以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1には、本発明の第1の実施形態としてのステント10が、収縮や拡張される前の成形状態で示されている。このステント10は血管等の体内管腔の狭窄部位へデリバリされて、この狭窄部位において拡張状態で留置されることにより、体内管腔を広げた状態で維持するようにされている。なお、以下の説明において、軸方向とは図1中の上下方向を言う。
より詳細には、本実施形態のステント10は全体として略円筒形状で直線的に延びており、軸方向で互いに所定距離を隔てて設けられている複数の環状部12を含んで構成されている。この環状部12は、波状に湾曲又は屈曲を繰り返して周方向に連続して延びて形成されている。
そして、軸方向で隣り合う環状部12,12が、略軸方向に延びるリンク部14で相互に連結されることによって、所定長さの筒形状とされたステント10が形成されている。本実施形態では、各環状部12と各リンク部14が一体で一つながりとされて、骨格としてのストラット16を構成している。そして、かかる筒状のストラット16がステント10の径方向で拡縮可能とされている。なお、本実施形態では、各環状部12が軸方向両端において折り返されており、軸方向で対向する環状部12,12の折り返し部分がリンク部14により連結されている。これにより、ステント10における強度や変形の自由度の向上が図られていると共に、変形に際してのストラット16の座屈等の局所的な変形の防止が図られている。
なお、環状部12やリンク部14の具体的形状は、本発明において限定されるものでなく、ステント10に要求される特性を考慮して、環状部12の波形状や、リンク部14による連結部位、環状部12の周上でのリンク部14の数などが適宜に設定され得る。
また、環状部12,12間に設けられるリンク部14の位置は何等限定されるものではないが、リンク部14は環状部12の厚さ方向(図2中の上下方向)中央部分に形成されることが望ましい。さらに、本実施形態におけるリンク部14は、環状部12における折り返し部分の幅方向(ステント10の周方向)中央部分、即ち環状部12における折り返し部分の頂部に位置している。
ここで、リンク部14を、環状部12よりも厚さ寸法または幅寸法を小さくした脆弱部とすることもできる。即ち、ステント10の骨格において、リンク部14の断面積を環状部12よりも小さくすることにより、部分的に強度を小さくした脆弱部として形成することも可能である。そして、かかる脆弱部が形成されることにより、当該脆弱部においてステント10の変形や破断が容易とされるようにしてもよい。
なお、環状部12やリンク部14の幅寸法や厚さ寸法も、特に限定されるものでないが、環状部12は、強度を確保する等の趣旨から30〜200μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましく、リンク部14は、10〜100μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましい。
また、ストラット16は、図2に示すような積層構造を有している。即ち、本実施形態のストラット16は、コア層18の内周表面(図2中、下面)にコア分解制御層20aが積層されていると共に、コア層18の外周表面(図2中、上面)にコア分解制御層20bが積層された構造を有している。
コア層18は、体内管腔を構成する生体組織によって所定の期間で分解吸収される生分解性材料で形成されており、本実施形態では生分解性樹脂によって形成されている。コア層18を形成する生分解性樹脂材料は、生体によって分解吸収される生分解性材料であって、体内への留置による生体への影響が小さい生体適合性の材料であれば、特に限定されないが、例えば、ポリ−L−乳酸(PLLA)やポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、或いはそれらの共重合体乃至は複合物などが好適に採用され、本実施形態ではPLLAが採用されている。
コア分解制御層20は、生分解性材料で形成されており、本実施形態では、生分解性金属によって形成されている。コア分解制御層20を形成する生分解性金属材料は、生分解性と生体適合性を兼ね備えていれば、特に限定されないが、例えば、MgやCa、Zn、Li、Fe、或いはそれらを主成分とする合金などが好適に採用され、本実施形態ではMg合金が採用されている。なお、コア分解制御層20の形成材料であるMg合金は、主成分であるMgに対して、上記の生体分解性金属元素(Mgを除く)や他の生体適合性金属元素を添加したものとされている。本実施形態では、コア分解制御層20aとコア分解制御層20bは、相互に同じ材料で形成されているが、それらコア分解制御層20a,20bの形成材料を相互に異ならせても良い。
そして、コア分解制御層20aがコア層18の内周表面に積層されていると共に、コア分解制御層20bがコア層18の外周表面に積層されている。本実施形態では、図2に示すように、コア層18の両表面の略全体を覆ってコア分解制御層20a,20bが積層されている。また、コア分解制御層20a,20bは、好適には厚さ方向に貫通する微細な空隙を多数備えた多孔質構造体とされており、それによって、コア層18の表面が微視的にはコア分解制御層20a,20bの空隙を通じて外部に露出していることが望ましい。
このような積層構造のストラット16を有するステント10は、それぞれストラット16で構成された複数の環状部12とリンク部14が溶射により一体形成されて作製されている。
具体的には、加熱することで溶融またはそれに近い状態とされた材料の溶射粒子を、ステント10の周壁構造に対応するマスキングを施された基材に吹き付けて、溶射粒子の多数を所定形状に凝固させることで、ステント10を形成することができる。
本実施形態では、ステント10の骨格全体が一体形成されており、図2に示す積層構造が環状部12だけでなくリンク部14にも適用されている。もっとも、図2の如きコア層18とコア分解制御層20a,20bの積層構造は、骨格の全体に適用される必要はなく、例えば、幾つかの環状部12がかかる積層構造を有するとともに他の環状部12が一種類の生分解性材料からなる単層構造を有していたり、リンク部14が単層構造とされていたりしても良い。
また、本実施形態のステント10は、積層構造であることから、例えば以下のような工程を経て作製される。すなわち、先ず、基材にMg合金の溶射粒子を吹き付けて、内周のコア分解制御層20aを溶射成形し、次に、コア分解制御層20aの表面にPLLAの溶射粒子を吹き付けて、コア層18を溶射成形する。最後に、コア層18の表面にMg合金の溶射粒子を吹き付けて、外周のコア分解制御層20bを形成することにより、コア層18の両表面にコア分解制御層20a,20bを積層したステント10が形成される。
なお、プラズマ溶射やアーク溶射のような電気式溶射の他、フレーム溶射や高速フレーム溶射、爆発溶射など、各種公知の方法による溶射成形が採用され得る。さらに、溶射材を加熱によって溶融またはそれに近い状態とすることなく、基材に固層の溶射材を高速で衝突させることで膜状乃至は層状に塑性変形させて成形するコールドスプレー成形も、溶射成形されるコア層18やコア分解制御層20a,20bの形成材料(溶射材)などによっては、ステント10の溶射成形方法の1つとして採用され得る。
上記の如き構造とされた本実施形態のステント10は、径方向で拡縮可能とされており、図1に示された収縮前の状態から所定の寸法まで機械的に縮径される。そして、使用時には、縮径されたステント10がデリバリ用のカテーテル等により、例えば血管の狭窄部位までデリバリされる。その後、ステント10は、バルーンカテーテルや他の機械装置により機械的に拡張されたり、ステント10が形状記憶材料で形成されている場合には、デリバリ用のカテーテルから解放することで自動的に拡張されて、図1の状態で血管等の体内管腔に留置される。
また、本発明に係るステント10を血管等の管腔に挿し入れる際には、ステント10が初期形状から縮径変形されてカテーテルでデリバリされる。ステント10がバルーン拡張型とされる場合には、バルーンを用いて拡張されることで、血管の内周面に押し付けられた状態で留置される一方、自己拡張型であれば、デリバリ用のカテーテルから解放されることで自動的に拡張される。そして、かかる拡張状態で略初期形状となるようにすることも可能であり、この場合には、拡張状態の形状が安定して発現されると共に、拡張された留置状態での歪や残留応力も効果的に抑えられる。しかし、本発明では、そのような態様に限定されるものでなく、留置時の形状とは異なる径寸法の初期形状をもって形成することも可能である。
かくの如き体内管腔への留置状態において、生分解性材料で形成されたステント10は、体内管腔の狭窄部位を必要な期間に亘って拡径状態に保持すると共に、所定の期間が経過した後、血管壁などの体組織によって分解吸収されることで、体内への留置が解消されるようになっている。
ここにおいて、ステント10では、コア層18の表面がコア分解制御層20a,20bによって覆われており、コア層18の分解吸収に必要な時間がコア分解制御層20a,20bによりコントロールされている。これにより、ステント10の分解吸収が早すぎてステント10による体内管腔の拡径状態での保持期間が短くなり過ぎるのを防ぐことができると共に、ステント10の分解吸収が遅すぎて体組織の炎症などを引き起こすリスクを低減することができる。従って、ステント留置術によって血管の狭窄乃至は閉塞を有効に治療し得ると共に、ステント留置期間を精度良くコントロールすることにより再狭窄が一層生じ難い低侵襲のステント留置が可能となる。
本実施形態では、コア分解制御層20a,20bがMg合金で形成されており、PLLAで形成されたコア層18に比してコア分解制御層20a,20bの生分解速度が遅くされている。それ故、コア層18の表面を覆うコア分解制御層20a,20bが、コア層18の体内での分解を比較的長期に亘って抑えるように作用して、ステント10が予め設定された所定期間に亘って分解されることなく留置されるように、分解に要する期間を調節し易くなっている。
さらに、Mg合金で形成されたコア分解制御層20a,20bの生分解時に生じる水素イオンが、PLLAで形成されたコア層18の生分解時に生じる水酸化物イオンと結びついて水を生成する。これにより、コア分解制御層20a,20bの分解時に生じる水素イオンが体組織に悪影響を及ぼすのが防止されて、より低侵襲のステント留置を実現することができる。
なお、コア層18とコア分解制御層20a,20bの各厚さ寸法や、多孔質とされたコア分解制御層20a,20bの粗さなどは、予め決められたステント10の生分解に要する期間を考慮した上で、コア層18とコア分解制御層20a,20bの生分解時の中和反応が適切に生じるように設定されることが望ましい。蓋し、コア層18とコア分解制御層20a,20bの何れか一方のみが先に分解されてしまうと、残された何れか他方の生分解反応が体組織に影響し得るからである。上記からも明らかなように、コア層18とコア分解制御層20a,20bの形成材料の組み合わせは、生分解反応の体組織への影響が軽減されるように選択されることが望ましい。
さらにまた、コア分解制御層20a,20bが多孔質とされていることにより、コア分解制御層20a,20bで覆われたコア層18が、体組織によってある程度の速さで生分解されるようになっている。これにより、コア層18に先んじてコア分解制御層20a,20bだけが生分解され難くなる。
このように本発明に係るステント10では、それぞれ生分解性材料で形成されたコア層18とコア分解制御層20a,20bを積層して多層構造としたことにより、体内管腔の狭窄の解消と再狭窄の回避とを何れも高度に実現することが可能とされている。もっとも、本発明において、コア層とコア分解制御層の形成材料や、それらコア層とコア分解制御層の具体的な構造は、第1の実施形態のものに限定的に解釈されるものではない。
すなわち、図3には、本発明の第2の実施形態としてのステントを構成するストラット22の断面が示されている。このストラット22は、第1の実施形態のストラット16と同様の積層構造を有しており、コア層24の内周面にコア分解制御層26aが積層されていると共に、外周面にコア分解制御層26bが積層された構造とされている。本実施形態においても、コア層24の内周面と外周面の両表面が、コア分解制御層26によって覆われている。また、本実施形態のストラット22では、第1の実施形態のストラット16とは異なり、コア層24がMg合金で形成されていると共に、コア分解制御層26a,26bがPLLAで形成されている。
このように、コア層24が生分解性金属で形成されると共に、コア分解制御層26a,26bが生分解性樹脂で形成されていても良い。これによれば、ステントの主たる部分であるコア層24が金属材料で形成されることにより、留置後のステントが拡張形状でより強固に維持されて、体内管腔の狭窄部位を押し広げた状態に安定して保つことができる。
また、例えば、生分解性樹脂に薬剤を担持させて薬剤溶出ステントとしての機能をもたせる場合には、薬剤を担持したポリマーによって外層であるコア分解制御層26a,26bを形成することにより、薬剤を効率的に放出させて血栓の生成や血管壁の炎症などを効果的に防止することも可能となる。なお、コア分解制御層26a,26bだけが早期に分解されてしまうのを防ぐために、例えば、コア分解制御層26a,26bのコア層24に対する厚さ寸法の比を、第1の実施形態よりも大きくすることが望ましい。
また、図4には、本発明の第3の実施形態としてのステントを構成するストラット28の断面が示されている。本実施形態のストラット28は、コア層30が多層構造とされている。
すなわち、コア層30は、中央樹脂層32の内周表面に内周金属層34aが積層されていると共に、外周表面に外周金属層34bが積層されており、さらに内周金属層34aの内周面に内周樹脂層36aが積層されていると共に、外周金属層34bの外周面に外周樹脂層36bが積層された構造を有している。換言すれば、本実施形態のコア層30は、PLLAで形成された3層の樹脂層と、Mg合金で形成された2層の金属層とが、交互に積層された多層構造体とされている。なお、多層構造とされたコア層30の層数や形成材料などは、あくまでも例示であって、特に限定されるものではない。
また、コア層30の両表面には、第1の実施形態と同様に生分解性材料で形成されたコア分解制御層20a,20bが積層されており、コア分解制御層20aが内周樹脂層36aの内周面に固着されていると共に、コア分解制御層20bが外周樹脂層36bの外周面に固着されている。要するに、本実施形態のストラット28は、5層構造のコア層30の両表面に各1層のコア分解制御層20a,20bをそれぞれ固着した7層構造とされており、Mg合金で形成された金属層と、PLLAで形成された樹脂層とが、交互に積層されている。
なお、本実施形態では、全ての樹脂層32,36a,36bがPLLAで形成されていると共に、全ての金属層20a,20b,34a,34bがMg合金で形成されているが、各樹脂層を相互に異なる樹脂材料で形成しても良いし、各金属層を相互に異なる金属材料で形成しても良い。
このような多層構造のコア層30を有するステントによれば、コア層30が金属層を有する多層構造とされていることにより、ステントの主たる部分であるコア層の全体が樹脂で形成されている場合に比して、形状の安定性に優れており、リコイルが抑制され易い。
しかも、比較的に薄い金属層をコア層30とコア分解制御層20a,20bに分散して設けたことにより、ストラット28の両表面を厚い金属製のコア分解制御層20a,20bで覆う場合に比して、コア層30の生分解の過度な抑制も回避され得る。加えて、ストラット28の両表面が金属製のコア分解制御層20a,20bで覆われていることにより、コア層30の生分解速度が速くなり過ぎるのも防ぎ易い。
このように、ストラット28を備える本実施形態のステントによれば、第1の実施形態のステント10における生分解速度のコントロールのし易さと、第2の実施形態のステントにおける留置状態での優れた形状安定性とが、両立して実現され得る。
また、図5に示すストラット38のように、第3の実施形態のストラット28に対して更に造影層40を設けても良い。
すなわち、図5には、本発明の第4の実施形態としてのステントを構成するストラット38の断面が示されており、金属で形成されたコア分解制御層20a,20bと内周金属層34aおよび外周金属層34bの各両表面に造影層40が積層された構造とされている。造影層40は、生体適合性のX線不透過材料で形成されており、例えばAuやPt、タンタルなどの薄膜が好適に採用され得る。なお、本実施形態では、コア層30が内周金属層34aの両面および外周金属層34bの両面に積層された4層の造影層40,40,40,40を含んで構成されている。また、コア分解制御層は、コア分解制御層20a,20bに加えて、それらの両面に積層された4層の造影層40,40,40,40を含んで構成されており、本実施形態では内周と外周の各コア分解制御層もそれぞれ多層構造とされている。
この造影層40は、必ずしもコア分解制御層20a,20bと金属層34a,34bの各両表面を全体に亘って覆っている必要はなく、部分的に積層されていても良い。さらに、造影層40は、本実施形態ではコア分解制御層20a,20bと金属層34a,34bの各両表面に積層されているが、それらコア分解制御層20a,20bと金属層34a,34bの1つ乃至は幾つかだけに選択的に積層されていても良いし、コア分解制御層20a,20bおよび金属層34a,34bの何れか一方の表面だけに積層されていても良い。
このような造影層40を設けることにより、X線透視下でのステント留置術において、ステントの位置を確認し易くなる。しかも、造影層40が相互に離れて配された複数の薄層状とされていることにより、X線透視下において、それら造影層40の重なり合う部分で特に優れた視認性が発揮される。
また、造影層40をAuやPtなどの生分解性をもたない材料で形成すれば、生分解性材料で形成されたコア層30およびコア分解制御層20a,20bの各層の分解速度を、造影層40によっても調節することができる。さらに、ステントにおける生分解性材料で形成された部分が全て分解吸収された後も、造影層40が体組織内に残留することから、体組織に残留した造影層40をX線透視で確認すれば、血管においてステント留置術を施した部位を、ステント本体の分解吸収後にも把握することができる。なお、造影層40は、生体適合性に優れるとともに安定した物質であるAuやPtで形成されていると共に、十分に薄肉であることから、再狭窄なども問題にならない。
ところで、上述の如く体内管腔の狭窄部位にステントを留置する場合には、留置後のステント形状が体内管腔における狭窄部位の形状により高度に適合することが望ましい。そこで、図6〜図9には、体内管腔における狭窄部位の形状に対して、留置後の形状を高度に適合させることが可能とされた別態様のステント50,60,62,68が示されている。
すなわち、図6には、本発明の第5の実施形態としてのステント50が示されている。ステント50は、留置前には略直線的に延びる円筒形状とされており、第1の実施形態のステント10と同様に、複数の環状部52が軸方向に並んで配されていると共に、軸方向で隣り合う環状部52,52がリンク部54でつながれることにより、筒状の骨格が構成されている。なお、以下の説明において、第1〜第4の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また、図6では、(a)に縮径状態でデリバリ用カテーテルに収容されたステント50が示されていると共に、(b)に体内管腔へ留置されたステント50が示されている。
また、ステント50は、複数の自己拡張領域56と複数の過変形領域58とを有している。本実施形態では、軸方向に並ぶ5つの自己拡張領域56が設けられていると共に、それら自己拡張領域56の軸方向間にそれぞれ過変形領域58が設けられている。
自己拡張領域56は、形状記憶効果を有する金属材料で形成されており、縮径状態で収容されたデリバリ用カテーテルから解放されることにより、超弾性によって自動的に予め設定された形状(成形時の形状)に復元して拡張するようになっている。また、各自己拡張領域56は、軸方向で隣り合う二つの環状部52a,52aと、それらをつなぐ複数のリンク部54aとを含んで構成されており、それら環状部52a,52aと複数のリンク部54aが形状記憶材料で一体形成されている。なお、自己拡張領域56の形成材料は、生体適合性の超弾性材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、NiTi合金などの各種合金が好適に採用される。
過変形領域58は、自己拡張領域56を軸方向に外れた部位に設けられて、形状記憶効果をもたない金属材料で形成されており、縮径状態で収容されたデリバリ用カテーテルから解放された後、バルーンなどによって機械的に拡張することが可能とされている。また、過変形領域58は、バルーンなどで及ぼす力を調節することにより、自己拡張領域56よりも大きく変形させることが可能とされており、自己拡張領域56よりも大径に変形させたり、自己拡張領域56よりも大きく軸方向へ伸長させたりすることができる。
なお、過変形領域58の形成材料も、生体適合性材料でバルーンなどによって容易に変形させ得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼(SUS316L)やCrCo合金、タンタルなどが好適に採用され得る。また、各過変形領域58は、軸方向で隣り合う二つの環状部52b,52bと、それらをつなぐリンク部54bとを含んで構成されており、それら環状部52b,52bとリンク部54bが上記の如き材料で形成されている。環状部52aと環状部52bは、成形状態において互いに略同じ形状とされているとともに形成材料が相互に異なっており、環状部52が形成材料の異なる二種類の環状部52aと環状部52bで構成されている。同様に、リンク部54aとリンク部54bも相互に略同一形状で異なる形成材料により形成されており、リンク部54が形成材料の異なる二種類のリンク部54aとリンク部54bで構成されている。
また、自己拡張領域56と過変形領域58は、X線不透過性のAuやPt、Taなどの薄層によって表面を覆われていても良く、それによってX線透視下でステント50の視認性の向上が図られる。また、本実施形態のステント50は、屈曲血管に対応するように屈曲形状に拡張するものであることから、X線透視下でステント50の拡張状態での屈曲方向を把握可能となるように、例えば屈曲内周側を示すX線マーカーを設けられていることが望ましい。
そして、自己拡張領域56と過変形領域58が軸方向で交互に連続して設けられることにより、ステント50が形成される。すなわち、ステント50の軸方向両端部分が自己拡張領域56とされていると共に、それら両端部分を構成する自己拡張領域56,56の内側に過変形領域58,58,58,58と自己拡張領域56,56,56が交互に配されている。本実施形態の自己拡張領域56と過変形領域58は、溶射や真空蒸着、エッチング、電鋳などの手段によって一体的に形成されているが、別体形成した後で溶接などにより相互に固定しても良い。
このような構造とされたステント50は、図6(a)に示す縮径状態でデリバリ用カテーテルに収容されて、デリバリ用カテーテルによって体内管腔の狭窄部位まで運ばれた後、デリバリ用カテーテルから解放されて体内管腔の狭窄部位に留置される。
また、本実施形態のステント50は、体内管腔の狭窄部位が湾曲乃至は屈曲している場合に適用されて、図6(b)に示すように、体内管腔に対応する湾曲乃至は屈曲形状で留置される。すなわち、ステント50は、湾曲乃至は屈曲した狭窄部位に留置されると、自己拡張領域56が超弾性によって自動的に拡張して体内管腔の壁内面に押し当てられると共に、過変形領域58の変形によってステント50の湾曲乃至は屈曲が体内管腔の形状に応じて調節される。さらに、過変形領域58は、自己拡張領域56よりも大きな変形を許容されると共に、デリバリ用カテーテルからステント50をリリースした後で、バルーンなどによって形状を設定できる。それ故、過変形領域58を適宜に変形させることにより、ステント50の形状を自己拡張領域56の拡張変形後に調節して、体内管腔の形状により適合させることが可能となる。図6(b)では、過変形領域58の図中左部を図中右部よりも大きく変形させることにより、軸方向の両端へ行くに従って図中右方へ傾斜する湾曲形状とした例が示されているが、過変形領域58の変形態様はこれに限定されない。なお、湾曲乃至は屈曲形状に拡張する本実施形態のステント50は、例えば動脈硬化が進んだ患者の血管等における高度に湾曲または屈曲した部位に特に有効である。
また、体内管腔の狭窄部位が自己拡張領域56では押し広げきれない程度に硬い場合には、過変形領域58のバルーン拡張によって狭窄部位を押し広げることもできる。なお、狭窄部位が過変形領域58のバルーン拡張で押し広げられることにより、狭窄部位による拘束が解除されて自己拡張領域56が拡張すれば、狭窄部位が自己拡張領域56によって支持されてリコイルによる狭窄が回避される。蓋し、SUSで形成された過変形領域58は、バルーンによる拡張を許容することからも理解されるように、外力の作用に対して比較的に変形し易いが、NiTi合金で形成された自己拡張領域56は、マルテンサイト相から母相への変態による拡張変形を生じる一方で拡張後には高い変形剛性を示すからである。
図7には、本発明の第6の実施形態としてのステント60が示されている。ステント60は、全体として直線的な円筒形状であって、中間部分が自己拡張領域56とされていると共に、両端部分が過変形領域58とされている。なお、図7では、(a)に縮径状態でデリバリ用カテーテルに収容されたステント60が示されていると共に、(b)に体内管腔へ留置された状態のステント60が示されている。
ステント60は、デリバリ用カテーテルに収容された状態では、自己拡張領域56と過変形領域58が何れも縮径変形されており、図7(a)に示すように、軸方向全長に亘って略一定の外径寸法を有している。
そして、デリバリ用カテーテルによって体内管腔の狭窄部位まで運ばれたステント60は、図7(b)のような拡張状態で留置される。すなわち、デリバリ用カテーテルからリリースされたステント60は、自己拡張領域56が自動的に拡径変形して狭窄部位の壁部を押し広げると共に、両端部の過変形領域58が拡張後の自己拡張領域56よりも更に大径となるようにバルーンで拡径変形される。図7(b)では、過変形領域58が軸方向外側に行くに従って大径となるテーパ形状に変形せしめられており、過変形領域58の両端部が体内管腔の壁内面に対して安定して押し当てられるようになっている。
これによれば、ステント60の両端部が体内管腔の壁内面に対して密着し易くなることで、両端部での血流の乱れによる血栓の形成が低減乃至は回避されて、再狭窄などの不具合が回避される。特に、ステント60の両端部が過変形領域58で構成されて、体内管腔の形状に合わせてバルーンで後変形可能とされていることから、血管壁などに確実に密着させて、ステント60をより安定した状態で留置できると共に、血栓の生成を抑制することができる。
図8には、本発明の第7の実施形態としてのステント62が示されている。ステント62は、自己拡張領域56の遠位端(図8中、下端部)に過変形領域58が設けられた構造を有している。なお、図8の(a)には、ステント62がデリバリ用カテーテル64に収容された状態が示されている。(b)には、ステント62の自己拡張領域56がデリバリ用カテーテル64に収容されていると共に、過変形領域58がデリバリ用カテーテル64からリリースされた状態が示されている。(c)には、ステント62がデリバリ用カテーテル64からリリースされた留置状態が示されている。
そして、図8(a)に示すようにデリバリ用カテーテル64に収容されたステント62は、体内管腔の狭窄部位まで運ばれた後、図8(b)に示すように、自己拡張領域56がデリバリ用カテーテル64に収容された状態で、遠位端の過変形領域58がデリバリ用カテーテル64から解放されて、バルーンカテーテル66によって押し広げられる。これにより、過変形領域58が体内管腔の壁内面に押し当てられて、ステント62が体内管腔に対して位置決めされる。なお、デリバリ用カテーテル64とバルーンカテーテル66は、本発明を構成する要件ではないが、図8(a),(b)では、理解を容易にする目的でそれらが図示されている。
次に、図8(c)に示すように、自己拡張領域56がデリバリ用カテーテル64から解放されて、超弾性に基づく自己拡張によって体内管腔の狭窄部位に押し当てられることにより、狭窄部位がステント62によって押し広げられる。
一般的な自己拡張型ステントでは、ステント近位端のデリバリ用カテーテルからの解放時に、遠位向きの力がステントに作用して、ジャンピングによる留置位置のずれが生じる場合がある。ここにおいて、本実施形態のステント62では、予め拡張された過変形領域58によって体内管腔に対して位置決めされていることから、自己拡張領域56の解放時にジャンピングが生じるのを防ぐことができる。
図9には、本発明の第8の実施形態としてのステント68が示されている。ステント68は、軸方向の両端部分が自己拡張領域56とされていると共に、中間部分が過変形領域58とされている。
そして、ステント68は、図9に示す体内管腔への留置状態において、過変形領域58を構成する骨格の壁部の一部がバルーンなどで押し広げられることにより、筒状とされた骨格の壁部の一部に側方へ開口する分岐開口部69が形成されている。より詳細には、本実施形態のステント68は、隣り合う環状部52aと環状部52bの軸方向間にバルーンが差し入れられて、それら環状部52a,52bの隙間がバルーンによって押し広げられることにより、過変形領域58が自己拡張領域56よりも大きく変形させられて、骨格の周壁部を貫通する分岐開口部69が形成される。
このように、過変形領域58の変形によって骨格の周壁部に分岐開口部69を形成可能とすれば、本発明に係るステント68を血管の分岐部分へ留置するステントとして好適に採用可能となる。しかも、自己拡張領域56の変形によってステント68が体内管腔に対して位置決めされた状態で、バルーンによる過変形領域58の後変形によって分岐開口部69を形成することから、ステント68の留置後の形状を血管の分岐部分により精度よく合わせることができる。なお、ステント68の留置後に、分岐開口部69を通じて別のステントを分岐血管へ挿入することも可能となる。
本実施形態では、隣り合う環状部52aと環状部52bの軸方向間に分岐開口部69を形成する例を示したが、例えば隣り合う環状部52b,52bの軸方向間に分岐開口部69を形成することもできる。さらに、環状部52bを軸方向へ押し広げるように変形させて分岐開口部69を形成しても良いし、環状部52bを周方向へ押し広げることによって分岐開口部69を形成することもできる。
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されることなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施され得るものであり、また、そのような実施態様も、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも本発明の範囲内に含まれる。
例えば、第1〜第4の実施形態において、コア層18,24,30の表面の全体にコア分解制御層20,26が積層された構造には限定されず、コア分解制御層20,26はコア層18,24,30の表面に対して部分的に設けられ得る。また、コア分解制御層20,26はコア層18,24,30の何れか一方の表面だけに形成されていても良い。
また、例えば、第1の実施形態のステント10においてコア層18が生分解性金属で形成されていたり、コア分解制御層20a,20bが生分解性樹脂で形成されるなどして、全体が生分解性樹脂または生分解性金属で形成されていても良い。なお、コア層とコア分解制御層は互いに同じ材料で形成されていても良いが、好適には互いに異なる材料で形成される。例えばコア層とコア分解制御層の両方がMg合金で形成される場合であっても、主成分たるMgに添加される金属元素の種類や分量比率などを異ならせるなどして、コア層とコア分解制御層に好適な特性を各別に付与することが望ましい。
さらに、前記第3,第4の実施形態のコア層30のように、コア層やコア分解制御層が積層構造とされている場合には、前記第3,第4の実施形態のような生分解性樹脂層と生分解性金属層を交互に配した構造には限定されず、多層構造のコア層(コア分解制御層)が複数種類の生分解性樹脂層で形成されていても良いし、複数種類の生分解性金属層で構成されていても良い。なお、コア層とコア分解制御層の両方が多層構造とされていても良い。
また、単層構造のコア層18,24を有する第1,第2の実施形態の構造において、第4の実施形態のような造影層40を設けても良い。また、造影層40はAuやPtなどの造影性に優れた材料の単体で形成され得るが、例えば、造影性材料が生分解性材料に略均一に混ぜられて溶射(共溶射)されることにより、コア層18,24やコア分解制御層20,26が造影層を兼ねるようにも形成され得る。
また、前記第5〜第8の実施形態のような自己拡張領域56と過変形領域58を備えるステントでは、自己拡張領域56と過変形領域58が軸方向で相互に異なる位置に配されていれば、それらの配置は適宜に変更され得る。
例えば、ステントの表面にはエンボス等の適宜の形状が付されていてもよく、ステントが溶射によって作製される場合には、溶射に用いられる基材やマスクの形状等を適切に設定することで、表面にエンボス等の適宜の形状を容易に形成することができる。このように、ステントの外周面に凹凸を付すことにより、例えば薬剤溶出性ステントとして効果的に利用可能である。即ち、例えば、凹凸が付されたステントの外周面に細胞増殖を抑制する薬剤や、かかる薬剤を含有した樹脂層を塗布または被着することで、この薬剤を血管壁に対して溶出させることができる。その際、かかる凹凸により濡れ性が向上されて、塗布または被着される薬剤や樹脂層がステント外周面に付着され易くされると共に、剥がれにくくすることができる。
また、図10に示されるようにステントの骨格、即ち環状部12やリンク部14には、例えば薬剤が収容される薬剤収容凹所70が形成されてもよい。具体的には、ステントが溶射や電鋳により形成される場合には、例えば成形ベース(基材)の表面に突部等の処理を施しておくことで、その表面に形成されるステントの内周面に対応する大きさの凹所を転写して形成することができる。また、予め形成された骨格の表面の中央部分に島状のマスクを形成して溶射や電鋳を実施することにより、島状のマスクの部分を囲む周壁が形成されて、中央のマスクの部分においてステントの外周面に開口する凹所を形成することも可能である。このような薬剤収容凹所70は任意の形状や大きさで形成することが可能であり、図10に示されているような環状部12やリンク部14の長さ方向に延びる溝形状の他、円形等の穴であってもよい。かかるステントが溶射や電鋳によって作製される場合には、用いられる成形ベースやマスクの形状等を適切に設定することで、表面に任意の大きさの凹所を形成することも可能であり、その設計自由度も大きく確保され得る。
さらに、ステントが電鋳により形成される場合には、例えば不導体粉体を分散させた電解液を利用した共析メッキ技術などを利用して、共析した微粒子に対応したポーラス構造やマイクロポーラス構造を環状部12やリンク部14に与えることも可能である。
このように薬剤収容凹所70やポーラス構造をもって環状部12やリンク部14を形成することにより、ステントを構成する金属量を減少させることができる。また、かかる薬剤収容凹所70やポーラス構造に薬剤を担持させることにより、例えば上述の如き薬剤溶出性ステントを構成することができて、薬剤を効果的に血管壁に溶出させることができる。
さらに、ステントに形成される薬剤収容凹所70は有底形状だけでなく、貫通孔であってもよい。このようにステントに貫通孔を形成することにより、薬剤の担持が更に容易とされ得ると共に、薬剤の担持量を増加させることができる。また、薬剤等が溶出した後は貫通孔が空洞となることから、かかる貫通孔内を血液が通過することができて、例えば凹所が有底とされる場合に比べて血流が阻害されず、乱流および再狭窄防止効果が発揮され得る。
また、薬剤収容凹所70内には、薬剤を直接入れてもよいし、例えば薬剤が含浸された生分解性樹脂綿や、薬剤が封入されたカプセル剤を薬剤収容凹所70内にいれてもよい。
更にまた、ステントに形成される凹凸はステントの表面に直接形成されてもよいが、例えばステントの表面に凸状の部分を形成することにより、相対的に凹状となる部分が形成されるようにしてもよい。
また、ステント10には、図11に示すような超音波マーカー72を設けることもできる。超音波マーカー72は、樹脂や金属で形成されて、内部に多数の微小空隙74を有していると共に、かかる微小空隙74には空気等の気体が入っている。そして、超音波マーカー72は、照射された超音波が樹脂乃至は金属で形成された中実部分と微小空隙74の気相との境界で反射されることによって、超音波による透視下において優れた視認性を発揮する。
超音波マーカー72の微小空隙74は、相互にある程度連続したポーラス構造とされていても良いが、相互に独立した密閉空間状であることが望ましく、それによって、微小空隙74が血液などの液体で満たされ難くなって、超音波透視下での高い視認性を長く維持することができる。もっとも、微小空隙74は、必ずしも気体で満たされている必要はなく、液体が充填されていても良いし、中実部分とは異なる材質の個体が収容されていても良い。
超音波マーカー72は、例えば溶射成形によって形成される。すなわち、溶射成形時に溶射粒子の吹き付け密度を小さく設定して、比較的に孔が多く目の粗い溶射被膜を形成し、かかる溶射被膜を多層積層して一体化することで、内部に独立した多数の微小空隙74を備えた超音波マーカー72を簡単に形成することができる。特に、溶射成形であれば、樹脂材料と金属材料の広い範囲から形成材料を選択することが可能であり、生分解性や生体適合性などの要求特性を考慮した形成材料を大きな自由度で選定することができる。もっとも、超音波マーカー72を形成する方法は、溶射に限定されるものではなく、溶射と同じ成膜技術である真空蒸着や電鋳の他、エッチングによっても形成することができる。
このような構造とされた超音波マーカー72は、例えば、図12,13に示すようなステントに適用される。すなわち、図12には、フローダイバータやステントグラフトとして用いられるカバードステント76が示されている。カバードステント76は、軸方向で相互に離れて配置された環状部78の複数からなるステント本体80が、PTFEなどの樹脂薄膜で形成された筒状のカバー82の外周面に固着された構造とされている。環状部78は、前記実施形態において示すように、軸方向に波打ちながら周方向に延びる形状とされており、超弾性による自己拡張性と、バルーンステントなどを用いた機械拡張性との少なくとも一方を備えている。
そして、本態様の超音波マーカー72は、例えばステント本体80の表面やカバー82の表面に一体的に固着形成される。これにより、カバードステント76の超音波透視下での視認性が向上して、エコー下でのステント留置術においてカバードステント76の位置を把握し易くなる。
また、超音波マーカー72は、図13に示すステントレトリバー84のように、カバー82をもたないステントにも適用され得る。ステントレトリバー84は、筒形網状のステント型血栓回収デバイスであって、例えば網で血栓を圧しつけ絡めて取り除くものである。また、ステントレトリバー84では、骨格全体が微小空隙74を備える構造とされて、骨格自体が超音波マーカー72とされている。このように、超音波マーカー72はステントの表面に設けられるものに限定されず、例えばステントの骨格全体が超音波マーカー72とされていても良い。更に、ステントの骨格自体を超音波マーカー72とする場合には、微小空隙74を連続して表面に開口する貫通形状とすることにより、血管壁に対する血液の接触領域が大きくなることによる低侵襲性や、表面の微細な粗面化による留置位置の安定化などが図られ得る。
なお、上述の如き超音波マーカー72は、必ずしも本発明と組み合わせた態様においてのみ適用されるものではなく、例えば、ステント以外の医療用具に対しても適用され得る。具体的には、図14に示すようなカテーテル86や、図15に示すような動脈瘤の血流を停滞させるコイル88、カテーテルの導入などに用いられるガイドワイヤなどにも適用され得る。そして、超音波マーカー72は、例えばIVUS(血管内超音波)を用いて位置確認する際にも視認性が向上して位置を把握し易くなる。このことからも理解されるように、超音波マーカー72に係る発明は、本願発明とは別の課題を解決し得る独立した発明としても認識され得る。
すなわち、かかる発明の第1の態様は、体内管腔に挿入される医療用具であって、内部に微小空隙を有する疎密構造体で形成された超音波マーカーを備えていると共に、該超音波マーカーが溶射と蒸着とエッチングと電鋳との少なくとも1つにより形成されていることを特徴とするものである。
第2の態様は、上記第1の態様に係る医療用具において、前記超音波マーカーを備えたカテーテルとステントとコイルと血栓回収デバイスとの少なくとも1つとされているものである。
第3の態様は、上記第1又は第2の態様に係る医療用具において、拡縮変形可能な筒状の骨格を備えるステントであって、該骨格が前記超音波マーカーとされているものである。
また、ステントの形状は、前記実施形態に例示の如き単純なストレート形状や長さ方向の端部や中央部分に厚肉部分が設けられた形状等に限定されるものではなく、テーパ筒形状、端部厚肉形状、基幹筒部と分岐筒部を備えるY字形の分岐形状、Y字形の分岐形状において基幹筒部と分岐筒部の径寸法が異なる形状、それら基幹筒部と分岐筒部の少なくとも一方がテーパ筒形状、長さ方向で部分的にテーパが付された形状など、本発明は各種の異形状のステントに対して適用可能である。
更にまた、ステントの軸方向の両端部分を厚肉としたり、軸方向両端部分として剛性の大きい金属を採用することにより、ステントの軸方向両端部分の剛性を大きくしてもよい。これによれば、ステントの軸方向両端部分の血管からの浮上りが抑制されて、ステントが血管の狭窄部位で安定して留置される。特に、ステントの軸方向両端部において血管からの浮き上がりが抑えられることにより、血流の乱れによる血栓形成のリスクが低減されて、再狭窄が効果的に防止され得る。
さらに、ステント10の骨格において、環状部12とリンク部14の断面形状を異ならせてもよい。尤も、本発明のステントにおいては、リンク部は必須ではなく、ステントの軸方向で隣り合う環状部が螺旋構造で連続して繋がっていてもよい。この場合にリンク部を設ける必要はなく、リンク部なしでステントの骨格を形成することもできる。更にまた、互いに逆向きの螺旋状に延びる複数のストラットにより全体としてメッシュ構造とされた骨格を採用することも可能である。また、前記第5〜第8の実施形態に示すような自己拡張領域56と過変形領域58を備えたステントを、ストラットが螺旋状に連続する構造で形成する場合には、ストラットを長さ方向で部分的に形状記憶材料によって形成することにより、軸方向で部分的に自己拡張領域56を備えたステントが実現される。
更にまた、ストラットの厚さ寸法や断面形状なども全長に亘って均一とされる必要はない。例えば、ストラットの長さ方向において、部分的に厚肉としたり薄肉としてもよい。また、上記のようにリンク部を設けない場合には、ストラットの薄肉とされた部分により脆弱部が形成されてもよい。
更にまた、本発明に従う構造とされたステントは、溶射と同様に成膜などの成形技術として知られる電鋳や真空蒸着によって形成してもよい。例えば所定の金属をイオン化した電解浴槽中に成形ベースを浸漬して金属イオンを電着させて所定形状に一体化させることでステントを形成したり、加熱することで気化または昇華させた材料の粒子の多数を所定形状に一体化させることでステントを形成することなども可能である。これら電鋳や真空蒸着によってステントが形成される場合にも、成形ベースの表面に対して適切にマスキングが施されることによって容易に製造され得る。また、エッチングによって、所定形状のステントを形成することも可能である。すなわち、所定の材料で形成した筒状体の不要な部分を薬液やガス放電による活性基などで取り除くことでステントを形成することもできる。
また、図16〜28には、本願発明とは異なる課題を解決し得る独立した発明として認識され得るステント90,104,106,108,110,112が示されている。これらのステント90,104,106,108,110,112は、例えば前述した、溶射、蒸着、エッチング、電鋳等により形成されている。
図16に示されたステント90は、それぞれ略円筒形状で直線的に延びる基幹筒部92と分岐筒部96を備えており、基幹筒部92の長さ方向の中間部分に設けられた分岐部94から側方に傾斜して分岐筒部96が延び出すことで全体として略Y字状の分岐形状とされている。換言すれば、本実施形態のステント90では、分岐部94により長さ方向(図16中の上下方向)で筒部の数が異ならされており、即ち、ステント90は、長さ方向で断面形状が変化する異形の筒形状とされている。
基幹筒部92と分岐筒部96には、何れも、波状に湾曲又は屈曲を繰り返して周方向に連続して延びる環状部98が、軸方向で互いに所定距離を隔てて複数設けられている。これにより、基幹筒部92を構成する一連のストラット102aと分岐筒部96を構成する一連のストラット102bがそれぞれ形成されている。そして、ストラット102a,102bにおける軸方向で隣り合う環状部98,98が、略軸方向に延びるリンク部100でそれぞれ連結されることによって、所定長さの筒形状とされている。
特に本実施形態では、分岐部分において、基幹筒部92を構成する環状部98と分岐筒部96を構成する環状部98とが、それら基幹筒部92と分岐筒部96の周上に連続して延びている。これにより、基幹筒部92と分岐筒部96の分岐部分において、それぞれのストラット102a,102bの一体構造が実現されて、一つながりのストラット102が構成されている。そして、かかるストラット102において、軸方向で隣り合う環状部98,98がリンク部100により連結されることで、本実施形態のステント90の骨格が構成されている。この結果、ステント90における強度や変形の自由度の向上が図られていると共に、変形に際してのストラット102の座屈等の局所的な変形の防止が図られている。
なお、環状部98やリンク部100の具体的形状は、本発明において限定されるものでなく、ステント90に要求される特性を考慮して、環状部98の波形状や、リンク部100による連結部位、環状部98の周上でのリンク部100の数などが適宜に設定され得る。
また、環状部98やリンク部100の幅寸法や厚さ寸法も、特に限定されるものでないが、環状部98を構成するストラット102としては、強度を確保する等の趣旨から30〜200μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましく、リンク部100は、10〜100μm程度の幅寸法および厚さ寸法とすることが望ましい。
そして、このような分岐形状のステント90は、ストラット102を構成する各複数の環状部98とリンク部100が電鋳により一体形成されることによって作製されている。
具体的には、目的とする基幹筒部92と分岐筒部96の形状および大きさを有する成形ベースを、ステンレス等の導体で作製して準備する。そして、この成形ベースの表面において、各複数の環状部98およびリンク部100に対応する形状で露出面を形成すると共に、それ以外の領域には不導体のマスクを施す。その後、所定の金属をイオン化した電解浴槽中に浸漬して、成形ベースの露出面に金属イオンを電着させて電気鋳造を行う。所定厚さの金属を得た後、マスクを除去すると共に、成形ベースを抜き取る、或いは溶解することにより、上述の如き目的とする構造のステント90を得ることができる。
上記の如き構造とされた本態様のステント90は、基幹筒部92および分岐筒部96においてそれぞれの径方向で拡縮可能とされており、図16に示された収縮前の状態から所定の寸法まで機械的に縮径される。そして、使用時には、ステント90がデリバリ用のカテーテル等により、例えば血管の狭窄部位までデリバリされる。その後、ステント90は、バルーンカテーテルにより拡張されたり、ステント90が形状記憶材料で形成されている場合には、デリバリ用のカテーテルから解放することで自動的に拡張されて、図16の状態で血管等の体内管腔に留置される。
本態様のステント90は、電鋳によって作製されていることから、基幹筒部92と分岐筒部96を有する分岐形状を一体形成することができる。それ故、従来構造のようにストレートな円筒金具をレーザー加工して得られた2本のステントをつなぎ合わせて分岐形状とする場合に比して、切除される部分を少なくすることができて、歩留まりを改善することができると共に、複雑な分岐形状を精度良く得ることが可能になる。従って、生体の血管などの複雑な形状部位に対して精度良く対応したステント90が良好な歩留りをもって実現可能になる。
そして、このように電鋳によって作製されることでステント90の一体成形性を確保しつつ、形状の設計自由度が大幅に向上されることから、従来構造のストレートな円筒金具をレーザー加工して得られたステントに比して、各種の異形の初期形状をもってステントを得ることが可能になる。
例えば、図17に示されているように、内外径寸法が軸方向で変化するテーパ筒形状を有する別態様としてのステント104も、目的とするテーパ角度の初期形状をもって電鋳で一体形成することができる。本実施形態のステント104は、かかるテーパ形状をもって、断面形状が長さ方向で変化する異形筒形状とされている。なお、以下の説明において、前記態様と同一の部材および部位には、図中に、前記態様と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
このようなステント104は、径寸法が変化する血管等へ留置するに際して、初期形状でテーパが与えられていることから、留置状態での歪や残留応力を抑えることが可能になる。
また、上述の如きステント90,104の骨格、即ちストラット102およびリンク部100は電鋳によって作製されていることから、異なる材質の積層構造とすることも可能となる。具体的には、上述のように成形ベースの表面に不導体のマスクを形成して第1回目の電鋳を行ったあと、別の金属イオンの電解浴槽中で電鋳を第2回目の電鋳を実施することで、第1回目の電鋳で形成された金属の表面に第2回目の電鋳により別の材質の金属層を形成することができる。このことからも分かるように、本態様の発明は、前記第1〜第4の実施形態に係る発明と組み合わせて採用することも可能である。同様に、本態様の発明は、前記第5〜第8の実施形態に係る発明と組み合わせて採用され得る。
このような金属の積層構造は、任意の回数行うことも可能であり、例えば、特定金属で形成されたコア部分を覆うように別金属を被覆して表層部分を設けた構造とすることも可能である。その際には、例えばコア部分の金属よりも表層部分の金属の方が延性が大きい方が好ましい。これにより、ステントが屈曲する際の追従性が向上されて、表層部分の歪や応力の集中が回避される。
また、コア部分の金属よりも表層部分の金属の方がイオン化傾向が小さい方が好ましい。具体的には、例えばコア部分をステンレス鋼(SUS316L)やCrCo合金、タンタル、NiTiなどで形成する一方、表層部分をNi,NiCo,Cu,NiW,Pt,Au,Ag,Cr,Znなど、特に好適にはAu,Ptで形成することも可能である。これにより、コア部材を構成する金属で強度や剛性を効率的に確保しつつ、表層部分の金属により生体との電位差を抑えて生体適合性を向上させることも可能となる。また、Au,Ptなどはイオン化傾向が非常に低いことから、金属溶出を抑えることもできる。更にまた、コア材となる合金に使用されているNiなど金属アレルギーの原因となる金属イオンの溶出も抑制できる。しかも、Au,Ptなどは比重が大きく、X線不透過性が良好であるため、X線を用いたステントの視認性も向上され得る。
なお、第1回目の電鋳を行ったあと、マスクを形成しなおして第2回目の電鋳を行うことも可能である。これにより、例えば環状部98とリンク部100を異なる金属材で形成することも可能になるし、ステント90の長さ方向や周方向において、環状部98の材質を部分的に異ならせることも可能になる。
具体的には、また別の態様として、図18に示されているように、ストレートな円筒形状のステント106において、その軸方向の端部に位置する一つ又は複数の環状部98だけを、軸方向の中央部分に位置する他の環状部98よりも電鋳の回数を多くすることで、厚肉にすることができる。即ち、本実施形態のステント106では、長さ方向で厚さ寸法が変化する形状をもって、断面形状が長さ方向で変化している。なお、中央部分より軸方向端部を厚肉とすることで、中央部分に比べて軸方向端部の方が、外径寸法が大きく、または内径寸法が小さく、或いはその両方とされてもよい。また、かかる厚肉部分は、軸方向の一方の端部に設けられてもよいし、軸方向両端部に設けられてもよい。
このように軸方向の端部が中央部分に比して厚肉とされた異形筒形状のステント106においては、軸方向端部の剛性が中央部分よりも大きくされることにより、中央部分における変形自由度を確保しつつ、軸方向端部の血管からの浮き上がりを抑えて、再狭窄を防止することも可能になる。
また、第1回目の電鋳を行ったあと、マスクを形成しなおして第2回目の電鋳により、軸方向の端部に位置して互いに隣り合う環状部98,98の上に跨がって外周を覆うように、軸方向に半ピッチ分だけずれた環状部98を形成することも可能である。このような複雑な構造をもって軸方向端部の剛性を補強することも可能であることから、大きな設計自由度が実現される。
なお、本実施形態のステント106では、中央部分に比べて剛性が大きくされた軸方向端部において、軸方向外側の末端部分の剛性が中央部分と略同じか、それより小さくされることが好ましい。これにより、血管壁に食込むように留置されるステントの軸方向末端部分が血管壁へ及ぼす負荷を小さく抑えることができる。かかる剛性の小さい末端部分は、例えば末端部分のみを柔らかい金属で形成したり、電鋳の回数やマスク等を調節して末端部分の肉厚寸法や幅寸法を小さくすることで実現され得る。
さらに、上述の如きステント90,104,106は、電鋳によって作製されていることから、その骨格を構成するストラット102の断面形状の設計自由度も、従来構造のレーザー加工では、単純な矩形断面でしかなかったのに対して、大きな自由度が確保され得る。例えば、図19(a),(b)には、内周面から外周面に向かって幅寸法が変化するストラット102の断面形状が示されている。即ち、図19(a),(b)に示される態様では、ストラット102の断面形状が厚さ方向で変化する異形構造とされている。なお、図19(a),(b)中においては、上側が外周側、即ち血管壁に当接する側であり、下側が内周側、即ち血管内腔に位置する側である。
具体的には、図19(a)に示されているように、断面が概三角形状とされたストラット102も採用可能である。かかる形状のストラット102では、内周面から外周面に向かって幅寸法が小さくされて血管壁に当接する側が次第に細くされていることから、ステントの拡張時において、ステントの血管壁への押付力をストラット102の先細部分に集中することができる。これにより、より小さいステントの押付圧、換言すればステントの拡張圧で血管を拡張させることができる。また、血管の石灰化病変など、血管壁が硬い場合であっても、ストラット102の先細部分が食い込み、石灰化病変部に対して割るという作用が働くため、従来の矩形断面では拡張が困難とされた血管も拡張することができる。
また、図19(b)に示されているように、断面が概逆三角形状とされたストラット102も採用可能である。かかる形状のストラット102では、外周面から内周面に向かって幅寸法が小さくされて血管内腔に位置する側が次第に細くされていることから、血流に接する面積が小さくされて、異物反応を可及的に抑制することができる。また、血液の流れに淀みが生じにくいことから、血栓等が発生するおそれを低減させることができる。更に、血管内腔に露出している面積が小さいことから、血管内皮細胞に覆われるまでの期間を短くすることができて、ストラット102が早期に血管に埋没することとなる。このことから、血管内皮の肥大化を抑制することができて、ステント留置部が比較的短期間で治癒され得る。
なお、かかる形状のストラット102は、電鋳の際のマスクの形状をエッチング等で所望の形状に整えることにより形成され得て、断面形状の設定自由度を大きく向上させることができる。即ち、マスキングの形状を適切に設定することのみにより図19(a),(b)に示される如き厚さ方向で断面形状が変化するステントも電鋳で容易に製造され得る。尤も、ストラット102の断面形状は、図19(a),(b)に示されている概三角形状や概逆三角形状に限定されるものではなく、例えば半円形状や両テーパ形状等も採用され得る。
さらに、上述の如きステント90,104,106は、電鋳によって作製されていることから、その環状部98,98を連結するリンク部100の断面形状ひいては強度や脆弱性の設計自由度も、大きく確保され得る。このように、ステントの骨格に、部分的に強度の低い部位を設けることにより、拡張されたステントの屈曲時にかかる脆弱部位が容易に変形したり切断されたりして、ステントが体内管腔の形状に追従しやすくされる。また、分岐した血管等に対応して、ステントに開口部を形成する場合にも、かかる脆弱部位を切断したり押し広げたりする操作を施術者が容易に行うことができる。
ここにおいて、ステント90,104,106では、その骨格において、リンク部100により、環状部98よりも強度が小さくされた脆弱部が構成されている。かかるリンク部100を電鋳によって作製することにより、従来構造のレーザー加工ではストラット102の幅方向に対して細い形状しか形成し得なかったのに対して、かかる細い形状だけでなくストラット102の厚さ方向において薄い形状も形成することができる。また、リンク部100の断面形状も、従来のレーザー加工では単純な矩形断面でしかなかったのに対して、矩形以外の形状も形成し得る。
具体的には、例えば、図20(a)〜(c)に示されているように、環状部98,98に対して、厚さ方向におけるリンク部100の位置を適宜設計変更可能である。なお、図20中において、上方が血管壁側を示しており、下方が血管内腔側を示している。即ち、図20(a)では、環状部98,98が血管壁側でリンク部100により連結されている一方、図20(b)では、環状部98,98が厚さ方向中央部分でリンク部100により連結されている。また、図20(c)では、環状部98,98が血管内腔側でリンク部100により連結されている。更に、これら血管壁側、中央部分、血管内腔側に位置するリンク部100をそれぞれ組み合わせることも可能である。なお、図20ではストラット102およびリンク部100が矩形断面として示されているが、図20は単に環状部98,98とリンク部100の相対位置を示すものであって、ストラット102およびリンク部100の形状を何等限定するものではない。
このように、従来のレーザー加工では1本のパイプを厚さ方向に貫通して形成することから、環状部とリンク部を同じ厚さで形成することしかできなかったのに対して、ステント90,104,106を電鋳で製造することによりリンク部100の厚さ寸法を薄くすることができる。これにより、リンク部100を薄く且つ細く形成することができて、リンク部100が切断される際には、従来より更に容易に切断され易くされている。また、従来では、環状部98とリンク部100を別体で形成して、後固着する方法も採用されていたが、ステント90,104,106を電鋳で製造することにより、環状部98とリンク部100が一体で形成されて、高度な寸法精度を確保しつつ、製造が容易とされ得る。更に、リンク部100の切断面が小さくされることから、切断面が血管壁に接触すること等による刺激をできるだけ抑制することができる。
さらに、リンク部100の位置は、ストラット102の幅方向に対しても適宜設計変更可能であり、ストラット102に対して幅方向端部に形成することも可能であるが、図21に示されているように、リンク部100はストラット102の幅方向中央部分、即ち前述の実施形態では、環状部98の屈曲部分における幅方向中央部分に形成されることが好ましい。特に、リンク部100は、図21に示されているように、厚さ方向においても、ストラット102の中央部分に位置していることが好ましい。これにより、更にリンク部100の切断面が血管壁に接触するおそれが一層低減されて、患者に与える不快感が更に軽減され得る。
なお、図21においても、ストラット102およびリンク部100が矩形断面として示されているが、図21は単に環状部98とリンク部100の相対位置を示すものであり、ストラット102およびリンク部100の形状を何等限定するものではない。
次に、図22,23には、さらに別の態様としてのステント108が示されている。このステント108は全体として略円筒形状で直線的に延びている。
ここにおいて、本態様のステント108におけるストラット102の断面形状は、図19(b)に示されるように厚さ方向(図19(b)中の上下方向)で異ならされた異形構造として形成されており、内周面から外周面に向かって幅寸法(図19(b)中の左右方向寸法)が大きくされている。
すなわち、本態様では、ストラット102の断面形状が概逆三角形とされている。また、本態様では、図23(b)に示される逆台形の断面形状におけるエッジ部分に対してサンドブラスト、化学研磨、電解研磨等の面取り加工が施されることにより、図19(b)に示される概逆三角形の断面形状が形成されている。なお、図23(b)に示される面取り加工前の断面形状において、外周面の幅寸法をWとすると、好適には60mm≦W≦180mmとされて、更に好適には80mm≦W≦130mmの範囲内に設定されて、本態様では、W=125mmとされている。
従って、本態様では、図24に示されているように、ストラット102の外周面の円弧における中心角αに比べて内周面の円弧における中心角βが小さくされている(β<α)。即ち、面取り処理前のストラット102の断面形状(図24中の太い一点鎖線)において幅寸法が最も大きくなる外周面の2点A,Bに対して、これらの点A,Bを通過して外周側に凸となる円弧Coおよび該円弧Coの曲率中心としてストラット102よりも内周側に位置する曲率中心Oを想定する。また、面取り処理前のストラット102の断面形状において幅寸法が最も小さくなるストラット102の内周面の2点をD,Eとし、点Oを曲率中心として点D,Eを通過する円弧Ciを想定する。ここで、∠AOBをストラット102の外周面の円弧における中心角αとする一方、∠DOEをストラット102の内周面の円弧における中心角βとすると、ストラット102において中心角βは中心角αよりも小さくされている。なお、本態様では、ストラット102の断面形状が概逆三角形とされていることから、ストラット102の内周面の円弧における中心角βが略0であると解される(β≒0)。
また、本態様では、ストラット102の外周面の円弧における中心角αに比べて、両側面の夾角θが大きくされている(α<θ)。この夾角θは、面取り処理前のストラット102の断面形状において、図24中における直線ADと直線BEが交わることによって形成されている。
なお、外周面の中心角αは、好適には1°≦α≦45°とされて、更に好適には4°≦α≦15°の範囲内に設定される。一方、内周面の中心角βは、好適には0°≦β≦30°とされて、更に好適には0°≦β≦10°の範囲内に設定される。また、両側面の夾角θは、好適には15°≦θ≦90°とされて、更に好適には30°≦θ≦90°の範囲内に設定される。外周面と内周面の中心角α,βおよび両側面の夾角θを上記の範囲内に設定することにより、後述する流体の乱流防止効果や縮径時における外径縮小効果が安定して発揮され得る。
かかる形状とされた本態様のステント108は、その骨格であるストラット102と各リンク部100が、電鋳により一体的に形成された金属製の骨格として作製されている。
本態様のステント108は、径方向で拡縮可能とされており、図22に示された収縮前の状態から所定の寸法まで機械的に縮径されて、図25,26に示される如き縮径状態とされる。なお、図25はステント108を構成する環状部98のうちの1つを示すものであり、他の環状部98および環状部98,98を接続するリンク部100の図示は省略されている。
ここにおいて、ストラット102の断面形状は図19(b)に示される如き概逆三角形とされており、縮径状態とされることにより、環状部98の軸方向両端部分において、ストラット102における周方向で隣り合う部分が当接する。その際、図26(b)に示されているように、ストラット102の断面形状における外周側の周方向端部同士が当接することにより、ステント108の縮径が制限されて、縮径状態におけるステント108の外径寸法が規定される。
上記の如き構造とされた本態様のステント108では、ストラット102の断面形状が概逆三角形とされていることから、例えば従来構造の骨格が矩形断面とされたステントに比べて、ステント108の内周側の血流に晒される部分を小さくすることができる。これにより、ステント108が血液の流れを阻害することが抑制されて、ステント108を血管内に留置することに伴って血流が緩慢になったり血流が乱れたり(乱流)することが回避される。それ故、乱流により血管や心臓内で血栓が形成されることが抑制されると共に、かかる血栓がステント108に付着することに起因するステント108の留置位置での再狭窄が効果的に防止され得る。
また、血管壁から露出する面積が小さくされることから、早期に血管内皮細胞に埋没することとなる。即ち、ステント108の留置に伴って亀裂が生じた血管壁が比較的短時間で治癒され得ることから、血管内皮細胞の肥大化が抑制されると共に、肥大化した血管内皮細胞に血栓が付着してステント108の留置位置において再狭窄することが回避され得る。尤も、血管内皮細胞が肥大化したとしても、ステント108の内周側に隙間が多く形成されることから、当該隙間に血管内皮細胞が入り込み、内周側への血管内皮細胞の成長が抑制されて、ステント108の留置位置における再狭窄のおそれが一層低減され得る。
更にまた、例えば従来構造の骨格が矩形断面とされたステントでは、縮径時において、骨格断面における内周側の角部がいち早く当接して、それ以上の縮径が制限されるが、本態様のステント108では、ストラット102の断面形状が概逆三角形とされていることから、ストラット102の内周側では当接せず、外周側で当接することとなる。これにより、本態様のステント108は、従来構造のステントに比べて一層縮径が制限されることがなく、縮径時の外径寸法をより小さくすることができる。特に、本態様のように、外周面の中心角αに比べて両側面の夾角θを大きくすることにより、一層内周側で当接するおそれが軽減されることから、縮径時の外径寸法を確実に小さくすることができる。この結果、ステント108、およびステント108を装着したデリバリ用カテーテルのデリバリ性の向上が図られ得る。
特に、ストラット102の断面形状において、両側面の夾角θが15°≦θ≦90°とされることが好適であり、これにより、ストラット102の断面形状における周方向寸法を小さく抑えることができて、例えばステントの周方向の波数(周方向における繰り返し単位の数)が大きい場合でも、縮径時の外径寸法が安定して小さくされ得る。
次に、図27には、更にまた別の態様としてのステント110が示されている。本態様のステント110は、ストラット102とリンク部100からなる骨格構造を有しており、ストラット102の断面形状が図19(b)に示される形状とされている。
本態様のステント110は、軸方向(図27中の上下方向)両端部分における外径寸法が軸方向中央部分における外径寸法より大きくされた異形筒形状とされている。本態様のステント110は、例えば、図22に示されるストレートな円筒状のステント108に対して、軸方向両端部分に位置する複数の環状部98を軸方向の中央部分に位置する環状部98よりも電鋳の回数を多くして、厚肉とすることで形成され得る。即ち、本態様のステント110は、複数種類の金属からなる積層構造とされることが好適である。なお、かかる積層構造は、ステントの全体に亘ってなされる必要はなく、ステントの特定の部分が積層構造とされてもよい。また、ステント110の内孔の形状は何等限定されるものではなく、例えば軸方向に延びるストレート形状であってもよいし、軸方向中央部分よりも両端部分が大径とされていてもよい。
さらに、本態様のステント110は、軸方向両端部分が軸方向中央部分に比べて厚肉とされていることにより、これら両端部分の剛性が中央部分に比べて大きくされている。
上記の如き形状とされた本態様のステント110においても、骨格の断面形状がステント108と同様の形状とされていることから、ステント108に係る態様と同様の効果が発揮され得る。それに加えて、本態様では、軸方向両端部分が軸方向中央部分よりも外径寸法が大きくされて、且つ剛性が大きくされていることから、ステント110の軸方向両端部分の血管からの浮き上がりが抑制されて、血管の狭窄部位で安定して留置される。特に、血管内に留置された状態でステントの軸方向端部が血管から離れることにより、血流の乱れが惹起されて血栓が形成されるおそれが高まる。従って、本態様のようにステント110の軸方向両端部において血管からの浮き上がりが抑えられることにより、ステント留置位置における再狭窄が一層効果的に防止され得る。更に、軸方向末端部分の剛性が小さくされることにより、食い込むように留置されるステントの軸方向末端部分が血管壁へ及ぼす負荷を小さく抑えることができる。
次に、図28には、また別の態様としてのステント112が示されている。本態様のステント112は、ストラット102とリンク部100からなる略Y字状の骨格構造を有していると共に、ストラット102の断面形状は、図19(b)に示される形状とされている。
なお、本態様のステント112は、例えば基幹筒部114と分岐筒部116が別体で形成されて溶着等の手段により繋ぎ合わされてもよいが、電鋳で形成されることにより、基幹筒部114と分岐筒部116が一体的に形成され得る。
かかる形状とされた本態様のステント112においても、ストラット102の断面形状が図19に示された前記態様と同様の形状とされていることから、該態様のステント108と同様の効果が発揮され得る。特に、本態様のステント112は分岐形状とされて生体の血管などの複雑な形状に対応し得るものであり、血管の分岐部分においても血流の乱れが抑制されて血管の再狭窄がより一層効果的に防止され得る。
[実施例]
かかる発明の実施例1として、図22,23に示される、図19に係る態様に従う構造のステント108を、コンピュータ上で仮想的に作製した。また、かかる発明の実施例2として、図29に示されるように骨格の断面形状を内周面から外周面に向かって幅寸法を小さくして概三角形としたステント118を採用すると共に、かかる発明の比較例として、図30に示されるように従来構造の骨格が矩形断面とされたステント120を採用して、それぞれコンピュータ上で仮想的に作製した。なお、図29,30に示されている実施例2および比較例のステント118,120は縮径前の成形状態のものを示していると共に、これら実施例1,2および比較例のステント108,118,120はそれぞれエッジ部分に面取り処理を行う前のものを想定して作製した。
また、縮径前の実施例1,2および比較例のステント108,118,120の外径寸法はそれぞれφ=3mm(図22参照)として作製した。更に、実施例1におけるストラット102断面の外周面の幅寸法をW=125mm(図23(b)参照)とする一方、実施例2におけるストラット102’断面の内周面の幅寸法(図29(b)参照)を同じくWとした。更にまた、比較例におけるストラット122断面の外周面の幅寸法をW1=100mm(図30(b)参照)とした。また、実施例1,2および比較例のストラット102,102’,122の厚さ寸法を、それぞれ同じT=0.1mm(図23(b)等参照)とした。
そして、コンピュータ上で仮想的に作製した実施例1,2および比較例のステント108,118,120に対して縮径処理を施し、それぞれの外径寸法を比較した。なお、実施例1のステント108に対して縮径処理を施した環状部98の斜視図および軸方向視図は前述の図25,26に示すものであり、実施例2および比較例のステント118,120に対して縮径処理を施した環状部98の斜視図および軸方向視図を図31〜34に示す。このように、縮径処理を施した実施例1,2および比較例のステント108,118,120の外径寸法をそれぞれφ’(図26(a)参照)、φ1(図32参照)、φ2(図34参照)として比較した。なお、かかる縮径処理を施して解析するソフトウェアとしては、ANSYS社製「ANSYS R14.5」を用いた。
その結果、φ1=1.80mm、φ2=1.70mmであったのに対して、φ’=1.68mmであった。即ち、ストラット102の断面形状が概逆三角形とされるステント108は、ストラット102’の断面形状が概三角形とされるステント118や従来構造であるストラット122の断面形状が矩形とされるステント120に対して、縮径処理を施した際の外径寸法がより小さくなることが示されている。
縮径処理後に実施例2のステント118や比較例のステント120に対して実施例1のステント108における外径寸法が小さくなる理由としては、実施例2および比較例のステント118,120では、図32(b),図34(b)に示されているように、縮径処理が施されると周方向で隣り合う骨格の内周側同士がいち早く当接して、それ以上の縮径が制限される。それに対して、実施例1のステント108は図26(b)に示されているように、内周面の幅寸法が外周面の幅寸法より小さくされていることから、周方向で隣り合う骨格の外周側同士が当接するまで縮径が制限されず、外径寸法がより小さくなるものと推察される。
これにより、実施例1のステント108は縮径時の外径寸法を実施例2の概三角形断面のステント118や従来構造である矩形断面のステント120よりも小さくすることができて、デリバリ用カテーテル装着時の外径寸法も小さくできることから、良好なデリバリ性を発揮することができる。
また、上記実施例1,2および比較例のステント108,118,120を使用して、それぞれのストラット近傍における流れ速度を確認した。実施例1,2の結果をそれぞれ図35,36に示すと共に、比較例の結果を図31に示す。なお、図35〜37に示されるステント108,118,120は、それぞれ図23,29,30に示される成形状態のものであって、それぞれの外径寸法はφ=3mmとされている。また、図35(a),36(a),37(a)は血管壁面近傍の速度分布をベクトルで示しており、更に、図35(b)、36(b)、37(b)は血管壁面近傍の速度分布を面で示している。なお、図35〜37は、色付き画像で出力表示された解析結果を特許出願用にグレースケール表示したものであるから見難いが、図中の濃い灰色の部分では流れが速いことを示している一方、薄い色の部分では流れが遅いことを示しており、濃い灰色の部分から薄い色の部分への変化に対応して流れ速度が段階的に変化していることを示している。なお、かかる解析は、ANSYS社製「ANSYS R14.5」のソフトウェアを用いて実施した。
図35〜37を比較した結果、図36(a),37(a)に比べて図35(a)は全体的に速い流れを表す濃い灰色のベクトルの線が大きく、且つ多く示されている。なお、図36(a),37(a)においてベクトルの線の数量が少ない理由は、線の色が薄く、流れが遅いためベクトルの線として大きく表示されていないか、または流れ自体がほとんどないためにベクトルの線が無いように見えるからである。一方、図36(b)、37(b)に比べて35(b)は全体的に色が薄い部分が多く示されている。このことから、実施例1のステント108のストラット近傍を通過する流体の流速が実施例2のステント118および比較例のステント120のストラット近傍を通過する流体の流速よりも速いことが示されている。この結果、実施例1のステント108では、実施例2のステント118および比較例のステント120に対して、管腔内におけるステント留置位置において流体が淀みなく流れることができる。特に、ステント108が血管に留置される場合には、血液の滞留や乱流に伴う血栓の発生、および当該血栓がステントに付着することに伴うステント留置位置での再狭窄の防止効果をより一層発揮し得ることが示唆される。
かかる効果を発揮する理由としては、実施例1のステント108のストラット102断面が概逆三角形とされていることから、実施例2の如き概三角形断面のストラット102’や比較例の如き矩形断面のストラット122に比べて、内周側に突出する部分を小さくすることができて、ステント108内部を通過する流体の流れに対する阻害が可及的に抑制されているからであると推察される。
なお、上記実施例2のステント118ではストラット102’の断面形状が概三角形とされており、比較的早期にストラットの内周側同士が当接することから、実施例2のステント118では、縮径時における外径縮小効果が十分に享受され得ないおそれがある。また、このステント118が管腔内に留置される場合には、管腔壁から内周側に突出する部分が比較的大きくなって、かかる突出部分が流体にとって障壁となることから、円滑な流体の流れが阻害されるおそれがある。
しかしながら、ストラット102’の断面形状において外周側が先細形状とされており、ステント118の先細先端が管腔壁に食い込むように留置されることにより、管腔内におけるステント118の位置決め作用が効果的に発揮され得る。特に、石灰化病変のように血管壁が硬質化して、従来構造の骨格が矩形断面とされたステントでは血管の拡張が困難である場合であっても、ストラット102’の外周側の先細部分がかかる病変部位に対して割るという作用を及ぼすことから、従来の矩形断面では拡張が困難とされた血管も上記実施例2の如きステント118を採用することにより拡張することができる。
従って、患者や病変部位の状態によっては、骨格の断面形状が概三角形とされるステントも好適に採用され得る。このように、狭窄部位の状態や狭窄が生じている部位に対応したステントを、大きな設計自由度をもって製造できることからも、かかる発明のステント108,110,112,118は優れた技術的意義を有しているものである。
以上のように、上記した本願発明とは別の発明(以下、上記発明)が解決課題とするところは、ステントが留置される管腔内の狭窄が生じる部位や当該狭窄部位の状態などに応じてステントの性能等を一層大きな設計自由度をもって調節することができると共に、血管等の管腔に対応した形状が良好な歩留りをもって実現可能とされる、新規な構造のステントを提供することにある。
すなわち、上記発明の第1の態様は、径方向で拡縮可能な骨格の構造により筒状とされると共に、該骨格の断面形状が厚さ方向で変化する異形構造とされているステントにおいて、前記骨格が電鋳とエッチングと溶射と蒸着との少なくとも1つにより形成された金属製の骨格とされていることを、特徴とする。
本態様に従う構造とされたステントでは、骨格の断面形状を、従来の単純な矩形断面形状から異ならせることにより、ステントが留置される管腔内の狭窄が生じる部位や当該狭窄部位の状態などに応じてステントの性能等を大きな設計自由度をもって且つ効率的に調節することが可能になる。
また、骨格が電鋳とエッチングと溶射と蒸着のうちの少なくとも1つで形成されていることにより、ステントが管腔の形状に当初から対応した形状とされる。従って、レーザー加工により製造されるステントに比べて切除される部分を少なくすることができて、良好な歩留りをもってステントが製造され得る。
上記発明の第2の態様は、第1の態様に係るステントであって、前記骨格の断面形状において、内周面から外周面に向かって幅寸法が大きくされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、単純な矩形断面とされた骨格を有する従来構造のステントに比べて、血液等の管腔内の流体に晒される部分の断面幅寸法を小さくすることができる。これにより、血管等の管腔内におけるステントの留置位置において、従来構造のステントに比べて血液等が流れやすくなり、血液等の淀みや乱流が抑えられる。その結果、血栓の形成、および血栓がステントに付着してステントの留置位置において血管が再狭窄してしまう等の不具合が効果的に回避され得る。
また、ステントの外周面では、骨格の断面幅寸法が周方向で比較的大きく確保されることから血管等の管腔内面への押付力が分散され得て、局所的な力の集中に起因する管腔壁の亀裂の発生を抑えることができると共に、管腔壁に発生した亀裂の治癒期間の短縮も図られ得る。これにより、例えば血管の亀裂部位における血管内皮細胞の肥大化に起因する再狭窄が効果的に抑えられる。仮に血管内皮細胞が肥大化しても、ステントの内周面側では、断面幅寸法が小さくされた骨格間で比較的に大きな隙間が設けられていることにより、血管内皮細胞がステント内周面から更に内方に向かって肥大化することが抑えられて、血管の再狭窄に対して更なる抑制効果が発揮される。
さらに、本態様に従う構造とされたステントでは、骨格断面における周方向幅寸法が内周側に向って小さくされていることから、デリバリ用カテーテルに装着されて縮径される際に、周方向で隣り合う骨格同士が、周長の小さい内周側で相互に当接してしまって縮径量が制限されてしまう問題が解消される。それ故、骨格の断面積を確保して要求強度等を実現しつつ、縮径可能寸法を十分に小さく設定してデリバリ性能を向上させることが可能になる。
なお、本態様におけるステントでは、骨格の断面形状は内周面から外周面に向かって幅寸法が大きくされていれば何等限定されるものではないが、特に概逆三角形とされることが好適であり、より好適には概逆二等辺三角形の断面形状とされる。
上記発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に係るステントであって、前記骨格の断面形状において、周方向両側面の夾角が、外周面の円弧における中心角よりも大きくされているものである。
本態様に従う構造のステントでは、縮径前の状態で、骨格断面における周方向両側面が、径方向線よりも内周側に向かって相互に接近する方向に入り込むようにされる。それ故、縮径された際にも、周方向で隣り合う骨格同士が、内周側で早期に当接してしまって縮径量が制限されてしまうことが回避されることとなる。その結果、ステント外周面における骨格の周方向長さを確保して血管等への局所的な押付力の作用を回避しつつ、一層小さな径寸法まで縮径変形可能なステントが実現可能になる。
上記発明の第4の態様は、前記第2又は第3の態様に係るステントであって、前記骨格の断面形状において、周方向両側面の夾角θが、15°≦θ≦90°とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、周方向両側面の夾角が比較的小さくされることから、骨格の断面形状における周方向寸法が小さく抑えられる。これにより、例えばステントの周方向の波数(周方向における繰り返し単位の数)が比較的大きい場合であっても、ステント全体の外径寸法が大きくなることが回避されて、縮径時においても安定して小径とされ得る。
上記発明の第5の態様は、前記第1〜第4の態様に係るステントにおいて、前記骨格の断面形状が長さ方向で変化して異形筒形状とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、血管等の異形状の管腔へ留置される場合でも、管腔に精度良く対応した形状が実現されて、施術者にとって手技の労力負担が軽減されると共に、患者にとって生体への負担等が軽減される。また、管腔に対応した形状で留置されたステント自体においても、歪や残留応力が軽減されて、良好な形状安定性や耐久性が実現可能になる。
上記発明の第6の態様は、第5の態様に係るステントにおいて、分岐部が設けられて筒部の数が長さ方向で変化した異形筒形状とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、血管等の管腔におけるバイファーケーションなどの分岐部分へ容易に適用することのできるステントが実現され得る。
上記発明の第7の態様は、第5又は第6の態様に係るステントにおいて、長さ方向で径寸法が変化した異形筒形状とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、血管等の管腔において内径が長さ方向で変化しているような部位へ良好に適用することのできるステントが実現され得る。なお、本態様のステントは、第6の態様と組み合わされることにより、分岐部を有するステントにおいて少なくとも一つの筒部がテーパ筒形状等とされることも可能である。
上記発明の第8の態様は、第1〜第7の何れかの態様に係るステントにおいて、軸方向の少なくとも一方の端部における剛性が中央部分よりも大きいものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、長さ方向の所定の部分にのみマスキングを施して電鋳やエッチング、溶射、蒸着で形成することにより、特定部分の厚さ寸法を大きくしたり材質を異ならせることなどができて、剛性を調節することが可能となる。特に本態様のステントでは、構造上の理由から変形し易い軸方向端部の剛性が大きくされることで、例えば管腔に留置された状態で軸方向端部が管腔から離れるなどして再狭窄の原因となることも効果的に防止され得る。
すなわち、例えば血管に留置された状態で軸方向端部が当該血管から離れることにより、血流の乱れが惹起されて血栓が形成されるおそれが向上することから、ステントの軸方向端部の剛性を大きくして安定して血管内に留置することにより、ステント留置位置における再狭窄が効果的に防止され得る。
上記発明の第9の態様は、第8の態様に係るステントであって、前記中央部分に比べて剛性が大きくされた前記端部が、軸方向外側の末端部分において、剛性を小さくされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、ステントの端部における末端部分の剛性が小さくされていることから、ステントの末端部分が管腔に及ぼす負荷を抑えることができる。なお、骨格が金属で形成されることから、かかる末端部分における剛性の調節は、ステントの末端部分のみを柔らかい金属で形成したり、肉厚寸法や幅寸法を小さくしたりすることで実現され得る。また、好適には、末端部分の剛性が中央部分と略同じか、またはそれより小さく設定される。
上記発明の第10の態様は、第1〜第9の何れかの態様に係るステントにおいて、前記骨格が、複数種類の金属の積層構造とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、複数種類の金属の積層構造を、電鋳や溶射、蒸着により形成することが可能となる。例えば、コア層よりも表層の方が延性の大きい金属材を採用することで、コア層でステント強度を確保しつつステントの拡縮や変形に際しての表面の応力を緩和してクラック等の発生を防止することも可能となる。また、コア層よりも表層の方がイオン化傾向が小さい金属材を採用することで、コア層で要求強度特性を確保しつつ、表層によって生体親和性やX線不透過性等を実現することも可能となる。なお、本態様では、骨格の少なくとも一部が積層構造とされていれば良く、骨格の全体が積層構造とされている必要はない。
上記発明の第11の態様は、第1〜第10の何れかの態様に係るステントにおいて、前記骨格には、部分的に強度が小さくされた脆弱部が電鋳と溶射と蒸着との少なくとも1つによって形成されているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、骨格に脆弱部を設けることで、例えば留置後に分断されて管腔形状に沿ったステント形状を得ることや、留置処置に際して切ったり変形させたりして分岐用開口部を手技で形成することが容易に実現され得る。
特に、かかる脆弱部を電鋳、エッチング、溶射、蒸着によって形成することにより、骨格における他の部分と別体で作製して後固着する等という面倒な操作を必要とすることがなく、高度な寸法精度で設けることが可能になる。尤も、骨格の本体と脆弱部とは、電鋳と溶射と蒸着のうち同じ手段で形成される必要はなく、相互に異なる手段で形成されてもよい。また、脆弱部の位置や形状を任意に設定することができて、設計自由度の向上が図られ得る。
上記発明の第12の態様は、第11の態様に係るステントにおいて、前記脆弱部が前記骨格における他の部分よりも小さな断面積で変形容易とされているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、脆弱部を骨格における他の部分よりも、例えば薄く形成してステントの屈曲を更に容易にすることで、脆弱部が安定して切断される。特に、脆弱部が電鋳や溶射、蒸着により形成されることから、例えば脆弱部のみの厚さ方向における薄肉化や材質の変更等が可能となる。
上記発明の第13の態様は、第1〜第12の何れかの態様に係るステントにおいて、骨格には、表面に薬剤が収容される薬剤収容凹所が設けられているものである。
本態様に従う構造とされたステントでは、骨格が電鋳や溶射、蒸着で形成されていることから、骨格の表面に対して薬剤を収容する薬剤収容凹所を成形と同時に設けたり、凸所を成形と同時に設けて相対的に凹となる薬剤収容凹所を設けることも可能となる。そして、表面の凹凸構造によって、薬剤収容凹所に薬剤を保持させて管腔内へ留置することも可能となる。なお、本態様における薬剤収容凹所は、筒形状とされた周壁の内周面と外周面の何れの表面にも形成され得る。また、本態様における薬剤収容凹所は、有底形状だけでなく、電鋳等により形成される貫通孔であってもよい。
また、本態様における薬剤収容凹所のサイズは、開口寸法が10〜30μm程度とされることが望ましく、それによって、患者の異物感が一層低減されると共に、ステントの強度等への悪影響も可及的に回避される。
このような上記発明についても各態様の具体的な記載によって限定されることなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施され得るものであり、また、そのような実施態様も、当該発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも当該発明の範囲内に含まれる。
更にまた、図27に示す態様では、軸方向の両端部分が厚肉とされることで剛性が大きくされていたが、図22に示す態様におけるストレート形状のステントにおいて軸方向両端部分として剛性の大きい金属を採用したり、図27に示す態様におけるステントにおいて厚さ寸法を軸方向全長に亘って略一定として、軸方向両端部分として剛性の大きい金属を採用することにより、軸方向両端部分の剛性を大きくしてもよい。
なお、図22,図27,図28に示す各態様では、ストラット102の断面形状における周方向幅寸法が外周側から内周側に向って次第に小さくなる形状として概逆三角形が例示されていたが、例えば逆台形でもよいし、内周側に凸となる半円状であってもよい。尤も、この発明では、前述の実施例2のステント118のように、骨格断面の周方向幅寸法が外周側から内周側に向って次第に大きくなる異形構造とすることも可能である。かかる形状としても例示の概三角形の他、例えば台形や外周側に凸となる半円状であってもよい。これにより、骨格におけるステント外周面の血管への押付面積を小さくして押付力を集中的に作用させることで、ステントの血管への位置決め作用を向上させて、バルーン等による拡張等に際してのステントの位置ずれを抑えることもできる。また、血管壁に対して押付力が集中的に作用させられることから、石灰化病変の如き硬質化した血管に対しても効果的な拡張作用が発揮され得るだけでなく、硬質化していない血管に対してもより小さい拡張力をもって所望の寸法まで拡張することが可能となる。
さらに、当該発明では、骨格断面の周方向幅寸法を、ステント径方向の中間部分で大きくして外周側と内周側の両方に向かって次第に小さくなる異形構造、即ち、例えば菱形状断面や円形断面、楕円形断面とすることも可能である。これにより、ステントの縮径に際して障害となりやすい、周方向で隣り合う骨格同士の内周端における周方向での相互干渉を抑えつつ、骨格の外周面では血管への押付力を集中的に作用させて位置決め性能の向上、および血管の拡張性能の向上を図ることも可能になる。
また、上記発明の前記態様に従う構造とされたステントは、脳動脈瘤治療用におけるフローダイバータの場合にも適用される。フローダイバータとは、例えば脳動脈瘤の血管内治療のために改良された間隙率の低い血流迂回デバイス等のことである。なお、上記発明は、フローダイバータやステントグラフトなどのカバードステントにおけるカバーを除いたステント本体にも適用される。また、上記発明の前記態様に従う構造とされたステントは、ステントレトリバーシステムにおける先端部分の場合にも適用される。ステントレトリバーシステムとは、例えば網で効率よく血栓を圧しつけ絡めて取り除くための網型筒形状の血栓回収デバイス等のことである。