JP6624359B2 - Mig溶接方法 - Google Patents

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本発明は、高い耐食性が要求される船舶や建築物の構造部材の溶接に多く採用されるシールドガスとして不活性ガス、例えば純アルゴンガスを用いたMIG溶接方法に関するものである。
上記したような、例えば純アルゴンガスをシールドガスとして用いたMIG溶接方法の場合、溶接アークが陰極点を確保しようとして母材の表面に存在する酸化膜を求めて移動して暴れる現象、いわゆる溶接アークのふらつき現象により、溶接ビードが蛇行したりスパッタが多く発生したりして、良好な外観形状の溶接部を得ることができない。
従来において、このような不具合に対処するべく、シールドガスとしての純アルゴンガス中に微量の酸素ガスやヘリウムガスを混合することでアークを安定させる手段や、MIG溶接の前処理としてTIG溶接を行ってそのクリーニング作用により酸化膜を除去する手段や、高電流で溶接ワイヤを微小振動させてアークを安定させる手段等の対応手段が採用されている。
ここで、シールドガスとしての純アルゴンガス中に微量の酸素ガスやヘリウムガスを混合するMIG溶接では、アークの安定化が望める反面、酸素ガスが溶接部内に混入することによる機械的特性の劣化を招く虞やヘリウムガスのコスト面及び入手性の問題がある。
また、MIG溶接の前処理としてTIG溶接を行う場合には、前処理工程を必要とする分だけ工程数が増える問題があり、高電流で溶接ワイヤを微小振動させるMIG溶接では、高電流を使用するが故の対象板厚(母材の厚み)の制限や作業環境的な問題がある。
そこで、従来にあっては、例えば、特許文献1に記載されているように、溶接ワイヤとして、表面に酸化物を形成し易い元素を固着させた溶接ワイヤを使用するMIG溶接方法が構築されており、このMIG溶接方法では、溶接ワイヤの先端が最も接近する母材表面に、陰極点として作用する酸化物を定常的且つ集中的に形成するように成すことで、アークを安定的に維持継続するようにしている。
特開2003−320479号公報
ところが、上記した特許文献1に記載されたMIG溶接方法では、溶接ワイヤとして、表面に酸化物を形成し易い元素を固着させた溶接ワイヤを使用するので、その分だけ溶接コストの上昇を招いてしまうという問題があり、これを解決することが従来の課題となっている。
本発明は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、溶接コストの上昇を抑えたうえで、良好な外観形状の溶接部(溶接ビード及びその周辺部分)を得ることができると共に、溶融した溶接ワイヤ(溶接ビード)の濡れ性の改善をも実現することが可能なMIG溶接方法を提供することを目的としている。
上記した目的を達成するために成された本発明の請求項1に係る発明は、定電流特性の溶接電源を用いるアーク溶接方法であって、シールドガスとして不活性ガスを用い、母材にMIG溶接用の溶接トーチを向けて、溶接ワイヤを送給しつつ前記母材と該溶接ワイヤの先端との間に溶接アークを生じさせて前記母材に溶融池を形成し、前記溶接トーチを溶接方向に移動させて溶接ビードを形成するに際して、溶接方向後退側に向けて前記溶接ワイヤを送給するべく前記溶接トーチに後退角をとらせて、前記溶接アークを前記溶融池に向けると共に前記溶接トーチが前記溶融池に接触しないように前記溶接アークの長さを電圧の調整により詰めて該溶接アークの広がりを前記溶融池内に止める構成としたことを特徴としており、この構成のMIG溶接方法を前述の課題を解決するための手段としている。
また、本発明の請求項2に係るMIG溶接方法は、定電流特性の溶接電源を用いるアーク溶接方法であって、シールドガスとしての不活性ガスを用い、前記不活性ガスが純アルゴンガスであり、母材にMIG溶接用の溶接トーチを向けて、溶接ワイヤを送給しつつ前記母材と該溶接ワイヤの先端との間に溶接アークを生じさせて前記母材に溶融池を形成し、前記溶接トーチを溶接方向に移動させて溶接ビードを形成するに際して、接方向後退側に向けて前記溶接ワイヤを送給するべく前記溶接トーチに後退角をとらせて、前記溶接アークを前記溶融池に向けると共に前記溶接アークの長さを電圧の調整により詰めて該溶接アークの広がりを前記溶融池内に止める構成としている。
本発明に係るMIG溶接方法では、シールドガスとして、例えば純アルゴンガスを用いて、溶接トーチに後退角をとらせて溶接を行うと、この後退角をとった溶接トーチから溶接方向後退側に向けて送給される溶接ワイヤの先端と母材との間に生じる溶接アークにより、母材に溶融池が形成される。
この際、溶接アークは、溶融池に向けられているうえ、溶接アークの長さを詰めてその広がりが溶融池内に止まるようにしているので、すなわち、陰極点を溶融池内に押さえ込むようにしているので、溶接アークが陰極点を確保しようとして母材の表面に存在する酸化膜を求めて移動して暴れる、いわゆる溶接アークのふらつき現象を回避し得ることとなる。
つまり、このように溶接アークが安定することで、溶接ビードが蛇行したりスパッタが多く発生したりすることがなくなり、したがって、良好な外観形状の溶接部が得られることとなる。
また、溶接アークが溶融池に集中して、溶融池の温度が上昇するので、溶融金属部の濡れ性の改善も併せて図られることとなる。
本発明に係るMIG溶接方法によれば、溶接コストの上昇を抑えつつ、良好な外観形状の溶接部を得ることができるのに加えて、溶融した溶接ワイヤの濡れ性の改善をも実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
本発明の一実施形態に係るMIG溶接方法に用いる溶接装置の概略構成説明図(a),溶接部の平面説明図(b)及び溶接部の断面説明図(c)である。 一比較例に係るMIG溶接方法を実施している際の溶接トーチ先端部の拡大説明図(a),溶接部の平面説明図(b)及び溶接部の断面説明図(c)である。 他の比較例に係るMIG溶接方法を実施している際の溶接トーチ先端部の拡大説明図(a),溶接部の平面説明図(b)及び溶接部の断面説明図(c)である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るMIG溶接方法に用いる溶接装置を示している。
図1(a)に示すように、この溶接装置1は、溶接電流にパルス電流を重畳させて溶接を行う溶接装置1であって、電極チップ2を有する溶接トーチ3と、送りローラ4にコイルされた溶接ワイヤ5を引き出して溶接トーチ3に送給する送給部6と、溶接トーチ3にシールドガスGを供給するボンベ7と、溶接トーチ3の正極である電極チップ2に溶接電源を供給すると共に送給部6によるワイヤ送給及びボンベ7によるガス供給をコントロールする制御部8と、この制御部8及び母材X間に配置されるアース線9を備えている。
この場合、溶接トーチ3は、溶接方向後退側(図示右側)に向けて溶接ワイヤ5を送給するべく後退角(鉛直軸に対する角度)θをもって図示しないホルダに支持されている。
そして、この溶接装置1では、溶接アークAを溶融池Bpに向けたうえで、溶接アークAの長さを詰めて該溶接アークAの広がりを溶融池Bp内に止めながら溶接を行うようになっている。
この溶接装置1によりMIG溶接を行うに際しては、溶接トーチ3に後退角θをとらせて溶接を開始すると、この後退角θをとった溶接トーチ3から溶接方向後退側に向けて送給される溶接ワイヤ5の先端と母材Xとの間に生じる溶接アークAによって、母材Xに溶融池Bpが形成される。
この際、溶接アークAは、溶融池Bpに向けられているうえ、溶接アークAの長さを詰めてその広がりが溶融池Bp内に止まるように制御されているので、すなわち、陰極点を溶融池Bp内に押さえ込むように制御されているので、溶接アークAが陰極点を確保しようとして母材Xの表面に存在する酸化膜を求めて移動して暴れる、いわゆる溶接アークAのふらつき現象が回避されることとなる。
つまり、このように溶接アークAが安定することで、蛇行することなく溶接ビードBが形成されることとなって、良好な外観形状の溶接ビードBが得られることとなる。
また、溶接アークAが安定することで、溶接ワイヤ5からの溶滴5a,5bの離脱が円滑に成されることとなって、スパッタの発生がほとんど皆無となり、加えて、溶接アークAが溶融池Bpに集中して、溶融池Bpの温度が上昇するので、溶融金属部(溶接ビードB)の濡れ性の改善も併せて図られることとなる。
そこで、本発明に係るMIG溶接方法の効果を実証するために、一実施例によるMIG溶接方法及び比較例1,2による各MIG溶接方法で溶接を行って溶接ビードBを形成したところ、表1及び図1〜図3に示す結果を得た。
この際、表1に示すように、いずれの場合も、母材XをSM490Aとすると共に、溶接ワイヤ5をφ1.2の同軸複層ワイヤ(内側に位置する芯材の融点を外側に位置するフープ材の融点よりも低くした溶接ワイヤ)とし、シールドガスGとして純アルゴンガスを採用した。また、溶接電流を200Aに設定すると共に、溶接速度を18cm/minに設定して溶接を行った。なお、溶絶ワイヤには上記同軸複層ワイヤ以外の一般的なものも当然用いることができる。
そして、一実施例によるMIG溶接方法では、図1(a)に示したように、溶接アークAの長さ(アーク長さ)を5mm、後退角θを20°、電圧を31.3Vとして溶接を行った。
一方、比較例1によるMIG溶接方法では、図2(a)に示すように、溶接アークAの長さを1mm、後退角θを0°、電圧を25.6Vとして溶接を行い、比較例2によるMIG溶接方法では、図3(a)に示すように、溶接アークAの長さを7mm、後退角θを0°、電圧を31.9Vとして溶接を行った。
陰極点を溶融池Bp内に押さえ込んだ一実施例によるMIG溶接方法では、表1及び図1(b),(c)に示す結果から、溶滴移行形態,溶け込みの状態及び溶接ビードBの外観形状がいずれも良好(○)であり、スパッタが生じていない(無)ことが判る。
これに対して、一実施例と同じく陰極点を溶融池Bp内に押さえ込んだ比較例1によるMIG溶接方法では、表1及び図2(b),(c)に示す結果から、溶け込みの状態及び溶接ビードBの外観形状がいずれも良好(○)であるものの、溶滴移行形態が不良(×)であり、これに伴ってスパッタSが生じている(有)ことが判った。
一方、陰極点が溶融池Bp及び母材Xに跨る比較例2によるMIG溶接方法、すなわち、従来のMIG溶接方法では、表1及び図3(b),(c)に示す結果から、溶滴移行形態が良好(○)であり、これに伴ってスパッタも生じてはいない(無)が、溶け込みが浅くそして溶接ビードBが蛇行しており、溶け込みの状態及び溶接ビードBの外観形状がいずれも不良(×)であることが判った。
したがって、本発明の一実施例によるMIG溶接方法によれば、溶接コストの上昇を抑えたうえで、良好な外観形状の溶接ビードBを得ることができると共に、溶融した溶接ワイヤ5(溶接ビードB)の濡れ性の改善をも実現できることが実証できた。
本発明に係るMIG溶接方法の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
3 溶接トーチ
5 溶接ワイヤ
A アーク
B 溶接ビード
Bp 溶融池
G シールドガス
X 母材
θ 後退角

Claims (2)

  1. 定電流特性の溶接電源を用いるアーク溶接方法であって、
    シールドガスとして不活性ガスを用い、
    母材にMIG溶接用の溶接トーチを向けて、溶接ワイヤを送給しつつ前記母材と該溶接ワイヤの先端との間に溶接アークを生じさせて前記母材に溶融池を形成し、前記溶接トーチを溶接方向に移動させて溶接ビードを形成するに際して、
    溶接方向後退側に向けて前記溶接ワイヤを送給するべく前記溶接トーチに後退角をとらせて、前記溶接アークを前記溶融池に向けると共に前記溶接トーチが前記溶融池に接触しないように前記溶接アークの長さを電圧の調整により詰めて該溶接アークの広がりを前記溶融池内に止める
    ことを特徴とするMIG溶接方法。
  2. 定電流特性の溶接電源を用いるアーク溶接方法であって、
    シールドガスとしての不活性ガスを用い、
    前記不活性ガスが純アルゴンガスであり、
    母材にMIG溶接用の溶接トーチを向けて、溶接ワイヤを送給しつつ前記母材と該溶接ワイヤの先端との間に溶接アークを生じさせて前記母材に溶融池を形成し、前記溶接トーチを溶接方向に移動させて溶接ビードを形成するに際して、
    溶接方向後退側に向けて前記溶接ワイヤを送給するべく前記溶接トーチに後退角をとらせて、前記溶接アークを前記溶融池に向けると共に前記溶接アークの長さを電圧の調整により詰めて該溶接アークの広がりを前記溶融池内に止める
    ことを特徴とするMIG溶接方法。
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