JP6581372B2 - 樹脂粒子に吸着した有機物の吸着状態判定方法 - Google Patents

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本発明は、樹脂粒子に吸着した有機物の吸着状態判定方法に関する。
純水装置で使用するイオン交換樹脂が、処理原水中に含まれる有機物によって汚染され、薬品再生後の再生薬品の残留により採水開始までの時間が延長する事例がある。これまで有機物の構造に含まれるカルボン酸基に再生薬品のナトリウムが結合し、再生薬品の残留が高くなると考えられてきたが、原水に含まれる有機物は、フルボ酸やフミン酸といった土壌分解性の有機物であり、イオン交換樹脂の母体も有機物であるためイオン交換樹脂を直接分析し、有機物の特定や濃度を測定することは難しい。
構造がある程度予測される有機物の吸着に関しては、特許文献1には表面分析法により試料の表面部分に吸着した物質の試料深さ方向の分布を測定することを特徴とする試料表面に吸着した物質の吸着状態判定方法が開示され、表面分析法として電子線プローブマイクロアナライザー法、二次イオン質量分析法、光電子分光法、光音響分光法、赤外全反射分光法(ATR法)、ラマン分光法が挙げられおり、特にATR法を使用した判定方法が開示されている。
特開2002−156327号公報
しかしながら、特許文献1の方法は、原水中に含まれる有機物ではなく、多段に組み合わせた他のイオン交換樹脂からの溶出物に対して効果を奏するものである。そのため、フルボ酸やフミン酸といった土壌分解性の有機物、特にこれら酸性の無定形高分子有機物については十分な方法とはいえなかった。
原水中に含まれる有機物濃度は、TOCとしては数十μg/lと低いが、処理の過程で徐々にイオン交換樹脂に有機物が蓄積されると考えられるため、安定した運転管理を行うには、イオン交換樹脂の有機物吸着状況を把握することは重要である。
本発明では、有機物によるイオン交換樹脂の吸着状況を判定する方法を提供することを目的とする。
本発明者が鋭意検討した結果、イオン交換樹脂の性能低下を引き起こす酸性の無定形高分子有機物と同等の性能低下挙動を示す構造既知の有機物を見出し、その有機物を用いて、有機物の吸着状態を蛍光光度法にて評価する方法に到達したものである。
すなわち、本発明の一形態によれば、イオン交換樹脂粒子へのカルボン酸基含有芳香族化合物から選択される有機物の吸着状態を判定する方法であって、有機物を吸着したイオン交換樹脂粒子を粉砕し、粉砕した前記イオン交換樹脂粒子に対して蛍光光度法により励起波長を走査して少なくとも2つの励起波長における蛍光ピークの強度を取得し、2つの前記蛍光ピークの強度の比に基づいて前記有機物の吸着量を予測する吸着状態判定方法が提供される。
本発明よれば、特定の有機物のイオン交換樹脂への吸着状態より、再生薬品の残留性を把握できるようになり、安定した水処理系の管理ができ、適切な交換時期の判断や決定ができるようになる。
指標有機物吸着前のイオン交換樹脂の3次元蛍光スペクトルを示す図である。 指標有機物を所定濃度で吸着させた際の蛍光波長430nmにおける励起スペクトルを示す図である。 イオン交換樹脂の有機物汚染濃度に伴う蛍光強度比を示す図である。 イオン交換樹脂への吸着有機物量と、60分後のイオン交換樹脂塔出口の電気伝導率の測定結果を示すグラフである。 イオン交換樹脂への吸着有機物量と、60分後のイオン交換樹脂塔出口の電気伝導率の測定結果をまとめたグラフである。
フルボ酸やフミン酸といった土壌分解性の有機物は不定形であるため、これを直接用いて、イオン交換樹脂への吸着状況を確認することは極めて困難である。そこで、本発明ではこのような酸性の無定形高分子有機物と同等の性能低下挙動を示す構造既知の有機物を用いて、その吸着状況を把握し、それを実際の原水処理などの水処理システムに使用したイオン交換樹脂にも適用できることを見出した。
ここで、指標となる構造既知の有機物としては、カルボン酸基含有芳香族化合物、特にカルボン酸基とフェノール性水酸基をそれぞれ1つ以上有する化合物が同等の性能低下挙動を示すことを見出した。中でも下記構造式に示す没食子酸鉄を指標有機物として用いるものである。
Figure 0006581372
没食子酸鉄(ビス(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)鉄(II))は、万年筆などの黒色インク成分として古くから知られており、容易に入手することができる。
本発明が適用されるイオン交換樹脂としては、陰イオン交換樹脂であり、特に弱塩基性の陰イオン交換樹脂である。また、イオン交換樹脂のベース樹脂としては、ポリアクリル系とポリスチレン系とがあるが、本発明ではポリスチレン系の弱塩基性の陰イオン交換樹脂に対して特に有効である。
(測定方法およびイオン交換樹脂性能評価方法)
イオン交換樹脂の有機物吸着量の測定法としては、蛍光光度法を用いる。蛍光光度法とは、測定試料に光を照射することで試料に含まれる物質が励起状態になり、基底状態に戻る際に発する蛍光を測定する方法である。測定するイオン交換樹脂や有機物により励起波長や蛍光波長が異なるため、3次元の蛍光スペクトルのデータが収集できる機器が好ましい。測定するイオン交換樹脂を乾燥後粉砕し、プレート上に成型する。その際に正確な定量を実施するため成型の型や成型するイオン交換樹脂量は一定にする必要がある。成型したイオン交換樹脂に対して励起波長を走査し、蛍光波長を求め、3次元の蛍光スペクトルデータを取得する。波長範囲は励起波長、蛍光波長ともに200nm〜600nmで測定を行う。
有機物が吸着していないイオン交換樹脂について、蛍光光度法による測定を行い、この時、異なる励起波長において少なくとも2つの蛍光ピークがあることを確認する。次に、有機物を吸着させると、蛍光ピークの強度が吸着量により減衰する。しかしながら、一つのピークのみの減衰傾向は有機物吸着以外の要因もあり、有機物の吸着量を正確に把握することはできない。そこで、本発明では2つのピークにおける強度比(蛍光強度比という)を求めることで、有機物吸着以外の要因は相殺され、有機物の吸着量に依存した減衰傾向が求められる。
蛍光強度比は、蛍光ピーク強度の低いものを蛍光ピーク強度の高いもので除した値である。また、2つの蛍光ピークは、同じ波長であっても異なる波長であっても良いが、同じ蛍光波長であることが好ましい。
本発明では、構造既知の指標有機物の吸着量を蛍光光度法で測定される蛍光強度比から推定し、それに基づいて実機の有機物汚染状況を把握するものである。
このように、本発明では指標有機物の選択と、有機物量による蛍光光度法における蛍光強度比の減衰傾向という2つの新たな知見により、再生薬品の残留性を予測できるようになり、安定した水処理系の管理ができ、適切な交換時期の判断や決定ができるようになる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
イオン交換樹脂として弱塩基性ポリスチレン系陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA96SB、商品名、ダウ・ケミカル社製)を用いた。
乾燥した試料を粉砕し、ペレット状に成型したものを測定した。測定機器を以下に示す。
測定機器:F−7000型 分光蛍光光度計 日立製
付属品 固体試料ホルダー
測定モード:3次元 データモード:蛍光
励起開始波長:200.0nm 励起終了波長:600.0nm 励起サンプリング間隔:5.0nm
蛍光開始波長:200.0nm 蛍光終了波長:600.0nm 蛍光サンプリング間隔:5.0nm
図1に3次元蛍光スペクトルの測定結果の一例を示す。3次元蛍光スペクトルは、励起波長(nm)、蛍光波長(nm)、蛍光強度の3軸から構成される。図1において測定対象とした試料は、有機物未吸着の陰イオン交換樹脂である。この蛍光スペクトルにおいて励起波長280nmと励起波長380nmともに蛍光波長430nmに蛍光強度が高く検出されている。
次に、指標有機物として没食子酸鉄を用いて、有機物を上記のイオン交換樹脂に吸着させた。
イオン交換樹脂の没食子酸鉄の吸着量は、イオン交換樹脂一定量に没食子酸鉄を一定量添加した状態で、所定時間振とうし、没食子酸鉄を吸着させ、イオン交換樹脂と水溶液を分離した後にTOC濃度を測定し、添加量との差(没食子酸鉄の添加濃度−TOC濃度)から算出したものである。
図2に蛍光波長430nmにおける励起スペクトルの測定結果を示す。図2の横軸は励起波長を示し、図2の縦軸は蛍光強度を示す。図2においては、異なる有機物汚染濃度(0mg/L、20mg/L、200mg/L、870mg/L、4400mg/L)のイオン交換樹脂のスペクトルを重ねている。蛍光波長430nmにおける励起波長280nmの蛍光強度と励起波長380nmの蛍光強度の比を蛍光強度比と定義し、有機物濃度(有機物汚染濃度)と蛍光強度比をプロットした結果を図3に示す。
次に、イオン交換樹脂の再生薬品の残留性と有機物濃度の評価法を説明する。先ず、イオン交換樹脂に没食子酸鉄を一定量吸着させた樹脂(作成方法に関しては、上記の蛍光法による試料の作成法と同様)を樹脂搭に充填した後、その樹脂搭に再生薬品を樹脂の約5倍量通薬した。次に、樹脂搭に一定流速で純水を流し、充填された樹脂に対して純水洗浄を行った。そして、純水洗浄を開始してから60分後に樹脂搭の出口から流れる水の電気伝導率を測定した。再生薬品を通薬する工程において、樹脂からの没食子酸鉄の脱離が考えられるため、樹脂を通過した薬液を回収し、その通過した薬液中のTOC量を測定することで樹脂の残留有機物量(有機物濃度)を算出した。
図4に残留する指標有機物濃度と、純水洗浄を開始してから60分後のイオン交換樹脂塔出口から流れる水の電気伝導率の測定結果を示す。図4の横軸は、1回目の有機物吸着後の1回目の通液−純水洗浄後(1−1)、2回目の有機物吸着後の1回目の通液−純水洗浄後(2−1)、2回目の通液−純水洗浄後(2−2)、3回目の通液−純水洗浄後(2−3)等を意味する。図5は、図4の結果に基づき、イオン交換樹脂塔の出口から流れる水の電気伝導率を横軸に示し、樹脂の残留有機物量を縦軸に示したものである。図4及び図5を参照すると、樹脂の残留有機物量(有機物濃度)は、イオン交換樹脂塔の出口から流れる水の電気伝導率にほぼ正比例することが分かる。すなわち、この電気伝導率の変動は、フルボ酸やフミン酸といった土壌分解性の有機物に影響を受けており、このことから、没食子酸鉄が指標有機物として使用できることが確認された。
例えば、イオン交換樹脂の性能が低下したと判断する電気伝導率基準値を、純水洗浄を開始してから60分後に50μS/cmと設定すると、有機物濃度は2100mg/L−樹脂となる。これは図5の出口電気伝導率と有機物濃度より計算できる。そして、この有機物濃度と蛍光光度法の結果を示す図3より、蛍光強度比が0.45以下の時にイオン交換樹脂の性能が低下したと判断できる。
この指標を用いて、実際の原水処理においては、イオン交換樹脂の蛍光強度比が、指標有機物を用いて決定された性能低下の基準値に応じた所定値以下で確認された場合に性能低下と判断し、交換時期を管理することが可能となる。
本発明に係る吸着状態判定方法は、イオン交換樹脂に限定されず樹脂粒子全般に対して有機物の吸着状態の把握に利用することができる。

Claims (2)

  1. イオン交換樹脂粒子へのカルボン酸基含有芳香族化合物から選択される有機物の吸着状態を判定する方法であって、有機物を吸着したイオン交換樹脂粒子を粉砕し、粉砕した前記イオン交換樹脂粒子に対して蛍光光度法により励起波長を走査して少なくとも2つの励起波長における蛍光ピークを取得し、2つの前記蛍光ピークの強度の比に基づいて前記有機物の吸着量を予測する吸着状態判定方法。
  2. 前記2つの励起波長における蛍光ピークの蛍光波長は等しい請求項1に記載の吸着状態判定方法。
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