JP6704845B2 - ダンプトラックの湿式ブレーキ装置 - Google Patents

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Description

本発明は、鉱山等で用いられるダンプトラックに搭載され、走行するダンプトラックに制動力を付与するダンプトラックの湿式ブレーキ装置に関する。
一般に、ダンプトラックと呼ばれる大型の運搬車両は、車体のフレーム上に起伏可能となった荷台(ベッセル)を備え、この荷台に砕石物等の重い荷物を多量に積載した状態で走行するものである。
ダンプトラックの走行駆動装置は、車体に非回転状態で取付けられる筒状のアクスルハウジングと、アクスルハウジングの軸方向両端側に取付けられた筒状のスピンドルと、このスピンドル内を軸方向に伸長して設けられ電動モータ等の駆動源により回転駆動される回転軸と、スピンドルの外周側に軸受を介して回転可能に設けられ外周側に車輪が取付けられた車輪取付筒と、この車輪取付筒とスピンドルとの間に設けられ車輪取付筒に対して前記回転軸の回転を減速して伝える減速歯車機構とを含んで構成されている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、スピンドルと車輪取付筒との間には、車輪(車輪取付筒)の回転に制動力を与える湿式多板型の油圧ブレーキからなる湿式ブレーキ装置が設けられている。この湿式ブレーキ装置は、スピンドルに固定された筒状のブレーキハウジングと、車輪取付筒に固定された筒状のブレーキハブと、ブレーキハブとブレーキハウジングとの間に設けられたブレーキ板収容空間と、ブレーキ板収容空間内に配置されブレーキハブと一体に回転する複数の回転側ブレーキ板と、各回転側ブレーキ板と交互に重なり合った状態でブレーキ板収容空間内に配置された複数の非回転側ブレーキ板と、外部から供給される液圧により駆動され回転側ブレーキ板と非回転側ブレーキ板とを摩擦係合させるブレーキ可動体とを備えている。
ブレーキ板収容空間内には冷却液ポンプから吐出した冷却液が供給され、制動時に摩擦係合する回転側ブレーキ板と非回転側ブレーキ板とは、冷却液によって冷却される構成となっている。この冷却液は、クーラを介して冷却される。湿式ブレーキ装置は、ブレーキハブとブレーキハウジングとの間にシール機構(フローティングシール)が設けられ、このシール機構によって冷却液がブレーキ板収容空間内に封止されている。
特許文献2の従来技術では、回転側ブレーキ板および非回転側ブレーキ板の内周側から外周側に向けて冷却液を流通させる構成とした湿式ブレーキ装置が提案されている。特許文献2の従来技術では、シール機構に掛かる冷却液の圧力P2を、タンク圧に相当する圧力P3にまで低減する構造を開示している。特許文献2の構造では、冷却液ポンプからの冷却液が各ブレーキ板とインナギヤシャフトとの噛合い部に生じた隙間を通過してシール機構側に流出する流路を有し、この流路のうち冷却液が流出した箇所に、シール機構へ繋がる流路とタンク側へ繋がる流路とが接続されている。タンク側へ繋がる流路を設けた事で、冷却液が流出した箇所がタンク圧となり、流出した箇所に繋がるシール機構に対してタンク圧が掛かる。これにより、シール機構に掛かる圧力を低減させ寿命を延ばすことができる。
特開2009−204016号公報 特開2001−193774号公報
しかし、湿式ブレーキ装置の構造は特許文献2の従来技術ばかりでない。構造によっては、タンク側へ繋がる流路とシール機構へ繋がる流路とを接続させることが難しい場合がある。例えば、小型化のためタンク側へ繋がる流路を設ける構造的余裕がない場合や、タンク側へ繋がる流路(溝)を複数設けることでコストが増大する場合が挙げられる。さらに、ダンプトラックでは、冷却液ポンプと各ブレーキ板との間にシール機構へ繋がる流路を設ける場合があり、この構造に特許文献2の構造を適用した場合、各ブレーキ板の上流側でシール機構へ繋がる流路とタンク側へ繋がる流路とが接続されることとなり、冷却液は殆ど各ブレーキ板間を流れず、ブレーキ制動時に発生する熱を冷却液が吸収できなくなる。
冷却液ポンプと各ブレーキ板との間にシール機構へ繋がる流路を設ける場合は、冷却液ポンプからの吐出圧が掛かっても問題ないシール機構を使用する。通常、冷却液ポンプはギヤ式のポンプによって構成されているため、冷却液を吐出する際に吐出圧力に圧力脈動が加わる。特許文献2では、シール機構への圧力がタンク圧となるため、圧力脈動の影響を無視できるが、冷却液ポンプの吐出圧に圧力脈動が加わると脈動の影響を無視できない。即ち、圧力脈動がシール機構に加わると、周期的な圧力変動によりシール機構がエロージョンなどの損傷を受けて劣化することにより、シール機構の耐久性が低下してしまう可能性がある。
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、ブレーキ制動で発生した熱を吸収しつつ、冷却液ポンプの圧力脈動がシール機構に作用するのを抑制し、ブレーキ板収容空間内に冷却液を封止するシール機構の耐久性を高めることができるようにしたダンプトラックの湿式ブレーキ装置を提供することを目的としている。
上述した課題を解決するため、本発明は、ダンプトラックの車体に非回転状態で取付けられた筒状のアクスルハウジングと、前記アクスルハウジングの軸方向両端側にそれぞれ設けられたスピンドルと、前記スピンドルを取囲むように前記スピンドルの外周側に軸受を介して回転可能に設けられ、外周側に車輪が取付けられた車輪取付筒と、前記スピンドルの外周側に非回転状態で設けられた筒状のブレーキハウジングと、前記ブレーキハウジングに対して回転可能に設けられ前記ブレーキハウジングによって径方向外側から取囲まれた円筒状のブレーキハブと、前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間に設けられたブレーキ板収容空間と、該ブレーキ板収容空間内に配置され、前記ブレーキハブと一体に回転する複数の回転側ブレーキ板と、該各回転側ブレーキ板と交互に重なり合った状態で前記ブレーキ板収容空間内に配置された複数の非回転側ブレーキ板と、前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間に設けられた第1の液溜め室内に収容され、前記ブレーキ板収容空間内に充填された冷却液を外部の大気に対して封止する第1シール機構と、前記スピンドルと前記ブレーキハブとの間に設けられた第2の液溜め室内に収容され、前記冷却液を前記車輪取付筒内の潤滑油に対して封止する第2シール機構と、前記冷却液を前記ブレーキ板収容空間内で前記回転側ブレーキ板と非回転側ブレーキ板との間に内径側から外径側にかけて供給する冷却液ポンプと、を備えてなるダンプトラックの湿式ブレーキ装置に適用される。
本発明は、前記第1の液溜め室および前記第2の液溜め室は、前記冷却液の流れ方向において前記回転側ブレーキ板および前記非回転側ブレーキ板よりも上流側に配置され、前記冷却液ポンプから吐出される前記冷却液前記ブレーキ板収容空間へ供給る第1油路と、前記第1油路から分岐し前記冷却液を前記第1の液溜め室内の前記第1シール機構に供給る第2油路と、前記第1油路から分岐し前記冷却液を前記第2の液溜め室内の前記第2シール機構に供給る第3油路とを備え、前記第2油路には前記冷却液の流通を抑制する第1流通抑制構造が設けられ、前記第3油路には前記冷却液の流通を抑制する第2流通抑制構造が設けられていることを特徴としている。
本発明によれば、冷却液ポンプから吐出される冷却液からの圧力脈動を、第1流通抑制構造によって抑えることができる。従って、冷却液の圧力脈動がシール機構に伝わり難くなり、シール機構の耐久性を向上させることができる。
本発明の実施の形態による湿式ブレーキ装置が適用されたダンプトラックを示す外観図である。 ダンプトラックを後方から見た外観図である。 後輪側の走行駆動装置を湿式ブレーキ装置と共に図1中の矢示III−III方向から拡大して見た断面図である。 図3中の湿式ブレーキ装置、シール機構、スピンドルおよび電動モータ等を示す断面図である。 非制動時における湿式ブレーキ装置、シール機構等の要部を拡大して示す拡大断面図である。 制動時における湿式ブレーキ装置、シール機構等を拡大して示す図5と同様位置の拡大断面図である。 ブレーキ可動体とブレーキピストンとを示す分解斜視図である。
以下、本発明の実施の形態によるダンプトラックの湿式ブレーキ装置を、後輪駆動式のダンプトラックに適用した場合を例に挙げ、図1ないし図7に従って詳細に説明する。
図1および図2において、ダンプトラック1は、例えば鉱山等における鉱物の運搬作業に用いられるもので、頑丈なフレーム構造をなす車体2と、車体2上に起伏可能に搭載された荷台(ベッセル)3とを含んで構成されている。荷台3は、鉱物、砕石物等の重い荷物を多量に積載するため全長が10〜13メートルにも及ぶ大型の容器として形成されている。荷台3の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン4を介して起伏(傾転)可能に連結されている。荷台3の前側上部には、前方に張出す庇部3Aが一体に設けられ、この庇部3Aによって後述のキャブ5が上側から覆われている。
キャブ5は、庇部3Aの下側に位置して車体2の前部に設けられ、ダンプトラック1の運転者が乗降する運転室を形成している。キャブ5の内部には、運転席、起動スイッチ、アクセルペダル、ブレーキペダル、操舵用のハンドルおよび複数の操作レバー等(いずれも図示せず)が設けられている。荷台3の庇部3Aは、キャブ5を上側からほぼ完全に覆うことにより、岩石等の飛び石からキャブ5を保護すると共に、ダンプトラック1の転倒時にもキャブ5内の運転者を保護する機能を有している。
左,右の前輪(左側のみ図示)6は、車体2の前部側に回転可能に設けられている。左,右の前輪6は、ダンプトラック1の運転者によってステアリング操作される操舵輪を構成するものである。各前輪6は後述の後輪7と同様に、例えば2〜4メートルに及ぶタイヤ径(外径寸法)をもって形成されている。車体2の前部と各前輪6との間には、油圧緩衝器からなる前輪側サスペンション6Aが設けられている。
左,右の後輪7は、車体2の後部側に回転可能に設けられている。左,右の後輪7は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、図3に示す後述の走行駆動装置11により、車輪取付筒17と一体に回転駆動される。各後輪7は、軸方向の内側および外側に隣接して配置された複輪式タイヤからなる2個のタイヤ(インナタイヤ及びアウタタイヤ)7Aと、各タイヤ7Aの径方向内側に配設されるリム7Bとを含んで構成されている。車体2の後部と各後輪7との間には、油圧緩衝器からなる後輪側サスペンション7Cがそれぞれ設けられている。
エンジン8は、キャブ5の下側に位置して車体2内に設けられている。エンジン8は、例えば大型のディーゼルエンジンにより構成され、車体2に搭載された発電機、油圧源となる油圧ポンプ(いずれも図示せず)を回転駆動する。油圧ポンプから吐出される圧油は、後述のホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
ホイストシリンダ9は、荷台3を起伏させるためのシリンダ装置である。ホイストシリンダ9は、図1に示す如く、前輪6と後輪7との間に位置して車体2の左,右両側にそれぞれ配設されている(左側のみ図示)。これら左,右のホイストシリンダ9は、車体2と荷台3との間に上,下方向で伸縮可能に取付けられている。各ホイストシリンダ9は、前記油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、後部側の連結ピン4を中心にして荷台3を起伏(傾転)させるものである。
作動油タンク10は、荷台3の下方に位置して車体2の側面等に取付けられている。作動油タンク10内に収容された作動油は、前記油圧ポンプにより吸込まれつつ吐出され、圧油となってホイストシリンダ9および前記パワーステアリング用の操舵シリンダ等に給排されるものである。
次に、本実施の形態に用いられる走行駆動装置11について、図3ないし図7を参照しつつ説明する。
走行駆動装置11は、ダンプトラック1の後輪7側に設けられ、この後輪7を回転駆動するものである。走行駆動装置11は、後述のアクスルハウジング12、走行用モータ15、車輪取付筒17および減速歯車機構24を含んで構成されている。走行駆動装置11は、走行用モータ15の回転を減速歯車機構24により減速し、車両の駆動輪となる左,右の後輪7を、車輪取付筒17と一緒に大きな回転トルクで回転駆動するものである。
アクスルハウジング12は、車体2の後部側に非回転状態で設けられている。このアクスルハウジング12は、左,右の後輪7間を軸方向に延びる筒状体として形成されている。アクスルハウジング12は、車幅方向(左,右方向)に延びる円筒体からなり、各後輪側サスペンション7Cを介して車体2の後部側に取付けられた懸架筒13と、この懸架筒13の左,右両側にそれぞれ設けられたスピンドル14とにより構成されている。
図3に示すように、スピンドル14は、軸方向一側に位置してテーパ形状をなし懸架筒13にボルト14Aを介して着脱可能に固着された大径筒部14Bと、大径筒部14Bの軸方向他側に一体形成された円形筒部14Cとにより構成されている。円形筒部14Cは、後述の車輪取付筒17内を軸方向に延びるように配置されている。円形筒部14Cの外周側は、後述の車輪支持軸受19,20を介して後輪7側の車輪取付筒17を回転可能に支持するものである。
スピンドル14の外周側には、大径筒部14Bの長さ方向(軸方向)中間部から径方向外向きに突出し後述の湿式ブレーキ装置33が取付けられる環状フランジ部14Dと、後述のリテーナ21を軸方向に位置決めするため円形筒部14Cの軸方向一側に設けられた環状の段差部14Eとが一体に形成されている。大径筒部14Bの軸方向一側には、径方向内向きに突出する複数のモータ取付座14Fが一体に形成され、このモータ取付座14Fには後述の走行用モータ15が取付けられている。
円形筒部14Cの軸方向他側は開口端となり、その内周面には後述する第2の遊星歯車減速機構26の非回転部分がスプライン結合により取付けられている。円形筒部14Cの軸方向の中間部には、その内周側に環状の内側突部14Gが一体に形成されている。内側突部14Gには、後述の外側リテーナ31がボルト等を介して取付けられている。円形筒部14Cの下部側には、上,下方向(円形筒部14Cの径方向)に貫通して延びる径方向孔14Hが穿設され、この径方向孔14H内には、後述する吸込管28の先端部28Aが挿通されている。さらに、大径筒部14Bには、後述するスピンドル側油路43が形成され、環状フランジ部14Dには、後述する冷却液流出油路48が形成されている。
走行用モータ15は、アクスルハウジング12内に着脱可能に設けられ、後輪7の駆動源を構成している。この走行用モータ15は、車体2に搭載された発電機(図示せず)からの電力供給によって回転駆動される大型の電動モータにより構成されている。走行用モータ15は、左,右の後輪7を互いに独立して回転駆動するため、懸架筒13の左,右両側に位置してスピンドル14内にそれぞれ取付けられている。走行用モータ15は、その外周側に複数の取付フランジ15Aを有し、これらの取付フランジ15Aがスピンドル14のモータ取付座14Fにボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。走行用モータ15は、前記発電機から電力が供給されることにより、後述の回転軸16を回転駆動するものである。
回転軸16は、走行用モータ15の出力軸として構成され、走行用モータ15によって正方向または逆方向に回転駆動されるものである。回転軸16は、スピンドル14の内周側を軸方向(左,右方向)に延びる1本の長尺な棒状体により構成され、回転軸16の一端側は走行用モータ15の出力側に連結されている。一方、回転軸16の他端側は、スピンドル14を構成する円形筒部14Cの開口端から突出し、その突出端側には後述する1段目の遊星歯車減速機構25が取付けられている。回転軸16の軸方向の中間部は、後述の車輪支持軸受19,20の間に位置し、後述のシャフトベアリング32を用いて回転可能に支持されている。
車輪取付筒17は、車輪としての後輪7と一体に回転するものである。車輪取付筒17は、所謂ホイールハブを構成し、その外周側には、後輪7の各リム7Bが圧入等の手段を用いて着脱可能に取付けられている。車輪取付筒17は、車輪支持軸受19,20間にわたって軸方向に延び中空構造をなした中空筒部17Aと、中空筒部17Aの外周側端部から後述の内歯車26Aに向けて軸方向に一体に延びた延設筒部17Bとにより段付筒状体として形成されている。
車輪取付筒17の延設筒部17Bには、後述の内歯車26Aと外側ドラム23とが長尺ボルト23Aを用いて一体的に固着されている。これにより、車輪取付筒17は、内歯車26Aと一体に回転される。即ち、車輪取付筒17には、走行用モータ15の回転を減速歯車機構24で減速することにより大トルクとなった回転が内歯車26Aを介して伝えられる。これにより、車輪取付筒17は、車両の駆動輪となる後輪7を大なる回転トルクで回転させるものである。
リムスペーサ18は、筒状のリングにより形成されている。リムスペーサ18は、後輪7の各タイヤ7A間に予め決められた軸方向隙間を確保するため、車輪取付筒17の外周側に配置されている。即ち、図3に示すように、リムスペーサ18は、後輪7の軸方向内側のリム7Bと外側のリム7Bとの間に挟持され、両者の間を車輪取付筒17の軸方向で一定の間隔に保持するものである。
車輪支持軸受19,20は、スピンドル14の外周側で車輪取付筒17を回転可能に支持している。これら2個の車輪支持軸受19,20は、例えば同一の円錐ころ軸受等を用いて構成されている。車輪支持軸受19,20は、スピンドル14の円形筒部14Cと車輪取付筒17の中空筒部17Aとの間に軸方向に離間して配設されている。即ち、一方の車輪支持軸受19は、スピンドル14の段差部14Eにリテーナ21を介して位置決めされ、他方の車輪支持軸受20は、円形筒部14Cの軸方向他側の外周に他のリテーナ22を介して位置決めされている。
ここで、リテーナ21は、スピンドル14の円形筒部14Cの外周面に嵌合して設けられている。リテーナ21の軸方向一側の端面は、スピンドル14の段差部14Eに当接し、リテーナ21の軸方向他側の端面は、車輪支持軸受19の内輪に当接している。リテーナ21の外周側には、円筒状のシール取付筒部21Aが設けられ、このシール取付筒部21Aは、後述するブレーキハブ37の内側シール取付筒部37Jと軸方向で対面している。一方、リテーナ22は、スピンドル14の円形筒部14Cの軸方向他側の端面にボルト22Aを用いて固定されている。リテーナ22の軸方向一側の端面は、車輪支持軸受20の内輪に当接している。
このように、車輪支持軸受19,20の内輪側は、スピンドル14の円形筒部14Cに対しリテーナ21,22間で軸方向にそれぞれ位置決めされている。車輪支持軸受19,20の外輪側は、車輪取付筒17の中空筒部17Aに対して軸方向に位置決めされている。これにより、車輪取付筒17は、車輪支持軸受19,20とリテーナ21,22とを用いて、スピンドル14に対し軸方向に位置決めされると共に、周方向に回転可能に支持されている。
外側ドラム23は、内歯車26Aと共に車輪取付筒17の一部を構成している。図3に示すように、外側ドラム23は、車輪取付筒17の軸方向他側となる位置に内歯車26Aを挟んで取付けられ、複数の長尺ボルト23Aを用いて車輪取付筒17に着脱可能に固着されている。
減速歯車機構24は、スピンドル14と車輪取付筒17との間に設けられている。減速歯車機構24は、回転軸16の軸方向他側に設けられた1段目の遊星歯車減速機構25と、1段目の遊星歯車減速機構25の後段に設けられた最終段(2段目)の遊星歯車減速機構26とにより構成されている。1段目の遊星歯車減速機構25は、走行用モータ15(即ち、回転軸16)の回転を減速して2段目の遊星歯車減速機構26に伝える。
2段目の遊星歯車減速機構26は、1段目の遊星歯車減速機構25から伝えられる回転をさらに減速して後輪7側の車輪取付筒17に伝えるものである。これにより、後輪7側の車輪取付筒17は、減速して得られた大きな回転力(トルク)をもって後輪7と一緒に回転駆動されるものである。2段目の遊星歯車減速機構26は、車輪取付筒17と一体に回転するリング状の内歯車26Aを含んで構成されている。
次に、車輪支持軸受19,20および減速歯車機構24を潤滑する潤滑系統について説明する。この潤滑系統は、後述の隔壁27、吸込管28、供給管29、内側リテーナ30、外側リテーナ31およびシャフトベアリング32等を含んで構成されている。
ここで、車輪取付筒17の内部には潤滑油100が貯留され、各遊星歯車減速機構25,26は、常に潤滑油100が供給された状態で作動する。この場合、潤滑油100の液面は、例えばスピンドル14を構成する円形筒部14Cの最下部よりも低い位置にあり、かつ車輪支持軸受19,20の下側部位が浸漬されるような位置に設定されている。これにより、走行駆動装置11の作動時に、潤滑油100が各遊星歯車減速機構25,26によって攪拌されて温度上昇するのを抑えることができ、かつ潤滑油100の攪拌による抵抗を小さく抑えることができる。
隔壁27は、スピンドル14内に設けられている。隔壁27は環状の板体により形成され、隔壁27の外周側は、スピンドル14の大径筒部14Bの内周側にボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。ここで、隔壁27は、スピンドル14内を、軸方向一側に位置し走行用モータ15が収容されるモータ収容空間部27Aと、軸方向他側に位置し車輪取付筒17の内部と常時連通する筒状空間部27Bとに画成している。
吸込管28は、車輪取付筒17内に貯溜された潤滑油100を回収するものである。吸込管28は、長さ方向の一側がアクスルハウジング12の懸架筒13内を軸方向に延び、潤滑ポンプ(図示せず)の吸込側に接続されている。吸込管28の長さ方向中間部は、車輪取付筒17側に向けてスピンドル14内を軸方向に延びている。吸込管28の先端部28A(長さ方向他側)は、回転軸16の下側から下向きにL字状に屈曲し、スピンドル14の径方向孔14H内に挿通されている。これにより、吸込管28は、その先端部28Aが車輪取付筒17内の潤滑油100中に浸漬され、この潤滑油100を前記潤滑ポンプ側に回収させるものである。
供給管29は、減速歯車機構24に潤滑油100を供給するものである。この供給管29は、スピンドル14内で吸込管28、回転軸16よりも上方となる位置に配置され、その先端部29Aが2段目の遊星歯車減速機構26の非回転部分内に挿入されている。供給管29の長さ方向一側(基端側)は、前記潤滑ポンプの吐出側に接続されている。この潤滑ポンプから吐出される潤滑油100は、供給管29の先端部29A(長さ方向他側)から各遊星歯車減速機構25,26に向けて供給される。
車輪取付筒17の下部側に貯留された潤滑油100は、前記潤滑ポンプの駆動により吸込管28の先端部28Aから吸込まれる。前記潤滑ポンプにより吸込まれた潤滑油100は、オイルクーラ(図示せず)によって冷却された後、供給管29を通じて遊星歯車減速機構25,26に供給され、これらの遊星歯車減速機構25,26を潤滑する。
内側リテーナ30は、回転軸16の軸方向中間部に嵌合して設けられている。外側リテーナ31は、内側リテーナ30の外周側にシャフトベアリング32を介して取付けられている。ここで、内側リテーナ30は、その内周側が回転軸16の中間部に圧入されることにより、回転軸16と一体に回転する。外側リテーナ31は、スピンドル14の内側突部14Gにボルト等を用いて固定されている。図3に示すように、吸込管28、供給管29の途中部位は、外側リテーナ31を軸方向に貫通して延び、これにより、スピンドル14内に外側リテーナ31を介して位置決めされている。
シャフトベアリング32は、回転軸16側の内側リテーナ30とスピンドル14側の外側リテーナ31との間に配設されている。シャフトベアリング32は、回転軸16の軸方向中間部をスピンドル14の円形筒部14C内で内側リテーナ30、外側リテーナ31を介して回転可能に支持している。これにより、長尺な回転軸16は、軸方向中間部での芯振れが抑制され、1段目の遊星歯車減速機構25に対して回転軸16の安定した回転を伝えることができる。
次に、車輪取付筒17の回転、即ち左,右の後輪7に制動力を与える湿式ブレーキ装置33について説明する。
湿式ブレーキ装置33は、各後輪7のリム7B内に設けられている。湿式ブレーキ装置33は、湿式多板型の油圧ブレーキにより構成され、車輪取付筒17と一体に回転する後述のブレーキハブ37に対して制動力を付与するものである。ここで、湿式ブレーキ装置33は、後述するブレーキハウジング34、ブレーキハブ37、ブレーキ板収容空間38、回転側ブレーキ板39、非回転側ブレーキ板40、ブレーキ可動体41、冷却液ポンプ46、第1のフローティングシール50、第1の液溜め室51、第1の絞り52A、第2のフローティングシール53、第2の液溜め室54、第2の絞り55A等を含んで構成されている。
ブレーキハウジング34は、スピンドル14の大径筒部14Bの外周側に配置され、スピンドル14に対して非回転状態で設けられている。図4および図5に示すように、ブレーキハウジング34は、スピンドル14の環状フランジ部14Dにボルト34Aを用いて取付けられたハウジング本体35と、ハウジング本体35にボルト34Bを用いて取付けられた端板36とにより構成されている。
ハウジング本体35は、スピンドル14の大径筒部14Bを径方向外側から取囲む円筒部35Aと、円筒部35Aの内周側から径方向内側に張出し、環状フランジ部14Dの軸方向端面に当接する内側鍔部35Bとを有している。
ここで、円筒部35Aの内周側には、後述の各非回転側ブレーキ板40が係合するスプライン部35Cが形成されている。内側鍔部35Bの内周面は、後述するブレーキ可動体41の円筒部41Aが挿嵌される可動体挿嵌孔35Dとなっている。可動体挿嵌孔35Dの内周側には冷却液流入口35Eが設けられ、この冷却液流入口35Eは、後述の冷却液ポンプ46から吐出された冷却液をブレーキ板収容空間38に供給する。また、内側鍔部35Bには、周方向に均等な間隔をもって複数の有底なピストン挿嵌穴35Fが設けられ、これら各ピストン挿嵌穴35Fには、ブレーキ可動体41の各ピストン41Cが挿嵌される。さらに、内側鍔部35Bのうち円筒部35Aと交わる外周側には、軸方向に貫通する冷却液流出口35Gが設けられている。この冷却液流出口35Gは、スピンドル14の環状フランジ部14Dに設けられた冷却液流出油路48に接続されている。
一方、端板36は環状の板体として形成され、ハウジング本体35の軸方向他側の端面にボルト34Bを用いて取付けられている。端板36は、ハウジング本体35の内側鍔部35Bと軸方向で間隔をもって対面し、これら端板36と内側鍔部35Bとの間には、ブレーキ板収容空間38が形成されている。また、端板36の内周面36Aは、後述するブレーキハブ37のスプライン終端部37Fと径方向で僅かな隙間をもって対面している。さらに、端板36の軸方向他側の端面には、車輪取付筒17に向けて突出する円筒状のシール取付筒部36Bが設けられ、このシール取付筒部36Bは、ブレーキハブ37の外側シール取付筒部37Hと軸方向で間隔をもって対面している。
ブレーキハブ37は、車輪取付筒17の中空筒部17Aに取付けられ、車輪取付筒17と一体となってブレーキハウジング34に対して回転可能となっている。ブレーキハブ37の軸方向他側は大径なフランジ部37Aとなり、このフランジ部37Aはボルト37Bを用いて車輪取付筒17の中空筒部17Aに固定されている。ブレーキハブ37の軸方向中間部は、フランジ部37Aからブレーキハウジング34に向けて徐々に縮径するテーパ部37Cとなり、ブレーキハブ37の軸方向一側は小径な円筒部37Dとなっている。この円筒部37Dは、スピンドル14の大径筒部14Bとブレーキハウジング34との間に配置されている。
円筒部37Dの外周面には全周に亘ってスプライン部37Eが形成され、このスプライン部37Eは、ブレーキハウジング34のスプライン部35Cと径方向で対面している。ここで、円筒部37Dのスプライン部37Eと端板36の内周面36Aとの間には、後述する第2油路52が形成されている。この場合、円筒部37Dのスプライン終端部37F(スプライン部37Eの軸方向他側の切り上がり部と円筒部37Dの外周面との境界部)は、端板36の内周面36Aと径方向で僅かな隙間をもって対面し、この隙間が後述する第1の絞り52Aとなっている。
また、円筒部37Dのうち、後述する各回転側ブレーキ板39の径方向内側と対向する部位には、周方向に均等な間隔をもって複数(例えば4個)の冷却液孔37Gが設けられている。これら各冷却液孔37Gは、後述する第1油路42の一部を構成している。そして、各冷却液孔37Gは、円筒部37Dを径方向に貫通し、後述する環状油路44とブレーキ板収容空間38との間を連通させることにより、環状油路44に流入した冷却液を、各回転側ブレーキ板39の径方向の内側から外側に流通させるものである。
ブレーキハブ37のテーパ部37Cの外周側には、径方向外側に突出する円筒状の外側シール取付筒部37Hが設けられている。外側シール取付筒部37Hは、ブレーキハウジング34の端板36に設けられたシール取付筒部36Bと軸方向で間隔をもって対面し、これら外側シール取付筒部37Hとシール取付筒部36Bの内周側には、後述する第1のフローティングシール50が取付けられている。また、テーパ部37Cの内周側には、径方向内側に突出する円筒状の内側シール取付筒部37Jが設けられている。内側シール取付筒部37Jは、リテーナ21に設けられたシール取付筒部21Aと軸方向で間隔をもって対面し、これら内側シール取付筒部37Jとシール取付筒部21Aの内周側には、後述する第2のフローティングシール53が取付けられている。
さらに、図5に示すように、ブレーキハブ37のテーパ部37Cと円筒部37Dとが交わる部位の内周面には、環状突起37Kが設けられ、この環状突起37Kは、スピンドル14の大径筒部14Bの外周面に向けて突出している。ここで、環状突起37Kは、後述するスピンドル側油路43の吐出口43Bよりも内側シール取付筒部37J側に寄った位置に配置され、スピンドル14(大径筒部14B)の外周面との間に後述する第2の絞り55Aを形成するものである。
ブレーキ板収容空間38は、ブレーキハウジング34とブレーキハブ37の円筒部37Dとの間に形成されている。このブレーキ板収容空間38は、回転軸16の軸中心と同心上の環状な空間として形成されている。ブレーキ板収容空間38内には、各回転側ブレーキ板39、各非回転側ブレーキ板40、ブレーキ可動体41等が収容されている。
複数枚の回転側ブレーキ板39は、ブレーキ板収容空間38内に収容されている。各回転側ブレーキ板39は中空な円板状に形成され、各回転側ブレーキ板39の内周側は、ブレーキハブ37のスプライン部37Eに対し、軸方向に移動可能にかつ回転不能に係合している。これにより、各回転側ブレーキ板39は、ブレーキハブ37に対して軸方向に移動可能な状態で、ブレーキハブ37と一体に回転する。また、各回転側ブレーキ板39の表面には溝(図示せず)が形成されており、図6に示す制動時に非回転側ブレーキ板40が当接した状態でも、この溝を通じて各回転側ブレーキ板39の表面に冷却液が流通する構成となっている。
複数枚の非回転側ブレーキ板40は、各回転側ブレーキ板39と軸方向で交互に重なり合った状態でブレーキ板収容空間38内に収容されている。各非回転側ブレーキ板40は中空な円板状に形成され、各非回転側ブレーキ板40の外周側は、ブレーキハウジング34のスプライン部35Cに対し、軸方向に移動可能にかつ回転不能に係合している。これにより、各非回転側ブレーキ板40は、ブレーキハウジング34に対して非回転(廻止め)の状態で軸方向に移動可能に保持されている。
ブレーキ可動体41は、ブレーキハウジング34に対して軸方向に移動可能な状態でブレーキ板収容空間38内に設けられている。ここで、ブレーキ可動体41は、図7に示すように、小径な円筒部41Aと、この円筒部41Aの軸方向他側から拡径した大径な円板部41Bとにより、段付き円筒体として形成されている。円板部41Bの軸方向一側の端面には、複数(例えば8個)の円柱状をなすピストン41Cが、周方向に均等な間隔をもってボルト41Dを用いて固定されている。
ブレーキ可動体41の円筒部41Aは、ブレーキハウジング34(ハウジング本体35)の可動体挿嵌孔35Dに摺動可能に挿嵌され、円板部41Bに固定された各ピストン41Cは、ブレーキハウジング34(内側鍔部35B)の各ピストン挿嵌穴35Fに摺動可能に挿嵌されている。ブレーキ可動体41は、ピストン挿嵌穴35Fに外部からブレーキ液圧が供給されることにより、図5に示す非制動状態から図6に示す制動状態に移行する。これにより、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40とが、ブレーキ可動体41の円板部41Bに押圧されて摩擦係合し、ブレーキハブ37が取付けられた車輪取付筒17に制動力が付与される。
一方、ブレーキ可動体41は、ピストン挿嵌穴35Fにブレーキ液圧が供給されないときには、戻しばね(図示せず)によって図5に示す非制動状態を保持する。これにより、ブレーキ可動体41の円板部41Bがブレーキハウジング34の内側鍔部35Bの軸方向端面に当接し、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との摩擦係合が解除されることにより、ブレーキハブ37が取付けられた車輪取付筒17に対する制動力が解除される。そして、摩擦係合することにより発熱した各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却するため、ブレーキ板収容空間38内には、後述する第1油路42等を通じて冷却液が循環する構成となっている。
ここで、ブレーキ可動体41の円筒部41Aのうち円板部41Bと交わる部位には、径方向に貫通する複数(例えば6個)の径方向流油路41Eが、周方向に均等な間隔をもって形成されている。各径方向流油路41Eは、ブレーキ可動体41が非制動状態(図5の状態)にあるときには、可動体挿嵌孔35Dの内周面によって遮断された状態を保持する。一方、各径方向流油路41Eは、ブレーキ可動体41が制動状態(図6の状態)にあるときには、可動体挿嵌孔35Dの内周面から離脱して開通し、ブレーキハウジング34(ハウジング本体35)の冷却液流入口35Eに流入した冷却液を、冷却液流出口35Gに向けて径方向に流通させる。
第1油路42は、後述する冷却液ポンプ46から吐出された冷却液をブレーキ板収容空間38内に供給する油路である。この第1油路42は、スピンドル14の大径筒部14Bに軸方向に延びて設けられたスピンドル側油路43と、スピンドル14の外周面とブレーキハブ37の円筒部37Cの内周面との間に環状に形成された環状油路44と、ブレーキハブ37に設けられた冷却液孔37Gとを含んで構成されている。スピンドル側油路43の一端は、スピンドル14の内周面に開口した流入口43Aとなり、この流入口43Aには冷却液供給ホース45が接続されている。スピンドル側油路43の他端は、スピンドル14の外周面に開口した吐出口43Bとなり、環状油路44は、吐出口43Bを通じてスピンドル側油路43に連通している。
冷却液ポンプ46は、ブレーキ板収容空間38内に冷却液を供給するものである。図5に示すように、冷却液ポンプ46は、冷却液を貯溜する冷却液タンク47とスピンドル側油路43との間に設けられ、冷却液タンク47内の冷却液をスピンドル側油路43、環状油路44、ブレーキハウジング34の冷却液流入口35Eを通じてブレーキ板収容空間38に供給する。
ここで、図5に示すように、湿式ブレーキ装置33が非制動状態にあるときには、ブレーキ可動体41の円板部41Bは、ブレーキハウジング34の内側鍔部35Bの軸方向端面に当接した状態を保持し、円筒部41Aに設けられた各径方向流油路41Eは、ブレーキハウジング34の可動体挿嵌孔35Dの内周面によって遮断(閉塞)される。これにより、冷却液は、環状油路44から冷却液流入口35E、ブレーキハブ37(円筒部37D)の各冷却液孔37Gを通じてブレーキ板収容空間38内に流入し、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との間の隙間、非回転側ブレーキ板40とブレーキ可動体41の円板部41Bとの間の隙間を通じて、ブレーキ板収容空間38の径方向内側から外側へと流通する。
一方、図6に示すように、湿式ブレーキ装置33が制動状態にあるときには、ブレーキ可動体41の円板部41Bが、ブレーキハウジング34の内側鍔部35Bから離間し、円筒部41Aに設けられた各径方向流油路41Eは、可動体挿嵌孔35Dの内周面から離脱して開通する。これにより、冷却液は、環状油路44から冷却液流入口35E、ブレーキハブ37の各冷却液孔37Gを通じてブレーキハウジング34の各径方向流油路41Eに流入し、これら各径方向流油路41Eを通じて、ブレーキ板収容空間38の径方向内側から外側へと流通する。
スピンドル14の環状フランジ部14Dのうち、ブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gに対応する部位には、冷却液流出油路48が設けられている。冷却液流出油路48の一端は、スピンドル14の内周面に開口した流出口48Aとなり、冷却液流出油路48の他端は、冷却液流出口35Gに連通する連通口48Bとなっている。流出口48Aには、冷却液を冷却液タンク47に戻す冷却液戻しホース49が接続されている。従って、冷却液ポンプ46によってブレーキ板収容空間38内に供給された冷却液は、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却して冷却液流出油路48に導出された後、冷却液クーラ(図示せず)によって冷却されつつ冷却液戻しホース49を介して冷却液タンク47に環流する。
第1シール機構としての第1のフローティングシール50は、ブレーキハウジング34の端板36に設けられたシール取付筒部36Bと、ブレーキハブ37の外側シール取付筒部37Hとの間に設けられている。第1のフローティングシール50は、ブレーキ板収容空間38内に充填された冷却液を、スピンドル14の外部の大気に対して封止している。即ち、第1のフローティングシール50は、冷却液がブレーキハウジング34の外部に漏れるのを防止するものである。ここで、第1のフローティングシール50は、互いに摺接する環状のシール面を有する一対のシールリング50A,50Bと、シールリング50Aとシール取付筒部36Bとの間に弾性変形した状態で設けられたOリング50Cと、シールリング50Bと外側シール取付筒部37Hとの間に弾性変形した状態で設けられたOリング50Dとにより構成されている。シールリング50A,50Bのシール面は、Oリング50C,50Dの弾性力によって軸方向に押圧され、常に液密状態で摺接している。
第1の液溜め室51は、第1のフローティングシール50を収容する環状の空間として形成され、ブレーキハウジング34(端板36)のシール取付筒部36Bと、ブレーキハブ37の外側シール取付筒部37Hとによって囲まれている。ここで、第1の液溜め室51は、後述する第2油路52を介してブレーキ板収容空間38の径方向内側に連通しており、冷却液の流れ方向において各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40よりも上流側に配置されている。第1の液溜め室51の内部には、第1のフローティングシール50によって封止された冷却液が滞留しており、冷却液ポンプ46が圧力脈動を発生したとしても、後述する第1の絞り52Aで生じる圧力損失によって、第1の液溜め室51へ伝達される圧力脈動を緩和できる構成となっている。
第2油路52は、ブレーキハブ37のスプライン部37Eと端板36の内周面36Aとの間に環状に形成されている。第2油路52は、ブレーキ板収容空間38と第1の液溜め室51との間に配置されている。第2油路52は、第1油路42から分岐し、第1油路42に流入した冷却液の一部を、第1の液溜め室51内の第1のフローティングシール50側に供給するものである。
第1流通抑制構造としての第1の絞り52Aは、ブレーキ板収容空間38と第1のフローティングシール50との間に位置して第2油路52に設けられている。具体的には、第1の絞り52Aは、ブレーキハブ37の円筒部37Dに形成されたスプライン部37Eのスプライン終端部37Fと、端板36の内周面36Aとの間に、狭隘な環状の隙間として形成され、その流路面積は、第2油路52の流路面積よりも狭くなるように形成されている。第1の絞り52Aは、ブレーキ板収容空間38から第1のフローティングシール50が収容された第1の液溜め室51に向かう冷却液の流通を抑制する。従って、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却することによりブレーキ板収容空間38内の冷却液が熱を帯びたとしても、この冷却液が第1の液溜め室51に流れるのを、第1の絞り52Aによって抑えることができる構成となっている。
第2シール機構としての第2のフローティングシール53は、リテーナ21に設けられたシール取付筒部21Aと、ブレーキハブ37の内側シール取付筒部37Jとの間に設けられている。第2のフローティングシール53は、減速歯車機構24を潤滑するために車輪取付筒17内に充填された潤滑油100に対し、ブレーキ板収容空間38内に供給された冷却液を封止している。即ち、第2のフローティングシール53は、潤滑油100と冷却液とを分離するものである。ここで、第2のフローティングシール53は、互いに摺接する環状のシール面を有する一対のシールリング53A,53Bと、シールリング53Aと内側シール取付筒部37Jとの間に弾性変形した状態で設けられたOリング53Cと、シールリング53Bとシール取付筒部21Aとの間に弾性変形した状態で設けられたOリング53Dとにより構成されている。従って、シールリング53A,53Bのシール面は、Oリング53C,53Dの弾性力によって軸方向に押圧され、常に液密状態で摺接している。
第2の液溜め室54は、第2のフローティングシール53を収容する環状の空間として形成され、リテーナ21のシール取付筒部21Aと、ブレーキハブ37の内周面と、スピンドル14の大径筒部14Bの外周面とによって囲まれている。ここで、第2の液溜め室54は、後述する第3油路55を介して第1油路42の環状油路44に連通しており、冷却液の流れ方向において各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40よりも上流側に配置されている。第2の液溜め室54の内部には、第2のフローティングシール53によって封止された冷却液が滞留し、冷却液ポンプ46が圧力脈動を発生したとしても、後述する第2の絞り55Aで生じる圧力損失によって、第2の液溜め室54へ伝達される圧力脈動を緩和できる構成となっている。
第3油路55は、ブレーキハブ37のテーパ部37Cと円筒部37Dとが交わる部位(環状突起37Kが設けられた部位)の内周面とスピンドル14の大径筒部14Bの外周面との間に設けられ、スピンドル側油路43の吐出口43Bよりも第2の液溜め室54側に環状に形成されている。第3油路55は、第1油路42から分岐し、第1油路42に流入した冷却液の一部を、第2の液溜め室54内の第2のフローティングシール53側に供給するものである。
第2流通抑制構造としての第2の絞り55Aは、ブレーキ板収容空間38と第2のフローティングシール53との間に位置して第3油路55に設けられている。具体的には、第2の絞り55Aは、ブレーキハブ37の内周面に設けられた環状突起37Kと、スピンドル14の大径筒部14Bの外周面との間に環状に形成され、その流路面積は、第3油路55の流路面積よりも狭くなるように形成されている。この第2の絞り55Aは、スピンドル側油路43の吐出口43Bよりも第2の液溜め室54側に寄った部位に配置され、スピンドル側油路43の吐出口43Bから環状油路44に吐出した冷却液が、第2の液溜め室54に流込むのを抑制する。従って、熱を帯びた冷却液がスピンドル側油路43から環状油路44に流入したとしても、この冷却液が第2の液溜め室54に流込むのを第2の絞り55Aによって抑えることができる構成となっている。
ここで、図5に示すように、端板36の内周面36Aの半径寸法をR1とし、ブレーキハブ37のスプライン終端部37Fの外周面の半径寸法をR2とすると、端板36の内周面36Aとスプライン終端部37Fとの間に環状に形成された第1の絞り52Aの流路面積S1は、下記数1のように表わされる。
Figure 0006704845
また、環状突起37Kの内周縁の半径寸法をR3とし、スピンドル側油路43の吐出口43Bが開口したスピンドル14(大径筒部14B)の外周面の半径寸法をR4とすると、環状突起37Kとスピンドル14の外周面との間に環状に形成された第2の絞り55Aの流路面積S2は、下記数2のように表わされる。
Figure 0006704845
ここで、第1の絞り52Aの流路面積S1と、第2の絞り55Aの流路面積S2とは、ほぼ等しく設定されている(S1≒S2)。
さらに、図5に示す非制動時に、ブレーキ板収容空間38の径方向内側から外側へと流通する冷却液の流路面積S3は、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との間に形成される複数の隙間と、回転側ブレーキ板39とブレーキ可動体41の円板部41Bとの間に形成される隙間とを合計した面積として表される。
そして、ブレーキハウジング34(ハウジング本体35)の内側鍔部35Bに設けられた冷却液流出口35Gの流路面積をS4とすると、これら各流路面積S1、S2、S3、S4の大きさは、下記数3の関係に設定されている。
Figure 0006704845
即ち、非制動時にブレーキ板収容空間38の径方向内側から外側へと流通する冷却液の流路面積S3は、第1の絞り52Aの流路面積S1および第2の絞り55Aの流路面積S2よりも大きく、かつ、冷却液流出口35Gの流路面積S4よりも小さく設定されている。これにより、ブレーキ板収容空間38内での冷却液の圧力上昇を抑えることができ、第1の液溜め室51への冷却液の流入を第1の絞り52Aによって抑えると共に、第2の液溜め室54への冷却液の流入を第2の絞り55Aによって抑えることができる構成となっている。
一方、図6に示す制動時に、冷却液が流通するブレーキ可動体41の複数(n個)の径方向流油路41Eを合計した流路面積S3′は、1個の径方向流油路41Eの流路面積をΔS3′とすると、下記数4のように表わされる。
Figure 0006704845
ここで、非制動時にブレーキ板収容空間38の径方向内側から外側へと流通する冷却液の流路面積S3と、制動時に冷却液が流通するブレーキ可動体41の各径方向流油路41Eを合計した流路面積S3′とは、ほぼ等しく設定されている(S3≒S3′)。
そして、第1の絞り52Aの流路面積S1、第2の絞り55Aの流路面積S2、各径方向流油路41Eを合計した流路面積S3′、冷却液流出口35Gの流路面積S4の大きさは、下記数5の関係に設定されている。
Figure 0006704845
即ち、制動時に冷却液が流通するブレーキ可動体41の各径方向流油路41Eを合計した流路面積S3′は、第1の絞り52Aの流路面積S1および第2の絞り55Aの流路面積S2よりも大きく、かつ、冷却液流出口35Gの流路面積S4よりも小さく設定されている。これにより、制動時においても、ブレーキ板収容空間38内での冷却液の圧力上昇を抑えることができ、第1の液溜め室51への冷却液の流入を第1の絞り52Aによって抑えると共に、第2の液溜め室54への冷却液の流入を第2の絞り55Aによって抑えることができる構成となっている。
本実施の形態によるダンプトラック1の湿式ブレーキ装置33は、上述の如き構成を有するもので、以下、その作動について説明する。
ダンプトラック1のキャブ5に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧源となる油圧ポンプが回転駆動されると共に、発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行駆動時には、前記発電機から走行用モータ15に電力が供給されることにより、走行用モータ15が作動して回転軸16が回転する。
回転軸16の回転は、1段目の遊星歯車減速機構25から2段目の遊星歯車減速機構26に減速して伝達され、車輪取付筒17に固定された内歯車26Aには、各遊星歯車により減速された回転が伝達される。これによって、車輪取付筒17は、1段目の遊星歯車減速機構25と2段目の遊星歯車減速機構26とで2段階に減速された大出力の回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左,右の後輪7は、車輪取付筒17と一体に回転し、ダンプトラック1を走行駆動することができる。
走行駆動装置11の作動時においては、車輪取付筒17内に貯溜された潤滑油100が、車輪取付筒17の回転と1段目,2段目の遊星歯車減速機構25,26の各遊星歯車等によって順次上方へと掻き上げられる。このため、潤滑油100は、各歯車の噛合部位、スピンドル14の円形筒部14Cと車輪取付筒17との間の車輪支持軸受19,20等に供給される。その後、潤滑油100は順次下方へと滴下し、車輪取付筒17の下部側に溜められる。
車輪取付筒17の下部側に収容された潤滑油100は、潤滑ポンプ(図示せず)により吸込管28の先端部28Aから吸い上げられ、オイルクーラ等で冷却された後に供給管29側に吐出される。これにより、潤滑油100は、湯供給管29の先端部29Aから車輪取付筒17内の減速歯車機構24(即ち、第1,第2の遊星歯車減速機構25,26)に向けて潤滑油100を連続的に供給することができる。
ダンプトラック1の走行途中で走行速度を減速する場合には、ダンプトラック1の運転者がブレーキペダルを踏込むことで、走行用モータ15による電気ブレーキと同時に湿式ブレーキ装置33にブレーキ圧(圧油)を供給し、ブレーキ可動体41を駆動する。これにより、ブレーキ可動体41は、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40とを押圧してこれらを摩擦係合させる。この結果、車輪取付筒17と一体に回転するブレーキハブ37に対して制動力が付与され、ダンプトラック1の後輪7の回転を減速させることができる。
ここで、例えばダンプトラック1が長い下り坂を走行(降坂走行)しているときには、ダンプトラック1を十分に減速させるために、運転者がブレーキペダルの踏込み操作を繰返し行うことにより、湿式ブレーキ装置33によって頻繁に後輪7に制動力が付与されることがある。この場合には、湿式ブレーキ装置33の各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との摩擦による発熱量が増大する。
発熱した各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40は、冷却液ポンプ46からの冷却液によって冷却されるようになっており、以下、この冷却液の流れについて説明する。
冷却液タンク47に貯溜された冷却液は、冷却液ポンプ46によって加圧され、冷却液供給ホース45、第1油路42のスピンドル側油路43を通じて環状油路44に導入される。環状油路44に導入された冷却液は、環状油路44からブレーキハウジング34の冷却液流入口35E、ブレーキハブ37の各冷却液孔37Gを通じてブレーキ板収容空間38内に流入する。
ここで、湿式ブレーキ装置33が、図5に示す非制動状態にあるときには、ブレーキ板収容空間38内に流入した冷却液は、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との間の隙間、回転側ブレーキ板39とブレーキ可動体41の円板部41Bとの間の隙間を通じて、ブレーキ板収容空間38の径方向内側から径方向外側へと流通し、ブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gに導出される。冷却液流出口35Gに導出された冷却液は、スピンドル14の冷却液流出油路48から冷却液戻しホース49を介して冷却液タンク47に環流する。この場合、冷却液流出口35Gの流路面積S4は、非制動時にブレーキ板収容空間38の径方向内側から径方向外側へと流通する冷却液の流路面積S3よりも大きく設定されている。これにより、冷却液を、ブレーキ板収容空間38と冷却液タンク47との間で円滑に循環させることができ、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を積極的に冷却することができる。
しかも、ダンプトラック1の走行時には、ブレーキ板収容空間38内に流入した冷却液に対し、各回転側ブレーキ板39の回転によって遠心力が作用する。これにより、冷却液は、ポンプ作用によって各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40の内周側から外周側へと流通し、速やかにブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gへと導出される。この結果、冷却液による各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40の冷却効率を向上させることができる。
一方、第1のフローティングシール50が収容された第1の液溜め室51は、冷却液の流れ方向において各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40よりも上流側に配置され、かつ、第1の液溜め室51とブレーキ板収容空間38との間を連通する第2油路52には第1の絞り52Aが設けられている。また、第2のフローティングシール53が収容された第2の液溜め室54は、冷却液の流れ方向において各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40よりも上流側に配置され、かつ、第2の液溜め室54と環状油路44との間を連通する第3油路55には第2の絞り55Aが設けられている。そして、第1の絞り52Aの流路面積S1および第2の絞り55Aの流路面積S2は、非制動時にブレーキ板収容空間38の径方向内側から径方向外側へと流通する冷却液の流路面積S3よりも小さく設定されている。
これにより、冷却液ポンプ46によってブレーキ板収容空間38に供給される冷却液が、第1の液溜め室51に流入するのを第1の絞り52Aによって抑制すると共に、冷却液が第2の液溜め室54に流入するのを第2の絞り55Aによって抑制することができる。
従って、冷却液ポンプ46の吐出圧に圧力脈動が加わったとしても、この圧力脈動(サージ圧)を第1の液溜め室51と第1の絞り52Aによって緩和することができ、第1のフローティングシール50に圧力脈動が作用するのを抑えることができる。同様に、冷却液ポンプ46の圧力脈動を第2の液溜め室54と第2の絞り55Aによって緩和することができ、第2のフローティングシール53に圧力脈動が作用するのを抑えることができる。この結果、第1,第2のフローティングシール50,53が冷却液ポンプ46の圧力脈動によって劣化するのを抑え、その耐久性を高めることができる。
一方、湿式ブレーキ装置33が、図6に示す制動状態にあるときには、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40とが、ブレーキ可動体41によって押圧されることにより摩擦係合する。従って、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との間の隙間、回転側ブレーキ板39とブレーキ可動体41との間の隙間が閉塞される。このため、ブレーキ板収容空間38内に流入した冷却液は、ブレーキ可動体41の円筒部41Aに形成された各径方向流油路41Eを通じて、ブレーキ板収容空間38の径方向内側から径方向外側へと流れ、ブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gに導出される。なお、各回転側ブレーキ板39の表面には溝(図示せず)が形成されており、非回転側ブレーキ板40が当接した状態(制動状態)でも、この溝を通じて各回転側ブレーキ板39の径方向内側から径方向外側に向けて冷却液が流通する。
この場合、冷却液流出口35Gの流路面積S4は、制動時にブレーキ可動体41の各径方向流油路41Eによって形成される冷却液の流路面積S3′よりも大きく設定されている。これにより、制動時においても、冷却液をブレーキ板収容空間38と冷却液タンク47との間で円滑に循環させることができ、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を積極的に冷却することができる。
また、第1の絞り52Aの流路面積S1および第2の絞り55Aの流路面積S2は、制動時にブレーキ可動体41の各径方向流油路41Eによって形成される冷却液の流路面積S3′よりも小さく設定されている。これにより、冷却液は、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却する前に第2の液溜め室54、および第1の液溜め室51を通過することができ、かつ、冷却液が第1の液溜め室51に流入するのを第1の絞り52Aによって抑制すると共に、冷却液が第2の液溜め室54に流入するのを第2の絞り55Aによって抑制することができる。
従って、湿式ブレーキ装置33が制動状態にある場合でも、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却して温度上昇した冷却液の熱が、直接的に第1のフローティングシール50、第2のフローティングシール53に伝わるのを抑えることができる。この結果、第1,第2のフローティングシール50,53が熱によって劣化するのを抑え、その耐久性を高めることができる。
かくして、本実施の形態によれば、ブレーキ板収容空間38と第1の液溜め室51との間に、第1油路42に流入した冷却液の一部を第1のフローティングシール50に導く第2油路52を設け、この第2油路52に冷却液の流通を抑制する第1の絞り52Aを設ける構成としている。これにより、冷却液ポンプ46の吐出圧に圧力脈動が加わったとしても、第1のフローティングシール50を収容する第1の液溜め室51と第1の絞り52Aによって圧力脈動を緩和することができる。この結果、第1のフローティングシール50に圧力脈動が作用するのを抑え、その耐久性を向上させることができる。また、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を冷却して熱を帯びた冷却液が、第1のフローティングシール50に向けて流通するのを、第1の絞り52Aによって抑えることができ、第1のフローティングシール50が熱によって劣化するのを抑え、その耐久性を向上させることができる。
第1の絞り52Aは、ブレーキハブ37のスプライン部37Eとブレーキハウジング34を構成する端板36の内周面との間の隙間に形成された第2油路52の流路面積を狭めるものである。従って、第1油路42から第2油路52を通じて第1の液溜め室51(第1のフローティングシール50)に向かう冷却液の流通を、第1の絞り52Aによって抑えることができる。
ブレーキハウジング34の径方向の内側には、冷却液ポンプ46から吐出された冷却液をブレーキ板収容空間38内に供給する冷却液流入口35Eが設けられ、ブレーキハウジング34には、径方向の外側に位置して冷却液をブレーキハウジング34内から流出させる冷却液流出口35Gが設けられ、ブレーキ可動体41には、制動時には冷却液流入口35Eから冷却液流出口35Gに向けて冷却液を径方向に流通させ、非制動時には冷却液流入口35Eから冷却液流出口35Gへの冷却液の流通を遮断する径方向流油路41Eが設けられている。これにより、非制動時には、冷却液流入口35Eに流入した冷却液を、各回転側ブレーキ板39と各非回転側ブレーキ板40との間の隙間等を通じてブレーキ板収容空間38の径方向内側から径方向外側へと流通させることができる。また、制動時には、冷却液流入口35Eに流入した冷却液を、径方向流油路41Eを通じて冷却液流出口35Gへと流通させることができる。
ブレーキ可動体41の径方向流油路41Eは、その流路面積S3′が第1の絞り52Aの流路面積S1よりも大きく、ブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gの流路面積よりも小さく設定されている。これにより、冷却液を、径方向流油路41Eを通じて冷却液流出口35Gへと円滑に流通させることができ、かつ第1のフローティングシール50へと向かう冷却液の流れを、第1の絞り52Aによって抑えることができる。
また、本実施の形態による湿式ブレーキ装置33は、スピンドル14とブレーキハブ37との間に設けられ、冷却液を車輪取付筒17内の潤滑油に対して封止する第2のフローティングシール53と、第1油路42から分岐し、冷却液を第2のフローティングシール53に導く第3油路55と、第3油路55に設けられ第2のフローティングシール53に向かう冷却液の流通を抑制する第2の絞り55Aとをさらに備えている。これにより、冷却液ポンプ46の圧力脈動を、第2のフローティングシール53を収容する第2の液溜め室54と第2の絞り55Aによって緩和することができ、第2のフローティングシール53の耐久性を向上させることができる。
また、冷却液をブレーキ板収容空間38に導く第1油路42は、スピンドル14に設けられたスピンドル側油路43と、スピンドル14とブレーキハブ37との間に環状に形成されスピンドル側油路43に連通する環状油路44と、ブレーキハブ37に設けられた冷却液孔37Gとを含んで構成されている。これにより、スピンドル側油路43から環状油路44に流入した冷却液を、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40の内径側から外径側へと流通させ、ブレーキハウジング34の冷却液流出口35Gに導出させることができる。
さらに、スピンドル14との間で環状油路44を形成するブレーキハブ37には、各回転側ブレーキ板39の径方向の内側と対向する位置に、冷却液を径方向の内側から外側に流通させる冷却液孔37Gが設けられている。これにより、スピンドル側油路43から環状油路44に流入した冷却液を、冷却液孔37Gを通じて各回転側ブレーキ板39の径方向内側に直接的に供給することができ、各回転側ブレーキ板39および各非回転側ブレーキ板40を効率良く冷却することができる。
なお、実施の形態では、減速歯車機構24を、2段の遊星歯車減速機構25,26によって構成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、1段または3段以上の遊星歯車減速機構によって減速歯車機構を構成してもよい。
さらに、実施の形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば前輪駆動式のダンプトラック、あるいは前輪と後輪を一緒に駆動する4輪駆動式のダンプトラックにも適用することができる。
1 ダンプトラック
12 アクスルハウジング
14 スピンドル
15 走行用モータ(駆動源)
16 回転軸
17 車輪取付筒
24 減速歯車機構
34 ブレーキハウジング
35E 冷却液流入口
35G 冷却液流出口
37 ブレーキハブ
37G 冷却液孔
38 ブレーキ板収容空間
39 回転側ブレーキ板
40 非回転側ブレーキ板
41 ブレーキ可動体
41E 径方向流油路
42 第1油路
43 スピンドル側油路
44 環状油路
46 冷却液ポンプ
50 第1のフローティングシール(第1シール機構)
52 第2油路
52A 第1の絞り(第1流通抑制構造)
53 第2のフローティングシール(第2シール機構)
55 第3油路
55A 第2の絞り(第2流通抑制構造)

Claims (3)

  1. ダンプトラックの車体に非回転状態で取付けられた筒状のアクスルハウジングと、
    前記アクスルハウジングの軸方向両端側にそれぞれ設けられたスピンドルと、
    前記スピンドルを取囲むように前記スピンドルの外周側に軸受を介して回転可能に設けられ、外周側に車輪が取付けられた車輪取付筒と、
    前記スピンドルの外周側に非回転状態で設けられた筒状のブレーキハウジングと、
    前記ブレーキハウジングに対して回転可能に設けられ前記ブレーキハウジングによって径方向外側から取囲まれた円筒状のブレーキハブと、
    前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間に設けられたブレーキ板収容空間と、
    該ブレーキ板収容空間内に配置され、前記ブレーキハブと一体に回転する複数の回転側ブレーキ板と、
    該各回転側ブレーキ板と交互に重なり合った状態で前記ブレーキ板収容空間内に配置された複数の非回転側ブレーキ板と、
    前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間に設けられた第1の液溜め室内に収容され、前記ブレーキ板収容空間内に充填された冷却液を外部の大気に対して封止する第1シール機構と、
    前記スピンドルと前記ブレーキハブとの間に設けられた第2の液溜め室内に収容され、前記冷却液を前記車輪取付筒内の潤滑油に対して封止する第2シール機構と、
    前記冷却液を前記ブレーキ板収容空間内で前記回転側ブレーキ板と非回転側ブレーキ板との間に内径側から外径側にかけて供給する冷却液ポンプと、
    を備えてなるダンプトラックの湿式ブレーキ装置において、
    前記第1の液溜め室および前記第2の液溜め室は、前記冷却液の流れ方向において前記回転側ブレーキ板および前記非回転側ブレーキ板よりも上流側に配置され、
    前記冷却液ポンプから吐出される前記冷却液前記ブレーキ板収容空間へ供給る第1油路と、
    前記第1油路から分岐し前記冷却液を前記第1の液溜め室内の前記第1シール機構に供給る第2油路と、
    前記第1油路から分岐し前記冷却液を前記第2の液溜め室内の前記第2シール機構に供給る第3油路とを備え、
    前記第2油路には前記冷却液の流通を抑制する第1流通抑制構造が設けられ、
    前記第3油路には前記冷却液の流通を抑制する第2流通抑制構造が設けられていることを特徴とするダンプトラックの湿式ブレーキ装置。
  2. 前記第1流通抑制構造は、前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間に設けられると共に、前記ブレーキハブと前記ブレーキハウジングとの間の隙間が前記第2油路の流路面積より狭くなるように形成された絞りであることを特徴とする請求項1に記載のダンプトラックの湿式ブレーキ装置。
  3. 前記第2流通抑制構造は、前記スピンドルと前記ブレーキハブとの間に設けられると共に、前記スピンドルと前記ブレーキハブとの間の隙間が前記第3油路の流路面積より狭くなるように形成された絞りであることを特徴とする請求項1に記載のダンプトラックの湿式ブレーキ装置。
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