上のように、導波管構造アンテナにおいて、結合部近傍には大きな開口が対向しないように形成することにより、加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制して、加熱室の加熱分布の均一化を図ることが可能な構成となることが理解できた。
更に、発明者は、導波管構造アンテナの導波管構造に形成すべきマイクロ波吸出し開口の形状について各種実験を行い、更なる加熱分布の均一化を図ることができる構成を見出した。
図9の(c)に示した導波構造部800の第1開口814aは、交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分のないT字形状を有しているため、X字形状の開口により形成される綺麗な円形状の円偏波とは異なる歪な形状の円偏波を放射する。このため、加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制することは可能であるが、加熱室における加熱分布の均一化を図る点においては好ましい円偏波形状ではなかった。そこで、対向する開口部分から出力される円偏波が干渉することを抑制すると共に、可能な限り円に近い形状の円偏波とするために、後述する図10の(a),(b)に示すように、第1開口914aを構成する長孔において、交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分を短い長さを有する構成について検討した。即ち、第1開口914aにおいて、二本の長孔(スリット)における一方の長孔を短く形成して、交差部分から結合部7の方向に延びる開口のみを短くした略X字形状とした構成に対して各種実験を行った。その結果、加熱分布の均一に関して、略X字形状の開口を有する構成が、T字形状を有する開口に比べて好ましい結果が得られた。このように形成された第1開口914aにおいては、対向する開口部分から出力される円偏波の干渉を抑制することができると共に、前述の吸出し効果が高くなり、加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制して、加熱分布の均一化を図ることができた。
なお、第1開口において、交差部分から結合部7の方向への延びる長さについては、対向する開口部分から放射されるマイクロ波により出力が干渉しない程度に設定され、電子レンジの仕様(出力)に応じて適宜設定される。以下、第1開口を略X字形状に形成した導波構造部について詳細に説明する。
図10は、発明者が実験で用いた導波管構造アンテナの導波構造部の平面形状を示す図であり、導波構造部が略X字形状の第1開口を有する。
図10の(a),(b)に示す導波構造部900A,900Bは、第1開口914aを構成する長孔において交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分が短く形成されている。即ち、第1開口914aにおける結合部7の方向に延びる長孔において、交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分の長さは、交差部分から反対方向に延びる開口部分の長さより短く形成されている。そのため、図10の(a)に示す導波構造部900Aにおいては、その上壁面における結合部近傍が平坦に形成されている。一方、図10の(b)に示す導波構造部900Bにおいては、結合部7の接合部分(フランジ7bの固着部分)に凹部の接合領域が形成されている。そのため、導波構造部900Bの上壁面における結合部7との接合領域の面と載置台の下面との距離は、上壁面における他の部位に比べて長くなっている。
図10に示した導波管構造を有する導波管構造アンテナの電子レンジを用いて、同様に被加熱物として冷凍お好み焼きを加熱室2aの中心に配置して同じ加熱条件で加熱実験を行い、CAEにより検証を行った。なお、図10の(a),(b)に示す導波構造部において、上壁面における結合部7の接合部分の形状のみを変更しており、第1開口914a及び第2開口914bは同じ形状に形成した。図10において、符号7は結合部を示し、符号Gは結合部7の回転中心を示す。
その結果、図10の(a)に示した導波管構造においては、前述の図9の(c)に示したように、対向する第1開口814aが交差部分から結合部7の方向に延びる開口部分を無くした場合に比べて、第1開口914aが略X字形状を有しているため、対向する開口部分から出力される円偏波の干渉を抑制すると共に、円形状に近い円偏波を発生することができる構成となる。このように形成された第1開口914aにおいては、吸出し効果が高くなり、加熱室の中央領域に配置された食品に対しても多くのマイクロ波を放射できる構成となり、加熱室の中央領域における加熱温度の低下を抑制することができた。さらに、図10の(b)に示したように、導波構造部900Bの上壁面においては、結合部7の接合部分に対応する接合領域に凹部が形成されていることにより、加熱室2aの中央領域における加熱温度の低下をより抑制することができることが分かった。
本開示においては、発明者による上記のような各種実験からの知見に基づいて、マイクロ波加熱装置である電子レンジにおける導波管構造アンテナを構成した。以下に説明する実施の形態1の電子レンジは本開示のマイクロ波加熱装置の具体的構成を示す例示であり、本開示においてはマイクロ波加熱装置の仕様などに応じて上記の知見に基づき各種の変形例が可能である。
図11は、実施の形態1の電子レンジにおける導波管構造アンテナの導波構造部8を示す平面図である。
実施の形態1の電子レンジにおける導波管構造アンテナの導波構造部8は、前述の図3に示したように、実施の形態1における導波管構造の導波構造部8の上壁面9には、複数のマイクロ波吸出し開口14が形成されている。上壁面9に形成された複数のマイクロ波吸出し開口14は、二種類の形状を有しており、大きな開口を有する第1開口14aと、小さな開口を有する第2開口14bにより構成されている。第1開口14a及び第2開口14bのそれぞれの開口形状は、長孔(スリットあるいはスロット)を直交するように交差させた略X字状の形状を有する。
図11に示すように、第1開口14a及び第2開口14bのそれぞれの中心点P1、P2を、上壁面9の幅方向Wの中心線V(導波構造部8において伝送方向Zに平行な中心線(管軸))からずれた位置に配置することにより、それぞれのマイクロ波吸出し開口14は円偏波を放射することができる円偏波放射構造となる。ここで、第1開口14aの中心点P1、及び第2開口14bの中心点P2とは、それぞれの開口形状を形成する2つの長孔における長軸の交点である。なお、実施の形態1の構成においては、マイクロ波吸出し開口14の全ての開口部分が上壁面9の幅方向Wの前記中心線V(管軸)からずれた位置に配置されている。マイクロ波吸出し開口14における各長孔の長軸方向は、上壁面9の幅方向Wの中心線Vに対して略45℃傾斜している。
図11に示すように、第1開口14aは、導波構造部8において結合部7の接合部分に対応する上壁面9における接合領域である凹部9aに近接して形成されている。段差領域である凹部9aの凹みは第1開口14aから放射されるマイクロ波の放射方向の面(上面)が凹み形状を有している。2つの第1開口14aは、前記中心線Vを間にして対称的に配置されている。第1開口14aより小さい開口形状を有する第2開口14bは、上壁面9の先端開放部13の近傍に形成されている。2つの第2開口14bは前記中心線Vを間にして対称的に配置されている。
第1開口14aの開口形状は、前述のように、長孔(スリットあるいはスロット)を直交するように交差させた略X字状の形状であるが、長孔における中心点P1は、長孔の長軸方向の長さの中央位置ではない。即ち、各長孔における中心点P1から上壁面9の幅方向Wの中心線Vに向かう方向に延びる開口形状は、中心点P1から側壁面側に延びる開口形状より短く形成されている。
前述の図3に示したように、結合部7には導波構造部8の上壁面9に接合するためのフランジ7bが設けられている。フランジ7bは、導波構造部8における伝送方向に延びる管軸(V)の方向(伝送方向)の長さが短く、幅方向Wの長さが長いフランジ形状を有している。即ち、結合部7は、導波管構造における伝送方向の長さが、伝送方向に直交する方向の長さより短く形成されている。このため、第1開口14aにおける結合部7の方向に延びる開口形状の先端を結合部7に近接して形成することが可能となる。
実施の形態1における導波構造部8においては、上壁面9に形成された段差領域である凹部9aの裏面側に結合部7のフランジ7bが接合される構成である。このため、凹部9aの深さは、フランジ7bを上壁面9の凹部9aに接合したときに生じる突起、例えば、TOXカシメの突き出し、溶接痕、固定用のビスやナットの頭等の高さより深くなるように設計されている。このように凹部9aの深さを設定することにより、突起が上方に配置されている載置台6の裏面に接触する等の問題を回避することができる。
更に、実施の形態1における導波構造部8の上壁面9における結合部7の直上部分に凹部9a(加熱室2aの中央領域に対応)が形成されているため、前述の図10の(b)に示した構成となり、加熱室2aの中央領域における加熱温度の低下をさらに抑制できる構成となる。
導波構造部8の上壁面9における形成された段差領域である凹部9aにより加熱室2aの中央領域が強く加熱できる理由としては、次の点が考えられる。例えば、第1開口14aの上方に被加熱物である食品が載置された場合、当該第1開口14aから放射されたマイクロ波が周囲に均等に拡散し、マイクロ波の一部が食品に当たって反射する。導波構造部8の上壁面9における結合部7の直上部分(加熱室2aの中央領域)には凹部9aが形成されているため、食品の下方領域における中央側には広い空間が形成されている。そのため、食品において反射したマイクロ波の一部は、その広い空間に流れやすくなり、第1開口14aの上方に配置された食品の中央側が強く加熱されることになる。
なお、実施の形態1においては、導波構造部8の上壁面9に凹部9aが形成されているため、導波構造部8の内部空間には突出する凸部が形成されることになる。このため、導波構造部8内に突出する凸部により、その部分の導波管構造内の空間の厚みが狭くなり、結合軸7aから開口側へ伝送されるマイクロ波においては、狭い空間から第1開口14aが形成された広い空間に伝送される構成である。この結果、狭い空間において圧縮されていたマイクロ波が第1開口14aにおける吸出し効果と合わせて一気に放射されるため、結合部7の近傍の第1開口14aにおいてはマイクロ波が多量に放射されて加熱室2aの中央領域を強く加熱することが可能となる。
以下、実施の形態1における第1開口14aの具体的な開口形状について図11を用いて説明する。なお、説明を容易なものとするため、図11において、中心線Vに対称的に上下に配置された第1開口14aにおいて、上側に図示した第1開口14aの開口形状について説明する。
まず、第1開口14aにおいて、中心点P1から幅方向Wの内側(中心線V側)に向かい上壁面9の凹部9aの方向に延びる開口の第1長さをA(図11において、中心点P1から右下側に延びる開口の長さ)、中心点P1から幅方向Wの内側に向かい先端開放部13の方向に延びる開口の第2長さをB(図11において、中心点P1から左下側に延びる開口の長さ)、中心点P1から幅方向Wの外側に向かい上壁面9の先端開放部側に延びる開口の第3長さをC(図11において、中心点P1から左上側に延びる開口の長さ)、中心点P1から幅方向Wの外側に向かい上壁面9の後方側に延びる開口の第4長さをD(図11において、中心点P1から右上側に延びる開口の長さ)とする。
図11に示すように、第3長さC及び第4長さDは同じ長さを有している。第1長さAは第2長さBより短く、第2長さBは第3長さC及び第4長さDより短く形成されている。即ち、第1長さAが最も短く形成されており、第1長さAを有する開口の先端部分が、結合部7が接合される上壁面9の凹部9aに近接した位置となっている。従って、第1長さAを有する開口の先端部分と、上壁面9の幅方向Wの中心線Vとの間の距離Xは、第2長さBを有する開口の先端部分と、上壁面9の幅方向Wの中心線Vとの間の距離Yより長くなっている。即ち、中心線Vを挟んで対向する第1開口14aにおいて、結合部7が接合される上壁面9の凹部9a(結合部7の接合部分)に近い開口間の領域が、上壁面9の凹部9a(結合部7)から離れた開口間の領域に比べて、広く平板な形状に形成されている。
導波管構造の管軸(中心線V)を挟んで対向する開口において、開口間の領域が平坦でなく凸凹を有する形状である場合には、導波管構造内の電磁界が乱れて、開口から放射される円偏波のマイクロ波が乱れるという問題を有する。このため、管軸を挟んで対向する開口間の領域においては、少しでも多くの平坦な領域を確保することが好ましい。このように、開口間の領域を平坦な領域とすることにより、開口から放射されるマイクロ波が乱れの少ない綺麗な円偏波となり、前述の吸い出し効果も高くなる。従って、図11に示した導波構造部8の中心線Vを挟んで対向する第1開口14aにおいては、結合部7の接合部分に近い開口間の領域が、広く平板な形状に形成されているため、それぞれの第1開口14aから好ましい円偏波が放射されると共に、吸い出し効果も高くなり、加熱室の中央領域に食品が配置された場合でも、第1開口14aからの放射を増やすことが可能な構成となる。
上記のように、実施の形態1における導波管構造アンテナの導波構造部8においては、管軸(V)を間にして対向する2つの第1開口14a,14aの開口形状において、結合部7に近い対向する開口間の距離(X+X)が、結合軸7から遠い、即ち先端開放部13に近い対向する開口間の距離(Y+Y)より長く形成されている。実施の形態1における導波構造部8においては、2つの長孔が交差する第1開口14aにおいて、交差する位置から結合部7に近づく方向に延びる開口の長さ(A)が、交差する位置から結合部7に近づく方向以外の方向に延びる開口の長さ(B,C,D)に比べて短く形成されている。
なお、管軸(中心線V)を間にして対向する第1開口14aの開口形状において、対向する開口間の距離が導波管構造の導波構造部8内の空間内を伝送するマイクロ波の1/8波長以上に設定されている。発明者の実験によれば、対向する開口間の距離を導波管構造の空間内を伝送するマイクロ波の1/8波長より短くした場合には、対向する開口からのマイクロ波放射による干渉が生じて、不均一な加熱分布が生じていた。発明者の実験によれば、対向する開口間の距離は、結合軸7aの軸径(18mm)に略一致した長さのとき、好ましい加熱分布の結果を得られた。
なお、第2開口14bに関しては、二本の同じ長さを有する長孔をそれぞれの中心で直交させたX字形状を有しており、それぞれの長孔の長軸が伝送方向の中心線Vに対して45度斜行している。実施の形態1においては、第2開口14bを構成するそれぞれの長孔の長軸の長さは、第3長さC及び第4長さDとほぼ同じ長さに設定されており、導波構造部8を伝送するマイクロ波の略1/4波長に設定されている。
また、実施の形態1における導波管構造アンテナのマイクロ波吸出し開口14においては、電界の集中を緩和し、異常な放電の発生を防止するために、曲面構造を有している。
実施の形態1の電子レンジにおける導波管構造アンテナにおいては、結合部7と導波構造部8との接合を管軸方向(伝送方向)が短く、幅方向が長いフランジ7bを用いた例で説明したが、本開示はこの構成に限定されるものではなく、マイクロ波加熱装置の仕様などに応じて変更可能である。例えば、結合部7のフランジ部分における伝送方向の長さを極端に短くし、幅方向のフランジ部分のみで導波構造部に接合(カシメ、スポット溶接)する構成とすれば、接合箇所を少なくすることが可能であり、マイクロ波吸出し開口14の開口形状を結合部7に対してより近接して形成することが可能となる。
また、結合部7のフランジ部分とマイクロ波吸出し開口14とのオーバーラップを避けるため、フランジ部分に開口回避部分(スリット)を形成して、フランジ部分を特殊な形状とすることも可能である。このような特殊な形状のフランジ部分を用いて導波構造部に接合することにより、フランジ部分の接合面積を小さくすることなく、結合部7と導波構造部8との接合状態をより強固なものとすることが可能となり、製品のばらつきを抑えることができる。
なお、結合部7の結合軸7aを円柱形状でなく、その断面をD形状、楕円形状、I形状、または丸棒形状に形成して、フランジ部分の形状を変更してマイクロ波吸出し開口14の開口形状を結合軸7aに対してより近接して形成することも可能である。また、各種断面形状を有する結合軸7aを直接的に導波構造部8に接合してもよい。このように構成することにより、フランジ部分を設けない構成とすることが可能となり、マイクロ波吸出し開口14の形成スペースをさらに確保することができる構成となる。
上記ように構成された本開示に係る実施の形態1のマイクロ波加熱装置である電子レンジにおいては、加熱室内における被加熱物に対する局所的な加熱が可能な構成であるとともに、加熱室内の加熱分布の均一化を図ることが可能な構成となる。本開示に係る実施の形態1の電子レンジにおいては、特に、導波管構造アンテナにおける回転中心の直上の加熱室の中央領域においても効率高く加熱することができるとともに、この中央領域の加熱温度の不均一を抑制することができる構成となる。
なお、実施の形態1においては、マイクロ波吸出し開口が、主として2つの長孔が交差する略X字状を有しており、被加熱物が円偏波のマイクロ波を吸い出す場合について説明したが、本開示のマイクロ波加熱装置としては、このような場合に限定されるものではない。マイクロ波吸出し開口の形状としては、略X字状以外であってもよく、円偏波を発生させることができる形状であればよい。また、マイクロ波吸出し開口を構成する長孔(あるいはスリット)としては、長方形に限定されるものではない。例えば、開口形状のコーナー部分を湾曲させるとか、楕円形状にするなどの場合であっても、円偏波を発生することが可能である。基本的な円偏波開口の考え方としては、管軸の一方に偏って配置された概ね細長い形状のものを2つ組み合わせればよいと推察される。
また、円偏波開口形状としては、電界の集中を抑制するために、曲線で構成することが好ましく、実施の形態1の電子レンジにおける第1開口14a及び第2開口14bにおいては全てのコーナー部分を曲線で構成している。
なお、実施の形態1においては、導波管構造である導波構造部8の上壁面9における結合部7の直上部分に凹部9aを形成した例について説明したが、本発明においては、このような構成に限定されるものではない。例えば、導波管構造における開口から放射されたマイクロ波の伝搬状況等を考慮して、マイクロ波吸出し開口(14)より当該導波構造部の回転中心側の位置に段差領域を形成してもよい。具体的な段差領域としては、少なくとも、マイクロ波吸出し開口(14)より導波構造部(8)の回転中心側の位置に、マイクロ波吸出し開口(14)からマイクロ波を放射する外面に形成された凹みである凹部(9a)で構成してもよく、及び/又はマイクロ波吸出し開口からマイクロ波を放射する内面に形成された突出部である凸部で構成してもよい。このように、導波管構造の上壁面(9)における所望の位置に段差領域を形成して、加熱室における被加熱物に対する均一加熱を図ることが可能である。また、導波管構造内のマイクロ波伝送空間におけるマイクロ波伝送状態を考慮して、導波管構造内の所望の位置に上記のような段差領域(凸部)を形成して、導波管構造における開口から効率の高いマイクロ波放射を行い、加熱室内における温度分布の均一化を図る構成とすることも可能である。
以上のように、本開示のマイクロ波加熱装置においては、加熱室内の被加熱物に対して導波管構造アンテナを用いることにより局所的な加熱を行うことができると共に、加熱室のいずれの領域に載置された被加熱物に対して均一的な加熱を行うことも可能であり、加熱性能の大幅な向上を図ることができる。このため、本開示は、被加熱物に対する加熱加工及び殺菌処理などを行うマイクロ波加熱装置として用いる場合においても有効に利用することができる。
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。