以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。なお、以下では、作業機の先端のアタッチメントとしてバケット1cを備える油圧ショベルを例示するが、バケット以外のアタッチメントを備える油圧ショベルで本発明を適用しても構わない。さらに、複数の被駆動部材を連結して構成され、所定の動作平面上で動作する多関節型の作業装置を有するものであれば油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
また、以下の説明では、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。すなわち、例えば、3つのポンプ300a、300b、300cが存在するとき、これらをまとめてポンプ300と表記することがある。また、説明により接続関係が明らかな信号線等については簡単のために図示を省略することがある。
図1は、本実施の形態に係る油圧ショベルにおける掘削制御装置をその油圧駆動装置とともに示す図である。また、図2は、本発明が適用される油圧ショベルの外観を示す図である。
図1において、本発明が適用される油圧ショベルは、エンジン等の原動機により駆動される油圧ポンプ2およびパイロットポンプ43と、油圧ポンプ2からの作動油により駆動されるブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ3d及び左右の走行モータ3e、3fを含む複数の油圧アクチュエータと、これら油圧アクチュエータ3a〜3fのそれぞれに対応して設けられた複数の操作レバー装置(操作装置)4a〜4fと、油圧ポンプ2と複数の油圧アクチュエータ3a〜3fの間に接続され、操作レバー装置4a〜4fの操作量及び操作方向に応じて出力される操作信号によって制御されることにより油圧アクチュエータ3a〜3fに供給される作動油の流量及び方向を制御する複数の流量制御弁5a〜5fと、油圧ポンプ2と流量制御弁5a〜5fの間の圧力が設定値以上になった場合に開くリリーフ弁6とを有しており、これらは油圧ショベルの被駆動部材を駆動する油圧駆動装置を構成している。
油圧ショベルは、図2に示すように、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム1a、アーム1b及びバケット1c)を連結して構成された多関節型のフロント作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとで構成され、フロント作業装置1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1d及び下部走行体1eはそれぞれブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ3d及び左右の走行モータ3e、3fによりそれぞれ駆動される被駆動部材を構成する。
ブーム1a、アーム1b及びバケット1cは、フロント作業装置1Aを含む平面上で動作し、以下ではこの平面を動作平面と称することがある。つまり動作平面とは、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cの回動軸に直交する平面であり、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cの幅方向の中心に設定することができる。
ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ3d及び左右の走行モータ3e、3fの動作は、各アクチュエータ3a,3b,3c,3d,3e,3fに供給される作動油の方向及び流量を制御する流量制御弁5a〜5fの油圧駆動部50a〜55bに入力される操作信号(パイロット圧)によって指示される。操作信号は、操作レバー装置4a〜4fを介して出力されるものと、パイロットポンプ43から電磁比例弁10aを介して出力されるものがある。
また、操作レバー装置4a〜4fは油圧パイロット方式であり、それぞれオペレータにより操作される操作レバー40a〜40fの操作方向及び操作量に応じたパイロット圧をパイロットライン44a〜49bを介して流量制御弁5a〜5fの油圧駆動部50a〜55bに操作信号として供給し、これら流量制御弁を駆動する。
領域制限制御に用いる掘削制御システムは、運転室内の操作パネルの上方などオペレータの視界を遮らない位置に設置され領域制限制御の有効無効を切り替える領域制限スイッチ7と、掘削対象の目標形状(例えば法面形状)の3次元形状をポリゴンで定義した3次元施工図面、複数の目標面(線分)が連なって設定された掘削対象の目標形状の情報(目標形状情報)、当該目標形状の形成のために作業装置1Aの先端部(バケット1cの爪先)が動作すべき領域(「設定領域」と称することもある)などを含む各種情報が記憶された記憶装置20(例えば、後の図6に示すROM93やRAM94内に記憶機能として構成されている)と、車体1Bの上方に配置されたアンテナ70a(例えばGPS(Global Positioning System)アンテナ)により測位衛星から受信した測位用のデータに基づいて作業機械の位置情報を演算する位置演算装置70と、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cのそれぞれの回動支点に設けられ、フロント作業装置1Aの位置と姿勢に関する状態量としてそれぞれの回動角を検出する角度検出器8a,8b,8cと、基準面(例えば水平面)に対する車体1Bの前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出器8dと、ブーム1a用の操作レバー装置4aのパイロットライン44a,44bに設けられ、操作レバー40aの操作量としてパイロット圧(操作信号)を検出する圧力検出器60a,60bと、アーム1b用の操作レバー装置4bのパイロットライン45a,45bに設けられ、操作レバー40bの操作量としてパイロット圧(操作信号)を検出する圧力検出器61a,61bと、バケット1c用の操作レバー装置4cのパイロットライン46a,46bに設けられ、操作レバー40cの操作量としてパイロット圧(操作信号)を検出する圧力検出器62a,62bとを備えている。
また、掘削制御システムはさらに、一次ポート側がパイロットポンプ43に接続され電気信号に応じてパイロットポンプ43からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁10aと、ブーム1a用の操作レバー装置4aのパイロットライン44aと電磁比例弁10aの二次ポート側に接続され、パイロットライン44a内のパイロット圧と電磁比例弁10aから出力される制御圧の高圧側を選択し、流量制御弁5aの油圧駆動部50aに導くシャトル弁120と、ブーム1a用の操作レバー装置4aのパイロットライン44bに設置され、電気信号に応じてパイロットライン44b内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁10bと、アーム1b用の操作レバー装置4bのパイロットライン45aに設置され、電気信号に応じてパイロットライン45a内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁11aと、アーム1b用の操作レバー装置4bのパイロットライン45bに設置され、電気信号に応じてパイロットライン45b内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁11bと、バケット1c用の操作レバー装置4cのパイロットライン46aに設置され、電気信号に応じてパイロットライン46a内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁12aと、バケット1c用の操作レバー装置4cのパイロットライン46bに設置され、電気信号に応じてパイロットライン46b内のパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁12bと、記憶装置20に記憶された目標形状情報、角度検出器8a,8b,8cと傾斜角検出器8dの検出信号、および圧力検出器60a,60b,61a,61b,62a,62bの検出信号を入力し、目標形状を定義する複数の目標面上およびそれらの上方の領域である設定領域を設定すると共に、バケット1cの爪先の動作範囲を設定領域に制限する掘削制御(領域制限制御)を行うための操作信号(パイロット圧)の補正を行う電気信号を電磁比例弁10a,10b,11a,11b,12a,12bに出力する制御ユニット(制御装置)9とを備えている。
なお、操作レバー装置4aにおける操作レバー40aの操作の有無によらずパイロット圧を発生するための電磁比例弁10aとシャトル弁120の構成は、パイロットライン44aのみに設置されているが、ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b及びバケットシリンダ3cに係る他のパイロットライン44b,45,46にこれらと同様の構成を設置してパイロット圧を発生させても良い。また、パイロットライン44aにも、パイロットライン44bの電磁比例弁10bと同様の機能、すなわち、操作レバー装置4aから出力されたパイロット圧を減圧する電磁比例弁を設定しても良い。
図6は制御ユニットのハードウェア構成図、図3は制御ユニットの制御機能を示す機能ブロック図である。
図6において、制御ユニット9は、入力部91と、プロセッサである中央処理装置(CPU)92と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と、出力部95とを有している。入力部91は、操作レバー装置4からの信号、目標面を設定するための設定装置51からの信号、角度検出器8a〜8c及び傾斜角検出器8dからの信号を入力し、A/D変換を行う。ROM93は、後述するフローチャートを実行するための制御プログラムと、当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり、CPU92は、ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力部91及びメモリ93、94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力部95は、CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し、その信号を電磁比例弁10,11,12や報知装置53に出力することで、油圧アクチュエータ3a,3b,3cを駆動・制御したり、車体1B、バケット1c及び目標面等の画像を報知装置53を構成するモニタの表示画面上に表示させたり、所望の情報を報知装置53を構成するスピーカから出力させてオペレータに報知したりする。なお、図6の制御ユニット9は、記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えているが、記憶機能を有する装置であれば代替可能であり、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備える構成としても良い。
図3において、制御ユニット9は、フロント姿勢演算部9a、領域設定演算部9b、バケット先端速度の制限値演算部9c、アームシリンダ推定速度演算部9d、アームによるバケット先端速度演算部9e、ブームによるバケット先端速度の制限値演算部9f、ブームシリンダ速度の制限値演算部9g、ブーム指令の制限値演算部9h、領域制限制御の切り換え演算部9r、ブーム指令演算部9i、アーム指令の制限値演算部9j、アーム指令演算部9k、演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9z、および目標形状演算部9mの各機能を有している。なお、本稿では図3の点線で囲んだ機能9c,9d,9e,9f,9g,9h,9j,9r,9z,9i,9kを「動作制御部900」と称することがある。また、動作制御部900において一点鎖線で囲んだブーム指令演算部9iとアーム指令演算部9kを「電磁比例弁制御部910」と称することがある。
フロント姿勢演算部9aでは、角度検出器8a〜8c及び傾斜角検出器8dで検出されたブーム1a、アーム1b、バケット1cの回動角及び車体1Bの前後の傾斜角に基づいて、フロント作業装置1Aの位置と姿勢を演算する。その一例を図4により説明する。この例はフロント作業装置1Aのバケット1cの爪先(先端)P1の位置を計算する場合のものである。なお、ここでは説明の簡略化のため傾斜角検出器8dの検出値は考慮しないものとする。
図4に示したようなフロント作業装置1A及び車体1Bの各部寸法は、制御ユニット9のROM93に記憶機能として形成された記憶装置20に記憶されており、フロント姿勢演算部9aではこれらのデータと、角度検出器8a、8b、8cで検出した回動角α、β、γの各値を用いてバケット先端P1の位置を計算する。このときバケット先端P1の位置は、例えばブーム1aの回動支点を原点としたXY座標系の座標値(X,Y)として求める。当該XY座標系は車体1Bに固定した垂直面内にある直行座標系であり動作平面上に設定可能である。ブーム1aの回動支点とアーム1bの回動支点との距離をL1、アーム1bの回動支点とバケット1cの回動支点の距離をL2、バケット1cの回動支点とバケット1cの先端との距離をL3とすれば、バケット先端P1のXY座標系における座標値(X,Y)は、回動角α、β、γを用いて下記の式(1)と式(2)から求めることができる。
X=L1・sinα+L2・sin(α+β)+L3・sin(α+β+γ)…(1)
Y=L1・cosα+L2・cos(α+β)+L3・cos(α+β+γ)…(2)
領域設定演算部9bでは、目標形状演算部9mでの演算により得られる目標形状情報、又は、目標形状演算部9mで過去に演算されて記憶装置20に記憶された目標形状情報に基づいて設定領域の設定演算を行う。目標形状情報とは、フロント作業装置1Aによる掘削作業により得られる最終的な掘削対象物の形状(目標形状)をブーム1a、アーム1b及びバケット1cの中心を通過する垂直面上において連続した複数の線分で定義した情報である。当該複数の線分における各線分は、目標面とも称され、座標情報を有する2点によって規定される。すなわち、目標形状情報から掘削作業に用いる目標面(目標掘削面)の情報が取得される。
目標形状演算部9mでは、位置演算装置70で算出された作業機械の位置情報と、記憶装置20から得られる3次元施工図面とを用い、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cの中心を通過する垂直面(動作平面)で当該3次元形状を切断し、その断面の端部に連続した複数の線分として現れた形状(掘削対象の目標形状の3次元形状における表面に相当する部分の形状)を目標形状として演算し定義する。目標形状演算部9mで得られた目標形状情報は領域設定演算部9bに送られるとともに、記憶装置20に送られて記憶される。3次元施工図面などの目標形状情報の定義・取得に用いる情報は、無線等による通信や携帯型記憶装置などを介して予め取得されて記憶装置20に記憶されている。また、目標形状演算部9mは、位置演算装置70において測位衛星からの測位用データの受信環境が悪いなどの理由により位置情報の取得ができなかった場合には、目標形状の演算を行えなかった旨を演算エラー情報として演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zに送信する。なお、作業機械の位置情報を用いないで目標形状情報を取得する必要がある場合は、例えば、バケット1cの爪先等を基準にして現地で各線分の点を動作平面上に入力することで手動で目標形状を定義することもできる。
本実施の形態では、目標形状を定義する複数の目標面(線分)の中から所定の規則(例えば、バケット1cの爪先に最も近い目標面を制御対象とする規則がある)に従って制御対象の目標面が1つ選択され、その制御対象の目標面上およびその上方の領域が設定領域となる。以下では、制御対象の目標面を含む直線を「境界L」と称することがある。
境界Lは、まず、建設機械上に設定したXY座標系における直線式で規定される。さらに、必要な場合には、当該直線上に原点を持ち当該直線を一軸とする直交座標系XaYa座標系における直線式に変換しても良い。その際、XY座標系からXaYa座標系への変換データを求める。なお、境界Lの生成・選択は上記したものに限られず種々の方法が採用可能である。その一例を挙げるとすれば、XY座標系においてバケット先端(P1)と同じX座標を有する線分を3次元施工図面の断面(目標形状)から検索し、当該検索結果に係る線分を含む直線を境界Lとする方法がある。
バケット先端速度の制限値演算部9cでは、バケット先端(P1)の境界Lからの距離Dに基づき、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値aを計算する。制限値aはバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の最大値であり、バケット先端速度は常に制限値aを越えないように領域制限制御によって制御される。制限値aの計算は、制御ユニット9のROM93(記憶装置20)に図5に示すような制限値aと距離Dとの関係を記憶しておき、この関係を読み出して行う。
図5において、横軸はバケット先端の境界Lからの距離Dを示し、縦軸はバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値aを示し、横軸の距離D及び縦軸の制限値aはそれぞれ設定領域外から設定領域内に向かう方向を(+)方向としている。この距離Dと制限値aの関係は、バケット先端が設定領域内にあるときには、その距離Dに比例した(−)方向の速度をバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値aとし、バケット先端が領域外にあるときには、その距離Dに比例した(+)方向の速度をバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値aとするように定められている。したがって、設定領域内では、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分が(−)方向で制限値を越えた場合だけ減速され、設定領域外では、バケット先端が(+)方向に増速されるようになる。そして、境界L上では制限値aはゼロになるため、例えばアーム1bをクラウド動作させれば境界Lに沿った掘削動作が実現される。
アームシリンダ推定速度演算部9dでは、圧力検出器61a,61bで検出された流量制御弁5bへの指令値(パイロット圧(操作信号))と、アームの流量制御弁5bの流量特性により、アームシリンダ推定速度を推定する。すなわち、アームシリンダ推定速度は、操作レバー装置4bから出力された操作信号(パイロット圧)から推定される現在のアームシリンダ速度(推定値)である。
演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zでは、目標形状演算部9mからの演算エラー情報が無い場合(すなわち、演算が正常に行われた場合)は、アームシリンダ推定速度演算部9dで計算したアームシリンダ推定速度をそのままアームによるバケット先端速度演算部9eに出力する。一方で、目標形状演算部9mからの演算エラー情報が有る場合(すなわち、演算が正常に行われなかった場合)は、アームシリンダ推定速度演算部9dで計算した現在のアームシリンダ推定速度を所定の割合に低減するように補正する作業装置減速処理(減速処理)を行う。アームシリンダ推定速度の低減割合が例えば50%の場合、演算部9dで計算されたアームシリンダ推定速度が50%に低減されて演算部9eに出力される。なお、低減割合を低減係数(この例では0.5等)として予め設定し、アームシリンダ推定速度に掛け合わせることでも同様の補正を行うことができる。また、上記の作業装置減速処理に代えて、アームシリンダ推定速度を予め定められた最大速度に対する所定の割合の速度まで低減する作業装置減速処理を行うように構成してもよい。この場合、低減割合を例えば50%とすると、演算部9dで計算されたアームシリンダ推定速度が最大速度の50%以下に低減されて演算部9eに出力される。
また、演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zでは、領域制限スイッチ7のON状態が選択されている場合(すなわち、領域制限制御を有効とすることが選択され許可されている場合)に、演算エラー情報が入力されて作業装置減速処理を実施した場合には、作業装置減速処理を実施した旨の情報を報知装置53に出力し、スピーカからの音(音声を含む)の出力やモニタの表示画面上への文字・アイコン等の表示によって、作業装置減速処理の実施をオペレータに報知する(報知処理)。一方、領域制限スイッチ7のOFF状態が選択されている場合(すなわち、領域制限制御を無効とすることが選択され禁止されている場合)には、報知装置53への情報の出力は行わない。これにより、目標形状の演算が正常に行われず、領域制限制御が既知の目標形状の情報に基づいてしか行われないという制限付きの状態であること、及び、作業装置の動作速度の減速を伴う処理を行うことをオペレータに事前に報知することができる。なお、作業装置減速処理によって作業装置の動作速度は大きく制限される(減速される)ため、オペレータは演算エラー情報が出力されるような状況(目標形状の演算ができないことにより、領域制限制御に制限がかかるような状況)であることをより確実に知ることができる。
図7は、演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zによる作業装置減速処理を含む一連の処理を示すフローチャートである。
図7において、アームシリンダ制限速度演算部9zは、まず、領域制限スイッチ7のON状態が選択されているかどうか、すなわち、領域制限制御を有効とすることが選択され許可されているかどうかを判定し(ステップS100)、判定結果がNOの場合には処理を終了する。また、ステップS100での判定結果がYESの場合、すなわち、領域制限制御が有効である場合には、目標形状演算部9mから演算エラー情報が出力されているかどうかを判定し(ステップS110)、判定結果がYESの場合には、まず、目標形状演算部9mによって目標形状の演算が正常に行われなかったことを示す情報(演算エラー情報が出力されているとする情報)を報知装置53に出力しオペレータに報知する(ステップS120)。続いて、アームシリンダ推定速度演算部9dからアームシリンダ速度を取得し(ステップS130)、その速度を予め定めた低減割合に応じて低減する補正を行い(ステップS140)、補正結果を後段のアームによるバケット先端速度演算部9eに出力し(ステップS150)、処理を終了する。また、ステップS110での判定結果がNOの場合、すなわち、目標形状演算部9mによって目標形状の演算が正常に行われている場合(演算エラー情報が出力されていない場合)には、アームシリンダ推定速度演算部9dからアームシリンダ速度を取得し(ステップS131)、そのまま後段のアームによるバケット先端速度演算部9eに出力して(ステップS151)、処理を終了する。
図3に戻り、アームによるバケット先端速度演算部9eでは、アームシリンダ推定速度演算部9dで求めたアームシリンダ推定速度と、フロント姿勢演算部9aで求めたフロント作業装置1Aの位置及び姿勢とによりアーム1bによるバケット先端速度bを演算する。
ブームによるバケット先端速度の制限値演算部9fでは、演算部9eで求めたアーム1bによるバケット先端速度bから、境界Lに水平な成分(X成分)及び垂直な成分(Y成分)である(bx、by)を演算する。そして、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分が距離Dに応じて制限値aに保持されるように、アーム1bによるバケット先端速度の境界Lに垂直な成分byに応じてブーム1aによるバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値cが演算される。次にこれを図8を用いて説明する。
図8において、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値aとアームによるバケット先端速度bの境界Lに垂直な成分byの差(a−by)がブーム1aによるバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値cであり、ブームによるバケット先端速度の制限値演算部9fでは「c=a−by」の式より制限値cを計算する。
これにより、(A)バケット先端が設定領域内にある場合(D>0)には、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分(下向き)が常に制限値a以下に制限される。なお、byがa未満の場合にはマシンコントロール(領域制限制御)により下向きのc(つまりブーム下げ)を加えてaにしても良いが、本願ではブーム下げを加えずにbyのままとすることが好ましい。また、byがa以上の場合にはマシンコントロールにより上向きのc(つまりブーム上げ)を加えてaにしても良いが、ブーム上げを加えずに、アームによるバケット先端速度演算部9eにおいてbyをaに制限しても良い。(B)バケット先端が境界L上にある場合(D=0)には、図5によりa=0なので、アーム1bの掘削動作に対してc=−byとなるようにマシンコントロールにより適宜ブーム上げがされて境界Lに沿った掘削がなされる。また、(C)バケット先端が設定領域外にある場合(D<0)には、バケット先端速度の境界Lに垂直な成分(上向き)が制限値aになるようにマシンコントロールにより適宜ブーム上げがされて設定領域内にバケット先端を戻す動作がされる。
図3に戻りブームシリンダ速度の制限値演算部9gでは、ブーム1aによるバケット先端速度の境界Lに垂直な成分の制限値cとフロント作業装置1Aの位置と姿勢に基づき、ブームシリンダ速度の制限値を演算する。
ブームパイロット圧(ブーム指令)の制限値演算部9hでは、ブーム1aの流量制御弁5aの流量特性に基づき、ブームシリンダ速度の制限値演算部9gで求めたブームシリンダ速度の制限値に対応するブームパイロット圧の制限値を求める。
アームパイロット圧(アーム指令)の制限値演算部9jでは、アーム1bの流量制御弁5bの流量特性に基づき、アームによるバケット先端速度演算部9eで求めたアーム1bによるバケット先端速度bに対応するアームパイロット圧の制限値を求める。
領域制限制御の切り換え演算部9rでは、領域制限スイッチ7のON状態が選択されている場合(すなわち、領域制限制御を有効とすることが選択され許可されている場合)には、ブームパイロット圧の制限値として演算部9hで計算した値をそのままブーム指令演算部9iに出力し、アームパイロット圧の制限値として演算部9jで計算した値をそのままアーム指令演算部9kに出力する。一方、領域制限スイッチ7のOFF状態が選択されている場合(すなわち、領域制限制御を無効とすることが選択され禁止されている場合)は、圧力検出器60a、60bで検出したパイロット圧から大きい方の値をブームパイロット圧の制限値としてブーム指令演算部9iに出力し、圧力検出器61a、61bで検出したパイロット圧から大きい方の値をアームパイロット圧の制限値としてアーム指令演算部9kに出力する。なお、検出器60bあるいは検出器61bで検出した値を出力する際には負の値で出力するものとする。
ブーム指令演算部9iでは、領域制限制御の切り換え演算部9rからのパイロット圧の制限値を入力し、この値が正の場合には、ブーム上げ側の電磁比例弁10aに制限値に対応する電圧を出力し、流量制御弁5aの油圧駆動部50aのパイロット圧を当該制限値に補正し、ブーム下げ側の電磁比例弁10bに0の電圧を出力して流量制御弁5aの油圧駆動部50bのパイロット圧を0にする。また、制限値が負の場合には、ブーム下げ側の流量制御弁5aの油圧駆動部50bのパイロット圧を制限するように制限値に対応する電圧を電磁比例弁10bに出力してパイロット圧を補正し、ブーム上げ側の電磁比例弁10aには0の電圧を出力し流量制御弁5aの油圧駆動部50aのパイロット圧を0にする。
アーム指令演算部9kでは、領域制限制御の切り換え演算部9rからのパイロット圧の制限値を入力し、この値が正の場合には、アームダンプ側の電磁比例弁11aに制限値に対応する電圧を出力し、流量制御弁5bの油圧駆動部51aのパイロット圧を当該制限値に補正し、アームクラウド側の電磁比例弁11bに0の電圧を出力して流量制御弁5bの油圧駆動部51bのパイロット圧を0にする。また、制限値が負の場合には、アームクラウド側の流量制御弁の油圧駆動部51bのパイロット圧を制限するように制限値に対応する電圧を電磁比例弁11bに出力してパイロット圧を補正し、アームダンプ側の電磁比例弁11bには0の電圧を出力し流量制御弁5aの油圧駆動部51aのパイロット圧を0にする。
次に上記の実施の形態の特徴について説明する。
(1)上記の実施の形態では、複数の被駆動部材(例えば、ブーム1a、アーム1b、バケット1c)を連結して構成され、所定の動作平面状(例えば、XY平面上またはXaYa平面上)で動作する多関節型の作業装置(例えば、作業装置1A)と、操作信号(例えば、パイロット圧)に基づいて前記複数の被駆動部材をそれぞれ駆動する複数の油圧アクチュエータ(例えば、ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c)と、前記複数の油圧アクチュエータのうち操作者の所望する油圧アクチュエータに前記操作信号を出力する操作装置(操作レバー装置4)と、前記作業装置による作業対象の目標面上(又は境界L上)およびその上方の領域内(設定領域内)で前記作業装置が動くように、前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つに前記操作信号を出力するか、又は前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つに出力された前記操作信号を補正する領域制限制御を実行する動作制御部900とを備える作業機械(油圧ショベル)において、前記動作制御部900は、領域制限制御に関わる情報(例えば、位置情報)を取得する情報取得装置(例えば、位置演算装置70)から入力される情報に基づいて前記目標面を演算して設定する目標面設定部(例えば、目標形状演算部9m、領域設定演算部9b)を備え、前記情報取得装置からの情報の少なくとも一部が得られなかった場合、又は前記目標面設定部による前記目標面の演算が正常に実行できなかった場合に、その旨を操作者に報知する報知処理又は前記複数の油圧アクチュエータのうち少なくとも1つの動作速度を減速させる減速処理を行うものとした。
掘削作業に用いる目標面の情報は、例えば、測位衛星等から受信した測位用データに基づいて算出される作業機械の位置情報と掘削対象における3次元施工図面などの情報とに基づいて生成される。そのため、測位衛星からの測位用データの受信環境等が悪い場合や他の通信トラブル等によって必要な情報が得られず目標面の情報を生成できない場合も考えられる。従来技術においては、掘削制御を実行中に目標掘削地形情報を取得できない場合、取得できなくなった時点よりも前の目標掘削地形情報を用いて掘削制御を継続している。しかしながら、掘削対象における掘削作業の目標面は、単一ではなく連速した複数の目標面から成る場合も多い。したがって、掘削作業中の目標面と次に掘削作業を行う目標面とが異なる場合、その異なり方によっては、目標面が変わった場合に作業機のバケットが目標面に対して侵入してしまい掘削対象を掘り過ぎてしまう可能性がある。これに対して本願発明は、掘削対象の目標面の情報の取得に異常が生じたことをオペレータに報知して認識させることにより、又は、前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つの動作速度を減速させてオペレータに認識させることにより、オペレータの操作によって作業機が目標面に侵入する可能性を低減することができる。
(2)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械において、前記動作制御部は、前記減速処理として、前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つの動作速度を現在速度に対して所定の割合に低減するように前記操作信号を補正する作業装置減速処理を行うものとした。
目標形状の演算が正常に行われず、領域制限制御が既知の目標形状の情報に基づいてしか行われないという制限付きの状態であることをオペレータに事前に認識させ、また、作業装置の動作速度の減速による操作感の変化によっても異常状態であることをオペレータに認識させるので、オペレータがより直接的に認知することができる使い勝手のよい情報伝達を行うことができるとともに、オペレータの操作によって作業機が目標面に侵入する可能性をより低減することができる。
(3)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械において、前記動作制御部は、前記減速処理として、前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つの動作速度を予め定められた最大速度に対する所定の割合以下に低減するように前記操作信号を補正する作業装置減速処理を行うものとした。
目標形状の演算が正常に行われず、領域制限制御が既知の目標形状の情報に基づいてしか行われないという制限付きの状態であることをオペレータに事前に認識させ、また、作業装置の動作速度の減速による操作感の変化によっても異常状態であることをオペレータに認識させるので、オペレータがより直接的に認知することができる使い勝手のよい情報伝達を行うことができるとともに、オペレータの操作によって作業機が目標面に侵入する可能性をより低減することができる。
(4)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械において、前記動作制御部は、前記報知処理として、前記情報取得装置からの情報の少なくとも一部が得られなかったこと、又は前記目標面設定部による前記目標面の演算ができなかったことを表示装置へ表示することにより操作者に報知するものとした。
オペレータは、掘削対象の目標面の情報の取得に異常が生じたことを視覚的に認知することができる。
(5)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械において、前記動作制御部は、前記報知処理として、前記情報取得装置からの情報の少なくとも一部が得られなかったこと、又は前記目標面設定部による前記目標面の演算ができなかったことを音により操作者に報知するものとした。
オペレータは、掘削対象の目標面の情報の取得に異常が生じたことを聴覚的に認知することができる。
<付記>
なお、上記の実施の形態においては、領域制限制御に関わる情報を取得する情報取得装置として位置情報を取得する位置演算装置70を例示し、演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zにおいて、位置演算装置70からの位置情報が正常に得られないことによって目標形状演算部9mで目標形状の演算が正常に行われなかったことによる演算エラー情報の有無に基づいて報知処理や減速処理などを行うように構成したが、演算エラー情報に代えて(又は並行して)その他のエラー情報の有無に基づいて同様の処理を行うように構成しても良い。すなわち、例えば、角度検出器8a,8b,8cや傾斜角検出器8dからの情報に基づいてフロント作業装置1Aの位置及び姿勢(領域制限制御に関わる情報)を演算し取得するフロント姿勢演算部9a(情報取得装置)において、角度検出器8a〜8cからの回動角や傾斜角検出器8dからの傾斜角の情報が正常に得られないことによってフロント作業装置1Aの位置及び姿勢を正常に演算できない場合に、演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zに演算エラー情報を出力するように構成してもよい。また、無線等の通信の異常時に得られる通信エラー情報の有無に基づいて演算エラー時のアームシリンダ制限速度演算部9zにエラー情報を出力して報知処理や減速処理などの処理を行うように構成しても良い。
また、上記の実施の形態においては、目標形状の演算が正常に行われなかった場合にアームシリンダ3bを減速するように構成したが、当該アームシリンダ3bに代えて/加えて、ブームシリンダ3a及び/又はバケットシリンダ3cを減速するように構成しても良い。
また、上記の実施の形態においては、アーム1bの動作時に設定領域内で作業装置1Aが動くように、制御ユニット9が起点となってブームシリンダ3aに伸び(強制ブーム上げ)を指示する操作信号を出力して領域制限制御を行う場合を説明したが、オペレータが起点となってブーム上げを指示する操作信号が操作レバー装置4aから出力されている状況下では、制御ユニット9により当該操作信号を補正することで領域制限制御を行ってもよい。また、上記ではオペレータによるアーム操作時に制御ユニット9によるブーム上げを適宜加えることで領域制限制御を行う場合を説明したが、当該ブーム上げに代えて/加えてバケット1cのダンプ/クラウドを適宜加えて領域制限制御を行っても良い。つまり、領域制限制御では、設定領域内で作業装置1Aが動くように、作業装置1Aの動作を司る3種の油圧シリンダ3a,3b,3cの流量制御弁5a,5b,5cの少なくとも1つに制御ユニット9が起点で操作信号が出力される制御と、オペレータ起点で当該3種の油圧シリンダ3a,3b,3cの流量制御弁5a,5b,5cの少なくとも1つに出力された操作信号に対して制御ユニット9による補正が加えられる制御の双方が行われる可能性がある。
また、領域制限制御は、実質的な掘削動作が実行されるアームクラウド時のみに機能するように構成しても良い。
また、上記の実施の形態においては、フロント作業装置1Aの位置及び姿勢を取得するために、角度検出器8a〜8cを利用したが、これに代えて各油圧シリンダ3a〜3cのストローク量を検出する複数のストローク検出器や、ブーム1a、アーム1bおよびバケット1cの傾斜角をそれぞれ検出する複数の傾斜角検出器を利用しても良い。
また、上記の実施の形態においては、エンジン等の原動機で油圧ポンプを駆動する一般的な油圧ショベルを例に挙げて説明したが、油圧ポンプをエンジン及びモータで駆動するハイブリッド式の油圧ショベルや、油圧ポンプをモータのみで駆動する電動式の油圧ショベル等にも本発明が適用可能であることは言うまでもない。
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。