以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.本実施形態の手法
従来、回路装置に設けられる種々の温度センサーが知られている。ジャイロセンサーの例のように、温度センサーの出力を他の情報の補正等に利用することがある。その場合、温度センサーの出力が高精度でないと、当該温度センサーを補正に利用する他の情報(物理量等)の精度も低下してしまい問題となる。
仕事関数差電圧を利用した温度センサー等が知られているが、出力する温度情報(温度センサーコード)のばらつきが大きい。例えば、アナログ電圧のチップ間のばらつきが大きいことにより、安定した温度情報の出力が難しい。その場合、ばらつきを抑止するフィルター処理等が必要となり、回路構成が複雑化してしまう。
温度センサーを実現することを考慮した場合、温度に依存した信号(温度特性を有する信号)と、参照となる信号の2つが取得可能であり、且つ各信号と温度との関係が明確となっている必要がある。例えば、仕事関数差を利用した温度センサーでは、温度特性がフラットな参照信号と、温度特性がフラットでない信号とを比較することで温度を検出している。仕事関数差を利用する場合、信号とは電流値や、当該電流値をI−V変換した電圧値等を用いればよい。
なお、「温度特性がフラット」とは温度変化に対する信号値の変化が充分に小さい特性を表す。理想的には、温度変化に対する信号値の変化が0であるがこれには限定されず、充分小さい所与の閾値δを設定した場合に、温度変化に対する信号値の変化が±δ(δは信号の絶対値を表すものであってもよいし、基準に対する変化割合でもよい)以下の場合に、温度特性がフラットであると考えてもよい。また、以下の本明細書では、温度特性がフラットである信号を「温度に依存しない信号」、温度特性がフラットでない信号を「温度に依存した信号」とも表記する。
ここで、温度に依存した信号や参照信号は、電流や電圧に限定されるものではなく、他の信号であってもよい。例えば、発振回路(発振器)の発振信号の周波数を利用することも可能である。
図1のA1は水晶振動子の発振周波数の温度特性を表す図であり、図1のA2はCR発振回路の温度特性を表す図である。図1の横軸は温度を表し、縦軸は基準温度での発振周波数に対する発振周波数の変化率を表す。
図1のA1からわかるように、水晶振動子の温度特性はフラットであり、水晶振動子の発振信号は参照信号として利用可能である。一方、図1のA2からわかるように、CR発振回路は温度が変化した場合に周波数が変化する、すなわちCR発振回路の発振信号は温度に依存する信号として利用可能である。つまり、この2つの信号を利用して温度センサーを構成することが可能である。なお、図1のA2では5つのCR発振回路の温度特性の例を示したが、ここではいずれのCR発振回路も、温度が上昇した場合に発振周波数が曲線的に減少する特性を有する。ただし、図15を用いて後述するようにCR発振回路の温度特性は図1のA2に限定されるものではなく、直線的な特性を持たせることも可能である。
水晶振動子は、温度特性がフラットで安定した発振信号を出力できるが、発振周波数が水晶の物性により決まってしまうため、周波数の柔軟な調整が困難である。一方、CR発振回路は、温度に依存して発振周波数が変化してしまうものの、電源電圧や、容量、抵抗の値を調整することで、発振周波数の柔軟な調整が可能という利点を有する。水晶振動子に基づく発振信号を基準信号として、CR発振回路の発振信号の周波数を調整する(ロックする)ことで、安定しており且つ周波数の調整が容易な発振信号を出力する回路を実現可能であり、このような回路構成は広く知られたものである。また、水晶振動子の発振信号は比較的低い周波数(例えば数十kHz程度)であるため、A/D変換回路等を高速動作させるためのクロック信号(例えば数百kHz程度)を生成するために、CR発振回路を利用することもあり、その場合も同様の回路構成が利用される。
つまり、温度特性の異なる発振信号を出力可能な2つの発振回路を有する回路は、既に広く用いられている回路構成であるため、当該2つの発振信号に基づいて温度センサーを構成すれば、効率的に温度センサーを実現することが可能になる。ここで、効率的な温度センサーの実現とは、既存の構成を温度センサーに流用可能なことを表し、温度センサー専用の構成を追加する必要がない(或いは、追加するとしても追加構成を簡略化できる)ことを表す。
ただし、ここで想定しているのは、上述したように一方の発振信号を基準として、他方の発振信号の周波数を補正(調整、ロック)する回路装置である。具体的には上述したとおり、CR発振回路の発振信号の発振周波数は本来温度特性を有するところ、当該温度特性をフラットにすることで、周波数調整が容易で安定した発振信号(クロック信号)を供給するものである。
図2に具体的な発振周波数の温度特性の例を示す。図2の横軸は温度を表し、縦軸は発振周波数を表す。B1が一般的なCR発振回路の発振周波数の温度特性を表し、図1のA2と同様に温度が高くなるほど周波数は曲線的に減少する例を示している。それに対して、第2の発振信号の利用(例えば安定したクロック信号としての利用)を考慮すれば、B2に示したようなフラットな温度特性とすることが求められる。B3、B4は本実施形態に係るCR発振回路(広義には第2の発振回路134)の出力を表すものであり、B3が後述する図6に対応し、B4が後述する図7に対応する。B4に示したように、変調部によりデルタシグマ変調を行うことで、変調を行わない場合(B3)に比べて要求値(B2)に近い温度特性を実現できることがわかるが、いずれにせよ、CR発振回路の出力は本来の特性(B1)に比べてフラットに近いものに調整される。
つまり、温度センサーの実現のためには温度に依存した信号が求められるのに対して、本実施形態で想定する回路装置では、もともと温度に依存した信号であった発振信号の温度特性をフラットにして(温度補償をして)出力する制御が実行される。言い換えれば、CR発振回路等では、回路装置の動作においては温度特性がフラットな信号を出力するという第1の要求があり、当該第1の要求を満たすような制御が行われる。しかし、温度センサーの実現においては温度に依存した信号が必要という上記第1の要求に反する第2の要求がある。
そこで本出願人は、この相反する2つの要求を満たすために、発振周波数の補正用の情報(設定値)を温度情報の出力に利用する手法を提案する。仮に調整を行わないものとすれば、上述してきたようにCR発振回路の発振周波数は温度に応じて変化する。そのため、CR発振回路の発振信号の発振周波数を温度によらず一定にしようとすれば、当該調整用の情報は、CR発振回路の温度特性を打ち消すような情報となるため、必然的に温度に依存することになる。例えば、図1のA2に示した特性であれば、温度が高くなることでCR発振回路の発振信号の周波数が減少するため、温度が相対的に高くなった場合に発振信号の周波数を相対的に高くする設定値を、CR発振回路に入力する必要がある。つまり設定値が周波数をどれだけ増加(減少)させるための情報であるかがわかれば、そのときの温度が基準温度に対してどれだけ高い(低い)かを判定可能である。なお、具体的な流れについては後述するが、ここでの設定値は第1の発振信号を基準クロックとして、第2の発振信号から求められるものであるため、参照信号(温度特性がフラットな信号)と、温度特性がフラットでない信号との比較という温度センサーの実現において必要な処理が行われた結果として取得される情報である。
具体的には、本実施形態に係る回路装置20は図3に示すように、発振周波数の温度特性が第1の温度特性となる第1の発振信号を出力する第1の発振回路120と、発振周波数の温度特性が、第1の温度特性とは異なる第2の温度特性となる第2の発振信号を出力する第2の発振回路134と、第1の発振信号に基づいて、第2の発振回路の発振周波数を補正するための設定値を生成する調整回路130と、設定値に基づく温度情報を出力する温度情報出力部148を含む。
このようにすれば、第1の発振信号に基づいて第2の発振信号の発振周波数を調整する回路装置において、既存の構成を利用して温度センサーを実現することが可能になる。第2の発振信号は、設定値による補正が行われるため、温度特性を調整(狭義には温度特性をフラットに調整)するという上記第1の要求を満たすことが可能である。一方、温度センサーの実現には、第2の発振信号そのものではなく、調整回路130から出力される温度補償用の設定値を利用する。設定値は上述したように温度に依存する信号であるため、温度センサーを実現するための上記第2の要求も満たされる。
なお、特許文献1、2や、非特許文献1には、発振信号の周波数を温度の検出に利用する手法が開示されている。しかし、これらの従来手法は、第2の発振信号の調整に関する記載は見られない。つまり従来手法は、効率的な回路構成により、高精度の温度センサーを実現する手法を開示するものではない。
なお、第1の温度特性と第2の温度特性の差異は温度変化量に対する周波数変化量の差異を表すものである。具体的には、所与の測定温度範囲での温度変化に対する第2の発振信号の発振周波数の変化量は、測定温度範囲での温度変化に対する第1の発振信号の発振周波数の変化量に比べて大きい。
測定温度範囲とは、本実施形態に係る温度センサーを用いて測定対象とする温度範囲であり、例えば図1に示すように−40℃〜80℃といった範囲である。ただし、測定温度範囲は種々の変形実施が可能であり、−40℃〜120℃といった他の範囲を設定してもよい。
測定温度範囲での温度変化に対する発振周波数の変化量とは、狭義には測定温度範囲の上限温度での発振周波数と、測定温度範囲の下限温度での発振周波数との差分値を表す。或いは、測定温度範囲内の2点の温度を定め、一方の温度での発振周波数と他方の温度での発振周波数の差分値を求めてもよい。或いは、測定温度範囲における発振周波数の値が、温度Tに関する所与の関数f(T)で表されるのであれば、上記変化量として所与の温度T0における微分値df(T)/dT|T=T0を用いてもよい。
いずれにせよ、参照信号(基準信号)となる第1の発振信号は、温度変化に対する発振周波数の変化量が小さく、狭義には温度特性がフラットな信号である。一方、第2の発振信号とは、温度変化に対する発振周波数の変化量が相対的に大きく、温度に依存した信号である。
なお、図15等を用いて後述するように、第2の発振回路134のトランジスターを調整することで、第2の発振信号の温度特性を直線的にすることが可能である。この場合、第2の発振信号の一次の周波数温度係数は、第1の発振信号の一次の周波数温度係数に比べて大きいことになる。ここでの「一次の周波数温度係数」とは、測定温度範囲内で、温度変化に対して発振周波数が直線的に(一次関数として)変化する場合において、当該直線の傾きを表す情報である。
第1の発振信号は、例えば図1のA1に示したように傾きが0に近いフラットな温度特性であり、第2の発振信号は、例えば図15を用いて後述するように傾きが相対的に大きい温度に依存した信号である。
なお、第1の発振信号に基づく第2の発振信号の調整(発振周波数の補正)とは、具体的には第2の発振信号の発振周波数をロックするものであってもよい。具体的には、本実施形態の調整回路130は、第1の発振信号を基準クロック信号として、第2の発振信号として所与の周波数のクロック信号を生成するためのFLL(Frequency Locked Loop)回路であってもよい。この場合、調整回路130を用いることで、安定しており(温度特性がフラットに近く)、且つ所望の周波数を有するクロック信号を出力することができるため、本実施形態に係る調整回路130の出力を、種々の回路装置において汎用的に利用可能である。言い換えれば、本実施形態の手法は汎用的な信号出力のための回路構成をそのまま利用することで、温度センサーを実現することが可能である。なお、ここでのFLL回路は発振周波数をロックできる回路であればよく、PLL回路(Phase Locked Loop)回路を用いてもよい。
また、第1の発振回路120は、振動子を駆動する駆動回路であってもよい。ここでの振動子の種類は限定されないが、例えば振動子は水晶振動子であり、第1の発振回路120は当該水晶振動子に対して電力を供給して振動(駆動)させる駆動回路である。この場合、第1の発振回路120の第1の発振信号とは、所与の駆動周波数を有する駆動信号となる。上述したように、駆動信号の駆動周波数はフラットな温度特性であることが想定される。具体的な構成については後述するが、振動子は回路装置に含まれる必要はなく、第1の発振回路120は回路装置の外部に設けられる水晶振動子を駆動するものであってもよい。
以下、回路装置の構成例について説明した後、回路装置に含まれる調整回路130、第2の発振回路134、温度情報出力部148の詳細について説明し、最後に回路装置を含む電子機器等の例を説明する。なお、以下では第1の発振回路120が、振動子10である物理量トランスデューサー12を駆動する駆動回路30である場合を例にとって説明を行うが、異なる変形実施も可能である。
2.回路装置の構成例
ここでは、一旦温度センサーから離れて、第1の発振回路120(駆動回路)、第2の発振回路134及び調整回路130を含む回路装置の一般的な構成例について説明する。
図4に、本実施形態の回路装置の構成例を示す。回路装置20は、物理量トランスデューサー12を駆動する駆動回路30(第1の発振回路120)と、駆動回路30からの信号を基準クロック信号CKFとして第2の発振回路134からクロック信号OSQ(第2の発振信号)を生成するための調整回路130と、物理量トランスデューサー12からの検出信号TQの検出処理を行う検出回路60と、を含む。ただし、回路装置20は図4の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。また、種々の変形実施が可能な点は、他の図面についても同様である。
調整回路130は、基準クロック信号CKFに対する周波数比(逓倍率)を一定に保った(ロックした)クロック信号OSQを、第2の発振回路134で生成させる回路である。クロック信号OSQの位相は基準クロック信号CKFの位相に同期しなくてもよい。調整回路130は、基準クロック信号CKFとクロック信号OSQの周波数を比較する比較器131を有し、その比較器131の出力値QFD(出力信号)に対応する周波数で第2の発振回路134を発振させる。比較器131には、クロック信号OSQに基づく信号(例えば後述するCTQ)がフィードバックされる。
このフィードバックループにより、基準クロック信号CKFとクロック信号OSQの周波数比がロックされる。なお、基準クロック信号CKFは、駆動回路30内の信号に基づいて生成されるクロック信号であり、例えば物理量トランスデューサー12の駆動周波数と同じ、又は2倍の周波数のクロック信号である。
検出回路60は、クロック信号OSQに基づいて動作する回路を有する。即ち、駆動回路30からの基準クロック信号CKFに対して周波数比が一定に保たれたクロック信号OSQに基づいて、その回路は動作する。
検出回路60には、駆動信号の周波数成分を含む物理量トランスデューサー12からの検出信号TQが入力される。即ち、クロック信号OSQに基づいて動作する回路は、駆動信号の周波数成分を含む信号を処理する。本実施形態によれば、クロック信号OSQと駆動信号の周波数比を調整回路130により一定に保つことができるので、駆動周波数成分が検出回路に対して影響を及ぼすことによって発生する検出性能の劣化を低減できる。
本実施形態の検出回路60は、クロック信号OSQに基づいて動作する回路として、A/D変換回路及びデジタル信号処理部(DSP部)の少なくとも一方を有する。なお、以下では検出回路60がA/D変換回路及びデジタル信号処理部を含む場合を例に説明するが、いずれか一方を含まない場合にも本発明を適用できる。
これらの回路を、物理量トランスデューサー12を駆動する駆動回路30の駆動信号に基づく信号により動作させることも可能であるが、駆動信号の駆動周波数はそれほど高くない(例えば50〜150KHz)。このため、A/D変換回路やデジタル信号処理部などの物理量の検出用の回路の高速動作の実現が難しいという問題がある。発振回路を有するクロック信号生成回路を回路装置に設け、このクロック信号生成回路により高速のクロック信号を生成する手法を採用したとする。図5に、この場合の回路装置の比較構成例を示す。図5は、物理量トランスデューサーが振動子10(角速度センサー素子)である場合の比較構成例である。
この回路装置20は、駆動回路30、検出回路60、クロック信号生成回路70を含む。検出回路60は、振動子10からの検出信号IQを増幅する増幅回路61と、駆動回路30からの同期信号SYCにより増幅回路61からの信号を同期検波する同期検波回路81と、同期検波回路81からの信号をローパスフィルター処理するフィルター部90と、フィルター部90からの信号をA/D変換するA/D変換回路100と、A/D変換回路100からの信号をデジタル処理して角速度情報を出力するDSP部110(デジタル信号処理部)と、を含む。
DSP部110には、クロック信号生成回路70が生成したマスタークロック信号MCKが入力され、そのマスタークロック信号MCKに基づいてDSP部110が動作する。また、DSP部110は、マスタークロック信号MCKを分周してA/D変換用のクロック信号CKADを生成し、そのクロック信号CKADに基づいてA/D変換回路100がA/D変換動作を行う。
クロック信号生成回路70は、それに含まれる発振回路によりマスタークロック信号MCKを生成するので、振動子10の駆動周波数よりも高い周波数のマスタークロック信号MCKを出力できる。これにより、A/D変換回路100やDSP部110を高速動作させることが可能になる。
しかしながら、発振回路の発振周波数は、上述した温度依存性の他、製造ばらつき等の種々の要因によって変動する。例えば、発振回路としてCR発振器を想定できるが、CR発振器は、それを構成するキャパシターや抵抗、トランジスターの温度特性や製造ばらつきによって、発振周波数が一定ではない。このような発振周波数の変動が生じた場合、マスタークロック信号MCKと駆動信号の周波数比も変動することになり、駆動信号の周波数とA/D変換回路100やDSP部110の動作周波数との干渉を原因とする角速度コードのばらつきの問題が発生する可能性がある。
本実施形態では、第2の発振回路134が出力するクロック信号OSQの周波数を、温度に依存しない安定した信号にする手法を採用している。具体的には、回路装置は図6、図7等で後述する調整回路130を有し、当該調整回路130の構成例において、比較器131に入力される基準値をSCとし、分周回路133の分周比をDRとし、クロック信号OSQの周波数をFVとし、基準クロック信号CKFの周波数をFRとした場合に、FV=(SC/DR)×FRが成り立つ。
なお、基準クロック信号CKFとクロック信号OSQの位相はロック(同期)される必要はない。即ち、比較器131は周波数の比較ができる回路であればよく、位相の比較を行わなくてよい。そして、調整回路130は、基準クロック信号CKFとクロック信号OSQの周波数比をロックできる回路であればよい。
3.調整回路の構成例
次に調整回路130の詳細な構成例について説明する。まず基本構成例を説明した後、変形例を説明し、その後、具体的なパラメーターの例を挙げて調整回路130の動作例を説明する。
3.1 調整回路の基本的な構成例
図6に、本実施形態の調整回路の構成例を示す。調整回路130は、比較器131、分周回路133、カウンター回路135と、ループフィルター136を含む。
分周回路133は、駆動回路30からの基準クロック信号CKFを分周する。基準クロック信号CKFは、第1の発振信号に対応する。比較器131は、分周回路133からの分周クロック信号DVQと第2の発振回路134からのクロック信号OSQとに基づく比較対象値CTQと、比較対象値CTQの基準値SCとの比較処理を行う。例えば、比較器131は差分器であり、カウンター回路135からの比較対象値CTQと基準値SCとの比較処理(差分処理)を行い、その差分処理で求めた差分値QFDを出力する。カウンター回路135は、分周クロック信号DVQで規定される計測期間を、クロック信号OSQによってカウントすることで計測されたカウント値を、比較対象値CTQとして出力する。
具体的には、分周クロック信号DVQの周期が計測期間であり、その計測期間においてカウンター回路135がクロック信号OSQをカウントし、計測期間が終了したときのカウント値を比較対象値CTQとして出力する。比較器131は、比較対象値CTQと基準値SCとの差分に基づく出力値QFDを出力する。
比較器131と第2の発振回路134の間に設けられるループフィルター136は、出力値QFDをフィルター処理(例えば、積分処理、ローパスフィルター処理等)して設定値TRM(発振周波数設定値、トリミング値)を出力する。
第2の発振回路134は、設定値TRMが設定され、その設定値TRMに基づいて発振する。即ち、設定値TRMは、所定範囲内で複数の値をとり得る設定値であり、その設定値に応じて第2の発振回路134の発振周波数が変化するように第2の発振回路134が構成される。
比較対象値CTQと基準値SCがずれている場合、出力値QFDが変化し、設定値TRMが変化し、クロック信号OSQの周波数が変化し、比較対象値CTQが変化する。このようなフィードバック制御により第2の発振回路134の発振周波数が制御され、駆動回路30からの基準クロック信号CKFの周波数に対して周波数比が一定に保たれる。
また、調整回路130は図7に示したように、変調部137を含んでもよい。変調部137は、積分器138、ゲイン処理部139を含む。
積分器138は、比較器131の出力(比較処理の出力信号である差分値QFD)を積分し、その積分で求めた積分値ITQを出力する。具体的には、積分器138は、積分値ITQを分周クロック信号DVQの1周期分遅延させる遅延回路46(例えばラッチ回路等)と、遅延回路46の出力と積分値ITQとを加算処理する加算器44と、を含む。加算器44の出力が積分値ITQとなる。
ゲイン処理部139は、積分器138の出力(積分値ITQ)にゲイン処理を行い、そのゲイン処理された値を設定値TRMとして出力する。ゲイン処理は、積分値ITQに対してゲインを乗算する処理である。
以上の変調部137も、帰還ループにおけるフィルターと考えることができ、広義にはループフィルターの一形態である。
さて、第2の発振回路134はデジタルの設定値TRMに応じて離散的な発振周波数で発振する。そのため、設定値TRMが一定になってしまうと、離散的な発振周波数のいずれかに固定されてしまい、駆動周波数に対して所望の周波数比のクロック信号OSQが得られない(周波数比に誤差が生じる)。
この点、本実施形態によれば、調整回路130のループに変調部137を設けることで、クロック信号OSQの周波数をデルタシグマ変調できる。即ち、クロック信号OSQの周波数が変調により時系列で変化し、その平均の周波数として、駆動周波数に対して所望の周波数比のクロック信号OSQを得ることができる。
なお、図6では比較器131の出力QFDに対して、デルタシグマ変調を行わずに設定値TRMを出力する調整回路130を示し、図7ではデルタシグマ変調を行って設定値TRMを出力する調整回路130を示した。しかし調整回路130は図6、図7のいずれかの構成に限定されず、デルタシグマ変調を行わずに設定値TRMを出力する経路と、デルタシグマ変調を行って設定値TRMを出力する経路の2つの経路を有する構成であってもよい。その場合、例えば調整回路130はセレクターを有し、当該セレクターによりいずれかの経路の出力を選択、出力してもよい。
以上の構成例では、調整回路130をロジック回路(デジタル回路)により構成することが可能である。調整回路130をロジック回路で構成できることで、アナログ回路で構成する場合に比べて回路の簡素化や面積削減等を実現できる。
3.2 調整回路の変形例
図6や図7では、分周回路133は第1の発振信号である基準クロック信号CKFを分周して分周クロック信号DVQを出力し、比較器131は分周クロック信号DVQと第2の発振信号(クロック信号OSQ)に基づく比較対象値を比較処理に用いていた。また、カウンター回路135は、第1の発振信号の分周クロック信号DVQで規定される計測期間を、第2の発振信号によってカウントすることでカウント値を計測していた。
しかし本実施形態の手法はこれに限定されない。分周回路133は図8に示したように、クロック信号OSQ(第2の発振信号)を分周して分周クロック信号DVQ’を出力し、比較器131は当該分周クロック信号DVQ’と第1の発振信号(基準クロック信号CKF)に基づく比較対象値を比較処理に用いてもよい。その場合、カウンター回路135は、第2の発振信号の分周クロック信号DVQ’で規定される計測期間を、第1の発振信号によってカウントする。
言い換えれば、カウンター回路135における周波数カウントの方式として、直接カウント方式を用いてもよいし、レシプロカル方式を用いてもよい。直接カウント方式では、図6、図7を用いて上述したように、決められたゲートタイム内(第1の発振信号の分周クロック信号DVQで規定される計測期間内)に通過するパルスをカウントするものである。一方、レシプロカル方式ではパルス周期を計測し、その逆数から周波数を求めるものである。具体的には、図8に示したように計測期間を第2の発振信号の分周クロック信号DVQ’で規定し、第1の発振信号のカウントを行えばよい。
つまり本実施形態に係る調整回路130では、分周回路133は、第1の発振信号及び第2の発振信号の一方の信号を分周して分周クロック信号を出力し、比較器131は、分周クロック信号と、第1の発振信号及び第2の発振信号の他方の信号とに基づく比較対象値と、比較対象値の基準値(SC)との比較処理を行うものであればよい。
3.3 調整回路の動作例
以下、調整回路130(及び第2の発振回路134)の動作の詳細について説明する。図9に、図7の調整回路130の伝達関数を説明する図を示す。
図9の等価回路図には、各構成要素の伝達関数を記載している。SCは基準値であり、等価回路の入力である。gは積分値に乗算されるゲインである。Qは第2の発振回路134を量子化器とみなした場合の量子化ノイズである。HD2Fは、デジタル値である設定値を第2の発振回路134の発振周波数FVに変換する係数である。例えば十進数のデジタル値10を周波数200kHzに変換する場合、HD2F=200kHz/10=20kHzである。発振周波数FVは、等価回路の出力である。HF2Dは、第2の発振回路134の発振周波数FVをカウンター回路135のカウント値(比較対象値)に変換する係数である。例えば周波数200kHzをカウント値2000に変換する場合、HF2D=2000/200kHz=10ms(100Hz)である。この値は、カウンター回路135での計測期間に対応する。カウンター回路135は計測期間が終了した後に、その計測期間でカウントしたカウント値を出力するので、ループから見ると1周期前のカウント値になる。そのため、カウンター回路135の等価回路として遅延回路(z−1)が含まれる。
上記の等価回路から、調整回路130の伝達関数STF=FV/SCは式FAとなる。この伝達関数STFはローパス特性であり、そのDC特性STFDC(ω=0のときの伝達関数STF)は式FBとなる。また調整回路130のノイズ伝達関数NTF=FV/Qは式FCとなる。このノイズ伝達関数NTFはハイパス特性であり、低周波数でのノイズが小さいことが分かる。即ち、発振周波数FVを時間的に平均した場合、量子化ノイズが低減されている。
分周回路133の分周比をDRとし、駆動回路30からの基準クロック信号CKFの周波数をFRとした場合、カウンター回路135での計測期間は1/(FR/DR)=DR/FRなので、HF2D=DR/FRとなる。式FBより、DC特性はSTFDC=FV/SC=1/HF2Dなので、FV/SC=FR/DRとなり、FV=(SC/DR)×FRとなる。即ち、調整回路130が生成するクロック信号OSQの周波数FVと、駆動回路30からの基準クロック信号CKFの周波数FRとの比は、SC/DRである。
なお、上述したパラメーター(基準値SC、分周比DR、ゲイン処理部139のゲイン)は、例えば外部の処理部(例えば図22の処理部520)から回路装置20のレジスター部(例えば図22のレジスター部142)に書き込まれる構成としてもよい。
図10に、調整回路130の設定パラメーターの第1の例を示し、図11、図12に、その設定パラメーターでの動作波形例を示す。なお、図10〜図12の例、及び後述する図13、図14の例では設定値TRMを大きくするほど、第2の発振回路134の発振周波数が高くなる例を示すが、後述する図16のように設定値TRMを大きくするほど、第2の発振回路134の発振周波数が低くなるような変形実施も可能である。
図10に示すように、基準値をSC=16とし、ゲインを1とし、基準クロック信号CKFの周波数をFR=50kHzとし、分周比をDR=4とする。設定値TRMは0〜15の16階調であり、発振周波数FVの1階調のステップが2kHzであり、TRM=8のときに発振周波数FV=200kHzであるとする。この場合、DC特性としては、FV=(SC/DR)×FR=200kHzとなる。
動作開始からの時系列の変化は以下のようになる。図11のC1に示すように、積分器138の出力(積分値ITQ)の初期値を例えば0とする。このとき、C2に示すように設定値TRM=0となるのでC4に示すように発振周波数はFV=184kHzから始まる。ターゲットの200kHzよりも発振周波数FVが低いので、カウント値(比較対象値CTQ)は基準値SC=16よりも小さくなり、差分値QFD>0となる。そのため積分値ITQが増加し、設定値TRMが増加し、発振周波数FVが上昇する。これを繰り返してターゲットであるFV=200kHzに到達する。
図12は、上記の時系列変化に対応するタイミングチャートである。図12に示すように、カウンター回路135は、分周クロック信号DVQの立ち上がりでカウント値を出力する。即ち、分周クロック信号DVQの立ち上がりでカウンター回路135がリセットされ、そのリセットされたタイミングから次にリセットされるタイミングまでを計測期間としてクロック信号OSQをカウントし、そのカウント値を比較対象値CTQとして出力する。
差分器42と積分器138とゲイン処理部139は、分周クロック信号DVQの立ち上がりに同期して動作する。即ち、差分器42は、分周クロック信号DVQの立ち上がりで基準値SCと比較対象値CTQの差分値QFDを出力する。積分器138は、分周クロック信号DVQの立ち上がりで遅延回路(z−1)が動作し、積分値ITQを更新する。ゲイン処理部139は、分周クロック信号DVQの各立ち上がりで設定値TRMを出力する。
比較対象値CTQ(カウント値)、積分値ITQ、設定値TRMのタイミングチャートに記載された数値は、図11のC3、C1、C2の波形に対応している。設定値TRMが初期値であるTRM=0から、ターゲットの200kHzに対応するTRM=8に漸近していくことが分かる。
図13に、調整回路130の設定パラメーターの第2の例を示し、図14のD1〜D3に、その設定パラメーターでの動作波形例を示す。第2の例は、発振周波数FVの階調の中に、ターゲットと同一の周波数が含まれない場合の例である。
図13に示すように、基準値をSC=320とし、ゲインを1/32とし、基準クロック信号CKFの周波数をFR=50kHzとし、分周比をDR=32とする。設定値TRMは0〜15の16階調であり、発振周波数FVの1階調のステップが1kHzであり、TRM=8のときに発振周波数FV=498.2kHzであるとする。この場合、DC特性としては、FV=(SC/DR)×FR=500kHzとなる。
図14のD1〜D3に示すように、動作開始からの時系列において発振周波数FVがターゲット500kHzに漸近していくことは、上述した第1の例と同様である。第2の例では、ターゲット500kHzに近づいた後は発振周波数FVが一定ではなく、デルタシグマ変調により変動する。即ち、TRM=9でFV=499.2kHz、TRM=10でFV=500.2kHzなので、平均として500kHzとなるようにデルタシグマ変調によりTRM=9、10を行ったり来たりする。
4.温度情報出力部
次に温度情報出力部148で行われる処理について説明する。温度情報出力部148は、設定値TRMに基づく温度情報を出力する。一例としては、温度情報として設定値TRMそのものを出力してもよい。例えば、後述するように温度情報を検出信号IQの補正処理に利用する場合、温度に応じた検出信号IQの補正量を求めることができれば、補正処理は実行可能である。そのため、設定値TRMと、検出信号IQの補正量との関係をテーブル化しておき、検出回路60では設定値TRMと検出信号IQが入力された場合に、当該テーブルを参照して得られた補正量により、検出信号IQを補正すればよい。なお、ここでの補正処理とは、具体的には温度の変動による検出信号IQの変動を補償する(抑制する)温度補償処理である。
もちろん設定値TRMから温度データ(温度コード)を求め、当該温度データを種々の処理に利用してもよい。例えば、設定値TRMに基づいて、整数値であって階調数の高い(例えば256階調)データである温度データを求めてもよい。設定値TRMは第2の発振信号の周波数を調整可能な段階を表すものであって、8階調、16階調等、分解能はさほど大きくないが、図14のD2に示したように、TRMが複数の値の間で変化することで、実質的にTRMを小数として取り扱うことも可能である。例えば、図13、図14を用いて上述した例であれば、TRMが9と10を行ったり来たりすることで、平均値は9と10の間の小数(例えば9.8)となる。よって、平均値が小数となるような設定値TRMを整数化し、当該整数化後のデータを温度データとして用いてもよい。或いは、温度データがユーザーにより読み出され、利用される場合であれば、単位を℃に変換したデータを温度データとすることで利便性を高めてもよい。
設定値TRMを温度情報として何らかの処理を行う場合、或いは設定値TRMから温度データを求める場合のいずれの場合にせよ、設定値TRMと温度との関係は既知でなくてはならない。上述したように、設定値TRMは第2の発振信号の温度特性を補償するための信号であることから、設定値TRMと温度との関係は、第2の発振信号の温度特性によって決定されるものである。
例えば、図15のE1に示したように、第2の発振信号が温度上昇に伴って発振周波数が直線的に増加する温度特性を有する場合、設定値TRMは当該温度特性を補償(キャンセル)する必要があることから、図16に示すように温度上昇に伴って値が直線的に増加する温度特性を有する。なお、図16では設定値TRMは値が大きくなるほど周波数を減少させるパラメーターである例を示している。一方、図15のE2に示したように、第2の発振信号が温度上昇に伴って周波数が直線的に減少する温度特性を有する場合、設定値TRMは温度上昇に伴って値が直線的に減少する温度特性を有する。また、第2の発振信号の温度特性が、曲線的に変化する(例えば二次曲線となる)場合には、設定値TRMの温度特性も曲線的な形状となる。ただし、これらの関係は設定値TRMの値と、当該設定値TRMが設定された場合の第2の発振回路134の発振信号の発振周波数との関係によっても変化するため、上記とは異なる変形実施も可能である。
つまり、設定値TRMに基づく温度情報を出力するためには、第2の発振回路134が決定された後に、設定値TRMの温度特性を求めておく必要がある。一例としては、第2の発振回路134を含む回路装置20の実装後に、所与の温度Tと当該温度での設定値TRMの組(T,TRM)を複数求め、当該複数の点から設定値TRMの温度特性を表す近似式を求めればよい。例えば、TRM=g(T)となる関数gを近似式として求めておけば、所与の設定値TRMが出力された場合の温度Tは、gの逆関数g−1を用いて、T=g−1(TRM)により求めることができる。或いは、g−1に相当する関数を直接的に求めてもよい。
つまり、温度情報出力部148は、設定値TRMの温度特性の近似式に基づいて温度情報を求め、求めた温度情報を出力すればよい。このようにすれば、設定値TRMが求められた場合に、当該TRMから容易に温度情報を求めることが可能になる。なお、本実施形態における温度情報出力部148は、例えば図22を用いて後述する検出回路60により実現されてもよく、さらに具体的にはDSP部110により実現されてもよい。
この近似式(上記の関数g或いはg−1)を求める処理は、回路装置20自体で行ってもよいが、他の装置で行ってもよい。例えば、回路装置20の出荷前の調整等の段階において、調整用電子機器(調整用PC等)により、近似式を求めてもよい。具体的には、特定の温度T1となるように調整された恒温槽に回路装置20を入れ、その状態での設定値TRM1を求め、T1とTRM1を組にして記憶する。同様に、特定の温度T2(≠T1)となるように調整された恒温槽に回路装置20を入れ、その状態での設定値TRM2を求め、T2とTRM2を組にして記憶する。このようにして、(T,TRM)の組を複数求める。
仮に、第2の発振信号が直線的な(一次の)温度特性を有する場合、設定値TRMの温度特性を表す近似式も一次となる。つまり、(T,TRM)の組を2つ求めることで、近似式を求めることが可能である。一方、第2の発振信号が二次の温度特性を有する場合、設定値TRMの温度特性を表す近似式も二次となるため、近似式の算出に必要な(T,TRM)の組は3つとなる。
上述したように、(T,TRM)の組を1つ求めるためには、回路装置20の温度をある程度正確な状態として動作させる必要がある。そのため、必要な(T,TRM)の組の数が増えてしまうと、近似式を求めるためのプロセスが増加してしまい、回路装置20のコスト増等につながってしまう。そのため、第2の発振信号の温度特性が直線的になるように、第2の発振回路134の設計を行うことが望ましい。
一般的に、図17等を用いて後述する構成の第2の発振回路134では、第2の発振信号の周波数は図1のA2に示したような曲線的な温度特性を有することが多い。これは、図17、図18等におけるNAND回路やインバーター回路を構成するトランジスターの特性に起因する。そのため、トランジスターのパラメーター(サイズ等)を調整することで、第2の発振信号の温度特性を変更することが可能である。例えば、図1のA2のような曲線的な温度特性ではなく、直線的な特性とすることができ、さらに直線的な特性においても図15のE1のような負の温度特性とすることもできるし、E2のような正の温度特性とすることもできる。
そのため、第2の発振信号の温度特性が直線的になるようなトランジスターのパラメーターを求めておき、当該パラメーターに従って第2の発振回路134を設計する。このような設計がされた第2の発振回路134の第2の発振信号は、傾きや切片等に差異は生じるかもしれないが、概ね直線的な温度特性となることが期待される。このようにすれば、(T,TRM)の組を2つ求めることで、上記近似式を求めることが可能となるため、具体的な傾き等はその際に製品毎に(回路装置20ごとに)決定すればよい。ただし、トランジスターの特性は製造ばらつき等によっても変化するため、直線的な温度特性を実現するためのパラメーター設定は容易とは言えず、慎重に行う必要がある。
なお、温度情報出力部148から出力された温度情報は、種々の利用が可能である。例えば、温度情報は回路装置20に含まれるメモリー(図22の不揮発性メモリー146)に記憶され、回路装置20(或いは回路装置20を含む電子機器等)を利用するユーザーにより読み出されてもよい。この場合、読み出し後の温度情報は、ユーザーによる任意の利用が可能である。或いは、温度情報は回路装置内部の処理に用いられてもよい。
具体的には、回路装置20は図23を用いて後述するように、第2の発振信号に基づくクロック信号OSQを用いて動作し、第1の発振信号に基づく検出信号IQを処理する検出回路60を含み、検出回路60は、温度情報に基づいて、検出信号の補正処理を行ってもよい。
ここでの検出信号IQとは、例えば物理量トランスデューサー12から出力される物理量であってもよい。このようにすれば、検出回路60において、検出信号IQの温度情報に基づく補正処理を行うことが可能になり、精度の高い検出信号を取得すること等が可能になる。例えば、物理量トランスデューサー12が温度に依存する信号を出力する場合、温度補償処理を行って、温度に依存しない信号に補正することが可能である。
5.第2の発振回路の例
次に第2の発振回路134の構成例を説明する。本実施形態の第2の発振回路134は、設定値TRMに基づいて電源電圧、帰還容量、負荷容量及び帰還抵抗の少なくとも1つが調整されるCR発振回路であってもよい。以下、第2の発振回路134がCR発振回路である場合を例にとって、第2の発振回路134の詳細について説明する。
本実施形態のCR発振回路は、可変容量回路及び可変抵抗回路の少なくとも一方を有する。そして、設定値TRMに応じて可変容量回路の容量値又は可変抵抗回路の抵抗値が設定されることで、CR発振回路の発振周波数(第2の発振信号の周波数)FVが設定される。
図17に、この場合の第2の発振回路134の詳細な構成例を示す。第2の発振回路134であるCR発振回路は、キャパシターCと、可変抵抗回路196(第1の周波数調整部)と、可変容量回路197(第2の周波数調整部)と、増幅回路180(バッファー回路)を有する。
CR発振回路は、電源電圧VDOSが供給されて動作して、クロック信号OSQ(発振信号)を生成する。具体的にはCR発振回路は、キャパシターと抵抗で構成されるRC回路を用いて、信号を入力に帰還して発振信号を生成する。そして、生成された発振信号を波形整形した信号がクロック信号OSQとして出力される。
増幅回路180(反転増幅回路)はインバーター回路IV0、IV1、IV2を有する。インバーター回路IV1の出力は、キャパシターCを介して、増幅回路180の入力ノードNIに帰還される。インバーター回路IV2の出力は、可変抵抗回路196(R)を介して、増幅回路180の入力ノードNIに帰還される。インバーター回路IV0の入力が増幅回路180の入力になる。
インバーター回路IV2から出力される発振信号はインバーター回路IV3により波形整形されて、矩形波のクロック信号OSQとして出力される。なお、インバーター回路IV3の後段に分周回路を設け、クロック信号OSQを分周することで得られた1又は複数のクロック信号を出力するようにしてもよい。
この構成例では、物理量トランスデューサー12と回路装置20とが接続され、調整回路130が動作する状態において、設定値TRMに基づいて可変容量回路197の容量値が設定される。これにより、CR発振回路の発振周波数が調整回路130のループにより制御される。可変容量回路197は、その容量値が可変に調整可能な回路になっており、可変容量回路197の容量値を変化させることで、RC回路の容量値が変化して、CR発振回路の発振周波数が設定される。
一方、物理量トランスデューサー12と回路装置20とが接続される前において、CR発振回路の発振周波数が、可変抵抗回路196により調整される。このとき、CR発振回路の発振周波数は、ターゲットの発振周波数(干渉周波数を避けた周波数)の近傍に調整される。即ち、設定値TRMにより設定できる発振周波数の範囲に、ターゲットの発振周波数(干渉周波数を避けた周波数)が入るように、可変抵抗回路196の抵抗値が調整される。可変抵抗回路196は、その抵抗値が可変に調整可能な回路になっており、可変抵抗回路196の抵抗値を変化させることで、RC回路の抵抗値が変化して、CR発振回路の発振周波数が設定される。
このようにすることで、本実施形態では、物理量トランスデューサー12と回路装置20とが接続される前の状態での、発振周波数の調整(粗調整)と、物理量トランスデューサー12と回路装置20とが接続された状態での、調整回路130による発振周波数のロック(駆動周波数と発振周波数の比を一定に保つ制御)を実現できる。これにより、干渉周波数を避けた周波数のクロック信号OSQを生成することが可能になる。
なお、図17ではCR発振回路が可変容量回路197及び可変抵抗回路196の両方を含み、可変容量回路197の容量値が設定値TRMに応じて設定される場合を例に説明したが、CR発振回路の構成はこれに限定されない。例えば、可変容量回路197及び可変抵抗回路196の一方を含まなくてもよい。或いは、可変抵抗回路196の抵抗値が設定値TRMに応じて設定されることで、発振周波数が制御されてもよい。或いは、不図示の電圧生成回路を含み、その電圧生成回路が設定値TRMに応じて電源電圧VDOSを変更することで、発振周波数が制御されてもよい。或いは、不図示の電圧生成回路を含み、その電圧生成回路が生成する電源電圧VDOSが粗調整されることで、発振周波数が粗調整されてもよい。
図18に、CR発振回路を構成する増幅回路180、可変抵抗回路196及び可変容量回路197の詳細な構成例を示す。
増幅回路180は、NAND回路NA、インバーター回路IV1、IV2を有する。インバーター回路IV1の出力は、キャパシターCを介して、増幅回路180の入力ノードNIに帰還される。インバーター回路IV2の出力は、可変抵抗回路196を介して、増幅回路180の入力ノードNIに帰還される。NAND回路NAの第1の入力が、増幅回路180の入力になり、NAND回路NAの第2の入力にはイネーブル信号ENが入力される。イネーブル信号ENがHレベルになるとCR発振回路が動作イネーブル状態に設定され、イネーブル信号ENがLレベルになると動作ディスエーブル状態に設定される。
可変抵抗回路196は、直列接続される複数の抵抗素子R1〜R6と、複数の抵抗素子R1〜R6の各抵抗素子に対して各ヒューズ素子が並列に接続される複数のヒューズ素子FU1〜FU6(広義にはスイッチ素子)を有する。例えばヒューズ素子FU1は抵抗素子R1と並列に接続され、ヒューズ素子FU2は抵抗素子R2と並列に接続される。ヒューズ素子FU3〜FU6と抵抗素子R3〜R6の接続構成も同様である。また可変抵抗回路196は、複数の抵抗素子R1〜R6に直列接続される基準抵抗素子R7を有する。即ち、複数の抵抗素子R1〜R6及び基準抵抗素子R7は、増幅回路180の出力ノードNQと入力ノードNIとの間に直列接続される。
可変容量回路197は、可変容量素子CV1〜CV4と容量制御電圧出力回路BC1〜BC4を有する。可変容量素子CV1〜CV4の一端は、増幅回路180の出力ノードNQに接続され、他端は容量制御電圧出力回路BC1〜BC4の出力に接続されている。可変容量素子CV1〜CV4は、容量制御電圧出力回路BC1〜BC4が出力した容量制御電圧により容量が変化する素子である。容量制御電圧は、設定値TRMに対応した電圧に設定される。可変容量素子CV1〜CV4は例えばバリキャップ(バラクター)などにより実現できる。可変容量回路197は、例えばバイナリーに重みづけられた可変容量素子のアレイにより実現することができ、この場合には容量制御電圧による制御はハイレベルとローレベルの2値制御になる。例えば、設定値TRMが4ビットの場合、そのLSB側から第1〜第4のビットの論理レベルを、それぞれ容量制御電圧出力回路BC1〜BC4が出力する。
次に可変抵抗回路196を用いた発振周波数の調整手法について説明する。発振周波数の調整については、半導体ウェハープロセスによるトランジスターや抵抗などの素子ばらつきに対して、可変抵抗回路196を用いて所望の発振周波数に調整することを目的としている。
図18の可変抵抗回路196の抵抗素子R1〜R6の抵抗値は例えばバイナリーで重み付けされている。例えばR1〜R6の各抵抗素子は、1又は複数のユニット抵抗により構成されている。例えばR1は20=1個の抵抗ユニットで構成され、R2は直列接続された21=2個の抵抗ユニットにより構成され、R3は直列接続された22個の抵抗ユニットにより構成される。同様に、R4、R5、R6は、各々、直列接続された23個、24個、25個の抵抗ユニットにより構成される。従って、ユニット抵抗の抵抗値をRUとすると、R1の抵抗値は20×RU(=RU)、R2の抵抗値は21×RU(=2×RU)、R3の抵抗値は22×RU、R4の抵抗値は23×RU、R5の抵抗値は24×RU、R6の抵抗値は25×RUに設定される。
一方、R7は、基準となる発振周波数を設定するための基準抵抗素子であり、R7の抵抗値である基準抵抗値をRBとすると、RBは例えばR6と同程度の抵抗値に設定できる。このように設定することで、可変抵抗回路196の抵抗値を所定範囲内(例えばRB〜RB+RU×(26−1)の範囲)で可変に設定できるようになる。
図18に示すように、FU1〜FU6の各ヒューズ素子は、R1〜R6の各抵抗素子と並列に設けられている。そしてヒューズカット前においては、全てのヒューズ素子FU1〜FU6が非カット状態となっている。従って、可変抵抗回路196の抵抗値は、R7の基準抵抗値RB(正確には、RB+ヒューズ素子等の寄生抵抗値)に設定される。そして、この状態でCR発振回路の発振周波数が計測される。計測された発振周波数をfrとすると、例えば下式(1)に示すようにfrの一次式で表されるトリミング式によりヒューズ値が計算される。なおa、bは定数である。
ヒューズ値=a×fr+b (1)
計算されたヒューズ値に基づいて、ヒューズ素子FU1〜FU6のいずれをカット(トリミング)するかが決定される。例えばトリミング式で計算されたヒューズ値に基づいて、ヒューズ素子FU1、FU3、FU4、FU5がカットされたとする。この場合には、可変抵抗回路196の抵抗値は、RB+R1+R3+R4+R5(+寄生抵抗値)になる。
具体的にはヒューズ値(整数に変換した後のヒューズ値)をバイナリー表現のデータに変換することで、カットするヒューズ素子を決定できる。例えばヒューズ値=1=20であれば、ヒューズ素子FU1をカットし、ヒューズ値=2=21であれば、ヒューズ素子FU2をカットする。また、ヒューズ値=3=20+21であれば、ヒューズ素子FU1及びFU2をカットし、ヒューズ値=4=22であれば、ヒューズ素子FU3をカットし、ヒューズ値=5=20+22であれば、ヒューズ素子FU1及びFU3をカットする。即ち、ヒューズ素子FU1がバイナリー表現のヒューズ値のLSBに相当し、ヒューズ素子FU2がLSBの次のビットに相当し、ヒューズ素子FU3がその次のビットに相当する。同様にヒューズ素子FU6はバイナリー表現のヒューズ値のMSBに相当する。そしてヒューズ値のLSBが1であれば、ヒューズ素子FU1をカットし、0であればカットしない。LSBの次のビットが1であれば、ヒューズ素子FU2をカットし、0であればカットしない。
また、図17、図18では可変容量回路として、負荷容量を変更可能な回路を示したが、CR発振回路における容量は負荷容量に限定されず、帰還容量であってもよい。
図19は、帰還容量が可変であるCR発振回路の例を示す。図17と比較した場合、負荷容量であった可変容量回路197が除かれている。また、帰還容量であるキャパシターCが可変容量回路198に置き換えられている。可変容量回路198の具体的な構成は種々考えられるが、例えば図18を用いて上述した可変容量回路197と同様の構成とすればよい。このように、帰還容量を可変とすることでCR発振回路の発振周波数を調整してもよい。
また、以上では第2の発振回路134がCR発振回路である場合を例に説明したが、第2の発振回路134はこの構成に限定されない。例えば、第2の発振回路134は、図20に示す構成であってもよい。
図20に示す第2の発振回路134は、設定値TRMをD/A変換するD/A変換回路72と、D/A変換回路72からのアナログの出力電圧DAQに基づいて発振する電圧制御発振器74と、を含む。この第2の発振回路134を本実施形態の調整回路130に適用した場合、設定値TRMに応じてD/A変換回路72の出力電圧DAQが変化し、それに応じてクロック信号OSQの周波数が変化し、その周波数が比較器131とループフィルター136を介して設定値TRMにフィードバックされる。アナログの出力電圧DAQは離散的な電圧値をとるが、図7等で説明したようにデルタシグマ変調により平均として所望の周波数となるクロック信号OSQが出力される。
例えば、第2の発振回路134は、設定値TRMに基づいて電源電圧及び負荷容量の少なくとも一方が調整されるリングオシレーターであってもよい。一例としては、図20の電圧制御発振器74を図21に示したリングオシレーターにより実現することが考えられる。なお、図21では3つのインバーター回路(IVRO1〜IVRO3)を用いたリングオシレーターを示したが、リングオシレーターは奇数個のインバーター回路により実現可能であることが知られており、段数は3に限定されるものではない。また、インバーター回路の段数以外についても、図21とは異なる構成によりリングオシレーターを実現することが可能である。
リングオシレーターは電源電圧により発振周波数を調整できることが知られており、設定値TRMに基づく電源電圧(出力電圧DAQ)を当該リングオシレーターに供給することで、所望の周波数の発振信号を出力することが可能になる。なお、リングオシレーターの発振周波数は負荷容量CROの大きさでも変更できることが知られている。よって、リングオシレーターは、設定値TRMに基づいて負荷容量CROが調整されるものであってもよい。例えば、負荷容量CROを、可変容量回路197と同様の構成により実現してもよい。また、リングオシレーターは、設定値TRMに基づいて電源電圧と負荷容量CROの両方が調整されるものであってもよい。
6.電子機器、ジャイロセンサー
以上では本実施形態に係る回路装置20について説明した。ただし本実施形態の手法は回路装置に限定されず、他の機器に適用してもよい。例えば、本実施形態の手法は、回路装置20と物理量トランスデューサー12と、を含む物理量センサーに適用できる。以下、物理量トランスデューサー12が角速度を求める振動子10であり、物理量センサーが角速度情報を出力するジャイロセンサーである例を説明するが、他の物理量を求める物理量トランスデューサーを用いてもよい。
また、回路装置20とともに用いられる素子は物理量トランスデューサー12に限定されるものではなく、他の振動子を利用することも可能である。言い換えれば、本実施形態の手法は、回路装置20と振動子と、を含む発振器に適用できる。この場合、回路装置20の第1の発振回路120は上述したように駆動回路30であり、振動子は当該駆動回路30により駆動される(電源を供給され振動する)素子であってもよい。ここでの振動子とは、例えば圧電素子(ピエゾ素子)であり、狭義にはセラミック発振子であってもよい。発振器は発振信号を出力可能であればよく、物理量センサーのように何らかの物理量を出力するものでなくてよい。
また、本実施形態の手法は、上記回路装置を含む電子機器、移動体に適用することもできる。以下、物理量トランスデューサー、電子機器、移動体等の構成例について説明する。
図22に、本実施形態の回路装置20、この回路装置20を含むジャイロセンサー510(広義には物理量センサー、物理量検出装置)、このジャイロセンサー510を含む電子機器500の詳細な構成例を示す。
なお回路装置20、電子機器500、ジャイロセンサー510は図22の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。また本実施形態の電子機器500としては、デジタルカメラ、ビデオカメラ、スマートフォン、携帯電話機、カーナビゲーションシステム、ロボット、生体情報検出装置、ゲーム機、時計、健康器具、或いは携帯型情報端末等の種々の機器を想定できる。また以下では、物理量トランスデューサー(角速度センサー素子)が圧電型の振動子(振動片、振動ジャイロ)であり、センサーがジャイロセンサーである場合を例にとり説明するが、本発明はこれに限定されない。例えばシリコン基板などから形成された静電容量検出方式の振動ジャイロや、角速度情報と等価な物理量や角速度情報以外の物理量を検出する物理量トランスデューサー等にも本発明は適用可能である。
電子機器500は、ジャイロセンサー510と処理部520を含む。またメモリー530、操作部540、表示部550を含むことができる。CPU、MPU等で実現される処理部520(外部の処理装置)は、ジャイロセンサー510等の制御や電子機器500の全体制御を行う。また処理部520は、ジャイロセンサー510により検出された角速度情報(広義には物理量)に基づいて処理を行う。例えば角速度情報に基づいて、手ぶれ補正、姿勢制御、GPS自律航法などのための処理を行う。メモリー530(ROM、RAM等)は、制御プログラムや各種データを記憶したり、ワーク領域やデータ格納領域として機能する。操作部540はユーザーが電子機器500を操作するためのものであり、表示部550は種々の情報をユーザーに表示する。
ジャイロセンサー510(物理量検出装置)は、振動子10と回路装置20を含む。振動子10(広義には物理量トランスデューサー、角速度センサー素子)は、水晶などの圧電材料の薄板から形成される圧電型振動子である。具体的には、振動子10は、Zカットの水晶基板により形成されたダブルT字型の振動子である。
回路装置20は、駆動回路30、調整回路130、検出回路60、制御部140、レジスター部142、出力部144(インターフェース部)、不揮発性メモリー146、演算処理部150を含む。なお、これらの構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
調整回路130は、駆動回路30からの信号に基づいてクロック信号を生成する。検出回路60は、A/D変換回路100、DSP部110を含み、これらA/D変換回路100、DSP部110と、演算処理部150、制御部140は、調整回路130からのクロック信号又は、それを分周したクロック信号で動作する。
制御部140は、回路装置20の制御処理を行う。この制御部140は、ロジック回路(ゲートアレイ等)やプロセッサー等により実現できる。回路装置20での各種のスイッチ制御やモード設定等はこの制御部140により行われる。
駆動回路30は、駆動信号DQを出力して振動子10を駆動する。例えば振動子10からフィードバック信号DIを受け、これに対応する駆動信号DQを出力することで、振動子10を励振させる。検出回路60は、駆動信号DQにより駆動される振動子10から検出信号IQ1、IQ2(検出電流、電荷)を受け、検出信号IQ1、IQ2から、振動子10に印加された物理量に応じた所望信号(コリオリ力信号)を検出(抽出)する。
振動子10は、基部1と、連結腕2、3と、駆動腕4、5、6、7と、検出腕8、9を有する。矩形状の基部1に対して+Y軸方向、−Y軸方向に検出腕8、9が延出している。また基部1に対して−X軸方向、+X軸方向に連結腕2、3が延出している。そして連結腕2に対して+Y軸方向、−Y軸方向に駆動腕4、5が延出しており、連結腕3に対して+Y軸方向、−Y軸方向に駆動腕6、7が延出している。なおX軸、Y軸、Z軸は水晶の軸を示すものであり、各々、電気軸、機械軸、光学軸とも呼ばれる。
駆動回路30からの駆動信号DQは、駆動腕4、5の上面に設けられた駆動電極と、駆動腕6、7の側面に設けられた駆動電極に入力される。また駆動腕4、5の側面に設けられた駆動電極と、駆動腕6、7の上面に設けられた駆動電極からの信号が、フィードバック信号DIとして駆動回路30に入力される。また検出腕8、9の上面に設けられた検出電極からの信号が、検出信号IQ1、IQ2として検出回路60に入力される。なお検出腕8、9の側面に設けられたコモン電極は例えば接地される。
駆動回路30により交流の駆動信号DQが印加されると、駆動腕4、5、6、7は、逆圧電効果により矢印Aに示すような屈曲振動(励振振動)を行う。即ち、駆動腕4、6の先端が互いに接近と離間を繰り返し、駆動腕5、7の先端も互いに接近と離間を繰り返す屈曲振動を行う。このとき駆動腕4、5と駆動腕6、7とが、基部1の重心位置を通るY軸に対して線対称の振動を行っているので、基部1、連結腕2、3、検出腕8、9はほとんど振動しない。
この状態で、振動子10に対してZ軸を回転軸とした角速度が加わると(振動子10がZ軸回りで回転すると)、コリオリ力により駆動腕4、5、6、7は矢印Bに示すように振動する。即ち、矢印Aの方向とZ軸の方向とに直交する矢印Bの方向のコリオリ力が、駆動腕4、5、6、7に働くことで、矢印Bの方向の振動成分が発生する。この矢印Bの振動が連結腕2、3を介して基部1に伝わり、検出腕8、9が矢印Cの方向で屈曲振動を行う。この検出腕8、9の屈曲振動による圧電効果で発生した電荷信号が、検出信号IQ1、IQ2として検出回路60に入力される。ここで、駆動腕4、5、6、7の矢印Bの振動は、基部1の重心位置に対して周方向の振動であり、検出腕8、9の振動は、矢印Bとは周方向で反対向きの矢印Cの方向での振動である。検出信号IQ1、IQ2は、駆動信号DQに対して位相が90度だけずれた信号になる。
例えば、Z軸回りでの振動子10(ジャイロセンサー)の角速度をωとし、質量をmとし、振動速度をvとすると、コリオリ力はFc=2m・v・ωと表される。従って検出回路60が、コリオリ力に応じた信号である所望信号を検出することで、角速度ωを求めることができる。そして求められた角速度ωを用いることで、処理部520は、手振れ補正、姿勢制御、或いはGPS自律航法等のための種々の処理を行うことができる。
なお図22では、振動子10がダブルT字型である場合の例を示しているが、本実施形態の振動子10はこのような構造に限定されない。例えば音叉型、H型等であってもよい。また振動子10の圧電材料は、水晶以外のセラミックスやシリコン等の材料であってもよい。
図23に回路装置の駆動回路30、検出回路60の詳細な構成例を示す。
駆動回路30は、振動子10からのフィードバック信号DIが入力される増幅回路32と、自動ゲイン制御を行うゲイン制御回路40と、駆動信号DQを振動子10に出力する駆動信号出力回路50を含む。また同期信号SYCを検出回路60に出力する同期信号出力回路52を含む。なお、駆動回路30の構成は図23に限定されず、これらの構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
増幅回路32(I/V変換回路)は、振動子10からのフィードバック信号DIを増幅する。例えば振動子10からの電流の信号DIを電圧の信号DVに変換して出力する。この増幅回路32は、演算増幅器、帰還抵抗素子、帰還キャパシターなどにより実現できる。
駆動信号出力回路50は、増幅回路32による増幅後の信号DVに基づいて、駆動信号DQを出力する。例えば駆動信号出力回路50が、矩形波(又は正弦波)の駆動信号を出力する場合には、駆動信号出力回路50はコンパレーター等により実現できる。
ゲイン制御回路40(AGC)は、駆動信号出力回路50に制御電圧DSを出力して、駆動信号DQの振幅を制御する。具体的には、ゲイン制御回路40は、信号DVを監視して、発振ループのゲインを制御する。例えば駆動回路30では、ジャイロセンサーの感度を一定に保つために、振動子10(駆動用振動子)に供給する駆動電圧の振幅を一定に保つ必要がある。このため、駆動振動系の発振ループ内に、ゲインを自動調整するためのゲイン制御回路40が設けられる。ゲイン制御回路40は、振動子10からのフィードバック信号DIの振幅(振動子の振動速度v)が一定になるように、ゲインを可変に自動調整する。このゲイン制御回路40は、増幅回路32の出力信号DVを全波整流する全波整流器や、全波整流器の出力信号の積分処理を行う積分器などにより実現できる。
同期信号出力回路52は、増幅回路32による増幅後の信号DVを受け、同期信号SYC(参照信号)を検出回路60に出力する。この同期信号出力回路52は、正弦波(交流)の信号DVの2値化処理を行って矩形波の同期信号SYCを生成するコンパレーターや、同期信号SYCの位相調整を行う位相調整回路(移相器)などにより実現できる。
また同期信号出力回路52は基準クロック信号CKFを調整回路130に出力する。例えば同期信号出力回路52は、正弦波の信号DVの2値化処理を行うコンパレーターを含む。そして、例えばコンパレーターの出力信号を第1のバッファー回路でバッファリングした信号が同期信号SYCになり、コンパレーターの出力信号を第2のバッファー回路でバッファリングした信号が基準クロック信号CKFとなる。これにより基準クロック信号CKFと同期信号は例えば周波数が同じ信号になる。なお、同期信号SYCの生成用の第1のコンパレーターと、基準クロック信号CKFの生成用の第2のコンパレーターを設けてもよい。
検出回路60は、増幅回路61、同期検波回路81、フィルター部90、A/D変換回路100、DSP部110を含む。増幅回路61は、振動子10からの第1、第2の検出信号IQ1、IQ2を受けて、電荷−電圧変換や差動の信号増幅やゲイン調整などを行う。同期検波回路81は、駆動回路30からの同期信号SYCに基づいて同期検波を行う。フィルター部90(ローパスフィルター)は、A/D変換回路100の前置きフィルターとして機能する。またフィルター部90は、同期検波によっては除去しきれなかった不要信号を減衰する回路としても機能する。A/D変換回路100は、同期検波後の信号のA/D変換を行う。DSP部110はA/D変換回路100からのデジタル信号に対してデジタルフィルター処理やデジタル補正処理などのデジタル信号処理を行う。デジタル補正処理としては、例えばゼロ点補正処理や感度補正処理などがある。
なお、例えば振動子10からの電荷信号(電流信号)である検出信号IQ1、IQ2は、電圧信号である駆動信号DQに対して位相が90度遅れる。また増幅回路61のQ/V変換回路等において位相が90度遅れる。このため、増幅回路61の出力信号は駆動信号DQに対して位相が180度遅れる。従って、例えば駆動信号DQ(DV)と同相の同期信号SYCを用いて同期検波することで、駆動信号DQに対して位相が90度遅れた不要信号等を除去できるようになる。
図24のF1に本実施形態の回路装置20を含む移動体の例を示す。本実施形態の回路装置20は、例えば、車、飛行機、バイク、自転車、或いは船舶等の種々の移動体に組み込むことができる。移動体は、例えばエンジンやモーター等の駆動機構、ハンドルや舵等の操舵機構、各種の電子機器を備えて、地上や空や海上を移動する機器・装置である。図24のF1は移動体の具体例としての自動車206を概略的に示している。自動車206には、振動子10と回路装置20を有するジャイロセンサー510(センサー)が組み込まれている。ジャイロセンサー510は車体207の姿勢を検出することができる。ジャイロセンサー510の検出信号は車体姿勢制御装置208に供給される。車体姿勢制御装置208は例えば車体207の姿勢に応じてサスペンションの硬軟を制御したり個々の車輪209のブレーキを制御したりすることができる。その他、こういった姿勢制御は二足歩行ロボットや航空機、ヘリコプター等の各種の移動体において利用されることができる。姿勢制御の実現にあたってジャイロセンサー510は組み込まれることができる。
図24のF2、F3に示すように、本実施形態の回路装置はデジタルスチルカメラや生体情報検出装置(ウェアラブル健康機器。例えば脈拍計、歩数計、活動量計等)などの種々の電子機器に適用できる。例えばデジタルスチルカメラにおいてジャイロセンサーや加速度センサーを用いた手ぶれ補正等を行うことができる。また生体情報検出装置において、ジャイロセンサーや加速度センサーを用いて、ユーザーの体動を検出したり、運動状態を検出できる。またF4に示すように、本実施形態の回路装置はロボットの可動部(アーム、関節)や本体部にも適用できる。ロボットは、移動体(走行・歩行ロボット)、電子機器(非走行・非歩行ロボット)のいずれも想定できる。走行・歩行ロボットの場合には、例えば自律走行に本実施形態の回路装置を利用できる。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、回路装置、物理量センサー、発振器、電子機器、移動体等の構成、振動子の構造等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。