以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔インクジェット記録装置〕
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の一例を示す要部概略構成図であり、インクジェットヘッドを一部断面で示している。
インクジェット記録装置100は、図示しない搬送手段によって一定方向(副走査方向)に搬送される記録媒体上に、インクジェットヘッド1から流体であるインクを吐出して画像を記録する。いわゆるワンパス方式のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッド1は固定して配置され、記録媒体が搬送される過程で、吐出ノズルから記録媒体に向けてインクを吐出する。また、いわゆるスキャン方式のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッド1は、図示しないキャリッジに搭載され、該キャリッジが副走査方向に直交する主走査方向に沿って移動する過程で、吐出ノズルから記録媒体に向けてインクを吐出する。本実施形態に示すインクジェット記録装置100では、水平方向に走査を行い、吐出ノズルからのインク吐出方向が鉛直方向下向きとなるようにインクジェットヘッド1が設置されている。
図1では、1つのインクジェットヘッド1のみを示しているが、一般にインクジェット記録装置100には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、K(ブラック)等の各色インク用の複数のインクジェットヘッド1が搭載される。本実施形態に示すインクジェット記録装置100においては、インクを貯蔵するインクタンク101とインクジェットヘッド1のインク貯留室41とが、インク移送管102及びインク返送管103によって連通されている。
インク移送管102の途中には、インクジェット記録装置100の制御部104によって駆動制御される移送ポンプ105が設けられている。この移送ポンプ105が駆動することにより、インクタンク101内のインクが、インク移送管102を介してインクジェットヘッド1に移送される。また、移送ポンプ105が駆動することにより、インクジェットヘッド1内のインクが、インク返送管103を介してインクタンク101に戻される。このインクジェット記録装置100において、インク移送管102、制御部104及び移送ポンプ105は、インクタンク101内のインクをインクジェットヘッド1に移送するインク移送部を構成している。
インクタンク101は、格別限定されないが、タンクの底面に到達しない仕切り板101aによって、インク移送室101bとインク返送室101cとに仕切ることが好ましい。この場合、インク移送室101b内にインク移送管102の一端部を配置し、また、インク返送室101c内にインク返送管103の一端部を配置する。仕切り板101aは、インク返送室101cに返送されてきたインクに含まれる気泡が再度インク移送管102に流入しないように、インクを十分に脱気するために設けられる。気泡自体は浮力が高いので、気泡が仕切り板101aの下側を通過してインク移送室101bに流入することが制限される。このような態様は、インクを循環使用する場合に好ましい態様である。
〔インクジェットヘッド〕
次に、図1に示した本発明に係るインクジェットヘッド1の具体的構成について説明する。
本発明は、例えばシアーモード(エッジ(エンド)シュータ、サイドシュータ)型、ベンドモード型、いわゆるMEMS型など各種のインクジェットヘッドに適用することができ、すなわち、本発明に係るインクジェットヘッドは、これら各種のインクジェットヘッドとして構成することができる。
本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、シアーモードヘッドとして構成したものである。このインクジェットヘッド1は、インク吐出面1Sが鉛直方向下側に向くように設置されて使用される。なお、本明細書において、「上」及び「下」は、「鉛直方向上側」及び「鉛直方向下側」を意味し、図1に示す使用状態の側面図における上側及び下側に対応する。
インクジェットヘッド1は、図1に示すように、インク貯留室41を構成するインクマニホールド4と、このインクマニホールド4に接着された配線基板3と、配線基板3を挟んでインクマニホールド4の反対側の面(下面)に接着されたアクチュエータ部材2とを有して構成されている。
配線基板3は、例えばガラス基板である。インクマニホールド4は、合成樹脂等によって、下面に開口部4aを有する横長の箱型に形成されている。このインクマニホールド4は、下面に接着された配線基板3によって、開口部4aを塞がれている。インクマニホールド4の内部空間は、インクタンク101から供給されるインクが貯留されるインク貯留室41となる。
アクチュエータ部材2には、複数の圧力室(インクチャネル)23及び複数の擬似圧力室(ダミーチャネル)25が形成されている。圧力室23は、注入孔31aを介してインク貯留室41に連通しており、配線基板3を介して電圧を印加すると容積変動を生ずる。擬似圧力室25は、圧力室23を挟んで両隣に位置し、圧力室23の容積変動により容積変動を生ずる。
図2は、このインクジェットヘッドにおけるインクの流路を示す流路図である。
インク貯留室41には、図1及び図2に示すように、このインク貯留室41内にインクを供給する流路をなすインク供給管5aが連設されている。このインク供給管5aは、圧力室(インクチャネル)23から遠い側(上側)において、インク貯留室41に連通されている。このインク供給管5aの上端側には、接続部7aが設けられている。この接続部7aは、インクジェット記録装置100側の接続部106aに着脱可能に接続される。インクジェット記録装置100側の接続部106aは、インク移送管102に連通している。これにより、インクジェットヘッド1は、インクジェット記録装置100からのインクの移送が可能となる。
また、インク貯留室41には、このインク貯留室41内からインクを回収する流路をなすインク回収管5bが連設されている。このインク回収管5bは、圧力室23から遠い側(上側)において、インク貯留室41に連通されている。このインク回収管5bの上端側には、接続部7bが設けられている。この接続部7bは、インクジェット記録装置100側の接続部106bに着脱可能に接続される。インクジェット記録装置100側の接続部106bは、インク返送管103に連通している。これにより、インクジェットヘッド1は、インクジェット記録装置100へのインクの返送が可能となる。
このインクジェットヘッド1において、インク供給管5aから、インク回収管5bの途中の後述するバッファ空間部6に至る流路が、主流路F1となる。
インク供給管5aとインク回収管5bとは、インク貯留室41の長手方向の両端部に離して配置することが好ましい。本実施形態におけるインク供給管5aは、インクマニホールド4の上面における図1中の左側の端部に配置され、また、インク回収管5bは、インクマニホールド4の上面における図1中の右側の端部に配置されている。これにより、インク供給管5aからインク貯留室41に供給されたインクを、インク回収管5bに向けて、インク貯留室41内の全体に亘って流すことができる。従って、インク貯留室41内にインクが滞留する部位が形成されにくく、インク中の気泡をより効率良く排除することができる。
インクマニホールド4内には、インク貯留室41に隣接して、インク排出室412が設けられている。このインク排出室412は、インク貯留室41に対しては、隔壁45によって分離されている。この隔壁45は、インクマニホールド4に一体的に形成することができる。
図3は、図1に示すインクジェットヘッドのアクチュエータ部材の斜視図である。
図4は、図1に示すインクジェットヘッドのアクチュエータ部材の分解斜視図である。
図5は、図1に示すインクジェットヘッドのアクチュエータ部材の拡大断面図である。
前述したように、アクチュエータ部材2には、図3〜図5に示すように、複数の圧力室23及び複数の擬似圧力室25が形成されている。圧力室23は、一対の圧電素子(駆動壁)24,24により構成されている。圧電素子24,24は、一つの圧力室23あたり2枚(一対)が設けられており、各圧力室23それぞれの両壁部をなしている。一の圧力室23を構成する圧電素子24と、隣接する圧力室23を構成する圧電素子24との間には空隙があり、この空隙が擬似圧力室25である。したがって、各圧力室23は独立して駆動(膨張又は収縮)することができる。そして、配線基板3には、各圧電素子24に給電するための図示しない配線が形成されている。
各圧力室23は、配線基板3に形成された注入孔31aを介してインク貯留室41に連通している。インク貯留室41内の流体であるインクは、注入孔31aを介して、各圧力室23に注入される。各圧力室23は、圧電素子24への電圧の印加によって容積変動を生ずる。また、アクチュエータ部材2において、配線基板3の反対側の面(下面)には、各圧力室23に対応された複数の吐出ノズル22が設けられたノズルプレート21が接着されている。吐出ノズル22は、圧力室23を外部(下方)に連通させている。ノズルプレート21の下面部がインク吐出面1Sとなる。各圧力室23内のインクは、圧電素子24の作用によって吐出圧力を付与され、吐出ノズル22を通って外部(下方)の記録媒体に向けて吐出される。
圧力室23内のインクに吐出圧力を付与するための具体的な手段は問わず、公知の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、図5に示すように、隣り合う圧力室23,23は、圧電素子24及び疑似圧力室25によって隔てられている。圧電素子24は、圧力室23内に臨む面に形成された図示しない駆動電極に、例えば制御部104から配線基板3に形成された図示しない配線を経て所定電圧の駆動電圧が印加されることによって、せん断変形する。圧力室23の両側の圧電素子24、24がせん断変形することにより、圧力室23内は膨張又は収縮する。これにより、圧力室23内のインクに圧力が付与され、吐出ノズル22を通ってインクが吐出される。
アクチュエータ部材2に形成される圧力室23は、その数は特に問わない。本実施形態に示すアクチュエータ部材2は、複数の圧力室23が、アクチュエータ部材2の長手方向である図3乃至図5中X方向に沿う複数列に配列されている。
そして、圧力室23と擬似圧力室25とは、図4及び図5に示すように、導入路26によって連通されている。この導入路26は、圧力室24内のインクを擬似圧力室25に導く。本実施形態において、導入路26は、ノズルプレート21の上面に各圧力室23に対応して形成され隣接する擬似圧力室25に達する溝であり、このノズルプレート21がアクチュエータ部材2に取付けられることにより、流路を構成している。
なお、導入路26は、各圧力室23から両隣の2つの擬似圧力室25、25に達するように形成してもよい。
また、図4及び図5に示すように、各擬似圧力室25の側方に位置して、個別連通路422が形成されている。これら個別連通路422は、アクチュエータ部材2に形成されている。これら個別連通路422は、共通流路421に連通して合流している。この共通流路421は、アクチュエータ部材2の側面に、圧力室23の配列方向(X方向)に刻設された溝であり、アクチュエータ部材2の側面に閉蓋部材27が取付けられることにより、流路を構成している。この共通流路421の端部は、アクチュエータ部材2に形成された排出チャネル424に連通されている。この排出チャネル424は、アクチュエータ部材2の長手方向一端側に形成され、インク排出室412の下方に位置している。このようにして、注入孔31aから導入路26を経て擬似圧力室25までの空間は、排出チャネル424に連通されている。
注入孔31aから圧力室23に注入されたインクの一部は、図4及び図5に示すように、導入路26を経て擬似圧力室25に至り、さらに、個別連通路422を経て、共通流路421に至る。そして、共通流路421に至ったインクは、排出チャネル424を経て、配線基板3に形成された排出孔31bを通って、インク排出室412に至る。
このインクジェットヘッド1においては、アクチュエータ部材2に設けられた個別連通路422及び共通流路421がヘッド内のインク流路となり、このインク流路を流れるインクを介して、発熱源である配線基板3及びアクチュエータ部材2が発する熱を放熱することができる。そのため、圧電素子24と吐出ノズル22とが接近していても、圧電素子24が発する熱による吐出ノズル22内のインクの粘度低下がなく、正常な吐出動作を確保することができる。
なお、このインクジェットヘッド1においては、各圧力室23内から各擬似圧力室25、各個別連通路422及び共通流路421を経てインク排出室412に至る流路が形成されていることを考慮して、この条件において吐出ノズル22からのメニスカスブレイクが生じないように、移送ポンプ105が与える圧力等の条件が決定される。
そして、図1及び図2に示すように、インク排出室412には、このインク排出室412内からインクを排出する流路をなすインク排出管5cが連設されている。このインク排出管5cの上端側は、インク回収管5bに合流している。インク回収管5bとインク排出管5cとは、合流箱61に接続されることによって合流している。
合流箱61は、合成樹脂材料や金属材料から一体的に構成されており、内部にバッファ空間部6が形成されている。合流箱61の外面には、バッファ空間部6に至る第1乃至第3の開口部48a,48b,48cが形成されている。第1の開口部48aからバッファ空間部6を経て第3の開口部48cに至る流路は、インク回収管5bの中途部に介在されている。実装状態としては、インク回収管5bを中途部において上流側及び下流側に分け、上流側を第1の開口部48aに接続させ、下流側を第3の開口部48cに接続させることになる。そして、第2の開口部48bには、インク排出管5cを接続させる。
このインクジェットヘッド1において、導入路26から、個別連通路422、共通流路421、排出チャネル424、排出孔31b、インク排出室412及びインク排出管5cを経て、バッファ空間部6に至る流路が、排出路423となる。この排出路423は、圧力室23に連通し、この圧力室23内のインクを排出させ、バッファ空間部6においてインク回収管5bに合流させる流路である。そして、各注入孔31aを経て、排出路423(導入路26からバッファ空間部6への入口)までが、副流路F2となる。
本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、インク回収管5b及びインク排出管5cが合流箱61によって合流されているため、インクジェット記録装置100側の配管等との接続部位は、インク供給管5a(接続部7a)及びインク回収管5b(接続部7b)の2箇所のみで済む。従って、本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、循環機構を備えた一般的なインクジェット記録装置のインクジェットヘッドとの互換性があり、接続部位の数が増加せず、接続作業が煩雑化することがない。
ところで、排出路423は各圧力室23に対応した導入路26及び各擬似圧力室25に対応した個別連通路422の全てを通過する流路として構成されているため、圧力室23の高密度化に伴い、排出路423全体の流路抵抗は大きくなっている。従って、インク排出管5cをインク回収管5bに合流させても、インク供給管5aからインク回収管5bを経る主流路F1の流量が多く、各注入孔31aから排出路423に至る副流路F2の流量が少ないために、これらが円滑に合流しないことが考えられる。このインクジェットヘッド1においては、主流路F1と副流路F2との合流(インク排出管5cとインク回収管5bとの合流)を、バッファ空間部6において行うことにより、これら主流路F1及び副流路F2の流量が異なっても、円滑に合流させることができる。
上述のようなインクジェットヘッド1及びこれを備えたインクジェット記録装置100によれば、インク供給管5aからインクを供給するだけで、発熱源である配線基板3及びアクチュエータ部材2が発する熱を放熱することができる。また、インク貯留室41内の残留気泡を主流路F1を経てインク回収管5bから排出させるのみならず、吐出ノズル22から引き込まれた圧力室23近傍の気泡をも、副流路F2を経てインク排出管5cから迅速に排出させることができる。よって、インクマニホールド4内の全体(インク貯留室41内及び圧力室23の近傍)の放熱及び残留気泡除去を効率的に行うことができる。また、沈降し易い粒子や顔料等が含まれているインクを使用する場合でも、画像記録中の各個別連通路422及び共通流路421における粒子や顔料等の沈降を効果的に抑制して、インクの濃度偏差を抑制することができる。
〔導入路の他の実施形態〕
図6は、図1に示すインクジェットヘッドの導入路の他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、導入路26は、図6に示すように、アクチュエータ部材2とノズルプレート21との間に板状のスペーサ部材として流路プレート33を介在させ、この流路プレート33の上面に形成した溝によって構成してもよい。この場合には、アクチュエータ部材2の下面に流路プレート33が接着されることにより、導入路26が構成される。ノズルプレート21は、この流路プレート33の下面に接着される。流路プレート33には、各吐出ノズル22に対応した透孔が穿設されている。
流路プレート33の材料としては、ガラス、シリコン、ステンレス、ポリイミド樹脂等を好ましく挙げることができる。価格の点(安価であること)では、ガラス、ステンレス、ポリイミドが優れており、加工の容易性では、ステンレス、ポリイミドが優れており、加工精度では、シリコンが優れており、化学的安定性では、ガラス、ポリイミドが優れている。
なお、この場合において、後述するように、個別連通路422及び共通流路421を圧力室23及び擬似圧力室25の下方に設ける態様では、これら個別連通路422及び共通流路421は、流路プレート33の上面に形成した溝によって構成することができる。この場合には、アクチュエータ部材2の下面に流路プレート33が接着されることにより、個別連通路422及び共通流路421が構成される。
図7は、図1に示すインクジェットヘッドの導入路のさらに他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、導入路26は、図7に示すように、各圧力室23に対応して圧電素子24に設けてもよい。この導入路26は、各圧力室23に対応してアクチュエータ部材2の上面に形成された溝であり、アクチュエータ部材2上に配線基板3が重ねられることにより、流路を構成している。この導入路26も、圧力室24内のインクを擬似圧力室25に導くことができる。
なお、導入路26は、各圧力室23の両隣の2つの擬似圧力室25、25との間の圧電素子24のそれぞれに形成してもよい。
図8は、図1に示すインクジェットヘッドの導入路のさらに他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、導入路26は、図8に示すように、各圧力室23に対応して配線基板3に設けてもよい。この導入路26は、各圧力室23に対応して配線基板3の下面に形成された溝であり、アクチュエータ部材2上に配線基板3が重ねられることにより、流路を構成している。この導入路26は、注入孔31aから圧力室24に注入されたインクの一部を擬似圧力室25に導くことができる。
なお、導入路26は、各圧力室23から両隣の2つの擬似圧力室25、25に達するように形成してもよい。
図9は、図1に示すインクジェットヘッドの導入路のさらに他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、導入路26は、図9に示すように、各擬似圧力室25に対応して配線基板3に設けた透孔としてもよい。この場合には、インク貯留室41内のインクは、圧力室23へ注入される経路とは別に、導入路26を経て直接擬似圧力室25に導入される。
なお、この場合には、各圧力室23は、各擬似圧力室25と同様に、個別連通路425を介して共通流路421に連通させ、圧力室23内のインクがインク排出室412に排出されるようにすることが好ましい。
〔個別連通路及び共通流路の他の実施形態〕
図10は、図1に示すインクジェットヘッドの個別連通路の他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、個別連通路422及び共通流路421は、図10に示すように、配線基板3の下面に形成した溝によって構成してもよい。この場合には、アクチュエータ部材2上に配線基板3が重ねられることにより、個別連通路422及び共通流路421が構成される。
この場合にも、各擬似圧力室25内のインクは、個別連通路422を経て、共通流路421に至って合流し、排出チャネル424及び排出孔31bを経て、インク排出室412に至る。
図11は、図1に示すインクジェットヘッドの個別連通路のさらに他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、個別連通路422及び共通流路421は、図11に示すように、ノズルプレート21の上面に形成した溝によって構成してもよい。この場合には、アクチュエータ部材2の下面にノズルプレート21が接着されることにより、個別連通路422及び共通流路421が構成される。
この場合にも、各擬似圧力室25内のインクは、個別連通路422を経て、共通流路421に至って合流し、排出チャネル424及び排出孔31bを経て、インク排出室412に至る。
また、このインクジェットヘッド1においては、前述したように、個別連通路422及び共通流路421は、図6に示すように、アクチュエータ部材2とノズルプレート21との間に流路プレート33を介在させ、この流路プレート33の上面に形成した溝によって構成してもよい。この場合には、アクチュエータ部材2の下面に流路プレート33が接着されることにより、個別連通路422及び共通流路421が構成される。ノズルプレート21は、この流路プレート33の下面に接着される。
なお、前述した導入路26の各実施形態と、個別連通路422及び共通流路421の各実施形態とは、任意に組合せてインクジェットヘッド1を構成することが可能である。
〔アクチュエータ部材の他の実施形態〕
図12は、図1に示すインクジェットヘッドのアクチュエータ部材の他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、擬似圧力室25のうちの少なくとも一つは、図12に示すように、流体が流入しない閉塞された空間をなす空気室34としてもよい。すなわち、アクチュエータ部材2において、前述した擬似圧力室25のうちの少なくとも一つは、導入路26及び共通流路421に連通されない空気室34とすることができる。この実施形態において、空気室34は、各圧力室23及び各擬似圧力室25の間に、圧力室23の数と同数が設けられている。すなわち、「擬似圧力室25−空気室34−圧力室23」を一単位としてこれが繰り返される配列となっている。
空気室34と圧力室23との間は、圧電素子24によって隔てられている。空気室34と擬似圧力室25との間を隔てる壁面35は、変形させる必要がないので圧電素子24である必要はない。ただし、この壁面35は、圧電素子24と同一の材料により圧電素子24と一体的に形成しておき、電圧を印加しないようにすればよい。
この空気室34は、上方を配線基板3により閉蓋され、下方をノズルプレート21により閉蓋されている。この空気室34は、導入路26にも共通流路421にも連通されていないので、閉鎖された空間である。
なお、空気室34は、圧力室23の数の2倍の数を、各圧力室23及び各擬似圧力室25の間に設けてもよい。すなわち、「擬似圧力室25−空気室34−圧力室23−空気室34」を一単位としてこれを繰り返す配列としてもよい。
このように空気室34を設けることにより、前述した各実施形態に比較して、解像度は劣るが各圧力室23の駆動によるクロストークを減少させることができ、圧力室23の駆動効率を高くすることができる。
このように空気室34を設けた場合についても、導入路26、個別連通路422及び共通流路421については、前述した導入路26の各実施形態と、個別連通路422及び共通流路421の各実施形態とを任意に組合せて適用し、インクジェットヘッド1を構成することが可能である。
〔アクチュエータ部材のさらに他の実施形態〕
図13は、図1に示すインクジェットヘッドのアクチュエータ部材のさらに他の例を示す拡大断面図である。図1と同一符号の部位は同一機能の部位であるため、これらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
このインクジェットヘッド1において、アクチュエータ部材2は、図13に示すように、擬似圧力室25にインクではない流体(液体又は気体)が供給されるように構成してもよい。この流体は、熱媒体(冷媒又は加温媒体)であることが好ましい。
すなわち、擬似圧力室25には、共通供給路29及び個別供給路30からなる供給路28を介して、インクではない流体が供給される。各擬似圧力室25には、個別供給路30が連通している。各個別供給路30は、共通供給路29に連通しており、共通供給路29から分岐したものである。これら共通供給路29及び個別供給路30は、前述した個別連通路422及び共通流路421と同様の構造となっている。
また、擬似圧力室25からは、個別連通路33及び共通流路32を介して、インクではない流体が排出される。各擬似圧力室25には、個別連通路33が連通している。各個別連通路33は、共通流路32に連通し、合流している。これら共通供給路32及び個別供給路33は、前述した個別連通路422及び共通流路421と同様の構造となっている。
擬似圧力室25に供給されるインクではない流体は、インクとは別の図示しない循環機構により、擬似圧力室25に供給され、擬似圧力室25から排出される。すなわち、インクではない流体は、図示しない流体タンクからポンプにより共通供給路29及び個別供給路30を経て、擬似圧力室25に供給される。擬似圧力室25に供給されたインクではない流体は、ポンプによる供給圧力によって、個別連通路33から排出され共通流路32を経て流体タンクに戻される。
なお、擬似圧力室25に連通する個別供給路30及び共通供給路29と、個別連通路33及び共通流路32とには、インクではない流体について、前述した個別連通路422及び共通流路421の各実施形態における構造を任意に組合せて適用することが可能である。
圧力室23内のインクは、前述した個別連通路422及び共通流路421を介して排出される。この実施形態においては、各圧力室23には、個別連通路422が連通している。各個別連通路422は、共通流路421に連通し、合流している。これら個別連通路422及び共通流路421は、前述した各実施形態における個別連通路422及び共通流路421と同様の構造となっている。すなわち、圧力室23には、インクについて、前述した個別連通路422及び共通流路421の各実施形態を適用することが可能である。
このインクジェットヘッド1においては、アクチュエータ部材2に設けられた共通供給路29、個別供給路30、個別連通路33及び共通流路32がヘッド内の流体流路となり、この流体流路を流れる流体を介して、発熱源である配線基板3及びアクチュエータ部材2が発する熱を放熱することができる。また、必要に応じて、流体流路を流れる流体を介して、配線基板3及びアクチュエータ部材2を加温することもできる。
〔圧力損失調整手段〕
このインクジェットヘッド1には、主流路F1の流路抵抗と副流路F2の流路抵抗との相対関係を調整する圧力損失調整手段を設けてもよい。
この圧力損失調整手段は、主流路F1と副流路F2との流路抵抗の差に相当する圧力損失ΔPを、主流路F1に付与する。または、圧力損失調整手段は、副流路F2の流路抵抗を減らして、主流路F1の流路抵抗に相当するものにする。
副流路F2の流路抵抗は、全ての注入孔31a、全ての個別連通路422及び共通流路421を含む排出路423全体における流路径、流路長、屈曲部の数、流速などによって決まる流路抵抗である。これら個別連通路422及び共通流路421は、流路径が極めて細いうえに流路長が長いので、大きな流路抵抗を生じさせている。
このインクジェットヘッド1においては、圧力損失調整手段により、主流路F1の流路抵抗と、副流路F2の流路抵抗とを均衡させることにより、インク供給管5a内のインク圧力P0によって、容易に主流路F1及び副流路F2の両方に均等にインクを流すことができる。
圧力損失調整手段の一例を図14に示す。図14は、圧力損失調整手段の一例が設けられたインク回収管5bを一部破断した状態を示す斜視図である。
圧力損失調整手段としては、例えば、図14に示すように、インク回収管5bの流路断面積を部分的に狭める流量調整部材9を用いることができる。この流量調整部材9は、インク回収管5b内に保持され、インク回収管5bの内径を部分的に狭くする部材である。本実施形態の流量調整部材9は、インク回収管5bの内壁に沿う円筒部95と、この円筒部95の一端部を閉蓋する円盤部96とを有して一体的に構成されている。円盤部96の中央部には、流路孔94が形成されている。この流量調整部材9が配置された部位におけるインク回収管5bの流路は、この流路孔94のみとなる。従って、流量調整部材9は、この流路孔94によってインク回収管5bの流路断面積を部分的に狭め、インク回収管5b内を流れるインクの圧力を損失させる。
流量調整部材9の材質は特に限定されないが、インクの非浸透性、インク回収管5bへの挿入し易さ及びインクに対する耐腐食性に優れるステンレス等の金属、セラミックス、合成樹脂が挙げられる。
なお、流量調整部材9の流路孔94内の流路長を短くすることにより、流路孔94内に気泡が入ったときの流路抵抗の変動を抑え、流速のばらつきを抑えることができる。図12に示した流量調整部材9の流路孔94内の流路長は、例えば0.5mm程度である。流路孔94内の流路長を0.5mm程度にすることにより、気泡による流路抵抗の変動を抑えることができる。
この流量調整部材9によって付与される圧力損失ΔPは、主流路F1と副流路F2との流路抵抗の差に相当する圧力損失ΔPであり、流路孔94の内径によって調整される。この圧力損失ΔPにより、主流路F1の流路抵抗と、副流路F2の流路抵抗とが均衡される。すなわち、インク供給管5a内のインク圧力P0は、主流路F1のバッファ空間部6の直前において圧力P1に減圧され、副流路F2のバッファ空間部6の直前における圧力P2にほぼ等しいものとなる。また、インク供給管5a内のインク圧力P0は、移送ポンプ105が与える圧力にほぼ等しい。副流路F2の圧力P2は、吐出ノズル22からのメニスカスブレイクが生じないように、メニスカスブレイクが生じる圧力Pxより小さく設定される。
なお、以下の場合に限定されないことは言うまでもないが、例えば、P0=−2kPaとした場合に、P2=−12kPaとなるように合流後の減圧を実施し、P1=−12kPaとなるような圧力損失ΔP(流路構成によるが、例えば10kPa)を与えることにより、主流路F1の流路抵抗と副流路F2の流路抵抗とが均衡し、主流路F1及び副流路F2の両方に均等にインクを流しつつ循環をさせることができる。すなわち、〔P1=(P0−ΔP)=P2<Px〕となる。この結果、インク供給管5a内のインク圧力P0によって、主流路F1及び副流路F2の両方に均等にインクを流すことができる。ここで、主流路F1の流路抵抗と副流路F2の流路抵抗とが均衡するとは、圧力P1と圧力P2とがほぼ等しい(±10%)ことを示す。
なお、インク圧力P0は、インク供給管5aにT字分岐を設け、分岐させた先においてマノメータにより測定することができる。圧力P1は、インク回収管5b(流量調整部材9より下流、バッファ空間部6より上流)にT字分岐を設け、分岐させた先においてマノメータにより測定することができる。圧力P2は、インク排出管5c(バッファ空間部6より上流)にT字分岐を設け、分岐させた先においてマノメータにより測定することができる。
流量調整部材9の流路孔94の具体的な内径は、個別連通路422及び共通流路421などの圧力損失要素による圧力損失を考慮して、インク回収管5bの圧力損失が所望の圧力損失となるように適宜調整される。流量調整部材9の流路孔94の内径を調整すれば、主流路F1及び副流路F2の両方に均等にインクを流すことができる。これにより、インク貯留室41内(主流路F1)と、各圧力室23内、個別連通路422及び共通流路421内(副流路F2)とに、迅速にインクを貯留させることができるため、特にインクの初期導入の際に好ましい。
なお、流量調整部材9の流路孔94の内径を調整することにより、インク回収管5bから回収されるインク流量(主流路F1)と、各個別連通路422及び共通流路421を経てインク排出管5cから排出されるインク流量(副流路F2)とを異ならせることもできる。例えば、流量調整部材9の流路抵抗を高くして、インク回収管5bから回収されるインク流量(主流路F1)よりも、各個別連通路422及び共通流路421を経てインク排出管5cから排出されるインク流量(副流路F2)の方を多くする(副流路F2の流速を上げる)ことにより、圧力室23回りに付着した取り除きにくい気泡もより容易に除去することができる。また、逆に、流量調整部材9の流路抵抗を低くして、副流路F2よりも主流路F1の方の流量を多くする(主流路F1の流速を上げる)こともできる。この場合には、主流路F1内の特に天井面や角部に付着した気泡を容易に除去することができる。また、この場合には、インクマニホールド4内に圧力室22の上方に位置するダンパー部材(MF(Manifold)ダンパー部材)を設けた場合にも、このダンパー部材回りに残留し易い気泡を容易に除去することができる。
この流量調整部材9は、合流箱61内に設けてもよい。流量調整部材9を予め合流箱61内に保持させておけば、この合流箱61をインク回収管5bに介在接続させるだけで、インク回収管5bに所望の圧力損失を付与することができる。また、流量調整部材9を変更、交換したいときには、合流箱61ごと交換することができ、迅速、容易な交換を行うことができる。さらに、流量調整部材9の近傍に夾雑物が付着して汚損してしまった場合等にも、合流箱61を交換することにより、迅速、容易に清冽な状態とすることができる。
インク排出管5cには、図1及び図2に示すように、逆止弁8を設けてもよい。この逆止弁8は、インク排出室412からバッファ空間部6に向けたインクの流出を許容し、その逆方向のインクの流れを阻止するように機能する。例えば、インク中に含まれる夾雑物によって各個別連通路422及び共通流路421が目詰まりし、副流路F2の圧力P2が下がると、インク貯留室41内の主流路F1の圧力P1との間に圧力差が生じる。この場合に、インク回収管5bから回収されたインクが、バッファ空間部6を経てインク排出管5cに逆流する虞がある。インク排出管5cに逆止弁8を設けることにより、インクの逆流によって各個別連通路422及び共通流路421に気泡や夾雑物が戻ることを防止することができる。
なお、この逆止弁8も圧力損失要素の一つであるため、逆止弁のクラッキング圧力(開弁圧)は低いほうがよく、吐出ノズル22からのメニスカスブレイクが生じる圧力Px(例えば5kPa程度)よりも低いことが必要である。また、吐出ノズル22からのメニスカスブレイクを確実に防止するには、移送ポンプ105による加圧をせずに、インク返送管103に(インク回収管5bと排出路423とのバッファ空間部6よりも下流側に)吸引ポンプを設け、この吸引ポンプが生じさせる負圧のみによりインクを循環させるようにしてもよい。
前述のように、インク供給管内のインク圧力をP0(図2参照)、主流路F1の圧力をP1、副流路F2の圧力をP2、副流路F2における圧力損失をΔP、吐出ノズル22からのメニスカスブレイクが生じる圧力をPxとすると、〔P1=(P0−ΔP)=P2<Px〕である。ここで、排出チャネル424からインク排出室412に流入する流れF3の圧力をP3とすると、〔P3<P2=P1=(P0−ΔP)<Px〕となっている必要がある。流れF3の圧力P3が、副流路F2の圧力P2よりも大きいと、配線基板3に設けられた排出孔31bから圧力室23側にインクが逆流する虞があるからである。
なお、以上説明した実施形態のインクジェット記録装置100においては、インクジェットヘッド1とインクタンク101との間でインクを循環させているが、本発明はこれに限定されない。図示しないが、インク回収管5b及びインク排出管5cから流出したインクを、インクタンク101に戻さずに、廃インクタンクに排出させるように構成してもよい。また、配線基板3及びアクチュエータ部材2を冷却又は加温するためのインクではない流体も、インクジェットヘッド1と流体タンクとの間で循環させているが、これに限定されず、擬似圧力室25から排出した流体を、流体タンクに戻さずに、廃流体タンクに排出させるように構成してもよい。