JP6654779B2 - ターゲットを認識するタンパク質の発現スクリーニング法 - Google Patents

ターゲットを認識するタンパク質の発現スクリーニング法 Download PDF

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Description

本発明は、ターゲットを認識するタンパク質の「One-Step Colony Assay」法に係る発現スクリーニング法、特に高親和性モノクローナル抗体樹立のためのスクリーニング法に関する。
抗体は抗原を特異的に認識する優れた機能を持ったタンパク質であり、研究・診断として欠かせないツールであるのみならず、医薬品としても大きな役割を果たしている。目的の抗原を高い親和性と選択性をもって認識する有用なモノクローナル抗体は、医薬分野に限らずどの分野でも多くのニーズがあり、有用抗体を効率的に樹立する技術の開発は重要である。
モノクローナル抗体の樹立には、スピード・抗体親和性・特異性・機能性(抗原の活性阻害や機能促進等)が要求される。現在、モノクローナル抗体の樹立方法としては、大きく分けて細胞融合を用いるハイブリドーマ法と、組換え抗体を用いた2つの方法がある。
ハイブリドーマ法は、抗原で免疫したマウス等の動物から取り出した抗体産生細胞とミエローマ細胞を融合させ抗体産生細胞を不死化させ、目的の抗体を産生する細胞をクローニングにより樹立する方法である。長い歴史・多くの実績に裏付けられた技術であり、確実に抗体を樹立できるという利点がある。しかし、動物を用いる必要があり、細胞培養技術を必要とするため時間・手間がかかり、また得られる陽性クローン数が少ないため、いい抗体が取れにくいという問題点がある。さらに、樹立後の医薬品などへの応用を考えると樹立後のヒト化・組換え等の作業を必要とするという問題点もある。ハイブリドーマ法は、細胞融合の効率の低さから、一度にスクリーニングできるクローン数は104レベルである。
一方、組換え技術を用いた抗体樹立法では、抗体遺伝子ライブラリーの中から、抗原に対する結合活性を持つクローンをスクリーニングすることによって、モノクローナル抗体を樹立する。scFvやFabの形状での抗体が樹立される。これは、組換え技術を用いてIgGに変更可能である。利点としては、動物をまったく用いない人工ライブラリーから樹立可能なこと、細胞培養施設・技術の不要なこと、エンジニアリング技術により機能付加が容易であること、上記ハイブリドーマ法よりも大きなライブラリーを取り扱えること等がある。問題点としては、抗体のバックグラウンドが高い、樹立が困難、発現を直接見ていないので偽陽性のクローンが取れることが多い、多くのチャレンジがなされているが実績が少ない等があげられる。
組換え技術を用いた抗体樹立法に用いられる代表的な手法は、以下の2つである。
・ファージディスプレイ法(Phage panning)
繊維状ファージに抗体断片(主にscFv)をディスプレイさせ、遺伝子情報と機能を結合し、抗原に結合性を持つファージのみを選抜することにより、抗原反応陽性クローンを樹立する方法(非特許文献1など)であり、大きなライブラリー(109〜1011)が取り扱えること等の利点がある。結合活性という機能を指標に、ファージ・パニングにより、目的クローンを単離し、付随している遺伝情報を同定することにより、望む抗原認識機能を持つ抗体フラグメントを獲得する。しかし、ファージ由来の高いバックグラウンドがあり、抗体断片自身の毒性によりライブラリーの均一性が保証されない(たとえそのクローンの反応性が高くても、大腸菌に対する毒性の強いクローンは増殖できない、または死滅してしまう)、取れてくるクローンに偽陽性が多いという問題があり、その技術への期待ほどは、応用されていない。この問題は、抗原と抗体の結合を直接見ていないという本手法の欠点に基づくものである。
同様に、ディスプレイしたタンパク質と遺伝子とを対応させて大きなライブラリーから選抜する手法として、リボソームディスプレイ法や酵母を用いるツーハイブリッド法の他、さらに大きなライブラリーが扱えるmRNAディスプレイ法(非特許文献1)が開発され、特にインビトロウイルス法は、広くタンパク質の「人工進化」、創薬などに応用されている。しかし、これらスクリーニング法も、ファージディスプレイ法と同じ問題点が存在する。
・コロニーリフトアッセイ(コロニーアッセイ)法
抗体ライブラリーを大腸菌、酵母などで発現させ、結合活性のいいクローンを選抜する手法である(非特許文献3,4)。形質転換大腸菌を培地表面のフィルター上に高密度に載置し、十分に生育させて大腸菌コロニーを生成させた後に、当該フィルターを外し、標的抗原を吸着させた膜の上に重ね合わせた状態で、発現誘導剤が含まれる選択培地表面に移動させる。なお、初期のコロニーリフトアッセイでは、コロニーをニトロセルロース膜に写し、当該膜を標的抗原吸着と重ね合わせる工程を採用していた。その初期の手法と区別するため、当該手法を単に「コロニーアッセイ」ともいうこともある。しかし、コロニー形成フィルターを外して移動するリフト工程は依然として有しているので、ここでは、両者をあわせて「コロニーリフトアッセイ」という呼称を用いる。発現を誘導し、各コロニーから分泌してくる抗体を抗原と結合させた後、フィルターを外して標的抗原との結合活性を標識スポットなどとして検出し、そのスポットとコロニーを重ね合わせて、ポジティブクローンを選択する手法である。上記、ハイブリドーマ法よりも一桁大きいライブラリーを容易にスクリーニングできる手法である。実際に発現させ結合を直接確認する手法なので、偽陽性率が低いという利点がある。一方で、煩雑な長時間操作が必要であること、発現しない事や発現がとても低くなる事が度々あること、操作の煩雑さによるコンタミの発生、操作中に大腸菌が死滅してしまうこと、そのために遺伝子の回収ができなくなるなどの事態が起きうる事等の問題点がある。本手法の可能性を示した論文があるが、広く応用されていない。これらの問題は、発現のタイミング設定(大腸菌の成長状態が重要)が難しいことに起因していると考えられる。このコロニーリフトアッセイ法に免疫化学発光標識系を組み合わせて感度を高め、重鎖CDR3結合特異性決定基を用いて作成したVHライブラリーと軽鎖CDR3結合特異性決定基を用いて作成したVLライブラリーとを組み合わせてFabタンパク質のスクリーニングに適用する技術(特許文献1)が提案されている。
最近、Kumadaらは、コロニーフィルターの移動を省略するために、フィルター表面ではなく寒天培地表面に直接コロニーを形成させてしまう方法を報告している(非特許文献5など)。具体的には、形質転換大腸菌を発現誘導剤を含んだ寒天選択培地表面で発現させて、コロニーを形成させる。寒天表面のコロニーの上に、標的抗原を吸着させた膜を直接、又は親水性膜を介して被せ、コロニーから分泌されてくる抗体と反応させる。ブロットした膜上の抗原との結合特性をパーオキシダーゼ内包抗体結合リポソームなどで検出し、検出されたスポットとコロニーとを対応させて、寒天表面上の陽性コロニーを採取する。培養時に発現誘導剤を最初から含ませているので、コロニーを移動させるなどの煩雑な工程がない利点はあるが、発現誘導剤の存在で大腸菌の生育が阻害される上、分泌抗体を膜にブロットしている間中大腸菌全体がメンブレンで覆われてしまうので、大腸菌の生育環境が好気的環境から嫌気的環境へと変化させられる点も生育の悪化を招く。大腸菌の成長阻害は、スクリーニング時間が長くなるばかりでなく、その間にプロモーターや、発現物に変異が入る確率が高まり、望みの抗体が取得できない可能性が高まるため、ライブラリーの発現スクリーニング用技術には適さないといえる。また、本法では遺伝子の回収は行われていない。
また、上記ハイブリドーマ法の一種である捕獲用の抗体試薬でコーティングしたマイクロタイタープレートを用いるアッセイ法「CellSpotTMアッセイ法」の高親和性を有するヒトFabフラグメント高発現ハイブリドーマ株を得るための改良技術が開発され、抗体ライブラリーを分泌する組換え細菌に適用することが提案されている(特許文献2)。具体的には、最上層の大腸菌コロニー形成用のプラスチック膜に明確にわかる穴を設けたプラスチック膜上の大腸菌ミクロコロニーからの分泌抗体を、寒天培地層の上に設置した捕獲抗体コート膜に結合させることで、「CellSpotTMアッセイ法」による検出工程が適用できることが示されている。しかし、ミクロコロニーまでに増殖させる工程についての説明はない。
以上のように大腸菌などを用いる簡便かつ迅速な手段で、しかも高活性の抗体を高い精度で検索できるスクリーニング技術の開発が強く求められていた。
特許第4782700号公報 特表2009−544014号公報 特開2013−233096号公報
Keefe AD.et al, Nature. 2001 Apr 5;410(6829):715-8. J.D.Marks,et al.,J.Mol.Biol.,222,581-597(1991) Martin L. Dreher, et al., J.Immunol.Methods, 139(1991) 197-205 Giovannoni et al., Nucleic Acids Research 2001,Vol.29, No.5 e27 Y.Kumada,et al.,Biochem.Engineering J.,29(2006)98-102 M.Kato and Y.Hanyu, Journal of Immunological Methods, 2013 396,15-22
本発明の課題は、偽陽性率が低いコロニーリフトアッセイの利点を生かし、リフト工程を不要とすることで、より簡便かつ迅速な操作で、抗体など、ターゲットを認識する機能的なタンパク質を再現性良くスクリーニングするための新たなコロニーアッセイを提供することにある。
本発明者らは、コロニーリフトアッセイが結合活性の高い抗体の選抜にとって十分なライブラリーサイズを有し、かつ偽陽性率も低いため、最も確実性の高い手法であると考え、その操作の煩雑さや再現性の悪さをいかに抑えるかを鋭意研究し、検討を重ねた。
具体的には、本発明者らは、コロニーリフトアッセイ法において、コロニーフィルターの移動工程が、コンタミの原因や工程の煩雑さの原因となっていると考えた。そこで、生育培地と検出用の培地とを共通とし、しかも形質転換細胞が十分に生育でき、かつ検出効率も高いアッセイ法の開発を検討した。その過程で、形質転換細胞にとって発現誘導剤の存在が生育阻害に大きな影響をもたらすことを見いだし、形質転換細胞が十分に生育するまでは発現誘導剤には接触せず、十分に生育させた後、はじめて発現誘導剤と出会って抗体の産生を始めさせる手法として、選択培地中の発現誘導剤の量を変えて層状に選択培地を形成させることを思いついた。
そして、形質転換細胞が十分に生育するまでは発現誘導剤には接触せず、十分に生育してコロニーを形成する頃に、はじめて発現誘導剤と出会って抗体の産生が始まるように、下層中の高濃度発現誘導剤が徐々に培地表面まで拡散してくるための理想的な制御条件を提供できた。
その結果、コロニーフィルターの移動が省略できたことで、コンタミ低減と全体の時間の短縮が実現できたばかりでなく、発現の良い成長過程のコロニーでのアッセイが可能になり、抗体産生能を有するすべてのクローンに対するアッセイが可能になった。そのため、より効率的に、高親和性・高選択性の抗体が樹立可能になった。
また、発明者らも予測しなかった効果として、異物の抗体を細胞に高発現させることは細胞にとって大きな負担となるが、抗体の発現時も、菌が十分に成熟した段階での発現誘導剤と接触後になることから、菌の生育への影響が抑えられるため、発現誘導剤の最終濃度を高く設定できる。このことにより、従来法より発現量を多くすることができ、結合活性が高い抗体を発現していても、その発現量の少ないクローンの取得が可能となった。また、大腸菌にとり発現の負担が減ることにより、従来法では発現の負担に耐えられずに死滅してしまうような、結合活性の高い抗体を高発現しているクローンを多数拾うことができる大きなメリットがある。
以上の知見を得たことで本発明を完成させ、「One-Step Colony Assay法」と命名した。
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 ターゲットを認識する機能的なタンパク質の発現スクリーニング方法であって、当該タンパク質遺伝子ライブラリーで形質転換した微生物を、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置された(c)の表面に播種する工程を含み、コロニー形成工程及び各コロニーから分泌されたタンパク質とターゲットとの認識反応工程を、(c)のフィルター移動工程を設けることなくワンステップで行うことを特徴とする方法;
(a)微生物用固形栄養培地中に、発現誘導剤が下層で最も高濃度で上層がゼロ濃度の濃度勾配が設けられて含有する発現誘導剤濃度勾配プレート、
(b)前記タンパク質が認識するターゲットを吸着もしくは被覆した膜、
(c)コロニー形成用フィルター。
〔2〕 ターゲットを認識する機能的なタンパク質が抗体であり、当該タンパク質が認識するターゲットが抗原またはそのエピトープとなるペプチドもしくは糖鎖であって、ターゲットとの認識反応工程が抗原抗体反応工程である前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記抗体が一本鎖抗体(scFv)又はFab抗体である前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕 形質転換微生物が形質転換大腸菌であり、フィルター上に播種する際の濃度が600nmのO.D.で0.1〜0.4の濃度である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 発現誘導剤濃度勾配プレートが、IPTGを発現誘導剤として含み、最下層のIPTG濃度が100〜1mMであり、下層から上層に向かって低濃度となる濃度勾配を有する2〜10層により構成されており、かつその最上部層がIPTGを含まない1〜3mmの層であることを特徴とする、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 タンパク質遺伝子ライブラリーが、VH遺伝子ライブラリーおよびVL遺伝子ライブラリーを、Two-step cloning法または、λエキソヌクレアーゼ法により調製されたscFvライブラリーであることを特徴とする、前記〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 さらに、ターゲットを吸着もしくは被覆した膜表面におけるタンパク質とターゲット間の結合活性を当該膜表面の標識スポットとして検出する工程、およびコロニー形成フィルター上のコロニーとを重ね合わせて、フィルター上のポジティブクローンを選択する手法、を含むことを特徴とする、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 ターゲットを認識する機能的なタンパク質の発現スクリーニング用キットであって、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置されていることを特徴とする、スクリーニング用キット;
(a)微生物用固形栄養培地中に、発現誘導剤が下層で最も高濃度で上層がゼロ濃度の濃度勾配が設けられて含有する発現誘導剤濃度勾配プレート、
(b)前記タンパク質が認識するターゲットを吸着もしくは被覆した膜、
(c)コロニー形成用フィルター。
〔9〕 抗体の発現スクリーニング用キットであって、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置されていることを特徴とする、スクリーニング用キット;
(a)微生物用固形栄養培地中に、発現誘導剤が下層で最も高濃度で上層がゼロ濃度の濃度勾配が設けられて含有する発現誘導剤濃度勾配プレート、
(b)ターゲットとなる抗原を吸着もしくは被覆した膜、
(c)コロニー形成用フィルター。
本発明の「One-Step Colony Assay」は、コロニーフィルターの移動工程を省略できたことで、コンタミが低減でき、かつ従来の半分以下の短期間で実行可能となった。
また、発現誘導剤の最終濃度を高く設定できるため、発現の良い成長過程の大腸菌(小コロニー)でアッセイが可能になり、もれなくすべてのクローンがアッセイ対象となるため、より高親和性及び/又は高選択性の抗体を高効率で選択することが可能になった。
抗体を高発現するクローンも含め、発現で死滅するクローンがなくなったので、もれなくすべての陽性クローンから遺伝子を回収可能となった。
従来のコロニーリフトアッセイでは、発現誘導剤IPTGが低濃度だと発現が低いため、高濃度が必要であり、発現誘導剤毒性により大腸菌が死滅してしまい、アッセイ後に遺伝子を回収できない事多かった。従来法では、発現物の結合活性が高くても、発現による負担(発現物の持つ毒性)に耐えられずアッセイで死滅するようなクローンは拾われてこなかった。本方法はそのようなクローンも拾えるメリットがあり、上記問題をも解決した。
その結果、結合活性が高い抗体を安定して高発現するクローンを多数選抜することが可能となった。
従来コロニーリフトアッセイ ワンステップ・コロニーアッセイ IPTG濃度勾配プレート 各プレート上のコロニー形成数及びコロニー形成率 各プレートでの陽性クローンの検出 各プレートでのコロニー陽性率 本発明により樹立したAnti-rabbit IgG scFvクローンの塩基配列 本発明により樹立したAnti-Lysozyme scFvクローンの塩基配列 樹立したクローンの反応性
1.ワンステップ・コロニーアッセイ(One-Step Colony Assay)について
(1−1)従来のコロニーリフトアッセイ(コロニーアッセイ)との相違点
コロニーリフトアッセイは、例えば、非特許文献2,3に記載のように、典型的には以下の手順で行われる。
(1)抗体(scFv)ライブラリーを形質転換した大腸菌、酵母などを用意する工程、
(2)生育用栄養培地表面に親水性フィルターを敷き、形質転換した大腸菌、酵母を高密度に載置し、十分に生育させてコロニーを生成させる工程、
なお、当初のコロニーリフトアッセイ(特許文献1)では、栄養培地表面に直接形質転換大腸菌、酵母を載置し生育させるため、ニトロセルロース膜などにコロニーを写し取る工程がさらに必要となる。また、抗原膜表面の抗原との反応は写し取った膜表面のコロニーが分泌する抗体であるため、ポジティブクローン選択時には標識スポットを反転させる必要がある。
(3)標的抗原を吸着又はコートした抗原膜(membrane)を用意する工程、
(4)コロニーを形成させた当該フィルターを外し、抗原膜の上に重ね合わせた状態で、発現誘導剤含有選択培地表面に移動させる工程、
(5)発現誘導剤含有選択培地での培養後、発現誘導剤の作用により各コロニーで発現、分泌してきた抗体を膜上の標的抗原と結合させる工程、
(6) コロニーを形成させた当該フィルターを外し、培地上で保存する工程、
(7)抗原膜上の標的抗原との結合活性を標識スポットなどとして検出する工程、
(8)抗原膜上の標識スポットとコロニーフィルター上のコロニーを重ね合わせて、ポジティブクローンを選択する手法(図1)。
一方、本発明のワンステップ・コロニーアッセイ(One-Step Colony Assay)の手順は以下の通りである。
(1)抗体(scFv)ライブラリーを形質転換した大腸菌、酵母などを用意する工程、
(2)標的抗原を吸着又はコートした抗原膜を用意する工程、
(3)発現誘導剤(IPTGなど)の濃度勾配を設けて含有する栄養培地
(4)(3)の発現誘導剤含有栄養培地表面に(2)の抗原膜を載置し、さらにその上に設けたコロニーフィルター上に(1)の形質転換した大腸菌、酵母を高密度に載置する工程、
(5)コロニーフィルター上で形成された各コロニーから発現、分泌してきた抗体を抗原膜上の標的抗原と結合させる工程、
(6)抗原膜上の標的抗原との結合活性を標識スポットなどとして検出する工程、
(7)抗原膜上の標識スポットとコロニーフィルター上のコロニーとを重ね合わせて、ポジティブクローンを選択する手法(図2)。
このように、本発明のワンステップ・コロニーアッセイ(One-Step Colony Assay)は、(図2)に示すとおりであり、従来のコロニーリフトアッセイ法(図1)とは、コロニーリフト工程(4)(5)が省略できた点が大きな相違点であり、コロニーリフト工程を省略するために、生育用の栄養培地中に含有させる発現誘導剤(IPTGなど)に適切な濃度勾配を設けた点が本発明の主要な特徴である。
したがって、標的抗原コート膜の作製法、当該抗原膜による標識スポットの検出方法など、抗体検出のアッセイ工程は、例えば非特許文献2,3及び特許文献1などに記載の従来のコロニーリフトアッセイやファージディスプレイ、ハイブリッド法などで用いられていた手法は全て転用することができる。
さらに、本発明では、後述のように、播種する際の大腸菌の最適濃度範囲を決定した点、発現誘導剤の濃度勾配の最適な制御条件の設定と共に、抗体ライブラリー調製法においてもその他の特徴を有するが、従来他のアッセイ法で用いられていたライブラリー調製方法で調製された抗体ライブラリーに対して適用してもよい。
(1−2)本発明の候補タンパク質
典型的には抗体であるため、本明細書では主として「抗体」について説明するが、抗体に限られることはなく、ターゲットに対する結合活性を有するタンパク質であれば、その結合活性を利用して「抗体」について説明する以下の方法を適用して、結合活性に優れたタンパク質を取得することができる。
ここで、本発明で「抗体」というとき、IgG、もしくは1つ以上のドメインが欠失した抗体の他に、主に大腸菌で発現可能な抗体フラグメントを指し、一本鎖抗体(scFv)、Fab、Fv、Fab’、F(ab’)2などが好ましく、特にscFvが好ましい。
また、「抗体」以外の「結合活性に優れたタンパク質」としては、DNA結合タンパク質、ペプチド、proteinAなどが含まれる。
2.濃度勾配プレートの作製
(2−1)One-step colony assayのための濃度勾配プレート
組換え大腸菌により抗体ライブラリーを効率よく分泌させるためには、IPTGなど発現誘導剤によるタンパク質の発現誘導が必須となる。しかし、発現誘導を受けた組換え大腸菌は、発現した異種タンパク質やIPTG自体の毒性によるストレスで、死滅したり、発現ベクターに変異が入ることが知られている。したがって、一般的な組換え大腸菌によるタンパク質製造法においてもクローニング工程(コロニー形成工程)と、発現工程との2段階の培養が行われており、従来のコロニーリフトアッセイではそのための異なる培地へのリフト工程を必要としていた。
一方、本発明においては、最上層の膜表面の大腸菌がコロニーを形成できるまで十分に成長して初めて高濃度の発現誘導剤(IPTG、ラムノース、ラクトース、アラビノース等)に接触できるように、発現誘導剤の濃度を変えた栄養寒天培地を重層化した濃度勾配プレートを用いる。以下、主にIPTGについて説明するが、ラムノース等他の発現誘導剤についても同様である。
本発明の濃度勾配プレートは、最上層付近のIPTG濃度がゼロで最下層付近のIPTG濃度が100〜1mMに設定され、培地全体の厚みが3mm以上あれば連続した濃度勾配を有していてもかまわないが、それぞれ均一な濃度のIPTG含有寒天培地の層が重層化されている(例えば図4)ことが、製法の簡便さ及び発現の安定性のために好ましい。なお、本発明で「濃度勾配プレート」というとき、IPTGなどの発現誘導剤濃度が最下層で最も高く、上層に行くに従って濃度が低くなるように調製された大腸菌など微生物用固形栄養培地をいう。
IPTG濃度勾配を作るための各層の寒天培地は0.5〜3mmの厚みを持たせるのが好ましく、下部から上部に向かって、IPTGを低濃度に設定する。最上部層にはIPTGを添加せず(IPTG濃度0mM)層厚は1〜3mm、好ましくは1.5〜2.5mm必要であり、最下層のIPTG濃度は100〜1mM、好ましくは100〜10mM、より好ましくは100〜50mM、特に好ましくは90〜60mM、層厚は1〜2mmに設定し、層数は2層であると検出効率がかなり低下するため3層以上とすることが好ましい。層数は多く設けてもよいが、製造の簡便性のため、10層以下が好ましい。より好ましくは3〜5層であり、寒天培地の全体の厚みは3〜10mm、好ましくは4〜6mmとする。
(2−2)IPTG濃度勾配プレートの作製法
この方法には限られないが、典型的な作製法を以下に示す。
まず、共通の大腸菌用栄養寒天培地を調製する。例えばLB、2×YT、SOB培地等に1.5%の寒天と100mMのアンピシリンを添加し、寒天培地を作製する。特に、2×YT培地が大腸菌コロニー数の増加にとって好ましい。
次いで、所定のIPTG濃度を有する各層を重層化していくが、その際、寒天培地をオートクレーブ後に45℃まで冷やし、アンピシリンとIPTGを速やかに加え、37℃で凝固させる。さらに、上層の寒天培地をオートクレーブ後に45℃まで冷やし、アンピシリンとIPTGを速やかに加え、37℃に保温された下層寒天培地の上に重層する。均一なIPTG濃度勾配プレートを作製するためにはこの保温工程が重要である。
2.ライブラリーの作製方法
以下、典型的な抗体ライブラリーとして、scFvライブラリー作製法について詳細に述べるが、本発明のライブラリーとしては、scFvライブラリーには限られない。
(2−1)scFvライブラリーの作製法
scFvライブラリーを作製するためには、抗体重鎖遺伝子由来VH遺伝子と、軽鎖遺伝子由来のVL遺伝子を調製した後に、適当なリンカーを介して連結し、発現用ベクターに組み込む。scFvライブラリーの作製に当たっては、VLおよびVH遺伝子に変異、欠失、シフトがおこらないようにベクターに組み込む事が大事である。さらに、遺伝子中に大きな多様性(抗原認識部:CDR部)を持っている部分があるので、その多様性を維持しつつ、これによって作製が阻害されないように、scFvライブラリーを作製する必要がある。そのために従来用いられていた手法としては、主として以下の2つの方法がある。
(a) Two-step cloning:VHとVLをそれぞれPCR法により増幅させ、ベクターに先ずVLを挿入して大腸菌で増やしVL libraryを作製し、次にVHをこのベクターに挿入し、scFvライブラリーを作成する方法。
(b) One-step cloning(VH-VL assembly):VHとVLをそれぞれPCR法により増幅させた後に連結し、その連結物をベクターに組み込み、scFvライブラリーを作成する方法。特に、VH及びVL遺伝子の連結法として、VHのC端側、およびVLのN端にリンカー領域を付加し、そのリンカー部分の重なり合いを利用するオーバーラップPCR反応(SOE-PCR:Splicing by overlap extension-PCR)によりVH,VLを連結する方法が広く用いられている。
通常のファージディスプレイ法や従来のコロニーアッセイ法では、scFv発現ベクターの構築の際に、簡便で迅速な(b)の方法を採用することが多い。
本発明者らは、最近(b)の「One-step cloning」の改良方法に相当するscFvライブラリー構築法(非特許文献6、特許文献3)をファージディスプレイ用に開発した。(b)の「One-step cloning」で一般的なSOE-PCRを用いずに、λエキソヌクレアーゼと、λエキソヌクレアーゼの非特異的反応を防止するために3’及び5’末端近傍がS化されたプライマーとを用いる「λエキソヌクレアーゼ法」であり、遺伝子変異が入りやすいなどの従来の「One-step cloning」の欠点が解消されている。
本発明のone-step colony assay法でのscFvライブラリーの構築においては、従来のSOE-PCRを用いる(b)の「One-step cloning」など他の抗体ライブラリー構築法も適用できるが、(1)の「Two-step cloning法」、又は本発明者らの開発した「λエキソヌクレアーゼ法」を採用することが特に好ましい。
(2−2)「Two-step cloning法」について
本発明のone-step colony assayで採用することが特に好ましい方法の1つである「Two-step cloning法」について、以下簡単に説明する。
本発明者らは、SOE-PCRを用いる「One-step cloning法」、及び本実施例に記載の「Two-step cloning法」の両者を用いてscFvライブラリーを構築し、本発明のone-step colony assayを実施した。両者での出現したコロニーを無作為に取得して、遺伝子解析を行った結果、前者では、出現するクローンがもつscFvのVH遺伝子の欠失が見られたり、VH遺伝子の一部が欠失した構造が見られた。一方、後者では、VH遺伝子の欠失は見られなかった。この理由としては、PCRのエラーにより出現した構造は、目的遺伝子の欠失や、読み枠のシフト等で、発現誘導時に発現物が得られないことで、菌へのストレスを軽減する効果を生んでしまうため、目的の構造を持った発現ベクターを含んだ大腸菌よりもコロニーが形成され易くなってしまうと考えられた。
これらの事から、one-step colony assayに給するscFvライブラリーの構築には「Two-step cloning法」がSOE-PCRを用いる「One-step cloning法」よりも格段に適していると結論した。
「Two-step cloning法」は、例えば以下の手順で行う。
<VLライブラリー作成:VLをベクターに組み込み、大腸菌を形質転換>
PCRで増幅し、精製したVLライブラリーとベクターはNheI及びNotIで各37℃2時間以上充分切断し、精製した後、VLライブラリーとベクターのLigationを行った。その後、Ligation溶液で、遺伝子を安定的に保存できる、DH5α competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、アンピシリン含有のLB agar培地に播種し、Colonyを形成させ、VLベクターライブラリーを作製した。
<scFvライブラリー作成:VHをVLライブラリーに組み込み、大腸菌を形質転換>
上記で得られたVLベクターライブラリーはプラスミドを精製した後、PCRで増幅したVHライブラリーとVLベクターライブラリーは、NcoI及びKpnIで各37℃2時間以上の充分な時間をかけて切断し、VHライブラリーとVLベクターライブラリーのLigationを行った。Ligation溶液で、BL21(DE3) competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、アンピシリン含有のLB agar培地に播種し、Colonyを形成させ、scFvライブラリー発現ベクターを作製した。
(2−3)λエキソヌクレアーゼを用いたOne-step cloning法
本発明者らが、最近開発したλエキソヌクレアーゼを用いたscFvライブラリーの構築方法(非特許文献6、特許文献3)も本発明のscFvライブラリーの構築に極めて適している。
当該構築法は、(非特許文献6、特許文献3)に記載の通りであるが、具体的には、以下の手順で行う。
(1)VH遺伝子、VL遺伝子をPCRにより増幅する際に片方のC端側及び他方のN端側のプライマーにリンカー配列を付加し、さらに5’末端にリン酸を付加する。
(2)得られた2種類のDNA断片のそれぞれのリン酸化5 ’末端をλエキソヌクレアーゼで消化し、リンカー部分を一本鎖化させて、VHとVLを連結させた後、Bst DNAポリメラーゼにより3’方向に残っている相補鎖をはがしつつ、新たな相補鎖を合成させて(鎖置換合成)、リンカーで繋がれたVHとVLの完全な二本鎖を製造する。
(3)この二本鎖をベクターに挿入し、scFvライブラリーとして使用する。
当該手法では、λエキソヌクレアーゼがS化(Phosphorothioate)DNAを消化できないという性質を利用して、非リン酸化プライマーの5’末端をS化する事により、λエキソヌクレアーゼの非特異的な(非リン酸化5’末端)への反応を防止できる。またリン酸化プライマーの3’末端に近傍をS化する事により、λエキソヌクレアーゼが消化するDNAの長さを制御できるようになり、多様性の大きいCDR領域が一本鎖化する事を避ける事ができ、バックグラウンド反応を激減させる事ができるという、優れた利点を有する。
したがって、従来のSOE-PCRを用いる「One-step cloning」における、遺伝子の欠失・挿入・置換・シフトが起こりやすい、及び均一なPCR反応が阻害されることがあるなどの欠点が解消されており、本発明のscFvライブラリーの構築にも極めて適している。
本発明者らは、実際に、当該「λエキソヌクレアーゼ法」を用いてscFvライブラリーを構築し、本発明の「one-step colony assay」を実施した。
その結果、「Two-step cloning法」で構築したscFvライブラリーを用いた場合と同様の好成績を示した。
3.コロニー形成用フィルターの作製
(3−1)形質転換宿主の種類及び形質転換方法
コロニー形成性微生物であれば、どのような細菌、酵母であっても、宿主として用いることができる。具体的には、E.Coli (大腸菌)、B.megaterium などBacillus属細菌、Brevibacillus属などの細菌類、他の細菌、又はSaccharomyces cerevisiaeの他、Pichia属、Candida属の酵母、特に大腸菌が好ましい。
宿主の形質転換方法、及び各々の宿主に適した発現ベクターは、当業者には既知である。例えば、大腸菌の場合、pET-22b、FLAG-Shift Expression Vector、コールドショックベクターを用いることができ、形質転換法としては、塩化カルシウムを用いた化学的形質転換法やエレクトロポレーション法など適宜の方法を選択できる。
(3−2)コロニー形成用フィルター
フィルターの材質は、従来のコロニーリフトアッセイと同様である。例えば、ポリビニリデンフルオライド、厚みは30〜250μm、孔径は0.22μmもしくは0.45μmが望ましい。コロニーフィルターは抗原膜の上部に隙間が無いように配置する。
(3−3)播種する大腸菌濃度
本発明のOne-step colony assayの他の特徴点として、コロニー形成用フィルター上に播種するscFv発現ベクターを含んだ大腸菌のO.D.値が低い対数増殖のごく初期の大腸菌、具体的には、600nmのO.D.が0.1〜0.4、好ましくは0.15〜0.3、より好ましくは0.2〜0.25の範囲内の大腸菌を用いる点がある。
一般に、大腸菌を寒天培地に播種する場合、対数増殖期(600nmのO.D. が0.5〜1.0程度)の状態の大腸菌が用いられる。
一方、本発明のOne-step colony assayにおいて、種々の状態のO.D.値の大腸菌を試したところ、600nmのO.D.が0.1〜0.4、とりわけ0.15〜0.3の状態が良く、特に0.2〜0.25のタイミングが最もコロニー形成率が高かった(データは示さず)。他の状態の大腸菌の場合でも本発明を適用できるが、スクリーニング効率を高めるための播種のタイミングは、600nmのO.D.が0.1〜0.4の状態であることが好ましい。
4.標的抗原との結合性の検出法
(4−1)本発明の標的抗原
本発明の標的抗原となるのは、レセプター、チャネル等の膜タンパク質やリガンドなどの生理活性タンパク質、毒素、病原性細菌などである。
本実施例ではモデル標的抗原として、Rabbit IgG及びLysozymeを用いて実験を行ったが、これら抗原に限られるものでないことは当然である。
標的抗原は、そのままで用いてもよいが、例えば既知のペプチドエピトープもしくは糖鎖エピトープを有する場合は、当該エピトープのみを用いても良い。
(4−2)標的抗原膜の作製
標的抗原膜は、ニトロセルロースまたはポリビニリデンフルオライド、孔径は0.22μmもしくは0.45μmが望ましい。
標的抗原をPBSで100ug/mLに希釈し、抗原膜のコロニーフィルターを配置する面に、希釈液が接するように置き、室温で2時間抗原をコートする。その後、PBSで3回洗浄しIPTG濃度勾配プレートに隙間が無いよう配置する。
(4−3)陽性クローンの取得法
陽性クローンの取得法は、従来のコロニーリフトアッセイ法と同様であり、例えば、コロニー形成後にコロニーフィルターと抗原膜を分離する前に、2枚の膜に目印の穴を開ける。抗原膜を検出後、抗原膜の上部に目印を合わせて重ねることで、陽性クローンの同定を行い、コロニーをピックアップする。
6.本法によるクローンの樹立
樹立したクローンの反応性の評価方法は常法に従う。
本実施例では、ピックアップした陽性クローンは、液体培地で OD600が0.6に達するまで培養し、IPTGを添加し、一晩scFvの発現誘導を行い、大腸菌を回収した。回収した大腸菌を超音波破砕し、破砕上清をELISAに用いることで、樹立したクローンから得られたscFvの反応性を評価した。その結果、従来のコロニーリフトアッセイ法、又はファージディスプレイ法と比較し、高率で陽性クローンが得られ、しかもきわめて高い活性のクローンを取得することに成功した。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
(実施例1)scFvライブラリーの調整
(1−1)ラットへの免疫
本実施例では、免疫動物種として良く用いられるラットを、各抗原に対して3匹使用した。初めに結核死菌が含まれたadjuvantと共に抗原を免疫し、次に結核死菌が含まれなadjuvantと共に抗原の免疫を行いた。2回免疫を行うことで、充分免疫反応を促した。
具体的には、Rabbit IgG又はLysozymeを各々FREUND Complete ADJUVANT(シグマ社)と混合し、Wstarラット(雌)の腹腔に抗原100μg/匹となるよう投与し、一次免疫を2週間行った。続いて、抗原とFREUND Incomplete ADJUVANT(シグマ社)を混合し、一次免疫と同様に二次免疫を行った。最後の免疫から2週間後にラットの腹腔に抗原100μgを投与しブーストした。
(1−2)リンパ組織の摘出
リンパ節は肥大の見られた、膝下リンパ節・腸管リンパ節を、他の組織や細胞を出来る限り除き、PBS中で保持し、その後、速やかにRNAlaterで保存した。
免疫が終了したラットより、リンパ節を摘出後、RNAlater(ライフテクノロジー社)で処理し、RNAを安定化した。
(1−3)VH(抗体可変領域重鎖)及びVL(抗体可変領域軽鎖)の増幅
抗体遺伝子を増幅して得るための鋳型となるcDNAを合成するために、RNA精製キットを用いてtotal RNAを精製し、ランダムヘキサマーとオリゴdTのプライマーを使用して、total RNAの全長を合成し、抗体遺伝子増幅のための鋳型とした。具体的には、RNAlaterで処理したリンパ節より、RNeasy(キアゲン社)を用いてTotal RNAを精製し、トランスクリプターファーストストランドcDNA合成キット(ロシュ社)を用いて、cDNAを合成した。
本実施例では、PCRを用いた抗体軽鎖VL、抗体重鎖VH遺伝子増幅には、PCRエラーを防ぎ、scFvの正確な構造を維持するために、正確性の高いPolymeraseであるKOD-FX polymerase(東洋紡社)を使用した。
合成したcDNAを鋳型にラットのVH(抗体可変領域重鎖)遺伝子及びVL(抗体可変領域軽鎖)遺伝子のプライマーセットを用い、KOD-FX polymerase(東洋紡社)によって、94℃ 2min, (98℃ 10sec, 58℃ 30sec 68℃ 1min)×5, (98℃ 10sec, 63℃ 30sec 68℃ 1min)×5, (98℃ 10sec, 68℃ 1.5min)×5, 68℃ 7minの条件で、PCRを行い、VH遺伝子及びVL遺伝子を増幅した。増幅した各遺伝子は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、増幅を確認した。
本実施例で用いた各遺伝子のプライマーセットは、以前に公表されているVH遺伝子及びVL遺伝子のプライマーセット(Jorg Burmester, Andreas Pluckthun., Antibody Engineering Volume 1: 19-39,Springer)の塩基配列を元に、 VHセンスプライマーにはNcoI、VHアンチセンスプライマーにはKpnI、VLセンスプライマーにはNheI、VLアンチセンスプライマーにはNotIを加えたプライマーを合成してモデルプライマーセットとして使用した。各プライマーは抗体遺伝子の多様性を確保するために、いくつかの位置で縮重している。
用いたプライマー配列は以下の通りである。
VHセンスプライマー
VH S1 ATGCCCATGGGAKTRMAGCTTCAGGAGTC (配列番号1)
VH S2 ATGCCCATGGGAGGTBCAGCTBCAGCAGTC (配列番号2)
VH S3 ATGCCCATGGCAGGTGCAGCTGAAGSARTC (配列番号3)
VH S4 ATGCCCATGGGAGGTCCARCTGCAACARTC (配列番号4)
VH S5 ATGCCCATGGCAGGTYCAGCTBCAGCARTC (配列番号5)
VH S6 ATGCCCATGGCAGGTYVARCTGCAGCARTC (配列番号6)
VH S7 ATGCCCATGGCAGGTCCACGTGAAGCARTC (配列番号7)
VH S8 ATGCCCATGGGAGGTGAASSTGGTGGARTC (配列番号8)
VH S9 ATGCCCATGGGAVGTGAWGSTGGTGGAGTC (配列番号9)
VH S10 ATGCCCATGGGAGGTGCAGSTGGTGGARTC (配列番号10)
VH S11 ATGCCCATGGGAKGTGCAMCTGGTGGARTC (配列番号11)
VH S12 ATGCCCATGGGAGGTGAAGCTGATGGARTC (配列番号12)
VH S13 ATGCCCATGGGAGGTGCARCTTGTTGARTC (配列番号13)
VH S14 ATGCCCATGGGARGTRAAGCTTCTCGARTC (配列番号14)
VH S15 ATGCCCATGGGAAGTGAARSTTGAGGARTC (配列番号15)
VH S16 ATGCCCATGGCAGGTTACTCTRAAASARTC (配列番号16)
VH S17 ATGCCCATGGCAGGTCCAACTVCAGCARCC (配列番号17)
VH S18 ATGCCCATGGGATGTGAACTTGGAASARTC (配列番号18)
VH S19 ATGCCCATGGGAGGTGAAGGTCATCGARTC (配列番号19)
VHアンチセンスプライマー
VH AS1 ATGCGGTACCCGAGGAAACGGTGACCGTGGT (配列番号20)
VH AS2 ATGCGGTACCCGAGGAGACTGTGAGAGTGGT (配列番号21)
VH AS3 ATGCGGTACCCGCAGAGACAGTGACCAGAGT (配列番号22)
VH AS4 ATGCGGTACCCGAGGAGACGGTGACTGAGGT (配列番号23)
VLセンスプライマー
VL Sκ1 ATGCGCTAGCGAYATCCAGCTGACTCAGC (配列番号24)
VL Sκ2 ATGCGCTAGCGAYATTGTTCTCWCCCAGTC (配列番号25)
VL Sκ3 ATGCGCTAGCGAYATTGTGMTMACTCAGTC (配列番号26)
VL Sκ4 ATGCGCTAGCGAYATTGTGYTRACACAGTC (配列番号27)
VL Sκ5 ATGCGCTAGCGAYATTGTRATGACMCAGTC (配列番号28)
VL Sκ6 ATGCGCTAGCGAYATTMAGATRAMCCAGTC (配列番号29)
VL Sκ7 ATGCGCTAGCGAYAYYCAGATGAYDCAGTC (配列番号30)
VL Sκ8 ATGCGCTAGCGAYATYCAGATGACACAGAC (配列番号31)
VL Sκ9 ATGCGCTAGCGAYATTGTTCTCAWCCAGTC (配列番号32)
VL Sκ10 ATGCGCTAGCGAYATTGWGCTSACCCAATC (配列番号33)
VL Sκ11 ATGCGCTAGCGAYATTSTRATGACCCARTC (配列番号34)
VL Sκ12 ATGCGCTAGCGAYRTTKTGATGACCCARAC (配列番号35)
VL Sκ13 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACBCAGKC (配列番号36)
VL Sκ14 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATAACYCAGGA (配列番号37)
VL Sκ15 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACCCAGWT (配列番号38)
VL Sκ16 ATGCGCTAGCGAYATTGTGATGACACAACC (配列番号39)
VL Sκ17 ATGCGCTAGCGAYATTTTGCTGACTCAGTC (配列番号40)
VL Sλ ATGCGCTAGCGATGCTGTTGTGACTCAGGAATC (配列番号41)
VLアンチセンスプライマー
VL ASκ1 ATGCGCGGCCGCTACGTTTKATTTCCAGCTTGG (配列番号42)
VL ASκ2 ATGCGCGGCCGCTACGTTTTATTTCCAACTTTG (配列番号43)
VL ASκ3 ATGCGCGGCCGCTACGTTTVAGCTCCAGCTTGG (配列番号44)
VL ASλ ATGCGCGGCCGCTACCTAGGACAGTCAGTTTGG (配列番号45)
(1−4)VH遺伝子ライブラリー及びVL遺伝子ライブラリーの調製
Rabbit IgG又はLysozymeで免疫したラットのリンパ節由来RNAから(1−3)で調製された合成cDNAを鋳型として前記VH遺伝子プライマーセット(配列番号1〜23)及びVL遺伝子プライマーセット(配列番号24〜45)を用いて増幅された抗Rabbit IgG抗体又は抗Lysozyme抗体のVH遺伝子ライブラリーと同VL遺伝子ライブラリーのそれぞれのプールを作製した。
(1−5)scFvライブラリー発現ベクターの構築
予め、NcoI-KpnI-Linker(GGGGSGGGGSGGGGS)-NheI-NotI-Hisタグを組込んだpET-22b(+)(ノバジェン社)を用意し、(1−4)においてPCRで増幅した抗Rabbit IgG抗体及び抗Lysozyme抗体それぞれのVL遺伝子ライブラリーをNheIとNotIで切断し、上記、pET-22b(+)に組込みVL遺伝子ベクターライブラリーを作製した。作製した各VL遺伝子ベクターでDH5α competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、アンピシリン含有のLB agar培地に播種し、Colonyを形成させた。Colonyは全て回収、混合し、プラスミド精製キット(キアゲン社)にて、VL遺伝子ベクターを精製した。
次いで、作製したVL遺伝子ベクターライブラリーと、PCRで増幅したVH遺伝子ライブラリーとをNcoIとKpnIで切断し、VL遺伝子ベクターにVH遺伝子を組込み、scFvライブラリー発現ベクターを構築した。
(実施例2)IPTG濃度勾配プレートの作製
LB 培地に1.5% agarを添加しオートクレーブで、滅菌及びagarを溶解する。オートクレーブ処理後、agarを45℃に冷やし、アンピシリンと100mM となるようIPTGを添加し、10cm シャーレにLB agar の厚さ1mmとなるよう、6.4mL注ぎ、37℃で1時間保温する。上記と同様にLB agarをオートクレーブ処理し、アンピシリンと10mM となるようIPTGを添加し、37℃で保温したシャーレに6.4mL重層し、37℃で1時間保温する。さらに上記と同様にLB agarをオートクレーブ処理し、アンピシリンのみ加えたIPTG無添加のLB agarを厚さ2mmとなるよう、16.8mL重層し、室温で1時間凝固させ、IPTG濃度勾配プレートを作成した。作製したIPTG濃度勾配プレートの模式図を(図3)に示す。
(実施例3)One-step colony assayによる陽性クローンの樹立
(3−1) プレート上のコロニー形成
実施例(1−5)で作製したscFvライブラリー発現ベクターを用いて、BL21(DE3) competent cell(日本ジーン社)を形質転換し、回復培地でOD600が0.2に達した培養液を105倍希釈した。当該希釈液を、(実施例2)で調製したIPTG濃度勾配プレート、IPTG無添加プレート、及びIPTG濃度を100mMとなるように調製したIPTG濃度固定プレート上に、免疫に用いたRabbit IgG又はLysozyme PBSで100ug/mLに希釈し、室温で2h抗原をコートした抗原フィルター、さらにその上にコロニーフィルターを重ね、当該コロニーフィルター上に播種した。その後、30℃で一晩保温し、コロニーを形成させた。フィルター上にコロニーが形成されているコロニーフィルターをLB agarプレートに移し4℃保存する。
(図4)にIPTG濃度勾配プレート及び他のプレートを用いた場合のコロニー形成数、形成率を示す。IPTG濃度固定プレートでは殆どコロニーが形成されなかったが、IPTG濃度勾配プレートではIPTG無添加プレートとほぼ同等のコロニー形成が認められた。
(3−2) 陽性クローンの検出
コロニーフィルターを除いた下層の抗原フィルターをPBSで2回洗浄し、HRP標識抗His抗体(ロシュ社)を2% skim mike/PBSで5000倍希釈し、室温で1時間反応させた。0.05% Tween-PBSで5回洗浄、PBSで3回洗浄し、HRP発光基質(メルク社)で6mLを加え、室温で発光反応を行い、発光検出器(ケミステージ, 倉敷紡績社)にて、陽性クローンを発光スポットとして検出した。(図5)に検出スポットを示す。
IPTG無添加プレートではスポットが認められず、IPTG濃度勾配プレートとIPTG濃度固定プレートの抗原フィルターで陽性クローンのスポットが認められ、特にIPTG濃度勾配プレートで陽性数が多いことが示された。また、IPTG濃度勾配プレートでは陽性率も高いことが明らかとなった。計測値は3回実験を行った平均値を示す(図6)。
(3−3) 陽性クローンの同定
(3−2)の抗原フィルターを下部に、(3−1)の陽性クローンスポット検出画像を上部に重ね合わせ、注射針でスポット部分を刺し、抗原フィルターに穴を開ける。ライトビュアー(ハクバ社)上で穴を開けた抗原フィルター上に、(3−1)で4℃保存したコロニーフィルターを重ね合わせ、シグナルを検出したスポットにより、陽性クローンを同定した。
(3−4)従来コロニーリフトアッセイとone-step colony assayの陽性率比較
実施例1で構築した、Anti-rabbit IgG scFvライブラリーを用いて、本発明のone-step colony assay、及び従来コロニーリフトアッセイ法をそれぞれ実施し、その結果のコロニー形成数、陽性数、及び陽性率を比較した(表1)。その際、各プレートにライブラリーを播種する際の前培養液の OD600を0.2と0.6で実施した。one-step colony assayは(実施例2)で作製した濃度勾配プレートを使用した。
その結果、one-step colony assayの陽性率は、従来コロニーリフトアッセイと比較して、約10倍と飛躍的に向上した。特に、 OD600が0.2の前培養液を播種した場合、コロニー形成数、陽性率共に最大値を示した。また、(表1)の従来コロニーリフトアッセイ法の陽性率を、(図6)のone-step colony assay, Rabbit IgG, 100mM IPTG濃度固定プレートの陽性率と比較した場合でも、one-step colony assayの陽性率は、およそ2倍程度向上したことになる。これらの結果から、one-step colony assayは従来法と比較して、リフト工程が省略されて手順が簡便になるだけでなく、陽性クローンの取得においても優れていることが実証された。加えて、大腸菌播種濃度を最適化することにより、さらに陽性率を1.3倍以上も上昇させることができることが実証された(表1)。
(3−5)「λエキソヌクレアーゼ法」により構築したscFvライブラリーを用いたone-step colony assayの実施
scFvライブラリーを、非特許文献6の記載に従って調製した。具体的には、以下に示すとおりである。
scFvライブラリー作製のために、VH遺伝子・VL遺伝子をPCRにより増幅する鋳型として用いたcDNAは、実施例1で示したrabbit IgGを免疫したラットリンパ節から調整したcDNA を使用した。PCRに用いた、遺伝子のプライマーセットは、(Jorg Burmester, Andreas Pluckthun., Antibody Engineering Volume 1: 19-39,Springer)に記載のVH遺伝子及びVL遺伝子のプライマーセットの塩基配列を基にして、それぞれオーバラップする配列の外側の2つの塩基をS化し、さらに、VHアンチセンスプライマーの5’末端と、VLアンチセンスプライマーの5’末端をリン酸化した。また、文献に記載されたVHセンスプライマー及びVLアンチセンスプライマーのSfiI配列をNcoI及びNotI配列に変更し、実施例1(1−3)と同数の各プライマーセットを合成した。このプライマーセットを用いて、実施例1(1−3)、(1−4)と同様の条件で、VH遺伝子・VL遺伝子をPCRにより増幅し、VH遺伝子ライブラリー及びVL遺伝子ライブラリーを調整した。
VH遺伝子ライブラリー及びVL遺伝子ライブラリーはそれぞれ、1μgを1μLのλエキソヌクレアーゼで37℃、30分間消化 し、75℃、10分処理した。λエキソヌクレアーゼ処理したVH遺伝子ライブラリー及びVL遺伝子ライブラリーを混合し、室温で20分間静置後、2μLのBst DNAポリメラーゼを加え、65℃で30分処理し、VH遺伝子ライブラリーとVL遺伝子ライブラリーを連結した。Bst DNAポリメラーゼにより連結して作製したscFvライブラリーは、1%アガロースゲルにて電気泳動し、scFvのバンドを精製した。scFvはNcoIとNotIで消化し、同じくNcoIとNotIで消化したpET-22b(+)とligationを行い、scFvライブラリー発現ベクターを構築した。この、λエキソヌクレアーゼを使用した抗体ライブラリー構築法を用いて構築した、scFvライブラリー発現ベクターは、実施例3(3−1)、(3−2)と同様の操作で、one-step colony assayを実施した。その結果、Two-step cloning法を用いた方法で構築した抗体ライブラリーで実施したone-step colony assay(図6)のRabbit IgGの場合(3.4%)と同程度の陽性率(3.2%)が得られ、無作為にピックアップしたクローンの配列を解析した結果も、設計したscFvの構造を形成していた。
このことから、エキソヌクレアーゼを使用した抗体ライブラリー構築法も、Two-step cloning法と同様に、本発明のone-step colony assayに供する抗体ライブラリー構築法として適していることが実証された
(実施例4) 樹立クローンの解析
(4−1) 樹立クローンの遺伝子配列決定
実施例3(3−3)で同定したAnti-rabbit IgG scFv及びAnti-Lysozyme scFv陽性クローンは、個別にアンピシリン含有のLB培地により培養し、DNA Mini prep kit(キアゲン社)によって、クローン中のプラスミドDNAを精製する。精製したプラスミドDNAの遺伝子配列をシークエンスにより遺伝子配列を解析し、scFvの構造を確認する。その結果、全てのクローンで設計通りの構造が確認された。(図7)には各クローンのうち最も活性の高かったクローンNo.1の配列を示す。(図7−1)は、Anti-rabbit IgG scFv配列(配列番号46)であり、(図7−2)は、Anti-Lysozyme scFv配列(配列番号47)である。Anti-rabbit IgG scFv配列中のVH遺伝子は配列番号48で示され、VL遺伝子は配列番号49で示される。Anti-Lysozyme scFv配列中のVH遺伝子は配列番号50で示され、VL遺伝子は配列番号51で示される。
(4−2)ファージディスプレイにより樹立されたscFvとの活性比較
本発明によって得られたscFvと、scFv取得の代表的な方法である、ファージディスプレイ法によって得られたscFvを比較するために、抗原にRabbit IgGを用いて、ファージディスプレイ法により、scFvを樹立する。Rabbit IgGは実施例1−1と同様に免疫を行い、リンパ節を摘出後、実施例1−2、1−3,1−4と同様にVH 及びVL遺伝子を増幅した。増幅したVH 及びVL遺伝子はGEヘルスケア社のscFvファージディスプレイキットのプロトコールに従い、pCANTAB5Eベクターに挿入し、scFvベクターライブラリーを構築した。scFvベクターライブラリーを大腸菌TG1にエレクトロポレーションを用いて遺伝子導入し、SOBAG プレートに播種した結果、約106のコロニーを得た。コロニーを全て回収し、SOBAG液体培地で OD600が0.5になるまで培養後、M13KO7 ヘルパーファージを添加し、TG1に感染させ、さらに26℃で一晩培養し、scFvをディスプレイしたファージを増殖した。scFvをディスプレイしたファージを精製し、抗原のRabbit IgGをコートしたプレートに注ぎ入れ、scFvと抗原を反応せ、結合しなかったscFvをディスプレイしたファージを除去するパニングを行い、抗原に特異的なscFvをディスプレイしたファージのみを溶出し、回収した。回収したファージを再びTG1に感染させ、増殖後、パニングで選抜する工程を3回繰り返し、3回目に回収したファージを大腸菌HB2151に感染させ、SOBAG プレートに播種し、コロニーを形成させ、陽性クローンを樹立した。得られたコロニーは96クローンを、SOBAG液体培地を分注した96ウェルプレートで OD600が0.5になるまで培養し、0.5mM IPTGを添加し、さらに26℃で一晩培養後、培養上清を回収し、Rabbit IgGをコートしたプレートを用いてELISAにより、親和性を評価した。その結果、最も強い活性を示したscFvをファージディスプレイ法による、Anti-rabbit IgG scFvクローンNo.1として、(4−3)の、本発明によって得られたscFvとの活性比較に用いた。
(4−3) 樹立クローンのELISAによる活性測定
本実施例では、本発明の「One-step colony assay」法(実施例3)で得られたscFvの活性をELISAを用いて確認した。また、本発明は従来のコロニーアッセイの発展的手法であることから、取得したscFvの活性は従来法、本発明ともに同程度の可能性が考えられたため、ELISAの比較としてscFvのscFvの代表的な取得法であるファージディスプレイ法で得られたscFvの活性とを比較する。Anti-rabbit IgG scFv クローンNo.1及び、−Anti-rabbit IgG scFvクローンNo.1を使用した。各クローンはアンピシリン含有の10mL LB培地、37℃で OD600が0.6に達するまで培養し、0.5mM IPTGを添加し、26℃一晩発現誘導する。培養後、大腸菌を遠心により集菌し、菌塊に0.5 mL プロテアーゼインヒビター(ロシュ社)/PBSを加え、懸濁し、大腸菌を超音波破砕する。破砕溶液を20000g 30分間遠心し、上清を回収する。
抗原に用いたRabbit IgGを10μg/mLとなるようコーティングバッファー(Na2CO3、 NaHCO3、 pH9.6)で調整し、96ウェルマイクロタイタープレートに50μL/ウェルで分注後、4℃で一晩コーティングする。コーティング溶液を廃棄し、0.05% Tween/PBSで1回洗浄し、Blocking reagent(ロシュダイアグノスティック社)を250μL/ウェルで分注し、室温で2時間ブロッキングする。ブロッキング溶液を廃棄、0.05% Tween-PBSで1回洗浄し、超音波破砕した上清はPBSを用いて、2倍希釈で希釈系列を作製し、50μL/ウェルで分注後、室温で2時間、反応を行う。反応溶液を廃棄し、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、HRP標識高His抗体を1%BSA/PBSで5000倍希釈し、50μL/ウェルで分注後、室温で1時間、抗体反応を行う。抗体反応溶液を廃棄し、0.05% Tween-PBSで5回洗浄し、HRP発色基質(SIGMAFAST OPD tablets、シグマ社)を100μL/ウェルで分注し、室温で発色させ、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社)を使用し、波長450nm吸光度を測定した。結果を(図8)に示す。計測値は3回実験を行った平均値を示す。
本発明の「One-step colony assay」法及び、ファージディスプレイ法それぞれで得られた陽性クローンが産生するAnti-rabbit IgG scFv は共に結合活性を示した。さらに、One-step colony assayで得られたクローンが発現するscFvは、ファージディスプレイ法で得られたクローンが発現するscFvと比較して、約20倍程度高い活性を示した。
比較に用いたファージディスプレイ法でのscFvは106のライブラリーから選抜されたものであり、本発明の「One-step colony assay」法でのscFvは103のライブラリーから得られたものである。それにもかかわらず、ファージディスプレイ法と比較して「One-step colony assay」法でのscFvの活性が約20倍も高かったことは驚くべきことであり、「One-step colony assay」法が、活性の高いscFvを得易い方法であることを示す。
さらに、ファージディスプレイ法では、パニングの工程で非特異結合によりファージが選抜された場合、疑陽性としてクローンを増幅してしまう。「One-step colony assay」法はパニング工程を含まないため、疑陽性を取得することが無い。
この結果から、One-step colony assayにより多様性を確保した陽性クローンを多数得ることが可能であり、得られたクローンの発現するscFvが、従来法に比べて高い活性を保持することが実証された。

Claims (9)

  1. ターゲットを認識する機能的なタンパク質の発現スクリーニング方法であって、当該タンパク質遺伝子ライブラリーで形質転換した微生物を、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置された(c)の表面に播種する工程を含み、コロニー形成工程及び各コロニーから分泌されたタンパク質とターゲットとの認識反応工程を、(c)のフィルター移動工程を設けることなくワンステップで行うことを特徴とする方法;
    (a)微生物用固形栄養培地中に含まれる発現誘導剤濃度、少なくとも3層の下層から上層に向かって低濃度となる濃度勾配を有し、最下層が100〜1mMであり、最上部層が層厚1〜3mmを有し0mMである、発現誘導剤濃度勾配プレート、
    (b)前記タンパク質が認識するターゲットを吸着もしくは被覆した膜、
    (c)コロニー形成用フィルター。
  2. ターゲットを認識する機能的なタンパク質が抗体であり、当該タンパク質が認識するターゲットが抗原またはそのエピトープとなるペプチドもしくは糖鎖であって、ターゲットとの認識反応工程が抗原抗体反応工程である請求項1に記載の方法。
  3. 前記抗体が一本鎖抗体(scFv)又はFab抗体である請求項2に記載の方法。
  4. 形質転換微生物が形質転換大腸菌であり、フィルター上に播種する際の濃度が600nmのO.D.で0.1〜0.4の濃度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 発現誘導剤濃度勾配プレートが、IPTGを発現誘導剤として含み、最下層のIPTG濃度が100〜1mMであり、下層から上層に向かって低濃度となる濃度勾配を有する3〜10層により構成されており、かつその最上部層がIPTGを含まない1〜3mmの層であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. タンパク質遺伝子ライブラリーが、VH遺伝子ライブラリーおよびVL遺伝子ライブラリーを、Two-step cloning法または、λエキソヌクレアーゼ法により調製されたscFvライブラリーであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. さらに、ターゲットを吸着もしくは被覆した膜表面におけるタンパク質とターゲット間の結合活性を当該膜表面の標識スポットとして検出する工程、およびコロニー形成フィルター上のコロニーとを重ね合わせて、フィルター上のポジティブクローンを選択する手法、を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. ターゲットを認識する機能的なタンパク質の発現スクリーニング用キットであって、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置されていることを特徴とする、スクリーニング用キット;
    (a)微生物用固形栄養培地中に含まれる発現誘導剤濃度、少なくとも3層の下層から上層に向かって低濃度となる濃度勾配を有し、最下層が100〜1mMであり、最上部層が層厚1〜3mmを有し0mMである、発現誘導剤濃度勾配プレート、
    (b)前記タンパク質が認識するターゲットを吸着もしくは被覆した膜、
    (c)コロニー形成用フィルター。
  9. 抗体の発現スクリーニング用キットであって、下記(a)(b)(c)の順序で順次上方に載置されていることを特徴とする、スクリーニング用キット;
    (a)微生物用固形栄養培地中に含まれる発現誘導剤濃度、少なくとも3層の下層から上層に向かって低濃度となる濃度勾配を有し、最下層が100〜1mMであり、最上部層が層厚1〜3mmを有し0mMである、発現誘導剤濃度勾配プレート、
    (b)ターゲットとなる抗原を吸着もしくは被覆した膜、
    (c)コロニー形成用フィルター。
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