JP6573860B2 - 錫硫化物を含む粉体の製造方法 - Google Patents
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錫の原子数に対する硫黄の原子数の比(S/Sn)が0.95以上1.50以下の、前記錫の粉体及び前記硫黄の粉体又は塊を、ミルに導入する仕込工程と、
前記ミルを稼働して前記錫及び前記硫黄を機械的活性処理し、前記錫及び前記硫黄の合成反応熱による連鎖的な合成反応を行う処理工程と、を含み、前記仕込工程が、前記ミルの内部温度が前記硫黄の融点よりも低い温度で行われる。
前記仕込工程は、前記ミルの内部温度が80℃以下の温度で行われてもよい。
前記仕込工程において、前記ミルに導入される前記錫の粉体及び前記硫黄の粉体又は塊の合計の質量は、300g以上であってもよい。
前記ミルの容積は、0.005m3以上であってもよい。
本発明の一実施形態に係る硫化第一錫を含む粉体の製造方法は、仕込工程と、処理工程と、を含む。
仕込工程は、錫の粉体及び硫黄の粉体又は塊を、ミルに導入する工程である。これらの粉体をミルに導入する方法としては、特に限定されず、例えば、粉体移送ライン、クレーン、ショベル等を用いて、自動、半自動、手動にて行うことができる。また、仕込工程は、錫の粉体及び硫黄の粉体又は塊のいずれを先にミルに導入してもよいし、同時に、又は、タイミングをずらして、或いは、別々に導入してもよい。また、仕込工程の前に、錫の粉体と硫黄の粉体とをあらかじめ混合しておき、この混合物を仕込工程においてミルに導入してもよい。なお、本明細書では、粉体とは、特定の物質の粒子の集合体のことを指し、いわゆる粉流体の性質を有するものをいう。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法は、錫(スズ)(元素記号:Sn)を原料として用いる。係る錫は、粉体の性状でミルに導入される。錫の粉体の特性は特に限定されないが、平均粒子径(直径)として、10μm以上500μm以下、好ましくは20μm以上400μm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上100μm以下である。錫の粉体の平均粒子径がこのような範囲であれば、硫黄との合成反応を十分に行うことができる。
ク状である場合は、フレークの最長径の平均値を指す。本明細書では、錫の粉体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定されるものとし、体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%(D50)の粒径と定義する。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法は、硫黄(イオウ)(元素記号:S)を原料として用いる。係る硫黄は、粉体又は塊の性状でミルに導入される。粉体である場合、硫黄の粉体の特性は特に限定されないが、平均粒子径(直径)として、10μm以上500μm以下、好ましくは20μm以上400μm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上100μm以下である。硫黄の粉体の平均粒子径がこのような範囲であれば、錫との合成反応を十分に行うことができる。
、硫黄の粒子の体積平均直径を指し、硫黄の粒子がフレーク状である場合は、フレークの最長径の平均値を指す。本明細書では、硫黄の粉体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定されるものとし、体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%(D50)の粒径と定義する。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法では、ミルを使用する。ミルは、内容物を撹拌、粉砕、磨砕できるものであって、内容物に対して機械的なエネルギーを与えることができるものであれば、特に限定されない。そのようなミルとしては、例えば、容器内で羽根を回転させて内容物を破砕、粉砕する様式、容器を振動させて容器内のロッドやボールなどによって内容物を粉砕する様式、内容物を公転方向に自転するリングと自転方向に回転するベッセル内壁とで挟み込んで、すりつぶすように加工する様式などが挙げられる。また、ミルとしては、ボールミル、ビーズミル、転動ボールミル、遊星型ボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ジョークラッシャー、衝突式粉砕器、媒体攪拌ミル、遊星ミル、ジェットミル等と呼称されるものを挙げることができる。これらの中でも、衝突面積が小さく、単位面積当たりでの内容物に対して与える機械的エネルギーが大きい点で、ボールを用いた装置(ボールミル等)がより好ましい。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法において、仕込工程は、ミルの内部温度が硫黄の融点よりも低い温度で行われる。ミルの内部温度が硫黄の融点よりも低い温度で錫の粉体及び硫黄の粉体又は塊が導入されることにより、導入された硫黄の粉体又は塊を固体の性状として維持できる。係る温度では、錫の粉体は、粉体の性状であるため、仕込工程を経た直後では、ミル内の原料は粉体の状態を維持することができる。
できない場合には、例えば、ミルの外表面の温度やジャケットの温度と、ミルの内部温度との相関を予め測定して、校正(較正)曲線(検量線)を作成し、外表面温度の測定値から、内部温度を見積もる(換算する)こと。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法では、仕込工程で、錫の原子数に対する硫黄の原子数の比(S/Sn)が0.95以上1.50以下となるように、錫の粉体及び硫黄の粉体又は塊をミルに導入する。錫の原子数に対する硫黄の原子数の比(S/Sn)が0.95以上1.00未満であれば少量の錫粉を含んだ硫化第一錫の混合粉体、S/Snが1.00以上1.02ないし1.05未満であれば単体の硫化第一錫の粉体、S/Snが1.02ないし1.05以上1.50以下であれば硫化第一錫及び三硫化二錫の混合粉体の製造が可能である。したがって、本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法で製造される硫化第一錫を含む粉体は、硫化第一錫、錫及び硫化第一錫の混合物、並びに、硫化第一錫と三硫化二錫の混合物のいずれかとすることができ、これらを、選択的に製造することができる。これにより金属錫及び硫化第一錫の混合物の粉体、又は、硫化第一錫及び三硫化二錫の混合物の粉体を、混合工程を追加することなく容易に製造することができる。
、ミルへの不活性ガスの導入などの条件を変更することにより、適宜に調節することができる。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法における仕込工程では、不活性ガスをミルに導入してもよい。これにより、例えば、酸素による原料や製品の酸化を、より少なくすることができ、製品における硫化第一錫の純度をさらに高めることができる場合がある。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどの金属及び硫黄と反応しないガスであるが、コストの点から窒素ガスが好適である。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法は、処理工程を有する。処理工程は、上記仕込工程の後、ミルを稼働して錫及び硫黄を機械的活性化する工程である。
本処理工程で行われる機械的活性化処理とは、被処理物(少なくとも錫の粉体及び硫黄の粉体又は塊)に対して、機械的エネルギーを加えることによって、被処理物の化学反応性を活性化させる処理のことを指す。
を始動すると、それ以外の条件を同一にした場合でも、錫と硫黄との合成反応が生じないことが判明している。すなわち、機械的活性化処理による合成反応は、硫黄が固体状態でミルを始動したときに生じやすく、硫黄が溶融状態でミルを始動したときには生じにくい。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法は、上記工程の他に、例えば、製品をミルから排出する排出工程、ミルを冷却する冷却工程等を有してもよい。排出工程は、例えば、ミルに篩を有する開閉自在の格子付き排出口を設け、生成物が得られた後に、係る排出口を開放して、ミルを運転し、生成物を重力を利用して回収する方法などを例示できる。また、冷却工程は、例えば、ミルに水冷ジャケット等の冷却手段を設けて冷却する方法などを例示できる。
本実施形態の硫化第一錫を含む粉体の製造方法によれば、錫及び硫黄の合成反応熱、すなわち自己発熱による連鎖的な合成反応が生じるため、反応のための熱エネルギーを外部から積極的に供給する必要が無く、良好なエネルギー効率で硫化第一錫を含む粉体を製造することができる。また、このような製造方法によれば、粉砕工程を追加することなく硫化第一錫を含む粉体を容易に連続的に製造することができる。さらに、このような製造方法によれば、ミルの内部温度が硫黄の融点よりも低い温度で錫の粉体と硫黄の粉体又は塊がミルに導入されるため、錫の粉体と硫黄の機械的活性化及び錫と硫黄の連鎖的な合成反応を確実に生じさせることができる。
以下、本発明を実験例及び参考例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
図1は、実験例1に係るミル10の断面を示す模式図である。図2は、実験例1に係るミル10の側面を示す模式図である。図1、2に示すように、本実験例で使用したミル10は、土台iと、容器本体1と、土台iに対する振動を抑制しつつ容器本体1を支持するバネhと、容器本体1の内部に連通し、図示しない開閉自在の蓋が設けられた原料投入口aと、容器本体1を取り巻くように設けられた水冷ジャケットbと、容器本体1に振動を加えることのできるモーターdと、容器本体1の外部に設けられた振動子j及び振動調整おもりkと、容器本体1の内部に連通する排出口gと、排出口gに設けられた排出格子eと、排出格子eを開閉自在に塞ぐことのできる排出格子蓋fと、を有している。また、図1には、ボールcが描かれている。排出格子eは、生成物を排出口gから排出する際に、ボールcが排出されないようにする機能を有している。係るミル10は、一般的な呼称として振動ボールミルに相当する。なお、図示の各構成は、必ずしも全てが必須の構成ではなく、例えば、振動調整おもりk等は、必要に応じて設けられる。さらに、本実験例に用いた装置とは異なる構成の装置を用いても同様の結果となることは容易に予想できる。
実験例1では、図1及び図2に示すようなミル10を用い、本発明の製造方法により硫化第一錫粉末(SnS)を製造した。先ず、原料投入口aの蓋を外し、容量160Lの容器本体1内に、錫の粉体(日本アトマイズ加工製 スズ粉末 SFR−Sn 粒子径10μm 純度99.9%以上)、及び、硫黄の粉体(SOLVAY社製 硫黄粉末 商品名:GROUND SULFUR70/75 平均粒子径35μm)、並びに、タングステンカーバイトボール(直径35mm)を導入した。ボールの見かけの充填率は、80%とした。
実験例1と同様のミルを用いて、同様にして3水準の実験をした。
実験例1と同様の構造である容量50Lの装置を用い、タングステンカーバイトボール(直径30mm)を導入し、振動周期を1500rpmに変更し、錫の原子数と硫黄の原子数の比(S/Sn)を1.02とし、ミルを1時間運転して生成物の黒色粉体を得た。
実験例1と同様の構造で、容器容量5Lの装置を用い、錫の原子数と硫黄の原子数の比(S/Sn)を1.50とし、錫の粉体及び硫黄の粉体の合計質量を333gとした以外は、実験例2と同様にして、生成物の黒褐色粉体を得た 。
実験例3と同様の装置を用い、錫の原子数と硫黄の原子数の比(S/Sn)を0.95とし、錫の粉体及び硫黄の粉体の合計質量を470gとした以外は、実験例3と同様にして、生成物の黒色粉体を得た 。
参考例2では、ディスク型振動ミル T−100(川崎重工業株式会社製)を使用して、実験例1と同様の錫の粉体(2.362g)及び硫黄の粉体(0.638g)を容器に入れて30分間稼働させ、停止後内部の生成物を取り出して、生成物の黒色粉体を得た。なお、ディスク型振動ミルの容積は、約700ccであった。
実験例1及び実験例2で得られた黒色粉体の平均粒径は、28μmであった。この程度の平均粒子径の硫化第一錫(生成物)であれば、十分に固形潤滑剤の製品となり得ることを確認した。また、実験例1で得られた硫化第一錫の量であれば、商業的な生産に十分な量であると考える。
の外表面の平均温度であり、横軸はミルの稼働時間である。図3をみると、実験例1及び参考例1ともに、硫黄の融点以下で原料をミルに導入して、ミルの稼働を開始しており、実験例1では、ミルの運転時間の経過に伴って、ミルの内部平均温度の急峻な上昇が見られた。これに対して、参考例1では、原料をミルに導入して、ミルの稼働を開始したものの、ミルの運転時間の経過に伴うミルの内部平均温度の急峻な上昇が見られなかった。参考例1の生成物は、暗灰色であり、またXRDの前記定性結果からも錫硫化物の生成は認められなかった。
方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。また、本製法は、その合成の原理を背景として、二種類以上の金属粉末及び硫黄を原料とした場合、複金属硫化物の合成も可能であることが容易に想定される。
Claims (5)
- 錫の原子数に対する硫黄の原子数の比(S/Sn)が0.95以上1.50以下の、前記錫の粉体及び前記硫黄の粉体又は塊を、ミルに導入する仕込工程と、
前記ミルを稼働して前記錫及び前記硫黄を機械的活性処理し、前記錫及び前記硫黄の合成反応熱による連鎖的な合成反応を行う処理工程と、
を含み、
前記仕込工程が、前記ミルの内部温度が80℃以下の温度で行われ、
前記処理工程において前記ミルの内部温度が前記硫黄の融点よりも高い温度となる期間が存在する、
硫化第一錫を含む粉体の製造方法。 - 請求項1において、
前記硫化第一錫を含む粉体は、硫化第一錫、錫及び硫化第一錫の混合物、並びに、硫化第一錫と三硫化二錫の混合物のいずれかである、
硫化第一錫を含む粉体の製造方法。 - 請求項1又は請求項2において、
前記ミルは、振動ボールミルである、硫化第一錫を含む粉体の製造方法。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記仕込工程において、前記ミルに導入される前記錫の粉体及び前記硫黄の粉体又は塊の合計の質量は、300g以上である、硫化第一錫を含む粉体の製造方法。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記ミルの容積は、0.005m3以上である、硫化第一錫を含む粉体の製造方法。
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