JP6691337B2 - 膀胱癌患者の予後を予測するための方法 - Google Patents

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Description

本発明は、尿路上皮癌診断薬及びその使用に関する。より具体的には、尿路上皮癌診断薬、生体試料の判定方法及び膀胱癌患者の予後を予測する方法に関する。
膀胱癌は、近年増加傾向にある上皮性悪性腫瘍であり、罹患率及び死亡率が高い腫瘍である。膀胱癌には、尿路上皮癌、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌等の様々な組織型があるが、中でも尿路上皮癌が最も多い。尿路上皮癌は、非筋層浸潤性膀胱癌(NMIUC)と筋層浸潤性膀胱癌(MIUC)とに分類される。
膀胱癌の約80%は腫瘍が上皮に限局するNMIUCであり、残りの約20%は腫瘍が筋層浸潤しているMIUCである。NMIUCの治療法は膀胱内化学療法と内視鏡的切除であり、MIUCは外科的切除や放射線治療、抗癌剤による治療が一般的である。
しかしながら、尿路上皮癌は再発率が高く、頻回の再発によりNMIUCからMIUCへの進行を認める。このため、NMIUCを早期に発見することは、患者の予後のためにも重要である(例えば、非特許文献1を参照)。
現在、尿路上皮癌の標準的な診断方法は、膀胱鏡検査と尿細胞診である。しかしながら、膀胱鏡検査は侵襲的で比較的高価な検査であり、上皮内癌等の平坦病変の検出感度は低いうえ、尿路感染症等の合併症につながる場合がある。一方、尿細胞診は、非侵襲的であり、高い特異性(90〜95%)を有するが、感度(30〜40%)が低く、低悪性度腫瘍の検出が困難な場合がある。このため、低侵襲で正確に尿路上皮癌を検出できる技術が求められている。
Kaufman D. S., et al., Bladder cancer., Lancet, 374 (9685), 239-249, 2009.
現在、日本で保険適用されている膀胱癌腫瘍マーカーには、Nuclear Matrix Protein22(NMP22)と尿中Bladder Tumor Antigen(BTA)の2種類が存在する。しかしながら、NMP22は炎症や尿路結石を有する患者で偽陽性を示す場合があり、尿中BTAは血尿による偽陽性を示す場合がある。
そこで、本発明は、尿路上皮癌を正確に検出できる技術を提供することを目的とする。
本発明は、以下の通りである。
(1)DJ−1タンパク質に対する特異的結合物質を有効成分として含有する、尿路上皮癌診断薬。
(2)被検者由来の血清又は血漿を試料に用いるものである、(1)に記載の尿路上皮癌診断薬。
(3)逆相タンパク質アレイ用である、(1)又は(2)に記載の尿路上皮癌診断薬。
(4)被検者由来の生体試料を固相に固定する工程と、DJ−1タンパク質に対する特異的結合物質を前記生体試料に接触させる工程と、前記生体試料に結合した前記特異的結合物質の量が対照と比較して多い場合に、前記生体試料は尿路上皮癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、生体試料の判定方法。
(5)前記生体試料は血清又は血漿である、(4)に記載の判定方法。
(6)膀胱癌患者の予後を予測する方法であって、前記患者由来の膀胱癌組織試料におけるDJ−1タンパク質の発現を検出する工程と、前記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下していた場合に、前記患者の予後が不良であると予測する工程と、を備える方法。
(7)前記予測する工程が、前記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下しており、且つ前記試料中の腫瘍細胞の細胞質におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して増加していた場合に、前記患者の予後が不良であると予測する工程である、(6)に記載の方法。
本発明によれば、尿路上皮癌を正確に検出できる技術を提供することができる。
(a)〜(e)は、実験例1における免疫組織化学染色の結果を示す写真である。(a)は正常尿路上皮の写真であり、(b)〜(e)は膀胱癌組織の写真である。 実験例1における予後解析の結果を示すグラフである。 (a)及び(b)は、実験例2における免疫組織化学染色の結果を示す写真である。 実験例2における予後解析の結果を示すグラフである。 (a)〜(e)は、実験例3において、逆相タンパク質アレイ法により、血清中のDJ−1タンパク質量を測定した結果を示す写真である。 (a)は、実験例3における、健常者及び全膀胱癌患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(b)は、実験例3における、健常者及び全膀胱癌患者のROC解析の結果を示すグラフである。(c)は、実験例3における、尿路結石患者及び全膀胱癌患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(d)は、実験例3における、尿路結石患者及び全膀胱癌患者のROC解析の結果を示すグラフである。 図7(a)は、実験例3における、健常者及びpTa/pT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(b)は、実験例3における、健常者及びpTa/pT1患者のROC解析の結果を示すグラフである。(c)は、実験例3における、尿路結石患者及びpTa/pT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(d)は、実験例3における、尿路結石患者及びpTa/pT1患者のROC解析の結果を示すグラフである。 (a)は、実験例3における、pTa患者及びpT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(b)は、実験例3における、男性及び女性の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(c)は、実験例3における、65歳以上及び64歳以下の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。(d)は、実験例3における、組織学的異型度のLow Grade及びHigh Gradeの各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。 実験例4における、細胞浸潤アッセイの結果を示すグラフである。 (a)〜(d)は、実験例5におけるWound Healing Assayの結果を示す写真である。
[尿路上皮癌診断薬]
1実施形態において、本発明は、DJ−1タンパク質に対する特異的結合物質を有効成分として含有する、尿路上皮癌診断薬を提供する。
DJ−1タンパク質は、Parkinson disease protein 7(PARK7)とも呼ばれるものである。ヒトDJ−1タンパク質のRefSeq IDはNP_001116849であり、マウスDJ−1タンパク質のRefSeq IDはNP_065594である。
実施例において後述するように、発明者らは、生体試料中のDJ−1タンパク質を検出することにより、尿路上皮癌を正確に検出できることを明らかにした。本実施形態の診断薬によれば、例えば、尿路結石患者の生体試料を用いた場合においても偽陽性を示すことがない。したがって、本実施形態の診断薬によれば、尿路上皮癌を正確に検出することができる。また、DJ−1タンパク質又はDJ−1遺伝子は、尿路上皮癌マーカーであるということもできる。
また、実施例において後述するように、生体試料中のDJ−1タンパク質を検出することにより、治療可能な早期の尿路上皮癌であっても検出することができた。したがって、本実施形態の診断薬は早期診断用であるということもできる。本明細書において、「早期診断用」とは、ステージがpTa又はpT1である表在性尿路上皮癌を検出できることを意味する。なお、本明細書において、ステージがpTa又はpT1である表在性尿路上皮癌の患者を、pTa/pT1患者という場合がある。
DJ−1タンパク質に対する特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物にDJ−1タンパク質又はその断片を抗原として免疫することによって作製することができる。あるいは、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。
抗DJ−1抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、市販の抗体であってもよい。
アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。標的ペプチドに特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、標的ペプチドに特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo−hybrid法等により選別することができる。
本実施形態の尿路上皮癌診断薬は、被検者由来の血清、血漿又は組織を試料に用い、試料中のDJ−1タンパク質を検出するものであってもよい。血清又は血漿は低侵襲で採取可能な生体試料であるため、患者の負担が少なく、容易に尿路上皮癌に罹患しているか否かを診断することができる。
DJ−1タンパク質の検出方法としては、サンドイッチELISA、ウエスタンブロット、逆相タンパク質アレイを用いた検出、免疫組織化学染色等が挙げられる。なお、逆相タンパク質アレイを用いた検出とは、試料を固相にアレイ状に固定し、特定物質に特異的な抗体等を反応させることにより、試料中の特定物質を検出する解析方法である。
実施例において後述するように、発明者らは、血清中のDJ−1タンパク質を定量することにより、尿路上皮癌を正確に診断できることを明らかにした。また、ステージがpTa又はpT1である早期の表在性尿路上皮癌も正確に診断することができた。
また、実施例において後述するように、尿路上皮癌の組織切片を免疫組織化学染色してDJ−1タンパク質の局在(核又は細胞質における発現量)を検出することにより、尿路上皮癌患者の予後を正確に予測することができた。したがって、本実施形態の尿路上皮癌診断薬は、予後予測用であるということもできる。
[生体試料の判定方法]
1実施形態において、本発明は、被検者由来の生体試料を固相に固定する工程(a)と、DJ−1タンパク質に対する特異的結合物質を前記生体試料に接触させる工程(b)と、前記生体試料に結合した前記特異的結合物質の量が対照と比較して多い場合に、前記生体試料は尿路上皮癌患者由来のものであると判定する工程(c)と、を備える、生体試料の判定方法を提供する。
本実施形態の判定方法により、生体試料が尿路上皮癌患者由来のものであるか否かを判定することができる。すなわち、本実施形態の判定方法は、尿路上皮癌の診断方法であるということもできる。本実施形態の判定方法によれば、初期段階から尿路上皮癌を検出することができる。
本実施形態の判定方法において、生体試料は血清又は血漿であってもよい。血清又は血漿は低侵襲で採取可能な生体試料であるため、被検者の負担が少なく、被検者が尿路上皮癌に罹患しているか否かを容易に判定することができる。
[工程(a)]
本工程において、被検者由来の生体試料を固相に固定する。固相としては、スライドガラス、イムノプレート、膜、ビーズ等が挙げられる。固相は、タンパク質を吸着しやすいよう表面処理を施されていることが好ましい。
[工程(b)]
本工程において、上記固相に固定した生体試料とDJ−1タンパク質に対する特異的結合物質とを接触させる。特異的結合物質としては上述したものが挙げられる。
[工程(c)]
本工程において、生体試料に結合した特異的結合物質の量が対照と比較して多い場合に、生体試料は尿路上皮癌患者由来のものであると判定する。
特異的結合物質の量は、例えば、特異的結合物質を予め蛍光色素で標識しておき、当該蛍光色素が発する蛍光強度を測定することにより測定することができる。あるいは、特異的結合物質に、蛍光標識された二次抗体等を反応させ、当該蛍光色素が発する蛍光強度を測定することにより測定してもよい。また、上記の特異的結合物質又は二次抗体は、蛍光色素ではなく酵素で標識されており、当該酵素の基質を反応させて得られた反応物を測定する構成としてもよい。酵素としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ等が挙げられる。
生体試料に結合した特異的結合物質の量は、例えば、段階希釈した既知濃度のDJ−1タンパク質等を基準に用いてDJ−1タンパク質の定量値に換算してもよい。
工程(c)における対照としては、例えば健常人由来の生体試料が挙げられる。あるいは、予め健常人由来の生体試料中に存在するDJ−1タンパク質の量に基づいて基準値を設定しておき、当該基準値と比較してDJ−1タンパク質の量又は特異的結合物質の量が多い場合に、生体試料は尿路上皮癌患者由来のものであると判定してもよい。
[膀胱癌患者の予後を予測する方法]
1実施形態において、本発明は、膀胱癌患者の予後を予測する方法であって、前記患者由来の膀胱癌組織試料におけるDJ−1タンパク質の発現を検出する工程と、前記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下していた場合に、前記患者の予後が不良であると予測する工程と、を備える方法を提供する。
DJ−1タンパク質の発現の検出は、核及び細胞質における発現量をそれぞれ区別できる方法であれば特に制限されず、例えば、免疫組織化学染色が挙げられる。
膀胱癌組織試料としては、外科的に摘出された膀胱癌組織、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR−BT)で得られた膀胱癌組織等が挙げられる。
実施例において後述するように、発明者らは、膀胱癌組織試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下していた場合に、前記患者の予後が不良であることを明らかにした。したがって、本実施形態の方法により膀胱癌患者の予後を予測することができる。
対照としては、例えば、膀胱癌組織中に含まれる、正常尿路上皮細胞、末梢神経組織細胞、血管内皮細胞等が挙げられる。
本実施形態の方法において、上記の予測する工程は、前記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下しており、且つ前記試料中の腫瘍細胞の細胞質におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して増加していた場合に、前記患者の予後が不良であると予測する工程であってもよい。
実施例において後述するように、発明者らは、膀胱癌組織試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下しており、且つ前記試料中の腫瘍細胞の細胞質におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して増加していた場合に、前記患者の予後が不良であることを明らかにした。
次に実験例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
[材料および方法]
(膀胱癌組織)
北里大学病院において外科的に摘出された92例の膀胱癌組織(以下、「膀胱癌外科組織」という場合がある。)と経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR−BT)で得られた60例のpT1 High Grade(G3)の膀胱癌組織(以下、「T1 G3 TUR−BT組織」という場合がある。)を用いた。それぞれの臨床病理学的因子について表1及び表2に示す。
(尿路上皮癌患者血清)
北里大学病院において採取された、192例の尿路上皮癌患者血清、並びに、非腫瘍性疾患として20例の尿路結石患者血清及び100例の健常者血清を用いた。用いた血清の内訳を表3に示す。
(免疫組織化学染色)
《免疫組織化学染色法》
10%ホルマリン固定後パラフィン包埋された膀胱癌組織を厚さ3μmに薄切した切片を用いて免疫組織化学染色を行った。
切片はキシレンで脱パラフィン後、下降エタノール系列で脱キシレンを行い、流水水洗した。その後、抗原性の賦活化のため、0.01M Tris(hydroxymethyl)aminomethane−0.001M EDTA・2Na(Tris・EDTA溶液、pH9.0)に浸漬し、オートクレーブ中で121℃、10分間熱処理後、室温放置した。次に、内因性ペルオキシダーゼ処理のため、3%過酸化水素水で室温、10分間処理した。その後、100mM Tris−HCl,150mM NaCl(トリス緩衝生食液(TBS)、pH7.5)で洗浄し、一次抗体の非特異的反応を防ぐため、1M Tris−HCl,300mM NaCl,0.5% casein(0.5% casein、pH7.5)を切片に滴下し、室温で10分間ブロッキング処理を行った。
続いて、一次抗体として4,000倍希釈した抗DJ−1抗体(MBL社)を切片に滴下し37℃で2時間反応させた。続いて、TBSで5分間の洗浄を3回行った後、二次抗体としてHRP標識ポリマー試薬(型式「ChemMate ENVISION」、DAKO社)を室温で30分間反応させた。続いて、TBSで5分間の洗浄を3回行った後、Stable DAB溶液(Life Technologies社)を用いて発色操作を行い、流水水洗後、マイヤーヘマトキシリン溶液で核染色を行った。
《免疫組織化学染色法の評価》
外科摘出組織中の腫瘍細胞の核の染色においては、同一症例中に含まれる正常尿路上皮、末梢神経組織又は血管内皮細胞の核の染色性をインターナルコントロールとし、コントロールと同程度又はより強い染色性を示す症例を発現陽性群(+群)とした。また、コントロールよりも低い染色性又は染色性の消失を示す症例を発現陰性群(−群)とした。
腫瘍細胞の細胞質の染色については、染色強度の判定値(0:Negative,1:Weak,2:Moderate,3:Strong)と、腫瘍部分の細胞全体を100%として、各判定値の細胞の割合を掛け合わせたものをそれぞれ合計し細胞質スコアとした。
全症例の細胞質スコアの平均値を算出し、平均値以上の症例を発現亢進群(+群)とし、平均値未満の症例を発現陰性群(−群)とした。
T1 G3 TUR−BT組織の評価においては、細胞質の染色性が評価困難な症例が多かったことから、核についてのみ染色性の評価を行った。末梢神経組織又は血管内皮細胞の核をインターナルコントロールとし、コントロールと同程度又はより強い染色性を示す症例を発現陽性群(+群)とした。また、コントロールよりも低い染色性を示す症例を発現陰性群(−群)とした。
(逆相タンパク質アレイ(Reverse−phase protein array、RPPA)法による解析)
《逆相タンパク質アレイ法》
膀胱癌患者血清、尿路結石患者血清、健常者血清をそれぞれ、0.01% Triton X−100/D−PBS(−)を用いて15倍希釈後、1症例につき4スポットずつ専用の装置(型式「VP478A」、V&P Scientific社)を用いてRPPA用のスライドグラス(型式「DNAマイクロアレイ用コートスライドグラス」MATSUNAMI GLASS社)にドットした。
また、コムギ胚芽無細胞系で作製したDJ−1タンパク質を段階希釈し、同様にドットし内部標準とした。血清のスライドグラスへの固相化のため、シリカゲルを入れたプラスチックトレイ中で室温、2日間乾燥させた。
その後、0.5% casein/0.01% Triton X−100/D−PBS(−)を用いて37℃で1時間ブロッキングを行った。続いて、ブロッキング液で100倍希釈したマウス抗DJ−1抗体(MBL社)を一次抗体として4℃、一晩反応させた。その後、洗浄バッファー(0.01% Triton X−100/D−PBS(−))で5分間、3回洗浄を行った後、二次抗体としてブロッキング液で100倍希釈したビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Vector Laboratories社)を37℃で1時間反応させた。
続いて、洗浄バッファーで5分間、3回洗浄を行った後、ブロッキング液で1000倍希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(GEヘルスケア社)を37℃で30分間反応させた。その後、洗浄バッファーで5分間、3回洗浄を行った後、200倍希釈したCy5標識Tyramide(パーキンエルマー社)を37℃で20分間反応させた。
続いて、洗浄バッファーで5分間、3回洗浄を行った後、ブロッキング液で2000倍希釈したAlexa546標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Life Technologies社)を37℃で5分間反応させた。続いて、洗浄バッファーで5分間、3回洗浄を行い、更に超純水中で5分間、2回洗浄した後、700rpm、10分間遠心して乾燥させ、アレイ用スキャナー(型式「GenePix 4000B」、Molecular Devices社)を用いてシグナルの検出及び数値化を行った。
《シグナル値の標準化》
濃度既知のDJ−1タンパク質を段階希釈して得られた検量線において、希釈濃度0.3ng/μLから10ng/μLの間で直線性が得られたため、アレイ用スキャナーにより得られた、DJ−1タンパク質1ng/μLにおける平均のシグナル値を計算し、それぞれの症例におけるシグナル値からDJ−1タンパク質の濃度を算出した。算出後、濃度が0.3ng/μL以下のものは測定限界であるとして0ng/μLとした。また、10ng/μLを測定上限として、それ以上の症例は全て10ng/μLとした。
(DJ−1特異的siRNAを用いたT24細胞株の機能解析)
《T24細胞株へのDJ−1 siRNAの導入》
膀胱癌由来細胞株T24を、24ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に細胞数が1.0×10個/ウェルとなるように播種し、10%非動化ウシ胎児血清を添加したRPMI−1640培地(和光純薬)で37℃、5%CO/95%空気の条件下で24時間培養した。
Opti−MEM(商標)Reduced Serum Media(Thermo Scientific社)にPARK7(DJ−1)gene siRNA(ターゲット配列:TGCGACGATCACTTAGAGAAA、配列番号1)を、トランスフェクション時の濃度が250nMとなるように加え、Opti−MEM(商標)Reduced Serum Media 中に2%量のLipofectamine(商標)RNAiMAX(Thermo Scientific社)を加えた溶液と混合し、室温で20分間静置して複合体を形成させた。細胞をD−PBS(−)で一回洗浄し、siRNA・Lipofectamine複合体を加え、37℃、5%CO/95%空気の条件下で24時間培養しトランスフェクションを行った。また、siRNAのトランスフェクションを行わずにOpti−MEM(商標)Reduced Serum Media培地を用い、同様の条件下で培養したT24細胞株をコントロールとした。
《DJ−1のノックダウンの確認》
siRNA導入群と未導入群の各細胞からタンパク質を抽出し、SDS−PAGE及び免疫ブロット法により、DJ−1をノックダウンできていることを確認した。
《細胞浸潤アッセイ》
24ウェルプレートにBD Falcon Cell Culture Inserts(BDバイオサイエンス社)を挿入し、Corning Matrigel基底膜マトリックス(Corning社)を入れ、2時間室温でコーティングした。
続いて、siRNA導入細胞と未導入細胞をそれぞれ24ウェルプレートからトリプシンを用いて回収し、10%非動化ウシ胎児血清を添加したRPMI−1640培地を用い、5×10個/ウェルとなるようにBD Falcon Cell Culture Insertsの中に入れた。BD Falcon Cell Culture Insertsの外にも同じ培地を入れ、37℃、5%CO/95%空気の条件下で5時間培養した。培養後、綿棒でBD Falcon Cell Culture Inserts内の細胞を取り除き、浸潤細胞のみを4%パラホルムアルデヒド/PBSにより固定した後、エオジン染色を行い、顕微鏡により浸潤細胞数を算出した。この実験は、siRNA導入群3ウェル、未導入細胞群3ウェルの合計6ウェルについて行った。
《細胞浸潤アッセイの評価法》
BD Falcon Cell Culture Insertsの下面に浸潤した細胞数を、顕微鏡を用いて倍率200倍で任意の5視野分数えて浸潤細胞数の平均を算出した。
《Wound Healing Assay》
トランスフェクション後24時間経過した、DJ−1タンパク質の発現が抑制された細胞と未処理の細胞が入ったウェルを200μLのピペットチップで引っ掻いて細胞をはがし、一定幅の溝を作製した。その後24時間培養し、実験開始直後(0時間)と24時間後の溝の修復度合いをカメラで撮影し、評価した。
《統計解析》
免疫組織化学染色における臨床病理学的因子との関連性はカイ2乗検定により算出し、患者の予後に関しては全生存期間Overall Survival(OS)と5年生存率について細胞内における染色性の違いに基づきKaplan−Meier曲線を描き、Log−rank testにより評価した。
逆相タンパク質アレイ法では、4重測定した各サンプルをコムギ胚芽無細胞系で作製したDJ−1タンパク質で標準化した値を用いて統計解析を行った。血中抗原量との関連は独立2群間t検定により算出し、測定したDJ−1タンパク質の診断的有用性の評価にはReceiver Operating Characteristic(ROC)解析を用い、Area Under the Curve(AUC)を指標とした。
細胞浸潤アッセイは、siRNA導入群と未処理群の浸潤細胞数の平均を2群間t検定を用いて解析した。Wound Healing Assayは、同一時間内での溝の修復割合をsiRNA導入群と未処理群間でt検定により解析した。統計解析の結果、p<0.05を統計学的に有意であると判断した。
[実験例1]
(膀胱癌外科摘出組織の免疫組織化学染色)
膀胱癌外科摘出組織を免疫組織化学染色し、DJ−1タンパク質の発現を検討した。図1(a)〜(e)は、免疫組織化学染色の結果を示す写真である。図1(a)は正常尿路上皮の写真であり、図1(b)〜(e)は膀胱癌組織の写真である。スケールバーは50μmを示す。
その結果、図1(a)に示すように、DJ−1タンパク質は、正常尿路上皮では核に強い発現がみられ、細胞質には発現がないかあっても弱い発現が認められた。一方、図1(b)〜(e)に示すように、膀胱癌組織におけるDJ−1タンパク質の発現には、核で発現が認められるが細胞質での発現は認められない症例(図1(b))、核で発現が認められ細胞質での発現も認められる症例(図1(c))、核で発現が認められず、細胞質でも発現が認められない症例(図1(d))、核で発現が認められず細胞質で発現が認められる症例(図1(e))の4パターンが認められた。
続いて、DJ−1タンパク質の発現パターンと臨床病理学因子との関係を検討した。表4に結果を示す。その結果、核でDJ−1タンパク質の発現が低下し、細胞質で発現亢進が認められた、核(−)細胞質(+)の症例群は、その他の発現パターンを示す症例群と比較して、有意に腫瘍ステージとの正の相関が認められた(p=0.0195)。また、年齢、性別、グレード、リンパ節転移、脈管侵襲、再発との間に明らかな相関は認められなかった。
続いて、核(−)細胞質(+)の症例群とその他の症例群において予後解析を行った。図2は、予後解析の結果を示すグラフである。その結果、全生存期間(OS)において、核(−)細胞質(+)の症例群は、その他の症例群と比較して、有意に予後不良であった(p=0.0469)。
[実験例2]
(T1 G3 TUR−BT組織における免疫組織化学染色)
T1 G3 TUR−BT組織を免疫組織化学染色し、DJ−1タンパク質の発現を検討した。図3(a)及び(b)は、免疫組織化学染色の結果を示す写真である。
その結果、T1 G3 TUR−BT組織におけるDJ−1タンパク質の発現には、核で発現が認められない症例(図3(a))及び核で発現が認められる症例(図3(b))の2パターンが認められた。
続いて、DJ−1タンパク質の発現パターンと臨床病理学因子との関係を検討した。表5に結果を示す。その結果、核でDJ−1タンパク質の発現が低下した核(−)の症例群と、核でDJ−1タンパク質の発現が認められた核(+)の症例群との間には、検討した全ての臨床病理学的因子との相関が認められなかった。
続いて、核(−)の症例群と核(+)の症例群において予後解析を行った。図4は、予後解析の結果を示すグラフである。その結果、核(−)の症例群は、核(+)の症例群と比較して、5年生存率で有意に予後不良であった(p=0.024)。
[実験例3]
(逆相タンパク質アレイ法による血中DJ−1タンパク質量の測定)
続いて、健常者血清、尿路結石患者血清及び原発性膀胱癌患者血清中のDJ−1タンパク質量を逆相タンパク質アレイ法により測定した。
図5(a)〜(e)は、逆相タンパク質アレイ法により、血清中のDJ−1タンパク質量を測定した結果を示す写真である。図5(a)及び(b)には、健常者血清100症例が1症例につき4スポットずつドットされている。また、図5(b)の枠内には尿路結石患者血清20症例が1症例につき4スポットずつドットされている。また、図5(c)及び(d)には、pTa/pT1患者血清147症例が1症例につき4スポットずつドットされている。また、図5(e)には、pT2、pT3、pT4患者血清45症例が1症例につき4スポットずつドットされている。また、図5(a)〜(e)の右下の枠内には、濃度既知のDJ−1タンパク質の希釈系列が4スポットずつドットされている。図5(a)〜(e)の結果をもとに各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を定量化した。
図6(a)は、健常者及び全膀胱癌患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。また、図6(b)は、健常者及び全膀胱癌患者のROC解析の結果を示すグラフである。また、図6(c)は、尿路結石患者及び全膀胱癌患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。また、図6(d)は、尿路結石患者及び全膀胱癌患者のROC解析の結果を示すグラフである。
その結果、DJ−1タンパク質量は、健常者血清及び尿路結石患者血清では低いのに対し、膀胱癌患者血清では有意に高いことが明らかとなった(p<0.0001)。
また、全膀胱癌患者血清と健常者血清、全膀胱癌患者血清と尿路結石患者血清のROC解析の結果、健常者は、AUC=0.90、カットオフ値1.11ng/μLの時、感度=86%、特異度=84%であった。また、尿路結石患者は、AUC=0.91、カットオフ値1.15ng/μLの時、感度=86%、特異度=80%であった。以上の結果は、膀胱癌患者と、健常者又は尿路結石患者とを鑑別可能であることを示す。
続いて、膀胱癌患者のうち、pTa/pT1患者について同様の検討を行った。図7(a)は、健常者及びpTa/pT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。また、図7(b)は、健常者及びpTa/pT1患者のROC解析の結果を示すグラフである。また、図7(c)は、尿路結石患者及びpTa/pT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。また、図7(d)は、尿路結石患者及びpTa/pT1患者のROC解析の結果を示すグラフである。
pTa/pT1患者血清と健常者血清、pTa/pT1患者血清と尿路結石患者血清のROC解析の結果、健常者は、AUC=0.93、カットオフ値1.28ng/μLの時、感度=90%、特異度=89%であった。また、尿路結石患者は、AUC=0.94、カットオフ値1.42ng/μLの時、感度=85%、特異度=90%であった。以上の結果は、pTa/pT1患者と、健常者又は尿路結石患者とを鑑別可能であることを示す。
続いて、血中DJ−1タンパク質量と臨床病理学的因子との関連を検討した。図8(a)〜(d)は、検討結果を示すグラフである。図8(a)は、pTa患者及びpT1患者の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。図8(b)は、男性及び女性の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。図8(c)は、65歳以上及び64歳以下の各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。図8(d)は、組織学的異型度のLow Grade及びHigh Gradeの各症例の血清中のDJ−1タンパク質量を示すグラフである。
その結果、血中DJ−1タンパク質量と組織学的異型度との間に相関が認められ、High Gradeに比較してLow Gradeで有意にDJ−1タンパク質量が高いことが明らかとなった(p=0.0272)。しかしながら、血中DJ−1タンパク質量と、ステージ、性別及び年齢との間には、明らかな相関性は認められなかった。
[実験例4]
(DJ−1特異的siRNAを用いた細胞浸潤アッセイ)
T24細胞株にDJ−1特異的siRNAを導入し、細胞浸潤アッセイを行った。対照にはsiRNAを導入していないT24細胞株を用いた。
図9は、細胞浸潤アッセイの結果を示すグラフである。その結果、平均浸潤細胞数は、対照群で161.7個/1視野であったのに対し、siRNA導入群では95.7個/1視野であり、siRNA導入群で浸潤細胞数が有意に減少したことが明らかとなった(p<0.0005)。この結果は、DJ−1をノックダウンすると、細胞の浸潤が抑制されることを示す。
[実験例5]
(DJ−1特異的siRNAを用いたWound Healing Assay)
T24細胞株にDJ−1特異的siRNAを導入し、Wound Healing Assayを行った。対照にはsiRNAを導入していないT24細胞株を用いた。
図10(a)はsiRNA導入群の実験開始直後(0時間)の写真である。図10(b)はsiRNA導入群の24時間後の写真である。図10(c)は対照群の実験開始直後(0時間)の写真である。図10(d)は対照群の24時間後の写真である。図10(a)〜(d)においてスケールバーは80μmを示す。
その結果、siRNA導入群と対照群との間で有意な差は認められなかった。この結果は、DJ−1をノックダウンしても、細胞の遊走能には影響がないことを示す。
本発明によれば、尿路上皮癌を正確に検出できる技術を提供することができる。

Claims (2)

  1. 膀胱癌患者の予後を予測するための方法であって、
    前記患者由来の膀胱癌組織試料におけるDJ−1タンパク質の発現を検出する工程を備え、
    前記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下していたことが、前記患者の予後が不良であることを示す、方法。
  2. 記試料中の腫瘍細胞の核におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して低下しており、且つ前記試料中の腫瘍細胞の細胞質におけるDJ−1タンパク質の発現が、対照と比較して増加していたことが、前記患者の予後が不良であることを示す、請求項に記載の方法。
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