JP6521167B1 - 電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池 - Google Patents

電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】高湿下での発電性能を高めることを可能にした電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池を提供する。【解決手段】固体高分子形燃料電池において固体電解質膜に接合する電極触媒層12である。触媒物質21と、導電性担体22と、高分子電解質23と、繊維状物質24を含む。高分子電解質23は、フッ素系高分子電解質である。電極触媒層12に含まれる空隙のなかで、0.01μm以上1μm以下の直径を有する空隙が細孔である。水銀圧入法により得られる細孔直径に対する細孔容積の分布であって、細孔容積の最小値が0であり、かつ、細孔容積の最大値が1であるように細孔容積が正規化された分布において、細孔容積が最大値であるときの細孔直径が最大容積直径であり、細孔直径が最大容積直径よりも小さく、かつ、細孔容積が0.2以上である領域にショルダーピーク点を有する。【選択図】図2

Description

本発明は、電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池に関する。
燃料電池は、水素と酸素との化学反応から電流を生成する。燃料電池は、従来の発電方式と比べて高効率、低環境負荷、かつ、低騒音であって、クリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近での使用が可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの適用が有望視されている。
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層された構造を有している。単セルは、膜電極接合体が2つのセパレーターによって挟まれた構造である。膜電極接合体は、高分子電解質膜と、燃料ガスを供給する燃料極(アノード)と、酸化剤を供給する酸素極(カソード)とを備える。高分子電解質膜における第1面に燃料極が接合し、第1面とは反対の第2面に酸素極が接合している。セパレーターは、ガス流路および冷却水流路を有している。燃料極および酸素極は、別々に電極触媒層とガス拡散層とを備えている。各電極において、電極触媒層が高分子電解質膜に接している。電極触媒層は、白金系の貴金属などの触媒物質、導電性担体、および、高分子電解質を含んでいる。ガス拡散層は、ガスの通気性と、導電性とを兼ね備えている。
固体高分子形燃料電池は、以下の電気化学反応を経て電流を生成する。まず、燃料極の電極触媒層において、燃料ガスに含まれる水素が触媒物質により酸化されて、プロトンおよび電子が生成される。生成されたプロトンは、電極触媒層内の高分子電解質、および、高分子電解質膜を通り、酸素極の電極触媒層に達する。プロトンと同時に生成された電子は、電極触媒層内の導電性担体、ガス拡散層、セパレーター、および、外部回路を通って酸素極の電極触媒層に達する。酸素極の電極触媒層において、プロトンおよび電子が酸化剤ガスに含まれる酸素と反応して水を生成する。
ガス拡散層は、セパレーターから供給されるガスを拡散して電極触媒層に供給する。電極触媒層の細孔は、ガスや生成水などの複数の物質を輸送する。燃料極の細孔は、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスを円滑に供給する機能を求められる。酸素極の細孔は、電極触媒層内に酸化剤ガスを円滑に供給する機能を求められる。燃料ガスおよび酸素ガスを円滑に供給するためには、ひいては、燃料電池の発電性能を高めるためには、電極触媒層が細孔間に間隔を設け、これによって、細孔の緻密な分布を抑制することが求められる。細孔の緻密な分布を抑制する構成として、例えば、カーボン粒子またはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
特開平10−241703号公報 特許第5537178号公報
特許文献1では、互いに異なる粒径を有するカーボン粒子を組み合わせることで、電極触媒層中における細孔の分布が密になることを抑えている。また、特許文献2では、互いに異なる長さを有するカーボン繊維を組み合わせることで、電極触媒層中における細孔の分布が密になることを抑えている。一方で、カーボン粒子の組み合わせが互いに等しい層であっても、層の組成や層形成の条件などに応じて、細孔の大きさや細孔の分布は互いに異なる。また、カーボン繊維の組み合わせが互いに等しい層であっても、同様に、細孔の大きさや細孔の分布は互いに異なる。燃料電池における発電性能は、細孔の大きさや細孔の分布によって大きく変わるものであるから、結局のところ、カーボン粒子の組み合わせやカーボン繊維の組み合わせを用いる方法では、発電性能を高める観点において、依然として改良の余地がある。
本発明は、高湿下での発電性能を高めることを可能にした電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための電極触媒層は、固体高分子形燃料電池において固体電解質膜に接合する電極触媒層であって、触媒物質と、導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質を含み、前記高分子電解質は、フッ素系高分子電解質であり、前記電極触媒層に含まれる空隙のなかで、0.01μm以上1μm以下の直径を有する空隙が細孔であり、水銀圧入法により得られる細孔直径に対する細孔容積の分布であって、前記細孔容積の最小値が0であり、かつ、前記細孔容積の最大値が1であるように前記細孔容積が正規化された分布において、前記細孔容積が最大値であるときの細孔直径が最大容積直径であり、前記細孔直径が前記最大容積直径よりも小さく、かつ、前記細孔容積が0.2以上である領域にショルダーピーク点を有する。
上記電極触媒層において、前記ショルダーピーク点における細孔容積は、0.3以上0.8以下であってもよい。
上記電極触媒層において、前記ショルダーピーク点における特異細孔直径は、0.03μm以上0.06μm以下であってもよい。
上記電極触媒層において、前記ショルダーピーク点における特異細孔直径と、前記最大容積直径との差が、0.02μm以上0.07μm以下であってもよい。
上記電極触媒層において、前記最大値を取るピークのガウス関数による近似曲線での前記ショルダーピーク点での特異細孔直径における細孔容積と、前記ショルダーピーク点における細孔容積との差分値が、0.03以上であってもよい。
上記電極触媒層において、前記繊維状物質は、電子伝導性繊維、および、プロトン伝導性繊維から選択される一種または二種以上の繊維状物質を含み、前記電子伝導性繊維は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、遷移金属含有繊維から構成される群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
上記電極触媒層において、前記遷移金属含有繊維は、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含んでもよい。
上記課題を解決するための膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜において対向する2つの面の少なくとも一方に接合された上記電極触媒層と、を備える。
上記課題を解決するための固体高分子形燃料電池は、上記膜電極接合体を備える。
本発明によれば、高湿下での発電性能を高めることができる。
一実施形態における膜電極接合体の構造を示す断面図。 一実施形態における電極触媒層の構造を模式的に示す模式図。 細孔直径の分布曲線の一例を示すグラフ。 細孔直径の分布曲線の他の例を示すグラフ。 細孔直径の分布曲線の別の他の例を示すグラフ。 一実施形態における固体高分子形燃料電池の構成を示す分解斜視図。
図1から図6を参照して、電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池の一実施形態を説明する。以下では、膜電極接合体の構成、電極触媒層の構成、固体高分子形燃料電池を構成する単セルの構成、膜電極接合体の製造方法、および、実施例を順に説明する。
[膜電極接合体の構成]
図1を参照して、膜電極接合体の構成を説明する。図1は、膜電極接合体の厚さ方向に沿う断面構造を示している。
図1が示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、カソード側電極触媒層12Cと、アノード側電極触媒層12Aとを備えている。高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜である。高分子電解質膜11において対向する一対の面において、一方の面にカソード側電極触媒層12Cが接合し、他方の面にアノード側電極触媒層12Aが接合している。カソード側電極触媒層12Cは酸素極(カソード)を構成する電極触媒層であり、アノード側電極触媒層12Aは燃料極(アノード)を構成する電極触媒層である。電極触媒層12の外周部は、不図示のガスケットなどによって封止されてもよい。
[電極触媒層の構成]
図2から図5を参照して、電極触媒層の構成をより詳しく説明する。なお、以下に説明する電極触媒層は、カソード側電極触媒層12Cおよびアノード側電極触媒層12Aの両方に適用される構成であるが、カソード側電極触媒層12Cおよびアノード側電極触媒層12Aのいずれか一方のみに、以下の構成が適用されてもよい。
図2が示すように、電極触媒層12は、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を含んでいる。触媒物質21は、導電性担体22に担持されている。電極触媒層12の中で触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24が存在しない部分が空隙である。触媒担体は、導電性担体22と、導電性担体22に担持された触媒物質21とから構成される。本実施形態では、空隙のなかで、0.01μm以上1μm以下の直径を有する空隙を細孔と定義する。
電極触媒層12において、水銀圧入法によって測定された細孔容積Vpから算出された細孔の直径が細孔直径Dである。なお、細孔直径Dは、水銀圧入法により得られる円筒モデル化した細孔の直径Dと定義される。本実施形態において、細孔直径Dは0.01μm以上1μm以下の範囲に含まれる。
電極触媒層12における細孔容積Vpのなかで最大となる値は、最大容積Vmaxであり、最大容積Vmaxを有した細孔での細孔直径Dは、最大容積直径Dmaxである。本実施形態では、電極触媒層12における各細孔容積Vpに対して、細孔容積Vpの最小値を0とし、最大容積Vmaxを1とする正規化(比例変換)が行われる。
電極触媒層12において、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布(細孔容積分布)は、第1ピークトップ(Vmax,Dmax)を有する。さらに、電極触媒層12の細孔容積分布は、下記条件を満たす。そして、電極触媒層12の細孔容積分布が条件を満たすことによって、電極触媒層12には、十分なガス拡散性、および、排水性を備えた空隙が形成される。
[条件]
細孔容積分布は、最大容積直径Dmaxより小さい領域、かつ、細孔容積Vpが0.2以上となる領域にショルダーピーク点(Di,Vi)を有する。
ここで、上記の細孔容積分布について説明する。細孔容積分布は、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布関数(=dVp/dlogD)によって示される。細孔容積Vpの分布は、水銀圧入法によって得られる。
水銀は高い表面張力を有するため、細孔に水銀を侵入させる場合には、所定の圧力Pを加える必要がある。細孔に水銀を進入させるために加えた圧力Pと、細孔に圧入された水銀量とから、細孔容積Vpの分布や、比表面積を求めることができる。加えられた圧力Pと、その圧力Pにおいて水銀が侵入可能な細孔直径Dとの関係は、Washbumの式として知られる式(1)で表すことができる。なお、以下の式(1)において、γは水銀の表面張力であり、θは水銀と細孔壁面の接触角である。本実施形態では、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°として、細孔直径Dを計算している。
D = −4γcosθ/P … 式(1)
なお、水銀圧入法を用いて実際に測定を行うときには、圧入された水銀の容積を相互に異なる圧力Pの印加によって別々に記録する。そして、上記式(1)に基づいて、各圧力Pを細孔直径Dに換算する。また、圧入された水銀の容積と細孔容積Vpとは等しいとして、細孔直径がDからD+dDまでに増加したときの細孔容積Vpの増加分である細孔容積増加分dVを細孔直径Dに対してプロットする。
以下では、図3から図5に示すように、横軸を細孔直径D、縦軸を細孔容積Vpとし、上述した正規化後の分布を用いて説明する。図3は、繊維状物質24を含まない電極触媒層12の細孔容積分布である。図4は、本実施形態に係る電極触媒層12の細孔容積分布の一例である。図5は、本実施形態に係る電極触媒層12の細孔容積分布の他の例である。
図3が示す細孔容積分布には、ショルダーピーク点が認められない、あるいは、最大容積直径Dmaxより小さい領域にショルダーピーク点は認められない。これに対して、図4が示す分布には、最大容積直径Dmaxより小さい領域、かつ、細孔容積Vpが0.2以上となる領域にショルダーピーク点が認められる。図4では理解を容易にするためショルダーピーク点を円で囲っている。
ショルダーピークは、細孔容積分布において、大きさが異なる2つ以上のピークが重なることによって出現する。ショルダーピークは、第1ピークトップ(Vmax,Dmax)を頂点とするピークの一部となって現れる。
図4が示すように、極大点であるピークトップを有したショルダーピークでは、そのショルダーピークにおけるピークトップがショルダーピーク点(Vi,Di)である。
一方、図5が示すように、極大点であるピークトップを有しないショルダーピークでは、まず、第1ピークトップ(Vmax,Dmax)を頂点とする第1ピークの近似曲線が算出される。第1ピークの近似には、ガウス関数が用いられる。次いで、近似曲線における細孔直径Dpのときの細孔容積(第1細孔容積Vp1)と、細孔容積分布における細孔直径Dpのときの細孔容積Vpとの差分値(Vp−Vp1)が算出される。そして、差分値(Vp−Vp1)が最大値を得るときの細孔直径Dpが、特異細孔直径Diとして定められ、このときのVpが細孔容積Viとして定められる。すなわち、ショルダーピーク点(Vi,Di)が定められる。この際、0.01以下の差分値(Vp−Vp1)は、微差であり、ショルダーピークによる機能が発揮され難く、ショルダーピーク点(Vi,Di)の特定には用いられない。
細孔容積分布が複数のショルダーピークを含むとき、複数のショルダーピークの中で、第1ピークトップ(Vmax,Dmax)に最も近いショルダーピークでショルダーピーク点(Vi,Di)が定められる。
なお、ピークトップ(Vmax,Dmax)を頂点とする第1ピークは、細孔容積分布をガウス関数とした近似方法や、細孔容積分布をローレンツ関数とした近似方法などによって得られる。ローレンツ関数はガウス関数と比較してすそのが広くなる傾向があるため、本実施形態においては、ガウス関数が用いられる。
最大容積Vmaxは、繊維状物質24の配合比や直径や長さなどの性状、および、この性状と触媒担体の性状との相互作用に起因する。特異細孔容積Viは、触媒担体の配合比や大きさなどの性状、および、この性状と繊維状物質24の性状との相互作用に起因する。本実施形態では、触媒担体の性状に由来するショルダーピーク点(Di,Vi)と、繊維状物質24の性状に由来した第1ピークトップ(Vmax,Dmax)とが上記条件を満たすように、繊維状物質24と触媒担体とが組み合わせられている。これによって、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布は不均一となり、三相界面を維持しつつ、ガスの拡散性や生成水の排出性が向上する。
なお、特異細孔容積Viが0.2以下に存在すると、細孔容積分布がピーク点を頂点とする単調な正規分布となってしまい、細孔直径Dの分布を部分的に不均一にすることが難しい。また、特異細孔容積Viが最大容積Vmaxよりも大きくなると、最大容積直径Dmaxよりも小さい特異細孔直径Diの細孔容積Vpが電極触媒層12の大部分を占めることになり、十分なガス拡散性および排水性を得られなくなる。特異細孔容積Viは0.3以上0.8以下の範囲内にあることがより好ましく、0.45以上0.7以下の範囲内であることが特に好ましい。これらの範囲内にショルダーピーク点(Vi,Di)が存在することによって、細孔容積分布が単調な正規分布形状となることをより効果的に抑えることができる。
特異細孔直径Diは、0.03μm以上0.06μm以下であり、最大容積直径Dmaxは、0.06μm以上0.1μm以下であることが好ましい。特異細孔容積Viと最大容積Vmaxが上記範囲内であることで、繊維状物質24に起因して細孔が相対的に疎で大きい領域と、触媒担体に起因して細孔が相対的に密で小さい領域との両立が図られて、ガス拡散性と排水性を向上することができる。
特異細孔直径Diと最大容積直径Dmaxとの差(Dmax−Di)は、0.02μm以上であることが好ましい。差(Dmax−Di)が0.02μm以上である構成では、細孔容積分布が多峰性に近づくため、十分なガス拡散性、および、排水性が得られやすい。なお、差(Dmax−Di)が0.07μmよりも大きい構成では、細孔の粗密差が大きくなるため、高湿環境下においては良好な発電性能を得られるものの、低湿環境下では発電性能が低下する傾向にある。
第1ピークトップ(Vmax,Dmax)を頂点とする第1ピーク(近似曲線)の細孔容積Vp1と、細孔容積分布における細孔容積Vpとの差分値(Vp−Vp1)は、ショルダーピーク点(Vi,Di)において、0.03以上であることが好ましく、より好ましくは0.06以上である。差分値(Vp−Vp1)が0.03以上である構成では、細孔容積分布が多峰性になりやすい。なお、差分値(Vp−Vp1)の上限値は、繊維状物質24に起因して細孔が相対的に疎で大きい領域と、触媒担体に起因して細孔が相対的に密で小さい領域のバランスをとるうえで、0.2以下であることがより好ましい。
電極触媒層12の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。電極触媒層12の厚さが30μm以下であることによって、クラックが生じることが抑えられる。また、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池に用いた場合に、ガスや生成した水の拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池の出力が低下することが抑えられる。また、電極触媒層12の厚さが5μm以上であることによって、電極触媒層12において厚さのばらつきが生じにくくなり、電極触媒層12に含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。なお、電極触媒層12の表面におけるひび割れや、厚さの不均一性は、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池の一部として使用し、かつ、固体高分子形燃料電池を長期に渡り運転した場合に、固体高分子形燃料電池の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高い点で、好ましくない。
電極触媒層12の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層12の断面を観察することで計測することができる。電極触媒層12の断面を露出させる方法には、例えば、イオンミリング、および、ウルトラミクロトームなどの方法を用いることができる。電極触媒層12の断面を露出させる加工を行うときには、電極触媒層12を冷却することが好ましい。これにより、電極触媒層12が含む高分子電解質23に対するダメージを軽減することができる。
[固体高分子形燃料電池の構成]
図6を参照して、膜電極接合体10を備える固体高分子形燃料電池の構成を説明する。以下に説明する構成は、固体高分子形燃料電池の一例における構成である。また、図3は、固体高分子形燃料電池が備える単セルの構成を示している。固体高分子形燃料電池は、複数の単セルを備え、かつ、複数の単セルが積層された構成でもよい。
図6が示すように、固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10、一対のガス拡散層、および、一対のセパレーターを備えている。一対のガス拡散層は、カソード側ガス拡散層31Cとアノード側ガス拡散層31Aとから構成されている。一対のセパレーターは、カソード側セパレーター32Cとアノード側セパレーター32Aとから構成されている。
カソード側ガス拡散層31Cは、カソード側電極触媒層12Cに接している。カソード側電極触媒層12Cとカソード側ガス拡散層31Cとが、酸素極(カソード)30Cを構成している。アノード側ガス拡散層31Aは、アノード側電極触媒層12Aに接している。アノード側電極触媒層12Aとアノード側ガス拡散層31Aとが、燃料極(アノード)30Aを構成している。
高分子電解質膜11において、カソード側電極触媒層12Cが接合された面がカソード面であり、アノード側電極触媒層12Aが接合された面がアノード面である。カソード面のなかで、カソード側電極触媒層12Cによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、カソード側ガスケット13Cが位置している。アノード面のなかで、アノード側電極触媒層12Aによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、アノード側ガスケット13Aが位置している。ガスケット13C,13Aによって、各面の外周部からガスが漏れることが抑えられる。
カソード側セパレーター32Cとアノード側セパレーター32Aとは、固体高分子形燃料電池30の厚さ方向において、膜電極接合体10、および、2つのガス拡散層31C,31Aから構成される多層体を挟んでいる。カソード側セパレーター32Cは、カソード側ガス拡散層31Cに対向している。アノード側セパレーター32Aは、アノード側ガス拡散層31Aに対向している。
カソード側セパレーター32Cにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、カソード側ガス拡散層31Cと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Cgである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Cwである。
アノード側セパレーター32Aにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、アノード側ガス拡散層31Aと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Agである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Awである。
各セパレーター32C,32Aは、導電性を有し、かつ、ガスに対する不透過性を有した材料によって形成されている。
固体高分子形燃料電池30では、カソード側セパレーター32Cのガス流路32Cgを通じて酸素剤が酸素極30Cに供給される。アノード側セパレーター32Aのガス流路32Agを通じて燃料が供給される。これにより、固体高分子形燃料電池30が発電を行う。なお、酸素剤には、例えば空気および酸素などを挙げることができる。燃料には、例えば水素を含む燃料ガス、および、有機物燃料などを挙げることができる。
[膜電極接合体の製造方法]
以下、上述した膜電極接合体の製造方法を説明する。
膜電極接合体10を製造するときには、まず、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を分散媒に混合し、その後、混合物に分散処理を施すことによって触媒インクを作成する。分散処理は、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、および、超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
触媒インクの分散媒には、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を浸食せず、かつ、分散媒の流動性が高い状態で、高分子電解質23を溶解することができる、または、高分子電解質23を微細なゲルとして分散することが可能な溶媒を用いることができる。分散媒には水が含まれてもよく、水は高分子電解質23とのなじみがよい。触媒インクは、揮発性の液体有機溶媒を含むことが好ましい。溶媒が低級アルコールである場合には発火のおそれがあるため、こうした溶媒には、水が混合されることが好ましい。溶媒には、高分子電解質23が分離することによって、触媒インキが白濁したりゲル化したりしない範囲で水を混合することができる。
作成した触媒インクを基材に塗布した後に乾燥することによって、触媒インクの塗膜から溶媒が除去される。これにより、基材上に電極触媒層12が形成される。基材には、高分子電解質膜11、または、転写用基材を用いることができる。高分子電解質膜11を基材として用いる場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層12を形成する方法を用いることができる。
転写用基材を用いる場合には、転写用基材の上に触媒インキを塗布した後に乾燥することによって、触媒層付き基材を作成する。その後、例えば、触媒層付き基材における電極触媒層12の表面と、高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層12と高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層12を接合することによって、膜電極接合体10を製造することができる。
触媒インクを基材に塗布する方法には、様々な塗工方法を用いることができる。塗工方法には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、および、スキージーなどを挙げることができる。塗工方法には、ダイコートを用いることが好ましい。ダイコートは、塗布期間の中間における膜厚が安定し、かつ、間欠的な塗工を行うことが可能である点で好ましい。触媒インクの塗膜を乾燥させる方法には、例えば、温風オーブンを用いた乾燥、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレートを用いた乾燥、および、減圧乾燥などを用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下であり、40℃以上120℃以下程度であることが好ましい。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下であり、1分以上30分以下程度であるが好ましい。
転写用基材に電極触媒層12を形成する場合には、電極触媒層12の転写時に電極触媒層12に掛かる圧力や温度が膜電極接合体10の発電性能に影響する。発電性能が高い膜電極接合体10を得る上では、多層体に掛かる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。圧力が20MPa以下であることによって、電極触媒層12が過剰に圧縮されることが抑えられる。圧力が0.1MP以上であることによって、電極触媒層12と高分子電解質膜11との接合性の低下により発電性能が低下することが抑えられる。接合時の温度は、高分子電解質膜11と電極触媒層12との界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜11、または、電極触媒層12が含む高分子電解質23のガラス転移点付近とであることが好ましい。
転写用基材には、例えば、高分子フィルム、および、フッ素系樹脂によって形成されたシート体を用いることができる。フッ素系樹脂は、転写性に優れている。フッ素系樹脂には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。高分子フィルムを形成する高分子には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、および、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。転写用基材には、ガス拡散層を用いることもできる。
電極触媒層12の細孔の大きさおよび分布は、触媒インクの塗膜を加熱する温度、塗膜を加熱する速度、触媒インクが乾燥するまでの加圧条件、繊維状物質24の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インクを調整するときの分散強度などを調整することによって調整することが可能である。
例えば、触媒担体の配合率を高めるほど、ショルダーピーク点(Vi,Di)が出現しやすい一方で、触媒担体の配合率が過剰に高い場合には、最大容積直径Dmaxより大きい領域にショルダーピークが出現する。例えば、繊維状物質24を配合すると、ショルダーピーク点(Vi,Di)が出現やすい一方で、繊維状物質24の配合率が過剰に高い場合には、分布がブロードとなりショルダーピークが出現しない。例えば、触媒担体のサイズを繊維状物質24の直径よりも小さくするほど、ショルダーピーク点(Vi,Di)は、低細孔直径側にシフトする。
触媒物質21には、例えば、白金族に含まれる金属、白金族以外の金属、および、これら金属の合金、酸化物、複酸化物、および、炭化物などを用いることができる。白金族に含まれる金属は、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、および、オスミウムである。白金族以外の金属には、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、および、アルミニウムなどを用いることができる。
導電性担体22には、導電性を有し、かつ、触媒物質21に侵食されることなく触媒物質21を担持することが可能な担体を用いることができる。導電性担体22には、カーボン粒子を用いることができる。カーボン粒子には、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、および、フラーレンを用いることができる。カーボン粒子の粒径は、10nm以上1000nm以下程度であることが好ましく、10nm以上100nm以下程度であることがさらに好ましい。粒径が10nm以上であることによって、カーボン粒子が電極触媒層12において密に詰まり過ぎず、これによって、電極触媒層12のガス拡散性を低下させることが抑えられる。粒径が1000nm以下であることによって、電極触媒層12にクラックを生じさせることが抑えられる。
高分子電解質膜11および電極触媒層12に含まれる高分子電解質には、プロトン伝導性を有する電解質を用いることができる。高分子電解質には、例えば、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質には、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質を用いることができる。なお、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質には、デュポン社製のNafion(登録商標)を例示することができる。炭化水素系高分子電解質には、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。
高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層12に含まれる高分子電解質23とは、互いに同じ電解質であってもよいし、互いに異なる電解質であってもよい。ただし、高分子電解質膜11と電極触媒層12との界面における界面抵抗や、湿度が変化した場合において、高分子電解質膜11と電極触媒層12とにおける寸法変化率を考慮すると、高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層12に含まれる高分子電解質23とは、互いに同じ電解質であるか、類似の電解質であることが好ましい。
繊維状物質24には、電子伝導性繊維およびプロトン伝導性繊維を用いることができる。電子伝導性繊維には、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、および、導電性高分子ナノファイバーなどを挙げることができる。導電性や分散性の観点から、カーボンナノファイバーを繊維状物質24として用いることが好ましい。
触媒能を有する電子伝導性繊維は、貴金属によって形成される触媒の使用量を低減できる点でより好ましい。電極触媒層12が酸素極を構成する電極触媒層12として用いられる場合には、触媒能を有する電子伝導性繊維には、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒を挙げることができる。触媒能を有する電子伝導性繊維は、燃料極用の電極活物質を繊維状に加工した繊維であってもよい。電極活物質には、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を用いることができる。遷移金属元素を含む物質には、遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、遷移金属元素の導電性酸化物、および、遷移金属元素の導電性酸窒化物を挙げることができる。
プロトン伝導性繊維は、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工した繊維であればよい。プロトン伝導性繊維を形成するための材料には、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質などを用いることができる。フッ素系高分子電解質には、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、および、ゴア社製のGore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質には、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。
繊維状物質24には、上述した繊維のうちの一種のみが用いられてもよいし、二種以上が用いられてもよい。繊維状物質24として、電子伝導性繊維とプロトン伝導性繊維とを併せて用いてもよい。繊維状物質24は、上述した繊維状物質24のなかでも、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、電解質繊維から構成される群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
繊維状物質24の繊維径は、0.5nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上200nm以下であることがより好ましい。繊維径を0.5nm以上500nm以下の範囲に設定することにより、電極触媒層12内の空隙を増加させることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の高出力化が可能である。繊維状物質24の繊維長は、1μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがより好ましい。繊維長を1μm以上40μm以下の範囲に設定することにより、電極触媒層12の強度を高めることができ、ひいては、電極触媒層12を形成するときに、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。加えて、電極触媒層12内の空隙を増加させることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の高出力化が可能である。
[実施例1]
白金担持カーボン触媒(TEC10E50E、田中貴金属工業(株)製)、水、1‐プロパノール、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業(株)製)、および、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)−H、昭和電工(株)製)を混合した。混合物に対して遊星型ボールミルを用いて60分間にわたって分散処理を行った。これにより、触媒インクを調製した。
触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)の両面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させた。これにより、実施例1の膜電極接合体を得た。
[実施例2]
カーボンナノファイバーに代えてカーボンナノチューブ(NC7000、Nanocyl社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって実施例2の膜電極接合体を得た。
[実施例3]
触媒インクを調製するときに、固形分比率を実施例1の3分の2とした以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3の膜電極接合体を得た。
[実施例4]
実施例1と同様の方法によって、触媒インクを調製した。触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって塗膜を形成した。次いで、80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させた。これにより、触媒層付き基材を得た。カソード側電極触媒層を含む基材と、アノード側電極触媒層を含む基材とを準備した。そして、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)における一対の面に対し、触媒層付き基材が1つずつ各面に対向するように配置し、積層体を形成した。120℃、5MPaの条件で積層体をホットプレスすることによって、高分子電解質膜に2つの電極触媒層を接合した。次いで、各電極触媒層からPTFEフィルムを剥離することによって、実施例5の膜電極接合体を得た。
[実施例5]
触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例1の3倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例5の膜電極接合体を得た。
[比較例1]
触媒インクを調製するときに、固形分比率を実施例1の3分の1とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1の膜電極接合体を得た。
[比較例2]
触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2の膜電極接合体を得た。
[比較例3]
触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例1の3分の1とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例3の膜電極接合体を得た。
[細孔容積分布]
細孔容積分布は、水銀圧入法により測定した。具体的には、高分子電解質膜における一方の面のみに電極触媒層が形成された膜電極接合体を用いて、自動ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、オートポアIV9510)を用いて、細孔容積Vpを測定した。測定セルの容積は約5cmであり、水銀圧入の圧力を3kPaから400MPaまで昇圧した。これにより、各圧力における水銀の圧入量、つまり細孔容積Vpを得た。水銀圧入の圧力をWashbumの式を用いて細孔直径Dに換算し、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布関数dVp/dlogDのプロットを作成した。なお、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°とした。このプロットが細孔容積分布であり、細孔容積分布の正規化を行った。
正規化後の細孔容積分布から最大容積Vmaxと最大容積直径Dmaxを検出した。なお、最大容積Vmaxは正規化後であるため1である。次に、細孔容積分布を用いて、特異細孔容積Vi、特異細孔直径Di、および、差分値(Vp−Vp1)を検出した。
[電極触媒層の厚さ計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層の断面を観察することによって、電極触媒層の厚さを計測した。具体的には、電極触媒層の断面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製、FE-SEM S-4800)を用いて、1000倍の倍率で観察した。電極触媒層の断面における30カ所の観察点において電極触媒層の厚さを計測した。30カ所の観察点における厚さの平均値を電極触媒層の厚さとした。
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が刊行した小冊子である「セル評価解析プロトコル」に準拠する方法を用いた。膜電極接合体の各面に、ガス拡散層、ガスケット、および、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを評価用単セルとして用いた。そして、「セル評価解析プロトコル」に記載された方法に準拠してI‐V測定を実施した。このときの条件を標準条件に設定した。また、アノードの相対湿度とカソードの相対湿度とをRH100%としてI‐V測定を実施した。このときの条件を高湿条件に設定した。
[耐久性の測定]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを評価用単セルとして用いた。そして、上述した「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験によって耐久性を測定した。
[比較結果]
実施例1から5、および、比較例1から3の膜電極接合体を備えた燃料電池のそれぞれの測定結果と、発電性能と、耐久性とを表1に示す。
発電性能において、標準条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が25A以上である場合を「○」に設定し、25A未満である場合を「×」に設定した。また、高湿条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が30A以上である場合を「○」に設定し、30A未満である場合を「×」に設定した。耐久性において、8000サイクル後の水素クロスリーク電流が初期値の10倍未満である場合を「○」に設定し、10倍以上である場合を「×」に設定した。
表1に示すように、実施例1から5のいずれも、細孔容積分布の最大容積直径Dmaxよりも小さい領域、かつ、細孔容積Vpが0.2以上となる領域に、条件を満たすショルダーピーク点(Vi,Di)が認められた。そして、高湿下での発電性能、および、耐久性が「○」であることが認められた。すなわち、実施例1から5においては、高湿下での発電性能、および、耐久性に優れた燃料電池を構成可能な膜電極接合体が得られた。
一方、比較例においては、比較例1から3のいずれも、細孔容積分布の最大容積直径Dmaxよりも小さい領域、かつ、細孔容積Vpが0.2以上となる領域にショルダーピーク点(Vi,Di)が認められなかった。そして、高湿下での発電性能について「×」であることが認められた。
言い換えれば、比較例1、3では、ショルダーピーク点(Vi,Di)が検出されず、また、比較例2では、最大容積Vmaxが触媒担体に由来したものであるから、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布の不均一さが、高湿下で発電性能が向上される程度にまで至っていない。これに対して、実施例1から5では、ショルダーピーク点(Vi,Di)が検出されて、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布の不均一さが、高湿下で発電性能が向上される程度に到達している。
以上説明したように、電極触媒層、膜電極接合体、および、燃料電池の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)細孔容積分布の中に、最大容積直径Dmaxよりも小さく、かつ、細孔容積Vpが0.2以上である領域に、ショルダーピーク点(Vi,Di)を有する場合には、電極触媒層12が十分なガス拡散性、および、排水性を備えるだけの空隙が含まれて、高湿下での発電性能が向上可能である。
(2)特異細孔容積Viが0.3以上0.8以下である場合には、細孔容積分布が単調な正規分布形状となることをより効果的に抑えることができ、上記(1)に準じた効果が高められる。
(3)また、差分値(Vp−Vp1)が0.03以上である場合にも、細孔容積分布が単調な正規分布形状となることをより効果的に抑えることができ、上記(1)に準じた効果が高められる。
(4)特異細孔直径Diが0.03μm以上0.06μm以下である場合には、細孔が相対的に疎で大きい領域と、細孔が相対的に密で小さい領域との両立が図られて、上記(1)に準じた効果が高められる。
(5)特異細孔直径Diと最大容積直径Dmaxとの差が、0.02μm以上0.07μm以下である場合には、標準的な環境下での発電性能を得ることに適した細孔の粗密差を得られる。
10…膜電極接合体、11…高分子電解質膜、12…電極触媒層、12A…アノード側電極触媒層、12C…カソード側電極触媒層、13A…アノード側ガスケット、13C…カソード側ガスケット、21…触媒物質、22…導電性担体、23…高分子電解質、24…繊維状物質、30…固体高分子形燃料電池、30A…燃料極、30C…酸素極、31A…アノード側ガス拡散層、31C…カソード側ガス拡散層、32A…アノード側セパレーター、32Ag,32Cg…ガス流路、32Aw,32Cw…冷却水流路、32C…カソード側セパレーター。

Claims (9)

  1. 固体高分子形燃料電池において固体電解質膜に接合する電極触媒層であって、
    触媒物質と、
    導電性担体と、
    高分子電解質と、
    繊維状物質を含み、
    前記高分子電解質は、フッ素系高分子電解質であり、
    前記電極触媒層に含まれる空隙のなかで、0.01μm以上1μm以下の直径を有する空隙が細孔であり、
    水銀圧入法により得られる細孔直径に対する細孔容積の分布であって、前記細孔容積の最小値が0であり、かつ、前記細孔容積の最大値が1であるように前記細孔容積が正規化された分布において、
    前記細孔容積が最大値であるときの細孔直径が最大容積直径であり、
    前記細孔直径が前記最大容積直径よりも小さく、かつ、前記細孔容積が0.3以上である領域にショルダーピーク点を有する
    電極触媒層。
  2. 前記ショルダーピーク点における細孔容積は、0.8以下である
    請求項1に記載の電極触媒層。
  3. 前記ショルダーピーク点における特異細孔直径は、0.03μm以上0.06μm以下である
    請求項1または2に記載の電極触媒層。
  4. 前記ショルダーピーク点における特異細孔直径と、前記最大容積直径との差が、0.02μm以上0.07μm以下である
    請求項1から3のいずれか一項に記載の電極触媒層。
  5. 前記最大値を取るピークのガウス関数による近似曲線での前記ショルダーピーク点での特異細孔直径における細孔容積と、前記ショルダーピーク点における細孔容積との差分値が、0.03以上である
    請求項1から4のいずれか一項に記載の電極触媒層。
  6. 前記繊維状物質は、電子伝導性繊維、および、プロトン伝導性繊維から選択される一種または二種以上の繊維状物質を含み、
    前記電子伝導性繊維は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、遷移金属含有繊維から構成される群から選択される少なくとも一種を含む
    請求項1から5のいずれか一項に記載の電極触媒層。
  7. 前記遷移金属含有繊維は、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含む
    請求項6に記載の電極触媒層。
  8. 固体高分子電解質膜と、
    前記固体高分子電解質膜において対向する2つの面の少なくとも一方に接合された電極触媒層と、を備え、
    前記電極触媒層が、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極触媒層である
    膜電極接合体。
  9. 請求項8に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
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