JP6572802B2 - スチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板および製造方法 - Google Patents

スチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板および製造方法 Download PDF

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本発明は、ベルトコンベアに適したステンレススチールベルト用の素材鋼板である析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板、およびその製造方法に関する。
上記のスチールベルトには以下の特性が要求される。
(a)強度・硬さ−延性・靱性バランス
スチールベルトはコンベアの仕様に応じて適度な張力を負荷して使用される。負荷される張力で変形しない強度レベルが必要である。また、使用中の「扱い疵」の発生をできるだけ防止するためには表面硬さが高いことも必要である。一方、スチールベルト製造時には鋼材に引張変形を加えることにより形状修正が行われる。強度レベルが高すぎると延性(塑性変形能)が不足し、形状修正ができない。また、使用中の靱性を確保するためにも適度な延性が必要である。
(b)疲労強度
ベルトコンベアは使用中に繰り返し曲げ応力が負荷されるので、疲労強度が高いことが要求される。
(c)溶接性
鋼板をエンドレスベルト形状にする際、溶接が施される。また、スチールベルトの補修時にも溶接が施されることがある。従って、良好な溶接性を有することが要求される。
上記各特性が良好なステンレススチールベルト用鋼板として、析出強化型マルテンサイト系ステンレス鋼板が知られている(特許文献1〜3)。
特公昭59−49303号公報 特開平5−271769号公報 特開平6−33195号公報
上記特許文献の技術により、広幅の高性能スチールベルトを安定的に製造できるようになった。しかし、スチールベルトを使用していく過程で、扱い疵の発生を完全に防止することは困難である。使用期間が長くなるほど扱い疵が増えていくことは避けられない。扱い疵等に起因する鋼材表面の微小欠陥は、疲労亀裂の発生起点として機能しうる。微小な亀裂が発生すると、やがてそれが材料内を伝播して、材料破断に至る。
微小亀裂が発生しても、材料内での伝播速度が遅ければ、保守点検にて、進展しつつある段階の亀裂を発見しやすくなる。亀裂が見つかれば、補修作業を行うことで、使用中にベルトが破断するといった不測のトラブルを未然に防止できる。従って、上記(a)〜(c)の基本的特性に加え、さらに、亀裂が伝播しにくい(伝播速度が遅い)性質を有する鋼材を適用することが、スチールベルトの信頼性を高めるうえで有利となる。本明細書では、亀裂が伝播しにくい性質を「耐亀裂伝播性」と呼ぶ。
本発明は、上記(a)〜(c)の基本的特性を具備するスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板において、耐亀裂伝播性を向上させること目的とする。
発明者らは研究の結果、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板の耐亀裂伝播性を向上させるためには、板厚中央領域の介在物の量を低減させること、および結晶粒を微細化することが極めて有効であることを見いだした。板厚中央領域の介在物量を低減させるには、鋼の化学組成を厳密にコントロールしたうえで、造塊法ではなく連続鋳造法を適用して鋼板を製造することが有効である。結晶粒の微細化は、仕上焼鈍温度を調整することによって実現できる。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち上記目的は、質量%で、C:0.030〜0.050%、Si:1.30〜1.90%、Mn:0.45%以下、Ni:6.0〜8.0%、Cr:12.0〜15.0%、Cu:0.40〜1.20%、Mo:0.50〜1.00%、Ti:0.20〜0.45%、Al:0.07%以下、N:0.010%以下、S:0.005%以下、O:0.010%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面(圧延面)を研磨した観察面において、EBSD(電子線後方散乱回折法)により結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の平均結晶粒径が円相当径で15.0μm以下であり、板厚をt(mm)とし、板厚中心位置±(1/4)tの板厚方向領域を「板厚中央領域」と呼ぶとき、圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)の板厚中央領域において、長径1.0μm以上の介在物存在密度が500個/mm2以下であるスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板によって達成される。
ある結晶粒の円相当径は、観察画像平面上で測定される当該結晶粒の面積と等しい面積を持つ円の直径である。上記平均結晶粒径は、以下のようにして求めることができる。
〔平均結晶粒径の求め方〕
EBSD(電子線後方散乱回折法)により結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶方位マッピング画像を求め、その画像上において、観察視野から一部がはみ出している結晶粒を除いた全ての結晶粒を測定対象として、各結晶粒の円相当径(μm)を測定し、それらの総和を測定対象結晶粒の総数で除した値を平均結晶粒径とする。ただし、観察総面積は、無作為に選択した重複しない複数の観察視野により合計25000μm2以上とする。
「板厚中央領域」を表す板厚中心位置±(1/4)tとは、板厚中心位置から板厚方向両方向にそれぞれ板厚tの1/4の距離を進んだ位置に囲まれた板厚方向領域を指す。例えば板厚tが1.0mmの鋼板の場合、(1/4)t=0.25mmであるから、「板厚中央領域」の板厚方向範囲は0.25×2=0.5mmである。片側の板面からそれぞれ0.25mm深さまでの領域を除いた領域が、この場合の「板厚中央領域」となる。
「介在物」は、晶出物、析出物などの第二相粒子や、溶製時に混入する異物など、マトリックス(金属素地)中に存在する粒子状物質である。ある介在物の長径は、観察画像平面上でその介在物粒子を取り囲む最小円の直径として定まる。介在物存在密度は以下のようにして求めることができる。
〔介在物存在密度の求め方〕
前記板厚中央領域を光学顕微鏡により観察し、観測される長径1.0μm以上の介在物の総個数を観察総面積(mm2)で除した値を介在物存在密度(個/mm2)とする。ただし、観察総面積は、板厚中央領域内に無作為に設定した重複しない複数の観察視野により合計1.0mm2以上とする。観察視野から一部がはみ出している介在物粒子は、観察視野内に現れている部分の長径が1.0μm以上であればカウント対象とする。
上記鋼板の板厚tは例えば1.0〜8.0mmである。また、板面(圧延面)の硬さは350〜550HVに調整されていることが好ましい。
上記スチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法として、連続鋳造スラブに由来する熱延鋼板、熱延焼鈍鋼板または冷延焼鈍鋼板に、冷間圧延A、仕上焼鈍、調質圧延、時効処理を上記の順に施してスチールベルト用鋼板を得るに際し、冷間圧延Aでの冷間圧延率を35%以上とし、仕上焼鈍での焼鈍温度を980〜1120℃の範囲内で調整することにより、時効処理後に得られる平均結晶粒径を制御する製造方法が提供される。
本発明によれば、スチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板において、耐亀裂伝播性を安定して顕著に改善することが可能となった。この鋼板は、食品加工工程のオーブンなどで使用するステンレス鋼製ベルトコンベアの寿命延伸および信頼性向上に寄与するものである。
本発明に該当する時効処理後の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板の、L断面の板厚中央領域の光学顕微鏡写真。 亀裂伝播速度を調べるための疲労試験片の形状を模式的に示した図。 平均結晶粒径と亀裂伝播速度の関係を例示したグラフ。 板厚中央領域における長径1.0μm以上の介在物存在密度と亀裂伝播速度の関係を例示したグラフ。
〔化学組成〕
本発明では、以下に示す成分元素を含有するステンレス鋼を対象とする。鋼の化学組成に関する「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。
Cは、オーステナイト形成元素であり、高温でのδフェライトの生成抑制に有効である。そのため、0.030%以上のC含有量を確保する。一方、C含有量が多くなるとマルテンサイト相の強度が増大し、圧延等の負荷が大きくなる。また、析出硬化に寄与するTiがTiCの形成によって消費されやすくなり、時効処理における析出硬化能が低下する。C含有量は0.050%以下に制限される。
Siは、時効処理によってSi−Ti−Ni系金属間化合物(G相)を生成させ、析出硬化において重要な役割を果たす。溶接性の向上にも有効である。これらの作用を十分に発揮させるために、Si含有量は1.30%以上とする。ただし、SiはSiO2系の介在物を形成し、耐亀裂伝播性を低下させる要因となる。またSiフェライト生成元素であるため、多量に含有させるとδフェライト相が生成しやすくなり、特に溶接部での強度低下を招く要因となりやすい。種々検討の結果、ここではSi含有量を1.90%以下に厳しく制限する。
Mnは、MnOやMnSとして介在物を形成し、耐亀裂伝播性を低下させる。また、過大なMn含有は溶接作業性を低下させる要因となる。種々検討の結果、ここではMn含有量は0.45%以下に厳しく制限する。ただし、Mnはステンレス鋼の原料から混入しやすい元素であり、過剰にMn含有量を低減することはコスト的に不利となる。通常、0.05%以上のMn含有量範囲とすればよい。
Niは、オーステナイト生成元素であり、溶体化処理(後述の仕上焼鈍に相当する。)や溶接の際に、マルテンサイトの母相であるオーステナイト相を得るために必須の元素である。またNiは前記G相の構成元素であり、析出硬化の面でも重要である。さらにマルテンサイト相の靭性を高める作用も有する。これらの作用を十分に発揮させるために、ここでは6.0%以上のNi含有量を確保する。ただし、Ni含有量が多くなるとオーステナイト相の安定度が高くなり、仕上焼鈍の冷却過程で完全にマルテンサイト相へと変態しきれなかったオーステナイト相が鋼板中に残留するようになる。この残留オーステナイト相の存在は強度低下を招く要因となる。検討の結果、ここではNi含有量を8.0%以下に厳しく制限する。7.5%以下に管理してもよい。
Crは、ステンレス鋼としての耐食性を付与するために必要である。ここではCr含有量が12.0%以上の鋼を対象とする。Cr含有量が多くなるとδフェライト相や残留オーステナイト相が存在しやすくなり、強度低下を招く要因となる。Cr含有量は15.0%以下に制限される。
Cuは、εCu相を析出することで、析出硬化に寄与する。また固溶Cuは耐食性を高める作用がある。これらの作用は0.40%以上のCu含有量を確保することによって顕著に発揮される。0.50%を超えるCu含有量とすることがより好ましい。一方、Cu含有量が多くなると熱間加工性が低下し、表面にひび割れを発生させる要因となる。検討の結果、Cu含有量は1.20%以下に制限され、1.00%未満とすることがより好ましい。
に管理してもよい。
Moは、耐食性および靭性を向上させる元素である。その作用を十分に得るために、Mo含有量は0.50%以上とする。ただし、本発明のようなCr含有量が12.0〜15.0%のステンレス鋼においては、Moをあまり多量に添加してもコストに見合う耐食性向上効果は期待できない。Moは1.00%以下の範囲で含有させる。
Tiは、前記G相の構成元素である。その析出硬化を十分に発揮させるためには0.20%以上のTi含有量を確保する必要があり、0.30%以上とすることがより好ましい。ただし、TiはTiO2系やTiN系の介在物を形成し、耐亀裂伝播性を低下させる要因となる。また、過剰にTiを含有させると強度が高くなりすぎて靱性低下を招く場合がある。種々検討の結果、Ti含有量は0.45%以下に厳しく制限される。
Alは、脱酸剤として有効である。また、析出硬化にも寄与する。Al含有量は0.005%以上とすることがより効果的である。しかし、発明者らの検討によれば、本発明で対象とするステンレス鋼種において、Al含有量が0.07%を超えると、良好な靱性を安定して確保することが難しくなることがわかった。そのため、Al含有量は0.07%以下に厳しく制限される。0.06%以下であることがより好ましい。ここでいうAl含有量は、鋼板中に含まれるトータルAl含有量である。
Nは、析出硬化に必要なTiをTiNの形で消費させ、時効硬化能を低下させる元素である。また、TiNは耐亀裂伝播性を低下させる介在物でもある。種々検討の結果、N含有量は0.010%以下に厳しく制限する必要がある。ただし、Nはステンレス鋼の原料から混入しやすい元素であり、過剰にN含有量を低減することはコスト的に不利となる。通常、0.001%以上のN含有量範囲とすればよい。
Sは、MnS系介在物を形成し、耐亀裂伝播性を低下させる要因となる。S含有量は0.005%以下に制限される。ただし、過度の脱硫は製鋼負荷を増大させコストアップを招く。通常、0.0005%以上のS含有量範囲とすればよい。
Oは、Ti、Al、Siなどと酸化物を形成し、耐亀裂伝播性を低下させる。種々検討の結果、O含有量は0.010%以下に厳しく制限される。過度の脱酸はコスト増を招く。通常、0.0005%以上のO含有量範囲とすればよい。ここでいうO含有量は、鋼板中に含まれるトータルO含有量である。O含有量の分析は、鋼板から採取したサンプルについて、インパルス加熱融解法により行うことができる。
〔平均結晶粒径〕
時効処理によって高強度化された析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板では、平均結晶粒径を小さくすることが耐亀裂伝播性の向上に極めて有効であることがわかった。具体的には、板面における上述の平均結晶粒径が15μm以下であるときに、良好な耐亀裂伝播性を維持することができる。それより平均結晶粒径が大きくなると、耐亀裂伝播性は急激に悪化する。ただし、平均結晶粒径が小さくても、後述の介在物存在密度が所定範囲に低減されていなければ、耐亀裂伝播性を安定して向上させることはできない。平均結晶粒径の下限は特に規定しないが、通常、3μm以上の範囲で調整すればよい。なお、特許文献3では、平均結晶粒径を25μm以下にすれば靱性の低下が防止できることを教示している。しかし、耐亀裂伝播性に関しては、その程度の結晶粒微細化では安定した向上が望めない。
時効処理後の最終的な平均結晶粒径は、主として、冷間圧延Aでの冷間圧延率と、溶体化処理を兼ねた仕上焼鈍での加熱温度によってコントロールすることができる。
〔介在物の存在密度〕
従来一般に、鋼材の疲労強度を高めるためには表層部に存在する粗大な介在物の量を低減することが有効であると考えられている。これは、鋼材の表面付近にある介在物が疲労亀裂の起点となりやすいからである。しかしながら発明者らの調査によれば、亀裂が生じた後の亀裂伝播速度に関しては、鋼材表層部の粗大介在物を少なくするだけではコントロールできない。
発明者らは詳細な検討の結果、特に本発明で対象としているような析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼種において、板状部材の耐亀裂伝播性を向上させるためには、板厚内部の介在物量を低減することが極めて有効であることを見いだした。そして、特にL断面の板厚中央領域に観察される介在物のうち、ある程度サイズの大きいものが亀裂伝播速度に大きな影響を及ぼすことがわかった。
具体的には、板厚をtとするとき、板厚中心位置±(1/4)tの範囲として定義される「板厚中央領域」において、圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)に観察される長径1.0μm以上の介在物存在密度が500個/mm2以下に低減されている場合に、その板材の亀裂伝播速度を低く維持できることがわかった。この板厚中央領域の介在物存在密度の規制と、上述の平均結晶粒径の規制によって、ベルトコンベアとして使用される部材の耐亀裂伝播性が顕著に向上する。
図1に、本発明に該当する時効処理後の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板について、L断面の板厚中央領域の光学顕微鏡写真を例示する。写真の長辺に平行な方向が圧延方向に相当する。SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)で分析したところ、図1中には符号Aで示すTiN系の介在物や、符号Bで示すCr炭化物系の介在物が分散している。この写真の鋼板の板厚中央領域における長径1.0μm以上の介在物存在密度は400個/mm2である。
板厚中央領域の介在物存在量を低減するためには、各成分元素の含有量を上述の範囲に調整した溶湯を、連続鋳造法により凝固させて、鋳造スラブとすることが極めて有効である。バッチ式鋳造法(いわゆる造塊法)では、板厚中央領域の介在物存在量をコントロールすること難しい。成分元素の調整においては、特にSi、Mn、Ti、Al、N、Oの各含有量を厳しく管理することが重要である。これらの元素の含有量が上述の規定範囲を外れると、板厚中央領域の介在物存在量を安定して所定範囲に低減することが困難となる。
〔製造方法〕
上記の耐亀裂伝播性に優れる析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板は、例えば以下の工程により製造することができる。
溶解・鋳造→熱間圧延→(熱延板焼鈍)→(冷間圧延→中間焼鈍)→冷間圧延A→仕上焼鈍→調質圧延→時効処理
上記各工程に加えて、酸洗やテンションレベラーによる形状矯正の工程が適宜施される。以下、主な工程について説明する。
〔溶解・鋳造〕
一般的な析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼の溶製方法に従って、原料を溶解し、ステンレス鋼の溶鋼を得る。その際、特にSi、Mn、Ti、Al、N、Oの含有量を上記所定範囲に厳しく管理することが肝要である。これらの元素の含有量が不適切であると、板厚中央領域の介在物存在量を所定範囲にコントロールすることができず、耐亀裂伝播性の改善が困難となる。鋳造は連続鋳造法によって行うことが好ましい。連続鋳造法では、鋳造スラブ中心部の粗大介在物の減少に効果的な、モールド内の溶湯流動状態を得ることができる。その結果、板厚中央領域の介在物が少ない製品鋼板が得られる。
〔熱間圧延〕
常法に従って熱延鋼板を製造すればよい。例えば、鋳造スラブを1100〜1240で100〜240分加熱したのち熱間圧延を施し、最終圧延パス温度を950〜1050℃、巻取温度を750〜850℃として、板厚3〜9mmの熱延鋼板を得る。熱間圧延後には必要に応じて熱延板焼鈍を施すことができる。
〔冷間圧延A〕
本明細書では、仕上焼鈍の前に行う最終の冷間圧延工程を「冷間圧延A」と呼んでいる。この工程では圧延率35%以上の冷間圧延を行う。圧延率は下記(1)式によって表される。
圧延率(%)=(h0−h1)/h0×100 …(1)
ここで、h0は圧延前の板厚(mm)、h1は圧延後の板厚(mm)である。
この工程での冷間圧延率が低すぎると、次工程の仕上焼鈍で微細なオーステナイト再結晶粒が均一に生成しない。その場合、平均結晶粒径の大きいマルテンサイト組織が得られ、耐亀裂伝播性の改善が不十分となる。冷間圧延率の上限については特に規定しないが、通常、70%以下の範囲で設定すればよい。なお、仕上焼鈍前には中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延を行ってもよい。その場合、最後の中間焼鈍後に行う冷間圧延を、当該冷間圧延Aとする。
〔仕上焼鈍〕
この焼鈍は、時効処理前に行う最後の焼鈍であり、本明細書では「仕上焼鈍」と呼んでいる。オーステナイト温度域に加熱することにより、再結晶オーステナイト組織となり、その後、冷却することによりオーステナイト相は全部マルテンサイト相に変態し、マルテンサイト組織が得られる。オーステナイト温度域での加熱保持は、溶体化処理も兼ねている。
この仕上焼鈍によって最終的な平均結晶粒径がほぼ決定づけられる。仕上焼鈍の温度は980〜1120℃の範囲で設定する。1120℃を超えるとオーステナイト再結晶粒が粗大化しやすい。980℃未満だとオーステナイト単相域に届かない場合がある。また、溶体化が不十分となりやすい。化学組成および冷間圧延Aでの冷間圧延率に応じて、最終的な平均結晶粒径が15μm以下の目標範囲となるように焼鈍温度を980〜1120℃の範囲で設定する。その最適な焼鈍温度は、予め化学組成、冷間圧延Aの冷間圧延率などを振った予備実験を行うことにより把握しておくことができる。焼鈍時間(材料温度が目標温度に保持される均熱時間)は0〜10分の範囲で設定することができる。焼鈍後、常温付近まで冷却する過程で、オーステナイト相はマルテンサイト相に変態する。通常の連続焼鈍酸洗ラインで実施されている冷却速度で冷却すれば十分である。
〔調質圧延〕
時効処理の前には適度なひずみを付与するために調質圧延を施す。調質圧延率は1.0〜25.0%とすることが好ましく、10.0〜20.0%とすることがより好ましい。最終的な板厚tは、例えば1.0〜8.0mmとすることができる。
〔時効処理〕
時効処理は、当該鋼種において従来から採用されている条件範囲で行うことができる。すなわち400〜600℃の範囲に設定した時効処理温度にて1〜60分保持すればよい。これによりG相やεCu等の微細析出が生じ、強度レベルが上昇する。時効処理の温度および時間によって、最終的な製品硬さをコントロールすることができる。ベルトコンベア用の鋼板としては、仕様に応じて、板面(圧延面)の硬さを例えば350〜550HVの範囲内でコントロールすればよい。
表1に示す化学組成を有する鋼を大量生産現場にて溶製し、厚さ200mmの連続鋳造スラブを得た。連続鋳造スラブを1100〜1240℃で100〜240分加熱したのち抽出して熱間圧延を施し、板厚3.0mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を施し、板厚1.78mmの冷延鋼板を得た。この冷間圧延は上述「冷間圧延A」に相当する。その冷間圧延率は40.7%となる。各冷延鋼板を連続焼鈍酸洗ラインに通板することにより、表2に示す温度で均熱3分の仕上焼鈍を施した。得られた鋼板の金属組織観察を行ったところ、いずれもマトリックスがマルテンサイト相ほぼ100%の組織状態であった。仕上焼鈍後に約15.7%の調質圧延を施し、その後、400〜600℃の所定温度に1時間保持する時効処理を施し、板厚1.50mmの時効処理鋼板を得た。時効処理温度は、各例において板面の硬さが480〜490HVに揃うように調整した。
上記のようにして得られた時効処理後の鋼板を供試鋼板として、以下の調査を行った。
〔平均結晶粒径〕
供試鋼板の板面(圧延面)を番手120〜1000(JIS R6010:2000に規定される粒度P120〜1000)の耐水研磨紙で研磨し、さらにコロイダルシリカによって鏡面研磨した観察面について、FE−SEM(電界放出形走査電子顕微鏡、日本電子製;JEOL JSM−7000F)を用いてEBSD(電子線後方散乱回折法)により結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶方位マッピング画像を求めた。1つの結晶方位マッピング画像に対応する観察視野の面積は50μm×50μm=2500μm2であり、無作為に選択した重複しない10視野の結晶方位マッピング画像に基づき、上掲の「平均結晶粒径の求め方」に従って平均結晶粒径を算出した。EBSD測定はステップサイズ0.2μmで行った。個々の結晶粒の円相当径は、結晶方位マッピング画像を画像処理ソフトウエアで処理することにより算出した。
〔板厚中央領域の介在物存在密度〕
供試鋼板の圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)内の前記「板厚中央領域」について、OLYMPUS製;倒立型顕微鏡GX71により観察し、前掲の「介在物存在密度の求め方」に従って長径1.0μm以上の介在物の存在密度(個/mm2)を求めた。観察総面積は1.0mm2とした。
〔亀裂伝播速度〕
供試鋼板から図2(a)に示す寸法形状の疲労試験片を作製した。試験片の長手方向が圧延方向に一致する。試験片長手方向中央の最狭部両サイドに、開き角度60°、深さ1.0mmのVノッチを設け、そのノッチ先端に長さ0.5mm、先端R=0.17mm切り込み(スリット)を形成した。図2中、Vノッチの形状は誇張して表示してある。図2(b)に示すように、各切り込みの先端より少し幅方向中央寄りの試験片表面にそれぞれ間隔5.0mmの平行な2本のけがき線A、Bを描いた。けがき線は試験片長手方向に平行な直線である。この試験片を用いて、表面応力500N/mm2、試験速度1500rpmの両振り曲げ疲労試験を行った。疲労試験中に切り込み先端から発生した亀裂が、けがき線AB間の間隔5.0mmの区間を進展する時間を計測することにより亀裂伝播速度(mm/min)を求めた。各供試鋼板につき試験数はn=3とした。3本の試験片に合計6箇所あるけがき線AB間のうち、最も亀裂の進展が速かった箇所の計測値を採用して、当該供試鋼板の亀裂伝播速度の成績値とした。ベルトコンベア用途を考慮したとき、この試験による亀裂伝播速度が0.20mm/min以下であれば、従来材と比べ、疲労破断に対する信頼性が顕著に向上していると評価できる。
以上の結果を表2に示す。
本発明例のものはいずれも、平均結晶粒径15.0μm以下、かつ板厚中央領域の介在物存在密度500個/mm2以下である組織状態に調整されており、耐亀裂伝播性に優れるものであった。
これに対し、比較例であるNo.6〜8は平均結晶粒径が大きいので、耐亀裂伝播性に劣った。No.9、10、11、12、13および14は、それぞれSi、Mn、Ti、Al、NおよびOの含有量が本発明規定範囲を超えているので、板厚中央領域の介在物存在密度が多くなった。その結果、耐亀裂伝播性に劣った。
図3に、鋼A1について平均結晶粒径と亀裂伝播速度の関係を例示する。図中の番号は表2のNo.に相当する(後述図4において同様。)。これらは介在物の存在密度を適正化したものであるが、平均結晶粒径が15μmを超えると、亀裂伝播速度が急に上昇する傾向を呈することがわかる。
図4に、平均結晶粒径を8.7〜11.2μmの範囲に揃えたものについて、板厚中央領域における長径1.0μm以上の介在物存在密度と亀裂伝播速度の関係を例示する。この介在物存在密度が500個/mm2を超えると、亀裂伝播速度は急激に上昇することがわかる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.030〜0.050%、Si:1.30〜1.90%、Mn:0.45%以下、Ni:6.0〜8.0%、Cr:12.0〜15.0%、Cu:0.40〜1.20%、Mo:0.50〜1.00%、Ti:0.20〜0.45%、Al:0.07%以下、N:0.010%以下、S:0.005%以下、O:0.010%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面(圧延面)を研磨した観察面において、EBSD(電子線後方散乱回折法)により結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の平均結晶粒径が円相当径で15.0μm以下であり、板厚をt(mm)とし、板厚中心位置±(1/4)tの板厚方向領域を「板厚中央領域」と呼ぶとき、圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)の板厚中央領域において、長径1.0μm以上の介在物存在密度が500個/mm2以下であるスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板。
  2. 板厚tが1.0〜8.0mmである請求項1に記載のスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板。
  3. 板面(圧延面)の硬さが350〜550HVである請求項1または2に記載のスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板。
  4. 連続鋳造スラブに由来する熱延鋼板、熱延焼鈍鋼板または冷延焼鈍鋼板に、冷間圧延A、仕上焼鈍、調質圧延、時効処理を上記の順に施してスチールベルト用鋼板を得るに際し、冷間圧延Aでの冷間圧延率を35%以上とし、仕上焼鈍での焼鈍温度を980〜1120℃の範囲内で調整することにより、時効処理後に得られる平均結晶粒径を制御する、請求項1〜3のいずれかに記載のスチールベルト用析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法。
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