JP6599006B2 - 微生物、リグノセルロース系バイオマス分解用組成物、糖化液の製造方法及びリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法 - Google Patents
微生物、リグノセルロース系バイオマス分解用組成物、糖化液の製造方法及びリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法 Download PDFInfo
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Description
本願は、2016年6月21日に、日本に出願された特願2016−123065号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
一方、前処理方法として、リグノセルロース中のリグニンを分解できる微生物である白色腐朽菌を用いる方法が知られている。
上記第3態様に係るリグノセルロース系バイオマス分解用組成物は、さらに、以下の(d)〜(f)のいずれかの核酸を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つリグノセルロース系バイオマスの分解能、又はリグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能を有する微生物のうち少なくとも1種を含んでもよい。
(d)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列からなる核酸、
(e)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列と90%以上の同一性を有する核酸、
(f)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換若しくは付加された塩基配列からなる核酸
本発明の一実施形態に係る微生物は、以下の(a)〜(c)のいずれかの核酸を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つリグノセルロース系バイオマスの分解能を有する。
(a)配列番号1又は2に示す塩基配列からなる核酸、
(b)配列番号1又は2に示す塩基配列と95%以上の同一性を有する核酸、
(c)配列番号1又は2に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換若しくは付加された塩基配列からなる核酸
クロストリジウムは、グラム陽性内生胞子形成桿菌の一属である。
また、本実施形態の微生物のうち、配列番号2に示す塩基配列からなる核酸、又は該核酸と機能的に同等な核酸を含む16S rRNA遺伝子を有する微生物はセルロシバクター属アルカリサーモフィラス種に属する桿菌であって、優れたリグノセルロース分解能を有する。
セルロシバクター・アルカリサーモフィラスは、好アルカリ好熱嫌気性セルロース分解菌である。
なお、本明細書において、「核酸」はRNA及びDNAを含む。
また、本明細書において、「16S rRNA遺伝子」は、リボソームの小サブユニットのRNA、及び該RNAをコードするDNAを含む。
上記(a)における配列番号1に示す塩基配列は、クロストリジウム・スピーシーズ(Clostridium sp.)A7株(NITE BP−02216)の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
リグノセルロース分解能を有する。
(1)細胞の形状が細長い棒状又は円筒状を示す。細胞の長さは約2.0〜6.0μm、幅が約0.3〜0.4μmである。
(2)グラム陽性菌であり、コロニーは橙色である。
(1)菌体の長軸方向が一定で長さだけが長くなるかたちで成長し、ある程度の大きさまで成長すると、その中心でほぼ均等に二分される形で分裂する。
(1)培養液:クラストリジウム属の菌を培養するために用いられる一般的な培地で生育できる。
(2)生育温度域:37℃以上60℃以下(至適温度55℃)。
(3)生育pH域:pH6.0〜10.0(至適pH9.0)。
(4)栄養源:炭素源として、セルロース、セロビオース、又はリグノセルロースで生育できる。また、窒素源として、硫酸や硝酸アンモニウムのような無機態窒素だけでなく、イーストエキスやペプトン、牛肉エキスのような有機態窒素でも利用できる。
(5)生成物質:酢酸、エタノール、フマル酸、乳酸、コハク酸を生成する。
クロストリジウム・スピーシーズA7株の16S rDNA遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号1に示したとおりである。図3は、クロストリジウム・スピーシーズA7株及びセルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株の16S rDNA遺伝子の塩基配列と、近縁菌種の16S rDNA遺伝子の塩基配列とを比較し、作成したヒストグラムである。
この結果、クロストリジウム・スピーシーズA7株は新規の菌株と判断した。
本実施形態において、クロストリジウム・スピーシーズA7株を培養するにあたり、培地を用いることが好ましい。
用いられる培地は、クロストリジウム属に属する菌が生育する条件であれば制限はなく、例えば、このような培地として、下記表1に示す組成のBMN培地を好ましく用いることができる。
その他用いることができる培地として、一般的な栄養培地であるNB(Nutrient Broth)培地(例えば、Difco社製の「Nutrient Broth, Bacto」(牛肉エキス3g/L、ペプトン5g/L含有)等)等を挙げることができる。中でも、培地としては、高効率でリグノセルロースを分解することから、上記表1に示した組成のBMN培地が特に好ましい。
本実施形態において、クロストリジウム・スピーシーズA7株の培養方法は、公知慣用の方法で行うことができる。培養において、上記の培地を用いることができる。
本実施形態において、培養方法としては、例えば、静置培養法、振盪培養法、深部通気撹拌培養法等が挙げられる。
また、本明細書において、「リグノセルロース系バイオマス」とは、主成分として、リグノセルロースを含むものである。リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック及びこれらの関連樹種等)、広葉樹(例えば、アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク及びこれらの関連樹種等)、イネ、ムギ、トウモロコシ(特に、コーンストーバー(とうもろこしの非食部である芯、茎、葉))、パイナップル、オイルパーム、キャッサバ、サトウキビ(特に、サトウキビバガス、サトウキビ茎葉)等の農産物及びその廃棄物;ケナフ、綿等の工業植物及びその廃棄物; アルファルファ、チモシー等の飼料作物; エリエンサス、タケ、ササ等が挙げられ、これらに限定されない。これらのリグノセルロース系バイオマスは単独であってもよく、混合物であってもよい。
「セルロース」には、6つの炭素を構成単位とする六炭糖が含まれる。よって、セルロースは加水分解を受けると、炭素6つからなる六炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された六炭糖のオリゴ糖を生ずる。
一般に、ヘミセルロース又はセルロースから生ずる単糖又はオリゴ糖の構成比率や生成量は、前処理方法や原料として用いたリグノセルロース系バイオマスの種類によって異なる。
上記(a)における配列番号2に示す塩基配列は、セルロシバクター・アルカリサーモフィラス(Cellulosibacter alkalithermophilus)W21−10株(NITE BP−02265)の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
リグノセルロース分解能を有する。
(1)細胞の形状が細長い棒状又は円筒状を示す。細胞の長さは約2.0〜3.0μm、幅が約0.2〜0.3μmである。
(2)グラム陽性菌であり、コロニーは黄色である。
(1)菌体の長軸方向が一定で長さだけが長くなるかたちで成長し、ある程度の大きさまで成長すると、その中心でほぼ均等に二分される形で分裂する。
(1)培養液:一般的なセルロシバクター属の菌を培養するための培地で生育できる。
(2)生育温度域:37℃以上65℃以下(至適温度60℃)。
(3)生育pH域:pH8.0〜10.0(至適pH9.5)。
(4)栄養源:炭素源として、セルロース、セロビオース、リグノセルロース、澱粉、ペクチン、ソルビトール、マンニトール、又はグリセロールで生育できる。また、窒素源として、硫酸や硝酸アンモニウムのような無機態窒素だけでなく、イーストエキスやペプトン、牛肉エキスのような有機態窒素でも利用できる。
(5)生成物質:酢酸、エタノール、フマル酸、乳酸、コハク酸を生成する。
セルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号2に示したとおりである。図3は、クロストリジウム・スピーシーズA7株及びセルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株の16S rDNA遺伝子の塩基配列と、近縁菌種の16S rDNA遺伝子の塩基配列とを比較し、作成したヒストグラムである。
この結果、セルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株は新規の菌株と判断した。
本実施形態において、セルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株を培養するにあたり、培地を用いることが好ましい。
用いられる培地は、セルロシバクター属の菌が生育する条件であれば制限はなく、例えば、このような培地として、上記表1に示した組成のBMN培地を好ましく用いることができる。
その他用いることができる培地として、一般的な栄養培地であるNB(Nutrient Broth)培地(例えば、Difco社製の「Nutrient Broth, Bacto」(牛肉エキス3g/L、ペプトン5g/L含有)等)等を挙げることができる。中でも、培地としては、高効率でリグノセルロースを分解することから、上記表1に示した組成のBMN培地が特に好ましい。
本実施形態において、セルロシバクター・アルカリサーモフィラスW21−10株の培養方法は、公知慣用の方法で行うことができる。培養において、上記の培地を用いることができる。
本実施形態において、培養方法としては、例えば、静置培養法、振盪培養法、深部通気撹拌培養法等が挙げられる。
(b)配列番号1又は2に示す塩基配列と95%以上の同一性を有する核酸。
さらに、前記(b)の核酸を含む16S rRNA遺伝子は、リグノセルロース分解能を有する。
(c)配列番号1又は2に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換若しくは付加された塩基配列からなる核酸。
さらに、前記(c)の核酸を含む16S rRNA遺伝子は、リグノセルロース分解能を有する。
本発明の一実施形態に係るリグノセルロース系バイオマス分解用組成物は、少なくとも1種の上述の微生物、又は前記微生物由来の酵素若しくは遺伝子産物を含む。
前記微生物由来の酵素としては、例えば、エキソ−1,4−β−グルカナーゼ、エンド−1,4−β−グルカナーゼ、セルラーゼ(例えば、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオハイドロラーゼ(CBH)及びβ−グルコシダーゼ(BGL)等)、ヘミセルラーゼ(例えば、キシラナーゼ、キシロシダーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、アラビノフラノシダーゼ等)等の多糖分解酵素等が挙げられる。
本実施形態のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物は、さらに、以下の(d)の核酸を含む16S rRNA遺伝子を有する微生物のうち少なくとも1種を含んでいてもよい。
(d)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列からなる核酸。
上記(d)における配列番号4に示す塩基配列は、モレラ・ヒューミフェレラ(Moorella humiferrea)64−FGQ株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に87%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号5に示す塩基配列は、テピダナエロバクター・アセタトキシダン(Tepidanaerobacter acetatoxydans)Re1株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に88%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号6に示す塩基配列は、テピダナエロバクター・アセタトキシダン(Tepidanaerobacter acetatoxydans)Re1株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に91%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号7に示す塩基配列は、テピダナエロバクター・アセタトキシダン(Tepidanaerobacter acetatoxydans)Re1株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に95%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号8に示す塩基配列は、テピディマイクロビウム・フェリフィラム(Tepidimicrobium ferriphilum)DSM16624株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に96%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号9に示す塩基配列は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)DSM1313株、又はクロストリジウム・サーモセラムATCC27406株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号10に示す塩基配列は、サーモアナエロバクター・マサラニー(Thermoanaerobacter mathranii)A3株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
上記(d)における配列番号11に示す塩基配列は、難培養微生物(Uncultured bacterium clone)ATB−CK−1492−11株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に94%の同一性を有する菌種の16S rRNA遺伝子の塩基配列である。
モレラ・グリセリーニは、好熱性、嫌気性、芽胞形成菌である。
モレラ・ヒューミフェレラは、フミン酸と鉄(III)との間の往復電子を介して増殖することができる好熱性、嫌気性細菌である。
テピダナエロバクター・アセタトキシダンは、酢酸酸化共生微生物である。
テピディマイクロビウム・フェリフィラムは、嫌気性の中等度好熱菌である。
クロストリジウム・サーモセラムは、セルロソームという特徴的な酵素複合体を有し、効率的なセルロース分解を行う好熱菌である。
サーモアナエロバクター・マサラニーは、好熱性のエタノール生成菌である。
また、一般的に、難培養微生物とは、これまでに分離培養できなかった微生物や既知の微生物種とは系統学的に異なる微生物を意味する。
(e)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列と90%以上の同一性を有する核酸。
さらに、前記(e)の核酸を含む16S rRNA遺伝子は、リグノセルロース分解能、又はリグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能を有する。
なお、本明細書において、「リグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能」とは、リグノセルロース系バイオマスの分解産物を代謝する能力を意味する。リグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能として具体的には、例えば、リグノセルロース系バイオマスの分解産物である単糖、オリゴ糖、又は有機酸を代謝し、上述のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を生成する能力等が挙げられる。
(f)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換若しくは付加された塩基配列からなる核酸。
さらに、前記(f)の核酸を含む16S rRNA遺伝子は、リグノセルロース分解能、又はリグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能を有する。
本発明の一実施形態に係る糖化液の製造方法は、上述のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物を用いて、リグノセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる糖化工程を備える方法である。
上述のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物を用いて、リグノセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる。
また、さらにリグノセルロース系バイオマスには、上述のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物に含まれるものが微生物である場合、該微生物の生育に必要とされる塩や栄養素(例えば、ふすま、ペプトン、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、ポテトエキス、米ぬか、合成無機塩類等)を添加してもよい。
又は、水分、塩や栄養素の代わりに、前記微生物の生育に使用可能な培地を添加してもよい。培地としては、上述の<クロストリジウム・スピーシーズ(Clostridium sp.)A7株>で例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、リグノセルロース系バイオマスは、上述のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物と混合する前に、雑菌の繁殖を防止するために、加熱殺菌等の殺菌処理を行ってもよい。
前処理工程としては、例えば、粉砕処理、マイクロ波照射、爆砕処理、蒸煮処理、放射線照射処理、化学処理(例えば、ソルボリシス処理、オゾン処理、アルカリ処理、酸処理、酸化剤処理、還元剤処理等)、菌処理、酸化酵素処理、又はこれらの複合処理等が挙げられる。
この低分子化された前記単糖又はオリゴ糖を炭素源として利用して各種の発酵処理等を行うことにより、後述の≪リグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法≫に記載のとおり、各種リグノセルロース系バイオマス由来化合物を製造することができる。
本発明の一実施形態に係るリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法は、上述の糖化液の製造方法を用いて、糖化液を製造した後、前記糖化液からリグノセルロース系バイオマス由来化合物を生産させる生産工程を備える方法である。
上記の≪糖化液の製造方法≫により得られた糖化液を用いて、リグノセルロース系バイオマス由来化合物を生産させる。
精製工程は、前記生成工程において得られたリグノセルロース系バイオマス化合物を精製するための工程である。
精製方法としては、リグノセルロース系バイオマス化合物がアルコール類である場合は、例えば、蒸留法等が挙げられる。また、リグノセルロース系バイオマス化合物がアミノ酸類である場合は、例えば、イオン交換法、活性炭を用いた異物の吸着除去法等が挙げられる。
(1)バイオマス分解菌の選別
まず、サトウキビ茎葉、籾殻、及び牛糞尿を含む堆肥サンプル湿重量約2〜5gと、オイルパーム幹の搾汁後の繊維物、又はトウモロコシ茎葉をコーヒーミルにて粉砕した繊維物とを、BMN培地20〜25mLに懸濁した。次いで、得られた懸濁液を窒素(工業用グレード)にて十分にバブリングし、気相を窒素ガスで置換した後、ブチルゴム栓で密閉し、60℃にて3日間から1週間程度培養を行った。
なお、BMN培地の組成は、1.5g/Lのリン酸二水素カリウム、2.9g/Lのリン酸水素二カリウム、2.1g/Lの尿素、2g/Lの酵母エキス(ディフコ社製)、4g/Lの炭酸ナトリウム、0.5g/Lのシステイン塩酸塩、0.2mLのミネラル溶液(MgCl2・6H2O 5g; CaCl2・2H2O 0.75g; FeSO4・6H2O 0.0063gを水4mLに溶解したもの)である。
120時間〜144時間後に出現したコロニーのみ選択し、再度1%の前記バイオマス繊維物を含むBMN液体培地に接種し、分解能を確認した。さらに分離したセルロース分解菌を純化するため、このコロニー分離操作を2回繰り返した。
次いで、(1)で餞別したISI−3について、バイオマス分解能を検討するために、様々なバイオマス繊維物を用いて繊維分解能の検討を行った。以下の6種類のバイオマス繊維物を用いて、ISI−3のバイオマス分解能を測定した。
i)スターチ工場から排出されるキャッサバパルプ乾燥物(以下、「キャッサバパルプ」と称することがある。)
ii)サトウキビ搾汁残渣であるサトウキビ繊維(サトウキビバガス)の粉砕物(以下、「サトウキビバガス」と称することがある。)
iii)トウモロコシ茎葉(コーン茎葉)の粉砕物(以下、「コーン茎葉」と称することがある。)
iv)オイルパーム古木から得られた搾汁後の繊維粉砕物(以下、「パーム幹繊維」と称することがある。)
v)稲わら粉砕物(以下、「キャッサバパルプ」と称することがある。)
vi)サトウキビ近縁野生種エリアンサスの乾燥繊維粉砕物(以下、「エリアンサス」と称することがある。)
前記6種類のバイオマスはそれぞれ、70℃で3日間乾燥させ、粉砕ミル(ワンダーブレンダー WB−1大阪ケミカル社製)を用いて粉砕した。
バイオマス分解能の測定方法は1%の前記バイオマスをそれぞれ含むBMN液体培地を用いて、ISI−3を接種することで外観の容量の減少、及び投入した各バイオマスの重量から最終的に分解物の乾燥重量の差を算出し、比率に表すことにより分解できたバイオマス量を算出した。
分解できたバイオマス量の算出方法としてより具体的には、まず、前記バイオマスを含むBMN液体培地、及びISI−3のそれぞれの培養液を用い、残存する固形物が均一になるように良く混合した。次いで、その培養液からそれぞれ3mLを3本採取し、あらかじめ空の重量を測定してある15mLのファルコンチューブへ移した。次いで、ファルコンチューブを4℃にて8,000回転にて上清と沈殿物に分離した。前記沈殿物は5mLの蒸留水で懸濁し、再度、遠心分離を行い、上清を取り除いた。次いで、得られた沈殿物を乾燥させるため、80℃の恒温器にて3日間乾燥させた。次いで、乾燥させた沈殿物を含むファルコンチューブの重量を測定し、空のファルコンチューブ重量を差し引くことで沈殿物の乾燥重量を算出した。次いで、得られた乾燥重量を3で割ることで、1mL中のバイオマス乾燥重量とした。さらに、バイオマス分解率(糖化し可溶化したバイオマス量の割合)を以下の計算式により算出した。試験は3回繰り返し、平均値を得た。
バイオマス分解率(%)
=[{(分解前のバイオマス乾燥重量[g/mL])−(分解後の培養液中に含まれた残渣の乾燥重量[g/mL])}/分解前のバイオマス乾燥重量[g/mL]]×100
(3−1)ゲノムDNAの抽出
ISI−3の分類学上の性質を明らかにするために、16S rRNAの塩基配列解析を行った。ISI−3のゲノムDNAは、以下の手順により抽出した。
まず、前記バイオマス繊維物を炭素源として含むBMN液体培地を用いて、それぞれISI−3を4日間培養した。次いで、培養物を4℃にて10,000回転で5分間、遠心分離して、それぞれのバイオマスで培養した菌体を回収した。次いで、得られた菌体を溶菌させるために、最終濃度0.5%となるように10%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)と、最終濃度5μg/mLとになるようにプロテナーゼK(1mg/mL)溶液とを加え、37℃で1時間反応させた。次いで、最終濃度1%となるように10%臭化セチルトリメチルアンモニウム−0.7M塩化ナトリウム溶液を加え、65℃で10分間反応させた。次いで、反応後の培養液と等量のクロロフォルム−イソアミルアルコール溶液を加え、よく攪拌した。次いで、15,000回転、5分間遠心分離を行い、水層を得た。次いで、得られた水層に再度、フェノール−クロロフォルム−イソアミルアルコール混合液を水層と等量加え、攪拌した。次いで、15,000回転、5分間遠心分離を行い、水層を得た。次いで、得られた水層に対し、0.6倍容量のイソプロパノールを加えゲノムDNAを析出させた。次いで、遠心分離を行い、ゲノムDNAを調製した。次いで、調製したゲノムDNAを70%エタノールで洗浄し、乾燥した。
16S rRNA増幅用PCRプライマーは、27Fオリゴヌクレオチドプライマー(5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’:配列番号12)、及び1492Rオリゴヌクレオチドプライマー(5’−GGCTACCTTGTTACGACTT−3’:配列番号13)を用いた。また、PCRは、ExTaq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)により、16S rRNA遺伝子の増幅を行った。PCRの条件は98℃1分間、55℃1分間、72℃2分間を30サイクルの条件において増幅を行った。得られたPCR産物は、0.8%アガロースゲル電気泳動で増幅されたバンドを確認後、QIAGEN PCR精製キット(QIAGEN社製)を用いて、増幅されたPCR産物を精製した。
塩基配列解析及び相同性検索については、参考文献1及び2に記載された手法(参考文献1:[Lane, D. J., et al., “In Stackebrandt, E. and Goodfellow, M. (eds.), Nucleic acid techniques in bacterial systematics “, 16S/23S rRNA sequencing. p115-175, John Wiley & Sons, New York, 1991.]、参考文献2:[Takai, K. and Horikoshi, K., “Rapid detection and quatification of members of archaeal community by quantitative PCR using fluorogenic probes”, Appl. Environ. Microbiol., 66, p5066-5072, 2000.])に基づき、GenBank/EMBL/DDBJのデータベースを用いてBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)により実施した。
ISI−3を接種したそれぞれのバイオマスにおける微生物コンソーシアムを考えるため、増幅した16s rRNA遺伝子の塩基配列を利用して分子系統解析を行ったところ、12の微生物の存在が確認された。この11つの微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1〜11に示す。相同性検索の結果、ISI−3に含まれる微生物コンソーシアムは、以下の11の微生物である。
・Uncultured Clostridium sp. clone De3176の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性をもつ菌種(配列番号1)
・Cellulosibacter alkalithermophilus A6の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性を持つ菌種(配列番号2)
・Moorella glycerini strain JW AS−Y6の16S rRNA遺伝子の塩基配列に88%の相同性をもつ菌種(配列番号3)
・Moorella humiferrea strain 64−FGQの16S rRNA遺伝子の塩基配列に87%の相同性をもつ菌種(配列番号4)
・Tepidanaerobacter acetatoxydans strain Re1の16S rRNA遺伝子の塩基配列に88%、91%、又は95%の相同性をもつ3つの菌種(配列番号5、配列番号6、配列番号7)
・Tepidimicrobium ferriphilum strain DSM 16624の16S rRNA遺伝子の塩基配列に96%の相同性を示す菌種(配列番号8)
・Clostridium thermocellum DSM 1313、又はClostridium thermocellum ATCC 27406の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性をもつ菌種(配列番号9)
・Thermoanaerobacter mathranii A3の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性をもつ菌種(配列番号10)
・Uncultured bacterium clone ATB−CK−1492−11の16S rRNA遺伝子の塩基配列に94%の相同性を示す菌種(配列番号11)
また、今回のISI−3に含まれる菌種の同定によって、常に2種類〜5種類程度の菌種がコンソーシアムを組み共存し、バイオマスの効率的分解を行っていることが明らかとなった。
中でも、Uncultured Clostridium sp. clone De3176の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性をもつ菌種、及びCellulosibacter alkalithermophilus A6の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性を持つ菌種に関しては、特に、全てのバイオマスにおいて存在が確認されたことから、これら全てのバイオマス分解に重要な役割を行っていることが示唆される。そこで、上記2種類の菌種に関しては、ISI−3から純粋分離を試みた。
(3)の結果から、Uncultured Clostridium sp. clone De3176の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性をもつ菌種、及びCellulosibacter alkalithermophilus A6の16S rRNA遺伝子の塩基配列に99%の相同性を持つ菌種は、セルロース分解能が高い菌株であることが推察された。そこで、ISI−3から、特にセルロース分解能の高い菌を分離するため、1%結晶性セルロースを含むBMN寒天培地によりセルロース分解に伴うハロー形成可能な菌株を単離した。次いで、分離したコロニーは1%結晶性セルロースを含むBMN寒天培地によるシングルコロニーの分離操作を行い、本操作を3回繰り返した。最終的に、1%結晶性セルロースを含むBM7寒天培地(BM7培地の組成は、参考文献:「特開2010−51295号公報」参照。)において、72〜80時間で結晶性セルロース分解によるハローを形成出来るかどうかを確認した。
その結果、セルロース分解に伴うハローを形成可能な菌株を数株単離し、再度16S rRNA遺伝子の塩基配列を明らかにした。得られたDNA配列データを用いて、(3)と同様にGenBank/EMBL/DDBJのデータベースを用いてBLASTによる相同性解析を行い、Uncultured Clostridium sp. clone De3176に96%の相同性を持つかどうか、又はCellulosibacter alkalithermophilus strain A6に99%の相同性を持つかどうかを確認した。
Uncultured Clostridium sp. clone De3176に96%の相同性を持つ単離した菌株をClostridium sp. A7株(以下、「A7株」と称することがある。)と命名し、独立行政法人 特許微生物寄託センター(NPMD)国際寄託に2016年3月8日付けで受託番号NITE BP−02216として寄託されている。
また、16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いた系統樹解析を図3に示した。系統樹解析からA7株は、Clostridium alkalicellum Z−7026Tに近縁である新種である可能性が高いことが明らかとなった。
また、Cellulosibacter alkalithermophilus strain A6に99%の相同性を持つ高温性の嫌気性セルロース分解菌はCellulosibacter sp.W21−10株(以下、「W21−10株」と称することがある。)と命名し、独立行政法人 特許微生物寄託センター(NPMD)国際寄託に2016年5月24日付けで受託番号NITE BP−02265として寄託されている。
(A7株の形態学的特徴)
・培養至適温度 :55℃
・細胞形態 :桿菌(幅0.3〜0.4μm×長さ2.0〜6.0μm )
・グラム染色 :陽性
・芽胞形成 :なし
・コロニー色調 :オレンジ
(W21−10株の形態学的特徴)
・培養至適温度 :60℃
・細胞形態 :桿菌(幅0.2〜0.3μm×長さ2.0〜3.0μm)
・グラム染色 :陽性
・芽胞形成 :なし
・コロニー色調 :イエロー
さらに、生育可能なpHを調べるために、0.5%セロビオースを含むBMN液体培地を用いて、pH4.0からpH10.0まで、pH1.0おきに培地中のpHを塩酸で調整した後、600nmによる濁度の上昇を指標に生育測定を行なった。なお、pH8.0はTris−HCl緩衝液を培地に添加しpHの調整を行ない、pH9.0〜10.0は炭酸ナトリウム緩衝液を用いpHの調整を行なった。各pHに調整された液体培地はオートクレーブ後、pHメーターを用いて、指定のpHとなっているか確認をした後、菌を培養して試験を行なった。
A7株及びW21−10株の生理学的特徴を明らかにするために、炭素源の資化性試験を行った。糖の資化性は、セルロース、キシラン、澱粉、βグルカン、セロビオース、グルコース、フラクトース、アラビノース、マンノース、及びマルトースを各0.5%それぞれ含むBM7液体培地を用いて測定を行なった。不溶性基質であるセルロースは、セルロースの消失により資化性の有無を判定し、キシランは生育に伴うガス発生により測定を行った。またその他の可溶性基質を使用した場合、上記と同様に600nmでの濁度の上昇を測定した。培養は4日間行い、その後生育の有無を測定した。
(1)各バイオマスにおける各種菌株の培養
既知菌株であるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405株、A7株、W21−10株、又はそれらの組み合わせにおいて、バイオマスの分解が促進されるかどうかについて試験を行った。クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株のみの培養では、BMN培地の代わりにBM7培地(BM7培地の組成は、参考文献:「特開2010−51295号公報」参照。)を用いて、60℃にて4日間培養を行った。また、代表的なバイオマスとして、キャッサバパルプ、バガス、及びコーン茎葉を一例として用いた。それぞれのバイオマスに対して分解効率を示すために、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、培養終了後、良く残渣を撹拌した後、遠心分離により上清を取り除き、洗浄及び乾燥を行い、乾燥重量を求め、バイオマス分解率を算出した。結果を図6に示す。図6において、Ctとはクロストリジウム・サーモセラムATCC27405株を示し、A7とはA7株を示し、W21とはW21−10株を示す。
また、A7株を接種した場合においても、特に、キャッサバパルプにおいて分解効率が低い値となっていた。これは、A7株においても、澱粉資化性が弱いため、単独では大部分の澱粉が残存してしまうために、バイオマス残渣が多く残存したせいであると考えられる。
一方、W21−10株では、澱粉やセルロース資化性能両方有していることから、キャッサバパルプ、及びその他のセルロース系バイオマスにおいても、単独でも良好な分解効率を示した。
また、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株単独と比較して、A7株、及び/又はW21−10株を共存させることで、分解効率は飛躍的に上昇することが明らかとなった。特に、キャッサバパルプを用いた試験において、A7株及びW21−10株を共存させることより、約70%が分解し、可溶化できることが明らかとなった。
以上により、セルロース分解においては、A7株、W21−10株が中心となり、リグノセルロース系バイオマスを協調的、共同的に効率良く分解し、さらに、クロストリジウム・サーモセラムの共同作業により、結晶部分の高い結晶セルロース部分を完全に分解するものと考えられる。
よって、これらの非セルロース分解菌の役割、及び協調作用も、リグノセルロース系バイオマスの分解において、非常に重要であることが明らかとなった。
Claims (6)
- クロストリジウム・スピーシーズ(Clostridium sp.)A7株(NITE BP−02216)。
- セルロシバクター・アルカリサーモフィラス(Cellulosibacter alkalithermophilus)W21−10株(NITE BP−02265)。
- クロストリジウム・スピーシーズ(Clostridium sp.)A7株(NITE BP−02216)、及びセルロシバクター・アルカリサーモフィラス(Cellulosibacter alkalithermophilus)W21−10株(NITE BP−02265)からなる群より選択される少なくとも1種の微生物、又は前記微生物由来の酵素若しくは遺伝子産物を含むリグノセルロース系バイオマス分解用組成物。
- さらに、以下の(d)〜(f)のいずれかの核酸を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つリグノセルロース系バイオマスの分解能、又はリグノセルロース系バイオマスの分解産物の代謝能を有する微生物のうち少なくとも1種を含む請求項3に記載のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物。
(d)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列からなる核酸、
(e)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列と90%以上の同一性を有する核酸、
(f)配列番号3〜11のいずれかに示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠損、置換若しくは付加された塩基配列からなる核酸 - 請求項3又は4に記載のリグノセルロース系バイオマス分解用組成物を用いて、リグノセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる糖化工程を備える糖化液の製造方法。
- 請求項5に記載の製造方法を用いて、糖化液を製造した後、前記糖化液からリグノセルロース系バイオマス由来化合物を生産させる生産工程を備えるリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法。
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