JP6529887B2 - 残留応力評価方法 - Google Patents
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そこで、これら制約や懸念を解消可能な超音波を用いた残留応力評価手段(音弾性法)として、特許文献1,2に開示される超音波式応力測定装置及び超音波式応力測定方法が提案されている。
具体的には、音速を測定するためには超音波の送信時間及び受信時間(伝搬時間)と共に超音波の伝搬距離が必要であるが、被検査体の不均一な形状などに起因して超音波の伝搬距離を一定に保つことは困難であり不確定な伝搬距離は誤差の要因となる。そこで、特許文献1,2は、いずれも縦波超音波及び横波超音波を用いてこれら超音波の音速を測定し、測定された音速の値に基づいて被検査体である材料中の残留応力を評価しようとして
いる。
すなわち、図3に示すように、「2モード法」で用いるレーリ波と表面SH波の伝搬経路は、同じ経路ではなく、被検査体の伝搬深さが異なることを知見するに至った。
レーリ波と表面SH波は表層を伝搬する超音波と言われているが、深さ方向における波動伝搬状況はそれぞれ異なる。例えば、レーリ波は、主に深さ方向に1波長程度を伝搬するのに対して、表面SH波は、主に深さ方向に数波長程度(例えば、3波長程度)を伝搬する。伝搬距離が大きくなるにつれて、表面SH波の伝搬深さは深くなることも知られている。
本発明の残留応力評価方法は、被検査体の表層に存在する残留応力を、前記被検査体の表層を伝搬する超音波の伝搬時間に基づいて評価する残留応力評価方法であって、前記被検査体の表層にレーリ波と表面SH波とを励振する送出ステップと、前記被検査体の表層を伝搬したレーリ波と表面SH波とを受信する受信ステップと、前記受信ステップで受信された前記レーリ波と表面SH波との伝搬時間を算出する伝搬時間算出ステップと、前記伝搬時間算出ステップで算出された前記レーリ波と表面SH波との伝搬時間に基づいて、前記被検査体の表層に存在する残留応力を評価する評価ステップと、を有しており、前記送出ステップは、前記レーリ波と表面SH波との少なくとも一方の周波数を可変とし、前記レーリ波と表面SH波との少なくとも一方の伝搬経路の深さ方向の位置を変え、前記レーリ波と表面SH波との伝搬経路の深さ方向の位置を略同じ位置とすることを特徴とする。
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の実施形態に用いられる残留応力評価装置1の基本的な構成について、説明する。
なお、本発明は、例えば、機械部品や構造体などの被検査体Wの表層に存在する残留応力を計測・評価する方法に関する。
ここで、表層とは、被検査体Wの表面下の所定の深さ範囲の領域であり、例えば深さ数mm〜数十mmより浅い範囲の領域である。また、残留応力評価装置1が測定しようとする応力は、被検査体Wの表層に残存する残留応力であって、意図せず残存した応力の場合もあれば、設計者が圧延などにより意図的に付与した(印加した)応力の場合もある。特に、本実施形態の残留応力評価装置1は、被検査体Wの深さ方向に所定の分布を有するような残留応力を、正確に測定することが可能である。
図2に示すように、送信探触子2は、例えば平板状の圧電素子20が超音波伝搬媒体の内部に装備された超音波プローブであり、被検査体Wの表面上に配置される。送信探触子2は、パルス発生器4から圧電素子20に所定電圧のパルス電圧が加えられると、所定周波数の超音波を出力し、その超音波を被検査体Wの表面へ送出する。
まず、伝搬時間TS、TRは、次の関係を有する。
TS=L/(VS(1+CS×σ)) (1)
TR=L/(VR(1+CR×σ)) (2)
ここで、
L:送信探触子2と受信探触子3との間の距離(超音波の伝搬距離)
VS:表面SH波の音速
VR:レーリ波の音速
CS:表面SH波の音弾性係数
CR:レーリ波の音弾性係数
式(1)、式(2)を組み合わせた上で、Lを無くすような式変形を行うと、以下の式(3)導出することができる。
式(3)に示すように、被検査体Wの表層に存在する残留応力σは、表面SH波の伝搬時間TS、レーリ波の伝搬時間TRの値から一意に算出することができる。この測定方法(残留応力の評価方法)は、2種類の波動(表面SH波、レーリ波)を励起・伝搬させる手法であるため、「2モード法」と呼ばれる。
すなわち、図3に示すように、「2モード法」で用いるレーリ波と表面SH波の伝搬経路は、同じ経路ではなく、被検査体Wの深さ方向(表面からの距離)が異なる経路を通ることを知見するに至った。
シミュレーションで用いた被検査体Wの厚みは15mmであり、被検査体Wの下面から水平幅0.1mmのスリットを様々な深さで穿孔したものを用意した。言い換えれば、用意した複数の被検査体Wは、超音波が伝搬する領域の深さが異なるものとされている。
図6からわかるように、スリットの穿孔深さが深くなると(言い換えれば、超音波が伝搬する領域深さが薄くなると)、レーリ波に比して表面SH波が伝搬しないようになる。このことは、レーリ波と表面SH波との深さ方向の波動伝搬状況はそれぞれ異なることを如実に示すものである。
そこで、本発明では、送出ステップは、レーリ波と表面SH波の少なくとも一方の周波数を可変とし、レーリ波と表面SH波の伝搬経路の深さ方向の位置を略同じ位置とし、測定誤差を可及的に少なくするようにした。加えて、被検査体Wの表層における残留応力の存在領域内に、レーリ波と表面SH波の伝搬経路が存在するように、言い換えれば、被検査体Wの表層における残留応力の存在深さよりも、レーリ波と表面SH波の伝搬経路の深さが浅くなるようにすることで、残留応力の測定値を正確なものとしている。
かかる知見に基づいて得られた本発明残留応力評価方法について、以下、具体的に説明する。
[第1実施形態]
本発明における残留応力評価方法の第1実施形態について説明する。
上述の残留応力評価方法を各ステップに基づいて、詳細に説明する。
送出ステップでは、送信探触子2からSH波及びSV波を被検査体Wの表面に対して送出する。被検査体Wの表面へ送出されたSH波は、図2中の破線で示す表面SH波を励振し、SV波は図2の実線で示すレーリ波を励振する。ここで、発生する表面SH波の周波数と、発生するレーリ波の周波数とが異なるように設定する。
伝搬時間算出ステップでは、波形採取装置7において、表面SH波及びレーリ波の検出信号の波形が採取すると共に、パルス発生器4から出力されたトリガ信号を受信する。そして、トリガ信号の受信から表面SH波の検出信号の受信までの時間を計測して表面SH波の伝搬時間TSを算出すると共に、トリガ信号の受信からレーリ波の検出信号の受信までの時間を計測してレーリ波の伝搬時間TRを算出する。
以上述べたように、本実施形態の残留応力評価方法(残留応力評価装置1の内部で行われる処理)は、被検査体Wの表層に2種類の超音波を励振する送出ステップと、被検査体Wの表層を伝搬した2種類の超音波を受信する受信ステップと、受信ステップで受信された2種類の超音波の伝搬時間を算出する伝搬時間算出ステップと、伝搬時間算出ステップで算出された2種類の超音波の伝搬時間に基づいて、被検査体Wの表層に存在する残留応力を評価する評価ステップと、を有しており、送出ステップは、2種類の超音波の少なくとも一方の周波数を可変としている。
[第2実施形態]
本発明における残留応力評価方法の第2実施形態について説明する。
まず、第1実施形態の技術では、超音波の伝搬深さに比べ、残留応力の存在深さが大きければ、残留応力の値を正しく測定できるものとされているが、残留応力の存在深さが小さい場合(残留応力が存在しないような深い領域を超音波の伝搬する場合)には、測定値は真の応力値よりも小さくなると考えられる。
その上で、周波数をf1→f2(f1>f2)とすることで、超音波の伝搬深さが0mm→1.0mmへと増加したとする。このときの残留応力値は-200MPaと一定であったとする。その後、周波数をf3(f2>f3)とすることで、伝搬深さが1.5mmとなり、その深さでの応力値は-150MPaと変化していることが分かる(表1を参照)。
以上のように、想定する残留応力の存在深さに対して、超音波の伝搬深さの小さいものを含む複数の伝搬深さで応力を測定し、応力値の変化をみることで、残留応力の深さ方向での分布を評価することができる。
なお、今回開示された各実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された各実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
2 送信探触子
3 受信探触子
4 パルス発生器
5,6 増幅器
7 波形採取装置
8 評価装置
20,30 圧電素子
W 被検査体
Claims (2)
- 被検査体の表層に存在する残留応力を、前記被検査体の表層を伝搬する超音波の伝搬時間に基づいて評価する残留応力評価方法であって、
前記被検査体の表層にレーリ波と表面SH波とを励振する送出ステップと、
前記被検査体の表層を伝搬したレーリ波と表面SH波とを受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信された前記レーリ波と表面SH波との伝搬時間を算出する伝搬時間算出ステップと、
前記伝搬時間算出ステップで算出された前記レーリ波と表面SH波との伝搬時間に基づいて、前記被検査体の表層に存在する残留応力を評価する評価ステップと、
を有しており、
前記送出ステップは、前記レーリ波と表面SH波との少なくとも一方の周波数を可変とし、前記レーリ波と表面SH波との少なくとも一方の伝搬経路の深さ方向の位置を変え、
前記レーリ波と表面SH波との伝搬経路の深さ方向の位置を略同じ位置とすることを特徴とする残留応力評価方法。 - 前記送出ステップにおいて、前記レーリ波と表面SH波との周波数を変更することで、前記レーリ波と表面SH波との伝搬経路の深さ位置を可変とし、
前記伝搬時間算出ステップは、伝搬経路の深さ位置が可変とされたレーリ波と表面SH波との伝搬時間を算出し、
前記評価ステップでは、伝搬経路の深さ位置が可変とされたレーリ波と表面SH波との伝搬時間を基に、前記被検査体に存在する残留応力の深さ方向の分布を計算することを特徴とする請求項1に記載の残留応力評価方法。
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