JP6573771B2 - スパッタリングターゲットの製造方法 - Google Patents

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本発明は、スパッタリング時の初期のパーティクルの発生を抑制し、バーンイン時間を短縮することが可能なスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
エレクトロニクス分野、耐食性材料や装飾の分野、触媒分野、切削・研磨材や耐磨耗性材料の製作等、多くの分野に金属やセラミックス材料等の被膜を形成するスパッタリングが使用されている。スパッタリング自体は上記の分野で、よく知られた方法であるが、最近では、特にエレクトロニクスの分野において、複雑な形状の被膜の形成や回路の形成等に適合するスパッタリングターゲットが要求されている。
一般にスパッタリングターゲットは、その原料となる金属、合金等を溶解・鋳造したインゴット又はビレットを、鍛造、焼鈍(熱処理)、圧延、及び、仕上げ加工(機械、研磨等)して、作製される。このようにして製造されたターゲットを用いて、スパッタリングを実施する場合、均一な成膜が可能となるようにすると共に、アーキングやパーティクルの発生が少なく、安定した特性を持つ膜を形成することが求められている。
ところで、ターゲットの仕上げ加工において、ターゲットの表面を切削加工した場合、その表層に加工変質歪(切削歪)が導入されることなる。ターゲットの表層にこのような切削歪が存在すると、スパッタリングの初期に、スパッタレートが不安定となったり、膜厚が不均一になったりすることがある。したがって、通常、切削歪を除去するために、ターゲットの表面を切削加工した後、研磨(湿式研磨)が行われている。
ところが、タンタルなどの水素を吸蔵しやすい金属又はその合金は、切削や研磨を行うと、活性な新生面が露出して、大気中や研磨液中の水分と反応して、大量の水素を吸蔵し脆化してしまうという問題がある。本出願人は、以前、スパッタリング装置に設置する前に、ターゲットの表面を加熱することで、表面に吸着した水素を減少させる技術を提案した(特許文献1)。
また、特許文献2には、切削加工、研磨加工さらにケミカルエッチング等による表面平滑化が行われた後、脱水素処理により、ターゲットの表面の水素含有量を低減させる技術が開示されている。いずれの技術もそれぞれの課題に対して有効な解決手段を提供するものであるが、水素吸蔵の問題と加工変質層の問題の両方を効果的に解決するものではなかった。
国際公開WO2012/014921号 特開平11−1766号公報
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであって、スパッタリング時の初期のパーティクルの発生を抑制し、バーンイン時間を短縮することが可能なスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。特には、ターゲット表層の加工変質層(切削歪)が十分に緩和されるとともに、ターゲット表面に吸着した水素を効果的に除去することができるスパッタリングターゲットの製造方法を提供することを課題とする。
スパッタリングターゲットを切削加工等した後、真空中でその表面に局所的な加熱を施すと、ターゲット表層の加工変質層(切削歪)を緩和することができると共に、ターゲット表面に吸着した水素を除去することができるとの知見を得た。この知見に基づき、本願は、以下の発明を提供する。
1)スパッタリングターゲットの仕上げ加工において、ターゲット加工面を真空中で局所加熱線源による熱処理を行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
2)スパッタリングターゲットの仕上げ加工において、ターゲット加工面を真空中で電子ビームによる熱処理を行うことを特徴とする上記1)記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
3)熱処理は、脱ガス開始温度以上、融点未満の温度範囲内で行うことを特徴とする上記1)又は2)記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
4)ターゲットの水素含有量が100μL/cm以下であり、X線回折ピークの半値幅(FWHM)が0.35以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
5)Cu、Ti、Ta、Al、Ni、Co、W、Si、Pt、Mnからなる群より選択される1種以上の金属からなることを特徴とする上記4)記載のスパッタリングターゲット。
本発明の製造方法は、ターゲット表層の加工変質層(切削歪)を十分に緩和することができると共に、ターゲット表面に吸着、あるいは吸蔵した水素を除去することができる。加工変質層が緩和され、かつ、水素吸着が低減されたターゲットは、スパッタリング時の初期のパーティクルの発生を抑制し、バーンイン時間を短縮することができる。
本発明におけるスパッタリングターゲットは、次の工程により製造することができる。タンタルを用いた例では、例えば、4N(99.99%以上)の高純度タンタルをターゲット原料とすることができる。これを電子ビーム溶解等により、溶解・精製して純度を高め、これを鋳造してインゴット又はビレットを作製する。電子ビーム溶解に限定する必要はなく、他の溶解法を用いることができる。
次に、このインゴット又はビレットを鍛造、圧延、焼鈍等の一連の加工を行う。鍛造あるいは圧延によって、鋳造組織を破壊し、気孔や偏析を拡散あるいは消失させることができる。また、焼鈍することにより再結晶化させることができる。鍛造、圧延、焼鈍の順序や回数は、適宜調整することができる。鍛造、圧延、焼鈍により、組織の緻密化、微細化することができるが、鋳造品から直接、製造することも可能である。
通常、上記の製造工程によって、仕上げ加工前のターゲット素材を製造するが、この製造工程は一例を示すものであって、本発明は、切削や研磨後に局所的な加熱処理をすることを特徴とするものであり、溶解鋳造、鍛造、圧延、焼鈍等の製造工程を発明とするものではないので、他の工程によって製造することは、当然可能であり、本発明はそれを全て包含するものである。
このようにして得られるターゲット素材について、仕上げ加工(切削、研磨など)により最終的なスパッタリングターゲットに仕上げる。ターゲット素材を旋盤により旋削加工後、バイト等の加工工具を用いてターゲット表面を切削し、所望の表面粗さとなるように調整する。切削の方法や条件は特に制限はなく、他の公知の切削方法、条件を用いることも可能である。
ところで、ターゲット表面の切削後、ターゲットの表層(結晶)には残留応力による歪が生じて、これが加工変質層となる。また、ターゲットの最表面には、ターゲットの活性な新生面が現れ、それが大気中の水分と反応して、水素などのガスを吸着あるいは吸蔵することになる。このようなターゲット表層の加工変質層やガス吸着は、スパッタリング時(特に初期)に悪影響を及ぼす。
また、ターゲット表面を切削後は、湿式研磨や化学研磨などの公知の研磨手段により、加工変質層の除去や表面粗さを調整することができるが、前工程の切削によって、ターゲット表面は活性な新生面が露出しているため、これが研磨液中の水分と反応して、水素などのガスを多量に吸着することになる。このように研磨は加工変質層を除去できる一方で、ガス吸着あるいは吸蔵という新たな問題を生じさせる。
本発明において重要なことは、このようにターゲットの表面を切削した後、或いは、切削、研磨した後、加工表面に真空中(真空度:1×10−1Pa以下)で局所加熱線源による熱処理を行うことである。局所加熱線源による熱処理の一例として、電子ビーム照射が挙げられる。これにより、加工歪やガス(特に水素)吸着を極めて効果的に低減することができる。加熱の方法として局所加熱を選択するのは、照射部分の急速過熱、急速冷却で被加熱材表層近傍のみを効果的に処理し、一方でバッキングプレート材への熱影響を最小限にするためである。
一部のスパッタリングターゲットでは、バッキングプレート材として、高強度と高冷却性能を両立し、またエディーカレントによるマグネット回転の阻害要因を抑えることのできる、比較的抵抗の高い真鍮(Cu−Zn合金)が用いられている。しかし、脱ガスを行うために、このバッキングプレートとの接合体を真空中で抵抗加熱等により加熱を行うと、Zn(亜鉛)の蒸発が起こってバッキングプレートを変質し、冷却板としての機能を低下させることがある。局所加熱を採用することで、このような冷却板材質の変質を防ぐことができる。
局所加熱による熱処理は、例えば電子ビーム照射で行うことが可能である。電子ビーム照射は、電子銃真空排気装置及びワーク回転機構を備えた真空チャンバー内において行う。一般に電子銃は数kWから数百kWの出力を持っているが、本発明はビーム照射面を溶融させることを目的としないため、数kWから数十kWの出力で十分である。次に回転台の上にターゲット(ワーク)を設置し、真空チャンバーを閉じた後、真空排気を実施する。そして、内部圧力が1×10−2Pa程度の真空度に達したところで電子ビームを発生させ、ワーク表面にフォーカスを合わせ、照射部位を加熱する。
電子ビームは、螺旋状に回転させながら速度1000mm/min以下のビーム移動速度条件で行う。速度1000mm/min以下とした場合、ターゲットの表面温度は約400℃以上となり、ターゲット表面に吸着あるいは吸蔵する水素等のガス成分を脱離するのに有効である。さらに速度600mm/min以下とした場合、その表面温度は約700℃以上となり、ターゲット表面に吸着あるいは吸蔵するガス成分を脱離することができると共に、切削歪を緩和することができる。
一方、ビームの移動速度をあまりに遅くすると、表面温度が融点以上となって、局所的にターゲット素材が溶解する。そのため、融点を超えないような速度を材料によって個別に確認する必要がある。タンタル材の場合には真空中で400℃程度から脱ガスを始め、750℃程度で表面性状や内部組織に再結晶などの変化を生じ始める。したがって、融点未満あるいは再結晶などの組織を表面で変質させることのないような加熱温度に制御するよう熱源照射入力値と回転数等を適宜決定、実施する必要がある。タンタル材の場合には、速度500mm/min超とするのが好ましい。
以上の製造方法で作製されたスパッタリングターゲットは、水素含有量が100μL/cm以下であり、X線回折ピークの半値幅(FWHM)が0.35以下とすることができる。半値幅の測定は、X線回折理学社製X線回折装置(XRD)にて実施し、測定条件はX線源:Cu、管電圧40kV、管電流30mA、水平ゴニオメータ,スキャンスピード:10°/min,スキャンステップ:0.02°,走査軸2θ/θ,測定角度:30°〜60°で行い、(200)面ピークの半値幅を算出する。また、本発明の対象とするスパッタリングターゲットとしては、Cu、Ti、Ta、Al、Ni、Co、W、Si、Pt、Mnからなる群より選択される1種以上の金属からなることが好ましい。これらの金属は水素を吸蔵しやすく、また、精密な表面加工を伴うことが多く、水素を吸蔵する機会が多いためである。また、これらはエレクトロニクス分野、特に半導体集積回路の材料としてよく利用されているためである。
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで理解を容易にするための一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明で説明する実施例以外の種々の変形を包含するものである。
(水素含有量の測定について)
実施例及び比較例は、ターゲットの水素含有量は、次の通り測定する。ターゲットの中央部分を乾式で切り出し、20mm×10mm×8mmtの試料を作製する。この試料を質量分析計に導入した後、800℃まで加熱して表面から放出される水素ガスを測定する。質量分析計には、昇温脱離ガス質量分析計(アネルバ社製、AGS−7000)を用いる。詳細には、試料を真空加熱用の石英管内(昇温脱離ガス質量分析計)に設置し、ロータリーポンプで5分間予備排気した後、高真空下で10分間排気して吸着水を取り除く。そして、バックグランドのイオン強度が低下したことを確認した後、室温から800℃まで20℃/minで昇温する。その後、800℃で5分間保持し、続いて5分間放冷したときの発生する水素ガスを測定する。このとき、一定量の水素を注入して定量する。
(実施例1)
純度99.997%のタンタル原料を電子ビーム溶解し、これを鋳造して厚さ200mm、直径200mmφのインゴットとした。次に、このインゴットを室温で鍛伸した後、1227℃の温度で再結晶焼鈍を行い、厚さ100mm、直径100mmφの材料を得た。次に、これを冷間で鍛伸と据え込み鍛造、1173Kの温度での再結晶焼鈍を行い、次いで、冷間圧延をした後、900℃で焼鈍した。その後、旋盤による切削仕上げ加工を施した後、その表面を湿式研磨し、これをスパッタリングターゲットとした。
このようにして得られたターゲットを真空チャンバーに導入し、螺旋状に速度600mm/minの条件で電子ビームを照射した。このときのターゲットの温度は、熱電対を用いて測定したところ、750°Cであった。そして、この熱処理したターゲットの表面に対してX線回折装置を用いて表面変質層(加工歪)分析した。加工歪は、測定したX線回折ピークの半値幅(FWHM)で評価した。なお、半値幅の計算に用いる回折ピークは、強度が大きく、安定している(200)面のピークを用いた。その結果、FWHMは、0.31であった。
また、別途、上述の方法で測定した水素ガス量は、50μL/cmと低減することができた。次に、このターゲットについて、DCスパッタリング装置(アプライドマテリアルズ社製:Endura5500)を用いてスパッタした。バーンイン時間(パーティクル数が10個未満となる時間)は、35kw時であり、また、75kw時のパーティクル数は4個と良好な結果が得られた。
(実施例2〜3、比較例1〜2)
実施例1と同様の方法で得られたターゲットを真空チャンバーに導入し、速度を表1の通りに変化させて、電子ビームを照射した。このときのターゲットの温度は、熱電対を用いて測定したところ、実施例2〜3はそれぞれ600°C、400°C、また比較例1〜2はそれぞれ1200°C、200°Cであった。その後、この熱処理したターゲットの表面に対して実施例1と同様に表面変質層(加工歪)を分析した。その結果、FWHMは、0.34(実施例2)、0.35(実施例3)、0.28(比較例1)、0.45(比較例2)であった。なお、比較例1では、粒成長が発生し、比較例2では、加工歪を十分に除去できなかった。
また、別途、上述の方法で測定した水素ガス量は、80μL/cm(実施例2)、100μL/cm(実施例3)、30μL/cm(比較例1)、200μL/cm(比較例2)であり、比較例2において、水素含有量が多かった。次に、このターゲットについて、実施例1と同様の条件でスパッタリングを実施した。バーンイン時間は、45kw時(実施例2)、50kw時(実施例3)、40kw時(比較例1)、85kw時(比較例2)であり、比較例2では、バーンイン時間が長くなった。また、パーティクル数は、6個(実施例2)、7個(実施例3)、4個(比較例1)、12個(比較例2)であり、比較例2において、パーティクル数が増加した。なお、比較例1は、粒成長により75kw時まで膜均一性が劣っていた。
以上の結果を表1に示す。
本発明の製造方法は、材料表層の切削歪を十分に緩和することができると共に、その表面に吸着した水素を除去することができる。このような材料からなるターゲットは、スパッタリング時の初期パーティクルを抑制し、バーンイン時間を短縮することができるという優れた効果を有する。本発明は、エレクトロにクスの分野、特に複雑な形状の被膜の形成や回路の形成に適合するターゲットとして有用である。

Claims (2)

  1. スパッタリングターゲットの仕上げ加工において、ターゲット加工面を真空中で電子ビームによる熱処理を行い、前記電子ビームは、螺旋状に回転させながら速度1000mm/min以下のビーム速度条件で行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
  2. 前記熱処理は、脱ガス開始温度以上、ターゲット素材の融点未満の温度範囲内で行うことを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
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