JP6651130B2 - 耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 Download PDF

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本発明は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続重切削条件で行った場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示す表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、Al層で示す)、
前記(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られている。
しかし、前述した従来の被覆工具は、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削ではすぐれた耐摩耗性を発揮するが、これを、高速断続切削に用いた場合には、硬質被覆層の剥離やチッピングが発生しやすく、工具寿命が短命になるという問題点があった。
そこで、硬質被覆層の剥離、チッピングを抑制するために、上部層に改良を加えた各種の被覆工具が提案されている。
例えば、特許文献1には、工具基体の表面に、周期律表の4a、5a、6a属金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の一種以上からなる非酸化膜を形成し、この上にα−Alを主とする酸化膜が形成したアルミナ被覆工具において、前記非酸化膜と前記酸化膜との間に周期律表の4a、5a、6a属金属の酸化物、酸炭化物、酸窒化物および酸炭窒化物の酸化物系の単層皮膜または多層皮膜からなるfcc構造を持つ結合層を形成し、かつ、非酸化膜と結合相がエピタキシャル関係にあるようにしたアルミナ被覆工具とすることによって、工具基体とアルミナ被膜との密着強度を高め、耐欠損性、耐剥離性、耐摩耗性を向上させる被覆工具が提案されている。
また、例えば、特許文献2には、工具基体の表面に、1種以上の金属元素を含む窒化物,炭化物,炭窒化物からなり、これらの中から選ばれた化学組成の異なる2層以上が積層された硬質皮膜を有する切削工具において、表面側最外層の組成が(VTi1−u)(N1−v)、但し0.25≦u≦0.75,0.6≦v≦1であり、また、表面から第2番目の層の組成が、(AlTi1−x)(N1−y)、但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1であって、各層の厚さが0.4μm以上で、皮膜全体の厚さが0.8〜50μmであると共に、いずれの層も実質的に岩塩型結晶構造からなり、かつ、各層の結晶組織が界面で実質的にエピタキシャル成長していることによって、硬質皮膜の耐摩耗性及び密着性を向上させることが提案されている。
特開平10−18039号公報 特開2001−181826号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化すると共に、高切り込み、高送り等の断続重切削等で切刃には、衝撃的・断続的な高負荷が作用する傾向にあるが、前述の従来の被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを高速断続切削条件で用いた場合には、硬質被覆層の耐摩耗性が十分ではないため、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、工具基体表面上に形成した下部層を構成するTi化合物の結晶粒とその上に形成した上部層を構成するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、場合により、TiAlCNと略記する)の結晶粒との間のエピタキシャル関係を制御することに、硬質被覆層全体としての耐チッピング性、耐摩耗性向上を図るべく鋭意研究を重ねた。
その結果、
(1)下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有し、かつ、NaCl型面心立方晶(以下、単に「立方晶」という場合もある。)の結晶構造を有するTi化合物層(好ましくは、Tiの炭窒化物(以下、「TiCN」と記す場合もある。)層)の結晶粒と、上部層を構成するTiAlCN層の結晶粒について、それぞれの結晶粒の{110}の法線が、基体表面の法線方向となす傾斜角の度数分布を測定した場合、前記法線方向に対して0〜10度の傾斜角区分に度数のピークが存在するとともに、該区分の傾斜角度数分布割合が、度数全体の30%以上であり、
(2)下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有し、かつ、立方晶構造を有するTi化合物層(好ましくは、Tiの炭窒化物(TiCN)層)の結晶粒のうち、基体表面の法線方向と{110}の法線がなす傾斜角が0〜10度である結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する上部層の領域において、{110}の法線方向が基体表面の法線方向となす傾斜角が0〜10度であるTiAlCN結晶粒が存在し、かつ、この結晶粒が基体表面の法線方向と{110}の法線がなす傾斜角が0〜10度であるTiAlCN結晶粒の50%以上であることにより、下部層と上部層のエピタキシャル成長した結晶粒の形成割合を高め、しかも、基体表面の法線方向と{110}の法線がなす傾斜角が0〜10度である結晶粒の形成割合を高めることによって、耐摩耗性を維持しつつ耐チッピング性および下部層と上部層との付着強度が向上し、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削条件においても、硬質被覆層はすぐれた密着強度を有するとともに、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層とからなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
(a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなる1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層であって、かつ、その内の1層は、1μm以上で且つ合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層であり、
(b)前記上部層は、1〜20μmの平均層厚を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層であり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を、
組成式:(Ti1−xAl)(C1−y
で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XaveおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yave(但し、Xave、Yaveはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xave≦0.95、0≦Yave≦0.005を満足し、
(d)前記下部層のうち、合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の結晶粒はNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、また、前記上部層のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒は、NaCl型面心立方晶構造単相またはNaCl型面心立方晶構造と六方晶構造の混相からなる結晶構造を有し、
(e)下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の結晶粒および上部層の前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の個々の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層および上部層の前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層のいずれにおいても、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の30%以上の割合を示し、
(f)下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層において、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層と上部層との界面を介して、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が隣接して存在し、かつ、該結晶粒は、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒全体の面積の50%以上の面積割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層は、Tiの炭窒化物層であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる上部層の表面に、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を少なくとも含む最表面層がさらに被覆形成されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
以下に、本発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について詳細に説明する。
図1に、本発明の硬質被覆層の層構造の概略模式図を示すが、図1においては、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層としては、立方晶構造のTiCN層を形成し、その上に、TiAlCN層からなる上部層を形成している。
図1からもわかるように、上部層と下部層の界面には、結晶粒が恰も界面を貫いて成長しているような結晶組織形態が観察される。
本発明でいう「下部層の結晶粒と上部層の結晶粒が{110}面の法線方向にエピタキシャル成長している」とは、このような結晶組織形態をいう。
下部層(Ti化合物層):
Ti化合物層(例えば、Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化物(TiCNO)層)は、基本的にはTiAlCN層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか工具基体および上部層のTiAlCN層のいずれにも密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性を維持する作用を有する。しかしながら、その合計平均層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削加工では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を1〜20μmと定めた。
さらに、下部層の{110}配向を引き継いで上部層をエピタキシャル成長させ、硬質被覆層の付着強度を向上させるために、前記下部層は、少なくとも立方晶構造を有し、平均層厚が1μm以上であって、かつ、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層(例えば、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層があげられる)の結晶粒が、{110}配向を備えることが必要である。なお、{110}配向を備えるTi化合物層の平均層厚が1μm未満であるとき、または、下部層の合計平均層厚の50%未満であると、下部層の{110}配向性を引き継いだ上部層のエピタキシャル成長が不十分となり、上部層の耐チッピング性とともに付着強度の向上が図れない。
下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層としては、TiCN結晶粒からなるTiCN層を形成することが好ましい。
例えば、{110}配向性を有する下部層のTiCN層は、通常の化学蒸着装置を使用して、例えば、
反応ガス組成(容量%):TiCl 1.5〜2.0%、N 5〜10%、CO 0〜2%、CHCN 1.4〜1.6%、残部H
反応雰囲気温度:800〜850℃、
反応雰囲気圧力:5〜10kPa、
の条件で目標平均層厚になるまで化学蒸着することによって形成することができる。
上部層(立方晶構造単相または立方晶構造と六方晶構造の混相の結晶構造を有するTiAlCN層):
本発明の硬質被覆層の上部層は、化学蒸着された1〜20μmの平均層厚を有する立方晶構造単相または立方晶構造と六方晶構造の混相の結晶構造を有するTiAlCN層からなる。
本発明の上部層を構成するTiAlCN層は、{110}配向性を有するため、耐摩耗性を担持しつつすぐれた耐チッピング性を発揮するが、その平均層厚が1μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、結晶粒が粗大化し、チッピングを発生しやすくなる。
したがって、上部層を構成するTiAlCN層の平均層厚は1〜20μmと定めた。
なお、上部層は、立方晶構造単層ばかりでなく、立方晶構造と六方晶構造の混相からなるTiAlCN層であってよい。
本発明の上部層を構成するTiAlCN層を、組成式:(Ti1−xAl)(N1−y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XaveおよびCのCとNの合量に占める含有割合Yave(但し、Xave、Yaveはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xave≦0.95、0≦Yave≦0.005を満足する。
ここで、Alの平均含有割合Xave (原子比)が0.60未満であると、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は硬さに劣るため、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。一方、Alの平均含有割合Xaveが0.95を超えると、相対的にTiの含有割合が減少するため、脆化を招き、耐チッピング性が低下する。
したがって、Alの平均含有割合Xave (原子比)は、0.60≦Xave≦0.95とする。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるC成分の平均含有割合(原子比)Yaveは、0≦Yave≦0.005の範囲の微量であるとき、上部層と下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として複合窒化物または複合炭窒化物層の耐欠損性および耐チッピング性が向上する。一方、C成分の含有割合Yaveが0≦Yave≦0.005の範囲を逸脱すると、複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下するため耐欠損性および耐チッピング性が逆に低下する。
したがって、C成分の含有割合Yave (原子比)は、0≦Yave≦0.005とする。
下部層と上部層の結晶粒の{110}面についての傾斜角度数分布:
本発明の下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層、さらに、上部層の立方晶構造を有するTiAlCN層の個々の結晶粒の結晶方位について、電子線後方散乱回折装置を用いて、その縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線(断面研磨面における工具基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、その傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の30%以上の割合となる傾斜角度数分布形態を示すことが必要である。
ここで、下部層あるいは上部層のいずれかでも、{110}面についての傾斜角度数分布が前記の範囲を外れると、硬質被覆層全体としての{110}面配向性が低下し、耐チッピング性が低下する。
さらに、下部層および上部層それぞれの{110}面配向性に加えて、下部層と上部層のエピタキシャル成長を促すためには、前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層において、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層と上部層との界面を介して、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiAlCN層の結晶粒が隣接して存在し、かつ、該TiAlCNの結晶粒は、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiAlCN層の結晶粒全体の面積の50%以上の面積割合を占めることが必要である。
つまり、下部層と上部層との間でエピタキシャル成長しているTiAlCN結晶粒の面積割合が、立方晶構造を有するTiAlCN層の結晶粒全体の50%未満である場合には、エピタキシャル成長が十分でないため、下部層と上部層との密着強度向上が図られず、高速断続切削等において剥離等の異常損傷を発生しやすくなるからである。
本発明で定めた下部層の{110}面配向、上部層の{110}面配向とともに、さらに、下部層と上部層間での{110}面配向を有する結晶粒のエピタキシャル成長を促進させることによって、下部層と上部層の密着強度が向上するとともに、硬質被覆層全体としての硬さが向上する。
その結果、このような被覆工具は、例えば、合金鋼の高速断続切削等に供した場合であっても、チッピング、剥離等の発生が抑えられ、しかも、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
図2、図3に、本発明の下部層と上部層について求めた傾斜角度数分布の一例を示すが、図2は、本発明の下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有する立方晶構造のTiCN結晶粒について求めたグラフであり、図3は、上部層の立方晶構造のTiAlCN結晶粒について求めたグラフである。
最表面層:
本発明は、1〜20μmの平均層厚を有する立方晶単相あるいは立方晶と六方晶の混相の結晶構造を有するTiAlCN層からなる上部層の表面に、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を少なくとも含む最表面層をさらに被覆形成することができる。
最表面層の酸化アルミニウム層は、硬質被覆層の高温硬さと耐熱性を高めるが、最表面層の平均層厚が1μm未満では前記特性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方、その平均層厚が25μmを越えると、切削時に発生する高熱と切刃に作用する断続的かつ衝撃的高負荷によって、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになるため、その平均層厚は1〜25μmとすることが望ましい。
成膜方法:
本発明の下部層及び最表面層は通常の化学蒸着方法、装置によって形成することができる。
例えば、平均層厚が1μm以上、かつ、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層として、TiC層、TiN層、TiCN層等を形成する場合には、通常の化学蒸着装置を使用して、
反応ガス組成(容量%):TiCl 1.5〜2.0%、N 5〜10%、CO 0〜2%、CHCN 1.4〜1.6%、残部H
反応雰囲気温度:800〜850℃、
反応雰囲気圧力:5〜10kPa、
の条件で目標平均層厚になるまで化学蒸着することによって、{110}面配向性を有するTiC層、TiN層、TiCN層等を成膜することができる。
また、上部層についても、通常の化学蒸着方法によって形成することもできるが、例えば、次のような蒸着法によって成膜することもできる。
即ち、工具基体を装着した化学蒸着反応装置へ、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、AlCl、NH、N、C、Hからなるガス群Bを、おのおの別々のガス供給管から反応装置内へ供給し、工具基体表面における反応ガス組成をガス群Aとガス群Bの供給条件を調節して制御し、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚、目標組成のTiAlCN層を成膜することができる。
本発明の被覆工具は、平均層厚が1μm以上であって、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有し、かつ、立方晶構造を有するTi化合物層の結晶粒の{110}面の法線と基体表面の法線方向とのなす傾斜角が0〜10度の範囲である傾斜角度数分布が30%以上であり、また、上部層の立方晶構造を有するTiAlCN結晶粒についても、その{110}面の法線と基体表面の法線方向とのなす傾斜角が0〜10度の範囲である傾斜角度数分布が30%以上であり、さらに、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有し、かつ、立方晶構造を有するTi化合物層の結晶粒の{110}面とエピタキシャル成長する上部層のTiAlCN結晶粒の面積割合が、基体表面の法線方向となす傾斜角が0〜10度であるTiAlCN結晶粒全体の50%以上であることにより、下部層と上部層の付着強度が向上し、その結果、耐摩耗性を担持しつつ、耐チッピング性および付着強度が高いため、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削条件においても、硬質被覆層はすぐれた耐チッピング性を示すとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
本発明の硬質被覆層の層構造の概略模式図を示す。 本発明の下部層と上部層について求めた傾斜角度数分布のうち、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有する立方晶構造のTiCN結晶粒について求めたグラフの一例を示す。 本発明の下部層と上部層について求めた傾斜角度数分布のうち、上部層の立方晶構造のTiAlCN結晶粒について求めたグラフの一例を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Dを作製した。
つぎに、これらの工具基体A〜Dの表面に、化学蒸着装置を用い、
まず、表3に示される形成条件で、表6に示される下部層を形成し、
次いで、表5、表6に示される形成条件A〜J、すなわち、NHとHからなるガス群Aと、TiCl、AlCl、NH、N、C、Hからなるガス群B、および、おのおのガスの供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH:1.5〜3.0%、H:50〜75%、ガス群BとしてTiCl:0.1〜0.15%、AlCl:0.3〜0.5%、N:0〜2%、C:0〜0.05%、H:残、反応雰囲気圧力:2〜5kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期1〜5秒、1周期当たりのガス供給時間0.15〜0.25秒、ガス供給Aとガス供給Bの位相差0.10〜0.20秒として、所定時間、熱CVD法を行って上部層を形成することにより、本発明被覆工具1〜10を作製した。
なお、本発明被覆工具 8〜10 については、表3に示される形成条件で、表7に示される最表面層を形成した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される形成条件で、表8に示される下部層を形成し、表5、表6に示される条件かつ表8に示される目標層厚(μm)で本発明被覆工具1〜10と同様に、少なくともTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を含む硬質被覆層を蒸着形成した。
なお、比較被覆工具8〜10については、本発明被覆工具8〜10と同様に、表4に示される形成条件で、表8に示される上部層を形成した。
本発明被覆工具1〜10、比較被覆工具1〜10の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表7および表8に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、上部層のTiAlCN層のAlの平均含有割合Xaveについては、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均含有割合Xaveを求めた。
また、Cの平均含有割合Yaveについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合YaveはTiAlCN層についての深さ方向の平均値を示す。ただしCの含有割合には、意図的にガス原料としてCを含むガスを用いなくても含まれる不可避的なCの含有割合を除外している。具体的にはCの供給量を0とした場合のTiAlCN層に含まれるC成分の含有割合(原子比)を不可避的なCの含有割合として求め、Cを意図的に供給した場合に得られるTiAlCN層に含まれるC成分の含有割合(原子比)から前記不可避的なCの含有割合を差し引いた値をYaveとして求めた。
また、硬質被覆層の傾斜角度数分布については、まず、下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、70度の入射角度で10kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、工具基体表面と垂直方向に関しては1μmの測定範囲、また、工具基体表面と水平方向には50μmの範囲に亘り0.1μm/stepの間隔で、測定範囲内に存在する立方晶結晶構造を有する結晶粒個々に照射し、電子線後方散乱回折像装置を用いて、工具基体表面の法線(断面研磨面における工具基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、最高ピークが存在する傾斜角区分を求めるとともに、0〜10度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。
表7および表8に、その結果を示す。
次に、硬質被覆層の上部層の傾斜角度数分布についても、上部層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、70度の入射角度で10kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、工具基体表面と垂直方向に関しては0.5μmの測定範囲、また、工具基体表面と水平方向には100μmの範囲に亘り0.1μm/stepの間隔で、測定範囲内に存在する立方晶結晶構造を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、工具基体表面の法線(断面研磨面における工具基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、最高ピークが存在する傾斜角区分を求めるとともに、0〜10度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。
表7および表8に、その結果を示す。
また、硬質被覆層の下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の結晶粒と上部層のTiAlCN結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析し、工具基体表面の法線に対する個々の結晶粒の{110}面の法線がなす傾斜角を測定するとともに、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層における該結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層と上部層との界面を介して、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が隣接して存在し、かつ、該結晶粒は、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒全体の面積の50%以上の面積割合を占めることに該当するか否かを判定する。
すなわち、本発明被覆工具1〜10、比較被覆工具1〜10について、上部層と下部層の界面からの下部層の厚さ方向へ下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層1.0μmを含む範囲、また、上部層の厚さ方向へ1.0μm、さらに、工具基体表面と平行方向に50μmの断面研磨面の測定範囲(2.0μm以上×50μm)を、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、2.0以上×50μmの測定領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層における該結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層と上部層との界面を介して、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が隣接して存在することで本発明に規定するエピタキシャル関係を確認し、かつ、該結晶粒は、該測定領域である2.0以上×50μmの領域における基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒全体の面積の50%以上の面積割合を占めるか否かを求め、本発明に規定するかを判定する。
また前記電子後方散乱解析装置による測定で、下部層が立方晶である事を確認し、上部層のTiAlCNが立方晶又は立方晶と六方晶の混合である事を確認した。
表7、表8にこれらの値を示す。






つぎに、前記各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜10と比較被覆工具1〜10について、以下に示す、合金鋼の高速断続切削の一種である乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。その結果を表9に示す。
工具基体:炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材:JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度:994 min−1
切削速度:390 m/min、
切り込み:1.0 mm、
一刃送り量:0.1 mm/刃、
切削時間:8分、

原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表10に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体E〜Gをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表11に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.09mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Hを形成した。
つぎに、これらの工具基体E〜Gおよび工具基体Hの表面に、化学蒸着装置を用い、実施例1と同様の方法により表3、表5及び表6に示される条件で、少なくとも(Ti1−xAl)(C1−y)層を含む硬質被覆層を目標層厚で蒸着形成することにより、表12に示される本発明被覆工具11〜20を製造した。
なお、本発明被覆工具18〜20については、表3に示される形成条件で、表12に示すような上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体E〜Gおよび工具基体Hの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4、表5及び表6に示される条件かつ表13に示される目標層厚で本発明被覆工具と同様に硬質被覆層を蒸着形成することにより、表13に示される比較被覆工具11〜20を製造した。
なお、本発明被覆工具18〜20と同様に、比較被覆工具18〜20については、表4に示される形成条件で、表13に示される上部層を形成した。
本発明被覆工具11〜20および比較被覆工具11〜20の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表12および表13に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
上部層のTiAlCN層のAlの平均含有割合Xave、Cの平均含有割合Yaveを、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、実施例1と同様にして求めた。
また、硬質被覆層の下部層および上部層の立方晶結晶構造を有する結晶粒の{110}面の法線が、工具基体表面の法線対してなす傾斜角および傾斜角度数分布については、実施例1と同様にして求めた。
さらに、界面を介して相互に隣接する下部層の結晶粒の{110}面の法線方向に対してエピタキシャル成長をなす上部層のTiAlCN結晶粒の面積割合については、実施例1と同様にして求めた。
表12、表13にこれらの値を示す。


つぎに、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具11〜20および比較被覆工具11〜20について、以下に示す、炭素鋼の乾式高速断続切削試験、鋳鉄の湿式高速断続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削条件1:
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:390 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.15 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、 220m/min)、
切削条件2:
被削材:JIS・FCD700の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:325 m/min、
切り込み:1. mm、
送り:0.2 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、 200m/min)、
表14に、切削試験の結果を示す。

原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、TiC粉末、Al粉末、Al粉末を用意し、これら原料粉末を表15に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:4GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置にて所定の寸法に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびJIS規格CNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×内接円直径:12.7mmの80°菱形)をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Zr:37.5%、Cu:25%、Ti:残りからなる組成を有するTi−Zr−Cu合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.13mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120412のインサート形状をもった工具基体イ、ロをそれぞれ製造した。

つぎに、これらの工具基体イ、ロの表面に、化学蒸着装置を用い、実施例1と同様に、表3に示される形成条件で、表16に示される下部層を形成し、表5、表6に示される条件で、所定時間、熱CVD法を行って上部層を形成することにより、本発明被覆工具21〜26を作製した。
なお、本発明被覆工具25〜26については、表3に示される形成条件で、表16に示される上部層を形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体イ、ロの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される形成条件で、表17に示される下部層を形成し、表5、表6に示される条件で、所定時間、熱CVD法を行って上部層を形成することにより、比較被覆工具21〜26を作製した。
なお、比較被覆工具25〜26については、表4に示される形成条件で、表17に示される上部層を形成した。
また、本発明被覆工具21〜26、比較被覆工具21〜26の断面を、走査電子顕微鏡を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めた。
上部層のTiAlCN層のAlの平均含有割合Xave、Cの平均含有割合Yaveを、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、実施例1と同様にして求めた。
また、硬質被覆層の下部層および上部層の立方晶結晶構造を有する結晶粒の{110}面の法線が、工具基体表面の法線対してなす傾斜角および傾斜角度数分布については、実施例1と同様にして求めた。
さらに、界面を介して相互に隣接する下部層の結晶粒の{110}面の法線方向に対してエピタキシャル成長をなす上部層のTiAlCN結晶粒の面積割合については、実施例1と同様にして求めた。
表16、表17にこれらの値を示す。
つぎに、前記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具21〜26、比較被覆工具21〜26について、以下に示す、浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 255 m/min、
切り込み: 0.12 mm、
送り: 0.12 mm/rev、
切削時間: 4分、
表18に、前記切削試験の結果を示す。

表7〜9、12〜14、16〜18に示される結果から、本発明被覆工具1〜26は、界面を介して隣接する下部層の{110}配向を示す結晶粒と上部層の{110}配向を示すTiAlCN結晶粒がエピタキシャル成長をすることで、界面での付着密度が向上すると同時に、硬質被覆層が耐摩耗性を担持しつつ耐チッピング性が向上するため、高熱発生を伴い、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削条件に用いた場合でも、硬質被覆層の耐チッピング性にすぐれるとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
これに対して、比較被覆工具1〜26では、高速断続切削加工においては、硬質被覆層のチッピング、欠損、剥離等の異常損傷の発生、耐摩耗性の低下により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
本発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、切刃に断続的・衝撃的負荷な高負荷が作用する高速断続切削という厳しい切削条件下でも、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性が発揮されるものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (3)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、下部層と上部層とからなる硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
    (a)前記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなる1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層であって、かつ、その内の1層は、1μm以上で且つ合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層であり、
    (b)前記上部層は、1〜20μmの平均層厚を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層であり、
    (c)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を、
    組成式:(Ti1−xAl)(C1−y
    で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XaveおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yave(但し、Xave、Yaveはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦Xave≦0.95、0≦Yave≦0.005を満足し、
    (d)前記下部層のうち、合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の結晶粒はNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、また、前記上部層のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒は、NaCl型面心立方晶構造単相またはNaCl型面心立方晶構造と六方晶構造の混相からなる結晶構造を有し、
    (e)下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層の結晶粒および上部層の前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の個々の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、基体表面の法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層および上部層の前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層のいずれにおいても、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の30%以上の割合を示し。
    (f)下部層のうちの前記合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層において、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層と上部層との界面を介して、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が隣接して存在し、かつ、該結晶粒は、基体表面の法線方向に対する{110}面の法線の傾斜角が0〜10度の範囲内である前記立方晶構造を有するTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒全体の面積の50%以上の面積割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記下部層の合計平均層厚の50%以上の平均層厚を有するTi化合物層は、Tiの炭窒化物層であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる上部層の表面に、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を少なくとも含む最表面層がさらに被覆形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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