以下、本発明における好ましい実施の形態を示す。しかし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、形態が本発明の技術的思想を有するものである限り、本発明の範囲に含まれる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせなどは一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る発振器100を示す図である。実施形態1の発振器100は、発振周波数が磁場により可変な発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103とを備える。導体103は、直流電流Iを発振部101に流入させる導体103aと、発振部101から直流電流Iを流出させる導体103bとを有する。
発振器100に直流電流Iを供給すると、導体103を流れる直流電流Iによって、磁場Hが発生する。導体103は、磁場Hが発振部101に印加されるように配置されている。導体103は、直流電流Iの流入側の導体103aに限らず、直流電流の流出側の導体103bを流れる直流電流Iによっても、磁場Hが発振部101に印加されるように配置されていてもよい。発振部101は、直流電流Iと磁場Hが印加されることで発振する。さらに導体103は、磁場Hによって、発振部101が所望の周波数で発振するように配置されている。
発振部101には、直流電流Iの印加のみによって発振する発振部と、さらに閾値以上の磁場を印加することによって発振する発振部が挙げられる。ここで閾値磁場とは、発振部101に直流電流が供給されている場合に、発振部101が発振するために最低限必要な磁場の大きさである。
閾値以上の磁場を印加することによって発振する発振部、言い換えると閾値磁場がゼロより大きい発振部を発振させるためには、直流電流とともにゼロより大きい磁場を発振部に印加する必要がある。このときのゼロより大きい磁場とは、地磁気以上の磁場である。ちなみに、ここでの地磁気とは、発振器に作用する地球磁気を示し、例えば、地表における地球磁気は、目安として37A/mである。
導体103により発生する磁場を発振部101に印加する場合は、導体103は発振部101の極近傍に配置できるので、強い磁場の大きさを調整して発振部101に印加できる。したがって、磁石などの外部の磁場印加機構からの磁場を大きくする必要がなくなるため、前記磁場印加機構を小型化できる。つまり、この構成により発振器全体の小型化が可能になる。ちなみに外部の磁場印加機構は磁石に限られず、例えば、配線を流れる電流が発生する磁場、またはコイルや電磁石を用いることができる。
発振部101は、例えば磁気抵抗効果素子や、発振回路と磁気共鳴を用いたフィルタで構成されるフィルタ付発振器や、ジョセフソン素子を用いることができる。
図2には磁気抵抗効果素子の構成例を示す。磁気抵抗効果素子205は磁性層であるピン層206aと、磁性層であるフリー層206bと、その間に配置されたスペーサ層207とを有する。ここでのピン層206aの磁化方向は固定されており、矢印209aはピン層206aの磁化の固定方向を示す。フリー層206bの磁化方向は、電流を印加する前の状態では、有効磁場の方向を向いており、矢印209bは有効磁場の方向を示す。有効磁場は、フリー層206b内で生じる異方性磁場、交換磁場、外部磁場、反磁場の和である。図2では、ピン層206aの磁化の方向と、フリー層206bの有効磁場の方向が、互いに反対方向を向いているが、互いの方向はこれに限らない。
磁気抵抗効果素子205は特に限定されないが、例えばGMR素子、またはTMR素子、またはスペーサ層207の絶縁層中に電流狭窄パスが存在する磁気抵抗効果素子などを用いることができる。
磁気抵抗効果素子205にGMR素子を用いる場合、スペーサ層207は、例えば、銅など非磁性金属を用いることができる。GMR素子のフリー層206bおよびピン層206aの材料は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。GMR素子は、スペーサ層207が金属からなるため、他の磁気抵抗効果素子に比較して抵抗値が低い。このため、磁気抵抗効果素子205を低インピーダンスの回路に接続する際に、インピーダンス整合の観点で好ましい。
磁気抵抗効果素子205にTMR素子を用いる場合、スペーサ層207は、例えば、アルミナや酸化マグネシウム(MgO)の絶縁層を用いることができる。TMR素子のフリー層206bおよびピン層206aの材料は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金としてボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。TMR素子はスペーサ層207が絶縁層からなるため、他の磁気抵抗効果素子に比較して抵抗値が高い。このため、磁気抵抗効果素子205を高インピーダンスの回路に接続する際に、インピーダンス整合の観点で好ましい。
さらに磁気抵抗効果素子205に、スペーサ層207の絶縁層中に電流狭窄パスを有する磁気抵抗効果素子を用いる場合、そのスペーサ層207の絶縁層はAl2O3等からなる。スペーサ層207の電流狭窄パスは、例えば銅などの非磁性金属や、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した磁性金属を用いることができる。この磁気抵抗効果素子205の磁化自由層および磁化固定層には、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、クロムなどの磁性金属とその合金、又は、磁性合金にボロンを混入した合金を用いることができる。ピン層206aの磁化を固定するには、イリジウム、鉄、白金、マンガンなどの合金による反強磁性層との交換結合や、磁性金属多層膜(例えばコバルト鉄−ルテニウム−コバルト鉄の多層膜)による反強磁性結合を用いることができる。そして、各層の厚さは0.1〜50nm程度が好ましい。この磁気抵抗効果素子205は、電流狭窄パスを有し、その電流狭窄パスによって電流密度を上げられる。このため、素子への投入電流を他の磁気抵抗効果素子に比較して小さくすることができる。この磁気抵抗効果素子205を発振部101に使用することによって、消費電力を抑えた回路とすることができる。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子205の自励発振について説明する。ここで自励発振とは、振動的でない直流電流により電気的振動が誘起される現象である。磁気抵抗効果素子205に直流電流Iを流すと、伝導電子208が直流電流Iとその逆方向、すなわちピン層206aからスペーサ層207を介してフリー層206bに流れる。矢印209aの方向に磁化したピン層206aにおいて、伝導電子208のスピンは矢印209aの方向に偏極する。矢印209cは伝導電子208のスピンの方向を表す。スピン偏極した電子208はスペーサ層207を介してフリー層206bに流れこむことで、フリー層206bの磁化と角運動量の受け渡しを行う。これによって、フリー層206bの磁化の方向を、有効磁場の方向を示す矢印209bの方向から傾かせようとする作用が働く。一方で、フリー層206bの磁化の方向を、有効磁場の方向を示す矢印209bの方向に安定させようとするダンピングの作用がはたらく。したがって、これら2つの作用がつりあって、フリー層の磁化方向は有効磁場の方向の周りを歳差運動する。この歳差運動を、フリー層の磁化方向を示す矢印209dの、有効磁場の方向を示す矢印209bのまわりの運動として表わし、一点鎖線209eによって矢印209dの歳差運動の軌跡を示す。フリー層の磁化方向がピン層の磁化方向に対して高周波で変化するため、フリー層の磁化方向とピン層の磁化方向の相対角度に依存して抵抗が変化する磁気抵抗効果によって、抵抗値も高周波で変化する。直流電流Iに対して抵抗値が高周波で変化するので、およそ100MHzから1THzの高周波数で振動する電圧が発生する。有効磁場の方向は、ピン層206aの磁化方向に対して反対方向である180度の角度を有するだけでなく、同じ方向である0度や、45度、90度、または135度のような角度を有することができる。
印加磁場と発振周波数は、おおよそ比例関係にある。したがって、高周波の発振を生じさせるためには、外部磁場は大きい方が望ましい。
また、発振部101は発振回路と磁気共鳴を用いたフィルタで構成されるフィルタ付発振器を用いることができる。図3はフィルタ付発振器の構成例を示した図である。フィルタ付発振器300は発振回路301と、磁気共鳴を用いたフィルタ302と、導体103とからなる。導体103は、フィルタ付発振器300に電流を供給する部分と、フィルタ付発振器300から電流が流出する部分と、発振回路301とフィルタ302を接続する部分とを含む。フィルタ付発振器300においては、磁気共鳴を用いたフィルタ302に、電流が発生する磁場を効率良く印加できるように、導体103と、磁気共鳴を用いたフィルタ302を配置することが望ましい。
磁気共鳴を用いたフィルタを利用したフィルタ付発振器300には、例えばYIG発振器を用いることができる。YIGとはYttrium Iron Garnet/Y3Fe2(FeO4)3の略である。YIG発振器は発振回路とYIGにより構成される。YIGは球状が好ましい。YIGの単結晶フェライトで作った球は、磁場を印加すると鋭い磁気共鳴を示すため、その周波数の信号を通過させるフィルタとして機能する。発振回路に電流を流すと発振が生じ、フィルタとして機能するYIGに発振信号を通過させることで、発振は鋭いピークのスペクトルとなって出力される。
YIGが通過させる信号の周波数は、印加磁場の大きさにおおよそ比例する磁気共鳴周波数で決定される。従って、磁気共鳴を用いたフィルタを利用したフィルタ付発振器300においても、高周波で発振させるためには大きな外部磁場が必要となる。
発振部101に、交流ジョセフソン効果を用いた発振素子を用いることもできる。交流ジョセフソン効果は、2つの超伝導体を接続したジョセフソン接合部に閾値以上の直流電流を供給すると、接合部に交流電流が流れる効果である。さらに、外部磁場をジョセフソン接合部に印加することで、交流の周波数を変化できることが知られている。したがって、交流ジョセフソン効果を用いた発振素子は、外部磁場により周波数可変な発振部として用いることができる。
発振部101に、ゼーマンレーザーを用いることもできる。ゼーマンレーザーは、磁場により原子のエネルギー準位が分裂するゼーマン効果を用いたレーザーであり、磁場と電流をレーザー発振部に印加すると、周波数の異なる2つの偏光成分を発振する。さらに磁場により、発振周波数を変化できることが知られている。したがって、ゼーマンレーザーは、外部磁場により周波数可変な発振部として用いることができる。
図4は実施形態1に係る発振器100を使用するための周辺回路の一例を示す図である。周辺回路400は、直流電流源402と、負荷404と、インダクタLaと、キャパシタCaとからなる。インダクタLaは発振器100が発振した高周波出力の直流電流源402への流入を防ぎ、キャパシタCaは直流電流の負荷404への流入を防ぐことができる。
直流電流源402から直流電流が発振器100に供給されると、発振器100は高周波を出力する。高周波の信号はインダクタLaに比較してインピーダンスが小さいキャパシタCaを主に通過し、負荷404で検出される。
以後の実施形態の説明においては、周辺回路400は省略する。
(実施形態2)
実施形態1では、発振部に供給する電流が発生する磁場を、発振部に印加する形態を説明した。磁場を増加させる他の手段として、電流を増加させる手段が挙げられる。しかし、発振部の耐電流を越えるような大きな電流は発振部に印加できない。そこで実施形態2では、発振部に直列に接続された導体を流れる電流の大きさが発振部を流れる電流よりも大きくなるように配置する。
図5は実施形態2に係る回路図である。実施形態2の発振器500は、発振部101と、発振部101に直列に接続された導体103aと導体103bとを有する。さらに発振器500は、発振部101と導体103bとの間に電流増幅手段である電流増幅部501を有する。電流増幅部501は入力端と出力端とを有し、入力端から入力された直流電流Iを増幅して出力端に増幅電流IAとして出力する。発振部101は電流増幅部501の入力端に直列に接続され、導体103bは電流増幅部501の出力端に直列に接続されている。
発振部101に直流電流Iを流すと、電流増幅部501は増幅電流IAを発生させる。導体103bは増幅電流IAが流れることによって、発振部101の位置に磁場Hを発生させる。発振部101は直流電流Iと磁場Hが印加されることで発振する。発振器500は、導体103bを流れる電流の大きさが発振部101を流れる電流よりも大きくなるように構成されている。したがって、発振部101には大電流が流れないため、発振部101を過電流から保護することが可能である。
電流増幅手段である電流増幅部は、トランジスタ、市販のチップ形状のアンプ、または増幅回路などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
前記電流増幅手段の配置は、実施形態2で示したように、発振部101と前記電流増幅手段が直列である配置に限らない。導体103bを流れる電流の大きさが、発振部101を流れる電流よりも大きくなる構成ならばよい。たとえば、発振部101と前記電流増幅手段が並列となる配置を用いることもできる。
実施形態2は、発振部101に流れる電流を増加せずに、導体103bを流れる電流を大きくすることで、導体103bが発生する磁場を強くできる。したがって実施形態2は、素子を過電流から保護しつつ高周波の発振を得たい場合に、より好ましい形態である。
(実施形態3)
実施形態3では、発振部に印加する電流を一定に保ったまま、発振部に印加する磁場の大きさを調整して、所望の周波数で発振部を発振させる。
図6は実施形態3に係る回路図である。実施形態3の発振器600は、発振部101と、導体103と、可変抵抗601と、抵抗602とを有する。導体103は、分岐した導体103cと導体103dとを有する。導体103dを流れる電流が発生する磁場が発振部101に印加されるように、導体103dと発振部101は配置されている。導体103cは可変抵抗601を有し、導体103dは抵抗602を有する。可変抵抗601と抵抗602とは、電気的に並列接続される。
導体103dを流れる電流が発生させる磁場は、可変抵抗601の抵抗値を調節することで可変となる。発振器600に直流電流Iを流すと、電流Iは導体103cと導体103dとに分流される。このとき導体103dに流れる電流IRと、導体103cに流れる電流IVRの値は、抵抗602の抵抗値と可変抵抗601の抵抗値の比によって決定される。したがって、可変抵抗601の抵抗値を調節することで導体103dに流れる電流IRを変化でき、導体103dが発生する磁場Hの大きさを調整することができる。発振部101に流れる電流は、電流IRと電流IVRの和になるので、発振器600に印加した直流電流Iと等しい。したがって、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま磁場Hの強度を変化させて、発振部101の発振周波数を調整できる。可変抵抗601と抵抗602を並列に接続した部分は、発振部に印加する磁場を調整する印加磁場調整部のひとつの例である。
実施形態3は、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま、発振周波数を調整したい場合に、より好ましい形態である。
(実施形態4)
実施形態3では、発振部に印加する電流を一定に保ったまま、発振部に印加する磁場の大きさを調整することができる発振器を説明した。実施形態4では、さらに磁場を効率良く印加できるように、磁場印加部としてループ部を用いる。
図7は実施形態4に係る回路図である。実施形態4の発振器700は、発振部101と、導体103と、可変抵抗601と、ループ部とを有する。ループ部は抵抗602aとインダクタ701aで表現する。導体103は、直流電流Iを発振器700に流入させる導体103aと、流出させる導体103bとを有する。導体103aは、並列接続された可変抵抗601とループ部とを有する。磁場印加部であるループ部は、ループ部を流れる電流が発生する磁場が発振部101に印加されるように配置されている。
以下、電気回路による実施形態の説明において、ループ部はインダクタと抵抗が直列接続したものと等価とする。また、回路図中において、実施形態の効果を説明する上で不要な場合、抵抗の図示は省略されることがある。
ループ部を流れる電流により発生する磁場は、可変抵抗601の抵抗値を調節することで可変となる。発振器700に直流電流Iを流すと、電流Iはループ部と可変抵抗601とに分流される。このときループ部に流れる電流ILOOPと、可変抵抗601に流れる電流IVRの値は、抵抗602aの抵抗値と可変抵抗601の抵抗値の比によって決定される。したがって、可変抵抗601の抵抗値を調節することで電流ILOOPを変化でき、ループ部が発生する磁場Hの大きさを調整することができる。発振部101に流れる電流は、電流ILOOPと電流IVRの和になるので、発振器700に印加した直流電流Iと等しい。したがって、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま磁場Hの強度を変化させて、発振部101の発振周波数を調整できる。可変抵抗601とループ部を並列に接続した部分は、発振部に印加する磁場を調整する印加磁場調整部のひとつの例である。
実施形態4は、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま、強い磁場を発振部101に調整して印加できる。高周波の発振を調整したい場合に、より好ましい形態である。
さらに、実施形態4におけるループ部は、発振部101が発振した電力を電磁場として放出するアンテナとしても使用することができる。したがって、発振器から電磁場を外部へ放出させる場合、あらたにアンテナを設ける必要がなくなり、発振器全体の小型化が可能になる。ここでアンテナとは、波長より十分大きい距離へ電磁波を伝送させるためのアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離へ電磁場を伝送させるアンテナや共振器も意味する。
図8は実施形態4に係る発振器700を示す模式図である。発振器700は発振部101と、導体103と、可変抵抗601とを備える。導体103は、直流電流Iを発振部101に流入させる導体103aと、流出させる導体103bとを有する。さらに導体103aはループ部701を有する。可変抵抗601は、ループ部701と電気的に並列接続されている。発振器700に直流電流Iを供給すると、ループ部701を流れる直流電流ILOOPによって、磁場Hが発生する。ループ部701は、磁場Hが発振部101に印加されるように配置されている。
ループ部701に流れる直流電流Iの値を調節することで、磁場Hは可変となる。発振器700に直流電流Iを供給すると、直流電流Iはループ部701と可変抵抗601とに分流される。このときループ部701に流れる電流ILOOPと可変抵抗601に流れる電流IVRの値は、ループ部701の抵抗値と可変抵抗601の抵抗値の比によって決定される。したがって可変抵抗601の抵抗値を調節することでループ部701に流れる電流ILOOPを変化できるので、ループ部701が発生する磁場Hの大きさを変えることができる。発振部101に流れる電流は、ループ部701に流れる電流ILOOPと可変抵抗601に流れる電流IVRの和になるので、発振器700に印加した直流電流Iと等しい。したがって、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま磁場Hの強度を変化させて、発振部101の発振周波数を調整できる。
たとえば、ループ部701の中心に発振部101を配置し、ループ部701は1巻きの半径rの形状とする。磁場Hの方向は、おおよそ発振部101に流れる電流の方向となる。磁場H[A/m]の大きさは、ビオ・サバールの法則により次に示す数式(1)によって求めることができる。
H=nI/2r・・・(1)
ここでI[A]はループ部701を流れる電流、r[m]はループ部701の半径、nはループ部701の巻き数(ターン数)である。ループ部701は1ターンであるが、ループ部701のターン数は1ターンに限ったものではない。磁場Hの大きさは、ループ部701の巻き数n、ループ部701を流れる電流I、または、ループ部701の半径rの大きさによって調整することができる。また、発振部101を貫通する第1の磁場Hの印加方向は、ループ部701の巻き方を逆巻きにすることで、逆の方向に調整することができる。
ループ部701は発振部101の極近傍に配置できるので、数式(1)が示すように小さい半径rによって強い磁場を発振部101に印加できる。これにより、電磁石などの外
部の磁場印加機構が不要となり、発振器の小型化が可能になる。
実施形態4は、発振部101に流れる電流を一定に維持したまま、強い磁場を発振部101に調整して印加できる。高周波の発振を調整したい場合に、より好ましい形態である。
実施形態4における印加磁場調整部は、ループ部を可動とする、または、ループ部近傍に可動な磁性コアを用意して、発振部101に印加する磁場を調整することもできる。
実施形態4では、ループ部が発生する磁場を効果的に発振部101に印加するために、発振部の上側にループ部を配置したが、発振に必要な磁場が発振部に印加されるならば他の配置でも良い。たとえば、導体103bにループ部を配置する構成を用いることができる。また、ループ部は同一平面上に形成したスパイラル状や、3次元に形成したソレノイド状を用いることもできる。
図8において、発振部101に図2に示す磁気抵抗効果素子205を用いた場合の磁場Hの方向は、磁気抵抗効果素子205を構成する膜面に対して略面直方向である。一方で、磁気抵抗効果素子205は、膜面に対して略面内方向に磁場が印加されることで発振が生じる場合もある。その場合は、たとえば、磁気抵抗効果素子205の面内方向に磁場Hが印加されるように、ループ部の軸心を磁気抵抗効果素子205の膜面に対して平行になるように配置すればよい。磁気抵抗効果素子205に印加する磁場Hの方向は、膜面に対して面直方向や面内方向に限られず、ループ部と磁気抵抗効果素子205のなす角度を調整することにより、磁気抵抗効果素子205に印加する磁場の角度を任意に設定できる。
以上に代表的な構成を示したが、本発明の実施形態はこれに限られるものではない。たとえば、発振部101をループ部の途中に配置する、または発振部101を別々のループ部の中間に配置する、または発振部101をループ部近傍の任意の位置に配置する構成を用いることができる。さらに、磁場印加部としてループ部を用いる形態を説明したが、磁場印加部はループ部に限らない。たとえば磁場印加部は、ループを完全に形成するまでには至らない半周巻きの形状や、直線状や曲線状などの他形状で構成してもよい。
(実施形態5)
実施形態1において、発振部101を整流部と置き換え、さらに電流Iを交流電流IACにすることで、発振器100は交流を直流に変換する整流器となる。実施形態5では、整流部を磁気抵抗効果素子205とする。
図9は、実施形態1の図1における直流電流Iを交流電流IACとし、発振部101を磁気抵抗効果素子205を用いた整流部に置き換えた整流器800の模式図である。図9において、導体103を介して交流電流IACを磁気抵抗効果素子205に印加すると、導体103は交流電流IACによって磁場HACを発生する。実施形態5は、交流電流IACと磁場HACが磁気抵抗効果素子205に印加されることで、後述するスピントルクFMR(Ferromagnetic Resonance)効果が生じ、磁気抵抗効果素子205は交流を直流に変換するので、整流器となる。さらに導体103は、磁場HACによって磁気抵抗効果素子205が所望の周波数で発振するように配置を調整されている。
ここでスピントルクFMR効果について説明する。図2における磁気抵抗効果素子205に、各層の面直方向に交流電流を印加する場合を考える。交流の半周期で電子208がピン層206aからフリー層206bへ注入される場合は、フリー層206bとピン層206aの磁化が平行になるようにフリー層206bの磁化方向が回転し、磁気抵抗効果素子205の抵抗値が下がる。逆にフリー層206bからピン層206aへ電子208が注入される半周期では、フリー層206bとピン層206aの磁化方向は互いに反平行になるようにフリー層の磁化方向が回転し、抵抗値が上がる。交流電流により、この抵抗変化の現象が交互に起きて、振動電圧とともに直流電圧成分が発生する。すなわち交流を直流に変換する整流作用を示す。これをスピントルクFMR効果とよぶ。スピントルクFMR効果が発生する周波数、つまり整流周波数は印加磁場によるため、所望の周波数でスピントルクFMR効果を発生させるのに十分な磁場を印加する必要がある。
導体103は整流部である磁気抵抗効果素子205の極近傍に配置できるので、強い磁場の大きさを調整して、整流部に印加できる。したがって、磁石などの外部の磁場印加機構からの磁場を大きくする必要がなくなるため、前記磁場印加機構を小型化できる。つまり、この構成により整流器全体の小型化が可能になる。
整流部には、磁気抵抗効果素子だけでなく、例えば、ジョセフソン素子を用いることもできる。
図10は実施形態5に係る整流器800を使用するための周辺回路の一例を示す図である。周辺回路900は、交流電流源902と、負荷904と、インダクタLaと、キャパシタCaとからなる。インダクタLaは交流電流の負荷904への流入を防ぎ、キャパシタCaはスピントルクFMR効果により発生した直流の交流電流源902への流入を防ぐことができる。
交流電流源902からの交流電流IACは、インピーダンスが小さい容量Caを通過するが、インピーダンスが大きいインダクタLaはほとんど通過しない。そのため、交流電流IACは効率良く整流器800に供給される。整流器800は交流を直流に変換し、直流出力は負荷904で検出される。
以後の実施形態の説明において、周辺回路900は省略する。
(実施形態6)
実施形態6の整流器では、実施形態2から4の発振部101を置き換えた整流部として磁気抵抗効果素子205を用い、さらに直流電流Iを交流電流IACにすることで、交流電流IACにより発生する磁場HACを磁気抵抗効果素子205に効率良く印加できる。磁気抵抗効果素子205に交流電流IACと磁場HACが印加されることで、スピントルクFMR効果により磁気抵抗効果素子205は交流を直流に整流する。
さらに、実施形態4において発振部101を置き換えた整流部として磁気抵抗効果素子205を用い、さらに直流電流Iを交流電流IACとした、実施形態6における整流器のループ部701を、外部からの電磁場を受けて磁気抵抗効果素子205へ電力を供給するアンテナとしても使用することができる。したがって、整流器に外部から電磁場を供給する場合、あらたにアンテナを設ける必要がなくなり、整流器の小型化が可能になる。ここでアンテナとは、波長より十分大きい距離から到来する電磁波を受信するためのアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離からの電磁場を受信するアンテナや共振器等も意味する。
整流器においても、磁場印加部はループ部に限らない。たとえば磁場印加部は、ループを完全に形成するまでには至らない半周巻きの形状や、直線状などの他形状で構成してもよい。
(実施形態7)
実施形態7は、実施形態5または6の整流器で交流電流IACを信号電流にすることで、信号電流により発生する磁場を磁気抵抗効果素子205に効率良く印加できる受信器である。磁気抵抗効果素子205に信号電流と、信号電流により発生する磁場が印加されることで、スピントルクFMR効果が生じる。この実施形態7は信号電流を直流に整流して受信するので、受信器となる。
(実施形態8)
発振部の出力を無線伝送するために、発振器と直流的に絶縁した電気回路に、発振部の出力を電磁気的な結合で伝送する手段を設けることができる。電磁気的な結合には、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などがあげられる。実施形態8では、誘導結合を用いた実施形態を説明する。
図11は、実施形態8に係る送信装置1000の回路図である。送信装置1000は、第1の電気回路1003と第2の電気回路1004とを有する。第1の電気回路1003は、発振器700と電気回路1005とを有する。1例として実施形態8の発振器には実施形態4に記載した発振器700を用いて、ループ部701を第1のインダクタ1007で表現する。図11では簡略化のため、可変抵抗は省略して図示していない。第2の電気回路1004は、導体1001と電気回路1006とを有する。導体1001はループ部を有し、それを第2のインダクタ1002で表現する。電気回路1006は、送信装置1000の外部へ信号を送信するアンテナを、図11で図示しないが備えている。発振器700と第2の電気回路1004は直流的に絶縁されている。第1のインダクタ1007と第2のインダクタ1002とは直流的には絶縁されているが、誘導結合している。
発振器700が発振すると第1のインダクタ1007には時間変動する電流が流れ、誘導結合により第2のインダクタ1002を介して、電気回路1004に電気回路1003による信号が伝送される。
誘導結合の部分においてインピーダンス整合を考慮すれば、誘導結合部において反射が低減されるため、信号伝送がより効率的に行われる。第1の電気回路1003のインピーダンスをZ1、第2の電気回路1004のインピーダンスをZ2とする。この2つの電気回路のインピーダンスを整合させるために、第1のインダクタ1007と第2のインダクタ1002の巻き数を調節する。本手法はトランスによるインピーダンス整合の手法として知られている。下の数式(2)を満たすように第1のインダクタ1007の巻き数N1と、第2のインダクタ1002の巻き数N2を決定すれば、第1の電気回路1003と第2の電気回路1004のインピーダンスが整合する。
(N1/N2)2=Z1/Z2・・・(2)
発振部101に印加する磁場は、数式(1)で示したようにインダクタの巻き数により大きさが変わる。インピーダンス整合のために第1のインダクタ1007の巻き数N1が調整されると、発振部101に印加される磁場が変更されるので、第2のインダクタ1002の巻き数N2が調整されるのが望ましい。
第1のインダクタ1007と第2のインダクタ1002は、たとえばループ部の軸部分に鉄芯やその他の磁石を配置した構成や、トロイダルコアに第1のインダクタ1007と第2のインダクタ1002を設けた構成であっても良い。とくにループ部の軸部分に鉄芯やその他の磁石を配置した構成は、より誘導結合を強くすることができ好ましい。
実施形態8では発振器として実施形態4の発振器700を例にあげて説明したが、発振器は特に限定されず、例えば、他の実施形態における発振器を用いることができる。
(実施形態9)
実施形態9では、実施形態8の発振器700において、発振部101を磁気抵抗効果素子205用いた整流部に置き換える。この構成で、導体1001に交流電流IACを流すと、誘導結合した第1のインダクタ1007が発生する磁場と電流が、磁気抵抗効果素子205に印加されるので、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により交流電流から直流電圧を発生させる整流装置となる。
整流装置の構成は、実施形態8の発振器700における発振部101を磁気抵抗効果素子205を用いた整流部に置き換える構成に限らない。例えば実施形態8において、発振器700を他の実施形態における発振器とし、さらに発振部101を整流部である磁気抵抗効果素子205におきかえても整流装置を構成することができる。その構成で、導体1001に交流電流IACを流すと、電磁的な結合により発生する磁場と電流が、磁気抵抗効果素子205に印加されるので、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により交流電流から直流電圧を発生させる整流装置となる。ここで電磁気的な結合とは、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などを意味するが、これに限ったものではない。
(実施形態10)
実施形態10では、実施形態9で説明した整流装置において、導体1001に信号電流を流すと電磁的な結合により発生する磁場と電流を、磁気抵抗効果素子205に印加する。この場合、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により信号電流を直流に整流して受信するので、受信装置を構成できる。ここで電磁気的な結合とは、電磁誘導による誘導結合、容量による結合、電磁気的な共鳴による結合、電磁波による結合などを意味するが、これに限ったものではない。
(実施形態11)
実施形態1から4の発振部101に磁場を印加する導体を、通信用のアンテナとして利用する実施形態11を説明する。
図12は実施形態11に係る送受信装置を示す図である。送受信装置1100は発振器1101aと受信器1101bからなる。発振器1101aは、1例として実施形態4に記載の発振器700を用いる。図12では簡略化のため、可変抵抗は省略して図示していない。発振器1101aは、発振部101と、発振部101に直列に接続され発信信号を入力する導体103aと導体103bと、可変抵抗とを有し、導体103aはループ部701を有する。受信器1101bはループ部701が発生した電磁場を受ける手段を有する導体1102bと、導体1102bが受けた電磁場を受信信号に変換する変換部1103とを有する。
送受信装置1100の動作を説明する。ここでの説明においては、通信符号化方式にNRZ(Non−Return−to−Zero)を用いる。NRZは信号が「1」の時に電圧はゼロでなく、信号が「0」の時に電圧をゼロとする符号化方式である。但し、本発明で用いることができる符号化方式はこれに限ったものではない。
信号値が「1」の時は、ループ部701と発振部101とに「1」の時間間隔だけ電流が流れ、ループ部701は磁場Hを発生させる。発振部101は発振に必要な電流と磁場Hが印加されることによって、所望の周波数で発振部101が発振する。ループ部701は発振した電圧が印加されることで、磁場Hと重畳して電磁場EMを発生させる。電磁場EMは受信器1101bの導体1102bで受信される。受信された電磁場は変換部1103において受信信号に変換され、信号値「1」が伝達される。
信号値が「0」の時は、発振部101に電流が流れず、磁場も発生しないので、電磁場は受信器1101bに伝送されない。つまり、信号値「0」が伝達される。
本実施形態11では、発振部101に磁場Hを印加するために設けたループ部701を、無線伝送に使用するアンテナとしても利用する。したがって、新たに無線伝送用のアンテナを設ける必要がなくなり、送受信装置の小型化が実現できる。
また、信号値が「0」の時はループ部701に電流が流れないため、通信に不要な電磁場が発生しない。つまり、本実施形態11は、省電力化、低ノイズ化の効果も期待できる。
ループ部701と導体1102b間の伝送は、例えば2つのループ部を対向させる電磁誘導法や、インダクタンスと容量とで共振周波数が決まるLC共鳴による電磁共鳴法、パターン導体の線路長により共振周波数が決まる電磁共鳴法、導体間の容量による結合などを利用できる。
変換部1103は磁気抵抗効果素子205であっても良い。信号値「1」の時間間隔で発振部101が発振した高周波出力が、ループ部701と導体1102bを介して磁気抵抗効果素子205に入力されると、磁気抵抗効果素子205はスピントルクFMR効果により、高周波出力を直流出力に変換する。つまり、高周波出力となって伝送された信号値「1」を復調する。
磁気抵抗効果素子205を、ループ部701と導体1102bとで生じる磁場を印加できるように配置することで、磁気抵抗効果素子205に磁場を印加する機構を小型化または不要とすることができ、送受信装置の小型化を実現できる。
実施形態11では発振器1101aに実施形態4の発振器700を使用する場合を示したが、実施形態4に限らず、他の実施形態の発振器を用いることもできる。受信器1101bは、実施形態7で説明した受信器を使用することができる。つまり、発振器と受信器を同じ構成として送受信装置を構成することが可能であるし、あるいはまた、発振器と受信器を異なる構成として送受信装置を構成することも可能である。それらの送受信装置では、磁場を印加する導体部を無線伝送に使用するアンテナとしても利用する。したがって、新たに無線伝送用のアンテナを設ける必要がなくなり、送受信装置の小型化が実現できる。ここでアンテナとは、波長より十分に大きい距離間での通信に用いるアンテナだけでなく、波長と同程度、または波長より小さい距離間の通信に用いるアンテナや共振器、その他の無線伝送部も含む。
また、本実施形態は無線給電に応用することが可能である。入力を常に前記信号値が「1」の状態とすれば、常に発振信号すなわちエネルギーが受信器1101bに供給されるので、無線電力供給が可能である。