JP6609030B2 - 水素発生剤、水素発生方法、及び物質の製造方法 - Google Patents

水素発生剤、水素発生方法、及び物質の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は水素発生剤に関し、特に水のpHに依存して酸化状態が変わることを利用して水素を発生させる新規な水素発生剤に関する。
天然に豊富に存在する水を原料とした水分解反応は、水素や酸素を純粋な形で取り出し、工業用ガスとして利用するための重要な手段と位置づけられ、実用化を目指した技術の革新が求められている。現在は太陽光などの光エネルギーを駆動力とした光触媒を用いた電気化学セル上での水分解反応について盛んに技術開発が行われている。しかしながら、いかなる触媒系を用いても太陽光の量子収率が10%に満たず、そのような触媒系を利用した水分解反応も非常に緩慢なものであるのが現状である(特許文献1)。また、光触媒以外でも、炭化水素系のガスを分解する、水蒸気を炭素と反応させる、イオン化傾向の大きな金属を酸と反応させる、水を電気分解する等の多様な方法が存在するが、これらの方法でも、コスト低下の余地が少ない、得られた水素を使用するに当たって有害である等の不純物を含む、高温や高圧下の反応であったり大規模な設備が必要である等の問題を有する。
特開2013−043788号公報 国際公開WO2014/057721
Terauchi, T., Kobayashi, Y. & Misaki, Y. Synthesis of bis-fused tetrathiafulvalene with mono- and dicarboxylic acids. Tetrahedron Letters, 53, 3277-3280 (2012).
そこで、本発明は、水を分解して水素を発生するに当たって、既存の水素発生方法や材料とは全く異なる原理により水素を得るための水素発生剤及び水素発生方法を提供することを目的とする。
本発明者は、テトラチアフルバレン(tetrathiafulvalene、TTF)骨格を有する化合物について種々の実験を行っていたところ、驚くべきことに、従来とは異なる機構で水から水素を発生することを見出し、かかる技術的創作を完成した。即ち、本発明は以下の通りである。
[1] テトラチアフルバレン骨格を有する化合物を含む水素発生剤。
[2] 前記テトラチアフルバレン骨格が縮環テトラチアフルバレン骨格であり、前記化合物がカルボン酸官能基及びアルカリ金属を有する、[1]に記載の水素発生剤。
[3] 前記テトラチアフルバレン内の硫黄の少なくとも一部がセレンで置換されている、[1]又は[2]に記載の水素発生剤。
[4] (TTF−TTF)(COOM)(MOH)複合体(整数n≧1)及び(COOM)(TTF−TTF−TTF)(COOM)(MOH)複合体(整数n≧0)の少なくとも一を含む水素発生剤。ただし、MはLi又はNaである。
[5] 前記MがLiである、[4]に記載の水素発生剤。
[6] 前記TTF内の硫黄の少なくとも一部がセレンで置換されている、[4]又は[5]に記載の水素発生剤。
[7] 前記nが1である、[4]〜[6]のいずれかに記載の水素発生剤。
[8] 上記[1]〜[7]のいずれかに記載の水素発生剤と水とを混合し、pHを所定範囲として水素を発生させる水素発生方法。
[9] pHの前記所定範囲が11以下である、[8]に記載の水素発生方法。
[10] pHを擬似中性又は酸性として水素を発生させた後に前記pHを前記所定範囲よりも大きな値とすることにより、前記水素発生剤を再生する、[8]又は[9]に記載の水素発生方法。
[11] 前記水素発生と前記水素発生剤の再生を繰り返す、[10]に記載の水素発生方法。
[12] 水素を必要とする化学反応を用いて物質を製造する方法において、少なくとも上記[1]〜[7]のいずれかに記載の水素発生剤、又は上記[8]〜[11]のいずれかに記載の水素発生方法を用いて水素を発生させる、物質の製造方法。
本発明によれば、これまで知られている光触媒等による水の分解等とは異なる機構で水から水素を発生させる水素発生剤及びそれを使用した水素発生方法が与えられる。この水素発生剤はあるpH範囲において水から水素を発生させる。この水素発生反応により水素発生剤それ自体は化学変化により別の物質となるが、溶液のpHを変えることによって元の水素発生材料として再生させることができるため、水素発生反応に使用しても実質的に消耗せず、原理的には無制限に繰り返し水素を発生させることができる。更に、水素発生反応においては原理的に酸素は発生しないため、通常の水の分解反応の場合のように同時に発生する酸素を分離するための処置を取らなくても、酸素が不純物として混入していない水素を容易に得ることができる。さらに、水素を必要とする化学反応を用いて任意の物質を製造する方法において、本発明の水素発生剤又は及び水素発生方法を用いて水素を発生させることにより、例えば、他の水素供給源からの水素供給なしで化学反応を進行させ、極めて効率よく物質を製造することが可能となる。
(TTF−TTF)(COOLi)−HO複合体の分子構造を示す図。図中、結合距離の単位はオングストローム(Å)である。 (TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して1当量の2Nの塩酸水溶液を0℃で添加した際に発生したガスをガスクロマトグラフィーによって検出した結果を示すグラフ。 (TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して大過剰の水を0℃で添加した際に発生したガスをガスクロマトグラフィーによって検出した結果を示すグラフ。図中、Controlは水を添加しなかった場合の検出結果を示す。 (TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して段階的に塩酸水溶液を添加してpHを調製した際に発生した高酸化状態にある分子の割合をラジカル量として評価した結果を示すグラフであり、ラジカル量のpH依存性を示している。 (TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して水を室温で添加した際に発生した水素ガスの量と反応日数との関係を示すグラフ。 (COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体に対して大過剰の水を添加して室温状態で発生したガスをガスクロマトグラフィーによって検出した結果を示すグラフ。
テトラチアフルバレン(tetrathiafulvalene、TTF)骨格を有する化合物はその導電性等の特異な性質を有することで知られており、多数の文献がこの種の化合物を取り扱っている。たとえば、特許文献2には、縮環した含硫黄π化合物である縮環テトラチアフルバレンにカルボン酸官能基を導入したものが記載されており、そのような例として、3種の縮環テトラチアフルバレン誘導体が示されており、具体的には、(1)TTPCOOH、TTPCOOD、(2)TTP(COOH)、TTP(COOD)、(3)(TTPCOO)NH、(TTPCOO)NDが挙げられている。本発明者はこの種の化合物のうちの(TTF−TTF)(COOLi)(LiOH)(ここで整数n≧1)及び(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)(LiOH)(ここで整数n≧0)なる構造を有する化合物(以下、夫々(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体及び(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体と称することがある)が水中でpHを変化させることで水から水素を発生させる化学反応を起こし、また水素発生後に別のpHに変化させることで元の化合物が再生される反応を起こすことを見出し、この化合物を水素発生剤として使用するという本発明を完成させるに至った。ここで、TTF内の硫黄(S)の少なくとも一部をセレン(Se)で置換しても同じ反応が起きるので水素発生剤として使用できる。また、アルカリ金属として、リチウム(Li)の代わりにナトリウム(Na)を使用しても同様であり、従ってこの化合物も水素発生剤として使用することができる。ただし、Naの方がLiよりもイオン半径が大きいため、Liを使用する方が物質の安定性が高い。以下ではもっぱらSeによる上記置換を行わず、またLiを使用した場合について説明する。なお、以下ではそれぞれn=1の場合である(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体及び(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体に例を取って説明するが、本願の特許請求の範囲に記載された発明の技術的特徴について、一般性を失うものではない。
ここでnの上限について説明すれば、合成が可能である限り、(TTF−TTF)(COOLi)(LiOH)及び(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)(LiOH)は、nがどのように大きな値になっても以下で詳述する水素発生反応及びその逆反応を起こすことができる。しかし、nが大きくなるにつれて合成が極めて困難になる。そのため、現実的にはnは5以下とするのが好ましい。
<(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体による水素発生>
以下に本複合体を水素発生剤として使用した水素発生反応及びその逆反応である本複合体の再生を行う反応についての化学反応式を示す。
本明細書及び特許請求の範囲において、反応式の左辺の複合体を、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体とも表記し、反応式の右辺の化合物をTED−Y(ただし、Y=Li,H)と表記することがある点に留意されたい。溶液が塩基性の状態では上の反応式で表す平衡状態は、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体中のTTF骨格が低酸化状態である左辺側に移動する。逆に擬似中性から酸性では平衡状態が右辺側に移動し、TED−Li中のTTF骨格は高酸化状態となる。
なお、ここで言う「擬似中性」とはちょうどpH=7であることを意味するわけではなく、一般にpHが7の近傍を含む範囲と言うことである。(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体の場合には、以下の実施例で図4を参照して説明するように、「擬似中性から酸性」とはpHが11以下の範囲であり、「塩基性」とはpHがそれより大きな範囲を指す。水素発生剤として他の化合物を使用した場合には、その境界のpH値は異なる可能性がある。
また、既に述べたように、本発明の水素発生剤としては(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体以外の化合物も存在する。水素発生剤として使用する化合物が異なれば(例えば次の実施例の化合物)この平衡状態移動に係るpHの値が同じになるとは限らないが、いずれにせよpH値に依存して上記反応式の平衡状態が移動する。つまり、一般的に表現すれば、pH値がこの境界の値以下の範囲を「擬似中性から酸性」と呼び、pH値がこの境界の値以上の範囲を「塩基性」と呼ぶ。
溶液を擬似中性〜酸性とした時、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体は溶液中の水(あるいは上の反応式中に例示したように塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、その他、1当量のLiOHを中和できる程度の酸性度を有するブレンステッド酸であれば何でもよい)から水素を奪って1/2当量のHを発生し、それ自身はTED(Zwitterionic tetrathiafulvalene-extended dicarboxylate radical)−Yとなる(Y=Li、H)。Y=Hの場合、つまりTED−HのIUPAC名は2-{5-(1,3-dithiol-2-ylidene)- [1,3]dithiolo[4,5-d][1,3]dithiol-2-ylidene}-1,3-dithiole-4,5-dicarboxylic acidである(非特許文献1)。その後、溶液のpHを塩基性とすることにより平衡状態は上式の左辺側に移動し、TED−Yが(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に変換される。このように、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体はその水溶液のpHを擬似中性あるいは酸性とすることによって自発的に水素を発生し、pHを塩基性とすることにより、逆反応によって当初の(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体が再生される。溶液のpHを塩基性と擬似中性〜酸性の間で変化させることにより起こる上述の反応サイクルでは(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体はTED−Yへの変換と再生が行なわれるため、この複合体は実質的には消費されず、従って溶液を塩基性と擬似中性〜酸性との間で変化させるためにその都度酸あるいは塩基を投入する等のpH調節処理を行うだけで、理論的にはこの反応サイクルを無制限に繰り返し、各サイクルで(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して1/2当量のHを発生させることができる。なお、溶液のpHを擬似中性〜酸性に変化させるためには、酸の代わりに水を投入してもよい。
溶液のpHを擬似中性〜酸性としたとき、溶液中の酸の量が少ない場合にはTED−Liが生成されるが、溶液のpHの制御のために(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して1当量よりも多くの酸を用いた場合には、TED−Hまで変換される。この場合には、逆反応において、上式に記載したよりもLiOHを1当量余分に必要とする。
なお、上の反応式中ではTED−Liから酸素発生剤(TTF−TTF)(COOLi)−LiOHを再生する過程で酸素が発生するように記載されている。現在のところ、この方向の反応の際に酸素が発生することは直接的には検出できていない。しかし、酸素発生を仮定しない限りこの化学式の当量が合わなくなってしまうため、当然酸素が発生するものとして上記反応式を記述した。また、以下で説明する、水素発生剤の他の実施例として活性サイトを2個所有する分子を用いた場合の化学反応式においても、同じ理由で酸素が発生するように記述した。
ここで、上で説明した反応の機構を図1を参照して説明する。(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に水又は酸を添加すると、直ちにLiOHが外れてそこがHOに入れ替わることで、図1に示す(TTF−TTF)(COOLi)−HO複合体となる。つまり、上掲の化学反応式では左辺と右辺との間で起こるこの反応を省略してある。言い換えれば、水素発生反応は厳密には「pHに依存してLiOHがHOに置換されることから開始される水素発生反応」ということになる。この置換される水分子(図1右端下寄り)はLiイオンに強く配位する。ここでHO中のOH結合は引き延ばされていて、水がHδ+とOHδ−とに強く分極していることを表す。更に、図1右端下寄りに斜めの楕円で囲まれているLiと水分子中のOHとの間の距離(1.903Å)は、COOLi中のLiとOとの間の距離(1.915Å及び1.934Å)よりも短くなっているが、これはTTF部分の酸化の際にLi−O結合の形成及び上記反応式に示したLiOHの脱離が容易に起こることを示唆している。これにより実際にHが発生することは、実施例においてガスクロマトグラフを用いて検証した。また、これも実施例で説明しているが、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH及びHClの存在下で芳香族オレフィンがPd/C触媒を用いて水素還元されることによってもHが存在することが確認できた。
<(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体による水素発生>
上に挙げた酸素発生剤の例である(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体では、図1を参照した説明からわかるように、この化合物分子の一端(図及び化学式の表記では右端)で上述した反応が起こり、1/2当量のHが発生する(この反応が起こる化合物中の位置を以下では活性サイトと称する)。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、TTF骨格の両端に夫々活性サイトを設けることで1分子当たり2つの活性サイトを有する構造の水素発生剤を与えることができる。このような水素発生剤及びその発生剤を使用した水素発生及び水素発生剤再生の反応サイクルの例を以下の化学反応式に示す。
本明細書及び特許請求の範囲において、反応式の左辺の複合体を、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体とも表記し、反応式の右辺の化合物をTED−Y(ただし、Y=Li,H)と表記することがある点に留意されたい。上に示した反応については(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体についての説明がほぼそのまま適用され、これにより水素の発生及び当該水素は製剤の再生が起こる。ただし、(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体では活性サイトが2つ存在することから、溶液のpHを擬似中性〜酸性とすることによりHが1当量発生し、またこの反応及び逆反応に伴って生成あるいは消費される水、酸、LiOHの量も夫々2倍となる。また、溶液を酸性にするために投入された酸の量が(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体に対して2当量よりも多い場合には、活性サイトが1個の場合と同様に、TTF骨格の両端あるいは一端においてY=Hとなる。この場合には逆反応の際に余分のLiOHが必要とされる。
このような活性サイトを2個有する水素発生剤の場合も、上に示す反応サイクルでは水素発生剤は実質的に消費されないので、同様に、理論的には水素発生剤の補充なしで反応サイクルを無制限に繰り返して水素発生を行うことができる。
上で説明したように、本発明の水素発生剤は水から水素ガスの形で水素を取り出すことができる。これに加えて、本発明の水素発生剤の下で発生した水素を、水素の存在が必要な化学反応が行なわれる反応系に供給することができる。これを実現するためには、例えば水素が必要な反応系に本発明の水素発生剤を加える。反応系のpHによっては、許されれば、酸を添加する等のpH調節処置を更に行ってもよい。これにより、当該反応系が擬似中性〜酸性の場合には水素発生剤によって水から得られた水素が水素を必要とする反応系に供給されることで、直接的には水素ガスを外部から供給することなく、所要の反応を進めることができる。
以下では本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、当然ながら、本発明は実施例に限定されるものではない。また、実施例の説明中で、上に示した反応が実際に起こっていることを示すデータも与える。
<(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体を用いた水素発生剤>
[(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体の作製]
(TTF)(COOMe)(200mg、0.403mmol)を1,4−ジオキサン(1, 4-dioxane)(400ml)、THF(20ml)、MeOH(20ml)、トルエン(20ml)及びDMF(10ml)の混合液中に懸濁させてから2NのLiOH水溶液(2.1ml、42mmol)を添加して混合した。これを室温で一晩中強く撹拌して、薄膜フィルタ(H010A047A, ADVANTEC)により沈殿を集め、脱イオン水(3ml)、MeOH(3ml)及びクロロホルム(3ml)で洗浄した。残留した固形物を真空中で乾燥して、暗赤色の固形物である(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体(191.9mg、0.380mmol、94%)を得た。1H NMR(400MHz、DMSO−d):δ 6.79(s,2H);元素分析(C12Li):計算値:C,28.57;H,0.60、実測値:C,28.41;H,0.92。
なお、ここで使用した(TTF)(COOMe)は公知の物質であり、公知文献を参照することにより当業者が実施可能である。
[作製した(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体による水素発生]
0℃に冷却した(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して1当量の2Nの塩酸水溶液を0℃で添加した。その結果得られた約0℃の溶液のpHはほぼ9であった。これを軽く撹拌した。これにより発生したガスをガスクロマトグラフィーによって分析した。その結果を図2に示す。ここで、標準のH/N混合ガスに対する保持時間はHについては0.50分、Nについては1.52分であった。なお、測定しなかったが、水素発生反応の進行により溶液のpHは変化したと考えられる。
図2から、この反応により、先に示した反応式の通り、水素が発生したことが確認できた。なお、図2には窒素のピークも現れているが、これは水の脱気に使用した窒素の残留分が検出されたものである。
更に、この水素発生剤に酸ではなく水を添加した場合にも水素が発生することを確認するため、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して大過剰の水を0℃で添加した。これにより発生したガスをガスクロマトグラフィーによって分析した結果を図3に示す。同図に示す通り、この場合でも実際に水素が発生したことが確認された。この実験では水の脱気にアルゴンを使用したので、残留したアルゴンが水素とともに検出されている。
水素の発生を別の側面から検証するため、水素ガスの存在が必要な反応を、水素ガスを与える代わりに、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体と酸の存在下で行い、実際にその反応が起こるか否かを調べた。
具体的には、以下の反応式に示すように、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体とHCl水溶液(3eq.)及びPd/Cをアリルベンゼンエーテル(1eq)に添加した。これにより、オレフィンの水素化反応が実際に進行した。なお、ここでは条件の最適化は行わなかった。この反応は通常、水素ガス雰囲気中で行わなければ進行しないが、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体の酸化により発生した水素を水素源としてオレフィンの水素化反応が進行した。この実験により、この水素発生剤は水素ガスを外部から導入することなく水素化試薬として機能することが示された。
更に、上記方法をベンゾキノン(BQ)の水素化反応に適用する実験を行った。以下の反応式に示す通り、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOHとHCl水溶液(3eq.)をベンゾキノンに添加したところ、実際に水素化反応が進行し、ハイドロキノン(HQ)が生成した。これにより、上記同様、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体が塩酸溶液により酸化されて水素を発生したことが間接的に確認された。下式には、半等式に加えて、添加した(TTF−TTF)(COOLi)−LiOHに対するベンゾキノンの当量が1及び5の場合のハイドロキノンの収率も示した。
また、先に示した式の通りの平衡反応が起こっていることを確認するため、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して段階的に塩酸水溶液を添加してpHを調製した際に発生した高酸化状態にある分子の割合をラジカル量として評価した。その結果を図4のグラフに示す。これはラジカル量のpH依存性を示しており、具体的にはpHが11以下になると、溶液中のラジカル量、すなわち高酸化状態の分子が急激に増加することがわかり、結局、このpHを境に平衡状態が上に示した反応式の右辺側に急激に移動する。なお、図4においてpH=10付近から6.5付近の間にはデータ点が何もプロットされていない。これはプロットを省略しているわけではなく、1回の塩酸水溶液の添加によりpHが10.5から6.2まで一気に変化したためである。
次いで、この水素発生剤の反応継続性について調べた。具体的には、遮光下で、室温(25℃)において、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体(4mg)に水(300mL)を添加し、発生する水素ガスの量をガスクロマトグラフィーにより検出した。結果を図5に示す。
図5は、(TTF−TTF)(COOLi)−LiOH複合体に対して水を室温で添加した際に発生した水素ガスの量と反応日数との関係を示す図である。
図5において、横軸は反応日数(日)を、縦軸は水素ガスの検出強度(V)を示す。なお、反応3日目の水素ガスの検出強度が約0.8(V)から0(V)まで低下しているが、これは、外部から混入したガス(酸素ガス等)を取り除くため、反応3日目に反応で発生したガスを留去したためである。図5に示すように、ガスの留去を考慮しても、反応時間が長くなるにつれて(反応日数の増大に応じて)、水素ガスの検出強度(水素ガスの発生量)は漸次増大することが分かった。このことから、本発明の水素発生剤は、反応継続性に優れており、長期間(例えば、15日以上)の使用でも、その水素発生能を維持することが示された。
実施例において一部の水素発生の実験を0℃で行っているが、これについて説明しておく。水素発生を0℃で行った実験でも、温度を室温として他の条件は同じとしても水素発生反応自体は問題なく進行した。ただし、0℃で反応させた方が逆反応(発生した水素が高酸化状態の水素発生剤によって系中に残存する酸素と反応して再び水に戻る反応)が進行しにくい傾向が見られた。この点を考慮し、検出される水素の正味発生量を多くするために、一部の実験を0℃で行った。
<(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体を用いた水素発生剤>
この水素発生剤も先に説明した(TTF−TTF)(COOLi)−LiOHとほぼ同じ特性を示すので、上で行った各種の実験に対応する結果を一々説明はしないが、(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体に対して大過剰の水を添加して室温状態で発生したガスのガスクロマトグラフィーによる分析結果を図6に示す。これに対応する図3と同様、(COOLi)(TTF−TTF−TTF)(COOLi)−(LiOH)複合体の場合も大量の水の添加によるpH調節によって水素が発生することを確認できた。
以上説明したように、本発明によれば、従来にない新規な機構で水素を発生することができ、またpHを変化させることで、水素発生剤の追加なしで無制限の回数繰り返して水素を発生させることができるようになる。また、単に水素ガスを外部に取り出すだけではなく、水素を必要とする反応に対して、外部からの水素供給に代えて本発明の水素発生材料を使用することによって水素を供給する等も可能となる。従って、本発明は産業上広範な分野での利用が期待される。

Claims (12)

  1. テトラチアフルバレン骨格を有する化合物を含む水素発生剤。
  2. 前記テトラチアフルバレン骨格が縮環テトラチアフルバレン骨格であり、前記化合物がカルボン酸官能基及びアルカリ金属を有する、請求項1に記載の水素発生剤。
  3. 前記テトラチアフルバレン内の硫黄の少なくとも一部がセレンで置換されている、請求項1又は2に記載の水素発生剤。
  4. (TTF−TTF)(COOM)(MOH)複合体(整数n≧1)及び(COOM)(TTF−TTF−TTF)(COOM)(MOH)複合体(整数n≧0)の少なくとも一を含む水素発生剤。ただし、MはLi又はNaである。
  5. 前記MがLiである、請求項4に記載の水素発生剤。
  6. 前記TTF内の硫黄の少なくとも一部がセレンで置換されている、請求項4又は5に記載の水素発生剤。
  7. 前記nが1である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の水素発生剤。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の水素発生剤と水とを混合し、pHを所定範囲として水素を発生させる水素発生方法。
  9. pHの前記所定範囲が11以下である、請求項8に記載の水素発生方法。
  10. pHを擬似中性又は酸性として水素を発生させた後に前記pHを前記所定範囲よりも大きな値とすることにより、前記水素発生剤を再生する、請求項8又は9に記載の水素発生方法。
  11. 前記水素発生と前記水素発生剤の再生を繰り返す、請求項10に記載の水素発生方法。
  12. 水素を必要とする化学反応を用いて物質を製造する方法において、少なくとも請求項1〜7のいずれか一項に記載の水素発生剤、又は請求項8〜11のいずれか一項に記載の水素発生方法を用いて水素を発生させる、物質の製造方法。
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