JP6672227B2 - 防音構造、光学デバイス、及び電子デバイス - Google Patents

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Description

本発明は、防音構造、ならびに、これを備える光学デバイス、及び電子デバイスに関する。
吸音構造等の防音構造においても、適用範囲が広がり、様々な場所、又は環境で用いられるようになってきている。このため、防音構造においても、多様な機能が求められるようになってきている。
例えば、向こう側が見通せる透視性を備えた吸音構造体(特許文献1参照)、及び吸音効果と照明効果を持つ吸音照明装置(特許文献2参照)等も提案されている。
また、単なるデジタルカメラ等だけではなく、監視カメラ、ロボットに搭載されたカメラ、及び自動車に搭載されたセンシングカメラ等も含まれる光学デバイスが広く普及している。このため、これらの光学デバイスにおいては、光学デバイスの動作音の消音化のみならず、光学デバイスの隠蔽化が求められるようになってきている。
特許文献1に開示の吸音構造体は、板に等ピッチ又は不等ピッチで多数の細孔を設けて多孔板とすると共に、細孔に係わる抵抗を考慮して、吸音を目的とする周波数(ターゲット周波数)に対しての、多孔板の表面インピーダンスが、空気の密度と音速との積で定まるインピーダンスに近づくように、多孔板の表面に対する細孔の開口率を定めている。また、この吸音構造体では、遮音と採光とを必要とする工場の壁、騒音を発生する機械の窓、車両の窓などに利用するため、多孔板を透明な板状材料として透視性を確保している。
特許文献2に開示の吸音照明装置は、照明器具と、照明器具背面に配置された透明または半透明な多孔質構造体とを有し、多孔質構造体によって光を透過または反射、拡散する照明効果をもたせ、更に多孔質構造体とその多孔質構造体背面に配置した反射板との間に形成された背面空気層とにより吸音部を構成したものである。この吸音照明装置は、十分な吸音性能をもち、照度分布が一様であり、照明装置としての美観を満足させ、かつ照明器具(蛍光灯など)の防護の機能を失うことのないものである。
また、広く普及している光学デバイスにおいては、例えば、光学デバイスが外部環境に露出していることによって、その光学デバイスが搭載された電子機器の意匠性、又は住環境等の外部環境の意匠性が損なわれることから、光学デバイスの隠蔽が求められる。それに加え、例えば、目標物を追随する機能が付与された撮像デバイス(ロボット等も含む)においては、その動作音が問題となる場合もある。すなわち、このような光学デバイスでは、動作音の消音化のみならず、隠蔽化が求められており、光学デバイスの周辺に居る外部者に気付かれない、また、邪魔をしないことが求められている。
特開2003−041528号公報 特開平03−295105号公報
ところで、特許文献1に開示の吸音構造体では、多孔板の表面インピーダンスは、空気の密度と音速との積で定まるインピーダンスに近づくものであるが、定められる多孔板の表面に対する細孔の開口率は、0.8%〜3.1%であり、高くても、10%以下と、吸音に使われる通常の穴開き板に比べはるかに小さくなっている。このため、光透過性が求められる光デバイスには適用できないという問題があった。
また、特許文献1に開示の多孔板の表面インピーダンスは、多孔板の背後に空気層がある場合のものであるという問題があった。
更に、この吸音構造体では、多孔板を透明な板状材料として透視性を確保し、遮音と採光とを必要とする場合に適したものであり、光学デバイスの動作音の消音化、及び隠蔽化には、適用できないという問題があった。
特許文献2に開示の吸音照明装置は、透明または半透明な多孔質構造体を用いるものであり、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する膜状部材ではないという問題があった。
また、特許文献2に開示の吸音部は、多孔質構造体と多孔質構造体背面に配置された反射板との間に形成された背面空気層により構成されたものであるという問題があった。
更に、この吸音照明装置は、照明器具を防護すると共に、照明装置としての美観を満足させるものであり、光学デバイスの動作音の消音化、及び隠蔽化には、適用できないという問題があった。
また、動作音の消音化のみならず、隠蔽化が求められている光学デバイスにおいては、光学デバイスを光学的にも音響的にも認識させないようにするためには、外部環境から光学デバイスに向う方向、及び光学デバイスから外部環境に向かう方向の光透過性を低くする機能、並びに防音機構を高める機能の付与が必要となる。
しかしながら、光透過性については、光透過性を低くしすぎると、外部環境に居る外部者、又は観察者から光学デバイスは見えなくなるが、光学デバイスも外部者、又は観察者を捉えられなくなる(具体的には撮像できなくなる)という問題があった。
このため、光学デバイスを隠蔽化するための防音構造には、外部環境を撮像できる程度に適度に光を透過することが必要となる。また、同時に、光学デバイスの動作音を消音する防音機構については広帯域に防音することが求められる。しかしながら、適度な光透過性、及び広帯域の防音を同時に満足する防音構造は、まだ、実現されていないという問題があった。
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、広帯域に音を吸音し、かつ適度な光の透過性、及び光散乱性を有する膜状部材を備える防音構造、光学デバイス、及び電子デバイスを提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様の防音構造は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する膜状部材を備える防音構造であって、複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムが1つ以上の極大値を有し、膜状部材の厚みをt、孔半径ヒストグラムの各孔半径に対応する1以上の貫通孔の半径をr(j=1、2、・・・、m(mは1以上の整数))、それらの半径rに対応する貫通孔の開口率をσ(j=1、2、・・・、m)とし、それらの半径rに対応する下記式(1)で表される音響インピーダンスをZ(j=1、2、・・・、m)とするとき、下記式(2)で定義される合成音響インピーダンスZMPPが下記式(3)式を満足し、複数の貫通孔の合計開口率Σσは、下記式(4)を満足する。

0.35×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(3)
ここで、ρは、空気の密度、ηは、空気の粘度、ωは、角周波数、J(x)、及びJ(x)は、それぞれ第1種ベッセル関数、iは、虚数単位、Zairは、空気の音響インピーダンス、Re(*)は複素数*の実部を表し、k’=r√(ρω/η)である。
ここで、上記第1の態様の防音構造において、複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムは、1つの極大値を有することが好ましい。
また、複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムは、2つの極大値を有することが好ましい。
また、音響インピーダンスZMPPの実部Re(ZMPP)は、下記式(5)を満足することが好ましい。
0.85×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(5)
また、膜状部材の厚みtは、0.1mm以下であることが好ましい。
また、複数の貫通孔の半径は、0.05mm以下であることが好ましい。
また、複数の貫通孔は、膜状部材にランダムに配列されていることが好ましい。
また、膜状部材の少なくとも複数の貫通孔を有する部分は、金属であることが好ましい。
また、金属は、ニッケル、銅、又は鉄であることが好ましい。
また、金属は、アルミニウムであることが好ましい。
また、さらに、膜状部材に積層されるメッシュ構造を備えることが好ましい。
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の態様の光学デバイスは、上記第1の態様の防音構造を備える。
ここで、光学デバイスは、カメラであることが好ましい。
また、上記目的を達成するために、本発明の第3の態様の電子デバイスは、上記第1の態様の防音構造を備える。
ここで、電子デバイスは、移動型ロボット、又はパソコン等のコンピュータであることが好ましい。
本発明によれば、広帯域に音を吸音し、かつ適度な光の透過性、及び光散乱性を有する膜状部材を備える防音構造、光学デバイス、及び電子デバイスを提供することができる。
また、本発明によれば、上記効果に加え、外部環境と光学デバイスとの間に配置され、適度な光の透過性を有し、カメラ等の光学デバイスによる外部環境の撮像を可能にすると共に、外部環境から光学デバイスを視認できなくする、又は視認し難くすることができ、広い周波数帯域で高い防音性能を発現することができる。
本発明の一実施形態に係る防音構造の一例を概念的かつ部分的に示す正面図である。 図1に示す防音構造の断面図である。 本発明の他の実施形態に係る防音構造の一例を概念的かつ部分的に示す正面図である。 本発明の防音構造を使用する一使用形態の概念図である。 本発明の防音構造を使用する他の使用形態の概念図である。 本発明の防音構造の微細な貫通孔を有する膜状部材の吸音モデルの概念図である。 図6に示す吸音モデルの膜状部材の音響インピーダンスの一例の実部の大きさを孔半径及び開口率に対して示すグラフである。 図7に示す音響インピーダンスの虚部の大きさを孔半径及び開口率に対して示すグラフである。 図6に示す吸音モデルの音の吸収率の一例の大きさを孔半径及び開口率に対して示すグラフである。 本発明の防音構造の膜状部材の音響インピーダンスの実部と空気の音響インピーダンスとの比に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の防音構造の膜状部材の音響インピーダンスの実部と空気の音響インピーダンスとの比に対する遮音特性のグラフである。 距離と目の分解能との関係を表すグラフである。 本発明の防音構造の実施例1の音の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率の理論計算結果、及びシミュレーション結果のグラフである。 本発明の実施例1の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 実施例1の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の実施例2の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 実施例2の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の実施例3の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 実施例3の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の実施例4の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 実施例4の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の比較例1の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 比較例1の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の比較例2の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 比較例2の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。 本発明の比較例3の防音構造の膜状部材の孔半径と開口率との関係を示すグラフである。 比較例3の周波数に対する透過率、反射率、及び吸収率のグラフである。
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[防音構造]
本発明の第1の態様の防音構造は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する膜状部材を備える防音構造であって、複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムが1つ以上の極大値を有し、膜状部材の厚みをt、孔半径ヒストグラムの各孔半径に対応する1以上の貫通孔の半径をr(j=1、2、・・・、m(mは1以上の整数))、それらの半径rに対応する1以上の貫通孔の開口率をσ(j=1、2、・・・、m)とし、それらの半径rに対応する下記式(1)で表される音響インピーダンスをZ(j=1、2、・・・、m)とするとき、下記式(2)で定義される合成音響インピーダンスZMPPが下記式(3)式を満足し、複数の貫通孔の合計開口率Σσは、下記式(4)を満足する。


0.35×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(3)
ここで、ρは、空気の密度、ηは、空気の粘度、ωは、角周波数、J(x)、及びJ(x)は、それぞれ第1種ベッセル関数、iは、虚数単位、Zairは、空気の音響インピーダンス、Re(*)は複素数*の実部を表し、k’=r√(ρω/η)である。
本発明の防音構造の構成について、図1〜図5を用いて説明する。
図1は、本発明の防音構造の好適な実施態様の一例を示す模式的な正面図であり、図2は、図1の断面図である。
図1、及び図2に示すように、本発明の防音構造10は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔14(14a、及び14b)を有する膜状部材12を備えるものである。
図1に示す防音構造10では、例えば、孔半径rの大きい貫通孔14aと、孔半径rの小さい貫通孔14bとが含まれる。ここで、小さい貫通孔14bは多く、それらの開口率σは高く、例えば0.45(45%)である場合、小さい貫通孔14bには、小さすぎて音が入っていかないので吸音には寄与しない。しかしながら、小さい貫通孔14bは、多数あるので、光を通す。一方、大きい貫通孔14aは少なく、大きい貫通孔14aの開口率σは低く、例えば0.05(5%)である場合、大きい貫通孔14aを通る光は少ない。しかしながら、音は、大きい貫通孔14aに入って行き、内壁面との摩擦により音のエネルギが熱エネルギに変換されるので吸収される。このように、膜状部材12に大きさの異なる複数種類の孔を開けて、機能分散させることができる。
なお、以下では、図1に示す防音構造10を用いて説明するが、図1に示す防音構造10の代わりに、図3に示す防音構造10Aを用いても良いことは勿論であるし、3種類以上の異なる多数の孔半径を有する貫通孔14を備える防音構造を用いても良いことは勿論である。
なお、図1に示す防音構造10においては、複数の貫通孔14は、2種類の異なる孔半径r、及びrをそれぞれ有する貫通孔14a、及び14bであり、後述する図18、図20に示すように、複数の貫通孔14の孔半径ヒストグラムが2つの極大値を有するものであるが、本発明は、これに限定されない。
例えば、図20に示すように、複数の貫通孔は、孔半径ヒストグラムが2つの極大値を有するもので、3種類以上の異なる多数の孔半径を有する貫通孔であっても良い。
また、例えば、図3に示す防音構造10Aのように、複数の貫通孔14は、同一孔半径(例えば半径r)を有する貫通孔14であり、後述する図13に示す複数の貫通孔14の孔半径ヒストグラムが1つの極大値のみを有するものであっても良い。また、図16に示すように、複数の貫通孔は、孔半径ヒストグラムが1つの極大値を有するもので、3種類以上の異なる多数の孔半径を有する貫通孔であっても良い。また、複数の貫通孔は、3種類以上の異なる多数の孔半径を有する貫通孔であり、複数の貫通孔14の孔半径ヒストグラムが3つの以上の極大値を有するものであっても良い。
例えば、後述する図18、及び図20に示す孔半径ヒストグラムでは、孔半径rは、0.5μm刻みで分類されて、0.5μmから20.0μmまでの40種類の孔半径rに分類されている。図18、及び図20に示す孔半径ヒストグラムは、そのように分類される孔半径rの1以上の半径に対応する1以上の貫通孔の開口率σ(r)を表わしている。なお、この関数σ(r)は、開口率σの孔半径分布ヒストグラム関数σ(r)ということもできる。なお、図18、及び図20では、孔半径ヒストグラムが極大値を取る半径は、共に、半径1.0μm、及び半径12μmの2つである。
一方、後述する図13、及び図16に示す孔半径ヒストグラムでは、孔半径rは、0.5μm刻みで分類されて、0.5μmから15.0μmまでの30種類の孔半径rに分類されている。なお、図13、及び図16に示す孔半径ヒストグラムも、同様に、そのように分類される孔半径rの1以上の半径に対応する1以上の貫通孔の開口率σ(r)を表わしている。なお、図13、及び図16では、孔半径ヒストグラムが極大値を取る半径は、共に、半径3.0μmの1つである。
本発明の防音構造10は、監視カメラ等の電子機器、ロボット等に搭載されたカメラ、及び自動車に搭載されたセンシングカメラ等のカメラ、目標物を追随する機能を持つイメージセンサ等の撮像デバイス、及びセンサ類等の隠蔽性と動作音等の消音とが要求される光学デバイス、並びに移動型ロボット、及びパソコン(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータ等の意匠性と動作音等の消音とが要求される電子デバイス等に用いられるものである。
なお、本発明の防音構造10は、住環境等の外部環境の意匠性が損なわれるのを防止するために隠蔽性が求められると共に、動作音の消音が求められる場合には、複写機、送風機、空調機器、換気扇、ポンプ類、発電機、ダクト、その他にも塗布機や回転機、搬送機など音を発する様々な種類の製造機器等の産業用機器、自動車、電車、航空機等の輸送用機器、冷蔵庫、テレビジョン、洗濯機、乾燥機、コピー機、電子レンジ、ゲーム機、エアコン、扇風機、PC(パーソナルコンピュータ)、掃除機、空気清浄機、換気扇等の一般家庭用機器等に用いても良い。
本発明の防音構造10は、これらの各種光学デバイス、各種電子デバイス、又は各種機器と、その周辺の外部環境に居る外部者、又は観察者との間の位置に適宜配置される。
例えば、図4に示すように、本発明の防音構造10は、監視カメラ16と、監視カメラ16の外部環境にいる外部者18との間に配置される。また、図5に示すように、本発明の防音構造10Bは、イメージセンサ(IMS)20、及びレンズ22を有する撮像系24と、撮像系24の外部環境にいる外部者18との間に配置されていても良い。なお、本発明の防音構造としては、図5に示す防音構造10Bのように、膜状部材12の監視カメラ16側、及び撮像系24側の表面に、複数の孔部28を有する枠体26をメッシュ構造として積層する構造としても良い。膜状部材12と枠体26との積層構造については、後述する。
本発明の防音構造10の膜状部材12は、監視カメラ16側、及び撮像系24から外部者18に向う方向の光透過性を低くして、外部者18から監視カメラ16、及び撮像系24を視認できなくなるようにすると共に、外部者18から監視カメラ16、及び撮像系24に向う方向の光透過性は低くても、適度に光を透過させて監視カメラ16、及び撮像系24による撮像を可能にする。同時に、本発明の防音構造10の膜状部材12は、監視カメラ16、及び撮像系24の動作音を広帯域に渡って吸音して、外部者18に気付かせないようにする。
ところで、防音構造10においては、膜状部材12は、上記条件を満足するためには、主に20%(望ましくは30%)以上の高い開口率を有する貫通孔14を有することが有効であり、金属の膜状部材がより有効である。特に、防音構造10の膜状部材12の貫通孔14に関しては、上述した条件を満足する場合においてのみ、高開口率で、且つ音の高い吸収率を示す。膜状部材12の貫通孔14は、このような条件下では、高開口率であるにもかかわらず、貫通孔14の光透過性は低い。特に、膜状部材12の主成分として金属を用いている場合には、光が貫通孔14を透過する際に光が散乱する。このため外部者から、監視カメラ16等の光学デバイスを認識することが難しくなる。
一方で、防音構造10においては、監視カメラ16等の光学デバイスから外部者18を認識することは難しくなるが、監視カメラ16等の光学デバイスは取得した画像を、画像処理技術を用いることで、鮮明な映像へと復元することができる。このため、外部者からは、監視カメラ16等の光学デバイスの姿形、及び動作音を認識し難くなる一方で、監視カメラ16等の光学デバイスは外部者を認識することができるという情報・認識の非相反性を生じさせることができる。
本発明の防音構造10を用いて監視カメラ16等の光学デバイスによって取得した画像を鮮明な映像へと復元するための画像処理技術としては、以下の文献を挙げることができる。
1.He, K., Sun, J., Tang, X.: Single Image Haze Removal Using Dark Channel Prior. TPAMI 33(12) (2011) 2341-2353
2.Tang, K., Yang, J., Wang, J.: Investigating Haze-relevant Features in A Learning Framework for Image Dehazing. In: CVPR. (2014)
3.Ren, W., Liu, S., Zhang, H., Pan, J., Cao, X., Yang, M.-H.: Single Image Dehazing via Multi-Scale Convolutional Neural Networks. Computer Vision - ECCV 2016 pp154-169
図1及び図2に示す防音構造10においては、膜状部材12に形成された複数の微細な貫通孔14は、後述する図18、及び図20に示すように、複数種類(例えば、2種類)の半径を有しており、複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムが1つ以上(例えば、2つ)の極大値を有している。このような膜状部材12は、膜状部材12の厚みをt、孔半径ヒストグラムの各孔半径に対応する1以上の貫通孔の半径をr(j=1、2、・・・、m(mは1以上の整数))(例えば、r、r)、それらの半径rに対応する1以上の貫通孔の開口率をσ(j=1、2、・・・、m)(例えば、σ、σ)とし、それらの半径rに対応する上記式(1)で表される音響インピーダンスをZ(j=1、2、・・・、m)(例えば、Z、Z)とするとき、上記式(2)で定義される合成音響インピーダンスZMPPが上記式(3)式を満足し、複数の貫通孔の合計開口率Σσは、上記式(4)を満足する。
本発明においては、図6に示すような微細な貫通孔14を有する膜状部材(以下、微細貫通孔膜ともいう)12の吸音モデル30を適用して、吸音率を求める。
図6に示す吸音モデル30では、管体32内に微細貫通孔膜12が管体に直交するように配置されている。吸音モデル30では、微細貫通孔膜12の厚みは無視し、厚み無いものと仮定する。
図6における吸音モデル30においては、音は、管体32の図6中左側から微細貫通孔膜12に入射し、微細貫通孔膜12を透過して管体32の図6中右側から出射する。ここで、微細貫通孔膜12の図6中左側において、微細貫通孔膜12に入射する入射側の空気の音圧がP1であり、空気の粒子速度はu1であり、微細貫通孔膜12の図6中左側において、微細貫通孔膜12から出射する出射側の空気の音圧がP2であり、空気の粒子速度はu2であるとすると、下記式(6)で示す4つの式が成り立つ。
P1=Pi+Pr
P2=Pt
u1=ui−ur
u2=ut …(6)
ここで、Piは入射音圧、uiは入射粒子速度、Prは反射音圧、urは反射粒子速度、Ptは透過音圧、utは透過粒子速度である。
図6に示す吸音モデル30を考慮した場合の微細貫通孔膜12の音響インピーダンスZMPPは、Acoustic Absorbers and Diffusers、 Third Edition (CRC Press)の第256頁の(7.35)式を参考にして、下記式(7)のように求めることができる。
MPP=Z+Zh1+Zh2 …(7)
ここで、右辺の第1項目のZは、貫通孔14の音響インピーダンスである。右辺の第2項目のZh1は、貫通孔14の部分の放射抵抗である。右辺の第3項目のZh2は、貫通孔14の部分の放射リアクタンスを考慮した開口端補正の項である。ここで、微細な貫通孔14の半径は、図3に示す防音構造10Aのように同一の半径rであり、開口率はσ、膜状部材の厚みはtであるとすると、Z、Zh1、及びZh2は、下記式で表される。
こうして、上記式(7)は、上記式(8)となる。
ここで、上記式(8)は、微細貫通孔膜12の半径rの複数の貫通孔14の音響インピーダンスZMPPということができる。したがって、半径の異なる複数の貫通孔14がある場合、例えば、半径rの1以上の貫通孔14の音響インピーダンスをzで表すと、上記式(8)の半径rをrに、開口率をσをσに置き換え、音響インピーダンスZMPPをZに置き換えることにより、上記式(1)のように表すことができる。これらの音響インピーダンスZを全ての異なる半径rについて求め、上記式(2)から、半径の異なる複数の貫通孔14がある場合の微細貫通孔膜12の半径rの異なる複数の貫通孔14の音響インピーダンスZMPPを求めることができる。なお、上記式(8)は、複数の貫通孔14の半径rが全て等しく半径rであり、半径rの貫通孔14の開口率σが全て等しく、その合計である複数の貫通孔14の合計開口率Σσがσである時の音響インピーダンスZが音響インピーダンスZMPPに等しいことを表わしている。
ここで、ρは、空気の密度、ηは、空気の粘度、ωは、角周波数、J(x)、及びJ(x)は、それぞれ第1種ベッセル関数、iは、虚数単位、Zairは、空気の音響インピーダンス、Re(*)は複素数*の実部を表し、k’=r√(ρω/η)である。
次に、図6に示す吸音モデル30において、伝達マトリックスを用いると、下記式(9)が成り立つ。
この上記式(9)より、下記式(10)が求まる。
P1=P2+ZMPPu2
u1=u2 …(10)
上記式(10)の2式に上記式(6)の4式を代入すると、下記式(11)及び(12)が得られる。
Pi+Pr=Pt++ZMPPut …(11)
ui−ur=ut …(12)
ここで、空気の音響インピーダンスZairは、透過音圧Pt、及び透過粒子速度utで表すと、Zair=Pt/utで表されるので、上記式(11)から下記式で表される。
Pi+Pr=Pt++ZMPPut=Pt++ZMPPPt/Zair
=Pt(1+ZMPP/Zair
上記式の両辺をPiで除算すると、下記式(13)となる。
1+Pr/Pi=(Pt/Pi)(1+ZMPP/Zair) …(13)
ここで、反射係数rf=Pr/Piであり、透過係数tr=Pt/Piであるので、上記式(13)は、下記式(14)となる。
1+rf=tr(1+ZMPP/Zair) …(14)
上記式(12)の両辺をuiで除算すると、反射係数rf=ur/uiであり、透過係数tr=ut/uiで与えられるので、上記式(14)は、下記式(15)となる。
1−ur/ui=ut/ui=1−rf=tr …(15)
上記式(14)、及び(15)より、rf及びtrは、下記式(16)のようになる。
rf=ZMPP/(2Zair+ZMPP
tr=2Zair/(2Zair+ZMPP) …(16)
こうして上記式(16)で求められる反射係数rf及び透過係数trを用いて、反射率R、透過率T、及び吸収率Aを、下記式(17)によって求めることができる。
R=rf
T=tr
A=1−R−T …(17)
こうして、音の吸収率である吸音率Aを求めることができる。
ここで、空気の音響インピーダンスZairは、音速cと空気の密度ρの積として与えられる。即ち、Zair=ρcである。
上記式(8)で定義される微細貫通孔膜12の音響インピーダンスZMPPと、上記式(17)で定義される吸収率Aとを、孔半径r、及び開口率σを変えて計算してグラフ化すると、音響インピーダンスZMPPの実部Re(ZMPP)、虚部Im(ZMPP)、及び吸収率Aは、それぞれ図7〜図9のようになる。ここで、膜状部材12の厚みtは、0.02mm(20μm)、空気の密度ρは、1.205(kg/m)、空気の粘度ηは、1.8×10-5(Pa・s)、空気の音響インピーダンスZairは、413.3(kg/(ms))としている。
図7〜図9中、白い部分はそれぞれの値が大きい部分を示し、黒い部分はそれぞれの値が小さい部分を示す。
ところで、本発明においては、合計開口率σは、光透過性の観点から0.2以上と高くする必要がある。この場合、実部Re(ZMPP)に対して虚部Im(ZMPP)は非常に小さくなるため、ほぼ無視できる。即ち、吸収率Aを計算する際には、実部Re(ZMPP)のみを考慮すれば値を求めることができることが分かる。
その結果、上記式(8)で定義される微細貫通孔膜12の音響インピーダンスZMPPの実部のみを用いて、上記式(16)及び(17)を用いて、反射率R、透過率T、及び吸収率Aを求めた結果を図10に示す。また、遮音率を図11に示す。なお、遮音率は、吸収率Aと反射率Rを加算したものである。
ここで、図1、及び図2に示す防音構造10のように、また、図16、図18、及び図20に示すように、複数の貫通孔14が異なる2種類以上の半径(複数の貫通孔14の孔半径ヒストグラムで規定される半径)を持つ場合には、各種類の半径をr、r、…、r(即ち、r(j=1、2、・・・、m))(mは2以上の整数)とし、それらの半径rを持つ1以上の貫通孔14の開口率をσ、σ、…、σ(即ち、σ(j=1、2、・・・、m))とする。
これらの半径r、及びそれらの半径rを持つ1以上の貫通孔14の開口率σを用いて、それらの半径rを持つ1以上の貫通孔14に対応する音響インピーダンスZ(j=1、2、・・・、m)を下記式(1)を用いて求める。
こうして求められた各半径rの貫通孔14に対応する音響インピーダンスZ、Z、…、Z(即ちZ(j=1、2、・・・、m)から下記式(2)で定義される微細貫通孔膜12の合成音響インピーダンスZMPPを求めることができる。
こうして求められた微細貫通孔膜12の合成音響インピーダンスZMPPを用いて、同様に、上記式(16)から反射係数r及び透過係数tを求め、次いで上記式(17)から、反射率R、透過率T、及び吸収率Aを求めることができる。
本発明においては、こうして求められた微細貫通孔膜12の音響インピーダンスZMPPは、下記式(3)を満足する必要がある。
0.35×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(3)
ここで、音響インピーダンスZMPPが上記式(2)を満足する必要がある理由は、例えば、図10に示すように、上記式(3)を満足すれば、吸収率Aが0.25以上となるからである。
また、音響インピーダンスZMPPは、0.85Zair以上であることが好ましい。即ち、音響インピーダンスZMPPは、下記式(5)を満足することが好ましい。
0.85×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(5)
ここで、音響インピーダンスZMPPが上記式(5)を満足することが好ましい理由は、例えば、図11に示すように、上記式(5)を満足すれば、遮音率が0.5以上となるからである。
一方、微細貫通孔膜12の複数の貫通孔14の合計開口率σ(=Σσ)は、0.2以上である必要がある。即ち、合計開口率σは、下記式(4)を満足する必要がある。
ここで、複数の貫通孔14の合計開口率σが0.2以上である(即ち、上記式(3)を満足する必要がある)理由は、合計開口率σが、0.2未満では、微細貫通孔膜12の光透過率が低くなり過ぎ、外部環境にいる外部者、又は観察者から監視カメラ16、及び撮像系24等の光学デバイスは視認されなくなるが、光学デバイスも外部者、又は観察者を捉えられなくなり、画像処理によっても外部者、又は観察者を鮮明な映像に復元できなくなるからである。
本発明の防音構造10は、膜状部材12に微細な貫通孔14を、音響インピーダンスZMPPが上記範囲を満たし、開口率、又は合計開口率(以下、開口率で代表する)が上記範囲を満たすように有するものである。本発明の防音構造10は、このような構成にすることによって、微細な貫通孔14を音が通る際の、貫通孔14の内壁面と空気との摩擦により吸音すると共に、外部環境側から内部側の光学デバイス等は視認されず、光学デバイス等側からは外部環境を捉えることができる光透過性を有するものである。即ち、本発明の防音構造の吸音メカニズムにおいては、閉空間があっても閉空間の体積が従来のヘルムホルツ共振に最適な体積とは異なり、その閉空間との共鳴ではないメカニズムで吸音するものである。このように、本発明の防音構造は、貫通孔内の空気層と閉空間内の空気層との連結をマスバネとして機能させて共振を起こして吸音するヘルムホルツ共振の原理を用いるものではない。
本発明の防音構造の吸音のメカニズムは、微細な貫通孔を音が通る際の、貫通孔の内壁面と空気との摩擦による、音のエネルギの熱エネルギへの変化であると推定される。このメカニズムは貫通孔サイズが微細なことによって生じるため、共振によるメカニズムとは異なる。貫通孔によって空気中の音として直接通過するパスは、いったん膜振動に変換されてから再び音として放射されるパスに比べて、音響インピーダンスが遥かに小さい。したがって、膜振動よりも微細な貫通孔のパスを音は通りやすい。その貫通孔部分を通過する際に、膜状部材上面の全体の広い面積から貫通孔の狭い面積へと音が集約されて通過する。貫通孔の中で音が集まることによって局所速度が極めて大きくなる。摩擦は速度と相関するために、微細な貫通孔内で摩擦が大きくなり熱に変換される。
貫通孔の孔半径が小さい場合は、開口面積に対する貫通孔の縁長さの比率が大きくなるため、貫通孔の縁部や内壁面で生じる摩擦を大きくすることができると考えられる。貫通孔を通る際の摩擦を大きくすることによって、音のエネルギを熱エネルギへと変換して、吸音することができる。
また、本発明の防音構造では、音が貫通孔を通過する際の摩擦で吸音するので、音の周波数帯によらず吸音することができ、広帯域で吸音することができる。
本発明は、従来技術になく、先行技術から容易に類推することができない技術であり、背面空気層が無く、開口率が高い場合に吸収率を高くするためのパラメータ範囲を具体的に示した発明である。特に、本発明は、微細貫通孔のインピーダンスの実部、虚部の大小関係を考察し、特に開口率が大きい場合に虚部が実部に対して無視できるほど小さくなることを見出し、有効なインピーダンス実部の値の有効範囲を規定したものである。
このように、本発明の防音構造は、背面に閉空間を必要とせず、貫通孔を有する膜状部材単体で機能するので、サイズを小さくすることができる。
また、上述のように、本発明の防音構造は、音が貫通孔を通過する際の摩擦で吸音するので、音の周波数帯によらず吸音することができ、広帯域で吸音することができる。
また、背面に閉空間を有さないため、通気性を確保できる。
また、貫通孔を有するため光を散乱しながら透過することができ、外部環境側から内部側の光学デバイス等は視認されず、光学デバイス等側からは外部環境を捉えることができる光透過性を有する。
また、微細な貫通孔を形成することによって機能するので、素材選択の自由度が高く、周辺環境の汚染や、耐環境性能の問題もその環境に合わせて素材を選択できるために問題を少なくすることができる。
また、膜状部材が微細な貫通孔を有するので、膜状部材に水等の液体が付着した場合であっても、表面張力により水が貫通孔の部分を避けて貫通孔を塞がないため、吸音性能が低下しにくい。
また、薄い膜状部材であるため、配置する場所に合わせて湾曲させることができる。
ここで、吸音性能及び光透過性等の観点から、貫通孔の孔半径は、上限側では、0.05mm(50μm)以下であることが好ましく、40μm以下がより好ましく、35μm以下が更に好ましく、25μm以下が更により好ましく、15μm以下が最も好ましい。これは、貫通孔の孔半径が小さくなるほど、貫通孔の開口面積に対する貫通孔の中で摩擦に寄与する貫通孔の縁の長さの比率が大きくなり、摩擦が生じやすくなることによるからである。貫通孔の孔半径が大きくなり過ぎると、外部環境側から内部側の光学デバイス等が視認されてしまうからである。
また、孔半径は、下限側では、0.05μm以上であることが好ましく、0.25μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、1μm以上が最も好ましい。孔半径が小さすぎると貫通孔を通過する際の粘性抵抗が高すぎて十分に音が通らないため開口率を高くしても吸音効果が十分に得られない。
なお、貫通孔の孔半径は、膜状部材の一方の面から、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜状部材の表面を倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真から所定範囲を選択し、選択された所定範囲内において、周囲が環状に連なっている貫通孔の孔半径を読み取ることによって算出する。なお、貫通孔の孔半径ヒストグラムを作成する場合には、孔半径の刻みを決めて、その刻み範囲内に入る貫通孔の個数をカウントする。なお、本発明においては、貫通孔の孔半径ヒストグラムにおける孔半径の刻みは、0.1μm〜6μmとすることが好ましく、0.2μm〜5μmとすることがより好ましく、0.3μm〜4μmとすることが更に好ましく、0.4μm〜3μmとすることが最も好ましい。
なお、孔半径ヒストグラムが1つ以上の極大値を有する場合には、1つの極大値を形成する孔半径範囲を決めて、この孔半径範囲内にある貫通孔を100個抽出し、その孔半径を読み取ってこれらの平均値を改めて孔半径として算出する。もし、1枚のSEM写真内の所定範囲内に貫通孔が100個未満の場合は、周辺の別の所定範囲内の貫通孔をカウントしても良いし、周辺の別の位置でSEM写真を新たに撮影し、合計個数が100個になるまでカウントしても良い。
なお、本発明においては、孔半径は、孔径として貫通孔部分の面積をそれぞれ計測し、同一の面積となる円に置き換えたときの直径(円相当直径)を用いて評価する。即ち、貫通孔の孔部の形状は略円形状に限定はされないので、孔部の形状が非円形状の場合には、同一面積となる円の直径で評価した。従って、例えば、2以上の貫通孔が一体化したような形状の貫通孔の場合にも、これを1つの貫通孔とみなし、貫通孔の円相当直径を孔径とし、円相当半径を孔半径とする。
これらの作業は、例えば「Image J」(https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、Analyze Particlesにより孔径、孔半径、及び開口率などを全て計算することができる。
また、平均開口率は、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜状部材の表面を真上から倍率200倍で撮影し、得られたSEM写真の30mm×30mmの視野(20箇所)について、画像解析ソフト等で2値化して貫通孔部分と非貫通孔部分を観察し、貫通孔の開口面積の合計と視野の面積(幾何学的面積)とから、比率(開口面積/幾何学的面積)から算出し、各視野(20箇所)における平均値を平均開口率として算出する。
ここで、本発明の防音構造において、複数の貫通孔は、規則的に配列されていてもよいが、ランダムに配列されていることが好ましい。微細な貫通孔の生産性や、吸音特性のロバスト性、さらに音の回折を抑制する等の観点から、ランダムに配列されているのが好ましい。音の回折に関しては、貫通孔が周期的に配列されているとその貫通孔の周期に従って音の回折現象が生じ、音が回折により曲がり騒音の進む方向が複数に分かれる懸念がある。ランダムとは完全に配列したような周期性は持たない配置になっている状態であり、各貫通孔による吸収効果が現れる一方で、貫通孔間最小距離による回折現象は生じない配置となる。
また、大量生産のためには周期的配列を作製するプロセスよりも表面処理など一括でランダムなパターンを形成する方が容易であるため、生産性の観点からもランダムに配列されていることが好ましい。
なお、本発明において、貫通孔がランダムに配置されるとは、以下のように定義する。
完全に周期構造であるときには強い回折光が現れる。また、周期構造のごく一部だけ位置が異なるなどしても、残りの構造によって回折光が現れる。回折光は、周期構造の基本セルからの散乱光の重ね合わせで形成される波であるため、ごく一部だけ乱されても残りの構造による干渉が回折光を生じるというメカニズムである。
よって、周期構造から乱れた基本セルが多くなればなるほど、回折光を強めあう干渉をする散乱光が減っていくことにより、回折光の強さが小さくなる。
よって、本発明における「ランダム」とは、少なくとも全体の10%の貫通孔が周期構造からずれた状態であることを示す。上記の議論より、回折光を抑制するためには周期構造からずれた基本セルが多いほど望ましいため、全体の50%がずれている構造が好ましく、全体の80%がずれている構造がより好ましく、全体の90%がずれている構造がさらに好ましい。
ずれの検証としては、貫通孔が5個以上が収まる画像をとり、その分析を行うことによってできる。収める貫通孔の数は多い方がより精度の高い分析を行うことができる。画像は光学顕微鏡によっても、SEMによっても、その他、貫通孔複数個の位置を認識できる画像であったら用いることができる。
撮影した画像において、一つの貫通孔に着目し、その周囲の貫通孔との距離を測定する。最近接である距離をa1、第二、第三、第四番目に近い距離をそれぞれa2、a3、a4とする。このとき、a1からa4の中で二つ以上の距離が一致する場合(例えば、その一致した距離をb1とする)、その貫通孔はb1の距離について周期構造を持つ孔として判断できる。一方で、a1からa4のどの距離も一致しない場合、その貫通孔は周期構造からずれた貫通孔として判断できる。この作業を画像上の全貫通孔に行い判断を行う。
ここで、上記「一致する」は着目した貫通孔の孔径をΦとしたときにΦのずれまでは一致したとする。つまり、a2−Φ<a1<a2+Φの関係であるとき、a2とa1は一致したとする。これは、回折光が各貫通孔からの散乱光を考えているため、孔径Φの範囲では散乱が生じていると考えられるためである。
次に、例えば「b1の距離について周期構造を持つ貫通孔」の個数を数えて、画像上の全貫通孔の個数に対する割合を求める。この割合をc1としたとき、割合c1が周期構造を持つ貫通孔の割合であり、1−c1が周期構造からずれた貫通孔の割合となり、1−c1が上記の「ランダム」を決める数値となる。複数の距離、例えば「b1の距離について周期構造を持つ貫通孔」と「b2の距離について周期構造を持つ貫通孔」が存在した場合、b1とb2についてはそれぞれ別にカウントする。b1の距離について周期構造の割合がc1、b2の距離について周期構造の割合がc2であったとすると、(1−c1)と(1−c2)がともに10%以上である場合にその構造は「ランダム」となる。
一方で、(1−c1)と(1-c2)のいずれかが10%未満となる場合、その構造は周期構造を持つことになり「ランダム」ではない。このようにして、いずれの割合c1、c2、…に対しても「ランダム」の条件を満たす場合に、その構造を「ランダム」と定義する。
また、複数の貫通孔は、図1及び図2に示すように、2種類以上の孔半径の貫通孔からなるものであってもよく、図3に示すように、1種類の孔半径の貫通孔からなるものであってもよい。生産性の観点、耐久性の観点等から、2種類以上の孔半径の貫通孔からなるのが好ましい。
生産性としては、上記のランダム配列と同じく、大量にエッチング処理を行う観点から孔半径にばらつきを許容した方が生産性が向上する。また、耐久性の観点としては、環境によってほこりやごみのサイズが異なるため、もし1種類の孔半径(孔径)の貫通孔とすると主要なゴミのサイズが貫通孔とほぼ合致するときに全ての貫通孔に影響を与えることとなる。複数種類の孔半径(孔径)の貫通孔を設けておくことによって、様々な環境において適用できるデバイスとなる。
また、国際公開WO2016/060037号に記載の製造方法などによって、貫通孔内部で孔径が膨らんでいる、内部で最大径となる貫通孔を形成することができる。この形状によって、貫通孔サイズ程度のゴミ(埃、トナー、不織布や発泡体のバラけたものなど)が内部に詰まりにくくなり、貫通孔を有する膜の耐久性が向上する。
貫通孔の最表面の直径より大きなゴミは貫通孔内に侵入せず、一方直径より小さなゴミは内部直径が大きくなっていることよりそのまま貫通孔内を通過できる。
これは、逆の形状で内部がすぼまっている形状を考えると、貫通孔の最表面を通ったゴミが内部の直径が小さい部分に引っかかり、ゴミがそのまま残りやすいことと比較すると、内部で最大径となる形状がゴミの詰まり抑制では有利に機能することがわかる。
また、いわゆるテーパー形状のように、膜のどちらか一方の表面が最大径となり、内部直径が略単調減少する形状においては、最大径となる方から「最大径>ゴミのサイズ>もう一方の表面の直径」の関係を満たすゴミが入った場合に、内部形状がスロープのように機能して途中で詰まる可能性がさらに大きくなる。
また、音が貫通孔内を通過する際の摩擦をより大きくする観点から、貫通孔の内壁面は、粗面化されているのが好ましい。具体的には、貫通孔の内壁面の表面粗さRaは、0.1μm以上であるのが好ましく、0.1μm〜10.0μmであるのがより好ましく、0.2μm以上1.0μm以下であるのがより好ましい。
ここで、表面粗さRaは貫通孔内をAFM(Atomic Force Microscope)で計測することによって測定を行うことができる。AFMとしては、例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス社製 SPA300を用いることができる。カンチレバーはOMCL−AC200TSを用い、DFM(Dynamic Force Mode)モードで測定することができる。貫通孔の内壁面の表面粗さは、数ミクロン程度であるため、数ミクロンの測定範囲および精度を有する点から、AFMを用いることが好ましい。
また、貫通孔内のSEM画像から貫通孔内の凹凸の凸部の一つ一つを粒子とみなして、凸部の平均粒径を算出することができる。
具体的には、2000倍の倍率で撮ったSEM画像(1mm×1mm程度の視野)をImage Jに取り込み、凸部が白となるように白黒に二値化し、その各凸部の面積をAnalyze Particlesにて求める。その各面積と同一面積となる円を想定した円相当径を各凸部について求めて、その平均値を平均粒径として算出した。
例えば、後述する実施例1の粒径は1〜3μm程度に分布しており、平均すると2μm程度である。この凸部の平均粒径は0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.15μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。
ここで、シミュレーション結果において、貫通孔内の速度は、音圧が1[Pa](=94dB)のときに5×10-2(m/s)程度、60dBのときに1×10-3(m/s)程度となる。
シミュレーションにおいては、有限要素法の解析ソフトウェアであるCOMSOLver5.1(COMSOL Inc)の音響モジュールを用いて設計を行う。音響モジュール内での熱音響モデルを用いることによって、流体中(空気も含む)を透過する音波と微細貫通孔の壁面の摩擦による吸音を計算することができる。
周波数2500Hzの音を吸音するとき、局所速度より、音波を媒介する媒質の局所的な移動速度が分かる。それより、もし貫通孔の貫通方向に粒子が振動していると仮定して、移動距離を求めた。音は振動しているため、その距離振幅は半周期内に移動できる距離となる。2500Hzでは、一周期が1/2500秒であるため、その半分の時間は同じ方向にできる。局所速度から求められる音波半周期での最大移動距離(音響移動距離)は、94dBで10μm、60dBで0.2μmとなる。よって、この音響移動距離程度の表面粗さを持つことによって摩擦が増加するため、上述した表面粗さRaの範囲、および、凸部の平均粒径の範囲が好ましい。
ここで、貫通孔の視認性の観点からは、膜状部材に形成される複数の貫通孔の孔半径は、25μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
本発明の防音構造に用いられる、微細な貫通孔を有する膜状部材を外部環境の外部者の目に見えるところに配置するので、貫通孔自体が見えてしまうとデザイン性を損ない、見た目として貫通孔があいていることが気になるため、貫通孔が見えにくいことが望ましい。
まず、一つの貫通孔の視認性について検討する。
以下、人間の目の分解能が視力1の場合において議論する。
視力1の定義は1分角を分解して見えることである。これは30cmの距離で87μmが分解できることを示す。視力1の場合の距離と分解能との関係を図12に示す。
貫通孔が見えるかどうかは、上記視力に強く関係する。視力検査をランドルト環のギャップ部分の認識で行うように、二点及び/又は二線分間の空白が見えるかは分解能に依存する。すなわち、目の分解能未満の孔径の貫通孔は、貫通孔のエッヂ間の距離が目で分解ができないため視認が困難となる。一方で目の分解能以上の孔径の貫通孔の形状は認識できる。
視力1の場合、孔径100μmの貫通孔は35cmの距離から分解できるが、孔径50μmの貫通孔は18cm、孔径20μmの貫通孔は7cmの距離まで近づかないと分解することができない。よって、孔径100μmの貫通孔では視認できて気になる場合でも、孔径20μmの貫通孔を用いることで1/5の極めて近い距離に近づかない限り認識できない。よって、孔径が小さい方が貫通孔の隠ぺいに有利となる。防音構造を壁や車内に用いたときに観察者からの距離は一般的に数10cmの距離となるが、その場合は孔径100μm程度がその境目となる。
次に、貫通孔によって生じる光散乱について議論する。可視光の波長は400nm〜800nm(0.4μm〜0.8μm)程度であるため、本発明で議論している数μm〜数十μmの孔径は十分に光学波長より大きい。この場合、可視光において散乱断面積(物体がどれだけ強く散乱するかを示す量、単位は面積)は幾何学的断面積、すなわち今回の場合では貫通孔の断面積にほぼ一致する。すなわち、可視光が散乱される大きさは貫通孔の孔半径(円相当直径の半分)の二乗に比例することが分かる。よって、貫通孔が大きければ大きいほど、光の散乱の強さが貫通孔の半径の二乗で大きくなっていく。貫通孔単体の見えやすさは光の散乱量に比例するため、平均開口率が同一の場合でも貫通孔一つ一つが大きい場合の方が見えやすい。
最後に、貫通孔の配列に関して周期性を有さないランダムな配列と、周期的な配列との差について検討する。周期的な配列では、その周期に応じて光の回折現象が生じる。この場合、透過する白色光、反射する白色光および広いスペクトルの光等が当たった場合に、光が回折して虹のように色がずれて見える、特定角度で強く反射するなど、色みが様々に見えてしまうことでパターンが目立つ。即ち、貫通孔の周期的な配列の場合、回折光の影響により、ギラついて見えることで、人間に存在を意識されやすいという問題がある。また、規則的な配列の場合、貫通孔自体を視認しやすいという問題がある。また、周期的な配列の場合、意匠性の観点から望ましくない。
一方で、ランダムに配列した場合は上記の回折現象が生じない。微細な貫通孔を形成したアルミニウム膜は、蛍光灯にすかしてみても回折光による色み変化は見えない。また、反射配置で眺めても見た目は通常のアルミニウム箔と同等の金属光沢を有し、回折反射が生じていない。
また、膜状部材12の厚みには特に限定はないが、厚みが厚いほど音が貫通孔を通過する際に受ける摩擦エネルギが大きくなるため吸音性能がより向上すると考えられる。また、極端に薄い場合には取り扱いが難しく破けやすいため、保持できる程度に厚い方が望ましい。一方で、小型化、通気性および光の透過性は厚みが薄いのが好ましい。また、貫通孔の形成方法にエッチングなどを用いる場合は、厚みが厚いほど作製に時間がかかるため生産性の観点からは薄い方が望ましい。
吸音性能、小型化、通気性および光の透過性の観点から、膜状部材の厚みは、0.1mm(100μm)以下が好ましく、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。
膜状部材の材質には限定はなく、アルミニウム、チタン、ニッケル、パーマロイ、42アロイ、コバール、ニクロム、銅、ベリリウム、リン青銅、黄銅、洋白、錫、亜鉛、鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、金、銀、白金、パラジウム、鋼鉄、タングステン、鉛、および、イリジウム等の各種金属;PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリ塩化ビニルデン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルベンテン、COP(シクロオレフィンポリマー)、ポリカーボネート、ゼオノア、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリプロピレン、および、ポリイミド等の樹脂材料等が利用可能である。さらに、薄膜ガラスなどのガラス材料;CFRP(炭素繊維強化プラスチック:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、および、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック:Glass Fiber Reinforced Plastics)のような繊維強化プラスチック材料を用いることもできる。
ヤング率が高く、厚みが薄くても剛性が高いために膜振動が起きにくく、微小な貫通孔での摩擦による吸音の効果が得られやすい等の観点から、金属材料を用いることが好ましい。即ち、膜状部材の少なくとも貫通孔を有する部分、又は膜状部材の主成分は、金属であることが好ましい。ゴム材料、又は樹脂材料等を膜状部材の材料として用いる場合、剛性が低いために、厚くしないと、膜振動が生じ、音が抜けてしまうことがあるが、金属材料の場合には、剛性が高いために薄い膜として用いることができるからである。
金属材料としては、剛性が高いことから、ニッケル、銅、又は鉄であることがより好ましい。
また、軽量である、エッチング等により微小な貫通孔を形成しやすい、入手性やコスト等の観点からアルミニウムを用いることもより好ましい。
また、金属材料を用いる場合には、錆びの抑制等の観点から、表面に金属めっきを施してもよい。
さらに、少なくとも貫通孔の内表面に金属めっきを施すことによって、貫通孔の孔半径をより小さい範囲に調整してもよい。
また、膜状部材の材料として、金属材料のように導電性を持ち帯電しない材料を用いることによって、微小な埃およびゴミ等が静電気で膜に引き寄せられることがなく、膜状部材の貫通孔に埃およびゴミ等が詰まって吸音性能が低下することを抑制できる。
また、膜状部材の材料として金属材料を用いることによって、耐熱性を高くできる。また、耐オゾン性を高くすることができる。
また、膜状部材として金属材料を用いる場合には、電波を遮蔽することができる。
また、金属材料は、遠赤外線による輻射熱に対する反射率が大きいため、膜状部材の材料として金属材料を用いることで、輻射熱による伝熱を防ぐ断熱材としても機能する。その際、膜状部材には複数の貫通孔が形成されているが、貫通孔の孔半径が小さいため膜状部材は反射膜として機能する。
金属に複数の微細な貫通孔が開いた構造は、周波数のハイパスフィルタとして機能することが知られている。例えば、電子レンジの金属の網目がついた窓は、高周波である可視光は通しながら、電子レンジに用いられるマイクロ波に対しては遮蔽する性質を持つ。この場合、貫通孔の孔径をΦ、電磁波の波長をλとしたときに、Φ<λの関係の長波長成分は通さず、Φ>λである短波長成分は透過するフィルタとして機能する。
ここで、輻射熱に対する応答を考える。輻射熱とは、物体から物体温度に応じて遠赤外線が放射され、それが他の物体に伝えられる伝熱機構である。ヴィーンの放射法則(Wien's radiation law)から、室温程度の環境における輻射熱はλ=10μmを中心として分布し、長波長側にはその3倍程度の波長まで(30μmまで)は実効的に熱を輻射で伝えることに寄与していることが知られている。上記ハイパスフィルタの孔径Φと波長λの関係を考えると、Φ=20μmの場合はλ>20μmの成分を強く遮蔽する一方で、Φ=50μmの場合はΦ>λの関係となり輻射熱が貫通孔を通って伝搬してしまう。すなわち、孔径Φが数10μmであるために孔径Φの違いによって輻射熱の伝搬性能が大きく変わり、孔径Φが小さいほど輻射熱カットフィルタとして機能することが分かる。従って、輻射熱による伝熱を防ぐ断熱材としての観点からは、膜状部材に形成される貫通孔の孔半径は10μm以下が好ましい。
また、膜状部材は、その素材に応じて、適宜、表面処理(メッキ処理、酸化皮膜処理、表面コーティング(フッ素、セラミック)など)を行うことで、膜状部材の耐久性を向上することができる。例えば、膜状部材の材料としてアルミニウムを用いる場合には、アルマイト処理(陽極酸化処理)あるいはベーマイト処理を行なって表面に酸化皮膜を形成することができる。表面に酸化皮膜を形成することで、耐腐食性、耐摩耗性および耐擦傷性等を向上することができる。また、処理時間を調整して酸化皮膜の厚みを調整することで光学干渉による色味の調整を行なうことができる。
また、膜状部材に対して、色付け、加飾、装飾およびデザイン等を施すことができる。これらを施す方法としては、膜状部材の材質や表面処理の状態により適宜方法を選択すればよい。例えば、インクジェット法を用いた印刷などを用いることができる。また、膜状部材の材料としてアルミニウムを用いる場合には、カラーアルマイト処理を行うことで耐久性の高い色付けを行なうことができる。カラーアルマイト処理とは表面にアルマイト処理を行った後に、染料を浸透させ、その後に表面を封孔処理する処理のことである。これによって、金属光沢の有無や色など、デザイン性の高い膜状部材とすることができる。また、貫通孔を形成したのちにアルマイト処理を行うことで、アルミニウム部分のみに陽極酸化被膜が形成されるために、染料が貫通孔を覆ってしまい吸音特性を低減するということなく加飾を行うことができる。
上記アルマイト処理と合わせることで、さまざまな色みやデザインをつけることができる。
<アルミニウム基材>
膜状部材として用いられるアルミニウム基材は、特に限定はされず、例えば、JIS規格H4000に記載されている合金番号1085、1N30、3003等の公知のアルミニウム基材を用いることができる。なお、アルミニウム基材は、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板である。
アルミニウム基材の厚みとしては、特に限定はないが、5μm〜100μm(0.1mm)が好ましく、7μm〜100μmがより好ましく、10μm〜100μmが更に好ましい。
[防音構造の製造方法]
次に、本発明の防音構造の製造方法について、アルミニウム基材を用いる場合を例に説明する。
アルミニウム基材を用いた防音構造の製造方法は、
アルミニウム基材の表面に水酸化アルミニウムを主成分とする皮膜を形成する皮膜形成工程と、
皮膜形成工程の後に、貫通孔形成処理を行って貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
貫通孔形成工程の後に、水酸化アルミニウム皮膜を除去する皮膜除去工程と、
を有する。
皮膜形成工程と貫通孔形成工程と皮膜除去工程とを有することにより、孔半径が0.05mm以下の貫通孔を好適に形成することができる。
貫通孔の形成方法として、リソグラフィによる方法を用いることができる。この方法では、電子ビーム(EB:Electron Beam)リソグラフィ、又はフォトリソグラフィによって、所望の開口率、及び孔半径を有するホールパターンを金属膜上に形成し、当該レジストパターンをマスクにエッチング処理を施すことで、貫通孔を形成することができる。
また、大面積化する方法として、例えば、シリコンウエハにEBリソグラフィ、又はフォトリソグラフィにより所望開口率、孔半径を有するドットパターンを形成し、エッチング処理を施すことで、ドットパターンを形成する。その後、当該シリコン原盤をもとにNi電鋳処理を施し、Ni膜状部材(微細貫通孔膜)を形成することができる。
例えば、膜状部材としてPETフィルム等の樹脂フィルムを用いる場合には、レーザー加工などのエネルギを吸収する加工方法、もしくはパンチング、針加工などの物理的接触による機械加工方法で貫通孔を形成することができる。
本発明の防音構造は、上述した監視カメラ等の電子機器、カメラ、撮像デバイス、及びセンサ類等の光学デバイス、並びに移動型ロボット、家庭電化製品等の電子デバイス等に加え、上述した産業用機器、輸送用機器および一般家庭用機器などの各種機器に用いられるものに限定はされず、隠蔽性と光透過性と防音性が要求されるものであれば、各種の構造部材に用いることができる。
本発明の防音構造は、例えば、建造物の部屋内に配置され、部屋内を仕切る固定仕切り構造(パーティション)等の固定壁、建造物の部屋内に配置され、部屋内を仕切る可動仕切り構造(パーティション)等の可動壁に用いることもできる。
このように、本発明の防音構造をパーティションとして用いることにより、間仕切りした空間の間で音を好適に遮蔽することができる。また、特に可動式のパーティションの場合には、薄く軽い本発明の構造は、持ち運び容易なためメリットが大きい。
また、本発明の防音構造は、隠蔽性、光透過性、及び通気性を有するので、窓部材として好適に用いることもできる。
あるいは、騒音防止用に、騒音源となる機器、たとえばエアコン室外機や給湯器等を囲むケージとして用いることもできる。本部材によって騒音源を囲むことによって、放熱性や通気性を確保したまま音を吸収し、騒音を防ぐことができる。
また、ペット飼育用のケージに用いてもよい。ペット飼育のケージの全てまたは一部に本発明の部材を適用し、例えばペットケージの一面を本部材で置き換えることによって、軽量かつ音響吸収効果のあるペットケージとすることができる。このケージを用いることによって、ケージ内にいるペットを外の騒音から守ることができ、また、ケージ内にいるペットの鳴き声が外に漏れるのを抑制できる。
本発明の防音構造は、上記以外にも以下のような防音部材として使用することができる。
例えば、本発明の防音構造を持つ防音部材としては、
建材用防音部材:建材用として使用する防音部材、
空気調和設備用防音部材:換気口、空調用ダクトなどに設置し、外部からの騒音を防ぐ防音部材、
外部開口部用防音部材:部屋の窓に設置し、室内又は室外からの騒音を防ぐ防音部材、
天井用防音部材:室内の天井に設置され、室内の音響を制御する防音部材、
床用防音部材:床に設置され、室内の音響を制御する防音部材、
内部開口部用防音部材:室内のドア、ふすまの部分に設置され、各部屋からの騒音を防ぐ防音部材、
トイレ用防音部材:トイレ内またはドア(室内外)部に設置、トイレからの騒音を防ぐ防音部材、
バルコニー用防音部材:バルコニーに設置し、自分のバルコニーまたは隣のバルコニーからの騒音を防ぐ防音部材、
室内調音用部材:部屋の音響を制御するための防音部材、
簡易防音室部材:簡易に組み立て可能で、移動も簡易な防音部材、
ペット用防音室部材:ペットの部屋を囲い、騒音を防ぐ防音部材、
アミューズメント施設:ゲームセンター、スポーツセンター、コンサートホール、映画館に設置される防音部材、
工事現場用仮囲い用の防音部材:工事現場を多い周囲に騒音の漏れを防ぐ防音部材、
トンネル用の防音部材:トンネル内に設置し、トンネル内部および外部に漏れる騒音を防ぐ防音部材、等を挙げることができる。
本発明においては、図5に示す防音構造10Bように、膜状部材12の撮像系24等の光学デバイス側の表面に、複数の孔部28を有する枠体26を積層配置することによって、膜状部材12の膜振動を抑制できるようにしても良い。
図5に示すとおり、枠体26の孔部28の孔半径は、膜状部材(微細貫通孔膜)12の貫通孔14の孔半径よりも大きく、また、枠体26の孔部28の開口率は、膜状部材12の貫通孔14の開口率よりも大きい。
ここで、本発明において、防音構造10Bは、枠体26に接する膜状部材12の共振周波数が可聴域より大きい構成を有する。
複数の貫通孔14を有する膜状部材12を備える防音構造10Bは、広帯域な吸音特性が得られる防音構造である。膜状部材12は、広帯域な吸音特性が得られる点で設けられる貫通孔14の孔半径は小さいほど好ましく、例えば0.05mm以下であることが好ましい。しかしながら、膜状部材(微細貫通孔膜)12は、薄い膜である場合、音波に対して共鳴振動(膜振動)を起こしやすくなるため、単体では共鳴振動周波数周辺の周波数帯域で吸音特性が低下してしまう恐れがある。
これに対して、本発明の防音構造10Bでは、膜状部材12に、大きな孔半径の孔部28を複数有する枠体26を接して配置することによって、枠体26で膜状部材12の剛性を高める。その際、枠体26の孔部28の孔半径を、膜状部材12の共鳴振動周波数が可聴域よりも高くなるような孔半径とすることによって、膜状部材12の共鳴振動周波数を可聴域よりも高くする。これにより、可聴域において、共鳴振動による吸収率低下を抑制することができる。
このように、本発明の防音構造10Bによれば、共鳴振動による吸収率の低下を抑制することができる。したがって、本発明の防音構造10Bによれば、膜状部材12が振動しないため、低周波域で吸収が低下するのを防止できる。
ここで、上述のとおり、本発明の防音構造10Bにおいては、膜状部材12に枠体26を接して配置することによって膜状部材の見かけの剛性を高くして、共鳴振動周波数を可聴域よりも高くしている。そのため、可聴域の音は、膜状部材12の膜振動により再放射されるパスよりも、貫通孔を通過するパスを主に通過するので、貫通孔を通過する際の摩擦で吸音される。
なお、枠体26に接して配置された膜状部材12の第一固有振動周波数は、共鳴現象により音波が膜振動を最も揺らすところで、音波はその周波数で大きく透過する固有振動モードの周波数である。本発明の防音構造10Bにおいては、第一固有振動周波数は、枠体26および膜状部材12を有する構造によって決まるので、膜状部材12に穿孔される貫通孔14の有無にかかわらず、略同一の値となる。
また、本発明の防音構造10Bでは、第一固有振動周波数近傍の周波数では、膜振動が大きくなるため、微細な貫通孔との摩擦による吸音効果は小さくなる。したがって、本発明の防音構造は、第一固有振動周波数±100Hzで吸収率が極小となる。
本発明の防音構造10Bは、図5に示す例では、膜状部材12の撮像系24等の光学デバイス側の表面に、枠体26が接して配置される構成としたが、これに限定はされず、外部環境側の表面に枠体26が接して配置される構成としてもよいし、膜状部材12の両面それぞれに枠体26が接して配置される構成としてもよい。
膜状部材12の両面それぞれに枠体26を配置することによって、膜状部材の剛性をより高くすることができ、共鳴振動周波数をより高くすることができる。従って、膜状部材12の共鳴振動周波数を容易に可聴域よりも高くすることができる。
なお、膜状部材12の両面それぞれに配置される2つの枠体26は、同じ構成であってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、2つの枠体26は、孔部28の孔半径、開口率、及び材質等が、同じであっても、互いに異なっていてもよい。
また、膜状部材12と枠体26とは接して配置されていればよいが、接着固定されるのが好ましい。
膜状部材12と枠体26とを接着固定することによって、膜状部材12の剛性をより高くすることができ、共鳴振動周波数をより高くすることができる。従って、膜状部材12の共鳴振動周波数を容易に可聴域よりも高くすることができる。
膜状部材12と枠体26とを接着固定する場合に用いる接着剤は、膜状部材12の材質及び枠体26の材質等に応じて選択すればよい。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤(アラルダイト(登録商標)(ニチバン株式会社製)等)、シアノアクリレート系接着剤(アロンアルフア(登録商標)(東亜合成株式会社製)など)、及び、アクリル系接着剤等を挙げることができる。
また、本発明の防音構造は、膜状部材と枠体との積層体に、更に孔部の孔半径、開口率、又は材質が異なる枠体を積層配置する構成としてもよい。
なお、枠体26の厚みは、膜状部材12の剛性を好適に高めることができれば、特に制限的ではなく、例えば、膜状部材12の仕様、枠体26の材質、孔部28の孔半径等に応じて設定することができる。例えば、枠体26の厚みは、0.1mm〜3mmとするのが好ましく、0.2mm〜2mmとするのがより好ましく、0.3mm〜1mmとするのが更に好ましい。
なお、枠体26の孔部28の開口断面の形状は特に制限的ではなく、例えば、長方形、ひし形および平行四辺形等の他の四角形、正三角形、2等辺三角形および直角三角形等の三角形、正五角形および正六角形等の正多角形を含む多角形、円形、ならびに、楕円形等のいずれの形状であっても良いし、不定形であっても良い。中でも、孔部28の開口断面の形状は正六角形であるのが好ましく、枠体26は、断面形状が正六角形の複数の孔部28を最密に並べた、いわゆる、ハニカム構造を有するのが好ましい。枠体26がハニカム構造を有する構成とすることによって、膜状部材12の見かけの剛性をより高くすることができ、容易に共鳴振動周波数を可聴域よりも高くすることができる。
なお、孔部28の孔径は、孔部28部分の面積をそれぞれ計測し、同一の面積となる円に置き換えたときの直径(円相当直径)とし、円相当半径を孔半径とする。
具体的には、膜状部材12の剛性を好適に高める点、膜状部材12の貫通孔14よりも大きい孔半径である点、貫通孔14を通過するパスへの影響を小さくする点、取り扱い上、指などが直接膜状部材12に触れないようにする点等の観点から、枠体26の孔部28の孔半径は、11mm以下であるのが好ましく、0.05mmより大きく7.5mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上5mm以下であるのが特に好ましい。
また、膜状部材12の剛性を好適に高める点、膜状部材12の貫通孔14よりも大きい開口率である点、貫通孔14を通過するパスへの影響を小さくする点、取り扱い上、指などが直接膜状部材12に触れないようにする点等の観点から、枠体26の孔部28の開口率は、20%より大きく、98%以下が好ましく、30%以上90%以下がより好ましく、40%以上80%以下が特に好ましい。
枠体26の形成材料としては、アルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、および、これらの合金等の金属材料;アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、および、トリアセチルセルロース等の樹脂材料;炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、カーボンファイバ、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)、ならびに、紙等を挙げることができる。
金属材料は耐久性が高い点、不燃性である点等で好ましい。樹脂材料は、形成が容易な点、透明性を付与できる点等で好ましい。紙は、軽量である点、安価である点等で好ましい。
なかでも、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、および、鉄合金のいずれかを用いるのが好ましい。
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
図13に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜12を有する本発明の防音構造10に関して、微細貫通孔膜12の音響インピーダンスZMPPの上記式(1)及び(2)、又は上記式(8)を用いて、音響インピーダンスZMPPを各周波数に対して計算した。実施例1は、孔半径ヒストグラムが1つの極大値を有するものであった。実施例1の防音構造10の貫通孔14の合計開口率σは0.5とし、全ての貫通孔14の半径rは3μmとし、膜状部材(微細貫通孔膜)12の厚みtは20μmとした。更に、音響インピーダンスZMPPを用いて反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。
図14に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
(光透過性について)
光透過性については、微細貫通孔膜12がアルミニウム金属である場合、膜状部材12の厚みtが20μmであることから、貫通孔14の開口部分以外の領域は光を通さないほどに充分厚い、また、貫通孔14のは光の可視光波長よりも大きく、光の透過率は、ほぼ全貫通孔14の合計開口率σと等しくなることが分かった。
図14及び表1に示すように、本実施例1により、高い光透過率(0.50)と高い音の吸収率(0.49)とを両立できることが分かった。
(参考例1)
本発明の理論の妥当性を示すために、上記実施例1に関して、理論式を用いたシミュレートの結果と、有限要素法シミュレーションソフトCOMSOL MultiPhysics 5.3を用いたシミュレーションの結果と、を比較した。これらの結果を図15に示す。図15において、シミュレートの結果は、吸収率A、反射率R、及び透過率Tで示し、シミュレーションの結果は、吸収率Acalc、反射率Rcalc、及び透過率Tcalcで示す。なお、シミュレーションにおいては、圧力音響モジュール、及び熱粘性音響モジュールを併用し、貫通孔14の開口部分を熱粘性音響に設定、それ以外の領域を圧力音響に設定し、100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを求めた。
図15に示すように、実施例1の理論式を用いたシミュレートの結果と有限要素法によるシミュレーション結果が良く一致することから、理論式を用いたシミュレートの実施例1の結果が妥当であることが分かった。
(実施例2)
図16に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜12を有する防音構造10に関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。実施例2は、実施例1と同様に孔半径ヒストグラムが1つの極大値を有していた。なお、実施例2は、貫通孔14の孔半径ヒストグラムが、極大値となる孔半径を中心に分布を持っている点で異なることを除いて実施例1と同様であった。3μmの孔半径を中心として、0.5μm〜6μmに亘る孔半径ヒストグラム分布を有し、平均半径rは3μm、合計開口率σは0.5、膜状部材12の厚みtは20μmであった。0.5μm〜6μmまでの0.5μm刻みの12種類の半径r、及び図16に示す半径rに対応する開口率σを用いて、上記式(1)からそれぞれにZを求め、上記式(2)から音響インピーダンスZMPPを算出した。求めた音響インピーダンスZMPPを用いて反射率R、透過率T、及び吸収率Aを算出した。
図17に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図17及び表1に示すように、本実施例2においても、高い光透過率(0.50)と高い音の吸収率(0.49)とを両立できることが分かった。
(実施例3)
図18に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜12を有する防音構造10Aに関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。実施例3は、孔半径ヒストグラムが2つの極大値を有していた。実施例3は、貫通孔14の孔半径ヒストグラム分布が異なることを除いて、複数種類の孔半径を持つ点では実施例2と同様であった。1μmの孔半径rを持つ貫通孔14の開口率σが0.45であり、12μmの孔半径rを持つ貫通孔14の開口率σが0.05であり、合計開口率σ(=Σσ=σ+σ)は0.5であった。膜状部材12の厚みtは20μmであった。実施例2と同様にして、音響インピーダンスZMPPを算出した。求めた音響インピーダンスZMPPを用いて反射率R、透過率T、及び吸収率Aを算出した。
図19に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図19及び表1に示すように、本実施例3においても、高い光透過率(0.50)と高い音の吸収率(0.44)とを両立できることが分かった。
(実施例4)
図20に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜12を有する防音構造10Aに関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。実施例4は、実施例3と同様に孔半径ヒストグラムが2つの極大値を有していた。なお、実施例4は、貫通孔14の孔半径ヒストグラムが、2つの極大値に対応する2つの孔半径をそれぞれ中心に分布を持っている点で異なることを除いて、複数種類の孔半径を持つ点では実施例3と同様であった。1μmの孔半径を中心として、0.5μm〜2μmに亘る孔半径分布を有し、平均半径rが1μmであり、これらの貫通孔14の合計開口率σが0.45である孔半径ヒストグラム分布を有していた。また、12μmの孔半径を中心として、10.5μm〜13.5μmに亘る孔半径分布を有し、平均半径rが12μmであり、これらの貫通孔14の合計開口率σが0.05である孔半径分布とからなる孔半径ヒストグラムを有していた。全貫通孔14の合計開口率σ(=σ+σ)は0.5であった。膜状部材12の厚みtは20μmであった。0.5μmから2.5μmまで、及び10.5μmから13.5μmまでの0.5μm刻みの12種類の半径r、及び図20に示す半径rに対応する開口率σを用いて、上記式(1)からそれぞれにZを求め、上記式(2)から音響インピーダンスZMPPを算出した。求めた音響インピーダンスZMPPを用いて反射率R、透過率T、及び吸収率Aを算出した。
図21に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図21及び表1に示すように、本実施例4においても、高い光透過率(0.50)と高い音の吸収率(0.43)とを両立できることが分かった。
(比較例1)
図22に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜を有する防音構造に関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。比較例1は、貫通孔の孔半径ヒストグラムが異なることを除いて実施例1と同様であった。比較例1の防音構造の全貫通孔14の半径rは12μm、全貫通孔の合計開口率σは0.05、膜状部材の厚みtは20μmであった。
図23に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図23及び表1に示すように、比較例1では、0.45と高い音の吸収率を示すものの、光透過率が0.05と低く、外部環境側からは光学デバイスを視認できないものの、光学デバイス側から外部環境を撮像できないことが分かった。
(比較例2)
図24に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜を有する防音構造に関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。比較例2は、貫通孔の孔半径ヒストグラムが異なることを除いて実施例1と同様であった。比較例2の防音構造の全貫通孔14の半径rは1μm、全貫通孔の合計開口率σは0.45、膜状部材の厚みtは20μmであった。
図25に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図25及び表1に示すように、比較例2では、0.45と高い光透過率を示すものの、音の吸収率が0.20と低いことが分かった。
(比較例3)
図26に示す孔半径ヒストグラムを有する微細貫通孔膜を有する防音構造に関して、反射率R、透過率T、及び吸収率Aをシミュレートした。比較例3は、貫通孔の孔半径ヒストグラム分布が異なることを除いて実施例4と同様であった。比較例3の防音構造においては、10μmの孔半径を中心として、0.5μm刻みで9μm〜11μmに亘る孔半径分布を有し、平均半径rが10μmであり、これらの貫通孔の合計開口率σが0.05である孔半径ヒストグラム分布を有していた。40μmの孔半径を中心として、0.5μm刻みで37μm〜43μmに亘る孔半径分布を有し、平均半径rが40μmであり、これらの貫通孔14の合計開口率σが0.3である孔半径ヒストグラムを有していた。全貫通孔14の合計開口率σ(=σ+σ)は0.35であった。膜状部材12の厚みtは20μmであった。実施例4と同様にして、上記式(1)からそれぞれにZを求め、上記式(2)から音響インピーダンスZMPPを算出した。求めた音響インピーダンスZMPPを用いて反射率R、透過率T、及び吸収率Aを算出した。
図27に100Hzから5000Hzの吸収率A、反射率R、及び透過率Tのスペクトルを示す。音に関する吸収率、及び光に関する透過率を表1に示す。
図27及び表1に示すように、比較例3においても、0.35と比較的に高い光透過率を示すものの、音の吸収率が0.02と低いことが分かった。
以上の結果から、本発明の構成要件を満足する場合において、音の高い吸収率と高い光透過率を両立でき、更に合計開口率σが0.2以上の場合には、0.2以上の光透過率を確保できることが分かる。
更に、実施例3、及び4のように、孔半径ヒストグラム分布が2つの極大値(ピーク)を有している場合においても、本発明の構成要件を満足していれば、音の高い吸収率と高い光透過率を両立でき、更に合計開口率σが0.2以上の場合には、0.2以上の光透過率を確保できることが分かる。
これに対し、比較例1は、本発明の微細貫通孔膜の音響インピーダンスZMPPの要件(上記式(3))を満足しているため音の吸収率は良好であるが、開口率σが0.05と低く、本発明の開口率の要件(上記式(4))を満足していないために光透過性が5%程度しか得ることができない。
比較例2は、開口率は0.5と高く本発明の開口率の要件(上記式(4))を満足しており、光透過性も50%程度確保できるが、微細貫通孔膜の音響インピーダンスZMPPの要件(上記式(3))を満足していないため、音の吸収率が低い。
比較例3は、2つの極大値(ピーク)を有する孔半径ヒストグラム分布を有しており、本発明の開口率の要件(上記式(4))を満足しているが、微細貫通孔膜の音響インピーダンスZMPPの要件(上記式(3))を満足していないため音の吸収率が低くなっている。
実施例3は、比較例1、及び2を合わせた構成となっている。このため、実施例3においては、孔半径1μmで開口率が0.45の貫通孔14が光透過性を発現し、孔半径12μmで開口率0.05の孔が音の吸収を担っていると考えることができ、このような孔半径−開口率の孔半径ヒストグラムにおける2つのピークを有する場合は、それぞれのピークに該当する貫通孔14が光透過性と吸音特性とを機能分担することで、光透過性と吸音特性とを両立させることができる。
但し、たとえ2つのピークを有する場合でも、比較例3のように、音響インピーダンスを適切に設計しなければ、実施例3、及び4のような吸音特性を得ることができない。
上記の実施例、及び比較例から、本発明の有効性が示される。
以上より本発明の効果は明らかである。
以上、本発明に係る防音構造、光学デバイス、及び電子デバイスについての種々の実施形態および実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、これらの実施形態および実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良、又は変更をしてもよいのはもちろんである。
例えば、本発明は、不透明素材で適度に光を遮蔽すると同時に、適度に透過させつつ防音をするものである。このため、上述したカメラ等の光学デバイス、及び電子デバイス等だけでなく、身を隠しつつ相手を補足するステルス機能を発揮する軍事等の技術等、多用途に展開することができる。
10、10A、10B 防音構造
11 アルミニウム基材
12 膜状部材(微細貫通孔膜)
13 水酸化アルミニウム皮膜
14、14a、14b 貫通孔
16 監視カメラ
18 外部者
20 イメージセンサ(IMS)
22 レンズ
24 撮像系
26 枠体
28 孔部
30 吸音モデル
32 管体

Claims (15)

  1. 厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する膜状部材を備える防音構造であって、
    前記複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムが1つ以上の極大値を有し、
    前記膜状部材の厚みをt、前記孔半径ヒストグラムの各孔半径に対応する1以上の貫通孔の半径をr(j=1、2、・・・、m(mは1以上の整数))、それらの半径rに対応する貫通孔の開口率をσ(j=1、2、・・・、m)とし、それらの半径rに対応する下記式(1)で表される音響インピーダンスをZ(j=1、2、・・・、m)とするとき、下記式(2)で定義される合成音響インピーダンスZMPPが下記式(3)式を満足し、前記複数の貫通孔の合計開口率Σσは、下記式(4)を満足する防音構造。
    0.35×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(3)
    ここで、ρは、空気の密度、ηは、空気の粘度、ωは、角周波数、J(x)、及びJ(x)は、それぞれ第1種ベッセル関数、iは、虚数単位、Zairは、空気の音響インピーダンス、Re(*)は複素数*の実部を表し、k’=r√(ρω/η)である。
  2. 前記複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムは、1つの極大値を有する請求項1に記載の防音構造。
  3. 前記複数の貫通孔の孔半径ヒストグラムは、2つの極大値を有する請求項1に記載の防音構造。
  4. 前記音響インピーダンスZMPPの実部Re(ZMPP)は、下記式(5)を満足する請求項1〜3のいずれか1項に記載の防音構造。
    0.85×Zair≦Re(ZMPP)≦12×Zair ・・・(5)
  5. 前記膜状部材の厚みtは、0.1mm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の防音構造。
  6. 前記複数の貫通孔の半径は、0.05mm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の防音構造。
  7. 前記複数の貫通孔は、前記膜状部材にランダムに配列されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の防音構造。
  8. 前記膜状部材の少なくとも前記複数の貫通孔を有する部分は、金属である請求項1〜7のいずれか1項に記載の防音構造。
  9. 前記金属は、ニッケル、銅、又は鉄である請求項8に記載の防音構造。
  10. 前記金属は、アルミニウムである請求項8に記載の防音構造。
  11. さらに、前記膜状部材に積層されるメッシュ構造を備える請求項1〜10のいずれか1項に記載の防音構造。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の防音構造を備える光学デバイス。
  13. 前記光学デバイスは、カメラである請求項12に記載の光学デバイス。
  14. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の防音構造を備える電子デバイス。
  15. 前記電子デバイスは、移動型ロボット、又はコンピュータである請求項14に記載の電子デバイス。
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