JP6695802B2 - 変異酵素及びその用途 - Google Patents

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Description

本発明は変異酵素及び酵素の改変法に関する。デヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)化されたグルコースオキシダーゼ及びその調製法等が提供される。本出願は、2014年8月29日に出願された日本国特許出願第2014−176042号に基づく優先権、及び2014年11月18日に出願された日本国特許出願第2014−233291号に基づく優先権を主張するものであり、これらの特許出願の全内容は参照により援用される。
電気化学的バイオセンサを用いた簡易型の自己血糖測定器が広く用いられている。当該バイオセンサにはグルコースを基質とする酵素であるグルコースオキシダーゼ(以下「GO」と略称する)やグルコースデヒドロゲナーゼ(以下「GDH」と略称する)が利用されている。GOはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点がある一方で、それを用いた測定においては測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けやすく、溶存酸素が測定結果に影響を及ぼすといった問題点が指摘されている。
一方、溶存酸素の影響を受けず且つNAD(P)非存在下でグルコースに作用する酵素としてピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするGDH(以下、「PQQ-GDH」と略称する)が知られている(例えば特許文献1〜3を参照)。しかしながらPQQ-GDHには、(1)PQQが酵素から解離しやすいこと、(2)グルコースに対する選択性が低いこと、及び(3)一般に膜画分に存在していることからその抽出・単離操作に困難を伴うことなどの問題がある。
PQQ-GDHの他、溶存酸素の影響を受けず且つNAD(P)非存在下でグルコースに作用する酵素としてフラビンアデニンジヌクレオチドを補酵素とするGDH(以下、「FAD-GDH」と略称する)が知られている。これまでに、アスペルギルス・オリゼ(非特許文献1〜4、特許文献4)及びアスペルギルス・テレウス(特許文献5)からそれぞれFAD-GDHが取得されているが、これらのFAD-GDHはキシロースに対する反応性が比較的高いため、キシロース負荷試験を受けている者の血糖を測定する場合には、正確性の点で改善の余地がある。尚、実用性を高める等の目的の下、酵素の改変が精力的に試みられている。FAD-GDHの改変を報告する文献を以下に示す(特許文献6〜14)。
一方、キシロースに対する作用性が比較的低い、ムコール属等に由来するFAD-GDHが報告されているが(特許文献15〜20、非特許文献5)、実用性の点から依然として改善の余地がある。
特開2000−350588号公報 特開2001−197888号公報 特開2001−346587号公報 国際公開第2007/139013号パンフレット 国際公開第2004/058958号パンフレット 特開2009−225801号公報 特開2009−225800号公報 特開2009−159964号公報 特開2008−237210号公報 国際公開第2009/084616号パンフレット 国際公開第2010/053161号パンフレット 特開2013−055917号公報 特開2011−152129号公報 特開2011−115156号公報 特許第4648993号公報 特開2013−176364号公報 特開2013−176363号公報 特開2013−116102号公報 特開2013−081399号公報 特許第5435180号公報 国際公開第2011/068050号パンフレット
Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. I. Induction of its synthesis by p-benzoquinone and hydroquinone, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 139, 265-276 (1967). Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. II. Purification and physical and chemical properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 139, 277-293 (1967). Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. III. General enzymatic properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 146, 317-327 (1967). Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. IV. Histidyl residue as an active site, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 146, 328-335 (1967). Heterologous overexpression of Glomerella cingulata FAD-dependent glucose dehydrogenase in Escherichia coli and Pichia pastoris., Sygmund C1, Staudigl P, Klausberger M, Pinotsis N, Djinovic-Carugo K, Gorton L, Haltrich D, Ludwig R., Microb Cell Fact., 10:106(2011) 2009年度 日本薬学会 年会要旨集 巻:129 号:3 ページ:118 演題番号:26Q-pm115 2009年度 日本生化学会 大会要旨集 演題番号:3T5a-5(3P-109)
センサ用途の酵素には、センサの性能評価に重要な指標である「正確な測定値」を与えられることが求められる。測定値の正確さは、使用する酵素の基質特異性と基質親和性の両方に依存する。優れた基質特異性と基質親和性を有する酵素を利用できれば、正確な血糖値の測定が可能になり、酵素の使用量も低減できる。即ち、少量の酵素によって正確な測定が実現可能となる。そこで本発明は、血糖の測定等に利用されるバイオセンサ用の酵素として、基質親和性が向上した、実用性の高い変異酵素を提供することを課題とする。尚、最近、GOの構造を利用してFAD-GDHの立体構造解析を行い、414位グルタミン酸(E414)及び502位アルギニン(R502)が基質認識に重要であることが報告されるとともに(非特許文献6、7)、GOとFAD-GDHの長所を併せ持つ改変型GDH(特許文献21)が開発されたが、基質親和性の改善までには至っていなかった。
実用性の高いGDHを得るためのアプローチとしては大別して(1)既存のGDH(FAD-GDHやPQQ-GDH)を改変する方法と(2)微生物等をスクリーニングする方法の二つがある。これらのアプローチは既に多数の試みがあり(例えば上掲の特許文献6、7)、今後、より有効な酵素の創出に繋がる可能性は低い。この状況に鑑みて本発明者らの研究グループは、上掲の特許文献21で報告した通り、グルコースオキシダーゼ(GO)にはFAD-GDHが抱える上記問題点がないことに着目するとともに、GOとFAD-GDHはアミノ酸配列の相同性が比較的高いことに注目し、GOにGDH活性を付与すること、即ちGOをGDH化するという、新たなアプローチを採用した。その結果、GOをGDH化することに成功し、GDH活性の高い変異型GOを創出し、併せて、GOの変異に有効なアミノ酸位置を特定することにも成功した(特許文献21)。
しかしながら、上記報告において取得できた酵素の基質親和性を検討したところ、変異前のGOよりも基質親和性が低下していた。この事実に鑑み、基質親和性を向上させることがセンサの性能の向上に重要であると考え、検討を進めることにした。鋭意検討の末、改善された基質親和性を有する変異酵素の取得に成功するとともに、基質特異性の向上に有効な変異位置の特定に成功した。
ところで、同種の酵素については構造(一次構造、立体構造)の類似性が高く、同様の変異が同様の効果を生む蓋然性が高いという技術常識に鑑みれば、後述の実施例に示したアスペルギルス・ニガーのGOとの間で実際に構造上の類似性が非常に高いペニシリウム・アマガサキエンス(Penicillium amagasakiense)のGOやその他の微生物由来GOについても、本発明者らが見出した変異手法を適用可能といえる。
以下に示す発明は以上の成果及び考察に基づく。
[1]微生物由来グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる変異酵素:
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸。
[2]置換後のアミノ酸が、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、システイン、バリン又はイソロイシンである、[1]に記載の変異酵素。
[3]置換後のアミノ酸が、アルギニン、グルタミン酸又はグルタミンである、[1]に記載の変異酵素。
[4]置換後のアミノ酸が、アルギニンである、[1]に記載の変異酵素。
[5]微生物由来グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列において、前記(1)のアミノ酸に加えて、以下の(2)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の変異酵素:
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸。
[6]前記(2)のアミノ酸について、置換後のアミノ酸が、グリシン、システイン、プロリン、セリン、グルタミン、アスパラギン又はグルタミン酸である、[5]に記載の変異酵素。
[7]微生物由来グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列が配列番号1、2又は15のアミノ酸配列である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の変異酵素。
[8]配列番号3又は4のアミノ酸配列からなる、[1]に記載の変異酵素。
[9][1]〜[8]のいずれか一項に記載の変異酵素をコードする遺伝子。
[10]配列番号5又は6の塩基配列を含む、[9]に記載の遺伝子。
[11][9]又は[10]に記載の遺伝子を含む組換えDNA。
[12][9]又は[10]に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
[13][11]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[14][1]〜[8]のいずれか一項に記載の変異酵素を用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
[15][1]〜[8]のいずれか一項に記載の変異酵素を含むことを特徴とするグルコース測定用試薬。
[16][15]に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
[17][1]〜[8]のいずれか一項に記載の変異酵素を用いて工業製品又はその原料中のグルコース量を低下させることを特徴とする方法。
[18][1]〜[8]のいずれか一項に記載の変異酵素を含有する酵素剤。
[19]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、変異酵素の設計法:
(i)微生物由来グルコースオキシダーゼである変異対象酵素のアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸を特定するステップ:
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(ii)変異対象酵素のアミノ酸配列を基にして、ステップ(i)で特定されたアミノ酸配列が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を構築するステップ。
[20]ステップ(i)において、前記(1)のアミノ酸に加えて、以下の(2)のアミノ酸を特定する、[19]に記載の設計法:
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸。
[21]微生物由来グルコースオキシダーゼが、アスペルギルス・ニガー又はペニシリウム・アマガサキエンスのグルコースオキシダーゼである、[19]又は[20]に記載の設計法。
[22]グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列が配列番号1又は2のアミノ酸配列である、[21]に記載の設計法。
[23]以下のステップ(I)〜(III)を含む、変異酵素の調製法:
(I)配列番号3又は4のアミノ酸配列、又は[19]〜[22]のいずれか一項に記載の設計法によって構築されたアミノ酸配列をコードする核酸を用意するステップ;
(II)前記核酸を発現させるステップ、及び
(III)発現産物を回収するステップ。
アスペルギルス・ニガー由来GOのアミノ酸配列とペニシリウム・アマガサキエンス由来GOのアミノ酸配列の比較。変異対象のアミノ酸を下線で示した。「*」は同一(identical)を表し、「:」は保存的置換(conserved substitutions)を表し、「.」は半保存的置換(semi-conserved substitutions)を表す。 アスペルギルス・ニガー由来GOの444位アミノ酸(S444)に変異を導入した酵素のGDH活性とGO活性。 アスペルギルス・ニガー由来GOの582位アミノ酸(V582)に変異を導入した酵素のGDH活性とGO活性。 多重変異酵素GOM6(S444R,V582P)のグルコースに対する親和性(Km値の測定結果)。 多重変異酵素GOM6(S444R,V582P)の基質特異性。多重変異体GOM2(D446H,V582P)及び変異前の酵素(アスペルギルス・ニガー由来GO)と比較して示した。 各種アスペルギルス・ニガー由来GOのアミノ酸配列の比較。上から順にgi 110294440(ABG66642.1)(配列番号8)、gi 238801174(ACR56326.1)(配列番号9)、gi 470268262(AGI04246.1)(配列番号10)gi 55975635(AAV68194.1)(配列番号11)、gi 310687275(ADP03053.1)(配列番号12)、gi 393716500(AFN20671.1)(配列番号13)、gi 170676331(ACB30370.1)(配列番号14)、gi 121529(sp P13006.1、GOX_ASPNG)(配列番号15)、gi 13236685(AAF59929.2、AF234246_1)(配列番号16)、gi 656365428(AID16306.1)(配列番号17)、GO-1(配列番号1)。同一のアミノ酸を濃い網掛けで示した。配列間の同一性の高いことがわかる。 図6の続き。 図7の続き。 図8の続き。 各種多重変異酵素のGDH活性とGO活性。アスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号1)の多重変異酵素GOM6(S444R,V582P)、同多重変異酵素GOM7(S444Q,V582P)、同多重変異酵素GOM8(S444E,V582P)、別のアスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号15)の多重変異酵素1cf3M6(S444R,V582P)、ペニシリウム・アマガサキエンス由来GO(配列番号2)の多重変異酵素1pgeM6(N444R,V582P)を比較した。 各種多重変異酵素のグルコースに対する親和性(Km値の測定結果)。アスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号1)の多重変異酵素GOM6(S444R,V582P)、同多重変異酵素GOM7(S444Q,V582P)、同多重変異酵素GOM8(S444E,V582P)、別のアスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号15)の多重変異酵素1cf3M6(S444R,V582P)、ペニシリウム・アマガサキエンス由来GO(配列番号2)の多重変異酵素1pgeM6(N444R,V582P)を比較した。 各種多重変異酵素の基質特異性。アスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号1)の多重変異酵素GOM6(S444R,V582P)、同多重変異酵素GOM7(S444Q,V582P)、同多重変異酵素GOM8(S444E,V582P)、別のアスペルギルス・ニガー由来GO(配列番号15)の多重変異酵素1cf3M6(S444R,V582P)、ペニシリウム・アマガサキエンス由来GO(配列番号2)の多重変異酵素1pgeM6(N444R,V582P)を比較した。
説明の便宜上、本発明に関して使用する用語の一部について以下で定義する。
(用語)
用語「変異酵素」とは、本明細書が開示する手法によって、「基になる酵素」を変異ないし改変して得られる酵素である。「変異酵素」、「変異型酵素」及び「改変型酵素」は置換可能に用いられる。基になる酵素は典型的には野生型酵素である。但し、既に人為的操作が施されている酵素を「基になる酵素」として本発明に適用することを妨げるものではない。尚、「基になる酵素」のことを本明細書では「変異対象酵素」又は「標的酵素」とも呼ぶ。
ある酵素(説明の便宜上A酵素と呼ぶ)を別の酵素(説明の便宜上B酵素と呼ぶ)に近似させること、即ちA酵素の一つ以上の特性をB酵素の対応する特性に近づけるように改変することを「A酵素をB酵素化する」と称する。ここでの「特性」の例は酵素活性(例えばA酵素がグルコースオキシダーゼの場合にはグルコースオキシダーゼ活性)、基質特異性、温度特性(至適温度、温度安定性など)、pH特性(至適pH、pH安定性)、補酵素特異性、メディエーターとの反応性である。
(グルコースオキシダーゼを変異させた酵素)
本発明の第1の局面は微生物由来のグルコースオキシダーゼ(GO)を変異させた酵素(以下「変異GO」とも呼ぶ)に関する。本発明の変異GOは、微生物由来のGO(変異対象酵素)のアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸
後述の実施例に示す通り、上記444位アミノ酸は、GOをグルコースデヒドロゲナーゼ化(GDH化)する際のグルコースに対する親和性に重要である。本発明では当該アミノ酸に相当するアミノ酸を変異させることによって、グルコースに対する親和性の向上を図る。
ここで、本明細書においてアミノ酸残基について使用する場合の用語「相当する」とは、比較されるタンパク質(酵素)間においてその機能の発揮に同等の貢献をしていることを意味する。例えば、基準のアミノ酸配列(即ち配列番号1のアミノ酸配列)に対して比較対象のアミノ酸配列を、一次構造(アミノ酸配列)の部分的な相同性を考慮しつつ、最適な比較ができるように並べたときに(このときに必要に応じてギャップを導入し、アライメントを最適化してもよい)、基準のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸を「相当するアミノ酸」として特定することができる。一次構造同士の比較に代えて、又はこれに加えて立体構造(三次元構造)同士の比較によって「相当するアミノ酸」を特定することもできる。立体構造情報を利用することによって信頼性の高い比較結果が得られる。この場合は、複数の酵素の立体構造の原子座標を比較しながらアライメントを行っていく手法を採用できる。変異対象酵素の立体構造情報は例えばProtein Data Bank(http://www.pdbj.org/index_j.html)より取得することができる。
X線結晶構造解析によるタンパク質立体構造の決定方法の一例を以下に示す。
(1)タンパク質を結晶化する。結晶化は、立体構造決定のためには欠かせないが、それ以外にも、タンパク質の高純度の精製法、高密度で安定な保存法として産業上の有用性もある。この場合、リガンドとして基質もしくはそのアナログ化合物を結合したタンパク質を結晶化すると良い。
(2)作製した結晶にX線を照射して回折データを収集する。なお、タンパク質結晶はX線照射によりダメージを受け回折能が劣化するケースが多々ある。その場合、結晶を急激に−173℃程度に冷却し、その状態で回折データを収集する低温測定技術が最近普及してきた。なお、最終的に、構造決定に利用する高分解能データを収集するために、輝度の高いシンクロトロン放射光が利用される。
(3)結晶構造解析を行うには、回折データに加えて、位相情報が必要になる。目的のタンパク質に対して、類縁のタンパク質の結晶構造が未知の場合、分子置換法で構造決定することは不可能であり、重原子同型置換法により位相問題が解決されなくてはならない。重原子同型置換法は、水銀や白金等原子番号が大きな金属原子を結晶に導入し、金属原子の大きなX線散乱能のX線回折データへの寄与を利用して位相情報を得る方法である。決定された位相は、結晶中の溶媒領域の電子密度を平滑化することにより改善することが可能である。溶媒領域の水分子は揺らぎが大きいために電子密度がほとんど観測されないので、この領域の電子密度を0に近似することにより、真の電子密度に近づくことができ、ひいては位相が改善されるのである。また、非対称単位に複数の分子が含まれている場合、これらの分子の電子密度を平均化することにより位相が更に大幅に改善される。このようにして改善された位相を用いて計算した電子密度図にタンパク質のモデルをフィットさせる。このプロセスは、コンピューターグラフィックス上で、MSI社(アメリカ)のQUANTA等のプログラムを用いて行われる。この後、MSI社のX-PLOR等のプログラムを用いて、構造精密化を行い、構造解析は完了する。目的のタンパク質に対して、類縁のタンパク質の結晶構造が既知の場合は、既知タンパク質の原子座標を用いて分子置換法により決定できる。分子置換と構造精密化はプログラム CNS_SOLVE ver.11などを用いて行うことができる。
変異対象酵素である微生物由来GOの例はアスペルギルス・ニガー由来GO及びペニシリウム・アマガサキエンス由来GOである。アスペルギルス・ニガー由来GOのアミノ酸配列及びペニシリウム・アマガサキエンス由来GOのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び配列番号2に示す。また、これら二つのアミノ酸配列のアライメント比較を図1に示す。
配列番号1のアミノ酸配列を有するアスペルギルス・ニガー由来GOを変異対象酵素としたとき、上記(1)のアミノ酸は配列番号1の444位アミノ酸となる。一方、配列番号2のアミノ酸配列を有するペニシリウム・アマガサキエンス由来GOを変異対象酵素としたとき、上記(1)のアミノ酸は配列番号2の444位アミノ酸となる。
好ましくは、上記(1)のアミノ酸に加え、以下の(2)のアミノ酸も置換されている。即ち、本発明の好ましい態様として、二つのアミノ酸が置換された変異GOが提供される。
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸
上記(2)のアミノ酸はGOのGDH活性に重要である。本発明では、上記(1)のアミノ酸に加えて上記(2)のアミノ酸も置換することにより、グルコースに対する親和性の高い、GDH化酵素を得る。
置換後のアミノ酸の種類は特に限定されるものではない。置換後のアミノ酸の例を挙げると、(1)のアミノ酸については、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、システイン、バリン又はイソロイシンである。好ましくは、アルギニン、グルタミン酸又はグルタミンであり、特に好ましくはアルギニンである。一方、(2)のアミノ酸については、置換後のアミノ酸は例えばグリシン、システイン、プロリン、セリン、グルタミン、アスパラギン又はグルタミン酸である。好ましくは、システイン又はプロリンであり、特に好ましくはプロリンである。
本発明の変異酵素の具体例として、配列番号3のアミノ酸配列を有する酵素と、配列番号4のアミノ酸配列を有する酵素を挙げることができる。前者は、アスペルギルス・ニガー由来GOについて上記(1)のアミノ酸がアルギニンに置換された酵素であり、後者はアスペルギルス・ニガー由来GOについて上記(1)のアミノ酸がアルギニンに置換されるとともに、上記(2)のアミノ酸がプロリンに置換された酵素である。
ところで、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部を変異させた場合において変異後のタンパク質が変異前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配列の変異がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が変異前後において維持されることがある。この技術常識を考慮すれば、上記(1)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる変異GO、或いは上記(1)及び(2)のアミノ酸がそれぞれ他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる変異GOと比較した場合に、アミノ酸配列の僅かな相違が認められるものの(但し、アミノ酸配列の相違は上記アミノ酸置換が施された位置以外の位置で生ずることとする)、特性に実質的な差が認められないものは、上記変異GOと実質同一の酵素とみなすことができる。ここでの「アミノ酸配列の僅かな相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。「実質同一の酵素」のアミノ酸配列と、基準となる上記変異GOのアミノ酸配列との同一性(%)は、好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上であり、更に更に好ましくは98%以上であり、最も好ましくは99%以上である。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。「アミノ酸配列の僅かな相違」は、好ましくは保存的アミノ酸置換により生じている。
(変異GOをコードする核酸等)
本発明の第2の局面は本発明の変異GOに関連する核酸を提供する。即ち、変異GOをコードする遺伝子、変異GOをコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、変異GOをコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。
変異GOをコードする遺伝子は典型的には変異GOの調製に利用される。変異GOをコードする遺伝子を用いた遺伝子工学的調製法によれば、より均質な状態の変異GOを得ることが可能である。また、当該方法は大量の変異GOを調製する場合にも好適な方法といえる。尚、変異GOをコードする遺伝子の用途は変異GOの調製に限られない。例えば、変異GOの作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いは酵素の更なる変異体をデザイン又は作製するためのツールとして、当該核酸を利用することもできる。
本明細書において「変異GOをコードする遺伝子」とは、それを発現させた場合に当該変異GOが得られる核酸のことをいい、当該変異GOのアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。
変異GOをコードする遺伝子の配列の例を配列番号5及び6に示す。配列番号5の配列はアスペルギルス・ニガーのGOに上記(1)のアミノ酸の置換(アルギニンへの置換S444R)が施された変異GOをコードする遺伝子である。同様に、配列番号6の配列はアスペルギルス・ニガーのGOに上記(1)のアミノ酸の置換(アルギニンへの置換S444R)と上記(2)のアミノ酸の置換(プロリンへの置換V582P)が施された変異GOをコードする遺伝子である。
本発明の核酸は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって、単離された状態に調製することができる。
本発明の他の態様では、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列と比較した場合にそれがコードするタンパク質の機能は同等であるものの一部において塩基配列が相違する核酸(以下、「相同核酸」ともいう。また、相同核酸を規定する塩基配列を「相同塩基配列」ともいう)が提供される。相同核酸の例として、本発明の変異GOをコードする核酸の塩基配列を基準として1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、変異GOに特徴的な酵素活性(即ちGDH活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該核酸がコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。
以上のような相同核酸は例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などによって得られる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同核酸を得ることができる。
本発明の他の態様は、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸に関する。本発明の更に他の態様は、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列に対して少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.9%同一な塩基配列を有する核酸を提供する。
本発明の更に別の態様は、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列又はその相同塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する核酸に関する。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
本発明の更に他の態様は、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列の一部を有する核酸(核酸断片)を提供する。このような核酸断片は、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸などを検出、同定、及び/又は増幅することなどに用いることができる。核酸断片は例えば、本発明の変異GOをコードする遺伝子の塩基配列において連続するヌクレオチド部分(例えば約10〜約100塩基長、好ましくは約20〜約100塩基長、更に好ましくは約30〜約100塩基長)にハイブリダイズする部分を少なくとも含むように設計される。プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
本発明のさらに他の局面は、本発明の遺伝子(変異GOをコードする遺伝子)を含む組換えDNAに関する。本発明の組換えDNAは例えばベクターの形態で提供される。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいう。
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
宿主細胞としては、取り扱いの容易さの点から、大腸菌(エシェリヒア・コリ)、出芽酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)などの微生物を用いることが好ましいが、組換えDNAが複製可能で且つ変異GOの遺伝子が発現可能な宿主細胞であれば利用可能である。大腸菌の例としてT7系プロモーターを利用する場合は大腸菌BL21(DE3)pLysS、そうでない場合は大腸菌JM109を挙げることができる。また、出芽酵母の例として出芽酵母SHY2、出芽酵母AH22あるいは出芽酵母INVSc1(インビトロジェン社)を挙げることができる。
本発明の他の局面は、本発明の組換えDNAを保有する微生物(即ち形質転換体)に関する。本発明の微生物は、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって得ることができる。例えば、塩化カルシウム法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol. Biol.)、第53巻、第159頁 (1970))、ハナハン(Hanahan)法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー、第166巻、第557頁 (1983))、SEM法(ジーン(Gene)、第96巻、第23頁(1990)〕、チャング(Chung)らの方法(プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第86巻、第2172頁(1989))、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))等によって実施することができる。尚、本発明の微生物は、本発明の変異GOを生産することに利用することができる(後述の変異酵素の調製法の欄を参照)。
(変異GOの用途)
本発明の第3の局面は変異GOの用途に関する。この局面ではまず、変異GOを用いたグルコース測定法が提供される。本発明のグルコース測定法では本酵素による酸化還元反応を利用して試料中のグルコース量を測定する。本発明は例えば血糖値の測定、食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などに利用される。また、発酵食品(例えば食酢)又は発酵飲料(例えばビールや酒)の製造工程において発酵度を調べるために本発明を利用してもよい。
本発明はまた、本酵素を含むグルコース測定用試薬を提供する。当該試薬は上記の本発明のグルコース測定法に使用される。
本発明は更に、本発明のグルコース測定法を実施するためのキット(グルコース測定用キット)を提供する。本発明のキットは、本酵素を含むグルコース測定用試薬の他、反応用試薬、緩衝液、グルコース標準液などを任意の要素として含む。また、本発明のグルコース測定キットには通常、使用説明書が添付される。
本発明は更なる用途として、工業製品(各種加工食品、菓子類、清涼飲料水、アルコール飲料、栄養補助食品等の食品や化粧料など)又はその原料等に本発明の変異GOを作用させることによってグルコース含量を低下させる方法及び当該用途に使用される酵素剤を提供する。例えば、本発明の変異GOを食品に適用した場合には、グルコース含量の低下によりメイラード反応を抑制すること等が可能である。本発明の酵素剤は有効成分(変異GO)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
(変異酵素の設計法)
本発明の別の局面は変異酵素の設計法に関する。本発明の設計法では、以下のステップ(i)及び(ii)を実施する。
ステップ(i):微生物由来グルコースオキシダーゼ(微生物由来GO)である変異対象酵素のアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸を特定する。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸
本発明では、上記(1)のアミノ酸を置換することによって、GOをGDH化する際のグルコースに対する親和性の向上を図る。
本発明の設計法における変異対象酵素は微生物由来GOである。変異対象酵素は典型的には野生型酵素(天然において見出される酵素)である。しかしながら、既に何らかの変異ないし改変が施された酵素を変異対象酵素とすることを妨げるものではない。微生物由来GOの例はアスペルギルス・ニガーのGO及びペニシリウム・アマガサキエンスのGOである。ここで例示した酵素のアミノ酸配列(一例)を以下に示す。尚、好ましい一態様では、これらの中のいずれかのアミノ酸配列からなる酵素を変異対象酵素とする。
アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のGO: 配列番号1のアミノ酸配列
ペニシリウム・アマガサキエンス(Penicillium amagasakiense)のGO: 配列番号2のアミノ酸配列
アスペルギルス・ニガーGOについては、上記配列(配列番号1)の他にもいくつかの配列が知られている。各種アスペルギルス・ニガー由来GOのアミノ酸配列のアライメント比較を図6〜9に示す。
好ましくは、ステップ(i)において、上記(1)のアミノ酸に加えて、以下の(2)のアミノ酸を特定する。
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸
上記(2)のアミノ酸はGOのGDH活性に重要である。本発明では、上記(1)のアミノ酸に加えて上記(2)のアミノ酸も置換することにより、グルコースに対する親和性の高い、GDH化酵素を得る。
本発明ではステップ(i)の後、以下のステップ(ii)を行う。
ステップ(ii):変異対象酵素のアミノ酸配列を基にして、ステップ(i)で特定されたアミノ酸配列が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を構築する。
置換後のアミノ酸の種類は特に限定されるものではない。置換後のアミノ酸の例を挙げると、(1)のアミノ酸については、アルギニン、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、システイン、バリン又はイソロイシンである。好ましくは、アルギニン、グルタミン酸又はグルタミンであり、特に好ましくはアルギニンである。一方、(2)のアミノ酸については、置換後のアミノ酸は例えばグリシン、システイン、プロリン、セリン、グルタミン、アスパラギン又はグルタミン酸である。好ましくは、システイン又はプロリンであり、特に好ましくはプロリンである。
(変異酵素の調製法)
本発明の更なる局面は変異酵素の調製法に関する。本発明の変異酵素調製法の一態様では、本発明者らが取得に成功した変異GOを遺伝子工学的手法で調製する。この態様の場合、配列番号3又は4のアミノ酸配列をコードする核酸を用意する(ステップ(I))。ここで、「特定のアミノ酸配列をコードする核酸」は、それを発現させた場合に当該アミノ酸配列を有するポリペプチドが得られる核酸であり、当該アミノ酸配列に対応する塩基配列からなる核酸は勿論のこと、そのような核酸に余分な配列(アミノ酸配列をコードする配列であっても、アミノ酸配列をコードしない配列であってもよい)が付加されていてもよい。また、コドンの縮重も考慮される。「配列番号3又は4のアミノ酸配列をコードする核酸」は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって、単離された状態に調製することができる。ここで、配列番号3又は4のアミノ酸配列はいずれも、アスペルギルス・ニガー由来GOのアミノ酸配列に変異を施したものである。従って、アスペルギルス・ニガー由来GOをコードする遺伝子(配列番号7)に対して必要な変異を加えることによっても、配列番号3又は4のアミノ酸配列をコードする核酸(遺伝子)を得ることができる。位置特異的塩基配列置換のための方法は当該技術分野において数多く知られており(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照)、その中から適切な方法を選択して用いることができる。位置特異的変異導入法として、位置特異的アミノ酸飽和変異法を採用することができる。位置特異的アミノ酸飽和変異法は、タンパクの立体構造を基に、求める機能の関与する位置を推定し、アミノ酸飽和変異を導入する「Semi-rational,semi-random」手法である(J.Mol.Biol.331,585-592(2003))。例えば、Quick change(ストラタジーン社)等のキット、Overlap extention PCR(Nucleic Acid Res. 16,7351-7367(1988))を用いて位置特異的アミノ酸飽和変異を導入することが可能である。PCRに用いるDNAポリメラーゼはTaqポリメラーゼ等を用いることができる。但し、KOD-PLUS-(東洋紡社)、Pfu turbo(ストラタジーン社)などの精度の高いDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
本発明の他の一態様では本発明の設計法によって設計されたアミノ酸配列を基にして変異酵素を調製する。この態様の場合ステップ(I)では本発明の設計法によって構築されたアミノ酸配列をコードする核酸を用意することになる。例えば、本発明の設計法によって構築されたアミノ酸配列に基づいて、変異対象酵素をコードする遺伝子に対して必要な変異(即ち、発現産物であるタンパク質における、特定位置でのアミノ酸の置換)を加え、変異酵素をコードする核酸(遺伝子)を得る。
ステップ(I)に続いて、用意した核酸を発現させる(ステップ(II))。例えば、まず上記核酸を挿入した発現ベクターを用意し、これを用いて宿主細胞を形質転換する。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
次に、発現産物である変異酵素が産生される条件下で形質転換体を培養する。形質転換体の培養は常法に従えばよい。培地に使用する炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
培養温度は培養対象の形質転換体の生育特性や変異型酵素の産生特性などを考慮して設定することができる。好ましくは30℃〜40℃の範囲内(より好ましくは37℃付近)で設定することができる。培養時間は、培養対象の形質転換体の生育特性や変異型酵素の産生特性などを考慮して設定することができる。培地のpHは、形質転換体が生育し且つ酵素が産生される範囲内に調製される。好ましくは培地のpHを6.0〜9.0程度(好ましくはpH7.0付近)とする。
続いて、発現産物(変異酵素)を回収する(ステップ(III))。培養後の菌体を含む培養液をそのまま、或いは濃縮、不純物の除去などを経た後に酵素溶液として利用することもできるが、一般的には培養液又は菌体より発現産物を一旦回収する。発現産物が分泌型タンパク質であれば培養液より、それ以外であれば菌体内より回収することができる。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理して不溶物を除去した後、減圧濃縮、膜濃縮、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを利用した塩析、メタノールやエタノール又はアセトンなどによる分別沈殿法、透析、加熱処理、等電点処理、ゲルろ過や吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー(例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケアバイオサイエンス)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL-6B (GEヘルスケアバイオサイエンス)、オクチルセファロースCL-6B (GEヘルスケアバイオサイエンス)、CMセファロースCL-6B(GEヘルスケアバイオサイエンス))などを組み合わせて分離、精製を行ことにより変異酵素の精製品を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、培養液をろ過、遠心処理等することによって菌体を採取し、次いで菌体を加圧処理、超音波処理などの機械的方法またはリゾチームなどによる酵素的方法で破壊した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより変異酵素の精製品を得ることができる。
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予めリン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。
通常は、以上のように適当な宿主−ベクター系を利用して遺伝子の発現〜発現産物(変異酵素)の回収を行うが、無細胞合成系を利用することにしてもよい。ここで、「無細胞合成系(無細胞転写系、無細胞転写/翻訳系)」とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAやタンパク質をin vitroで合成することをいう。無細胞合成系では一般に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。細胞抽出液には一般に、タンパク質合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNAなどの各種酵素が含まれる。タンパク質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、タンパク質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、タンパク質合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。
タンパク質合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系の開発も報告されている(Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。この合成系では、バクテリアのタンパク質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いてタンパク質合成系をin vitroで再構成している。本発明ではこのような再構成した合成系を利用してもよい。
用語「無細胞転写/翻訳系」は、無細胞タンパク質合成系、in vitro翻訳系又はin vitro転写/翻訳系と交換可能に使用される。in vitro翻訳系ではRNAが鋳型として用いられてタンパク質が合成される。鋳型RNAとしては全RNA、mRNA、in vitro転写産物などが使用される。他方のin vitro転写/翻訳系ではDNAが鋳型として用いられる。鋳型DNAはリボソーム結合領域を含むべきであって、また適切なターミネータ配列を含むことが好ましい。尚、in vitro転写/翻訳系では、転写反応及び翻訳反応が連続して進行するように各反応に必要な因子が添加された条件が設定される。
これまでの研究によって、アスペルギルス・ニガー由来GOに二箇所の変異(D446H及びV582P)を加えた多重変異酵素(「GOM2」と呼称する)が高いGDH活性を示し且つ基質特異性にも優れることが明らかとなった(特許文献21)。この多重変異酵素(GOM2)の特性を詳細に調べたところ、グルコースに対する基質親和性の点において改善の余地があるものであった。そこで、基質親和性を向上させることがセンサの性能の向上に重要であると考え、以下の検討を行った。
1.変異位置の特定
基質親和性を改善するにあたり、変異酵素GOM2の変異箇所それぞれにおける周辺のアミノ酸に対して、複数種のアミノ酸に置換するよう設計した変異を導入し、S444への変異導入により、GDH化を示すことを見出した。
2.GDH活性の評価
アスペルギルス・ニガーGO-1号菌(天野エンザイム社保有)からGen Elute Plant Genomic DNA kit(シグマ社)を用いてゲノムDNAを抽出した後、PCRによりGO遺伝子を取得した。PCR後の増幅産物をpYES2に挿入してpYES-GO-K-P-2プラスミドとし、構築したpYES-GO-K-P-2プラスミドを鋳型として、S444へ複数種のアミノ酸に置換するよう設計した変異グルコースオキシダーゼを有するプラスミドを構築した。変異導入後のプラスミドを大腸菌DH5αに形質転換後、プラスミド抽出を行い、変異ライブラリーを作製した。得られたライブラリーをサッカロマイセス・セレビシエINVSc1(インビトロジェン社)に形質転換し、生育してきたコロニーをについて、液体培養を行い、GO活性及びGDH活性を調べた。液体培養での発現はpYES2のマニュアルを参考にした。
各試薬200μL対してS444へ20種類のアミノ酸に置換するよう設計した変異グルコースオキシダーゼの培養上清を20μL添加し、37℃で反応させた。反応開始後5分と10分に吸光度を測定し、吸光度差からGO活性とGDH活性を求めた。尚、アスペルギルス・ニガーGO-1号菌由来GO(GOと表示)、アスペルギルス・ニガーGO-1号菌由来GOに二箇所の変異(D446H及びV582P)を加えた多重変異酵素(GOM2)を比較対象(コントロール)とした。
<GOアッセイ用試薬>
フェノール含有リン酸緩衝液 21mL
1mol/L グルコース 3mL
25u/mL PO-3 5mL
0.4g/dL 4-A.A 1mL
<GDHアッセイ用試薬>
50mM PIPES-NaOH(cont. 0.1% Triton X-100) pH 7.0 23mL
1mol/L グルコース 3mL
3mmol/L PMS 3mL
6.6mmol/L NTB 1mL
S444についての測定結果を図2に示す。GDH活性/GO活性を高める、置換後のアミノ酸はR、E、Q、L、M、T、W、C、V、Iである。中でも、R、E又はQに置換することがGDH化に有効であり、Rへの置換が最も好ましいと評価できる。一方、V582についての測定結果を図3に示す。GDH活性/GO活性を高める、置換後のアミノ酸はN、S、E、Q、P、C、Gである。中でも、Pに置換することがGDH化に特に有効である。
3.基質親和性の評価
上記の結果を踏まえ、444位アミノ酸がセリンからアルギニンに置換され、582位アミノ酸がバリンからプロリンに置換された多重変異体(S444R,V582P:「GOM6」と呼称する)のグルコースに対する親和性を、多重変異体(GOM2)と比較しつつ以下の方法で評価した。
GOM2およびGOM6の形質転換株の液体培養を行い、DEAE-Sepharose精製、脱塩濃縮を行い、精製酵素溶液を取得した。得られた精製酵素溶液を用いて、Km値を測定により算出した。尚、液体培養での発現はpYES2のマニュアルを参考にした。
GOM6のグルコースに対するKm値は22.9×10-3 mol/Lであり(図4)、GOM2のKm値(116×10-3 mol/L)の約1/5であった。即ち、GOM2に比べ、GOM6はグルコースに対して格段に高い親和性を示すことが明らかとなった。尚、アスペルギルス・ニガー由来GOのグルコースに対するKm値は12.9×10-3 mol/Lであった。
4.基質特異性の確認
多重変異体(GOM6)の基質特異性を以下の通り評価した。即ち、各試薬200μL対して基質親和性確認の実験で用いた精製酵素20μL添加し、37℃で反応させた。反応開始後5分と10分に吸光度を測定し、吸光度差からGDH活性を求めた。各基質を用いた場合のGDH活性を、グルコースを基質とした場合のGDH活性(100%)に対する比率で表した。
<基質特異性確認GDHアッセイ用試薬>
50mM PIPES-NaOH(cont. 0.1% Triton X-100) pH 7.0 23mL
1mol/L 基質 3mL
3mmol/L PMS 3mL
6.6mmol/L NTB 1mL
結果を図5に示す。多重変異体(GOM6)は、変異前の酵素(アスペルギルス・ニガー由来GO)と同様の基質特異性を示し、実用性に優れることが確認された。
5.他のGO由来の多重変異酵素の調製及び特性評価
特定に成功した変異箇所(S444、V582)の汎用性を検証するために、他のGOに関して多重変異体を調製した。具体的には、公共のデータベースに登録されているアスペルギルス・ニガー由来のGO(gi 121529、配列番号15)の多重変異体1cf3M6(S444R,V582P)と、ペニシリウム・アマガサキエンス由来のGO(配列番号2)の多重変異体1pgeM6(N444R,V582P)を調製し、GDH活性及びGO活性、基質親和性、並びに基質特異性を検討した。また、GOM6との間で置換後のアミノ酸が異なる多重変異体GOM7(S444Q,V582P)及びGOM8(S444E,V582P)についてもその特性を調べた。各多重変異体の調製法及び活性測定法などは上記の実験に準じた。
各多重変異体のGDH活性及びGO活性の測定結果を図10に示す。多重変異体GOM7、GOM8、1cf3M6及び1pgeM6の全てについて高度にGDH化していることがわかる。一方、各多重変異体のKm値はGOM6のKm値と同等又はそれ以下であり、高い基質親和性を示す(図11)。また、各多重変異体は基質特異性にも優れる(図12)。
以上の通り、各多重変異体は期待通りの特性を示し、特定に成功した変異位置の汎用性が高いことが確認された。
本発明の変異GOは、試料中のグルコース量の検出・定量に有用である。本発明の変異GOのグルコースに対する親和性は高い。従って、本発明の変異GOをグルコースセンサに利用すれば測定精度の向上が期待できる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (17)

  1. アスペルギルス・ニガー又はペニシリウム・アマガサキエンスのグルコースオキシダーゼのアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸置換と以下の(2)のアミノ酸置換が行われたアミノ酸配列からなる変異酵素:
    (1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸のアルギニン、グルタミン酸又はグルタミンへの置換、
    (2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸のプロリンへの置換。
  2. 微生物由来グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸置換と以下の(2)のアミノ酸置換が行われたアミノ酸配列であり、配列番号1、2又は15のアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなる変異酵素であって、前記グルコースオキシダーゼと比較してGDH活性/GO活性が高まっている変異酵素
    (1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸のアルギニン、グルタミン酸又はグルタミンへの置換、
    (2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸のプロリンへの置換。
  3. ルコースオキシダーゼのアミノ酸配列が配列番号1、2又は15のアミノ酸配列である、請求項1又は2に記載の変異酵素。
  4. 配列番号4のアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載の変異酵素。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の変異酵素をコードする遺伝子。
  6. 配列番号6の塩基配列を含む、請求項に記載の遺伝子。
  7. 請求項又はに記載の遺伝子を含む組換えDNA。
  8. 請求項又はに記載の遺伝子を含む組換えベクター。
  9. 請求項に記載の組換えDNAを保有する微生物。
  10. 請求項1〜のいずれか一項に記載の変異酵素を用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
  11. 請求項1〜のいずれか一項に記載の変異酵素を含むことを特徴とするグルコース測定用試薬。
  12. 請求項11に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
  13. 請求項1〜のいずれか一項に記載の変異酵素を用いて工業製品又はその原料中のグルコース量を低下させることを特徴とする方法。
  14. 請求項1〜のいずれか一項に記載の変異酵素を含有する酵素剤。
  15. 以下のステップ(i)及び(ii)を含む、変異酵素の設計法:
    (i)アスペルギルス・ニガー又はペニシリウム・アマガサキエンスのグルコースオキシダーゼである変異対象酵素のアミノ酸配列において、以下の(1)のアミノ酸と(2)のアミノ酸を特定するステップ:
    (1)配列番号1に示すアミノ酸配列の444位アミノ酸に相当するアミノ酸、
    (2)配列番号1に示すアミノ酸配列の582位アミノ酸に相当するアミノ酸;
    (ii)変異対象酵素のアミノ酸配列を基にして、ステップ(i)で特定された(1)のアミノ酸がアルギニン、グルタミン酸又はグルタミンに置換され、且つステップ(i)で特定された(2)のアミノ酸がプロリンに置換されたアミノ酸配列を構築するステップ。
  16. グルコースオキシダーゼのアミノ酸配列が配列番号1又は2のアミノ酸配列である、請求項15に記載の設計法。
  17. 以下のステップ(I)〜(III)を含む、変異酵素の調製法:
    (I)配列番号4のアミノ酸配列、又は請求項15又は16に記載の設計法によって構築されたアミノ酸配列をコードする核酸を用意するステップ;
    (II)前記核酸を発現させるステップ、及び
    (III)発現産物を回収するステップ。
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