以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。図1は、本発明が適用された方向推定システム100の概略的な構成の一例を示す図である。図1に示すように方向推定システム100は、複数のGNSS衛星St1〜3と、複数の車両Ma,Mbの各々に搭載されている複数の車載器1とを備える。
なお、図1では、便宜上、車載器1を搭載した車両を2台しか図示していないが、3台以上存在してもよい。以降において、車両Ma,Mbに搭載されている各車載器1を区別する場合には、車両Maに搭載されている車載器1を車載器1a、車両Mbに搭載されている車載器1を車載器1bとも記載する。また、車両Ma,Mbを明確に区別する場合には、第1車両Ma、第2車両Mbと記載する。車載器1aが請求項に記載の方向推定装置に相当し、車載器1bが請求項に記載の他装置に相当する。
GNSS衛星St1〜3を区別しない場合には、単にGNSS衛星と記載する。GNSS衛星についても、図1では便宜上3機しか図示していないが、4機以上存在してもよい。GNSS衛星が請求項に記載の基準局に相当する。
<方向推定システム100の概略構成>
GNSS衛星St1〜3は、全地球型航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)で用いられる衛星である。各GNSS衛星St1〜3は、衛星自身の現在位置を示すデータ(いわゆるエフェメリス)を含む電波を送信する。また、各GNSS衛星St1〜3が送信する電波には、そのGNSS衛星が当該電波を送信した時刻を示す情報も含まれている。GNSS衛星St1〜3のそれぞれが送信する信号は、GNSS衛星毎に固有のC/Aコードを用いて位相変調が施されている。C/Aコードが請求項に記載の送信元情報に相当する。
GNSS衛星St1〜3は何れも、車両Ma,Mbが、そのGNSS衛星から送信された電波を受信可能な位置に存在している。換言すれば、GNSS衛星St1〜3は何れも車両Ma,Mbによって捕捉されている。なお、或る車両が、或るGNSS衛星を捕捉できている状態とは、その車両がそのGNSS衛星からの電波を受信できている状態を指す。
車両Ma、車両Mbは、道路上を走行する車両である。本実施形態において各車両Ma,Mbは、四輪自動車とするが、これに限らない。各車両は二輪自動車や三輪自動車等であってもよい。二輪自動車は原動機付き自転車を含んでもよい。
各車両Ma,Mbは、GNSS衛星St1〜3から送信される電波を受信する機能を備える。また、各車両Ma,Mbは、予め割り当てられた周波数帯の電波を用いて、広域通信網を介さない無線通信(いわゆる車車間通信)を実施するように構成されている。車車間通信に用いられる周波数帯は、適宜設計されれば良い。例えば車車間通信は、760MHz帯の電波を用いて実現されればよい。もちろん、その他、車車間通信は2.4GHz、5.9GHz帯などの電波を用いて実現されてもよい。
なお、各車両において、上述したGNSS衛星St1〜3からの電波を受信する機能や、車車間通信を実施する機能は車載器1によって提供される。以降では、各車両に搭載される車載器1の構成について、より詳細に述べる。
<車載器1の構成について>
車載器1は、図2に示すように、制御ユニット11、GNSS受信機12、車車間通信部13、地磁気センサ14、及び報知装置15を備える。制御ユニット11は、GNSS受信機12、車車間通信部13、地磁気センサ14、及び報知装置15のそれぞれと、相互通信可能に接続されている。便宜上、当該車載器1が搭載されている車両を、他の車載器1が搭載されている車両と区別して、自車両とも記載する。
制御ユニット11は、車載器1全体の動作を制御するユニットである。制御ユニット11は、通常のコンピュータとして構成されており、CPU111、RAM112、ROM113、I/O114、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。ROM113には、通常のコンピュータを制御ユニット11として機能させるためのプログラム(以降、制御プログラム)等が格納されている。
なお、上述の制御プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。CPU111が制御プログラムを実行することは、制御プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。
この制御ユニット11は、概略的には、GNSS受信機12や車車間通信部13から入力されるデータに基づいて、自車両と車車間通信を実施している他車両が、存在している方向を推定する。この制御ユニット11の詳細については別途後述する。
GNSS受信機12は、GNSS衛星から送信される電波を受信する。GNSS受信機12は、GNSS衛星を4機以上捕捉している場合、各GNSS衛星から受信した電波に基づいて、GNSS受信機12の現在位置を示す位置情報を取得する。GNSS受信機12の現在位置は、例えば、GNSSで採用されている所定の三次元座標系における座標で表されれば良い。ここでは一例としてGNSS受信機12の現在位置は、ECEF(Earth Centered, Earth Fixed)座標系で表されているものとする。ECEF座標系は、地球中心を原点とし、地球と共に回転する三次元座標系である。もちろん、他の態様としてGNSS衛星の現在位置は、緯度、経度、高度を用いた測地座標系などで表されていてもよい。
GNSS受信機12は、現在位置を特定するためのサブ機能として、捕捉しているGNSS衛星(以降、捕捉衛星)との擬似距離を特定する擬似距離特定部121を備える。擬似距離特定部121は、受信している電波に基づいて、捕捉しているGNSS衛星毎に、そのGNSS衛星との擬似距離を逐次算出する。
擬似距離の算出方法は周知の方法を援用すればよい。例えば擬似距離特定部121は、受信した電波の送信時刻と受信時刻の差に、電波の伝搬速度C(C=3×10^8[m/秒])を乗じ、さらに2で除算した値を擬似距離として採用すればよい。送信時刻は受信した電波に含まれている。受信時刻は、GNSS受信機12が保有する時刻情報によって特定されれば良い。
なお、ここでは一例として、擬似距離特定部121は、送信時刻と受信時刻の差を電波の飛行時間(以降、TOF:Time Of Flight)と見なして擬似距離を算出する態様とするが、これに限らない。擬似距離特定部121は、C/Aコードの位相のずれ量に基づいてTOFを特定してもよいし、その他の方法を援用してTOFを特定してもよい。
擬似距離特定部121は、特定した捕捉衛星毎の擬似距離を示すデータを、制御ユニット11に逐次提供する。なお、捕捉衛生毎の擬似距離は、どのGNSS衛星に対する擬似距離であるかを示す情報(以降、衛星識別情報)と対応付けられて制御ユニット11に提供される。受信電波の送信元、換言すれば捕捉衛星は、受信電波のC/Aコード等によって識別されれば良い。GNSS受信機12が請求項に記載の受信機に相当する。また、捕捉衛星が請求項に記載の捕捉基準局に相当する。
車車間通信部13は、車車間通信に用いられる周波数帯の電波を送受信可能なアンテナを備えており、そのアンテナを介して、他の車載器1と直接的に無線通信を実施する。具体的には、車車間通信部13は、アンテナで受信した信号に対して、アナログデジタル変換や、復調、復号などを所定の処理を施すことで、受信信号に含まれるデータを抽出し、当該抽出したデータを制御ユニット11に出力する。また、制御ユニット11から入力されたデータに対して符号化、変調、デジタルアナログ変換等の所定の処理を施して得られるアナログ信号をアンテナに出力し、電波として放射させる。
地磁気センサ14は、自車両の絶対方位を検出するためのセンサである。地磁気センサ14としては、例えば、地磁気を互いに直交する3つの軸方向成分に分解して検出(推定を含む)する3軸地磁気センサを採用することができる。地磁気センサ14の検出結果は制御ユニット11に逐次提供される。
報知装置15は、自車両の乗員に向けて、所定の情報の提供を行うためのデバイスである。報知装置15としては、ディスプレイや、インジケータ、スピーカ、などを採用することができる。報知装置15は、後述するように、制御ユニット11の指示に基づいて作動する。
<制御ユニット11の構成について>
次に、第1車両Maに搭載されている車載器1aの制御ユニット11を例にとって、制御ユニット11の構成及び作動について述べる。なお、他の車載器1の制御ユニット11も同様の構成となっている。
制御ユニット11は、CPU111が上述の制御プログラムを実行することによって、図3に示す種々の機能を提供する。具体的には、制御ユニット11は機能ブロックとして、自車一重差算出部F1、送信データ生成部F2、送信処理部F3、受信処理部F4、他車一重差特定部F5、二重差算出部F6、座標情報取得部F7、二重差変化度算出部F8、仮想傾き算出部F9、進行方向特定部F10、他車両方位推定部F11、及び、報知処理部F12を備える。
制御ユニット11が備える機能ブロックの一部又は全部は、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に(換言すれば回路モジュールとして)実現されてもよい。
なお、図3では二重差算出部F6、座標情報取得部F7、二重差変化度算出部F8、及び仮想傾き算出部F9のみがRAM112と接続する態様を例示しているが、実際にはRAM112は、例えば受信処理部F4など、上述した機能ブロック以外とも相互通信可能に構成されている。また、RAM112には、GNSS受信機12から逐次提供される捕捉衛星毎の擬似距離が保存される。
自車一重差算出部F1は、RAM112に保存されている捕捉衛星毎の擬似距離に基づいて、2つのGNSS衛星を1組とする組み合わせ毎に、当該組み合わせを構成するGNSS衛星の擬似距離の差の絶対値である一重差を、逐次(例えば100ミリ秒毎に)算出する。以降では、2つのGNSS衛星を1組とする組み合わせのことを、衛星ペアとも記載する。
例えば、図1に示すように第1車両Maが、GNSS衛星St1〜St3の3つのGNSS衛星を捕捉している場合、GNSS衛星St1とSt2からなる衛星ペア、GNSS衛星St1とSt3からなる衛星ペア、GNSS衛星St2とSt3からなる衛星ペアの3通りの衛星ペアが成立する。
この場合、自車一重差算出部F1は、3つの衛星ペアのそれぞれに対して一重差を算出する。GNSS衛星St1とGNSS衛星St2の組み合わせにおける一重差とは、GNSS衛星St1との擬似距離と、GNSS衛星St2との擬似距離の差の絶対値である。
自車一重差算出部F1が逐次算出する衛星ペア毎の一重差は、RAM112に保存される。RAM112に格納されている一重差は、二重差算出部F6によって参照される。なお、衛星ペア毎の一重差は、どの衛星ペアについての一重差であるかを示す情報(以降、ペア情報)と対応付けて取り扱われるものとする。
自車一重差算出部F1が請求項に記載の自己一重差算出部に相当する。また、自車一重差算出部F1が算出する一重差が請求項に記載の自己一重差に相当する。衛星ペアが請求項に記載の基準局ペアに相当する。
送信データ生成部F2は、車車間通信によって他車両に送信する通信パケット(以降、車車間通信パケット)を生成する機能ブロックである。送信データ生成部F2は、車車間通パケットとして、RAM112に保存されている捕捉衛星毎の擬似距離を示す捕捉衛星パケットを生成する。
捕捉衛星パケットにおいて、捕捉衛星毎の擬似距離は、その衛星識別情報と対応付けられている。これにより、当該捕捉衛星パケットを受信した他の車載器1(例えば車載器1b)は、第1車両Maが捕捉しているGNSS衛星、及び、第1車両Maにおける各捕捉衛星との擬似距離を特定することができる。
なお、捕捉衛星パケットは、捕捉衛星毎の擬似距離及び衛星識別情報に加えて、送信元の車載器1を示す車両ID等を含んでいる。車両IDは、車車間通信を実施する通信端末(換言すれば車載器)毎に割り当てられる識別情報である。第1車両Maの車両IDは、捕捉衛星パケットにおいて送信元アドレスとして含まれている。
送信データ生成部F2が生成した通信パケット(例えば捕捉衛星パケット)は、送信処理部F3に逐次提供される。送信処理部F3は、送信データ生成部F2から入力された通信パケットを車車間通信部13に出力して無線送信させる。
図4は、捕捉衛星パケットを送信するために、送信データ生成部F2及び送信処理部F3が実行する処理(以降、送信処理)の手順を示すフローチャートである。図4に示すフローチャートは逐次(例えば10ミリ秒毎に)開始されれば良い。
まず、S1では送信データ生成部F2が、捕捉衛星パケットを所定の送信周期で送信するためのタイマ(以降、送信タイマ)が満了したか否かが判定する。送信タイマは、捕捉衛星パケットを前回送信してからの経過時間を計測するタイマである。送信タイマのカウント値が送信周期に相当する値となった状態がタイマ満了状態に相当する。送信タイマは、捕捉衛星パケットが送信される度にリセットされて再スタートする。送信周期は適宜設計されれば良く、例えば100ミリ秒などとすればよい。
ステップS1において、送信タイマが未だ満了となっていない場合には否定判定されて本フローを終了する。一方、送信タイマが満了している場合にはステップS1が肯定判定されてステップS2に移る。
ステップS2では送信データ生成部F2が、RAM112に保存されている捕捉衛星毎の擬似距離(つまり捕捉衛生情報)に基づいて、捕捉衛星パケットを生成し、送信処理部F3に提供してステップS3に移る。ステップS3では送信処理部F3が送信データ生成部F2から提供された捕捉衛星パケットを車車間通信部13に出力し、無線送信する。
受信処理部F4は、車車間通信部13が受信したデータを取得する。例えば受信処理部F4は、他車両(例えば第2車両Mb)から送信された捕捉衛星パケットを取得する。受信処理部F4は、捕捉衛星パケットを取得した場合、その捕捉衛星パケットを他車一重差特定部F5に提供する。また、受信処理部F4が取得した捕捉衛星パケットは、当該データの送信元である車両毎に区別してRAM112に格納される。なお、受信データの送信元は、データに含まれる送信元アドレスによって識別されれば良い。
他車一重差特定部F5は、受信処理部F4から提供される他車両の捕捉衛星パケットに基づいて、当該他車両が捕捉しているGNSS衛星の組み合わせ毎の一重差を、自車一重差算出部F1と同様の方法で算出する。つまり、他車一重差特定部F5は、他車両における衛星ペア毎の一重差を、当該他車両から送信されてきた捕捉衛星パケットに基づいて特定する。
例えば、他車一重差特定部F5は、第2車両Mbから受信した捕捉衛星パケットに基づいて、第2車両Mbにとっての衛星ペア毎の一重差を算出する。なお、複数の他車両から捕捉衛星パケットを受信している場合には、それぞれの他車両において、その他車両が捕捉しているGNSS衛星を母集団として定まる衛星ペア毎の一重差を算出する。
他車一重差特定部F5が算出した、或る他車両における衛星ペア毎の一重差は、車両毎に区別してRAM112に保存される。以降では便宜上、自車一重差算出部F1が算出する一重差を自車一重差とも記載し、他車一重差特定部F5が特定する一重差を他車一重差とも記載する。他車一重差特定部F5が請求項に記載の他者一重差取得部に相当し、他車一重差が請求項に記載の他者一重差に相当する。
なお、他車一重差についても、自車一重差と同様に、何れの衛星ペアに対する一重差であるかを示すペア情報と対応付けてRAM112に保存される。自車一重差や他車一重差を示すデータには、当該データが保存された時刻を示すタイムスタンプが付与されていることが好ましい。RAM112に格納されている他車両毎の他車一重差は、二重差算出部F6によって参照される。
以降では、説明簡略化のため、第1車両Maは、第2車両Mbのみと車車間通信を実施している場合を想定して、各部の作動について述べる。また、第1車両Maは、第2車両Mbが共通して捕捉しているGNSS衛星は、GNSS衛星St1、St2、St3の3機だけとする。
二重差算出部F6は、第1車両Maと第2車両Mbとで共通して捕捉しているGNSS衛星(以降、共通捕捉衛星)を特定する。そして、共通捕捉衛星を母集団として成立する衛星ペア毎の二重差Dを逐次(例えば100ミリ秒毎に)算出する。二重差Dは、同じ衛星ペアにおける自車一重差と他車一重差との差の絶対値である。
例えば、GNSS衛星St1,St2の衛星ペアにおける第1車両Maの一重差をd(a,St1,St2)とし、同一の衛星ペアにおける第2車両Mbの一重差をd(b,St1,St2)とすると、GNSS衛星St1とSt2の衛星ペアにおける第1車両Maと第2車両Mbの二重差D(a,b,St1,St2)は次の数式1で表される。或る衛星ペアにおける自車一重差と他車一重差は、RAM112にアクセスして取得すればよい。
ところで、第1車両MaとGNSS衛星St1との擬似距離をPd(a,St1)、第1車両MaとGNSS衛星St2との擬似距離をPd(a,St2)、第2車両MbとGNSS衛星St1との擬似距離をPd(b,St1)、第2車両MbとGNSS衛星St2との擬似距離をPd(b,St2)とすると、上記数式1で表される二重差D(a,b,St1,St2)は、次の数式2のように表すことができる。
以上のようにして求まるGNSS衛星St1、St2からなる衛星ペアについての、第2車両Mbとの二重差D(a,b,St1,St2)は、第1車両Maと第2車両Mbとの距離と相関があり、第1車両Maと第2車両Mbとが近いほど小さい値となる。また、第1車両Maと第2車両Mbとが同一地点に存在する場合には二重差D(a,b,St1,St2)は0となる。つまり、第2車両Mbとの共通する衛星ペア毎の二重差Dは、第1車両Maと第2車両Mbとの距離の指標として機能する。
なお、各車両の捕捉衛星数が3以下である場合やアルマナックが未取得な状態である場合を想定すると、各車両における時刻情報はGNSSで用いられる基準時刻に対して非同期となる。そのため、各車両における疑似距離には時刻誤差に由来する誤差が含まれる。ここで、上記数式2を構成するPd(a,St1)、Pd(a,St2)、Pd(b,St1)Pd(b,St2)は、より具体的に展開すると下記の数式3〜式6で表される。
上記数式3〜6におけるパラメータx1、y1、z1は、ECEF座標系におけるGNSS衛星St1の現在位置を示す座標であり、パラメータx2、y2、z2は、同一の座標系におけるGNSS衛星St2の現在位置を示す座標である。また、パラメータxa、ya、zaは、同一座標系における第1車両Maの現在位置を示す座標であり、パラメータxb、yb、zbは第2車両Mbの現在位置を示す座標である。t1,t2は、GNSS衛星St1,St2のそれぞれの真値との時刻誤差であり、ta,tbは、第1車両Ma、第2車両Mbのそれぞれの真値との時刻誤差を示している。各数式の第2項は、時刻誤差に由来する成分を表している。
上記数式3〜6を、数式2に代入すると、種々の擬似距離に含まれる時刻誤差成分は相殺される。つまり、上記の方法によって求まる二重差Dは、各GNSS衛星及び各車両における基準時刻に対する時刻誤差が解消されている。
また、第1車両Maと第2車両Mbとの距離は、車車間通信を実施可能な距離(例えば数百m以内)となっているため、電離層や対流圏により生じる擬似距離の誤差も、共通のGNSS衛星に対しては相殺されている。
つまり以上の方法によって算出される二重差Dは、種々の誤差の影響が相殺されている。その結果、第2車両Mbに対する二重差Dは、第1車両Maと第2車両Mbとの距離を、高精度に指し示す指標として機能する。
以上のようにして二重差算出部F6が算出した第2車両Mbに対する衛星ペア毎の二重差Dは、RAM112に保存される。複数時点における二重差算出部F6の算出結果は、衛星ペア毎に、最新の算出結果が先頭となるように時系列順に並べて格納されていればよい。便宜上、或る衛星ペアにおける二重差Dを時系列に並べたデータを、その衛星ペアにおける二重差Dの時系列データと称する。
なお、第1車両Maが車車間通信可能な範囲内に、第2車両Mb以外の車両が存在する場合には、第2車両Mbと同様に当該他の車両についても、衛星ペア毎に、二重差Dを算出すればよい。衛星ペア毎の二重差Dは、車車間通信の通信相手とする他車両毎に区別して算出し、保存していく。なお、保存してから一定時間経過したデータについては随時削除していけばよい。
座標情報取得部F7は、捕捉衛星の現在位置を、地平直交座標系(ENU:East, Noth, Up座標系)で表した座標情報を取得する。ENU座標系は、第1車両Maの現在位置として取り扱う所定の代表地点を原点とし、天頂方向をZ軸、東方向をX軸、北方向をY軸とした座標系である。代表地点は適宜設計されればよく、例えば、自車両Ma自動車保管場所証明書や車検証に記載の住所としてもよいし、日本経緯度原点(つまり東経139度44分28秒8869、北緯35度39分29秒1572となる地点)としてもよい。
各GNSS衛星の座標情報は、広域通信網を介して外部サーバから取得すれば良い。なお、任意の代表地点を受信位置と見なして予め設計された所定の変換行列を用いて、ECEF座標をENU座標に変換してもよい。各GNSS衛星のECEF座標は、GNSS衛星から配信されるエフェメリスやアルマナックに含まれる情報から特定すればよい。エフェメリスやアルマナックは、例えば車車間通信によって他車両から提供してもらう等、種々の経路で取得してもよい。座標情報取得部F7は、座標情報を取得すると、その取得した座標情報をRAM112に保存する。
二重差変化度算出部F8は、衛星ペア毎の二重差Dの時系列データに基づいて、当該衛星ペアにおける二重差Dの単位時間当りの変化度合い(以降、変化度)αを算出する。図5は、第1車両Maと第2車両Mbとが接近関係となっている場合の、或る衛星組み合わせにおける二重差Dの時間変化を概念的に表したグラフである。
図5の横軸は時間を、縦軸は二重差Dの値を表している。横軸上に設けている時刻Tnwは、最新の二重差Dを算出した時点を表しており、時刻Tpsは、時刻Tnwから一定時間(図中ΔT)過去の時点を表している。Dnwは、時刻Tnwにおける二重差Dの値を表しており、Dpsは時刻Tpsにおける二重差Dの値である。なお、グラフ中の点は、各時点において算出された二重差を表している。
このような場合、二重差変化度算出部F8は、例えば、DnwからDpsを減算したΔDを算出し、さらにΔDをΔTで除算することで、当該衛星組み合わせにおける変化度αを特定する。ΔTは絶対値であり、ΔDは、二重差Dが減少傾向にある場合には、負の値となる。つまり、二重差Dが減少傾向にある場合、変化度αの符号は負になる。
したがって、変化度αは、二重差Dが減少傾向となっているか否かを示すパラメータとして機能し、変化度αが小さいほど、急峻に二重差Dが減少していることを示す。なお、図5中の一点鎖線は、現在から過去一定時間以内の二重差Dを母集団として定まる、経過時間と二重差Dの関係を近似した1次関数を表している。
ところで、第2車両Mbについての二重差Dは、前述の通り、第1車両Maと第2車両Mb間の距離に比例する。そのため、第2車両Mbについての二重差Dの変化度αが負ということは、第1車両Maと第2車両Mbとの距離が減少しつつあることを意味する。
仮想傾き算出部F9は、所定の衛星ペアを構成する2つのGNSS衛星のそれぞれの現在位置を示す座標と、下記式7を用いて、当該衛星ペアにおける仮想傾きβを算出する。
上記数式7におけるパラメータem、nm、umは、衛星組み合わせを構成する2つのGNSS衛星のうちの一方の、ENU座標系における現在位置を示すパラメータであり、パラメータen、nn、unは、他方のGNSS衛星の現在位置を示すパラメータである。つまり、衛星組み合わせを構成する2つのGNSS衛星のうちの一方の現在位置を(em,nm,um)、他方の現在位置を(en,nn,un)とした場合の仮想傾きβは上記数式7によって定まる。
各GNSS衛星の現在位置をENU座標系で示す座標情報は、前述の座標情報取得部F7によって取得されている。なお、座標情報取得部F7が取得する座標情報は、厳密には第1車両Maの現在位置とは異なる地点を原点とした座標となるが、代表地点と第1車両Maとの距離は、GNSS衛星と代表地点との距離に比べて十分に小さい値となるため、誤差として取り扱うことができる。シミュレーションにおいては、日本国内の任意の地点を原点とした座標情報を用いても、第1車両Maの具体的な位置を原点とした座標情報を用いた場合と略同一の仮想傾きβが得られることを確認している。ここでの略同一が含む範囲は、後述する方法によって仮想傾きβから第2車両Mbが存在する方向を推定する上で支障がない範囲である。
なお、或る衛星ペアにおける二重差Dが0になる点をENU座標系のXY平面(換言すれば地平面)上に射影したとき、当該点の集合は所定の傾きをもった1次関数(以降、二重差ゼロ直線)となる。数式7で定まる仮想傾きβは、この1次関数の傾きに相当する。仮想傾き算出部F9が算出する仮想傾きβの技術的な意義は別途後述する。なお、衛星座標はENU座標系によって表されているためXY平面を構成するX軸の正方向は東に相当し、Y軸の正方向は北に相当する。仮想傾き算出部F9が請求項に記載のβ算出部に相当し、仮想傾きβがパラメータβに相当する。
進行方向特定部F10は、地磁気センサ14の検出結果に基づいて、北に対して自車両が向いている方位(つまり進行方向)を特定する。進行方向特定部F10の特定結果は、他車両方位推定部F11に提供される。なお、本実施形態では一例として、地磁気センサ14を用いて自車両の進行方向を特定する態様とするが、これに限らない。他の態様としてジャイロセンサを用いて進行方向を特定してもよい。進行方向特定部F10が請求項に記載の進行方向取得部に相当する。
他車両方位推定部F11は、仮想傾き算出部F9が算出する仮想傾きβと、進行方向特定部F10が特定している進行方向に基づき、自車両から見て第2車両Mbが存在する方位(以降、他車両方位)を推定する。
ここで、図6を用いて衛星ペア毎の仮想傾きβと、他車両としての第2車両Mbが存在する方向との対応関係について述べる。図6は、第1車両Maと第2車両Mbとが共通して捕捉しているGNSS衛星を母集団として成立する衛星ペア毎の二重差ゼロ直線を表している。或る衛星ペアにおける二重差ゼロ直線は、上述の通り、その衛星ペアにおける二重差Dが0になる点をENU座標系のXY平面(換言すれば地平面)上に射影した点の集合に相当する。
具体的には、実線で示す直線L(St1,St2)は、GNSS衛星St1とSt2からなる衛星ペアにおける二重差ゼロ直線を表している。一点鎖線で示す直線L(St1,St3)は、GNSS衛星St1とSt3からなる衛星ペアにおける二重差ゼロ直線を表しており、二点鎖線で示す直線L(St2,St3)は、GNSS衛星St2とSt3からなる衛星ペアにおける二重差ゼロ直線を表している。種々の二重差ゼロ直線の傾きとしての仮想傾きβは式7で求まる。
発明者らは、種々の衛星座標や車両の位置関係を想定したシミュレーションを実行し、その結果を解析することによって、変化度αが負となっている衛星ペアの中で、その絶対値が最小となっている衛星ペア(以降、減少度最小ペア)の仮想傾きβと、自車両からみて第2車両Mbが存在する方位との間に相関があるという知見を得た。
例えば、自車両の進行方向が相対的に北向きとなっている場合には、原点から減少度最小ペアに対応する二重差ゼロ直線が延びる2つの方向のうち、Y座標が正となる方向に第2車両Mbが存在する可能性が高く、また、自車両の進行方向が相対的に南向きとなっている場合にはY座標が負となる方向に存在する可能性が高い。当然、二重差ゼロ直線が伸びる方向は仮想傾きβによって定義されるため、減少度最小ペアの仮想傾きβは第2車両Mbが存在する方向の指標として機能する。他車両方位推定部F11は、以上の知見に基づいて他車両方位を推定するものである。他車両方位推定部F11が請求項に記載の他装置方向推定部に相当する。
報知処理部F12は、他車両方位推定部F11による推定結果をドライバに報知するための処理を実施する。例えば車載器1が報知装置15としてディスプレイを備える場合、報知処理部F12は、第2車両Mbが存在する方向を示す画像をディスプレイに表示する。また、車載器1が報知装置15としてスピーカを備える場合には、報知処理部F12は、スピーカから所定のメッセージを音声出力することによって、ドライバに対して、第2車両Mbが存在する方向を通知してもよい。なお、報知に用いられるディスプレイはヘッドアップディスプレイであってもよい。
<他車両方位推定処理>
次に、図7に示すフローチャートを用いて、制御ユニット11が実施する他車両方位推定処理について説明する。この他車両方位推定処理は、自車両としての第1車両Ma周辺に存在する他車両(ここでは第2車両Mb)が存在する方向を推定する処理に相当する。なお、ここでの第1車両Ma周辺とは、第1車両Maが車車間通信可能な範囲に相当する。
この図7に示すフローチャートは、第2車両Mbからの捕捉衛星データを受信した場合に開始されればよい。
まず、ステップS10では受信処理部F4が、受信した捕捉衛星データをRAM112に保存してステップS20に移る。ステップS20では他車一重差特定部F5がRAM112を参照し、第2車両Mbについての衛星ペア毎の他車一重差を算出してステップS30に移る。
ステップS30では二重差算出部F6が、RAM112に保存されている自車両の捕捉衛星データを読み出してステップS40に移る。ステップS40では二重差算出部F6が、自車両と第2車両Mbとが共通して捕捉しているGNSS衛星(つまり共通捕捉衛星)を特定してステップS50に移る。
ステップS50では二重差算出部F6が、共通捕捉衛星の数Nが3以上であるか否かを判定する。ここで共通捕捉衛星数Nが3以上となっている場合にはステップS50が肯定判定されてステップS60に移る。一方、共通捕捉衛星数Nが3未満である場合にはステップS50が否定判定されて本フローを終了する。
ステップS60では二重差算出部F6が、3以上の共通捕捉衛星の中から任意の2つの捕捉衛星を選択してステップS70に移る。ステップS70では二重差算出部F6が、その選択した2つの捕捉衛星からなる衛星ペアについての二重差Dを算出してステップS80に移る。
ステップS80では、ステップS40で特定した共通捕捉衛星を母集団として成立しうる全ての衛星ペアについて二重差Dを算出したか否かを判定する。未だ二重差Dを算出していない衛星ペアが残っている場合にはステップS60に戻り、その二重差Dが未算出の衛星ペアを選択してステップS70に移る。つまり、ステップS60からステップS80を繰り返すことで、第1車両Maと第2車両Mbとで共通して捕捉しているGNSS衛星を母集団として定まる全ての衛星ペアに対する二重差Dを算出する。
全ての衛星ペアについての二重差Dを算出している場合にはステップS80が肯定判定されてステップS90に移る。なお、算出した衛星ペア毎の二重差Dは、いずれの衛星ペアについての二重差Dであるかを示すペア情報と、算出時刻を示すタイムスタンプと対応づけてRAM112に保存する。これにより、RAM112には衛星ペア毎の二重差Dが蓄積されていく。
ステップS90では二重差変化度算出部F8が、RAM112に保存されている衛星ペア毎の二重差Dの時系列データに基づいて、衛星ペア毎の二重差Dの変化度αを算出してステップS100に移る。なお、変化度αを算出するために十分な数の二重差Dが未だRAM112に蓄積されていない場合には本フローを終了すれば良い。
図8は衛星ペア毎の変化度αを概念的に表したグラフである。図中のD(St1,St2)はGNSS衛星St1とSt2の組み合わせにおける二重差Dの近似直線を表している。この近似直線の傾きが、前述のとおり、GNSS衛星St1とSt2の組み合わせにおける変化度αを表している。なお、図中のD(St1,St3)はGNSS衛星St1とSt3の組み合わせにおける二重差Dの近似直線を、D(St2,St3)はGNSS衛星St2とSt3の組み合わせにおける二重差Dの近似直線を、それぞれ表している。図8では全ての衛星ペアの変化度αのうち、GNSS衛星St1とSt2の衛星ペアにおける変化度αが最も小さい値となっていることを表している。つまり、GNSS衛星St1とSt2の衛星ペアが減少度最小ペアに相当する。以降では一例として、GNSS衛星St1とSt2の衛星ペアが減少度最小ペアとなっているものとして説明する。
ステップS100では仮想傾き算出部F9が、減少度最小ペアを選択してステップS110に移る。ステップS110では仮想傾き算出部F9が、減少度最小ペアを構成する2つのGNSS衛星のそれぞれの現在位置を示す座標情報と上記式7を用いて、減少度最小ペアの仮想傾きβを算出してステップS120に移る。
ステップS120では他車両方位推定部F11が、仮想傾き算出部F9が算出する仮想傾きβと、進行方向特定部F10が特定している進行方向に基づいて、第2車両Mbが存在する方向(以降、他車両方位)を推定する。
具体的には、自車両の進行方向が相対的に北向きとなっている場合には、XY平面のうち、Y軸が正となる領域において減少度最小ペアの仮想傾きβで定まる二重差ゼロ直線が原点から延びる方向に第2車両Mbが存在すると推定する。なお、XY平面のY軸正方向は北を表し、X軸正方向は東を表している。仮に、自車両の進行方向が相対的に北向きであって、かつ、仮想傾きβが−1である場合には、北西方向に第2車両Mbが存在すると推定する。
また、自車両の進行方向が相対的に南向きとなっている場合には、XY平面のうちY軸が負となる領域において減少度最小ペアの仮想傾きβで定まる二重差ゼロ直線が原点から延びる方向に第2車両Mbが存在すると判定する。仮に、自車両の進行方向が相対的に南向きであって、且つ、仮想傾きβが−1である場合には、東南方向に第2車両Mbが存在すると推定する。
つまり他車両方位推定部F11は、自車両の進行方向が北向きか南向きかに応じて、減少度最小ペアの仮想傾きβを、その値に応じた方位角に変換してステップS130に移る。ステップS130では、報知処理部F12がステップS120での推定結果をドライバに報知して本フローを終了する。
<実施形態のまとめ>
以上の構成では、制御ユニット11は、自車両としての第1車両Maと、他車両としての第2車両Mbにおける衛星ペア毎の二重差Dを逐次算出し、変化度αが負となっている衛星ペアの中でその絶対値が最も小さい衛星ペア(つまり減少度最小ペア)を決定する。そして、減少度最小ペアの座標情報を用いて算出した仮想傾きβと、自車両の進行方向とから定まる方位を、第2車両Mbが存在する方位と見なす。
減少度最小ペアの座標情報を用いて算出される仮想傾きβと、自車両の進行方向と、第2車両Mbが存在する方位と、の間に対応関係があることは、数値解析によって確認できている。したがって、以上の構成によれば、減少度最小ペアの座標情報を用いて算出される仮想傾きβと、自車両の進行方向とから、第2車両Mbが存在する方位を推定することができる。
そして、減少度最小ペアを決定する上では、第1車両Maと第2車両Mbとが、3機のGNSS衛星を共通して捕捉していればよい。したがって、第1車両Ma及び第2車両Mbの少なくとも何れか一方の捕捉衛星数が3機であっても、第2車両Mbが存在する方位を推定できる。
また、他車両方向を推定する上では測位演算を実施する必要もない。したがって測位演算を実施すること無く、他車両が存在する方向を推定することができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
[変形例1]
上述した実施形態では、種々の衛星ペアのうち、減少度最小ペアのみの仮想傾きβを用いて方位を推定する態様を例示したが、これに限らない。例えば変化度αが負となっている衛星ペアのうち、その絶対値が所定の閾値以下となっている衛星ペアを全て選択し、それら選択した衛星ペアの仮想傾きβの平均値を、第2車両Mbが存在する方位として採用してもよい。
また、例えば変化度αが負となっている衛星ペアの中で、絶対値が一番小さい衛星ペアからk番目に小さい衛星ペアまでを選択し、それら選択したk個の衛星ペアの仮想傾きβの平均値を、第2車両Mbが存在する方位として採用してもよい。kは適宜設計される正の整数値であって、例えば2や3などとすればよい。
複数の衛星ペアの仮想傾きβから第2車両Mbが存在する方位を推定する場合には、複数の仮想傾きβの単純な平均ではなく、変化度αに応じた重みを仮想傾きβに付与した重み付け平均によって算出した値を第2車両Mbが存在する方位として採用してもよい。重み付け平均に用いる重みは、変化度αの絶対値が小さいほど大きくする。
[変形例2]
以上では、捕捉衛星データを捕捉衛星毎の擬似距離を示すデータとする態様を例示したがこれに限らない。各車載器1は、捕捉衛星データとして、自車一重差算出部F1が算出した衛星ペア毎の一重差をペア情報と対応付けたデータを送信する態様としてもよい。
そのような態様によっても、受信側の車載器1は、他車両にとっての自己一重差(換言すれば自車両にとっての他車一重差)を特定できる。
[変形例3]
以上では、請求項に記載の方向推定装置が車載器1として車両に搭載されている態様を例示したが、これに限らない。換言すれば、請求項に記載の方向推定装置が適用される移動体は、車両に限らない。
例えば、請求項に記載の方向推定装置が適用される移動体は、歩行者や自転車(以降、歩行者等)などであっても良い。その場合には、歩行者が携帯する携帯端末(例えばスマートフォン)を方向推定装置として機能させればよい。方向推定装置として機能する携帯端末は、制御ユニット11、GNSS受信機12、車車間通信部13に相当する機能を備えていれば良い。
なお、種々の装置同士が捕捉衛星データを送受信するための通信の態様も車車間通信に限定しない。一定範囲内(例えば数百m以内)に存在する装置同士が直接的又は間接的に無線通信できればよく、その通信規格としては例えばBluetooth(登録商標)などを採用することができる。なお、装置同士の間接的な通信とは、装置同士が、道路沿いに設けられた通信端末(いわゆる路側機)や広域通信網を介して無線通信を実施する態様を指す。
[変形例4]
全ての移動体が、上述した車載器1が備える全ての機能を備えている必要はない。例えば、歩行者等は、捕捉衛星データを送信する機能は備える一方、他の移動体から送信される擬似距離関連情報を受信する機能を備えない装置(以降、送信用装置)が用いられても良い。そのように送信機能に限定した送信用装置は、前述の車載器1よりも安価に実現できる。したがって、歩行者等への送信用装置の導入を促進することができる。
[変形例5]
変形例4にて言及した送信用装置は、4機以上のGNSS衛星を捕捉している場合であっても、捕捉衛星データに示す情報は、所定の3機のGNSS衛星についての擬似距離に留めることが好ましい。これは次の理由による。
仮に4機のGNSS衛星についての擬似距離を開示すると、送信元の位置が受信側によって評定されてしまう恐れがある。一方、送信用装置が疑似距離を送信するGNSS衛星の数を3機に絞ることで、送信用装置の絶対位置を他の装置が評定することができなくなる。つまり、この変形例5の構成によれば、送信用装置を利用するユーザのプライバシーを保護することができる。
なお、捕捉衛星データにて擬似距離を開示する3つのGNSS衛星は、例えば、受信信号強度やSN比等の信号品質が相対的に良い3機とすればよい。信号品質がよいGNSS衛星については、周囲に存在する車載器1も捕捉している可能性が高いからである。
もちろん、送信用装置2が送信する捕捉衛星パケットは、変形例2で述べたように、所定の3機のGNSS衛星を母集団とする衛星ペア毎の一重差を示す情報としてもよい。
[変形例6]
車載器1等の方向推定装置の通信相手とする他の装置(以降、他装置)は、移動体で用いられている装置に限らず、他装置は道路沿いなどにおいて固定されている固定端末であってもよい。
[変形例7]
以上では、GNSS衛星を請求項に記載の基準局として用いる態様を例示したが、これに限らない。請求項に記載の基準局は、方向推定装置が基準局との距離を特定できる存在であれば良く、例えば公衆無線通信網を構築する無線基地局(例えば携帯電話機の基地局)等であっても良い。