JP6590337B2 - リガメントゲルの産生方法および人工靭帯の作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、人工靭帯の作製方法およびその原料として用いられる生体物質の産生方法に関する。
腱は筋肉と骨をつなぐ結合組織であり、靭帯は骨と骨をつなぐ結合組織である。一般的に、腱が断裂等の損傷を受けた場合、多量のエネルギーを代謝する筋肉に栄養を供給するための血管が近傍にあるため再生しやすいが、靭帯が損傷を受けた場合は血管が近傍に無いため再生しにくい。また、肘・膝の関節液に満たされた部位においては断裂した靭帯は互いに接触することが困難であり自己修復は期待できない。近年、プロスポーツ等で活躍しているスーパーアスリートらが肘や膝関節に係る過大な負荷によって靭帯を損傷し、移植による再建手術を余儀無くされるケースが増えている。この場合、術後の回復を含めリハビリにより競技復帰には通常一年程度の長期間を要する。その際特に問題となるのは、移植部位の生着だけでなく、主に正常な腱組織を損傷した部位に自家移植することによって、患部以外の健常な部位への侵襲が大きく、その回復具合がアスリートのパフォーマンスに大きな影響を与えることである。一方、腱・靭帯の他家移植では臓器移植とは異なり、移植された腱・靭帯を異物と認識し、抗原抗体反応によって強い炎症反応や生着不全を起こす可能性は低い。したがって、組織の再生が早い患者自身の腱生体組織またはブタ等の動物の腱生体組織から、移植に用いることのできる人工靭帯を作製することができれば、その恩恵は極めて大きなものとなる。
人工腱または人工靭帯を作製するための方法としては、例えば次のようなものが提案されている。
特開2011−217964号公報(特許文献1)には、動物の生体内で、断裂した腱を細胞支持体上に固定するステップ、(その断裂した腱の端部に集まる)遊走性腱細胞を培養してテンドンゲル(tendon gel)を細胞支持体上に産生させるステップ、その遊走性腱細胞から産生されてから所定の期間内にあるテンドンゲルを回収するステップ、および回収されたテンドンゲルに張力をかけるステップを含む、テンドンゲル由来の人工腱の作製方法が開示されている。
特開2002−543916号公報(特許文献2)には、コラーゲンからなる円筒形状の三次元マトリックス内に、多能性細胞(骨髄間質細胞等)を播種し、細胞の増殖および再生に適した条件下で培養しながら、マトリックスの端部に付着させたアンカーの一方または両方の運動により機械的な力(張力、圧縮力、捩り力、剪断力等)をかける、前十字靭帯をエキソビボで作成する方法が開示されている。
特開2011−217964号公報 特表2002−543916号公報
本発明は、従来よりも生体への親和性、生着性が高く、かつ十分な強度を有する人工靭帯を製造するための原料となる生体物質を提供することを一つの課題とする。また、本発明は、そのような生体物質を用いた人工靭帯を提供することをもう一つの課題とする。
本発明者は、特許文献1に記載されているテンドンゲル、具体的には請求項2に記載の生体内(in vivo)で行われる工程を含む作製方法によって得られるテンドンゲルを改めて慎重に観察した。その結果、前記作製方法に含まれる「断裂した腱を細胞支持体に固定するステップ」では腱鞘等の結合組織を切除することが規定されていないため、所定の期間の経過後に得られる成熟したテンドンゲルには、遊走性腱細胞から分泌される、未配向のコラーゲン線維組織からなる無色透明なゲル状物質(アモルファス組織)とともに、腱鞘等に由来する結合組織が比較的多く含まれることに気付いた。テンドンゲルの厚さが薄い場合は、ゲル状物質と結合組織とが判別しにくく、特許文献1にはテンドンゲルから結合組織を分離しゲル状物質のみを単離するということについて何も記載されていない。すなわち、特許文献1ではテンドンゲルについて「アモルファスなゲル状物質」としか規定していないが、実際にはそれのみでなく結合組織も含んでいる物質として規定されるべきものである。
このようなテンドンゲルに張力を掛けた場合、具体的には特許文献1の請求項5に記載の方法を行った場合、ゲル状組織内のコラーゲン分子同士が架橋し配向した線維束が形成されるが、そのコラーゲン線維束を取り囲むように腱鞘等の結合組織も形成されるため、コラーゲン線維束と結合組織を含む腱組織が再生されることになる。靭帯は骨間の距離や位置の変動を制限する役割を持っており、腱とは異なり伸長してはいけない組織なので、伸び(滑り)を生じさせる腱鞘の結合組織は不要である。また、テンドンゲルが結合組織を含んだままだと、腱と一緒に切開された結合組織が炎症を起こし、時間と共に結合組織が暴走増殖してゲル状組織を覆ってしまうほどになるので、移植に適した人工靭帯が得られない。
そこで本発明者は、断裂した腱から産生されたテンドンゲルから意識的に結合組織を除去すること、例えば細胞支持体上に産生されたテンドンゲルの中心部分のみを回収することにより、結合組織をほとんど含まないゲル状組織を採取することに成功した。このような“結合組織をほとんど含まないゲル状組織”は「リガメントゲル」と名付けられ、“結合組織を比較的多く含むゲル状組織”である「テンドンゲル」と区別することとした。
また、本発明者は、断裂した腱の端部において、腱鞘等の結合組織を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束のみをフィルムで挟むことによって、結合組織をほとんど含まないリガメントゲルが得られることも見出した。このようなリガメントゲルの産生方法には、テンドンゲルから結合組織を除去してリガメントゲルにする方法のような煩雑さおよび困難さがなく、リガメントゲルを効率的に産生することができる。
そして、上記いずれかの方法によって得られる、生体内で所定の期間成熟させたリガメントゲル(コラーゲン前駆体)に張力をかけることにより、腱鞘等の結合組織をほとんど含まない通常とは異なる腱組織、すなわち実際の靭帯組織に近い組織が形成され、好ましい移植用靭帯として利用することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
ここで、特許文献1の請求項3には、遊走性腱細胞を細胞支持体上に播種するステップ、その遊走性腱細胞を培養してテンドンゲルを細胞支持体上に産生させるステップ等を含む、生体外(in vitro)で行われるテンドンゲルの作製方法が記載されている。このような生体外で行われる作製方法では、たしかに遊走性腱細胞一つ一つの周囲にゲル状物質が分泌、産生され、そこには結合組織は含まれていない。しかしながら、そのようなゲル状物質が集まってもほとんど2次元の(平面的な)構造体ができるだけで、3次元の構造体は容易には形成されない。したがって、人工靭帯を作製するのに十分な3次元構造体を得ることは、実際上は困難であった。
また、特許文献2の方法でも用いられている(段落0010、0013、0014等参照)、従来細胞培養などに用いられている「コラーゲンゲル」(collagen gel)と呼ばれている物質は、リガメントゲルとは全く異なる。コラーゲンゲルも膠原物質からなるゲルであるが、一般的にはすでに繊維化したコラーゲンを水溶液に分散させ、その後に凝固させてゲル状化したものであり、通常は配向性を有しておらず、たとえこれに張力をかけたとしても膠原線維の配向結晶化は見られない。特許文献2の方法では、そのようなコラーゲンゲル(予備的マトリックス)に骨髄間質細胞等の多能性細胞を播種し、靭帯線維芽細胞に分化させ、その細胞から「細胞外マトリックス成分」を分泌させてから(段落0011、0012等参照)、機械的な力を掛けて人工靭帯を作製している。そのため、得られる人工靭帯の配向結晶化は不完全なものとなるおそれがある。
これに対して、本発明の作製方法により生体内で得られるリガメントゲルは3次元構造を保っており、その表面に腱細胞が限局している。そのようなリガメントゲルは、形成初期のもの(所定の期間よりも早いもの)に張力をかけても膠原線維の配向結晶化は見られないが、成熟した完成期のもの(所定の期間内のもの)に張力をかけると配向結晶化した膠原線維が形成される。本発明では、三次元構造を保ち、配向結晶化しうる膠原線維を含み、しかも形状を調整しやすいリガメントゲルを効率的に産生することができ、またそのようなリガメントゲルのみを用いるので、所望の強度および形状を有する人工靭帯を作製しやすいという利点を有する。
すなわち、本発明は一つの側面において、下記[1]〜[5]のようなリガメントゲルの産生方法を提供する。また、本発明はもう一つの側面において、下記[6]〜[7]のような人工靭帯の作製方法を提供する。
[1]
(A1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の、腱鞘を切開または切除していない端部をフィルムで挟むステップ、
(A2)前記端部から前記フィルム上に展開される、前記腱鞘に由来する結合組織とアモルファスなゲル状組織とを含む物質(以下「テンドンゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
(A3)前記成熟したテンドンゲルを採取した後、前記結合組織を除去し、前記アモルファスなゲル状組織に富んだ物質(以下「リガメントゲル」と称する。)を単離するステップ
を含むことを特徴とする、リガメントゲルの産生方法。
[2]
(B1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の端部の腱鞘を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束をフィルムで挟むステップ、
(B2)前記コラーゲン線維束から前記フィルム上に展開される、アモルファスなゲル状組織に富んだ物質(以下「リガメントゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
(B3)前記成熟したリガメントゲルを採取するステップ
を含むことを特徴とする、リガメントゲルの産生方法。
[3]
前記リガメントゲルに含まれる前記アモルファスなゲル状組織の割合が80%以上である、項1または2に記載のリガメントゲルの産生方法。
[4]
前記フィルムがシート状、袋状または円筒状であり、それぞれ板状、塊状または円柱状のリガメントゲルを採取する、項1〜3のいずれか一項に記載のリガメントゲルの産生方法。
[5]
前記所定の期間が、前記テンドンゲルまたはリガメントゲルが前記フィルム上に展開され始めてから7〜14日目である、項1〜4のいずれか一項に記載のリガメントゲルの産生方法。
[6]
動物の生体外において、成熟後のリガメントゲルに張力をかけるステップを含むことを特徴とする、人工靭帯の作製方法。
[7]
前記リガメントに張力をかけるステップが、張力を単調増加的にかける方法、一定の張力を繰り返しかける方法、または一定の張力をかけ続ける方法 によって行われる、項6に記載の人工靭帯の作製方法。
なお、本発明に係るリガメントゲルの産生方法は、ヒトを除く動物の生体内だけでなく、ヒトの生体内において実施することも可能である。また、本発明のさらなる側面において、本発明の産生方法によって得られるリガメントゲル、および本発明の作製方法によって得られる人工靭帯も提供される。本発明の産生方法によって得られるリガメントゲルは、例えば「3次元構造を有する、遊走性腱細胞から分泌されたアモルファスなゲル状組織に富んだ(換言すれば結合組織の含有割合が20%以下の)物質からなる、リガメントゲル。」と表すことができる。本発明の作製方法によって得られる人工靭帯は、例えば「配向したコラーゲン線維束に富んだ(換言すれば結合組織の含有割合が20%以下の)物質からなる、人工靭帯。」と表すことができる。
本発明により、患者自身への侵襲性が低い腱生体組織、または他の動物の腱生体組織から得られるリガメントゲルから、自家移植または他家移植を可能とする人工靭帯を作製することができるので、それを移植に用いることで、患者の健常部位の靭帯組織に負荷を与えることなく、靭帯再建術を行うことができるようになる。また本発明では、体外においてリガメントゲルへの張力の印加条件を制御することで、指、肘、膝等の患部ごとに必要とされる条件を満たす、任意の強度(コラーゲン線維束の太さ、配向結晶化の程度)、形状などの機械的特性を有する性能の高い人工靭帯を作製することができるので、あらゆる部位の靭帯の再生を可能にする。
図1は、結合組織を切除したアキレス腱切断部からリガメントゲルが形成される様子を表す模式図(a)および生体内で成熟したリガメントゲルの光学顕微鏡写真(b)、ならびに結合組織を切除しないアキレス腱切断部からテンドンゲルが形成される様子を表す模式図(c)および生体内で成熟したテンドンゲルの光学顕微鏡写真(d)である。リガメントゲル(b)およびテンドンゲル(d)のゲル状組織部分はどちらも無色透明であるが、テンドンゲル(d)には、白濁しその中に赤紅色の網状組織が認められる、腱鞘由来の結合組織が混入している。テンドンゲル(d)から結合組織を除去してゲル状組織を分離すれば、リガメントゲルとして用いることができる。 図2は、実施例の引張試験[i]に関する、単調増加応力印加試験機(マニピュレーター)の写真およびリガメントゲル試料の取り付け部分の近傍を拡大した模式図である。 図3は、実施例(引張試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに単調増加応力を印加した際の、引張前(a)および引張過程(b)、(c)の撮影画像である。矢印の方向が張力印加方向である。 図4は、実施例(引張試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに単調増加応力を印加した際に測定した、加重−変位曲線のグラフである。グラフ中の(a)、(b)および(c)の時点は、図3の光学顕微鏡写真を撮影した各時点に対応する。 図5は、実施例(引張試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに単調増加応力を印加した際の、紐状に伸びた組織の光学顕微鏡による観察像である。矢印で示す部分がコラーゲン線維である。 図6は、実施例において、10日目に採取したリガメントゲルに単調増加応力を印加した場合(引張試験、◆印)の、引張応力とコラーゲン線維束の直径の関係を表すグラフである。また、10日目に採取したリガメントゲルに、定荷重を繰り返し印加した場合(サイクル試験、■印)、および定荷重を連続的に印加した場合(クリープ試験、▲印)の結果もあわせて示す。 図7は、実施例(引張試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに単調増加的に荷重を印加した際の、引張試験始前(a)、約0.2MPaの張力印加時(b)および約2.5MPaの張力印加時(c)それぞれの組織の原子間力顕微鏡(AFM)の撮影画像、ならびに対照として完成されたマウスのアキレス腱(d)の組織のAFM撮影画像である。両矢印は引張方向を表す。 図8は、実施例のサイクル試験[ii]に関する、繰り返し加重印加試験器(アクチュエーター等)の写真およびリガメントゲル試料の取り付け部分の拡大写真である。固定板には結紮糸を通すためのベアリングが左右2つずつ取り付けられている。 図9は、実施例(サイクル試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに、10日間にわたって定荷重を繰り返し印加した際の、試験開始前(a)および試験終了後(b)の撮影画像、ならびに試験終了後の組織のAFM像(c)である。両矢印は引張方向を表す。 図10は、実施例のクリープ試験[iii]に関する、一定加重印加試験器(デジタルフォースゲージ等)の写真およびリガメントゲル試料の取り付け部分の拡大写真である。固定板には結紮糸を通すためのベアリングが左右2つずつ取り付けられている。 図11は、実施例(クリープ試験)において、10日目に採取したリガメントゲルに、10日間にわたって定荷重を連続的に印加した際の、試験開始前(a)および試験終了後(b)の撮影画像、ならびに試験終了後の組織のAFM像(c)である。両矢印は引張方向を表す。
−リガメントゲルの産生方法−
本発明のリガメントゲルの産生方法の第1実施形態(以下「第1産生方法」と呼ぶ。)は、少なくとも下記のステップ(A1)〜(A3)を含む:
(A1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の、腱鞘を切開または切除していない端部をフィルムで挟むステップ;
(A2)前記端部から前記フィルム上に展開される、前記腱鞘に由来する結合組織とアモルファスなゲル状組織とを含む物質(以下「テンドンゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ;および
(A3)前記成熟したテンドンゲルを採取した後、前記結合組織を除去し、前記アモルファスなゲル状組織に富んだ物質(以下「リガメントゲル」と称する。)を単離するステップ。
本発明のリガメントゲルの産生方法の第2実施形態(以下「第2産生方法」と呼ぶ。)は、少なくとも下記のステップ(B1)〜(B3)を含む:
(B1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の端部の腱鞘を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束をフィルムで挟むステップ;
(B2)前記コラーゲン線維束から前記フィルム上に展開される、アモルファスなゲル状組織に富んだ物質(リガメントゲル)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ;および
(B3)前記成熟したリガメントゲルを採取するステップ。
リガメントゲルの第1産生方法および第2産生方法は、テンドンゲルまたはリガメントゲル(特にコラーゲン前駆体)の産生を阻害しない範囲で、好ましくは産生効率や産生されるテンドンゲルまたはリガメントゲルの品質を同等以上のものとするよう、必要に応じてその他のステップを含んでいてもよい。
・リガメントゲル
リガメントゲルは、断裂した腱(コラーゲン線維束)の端部に集合する“遊走性腱細胞”から分泌される、アモルファスなゲル状組織に富んだ物質である。「アモルファスなゲル状組織」は、コラーゲン分子を主体とした糖タンパク質からなる組織であり、張力をかけることによりコラーゲン分子が架橋し、配向したコラーゲン線維束を形成することから、「コラーゲン前駆体」ということもできる。リガメントゲルは、針状構造体から構成され、針状構造体の粗に集合した層と密に集合した層が重積して一枚の層板結晶を形成している。リガメントゲルには、腱鞘その他の結合組織はほとんど含まれない一方、それを産生した遊走性腱細胞が容易には分離しがたい状態で含まれている。リガメントゲルに張力をかけて人工靭帯を作製する場合、ある段階でリガメントゲル中の遊走性腱細胞の形態が変化して、膠原線維を束ねる機能を果たす腱細胞になる。
なお、遊走性腱細胞も膠原線維を形成するので線維芽細胞に属するが、次のような理由により、一般的な線維芽細胞とは異なる細胞として位置づけられる。
一般的な線維芽細胞では、当該細胞内で産生され、細胞外へと分泌された膠原細線維が細胞の全周を取り囲んでいる。電子顕微鏡を用いると、この膠原細線維は、規則正しい縞模様をもった線維像、もしくはその横断面として多数の顆粒の像として観察されるという特徴がある。
一方、遊走性腱細胞によって細胞内で産生され、細胞外へと分泌されたコラーゲン前駆体は、一般的な線維芽細胞によって分泌される、縞模様をもった膠原細線維ではない。コラーゲン前駆体は、形成初期には針状構造体であり、形成後期には石綿状構造体も加わった像を示す。遊走性腱細胞がコラーゲン前駆体を分泌する面も限定されており、特定の面にのみコラーゲン前駆体が形成される。
さらに、腱細胞は、コラーゲン前駆体を形成する時期(遊走性腱細胞)は分泌物を合成・分泌する形態を持つが、配向結晶を示す時期(成熟腱細胞)では、幾本もの細胞突起が長く、かつ、細く伸びて、膠原線維を束ねる形態を示す。これに対して、一般的な線維芽細胞は、膠原線維を束ねるような形態を有するようにはならない。
本発明において、リガメントゲルは、第1産生方法によって得られるものと、第2産生方法によって得られるものの両方を包含する。すなわち、第1産生方法において、生体内では成熟したテンドンゲルを形成させ、それを採取した後に結合組織を除去することにより得られるリガメントゲル、および第2産生方法において、生体内で成熟したリガメントゲルを形成させることにより得られるリガメントゲル、どちらも同等の物質であり、後述するような本発明の人工靭帯の作製方法において使用することができる。
リガメントゲルに含まれるコラーゲン前駆体(アモルファスなゲル状組織)の割合は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。換言すれば、リガメントゲルに含まれる、結合組織等のコラーゲン前駆体以外の組織は、通常20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。これに対し、テンドンゲルに含まれるコラーゲン前駆体の割合は通常40〜70%、換言すればテンドンゲルに含まれる結合組織等は、通常30〜60%である。このようなコラーゲン前駆体および結合組織等の割合は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた微細観察によって確認することが可能であり、それぞれが視野に占める面積割合をもって、リガメントゲルまたはテンドンゲルにおける含有割合とみなすことができる。腱鞘由来の結合組織は透明性が低く、新生血管や出血による白血球を含む箇所もある。結合組織が厚い場合は白濁して見え、その中に赤紅色の網状構造や点状斑を認めることもあるため、目視(光学顕微鏡)でも識別可能となる。
第1産生方法においては、工程(A2)において上記の含有割合を満たすテンドンゲルがフィルム上に展開される。工程(A3)において、目視(光学顕微鏡)で結合組織の識別可能な場合は、採取したテンドンゲルを観察しながら結合組織を除去することにより、上記の含有割合を満たすリガメントゲルを調製することができる。そのような識別が困難な場合、あるいは識別可能であってもより簡便に調製したい場合は、採取したテンドンゲルの中央付近のみを残し、それ以外を除去するようにすれば、上記の含有割合を満たすリガメントゲルを調製しやすいので、その後、AFMを用いて、コラーゲン前駆体の割合から、テンドンゲルではなくリガメントゲルになっていることを確認すればよい。
一方、第2産生方法においては、工程(B2)において上記の含有割合を満たすリガメントゲルがフィルム上に展開されるので、成熟した後に採取し、AFMを用いて、コラーゲン前駆体の割合から、リガメントゲルであることを確認すればよい。
第1産生方法の工程(A1)においてテンドンゲルを産生する動物、または第2産生方法の工程(B1)においてリガメントゲルを産生する動物は、腱を有する動物であれば特に限定されるものではなく、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル等であってもよい。また、腱の部位は特に限定されるものではなく、例えばアキレス腱、肩腱板、膝蓋腱などが挙げられるが、大型でテンドンゲルまたはリガメントゲルの産生量が比較的多いアキレス腱が好ましい。例えば、靭帯を損傷した患者を治療するために、その患者自身の腱から産生されたリガメントゲルを用いて人工靭帯を作製して自家移植をすることもできるし、ウシ、ブタなど他の動物の腱から産生されたリガメントゲルを用いて人工靭帯を作製して他家移植をすることもできる。前述したようにリガメントゲルには遊走性腱細胞も含有されるが、患者自身に由来するリガメントゲルを用いれば、自己組織であるため、遊走性腱細胞を抗原として認識することに起因する拒絶反応や炎症を防ぐことができる。一方、ウシなどの大型の動物の腱からは、ヒトの様々な部位の靭帯のサイズおよび強度に適合した人工靭帯を作製することのできるリガメントゲルが得やすい。また、競走馬など靭帯の損傷を治療する必要のある動物に対して、他の動物の腱から産生されたリガメントゲルを用いて作製された人工靭帯を移植することもできる。
なお、コラーゲン前駆体は、断裂した腱の端部からだけではなく、断裂した靭帯の端部からも同様に分泌されるものと考えられる。そのため、本発明のリガメントゲルの産生方法を後者(靭帯)について拡張できる可能性があるが、血管が近傍にある前者(腱)の方が、リガメントゲルの分泌量が多く、より効率的に採取することができるものと考えられるため、リガメントゲルの産生方法として好ましい実施形態といえる。
・フィルム
第1産生方法の工程(A1)において断裂した腱の腱鞘を切開または切除していない端部を挟み、工程(A2)においてテンドンゲルを展開させるためのフィルム、および第2産生方法の工程(B1)においてコラーゲン線維束を挟み、工程(B2)においてリガメントゲルを展開させるためのフィルムとしては、遊走性腱細胞の支持体となり、かつ分泌されたテンドンゲルまたはリガメントゲルを剥がし取ることのできる材質からなるものが適切である。そのようなフィルムは、細胞培養用または医療用として公知の各種のフィルム(細胞支持体)の中から選択することができる。例えば、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂(ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)等)、アクリル樹脂、尿素樹脂などの合成ポリマーからなるフィルムが好ましく、なかでもフッ素樹脂フィルムは疎水性で生体親和性が低いこと、つまり生体組織となじみがなくテンドンゲルまたはリガメントゲルを剥がしやすいという観点から特に好ましい。
フィルムは、作製しようとする人工靭帯の形状に応じて、また張力をかけたときのテンドンゲルまたはリガメントゲルの形状の変化を考慮して、適切な形状およびサイズのテンドンゲルまたはリガメントゲルを採取できるものを用いればよい。第2産生方法において、用いるフィルムのサイズが大きすぎると、その周縁部から隙間に腱鞘由来の結合組織が入り込むおそれがある点に留意する。リガメントゲルがフィルムの中央部のみならず、フィルム全体のほとんど全てを占有できるようにすることが望ましい。一般的なフィルムはシート状であり、必要に応じて適切なサイズ(テンドンゲルまたはリガメントゲルの長さおよび幅に相当)にカットして用いることができる。典型的には、2枚のフィルムを用意し、1枚のフィルムに腱の端部またはコラーゲン線維束を固定(結紮)し、そこにもう1枚のフィルムを重ね合わせて挟み、適切な隙間(テンドンゲルまたはリガメントゲルの厚さに相当)を確保して、フィルムがずれないように固定する。このようにすれば、板状のテンドンゲルまたはリガメントゲルを採取することができる。また、フィルムはシート状のものに限定されるものではなく、例えば適切なサイズの袋状または円筒状のフィルムを用いてもよく、その場合は袋状または円筒状のテンドンゲルまたはリガメントゲルを採取することができる。
通常、コラーゲン線維束をフィルムで挟んでから数日で、人工靭帯を作製するために必要な最小限の量のテンドンゲルまたはリガメントゲルが分泌されるが、より多くのテンドンゲルまたはリガメントゲルを採取したい場合は、採取までの期間をより長くすればよい。腱の端部またはコラーゲン線維束をフィルムで挟むステップでは、必要に応じて、リンガー液またはその他の遊走性腱細胞の培養液を添加してもよい。
第1産生方法において、フィルム上に展開された直後の成熟していないテンドンゲルを採取してリガメントゲルを調製した場合、および第2産生方法においてフィルム上に展開された直後の成熟していないリガメントゲルを採取した場合、どちらのリガメントゲルに張力をかけてもコラーゲン線維束がうまく形成されず人工靭帯にならない。そのため、第1産生方法の工程(A2)および第2産生方法の工程(B2)では、どちらも成熟するまで所定の期間、生体内でテンドンゲルまたはリガメントゲルを保持してから採取する必要がある。テンドンゲルまたはリガメントゲルが成熟するまでの期間は、動物種によって異なる可能性があるので、張力をかけたときに有用な人工靭帯が得られるかどうかを試験して、適切な期間を設定すればよい。例えば、マウスの場合は、テンドンゲルまたはリガメントゲルが分泌され始めてから7〜14日間、生体内で保持して成熟させることが好ましい。成熟したリガメントゲル(成熟したテンドンゲルから調製されたリガメントゲルも含まれる)に張力をかけると、直ちに線維が配向した形態を示す、つまり層状のコラーゲンが束状に配列し、この束が腱ないし靭帯状の配列を示すようになる(膠原線維の配向結晶化)。所定の期間に到達するよりも前に採取された(成熟していない)リガメントゲルだけでなく、所定の期間を超えた後に採取されたりリガメントゲルに張力をかけても、上記のような腱ないし靭帯の構造への変化は起きない。
−人工靭帯の作製方法−
本発明の人工靭帯の作製方法は、少なくとも、動物の生体外において、成熟したリガメントゲルに張力(引張応力)をかけるステップを含み、人工靭帯の作製を阻害しない範囲で、好ましくは作製効率や作製される人工靭帯の品質を同等以上のものとするよう、必要に応じてその他のステップを含んでいてもよい。成熟したリガメントゲルは、前述したようなリガメントゲルの第1産生方法または第2産生方法により、ヒトまたはその他の動物の生体内から採取することができる。
人工靭帯の移植の対象とすることができる靭帯は特に限定されるものではなく、頸椎、肩、肘関節、膝関節、足関節などの各種靭帯が挙げられるが、例えば、損傷や断裂が起こりやすい膝関節の靭帯(前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯)および肘関節の靭帯(内側側副靭帯、外側側副靱帯、橈骨輪状靭帯)が好ましい。
リガメントゲルに張力をかける方法は特に限定されるものではないが、例えば、適当なサイズに切り出したリガメントゲルの長手方向の両端それぞれにワイヤ、結紮糸等の一端をつなぎ、それらのワイヤ等のもう一端を、マニピュレーター、アクチュエーター、フォースゲージなどの張力印加装置またはそれに類する器具につないで、リガメントゲルに張力をかけるようにすればよい。このように張力をかけることで、リガメントゲルに含まれていた無配向のコラーゲン線維は配向し、架橋してコラーゲン線維束を形成する。
張力のかけ方(大きさ、向きなど)の条件は、所望の形状および強度を有する人工靭帯が形成されるものであれば特に限定されるものではない。
典型的な張力のかけ方としては、例えば、張力を単調増加的にかける方法(本明細書において「第1張力印加方法」と称する。)、一定の張力を繰り返しかける方法(同じく「第2張力印加方法」と称する。)、一定の張力をかけ続ける方法(同じく「第3張力印加方法」と称する。)が挙げられる。
第1張力印加方法では、一般的に、リガメントゲルにかける張力が大きくなるほど、コラーゲン線維の太さは太くなり、またより多くのコラーゲン線維が配向して互いに架橋するようになり、その結果形成されるコラーゲン線維束の太さも太くなる傾向にある。リガメントゲルにかける張力とコラーゲン線維(束)の直径の大きさには、指数関数的な関係が見られる。例えば、マウスのリガメントゲルであれば、約9.5MPa以上の張力をかけることで、コラーゲン線維(束)の太さは急速に太くなる。ただ、このような大きな張力をかけると、比較的短い時間のうちに(例えば50〜300秒程度)、リガメントゲルは紐状ないし繊維状の細長い形態に変形する。
第2張力印加方法では、第1張力印加方法ほど大きな張力はかけず、その代わりにより長い時間に亘って、一定の張力をかけたり、弱めたりということを繰り返すようにする。その結果、第1張力印加方法のようにリガメントゲルを細長く変形させず、板状、塊状、円柱状などの元の形状を比較的保った状態で、コラーゲン線維(束)の太さを太くしていくことができる。第2張力印加方法については、例えば、アクチュエーターを用いて、約0.5mmのひずみを360回/hのサイクル(定常位置から動いて戻って、で2回と数える)で5〜20日間印加する、といった実施形態が挙げられる。なお、約0.5mmのひずみは、およそ5〜10MPaの引張応力を印加することに相当する。ひずみ(引張応力)およびサイクルの条件はアクチュエーターのプログラムによって調節することができ、その条件に従ってリガメントゲルに対して自動的に張力を印加することができる。
第3張力印加方法でも、第2張力印加方法と同様、第1張力印加方法ほど大きな張力はかけず、その代わりにより長い時間に亘って、一定の張力を静的にかけ続けるようにする。その結果やはり、第1張力印加方法のようにリガメントゲルを細長く変形させず、板状、塊状、円柱状などの元の形状を比較的保った状態で、コラーゲン線維(束)の太さを太くしていくことができるが、第2張力印加方法に比べて、同じ時間内により太いコラーゲン線維(束)を形成することができる点や、リガメントゲルが千切れてしまうおそれも低いことから、より好ましい方法といえる。第3張力印加方法については、例えば約0.5mmのひずみ(およそ5〜10MPaの引張応力)を5〜20日間印加する、といった実施形態が挙げられる。
リガメントゲルに張力をかけるステップでは、必要に応じて、リガメントゲルをリンガー液またはその他の遊走性腱細胞の培養液中に保持するなど、生体内に近似した環境下におくことが好ましい。
以上のようにして作製された人工靭帯は、従来の移植用の靭帯と同様に使用することができる。
[実験方法]
(1)第1実施形態に基づくリガメントゲルの調製
成熟マウスの下腿三頭筋を形成するアキレス腱のうち、腓腹筋内側頭に属する部分を剖出し、アキレス腱の中央部を眼科手術用ハサミで切断した。フッ素樹脂フィルム(商品名「アフレックス」(登録商標)、旭硝子株式会社、縦4.2mm×横3.5mm×厚さ0.02mmのシート状)の上に、切断されたアキレス腱の近位端を載せ、医療用針付きナイロン縫合糸(10-0, Matsuda sutures社製)で結紮固定した。リンガー液を滴下後、もう1枚の上記フィルムで覆い、2枚のフィルムの四隅を上記縫合糸で結紮した。切開した皮膚をナイロン糸(5-0, Matsuda sutures社製)で縫合後、この状態を生体内で適時温存した。
術後、3、5および10日目に、フィルム上に形成された板状のテンドンゲルを体外に取り出した。上記の処置により腱断裂部近傍に遊走した腱細胞から分泌された、ゲル状物質(コラーゲン前駆体)の周縁部には、腱鞘から形成された結合組織が混入していると推測されるので、ゲル状物質の中心部を分離し、試料とした。原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、上記試料中の結合組織は10%以下であることが確認されたので、これをリガメントゲル試料として用いることとした。
(2)第2実施形態に基づくリガメントゲルの産生
成熟マウスの下腿三頭筋を形成するアキレス腱のうち、腓腹筋内側頭に属する部分を剖出した。アキレス腱の中央部を眼科手術用ハサミで切断し、さらに近位端の腱鞘を切開した。フッ素樹脂フィルム(商品名「アフレックス」(登録商標)、旭硝子株式会社、縦4.2mm×横3.5mm×厚さ0.02mmのシート状)の上に、コラーゲン線維束のみを載せ、医療用針付きナイロン縫合糸(10-0, Matsuda sutures社製)で結紮固定した。リンガー液を滴下後、もう1枚の上記フィルムで覆い、2枚のフィルムの四隅を上記縫合糸で結紮した。切開した皮膚をナイロン糸(5-0, Matsuda sutures社製)で縫合後、この状態を生体内で適時温存した。この処置により、腱断裂部近傍に遊走した腱細胞から、フィルム上にゲル状物質(コラーゲン前駆体)が分泌された。術後、所定の期間(例えば10日間)経過後に、フィルム上に形成された板状のリガメントゲルを体外に取り出せば、そのまま成熟したリガメントゲルとして使用することができる。
(3)リガメントゲルへの張力の印加
上記(1)のようにして調製された成熟したリガメントゲル試料に、リンガー液内に浸漬した状態で、ワイヤまたは結紮糸をつなぎ、張力印加試料を作製した。張力印加条件は、(i)マニピュレーターを用いて20MPaを最大値とする引張応力を単調増加的に印加する(本発明の第1張力印加方法に相当する引張試験、引張速度:約20μm/s、図2参照)、(ii)アクチュエーター(「TD−102」、テクノハンズ株式会社)を用いて5〜10MPaのほぼ一定の引張応力(約0.5mmのひずみ)を360回/hのサイクルで10日間にわたって繰り返し印加する(本発明の第2張力印加方法に相当するサイクル試験、図8参照)、および(iii)デジタルフォースゲージを用いて5〜10MPaのほぼ一定の引張応力(約0.5mmのひずみ)を10日間にわたって静的に印加する(本発明の第3張力印加方法に相当するクリープ試験、図10参照)である。試験後、それぞれの条件下で印加した荷重とコラーゲン線維束の直径との関係を評価した。
[結果および考察]
(i)引張試験
3日目に採取した試料は、張力を印加してもほとんど伸びることなく固定ピンから脱落した。5日目に採取した試料は、張力を印加すると形状が少し細長く変化して紐状組織となったが、コラーゲン線維の配向は観察されなかった。
一方、10日目に採取した試料は、応力の単調増加にともなって紐状に伸び、本実験条件の範囲内では試料は破断することなく伸長した(図3参照)。このときの加重−変位曲線(応力−ひずみ曲線)は、ノコギリの歯状に上下しながら応力値が上昇していく様子を示す(図4参照)。これは、引張変形に伴う局所的な試料の破断、および金属材料の加工硬化に相当する組織的変化を伴う硬化に起因していると考えられる。組織的変化とは、すなわち、張力印加によるコラーゲン線維同士の架橋反応の促進と、引張方向へ配向しながら組織が太く成長する変化により、リガメントゲルの機械的強度が増すことである。図4のグラフ中の点線で示した時点以降は、形態が紐状組織に変化するとともに、コラーゲン線維の断面積も大きく変化した。その時点の応力を加重−変位曲線から算出したところ約9.5MPaと求められた。したがって、10MPa程度の張力を継続的に印加することで急速に架橋が進み、コラーゲン線維が配向しながら太く成長するものと考えられる。
紐状に伸びた(図4の(c)の時点の)組織を光学顕微鏡で観察した(図5参照)。光学顕微鏡によっても周期的な横紋が観察され、コラーゲン線維束が太く形成されているものと考えられる。観察像から推定されるコラーゲン線維束の直径は約10μmであり、これは通常のマウスのアキレス腱を形成する線維束のおよそ40倍の太さである。
試料に印加する応力とコラーゲン線維束の直径との関係を調べた。結果を図6(◆印)に示す。コラーゲン線維束の直径は、印加する応力の増加に伴ってコラーゲン線維同士が架橋を始めるため、即座に太くなる。組織の表面を原子間力顕微鏡(AFM;Veeco Co., Ltd, NY, Dimension 3100,カンチレバー:NCHV-10V,測定モード:タッピングモード)を用いて観察したところ、応力が約0.2MPa、約2.5MPa、約10MPaのときに、コラーゲン線維束の直径はそれぞれ54±20nm(図7(b)参照)、61±12nm(図7(c)参照)、約10μmである。なお、図7(d)に示すマウスのアキレス腱では、コラーゲン線維束の直径は247±35nmである。。この結果はすなわち、リガメントゲルに印加する張力によって任意にコラーゲン線維束の直径(つまりリガメントゲルの機械的特性)を制御できることを示している。また、約10MPaなど、比較的大きな引張応力を印加することにより、すでに完成されているマウスのアキレス腱よりも太いコラーゲン線維束を形成することができる。
(ii)サイクル試験および(iii)クリープ試験
上述したように、リガメントゲルに対して張力を単調増加的に負荷するとコラーゲン線維は太くなるが繊維状になる。そこで、前述したような条件により定荷重を繰り返し印加する試験(サイクル試験)と、同じく定荷重を連続的に印加する試験(クリープ試験)において、リガメントゲルにコラーゲン線維束がどの程度形成されるかを調べた。
サイクル試験では一定の歪量で繰り返し張力を与えたが、その前後において、目視では形態を含めてほとんど変化がないようにみえる(図9(a)および(b)参照)。しかしながら、試験後の組織表面をAFMで観察したところ、張力印加方向にコラーゲン線維が強く配向していることが分かる(図9(c)参照)。コラーゲン線維の直径は、例えば約140nmである。サイクル試験において引張応力が10MPaのときのコラーゲン線維束の直径は、図6の■印に示す通りである。
一方、クリープ試験後の試料は、目視ではやはり形態を含めてほとんど変化がないようにみえるが(図11(a)および(b)参照)、原子間力顕微鏡を用いた表面観察から、サイクル試験と比べてコラーゲン線維がより太くかつ広い範囲で配向していた(図11(c)参照)。コラーゲン線維の直径は、例えば約410nm、約176nm、約269nmである。クリープ試験において引張応力が10MPaのときのコラーゲン線維束の直径は、図6の▲印に示す通りである。
これらの結果から、繰り返し張力印加(サイクル試験)でも一定張力印加(クリープ試験)でもコラーゲン線維が配向した組織が得られるが、後者のように張力を一定期間連続的に印加した方がコラーゲン線維の成長はより進むので、靭帯再生においてより良い方法といえるだろう。

Claims (8)

  1. (A1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の、腱鞘を切開または切除していない端部をフィルムで挟むステップ、
    (A2)前記端部から前記フィルム上に展開される、前記腱鞘に由来する結合組織とアモルファスなゲル状組織とを含む物質(以下「テンドンゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
    (A3)前記(A2)によって成熟したテンドンゲルを採取した後、前記結合組織を除去し、前記アモルファスなゲル状組織を80%以上含む物質(以下「リガメントゲル」と称する。)を単離するステップ
    を含むことを特徴とする、成熟したリガメントゲルの産生方法。
  2. (B1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の端部の腱鞘を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束をフィルムで挟むステップ、
    (B2)前記コラーゲン線維束から前記フィルム上に展開される、アモルファスなゲル状組織を80%以上含む物質(以下「リガメントゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
    (B3)前記(B2)によって成熟したリガメントゲル(以下「リガメントゲル3」と称する。)を採取するステップ
    を含むことを特徴とする、成熟したリガメントゲルの産生方法。
  3. 前記フィルムがシート状、袋状または円筒状であり、それぞれ板状、塊状または円柱状の成熟したリガメントゲルを採取する、請求項1または2のいずれか一項に記載の成熟したリガメントゲルの産生方法。
  4. 前記所定の期間が、前記テンドンゲルまたはリガメントゲルが前記フィルム上に展開され始めてから7〜14日目である、請求項1〜のいずれか一項に記載の成熟したリガメントゲルの産生方法。
  5. 動物の生体外において、下記リガメントゲルの産生方法(I)または(II)で得られた成熟したリガメントゲルに張力をかけるステップを含むことを特徴とする、人工靭帯の作製方法。
    (I):(A1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の、腱鞘を切開または切除していない端部をフィルムで挟むステップ、
    (A2)前記端部から前記フィルム上に展開される、前記腱鞘に由来する結合組織とアモルファスなゲル状組織とを含む物質(以下「テンドンゲル」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
    (A3)前記(A2)によって成熟したテンドンゲルを採取した後、前記結合組織を除去し、前記アモルファスなゲル状組織を80%以上含む物質(以下「リガメントゲル1」と称する。)を単離するステップ
    を含むことを特徴とする、成熟したリガメントゲルの産生方法。
    (II):(B1)動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の端部の腱鞘を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束をフィルムで挟むステップ、
    (B2)前記コラーゲン線維束から前記フィルム上に展開される、アモルファスなゲル状組織を80%以上含む物質(以下「リガメントゲル2」と称する。)を、所定の期間、生体内で保持して成熟させるステップ、および
    (B3)前記(B2)によって成熟したリガメントゲル(以下「リガメントゲル3」と称する。)を採取するステップ
    を含むことを特徴とする、成熟したリガメントゲルの産生方法。
  6. 前記成熟したリガメントゲルに張力をかけるステップが、張力を単調増加的にかける方法、一定の張力を繰り返しかける方法、または一定の張力をかけ続ける方法によって行われる、請求項に記載の人工靭帯の作製方法。
  7. 動物の生体外において、張力をかけた場合にコラーゲンが束状に配列するようになる膠原繊維の配向結晶化が起きる、下記リガメントゲル4に張力をかけるステップを含むことを特徴とする、人工靭帯の作製方法。
    リガメントゲル4:断裂した腱の端部に集合する、遊走性腱細胞から分泌される、アモルファスなゲル状組織を80%以上含み、結合組織の含有割合が20%以下である物質。
  8. 前記リガメントゲル4に張力をかけるステップが、張力を単調増加的にかける方法、一定の張力を繰り返しかける方法、または一定の張力をかけ続ける方法によって行われる、請求項7に記載の人工靭帯の作製方法。
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