JP6627979B2 - 質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、連続的に導入される試料に対して所定の質量電荷比範囲に亘るイオン強度信号を周期的に繰り返し取得する直交加速方式の飛行時間型質量分析装置等に好適な質量分析装置に関する。
飛行時間型質量分析装置(以下「TOFMS」と称す)では一般に、試料成分由来のイオンに一定の運動エネルギを付与して一定距離の空間を飛行させ、その飛行に要する時間を計測して該飛行時間からイオンの質量電荷比を算出する。そのため、イオンを加速して飛行を開始させる際に、イオンの位置やイオンが持つ初期エネルギにばらつきがあると、同一質量電荷比を持つイオンの飛行時間にばらつきが生じ質量分解能や質量精度の低下に繋がる。こうした課題を解決する手法の一つとして、イオンビームの入射方向と直交する方向にイオンを加速して飛行空間に送り込む直交加速式飛行時間型質量分析装置(以下「OA−TOFMS」と称す)が知られている。
上述したようにOA−TOFMSは、試料成分由来のイオンビームの初期導入方向と直交する方向にイオンをパルス的に加速する構成であるため、連続的に導入される試料に含まれる成分をイオン化する様々なイオン源、例えばエレクトロスプレイイオン源などの大気圧イオン源や電子イオン源などとの組み合わせが可能である。また最近では、化合物の構造解析等を行うために、試料成分由来のイオンから特定の質量電荷比を有するイオンを選択する四重極マスフィルタ、及びその選択されたイオンを衝突誘起解離により解離させるコリジョンセルと、OA−TOFMSとを組み合わせた、いわゆるQ−TOF型質量分析装置も広く利用されるようになってきている。例えば非特許文献1には、Q−TOF型質量分析装置を検出器として用いた液体クロマトグラフ質量分析装置(以下「LC−MS」と称す)が開示されている。
上記Q−TOF型質量分析装置では、MS/MS分析を行うことができるほか、コリジョンセル内でのイオンの解離操作を伴わない、高い質量分解能の通常の質量分析を繰り返し行うこともできる。その場合、前段の四重極マスフィルタをイオンに対する質量分離を行わずに単にイオンを収束させつつ後段へと輸送する一種のイオンガイドとして機能させ、コリジョンセルでは衝突誘起解離を行わずにイオンをほぼ素通りさせるようにするのが一般的である。
ところで、LC−MSでは、時間が経過するに伴い異なる成分を含む溶出液が順次質量分析装置のイオン源に導入される。そこで、Q−TOF型質量分析装置を用いたLC−MSにおいてQ−TOF型質量分析装置では、所定の測定周期で以て直交加速部から繰り返しイオンが射出され、その射出されたイオンに対する飛行時間スペクトルが取得される。この場合、測定周期を長くするとQ−TOF型質量分析装置での測定時間間隔が広がるため、得られたデータに基づいてクロマトグラムを作成する際にピーク形状の正確性が低くなり、ピーク面積等に基づく定量性が低下するという問題がある。そのため、定量性を高めるには測定周期を短くしたほうがよい。
しかしながら、Q−TOF型質量分析装置において測定周期を短くして通常の質量分析を実行すると、飛行時間の長いイオン(つまりは高質量電荷比のイオン)が飛行空間中に残っている間に次の測定周期のイオンが直交加速部から飛行空間に射出されることになり、一つ前の測定周期における高質量電荷比のイオンに次の測定周期における低質量電荷比のイオンが追いつき又は追い越し、混じって検出器に到達してしまうという問題がある。
図7(a)は測定周期が200[μsec]であるときの、図7(b)は測定周期がその半分の100[μsec]であるときの飛行時間スペクトルの例である。図8(a)及び(b)は図7(a)及び(b)中に示した飛行時間スペクトルにおける枠E中の拡大図である。測定周期が100[μsec]である飛行時間スペクトルにおいて0〜15[μsec]の時間範囲に観測されるピークの多くは、測定周期が十分に長ければ飛行時間スペクトル上の100〜115[μsec]の時間範囲に観測される高質量電荷比のイオン由来のピークである。このように、測定周期を短くすると一つ前の測定周期における測定対象であるイオンが飛行時間スペクトル上の本来とは異なる位置に現れてしまい、正確な飛行時間スペクトルが得られなくなるという問題があった。
特許文献1には、異なる測定周期の下で得られたマススペクトルを比較することにより、前の測定周期におけるイオン由来のピークを特定する技術が開示されている。こうした技術により、一つ前の測定周期における高質量電荷比のイオン由来のピークが混じっている飛行時間スペクトルからそうしたピークを除去して、本来のイオン由来のピークのみが観測される飛行時間スペクトルを作成することができる。しかしながら、そのためには面倒なデータ処理が必要になるし、そもそも、同じ試料に対して異なる測定周期の下で二回の質量分析を行う必要があって測定に時間も手間も掛かる。
米国特許第8410430号明細書
「Agilent 6500 シリーズ Q-TOF LC/MS システム」、[online]、アジレント・テクノロジー株式会社、[平成28年6月21日検索]、インターネット<URL: http://www.chem-agilent.com/contents.php?id=38197>
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、所定の測定周期で以て繰り返し質量分析を行う際に、その測定周期が短い場合であっても一つ前の測定周期において生成された高質量電荷比のイオンがマススペクトル上で観測されることを防止し正確なマススペクトルを取得することができる質量分析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様の質量分析装置は、試料成分をイオン化するイオン源と、イオンが飛行する飛行空間、前記イオン源で生成されたイオン又は該イオンに由来するイオンに所定のエネルギを与えて前記飛行空間に向けて射出する射出部、及び、前記飛行空間を飛行したイオンを検出する検出器、を含む飛行時間型質量分析部と、を具備し、該飛行時間型質量分析部において所定の測定周期で以て質量分析を繰り返し行う質量分析装置において、
a)前記イオン源と前記射出部の間に設けられた、多重極型電極から成るイオン輸送部と、
b)前記多重極型電極に高周波電圧と直流電圧とが加算された電圧を印加するものであって、該多重極型電極で囲まれる空間をイオンが通過する際に、前記飛行空間における飛行時間が少なくとも前記所定の測定周期を超えるような所定の質量電荷比以上の範囲のイオンを発散させる多重極電場を形成するための電圧を前記多重極電極に印加する電圧発生部と、
c)マシュー方程式に基づくパラメータであるq値及びa値を二軸にとったマシュー線図上で原点を通り安定領域を横切るように定められた質量走査線の傾きを測定対象の質量電荷比範囲に亘る質量走査に応じて変化させ、その測定対象の質量電荷比範囲内での質量走査に応じた質量走査線の傾きの変化に対応して変化する直流電圧及び高周波電圧を前記多重極電極に印加するように前記電圧発生部を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は、前記イオン輸送部を通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させることを特徴としている。
本発明に係る第1の態様の質量分析装置において、イオン輸送部は例えばQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタである。
即ち、本発明に係る第1の態様の質量分析装置は、特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させることが可能な四重極マスフィルタと、該四重極マスフィルタと前記射出部との間に設けられたイオンを解離させるためのコリジョンセルと、をさらに備え、前記四重極マスフィルタを前記イオン輸送部として用いる構成とすることができる。
また本発明に係る第1の態様の質量分析装置において、高周波電場の作用によりイオンを収束させつつ後段へと送るイオンガイドをさらに備え、前記イオンガイドを前記イオン輸送部として用いる構成とすることもできる。
例えば四重極マスフィルタで特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させる場合には、所定の関係を有する直流電圧と高周波電圧とを加算した電圧を四重極マスフィルタを構成する電極(四重極電極)に印加する。その場合、通常、高い質量分解能でイオンを選択することが望ましいため、通過させたいイオンの質量電荷比よりも少しだけ低い質量電荷比以下のイオンと少しだけ高い質量電荷比以上のイオンとが共に発散する(つまりは通過しない)ような所定の関係の直流電圧と高周波電圧とが四重極電極に印加される。
これに対し本発明に係る第1の態様の質量分析装置において、電圧発生部は、飛行時間型質量分析部における飛行時間が少なくとも測定周期を超えるような所定の質量電荷比以上の範囲のイオンを発散させる多重極電場を形成するための、所定の関係の直流電圧と高周波電圧とを多重極電極に印加する。言い換えれば、多重極電極に印加される電圧の条件は、上述したように発散させたいイオン以外の、相対的に質量電荷比が小さいイオンを全て通過させるということである。ただし、高周波電圧と直流電圧とを加算した電圧を多重極電極に印加すると、必然的に低質量電荷比にもカットオフ点が生じるため、そのカットオフ点以下の質量電荷比を有するイオンも多重極電極で阻止される。その結果、所定の質量電荷比範囲内の全てのイオンがイオン輸送部を通過し、飛行時間型質量分析部で質量分析される。
本発明に係る第1の態様の質量分析装置では、飛行時間型質量分析部における飛行中に次の測定周期において射出された速度の大きな軽いイオンに追いつかれてしまうような重いイオンは、イオン輸送部で通過が阻止される。そのため、飛行時間型質量分析部の射出部から飛行空間に向けて射出されるイオンパケットには、そうした重いイオンはもともと含まれない。その結果、一測定周期中に検出器に到達するイオンによる検出信号に基づいて作成される飛行時間スペクトルには、飛行時間が一測定周期を超えるような質量電荷比が大きなイオン由来のピークは現れない。それにより、一つ前の測定周期において生成された高質量電荷比のイオンの影響を受けることなく、正確なマススペクトルを取得することができる。
或るイオンが四重極マスフィルタの内部空間を安定的に通り抜ける電圧の条件はマシュー(Mathieu、マチウともいう)方程式として知られており、マシュー方程式に基づくパラメータであるq値及びa値を横軸及び縦軸にとったマシュー線図上の略三角形状の安定領域で表される。四重極マスフィルタで特定の質量電荷比を有するイオンを選択する場合には、略三角形状である安定領域の頂部付近の該安定領域内の狭い範囲を通過するように質量走査線の傾きを定める。そして、選択すべきイオンの質量電荷比を走査する(変化させる)際には、質量走査線の傾きはそのままで、つまり高周波電圧と直流電圧との関係を一定に保ったままで、それら電圧をそれぞれ変化させる。これに対し本発明に係る質量分析装置では、略三角形状である安定領域の頂部から最も離れた底辺付近で水平に近い緩い傾きとなるように質量走査線が定められる。それによって、質量走査線は安定領域中の長い領域を横切る。その結果、幅広い質量電荷比範囲のイオンが安定的に四重極マスフィルタを通り抜けることになる。
上述したように、四重極マスフィルタにおける通常の質量分離やプリカーサイオン選択の際には、質量走査線の傾きは常に一定であって、目的の質量電荷比に応じて高周波電圧と直流電圧とをそれぞれ変化させる。したがって、本発明に係る第1の態様の質量分析装置においても、同様の制御とすれば、例えば四重極マスフィルタであるイオン輸送部に電圧を印加する電圧発生部やこれを制御する制御回路の構成として、従来のQ−TOF型質量分析装置における一般的な回路をそのまま利用することができる。
ただし、質量走査線の傾きを一定にすると、測定対象の質量電荷比範囲を低くするに伴いその範囲の上限が急激に下がるため、測定対象の質量電荷比範囲が狭くなってしまう。測定対象の質量電荷比範囲の下限をできるだけ下げながら上限が下がるのを抑えるには、マシュー線図上で安定領域を横切るように定められた質量走査線の傾きを一定とせず、測定対象の質量電荷比範囲に応じて変化させるようにするとよい。
そこで本発明に係る第1の態様の質量分析装置において、制御部は、質量走査線の傾きを測定対象の質量電荷比範囲に亘る質量走査に応じて変化させ、その測定対象の質量電荷比範囲内での質量走査に応じた質量走査線の傾きの変化に対応して変化する直流電圧及び高周波電圧を前記多重極電極に印加するように前記電圧発生部を制御するものであり、イオン輸送部を通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させる。
により、幅広い質量電荷比範囲についての質量分析を行いたい場合に、測定対象の質量電荷比範囲を複数に分けてその互いに異なる測定対象の質量電荷比範囲毎に質量分析を行うような手間が不要になり、測定効率の向上を図ることができる。
なお、本発明に係る第1の態様の質量分析装置がコリジョンセルを備える場合に、該コリジョンセルの前段に配置された四重極マスフィルタやイオンガイド等を上記イオン輸送部として用いることが好ましい。
MS/MS分析時にコリジョンセルの内部にはコリジョンガスが導入されるが、イオンの解離を行わない場合にもコリジョンセル内にコリジョンガスを導入しておくと、コリジョンセル内に導入されたイオンはガスと接触してクーリングされる(ただし、コリジョンセルに導入されるイオンに付与されるエネルギは小さいため解離は生じない)。イオンがクーリングされると、イオンがそれまでのイオンガイドや四重極マスフィルタ等で受けたエネルギや加速度合いなどの相違が一旦解消される。そのため、上述したイオン輸送部を通過する際の質量電荷比の相違に応じた電場の相違などの影響が飛行時間型質量分析部での質量分析に及ばず、高い質量精度、質量分解能を達成するのに有利である。
また上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様の質量分析装置は、試料成分をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選択することが可能な四重極マスフィルタと、該四重極マスフィルタで選択されたイオンを解離させるコリジョンセルと、イオンが飛行する飛行空間、前記イオン源で生成されたイオン又は前記コリジョンセルでのイオン解離により生成されたイオンに所定のエネルギを与えて前記飛行空間に向けて射出する射出部、及び、前記飛行空間を飛行したイオンを検出する検出器、を含む飛行時間型質量分析部と、を具備する質量分析装置において、
a)前記四重極マスフィルタの各電極に、高周波電圧と直流電圧とを加算した電圧を印加する電圧発生部と、
b)マシュー方程式に基づくパラメータであるq値及びa値を二軸にとったマシュー線図上で原点を通る直線である質量走査線の傾きを、a=0である水平状態と該質量走査線が安定領域の基部を横切る所定の傾斜状態との間の所定の範囲で調整可能であり、且つ、前記四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させるべく前記電圧発生部を制御する制御部と、
を備えることを特徴としている。
上述したように、一般的なQ−TOF型質量分析装置の四重極マスフィルタにおいて特定の質量電荷比を有するイオンを選択する場合には、略三角形状である安定領域の頂部付近の該安定領域内の狭い範囲を通過するように質量走査線の傾きを定める。そのため、質量走査線の傾きの微調整が可能である場合もあるが、それは安定領域の頂部付近の所定の範囲(通常、目標とする質量分離能に依存する範囲)を通過するように設定される質量走査線を中心とした微小な範囲の調整である。
これに対し、本発明の第2の態様の質量分析装置では、質量走査線の傾きを略三角形状である安定領域の底辺に沿った水平状態と安定領域の基部を横切る所定の傾斜状態(例えば略三角形状である安定領域の右側の境界線の中点よりも下側で質量走査線が交差するような傾斜状態)との間の所定の範囲で調整可能であるようにしている。当然のことながら、この範囲で質量走査線の傾きを調整しても高い質量分離能、質量選択能は得られないため、通常のプリカーサイオン選択には利用できないが、幅広い質量電荷比範囲に亘るイオンを通過させ、且つ該質量電荷比範囲の上限以上である高質量電荷比のイオンの通過を阻止する際に有用であり、質量走査線の傾きによって通過させる質量電荷比範囲の上限を適切に調整することができる。
また、本発明の第2の態様による質量分析装置では、
前記四重極マスフィルタの動作モードとして、
マシュー線図上で質量走査線が安定領域の頂部付近の所定の範囲を通過するように該質量走査線の傾きを定める第1のモードと、
マシュー線図上で質量走査線の傾きが水平状態と前記所定の傾斜状態との間の所定の範囲で調整可能であり、且つ、前記四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させる第2のモードと、
を選択可能に有し、前記第2のモードが選択されたときに前記制御部は指定された傾きの質量走査線から質量電荷比の走査に応じて該質量走査線の傾きを徐々に変化させるように高周波電圧及び直流電圧をそれぞれ変化させるべく前記電圧発生部を制御する構成とすることができる。
この構成では、MS/MS分析を実行するために四重極マスフィルタでプリカーサイオン選択を行う際には四重極マスフィルタの動作モードとして第1のモードを選択し、コリジョンセルでイオンを解離させずに通常の質量分析を行う際には四重極マスフィルタの動作モードとして第2のモードを選択すればよい。これにより、簡便にMS/MS分析と通常の質量分析との切り替えを行いつつ、通常の質量分析の際には測定周期が短くても良好なマススペクトルを作成することができる。
本発明に係る質量分析装置によれば、所定の測定周期で以て繰り返し質量分析を行う際に、その測定周期が短くても、一つ前の測定周期において生成された高質量電荷比のイオンの影響のない正確なマススペクトルを取得することができる。また、四重極マスフィルタやイオンガイドなど、Q−TOF型質量分析装置等に予め備わっている構成要素を利用して不要な高質量電荷比のイオンを排除しているので、コストの増加を抑えることができる。また、一般に、四重極マスフィルタを構成するロッド電極は非常に高い寸法精度を有しているため、四重極マスフィルタを本発明におけるイオン除去に利用すれば、不所望のイオンを高い質量電荷比精度で以て除去することができる。
本発明の第1実施例であるQ−TOF型質量分析装置の概略構成図。 第1実施例のQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタの動作の説明図。 第1実施例のQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタの動作の説明図。 第1実施例のQ−TOF型質量分析装置における測定可能質量電荷比範囲の説明図。 本発明の第2実施例であるQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタの動作の説明図。 第2実施例であるQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタの動作の説明図。 従来のQ−TOF型質量分析装置において測定周期が200[μsec]及び100[μsec]である場合に得られる飛行時間スペクトルを示す図。 図7に示した飛行時間スペクトルの一部拡大図。
[第1実施例]
以下、本発明の第1実施例であるQ−TOF型質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施例のQ−TOF型質量分析装置の全体構成図である。
本実施例のQ−TOF型質量分析装置は、多段差動排気系の構成を有しており、チャンバ1内に配設された、略大気圧雰囲気であるイオン化室2と最も真空度の高い高真空室6との間に、第1乃至第3なる三つの中間真空室3、4、5が設けられている。
イオン化室2には、エレクトロスプレイイオン化(ESI)を行うためのESIスプレー7が設けられ、目的化合物を含む試料液がESIスプレー7に供給されると、該スプレー7先端で片寄った電荷を付与されて噴霧された液滴から目的化合物由来のイオンが生成される。なお、イオン化法はこれに限らない。
生成された各種イオンは加熱キャピラリ8を通して第1中間真空室3へ送られ、イオンガイド9により収束されてスキマー10を通して第2中間真空室4へ送られる。さらに、イオンは多重極型のイオンガイド11により収束されて第3中間真空室5へ送られる。第3中間真空室5内には、四重極マスフィルタ12と、四重極型のイオンガイド14が内部に設けられたコリジョンセル13とが設置されている。試料由来の各種イオンは四重極マスフィルタ12に導入され、MS/MS分析時には、四重極マスフィルタ12に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが該四重極マスフィルタ12を通り抜ける。このイオンはプリカーサイオンとしてコリジョンセル13に導入され、コリジョンセル13内に外部から供給されるコリジョンガスとの接触によってプリカーサイオンは解離し各種のプロダクトイオンが生成される。
生成されたプロダクトイオンはコリジョンセル13から出たあと、イオン輸送光学系16により案内されつつイオン通過口15を経て高真空室6内に導入される。高真空室6内には、イオン射出源である直交加速部17と、反射器21及びバックプレート22を備えた飛行空間20と、イオン検出器23とが設けられており、直交加速部17にX軸方向に導入されたイオンは所定のタイミングでZ軸方向に加速されることで飛行を開始する。イオンはまず自由飛行したあと反射器21及びバックプレート22により形成される反射電場で折り返され、再び自由飛行してイオン検出器23に到達する。イオンが直交加速部17を出発した時点からイオン検出器23に到達するまでの飛行時間はイオンの質量電荷比に依存する。イオン検出器23による検出信号を受けたデータ処理部30は飛行時間スペクトルを作成し、飛行時間を質量電荷比に換算することでマススペクトルを求める。
四重極マスフィルタ12はイオン光軸Cを囲むように互いに平行に配置された4本のロッド電極を含む。それらロッド電極にそれぞれ電圧を印加する四重極電圧発生部40は、高周波電圧発生部41と、直流電圧発生部42と、加算部43と、を含む。また、ユーザにより操作される入力部53が接続された制御部50は、m/z選択時電圧設定部51と、m/z範囲限定時電圧設定部52と、を機能ブロックとして含む。なお、四重極電圧発生部40以外に、各部にそれぞれ電圧を印加するための構成要素については記載を省略している。
本実施例のQ−TOF型質量分析装置では、コリジョンセル13においてイオンを解離させることでMS/MS分析を行うことが可能であるが、コリジョンセル13内でイオンを解離させずに通常の質量分析を行うことも可能である。本実施例のQ−TOF型質量分析装置では、そうしたイオンの解離操作を伴わない通常の質量分析を実行する際に特徴的な制御を行う。以下、その特徴的な動作について図2〜図4を参照しつつ詳しく説明する。
まず、MS/MS分析を行う際に四重極マスフィルタ12で特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させる場合の動作を簡単に説明する。
よく知られているように、四重極マスフィルタでは、イオン光軸Cを挟んで対向する2本のロッド電極に直流電圧Uと高周波電圧Vcosωtとを加算した電圧U+Vcosωtが印加され、周方向にそれら2本のロッド電極に隣合う他の2本のロッド電極に極性の異なる電圧−U−Vcosωtが印加される。直流電圧の電圧値Uと高周波電圧の振幅値Vとを所定の関係とすると、それに応じた特定の質量電荷比を有するイオンがイオン光軸C付近を振動しながら進行しロッド電極で囲まれる空間を通り抜ける。イオンが四重極マスフィルタの内部空間を安定的に通り抜ける電圧等の条件はマシュー方程式として知られており、しばしば、図2に示すようなマシュー線図上の安定領域で表される。
図2に示すマシュー線図の縦軸及び横軸のパラメータa及びqは次の式で定義される。
a=(8eU)/(mr0 2ω2
q=(4eV)/(mr0 2ω2
ここで、eはイオンの電荷、mはイオンの質量、r0は中心軸(イオン光軸C)からロッド電極周面までの最短距離(ロッド電極の内接円の半径)である。つまり、aは直流電圧の電圧値Uに比例し、qは高周波電圧の振幅値Vに比例する。図2中に斜線で示した略三角形の領域はイオンが安定軌道をとる(発散しない)安定領域Sである。
四重極マスフィルタにおいて例えばプリカーサイオン選択のように特定の質量電荷比を有するイオンを高い質量分離能で以て選択したい場合には、パラメータa、qの関係が例えば図2中に一点鎖線で示す質量走査線Aに沿ったものとなるようにUとVとが決められる。この場合、安定領域Sと質量走査線Aとの重なりは該安定領域Sの頂部付近のごく狭い範囲である。そのため、目的とする質量電荷比M1のみが安定領域Sに入り、質量電荷比がその目的とする質量電荷比M1よりも大きくても小さくても安定領域Sから外れる。それによって、目的とする質量電荷比M1を有するイオンのみを高い分離能で選択することが可能である。換言すれば、MS/MS分析のためのプリカーサイオン選択の際には、プリカーサイオンを高い分離能で選択するために、図2中にAで示すような経路の質量走査線が定められる。また、安定領域Sを質量走査線が横切る長さが質量分離能に対応するから、イオン選択時の質量分離能を調整可能であるように、質量走査線の傾きは安定領域Sの頂部を通過する付近の狭い範囲で調整可能となっている。図2中に示した質量走査線Aの経路で質量走査したときの四重極マスフィルタ12の質量分離能は、例えば、四重極マスフィルタ12に関連したマススペクトル上でのピーク半値幅が、好ましく5u以下、さらに好ましくは3u以下、さらに好ましくは1u以下、さらに好ましくは0.7u以下である(ただしここで単位uは統一原子質量単位を意味する)。
一方、一般的なQ−TOF型質量分析装置において通常の質量分析を実行する際には、四重極マスフィルタでイオン選択を行わないので、各ロッド電極に高周波電圧Vcosωtのみが印加される。これにより形成される高周波電場によって全てのイオンは振動しながら進み、四重極マスフィルタを通り抜けて後段(コリジョンセル)へと輸送される。この場合、U=0であるからa=0であり、そのときの質量走査線は図2中に点線Bで示すように横軸(q軸)に沿ったもの、或いは、安定領域Sの底辺に沿ったものとなる。この場合、質量走査線Bが通過する安定領域Sの右下端点に対応する質量電荷比が低m/z側のカットオフ点である。一方、安定領域Sの左下端点は原点とほぼ一致しているため、高m/z側のカットオフ点は理論的には存在しない。そのため、低m/z側のカットオフ点以下のイオンは四重極マスフィルタを通過する際に発散して除外されるものの、高m/z側のイオンは理論上除外されず、ほぼ全てのイオンが通過することになる。そのため、後段のOA−TOFMSを一定の測定周期で動作させるとき、飛行時間がその測定周期に収まらないような質量電荷比が大きなイオンも直交加速部に送られることになる。
これに対し本実施例のQ−TOF型質量分析装置では、通常の質量分析時に四重極マスフィルタ12の各ロッド電極に高周波電圧を印加するのみならず適当な直流電圧Uを印加することで所定の質量電荷比以上の高m/z側のイオンを遮断してしまい、そうしたイオンが直交加速部17に導入されることを回避する。この高m/z側のイオンの遮断の原理について説明する。
四重極マスフィルタ12の各ロッド電極に高周波電圧Vcosωtを印加しつつ、それに加えて、その高周波電圧の振幅値Vと所定の関係を有し、且つ通常の質量分析時に比べるとごく小さい直流電圧Uを印加すると、質量走査線は図2中に実線Dで示すように僅かに右上がりに傾いた直線となる。安定領域Sの高m/z側の境界線のスロープは原点付近で非常に緩やかな曲線状であるため、上記のように質量走査線Dが右上がりに緩い傾斜であると、図2の下の拡大図に示すように、該質量走査線Dと安定領域Sの境界線とが交差してそこが高m/z側のカットオフ点となる。このとき、質量走査線Dにおいて高m/z側のカットオフ点と低m/z側のカットオフ点との間の長い範囲が安定領域S内に入るから、これは、特定の質量電荷比を有するイオンではなく、幅広い質量電荷比範囲内のイオンを全て通過させるマスフィルタであると捉えることもできる。
一例として、いまパラメータaが0.07程度となるように直流電圧Uを設定した場合、本出願人が用いている四重極マスフィルタでは、高m/z側のカットオフ係数Max(m/z)、低m/z側のカットオフ係数Min(m/z)は次のようになる。ここでいうカットオフ係数は、安定領域Sに入るように定められる目的の質量電荷比に対して高m/z側、低m/z側にそれぞれ何倍の範囲の質量電荷比が安定領域Sに入るのかを示す数値であり、この差が小さいほどイオンの質量分離能が高いということができる。
Max(m/z)=0.706/0.21=3.36倍
Min(m/z)=0.706/0.85=0.83倍
そのため、いま四重極マスフィルタ12を通過させたい目標のイオンの質量電荷比m/zを1000に設定した場合、四重極マスフィルタ12を通過し得るイオンの質量電荷比範囲はm/z 830〜3360となる。このようにして四重極マスフィルタ12を通過させたいイオンの質量電荷比範囲に応じてパラメータaを適切に定め、それに対応した直流電圧Uを求めればよい。
いずれの質量電荷比に対してもマシュー線図上で同じ傾きの質量走査線を用いるということは、いずれの質量電荷比に対してもパラメータ(a,q)が共通であることを意味する。この場合には、次のようにして目標のイオンの質量電荷比m/zと実際に四重極マスフィルタ12を通過し得るイオンの質量電荷比範囲との関係を求めることができる。
まず図3(b)、(c)に示すように、マシュー線図上の安定領域Sにおける高m/z側及び低m/z側の境界線をそれぞれ近似的に数式化する。この例では、図3に示した安定領域Sにおいて、高m/z側の境界線はy=0.4917x1.9925、と数式化でき、低m/z側の境界線はy=−1.1591x+1.0529、と数式化できる。こうして数式化した二つの境界線とパラメータa、qを定めた質量走査線(本例ではa=0.01、q=0.4であるので図3ではy=0.25x)との交点をそれぞれ求める。そして、それら交点から四重極マスフィルタ12を通過し得るイオンの上限m/z値及び下限m/z値を求める。
いま、目標のイオンのm/z設定値をm/z 227、m/z 113、m/z 57、m/z 11としたときに計算される質量電荷比範囲を図4に示す。例えばイオンのm/z設定値をm/z 227にしたとき測定可能な質量電荷比範囲はm/z 180〜1824となり、イオンのm/z設定値をm/z 11にしたとき測定可能な質量電荷比範囲はm/z 9〜91となる。このように質量走査線の傾き、つまりはパラメータ(a,q)を一定にした場合には、目標のイオンのm/z設定値を変化させると測定可能質量電荷比範囲が大きく変化する。また、図4から、低m/z側のカットオフ点の質量電荷比の変化に比べて高m/z側のカットオフ点の変化が大きいことが分かる。このため、低質量電荷比まで測定対象の質量電荷比範囲を拡大したい場合には、その質量電荷比範囲自体はかなり狭くなる。
本実施例のQ−TOF型質量分析装置では、四重極マスフィルタ12でプリカーサイオン選択を行う際の例えば図2中での質量走査線Aに対応するパラメータ(a,q)とは別に、通常の質量分析の際に用いる、質量走査線Aに比べて傾きがかなり緩やかな(水平に近い)質量走査線Dに対応するパラメータ(a,q)を予め定めておく。前者の質量走査線Aに対応するパラメータ(a,q)はm/z選択時電圧設定部51の内部に予め記憶され、後者の質量走査線Dに対応するパラメータ(a,q)はm/z範囲限定時電圧設定部52に予め記憶される。ただし、上述したようにプリカーサイオン選択等の際には質量分離能を調整できることが望ましいため、m/z選択時電圧設定部51では、設定されたパラメータ(a,q)によって決まる質量走査線Aの傾きが適宜の範囲で調整可能である。一方、m/z範囲限定時電圧設定部52においても同様に、設定されたパラメータ(a,q)によって決まる質量走査線Dの傾きが適宜の範囲で調整可能である。なお、この場合、質量走査線が図2中にBで示すように水平状態となるまでの範囲についても調整可能としておくとよい。
ユーザが入力部53から通常の質量分析の実行を指示する際には、測定したい質量電荷比範囲や測定周期を併せて指定する。ただし、測定周期を短くするほど質量電荷比範囲の上限は低くなるから、まずユーザが測定周期を指定すると、指定された測定周期で以て測定が可能である質量電荷比範囲の上限値が表示され、ユーザは質量電荷比範囲がその上限値以下であるように測定対象の質量電荷比範囲を指定すればよい。
m/z範囲限定時電圧設定部52は、上述したように予め記憶されているパラメータ(a,q)(又はそれにより決まる質量走査線の傾きが適宜微調整された質量走査線に対応したパラメータ)と指定された測定対象の質量電荷比範囲とに基づいて、その測定対象の質量電荷比範囲に入るイオンを通過させ、その範囲を外れるイオンを除外する(遮断する)ような直流電圧U及び高周波電圧の振幅値Vを算出する。そして、その算出結果に基づいて四重極電圧発生部40の高周波電圧発生部41及び直流電圧発生部42をそれぞれ制御する。それに応じて、高周波電圧発生部41及び直流電圧発生部42それぞれ所定の電圧を発生し、それら電圧は加算部43で加算されて四重極マスフィルタ12の各ロッド電極に印加される。これにより、ESIスプレー7から液体試料が静電噴霧されることで生成された試料成分由来の各種イオンの中で、上記測定対象の質量電荷比範囲を外れる質量電荷比を有するイオンは四重極マスフィルタ12を通過しようとする際に発散し、消滅したり或いは外部へと排出されたりする。一方、上記測定対象の質量電荷比範囲に含まれる質量電荷比を有するイオンは四重極マスフィルタ12内の空間を安定的に通り抜け、コリジョンセル13、イオン輸送光学系16を経て直交加速部17に導入される。
直交加速部17に含まれる押出電極等には、図示しない電圧発生部からパルス状の加速電圧が測定周期間隔で印加される。直交加速部17にX軸方向に導入されたイオンはこの加速電圧によってZ軸方向に一斉に加速され、飛行空間20に送り込まれる。飛行時間が測定周期を超えるような高質量電荷比のイオンは直交加速部17に導入されないので、直交加速部17から飛行空間20に向けて一斉にイオンが射出されたあと、その次に直交加速部17に加速電圧が印加されるまでの期間中に、先に射出された全てのイオンがイオン検出器23に到達する。そのため、或る一つの測定周期において分析対象であるイオンが次の測定周期において検出されることはなく、データ処理部30では測定周期毎に、他の測定周期において直交加速部17から射出されたイオンの影響を何ら受けることなく、良好な飛行時間スペクトル、さらにはマススペクトルを作成することができる。
[第2実施例]
上記第1実施例では、パラメータ(a,q)は常に一定であるため制御が容易である。一方、四重極マスフィルタ12に印加する高周波電圧の振幅値Vが小さいときには、本来、周期遅れとはならないような質量電荷比のイオンまで遮断してしまうため、測定可能な質量電荷比範囲が狭くなる。これは図4に示したとおりである。そこで、第2実施例のQ−TOF型質量分析装置では、必要以上のイオンの遮断を回避し測定対象の質量電荷比範囲をできるだけ広くするために第1実施例とは異なる制御方法を採用している。第2実施例のQ−TOF型質量分析装置の構成は上述した第1実施例のQ−TOF型質量分析装置と基本的に同じであるので、以下の説明では構成図として図1を用いる。
図5は第2実施例であるQ−TOF型質量分析装置における四重極マスフィルタ12の動作を説明するためのマシュー線図である。
上記第1実施例のQ−TOF型質量分析装置では、マシュー線図上の質量走査線の傾きは常に一定であり、測定対象の質量電荷比範囲に応じて高周波電圧の振幅値Vと直流電圧Uとを固定していた。それに対し、この第2実施例のQ−TOF型質量分析装置では、四重極マスフィルタ12のロッド電極に印加する高周波電圧の振幅値Vが増加するように走査し、それに伴い質量走査線をその傾きが図5中に示すように例えばDからD’まで徐々に大きくなるように移動させ、その質量走査線に応じた直流電圧Uを四重極マスフィルタ12のロッド電極に印加する。質量走査線の傾きを一定に保ったまま高周波電圧の振幅値V及び直流電圧Uを走査すると、高周波電圧の振幅値Vが大きくなるに伴い質量電荷比範囲の上限が高くなりすぎるが、質量走査線の傾きを大きくすることで質量電荷比範囲の上限を抑えることができる。
図6は、横軸にイオンの質量電荷比、縦軸にa値をとったときに、四重極マスフィルタ12を通過し得る質量電荷比範囲の高m/z側上限の質量電荷比を示す等高線図である。ここで、横軸の質量電荷比値は動作させるq値に応じて高周波電圧の振幅値Vに読み替えることができる。四重極マスフィルタ12を通過させるイオンの質量電荷比の上限を常にm/z 8400〜8800に維持するには、図6中に一点鎖線で示すように、質量電荷比(つまりは高周波電圧の振幅値V)の走査に応じてa値、つまりは直流電圧Uを変化させればよいことが分かる。
質量走査線の傾きを一定に保ったまま高周波電圧の振幅値Vを走査する際にも直流電圧Uを走査する(変化させる)必要があるが、その場合には、振幅値Vと直流電圧Uとの関係は常に一定である。それに対し、ここでは質量走査線の傾きを変化させるため、高周波電圧の振幅値Vを走査する際の直流電圧Uの変化は質量走査線の傾きが一定である場合とは異なるものとなる。これは、スキャン測定等のための四重極マスフィルタにおける一般的な質量走査とは異なる制御となるため、その点で第1実施例のQ−TOF型質量分析装置に比べると制御が複雑になるものの、飛行時間が測定周期を超えてしまうような高質量電荷比のイオンを確実に遮断しつつ、第1実施例に比べて測定対象の質量電荷比範囲をかなり広げることが可能である。
この第2実施例のQ−TOF型質量分析装置では、測定対象の質量電荷比範囲の上限に対応付けて、質量電荷比の走査(つまりは高周波電圧の振幅値の変化)と質量走査線の変化との関係、又は質量電荷比の走査と直流電圧の変化との関係を示す情報を、予めm/z範囲限定時電圧設定部52に格納しておく。そして、ユーザの指定により測定対象の質量電荷比範囲の上限が決まると、m/z範囲限定時電圧設定部52は、それに対応した情報を取得し、該情報に基づいて四重極マスフィルタ12のロッド電極に印加する高周波電圧及び直流電圧を共に繰り返し走査するように四重極電圧発生部40を制御する。
これにより、第1実施例と同様に、飛行時間が測定周期を超えるような質量電荷比が大きなイオンは四重極マスフィルタ12で遮断されるので、良好な飛行時間スペクトル、さらにはマススペクトルを作成することができる。また、この第2実施例のQ−TOF型質量分析装置では、飛行時間が測定周期を超えないような質量電荷比を有するイオンについては四重極マスフィルタ12で遮断することなく直交加速部17へと導入させることができるので、測定周期で制限される質量電荷比の上限以下の幅広い質量電荷比範囲のマススペクトルを作成することができる。
上記第1、第2実施例では、四重極マスフィルタ12に印加する直流電圧を制御することで高m/z側のイオンを遮断していたが、その前段の多重極型のイオンガイド11に印加する直流電圧を制御しても、同じように高m/z側のイオンを遮断することができる。ただし、通常、こうしたイオンガイド11には直流バイアス電圧は印加されるものの、四重極マスフィルタ12に印加されるイオン選択用の直流電圧Uに相当する直流電圧は印加されない。そのため、イオンガイド11で高m/z側のイオンを遮断したい場合には、四重極マスフィルタ12に印加される直流電圧Uに相当する電圧をイオンガイド11に印加可能である直流電圧発生部を追加する必要がある。
また、上記実施例は本発明をMS/MS分析が可能であるQ−TOF型質量分析装置に適用したものであるが、通常の質量分析のみが可能であるOA−TOFMS等の質量分析装置にも本発明を適用することができる。例えば、OA−TOFMSでは、直交加速部の前段にイオンガイドを配置し、該イオンガイドでイオンの遮断を可能とすればよい。
さらにまた、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変更、修正、追加などを行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…チャンバ
2…イオン化室
3…第1中間真空室
4…第2中間真空室
5…第3中間真空室
6…高真空室
7…ESIスプレー
8…加熱キャピラリ
10…スキマー
9、11、14…イオンガイド
12…四重極マスフィルタ
13…コリジョンセル
15…イオン通過口
16…イオン輸送光学系
17…直交加速部
20…飛行空間
21…反射器
22…バックプレート
23…イオン検出器
30…データ処理部
40…四重極電圧発生部
41…高周波電圧発生部
42…直流電圧発生部
43…加算部
50…制御部
51…m/z選択時電圧設定部
52…m/z範囲限定時電圧設定部
53…入力部

Claims (4)

  1. 試料成分をイオン化するイオン源と、イオンが飛行する飛行空間、前記イオン源で生成されたイオン又は該イオンに由来するイオンに所定のエネルギを与えて前記飛行空間に向けて射出する射出部、及び、前記飛行空間を飛行したイオンを検出する検出器、を含む飛行時間型質量分析部と、を具備し、該飛行時間型質量分析部において所定の測定周期で以て質量分析を繰り返し行う質量分析装置において、
    a)前記イオン源と前記射出部の間に設けられた、多重極型電極から成るイオン輸送部と、
    b)前記多重極型電極に高周波電圧と直流電圧とが加算された電圧を印加するものであって、該多重極型電極で囲まれる空間をイオンが通過する際に、前記飛行空間における飛行時間が少なくとも前記所定の測定周期を超えるような所定の質量電荷比以上の範囲のイオンを発散させる多重極電場を形成するための電圧を前記多重極電極に印加する電圧発生部と、
    c)マシュー方程式に基づくパラメータであるq値及びa値を二軸にとったマシュー線図上で原点を通り安定領域を横切るように定められた質量走査線の傾きを測定対象の質量電荷比範囲に亘る質量走査に応じて変化させ、その測定対象の質量電荷比範囲内での質量走査に応じた質量走査線の傾きの変化に対応して変化する直流電圧及び高周波電圧を前記多重極電極に印加するように前記電圧発生部を制御する制御部と、
    を備え、前記制御部は、前記イオン輸送部を通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させることを特徴とする質量分析装置。
  2. 請求項1に記載の質量分析装置であって、
    特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させることが可能な四重極マスフィルタと、該四重極マスフィルタと前記射出部との間に設けられたイオンを解離させるためのコリジョンセルと、をさらに備え、前記四重極マスフィルタを前記イオン輸送部として用いることを特徴とする質量分析装置。
  3. 試料成分をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選択することが可能な四重極マスフィルタと、該四重極マスフィルタで選択されたイオンを解離させるコリジョンセルと、イオンが飛行する飛行空間、前記イオン源で生成されたイオン又は前記コリジョンセルでのイオン解離により生成されたイオンに所定のエネルギを与えて前記飛行空間に向けて射出する射出部、及び、前記飛行空間を飛行したイオンを検出する検出器、を含む飛行時間型質量分析部と、を具備する質量分析装置において、
    a)前記四重極マスフィルタの各電極に、高周波電圧と直流電圧とを加算した電圧を印加する電圧発生部と、
    b)マシュー方程式に基づくパラメータであるq値及びa値を二軸にとったマシュー線図上で原点を通る直線である質量走査線の傾きを、a=0である水平状態と該質量走査線が安定領域の基部を横切る所定の傾斜状態との間の所定の範囲で調整可能であり、且つ、前記四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させるべく前記電圧発生部を制御する制御部と、
    を備えることを特徴とする質量分析装置。
  4. 請求項に記載の質量分析装置であって、
    前記四重極マスフィルタの動作モードとして、
    マシュー線図上で質量走査線が安定領域の頂部付近の所定の範囲を通過するように該質量走査線の傾きを定める第1のモードと、
    マシュー線図上で質量走査線の傾きが水平状態と前記所定の傾斜状態との間の所定の範囲で調整可能であり、且つ、前記四重極マスフィルタを通過するイオンの質量電荷比の上限が略一定に維持されるように高周波電圧の走査に応じて直流電圧を変化させる第2のモードと、
    を選択可能に有し、前記第2のモードが選択されたときに前記制御部は指定された傾きの質量走査線から質量電荷比の走査に応じて該質量走査線の傾きを徐々に変化させるように高周波電圧及び直流電圧をそれぞれ変化させるべく前記電圧発生部を制御することを特徴とする質量分析装置。
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