JP6656654B2 - 腱及び靱帯損傷治療剤並びにこれを含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物 - Google Patents

腱及び靱帯損傷治療剤並びにこれを含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物 Download PDF

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Description

本発明は、新規な腱及び靱帯損傷治療剤並びにこれを含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物に関する。
エラスチンは、大動脈、項靭帯、皮膚、肺など、生体内の様々な弾性組織に広く分布している弾性線維の主要な構成成分である不溶性タンパク質である。皮膚や血管におけるエラスチンは、加齢と共に減少や機能低下を起こすことが知られている。皮膚中のエラスチンを産生する皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生を促進する物質には、皮膚改善剤としての可能性が考えられる。例えば、特許文献1〜3では植物抽出物を含むエラスチン産生促進剤が提案されている。
また、ブタ及びウマ由来のエラスチンが皮膚に対して改善効果と美白効果をもたらしたという報告(特許文献4参照)や、動物由来(ウシの項靱帯)エラスチンが血管の状態を改善したという報告(特許文献5参照)等がある。また、特許文献6には、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを有効成分とする動脈硬化抑制剤が開示されている。
特許文献7には、魚類の動脈球より抽出されたエラスチンペプチドを有効成分として含み、1000残基あたりのグリシン、アラニン、バリン及びプロリン含量の合計が650残基以上であり、アスパラギン酸及びアスパラギン含量の合計が10〜35残基であり、グルタミン酸及びグルタミン含量の合計が20〜50残基であり、リジン、ヒスチジン及びアルギニン含量の合計が20残基〜50残基であり、デスモシン及びイソデスモシン含量の合計が0.3残基以上であり、ヒドロキシプロリン含量が10残基以下である皮膚改善剤及び血管改善剤が開示されている。
エラスチンは項靱帯や膝靱帯を始めとする靱帯や腱にも多く存在しており、例えば、膝靭帯においても、力学的機能や生理学的機能に重要な役割を果たすことが予想される。皮膚等と同様に、腱や靭帯についても、加齢等によるエラスチンの含有量の減少に伴う機能低下が、膝等の関節痛の一因になっていると考えられる。そのため、腱細胞及び靱帯細胞の増殖能の増大や、腱や靭帯を構成するタンパク質の遺伝子発現の促進が、膝関節症等のロコモティブシンドロームや、スポーツ等による腱及び靭帯損傷の予防、腱や靱帯の強化等の腱及び靱帯機能の改善に繋がることが期待される。
腱又は靭帯の損傷等に対する改善、治癒促進又は予防、腱又は靭帯の改善又は強化を目的とする組成物として、例えば、コラーゲン又はゼラチンをコラゲナーゼにより分解して得られる分解物であって、アミノ酸配列が(Gly−X−Y)(式中、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはグリシン以外の任意のアミノ酸残基を表し、nは正の整数を表す)で表されるペプチドを含むものを有効成分とするもの(例えば、特許文献8参照)が提案されている。また、特許文献9には、薬学的に許容可能な液体担体中約0.1mg/mL〜約1.0mg/mLの範囲の濃度での血小板由来成長因子及び薬学的に許容可能な固体担体を含む組成物を、骨、歯周組織、靱帯又は軟骨へ適用させることにより、骨、歯周組織、靱帯又は軟骨の成長を促進させる方法が開示されている。
特開2002−293747号公報 特開2005−22993号公報 特開2005−60341号公報 特開2002−205913号公報 特開2007−045722号公報 特開2007−045722号公報(請求項6等) 特開2010−155820号公報 特開2005−281186号公報 特開2009−195739号公報
損傷した靱帯をそのまま放置しておくと、自然治癒の過程で瘢痕組織が大量に形成されるため、治癒後の靱帯の力学的強度は大幅に減少する。したがって、靱帯損傷の治療は、瘢痕組織の形成を抑制するために、手術等の外科的処置(いわゆるトミー・ジョン手術(側副靱帯再建手術)はその一例である。)によって行われているのが現状である。しかし、外科的処置による靱帯損傷の治療においては、処置後の靱帯組織の再建及びリハビリテーションに長期間を要することから、それに代わる薬物療法等の治療法が望まれている。
しかしながら、現在まで、薬物投与によって腱及び靱帯の損傷を治療する有効な方法については知られていない。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、安全性が高く、長期間にわたる摂取による健康被害のリスクが低く、かつ低コストで提供可能であり、外科的処置によることなく、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を可能にする、腱及び靱帯損傷治療剤及びこれを含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、魚類由来のエラスチン又はそのポリペプチド鎖を断片化させることにより得られるペプチド(以下、本発明において「エラスチンペプチド」と総称する。)について、腱及び靱帯の損傷部位における正常な靱帯組織の再生を可能にし、靱帯の損傷を効果的に修復する活性を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、前記目的に沿う本発明の第1の態様は、魚類の動脈球から、脂質、可溶性タンパク質及びコラーゲンを除去して得られるエラスチンの加水分解物、ジペプチドのプロリン−グリシン(Pro−Gly)、それらの塩からなる群より選択される1又は複数の化合物を有効成分として含み、腱及び靱帯の損傷部位における骨化及び瘢痕組織の形成を抑制し、正常組織の形成を促進し、損傷部位を治療させるための腱及び靱帯損傷治療剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
なお、「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸残基が縮重合し、ペプチド結合で結合したアミノ酸の重合体を意味する。
本発明の第1の態様に係る腱及び靱帯損傷治療剤において、前記魚類がカツオ、マグロ、タラ、ハマチ及びサケのいずれかであってもよい。
本発明の第1の態様に係る腱及び靱帯損傷治療剤において、前記ペプチドのうち、70重量%以上が分子量1000以下であることが好ましい。
なお、本発明において、特に断らない限り「%」は「重量%」を意味する。
本発明の第1の態様に係る腱及び靱帯損傷治療剤において、腱細胞及び腱組織並びに靱帯細胞及び靱帯組織における、エラスチンmRNA及びテノモジュリンmRNAの一方又は双方の発現を促進する活性を有することが好ましい。
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る腱及び靱帯損傷治療剤を含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
本発明の第2の態様に係る腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物は、カツオ、ハマチ及びマグロのいずれかの動脈球から、脂質、可溶性タンパク質及びコラーゲンを除去して得られるエラスチンの加水分解物を含む経口投与剤であってもよい。
本発明の第2の態様に係る腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物は、ジペプチドのプロリン−グリシン(Pro−Gly)、その塩から選択される1又は複数を含む経口投与剤であってもよい。
本発明によると、魚類の弾性組織である動脈球に由来するエラスチンペプチドを有効成分とする腱及び靱帯損傷治療剤及びこれを含む医薬組成物、食品及び飼料を提供できる。本発明の腱及び靱帯損傷治療剤は、家畜疫病の感染リスクのある動物の弾性組織由来のタンパク質を原料として用いないと共に、ペプチドからなるため安全性が高く、長期間にわたる摂取による健康被害のリスクが低いと共に、低コストで提供できる。また、本発明の腱及び靱帯損傷治療剤は、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進させることにより、膝関節症等のロコモティブシンドロームやスポーツ等による靭帯損傷の予防や靱帯の強化等の靱帯機能の改善に有用であることが期待される。
実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の弾性率の測定結果を示すグラフである。 実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の破断強度の測定結果を示すグラフである。 実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の断面積の測定結果を示すグラフである。 実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の自然長の測定結果を示すグラフである。 実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の最大荷重の計算結果を示すグラフである。 実施例5[1]における各群の内側側副靱帯の最大変形量の計算結果を示すグラフである。 実施例5[2]において、抗−I型コラーゲン抗原を用いた各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプル1mmあたりの発光強度を示すグラフである。 実施例5[2]において、抗−III型コラーゲン抗原を用いた各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプル1mmあたりの発光強度を示すグラフである。 実施例5[2]において、抗−エラスチン抗原を用いた各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプル1mmあたりの発光強度を示すグラフである。 実施例5[2]において、抗−オステオポンチン抗原を用いた各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプル1mmあたりの発光強度を示すグラフである。 実施例5[2]において、抗−ALP抗原を用いた各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプル1mmあたりの発光強度を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるI型コラーゲンmRNAの発現量を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるIII型コラーゲンmRNAの発現量を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるテノモジュリンmRNAの発現量を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるオステオポンチンmRNAの発現量を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるALPmRNAの発現量を示すグラフである。 実施例5[3]において、各群の内側側副靱帯におけるエラスチンmRNAの発現量を示すグラフである。
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る腱及び靱帯損傷治療剤は、魚類の動脈球から、脂質、可溶性タンパク質及びコラーゲンを除去して得られる不溶性タンパク質の加水分解物である1又は複数種のペプチド(以下、「エラスチンペプチド」と略称する場合がある。)、ジペプチドのプロリン−グリシン(Pro−Gly)、それらの塩及びそれらの誘導体からなる群より選択される1又は複数の化合物を有効成分として含んでいる。
上記の有効成分のうち、まず、エラスチンペプチドについて説明する。
エラスチンペプチドの原料として用いられる動脈球とは、魚類に特有の器官であり、弁を介して心室と結合しており、心室から大動脈へ送り出される血液の血流調節に関与している。原料として使用される動脈球の起源に特に制限はなく、任意の魚種由来の動脈球を使用することができるが、心臓から動脈球を採取するためにある程度の大きさを有する必要がある。そのため、原料として用いる動脈球は、カツオ、マグロ、カジキ、タラ、ハマチ、ブリ、サケ、マス等の大型魚に由来するものであることが好ましく、大量かつ安定的に入手できる魚種であるカツオ、マグロ、タラ、ハマチ、サケに由来するものであることがより好ましい。
エラスチンペプチドは、例えば、以下の方法により調製される。
まず、原料として使用する動脈球から血液を除去するために流水で洗浄後、粉砕する。粉砕は、ホモジナイザー、フードカッター等の任意の公知の手段により行うことができる。次いで、粉砕した動脈球から、脂質、可溶性タンパク質、コラーゲンを除去することにより、エラスチンを主成分とする不溶性タンパク質が得られるが、原料のさらなる洗浄及び以後の処理を容易にするための前処理として、アルカリ溶液を用いた浸漬処理を行うことが好ましい。
アルカリ溶液による処理条件は魚種により異なるため、事前に検討の上決定することが好ましいが、カツオ由来の動脈球を使用した場合、使用されるアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム、好ましくは水酸化ナトリウムの溶液である。アルカリ溶液の濃度は0.01〜0.1mol/L、好ましくは0.02mol/Lである。浸漬温度は20℃以下、浸漬期間は数日〜2週間、好ましくは1週間である。また、浸漬中は、アルカリ溶液を1日につき2回以上取り替えることが好ましい。浸漬後、流水洗浄により過剰のアルカリを除去後、必要に応じて中和処理を行う。中和には、当該技術分野において使用される任意の酸を使用することができる。
アルカリ処理した原料からの脂質及びコラーゲンの除去は、例えば、蒸留水を添加し高温(例えば、95℃)で加熱する方法により行うことができる。高温で加熱することにより、コラーゲンのらせん構造が崩壊して三量体が解離し、水溶性のトロポコラーゲン(ゼラチン)が遊離する。ろ過、遠心分離、デカンテーション等の任意の公知の方法により上清を分離除去すると、不溶性タンパク質が得られる。
こうして得られた不溶性タンパク質に対して、ポリペプチド鎖を断片化させ、水溶性を向上させる可溶化処理を行うことにより、エラスチンペプチドを得ることができる。この際、可溶化処理に先立ち、不溶性タンパク質をさらに細片化してもよい。
可溶化処理は任意の公知の方法を用いて行うことができるが、具体例としては、タンパク質分解酵素による酵素分解が挙げられる。酵素分解には、食品、医薬品及び化粧品製造に使用される任意のタンパク質分解酵素を使用することができるが、力価の大きなもの、たとえばAlcalase2.4L FG(Novoenzyme製)、プロチンAC−10F(大和化成製)、プロテアーゼN「アマノ」G、ペプシン(天野エンザイム製)が好ましい。分解条件は、使用される酵素及び動脈球、所望の分子量分布等に応じて適宜決定される。酵素の添加量(酵素と基質の重量比)は、当業界でタンパク質分解に用いられる通常の量であり、たとえば1:50〜1:10000である。また、これらの酵素は単独で用いることもできるが、2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。酵素分解反応は、タンパク質分解酵素が失活しない温度(例えば、室温〜37℃)で、所定の時間(30分間〜96時間)かけて行う。反応後、酵素の加熱失活により酵素分解反応を終了させる。
また、可溶化処理は、不溶性タンパク質を無機酸溶液中で加熱処理する酸分解法によっても行うことができる。使用する酸の例としては任意の無機酸が挙げられるが、シュウ酸が好ましく、濃度及び加熱温度は、0.25N、90℃が好ましい。可溶化処理後、アルカリにより中和を行うが、このとき使用するアルカリとしては水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムが好ましい。特に、シュウ酸を使用した場合には、これを完全に除去するために水酸化カルシウムでの中和が必須となる。
或いは、不溶性タンパク質をアルカリ性含水エタノール溶液で処理するアルカリ−エタノール法によっても可溶化処理を行うことができる。この際使用する溶液は、1N水酸化ナトリウム80%エタノール溶液であることが好ましく、処理温度は室温であることが好ましい。
以上のようにして得られたエラスチンペプチドを溶液のまま使用する場合には、溶液を所望の用途に好適なpHに調整し、必要であれば脱塩を行う。脱塩は、限外ろ過法、イオン交換法等の任意の方法により行うことができる。
また、不溶物が存在する場合には、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の任意の方法を用いて除去することができる。ろ過による除去の場合には、必要に応じて、溶液中に含まれる不溶物以外の不純物(エラスチンペプチド以外の着色成分等)を除去するために活性炭、ベントナイト、セライト等の吸着剤やろ過助剤を添加してもよい。特に溶液のまま使用する場合には、メンブレンフィルター等による除菌ろ過を併せて行うことが好ましい。このようにして得られるエラスチンペプチドは、そのまま溶液として用いてもよく、或いは、更に濃縮後噴霧乾燥又は凍結乾燥を行うことにより得られる粉末の形態で用いてもよい。
以上のようにして得られるエラスチンペプチドのうち、分子量が1000以下のものが占める割合は、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。上記の条件を具備する腱及び靱帯損傷治療剤は、それぞれ、高い活性を示すと共に、投与時の吸収特性等においても優れている。エラスチンペプチドの分子量及びその存在比(重量比)は、サイズ排除クロマトグラフィー(ゲルろ過クロマトグラフィー)法、質量分析法等の任意の公知の方法を用いて決定することができる。エラスチンペプチドのうち、分子量1000以下のものが占める割合が70%を下回ると、吸収効率の低下や変異原性の発現等の問題を生じるおそれがある。
このようにして得られるエラスチンペプチドは、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進し、外科的手法によらずとも、瘢痕組織を残すことなく損傷前と同様な腱組織及び靱帯組織を再生させる作用を有している。それにより、腱や靱帯の損傷の回復の促進、膝関節症等のロコモティブシンドロームやスポーツ等による腱及び靭帯の損傷の予防、高齢者、スポーツ選手、競走馬等の腱及び靱帯の機能強化等に有効であると考えられる。
エラスチンペプチドは、腱細胞及び靱帯細胞並びに腱組織及び靱帯組織における、エラスチンmRNA及びテノモジュリンmRNAの一方又は双方の発現を促進する活性を有している。エラスチン、I型コラーゲン及びIII型コラーゲンは、腱及び靱帯の主要な構成成分であるが、これらのうちエラスチンの産生が促進されることで、腱及び靱帯機能の強化、腱及び靱帯の損傷の回復の促進等の効果が得られる。テノモジュリンは、靱帯、腱等に発現する317アミノ酸の糖タンパク質であり、コンドロモジュリン−Iと相同性を有するシステインリッチな機能ドメインを含んでいる。タンパク分解により切断されたテノモジュリンの16kDのC末端ドメインが腱細胞増殖活性を示すことが知られており、テノモジュリンは靱帯や腱の機能強化に何らかの役割を果たしていると考えられている。したがって、テノモジュリンの産生を促進することも、腱及び靱帯の機能強化等に有利な役割を果たしていると思われる。
エラスチンペプチドは、腱細胞及び腱組織並びに靱帯細胞及び靱帯組織におけるI型コラーゲン及びIII型コラーゲンの一方又は双方の過剰な発現を抑制する活性を有していてもよい。I型コラーゲン及びIII型コラーゲンは、腱及び靱帯組織の主要な構成成分ではあるが、過剰に発現すると、これらの組織の硬化をもたらすおそれがある。そのため、腱細胞及び腱組織並びに靱帯細胞及び靱帯組織におけるI型コラーゲン及びIII型コラーゲンの一方又は双方の過剰な発現の抑制は、正常な腱及び靱帯組織の回復に有用である。
また、エラスチンペプチドは、腱細胞及び靱帯細胞中のアルカリホスファターゼを阻害し、かつ/又は腱細胞及び靱帯細胞におけるアルカリホスファターゼの発現を抑制する活性を有していてもよい。アルカリホスファターゼは骨形成に必要な酵素であるが、加齢等によって腱細胞及び靭帯細胞からのアルカリホスファターゼ発現が増加し、腱細胞及び靱帯細胞が骨芽細胞様に分化してしまうとの報告がある。このようなアルカリホスファターゼ活性の増大が、加齢に伴う腱や靱帯の硬直化につながるとも考えられるため、腱細胞及び靱帯細胞におけるアルカリホスファターゼ活性の阻害及びアルカリホスファターゼの発現の抑制は、腱及び靱帯機能の低下の防止に有用である。
エラスチンペプチドとして、エラスチンの加水分解混合物をそのまま用いてもよいが、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法を用いてエラスチンペプチドを分画し、個々のフラクションについて各活性のアッセイを行うことにより、上述の活性のうち1つ又は複数を有するフラクションを単独で、又は任意の2以上のフラクションを組み合わせて用いてもよい。
なお、有効成分として、エラスチンペプチド以外の、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する活性を有することがわかっているペプチドを用いてもよい。このようなペプチドのうち、アミノ酸配列が既知のものとしては、Pro−Gly(L−プロリルグリシン)が挙げられる。エラスチンペプチドの代謝産物のうち、エラスチンペプチドを経口摂取後、血中濃度が上昇するペプチドが確認されたが(第63回日本栄養・食糧学会大会予稿集131ページ、2G−18P、重村泰毅他、「ヒト末梢血における食事由来エラスチンペプチドの検出」)、そのうちアミノ酸配列が既知で、かつ腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する活性を有することが確認されたジペプチドの1つがPro−Glyである。
Pro−Glyは、エラスチンペプチドの経口摂取により血中濃度が増大するペプチドであることから、エラスチンペプチドの経口摂取は腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進等に有効であることが強く示唆されると共に、Pro−Gly及び部分アミノ酸配列としてPro−Glyを含み、消化吸収過程でPro−Glyを生成するペプチドは、腱及び靱帯損傷治療剤において高い活性を有する有効成分の1つであると考えられる。
Pro−Glyとしては、エラスチンペプチド又は消化酵素による分解産物からPro−Glyのみを単離して用いることもできるが、任意の公知の方法を用いて合成したものを用いてもよい。同様に、エラスチンペプチドに含まれ、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する活性を有し、腱及び靱帯の損傷を治癒又は予防し、腱及び靱帯の機能を改善し、かつ腱及び靱帯を強化する機能を有する他のペプチドについても、エラスチンペプチドから単離したものを用いてもよく、アミノ酸配列を明らかにした上で化学的又は生物学的手法を用いて合成したものを用いてもよい。また、Pro−Gly、Pro−Glyの塩及びその誘導体(塩及び誘導体の具体例については上記参照。)からなる群より選択される1又は複数の化合物を任意の割合で組み合わせたものを用いてもよい。Pro−Gly、その塩及びその誘導体は、エラスチンペプチドについて上述した活性の1又は複数を有していてもよい。
エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドを医薬用途に通常用いられる任意の担体等と混合することにより、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する作用を有する医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的及びこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、成人一人1日あたり0.1mg〜10g程度、好ましくは0.5mg〜5g程度、より好ましくは1mg〜100mgであり、これを1回〜数回に分けて投与する。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製することができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドと、製薬学的に許容し得る担体又は希釈剤、安定剤、及びその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
腱及び靱帯損傷治療剤を含む食品としては、エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドをそのまま食品として調製したもの、他の食品に添加したもの、あるいは、カプセル、錠剤等、食品又は健康食品に通常用いられる任意の形態をとることができる。
食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。また、適宜、食品原料中に混合して食品を調製し、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する活性を有する機能性食品として用いることができる。
腱及び靱帯損傷治療剤を含む飼料としては、エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドをそのまま調製したもの、あるいは飼料に配合したもの等、様々な形態をとることができる。飼料中に混合して、家畜などの動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、飼料に添加して投与することもできる。すなわち、エラスチンペプチドを有効成分として含む腱及び靱帯損傷治療剤は、ブタ、ニワトリ、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、魚類、ペット(イヌ、ネコ、鳥類)等の飼料に添加することにより、安全で、腱及び靱帯の損傷部位における正常な腱組織及び靱帯組織の修復を促進する活性を有する機能性飼料として用いることができる。
エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドは、塩、誘導体又は溶媒和物の形で腱及び靱帯損傷治療剤に含まれていてもよい。エラスチンペプチドの塩としては、エラスチンペプチド中の各アミノ酸残基中のアミノ基及びカルボキシル基が、それぞれ生体に対し無害な酸及び塩基と塩を形成した任意の塩を使用することができる。アミノ基の塩の具体例としては、(1)塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、(2)酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、ステアリン酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩、アジピン酸塩、グルコン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。カルボキシル基の塩の具体例としては、(1)ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の金属塩、(2)アンモニウム塩、ピリジニウム塩、塩基性アミノ酸との塩等の有機塩基との塩が挙げられる。或いは、いわゆる分子内塩(双性イオン:Zwitter ion)を形成していてもよい。
エラスチンペプチド又はPro−Gly等のペプチドの誘導体としては、エラスチンペプチド中の各アミノ酸残基中のアミノ基及びカルボキシル基と、生体に対し無害な他の化合物との反応生成物であり、生体において酵素分解を受け遊離のPro−Glyを生成することができるものであれば、任意の誘導体を使用することができる。誘導体の具体例としては、N−アシルアミド、O−アルキルエステル等が挙げられる。
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:カツオ由来エラスチンペプチド粉末の製造
新鮮なカツオより動脈球(100g)を採取し、流水洗浄後粉砕した。原料の前処理として0.02N水酸化ナトリウム水溶液に冷蔵庫中で1週間浸漬した。浸漬後、流水洗浄により過剰のアルカリを除去し、排出液が中性となるまで流水洗浄した。これに3倍容の蒸留水を加え、95℃に加熱後、上清を取り除くことにより、脂質及びコラーゲンを除去した。残留物をフードカッターで細片化し、プロチンAC−10F(大和化成製、0.5%)及びプロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム製、0.1%)を基質量の1%添加し、10時間分解を行った。85℃以上の温度で加熱失活を行い、ろ過及び遠心分離により残渣を分離した。その後精密ろ過によって清澄化した抽出液を噴霧乾燥し、水溶性のエラスチンペプチド粉末(8g)を得た。
実施例2:ハマチ由来エラスチンペプチド粉末の製造
原料として新鮮なハマチより採取した動脈球を用い、実施例1と同様の操作により、エラスチンペプチド粉末を得た。
実施例3:マグロ由来エラスチンペプチド粉末の製造
原料として新鮮なマグロより採取した動脈球を用い、実施例1と同様の操作により、エラスチンペプチド粉末を得た。
実施例1〜3により得られたエラスチンペプチドのアミノ酸分析結果を、下記の表1に示す。
いずれのエラスチンペプチドについても、1000残基あたりのグリシン、アラニン、バリン及びプロリン含量の合計が650残基以上であり、アスパラギン酸及びアスパラギン含量の合計が10〜35残基であり、グルタミン酸及びグルタミン含量の合計が20〜50残基であり、リジン、ヒスチジン及びアルギニン含量の合計が20残基〜50残基であり、デスモシン及びイソデスモシン含量の合計が0.3残基以上であり、ヒドロキシプロリン含量が10残基以下であることがわかる。
実施例1〜3により得られたエラスチンペプチドのタンパク質、脂質、水分、及び灰分分析結果を、下記の表2に示す。
実施例1〜3により得られたエラスチンペプチドの分子量測定結果(財団法人日本食品分析センター:TSKgel G2500PWXLカラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定)を、下記の表3に示す。なお、表3において「%」は重量%を意味する。
いずれのエラスチンペプチドについても、分子量1000以下のものが占める割合が70%以上であることがわかる。
実施例4:家兎膝内側側副靱帯(MCL)損傷モデルの作成
12週齢の家兎の下肢膝内側側副靱帯の部分切断手術を行うことにより、家兎MCL損傷モデルを作成した。
実施例5:家兎MCL損傷モデルへのカツオ由来エラスチンペプチド及びPro−Glyの投与試験
実施例4で作成した家兎MCL損傷モデルを経口摂取群(エラスチンペプチド投与群12匹、経口摂取コントロール群14匹)、局所投与群(Pro−Gly局所投与群11匹、局所投与コントロール群9匹)に分け、前者には餌に混入したカツオ由来エラスチンペプチド(125mg/kg/日、コントロール群には通常の餌)を摂取させ、後者にはPro−Gly(100μg/mL生理食塩水溶液、コントロール群には同量の生理食塩水)を週1回投与した。投与は6週間にわたって行い、投与終了後に、膝内側側副靱帯の力学強度試験、免疫蛍光染色試験及び遺伝子発現定量試験を行い、通常の家兎(正常群:4匹)と比較した。
[1]力学強度試験
各群の家兎MCL損傷モデル及び正常群の家兎より、大腿骨及び脛骨を靱帯ごと取り出し、内側側副靱帯以外の全ての靱帯を切断した。内側側副靱帯の厚さ、自然長(無過重条件下における、骨に接合していない部分の長さ)、幅、大腿骨及び脛骨との接合部の長さ及び全長をノギスで計測した。大腿骨及び脛骨に、ドリルで直径3mmの穴を2つずつあけ、引張試験機のクロスヘッドに固定し、弾性率及び破断強度の測定を行った。
(1)弾性率の測定
内側側副靱帯を伸ばす方向にクロスヘッドを移動させ、応力が15N以下の場合における内側側副靱帯の長さと応力との関係を測定し、下式により弾性率を計算した。
弾性率(Pa)=応力(Pa)/ひずみ
なお、ひずみ=測定長(mm)/自然長(mm)である。
(2)破断強度の測定
内側側副靱帯が破断するまで内側側副靱帯を伸ばす方向にクロスヘッドを移動させ、破断時の最大応力及び内側側副靱帯の長さを測定した。
(3)最大荷重及び最大変形量の計算
内側側副靱帯の最大荷重及び最大変形量は、上記測定結果を用いて下式により計算した。
最大荷重(N)=弾性率(Pa)×断面積(mm
なお、断面積(mm)=幅(mm)×厚さ(mm)である。
最大変形量(mm)=変形長(mm)×断面積(mm
なお、変形長(mm)=破断時の長さ(mm)−自然長(mm)である。
上記の測定により得られた、各群の内側側副靱帯の弾性率、破断強度、断面積、自然長の測定結果を、それぞれ、図1、図2、図3、図4に示す。また、各群の内側側副靱帯の最大荷重、最大変形量の計算結果を、それぞれ、図5、図6に示す。なお、図1〜6において、各群を示すA−1、A−2、B−1、B−3、Cの標記は、それぞれ、経口摂取コントロール群、エラスチンペプチド経口摂取群、局所投与コントロール群、Pro−Gly局所投与群、通常群を表し、各図中の「+」、「*」、「**」、「***」は、t検定における有意水準が、それぞれ、10%未満(傾向差あり)、5%未満(有意差あり)、1%未満(有意差が明らか)、0.1%未満(有意さが著明)であることを示す。また、各グラフの数値は測定値の平均値を示し、エラーバーの長さは標準偏差を示す。
図1の結果より、内側側副靱帯の弾性率に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果については、エラスチンペプチド経口摂取群において経口摂取コントロール群との間で傾向差が、Pro−Gly局所投与群において局所投与コントロール群との間で有意差が見られることが確認された。特に、Pro−Gly局所投与群においては、注射自体の侵襲が大きいにもかかわらず顕著な効果が見られた。両群とも、弾性率の測定値が通常群の半分以下の値を示しているのは、試験開始から6週間経過時点は未だ治癒過程の途上であるためであると考えられる。
図2の結果より、内側側副靱帯の破断強度に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果については、エラスチンペプチド経口摂取群、Pro−Gly局所投与群のいずれにおいても各コントロール群との間で有意差が見られず、正常群との間で有意差が見られることが確認された。ただし、内側側副靱帯の破断ではなく、骨から剥離しているケースが殆どであり、部分切断部位からの破断は殆ど観測されなかった。
図3の結果より、内側側副靱帯の断面積に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果については、エラスチンペプチド経口摂取群において傾向差が、Pro−Gly局所投与群において有意差が見られることが確認された。この場合、断面積が大きいことは靱帯組織が肥厚した瘢痕組織の形成を意味している。両群共に、内側側副靱帯の断面積が正常群に近い数値を示していることは、カツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与により、瘢痕組織の形成が抑制されていることを示している。
図4の結果より、内側側副靱帯の自然長に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果については、各群ともに各コントロール群との間で有意差は見られず、正常群との間でも有意差は見られないことが確認された。
内側側副靱帯の最大荷重に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果を示す図5の結果より、エラスチンペプチド経口摂取群において、図2に示した経口摂取コントロール群との間で破断強度に有意差が観測されなかったにもかかわらず、内側側副靱帯の最大荷重は、経口摂取コントロール群に対し有意に低下が見られ、Pro−Gly局所投与群において局所投与コントロール群に対し有意に増加が見られることが確認された。
図6の結果より、内側側副靱帯の最大変形量に及ぼすカツオ由来エラスチンペプチド又はPro−Glyの投与の効果については、経口摂取群において傾向差が見られたが、局所投与群においては統計上有意な差異が観測されなかった。両群共に、コントロール群に比べ最大変形量の減少が見られることが確認されているが、この結果は、正常な靱帯組織の再生が進み、靱帯の弾性等が改善され、関節の安定化に寄与する方向で治癒が進んでいることを示唆するものである。
[2]組織免疫蛍光染色試験
上述の[1]に示した方法で、各群の家兎MCL損傷モデル及び正常群の家兎より取り出した内側側副靱帯の一部を包埋剤(サクラファインテックジャパン製O.C.T.Compound 4583)に包埋し、液体窒素で急冷後、−80℃の冷凍庫中で保存した。このようにして作製した凍結組織ブロックから、クリオスタットを用いて凍結切片を作製した。−20℃に冷却したアセトン/メタノール(1:1)に凍結切片を5分間浸漬し、アセトン固定を行った後、10分間風乾した。1%BSA(ウシ血清アルブミン)/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で20分間置換後、一次抗体(抗−ウサギ−マウスI型コラーゲン抗体、抗−ウサギ−マウスIII型コラーゲン抗体、抗−ウサギ−マウスエラスチン抗体、抗−ウサギ−マウスオステオポンチン抗体、抗−ウサギ−マウスALP抗体、:1%BSA/PBSで希釈(希釈率1:50))100μLを加え、4℃、飽和湿度で終夜放置し、一次抗体を結合させた。一次抗体を吸引除去後、一次抗体を固定した切片をPBSで3回洗浄した。次いで、1%BSA/PBSで希釈したヨウ化プロピジウム(希釈率1:200)及び二次抗体(抗−マウスIgG抗体−Dylight:希釈率1:200)を各100μL加え、90分間暗所に室温で放置した。二次抗体を除去後、PBSで3回洗浄した。このようにして得られた蛍光染色切片を、90%グリセロール/PBSでスライドガラス上にマウント後、マニキュアを用いて密閉し、自然乾燥させた。このようにして得られた蛍光染色切片サンプルを、共焦点レーザー顕微鏡で観察し、顕微蛍光画像データを取得した。画像解析ソフトImageJ(NIH)を用いて画像データを解析し、組織1mmあたりの発光強度を求めた。
抗−ウサギ−マウスI型コラーゲン抗体、抗−ウサギ−マウスIII型コラーゲン抗体、抗−ウサギ−マウスエラスチン抗体、抗−ウサギ−マウスオステオポンチン抗体及び抗−ウサギ−マウスALP抗体を用いて作製した、各群の内側側副靱帯の組織免疫蛍光染色切片サンプルの組織1mmあたりの蛍光強度を、それぞれ、図7〜図11に示す。なお、図7〜11において、各群を示すa−1、a−2、b−1、b−3、cの標記は、それぞれ、経口摂取コントロール群、エラスチンペプチド経口摂取群、局所投与コントロール群、Pro−Gly局所投与群、通常群を表し、各図中の「*」、「**」は、t検定における有意水準が、それぞれ、5%未満(有意差あり)、1%未満(有意差が明らか)であることを示す。また、各グラフの数値は測定値の平均値を示し、エラーバーの長さは標準偏差を示す。各群のサンプル数は、グラフ中にエラーバーを表示したものが3、エラーバーを表示していないものが2である。
図7、8に示すように、抗−I型コラーゲン抗体及び抗−III型コラーゲン抗体を用いて作製したサンプルについては、局所投与コントロール群のみが他群及び通常群に比べて発光強度が顕著に低い傾向が見られた。また、他群は、通常群に比べ低い発光強度を示したが、各群間の発光強度差は顕著ではなかった。
図9に示すように、抗−エラスチン抗体を用いて作製したサンプルについては、エラスチンペプチド経口摂取群が、他群及び通常群に対し顕著に高い発光強度を示している。腱組織や靱帯組織においてコラーゲンが増加しすぎると、組織が硬くなりすぎるため、これらの結果は、エラスチンペプチドの経口摂取や、Pro−Glyの局所投与(特に前者)は、コラーゲンのみを増加させることなくエラスチンの産生を促すことにより、内側側副靱帯を正常に治癒させている可能性を示唆するものである。
また、図10、11に示すように、骨関連物質であるオステオポンチン及び骨形成マーカーであるALPの産生は、経口摂取コントロール群を除き、通常群と同程度であることが確認された。これらの結果は、エラスチンペプチドの経口摂取や、Pro−Glyの局所投与は、腱組織及び靱帯組織の骨化を促進せず、正常な腱及び靱帯組織の形成を促進し、内側側副靱帯を正常に治癒させている可能性を示唆するものである。
[3]遺伝子発現定量試験
上述の[1]に示した方法で、各群の家兎MCL損傷モデルの患部及び端部より取り出した内側側副靱帯を粉末状にし、RNAを抽出した。得られたRNAを精製し、逆転写反応によりRNAと相補的な塩基配列を有するDNAを合成した。RT−PCR(リアルタイムPCR法)によりDNAを増幅し、DNAを定量することにより、当該DNAと相補的な塩基配列を有する各遺伝子(RNA)の発現量の定量を行った。定量対象とした遺伝子は、I型コラーゲンmRNA、III型コラーゲンmRNA、テノモジュリンmRNA、オステオポンチンmRNA、ALPmRNA及びエラスチンmRNAである。
I型コラーゲンmRNA、III型コラーゲンmRNA、テノモジュリンmRNA、オステオポンチンmRNA及びALPmRNAについて得られた結果を、それぞれ、図12〜16に示す。なお、図12〜16において、各群を示すA−1、A−2、B−1、B−3、Cの標記は、それぞれ、経口摂取コントロール群、エラスチンペプチド経口摂取群、局所投与コントロール群、Pro−Gly局所投与群、通常群を表し、各図中の破線、実線は、t検定における有意水準が、それぞれ、5%未満(有意差あり)、1%未満(有意差が明らか)であることを示す。また、各グラフの数値は測定値(ΔΔCt法による相対定量値)の平均値を示し、エラーバーの長さは標準偏差を示す。また、図16、17において、縦軸の数値は、それぞれ、ALPmRNA及びエラスチンmRNAの相対発現量を示す。
図12に示すように、I型コラーゲンmRNAの発現レベルは、経口摂取コントロール群において通常群よりも高く、局所投与コントロール群において通常群よりも低い傾向が認められたものの、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群の両者において、通常群と同程度であることが確認された。また、図13に示すように、III型コラーゲンmRNAの発現レベルは、局所投与コントロール群において通常群よりも低い傾向が認められたものの、その他の各群において通常群と同程度であることが確認された。以上の結果より、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群の両者において、I型及びIII型コラーゲンmRNAの発現レベルが各コントロール群に比べて改善されることが確認された。局所投与コントロール群におけるI型及びIII型コラーゲンmRNAの発現レベルの低下は、注射に伴う侵襲(瘢痕の形成及び周囲の細胞の過疎化)によると思われるが、Pro−Glyの局所投与は、注射に伴う侵襲を補うに十分な改善効果をもたらしていることがこれらの結果より示唆される。
図14に示すように、腱及び靱帯組織の後期分化マーカーであるテノモジュリンmRNAの発現レベルは、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群の両者において、各コントロール群よりも顕著に高くなっていることが確認された。これらの結果より、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群の両者において、正常な靱帯組織の分化が起こっていることが確認された。
図15に示すように、オステオポンチンmRNAの発現レベルは、経口摂取コントロール群及び局所投与コントロール群において通常群よりも高い傾向が認められたものの、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群の両者において、通常群と同程度であることが確認された。また、図16に示すように、ALPmRNAの発現レベルは、経口摂取コントロール群において通常群よりも若干高い傾向が認められたものの、その他の各群において通常群よりも有意に低いことが確認された。これらの結果は、エラスチンペプチドの経口摂取や、Pro−Glyの局所投与は、腱組織及び靱帯組織の骨化を促進せず、正常な腱及び靱帯組織の形成を促進し、内側側副靱帯を正常に治癒させている可能性を示唆するものである。さらに、図17に示すように、エラスチンmRNAの発現レベルは、局所投与コントロール群において通常群を大きく下回っているものの、エラスチンペプチド経口摂取群及びPro−Gly局所投与群において、通常群よりも高くなっていることが確認された。これらの結果は、エラスチンペプチドの経口摂取や、Pro−Glyの局所投与(特に前者)は、コラーゲンのみを増加させることなくエラスチンの産生を促すことにより、内側側副靱帯を正常に治癒させている可能性を示唆するものである。
本発明により提供される腱及び靱帯損傷治療剤は、腱及び靱帯損傷の回復の促進、膝関節症等のロコモティブシンドロームやスポーツ等による腱及び靭帯損傷の予防、高齢者、スポーツ選手、競走馬等の腱及び靱帯の機能強化等の効果を有する医薬品、食品、飼料等への利用が可能である。

Claims (7)

  1. 魚類の動脈球から、脂質、可溶性タンパク質及びコラーゲンを除去して得られるエラスチンの加水分解物、ジペプチドのプロリン−グリシン(Pro−Gly)、それらの塩からなる群より選択される1又は複数の化合物を有効成分として含み、腱及び靱帯の損傷部位における骨化及び瘢痕組織の形成を抑制し、正常組織の形成を促進し、損傷部位を治療させるための腱及び靱帯損傷治療剤。
  2. 前記魚類がカツオ、マグロ、タラ、ハマチ及びサケのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の腱及び靱帯損傷治療剤。
  3. 前記ペプチドのうち、70重量%以上が分子量1000以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の腱及び靱帯損傷治療剤。
  4. 腱細胞及び腱組織並びに靱帯細胞及び靱帯組織における、エラスチンmRNA及びテノモジュリンmRNAの一方又は双方の発現を促進する活性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の腱及び靱帯損傷治療剤。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の腱及び靱帯損傷治療剤を含む腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物。
  6. カツオ、ハマチ及びマグロのいずれかの動脈球から、脂質、可溶性タンパク質及びコラーゲンを除去して得られるエラスチンの加水分解物を含む経口投与剤であることを特徴とする請求項5記載の腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物。
  7. ジペプチドのプロリン−グリシン(Pro−Gly)、その塩から選択される1又は複数を含む経口投与剤であることを特徴とする請求項5記載の腱及び靱帯損傷治療用医薬組成物。
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