以下、一実施形態を、図1ないし図21を参照して説明する。
図1ないし図4には放射線検出器の基本構成について第1ないし第4の構造例を示し、図5には基本構成の等価回路図を示す。
まず、図1および図5を参照して、放射線検出器としてのX線検出器1の第1の構造例を説明する。図1に示すように、X線検出器1は、間接方式のX線平面画像検出器である。このX線検出器1は、可視光を電気信号に変換するアクティブマトリクス光電変換基板である光電変換基板2を備えている。
光電変換基板2は、矩形平板状の透光性を有するガラス等にて形成された絶縁基板としての支持基板3を備えている。この支持基板3の表面には、二次元的でマトリクス状に複数の画素4が互いに間隔をあけて配列され、各画素4毎に、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)5、電荷蓄積用キャパシタ6、画素電極7、およびフォトダイオード等の光電変換素子8が形成されている。
図5に示すように、支持基板3上には、この支持基板3の行方向に沿った複数の制御ラインとしての制御電極11が配線されている。これら複数の制御電極11は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の列方向に離間されて設けられている。これら制御電極11には、薄膜トランジスタ5のゲート電極12が電気的に接続されている。
支持基板3上には、この支持基板3の列方向に沿った複数の読出電極13が配線されている。これら複数の読出電極13は、支持基板3上の各画素4間に位置し、この支持基板3の行方向に離間されて設けられている。そして、これら複数の読出電極13には、薄膜トランジスタ5のソース電極14が電気的に接続されている。また、この薄膜トランジスタ5のドレイン電極15は、電荷蓄積用キャパシタ6および画素電極7にそれぞれ電気的に接続されている。
図1に示すように、薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、支持基板3上に島状に形成されている。このゲート電極12を含む支持基板3上には、絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各ゲート電極12を覆っている。また、この絶縁膜21上には、島状の複数の半絶縁膜22が積層されて形成されている。これら半絶縁膜22は、半導体にて構成されており、薄膜トランジスタ5のチャネル領域として機能する。そして、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12に対向して配設されており、これら各ゲート電極12を覆っている。すなわち、これら各半絶縁膜22は、各ゲート電極12上に絶縁膜21を介して設けられている。
半絶縁膜22を含む絶縁膜21上には、島状のソース電極14およびドレイン電極15がそれぞれ形成されている。これらソース電極14およびドレイン電極15は、互いに絶縁され電気的に接続されていない。また、これらソース電極14およびドレイン電極15は、ゲート電極12上の両側に設けられており、これらソース電極14およびドレイン電極15の一端部が半絶縁膜22上に積層されている。
図5に示すように、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12は、同じ行に位置する他の薄膜トランジスタ5のゲート電極12とともに共通の制御電極11に電気的に接続されている。さらに、これら各薄膜トランジスタ5のソース電極14は、同じ列に位置する他の薄膜トランジスタ5のソース電極14とともに共通の読出電極13に電気的に接続されている。
図1に示すように、電荷蓄積用キャパシタ6は、支持基板3上に形成された島状の下部電極23を備えている。この下部電極23を含む支持基板3上には絶縁膜21が積層されて形成されている。この絶縁膜21は、各薄膜トランジスタ5のゲート電極12上から各下部電極23上まで延長している。さらに、この絶縁膜21上には、島状の上部電極24が積層されて形成されている。この上部電極24は、下部電極23に対向して配設されており、これら各下部電極23を覆っている。すなわち、これら各上部電極24は、各下部電極23上に絶縁膜21を介して設けられている。そして、この上部電極24を含む絶縁膜21上にはドレイン電極15が積層されて形成されている。このドレイン電極15は、他端部が上部電極24上に積層されて、この上部電極24に電気的に接続されている。
各薄膜トランジスタ5の半絶縁膜22、ソース電極14およびドレイン電極15と、各電荷蓄積用キャパシタ6の上部電極24とのそれぞれを含む絶縁膜21上には、絶縁層25が積層されて形成されている。この絶縁層25は、酸化珪素(SiO2)等にて形成されており、各画素電極7を取り囲むように形成されている。
この絶縁層25の一部には、薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に連通したコンタクトホールとしてのスルーホール26が開口形成されている。このスルーホール26を含む絶縁層25上には、島状の画素電極7が積層されて形成されている。この画素電極7は、スルーホール26にて薄膜トランジスタ5のドレイン電極15に電気的に接続されている。
各画素電極7上には、可視光を電気信号に変換するフォトダイオード等の光電変換素子8が積層されて形成されている。
また、光電変換基板2の光電変換素子8が形成された表面に、放射線としてのX線を可視光に変換するシンチレータ層31が形成されている。このシンチレータ層31は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相成長法で、高輝度蛍光物質であるヨウ化セシウム(CsI)等のハロゲン化合物やガドリニウム硫酸化物(GOS)等の酸化物系化合物等の蛍光体を、光電変換基板2上に柱状に堆積させて成膜されている。そして、シンチレータ層31は、光電変換基板2の面方向に複数の短冊状の柱状結晶32が形成された柱状結晶構造に形成されている。
また、シンチレータ層31上にはシンチレータ層31で変換された可視光の利用効率を高めるための反射層41が積層されて形成され、この反射層41上にはシンチレータ層31を大気中の水分から保護する保護層42が積層されて形成され、この保護層42上には絶縁層43が積層されて形成されている。この絶縁層43上には画素4間を遮蔽する格子状のX線グリッド44が形成されている。
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータ層31へと入射した放射線としてのX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換される。光電変換素子8で変換された電気信号は画素電極7に流れ、画素電極7に接続された薄膜トランジスタ5のゲート電極12が駆動状態となるまで、画素電極7に接続された電荷蓄積用キャパシタ6へと移動して保持されて蓄積される。
このとき、制御電極11の1つを駆動状態にすると、この駆動状態となった制御電極11に接続された1行の薄膜トランジスタ5が駆動状態となる。
この駆動状態となったそれぞれの薄膜トランジスタ5に接続された電荷蓄積用キャパシタ6に蓄積された電気信号が読出電極13へと出力される。
この結果、X線画像の特定の行の画素4に対応する信号が出力されるため、制御電極11の駆動制御によって、全てのX線画像の画素4に対応する信号を出力でき、この出力信号がデジタル画像信号に変換されて出力される。
次に、図2を参照してX線検出器1の第2の構造例を説明する。なお、X線検出器1の第1の構造例と同じ符号を用い、同様の構成および作用の説明は省略する。
光電変換基板2の構造および作用は第1の構造例と同じである。
光電変換基板2上に接合層61を介してシンチレータパネル62が接合されている。シンチレータパネル62は、X線51を透過する支持基板63を有し、この支持基板63上に光を反射する反射層41が形成され、この反射層41上に短冊状の複数の柱状結晶32を有するシンチレータ層31が形成され、このシンチレータ層31上にシンチレータ層31を密閉する保護層42が積層されて形成されている。さらに、支持基板63上に画素4間を遮蔽する格子状のX線グリッド44が形成されている。
そして、このように構成されたX線検出器1において、シンチレータパネル62のシンチレータ層31へと入射したX線51はこのシンチレータ層31の柱状結晶32にて可視光52に変換される。
この可視光52は柱状結晶32内を通じて光電変換基板2の光電変換素子8に到達して電気信号に変換され、上述したようにデジタル画像信号に変換されて出力される。
次に、図3を参照してX線検出器1の第3の構造例を説明する。図1に示したX線検出器1の第1の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
次に、図4を参照してX線検出器1の第4の構造例を説明する。図2に示したX線検出器1の第2の構造例において、シンチレータ層31が柱状結晶32をなしていないだけで、他の構成は同様である。
そして、図1ないし図4に示される構造のX線検出器1において、シンチレータ層31は、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体であり、さらに次の(1)(2)(3)(4)の特徴を有している。
(1):蛍光体中の賦活剤の濃度はシンチレータ層31の膜厚方向に分布が存在する。すなわち、シンチレータ層31の膜厚方向におけるX線51の入射側を入射側領域A、および入射側領域Aとは反対側(シンチレータ層31で変換した可視光52の出力側)を非入射側領域Bとすると、入射側領域Aにおける蛍光体中の賦活剤の濃度は0.2mass%±0.15mass%、非入射側領域Bにおける蛍光体中の賦活剤の濃度は1.6mass%±0.4mass%である。さらに、シンチレータ層31は、入射側領域Aおよび非入射側領域Bの賦活剤の濃度領域のみで構成され、入射側領域Aおよび非入射側領域B以外の賦活剤の濃度領域は存在しない。
(2):シンチレータ層31の膜厚方向における入射側領域Aが占める割合は10%以上である。
(3):シンチレータ層31は、入射側領域Aおよび非入射側領域B内における単位膜厚200nm以下の領域において、面内方向および膜厚方向の賦活剤の濃度分布が±15%以下であり、均一性が維持されている。
(4):シンチレータ層31は、CsIとTlIの2つの蒸発源(材料源)を用いた真空蒸着法により形成され、かつ好ましくは短冊状の柱状結晶32の構造を有している。
ここで、図1に示される第1の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31の母材:CsI、賦活剤:Tlとし、シンチレータ層31中のTl濃度と各特性の相関を試験した結果を図6ないし図8に示す。
図6はシンチレータ層31中のTl濃度と感度比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、感度比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合の感度を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図6に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.4mass%〜1.8mass%近辺において最も感度が向上した。
図7はシンチレータ層31中のTl濃度と解像度であるMTF比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、MTF比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合のMTF(at 2Lp/mm)を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図7に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が2.0mass%付近までは略一定となった。
図8はシンチレータ層31中のTl濃度と残像比との相関である。試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。さらに、残像比:シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合の残像を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図8に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%近辺において残像が最小レベルとなった。さらに、残像比が0.5(好ましくは0.4)以下の領域であって、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域では、残像が確認されなかった。
そして、図8に示すように、シンチレータ層31である蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%近辺において残像が最小レベルとなり、残像比が0.5(好ましくは0.4)以下となる1.6mass%±0.4mass%の領域では残像が確認されず、また、図6および図7に示すように、1.6mass%±0.4mass%の領域では感度およびMTFの各特性も良好であるため、シンチレータ層31の残像特性も含めた総合的な特性を改善するには、賦活剤の濃度は1.6mass%±0.4mass%の領域が好ましい。
また、図1に示される第1の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31の母材:CsI、賦活剤:Tlとし、シンチレータ層31中のTl濃度を一定とした場合のシンチレータ層31の積層周期{単位膜厚(基板1回転当りの形成膜厚)の形成周期}と各特性との相関を試験した結果を図9ないし図11に示す。
図9はシンチレータ層31の積層周期と感度比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、感度比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合の感度を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
図10はシンチレータ層31の積層周期とMTF比との相関である。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、MTF比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合のMTF(at 2Lp/mm)を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
図11はシンチレータ層31の積層周期と残像比との相関である。試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。さらに、シンチレータ層31中のTl濃度:0.1mass%、残像比:シンチレータ層31の積層周期が200nmの場合の残像を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。
そして、図9ないし図11に示すように、シンチレータ層31の積層周期が200nm以上の領域では、各特性が劣化する傾向となった。
これは、シンチレータ層31の発光波長のピ−ク波長は550nm付近であるが、シンチレータ層31の母材であるCsIの屈折率が1.8であるため、シンチレータ層31内を伝播する発光波長のピ−ク波長をλ1とすると、屈折率と波長との関係から、λ1=550nm/1.8=306nmと見なせるため、シンチレータ層31の積層周期がλ1よりも大きい場合は、シンチレータ層31の結晶性のばらつき、およびシンチレータ層31中のTl濃度のばらつき等に伴う光学特性の劣化(散乱・減衰等)の影響を受ける可能性が高くなることと合致するからである。
また、図6ないし図8に示されるように、シンチレータ層31中のTl濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域では、各特性が安定状態に近いため、シンチレータ層31中のTl濃度が変動(±15%程度)しても、各特性の変動は小さいこととなる。
蛍光体中の賦活剤の濃度が1.6mass%±0.4mass%の領域にあっても、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布に大きな偏りがあれば、各特性が大きく変動してしまいやすいので、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内にあることが好ましい。この賦活剤の濃度分布が±15%程度の変動範囲内であれば、各特性の変動は小さく影響は少ない。
したがって、シンチレータ層31の残像特性も含めた総合的な特性を改善するには、蛍光体中の賦活剤の濃度は1.6mass%±0.4mass%で、かつ蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内であることが好ましい。さらに、蛍光体の少なくとも単位膜厚200nm以下の領域において、蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布に大きな偏りがあれば、各特性が大きく変動してしまいやすいので、単位膜厚200nm以下の領域においても蛍光体の面内方向および膜厚方向における賦活剤の濃度分布が±15%以内であることが好ましい。
次に、図1に示される第1の構造例のX線検出器1において、シンチレータ層31の母材:CsI、賦活剤:Tl、シンチレータ層31の積層周期:150nmとし、シンチレータ層31の膜厚と各特性との相関を試験した結果を図12および図13に示す。
図12はシンチレータ層31の膜厚と残像比との相関を示す。試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。さらに、シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%、残像比:シンチレータ層31の膜厚が600μmの場合の残像を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図12に示すように、シンチレータ層31の膜厚が薄い程、残像も小さくなった。これは、シンチレータ層31の膜厚が薄くなると、X線吸収率(DQE)の低下に伴い感度低下が発生するが、残像特性はシンチレータ層31の発光特性の1つであるため、感度低下(入射X線により励起される光の減少)に伴い相対的に残像も減少すると考えられる。
図13はシンチレータ層31中のTl濃度とX線耐性(X線照射によるダメージに伴うシンチレータ層31の感度減衰)との相関を示す。試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、X線耐性における積算照射線量:通常のX線画像診断における3年間使用相当、感度減衰比:シンチレ−タ層中のTl濃度が0.1mass%の場合のX線耐性後の感度減衰率を基準(1.0)とした比率であり、各試験サンプルのシンチレータ層形成条件(シンチレータ層31中のTl濃度を除く)は同一である。そして、図13に示すように、シンチレータ層31中のTl濃度が一定の閾値である0.4mass%よりも少ないと、X線耐性の劣化が少なく、また、シンチレータ層31中のTl濃度が一定の閾値である0.4mass%以上になると、X線耐性の劣化が顕著となり、さらにTl濃度が一定の閾値である1.0mass%以上になると、X線耐性の劣化傾向が鈍化した。
これは、一般的に物質が高エネルギーの照射(X線等)を受けた場合、物質を構成する原子間の結合にダメージ(結合が切れる等)が生じることに由来し、特に光を透過する蛍光体等においては、高エネルギーの照射(X線等)を受けた場合、ダメージによる着色(カラーセンター)が発生するためと考えられる(前記非特許文献2参照)。また、一般的に、物質が高エネルギーの照射(X線等)を受けた場合、高エネルギーの照射によるダメージは物質の結晶状態に依存し、不純物濃度が高い場合や結晶の歪が大きい場合は、不純物濃度が低い場合や結晶の歪が小さい場合に対してダメージが大きくなることが考えられる。
ここで、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体で構成されるシンチレータ層31においては、賦活剤は不純物であることから、シンチレータ層31中のTl濃度が高い程、入射X線によるダメージが顕著となるため、図13に示されるシンチレータ層31中のTl濃度とX線耐性(感度減衰比)の相関とも合致することになる。
したがって、シンチレータ層31のX線耐性を改善するには、蛍光体中の賦活剤の濃度は0.4mass%以下が好ましいが、図6および図8に示されるように、蛍光体中の賦活剤の濃度が0.05mass%以下(0mass%では発光しない)では、感度および残像の劣化傾向が顕著となる。すなわち、シンチレータ層31に顕著な特性劣化を起こさずにX線耐性を改善するには、蛍光体中の賦活剤の濃度は0.2mass%±0.15mass%以内であること好ましい。
次に、図14(a)はシンチレータ層31を示す模式図、図14(b)はシンチレータ層31に入射するX線51の線質が硬い場合のX線吸収量を示す模式図、図14(c)はシンチレータ層31に入射するX線51の線質が柔らかい場合のX線吸収量を示す模式図である。また、シンチレータ層31の母材をCsIとした場合におけるシンチレータ層31の膜厚と各特性との相関を試験した結果を図15および図16に示す。
図14(a)(b)(c)に示されるように、シンチレータ層31に入射したX線51はシンチレータ層31で吸収および可視光に変換されることから、入射X線のエネルギーはシンチレータ層31の膜厚方向zに沿って順次減衰するため、シンチレータ層31の発光レベルも膜厚方向zに沿って順次減衰することとなる。
このため、シンチレータ層31にX線51が入射した場合、シンチレータ層31の発光特性は、X線入射側のシンチレータ層31の特性に依存することとなる。
図15はX線吸収率50%におけるシンチレータ層31の膜厚とX線の線質{X線発生源(X線管)の管電圧}との相関{NIST(米国立標準技術研究所)の材料データより概算}である。試験条件は、入射X線:単一線(単一の線質で形成されるX線)、シンチレータ層31のX線吸収率:50%である。
図16は管電圧70kVにおけるシンチレータ層31の膜厚とX線吸収率との相関である。試験条件は、入射X線:単一線、X線の線質(管電圧):70kVである。
そして、図14(b)(c)、図15および図16から分かるように、X線は線質が硬い{X線発生源(X線管)の管電圧が高い}程、物質の透過性が高いため、シンチレータ層31にX線が入射した場合、X線の線質が硬い程、シンチレータ層31の膜厚方向zに沿って生じる減衰は小さくなる。
しかし、X線発生源であるX線管の特性上、発生するX線は単一線では無く、設定された線質よりも軟らかい線質{X線発生源(X線管)の管電圧が低い}が多く含まれるため、一般的なX線画像を用いた診断においては、シンチレータ層31の発光特性はよりX線入射側のシンチレータ層31の特性に依存することとなる。
例えば、シンチレータ層31の母材をCsI、シンチレータ層31の膜厚を500μm、入射X線の管電圧を70kV(単一線)とした事例の場合、シンチレータ層31のX線吸収率は約50%であり、かつシンチレータ層31のX線の入射側の領域(シンチレータ層31の膜厚の1/10の領域)において、シンチレータ層31に吸収されたX線全体のうちの15%以上が吸収されることとなる。
さらに、X線発生源であるX線管から発生されるX線は単一線では無く、設定された線質よりも軟らかい線質が多く含まれるため、前記事例の場合、シンチレータ層31のX線入射側の領域(シンチレータ層31の膜厚の1/10程度の領域)において、シンチレータ層31に吸収されたX線全体のうちの少なくとも25%以上が吸収されると考えられる。
一般的な間接方式のX線平面画像検出器においては、不要な被曝を軽減するため、シンチレータ層31のX線吸収率が少なくとも50%以上となるようなシンチレータ層31の膜厚を選択することが多く、例えば、管電圧を70kV付近として使用されることが多い一般撮影用途のX線平面画像検出器の場合、シンチレータ層31の膜厚は500μm以上とすることが一般的である。
このため、一般的な間接方式のX線平面画像検出器は、シンチレータ層31のX線の入射側の領域(シンチレータ層31の膜厚の1/10程度の領域)において、シンチレータ層31の発光全体のうちの25%以上が発生すると考えられる。
次に、図17にシンチレータ層31の一般的な形成方法の模式図を示す。真空チャンバ71内に基板72(光電変換基板2または支持基板63に該当する)を配置し、この基板72を回転させながら、真空チャンバ71内に設置されているCsIの蒸発源73からの蒸発粒73aとTlIの蒸発源74からの蒸発粒74aを基板72の積層面に蒸着する真空蒸着法により、シンチレータ層31を積層形成する。
このとき、基板72の回転周期とCsIおよびTlIの蒸発とを制御すれば、シンチレータ層31の積層周期当りの面内方向および膜厚方向のTl濃度分布を任意に制御することができる。そのため、シンチレータ層31の形成時において、シンチレータ層31の積層周期当りの面内方向および膜厚方向のTl濃度分布の均一性を確保すれば、シンチレータ層31の全体の面内方向および膜厚方向のTl濃度分布の均一性も確保されることとなる。
さらに、図18(a)(b)にシンチレータ層31の本実施形態の形成方法の模式図を示す。真空チャンバ71内に、CsIの蒸発源73、必要とされるTl濃度に対応したTlIの2つの蒸発源74-1,74-2が配置されている。そして、真空チャンバ71内に基板72(光電変換基板2または支持基板63に該当する)を配置し、この基板72を回転させながら、CsIの蒸発源73からの蒸発粒73aと、必要とされるTl濃度によって切り換えられるTlIの蒸発源74-1,74-2からの蒸発粒74a-1,74a-2とを基板72の積層面に蒸着する真空蒸着法により、シンチレータ層31を積層形成する。これにより、シンチレータ層31の膜厚方向のTl濃度分布を変化させることが可能となる。すなわち、シンチレータ層31の入射側領域をA、非入射側領域をBとした場合、蛍光体中の賦活剤の膜厚方向の濃度および濃度分布をA<Bとし、かつ入射側領域Aおよび非入射側領域Bの賦活剤の濃度領域のみで構成し、入射側領域Aおよび非入射側領域B以外の賦活剤の濃度領域は存在しないように形成することが可能となる。
以上のことから、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体で構成されるシンチレータ層31において、シンチレータ層31の入射側領域AをX線耐性が良好なTl濃度とし、かつ残りの非入射側領域BのTl濃度を最適化すれば、残像特性の改善とX線耐性の改善との両立が可能となる。すなわち、入射側領域Aにおける蛍光体中の賦活剤の濃度は0.2mass%±0.15mass%、非入射側領域Bにおける蛍光体中の賦活剤の濃度は1.6mass%±0.4mass%とすることにより、残像特性の改善とX線耐性の改善との両立が可能となる。
しかも、入射側領域Aにおける蛍光体中の賦活剤の濃度と非入射側領域Bにおける蛍光体中の賦活剤の濃度との間の濃度領域は、入射側領域Aに比べてX線耐性が低下し、非入射側領域Bに比べて残像特性が低下するため、入射側領域Aおよび非入射側領域Bの賦活剤の濃度領域のみで構成し、入射側領域Aおよび非入射側領域B以外の賦活剤の濃度領域は存在しないものとすることにより、高いレベルでの残像特性の改善とX線耐性の改善との両立が可能となる。
さらに、シンチレータ層31の膜厚方向における入射側領域Aが占める割合を10%以上とすれば、残像特性の改善とX線耐性の改善との両立が可能となる。例えば、シンチレータ層31の膜厚方向における入射側領域Aが占める割合が10%よりも小さいと、各特性の改善バランスが崩れることとなる。
さらに、シンチレータ層31は、入射側領域Aおよび非入射側領域B内における単位膜厚200nm以下の領域において、面内方向および膜厚方向の賦活剤の濃度分布が±15%以下であり、均一性が維持されていることにより、安定した各特性が得られる。
さらに、シンチレータ層31は、CsIとTlIの2つの蒸発源74-1,74-2を用いた真空蒸着法により形成され、かつ好ましくは短冊状の柱状結晶32の構造を有している。
故に、ハロゲン化物であるCsIにTlを賦活剤として含有する蛍光体で構成されるシンチレータ層31に上記(1)〜(4)の特徴を付与すれば、シンチレータ層31の特性改善(残像特性およびX線耐性を含めた総合的な改善)が可能となる。
また、図1に示される第1の構造例のX線検出器1の実施例について説明する。この実施例では、シンチレータ層31の母材:CsI、賦活剤:Tl、シンチレータ層31の積層周期:150nm、シンチレータ層31の面内方向および膜厚方向の賦活剤の濃度分布:±15%とし、シンチレータ層31の膜厚方向の濃度分布の有無、シンチレータ層31中の賦活剤の濃度をそれぞれ異ならせたサンプルI、II、III、IV、Vを作成する。図19(a)(b)(c)(d)(e)にはサンプルI、II、III、IV、Vのシンチレータ層31の模式図を示す。
サンプルIは、シンチレータ層31の膜厚方向の濃度分布:一定、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31中の賦活剤の濃度:0.1mass%である。
サンプルIIは、シンチレータ層31の膜厚方向の濃度分布:一定、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31中の賦活剤の濃度:1.2mass%である。
サンプルIIIは、シンチレータ層31の入射側領域をA、および非入射側領域をBとし、入射側領域Aでは膜厚:60μm、および賦活剤の濃度:0.1mass%であり、非入射側領域Bでは膜厚:540μm、および賦活剤の濃度:1.2mass%である。
サンプルIVは、シンチレータ層31の膜厚方向の濃度分布:一定、シンチレータ層31の膜厚:600μm、シンチレータ層31中の賦活剤の濃度:1.6mass%である。
サンプルVは、シンチレータ層31の入射側領域をA、および非入射側領域をBとし、入射側領域Aでは膜厚:60μm、および賦活剤の濃度:0.1mass%であり、非入射側領域Bでは膜厚:540μm、および賦活剤の濃度:1.6mass%である。
これら5つのサンプルI、II、III、IV、Vについて、それぞれX線検出器1を構成し、特定の撮影条件下にて被写体を撮影し、所定の画像処理条件にて撮影画像を処理した場合のX線画像(n回目)を図20(a)(b)(c)(d)(e)に示すとともに、特性の結果を図21の表に示す。
図21において、感度比、MTF比、残像比は、シンチレータ層31中のTl濃度が0.1mass%の場合を基準(1.00)とした値である。感度減衰比は、シンチレ−タ層中のTl濃度が0.1mass%の場合のX線耐性後の感度減衰率を基準(1.00)とした比率である。
感度比およびMTF比の試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGyとする。残像比の試験条件は、(n−1)回目とn回目のX線画像の入射X線の線量差を(n−1)>nとし、(n−1)回目のX線画像では入射X線:70kV−0.87mGy、被写体:鉛板(板厚3mm)、X線画像取得間隔:60secとし、n回目のX線画像では入射X線:70kV−0.0087mGy、被写体:無し、X線画像取得間隔:60secとする。X線耐性の試験条件は、入射X線:70kV−0.0087mGy、積算照射線量:通常のX線画像診断における3年間使用相当とする。
画像処理条件は、フラットフィールド補正(Flat Field Correction):有り、ウィンドウ処理:有り(画像のヒストグラム平均値±10%)とする。
そして、図20(a)に示すように、賦活剤の濃度が0.1mass%のサンプルIでは、図中破線で囲む範囲に残像が確認された。一方、図20(b)(c)(d)(e)に示すように、サンプルII、III、IV、Vでは、図中破線で囲む範囲に残像は確認されなかった。
図21に示すように、サンプルIは、X線耐性(感度減衰比)が最も優れるが、感度比が低下するとともに、残像比が高くなって上述のように残像が確認されるようになる。
サンプルIIは、サンプルIに比べて、感度比および残像比が改善されたが、X線耐性(感度減衰比)の低下が確認された。
サンプルIIIは、サンプルIIに比べて、感度比および残像比がわずかに低下するもののX線耐性(感度減衰比)の改善が確認された。
サンプルIVは、サンプルI、II、IIIに比べて、感度比および残像比の改善が確認されたが、X線耐性(感度減衰比)の低下が確認された。
サンプルVは、サンプルIIIに比べて、X線耐性(感度減衰比)はほとんど変わらず、感度比および残像比の改善が確認された。さらに、サンプルVは、サンプルIVに比べて、感度比および残像比がわずかに低下するものの、X線耐性(感度減衰比)の改善が確認された。
したがって、シンチレータ層31に本実施形態で規定される上記(1)〜(4)の特徴を付与すれば、感度やMTFも良好な状態で、残像特性の改善とX線耐性の改善との両立ができるため、X線検出器1の高性能化と信頼性の向上が可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。