本発明において、糖は特に限定されるものではないが、グルコースであることが好ましい。本発明の糖取り込み促進剤として有効な化合物は、式(I)〜(VI)で示される化合物である。
(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水酸基又は水素を表す。波線は立体配置がR配置又はS配置を表す。)
(式中、R3は水酸基又は水素を表す。)
(式中、R4は水酸基又は水素を表す。)
(式中、R5、R6はそれぞれ独立に水酸基又は水素を表す。波線は立体配置がR配置又はS配置を表す。)
(式中、R7、R8はそれぞれ独立に水酸基又は水素を表す。波線は立体配置がR配置又はS配置を表す。)
上記式(I)乃至(V)に該当する化合物は、次の文献に示す公知の有機化学合成法(SYNTHESIS,9,1512−1520, 2010)などにより得ることができ、例えば、5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンの場合は3−(tert−ブチルジメチルシロキシ)ブロモベンゼンを基質としてスワーン酸化、ウィッティヒ反応を含む7つの反応を用いることで調製することが可能である。
また、式(I)乃至(VI)の化合物は、上記非特許文献7−9に示す腸内微生物を用いた微生物変換法により製造することも可能である。微生物変換法によりカテキン代謝物である式(I)乃至(VI)の化合物を製造する場合、ラットやヒトの腸内微生物を含む糞や盲腸内容物を培養して腸内微生物を増殖させた後、培養菌体を緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁させ、懸濁液に基質となるカテキン類を加えて嫌気条件下でインキュベーションする方法を挙げることができる。また、他の方法としては、「Archive.Microbiol., 196, 681−695, 2014」に記載の、カテキン類を変換する能力を持つ菌株を数種類組み合わせてインキュベーション処理を行ってもよい。
式(I)乃至(VI)で表される化合物の具体例としては、下記表1に記載の化合物が挙げられるが、本発明の範囲は、それらに限定されず、式(I)乃至(VI)で化合物の範囲内であれば、同様の効果が期待できる。
これらの方法において、基質として加えるカテキン類としては、非ガレート型カテキン類である(−)−エピカテキン、(+)−カテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−ガロカテキンや、ガレート型カテキン類である(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレートを挙げることができ、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキン、(+)−カテキンを好適に挙げることができる。
好適な基質として挙げられた(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキン、(+)−カテキンは、主に緑茶に含まれており、茶の葉、茎、木部、樹皮、根、実、種子やこれらの混合物もしくはそれらの粉砕物から水、熱水、有機溶媒、含水有機溶媒あるいはこれらの混合物等により抽出することにより得られる。茶生葉あるいはその乾燥物から水、熱水、有機溶媒、含水有機溶媒、これらの混合物等を用いて抽出することにより得られ、抽出物自体の他に、その精製物等があり、形態的には液体、固体(粉末を含む)の別を問わない。
式(I)〜(VI)の化合物は、これらのうち少なくとも一種を含有する医薬品とすることもできる。また、式(I)〜(VI)の化合物は、これらのうち少なくとも一種を含有する医薬部外品とすることもできる。人体に取り込む際には、液状、粉末状、顆粒状にして取り込むことができる。
具体的には、薬学的に許容される担体を添加して製剤とすることができ、投与目的や投与経路等に応じて、錠剤、カプセル剤、注射剤、点滴剤、散剤、座剤、顆粒剤、軟膏剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、クリーム剤等にすることができる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。
対象となる食品の種類は、ジュース、清涼飲料水、茶などの飲料、パンや餅などの加工食品、あめなどの菓子類、カップラーメンなどのインスタント食品、バター、サラダ油などの油脂類、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、醤油やみりんなどの調味料、ふりかけ、みそなどの広範な飲食品に含ませることができる。また、サプリメントとして提供することができる。
カテキン代謝物の製造例
カテキン代謝物として、上記式(I)〜(VI)で表される化合物を以下製造例1から18の方法で製造した。表1にそれぞれの化合物の化合物名を示す。
[実施例1]
(化合物の製造例)
製造例1:エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株および大腸菌K12株の共存下での(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ib)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株(理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室より購入)を30mLのGAMブイヨン((組成(1L中):ペプトン10g、ダイズペプトン3g、プロテオーゼペプトン10g、消化血清末13.5g、酵母エキス5g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖3g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3g、溶性デンプン5g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、pH7.1、日水製薬株式会社製)に植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株(ME9012:NBRPナショナルバイオリソースプロジェクトより購入)及びフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株(American Type Culture Collectionより購入)は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。(+)−カテキン250mgを含む300mLのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。無菌的に培養液1mLをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して菌体を除去し、上清をLC/MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計LCQDecaXPplusサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)分析することで(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。その後、さらに上記ATCC49531株の前培養液を加えて37℃で48時間嫌気培養を行い、(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールを(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンおよび(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸に変換を行った後、無菌的に培養液1mLをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して菌体を除去し、上清をLC/MS分析に供して(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンおよび(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸の生成を確認した。LC/MS分析条件を以下に記載する。
機器:高速液体クロマトグラフ質量分析計LCQDecaXPplus(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
カラム:CAPCELLPAK C18 MG(2.0i.d.×100.0mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速:0.2mL/分、カラム温度:40℃、溶媒A;水:アセトニトリル:酢酸(100:2.5:0.1 容量比(v/v/v))、溶媒B;水:アセトニトリル:メタノール:酢酸(35:2.5:65:0.1 容量比(v/v/v/v)、グラジエント;0分:A100% B0%、3分:A100% B0%、25分:A0% B100%、25.1分:A100% B0%、33分:A100% B0%、検出:PDA及び質量分析計、インターフェース:ESI、ポラリティ:ネガティブとした。
(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸及び(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンの生成を確認した培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。上清に塩酸を加えpH2.0に調整した後、37℃で約一晩インキュベーションし、培養液中に含まれる5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸を(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンに変換した。培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。200mLの酢酸エチルで3回抽出した後、有機溶媒層をエバポレーターで減圧濃縮乾固した。約20mLの5%メタノール水溶液に溶解し、分取HPLC(高速液体クロマトグラフィー)に供した。分取HPLC条件は以下に記載する。
カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速15mL/分、溶媒A;アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:5:90:0.3 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:メタノール:水:酢酸(5:65:30:0.5 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A80% B20%、5分:A80% B20%、20分:A10% B90%、25分:A10% B90%、26分:A80% B20%、35分:A80% B20%、検出:UV270nmとした。
分取した画分を、上記のLC/MS分析と同条件で分析し、目的とする(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンが含まれる画分を確認した。エバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に含まれる酸を除去するために、5mLの純水を加えて減圧下濃縮乾固する操作を3回繰り返し、溶液中の酸を完全除去した後、凍結乾燥に供した。その結果、(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ib)を120mg得た。
製造例2:エガーテラ・レンタJCM9979株、フラボニフラクター・プラウティ(ユウバクテリウム・プラウティ)ATCC29863株、及び大腸菌K12株の共存下での(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ic)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株及びフラボニフラクター・プラウティ(ユウバクテリウム・プラウティ)ATCC29863株は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。(−)−エピガロカテキン290mgを含む300mLのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去し、上清を製造例1記載の方法と同様にLC/MS分析に供して(S)−1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。
次に、上記のフラボニフラクター・プラウティATCC29863株の前培養液を、(S)−1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した前述の培養液に加えて37℃で48時間嫌気培養を行った。その後、培養液1mLをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)に供し、得られた上清を製造例1記載の方法と同様のLC/MS分析に供して(R)―5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンおよび(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸の生成を確認した。
上記の(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンの生成を確認した培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。得られた上清に塩酸を加えてpH2.0に調整し、37℃で約一晩インキュベートし、培養液中に含まれる(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸を(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンに変換した。200mLの酢酸エチルで3回抽出し、酢酸エチル層をエバポレーターにより濃縮後、得られた濃縮液を適量の5%メタノール水溶液に溶解し、製造例1記載の分取HPLC方法に準じて精製を行った。
分取後に分画した画分を、製造例1記載のLC/MS分析と同条件で分析し、目的とする(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンが含まれる画分を確認した。その後、分取液をエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に5mLの純水を加えて再度濃縮乾固する操作を3回繰り返して画分中の酸を完全除去した。乾固物に少量の純水を加えて溶解後、凍結乾燥し、(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ic)145.0mgを得た。
製造例3:エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株の共存下での(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Id)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株をそれぞれ30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。(−)−エピガロカテキン221.4mgを含む同培地100mLに上記2菌株の培養液を加え、37℃で3日間嫌気培養を行った。高速遠心分離(15000×g、10分間、10℃)により菌体を除去した後、得られた上清にリン酸を添加してpH1.5に調整した。この溶液に100mLの酢酸エチル:ブタノール(1:1、v/v)を加えてよく混合した。遠心分離機(5000×g、5分間)で2層に分けた後、有機溶媒層を回収した。この抽出操作を3回繰り返し行った。合一した有機溶媒層(300mL)に等量(300mL)の0.1M炭酸ナトリウム水溶液(0.1%アスコルビン酸ナトリウムを含む)を加えよく混合した後、遠心分離機(5000×g、5分間)で有機溶媒層と水層に分けた。有機溶媒層はエバポレーターで濃縮乾固後に約20mlの5%メタノール水溶液に溶解し、製造例1記載の方法と同条件で分取HPLCに供した。分取HPLCで分画後に製造例1記載のLC/MS分析と同条件で分析し、目的とする(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Id)31mgを得た。
製造例4:エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株の共存下での(−)−エピガロカテキンからの(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVd)の製造方法
製造例3記載の0.1M炭酸ナトリウム水溶液(0.1%アスコルビン酸ナトリウムを含む)に酸を加えてpHを7.0に調整後、約30mLになるまで減圧下で濃縮した。この濃縮液に5倍量のエタノールを添加し、高速遠心分離(15000×g、15分、4℃)で不溶物を除去した。得られた上清をさらに減圧下で約1mLになるまで濃縮し、2M塩酸でpH2.0−3.0に調整した。この溶液を分取HPLCに供した。分取HPLCの条件を以下に記載する。
カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速9.5mL/分、温度40℃、溶媒A;アセトニトリル:メタノール:水(5:5:90 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:メタノール:水(5:60:35 容量比(v/v/v))、グラジエント;A80% B20%のアイソクラティック、検出:UV230nmとした。
分取後、(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸を含む画分はさらに陽イオン交換処理を行った。(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸を含む画分(50mL)に、1/2量の純水(25mL)を添加後、減圧下で濃縮し、溶液中の溶媒を除去して水溶液にした。この水溶液を純水で平衡化した陽イオン交換樹脂(ダイアイオンSK1B ナトリウム型、10×65mm)に通液し、さらに純水で溶出した。得られた溶液を減圧濃縮し凍結乾燥した結果、(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVd)のナトリウム塩65mgを得た。
製造例5:有機合成方法による5−(3−ヒドロキシフェニル)吉草酸(化合物IIa)の製造方法
[3−(エトキシカルボニル)プロピル]−トリフェニルホスホニウムブロミド3.4g(7.4mmol)にテトラヒドロフランを20mL加えて脱気し、氷冷下にて20分間攪拌した。次に、1.9Mナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液を5.0mL加えてアルゴン置換し、氷冷下にて1時間攪拌した。さらに、1.1g(5.18mmol)のメタ−ベンジルオキシベンズアルデヒドを10mLのテトラヒドロフランに溶解し、反応液に加えて室温にて3時間攪拌した。続いて、5%クエン酸水溶液を10mL加えて反応停止させ、ジエチルエーテル50mLで3回抽出し、ジエチルエーテル層を水50mL、飽和重曹水50mL、飽和食塩水50mLの順で洗浄した。ジエチルエーテル層に硫酸ナトリウムを加えて脱水後、硫酸ナトリウムをろ別し、得られたろ液をエバポレーターで減圧濃縮した。濃縮液にヘキサン/ジエチルエーテル=150/50(容量比、以下「v/v」と表記する。)混合溶液を加えて一晩放置し、生成した不溶物をろ過することにより得られたろ液を再度減圧濃縮し、濃縮残渣にヘキサン/酢酸エチル=80/20(v/v)混合溶液を加えてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。最後に、分画液をエバポレーターで減圧濃縮することにより、5−(3−ベンジルオキシフェニル)−4−ペンテン酸エチルを1.02g(3.28mmol、収率63.3%)得た。
得られた5−(3−ベンジルオキシフェニル)−4−ペンテン酸エチルの全量(3.28mmol)をメタノール2mLとテトラヒドロフラン2mLに溶解させ、3M水酸化カリウム水溶液を2mL加えて室温にて8時間攪拌した。次に、2M塩酸を加えて溶液をpH4.0に調整し、水を加えて10mLにした後、酢酸エチル10mLで3回抽出した。得られた酢酸エチル層を合一し、水10mL、飽和食塩水10mLの順で洗浄した。酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水後、硫酸ナトリウムをろ別し、得られたろ液をエバポレーターで減圧濃縮することで5−(3−ベンジルオキシフェニル)−4−ペンテン酸を937.2mg(3.27mmol、収率99.0%)得た。
得られた5−(3−ベンジルオキシフェニル)−4−ペンテン酸の全量(3.27mmol)を酢酸エチル8mLに溶解させ、溶液にパラジウムカーボン(10wt%含水品)[Palladium,10wt%(dry),on carbon powder,wet]を301.0mg加えてアルゴン置換し、水素ガス供給下、室温で6.5時間攪拌させた。次に、反応液をろ過し、ろ液をエバポレーターで減圧濃縮して得られた濃縮残渣をアセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))で溶解し、分取HPLCに供した。分取HPLCの条件を以下に記載する。
使用カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速:9.5mL/分、カラム温度:40℃、溶媒A;アセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:水:ギ酸(80:20:0.1 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A70% B30%、3分:A70% B30%、10分:A0% B100%、13分:A0% B100%、13.5分:A70% B30%、18分:A70% B30%、検出:UV280nmとした。
分画したフラクションをエバポレーターで減圧濃縮することにより、5−(3−ヒドロキシフェニル)吉草酸(化合物IIa)の精製物を445.2mg(2.29mmol、収率44.3%)得た。
製造例6:有機合成方法による5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)吉草酸(化合物IIb)の製造方法
[3−(エトキシカルボニル)プロピル]−トリフェニルホスホニウムブロミド3.4g(7.4mmol)にテトラヒドロフランを20mL加えて脱気し、氷冷下にて20分間攪拌した。次に、1.9Mナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液を5.0mL加えてアルゴン置換し、氷冷下にて1時間攪拌した。さらに、0.85g(2.68mmol)の3,4−ジベンジルオキシベンズアルデヒドを10mLのテトラヒドロフランに溶解し、反応液に加えて室温にて3時間攪拌した。以下製造例4と同様に調製し、5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)吉草酸(化合物IIb)の精製物92.1mg(0.44mmol、収率16.4%)を得た。
製造例7:エガーテラ・レンタJCM9979株とフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株および大腸菌K12株の共存下での(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVa)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株及びフラボニフラクター・プラウティ(クロストリジウム・オルビスシンデンス)ATCC49531株は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。(+)−カテキン250mgを含む300mLのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。無菌的に培養液1mLをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して菌体を除去し、上清をLC/MS分析することで(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。その後、さらに上記ATCC49531株の前培養液を加えて37℃で48時間嫌気培養を行い、(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールを(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンおよび(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸へ変換した。なお、無菌的に培養液1mLをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して菌体を除去し、上清を製造例1記載のLC/MS分析と同条件で分析に供して(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンおよび(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸の生成を確認した。
(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸及び(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンの生成を確認した培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。上清にリン酸を加えpH3.5に調整し、100mLの酢酸エチルを加え、(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸及び(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンを抽出した。有機溶媒層を回収し、水層に再度酢酸エチル100mLを加えて抽出を行った。この抽出を3回繰り返し行った。回収した酢酸エチル層を合一し、減圧下で濃縮乾固した。乾固物に50mLの純水を加えて溶解し、1Mの炭酸ナトリウム水溶液を適量加えてpH10.5に調整した。室温で20時間放置し、(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンを(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸に変換した。2M塩酸を適量加えてpH7.0付近に調整した後、減圧下で濃縮を行った。5mL程度まで濃縮した後、塩酸で再度pHを2〜5に調整した。この濃縮液を高速遠心分離(5000×g、10分、4℃)後、上清を製造例4と同様の条件で分取HPLCに供した。
得られた(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸画分(約50mL)に1/2量の純水(25mL)を添加後、減圧下で濃縮し、溶液中の溶媒を除去して水溶液にした。この水溶液を純水で平衡化した陽イオン交換樹脂(ダイアイオンSK1Bナトリウム型、10×65mm)に通液し、さらに純水で溶出した。得られた溶液を減圧濃縮し凍結乾燥した結果、(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVa)のナトリウム塩95mgを得た。
製造例8:エガーテラ・レンタJCM9979株およびフラボニフラクター・プラウティ(ユウバクテリウム・プラウティ)MT42(受託番号FERM P−21765)株の共存下でのエピカテキンからの(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVb)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。またMT42株は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養した。(−)−エピカテキン215mgを含む300mLのGAMブイヨンに上記2株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養して変換反応を行い、(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸および(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−γ―バレロラクトンを生成させた。培養液を高速遠心分離(15000×g、10分、10℃)して、菌体を除去後、上清に塩酸を加えpH3.5に調整した。この上清液を300mLの酢酸エチルで3回抽出し、酢酸エチル層を減圧下で濃縮乾固した。
乾固物に30mLの純水を加えて溶解し、1Mの炭酸ナトリウム水溶液を適量加えてpH10.5に調整した。室温で20時間放置し、(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンを(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸に変換した。2M塩酸を適量加えてpH7.0付近に調整した後、減圧下で濃縮を行った。10mL程度まで濃縮した後、塩酸で再度pHを2〜5に調整した。この濃縮液を高速遠心分離(15000×g、10分、4℃)後、上清を製造例4記載の分取HPLCに供した。
得られた(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸画分(約50mL)に1/2量の純水(25mL)を添加後、減圧下で濃縮し、溶液中の溶媒を除去して水溶液にした。この水溶液を純水で平衡化した陽イオン交換樹脂(ダイアイオンSK1B ナトリウム型、10×65mm)に通液し、さらに純水で溶出した。得られた溶液を減圧濃縮し凍結乾燥した結果、(R)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVb)のナトリウム塩95mgを得た。
製造例9:エガーテラ・レンタJCM9979株およびフラボニフラクター・プラウティ(ユウバクテリウム・プラウティ)MT42(FERM P−21765)株の共存下でのカテキンからの(S)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVc)の製造方法
基質に(+)−カテキンを用いて製造例8の方法に準じて調製及び分取精製を行い、(S)−5−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(化合物IVc)のナトリウム塩90mgを得た。
製造例10:有機合成方法による3−(3−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(化合物IIIa)の製造方法
トランス−メタ−クマル酸5.53g(33.7mmol)を酢酸エチル2mLとメタノール2mLに溶解させ、パラジウムカーボン(10wt%含水品)を1.0g加えてアルゴン置換した後、水素ガス供給下、室温で18.5時間攪拌させた。攪拌後は反応液をろ過し、得られたろ液をエバポレーターで減圧濃縮し、濃縮残渣をアセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))で溶解して分取HPLCに供した。分取HPLCの条件を以下に記載する。
使用カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、(株)資生堂社製)、流速:9.5mL/分、カラム温度:40℃、溶媒A;アセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:水:ギ酸(80:20:0.1 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A80% B20%、3分:A80% B20%、12分:A0% B100%、15分:A0% B100%、15.5分:A80% B20%、18.5分:A80% B20%、検出:UV280nmとした。
分画したフラクションをエバポレーターで減圧濃縮することにより、3−(3−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(化合物IIIa)の精製物を5.35g(32.2mmol、収率95.7%)得た。
製造例11:有機合成方法による3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)プロピオン酸(化合物IIIb)の製造方法
3,4−ジヒドロキシケイ皮酸5.50g(30.5mmol)を用いて製造例10の方法に準じて調製及び分取精製を行い、3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)プロピオン酸(化合物IIIb)の精製物を5.20g(28.6mmol、収率93.6%)得た。
製造例12:アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株(受託番号FERM P−21738)存在下での(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIc)の製造方法
アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。(−)−エピカテキン250mgを含む300mLのGAMブイヨンに上記菌株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLを無菌的にサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去した。上清を製造例1に記載の条件でLC/MS分析に供し、(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。
上記の(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。得られた上清に塩酸を加えてpH3.0に調整し200mLの酢酸エチルで3回抽出し、酢酸エチル層をエバポレーターにより濃縮後、得られた濃縮液を適量の5%メタノール水溶液に溶解し、製造例1記載の分取HPLC方法に準じて精製を行った。
分取後に分画した画分を、製造例1記載のLC/MS分析と同条件で分析し、目的とする(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールが含まれる画分を確認した。その後、分取液をエバポレーターで濃縮乾固し、乾固物に5mLの純水を加えて再度濃縮乾固する操作を3回繰り返して画分中の酸を完全除去した。乾固物に少量の純水を加えて溶解後、凍結乾燥を行い、(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIc)を110mg得た。
製造例13:アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株(受託番号FERM P−21738)存在下での(R)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VId)の製造方法
アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。(+)−カテキン250mgを含む300mLのGAMブイヨンに上記菌株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLを無菌的にサンプリングし、製造例12の記載の方法に準じて抽出及び分取精製を行い、(R)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VId)を100mg得た。
製造例14:エガーテラ・レンタJCM9979株及び大腸菌K12株の共存下での(S)−1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIe)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。大腸菌K12株は、10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養した。(−)−エピガロカテキン423mgを含む400mLのGAMブイヨンに上記2菌株の培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLをサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去し、上清を製造例1と同様の条件でLC/MS分析することで(S)−1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。
培養液は製造例12に記載の方法に準じて抽出及び分取精製を行い、(S)−1−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIe)195.2mgを得た。
製造例15:アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株(受託番号FERM P−21738)及び大腸菌K12株の共存下での(S)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIb)の製造方法
アドラークルーツィア・エクオーリファシエンスMT4s−5株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養した。大腸菌K12株は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養した。(−)−エピカテキン350mgを含む300mLのGAMブイヨンに上記2菌株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLを無菌的にサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去した。上清を製造例1に記載の条件でLC/MS分析に供し、(S)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。
培養液は製造例12に記載の方法に準じて抽出及び分取精製を行い、(S)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIb)を120mg得た。
製造例16:エガーテラ・レンタJCM9979株と大腸菌K12株の共存下での(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIa)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株、大腸菌K12株をそれぞれ20mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。(+)−カテキン150mgを含む200mLのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。無菌的に培養液1mLをサンプリングし、高速遠心分離(15000×g、10分)して菌体を除去し、上清を製造例1記載の方法と同様にLC/MS分析に供して(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。
培養液は製造例12に記載の方法に準じて抽出及び分取精製を行い、その結果、(R)−1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(化合物VIa)75mgを得た。
製造例17:有機合成方法による5−(3−ヒドロキシフェニル)レブリン酸(化合物V)の製造方法
1.0mLのアセトンに、(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン48.7mg(0.25mmol)と炭酸カリウム105mg(0.75mmol)を加え、室温で30分間攪拌させた。次に、クロロメチルメチルエーテルを80.4μL(1.00mmol)加え、室温で2日間攪拌させた。攪拌後、5%クエン酸水溶液を加えて溶液をpH4.0に調整し、水を3mL加えた後、クロロホルム5mLで3回抽出した。クロロホルム層を水5mLと飽和食塩水5mLで洗浄後、エバポレーターで減圧濃縮し、(R)−5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)−γ−バレロラクトンを63.3mg(0.24mmol、収率96.0%)得た。
得られた(R)−5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)−γ−バレロラクトンの全量(0.24mmol)をメタノール1mLに溶解させ、3M水酸化カリウム水溶液を100μL加えて室温で1時間攪拌した。次に、1Mギ酸−ナトリウムバッファーを加えて溶液をpH4.0に調整し、水を3mL加えた後、酢酸エチル4mLで3回抽出した。さらに、酢酸エチル層にトリエチルアミンを100μL加え、エバポレーターで減圧濃縮することにより、5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)吉草酸のトリエチルアミン塩を58.4mg(0.23mmol、収率95.0%)得た。
ジクロロメタン3mLに5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)吉草酸のトリエチルアミン塩58.4mg(0.23mmol)とピリジン80μL、デス−マーチンペルヨージナン179.0mg(0.41mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。次に、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液を3mL加えて30分間攪拌し、5%クエン酸水溶液を加えて溶液をpH3.0に調整し液量を10mLにした後、ジクロロメタン10mLで3回抽出した。抽出後、ジクロロメタン層を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液10mL、飽和食塩水10mLの順で洗浄し、ジクロロメタン層を硫酸ナトリウムで脱水した。脱水後、硫酸ナトリウムをろ別して得られたろ液をエバポレーターで減圧濃縮し、濃縮残渣をアセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))で溶解して分取HPLCに供した。分取HPLCの条件を以下に記載する。
使用カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速:9.5mL/分、カラム温度:40℃、溶媒A;アセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:水:ギ酸(80:20:0.1 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A60% B40%、3分:A60% B40%、13分:A0% B100%、16分:A0% B100%、16.5分:A60% B40%、20分:A60% B40%、検出:UV280nmとした。
分画したフラクションをエバポレーターで減圧濃縮し、5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)レブリン酸を33.8mg(0.13mmol、収率58.3%)得た。
得られた5−(3−メトキシメチルオキシフェニル)レブリン酸の全量(0.13mmol)にジクロロメタン1.5mLと水0.5mL、トリフルオロ酢酸1mLを加え、室温で1時間攪拌させた。攪拌後、反応液をエバポレーターで減圧濃縮し、得られた濃縮残渣を1mLのアセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))で溶解して分取HPLCに供した。分取HPLC条件を以下に記載する。
使用カラム:CAPCELLPAK MG(20i.d.×150mm、5μm、((株)資生堂社製)、流速:9.5mL/分、カラム温度:40℃、溶媒A;アセトニトリル:水:ギ酸(5:95:0.1 容量比(v/v/v))、溶媒B;アセトニトリル:水:ギ酸(80:20:0.1 容量比(v/v/v))、グラジエント;0分:A90% B10%、3分:A90% B10%、15分:A0% B100%、18分:A0% B100%、18.5分:A90% B10%、22分:A90% B10%、検出:UV280nmとした。
分画したフラクションをエバポレーターで減圧濃縮することにより、5−(3−ヒドロキシフェニル)レブリン酸(化合物V)の精製物を11.6mg(0.06mmol、収率22.0%)得た。
得られた精製物を1H−NMR(proton−nuclear magnetic resonance)で分析したところ、以下のケミカルシフト値が得られ、目的の化合物であることを確認した。
1H−NMR(400MHz,重水素化メタノール):δ7.14(1H,t,J=7.6Hz),6.70(3H,d,J=1.1Hz),3.70(2H,s),2.78(2H,t,J=6.3Hz),2.52(2H,t,J=6.5Hz)
製造例18:エガーテラ・レンタJCM9979株、ユウバクテリウム・プラウティ(フラボニフラクター・プラウティ)MT42株、及び大腸菌K12株の共存下での(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ia)の製造方法
エガーテラ・レンタJCM9979株を30mLのGAMブイヨンに植菌し、37℃で48時間嫌気培養し、前培養液とした。大腸菌K12株およびフラボニフラクター・プラウティ(ユウバクテリウム・プラウティ)MT42株は10mLのGAMブイヨンで24時間嫌気培養し、前培養液とした。(−)−エピカテキン200mgを含む200mLのGAMブイヨンにJCM9979株、大腸菌K12株の前培養液を加え、37℃で48時間嫌気培養した。培養液1mLを無菌的にサンプリングして高速遠心分離(15000×g、10分)により菌体を除去し、上清を製造例1記載の条件でLC/MS分析に供して1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オールの生成を確認した。その後、さらに上記MT42株の前培養液を加えてさらに37℃で48時間嫌気培養を行い、(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸及び(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンへの変換を行った。培養液を高速遠心分離(10000×g、20分間、10℃)し、菌体を除去した。得られた上清に塩酸を加えてpH2.0に調整し、37℃で約一晩インキュベートし、培養液中に含まれる(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸を(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトンに変換した。製造例1記載の方法に準じて酢酸エチル抽出および分取HPLCによる精製を行った。その結果、(R)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ia)を87mg得た。
[実施例2]
試験例:ラット骨格筋由来L6筋管細胞を用いた2−デオキシグルコース細胞内取り込み量測定試験
(L6細胞培養)
まず、ラット骨格筋由来L6細胞(住友大日本製薬株式会社より購入)を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチジャパン合同会社より購入)含有イーグル最小必須培地(MEM培地、シグマアルドリッチジャパン合同会社より購入)中で、37℃、5%(v/v)CO2条件下において培養した。つぎに、L6細胞を96穴マルチプレートに播種し、2%(v/v)ウシ胎児血清MEM培地中で5〜6日間インキュベーションし、L6筋管細胞に分化誘導した。そして、培地を無血清MEM培地に置き換え、16〜18時間脱感作させた。
(2−デオキシグルコースの細胞内取り込み量測定試験)
製造例1〜製造例18で製造した各化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)にそれぞれ溶解後、L6筋管細胞を培養した無血清MEM培地に添加し(終濃度3μM)、L6筋管細胞に化合物を4時間作用させた。陰性対照としてDMSO、陽性対照としての0.1μMインスリンを同様に作用させた。L6筋管細胞を0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)含有Krebs Ringer HEPES緩衝液(KRH;50mM HEPES、pH7.4、37mM NaCl、4.8mM KCl、1.85mM CaCl2、1.3mM MgSO4)を用いて2回洗浄した後、0.1%(w/v)BSA含有KRH緩衝液中に溶解した1mMの2−デオキシグルコース(2DG)を加え、37℃で20分間加温した。
再びL6筋管細胞を0.1%(w/v)BSA含有KRH緩衝液で2回洗浄し、0.1N NaOHを50μL加えた。プレートを65℃で10分間加温し、マイクロプレートシェイカー上で1分間混和し、L6筋管細胞を溶解させた。85℃、2時間で風乾し、0.1N塩酸を50μL加えて乾固物を溶解および中和した。さらに200mM2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール塩酸塩(TEA)緩衝液(pH8.1)50μLを加えることで細胞破砕液を調製した。細胞破砕液30μLに対し、アッセイカクテル(50mMのTEA50mM KCl、pH8.1、0.1%(v/v)BSA、100mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、0.2units/mLジアホラーゼ、2μMレザズリンナトリウム塩、15units/mlグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH))10μLを加え、37℃で60分間インキュベートした。レザズリンから生成したレゾルフィン量を、マルチプレートリーダー(Wallac 1420 ARVOsx)にて励起波長(530nm)、蛍光波長(570nm)における蛍光強度として測定した。検量線は、細胞破砕液の代わりに2−デオキシグルコース−6−リン酸(2DG6P)溶液を用いて測定した値から作成し、これを用いてL6筋管細胞に取込まれた2DG量を算出した。測定原理の模式図を図1に示す。
実施例2の結果を図2A、図2B、図2Cに示す。なお、使用したKrebs Ringer HEPES緩衝液及びアッセイカクテルの詳細は、表2、表3に示す。また統計処理は、Dunnett’s testを利用した。
図2A、図2B、図2Cに示した様に、本発明の化合物で、L6筋管細胞のグルコース取り込み活性を有意に促進したことが確認できた。
図2Aに記載した化合物の中では、(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ic)、(R)−5−(3,4、5−トリヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Id)、5−(3−ヒドロキシフェニル)吉草酸(IIa)、(R)−5−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(IVd)において、コントロールと比較して特に高い糖取り込み活性が見られた(有意水準**p<0.01)。
また、図2Bに記載した化合物においては3−(3−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸(IIIa)、(S)−1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)−プロパン−2−オール(VIc)でコントロールと比較して、特に高い糖取り込み活性が見られた(有意水準**p<0.01)。
また、図2Cに記載した化合物においては(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ib)、(S)−5−(3−ヒドロキシフェニル)−4−ヒドロキシ吉草酸(IVa)でコントロールと比較して、特に高い糖取り込み活性が見られた(有意水準**p<0.01)。
[実施例3]
ウエスタンブロット法による細胞膜におけるGLUT4発現量の測定
(細胞培養)
ラット骨格筋由来L6細胞を、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地中で、37℃、5%(v/v)CO2条件下において培養した。次に、L6細胞を60mmディッシュに播種し、2%(v/v)ウシ胎児血清MEM培地中で7〜8日間インキュベーションし、L6筋管細胞に分化誘導した。そして、培地を無血清MEM培地に置き換え、16〜18時間脱感作させた。
(細胞膜タンパク質画分の調製)
上記無血清MEM培地に、無血清MEM培地に、終濃度0.3μM、1μM、3μMとなるように(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ic)、および比較として既に糖取り込み促進作用を有することが明らかとなっている(−)−エピガロカテキンガレート(EGCg)1μM(終濃度)を添加し、L6筋管細胞に15分作用させた。陰性対照として溶媒として使用したDMSO、陽性対照としての0.1μMインスリンも同様に添加し、L6筋管細胞に15分作用させた。
L6筋管細胞をKrebs Ringer HEPES緩衝液(50mM HEPES、pH7.4、137mMのNaCl、4.8mM KCl、1.85mM CaCl2、1.3mM MgSO4)を用いて2回洗浄した後、0.1%NP−40含有緩衝液A(50mM Tris−HCl、pH8.0、10mMフッ化ナトリウム(NaF)、1mMバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)、5μg/mLアプロチニン、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、500μMジチオトレイトール(DTT)、5μg/mLロイペプチン)120μLを加えてセルスクレーパーで剥ぎ、マイクロチューブに回収した。そして、これをマイクロチューブホモジナイザーで摩砕し、27ゲージの注射針に3回通して、不溶物を除いて細胞溶解液を得た。
得られた細胞溶解液を3000rpm、10分間、4℃で遠心分離し、上清を除いた。沈殿にKRH緩衝液を200μL加え、3000rpm、10分間、4℃で遠心分離した。
上清を除き、再び沈殿にKRH緩衝液を200μL加え、3,000rpm、10分間、4℃で遠心分離した。さらに、上清を除き、1%NP−40含有緩衝液Aを40μL加え、細胞膜画分とした。画分を1時間放置し、15,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、得られた上清を細胞膜タンパク質画分として、下記するウエスタンブロッティングに供した。
(細胞全タンパク質画分)
L6筋管細胞を培養させた無血清MEM培地に、終濃度0.3μM、1μM、3μMとなるように(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ic)、及び比較として1μM EGCgをそれぞれ添加し、L6筋管細胞に上記物質を15分作用させた。陰性対照として溶媒として使用したDMSO、陽性対照としての0.1μM インスリンも同様に添加し、L6筋管細胞に15分作用させた。L6筋管細胞を、KRH緩衝液を用いて2回洗浄した後、RIPAバッファー(10 mM Tris−HCl、pH8.0、150mM塩化ナトリウム、1% NP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10mM NaF、1mM Na3VO4、5 μg/mLアプロチニン、1mM PMSF、500μM DTT、5μg/mLロイペプチン)120μLを加えてセルスクレーパーで剥ぎ、マイクロチューブに回収した。そしてこれをマイクロチューブホモジナイザーで摩砕し、1時間氷冷の後に、15000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、得られた上清を細胞全タンパク質画分として、下記のウエスタンブロッティングに供した。
(ウエスタンブロッティング)
上記の回収した画分を、250mM Tris−HCl、20%(v/v)の2−メルカプトエタノール、140mMSDS、44%(v/v)グリセロール、750μMブロモフェノールブルーを含む4×SDSバッファーにて希釈した後、タンパク質のSDS化及びタンパク質中のジスルフィド結合の還元処理を効率よく行わせるために100℃で5分間加熱した。
SDS化したサンプルを、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した。
SDS−PAGEにより分離したタンパク質を、セミドライ式の転写装置を用いて、2mA/cm2となるよう90分間Polyvinylidene fluoride transfer membrane(PVDF膜、GEヘルスケアジャパン株式会社)上に転写した。
0.05%(v/v)のTween20及び150mM塩化ナトリウムを含むTris−HCl塩緩衝液、pH8.0(TBST)でPVDF膜を洗浄後、TBSTとBlocking One(ナカライテスク株式会社)を1:1で混合したBlocking液を用いて室温で1時間振とう処理した。
TBSTで20倍希釈したBlocking液を用いて希釈した一次抗体希釈液を用いて1時間、室温でPVDF膜を処理した。この膜を5分間TBSTで洗浄した。なお、この操作洗浄操作を5回繰り返した。続いて、上記の処理膜を、一次抗体と同様に希釈した二次抗体希釈液を用いて1時間、室温で処理した。
二次抗体で処理した膜を、上記と同様TBST洗浄5分間で5回繰り返した後、イムノスターLD(和光純薬工業株式会社)を用いて5分間、室温で処理した。この処理によって得られた膜上の特異的なタンパク質の検出には、化学発光撮影装置(Light−Capture II(ATTO株式会社、東京、日本))を用いた。
上記の方法により、(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(化合物Ic)の細胞膜タンパク質画分でのGLUT4の発現量、及び細胞全タンパク質画分での、インスリンからのシグナル伝達に関わる非定形プロテインキナーゼC(aPKC)、プロテインキナーゼB(Akt)及びAMPキナーゼ(AMPK(AMP:アデノシン一リン酸))のリン酸化に与える影響を調べた。
GLUT4の細胞膜移行をウエスタンブロット法により確認した結果を図3の左列に示した。本研究では細胞膜画分でのGLUT4発現を評価するため、細胞膜で恒常的に発現するGLUT1を内在性コントロールとして使用した。GLUT1のバンドの濃さが全てのサンプルにおいてほぼ同等であったことから、ウエスタンブロットにおける実験操作に問題がないことを確認し、各化合物処理区におけるGLUT4のバンドの濃さから細胞膜画分でのGLUT4発現量を評価した。
本試験の結果、細胞膜におけるGLUT4の発現は、化合物(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ic)の添加によって増大していることが確認された。特に3μMの濃度では、ポジティブコントロールとして用いたインスリンより弱い発現であったものの、ネガティブコントロールのDMSOと比較して強い発現を示しており、当該化合物が細胞膜へのGLUT4のトランスロケーションを促進したと考えられた。
(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ic)におけるGLUT4発現の作用機序を検討する目的で、GLUT4トランスロケーションに関わる伝達経路である、aPKC、Akt、AMPKのリン酸化による活性型への変換の有無についてウエスタンブロット法により確認を行った。その結果を図3右列に示した。Aktのリン酸化により活性化したp−Aktの473位のセリン残基(p−AktSer473)画分でのバンドはポジティブコントロールであるインスリン処理区では確認されたが、化合物(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ic)処理区では見られなかったことから、当該化合物はAktのリン酸化には作用しないと考えられた。
またaPKCがリン酸化したリン酸化非定形プロテインキナーゼC(p−aPKC)のバンドは、ポジティブコントロールのインスリンと同様に、化合物Icの処理区においても確認できたことから、当該化合物はp−aPKCをリン酸化し、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K/aPKC)シグナル伝達経路を活性化していることが明らかになった。
さらに、AMPKがリン酸化したp−AMPKのバンドも、ポジティブコントロールのEGCgと同程度の発現が化合物Icの処理区において確認されたことから、当該化合物はAMPKのリン酸化に作用することが確認され、AMPKシグナル伝達経路の活性化にも関与していることが明らかになった。
図4にGLUT4トランスロケーションに関わるシグナル伝達経路を示す。GLUT4は細胞内から膜上に移行してグルコースを取り込むが、この膜移行(トランスロケーション)にはインスリン依存性と非依存性のシグナル伝達経路が存在する。
インスリン依存型のシグナル伝達経路としては、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)を介したArt活性化によるシグナル伝達経路および、PI3Kを介したaPKC活性化による経路などが挙げられる。インスリンが筋肉細胞や脂肪細胞表面に存在するインスリン受容体(IR)に結合すると、受容体のチロシンキナーゼがリン酸化され、インスリン受容体基質(IRS)などのチロシン残基がリン酸化される。リン酸化したIRSはPI3Kを活性化し、これによりAktのリン酸化及びaPKCのリン酸化が起こり活性型に変換する。活性型となったAkt及びaPKCは、種々のタンパクをリン酸化し、最終的に筋肉細胞(骨格筋、心筋)や脂肪細胞では細胞内のGLUT4が細胞膜上へ移行し、エキソサイトーシスで細胞膜上に現れて、細胞への糖取り込みが促進される。
一方で、インスリン非依存型経路としてAMPKが提唱されている。骨格筋では、インスリン刺激を介さずに、運動などの刺激によってもGLUT4の細胞膜移行は促進されてグルコースの取り込みが増加する。その作用機構としてAMPKリン酸化によるシグナル伝達経路が考えられており、活性型AMPKは一酸化窒素合成酵素(NOS)のリン酸化により、細胞内のNO上昇を招き、最終的にGLUT4の細胞膜移行を誘導し、糖取り込みを促進する。
本試験の結果から、EGCgやEGCの腸内細菌分解物である化合物(R)−5−(3,5−ジヒドロキシフェニル)−γ−バレロラクトン(Ic)はインスリン依存的シグナル伝達経路の一部であるPI3K/aPKCシグナル伝達経路、およびインスリン非依存的シグナル伝達経路であるAMPKシグナル伝達経路の2つのシグナル伝達経路を活性化させることにより、筋肉細胞におけるGLUT4のトランスロケーションを促進し、細胞内への糖の取り込みを増加させる可能性が示唆された。