以下、図を参照してこの発明の実施の形態につき説明する。なお、図1、図3、図15はこの発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、この発明は何らこれらに限定されない。また、以下の説明においてベクトル量を扱うが、ベクトル量であることを明示するための、ベクトル量を表す文字の上に付する右向き矢印は、混乱が生じない範囲で省略することがある。
≪第1の実施形態≫
図1を参照して、第1の実施形態のPVベクトル測定装置について説明する。このPVベクトル測定装置は、被測定対象物のSOPベクトルの時間依存性が周期的であることを想定されることを前提に構成されている。
このPVベクトル測定装置100は、測定用プローブ光を出力する光源101と、入力光の偏波状態を任意に設定することが可能である偏波変換器102と、偏光計104と、PVベクトル算出装置105を備えている。偏波変換器102は測定用プローブ光の偏波状態を操作する。偏波変換器102からの出力光は、被測定対象物(DUT: Device Under Test)103に入力される。偏光計104は、被測定対象物103から出力される出力光のSOPベクトルの時間依存性を測定する。PVベクトル算出装置105は、SOPベクトルの時間依存性から、被測定対象物103の偏波変動速度を表す固有ベクトルを算出する。第1の実施形態のPVベクトル測定装置では、偏波制御器として偏波変換器102が利用される。
偏波変換器102は、1/4波長板と1/2波長板を組み合わせた偏波面コントローラを利用して構成することができる。偏波面コントローラでは、1/4波長板と1/2波長板の偏光軸を回転させることによって、入力光の偏光状態を任意に設定することが可能である。あらたな測定の正当性は、発生する偏波変動が自由に制御できる被測定対象物103に対し,測定結果と数値計算結果を比較することで得られる。ここでは、被測定対象物103として、3つの偏波ローテータ(R1〜R3)から構成されるものを用いた。被測定対象物103についての詳細は後述するが、複屈折の時間依存性を周期的に変化させるものとし,等しいパターンが繰り返される。
偏光計104は、オシロスコープモードでストークスパラメータの時間依存性を観測できるものであればよく、その測定速度帯域は被測定対象物103のSOPベクトルの時間依存性の偏波変動速度に対してサンプリング定理(標本化定理)を満たしていればよい。例えば、偏波変動速度が、24 krad/s以下である場合には、サンプリング周波数が48 kS/sであるジェネラルフォトニクス(General photonics)社のPOD-101A等が利用できる。
PVベクトル算出装置105は、SOPベクトルの時間依存性から、被測定対象物103の偏波変動速度を表す固有ベクトル(PVベクトル)を算出するためのソフトウエアがインストールされている。
図1に示すPVベクトル測定装置によって、被測定対象物103のPVベクトルを求めるには、以下の3つのステップ(第1〜第3ステップ)を実行する。
第1ステップ:
光源101の出力光を偏波変換器102に入力する。第1ステップにおいては、偏波変換器102の制御条件は任意に設定しておく。偏波変換器102から出力される出力光を被測定対象物103に入力させ、被測定対象物103からの出力光を、オシロスコープモードの偏光計104によってストークスパラメータを観測する。
第2ステップ:
偏波変換器102の制御条件を第1ステップと異なる条件に設定し、即ち、被測定対象物103へ入射される偏波状態を第1ステップと異なる状態とし、第1ステップと同様に偏光計104によってストークスパラメータを観測する。
第3ステップ:
第1及び第2ステップにおいて取得したストークスパラメータに基づいて、PVベクトル算出装置105により被測定対象物103のPVベクトルを算出する。
ここで、PVベクトルの算出方法を以下に説明する。この説明に当たっては、まず、PVベクトルを定義し、PVベクトルとSOPベクトルの関係について説明した上で、PVベクトルの測定原理について説明する。
<PVベクトルの定義>
PVベクトルは、ストークス空間で定義されるベクトルであり、その大きさは瞬間において、直交偏光軸間に発生する位相差の変化速度(rad/s)である。
ここで、PVベクトルの測定対象として、図2に示すモデル化した長さがL mの光ファイバを想定する。この光ファイバには、複屈折が無数に分布し、それらの複屈折は外部応力を受けてランダムに変化する。このような光ファイバへ入力された光波は,これらの分布複屈折変動の影響を順に受ける。このため、出力端における偏波変動は、この複雑な過程を経た結果として観測され、複雑である。以降では、この光ファイバを、固有値解析によってモデル化し、PVベクトル測定方法を説明する。
この光ファイバに測定用プローブ光が入力されると、光ファイバからの出力光のSOPは時間の関数として変化する。SOPを数学的に表現するには、ジョーンズベクトルを利用するのが便利である。ジョーンズベクトルは、2次元ベクトルであり、その成分はx、y偏光成分の複素振幅である。また、入力光のジョーンズベクトルと出力光のジョーンズベクトルは、2×2のジョーンズ行列によって関係づけられる。
図2に示す光ファイバへの入力光を、光角周波数がωである単色光であるとして、その光強度で正規化したジョーンズベクトルを|sin〉と示す。また、入力光のSOPは時間変化しないと仮定する。すなわち、次式を満たす。
入力光のジョーンズベクトル|sin〉の転置共役ベクトル|sin〉†を〈sin|で表せば、|sin〉が正規化されているので、〈sin|sin〉=1である。
複屈折が時間と共に変化する任意の偏波変動光ファイバの伝達特性を、時間の関数としたジョーンズ行列T(t)により表す。ジョーンズ行列T(t)は2×2の複素行列であり、この行列の成分は時間の関数である。
光強度で正規化した光ファイバの出力光のジョーンズベクトルを|sout(t)〉とすると、|sin(t)〉と|sout(t)〉の関係は次式(1)で与えられる。
ここで、tは光ファイバの出力端において定義される時間である。
長距離光ファイバの時間依存の伝達特性は、光波が伝搬に伴って受ける、ランダムな分布複屈折の瞬間のジョーンズ行列を順に乗算したものとして表せる。この分布複屈折の中の1つの複屈折セクションを取り上げると、これは、1つの偏波ローテータのように表せる。ここで、分布複屈折の1つを表す具体的な例として、ニオブ酸リチウム結晶を利用して構成された偏波ローテータのジョーンズ行列Trot(t)について説明する。偏波ローテータの異常屈折率と常屈折率を与える光学軸がそれぞれx、y偏光軸と一致している場合、偏波ローテータの伝達特性を与えるジョーンズ行列Trot(t)は、次式(2a)及び(2b)で与えられる。
式(2a)及び(2b)において、cは光速度、Lは偏波ローテータの素子長、no(t)及びne(t)はそれぞれ常屈折率及び異常屈折率の瞬時値である。φc(t)は偏波ローテータの出力端における両偏光軸共通の瞬時位相、φb(t)は瞬時複屈折位相(リタデーション)である。
この偏波ローテータに電界を印加すると、φb(t)が時間変化するので、出力光のSOPも時間変化する。SOPをストークス空間の3次元SOPベクトルとして表現すると、SOPの振る舞いが理解しやすい。
ここで取り上げた例では、出力光のジョーンズベクトル|sout(t)〉に対応するSOPベクトルの先端は、φb(t)の変化に伴いポアンカレ球上を、S1軸を中心に変化する。また、式(2a)に示すジョーンズ行列Trot(t)は、行列式 detTrot(t) の絶対値が1であり、ユニタリー行列の性質を有している。
長距離光ファイバに入力された光波は、例えば式(2a)、式(2b)で挙げた様な複屈折変化を表す行列の影響を順に受ける。式(2a)、式(2b)で挙げた例は、S1軸中心の回転を与えるが、分布複屈折それぞれの回転軸、回転量は未知である。しかしながら、偏波依存損失を無視した場合、長距離光ファイバ全体の特性は、分布したユニタリー行列の積となる。ユニタリー行列を無数に乗じても結局一つのユニタリー行列で表せるので、長距離光ファイバの特性も一つのユニタリー行列で表せる。ここで、長距離光ファイバのジョーンズ行列をT (t)と表す。ユニタリー行列は、常にスカラーの共通位相と、このユニタリー行列の行列式の値が1である特殊ユニタリー群SU(2)の特殊ユニタリー回転行列の積で表される。任意のT(t)に関し、その共通位相は (detT(t))1/2=eiΦ により得られ、Φは媒質中を伝搬することに伴う遅延のため常に負の値をとる。
ジョーンズ行列T(t)から共通位相を除算したSU(2)の回転行列をU(t)とすると、式(1)は、次式(3)と書ける。
式(3)を時間で偏微分して、更に、次式
の関係を利用すると、次式(4)が得られる。
右辺の大括弧内の第1項は、偏波無依存の共通位相の単位時間当たりの変化を表す。この第1項の単位は、rad/sである。また、大括弧内の第2項は偏波変動に関係する項である。ここで、第2項を偏波変動演算子H(t)として、次式(5)のように定義する。
次に、偏波変動演算子H(t)をストークス空間でのベクトルとして表す。U(t)がSU(2)の性質をもつことを利用すると、H(t)はトレースがゼロのエルミート行列となることが確認できる。トレースがゼロの2×2のエルミート行列は、互いに独立な直交基底である3つのパウリ行列で展開でき、それらの展開係数は常に実数である。
3つのパウリ行列σ1、σ2、σ3は、次式(6)で与えられる。
σ1、σ2、σ3の展開係数は、ストークスベクトルのS1、S2、S3の成分となる。
3つのパウリ行列σ1、σ2、σ3を用いれば、偏波変動演算子H(t)は、次式(7)で与えられるように展開される。
展開係数ν1、ν2、ν3は次式(8)で与えられる。
ここで、スピンベクトルσをσ=[σ1,σ2,σ3]、ベクトルνをν(t)=[ν1(t),ν2(t),ν3(t)]Tと定義すれば、H(t)は次式(9)で表される。
ベクトルν(t)は、偏波変動を表すH(t)を、ストークス空間の3次元実ベクトルとして表したものであり、ここでPVベクトルと定義する。
次に、ストークス空間のPVベクトルν(t)について、その物理的性質を説明する。PVベクトルν(t)の大きさは、エルミート行列H(t)の2つの固有値から求まる。エルミート行列H(t)の2つの実数固有値をΛ±(t)とする。正方行列の固有値の積はその行列の行列式の値と等しく、固有値の和はその行列のトレースと等しいという性質を利用すると、次式(10a)及び(10b)で与えられる関係が得られる。
この関係から、2つの固有値Λ±(t)は次式(11)で与えられる。
これによって、次式(12)で与えられるH(t)の固有値の差は、ストークス空間においてPVベクトルν(t)の大きさとなっていることが判明する。
式(2a)(2b)で与えた偏波ローテータのジョーンズ行列Trot(t)から、2つの固有値Λ±(t)を求めると、次式(13)が得られる。
この場合、PVベクトルν(t)の大きさは、次式で与えられ、偏波ローテータの出力端における複屈折率位相φb(t)の単位時間当たりの変化、すなわちSOPの変化速度(単位はrad/s)を表すことがわかる。
また、PVベクトルν(t)の方向は、H(t)について、固有値Λ±(t)に属する固有ベクトルにより判断できる。これら2つの固有値に属する固有ベクトル|p±(t)〉を求めると、次式(14)で与えられる。
ここで、kはゼロでない任意定数である。この2つの固有ベクトルは、偏波ローテータのジョーンズベクトルを表す。任意のジョーンズベクトルは、〈s|σ|s〉の演算によって、ストークス空間の3次元の実ベクトルに変換できる。
2つの固有ベクトルは、次式(15)によって、ストークス空間の実ベクトルに変換される。
式(15)の右辺のスカラー部分は常に正であるので、+ν(t)はストークス空間において、|p+〉を指すベクトルであることがわかる。|p+〉は、固有値Λ+(t)に属する固有ベクトルであって、偏波ローテータのジョーンズ行列Trot(t)から求めた固有値Λ+(t)に属する。このため、ベクトルν(t)の方向は、ストークス空間で進相軸を指すことがわかる。
PVベクトルの性質を整理する。これまでに、偏波変動演算子H(t)は、トレースがゼロのエルミート行列であり、式(13)の2つの固有値をもつことを示した。また、これらの固有値に属する直交した2つの固有ベクトルが存在する。2つの固有値は、それぞれ、直交偏光軸の位相変化率を示している。更に、このH(t)は、任意の長距離光ファイバにより導出したものであった。これらのことから、瞬間において、常に直交した出力偏光状態が存在し、この固有値の差は、直交偏光軸間に発生する位相差、即ち、本質的な偏波変動の原因となっている。これらの解析は、長距離光ファイバを、あたかも、直交偏光軸間に位相差を発生させる1つの偏波ローテータの様にモデル化できることを意味する。PVベクトルは、これらの固有値、固有ベクトルをストークス空間内に表現したものであり、その大きさが直交偏光軸間に発生する位相差の変化率(単位はrad/s)を表し、方向が光ファイバの進相軸の方向であるベクトルである。これは、光ファイバの直交偏光軸間に発生する位相差の変化率として表現するので、入力に依存しない光ファイバ本来の性質である。
<PVベクトルとSOPベクトルの関係>
次に、PVベクトルとSOPベクトルの関係を求める。この関係を用いて、図1に示すPVベクトル測定装置によって、入力光のSOPに依存しない被測定対象物のPVベクトルを測定する。
図1に示す被測定対象物103から出力される出力光のジョーンズベクトルは、次式(16)によって、ストークス空間のSOPベクトルに変換される。
式(16)を時間で偏微分すると次式(17)が得られる。
式(4)、式(9)、|sin〉†=〈sin|であること、H(t)がエルミート行列であること、及び、任意の3次のベクトルaとスピンベクトルσに関して、
の関係が成り立っていることを利用すると、式(17)は、次式(18)となる。ここでIは単位ベクトルである。
式(18)は、ストークス空間で、光学素子(ここでは、被測定対象物)から出力されるSOPベクトルと光ファイバ自身の偏波変動特性,即ちPVベクトルとを結び付ける関係式である。長距離光ファイバの出力SOPはランダムに変化するが、この定式は、ランダムな変化に関しても、瞬間のSOPベクトル先端の軌跡は、PVベクトルを中心とした明確な回転を有することを意味する。
<PVベクトルの測定原理>
図1に示したPVベクトル測定装置において、前述した第1及び第2ステップを実行すれは、被測定対象物103から出力されるSOPベクトルsi(t)及びsj(t)が得られる。この場合、被測定対象物103に対するPVベクトルν(t)に関して次式(19a)及び(19b)が成り立つ。
式(19a)と式(19b)同士の外積をとって、ベクトル4重積の公式を利用すると、次式(20)がれられる。
すなわち、2つの相異なるSOPの光を被測定対象物103に入力し、被測定対象物103から出力される出力光のSOPベクトルsi(t)及びsj(t)が得られれば、式(20)によって、被測定対象物103への入力光のSOPに依存しないPVベクトルが求められる。具体的には、図1に示した偏波速度ベクトル算出装置105(PVベクトルν(t)を算出するためのソフトウエアがインストールされた市販のPC)によって、SOPベクトルsi(t)及びsj(t)に基づいて式(20)からPVベクトルν(t)が求められる。
ここで、SOPベクトルsi(t)及びsj(t)は、以下のようにして求めることができる。第1の実施形態のPVベクトル測定装置においては、被測定対象物103として、光学軸が異なる方法に設定された3つの偏波ローテータから構成される偏波変調器を模擬的に利用した。この偏波変調器によれば、SOPベクトルの時間依存性を周期的に変化させることができる被測定対象物を疑似的に実現できる。
PVベクトルの測定に当たって、この擬似的被測定対象物(偏波変調器)を構成する3つの偏波ローテータのそれぞれを、電圧制御して複屈折率が周期的に変化するように制御する。そして、以下のようにこの偏波変調器から出力される出力光のSOPベクトルの時間依存性を周期的に変化させる。
まず、周期的に変化する偏波変調信号によって偏波変調器を制御し、この偏波変調信号の1周期内の異なる2位相において、それぞれ偏波変調器から出力される出力光の2位相のそれぞれの位相に対応するSOPベクトルsi(t)とsj(t)を偏光計104で観測する。そして、偏波速度ベクトル算出装置105によって、上述の式(20)を用いてPVベクトルを算出する。
<第1の実施形態の実証実験>
図3を参照して、上述のPVベクトルの測定原理を検証する実験の内容及びその結果について説明する。図3に示すPVベクトル測定装置は、測定用プローブ光を出力する光源であるDFB(Distributed Feedback Laser)レーザ111と、1/2波長板及び1/4波長板を組み合わせて構成された偏波変換器112と、サンプリングレートが48 kS/sである偏光計114と、上述の式(20)に基づいてPVベクトルν(t)を算出するためのソフトウエアがインストールされた市販のPC 115を備えている。DFBレーザ111の波長は1550.5 nmである。偏光計114には、ジェネラルフォトニクス(General photonics)社のPOD-101Aを利用した。
擬似的被測定対象物113には、光学軸が異なる方向に設定された3つの偏波ローテータR1〜R3から構成される偏波変調器を利用した。この偏波変調器を構成する3つの偏波ローテータR1〜R3はそれぞれ、バルク型のニオブ酸鉛マグネシウム-チタン酸鉛(PMN-PT)で構成されている。
PMN-PTは、電気光学カー(Kerr)効果によって直交偏光軸間に位相差を発生させることができる。PMN-PTの特徴は、制御電圧を印加しなければ、屈折率に関して等方性であり複屈折が発現しないことである。そして、制御電圧が印加されたPMN-PTの偏光特性を与える回転行列は単位行列として扱える。また、PMN-PTに発現する複屈折の大きさは、電気光学カー効果に基づくので印加電圧の二乗に比例する。
擬似的被測定対象物113を構成する3つの偏波ローテータR1〜R3の光学軸は、図3に示すように偏波ローテータR1がx軸に平行(傾きが0°)に、偏波ローテータR2がx軸に対して45°傾けられ、偏波ローテータR3がx軸に平行(傾きが0°)に設定されている。このため、偏光回転軸は、ストークス空間で、偏波ローテータR1及びR3に対してはS1軸、偏波ローテータR2に対してはS2軸となる。
偏波ローテータR1〜R3のそれぞれが入力光のSOPベクトルに与える回転方向は、これらS1、S2回転軸を中心にして左、左、右周りとなるように、制御信号を設定した。偏波ローテータR1〜R3のそれぞれには、電圧が0〜Vπの範囲で正弦波変動する制御信号が印加される。この制御信号は、関数発生器120から発生する0.1 kHzの正弦波を高電圧ドライバ122によって増幅して生成された信号である。電圧Vπは、偏波ローテータR1〜R3のそれぞれにπラジアンの複屈折位相変化が発現する電圧である。
偏波ローテータR1〜R3のそれぞれでは、この制御信号によって0〜πラジアンの範囲で複屈折位相が変化するので、擬似的被測定対象物113から出力される出力光のSOPベクトルの先端の軌跡は、ポアンカレ球上で半周を往復する。
図3に示すように、擬似的被測定対象物113から出力された出力光は、シングルモードファイバ(SMF)を介して偏光計114に入力される。このシングルモードファイバは、必ずしもこの検証実験では必要がないものであるが、ここで利用したジェネラルフォトニクス社の偏光計(商品型番:POD-101A)には、擬似的被測定対象物113から出力された出力光を容易に入力できるようにシングルモードファイバが付属されている。後述する実証実験の説明においては、このシングルモードファイバで発生する偏波変換の効果は無視できるように補償して示してある。
ここで用いた偏光計114は、オシロスコープモードでの測定が可能であり、SOPベクトルを観測するのに便利な機種である。この偏光計114のサンプリングレートは48 kS/sである。
<実証実験の内容及びその結果>
検証実験は、以下の手順で行った。
まず、偏波ローテータR1〜R3のそれぞれを独立に制御して測定した。すなわち、偏波ローテータR1に制御電圧を印加し、他の偏波ローテータR2及びR3に対しては制御電圧を印加せずに、SOPベクトルsi(t)とsj(t)をそれぞれ求める。同様に偏波ローテータR2に制御電圧を印加し、他の偏波ローテータR1及びR3に対しては制御電圧を印加せずに、SOPベクトルsi(t)とsj(t)をそれぞれ求める。偏波ローテータR3に制御電圧を印加する場合も同様である。
次に、偏波ローテータR2及びR3あるいは偏波ローテータR1及びR2に制御電圧を印加して、SOPベクトルsi(t)とsj(t)を求めた。最後に、偏波ローテータR1〜R3の全てに制御電圧を印加して、SOPベクトルsi(t)とsj(t)を求めた。
上述の三通りの手順においてそれぞれ求められたSOPベクトルsi(t)とsj(t)に基づき、それぞれの手順ごとに上述の式(20)を用いてPVベクトルを求めて、理論値と比較した。
まず、偏波ローテータR1に制御電圧を印加し、他の偏波ローテータR2及びR3に対しては制御電圧を印加せずに、SOPベクトルsi(t)とsj(t)をそれぞれ求める場合についての検証実験の結果を説明する。
図4に、偏波ローテータR1のみを駆動して得られるPVベクトルν(t)の理論値を示す。図4(A)はPVベクトルν(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図4(B)はPVベクトルν(t)の大きさを時間に関してプロットした図であり、時間軸を横軸にとりミリ秒(ms)単位で目盛って示し、PVベクトルν(t)の大きさを左側縦軸にキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示し、右側縦軸に複屈折位相φb(t)をラジアン目盛で目盛って示してある。
偏波ローテータR1の光学軸はS1軸なので、図4(A)に示すように、制御電圧の変化に伴ってPVベクトルν(t)の先端はS1軸上を往復する。また、図4(B)に示すように、複屈折位相φb(t)は、周期が10 msの正弦波制御信号によって0〜πの範囲で正弦波状に変化する。PVベクトルν(t)の大きさは、複屈折位相φb(t)の単位時間当たりの変化であるから、複屈折位相φb(t)の時間微分が0となる時刻において、周期的に0 rad/sとなっている。
上述した図4に示した理論値と、実験結果とを比較する。
図5は、偏波ローテータR1のみを駆動して得られるPVベクトルν(t)の実験結果を示す図である。図5(A)はストークスパラメータの時間変化を示す図であり、横軸に時間をミリ秒(ms)単位で目盛って示し、ストークスパラメータS1〜S3をそれぞれ別々に縦軸にとって示してある。図5(B)はSOPベクトルsi及びsjの先端の軌跡をポアンカレ球面上にプロットした図である。
図6は、図5に示す実験結果を基にして求めたPVベクトルν(t)の測定値を示す図であり、図6(A)はPVベクトルν(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図6(B)はPVベクトルν(t)の大きさ|ν(t)|の時間変化をプロットした図であり、時間軸を横軸にとってミリ秒(ms)単位で目盛って示し、|ν(t)|の時間変化を縦軸にとってキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。
図4と図6を比較すると、理論値と実験結果がよく一致していることがわかる。実験結果の提示は省略するが、同様に偏波ローテータR2に制御電圧を印加し、他の偏波ローテータR1及びR3に対しては制御電圧を印加せずに、SOPベクトルsi(t)とsj(t)をそれぞれ求める場合、及び偏波ローテータR3に制御電圧を印加する場合のいずれの場合においても同様の結果が得られた。
次に、偏波ローテータR2及びR3に制御電圧を印加して、SOPベクトルsi(t)とsj(t)を求める場合についての検証実験の結果を説明する。
図7は、偏波ローテータR2及びR3をそれぞれ独立に駆動して得られるPVベクトルν(t)の理論値を示す図である。図7(A)はPVベクトルν2(t)及びν3(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図7(B)は、PVベクトルν2(t)及びν3(t)の大きさ|ν2(t)|及び|ν3(t)|と複屈折位相φb(t)を時間に関してプロットした図であり、時間軸を横軸にとりミリ秒(ms)単位で目盛って示し、PVベクトルの大きさを左側縦軸にキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示し、右側縦軸に複屈折位相φb(t)をラジアン目盛で目盛って示してある。
偏波ローテータR2、R3の光学軸はストークス空間でS2軸、S1軸に対応するので、PVベクトルν2(t)及びν3(t)の先端は、時間変化に対してS2軸、S1軸上を往復する。PVベクトルν2(t)及びν3(t)の大きさ|ν2(t)|及び|ν3(t)|は、等しい変調信号が印加されているので同一の変化をし、図7(B)では両者の変化を示す曲線は重なっている。
図8は、偏波ローテータR2及びR3をそれぞれ独立に駆動して得られたPVベクトルの測定値を示す図である。図8(A)はPVベクトルν2(t)及びν3(t)の先端の軌跡をストークス空間で示す図であり、図8(B)はPVベクトルの大きさ|ν2(t)|及び|ν3(t)|の時間変化を示す図である。図8における縦軸と横軸は、図7と同様である。
図8(A)に示すように、PVベクトルν2(t)及びν3(t)の先端の軌跡は、それぞれほぼS1軸、S2軸上にありPVベクトルの直交関係が確認できる。図8(A)において、PVベクトルν3(t)の先端の軌跡がS1軸と完全には重ならず僅かにずれているのは、偏波ローテータR2及びR3のそれぞれの光学軸の実験上の設定誤差に基づくものと考えられる。また、図8(B)において、PVベクトルの大きさ|ν2(t)|と|ν3(t)|とでは、0 rad/sとなる時刻が異なっている。これは、|ν2(t)|と|ν3(t)|とをそれぞれ独立に測定したことにより、測定開始時刻が両者で異なっていたためである。
図8(A)において、PVベクトルν3(t)の先端の軌跡がS1軸と完全には重ならず僅かにずれていること、及び図8(B)において、PVベクトルの大きさ|ν2(t)|と|ν3(t)|とでは、0 rad/sとなる時刻が異なっていることを考慮に入れ、図7に示した理論値と図8に示した検証実験結果を比較すると、両者は良好に一致していることがわかる。
次に、偏波ローテータR1及びR2に制御電圧を印加して、SOPベクトルsi(t)とsj(t)を求める場合についての検証実験の結果を説明する。
図9に、偏波ローテータR1及びR2を同時に駆動して得られるPVベクトルνtot2(t)の理論値を示す。図9(A)はPVベクトルνtot2(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図9(B)はPVベクトルνtot2(t)の大きさと複屈折位相φb(t)を時間に関してプロットした図であり、時間軸を横軸にとりミリ秒(ms)単位で目盛って示し、PVベクトルνtot2(t)の大きさを左側縦軸にキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示し、右側縦軸に複屈折位相φb(t)をラジアン目盛で目盛って示してある。
図10は、偏波ローテータR1及びR2を同時に駆動して得られたPVベクトルνtot2(t)の実験結果を示す図である。図10(A)はストークスパラメータの時間変化を示す図であり、横軸に時間をミリ秒(ms)単位で目盛って示し、ストークスパラメータS1〜S3をそれぞれ別々に縦軸にとって示してある。図10(B)はSOPベクトルsi及びsjの先端の軌跡をポアンカレ球面上にプロットした図である。
図11は、図10に示す実験結果を基にして求めたPVベクトルνtot2(t)の検証実験による測定値を示す図であり、図11(A)はPVベクトルνtot2(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図11(B)はPVベクトルνtot2(t)の大きさ|νtot2(t)|の時間変化をプロットした図であり、時間軸を横軸にとってミリ秒(ms)単位で目盛って示し、|νtot2(t)|の時間変化を縦軸にとってキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。
図9(A)及び図11(A)に示すように、PVベクトルνtot2(t)の先端は、互いに偏波回転軸が異なる偏波ローテータを同時に制御信号によって駆動したことにより、時間に関して変化する。また、図9(B)及び図11(B)に示すように、偏波回転速度は偏波ローテータを1つだけ制御信号によって駆動した場合よりも高速になる。図9と図11を比較すると、理論値と実験結果がよく一致していることがわかる。
最後に、偏波ローテータR1〜R3の全てに制御電圧を印加して、SOPベクトルsi(t)とsj(t)を求める場合についての検証実験の結果を説明する。
図12に、偏波ローテータR1〜R3を同時に駆動して得られるPVベクトルνtot3(t)の理論値を示す。図12(A)はPVベクトルνtot3(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図12(B)はPVベクトルνtot3(t)の大きさを時間に関してプロットした図であり、時間軸を横軸にとりミリ秒(ms)単位で目盛って示し、PVベクトルνtot3(t)の大きさを左側縦軸にキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示し、右側縦軸に複屈折位相φb(t)をラジアン目盛で目盛って示してある。
図13は、偏波ローテータR1〜R3を同時に駆動して得られたPVベクトルνtot3(t)の実験結果を示す図である。図13(A)はストークスパラメータの時間変化を示す図であり、横軸に時間をミリ秒(ms)単位で目盛って示し、ストークスパラメータS1〜S3をそれぞれ別々に縦軸にとって示してある。図13(B)はSOPベクトルsi及びsjの先端の軌跡をポアンカレ球面上にプロットした図である。
図14は、図13に示す実験結果を基にして求めたPVベクトルνtot3(t)の検証実験による測定値を示す図であり、図14(A)はPVベクトルνtot3(t)の先端の軌跡をストークス空間に重ねて表示した図であり、S1〜S3軸のそれぞれをキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。図14(B)はPVベクトルνtot3(t)の大きさ|νtot3(t)|の時間変化をプロットした図であり、時間軸を横軸にとってミリ秒(ms)単位で目盛って示し、|νtot3(t)|の時間変化を縦軸にとってキロラジアン毎秒(krad/s)単位で目盛って示してある。
図12(B)及び図14(B)に示すように、偏波回転速度は偏波ローテータを1つだけ、あるいは2つを制御信号によって駆動した場合よりも高速になる。図12と図14を比較すると、理論値と実験結果がよく一致していることがわかる。
≪第2の実施形態≫
図15を参照して、第2の実施形態のPVベクトル測定装置について説明する。このPVベクトル測定装置は、被測定対象物のSOPベクトルの時間依存性がランダムであると想定されることを前提に構成されている。第2の実施形態のPVベクトル測定装置は、例えば、実装されている光ファイバ伝送路のPVベクトルを求めることを想定している。
第2の実施形態のPVベクトル測定装置は、測定用プローブ光を出力する光源200と、周期的偏波変換器201と、偏光計204と、PVベクトル算出装置205と、関数発生器202を備えている。第1の実施形態のPVベクトル測定装置とこの第2の実施形態のPVベクトル測定装置の相違点は、入力光の偏波状態を任意に設定することが可能な偏波変換器102が、外部信号によって相異なる2通りの偏波状態を時間軸上で交互に設定することが可能である周期的偏波変換器201に置き換えられている点である。すなわち、第2の実施形態のPVベクトル測定装置では、偏波制御器として周期的偏波変換器201が利用される。
周期的偏波変換器201は、関数発生器202から与えられる制御信号によって、2つの相異なるSOPベクトルを時間軸上で交互に発生させることが可能である偏波変換器である。このような条件を満たす周期的偏波変換器には、ニオブ酸リチウム結晶を用いた偏波ローテータあるいは、PMN-PTを用いた偏波ローテータを利用できる。また、周期的偏波変換器201の変調速度は、サンプリング定理を満たすべく、被測定対象物(DUT)203で発生する偏波変動速度よりも十分に高速である必要がある。例えば、被測定対象物203が実装されている光ファイバ伝送路であるとすると、光ファイバ伝送路で発生する偏波変動速度は1 krad/s程度と想定されるから、周期的偏波変換器201の変調速度は2 krad/s以上であることが望ましい。以下、被測定対象物203として、光ファイバ伝送路を用いた。
また、偏光計204は、サンプリング定理を満たすべく、周期的偏波変換器201の変調帯域の2倍以上の変調帯域を有するものを利用するのが好適である。例えば、関数発生器202によって、1 kHzの変調信号を周期的偏波変換器201に供給する場合、偏光計204は、2 kHz以上の測定帯域を有していることが望ましい。
光源200と、偏光計204と、PVベクトル算出装置205については、第1の実施形態のPVベクトル測定装置の光源101と、偏光計104と、PVベクトル算出装置105と同様であるから、重複する説明を省略する。
図16を参照して、第2の実施形態のPVベクトル測定装置によるPVベクトルの算出方法を説明する。図16は、偏光計204で観測したストークスパラメータS1、S2、S3の強度をオシロスコープモードで観測している様子を示す図である。ストークスパラメータは上から下に向かってS1、S2、S3の順序で表示されている。
図16において、(A)で示された矩形内の波形は、時刻tにおけるSOPベクトルsiの成分[si1(t), si2(t), si3(t)]を示し、(B)で示された矩形内の波形は、時刻tにおけるSOPベクトルsjの成分[sj1(t), sj2(t), sj3(t)]を示し、(a)で示された矩形内の波形は、時刻t+ΔtにおけるSOPベクトルsiの成分[si1(t+Δt), si2(t+Δt), si3(t+Δt)]を示し、(b)で示された矩形内の波形は、時刻t+ΔtにおけるSOPベクトルsjの成分[sj1(t+Δt), sj2(t+Δt), sj3(t+Δt)]を示している。
偏光計204は、サンプリング周波数が48 kS/sであるジェネラルフォトニクス(General photonics)社のPOD-101Aを利用しているので、サンプリング1回につき(1/48)×10-3 sであり、サンプリング回数をNとすると図16の横軸の時間tは、t=N(1/48)×10-3で与えられる。また、周期的偏波変換器201の偏波スイッチを1 kHzとして測定(関数発生器202によって、1 kHzの矩形波変調信号を周期的偏波変換器201に供給)したので、(A)及び(B)で示された矩形を含む1周期分の長さは1×10-3 s である。すなわち、Δt=1×10-3 sである。
式(20)のSOPベクトルsiの時間微分は、次式
で与えられ、SOPベクトルsjの時間微分は、次式
で与えられる。
SOPベクトルsi及びsjの時間微分と、SOPベクトルsj [sj1(t), sj2(t), sj3(t)]から、式(20)を用いてPVベクトルν(t)が求められる。
第2の実施形態のPVベクトル測定装置において、被測定対象物203で発生する偏波変動速度よりも十分に高速でSOPが変動するように測定用プローブ光を周期的偏波変換器201で操作して被測定対象物203に入力すれば、(A)で示された矩形内の波形と(B)で示された矩形内の波形は同時刻での波形とみなせるので、SOPベクトルsi及びsjの時刻を同一のtで表せる。また、(a)で示された矩形内の波形と(b)で示された矩形内の波形は同時刻での波形とみなせるので、SOPベクトルsi及びsjの時刻を同一のt+Δtで表せる。
ここで観測されるSOPベクトルsi及びsjの時間変化率は、被測定対象物203に固有のベクトルであり、被測定対象物203に入力される測定用プローブ光のSOPベクトルには依存しない。すなわち、第2の実施形態のPVベクトル測定装置を用いれば、周期的偏波変換器201の変調速度と比較して十分に低速な複屈折率変化が起こる光ファイバ伝送路等の偏波変動特性を一意的に観測して評価することが可能となる。
また、測定用プローブ光を出力する光源200の波長を変化させて、波長ごとに偏波速度ベクトルを求め、偏波速度ベクトルの波長依存性を測定することも可能である。