以下に、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《実施形態1》
この実施形態1では、排気マニホールドの熱量を推定し、その推定した排気マニホールドの熱量に基づいて高圧燃料ポンプ内の燃料にベーパが発生するか否かを推定する技術が適用されたエンジンの制御装置について、ターボ過給機付きのエンジンの制御装置を例に挙げて説明する。
〈エンジンの構成〉
図1に、エンジン1の概略構成のブロック図を示す。
エンジン1は、いわゆる火花点火式直噴エンジンであって、主に、図1に示すように、エンジンルームに配置された、吸気と燃料との混合気を燃焼させるエンジン本体3と、エンジン本体3に導入する吸気(空気)が流通する吸気通路5と、エンジン本体3内での混合気の燃焼により発生した排気を排出する排気通路7と、排気のエネルギーを利用して吸気を過給するターボ過給機9と、エンジン本体3に燃料を供給する燃料供給システム11と、当該エンジン1全体を制御するECU(Engine Control Unit)13と、を備える。
−エンジン本体−
エンジン本体3は、複数の気筒15(例えば4つ、図1では1つのみ示す)が直列に設けられたシリンダブロック17と、このシリンダブロック17上に配置されたシリンダヘッド19とを備える。これらシリンダブロック17及びシリンダヘッド19の内部には、図示は省略するが、エンジン冷却水が流れるウォータジャケットが設けられている。
シリンダブロック17の各気筒15内には、混合気を燃焼させる燃焼室21をシリンダヘッド19との間に区画するピストン23が往復動可能に嵌め入れられている。このピストン23は、コネクティングロッド25を介してクランクシャフト27に連結されている。また、シリンダブロック17には、各気筒15毎に、燃焼室21に向けて燃料(例えばガソリン)を噴射する燃料噴射弁29が設けられている。この燃料噴射弁29は、ECU13からの制御信号により、ピストン23の往復運動によって燃焼室21内の空気を圧縮する圧縮行程の上死点付近で燃料を噴射する。
シリンダヘッド19には、各気筒15毎に、燃焼室21の天井面にそれぞれ開口した吸気ポート31及び排気ポート33が形成されている。吸気ポート31には、その燃焼室21側の開口を開閉する吸気バルブ35が設けられている。他方、排気ポート33には、その燃焼室21側の開口を開閉する排気バルブ37が設けられている。また、シリンダヘッド19の内部には、チェーンや伝動ベルトなどを含む図示しない動力伝達機構を介してクランクシャフト27に連結された吸気カムシャフト39及び排気カムシャフト41が軸支されている。
吸気カムシャフト39は、クランクシャフト27に連動して回転することにより、吸気バルブ35を駆動する。この駆動によって、吸気バルブ35は、吸気ポート31を所定のタイミングで開閉するように往復駆動する。同様に、排気カムシャフト41は、クランクシャフト27に連動して回転することにより、排気バルブ37を駆動する。この駆動によって、排気バルブ37は、排気ポート33を所定のタイミングで開閉するように往復駆動する。
そして、シリンダヘッド19には、吸気カムシャフト39の回転角位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(VVT:Variable Valve Timing、以下「吸気VVT」と称する)43と、排気カムシャフト41の回転角位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(以下「排気VVT」と称する)45とが設けられている。
吸気VVT43は、吸気カムシャフト39の位相を進角又は遅角させることによって、吸気バルブ35の開時期及び閉時期を連続的に変更する。吸気VVT43は、例えば、電磁バルブを用いて構成されている。他方、排気VVT45は、排気カムシャフト41の位相を進角又は遅角させることによって、排気バルブ37の開時期及び閉時期を連続的に変更する。排気VVT45は、例えば、油圧式のソレノイドバルブを用いて構成されている。
シリンダヘッド19にはさらに、各気筒15毎に、燃焼室21内において燃料噴射弁29から供給された燃料と吸気ポート31から吸い込んだ吸気との混合気に点火する点火プラグ47が設けられている。この点火プラグ47は、ECU13からの制御信号により所定のタイミングで火花を発生し、その火花によって混合気を爆発燃焼させる。この爆発燃焼によって、ピストン23が気筒15内を往復運動し、そのピストン23の往復運動をクランクシャフト27が回転運動に変換してトルク(回転動力)として出力する。
また、エンジンルームには、エンジン1の各種部品を冷却する電動ファン48が設けられている。電動ファン48は、エンジンルーム前端に配置された、エンジン冷却水が流れるラジエータの直ぐ後側に配置されており、冷却風を送り出してエンジンルーム内の熱気を後方に掃気する。エンジンルーム内においては特に、後述する排気マニホールド79周辺の温度が高温になり易いため、エンジン1は、排気マニホールド79の周辺に電動ファン48による冷却風が導入されるように構成されている。
−吸気通路−
吸気通路5には、上流側から順に、外部から空気が吸入される際にその空気中に含まれるゴミ等の異物を取り除いて吸気を浄化するエアクリーナ49と、通過する吸気を昇圧させる、ターボ過給機9のコンプレッサ51と、通過する吸気を冷却するインタークーラ53と、吸気通路5内の流路面積を変化させてエンジン本体3への吸気の供給量を調節するスロットルバルブ55と、エンジン本体3に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク57とが設けられている。
吸気通路5のうちサージタンク57よりも下流側の部分は、詳しく図示しないが、エンジン本体3の各気筒15毎に分岐した複数の独立吸気通路で構成されている。これら複数の独立吸気通路は、吸気マニホールド59により構成されている。サージタンク57は、この吸気マニホールド59に含まれている。
また、吸気通路5には、コンプレッサ51によって過給された吸気の一部をコンプレッサ51の上流側に還流するためのエアバイパス通路61が設けられている。このエアバイパス通路61には、当該エアバイパス通路61を流通する吸気の流量を開閉動作により調節するエアバイパスバルブ63が設けられている。エアバイパスバルブ63は、例えば、エアバイパス通路61を完全に閉じる閉状態と完全に開く開状態とに切り換え可能な、いわゆるオンオフバルブである。
−排気通路−
排気通路7には、上流側から順に、通過する排気によって回転させられ、その回転動作によってコンプレッサ51を回転させる、ターボ過給機9のタービン65と、排気に含まれるNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)等の有害な大気汚染物質を浄化する排気浄化装置67とが設けられている。
排気浄化装置67は、エンジン本体3寄りに設けられた上流側触媒コンバータ71と、この上流側触媒コンバータ71よりも排気通路7の排出口側に設けられた下流側触媒コンバータ73とを併用してなる。これら上流側触媒コンバータ71及び下流側触媒コンバータ73は、詳しくは図示しないが、筒状のケーシング内に、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、大気汚染物質を浄化可能な排気浄化用の触媒71a,73aが担持された担体を収容して構成されている。
さらに、排気通路7には、当該排気通路7に流通する排気を、タービン65をバイパスして流すための排気バイパス通路75が設けられている。この排気バイパス通路75には、当該排気バイパス通路75を流通する排気の流量を開閉動作によって調節するウェイストゲート(以下「WG」と称する)バルブ77が設けられている。このWGバルブ77は、排気バイパス通路75の開度を全閉状態(開度0%)と全開状態(開度100%)との間で連続的又は多段階に変化させることが可能となっている。
この排気通路7の上流側の部分は、詳しくは図示しないが、各気筒15毎に分岐して各気筒15の排気ポート33にそれぞれ接続された複数の独立排気通路と、これら複数の独立排気通路が集合する集合部とを有する排気マニホールド79によって構成されている。
この排気マニホールド79には、各気筒15の排気ポート33から複数の気筒15の燃焼順に応じて間欠的に高温の排気が排出される。排気マニホールド79は、各気筒15の排気ポート33から次々と流入する排気によって加熱されるため、エンジンルーム内において高温な熱源の1つとなる。
−燃料供給システム−
図2に、燃料供給システム11の構成を示す。
燃料供給システム11は、図1及び図2に示すように、燃料を貯留する燃料タンク81と、この燃料タンク81内の燃料を燃料噴射弁29に供給する燃料供給路83と、を備える。燃料供給路83には、燃料タンク81内の燃料を昇圧して圧送する低圧燃料ポンプ85と、この低圧燃料ポンプ85によって圧送された燃料を濾過する燃料フィルタ87と、低圧燃料ポンプ85による燃料のフィード圧を調整する燃圧レギュレータ89と、低圧燃料ポンプ85によって昇圧された燃料をさらに昇圧させる高圧燃料ポンプ91とが設けられている。
低圧燃料ポンプ85は、燃料タンク81内に設置された、燃料を汲み上げる電動式のフィードポンプであって、吐出する燃料の圧力を可変に構成されている。この低圧燃料ポンプ85は、車両に搭載された図示しないバッテリにより駆動される。燃料フィルタ87は、燃料供給路83のうち低圧燃料ポンプ85と高圧燃料ポンプ91との間の部分を構成する低圧燃料配管83aに設けられている。
燃圧レギュレータ89は、低圧燃料配管83aから分岐した分岐管93に接続されており、低圧燃料配管67a内の燃料の圧力を下限値としての所定の保持圧FP1(例えば300kPa)と上限値としての所定のリリーフ圧FP2(例えば600kPa)との間で調整する。この燃圧レギュレータ89は、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定の保持圧FP1未満にならないように開閉動作する燃圧保持バルブ95と、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定のリリーフ圧FP2よりも高くならないように開閉動作するリリーフバルブ97と、を備える。
燃圧保持バルブ95は、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定の保持圧FP1よりも高いときに開く。燃圧保持バルブ95が開状態にあるときには、低圧燃料配管83a内の燃料が当該燃圧保持バルブ95を介して燃料タンク81に戻される。それにより、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が低下する。また、燃圧保持バルブ95は、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定の保持圧FP1まで低下したときに閉じる。燃圧保持バルブ95が閉状態にあるときには、低圧燃料配管83a内の燃料が当該燃圧保持バルブ95を介して燃料タンク81に戻ることが禁止される。このような燃圧保持バルブ95の開閉動作によって、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定の保持圧FP1以上に調整される。
リリーフバルブ97は、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定のリリーフ圧FP2よりも高くなったときに開く。リリーフバルブ97が開状態にあるときには、低圧燃料配管83a内の燃料が当該リリーフバルブ97を介して燃料タンク81に戻される。それにより、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が低下する。また、リリーフバルブ97は、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定のリリーフ圧FP2未満であるときに閉じる。リリーフバルブ97が閉状態にあるときには、低圧燃料配管83a内の燃料が当該リリーフバルブ97を介して燃料タンク81に戻ることが禁止される。このようなリリーフバルブ97の開閉動作によって、低圧燃料配管83a内の燃料の圧力が所定のリリーフ圧FP2以下に調整される。
高圧燃料ポンプ91は、排気マニホールド59に近い位置でシリンダヘッド19に取り付けられてエンジンルームに配置されており、排気カムシャフト39により駆動される。このため、高圧燃料ポンプ91は、エンジン1運転中におけるエンジン本体3からの受熱は勿論、エンジン1停止後における排気マニホールド59からの受熱により高温となり易い。すなわち、エンジン1を運転状態から停止させた後に暫くすると、エンジン1運転中に高温となった排気マニホールド59の熱が高圧燃料ポンプ91にまで伝達されて、高圧燃料ポンプ91内の燃料の温度が上昇し、それにより燃料が気化して高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生するおそれがある。
この高圧燃料ポンプ91は、プランジャ式のポンプであって、燃料供給路83に流通する燃料の圧力を高圧(例えば30MPa以上)に昇圧するように構成されている。具体的には、高圧燃料ポンプ91は、図2に示すように、上下方向の延びるように配設されたシリンダ99と、シリンダ99に内挿されたプランジャ101と、プランジャ101をシリンダ99内で往復運動させる駆動機構103と、プランジャ101の往復運動に伴い容積が変化するポンプ室105と、低圧燃料配管83aから流入し且つポンプ室105に吸入される燃料が流通する低圧燃料通路107と、ポンプ室105から押し出された燃料が流通する高圧燃料通路109と、を備える。
駆動機構103は、プランジャ101の下端が固定されると共に、上下方向に往復運動可能に構成されたピストン111と、ピストン111を下向きに付勢するスプリング113と、スプリング113の付勢力によってピストン111が押し付けられる略三角形状のポンプカム115と、を備える。ポンプカム115は、排気カムシャフト41に取り付けられており、排気カムシャフト41に連動して回転することで、スプリング113の付勢力に抗してピストン111、ひいてはプランジャ101を上下方向に往復運動させる。ポンプ室105内の燃料は、このプランジャ101の往復運動によるポンプ室105の容積変動を以て昇圧される。
また、高圧燃料通路109のうちポンプ室105の出口側部分には、ポンプ室105から吐出口側に送られた燃料がポンプ室105に逆流するのを防止するチェックバルブ117が設けられている。また、低圧燃料通路107のうちポンプ室105の入口側部分には、ポンプ室105での燃料の昇圧力を調整するスピルバルブ119が設けられている。スピルバルブ119は、電磁式のバルブであって、低圧燃料通路107の流路抵抗を調整するバルブ本体121と、バルブ本体121を閉側に付勢するバルブスプリング123と、バルブ本体121を開側に駆動するソレノイド125と、を備える。
ソレノイド125によってバルブ本体121が開側に駆動されると、ポンプ室105内で昇圧された燃料のうちバルブ本体121を介して低圧燃料通路107に逆流する量が多くなり、チェックバルブ117を通って吐出口から吐出される量が少なくなる。それにより、高圧燃料ポンプ91による燃料の昇圧力が低下する。他方、バルブ本体121がバルブスプリング123の付勢力によって閉側になると、ポンプ室105内で昇圧された燃料のうちバルブ本体121を介して低圧燃料通路107に逆流する量が少なくなり、チェックバルブ117を通って吐出口から吐出される量が多くなる。それにより、高圧燃料ポンプ91による燃料の昇圧力が上昇する。このようなスピルバルブ119の開閉動作によって高圧燃料ポンプ91での昇圧力が調整される。
高圧燃料ポンプ91では、低圧燃料通路107の方が高圧燃料通路109よりも燃料の圧力が低いため、低圧燃料通路107内の燃料(以下「低圧側燃料」と称する)に上述したベーパが発生し易い。高圧燃料ポンプ91によって昇圧された燃料は、燃料を高圧状態で蓄えることが可能なコモンレール127に供給される。コモンレール127には、気筒15に相当する数(図2に示す例では4つ)の燃料噴射弁29が設けられている。燃料噴射弁29が開くと、コモンレール127に高圧で蓄えられている燃料が燃料噴射弁29から燃焼室21内に噴射される。
−センサ類−
図1に示すエンジン1には、各種のセンサが設けられている。
具体的には、エンジン本体3においては、クランクシャフト27の回転角度を検出するクランク角センサ129と、吸気カムシャフト39のカム角度を検出する吸気カム角度センサ131と、排気カムシャフト41のカム角度を検出する排気カム角度センサ133とが設けられている。エンジン本体3にはさらに、ウォータジャケット内のエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ135が設けられている。
吸気通路5においては、エアクリーナ49とコンプレッサ51との間で吸気流量を検出するエアフローセンサ137が設けられている。このエアフローセンサ137は、エアクリーナ49寄りの部分に配置されており、吸気温度を検出する温度センサを内蔵している。また、コンプレッサ51とスロットルバルブ55との間で且つインタークーラ53の下流側の吸気通路5には、ターボ過給機9により圧縮された空気の圧力、つまり過給圧を検出する圧力センサ139が設けられている。
吸気通路5にはさらに、スロットルバルブ55の開度を検出するスロットル開度センサ141が設けられている。また、スロットルバルブ55の下流側の吸気通路5、詳しくはサージタンク57には、当該サージタンク57内の圧力であるインマニ圧を検出する圧力センサ143が設けられている。この圧力センサ143には、サージタンク57内の温度であるインマニ温を検出する温度センサが内蔵されている。
排気通路7においては、WGバルブ77の開度であるWG開度を検出するWG開度センサ145が設けられている。さらに、タービン65と上流側触媒コンバータ71との間の排気通路7には、リニア空燃比センサ(LAFS:Linear A/F Sensor)からなるフロントO2センサ147が設けられている。また、上流側触媒コンバータ71と下流側触媒コンバータ73との間の排気通路7には、ラムダセンサからなるリアO2センサ149が設けられている。これらフロントO2センサ147及びリアO2センサ149の検出値は、燃焼室21内の空燃比をフィードバック制御するのに利用される。
燃料供給システム11においては、図2に示すように、高圧燃料ポンプ91の低圧燃料通路107内の燃料の圧力及び温度を検出する燃圧燃温センサ151が設けられている。その他、エンジン1は、車両の速度を検出する車速センサ155や、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルセンサ157、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ158等を備える。
クランク角センサ129は、検出したクランクシャフト27の回転角度に対応する検出信号S129をECU13に供給する。吸気カム角度センサ131及び排気カム角度センサ133は、それぞれ検出したカム角度に対応する検出信号S131,S133をECU13に供給する。水温センサ135は、検出したエンジン冷却水の温度に対応する検出信号S135をECU13に供給する。エアフローセンサ137は、検出した吸気流量に対応する検出信号S137aと、内蔵する温度センサにより検出した吸気温度に対応する検出信号S137bとをECU13に供給する。圧力センサ139は、検出した吸気温度に対応する検出信号S139をECU13に供給する。スロットル開度センサ141は、検出したスロットルバルブ55の開度に対応する検出信号S141をECU13に供給する。圧力センサ143は、検出したインマニ圧に対応する検出信号S143aと、内蔵する温度センサにより検出したインマニ温に対応する検出信号S143bとをECU13に供給する。WG開度センサ145は、検出したWGバルブ77の開度に対応する検出信号S145をECU13に供給する。フロントO2センサ147及びリアO2センサ149は、それぞれ検出した排気中の酸素濃度に対応する検出信号S147,S149をECU13に供給する。燃圧燃温センサ151は、検出した燃料の圧力に対応する信号S151aと、検出した燃料の温度に対応する信号S151bとをECU13に供給する。車速センサ155は、検出した車速に対応する検出信号をECU13に供給する。アクセルセンサ157は、検出したアクセルペダルの踏み込み量に対応する検出信号をECU13に供給する。ブレーキセンサ158は、検出したブレーキペダルの踏み込み量に対応する検出信号をECU13に供給する。
−ECU−
ECU13は、CPU(Central Processing Unit)と、CPU上で実行される各種のプログラムや各種のデータを格納するためのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の如き内部メモリとを備えるコンピュータにより構成される。内部メモリに格納される各種のプログラムには、OS(Operating System)などの基本制御プログラムやOS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムが含まれる。ECU13は、上述した各種センサから供給された検出信号に基づいて、種々の制御や処理を行う。
〈ECUの機能構成〉
図3に、ECU13の機能ブロック図を示す。
ECU13は、機能的には、図3に示すように、燃料噴射弁29等の制御の基本値を設定するベース設定部159と、吸気バルブ35及び排気バルブ37のオーバーラップ期間を制御するバルブ制御部161と、低圧燃料ポンプ85の駆動を制御する低圧燃料ポンプ制御部163と、排気マニホールド79の熱量(以下「エキマニ熱量」と称する)を推定する熱量推定部165と、高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生するか否かを推定するベーパ発生推定部167と、高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生を抑制すると共にベーパを消失させるベーパ抑制処理を実行するベーパ抑制部169と、エンジン本体3が停止している時間を計測する停止時間計測部171と、各種データを記憶する記憶部173と、を備える。
ベース設定部159は、エンジン1の運転状態に基づいて要求される出力トルク(以下「目標トルク」と称する)を求め、目標トルクに応じて、燃料噴射弁29の噴射量、吸気バルブ35の開閉時期、排気バルブ37の開閉時期、点火プラグ47の点火時期、スロットルバルブ55の開度、及びWGバルブ77の開度などの基本値を設定する。各基本値は、目標トルクに応じて様々に変更される。
バルブ制御部161は、基本的には、ベース設定部159により設定された吸気バルブ35の開閉時期及び排気バルブ37の開閉時期を実現するように吸気VVT43及び排気VVT45を制御する。エンジン1の運転状態によっては、吸気行程中に吸気バルブ35の開閉時期及び排気バルブ37の開閉時期が設定される場合がある。そのような場合、バルブ制御部161は、吸気行程中に吸気バルブ35及び排気バルブ37の両方が開くバルブオーバーラップを実行する。バルブオーバーラップを実行することによって、吸気ポート31を介して気筒15内に取り込まれた新気がそのまま排気ポート33から排出される。バルブオーバーラップは、例えば、気筒15の掃気を促進したいとき、気筒15の温度を低下させたいとき、タービン65を通過する排気の流量を増加させたいとき等に実行される。
低圧燃料ポンプ制御部163は、キーオフによりエンジン1が停止されると、低圧燃料ポンプ85の駆動を停止する。図4に、エンジン1の停止後における高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の残圧特性を示す。図4に示すように、エンジン1を運転状態から停止させることに伴って低圧燃料ポンプ85が停止されると、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の圧力は、その後、所定の保持圧FP1までは直ぐに低下し、それ以降は徐々に低下していく。
〈排気マニホールドの熱量推定〉
熱量推定部165は、排気マニホールド79での熱の収支を演算することにより、エキマニ熱量を推定する。熱量推定部165は、熱の収支として、少なくとも、(i)排気の流通による受熱、(ii)走行風への放熱、(iii)電動ファン48による冷却風への放熱を考慮する。
具体的には、熱量推定部165は、まず、気筒15内で燃焼し、排出される排気の温度(以下「排出時温度」と称する)T0を推定する。排出時温度T0は、エンジン回転数、充填効率、点火時期(遅角量)、空燃比に基づいて算出される。ここで、エンジン回転数は、クランク角センサ129の検出値から求められる。記憶部173には、エンジン回転数、充填効率、点火時期、空燃比に応じた排出時温度T0が規定された排気温度マップが予め記憶されている。図5に、排気温度マップのイメージ図を示す。図5に示す排気温度マップにおいては、排出時温度T0は、エンジン回転数Neが高くなるほど、充填効率Ceが大きくなるほど、点火時期が遅くなるほど、空燃比A/Fが大きくなるほど、高くなる。熱量推定部165は、エンジン回転数Ne、充填効率Ce、点火時期、空燃比A/Fを排気温度マップに照らし合わせることによって排出時温度T0を求める。なお、排気温度マップを含め、排気マニホールド79の熱量推定に用いる各種マップは、エンジン1毎に固有のものであり、実測等によって予め求められる。そのため、排気温度マップや後述する各種マップは、一例に過ぎず、エンジン1によっては異なる特性となり得る。
また、熱量推定部165は、新気吹き抜けにより冷却された排気ポート33への放熱に起因する排気の低下温度(排気温度の低下分)ΔTeを求める。上述したオーバーラップによって排気ポート33を新気が吹き抜けると、吹き抜けた新気により排気ポート33、すなわちシリンダヘッド19が冷却される。そのことで、排気ポート33を通過する排気も冷却され、排気温度が低下する。新気吹き抜けに起因する排気の低下温度ΔTeは、吹き抜け流量が多くなるほど大きくなる。
まず、熱量推定部165は、吹き抜け流量を算出する。具体的には、熱量推定部165は、吸気圧(圧力センサ143により検出されたインマニ圧力)、吸気バルブ35及び排気バルブ37のオーバーラップ量(すなわちオーバーラップ期間)に基づいて吹き抜け率の基本値を算出する。オーバーラップ量は、吸気バルブ35の開閉時期及び排気バルブ37の開閉時期から求められる。記憶部173には、吸気圧及びオーバーラップ量に応じた吹き抜け率の基本値が規定された吹き抜け率マップが予め記憶されている。熱量推定部165は、吸気圧及びオーバーラップ量を吹き抜け率マップに照らし合わせることによって、吹き抜け率の基本値を求める。また、記憶部173には、エンジン回転数に応じた、吹き抜け率の補正項が規定された補正マップが予め記憶されている。熱量推定部165は、エンジン回転数を補正マップに照らし合わせることによって、吹き抜け率の補正項を求める。さらに、熱量推定部165は、吹き抜け率の基本値に吹き抜け率の補正項を乗算して、吹き抜け率を求める。さらに、熱量推定部165は、吸気流量に吹き抜け率を乗算することによって吹き抜け流量を算出する。
次に、熱量推定部165は、新気吹き抜けに起因する排気の低下温度ΔTeを求める。記憶部173には、吹き抜け流量に応じた低下温度ΔTeが規定された吹き抜け冷却マップが予め記憶されている。図6に、吹き抜け冷却マップのイメージ図を示す。図6に示す吹き抜け冷却マップにおいては、低下温度ΔTeは、吹き抜け流量が大きくなるほど大きくなる。熱量推定部165は、吹き抜け流量を吹き抜け冷却マップに照らし合わせることによって低下温度ΔTeを求める。
そして、熱量推定部165は、排出時温度T0から低下温度ΔTeを減算することによって排気の温度ExTを算出する。
次いで、熱量推定部165は、(i)気筒15から排出された排気からの排気マニホールド79の受熱によって排気マニホールド79に付与される熱量(以下「エキマニ受熱量」と称する)ΔQiを推定する。エキマニ受熱量ΔQiは、排気マニホールド79内における排気が流通する通路表面の面積と、先に推定した排気の温度ExTと、現在の排気マニホールド79の温度(以下「現エキマニ温度」と称する)とに基づいて算出される。現エキマニ温度は、エンジン1始動時のエキマニ温度(以下「初期エキマニ温度」という)と、エンジン1の始動後その運転中において、排気から排気マニホールド79に付与される熱量と、後述する走行風への放熱及び電動ファン48から送られる冷却風への放熱によって排気マニホールド79から放出される熱量と、排気マニホールド79の熱容量とに基づいて、逐次算出される。初期エキマニ温度は、停止時間計測部171によって計測されたエンジン1の停止時間と、エアフローセンサ137の検出値(吸気温度)から推定される外気温度とに基づいて推定される。
また、熱量推定部165は、(ii)走行風への放熱によって排気マニホールド79から放出される熱量(以下「走行エキマニ放熱量」と称する)ΔQe1を推定する。車両の走行中においてエンジン本体3及び排気系の周囲には、走行風が吹き抜けており、この走行風によりエンジン本体3及び排気系が冷却される。走行エキマニ放熱量ΔQe1は、車速センサ155によって検出された車速と、エアフローセンサ137の検出値(吸気温度)から推定される外気温度とに基づいて算出される。記憶部173には、車速、外気温度に応じた走行エキマニ放熱量ΔQe1が規定された車速放熱マップが予め記憶されている。図7に、車速放熱マップのイメージ図を示す。図7に示す車速放熱マップにおいては、走行エキマニ放熱量ΔQe1は、車速が速くなるほど、外気温が低下するほど、大きくなる。熱量推定部165は、車速及び外気温度を車速放熱マップに照らし合わせることによって走行エキマニ放熱量ΔQe1を求める。
さらに、熱量推定部165は、(iii)電動ファン48による冷却風への放熱によって排気マニホールド79から放出される熱量(以下「冷却エキマニ放熱量」と称する)ΔQe2を推定する。車両の走行中においてエンジン本体3及び排気系の周囲には、電動ファン48による冷却風が吹き抜けており、この冷却風によりエンジン本体3及び排気系が冷却される。冷却エキマニ放熱量ΔQe2は、電動ファン48のモータの逆起電力に基づいて求められるファン回転数と、エアフローセンサ137の検出値(吸気温度)から推定される外気温度に基づいて算出される。記憶部173には、ファン回転数、外気温度に応じた冷却エキマニ放熱量が規定された冷却放熱マップが予め記憶されている。図8及び図9に、冷却放熱マップのイメージ図を示す。冷却放熱マップにおいては、冷却エキマニ放熱量ΔQe2は、図8に示すように電動ファン48のファン回転数が高くなるほど大きくなり、図9に示すように外気温度が低下するほど大きくなる。熱量推定部165は、電動ファン48のファン回転数及び外気温度を冷却放熱量マップに照らし合わせることによって冷却エキマニ放熱量ΔQe2を求める。
そして、熱量推定部159は、エキマニ受熱量ΔQiから走行エキマニ放熱量ΔQe1と冷却エキマニ放熱量ΔQe2とを減算することによって、エキマニ熱量を算出する。
〈ベーパの発生推定〉
ベーパ発生推定部167は、熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量に基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定する。具体的には、ベーパ発生推定部167は、熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量が所定の閾値以下である場合に、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していないと推定し、当該エキマニ熱量が所定の閾値よりも大きい場合に、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していると推定する。ここでいう「所定の閾値」は、排気マニホールド79からの熱伝達によって高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生する蓋然性の高い値であり、実測等により予め求められる。
〈ベーパ抑制処理〉
ベーパ抑制部は169は、ベーパ発生推定部167によって高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生が推定されたときにベーパ抑制処理を実行する。ベーパ抑制処理では、低圧燃料ポンプ85の駆動によって高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料をリリーフ圧FP2又はその付近の圧力にまで強制的に昇圧させる。それにより、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の気化温度を当該燃料の温度よりも高くし、低圧側燃料にベーパが発生するのを抑制すると共に、既に発生したベーパを液化して消失させる。そして、ベーパ抑制部169は、燃圧燃温センサ151によって検出される燃料の温度がエンジン1の継続運転により上昇するのに応じて低圧燃料ポンプ85による燃料の昇圧力を徐々に低下させてベーパ抑制処理を終了する。
<ベーパ抑制制御>
図10に、この実施形態1におけるベーパ抑制制御のフロー図を示す。ECU13は、上述したベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定とベーパ抑制部169によるベーパ抑制処理とを含むベーパ抑制制御を実行する。
このベーパ抑制制御では、図10に示すように、まず、ステップST001において、ECU13は、エンジン1が始動されたか否かを判定する。具体的には、キーオンされた場合にはエンジン1が始動されたと判定し、キーオフされている場合にはエンジン1が始動されていないと判定する。なお、エンジン1が始動されたか否かの判定は、エンジン回転数やエンジン始動の有無を示すその他の信号に基づいて行ってもよい。このステップST001でエンジン1が始動されていないと判定した場合は、ステップST001を再び行う。また、このステップST001でエンジン1が始動されたと判定した場合には、ステップST002に進む。
ステップST002では、ECU13は、エンジン1が停止されたか否か、換言するとエンジン1が運転中であるか否かを判定する。具体的には、キーオフされていない場合、つまりキーオン状態が維持されている場合には、エンジン1が運転中であると判定し、キーオフされた場合には、エンジン1が停止されたと判定する。このとき、エンジン1が運転中であると判定した場合には、ステップST003に進む。また、エンジン1が停止されたと判定した場合には、ステップST004に進む。
ステップST003では、熱量推定部165は、上述した方法に従ってエキマニ熱量を推定する。そして、記憶部173は、この熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量を記憶する。なお、先に推定されたエキマニ熱量が記憶部173に記憶されている場合には、過去に記憶されたエキマニ熱量に現在のエキマニ熱量を上書き記憶する。これによれば、ステップST002からステップST004に進んだときには、記憶部173にエンジン1停止時のエキマニ熱量が記憶されていることとなる。このステップST003で記憶部173にエキマニ熱量を記憶し終えると、ステップST002に戻って再びエンジン1が停止されたか否かを判定する。
ステップST004では、ECU13は、エンジン1が再始動されたか否かを判定する。エンジン1が再始動されたか否かは、ステップST001と同様な条件で判定する。このとき、エンジン1が再始動されていないと判定した場合には、再びステップST004を行う。また、エンジン1が再始動されたと判定した場合には、ステップST005に進む。
ステップST005では、ベーパ発生推定部167は、記憶部173に記憶されているエンジン1停止時のエキマニ熱量を読み込み、ステップST006に進む。ステップST006では、ベーパ発生推定部167は、読み込んだエンジン1停止時のエキマニ熱量に基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定する。低圧側燃料にベーパが発生するか否かは、エンジン停止時のエキマニ熱量が所定の閾値よりも大きいか否かによって判定する。
このとき、エンジン1停止時のエキマニ熱量が所定の閾値よりも大きいと判定した場合には、ステップST007に進む。ステップST007では、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していると推定されることから、ベーパ抑制部169は、上述したベーパ抑制処理を実行し、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するのを抑制すると共にベーパを液化させて消失させる。そして、このステップST007を終えると、リターンする。また、ステップST005においてエンジン1停止時のエキマニ熱量が所定の閾値以下である場合には、高圧燃料ポンプ91内にベーパは発生していないと推定されることから、ベーパ抑制処理を実行するステップST007を行わずにリターンする。
上記のベーパ抑制制御が実行される場面について、以下に、図11を参照しながら一例を挙げて説明する。図11は、ベーパ抑制制御の一場面における高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の圧力及び温度とエンジン回転数とを示すタイミングチャートである。ここでは、エンジン1を運転した後に停止し、そのままエンジン1を所定時間(例えば数十分〜数時間)に亘って停止させてから再始動させる場合を説明する。
エンジン1を始動させると、図11に示すように、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の温度は、エンジン本体3や排気マニホールド79からの受熱の影響により上昇していく。また、当該低圧側燃料の圧力は、低圧燃料ポンプ85の駆動によって直ぐに所定の保持圧FP1まで高められ、その後(時刻t1まで)は、低圧燃料ポンプ85の駆動により、燃圧燃温センサ151の検出値(低圧側燃料の温度)に応じて燃料が気化しない圧力に調整される。
そして、時刻t1において、キーオフによりエンジン1が停止されると、低圧燃料ポンプ85の駆動も停止されるため、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の圧力は、直ぐに保持圧FP1以下に低下し、それに伴って当該低圧側燃料の気化温度も急速に低下する。一方で、当該低圧側燃料の温度は、エンジン1が停止されても直ぐには下がらないため、燃料にベーパが発生する温度(以下「ベーパ発生温度」と称する)、つまり気化温度を超えてしまうことがある。この例では、図11に破線で囲む期間に、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の温度が気化温度(図11に二点鎖線で示す)を超え、当該低圧側燃料にベーパが発生する。
その後の所定時間を経過した時刻t2において、キーオンによりエンジン1が再始動されると、ベーパ抑制制御により、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生していることが推定され、直ぐさまベーパ抑制処理が実行される。ベーパ抑制処理が実行されると、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料は、低圧燃料ポンプ85の駆動によって強制的にリリーフ圧FP2又はその付近の圧力にまで昇圧される。それにより、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料のベーパ発生温度(気化温度)が高められるので、当該低圧側燃料にベーパが発生することが抑制されると共に、既に発生したベーパが液化して消失する。その結果、高圧燃料ポンプ91がベーパの発生に起因して動作不良を起こすことが回避され、エンジン1の再始動に支障を来すことが防止される。
−実施形態1の効果−
この実施形態1に係るエンジン1のECU13によると、排気マニホールド79の熱量を推定し、その推定した排気マニホールド79の熱量に基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定するようにしたので、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを、排気マニホールド79からの熱伝達による高圧燃料ポンプ91内の燃料の温度上昇分を考慮して精度良く推定することができる。しかも、排気マニホールド79の熱量は、当該排気マニホールド79の熱が高圧燃料ポンプ91に伝達される前に推定できるので、高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生を早期に推定することができる。
そして、高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生が推定されたときにのみ、低圧燃料ポンプ85による燃料の昇圧動作を以て、そのベーパの発生を抑制すると共にベーパを消失させるベーパ抑制処理を実行するようにしたので、エンジン1の始動時に都度、そのような低圧燃料ポンプ85の駆動によるベーパ抑制処理を実行する場合に比べて、低圧燃料ポンプ85の駆動力を無駄に高めずに済み、低圧燃料ポンプ85の駆動に消費されるバッテリの電力を低減することができる。また、低圧燃料ポンプ85による高レベルな燃料の昇圧に起因して高圧燃料ポンプ91や低圧燃料配管83a、それに接続された部品等が損傷するのをなるべく抑え、燃料供給システム11の寿命を確保することができる。
《実施形態2》
この実施形態2に係るエンジン1のECU13では、ベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法が上記実施形態1と異なる。なお、この実施形態2では、ベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法が異なる他は、エンジン1の構成及びその他の制御について上記実施形態1と同様に構成されているので、同一の構成箇所及び制御は上記実施形態1の説明に譲ることにしてその詳細な説明を省略し、ベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法と、そのベーパの発生推定方法を含むベーパ抑制制御とを説明する。
上記実施形態1では、ベーパ発生推定部167は、エキマニ熱量のみに基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定するとしたが、この実施形態2におけるECU13のベーパ発生推定部167は、エキマニ熱量とエンジン停止時間とに基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定する。具体的には、ベーパ発生推定部167は、高圧燃料ポンプ内91の低圧側燃料の温度を推定し、推定した低圧側燃料の温度に基づいて高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生するか否かを推定する。
図12に、この実施形態2におけるベーパ抑制制御のフロー図を示す。この実施形態2のベーパ抑制制御では、図12に示すように、まず、ステップST101において、ECU13は、上記実施形態1のステップST001と同様に、エンジン1が始動されたか否かを判定する。このとき、エンジン1が始動されていないと判定した場合は、ステップST101を再び行う。また、エンジン1が始動されたと判定した場合には、ステップST102に進む。
ステップST102では、ECU13は、上記実施形態1のステップST002と同様に、エンジン1が停止されたか否かを判定する。このとき、エンジン1が運転中であると判定した場合には、ステップST003に進む。また、エンジン1が停止されたと判定した場合には、ステップST004に進む。ステップST103では、上記実施形態1のステップST003と同様に、熱量推定部165は、上述した方法に従ってエキマニ熱量を推定し、記憶部173は、熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量を記憶する。その後に、ステップST102に戻ってエンジン1が停止されたか否かを再び判定する。
ステップST104では、停止時間計測部171は、エンジン本体3が停止されている時間を計測する。次いで行われるステップTS105では、ECU13は、上記実施形態1のステップST004と同様に、エンジン1が再始動されたか否かを判定する。このとき、エンジン1が再始動されていないと判定した場合には、再びステップST104,ST105を行う。また、エンジン1が再始動されたと判定した場合には、ステップST106に進む。
ステップST106では、ベーパ発生推定部167は、記憶部173に記憶されているエンジン1停止時のエキマニ熱量を読み込み、ステップST107に進む。ステップST107では、ベーパ発生推定部167は、読み込んだエンジン1停止時のエキマニ燃料と、停止時間計測部171によって計測されたエンジン停止時間とに基づいて、排気マニホールド79からエンジン本体3を経て高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料に伝達される熱量を算出し、その伝達熱量に基づいてエンジン1停止中における当該低圧側燃料の温度上昇分を求めて、当該低圧側燃料の温度を推定する。
続いて行われるステップST108では、ベーパ発生推定部167は、推定した低圧側燃料の温度に基づいて高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生するか否かを推定する。記憶部173には、燃料の圧力と燃料の温度とによって高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生する条件が規定された燃料特性が予め記憶されている。この実施形態2では、この燃料特性として、燃料の圧力、燃料の温度に応じてベーパ発生温度(気化温度)が規定されたベーパ発生マップが記憶部173に記憶されている。図13に、ベーパ発生マップのイメージ図を示す。図13に示すベーパ発生マップにおいては、ベーパ発生温度は、燃料の圧力が高くなるほど高くなる。ベーパ発生推定部167は、燃圧燃温センサ151によって検出された低圧側燃料の圧力をベーパ発生マップに照らし合わせることによってベーパ発生温度を求める。例えば、燃圧燃温センサ151によって検出された低圧側燃料の圧力が所定の保持圧FP1である場合には、当該保持圧FP1でのベーパ発生温度FT1が得られる。また、燃圧燃温センサ151によって検出された低圧側燃料の圧力が所定のリリーフ圧FP2である場合には、当該リリーフ圧FP2でのベーパ発生温度FT2が得られる。そして、ベーパ発生推定部167は、そのようにしてベーパ発生マップから求められたベーパ発生温度と推定した低圧側燃料の温度とを比較し、推定した低圧側燃料の温度がベーパ発生温度よりも高いか否かを判定する。
このとき、推定した低圧側燃料の温度がベーパ発生温度よりも低い場合には、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していないと推定されることから、ベーパ抑制制御を実行するステップST109を行わずリターンする。そのような場合としては、熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量が比較的小さい場合の他に、エンジン1を停止させてから高圧燃料ポンプ91内の燃料が排気マニホールド79からの熱伝達の影響により気化温度に達する前までに再始動させた場合が挙げられる。また、推定した燃料の温度がベーパ発生温度以上である場合には、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していると推定されることから、ステップST109に進み、上記実施形態1と同様なベーパ抑制処理を実行し、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するのを抑制すると共にベーパを液化させて消失させる。そして、ステップST109を終えると、リターンする。
−実施形態2の効果−
この実施形態2に係るエンジン1のECU13によると、推定した排気マニホールド79の熱量とエンジン本体3の停止時間とに基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の温度を推定し、その推定した低圧側燃料の温度に基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生しているか否かを推定するようにしたので、エンジン1を停止させてから高圧燃料ポンプ91内の燃料が排気マニホールド79からの熱伝達の影響により気化温度に達するまでのタイムラグを考慮して高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生を精度良く推定することができる。
《実施形態3》
この実施形態3に係るエンジン1のECU13では、当該ECU13の機能構成と、ベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法とが上記実施形態1と異なる。なお、この実施形態2では、ECU13の機能構成及びベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法が異なる他は、エンジン1の構成及びその他の制御について上記実施形態1と同様に構成されているので、同一の構成箇所及び制御は上記実施形態1の説明に譲ることにしてその詳細な説明を省略し、ECU13の機能構成について異なる部分と、ベーパ発生推定部167によるベーパの発生推定方法と、そのベーパの発生推定方法を含むベーパ抑制制御とを説明する。
図14に、この実施形態3におけるECU13の機能ブロック図を示す。この実施形態3のECU13は、機能的には、図14に示すように、上記実施形態1と同様な構成に加え、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、所定の停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、その後に所定の再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させる、いわゆるアイドリングストップ制御を行う自動停止制御部175をさらに備える。
自動停止制御部175によるアイドリングストップ制御での停止条件としては、例えば、ブレーキセンサ158によって検出されるブレーキペダルの踏み込み操作が所定時間継続すると共に、車速センサ155によって検出される車速が予め設定した低速(例えば時速2〜5km)以下となって車両が実質的に停止していることが挙げられる。また、当該アイドリングストップ制御での再始動条件としては、例えば、アクセルセンサ157によって検出されるアクセルペダルの踏み込み操作若しくはクラッチ操作が検出されることが挙げられる。
また、この実施形態3では、低圧燃料ポンプ制御部163は、自動停止制御部175によってエンジン1が自動停止されるときに低圧燃料ポンプ85を停止させる。これにより、エンジン1が自動停止されている間の低圧燃料ポンプ85の作動音を無くして静粛性を確保することができる。しかし、このような低圧燃料ポンプ85の停止を伴うアイドリングストップ制御の実行中にも、高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生するおそれがある。アイドリングストップ制御を実行中に高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生する状況としては、例えば、自動停止制御部175によるエンジン1の自動停止と再始動とが繰り返し頻繁に行われる状況や、自動停止制御部175によるエンジン1の自動停止時間が渋滞にはまる等して長くなる状況が挙げられる。
そこで、この実施形態3におけるECU13のベーパ発生推定部167は、自動停止制御部175によるエンジン1の自動停止中に高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生するか否かを推定する。具体的には、ベーパ発生推定部167は、エンジン1が自動停止中か否かに関わらずイグニッションスイッチがオン状態のときには、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生するか否かを推定する。
図15に、この実施形態3におけるベーパ抑制制御のフロー図を示す。ベーパ抑制制御では、図15に示すように、まず、ステップST201において、ECU13は、イグニッションスイッチがオン状態であるか否かを判定する。このとき、イグニッションスイッチがオフ状態である場合には、再びステップST201を行う。また、イグニッションスイッチがオン状態である場合には、ステップST202に進む。
ステップST202では、熱量推定部165は、上記実施形態1のステップST003と同様に、上述した方法に従ってエキマニ熱量を推定する。次いで行われるステップST203では、熱量推定部165は、エキマニ熱量を推定するのと同様な手法によりエンジン本体3の熱量を推定する。すなわち、熱量推定部165は、エンジン本体3での熱の収支を演算することにより、エンジン本体3の有する熱量を推定する。熱量推定部165は、熱の収支として、少なくとも、(i)燃料室21での混合気の燃焼による受熱、(ii)走行風への放熱、(iii)電動ファン48による冷却風への放熱を考慮する。
続くステップST204では、ベーパ発生推定部167は、熱量推定部165によって推定されたエキマニ熱量とエンジン本体3の熱量とに基づいて、排気マニホールド79からエンジン本体3を経て高圧燃料ポンプ91内の燃料に伝達される熱量と、エンジン本体3から高圧燃料ポンプ91内の燃料に伝達される熱量とを算出し、それら伝達熱量に基づいて高圧燃料ポンプ91内の燃料の温度上昇分を求めて、所定時間の経過後における高圧燃料ポンプ91内の燃料の温度を推定する。ここで推定する燃料の温度は、高圧燃料通路109内の燃料(以下「高圧側燃料」と称する)の温度である。
次に行われるステップST205では、ベーパ発生推定部167は、推定した高圧側燃料の温度に基づいて高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するか否かを推定する。高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料の温度には、高圧側燃料からの熱伝達が大きく影響する。記憶部173には、燃料の圧力と燃料の温度とによって高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生する条件が規定された燃料特性、具体的には、燃料の圧力、燃料の温度に応じてベーパ発生温度が規定された図13に示すようなベーパ発生マップが予め記憶されている。ベーパ発生推定部167は、燃圧燃温センサ151によって検出された低圧側燃料の圧力をベーパ発生マップに照らし合わせることによってベーパ発生温度を求める。そして、ベーパ発生推定部167は、そのようにしてベーパ発生マップから求められたベーパ発生温度と推定した高圧側燃料の温度とを比較し、推定した高圧側燃料の温度がベーパ発生温度よりも高いか否かを判定する。
このとき、推定した高圧側燃料の温度がベーパ発生温度よりも低い場合には、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生していないと推定されることから、ベーパ抑制制御を実行するステップST206を行わずリターンする。また、推定した高圧側燃料の温度がベーパ発生温度以上である場合には、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生すると推定されることから、ステップST206に進む。ステップ206では、ベーパ抑制部169は、上記実施形態1と同様なベーパ抑制処理を実行し、高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料にベーパが発生するのを抑制する。このとき、エンジン1が自動停止制御部175によって自動停止されている場合には、エンジン1を再始動するか又は低圧燃料ポンプ85のみを駆動させることによって、ベーパ抑制処理を実行する。そして、ステップST206を終えると、リターンする。
−実施形態3の効果−
この実施形態3に係るエンジン1のECU13によると、アイドリングストップ制御でのエンジン1の自動停止中に高圧燃料ポンプ91内の燃料にベーパが発生することを精度良く且つ早期に推定することができる。そのことで、高圧燃料ポンプ91内にベーパが発生する前にベーパ抑制処理を実行することができ、高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生を未然に防止することができる。したがって、アイドリングストップ制御によるエンジン1の再始動時に、高圧燃料ポンプ91が動作不良を起こすこと、ひいては当該エンジン1の再始動に支障を来すことを防止できる。
また、この実施形態3に係るエンジン1のECU13によると、高圧燃料ポンプ91の高圧側燃料の温度を推定し、その高圧側燃料の温度に基づいてベーパの発生を推定するので、当該高圧側燃料からの熱伝達による高圧燃料ポンプ91の低圧側燃料の温度上昇分を予測して、高圧燃料ポンプ91内でのベーパの発生を精度良く且つ早期に推定することができる。
以上のように、本明細書で開示する技術の例示として上記実施形態を説明したが、本開示の技術範囲は、これに限定されない。本開示の技術は、上記実施形態の構成要素や処理プロセスに、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能であり、さらに色々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の技術範囲に属することは当業者に理解されるところである。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく本開示の技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
例えば、上記実施形態1では、高圧燃料ポンプ91は、排気マニホールド59に近い位置でシリンダヘッド19に取り付けられているとしたが、これに限らず、高圧燃料ポンプ91は、エンジンルームにおいて排気マニホールド79の熱が伝達される位置に配置されていればよい。また、高圧燃料ポンプ91は、排気カムシャフト39により駆動されるとしたが、これに限らず、高圧燃料ポンプ91は、吸気カムシャフト39により駆動されてもよいし、クランクシャフト27により駆動されてもよい。
また、上記実施形態1では、ベーパ抑制処理を、燃圧燃温センサ151により検出される燃料の温度が上昇するのに応じて低圧燃料ポンプ85による燃料の昇圧力を徐々に低下させて終了するとしたが、これに限らず、ベーパ抑制処理は、燃圧燃温センサ151により検出される低圧側燃料の温度がベーパ発生温度よりも低くなった時点で終了してもよい。
また、上記実施形態1〜3では、ベーパ抑制処理として、低圧燃料ポンプ85の駆動によって高圧燃料ポンプ91内の低圧側燃料を高レベルに昇圧させる処理を実行することを例示したが、これに限らず、ベーパ抑制処理は、電動ファン48の駆動によって高圧燃料ポンプ91内の燃料を冷却する処理であってもよい。また、ベーパ抑制処理では、これら低圧燃料ポンプ85による低圧側燃料の昇圧処理と、電動ファン48による高圧燃料ポンプ91内の燃料の冷却処理とを併用していても構わない。
また、上記実施形態1では、走行エキマニ放熱量の算出に用いる外気温度をエアフローセンサ137の検出値(吸気温度)から推定するとしたが、これに限らず、当該外気温度には、エアフローセンサ137とは別個に設けられた、外気温度を検出する温度センサの検出値を用いてもよい。
また、上記実施形態1では、エンジンの制御装置として、ターボ過給機9付きのエンジン1を制御するECU13を例に挙げて説明したが、これに限らず、ここに開示する技術は、ターボ過給機9を備えていないエンジンを制御する制御装置にも勿論適用することができる。