JP6589710B2 - 深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑及びその製造方法 - Google Patents

深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑及びその製造方法に関するものである。
燃費改善の観点から車体軽量化のニーズが高まり、近年、鋼板の薄手化(軽量化)が積極的に図られている。また、Al等の軽金属や炭素繊維、樹脂等の他素材と鋼板を圧着等で1枚の複合板として、双方の材料の特性を利用する取り組みが、従来から、多方面で行われているが、複合板の素材としても、軽量化の観点から、更なる鋼板薄手化が望まれている。
従来、鋼板の薄手化に際しては、組織強化や細粒化効果などの強化機構を用いて、鋼材の降伏強度や引張強度を向上させることで、部材強度低下を担保してきた。しかし、このような手法で材料強度を高めても、ヤング率は変化しない。即ち、高強度化を図って強度を担保しても、剛性低下がネックとなって、薄肉化が困難になってきているという課題がある。
一方、一般に、鉄のヤング率は206GPa程度とされているが、多結晶鉄の結晶方位(集合組織)を制御することで、特定の方向のヤング率を上げることが可能である。これまでに、例えば、{112}<110>方位への集積度を高めることで、圧延方向に対して直角な方向(以下「幅方向」という。)のヤング率を高めた鋼板に関して、多数の発明がなされている。
しかし、{112}<110>方位は、圧延方向と幅方向のr値を著しく低下させる方位であることから、深絞り性が著しく劣化するという問題がある。また、圧延45°方向のヤング率が、通常の鋼板のヤング率よりも低下してしまうため、フレーム部材等のような一方向に長尺な部材にしか適用ができず、例えば、パネル部材や、ねじり剛性のように複数の方向のヤング率が要求される部材には適用できないという問題を有している。
また、これまでは、強度クラスが440MPa級以上を対象とした発明が多く、TS400MPa級以下の軟鋼板を対象とした検討はほとんどなされていない。これは、特定の結晶方位を発達させるためには、Nb、Ti、Mo、B、Mn、P、Bなどの合金元素を多く含有させる必要があり、結果的に強度が上昇してしまうためである。強度の上昇は、同時に、延性の低下を招き、加工性が劣化する。
例えば、特許文献1〜4に開示の鋼板は、何れも、{112}<110>を、又は、{112}<110>を含む方位群を発達させた鋼板で、幅方向に高いヤング率を有し、部材の特定方向を幅方向に揃えることで、その方向の剛性を上げることができるという技術に関するものである。
しかし、特許文献1〜4のいずれにおいても、幅方向のヤング率以外に関する記載はない。特許文献3は、延性とヤング率の両立を図った高強度鋼に関するものであるが、深絞り性に関する記載はない。特許文献4は、加工性の指標の一つである穴拡げ性とヤング率に優れた鋼板に関するものであるが、深絞り性に関する記載はない。
本発明者らの一部は、圧延方向のヤング率が高い熱延鋼板、冷延鋼板、及び、それらの製造方法を開示している(例えば、特許文献5及び6、参照)。特許文献5及び6は、{110}<111>方位や{112}<111>方位を活用して、圧延方向及び圧延直角方向のヤング率を高める技術に関するものである。しかし、これらの特許文献に、穴拡げ性や延性に関する記載はあるが、深絞り性についての記載はない。
特許文献7は、冷延鋼板の圧延方向と幅方向のヤング率を高める技術を開示しているが、深絞り性に関する記載はない。特許文献8〜10には、極低炭素鋼を用いてヤング率と深絞り性を高める技術が開示されている。しかし、特許文献8に記載の技術は、Ar3〜Ar3+150℃の温度範囲で全圧下量85%以上の圧延を施す等、圧延機への負荷が高いという問題を抱えている。
特許文献9に記載の技術では、焼鈍時に未再結晶フェライトを残存させることで、{112}<110>への集積度を上げているので、加工性が低い。特許文献10にも、極低炭素鋼にNb,Mn,Bを添加してヤング率を上げる方法が開示されているが、該方法では、ヤング率やr値の異方性の発現を十分に抑制できない。
特開2006−183130号公報 特開2007−092128号公報 特開2008−240125号公報 特開2008−240123号公報 特開2009−019265号公報 特開2007−146275号公報 特開2009−013478号公報 特開平05−255804号公報 特開2012−233229号公報 国際公開第2014/021382号
本発明は、従来技術の問題に鑑み、いずれの方向におけるヤング率も、従来材以上に高めることを課題とし、NbやTi等の合金元素を添加せずに、板厚0.5mm以下の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、合金元素の添加をできるだけ抑制することで強度上昇に伴う加工性の低下を抑えつつ、ヤング率を向上させる技術について鋭意研究を行った。
この結果、低炭素鋼を低温で巻き取り、冷延率を高め、焼鈍条件を最適化すると、板厚0.5mm以下の極薄鋼板において、ヤング率と深絞り性を高める方位である{111}面方位を極めて強く発達させることができ、かつ、低炭素鋼において発達し易い{110}面方位や{100}面方位の発達を抑制することができ、優れた剛性及び深絞り性が得られることを見いだした。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)成分組成が、質量%で、C:0.005〜0.080%、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.00%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.010〜0.100%、N:0.0005〜0.010%を含み、残部:鉄及び不可避的不純物からなり、
板厚断面全厚に占める{111}面方位を有する結晶粒の面積率が60%以上である
ことを特徴とする深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
(2)前記成分組成が、さらに、質量%で、Mo:0.005〜0.100%、Cr:0.005〜0.500%、W:0.005〜0.500%、Cu:0.005〜0.500%、Ni:0.005〜0.500%、Ca:0.0005〜0.100%、Rem:0.0005〜0.100%、V:0.001〜0.100%の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
(3)前記板厚断面全厚に占める{110}面方位を有する結晶粒の面積率が3%以下、{100}面方位を有する結晶粒の面積率が7%以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
(4)前記板厚が0.5mm以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑を製造する製造方法であって、
(i-1)前記(1)又は(2)に記載の成分組成の鋼片を、1100℃以上に加熱して熱間圧延に供し、最終パスでの形状比Lfと最終パスの1段前のパスでの形状比Lf-1の和が下記式(1)を満足するように、かつ、820〜950℃の温度域で熱間圧延を終了し、
(i-2)熱間圧延終了後、熱延鋼板を、10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、500℃以下の温度域で巻き取り、
(ii-1)巻き取った熱延鋼板を、酸洗後、圧下率85〜95%で冷間圧延して巻き取り、
(ii-2)巻き取った冷延鋼板を、平均加熱速度10〜200℃/時間で、400〜600℃の温度域に加熱し、次いで、700〜900℃の温度域に1〜60時間保持する
ことを特徴とする深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板の製造方法。
f+Lf-1≦12.0 ・・・(1)
f=√{Rf×(tin(f)−tout(f))}÷(2tout(f)+tin(f))/3
f:最終パスでの形状比
f:最終パスでのロール半径(mm)
in(f):最終パスでの入側板厚(mm)
out(f):最終パスでの出側板厚(mm)
f-1=√{Rf-1×(tin(f-1)−tout(f-1))}÷(2tout(f-1)+tin(f-1))/3
f-1:最終パスの1段前での形状比
f-1:最終パスの1段前でのロール半径(mm)
in(f-1):最終パスの1段前での入側板厚(mm)
out(f-1):最終パスの1段前での出側板厚(mm)
(6)前記冷延鋼板の板厚が0.5mm以下であることを特徴とする前記(5)に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑の製造方法。
本発明によれば、圧延方向、圧延方向に直角の方向、及び、圧延方向に45°の方向において、ヤング率215GPa以上、かつ、平均ヤング率218GPa以上を確保することができるので、ヤング率が異方性なく向上して、剛性に優れ、かつ、いずれの方向のr値も1.8以上で、かつ、平均r値2.0以上の、深絞り性に優れた極薄鋼板を提供することができる。
本発明の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板(以下「本発明極薄鋼板」ということがある。)は、
成分組成が、質量%で、C:0.005〜0.080%、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.00%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.010〜0.100%、N:0.0005〜0.010%を含み、残部:鉄及び不可避的不純物からなり、
板厚断面全厚に占める{111}面方位を有する結晶粒の面積率が60%以上である
ことを特徴とする。
本発明の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板の製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)は、本発明極薄鋼鈑を製造する製造方法であって、
(i-1)本発明極薄鋼板の成分組成の鋼片を、1100℃以上に加熱して熱間圧延に供し、最終パスでの形状比Lfと最終パスの1段前のパスでの形状比Lf-1の和が下記式(1)を満足するように、かつ、820〜950℃の温度域で熱間圧延を終了し、
(i-2)熱間圧延終了後、熱延鋼板を、10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、500℃以下の温度域で巻き取り、
(ii-1)巻き取った熱延鋼板を、酸洗後、圧下率85〜95%で冷間圧延して巻き取り、
(ii-2)巻き取った冷延鋼板を、平均加熱速度10〜200℃/時間で、400〜600℃の温度域に加熱し、次いで、700〜900℃の温度域に1〜60時間保持する
ことを特徴とする。
f+Lf-1≦12.0 ・・・(1)
f=√{Rf×(tin(f)−tout(f))}÷(2tout(f)+tin(f))/3
f:最終パスでの形状比
f:最終パスでのロール半径(mm)
in(f):最終パスでの入側板厚(mm)
out(f):最終パスでの出側板厚(mm)
f-1=√{Rf-1×(tin(f-1)−tout(f-1))}÷(2tout(f-1)+tin(f-1))/3
f-1:最終パスの1段前での形状比
f-1:最終パスの1段前でのロール半径(mm)
in(f-1):最終パスの1段前での入側板厚(mm)
out(f-1):最終パスの1段前での出側板厚(mm)
以下、本発明極薄鋼板及び本発明製造方法について説明する。
一般に、鋼板のヤング率とr値は、いずれも、結晶方位に依存して変化する。鋼板のr値を高める方位として知られているγファイバー({111}<112>〜{111}<110>方位群))は、同時に、ヤング率を、面内異方性なく高める方位である。
そこで、本発明極薄鋼板においては、(a){111}面方位粒の面積率を極限まで高め、かつ、(b)低炭素鋼で発達し易く、r値やヤング率の異方性を高める{110}面方位や、r値やヤング率を低下させる{001}面方位を抑制して、(c)面内異方性がなく、高いr値とヤング率を両立することを基本思想とする。なお、ヤング率は、動的振動法によるヤング率及び静的引張法によるヤング率のいずれを用いてもよい。
「成分組成」
まず、本発明極薄鋼板の成分組成の限定理由について説明する。以下、成分組成に係る「%」は、質量%を意味する。
C:0.005〜0.080%
Cは、強度の確保に必要な元素である。Cが0.005%未満であると、強度が得られず、また、高圧下冷延時、{111}面方位以外への歪みの蓄積を促進し、ヤング率を低下させるので、Cは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上、より好ましくは0.015%以上である。
一方、Cが0.080%を超えると、粗大な炭化物や硬質相が生成し、冷延集合組織がランダム化して、{111}面方位が発達しないので、Cは0.080%以下とする。好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.050%以下である。
Si:0.50%以下
Siは、脱酸元素であるとともに、固溶強化により強度の向上に寄与する元素であり、また、熱延時、スケール疵の原因となるスケールを生成する他、めっきの密着性を阻害する元素でもある。
Siが0.50%を超えると、強度が上昇しすぎて、靭性や延性が低下し、また、{100}面方位が発達しすぎて、ヤング率とr値が低下するので、Siは0.50%以下とする。スケールの生成抑制や、めっきの密着性の確保の点から、0.30%以下が好ましく、0.10%以下がより好ましい。下限は0%を含むが、脱酸効果を得る点で、0.01%以上が好ましい。
Mn:0.10〜1.00%
Mnは、焼鈍中に固溶Cと共存すると、冷延後の焼鈍中の回復を抑制し、{111}面方位の発達を阻害し、ヤング率及びr値の異方性を拡大する作用をなす元素である。
Mnが1.00%を超えると、ヤング率及びr値の異方性が大きく拡大するので、Mnは1.00%以下とする。好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.65%である。一方、Mnが0.10%未満であると、製鋼コストが大幅に上昇するので、Mnは0.10%以上とする。好ましくは0.20%以上である。
P:0.040%以下
Pは、不純物元素であり、粒界に偏析して延性や靭性を阻害する元素である。Pが0.040%を超えると、延性や靭性が低下するとともに、二次加工性も低下するので、Pは0.040%以下とする。好ましくは0.020%以下、より好ましくは0.015%以下である。
下限は0%を含むが、Pを0.001%未満に低減すると、製鋼コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.001%が実質的な下限である。製鋼コストの点で、0.005%以上が好ましい。
S:0.010%以下
Sは、不純物元素であり、MnSを形成し、熱延時、加工性を阻害する元素である。Sが0.010%を超えると、熱延時の加工性が著しく低下するので、Sは0.010%以下とする。好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下である。
下限は0%を含むが、Sを0.0001%未満に低減すると、製鋼コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。製鋼コストの点で、0.001%以上が好ましい。
Al:0.010〜0.100%
Alは、脱酸元素であるが、一方で、変態点を高める元素である。Alが0.010%未満であると、脱酸効果が得られないので、Alは0.010%以上とする。好ましくは0.025%以上である。
一方、Alが0.100%を超えると、変態点が高くなり、γ域での圧延が困難となるとともに、AlNが増加して、{111}面方位が発達せず、{100}面方位が増加するので、Alは0.100%以下とする。加工性を確保する点で、0.070%以下が好ましく、0.060%以下がより好ましい。
N:0.0005〜0.010%
Nは、不純物元素であり、高温でAlNを形成し、焼鈍時の再結晶を阻害する元素である。Nが0.0005%未満であると、製鋼コストが大幅に上昇するので、Nは0.0005%以上とする。好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0025%以上である。
一方、Nが0.010%を超えると、AlNが多量に生成して、再結晶が抑制され、{111}面方位の発達が不十分となり、{100}面方位が増加するので、Nは0.010%以下とする。好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下である。
本発明極薄鋼板の成分組成は、特性を改善するため、Mo:0.005〜0.100%、Cr:0.005〜0.500%、W:0.005〜0.500%、Cu:0.005〜0.500%、Ni:0.005〜0.500%、Ca:0.005〜0.100%、Rem:0.0005〜0.100%、V:0.001〜0.100%の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
Mo:0.005〜0.100%
Moは、Cとの相互作用で、耐常温時効性を高める元素である。Moが0.005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Moは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
一方、Moが0.100%を超えると、延性や溶接性が低下する他、熱延鋼板組織の集合組織化が進み、最終の焼鈍鋼板組織において、{100}面方位が増加するので、Moは0.100%以下とする。好ましくは0.075%以下である。
Cr:0.005〜0.500%
Crは、Cとの相互作用で、耐常温時効性を高める元素である。Crが0.005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Crは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
一方、Crが0.500%を超えると、延性や溶接性が低下する他、熱延鋼板組織の集合組織化が進み、最終の焼鈍鋼板組織において、{100}面方位が増加するので、Crは0.500%以下とする。好ましくは0.350%以下である。
W:0.005〜0.500%
Wは、Cとの相互作用で、耐常温時効性を高める元素である。Wが0.005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Wは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
一方、Wが0.500%を超えると、延性や溶接性が低下する他、熱延鋼板組織の集合組織化が進み、最終の焼鈍鋼板組織において、{100}面方位が増加するので、Wは0.500%以下とする。好ましくは0.350%以下である。
Cu:0.005〜0.500%
Cuは、耐食性やスケールの剥離性の向上に寄与する元素である。Cuが0.005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Cuは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
一方、Cug0.500%を超えると、析出強化により強度が上昇しすぎて、靭性や延性が低下するので、Cuは0.500%以下とする。好ましくは0.350%以下である。
Ni:0.005〜0.500%
Niは、強度の向上と靭性の向上に寄与する元素である。Niが0.005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Niは0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。
一方、Niが0.500%を超えると、添加効果が飽和するとともに、延性が低下するので、Niは0.500%以下とする。好ましくは0.350%以下である。
Ca:0.0005〜0.100%
Caは、介在物の形状を制御し、材質の向上に寄与する元素である。Caが0.0005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Caは0.0005%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。
一方、Caが0.100%を超えると、延性が低下するので、Caは0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下である。
Rem:0.0005〜0.100%
Remは、介在物の形状を制御し、材質の向上に寄与する元素である。Remが0.0005%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Remは0.0005%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。
一方、Remが0.100%を超えると、延性が低下するので、Caは0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下である。
V:0.001〜0.100%
Vは、材質を改善し強度の向上に寄与する元素である。Vが0.001%未満であると、添加効果が充分に得られないので、Vは0.001%以上とする。好ましくは0.005%以上である。一方、Vが0.100%を超えると、延性が低下するので、Vは0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下である。
本発明極薄鋼板の成分組成の残部は、鉄及び不可避的不純物であるが、上記元素以外の元素や、鋼原料から及び/又は製鋼過程で不可避的に混入する元素(例えば、Sn、Asなど)を、本発明極薄鋼板の特性を阻害しない範囲で含んでもよい。
「結晶粒の方位」
次に、板厚断面の全厚において、{111}面方位を有する結晶粒の面積率を60%以上に限定し、さらに、好ましいとして、{110}面方位を有する結晶粒の面積率を3%以下に、{100}面方位を有する結晶粒の面積率を10%以下に規定する理由について説明する。
通常、ヤング率及びr値は、板厚全体における結晶粒の平均的な方位分布によって定まるが、特定の板厚断面の全厚での結晶粒の方位分布を測定するだけでは、板厚内の結晶粒の平均的な方位分布を正確に把握することはできない。
したがって、ヤング率及びr値を正確に評価するためには、板厚断面の全厚において、結晶粒の方位分布を測定し、平均的な方位分布を把握する必要がある。そして、結晶粒の面積率は、結晶粒の方位分布に基づいて算出することができる。
特定の面方位を有する結晶粒の面積率は、EBSD(電子後方散乱パターン:Electron Back Scattering Diffraction pattern)法で測定することができる。EBSD法による結晶粒の面積率の測定は、以下のようにして行う。
最終焼鈍板において、圧延方向に対し平行な断面を観察面とする。EBSD法は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(例えば、JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(例えば、TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の速度で、1〜10μm間隔で、結晶方位を測定する。結晶方位の測定の際、0〜15°の角度許容範囲(Tolerance)に入る結晶方位は同一面方位として測定する。
結晶方位情報をEBSD解析ソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」を用いて解析し、ODF(Orientation Distribution Function)を算出する。算出したODFにより、特定の面方位を有する結晶粒の面積率を算出することができる。
なお、結晶方位の測定は、測定対象領域を数か所に分割して行い、解析ソフトウェアで解析する際、測定データを合体して解析してもよい。
{111}面方位の結晶粒は、ヤング率とr値(絶対値)を向上させる。{111}面方位の結晶粒の面積率が60%未満では、所要のヤング率とr値を得ることが困難であるので、{111}面方位の結晶粒の面積率は60%以上とする。好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である。上記面積率の上限は特に規定しないが、100%が好ましい。
{110}面方位の結晶粒は、ヤング率の異方性とr値の異方性を著しく大きくするので、{110}面方位の結晶粒の面積率は3%以下が好ましい。より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
{100}面方位の結晶粒は、ヤング率の異方性とr値の異方性に対する影響は小さいが、ヤング率及びr値を下げる作用をなすので、{100}面方位の結晶粒の面積率は10%いかが好ましい。より好ましくは7%以下、さらに好ましくは4%以下である。
「板厚」
本発明極薄鋼板の板厚は、特に、特定の板厚範囲に限定されないが、熱延工程における圧延負荷の軽減や、他素材と複合した複合部材の軽量化の点で、0.5mm以下が好ましい。板厚が0.05mm未満であると、ヤング率の向上による、部材剛性の向上への寄与度が小さくなるので、0.05mmが実用上の下限である。より好ましくは0.1mm以上である。
「機械特性」
次に、本発明極薄鋼板の機械特性について説明する。本発明極薄鋼板においては、圧延方向、圧延方向と直角の方向、及び、圧延方向に対して45°の方向にて、ヤング率215GPa以上で、かつ、平均ヤング率218GPa以上を確保することができる。
集合組織がランダムの場合の鉄のヤング率が約206GPaであり、これに比べ、本発明極薄鋼板のヤング率は約5%以上向上しているので、部材又は複合部材の軽量化に大きく貢献することができる。
また、r値についても、同様に、圧延方向、圧延方向と直角の方向、及び、圧延方向に対して45°の方向にて、r値1.8以上で、かつ、平均r値2.0以上を確保することができる。それ故、本発明極薄鋼板を複雑形状の部品に深絞り成形することが可能になる。
「製造方法」
次に、本発明製造方法について説明する。
本発明製造方法は、
(i-1)本発明極薄鋼板の成分組成の鋼片を、1100℃以上に加熱して熱間圧延に供し、最終パスでの形状比Lfと最終パスの1段前のパスでの形状比Lf-1の和が下記式(1)を満足するように、かつ、820〜950℃の温度域で熱間圧延を終了し、
(i-2)熱間圧延終了後、熱延鋼板を、10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、500℃以下の温度域で巻き取り、
(ii-1)巻き取った熱延鋼板を、酸洗後、圧下率85〜95%で冷間圧延して巻き取り、
(ii-2)巻き取った冷延鋼板を、平均加熱速度10〜200℃/時間で、400〜600℃の温度域に加熱し、次いで、700〜900℃の温度域に1〜60時間保持する
ことを特徴とする。
f+Lf-1≦12.0 ・・・(1)
f=√{Rf×(tin(f)−tout(f))}÷(2tout(f)+tin(f))/3
f:最終パスでの形状比
f:最終パスでのロール半径(mm)
in(f):最終パスでの入側板厚(mm)
out(f):最終パスでの出側板厚(mm)
f-1=√{Rf-1×(tin(f-1)−tout(f-1))}÷(2tout(f-1)+tin(f-1))/3
f-1:最終パスの1段前での形状比
f-1:最終パスの1段前でのロール半径(mm)
in(f-1):最終パスの1段前での入側板厚(mm)
out(f-1):最終パスの1段前での出側板厚(mm)
本発明製造方法では、まず、本発明極薄鋼板の成分組成の溶鋼を、常法により鋳造し、切断して、熱間圧延に供する鋼片を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造又は圧延したものでもよいが、生産性の観点から、連続鋳造鋳片から製造した鋼片が好ましい。また、鋼片は、薄スラブキャスター等を用いて製造したものでもよい。以下、本発明製造方法の工程条件について説明する。
鋼片加熱温度:1100℃以上
通常、鋳造後冷却した鋼片を、再度、加熱して、熱間圧延に供するが、鋼片加熱温度は、1100℃以上とする。鋼片加熱温度が1100℃未満であると、鋼片を効率良く均一に加熱することが困難となり、巻き取った熱延鋼板の機械特性が不均一になるので、熱間圧延に供する鋼片の加熱温度は1100℃以上とする。
加熱温度の上限は、特に規定しないが、1300℃を超えると、鋼板の結晶粒が粗大化し、冷延・焼鈍後の{111}面方位の発達が不十分となるので、鋼片加熱温度は1300℃以下が好ましい。なお、溶鋼を鋳造した後、鋼片を、直ちに、熱間圧延に供する連続鋳造−直接圧延(CC−DR)を採用してもよい。
熱間圧延
形状比の和(Lf+Lf-1):12.0以下
熱延終了温度:820〜950℃
熱間圧延の終了段階では、最終パスでの形状比Lfと、最終パスの1段前のパスでの形状比Lf-1の和(以下「形状比和」ということがある。)を12.0以下とする。
形状比和が12.0を超えると、鋼板表層において、{110}面方位が発達した剪断層が生成し、冷延・焼鈍後の鋼板表層において、{111}面方位の発達を阻害するので、形状比和は12.0以下とする。好ましくは10.0以下、より好ましくは8.0以下である。
形状比和の下限は、特に定めないが、形状比和を3.0未満にするためには、ロール径の小さな特殊な圧延機を用いるか、又は、非常に低い圧下率での圧延が必要となって、形状制御が困難になるので、実機製造上、形状比和は3.0以上が好ましい。
熱間圧延は、820〜950℃で終了する。熱延終了温度が820℃未満であると、鋼板表層がα域熱延となり、ヤング率を阻害する{110}面方位の結晶粒が、冷延・焼鈍後まで残存するので、熱延終了温度は820℃以上とする。好ましくは850℃以上、より好ましくは870℃以上である。
一方、熱延終了温度が950℃を超えると、熱延鋼板の結晶粒が粗大化し、冷延・焼鈍後の{111}面方位の発達が阻害されるので、熱延終了温度は950℃以下とする。好ましくは930℃以下、より好ましくは910℃以下である。
熱延終了後の冷却・巻取
冷却速度:10℃/秒以上
巻取温度:500℃以下
熱延終了後の冷却速度が10℃/秒未満であると、冷却途中に炭化物が生成し、結晶粒方位がランダム化するので、冷却速度は10℃/秒以上とする。好ましくは20℃/秒以上、より好ましくは40℃/秒以上である。
上記冷却の後、熱延鋼板を500℃以下の温度で巻き取る。巻取温度が500℃を超えると、巻取り中に炭化物が析出し、結晶粒方位がランダム化するので、巻取温度は500℃以下とする。巻取温度の下限は、特に限定しないが、室温以下での巻取りに、特段の技術的効果はなく、また、製造コストが大幅に上昇するので、実機製造上、室温が実質的な下限である。
酸洗・冷間圧延
圧下率:85〜95%
巻き取った熱延鋼板を巻き戻して、酸洗し、冷間圧延に供する。圧下率は85〜95%とする。圧下率が85%未満であると、{110}面方位の結晶粒が発達し、ヤング率の異方性、及び、r値の異方性が増大するので、圧下率は85%以上とする。好ましくは87%以上、より好ましくは89%以上である。
一方、圧下率が95%を超えると、冷間圧延機の負荷が増大するとともに、r値を下げる{100}面方位の結晶粒の集積度が増大するので、圧下率は95%以下とする。好ましくは94%以下、より好ましくは93%以下である。
焼鈍
平均加熱速度:10〜200℃/時間
加熱温度域:400〜600℃
保持温度域:700〜900℃
保持時間:1〜60時間
巻き取った冷延鋼板を、コイル状のまま、焼鈍炉で焼鈍する、その際、室温から400〜600℃の加熱温度域まで、平均加熱速度10〜200℃/時間で加熱する。平均加熱速度が10℃/時間未満であると、特段の技術的効果が得られず、また、加熱速度の制御が困難となり、鋼板材質が不均一となるので、平均加熱速度は10℃/時間以上とする。好ましくは20℃/時間以上、より好ましくは50℃/時間以上である。
一方、平均加熱速度が200℃/時間を超えると、加熱中の回復が不十分となり、{111}面方位以外の結晶粒の核生成・成長が進行するので、平均加熱速度は200℃/時間以下とする。好ましくは180℃/時間以下、より好ましくは160℃/時間以下である。
平均加熱速度:10〜200℃/時間で加熱温度域:400〜600℃まで加熱した後、さらに、鋼板を、700〜900℃の温度域に加熱し、該温度域に、1〜60時間保持する。保持温度域が700℃未満であると、{111}面方位の結晶粒が十分に成長しないので、保持温度域は700℃以上とする。好ましくは730℃以上、より好ましくは750℃以上である。
一方、保持温度域が900℃を超えると、γ単相域における焼鈍を経ることになり、結晶方位がランダム化するので、保持温度域は900℃以下とする。好ましくは880℃以下、より好ましくは850℃以下である。
700〜900℃の温度域での保持時間が1時間未満であると、{111}面方位の結晶粒が充分に成長しないので、保持時間は1時間以上とする。好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上である。
一方、保持時間が60時間を超えると、{111}面方位以外の結晶粒が成長し、{111}面方位の結晶粒の面積率が低下するので、保持時間は60時間以下とする。好ましくは55時間以下、より好ましくは50時間以下である。
以上説明したように、本発明製造方法によれば、圧延方向、圧延方向と直角の方向、及び、圧延方向に対して45°の方向において、ヤング率215GPa以上、平均ヤング率が218GPa以上で、かつ、r値1.8以上、平均r値2.0以上の、剛性及び深絞り性に優れた本発明極薄鋼板を製造することができる。
本発明極薄鋼板を、例えば、単体としてパネル部材等の自動車部材に適用すれば、加工性の向上の他、剛性の向上による部材の薄板化に伴い、燃費の改善や、車体の軽量化を実現することができる。また、本発明極薄鋼板を、他の素材との複合板の素材として適用すれば、複合板の軽量化を実現することができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に示す成分組成の溶鋼を鋳造して鋼片を製造した。表1の空欄は、分析値が検出限界未満であったことを意味する。
Figure 0006589710
Figure 0006589710
製造した鋼片を、表2に示す加熱温度に加熱して熱間圧延に供し、表2に示す熱延終了温度及び形状比の和で仕上げ圧延を終了し、熱延終了後の熱延鋼板を、表2に示す冷却速度で冷却し、表2に示す巻取温度で巻き取った。
巻き取った熱延鋼板を巻き戻して酸洗し、酸洗後、表2に示す圧下率で冷間圧延して極薄の冷延鋼板とした。その後、該鋼板を、表2に示す加熱速度で、表2に示す一次加熱温度まで加熱し、さらに加熱して、表2に示す保持温度に、表2に示す保持時間、保持した。
得られた極薄鋼板から、圧延方向に直角の方向を長手方向として、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、引張強度を測定した。
また、圧延方向、圧延方向に対し45°の方向、及び、圧延方向に直角の方向を長手方向として、引張試験と同様に、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を採取し、歪み量15%でr値を測定し、次式で平均値を求めた。
平均r値=(rL+2×r45+rC)/4
rL:圧延方向のr値
r45:圧延方向に対し45°の方向のr値
rC:圧延方向に直角の方向のr値
ヤング率の測定は、静的引張法により測定した。静的引張法によるヤング率の測定は、JIS Z 2201に準拠した引張試験片を用いて、鋼板の降伏強度の1/2に相当する引張応力を付与して行った。この際、測定は5回行い、応力−歪み線図の傾きに基づいて算出したヤング率のうち、最大値及び最小値を除いた3つの側手値の平均値を静的引張法によるヤング率とした。
ヤング率も、r値と同様に、圧延方向、圧延方向に対し45°の方向、及び、圧延方向に直角の方向を長手方向とした試験片を作製して測定し、次式で平均値を求めた。
平均ヤング率=(EL+2×E45+EC)/4
EL:圧延方向のヤング率
E45:圧延方向に対し45°の方向のヤング率
EC:圧延と直角の方向のヤング率
{111}面方位を有する結晶粒の面積率、{110}面方位を有する結晶粒の面積率、及び、{001}面方位を有する結晶粒の面積率を、EBSD法で測定し算出した。圧延方向に平行な断面を観察面とし、板厚×5000μmの領域を、250点/秒の解析速度で10μmの間隔で測定した。
結果を表3に示す。
Figure 0006589710
表3中のヤング率及びr値の欄のRDは、圧延方向(Rollinng Direction)を意味し、45°は、圧延方向に対して45°の方向を意味し、TDは、圧延方向に直角の方向(Transverse Direction)を意味する。
表3に示すように、発明例(表1〜3、参照)の場合には、圧延方向及び圧延方向に対し45°の方向において、ヤング率は215GPa以上で、平均ヤング率は218GPa以上であり、r値は1.8以上で、平均r値は2.0以上である。発明例においては、剛性が高く、かつ、加工性、即ち、深絞り性と延性に優れていることが解る。
一方、製造No.30〜36は、成分組成が本発明の範囲外である鋼No.a〜g(比較鋼)を用いた比較例である。
製造No.30は、C量が多い比較例である。この比較例では、粗大な炭化物や硬質相が熱延鋼板中に生成したことで、冷延・焼鈍後、集合組織が十分に発達せず、{111}面方位の結晶粒の面積率が低下して、ヤング率とr値が低下している。
製造No.31は、Si量が多い比較例である。この比較例では、{100}面方位の結晶粒が増加して、ヤング率とr値が低下している。No.32は、Mn量が多すぎる比較例である。この比較例では、{111}面方位の結晶粒の成長が阻害されて、ヤング率とr値が低下している。
製造No.33は、N量が多い比較例である。この比較例では、AlNが増加し、{111}面方位の結晶粒の面積率が低下し、{100}面方位の結晶粒の面積率が増加している。製造No.34は、Al量が多い比較例である。この比較例では、同様に、AlNが増加し、{111}面方位の結晶粒の面積率が低下し、{100}面方位の結晶粒の面積率が増加している。
製造No.35は、C量が少ない比較例である。この比較例では、{111}面方位以外に、{110}面方位や{100}面方位の集積度が増加して、ヤング率及びr値が低下している。製造No.36は、Mo量が多い比較例である。この比較例では、焼入れ性の増大によって、{100}面方位の集積度が増加して、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.A(発明鋼)を用いた製造No.2の比較例では、保持時間が短すぎて、{111}面方位の結晶粒の成長が不十分となり、ヤング率及びr値が低下している。鋼No.B(発明鋼)を用いた製造No.4の比較例では、圧下率が低すぎて、板厚が0.5mmを超えるとともに、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、{110}面方位の結晶粒の面積率と、{100}面方位の結晶粒の面積率が増加して、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.C(発明鋼)を用いた製造No.7の比較例では、加熱温度が低すぎて、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、圧延方向におけるヤング率とr値が低下している。鋼No.D(発明鋼)を用いた製造No.9の比較例では、熱延終了温度が低すぎて、熱延鋼板表層の集合組織が発達し、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.E(発明鋼)を用いた製造No.11の比較例では、保持温度が高すぎて、全体的に結晶方位がランダム化し、相対的に、{110}面方位の結晶粒の面積率、及び、{100}面方位の結晶粒の面積率が増加し、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少そし、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.E(発明鋼)を用いた製造No.12の比較例では、巻取温度が高すぎて、炭化物が生成して、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、r値及びヤング率が低下している。鋼No.F(発明鋼)を用いた製造No.14の比較例では、焼鈍時の加熱速度が速すぎて、{100}面方位の結晶粒の面積率が増大して、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.G(発明鋼)を用いた製造No.16の比較例では、熱延時の形状比(和)が高すぎて、鋼板表層の{110}面方位の結晶粒の面積率が増大し、ヤング率及びr値が低下している。鋼No.H(発明鋼)を用いた製造No.18の比較例では、熱延終了後の冷却速度が遅すぎて炭化物が生成し、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、{100}面方位の結晶粒の面積率が増大して、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.I(発明鋼)を用いた製造No.20の比較例や、鋼No.J(発明鋼)を用いた製造No.22の比較例では、一次加熱温度が本発明の範囲外で、{111}面方位の結晶粒の面積率が低下し、他面方位の結晶粒の面積率が増大して、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.K(発明鋼)を用いた製造No.24の比較例では、熱延終了温度が高すぎて、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、ヤング率及びr値が低下している。鋼No.L(発明鋼)を用いた製造No.26の比較例では、圧下率が高すぎて、{100}面方位の結晶粒の面積率が増大し、ヤング率及びr値が低下している。
鋼No.L(発明鋼)を用いた製造No.27の比較例では、保持温度が低すぎて、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少して、ヤング率及びr値が低下している。鋼No.M(発明鋼)を用いた製造No.29の比較例では、保持時間が長すぎて、{111}面方位の結晶粒の面積率が減少し、一方、{110}面方位の結晶粒の面積率と、{100}面方位の結晶粒の面積率が増大し、ヤング率及びr値が低下している。
以上、発明例と比較例について説明したように、本発明によれば、深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑を提供することができる。
前述したように、本発明によれば、圧延方向、圧延方向に直角の方向、及び、圧延方向に45°の方向において、ヤング率215GPa以上、かつ、平均ヤング率218GPa以上を確保することができるので、ヤング率が異方性なく向上して、剛性に優れ、かつ、いずれの方向のr値も1.8以上で、かつ、平均r値2.0以上の、深絞り性に優れた極薄鋼板を提供することができる。
本発明の極薄鋼板は、自動車の燃費改善や車体軽量化に貢献する他、家庭電気製品、建物等の素材、また、樹脂や他の金属を圧着して形成する複合板の素材として好適であるので、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。

Claims (6)

  1. 成分組成が、質量%で、C:0.005〜0.080%、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.00%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.010〜0.100%、N:0.0005〜0.010%を含み、残部:鉄及び不可避的不純物からなり、
    板厚断面の全厚に占める{111}面方位を有する結晶粒の面積率が60%以上である
    ことを特徴とする深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、Mo:0.005〜0.100%、Cr:0.005〜0.500%、W:0.005〜0.500%、Cu:0.005〜0.500%、Ni:0.005〜0.500%、Ca:0.0005〜0.100%、Rem:0.0005〜0.100%、V:0.001〜0.100%の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
  3. 前記板厚断面の全厚に占める{110}面方位を有する結晶粒の面積率が3%以下、{100}面方位を有する結晶粒の面積率が10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板。
  4. 前記板厚が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑を製造する製造方法であって、
    (i-1)請求項1又は2に記載の成分組成の鋼片を、1100℃以上に加熱して熱間圧延に供し、最終パスでの形状比Lfと最終パスの1段前のパスでの形状比Lf-1の和が下記式(1)を満足するように、かつ、820〜950℃の温度域で熱間圧延を終了し、
    (i-2)熱間圧延終了後、熱延鋼板を、10℃/秒以上の冷却速度で冷却し、500℃以下の温度域で巻き取り、
    (ii-1)巻き取った熱延鋼板を、酸洗後、圧下率85〜95%で冷間圧延して巻き取り、
    (ii-2)巻き取った冷延鋼板を、平均加熱速度10〜200℃/時間で、400〜600℃の温度域に加熱し、次いで、700〜900℃の温度域に1〜60時間保持する
    ことを特徴とする深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼板の製造方法。
    f+Lf-1≦12.0 ・・・(1)
    f=√{Rf×(tin(f)−tout(f))}÷(2tout(f)+tin(f))/3
    f:最終パスでの形状比
    f:最終パスでのロール半径(mm)
    in(f):最終パスでの入側板厚(mm)
    out(f):最終パスでの出側板厚(mm)
    f-1=√{Rf-1×(tin(f-1)−tout(f-1))}÷(2tout(f-1)+tin(f-1))/3
    f-1:最終パスの1段前での形状比
    f-1:最終パスの1段前でのロール半径(mm)
    in(f-1):最終パスの1段前での入側板厚(mm)
    out(f-1):最終パスの1段前での出側板厚(mm)
  6. 前記冷延鋼板の板厚が0.5mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の深絞り性に優れた高ヤング率極薄鋼鈑の製造方法。
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