以下、図面を参照して、本発明による摩擦試験機の実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されない。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る摩擦試験機1の構成を示す図である。第1実施形態に係る摩擦試験機1は、第1試料片31を回転させるとともに、回転する第1試料片31に対し、湿式潤滑剤33を介して第2試料片32を押し付けて、摩擦試験を行う。摩擦試験機1は、湿式潤滑剤33の耐焼き付き性の評価に使用し得る。具体的には、摩擦試験機1は、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重を測定する。
図1に示すように、摩擦試験機1は、本体部2、制御装置4、演算装置5、及び出力装置6を備える。更に、摩擦試験機1は、温度コントローラー7を備える。まず、本体部2について説明する。
本体部2は、第1駆動装置21、支持軸22、トルクセンサー23、収容槽24、荷重センサー25、プレッシャーロッド26、及び第2駆動装置27を備える。本体部2は更に、試料片温度センサー28、潤滑剤温度センサー71、及び加熱部材72を備える。
第1駆動装置21は、例えばモーターであり、支持軸22を所定の回転速度で回転させる。好適には、第1駆動装置21は、第1試料片31と第2試料片32との相対速度が実際の摩擦条件に適合する回転速度で、支持軸22を回転させる。例えば第1駆動装置21は、支持軸22を1000rpm以下の回転速度で回転させ得る。
支持軸22は、第1軸22a、第2軸22b、及び試料片ホルダー22cを含む。トルクセンサー23は、第1軸22aと第2軸22bとの間に配置されて、第1軸22a及び第2軸22bに接続される。第1駆動装置21が駆動すると、第1軸22aが回転し、第1軸22aから第2軸22bへ、トルクセンサー23を介して動力が伝達される。その結果、第2軸22bが回転する。トルクセンサー23には、回転トルクメーターを使用し得る。回転トルクメーターにより、第1軸22aと第2軸22bとは同軸上に配置される。
支持軸22は、第1試料片31を支持して、第1試料片31を第2試料片32に対向させる。第1実施形態では、試料片ホルダー22cが、第2軸22bの先端側に取り付けられて、第1試料片31を保持する。試料片ホルダー22cは、例えばナットを含み得る。試料片ホルダー22cが第1試料片31を保持する構成を採用することにより、例えば支持軸そのものを交換する構成と比べて、第1試料片31の交換が容易になる。したがって、第1試料片31の材質やサイズ等の変更が容易になる。
第1試料片31は、曲面を有する。試料片ホルダー22cは、第1試料片31の曲面が第2試料片32に対向するように、第1試料片31を保持する。第1駆動装置21が駆動すると、支持軸22(第2軸22b)の軸心を中心として第1試料片31の曲面が回転する。
トルクセンサー23は、回転する第1試料片31に作用するトルクの大きさに応じた信号を生成する。トルクの大きさは、第1試料片31に第2試料片32を押し付ける力(負荷荷重)によって変化する。第1実施形態では、回転する支持軸22(第2軸22b)に作用するトルクが、回転する第1試料片31に作用するトルクとして検知される。例えば、トルクセンサー23は、第1軸22aと第2軸22bとのねじれの程度に応じた信号を生成する。なお、第1軸22aと第2軸22bとは同軸上に配置されることが好ましい。第1軸22aと第2軸22bとを同軸上に配置することにより、トルクの測定精度を高めることができる。
第1実施形態において、第1試料片31は球体であり、第1試料片31(球体)の一部が試料片ホルダー22cから突出する。換言すると、試料片ホルダー22cから球面の一部(曲面の一例)が突出する。したがって、第1駆動装置21が駆動することにより、試料片ホルダー22cから突出する球面の一部(第1試料片31の曲面)が、支持軸22(第2軸22b)の軸心を中心に回転する。なお、第1試料片31の曲面の曲率は、一定に限定されるものではない。
第1試料片31の曲面の中心は、支持軸22(第2軸22b)の軸心上に位置することが好ましい。換言すると、第1試料片31(球体)は、第1試料片31の曲面(試料片ホルダー22cから突出する球面の一部)の中心まわりに回転することが好ましい。第1試料片31の曲面の中心が支持軸22の軸心上に位置することにより、第1試料片31に作用するトルクの測定精度を高めることができる。
収容槽24は、第2試料片32と、湿式潤滑剤33とを収容する。具体的には、収容槽24は、収容凹部を有する。第2試料片32及び湿式潤滑剤33は、収容槽24の収容凹部に収容される。
第2試料片32は、収容槽24が有する載置面24aに載置される。載置面24aは、収容槽24の収容凹部の底面によって構成される。載置面24aを平面視したときの外形は、典型的には矩形状である。
収容槽24の収容凹部は、少なくとも第1試料片31と第2試料片32との接触部(摺動部)を湿式潤滑剤33中に浸漬可能な大きさに形成される。例えば、収容槽24は、第2試料片32を収容した状態で2ccの湿式潤滑剤33を収容可能な収容凹部を有する。
第2試料片32は板状である。第2試料片32を平面視したときの外形及び寸法は、収容槽24の載置面24aと一致することが好ましい。第2試料片32を平面視したときの外形及び寸法が載置面24aと一致することにより、摩擦試験(測定)中に第2試料片32が移動(振動)し難くなる。例えば、第1試料片31の回転につられて第2試料片32が回転することを抑制できる。この結果、摩擦試験機1の測定精度を高めることができる。
第1実施形態において、第2試料片32はV字状の溝32a(凹部の一例)を有する。以下、V字状の溝32aを「V字溝32a」と記載する場合がある。V字溝32a(凹部)は、第1試料片31の曲面(試料片ホルダー22cから突出する球面の一部)と対向する位置に設けられる。V字溝32aは、摩擦試験開始時(測定開始時)に、第1試料片31の曲面と2点で接触する。なお、V字溝32aの最深部(V字の頂点)は、支持軸22の軸心上に位置することが好ましい。V字溝32aの最深部が支持軸22の軸心上に位置することにより、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重の測定精度を高めることが可能となる。
V字溝32a(凹部)は、例えば放電加工、又は機械加工(典型的には切削加工)によって形成し得る。V字溝32aの角度や深さは、第1試料片31の寸法や、試料片ホルダー22cから突出する第1試料片31の突出長さ等に応じて設定し得る。
荷重センサー25は、収容槽24とプレッシャーロッド26との間に配置される。第2駆動装置27は、プレッシャーロッド26をその長手方向に変位させて、収容槽24(載置面24a)を第1試料片31へ向けて移動させる。換言すると、第2試料片32を第1試料片31へ向けて移動させる。第2駆動装置27は、油圧式のアクチュエータ、空圧式のアクチュエータ、又は電動式のアクチュエータであり得る。あるいは、第2駆動装置27は、モーターと、ボールねじとを含み得る。
第2駆動装置27が駆動すると、第2試料片32、収容槽24(載置面24a)、及び荷重センサー25の位置がプレッシャーロッド26の長手方向に沿って変位する。その結果、回転する第1試料片31の曲面に、第2試料片32が押し付けられる。具体的には、第2試料片32のV字溝32a(凹部)が、回転する第1試料片31の曲面に押し付けられる。以下、第2試料片32を第1試料片31に押し付ける荷重を、「押し付け荷重」と記載する場合がある。
荷重センサー25は、押し付け荷重(負荷荷重)に応じた信号を生成する。荷重センサー25は、例えばロードセルである。なお、プレッシャーロッド26の軸心は、支持軸22の軸心と一致することが好ましい。プレッシャーロッド26の軸心が支持軸22の軸心と一致することにより、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重の測定精度を高めることが可能となる。
試料片温度センサー28は、第2試料片32の温度に応じた信号を生成する。第1実施形態において、試料片温度センサー28は、収容槽24に設けた孔に挿入される。詳しくは、試料片温度センサー28の温度感知部が、第2試料片32のV字溝32aの近傍に配置される。具体的には、試料片温度センサー28の温度感知部は、V字溝32aから8mm以内の範囲に位置し得る。好適には、第1試料片31の曲面(試料片ホルダー22cから突出する球面の一部)の回転中心軸上に、試料片温度センサー28の温度感知部を配置する。例えば、試料片温度センサー28の温度感知部は、第2試料片32のV字溝32aの最深部の直下に位置し得る。第1試料片31の曲面の回転中心軸上に試料片温度センサー28の温度感知部が位置することにより、第2試料片32の温度測定の精度を高めることが可能となる。なお、試料片温度センサー28は、例えば、熱電対、又はサーミスターである。
潤滑剤温度センサー71は、収容槽24(収容凹部)に収容された湿式潤滑剤33の温度に応じた信号を生成する。加熱部材72は、収容槽24に収容された湿式潤滑剤33に熱を供給する。第1実施形態において、加熱部材72は、収容槽24に設けた孔に挿入されて、収容槽24を加熱する。その結果、湿式潤滑剤33に熱が供給される。潤滑剤温度センサー71は、例えば、熱電対、又はサーミスターである。加熱部材72は、例えば、セラミックヒーターである。
続いて、制御装置4について説明する。制御装置4は、例えばコンピューターを含み得る。換言すると、制御装置4は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)のようなプロセッサーを含み得る。なお、制御装置4は、ノイマン型の動作モデルを採用したコンピューターを含んでもよいし、ステートマシンを動作モデルとするコンピューター(所謂プログラマブルコントローラー)を含んでもよい。あるいは、制御装置4は、ノイマン型の動作モデルを採用したコンピューター、及びステートマシンを動作モデルとするコンピューターの両方を含み得る。
制御装置4は、第1駆動装置21の駆動回路、及び第2駆動装置27の駆動回路を含む。制御装置4は、第1駆動装置21及び第2駆動装置27の動作を制御する。詳しくは、制御装置4は、第1試料片31が所定の回転速度で回転するように第1駆動装置21の動作を制御する。また、連続的又は段階的に押し付け荷重が増加するように第2駆動装置27の動作を制御する。なお、押し付け荷重の増加率は一定であることが好ましい。押し付け荷重の増加率が一定であることにより、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重の測定精度を高めることができる。
制御装置4は、トルクセンサー23が生成する信号に基づき、第1試料片31に作用するトルクの測定値を取得する。また制御装置4は、荷重センサー25が生成する信号に基づき、押し付け荷重の測定値を取得する。例えば、制御装置4は、押し付け荷重に対応する圧力の値を取得し得る。制御装置4は更に、試料片温度センサー28が生成する信号に基づき、第2試料片32の温度の測定値を取得する。例えば制御装置4は、A/D変換回路を含み得る。制御装置4がA/D変換回路を含む場合、制御装置4は、トルクセンサー23が生成する信号(アナログ信号)をデジタル化して、第1試料片31に作用するトルクの測定値を取得する。同様に、荷重センサー25が生成する信号(アナログ信号)をデジタル化して、押し付け荷重の測定値を取得する。また、試料片温度センサー28が生成する信号(アナログ信号)をデジタル化して、第2試料片32の温度の測定値を取得する。
制御装置4が取得したトルクの測定値(トルクデータ)、押し付け荷重の測定値(荷重データ)、及び第2試料片32の温度の測定値(温度データ)は、演算装置5に入力される。制御装置4は、トルクデータ、荷重データ、及び温度データをCSV(Comma−Separated Values)出力してもよい。例えば、制御装置4は、トルクの測定値、押し付け荷重の測定値、及び温度の測定値を取得するための制御盤と、CSV出力を実行するためのノート型パーソナルコンピューターとを含み得る。なお、CSV出力を実行するためのプログラムは、例えばVisual Basic(登録商標)を用いて作成し得る。
トルクデータ、荷重データ、及び温度データを演算装置5に入力するための媒体は、特に限定されない。例えば、トルクデータ、荷重データ、及び温度データを演算装置5に入力するための媒体として、CD(コンパクトディスク)やDVDのような記録媒体、USBメモリのような記憶装置、又はケーブルを使用し得る。同様に、制御盤からノート型パーソナルコンピューターへ各測定値を入力するための媒体として、CDやDVDのような記録媒体、USBメモリのような記憶装置、又はケーブルを使用し得る。
続いて、演算装置5、及び出力装置6について説明する。演算装置5は、トルクデータと、荷重データとに基づき、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重を検出(測定)する。演算装置5は、例えばコンピューターを含み得る。換言すると、演算装置5は、CPU又はMPUのようなプロセッサーを含み得る。例えば、演算装置5は、パーソナルコンピューターである。
具体的には、演算装置5は、第1試料片31に作用するトルクの測定値(トルクデータ)から、トルクの変化率(勾配)を算出する。例えば、演算装置5は、トルクの変化率として、単位時間当たりのトルクの増加量、又はトルクの変化の微分値を算出し得る。
更に、演算装置5は、トルクの変化率が閾値以上となるときの押し付け荷重の測定値を、湿式潤滑剤33の焼き付き荷重として検出する。閾値は演算装置5に予め設定されている。具体的には、閾値は、使用する第1試料片31及び第2試料片32の材質や、支持軸22の回転速度等に応じて予め設定する。また、演算装置5は、第2試料片32の温度データに基づいて、焼き付き発生時の第2試料片32の温度を検出する。
焼き付きは、温度上昇に伴う油膜破断などに起因して摩擦面が良好な潤滑状態を維持できなくなり、摩擦係数が急速に増大することによって発生する。したがって、焼き付きが発生するとき、第1試料片31に作用するトルクが急激に上昇する。よって、トルクの変化率に基づいて、焼き付きの発生を検知することができる。また、トルクの測定値と、押し付け荷重の測定値との対応関係から、焼き付き発生時の押し付け荷重(焼き付き荷重)を検出(測定)することができる。
演算装置5は、焼き付き荷重を示す画像、及び焼き付き発生時の第2試料片32の温度を示す画像を出力装置6から出力させる。出力装置6は、例えばディスプレイ又はプリンターを含む。出力装置6がディスプレイを含む場合、演算装置5は、ディスプレイに画像を表示させるための画像データを生成する。出力装置6がプリンターを含む場合、演算装置5は、記録紙のような被記録媒体に画像を印字させるための画像データを生成する。
続いて、温度コントローラー7について説明する。温度コントローラー7は、潤滑剤温度センサー71が生成する信号に基づき、湿式潤滑剤33の温度が所定の温度で保持されるように、加熱部材72による加熱を制御する。例えば温度コントローラー7は、加熱部材72へ供給する電力を調整して、加熱部材72による加熱を制御する。湿式潤滑剤33の温度を一定の温度に維持することにより、恒温状態での摩擦試験が可能になる。また、湿式潤滑剤33の温度を調節することにより、様々な温度環境下で摩擦試験を行うことが可能となる。よって、湿式潤滑剤33の温度と焼き付き荷重との関係を示すことが可能となる。
続いて、摩擦試験機1を用いた摩擦試験について説明する。摩擦試験機1を用いて摩擦試験を行う場合、まず、実際の摩擦条件に合わせて、第1試料片31及び第2試料片32の材質を選定する。第1試料片31の材質には、セラミックス、真鍮、及びステンレス等を使用し得る。したがって、第1試料片31として、セラミックボール、真鍮ボール、及び高炭素クロム鋼球(例えばJISで規格化されているSUJ2製の鋼球)等を使用し得る。また、第2試料片32の材質は、ダイス鋼、軟鋼、純銅、真鍮、ステンレス、及び鉄等のうちから選定し得る。更に、第1試料片31及び第2試料片32の材質や押し付け荷重等の条件から、第1試料片31の直径や第2試料片32の厚み等を選定する。
次に、第1試料片31を試料片ホルダー22cに保持させる。また、第2試料片32を収容槽24の載置面24aに載置した後、実際に使用する湿式潤滑剤33を収容槽24に注入する。
なお、実際の運動面の少なくとも一方が固体潤滑剤(例えば、ダイヤモンドライクカーボン膜)で覆われている場合には、固体潤滑剤を使用する。具体的には、実際の条件に合わせて、第1試料片31のうちの第2試料片32と接触する部分、及び、第2試料片32のうちの第1試料片31と接触する部分のうちの少なくとも一方を、固体潤滑剤によって覆うことが好ましい。
次に、ユーザーが制御装置4に、第1駆動装置21及び第2駆動装置27の動作開始(摩擦試験の開始)を指示する。その指示に応じて、第1駆動装置21及び第2駆動装置27が駆動を開始する。その結果、第1試料片31が所定の回転速度で回転する一方で、収容槽24(載置面24a)が上昇して、回転する第1試料片31に湿式潤滑剤33を介して第2試料片32のV字溝32aが接触する。なお、湿式潤滑剤33の温度を恒温状態にして摩擦試験を行う場合には、温度コントローラー7によって湿式潤滑剤33の温度を所定の温度に調節した後に、第1駆動装置21及び第2駆動装置27の動作を開始させる。
制御装置4は、荷重センサー25の出力から、第1試料片31と第2試料片32との接触を検知すると、第2駆動装置27の動作を一旦停止させる。例えば、制御装置4は、荷重センサー25の出力から、数gの押し付け荷重を取得すると、第2駆動装置27の動作を一旦停止させる。
その後、制御装置4は、第2駆動装置27の動作を再開させる。これにより、摩擦試験が行われる。具体的には、回転する第1試料片31に第2試料片32が押し付けられる。詳しくは、第1試料片31と第2試料片32とが接触した時の押し付け荷重(以下、押し付け荷重の初期値と記載する。)を基準に、徐々に押し付け荷重(負荷荷重)が増加する。その結果、押し付け荷重及びトルクが連続的に測定される。例えば、制御装置4は、押し付け荷重の初期値から連続的に押し付け荷重が増加するように第2駆動装置27の動作を制御する。
その後、ユーザーが制御装置4に、第1駆動装置21及び第2駆動装置27の動作を停止させる指令(摩擦試験の終了の指令)を与えて、摩擦試験が終了する。摩擦試験に要する時間は、第1試料片31及び第2試料片32の材質や、湿式潤滑剤33の種類等によるが、典型的には1分以内である。
摩擦試験によって得られた各種の測定データは、演算装置5に入力される。演算装置5は、ユーザーからの指示により、焼き付き荷重を検出(測定)するとともに、焼き付き発生時の第2試料片32の温度を検出(測定)する。また、演算装置5は、ユーザーからの指示により、焼き付き荷重を示す画像、及び焼き付き発生時の第2試料片32の温度を示す画像を出力装置6に出力させる。
図2は、押し付け荷重と、第1試料片31に作用するトルクとの関係の一例を示す線図(グラフ)である。詳しくは、図2は、第1試料片31に作用するトルクの変化と、押し付け荷重の変化との関係を示す。図2において、左側の縦軸は、第1試料片31に作用するトルク[N]を示し、右側の縦軸は押し付け荷重[kN]を示し、横軸は測定時間[秒]を示す。また、図2において、グラフ201はトルクの測定結果を示し、グラフ202は押し付け荷重の測定結果を示す。
図2に示すように、焼き付きが発生すると、第1試料片31に作用するトルクが急激に変化する。詳しくは、トルクの変化率(例えば、単位時間当たりのトルクの変化量)が急激に大きくなる。第1実施形態では、トルクの変化率が予め設定した閾値以上となったときの押し付け荷重が、焼き付き荷重として検出される。
以上説明した第1実施形態によれば、板状の第2試料片32にV字溝32aを形成することにより、焼き付き荷重を測定することができる。したがって、一般的なファレックス試験機と比べて、焼き付き荷重の測定を容易に行うことができる。
また、第1実施形態によれば、第2試料片32の温度を測定することにより、焼き付き発生時の摺動部の温度を検出することができる。したがって、焼き付き荷重と、焼き付き発生時の摺動部の温度との関係を得ることができる。
また、第1実施形態に係る摩擦試験機1は、第1駆動装置21の動作を制御することにより、第1試料片31の回転速度を調節することができる。よって、摩擦面の相対速度の条件を様々に変更して、耐焼き付き性の評価を行うことができる。
また、第1実施形態に係る摩擦試験機1は、加熱部材72による加熱を制御することにより、湿式潤滑剤33の温度を調節することができる。よって、幅広い温度範囲(例えば600℃以下の範囲)で耐焼き付き性の評価を行うことができる。
また、第1実施形態に係る摩擦試験機1は、第2駆動装置27の動作を制御することにより、押し付け荷重(負荷圧力)を調節することができる。よって、負荷圧力(負荷荷重)の単位時間当たりの変化量を大きくすることにより、短時間(例えば、1分以内)での耐焼き付き性の評価が可能となる。
更に、第1実施形態に係る摩擦試験機1は、収容槽24に湿式潤滑剤33を収容していない状態で摩擦試験を行うこともできる。したがって、様々な環境下(油中、大気中、高温、高負荷荷重)で耐焼き付き性の評価を行うことができる。
なお、第1実施形態では、摩擦試験時に、第1試料片31と第2試料片32との接触を検知すると、第2駆動装置27の動作を一旦停止させたが、第2駆動装置27の動作を停止させることなく押し付け荷重(負荷荷重)を増加させてもよい。
また、第1実施形態では、摩擦試験時に、押し付け荷重を連続的に増加させたが、押し付け荷重を段階的に増加させてもよい。
また、第1実施形態では、摩擦試験時に、第1試料片31と第2試料片32とが接触する前から第1試料片31を回転させたが、第1試料片31と第2試料片32とが接触した後に、第1試料片31の回転を開始してもよい。更に、この場合、押し付け荷重を所定値まで増加させた後に、第1試料片31の回転を開始してもよい。
また、第1実施形態では、第1試料片31が球体である場合を例に説明したが、第1試料片31は、球体に限定されるものではない。例えば、第1試料片31は、球体の一部の形状を有し得る。換言すると、第1試料片31の下端部の外面のみが、球面の一部を切り取った形状であり得る。具体的には、第1試料片31は、半球、又は1/3球等であり得る。
[第2実施形態]
続いて図3〜図6を参照して、第2実施形態について説明する。但し、第1実施形態と異なる事項を主に説明し、第1実施形態と重複する説明は適宜割愛する。第2実施形態は、収容槽24の構成が第1実施形態と異なる。
図3は、第2実施形態に係る収容槽24を示す側面図である。図3に示すように、収容槽24は、収容部241と、土台242と、ネジ243とを含む。収容部241は、ネジ243によって土台242に固定される。
図4(a)は、第2実施形態に係る第2試料片32を示す斜視図であり、図4(b)は、第2実施形態に係る第2試料片32を示す正面図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、第2試料片32は、幅W、長さL、及び厚みTを有する板状であり、第2試料片32を平面視したときの外形は、矩形状である。
なお、第2試料片32のV字溝32aの角度θ及び深さd(凹部の寸法)は、第1試料片31の形状、第1試料片31の寸法、及び、試料片ホルダー22cから突出する第1試料片31の突出長さ等に応じて変更し得る。詳しくは、V字溝32aの角度θ及び深さdは、試料片ホルダー22cが第2試料片32と接触することなく第1試料片31がV字溝32a(凹部)と接触する限り、任意に決定し得る。例えば、V字溝32aの角度θは、90°以上150°以下の範囲のうちから選択し得る。
図5(a)は、第2実施形態に係る収容槽24の収容部241を示す平面図であり、図5(b)は、第2実施形態に係る収容槽24の収容部241を示す断面図である。詳しくは、図5(b)は、図5(a)のVB−VB線に沿った断面を示している。図5(a)及び図5(b)に示すように、収容部241は、収容凹部241aと、ネジ孔241bとを有する。ネジ孔241bには、図3を参照して説明したネジ243が挿通される。
収容凹部241aは、図4(a)及び図4(b)を参照して説明した第2試料片32を収容する。収容凹部241aは、第2試料片32の厚みTよりも深い深さを有する。収容凹部241aを平面視したときの外形及び寸法、すなわち、載置面24aの外形及び寸法は、第2試料片32を平面視したときの外形及び寸法と略一致するか、又は一致する。具体的には、第2試料片32を平面視したときの外形が矩形状である場合、載置面24aの外形は、矩形状である。また、載置面24aの寸法は、第2試料片32の幅W及び長さLと略一致するか、又は一致する。
第2実施形態では、図3を参照して説明した土台242に収容部241を固定する際に、第2試料片32のV字溝32aの最深部が支持軸22の軸心上に位置するように収容部241の位置を調整する。図6(a)及び図6(b)は、収容部241の位置調整を実行する際の摩擦試験機1を示す図である。
収容部241の位置調整を行う際には、まず、ネジ243によって、収容部241を土台242に仮止めする。即ち、収容部241が土台242上である程度動くことが可能な程度に、ネジ243を弱く締め付ける。
その後、収容部241に第2試料片32を収容した状態で、第1試料片31を回転させつつ、収容槽24を押し上げて、例えば1kg程度の荷重で第2試料片32のV字溝32aに第1試料片31を接触させる。その結果、第2試料片32のV字溝32aの最深部が支持軸22の軸心上に位置するようになる。なお、支持軸22(第1試料片31)は、摩擦試験時よりも小さい回転速度で回転させる。具体的には、第2試料片32(V字溝32a)が摩耗しない回転速度に設定する。
第2試料片32のV字溝32aに第1試料片31を接触させた後、第1試料片31の回転、及び収容槽24の上昇を停止させる。次いで、ネジ243によって、収容部241を土台242に固定する。即ち、ネジ243を固く締め付ける。
以上説明した第2実施形態によれば、第2試料片32のV字溝32aの最深部を支持軸22の軸心上に容易に位置させることができる。
[第3実施形態]
続いて図7を参照して、第3実施形態について説明する。但し、第1実施形態及び第2実施形態と異なる事項を主に説明し、第1実施形態及び第2実施形態と重複する説明は適宜割愛する。第3実施形態は、第1試料片31が第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
図7は、第3実施形態に係る第1試料片31を示す図である。図7に示すように、第3実施形態では、第1試料片31は軸状部材(棒状部材)である。第1試料片31は、図1を参照して説明した第2軸22bと同様にトルクセンサー23と接続している。また、第1試料片31の先端面311は曲面である。例えば、第1試料片31の先端面311は、球面の一部を切り取った形状であり得る。
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、第1試料片31に作用するトルクから、焼き付き荷重を測定することが可能となる。
以上、本発明による実施形態について図面を参照しながら説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
例えば、本発明による実施形態では、湿式潤滑剤33の耐焼き付き性を評価する場合を例に説明したが、摩擦試験機1は、湿式潤滑剤33の耐焼き付き性の評価にのみ使用されるものではない。例えば摩擦試験機1は、固体潤滑剤の焼き付き性の評価にも使用し得る。固体潤滑剤の焼き付き性を評価する際には、実際の条件に合わせて、第1試料片31のうちの第2試料片32と接触する部分、及び、第2試料片32のうちの第1試料片31と接触する部分のうちの少なくとも一方を固体潤滑剤によって覆う。また、収容槽24に湿式潤滑剤33を注入することなく摩擦試験を行う。なお、摩擦試験機1を固体潤滑剤の焼き付き性の評価にのみ使用する場合は、収容槽24は省略され得る。
また、本発明による実施形態では、演算装置5が焼き付き荷重を検出(測定)し、出力装置6が、焼き付き荷重を示す画像を出力する場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。演算装置5は、第1試料片31に作用するトルクの測定値と、押し付け荷重の測定値と、第2試料片32の温度の測定値とを示す画像を出力装置6に出力させてもよい。例えば、演算装置5は、トルクの測定値と、押し付け荷重の測定値と、第2試料片32の温度の測定値との関係を示すグラフの画像を、出力装置6に出力させ得る。
また、本発明による実施形態では、湿式潤滑剤33の温度を一定の温度に維持可能な構成を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。湿式潤滑剤33の温度を一定の温度に維持する必要がない場合は、温度コントローラー7、潤滑剤温度センサー71、及び加熱部材72は省略され得る。
また、本発明による実施形態では、第2試料片32の温度を測定可能な構成を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。第2試料片32の温度の測定を必要としない場合、試料片温度センサー28は省略され得る。また、制御装置4における第2試料片32の温度の測定値を取得する機能や、演算装置5における第2試料片32の温度を示す画像を生成する機能を省略し得る。
また、本発明による実施形態では、収容槽24に湿式潤滑剤33を収容する構成を例に説明したが、第1試料片31と第2試料片32との摺動部に、例えばポンプにより湿式潤滑剤を供給してもよい。
また、本発明の実施形態では、1つの第2試料片32が載置面24aに載置されたが、本発明はこれに限定されない。複数の第2試料片32が載置面24aに載置されてもよい。例えば、2つの第2試料片32を使用する場合、一方の第2試料片32の一端に、V字溝32aの一方側の傾斜面に相当する傾斜面を形成し、他方の第2試料片32の一端に、V字溝32aの他方側の傾斜面に対応する傾斜面を形成することにより、各第2試料片32の傾斜面によってV字溝32aを形成してもよい。
また、本発明の実施形態において、第2試料片32は、V字状の溝32aによって構成される凹部を有したが、第2試料片32は、他の形状の凹部を有してもよい。例えば、第2試料片32は、三角錐又は四角錐のような角錐状の凹部、又は円錐状の凹部を有してもよい。なお、角錐状の凹部は、複数の第2試料片32を用いることにより、より容易に形成することができる。
図8(a)及び図8(b)は、第2試料片32の他例を示す平面図である。なお、図8(a)及び図8(b)には、理解を容易にするために、球状の第1試料片31を破線で示している。
図8(a)に示す第2試料片32は、三角錐状の凹部32bを有する。第2試料片32が三角錐状の凹部32bを有する場合、第1試料片31と第2試料片32とは、典型的には3点で接触する。
図8(b)に示す第2試料片32は、円錐状の凹部32cを有する。第2試料片32が円錐状の凹部32cを有する場合、第1試料片31と第2試料片32とは、典型的には線接触する。
なお、図示しないが、第2試料片32が四角錐状の凹部を有する場合、第2試料片32の凹部を平面視したときの形状は、矩形又は菱形(ダイヤモンド型)となる。この場合、第1試料片31と第2試料片32とは、典型的には4点で接触する。
また、本発明の実施形態において、第2試料片32は凹部を有したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、第2試料片32の平面と第1試料片31とを摩擦させてもよい。この場合、第1試料片31と第2試料片32とは、典型的には1点で接触する。
また、本発明の実施形態では、摩擦試験開始時(測定開始時)に第1試料片31と第2試料片32とを点接触又は線接触させたが、摩擦試験開始時(測定開始時)に第1試料片31と第2試料片32とを面接触させてもよい。
図9は、本発明の他の実施形態に係る第1試料片31と第2試料片32との接触状態を示す図である。図9では、理解を容易にするために、第2試料片32の断面を示している。図9に示す第2試料片32は、平面32dを有する。また、図9に示す第2試料片32は、第1試料片31よりも小さい剛性を有する。
摩擦試験開始時(測定開始時)に第1試料片31と第2試料片32とを面接触させる場合、回転していない第1試料片31に第2試料片32の平面32dを押し付けた後に、第1試料片31を回転させる。具体的には、回転していない第1試料片31に第2試料片32の平面32dを押し付けて、第2試料片32の平面32dの一部を第1試料片31によって凹ませる。その結果、第1試料片31と第2試料片32とが面接触する。
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下で説明する実施例に限定されるものではない。
本実施例では、図1を参照して説明した摩擦試験機1を使用した。具体的には、トルクセンサー23として回転トルクメーターを使用し、荷重センサー25としてロードセルを使用した。また、第1試料片31として、高炭素クロム軸受鋼鋼材(JISのG4805のSUSJ2)からなる1/2インチ鋼球を使用し、第1試料片31の回転速度を500rpmに設定した。また、湿式潤滑剤33としてスピンドル油を使用し、湿式潤滑剤33の温度を40℃に設定した。
第2試料片32には板状のダイス鋼を使用した。また、放電加工によって、第2試料片32にV字溝32aを形成した。第2試料片32の幅Wは20mm、第2試料片32の長さLは40mm、第2試料片32の厚みTは12mmであった(図4(a)参照)。また、V字溝32aの角度θは120°、V字溝32aの深さdは2.55mm、V字溝32aの幅は10mmであった(図4(b)参照)。
図10は、本実施例に係る測定結果を示す線図(グラフ)である。詳しくは、図10は、第1試料片31に作用するトルクの変化と、押し付け荷重の変化との関係を示す。図10において、左側の縦軸は、第1試料片31に作用するトルク[N]を示し、右側の縦軸は押し付け荷重[kN]を示し、横軸は測定時間[秒]を示す。また、図10において、グラフ201はトルクの測定結果を示し、グラフ202は押し付け荷重の測定結果を示す。
図10に示すように、焼き付きが発生すると、単位時間当たりのトルクの変化量が急激に大きくなった。本実施例では、焼き付き荷重は、1800Nであった。