JP6598049B2 - 乳頭構造分析に基づく肌状態の鑑別法 - Google Patents

乳頭構造分析に基づく肌状態の鑑別法 Download PDF

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Description

本発明は、皮膚の乳頭構造の分析に基づいて肌状態を鑑別する方法に関する。
素肌を美しく保ったり化粧を施したりするために、スキンケアやメークアップの方法を検討したり、化粧品を選択したりするに際して、肌の表面や内部の状態や性質、例えば肌のハリ・弾力、色、角層の状態、老化度、キメ、シワ、毛穴、紫外線に対する防御能等を的確に把握することは重要である。
これまでに、皮膚から得たレプリカ画像や皮膚の拡大写真を評価材料として、これらに画像処理を施して得た情報を利用して、シワやキメを鑑別する技術が開示されている(特許文献1、2)。
また、皮膚を直接的に計測して、その内部構造情報を得て、肌の状態の鑑別に供する方法も開発されている。特に、厚みのある生体試料を非侵襲的に観察することを可能とした共焦点レーザー顕微鏡により得た画像に基づいて、肌の状態を鑑別する方法が注目されている(特許文献3、4)。
ところで、皮膚を構成する表皮と真皮とが接する部分には、表皮側には基底層が、真皮側には乳頭層が存在し、両者の界面として乳頭構造が形成されている。乳頭構造とは、基底層側からは真皮へ表皮突起(乳頭体)が突き出し、乳頭層側からは表皮突起間に食い込むように乳頭突起(真皮突起)が並び凹凸の状態の構造である。乳頭突起には細かな結合線維、毛細血管、知覚神経末端が存在し、真皮・表皮への酸素や栄養の補給を行い、真皮・表皮からの二酸化炭素の回収や情報の受容を行う役割を担っている。
乳頭構造は、年齢や紫外線曝露によってその凹凸の扁平化や消失が起こり、肌のタルミに至りやすいことが知られている。また、真皮は自在に伸縮するが、真皮と接している表皮は、細胞が密に接しているシート状構造であるため伸縮性に乏しく、このような真皮と表皮の伸縮性の違いを緩衝するのが乳頭構造であるといわれている。また、乳頭構造における毛細血管はその凹凸に沿うように配置しているが、表皮直下にあるこの毛細血管は肌の色みに影響を与えることも知られている。そのため、乳頭構造と肌の状態とがどのような関係にあるかが関心を集め、検討されてきている。
例えば、乳頭真皮の厚さや乳頭構造の配置が肌色に影響すること(特許文献5、6)や、口唇において乳頭構造と老化度が相関すること(特許文献7)が知られている。また、乳頭構造に起因する皮膚の伸縮性がキメと相関関係にあることに基づき、キメや肌色などの皮膚表面情報を指標として皮膚内部構造を推定する方法(特許文献8)や、真皮乳頭の形状に基づき毛穴の目立ちを評価する方法(特許文献3)、真皮乳頭層密度を指標として敏感肌を分類する方法(特許文献4)が提案されている。
特開2004−230117号公報 特開2008−61892号公報 特開2004−337317号公報 特開2004−97436号公報 特表2001−504020号公報 特表2003−501651号公報 特開2002−291722号公報 特開2011−101738号公報
しかしながら、乳頭構造情報と肌状態との相関関係についての詳細な検討は十分になされていないのが現状であり、乳頭構造情報を指標とした場合にこれがどのような場合に肌がどのような状態にあるかを推定することを利用した鑑別法は知られていなかった。
本発明は、かかる状況に鑑み、簡便かつ高精度に、また非侵襲的に、肌状態を推定することができる、肌状態の鑑別法を提供することを目的とする。
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、乳頭構造の凹凸がはっきりしている場合やその凹凸が整って配置している場合は肌の状態が良く、乳頭構造が平坦な場合や凹凸があっても不規則な場合は肌の状態が悪いという相関関係があることを見出した(図1)。そして、乳頭構造パラメータを指標として肌状態を推定し、その推定結果に基づいて肌の状態の良し悪しを鑑別することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 乳頭構造情報を指標として肌状態を推定することを特徴とする肌状態の鑑別法。
[2] 前記乳頭構造情報が、乳頭突起の高さ、乳頭突起の高さの標準偏差、単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数、単位観察視野面積当たりの乳頭構造の表面積、乳頭突起の等高断面積の平均、乳頭突起の等高断面積の標準偏差、乳頭突起の等高断面の円形度の平均、乳頭突起間の距離、及び乳頭突起間距離の標準偏差から選択される乳頭構造パラメータの一種又は二種以上である、[1]に記載の鑑別法。
[3] 前記乳頭構造パラメータが、共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測されたものである、[2]に記載の鑑別法。
[4] 前記乳頭構造パラメータが、皮膚表面情報に基づいて推定されたものである、[2]に記載の鑑別法。
[5] 前記肌状態が、ハリ・弾力、タルミ、肌色、キメ、角層状態、及び紫外線防御能から選択される一種又は二種以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の鑑別法。
[6] 前記肌状態の推定が、多変量解析によって得られた推定式を用いて行われる、[1]〜[5]のいずれかに記載の鑑別法。
本発明により、簡便かつ高精度に、また非侵襲的に、肌状態を鑑別する方法が提供される。これにより、個人に合わせた肌の手入れや化粧方法を検討・選択・決定する際に有用な情報を得ることができ、該情報を肌の手入れや化粧方法に関するカウンセリングにも利用できる。
乳頭構造の様々なパターンを表す概略図である。 乳頭構造の垂直断面及び水平断面を示す図である(図面代用写真)。 共焦点レーザー生体顕微鏡にて撮影した頬部位の写真である。 乳頭突起の個数(実測値)と皮膚粘弾物性との相関関係を表すグラフである。 乳頭突起の個数(実測値)と皮膚色との相関関係を表すグラフである。 乳頭突起の個数の実測値と推定値との相関関係を表すグラフである。 乳頭突起の個数(推定値)と皮膚粘弾物性との相関関係を表すグラフである。 乳頭突起の個数(推定値)と皮膚色との相関関係を表すグラフである。 実施例5の凹凸構造モデルの模式図である。
本発明の肌状態の鑑別法は、乳頭構造情報を指標として肌状態を推定することを特徴とする。
本明細書において、乳頭構造とは皮膚の真皮と表皮の接する界面構造のことをいう。通常、乳頭突起と表皮突起が互いに組み合わさることにより形成される、乳頭状〜波型の凹凸が並ぶ構造である。また、乳頭突起とは真皮突起ともいい、真皮が表皮側に侵入する部分であり、表皮突起とは表皮が真皮側に突出した部分をいう。
本明細書において、乳頭構造情報とは、乳頭構造の形状や配置等を特徴づける乳頭突起の高さ、乳頭突起の高さの標準偏差、単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数、単位観察視野面積当たりの乳頭構造の表面積、乳頭突起の等高断面積の平均、乳頭突起の等高断面積の標準偏差、乳頭突起の等高断面の円形度の平均、乳頭突起間の距離、乳頭突起間の距離の標準偏差などの乳頭構造パラメータである。本発明の鑑別法においては、通常には、上記乳頭構造パラメータの一種又は二種以上を指標として用いる。
本発明において乳頭構造パラメータの取得方法は、特に限定されるものではなく、侵襲的又は非侵襲的に乳頭構造を実際に観察して乳頭構造パラメータを測定してもよいし、あるいは乳頭構造パラメータを推定式によって推定した値を本発明に用いてもよい。
乳頭構造を実際に観察する方法としては、例えば共焦点レーザー顕微鏡を用いてパラメータを計測する方法が挙げられる。共焦点レーザー顕微鏡は、対象物に対して同じ深さの箇所の像を観察できるため、得られた乳頭構造の等高イメージ(水平断面画像)から乳頭構造パラメータを算出することができる。また、生体材料に対してもin vivoで非侵襲的に観察を行えるため有用である。共焦点レーザー顕微鏡は、オリンパス社やLucid社等から市販されているものを特に制限なく使用できる。
乳頭構造パラメータを推定する方法は、例えば皮膚表面情報に基づいて推定する方法が挙げられる。皮膚表面情報としては、例えばキメや肌色等が挙げられ、これらを特徴づけるキメパラメータや肌色パラメータ等を用いて表される推定式により乳頭構造パラメータを推定することができる(特許文献8参照)。キメパラメータは、例えば表皮組織定量化法(特開2008−061892号公報参照)を用いて得られる、皮溝面積、皮溝平均太さ、皮溝太さのバラツキ、皮溝の平均間隔、皮溝の平行度、歪度(90〜180°)、皮溝太さ最頻数、及び連結数合計等が挙げられる。また、肌色パラメータは、RGB、マンセル(明度、色相、彩度)、L*a*b、XYZ、L*C*h、及びハンターLab等の表色系が挙げられる。
なお、皮膚表面情報に基づいて推定した乳頭構造パラメータを本発明の鑑別法に用いる場合、推定される肌状態は、乳頭構造パラメータの推定に用いた皮膚表面情報とは通常異なる。具体的には、例えば、キメパラメータを用いて推定した乳頭構造パラメータを本発明の鑑別法に用いる場合は、キメ以外の肌状態(後述する、ハリ・弾力、タルミ、肌色、角層状態、紫外線防御能等)を推定する。
以下に、上記乳頭構造パラメータについて図を参照しながら説明する。
乳頭突起の高さとは、乳頭突起の先端から根元までの長さを指し、図2を参照して説明すると、角層細胞層を深さ0としたときの乳頭突起の開始部の深さAと終了部の深さBの差(B−A)である。この高さ(μm)が大きいことは乳頭構造の凹凸がはっきりしていることを示し、例えば3μm以上、さらには9μm以上、特に15μm以上であることが好ましい状態であり、通常50μm以下である。
また、この高さのばらつきは標準偏差で表され、これが小さいことは乳頭突起の高さがそろっていることを示し、例えば10.0以下、さらには7.0以下、特に4.0以下であることが好ましい状態である。また、単位観察視野面積(例えば4mm2)当たりの乳頭突起の高さの最大値と最小値の差が40μm以下、さらには22μm以下、特に7μm以下であることが好ましい状態である。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭突起の高さが大きくかつそろっていて、はっきりした凹凸が整っている乳頭構造のパターンだが(図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じて不均一な凹凸パターンとなったり(図1b)、乳頭構造が全体的に低くなりなだらかな凹凸のパターンとなったりして(図1c)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の悪化を表す(図1d)。
単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数とは、共焦点レーザー顕微鏡などで観察した場合の視野範囲内にある乳頭突起の個数を指し、例えば、乳頭突起の断面が最も見やすく乳頭突起断面(輝度の高い基底細胞に囲まれた円形断面)が観察される深さの画像で該断面を数えることにより測定できる。
測定例として図3を参照すると、1mm×1mmの観察範囲において乳頭突起の断面(▲印で示す)が多く見られる場合は、観察部位には乳頭突起が多く存在し、乳頭構造に凹凸が存在して肌状態が良いことを示す(図3a)。具体的には、単位観察視野面積(例えば1mm2)当たりの乳頭突起の個数が3個以上、さらには5個以上、特に10個以上であることが好ましい状態である。一方、同じく1mm×1mmの観察範囲において乳頭突起の断面が少ない場合は、観察部位には乳頭突起がほとんど存在せず、乳頭構造が平坦で肌状態が良くないことを示す(図3b)。具体的には、単位観察視野面積(例えば1mm2)当たりの乳頭突起の個数が2個以下、さらには1個以下、特に0個であることが好ましくない状態である。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭突起が多く、乳頭構造の凹凸ははっきりしているパターンだが(図1a)、肌が加齢や諸々のダメージを受けると乳頭突起は変形して個数が減少し(図1b)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の悪化を表す(図1d)。
単位観察視野面積当たりの乳頭構造の表面積とは、共焦点レーザー顕微鏡などで観察した場合の視野範囲内の乳頭構造(真皮と表皮の接する界面構造)の総表面積を指す。乳頭突起が高かったり乳頭突起の数が多かったりして乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、該表面積が大きくなる。該表面積が大きいことは、肌状態が良いことを示す。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭構造の凹凸がはっきりしていて表面積が大きいが(図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭構造の表面積が減少し(図1b、c)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり表面積は小さくなり、肌の状態の悪化を表す(図1d)。
乳頭突起の等高断面積の平均とは、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、観察視野に存在する乳頭突起1個ずつの断面積の平均を指す(図2d)。乳頭突起が高かったり細かったりすると乳頭構造の凹凸がはっきりするため、この断面積は小さくなり、肌状態が良いことを示す。具体的には、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を、単位面積(例えば1mm2)で観察した場合の、乳頭突起の断面積の平均が3000μm2以下、さらには1600μm2以下、特に900μm2以下であることが好ましい状態である。
また、観察視野に存在する乳頭突起1個の断面積の各乳頭突起間のばらつきは標準偏差で表され、これが小さいことは乳頭の大きさがそろった整った凹凸状態の乳頭構造であることを示し、例えば1600以下、さらには700以下、特に300以下であることが好ましい状態である。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭突起が高く、多く、そろって存在する乳頭構造パターンで、乳頭突起の断面積は小さいが(図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じたり、乳頭構造が全体的に低くなりなだらかな凹凸のパターンとなったりして、断面積が大きくなり(図1b、c)、最終的には乳頭構造が平坦なパターンとなり当然乳頭突起は消失し、肌の状態の悪化を表す(図1d)。
乳頭突起の等高断面の円形度の平均とは、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、乳頭突起の断面形状(図2d)の円に近い度合いを表す円形度の、観察視野に存在する各乳頭突起の平均を指す。円形度は4π(断面積)/(周囲長)2により算出できる。この値が1に近いほど該断面形状が真円に近いことを示し、例えば単位面積(例えば4mm2)で観察した場合の、乳頭突起の等高断面の円形度の平均が0.5以上、さらには0.75以上、特に0.87以上であることが好ましい肌状態であることを示す。また、円形度が0.9以上の乳頭突起が存在することがより好ましい肌状態であることを示す。該断面形状が歪な楕円であったり、複数の円が繋がった形だったりする場合は、乳頭突起が歪んだ形状であったり、乳頭構造の凹凸が不規則であることを示す。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭突起の高さが大きくかつそろっており、乳頭突起の断面は円形に近く、はっきりした凹凸が整っている乳頭構造のパターンだが(図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じて、隣接する乳頭突起と繋がってその断面が歪な形となり、不均一な凹凸パターンを呈し(図1b)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の悪化を表す(図1d)。なお、乳頭構造が全体的に低くなった場合は、乳頭突起の断面は円形に近い状態となることもあるが、この場合は他のパラメータ(例えば乳頭突起の断面積)で肌の状態の推定の正確性を担保できる(図1c)。
乳頭突起間の距離とは、乳頭突起とそれと別の乳頭突起との間の距離を測定した値を指し、通常は任意に選択した乳頭突起とそれに最も近い他の乳頭突起との間の距離を測定した値をさす。乳頭突起間距離の標準偏差とは、前記乳頭突起間の距離を観察視野に存在する各乳頭突起間について測定した値のばらつきを指す。これらの値は、例えば、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、各乳頭突起の断面の中心どうしの距離の測定値から得られる。乳頭突起間の距離が小さいことは観察視野に乳頭突起が密に存在していることを示す。また、この標準偏差が小さいことは、乳頭突起が観察視野において均等に配置していることを示し、一方この標準偏差が大きいことは、乳頭突起の配置が不均一であることを示す。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は各乳頭突起間の距離が近かったり、そろっていて乳頭突起が均一に配置したりしており、凹凸が整って並んでいる乳頭構造のパターンだが(図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると、隣接する乳頭突起と繋がって乳頭突起間距離が大きくなったりばらつきが生じたりして、不均一な凹凸パターンを呈する(図1b)。なお、乳頭構造が全体的に低くなった場合は、乳頭突起の配置は均一なままではあるが、その乳頭突起間の距離が大きくなる(図1c)。また、肌の状態の悪化が進むと最終的には乳頭突起が消失して、乳頭突起間距離の測定は困難になるが、この場合も他のパラメータ(例えば乳頭突起の高さ)で肌の状態の推定の正確性を担保できる(図1d)。
本発明の鑑別法により推定される肌状態は、肌の表面や内部の状態や性質であり、具体的には例えばハリ・弾力、タルミ、肌色、キメ、角層状態、紫外線防御能であり、通常には、上記肌状態の一種または2種以上である。なお、ここでいう肌の部位は顔面、四肢、頸部、胴部等特に限定されないが、通常は顔面の肌状態について鑑別を行う。以下に種々の肌状態と、それに乳頭構造が及ぼす影響について説明する。
「ハリ・弾力」は、肌が加えられた力に対して押し返す性質、あるいは変形するがその力が除かれれば元に戻ろうとする(復元する)性質である。例えば、皮膚の粘弾物性で表される。
一般に水平方向の力に対して変形・復元する力の有無は、シワのできやすさに影響するといわれている。乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、水平方向の力に応じて真皮・表皮が縮んでも、伸縮性に乏しい表皮の復元を伸縮自在な真皮からの乳頭突起がサポートして戻るため、その肌はハリ・弾性に富み、シワができにくい。一方、乳頭構造が平坦だと、肌は復元できず、ハリ・弾性に乏しく、シワができやすい。
また、乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、肌の表面からの垂直方向の力に対して変形しても、乳頭突起と真皮コラーゲン線維構造の協働により押し戻されて復元するため、その肌はハリ・弾性に富み、若々しい肌であるといえる。
「タルミ」は、加齢等の要因により皮膚のハリ・弾力が失われた結果発生する皮膚の重力方向への形状の変化である。一般的には、VECTRA M3(キャンフィールドイメージングシステムズ CANFIELD Imaging Systems)等の画像処理システムを用いて、直立姿勢での顔面と斜めに傾斜した姿勢での顔面とを撮影し、姿勢の違いによる顔面形状の差分を得ることにより評価される。
乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、表皮と真皮との境界面積が大きくなり、すなわち表皮と真皮との接着が強固になるため、重力などの外力が与えられても表皮と真皮がずれにくく、その肌はタルミが生じにくい。
「肌色」は、肌の色味や明るさによって、若々しさや健康的な印象を左右する肌の状態の要素である。一般には、分光測色計や色彩色差計などで測定され、例えばRGB、マンセル(明度、色相、彩度)、L*a*b、XYZ、L*C*h、ハンターLab等の表色系で表示できる。
肌色には、毛細血管の構造や分布が大きく影響するところ、毛細血管を抱える乳頭突起の分布・配置がこれに寄与する。具体的には、乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、肌表面から入った光がこの凹凸に当たって散乱することによりソフトフォーカス効果が得られ、また乳頭突起が規則的に並んでいると、毛細血管の分布もそれに伴うため均一な肌色となり、いわゆる肌の内側から輝くような明るい肌色になる。一方、乳頭構造が平坦だと、肌表面から入った光は正反射してあたたかみのない肌色になり、また乳頭突起がまばらに並んでいると、毛細血管の分布もムラができ、肌色は不均一となるので肌のくすみを生じさせる。
「キメ」は、皮膚表面の形態を指し、皮溝(皮膚表面を縦横・放射状に走る細かく浅い溝)や皮丘(皮溝で囲まれた微小の隆起)からなる皮紋の細かさ/粗さ、整/歪により、良し悪しが評価される。種々の表示方法が知られているが、例えば、表皮組織定量化法(特開2008−61892号公報)で得るキメパラメータで表される。
乳頭構造の凹凸が大きくかつ整っていると、表皮の伸縮性に寄与し、キメが細かくそろった肌状態となる。一方、乳頭構造が平坦だったり凹凸が不規則だったりすると、表皮は伸縮性に乏しく、キメは粗く歪んだ状態となる。
「角層状態」は、角層が紫外線等のエイジング加速因子を防御できる働きを有している状態を指す。例えば、紫外線等によりダメージを受けるコラーゲン線維束構造の状態を表すコラーゲン線維構造の等方性やコラーゲン線維の太さを評価標準に用いたスコアや、メラノサイトの活性状態を表す酵素活性スコア等で表示できる。
乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、表皮に酸素や栄養が十分に行き渡り基底細胞分裂が活発となるため、エイジング防御力の高い角層ができ、コラーゲン線維束構造が破壊されることはなく、メラノサイトが不必要に活性化されることもない。一方、乳頭構造が平坦だと、角層が貧弱になり、コラーゲン線維束構造が紫外線等により破壊されたり、メラノサイトが活性化したりする。
「紫外線防御能」は、紫外線照射により皮膚が受けるダメージを防御できる能力を指し、肌表面から入った紫外光の真皮までの透過率や、ケラチノサイトの活性等で評価することができる。
紫外線を含む光、電磁波は屈折率の異なる二層の界面で反射する。乳頭構造は屈折率の異なる真皮と表皮の界面であり、乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、皮膚の単位投影面における境界面が多くなることから、肌表面から入った紫外光がこの凹凸に当たって反射量が多くなり、真皮にまで到達しにくくなり、肌の紫外線防御能は高くなる。一方、乳頭構造が平坦だと、肌表面から入った紫外光は反射量が少なくなり、真皮への紫外線透過率が高くなり、肌の紫外線防御能は低くなる。
本発明の鑑別法では、測定により得た乳頭構造パラメータを多変量解析によって得られた推定式に当てはめることにより、肌状態を表すパラメータを導くことによって解析を行うことが好ましい。前記推定式は、多変量解析のソフトウェアを利用して、実測した乳頭構造パラメータと肌状態パラメータとの相関分析及び回帰分析を行って作成できる。そのようなソフトウェアとして、装置に付属したソフトウェア、SPSS社やSAS社等の市販されているソフトウェアあるいはフリーソフトなどを用いることができ、特に制限されない。
また、推定式を作成するに際して測定標準となるパネラーは、特に限定されないが、好ましくは30名以上、より好ましくは50名以上、さらに好ましくは100名以上であることが、解析の正確性を確保するため好ましい。また、年齢は20〜60代というように広範囲に偏りなく分布させることが好ましく、必要によっては年齢の要素を加味した推定式を作成してもよい。また、性別や人種もそろえて、例えば黄色人種の女性とすることが好ましい。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>乳頭個数に基づくハリ・弾力の鑑別
(1)乳頭突起の個数の測定
20〜60代の88名の日本人女性被験者の頬部について、2mm×2mmの観察範囲における乳頭突起の個数を測定した。測定は共焦点レーザー生体顕微鏡(VivaScope 1500Plus;米国Lucid社製)を用いて行い、頬部にプローブを置き、3μm深さ毎に180μmの深さまで、合計60平面の2mm×2mmの範囲を計測した。撮像した中で最も見やすく乳頭突起断面(輝度の高い基底細胞に囲まれた円形断面)が観察される平面画像において乳頭突起の個数をカウントした。典型的な撮像を図3に示す(ただし、図3は前記計測領域から1mm×1mmの範囲を切り出したものである)。
(2)皮膚粘弾物性の測定
前記被検者の乳頭突起の個数を測定したのと同じ頬部位における、皮膚に対して水平方向へ変形を加えた場合の戻り値を測定し、これをハリ・弾力を表す皮膚粘弾物性値とした。具体的には、皮膚に基準点(位置:0mm)を設け、これを支点として皮膚に水平な方向へ78.6g重の力で引っ張り、該力を除去した直後に基準点が戻った位置の基準位置からの距離(mm)を測定した。この値が0mmに近いほど、皮膚が水平方向の変形に対して復元する性質に優れ、肌のハリ・弾力が大きいことを示す。
(3)解析
上記測定した乳頭突起の個数と皮膚粘弾物性値とを用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(図4)。その結果、乳頭突起の個数と皮膚粘弾物性値との間に有意な相関関係の存在が認められ、乳頭突起の個数を指標として肌のハリ・弾力に関する状態を推定できることがわかる。
<実施例2>乳頭突起の個数に基づく肌色の鑑別
(1)乳頭突起の個数の測定
実施例1と同様に、被検者の乳頭突起の個数を測定した。
(2)皮膚の測色
前記被検者の乳頭突起の個数を測定したのと同じ頬部位における皮膚の色を、分光測色計(CM−2600d;コニカミノルタ社製)により測定し、皮膚の測色b*値を得た。この値は肌色の黄色度合いを示し、小さいほどいわゆる若々しい肌色であることを示す。
(3)解析
上記測定した乳頭突起の個数と皮膚の測色b*値とを用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(図5)。その結果、乳頭突起の個数と皮膚の測色b*値との間に有意な相関関係の存在が認められ、乳頭突起の個数を指標として肌の色の状態、特に若々しさの程度を推定できることがわかる。
<実施例3>推定された乳頭突起の個数に基づくハリ・弾力の鑑別
(1)乳頭突起の個数の推定
20〜60代の88名の日本人女性被験者の頬部について、ビデオマイクロスコープ(Moritex i−scope 30倍レンズ)を用いて皮膚拡大画像を取得した。前記皮膚拡大画像から、特開2008−061892に記載の表皮組織定量化法に基づきキメパラメータである「皮溝の平均間隔」、「歪度(90〜180°)」及び「連結数合計」を取得した。得られた値を下記式1に代入して撮像範囲における乳頭突起の個数の推定値を算出した。なお、キメパラメータ及び下記推定式の詳細は特開2011−101738号公報(特許文献8)を参照されたい。
乳頭突起の個数=−27.7*「皮溝の平均間隔」−3.94*「歪度(90〜180°)」−0.22*「連結数合計」+96.97 (式1)
また、同じ観察範囲における乳頭突起の個数を実施例1と同様に測定した。
上記乳頭突起の個数の推定値と実測値について、JMP ver.6.0(SAS)を使用して相関分析を行ったところ、両者に有意な相関関係が認められたため(図6)、以降の解析に乳頭突起の個数の推定値を供した。なお、推定値が負の値となった場合は、0に置き換えた。
(2)皮膚粘弾物性の測定
実施例1と同様に、前記被検者の乳頭突起の個数を推定したのと同じ頬部位における、ハリ・弾力を表す皮膚粘弾物性値を測定した。
(3)解析
上記推定された乳頭突起の個数と上記測定した皮膚粘弾物性値とを用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(図7)。その結果、乳頭突起の個数の推定値と皮膚粘弾物性値との間に有意な相関関係の存在が認められ、推定された乳頭突起の個数を指標としても、肌のハリ・弾力に関する状態を推定できることがわかる。
<実施例4>推定された乳頭突起の個数に基づく肌色の鑑別
(1)乳頭突起の個数の推定
実施例3と同様に、被検者の乳頭突起の個数を推定した。
(2)皮膚の測色
実施例2と同様に、前記被検者の乳頭突起の個数を推定したのと同じ頬部位における、皮膚の色を、皮膚の測色b*値を測定した。
(3)解析
上記推定された乳頭突起の個数と上記測定した皮膚の測色b*値とを用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(図8)。その結果、乳頭突起の個数の推定値と皮膚の測色b*値との間に有意な相関関係の存在が認められ、推定された乳頭突起の個数を指標としても、肌の色の状態、特に若々しさの程度を推定できることがわかる。
<実施例5>乳頭構造モデルを用いた紫外線防御能の検討
台上に直径1mmの球状ビーズを複数個並べ、その上から寒天液(10% W/V)を流し固めて、球状ビーズで凹凸の型を取った寒天試料を作製し、乳頭突起を有する表皮のモデルとした。比較として、球状ビーズに代えて厚さ1mmの板を用いて同様に寒天試料を作製し、乳頭突起がなく平坦な表皮のモデルとした(図9)。これらの寒天試料の型を取った面もしくは反対側の面の側から紫外光(UVA)を照射し、UV TRANSMITTANCE ANALYZER(labsphere社)を用いて、紫外線透過率を測定した。その結果、凹凸がある場合の紫外線透過率は68%であり、凹凸構造がない場合の紫外線透過率は73%であった。
本発明により、簡便かつ高精度に、また非侵襲的に、肌状態を推定することができる。これにより、肌の手入れや化粧方法を検討・選択・決定する際に有用な情報を得ることができ、該情報を肌の手入れや化粧方法に関するカウンセリングにも利用できるため、産業上非常に有用である。

Claims (4)

  1. 美容目的で乳頭構造情報を指標として肌状態を推定することを特徴とする肌状態の鑑別法であって、
    前記肌状態が、ハリ・弾力であり、
    前記乳頭構造情報が、単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数である方法。
  2. 前記乳頭構造パラメータが、共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測されたものである、請求項1に記載の鑑別法。
  3. 前記乳頭構造パラメータが、皮膚表面情報に基づいて推定されたものである、請求項1に記載の鑑別法。
  4. 前記肌状態の推定が、多変量解析によって得られた推定式を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鑑別法。
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