図面を参照して、実施形態としてのエンジンの制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.第一実施形態]
[1−1.装置構成]
本実施形態の制御装置1は、車両に搭載されたディーゼルエンジン10(以下、エンジン10という)に適用される。図1には、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダ11のうちの一つを示す。シリンダ11内にはピストンが摺動自在に内装され、ピストンの往復運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換される。
各シリンダ11への燃料供給用のインジェクタとして、シリンダ11内に直接的に燃料を噴射する筒内噴射弁12が設けられる。筒内噴射弁12からの燃料の噴射量,その噴射時期(噴射開始時点),その噴射期間は、制御装置1で制御される。例えば、制御装置1から筒内噴射弁12に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間(噴射期間)だけ、筒内噴射弁12の噴孔が開放される。これにより、燃料噴射量及び噴射期間は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じたものとなり、噴射時期は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
筒内噴射弁12は、コモンレール13Aを含む燃料供給路13を介して流量可変型の燃料ポンプ14に接続される。燃料ポンプ14は、エンジン10や電動機などから駆動力の供給を受けて作動し、燃料タンク内の燃料を燃料供給路13に吐出する。これにより、燃料ポンプ14で加圧された燃料が、燃料供給路13からコモンレール13Aに供給されて蓄えられ、筒内噴射弁12の噴孔が開放されるタイミングで各シリンダ11へと供給される。燃料ポンプ14から吐出される燃料量及びコモンレール13A内の圧力(筒内噴射弁12の噴射圧)は、制御装置1で制御される。
本実施形態のエンジン10は、所定条件の成立時に筒内噴射弁12からの燃料供給を遮断する燃料カット機能を有する。この所定条件は、例えば車速が比較的高く、且つ、アクセルペダルの踏み込みがなくエンジンブレーキが作動していることである。一方、燃料カット中にアクセルペダルが踏み込まれた場合や、エンジン回転速度が比較的低回転域まで低下した場合には、燃料カットが終了する。このとき、エンジン10への燃料供給が再開され、アイドル回転速度やアクセル操作量に応じたトルク(エンジン出力)が確保される。
各シリンダ11の頂面には、吸気ポート15及び排気ポート16が設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁17及び排気弁18が設けられる。吸気ポート15の上流側にはインテークマニホールド20(以下、インマニ20という)が設けられ、このインマニ20には、吸気ポート15側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。インマニ20の上流端には、電子制御式のスロットル弁22を内蔵したスロットルボディ(図示略)が接続され、このスロットル弁22の開度(スロットル開度)に応じてインマニ20側へ流れる吸気量が調節される。スロットル開度は制御装置1で制御される。スロットルボディの上流側には吸気通路23が接続される。吸気通路23の最上流にはエアフィルタ24が設けられる。
一方、排気ポート16の下流側にはエキゾーストマニホールド30(以下、エキマニ30という)が設けられ、このエキマニ30の下流端には排気通路31が接続される。
また、エンジン10には、吸気通路23と排気通路31との両方にまたがって介装され、排気圧を利用して吸気を過給するターボチャージャ25が設けられる。また、吸気通路23におけるターボチャージャ25のコンプレッサよりも下流側には、インタークーラ26が設けられ、圧縮された吸気が冷却される。
本実施形態に係るエンジン10には、排気通路31を流通する排気を吸気通路23へ還流させるEGR通路27が設けられる。EGR通路27は、ターボチャージャ25のタービンよりも上流側の排気通路31とコンプレッサよりも下流側の吸気通路23とを連通する。EGR通路27上には、EGR通路27を流通するEGRガスを冷却するEGRクーラ28と、EGRガスの流量を調節するEGR弁29とが設けられる。
排気通路31におけるタービンよりも下流側には、排気を浄化する排気浄化装置32が介装される。排気浄化装置32は、触媒32Aとフィルタ32Bとが内蔵されて構成される。触媒32Aは、酸化雰囲気下(排気の空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態)で排気中のNOx(所定成分)を硝酸塩として担体上に吸蔵し、還元雰囲気下(排気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな状態)で吸蔵したNOxを放出し、NOxと炭化水素成分とを反応させることでN2に還元するNOxトラップ触媒である。なお、フィルタ32Bは、排気中の粒子状物質を捕集する多孔質フィルタである。
触媒32Aは、吸蔵しうるNOxの量(最大量)が決まっており、吸蔵したNOxの量(以下、NOx吸蔵量Asという)が最大量(飽和状態)に近づくと吸蔵能力が低下する。このため、NOx吸蔵量Asが最大量に近づいた場合には、触媒32AからNOxを放出,還元させるパージ処理(NOxパージ)が実施される。なお、この触媒32Aは、排気中の硫黄成分(所定成分)を吸蔵する性質がある。この硫黄成分が触媒32Aに多く吸蔵されると触媒32AのNOx吸蔵能力が低下することから、触媒32Aから硫黄成分を放出,除去させるパージ処理(Sパージ)が適宜実施される。これらのパージ処理は、制御装置1によって実施される。
クランクシャフト近傍には、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ33が設けられる。また、エンジン10の冷却水の循環経路上における任意の位置には、エンジン10の冷却水温度(水温WT)を検出する冷却水温センサ34が設けられる。さらに、排気通路31における触媒32Aの上流側には、排気の空燃比を検出する空燃比センサ35及び排気温度を検出する排気温センサ36が設けられる。
コモンレール13Aには、筒内噴射弁12から噴射される燃料の圧力に対応するコモンレール圧(単に実噴射圧PACTとも呼ぶ)を検出する噴射圧センサ37が設けられる。また、吸気通路23におけるエアフィルタ24の下流には、吸気量を検出するエアフローセンサ38が設けられる。各種センサ33〜38で検出された各種情報は、制御装置1に伝達される。なお、エンジン10には、これらのセンサ33〜38のほかにも、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルポジションセンサや、吸気の圧力,温度,触媒32Aの下流側における空燃比をそれぞれ検出する吸気圧センサ,吸気温センサ,下流空燃比センサ等が設けられる。
上述のエンジン10を搭載する車両には、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系といった広汎なシステムを総合的に制御する制御装置1が設けられる。この制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。制御装置1は、エンジン10の各シリンダ11に対して供給される空気量や燃料噴射量,過給圧等を制御するものである。
制御装置1の入力ポートには、前述の各種センサ33〜38が接続される。制御装置1の具体的な制御対象としては、筒内噴射弁12から噴射される燃料噴射量とその噴射時期及び噴射期間,ターボチャージャ25の作動状態,スロットル開度,EGR弁29の開度等が挙げられる。本実施形態では、上記の触媒32Aに対するパージ処理のうち、NOxを放出,還元させるNOxパージについて詳述する。
[1−2.制御構成]
NOxパージでは、吸気が絞られるとともに、還元剤としての燃料が筒内噴射弁12からのポスト噴射によって触媒32Aに供給される。すなわち、NOxパージでは通常燃焼時と比べて、スロットル開度が小さくされるとともに、ポスト噴射での燃料噴射量(以下、ポスト噴射量Qpという)が増やされ、メイン噴射での燃料噴射量(以下、メイン噴射量Qmという)が減らされる。これらによって、触媒32Aの周辺雰囲気が還元雰囲気(リッチ雰囲気)にされるとともに触媒32Aが昇温されて、NOxが除去される。
ここでいうポスト噴射とは、触媒32Aのパージ処理を実施,促進するための燃料噴射態様の一つであり、アフター噴射や早期ポスト噴射とも呼ばれる。ポスト噴射の燃料は、メイン噴射よりも遅いタイミングで(メイン噴射の完了時から所定のインターバル時間を空けて)噴射される。そのため、噴射された燃料がシリンダ11内で完全には燃焼せず、一部のみがトルクに寄与する。シリンダ11内で燃焼しなかった燃料は、エキマニ30や排気通路31内での燃焼反応により排気温度を上昇させ、あるいは排気浄化装置32に供給されて還元雰囲気を形成する。
ポスト噴射で発生するトルクの大きさは、筒内温度や燃料の噴射タイミングに応じて変化する。例えば、パージ処理の開始直後のように筒内温度が低い状態では、トルク発生量が比較的小さく、筒内温度が上昇するに連れてトルクの発生量が増加する。また、ポスト噴射の噴射タイミングが遅いほど「後燃え傾向」が強まり、トルクに寄与する燃料量が減少してトルク発生量が減少する。反対に、噴射タイミングが早いほど、ポスト噴射の総噴射量に占めるトルク寄与分の割合が増加し、トルク発生量が増加する。本実施形態におけるポスト噴射の実施期間は、メイン噴射の完了後であって、圧縮上死点後(ATDC)120°程度までの期間内に設定される。以下、ポスト噴射が開始される時点をポスト噴射時期tpといい、ポスト噴射が実施される期間をポスト噴射期間kpという。
一方、メイン噴射とは、噴射した燃料が基本的には完全燃焼してトルクに寄与する噴射方式であり、圧縮上死点付近で一度だけ燃料噴射する方式や、圧縮上死点よりも前のタイミングと圧縮上死点付近とで複数回に分けて燃料噴射する方式などが含まれる。本実施形態におけるメイン噴射の実施期間は、予め所定のタイミングに設定される。以下、メイン噴射が開始される時点をメイン噴射時期tmといい、メイン噴射が実施される期間をメイン噴射期間kmという。
通常燃焼からNOxパージに切り替えられてから所定の規定時間が経過した後に、スロットル弁22が予め設定されたスロットル開度に制御されて吸気が絞られる。その後、筒内噴射弁12の目標噴射圧PTGTが通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTからNOxパージでの目標噴射圧PpTGTに変更される。また、排気空燃比の目標値(目標空燃比)が、通常燃焼時の値から予め設定されたNOxパージでの目標空燃比(例えば14)になるように徐々に変更される。NOxパージでの目標噴射圧PpTGTは、通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTよりも高圧である。このようにNOxパージでの目標噴射圧PpTGTを高めることで、燃料がより燃焼しやすくなるとともに、短時間で所定量の燃料を噴き切ることが可能となる。なお、目標噴射圧PTGTは、通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTからNOxパージ中の目標噴射圧PpTGTへとステップ状に切り替えられる。
通常燃焼からNOxパージに切り替えられた直後は、目標噴射圧PTGTがステップ状に高められるのに対し、実噴射圧PACTが徐々に高まっていくため、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの間にずれが発生する。この状態(実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束していない状態)では、短時間で所定量の燃料を噴き切ることが難しく、トルクに寄与する燃料量が不足することから、トルクダウンが発生するおそれがある。また、噴射圧のずれが発生した状態では、ポスト噴射された燃料の霧化が悪く、ポスト噴射された燃料が燃えにくいことからも、トルクダウンを引き起こすおそれがある。
さらに、NOxパージでは、ポスト噴射した燃料が燃焼しやすいようにシリンダ11内の温度(以下、筒内温度Tcという)が通常燃焼時よりも高温にされる。しかし、NOxパージへの切り替え直後は、筒内温度TcがNOxパージに適した温度まで昇温していないため、ポスト噴射した燃料が燃えにくく、これによってもトルクダウンが発生する可能性がある。
本実施形態の制御装置1は、NOxパージにおけるこれらの課題に鑑みて、通常燃焼からの切り替え直後におけるトルクダウンの発生を抑制すべく、ポスト噴射時期tpを制御する。
図1に示すように、制御装置1には、推定部2,判定部3,取得部4,制御部5が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
推定部2は、触媒32AのNOx吸蔵量Asを推定するものである。NOx吸蔵量Asの推定手法には、種々の公知技術を適用可能である。例えば、エンジン10の運転状態や排気の温度,空燃比,流量等に基づいて推定可能である。推定部2は、車両のメイン電源がオンのときに、常にNOx吸蔵量Asを推定して、その結果を判定部3へ伝達する。
判定部3は、NOxパージの要否判定と、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態か否かの判定と、NOxパージの完了判定との三つの判定を行うものである。判定部3は、まず、推定部2から伝達されたNOx吸蔵量Asを所定の第一閾値A1と比較し、As≧A1であればNOxパージが必要であると判定し、As<A1であればNOxパージが不要であると判定する。この第一閾値A1は、触媒32Aに吸蔵されたNOxを除去する必要があるか否か(触媒32Aの飽和状態)を判定するための閾値であり、触媒32Aの容量やエンジン10の運転状態等に基づいて予め設定される。
判定部3は、NOxパージが必要であると判定した場合に、エンジン10の負荷や回転速度,排気温度等に基づき、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるか否かを判定する。エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であると判定した場合には、その判定結果を制御部5へ伝達する。一方、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態ではないと判定した場合には、この判定を繰り返す。
判定部3は、制御部5によりNOxパージが開始された場合、推定部2から伝達されたNOx吸蔵量Asを所定の第二閾値A2と比較する。判定部3は、As<A2であればNOxパージが完了したと判定し、判定結果を制御部5へ伝達するとともに、再び要否判定を行う。一方、As≧A2であればNOxパージが完了していないと判定し、この判定を繰り返す。第二閾値A2は、触媒32Aに吸蔵されたNOxが除去されたか否かを判定するための閾値であり、上記の第一閾値A1よりも小さい値に予め設定される。
取得部4は、NOxパージの開始時点(すなわち、NOxパージへの切り替え直後)における筒内温度(以下、開始筒内温度Tcpという)を取得するものである。開始筒内温度Tcpが低い場合には、ポスト噴射した燃料がより燃えにくくなるうえ、NOxパージに適した温度に対する温度差が大きくなることから、この場合には筒内温度Tcが上昇しやすいように、後述の制御部5において、ポスト噴射時期tpの進角量Δtpが補正される。取得部4は、この補正に先立ち、開始筒内温度Tcpを取得し、取得した開始筒内温度Tcpを制御部5へ伝達する。
取得手法としては、筒内温度Tcを直接的に検出するセンサを設けて、開始筒内温度Tcpを検出する手法が挙げられる。また、筒内温度Tcに関係しうるパラメータを用いて、開始筒内温度Tcpを推定する手法が挙げられる。本実施形態の取得部4は、以下の三つのパラメータのうちの少なくとも一つに基づいて、開始筒内温度Tcpを推定して取得する。
(1)エンジン10の低負荷運転の継続時間LE
(2)燃料カット時間FC
(3)冷却水温センサ34で検出された水温WT
継続時間LEは、例えばアイドル運転のような低負荷運転が継続された時間であり、制御装置1によりカウントされる。継続時間LEが長いほど筒内温度Tcが低下するため、継続時間LEと温度低下量又は低下率との関係を予め取得しておくことで、継続時間LEに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。なお、本実施形態では、少なくとも継続時間LEの終了時点が、通常燃焼からNOxパージへ切り替える前の所定の第一期間L1内に入っている場合に、開始筒内温度Tcpの推定を行うものとする。
すなわち、低負荷運転が所定時間継続し、低負荷運転から中負荷又は高負荷運転を実施したのちにNOxパージへと切り替えられた場合、低負荷運転の継続時間LEの少なくとも一部がNOxパージへの切り替え前の第一期間L1内であれば、継続時間LEに基づいて開始筒内温度Tcpを推定する。一方、継続時間LEがこの第一期間L1よりも前であれば、中負荷又は高負荷運転が第一期間L1以上継続されたことになるため、低負荷運転による温度低下は無視できるものと考えて、継続時間LEに基づく開始筒内温度Tcpの推定は行わない。
燃料カット時間FCは、上述した燃料カットが実施された時間(燃料供給が遮断された時間)であり、制御装置1によりカウントされる。燃料カット時間FCが長いほど筒内温度Tcが低下するため、燃料カット時間FCと温度低下量又は低下率との関係を予め取得しておくことで、燃料カット時間FCに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。なお、本実施形態では、少なくとも燃料カット時間FCの終了時点が、通常燃焼からNOxパージへ切り替える前の所定の第二期間L2内に入っている場合に、開始筒内温度Tcpの推定を行うものとする。
すなわち、燃料カットが所定時間継続したのち、燃料供給が再開されてからNOxパージへと切り替えられた場合、燃料カット時間FCの少なくとも一部がNOxパージへの切り替え前の第二期間L2内であれば、燃料カット時間FCに基づいて開始筒内温度Tcpを推定する。一方、燃料カット時間FCがこの第二期間L2よりも前であれば、燃料供給が再開されてから第二期間L2以上経過したことになるため、燃料カットによる温度低下は無視できるものと考えて、燃料カット時間FCに基づく開始筒内温度Tcpの推定は行わない。なお、上記の第一期間L1,第二期間L2は、低負荷運転の継続時間LE,燃料カット時間FCが筒内温度Tcの低下に及ぼす影響を考慮して予め設定される。
水温WTは筒内温度Tcと正の相関を持つパラメータであり、水温WTと筒内温度Tcとの関係を予め取得しておくことで、水温WTに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。水温WTに基づく開始筒内温度Tcpの推定は、他のパラメータと異なり、時間に寄らず実施可能である。
制御部5は、判定部3からエンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるという判定結果が伝達された場合に、エンジン10の運転状態を通常燃焼からNOxパージに切り替えて、NOxパージを実施するものである。制御部5は、NOxパージへ切り替えた規定時間後に、スロットル弁22を所定のスロットル開度に絞って吸気量を減らす。次いで、筒内噴射弁12の目標噴射圧PTGTを、通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTからNOxパージでの目標噴射圧PpTGTに切り替える。
そして、制御部5は、予め設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを用い、所定の噴射時期に筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、所定の噴射期間内で燃料を噴き切る。具体的には、一回の燃焼サイクルのなかで、メイン噴射時期tmに燃料を噴射させてメイン噴射期間km内にメイン噴射量Qmの燃料を噴き切るとともに、ポスト噴射時期tpに燃料を噴射させてポスト噴射期間kp内にポスト噴射量Qpの燃料を噴き切る。なお、NOxパージでのメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpは、NOxパージ中の目標空燃比,スロットル開度,筒内温度Tc等に基づいて予め設定される。これらによって、触媒32Aの周辺を還元雰囲気としながら触媒32Aを昇温させて、NOxを放出,還元させる。
ここで、本実施形態の制御部5は、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの間にずれが生じている場合には、そのずれ量に基づき、ポスト噴射時期tpを所定のポスト噴射時期tpoよりも進角させる。所定のポスト噴射時期tpoは、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束しているときのポスト噴射の開始時点である。所定のポスト噴射時期tpoの具体的な時期は、試験,実験等を通じて事前に設定されているもの(固定された時期)であってもよいし、エンジン10の運転状態や触媒32Aにおける所定成分の吸蔵状態,排気の温度,空燃比,流量等に応じて随時設定されるもの(可変の時期)であってもよい。
制御部5は、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとが略一致している場合には、所定のポスト噴射時期tpoにポスト噴射を開始する。一方、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束していない状態では、ポスト噴射時期tpを収束時のポスト噴射時期tpoよりも進角させる。この進角量Δtp(補正量)は、ずれ量が大きいほど増量され、ずれ量が小さくなるに連れて減量される。すなわち、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束する過程で、ポスト噴射時期tpは収束時のポスト噴射時期tpoに向かって遅角される。
このずれ量は、NOxパージへの切り替え直後の目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとのずれを表すパラメータであり、例えば目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔP(=PpTGT-PACT)や、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの比がこれに含まれる。なお、この比には、目標噴射圧PpTGTに対する実噴射圧PACTの比(PACT/PpTGT)や、NOxパージ中の目標噴射圧PpTGTと通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTとの差に対する目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差の比〔(PpTGT-PACT)/(PpTGT-PnTGT)〕が含まれる。本実施形態では、ずれ量として、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔPを用いる。
ポスト噴射時期tpの設定に関して、図2(a)〜(e)を用いて説明する。エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられ、所定の規定時間経過後にスロットル弁22が制御されて吸気が絞られる。その後、図2(a)に示すように、時刻t1において、目標噴射圧PTGTが通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTからNOxパージ中の目標噴射圧PpTGTへとステップ状に切り替えられる。実噴射圧PACTは、時刻t1から僅かに遅れた時刻t2に上昇し始め、時刻t4に目標噴射圧PpTGTに収束して、その後は目標噴射圧PpTGTと略一致した状態となる。
図2(b)〜(e)に、図2(a)中の時刻t0,t2,t3,t5におけるメイン噴射時期tm及びポスト噴射時期tpを示す。時刻t0はNOxパージに切り替えられる直前の時点であり、時刻t3は実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに向かって上昇している途中の時点である。また、時刻t5は実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した後の時点である。何れも時刻においても、メイン噴射は、予め設定された所定のメイン噴射時期tm(例えば圧縮上死点付近)に開始される。
一方、ポスト噴射は、NOxパージに切り替えられた以降に実施され、時刻t2,t3では、時刻t5におけるポスト噴射時期tpoに対して、噴射圧の差ΔPに応じた進角量Δtpだけ進角したタイミング(ポスト噴射時期tp)で行われる。ポスト噴射時期tpの進角により、ポスト噴射の総噴射量に占めるトルク寄与分の割合が増加し、トルク発生量が増加することから、噴射できる燃料量(ポスト噴射の総噴射量)が少なかったとしても、トルクダウンが抑制される。
さらに、本実施形態の制御部5は、取得部4で取得された開始筒内温度Tcpが低いほど、上記の進角量Δtpを増大補正して、ポスト噴射時期tpをさらに進角させる。これによりトルク発生量が増加することから、開始筒内温度Tcpが低い状態であってもトルクダウンが抑制される。なお、この補正手法としては、例えば開始筒内温度Tcpとポスト噴射時期tpの補正量や補正係数との関係を予めマップとして設定しておく手法が挙げられる。この場合、取得部4から伝達された開始筒内温度Tcpをマップに適用して補正量や補正係数を取得し、上記の噴射圧の差ΔPに応じた進角量Δtpに対して、補正量を加算、或いは、補正係数を乗算することで、進角量Δtpを補正すればよい。
制御部5は、NOxパージの実施中に、判定部3からNOxパージが完了したという判定結果が伝達された場合には、エンジン10の運転状態をNOxパージから通常燃焼に切り替え、NOxパージを終了する。制御部5は、通常燃焼へ切り替えた時点で、筒内噴射弁12の目標噴射圧PTGTをNOxパージでの目標噴射圧PpTGTから通常燃焼時の目標噴射圧PnTGTに切り替える。そして、ドライバの要求する出力等に基づいた通常のエンジン制御を実施する。
[1−3.フローチャート]
図3は、上述のNOxパージの制御手順を説明するためのフローチャートであり、図4は図3のサブフローチャートである。図3のフローは、例えば車両のメイン電源がオフからオンに切り替えられた時点で開始されて、電源がオンの間、制御装置1において所定の演算周期で繰り返し実施される。なお、図3のフローの開始時点では、エンジン10の運転状態は通常燃焼とされ、フラグFpはFp=0に設定されているものとする。また、推定部2によるNOx吸蔵量Asの推定は電源がオンの間は常に実施されているものとする。
図3に示すように、制御装置1では、各センサ33〜38で検出された情報(センサ値)が取得され(ステップS1)、フラグFpがFp=0であるとき(ステップS2)、推定部2で推定されたNOx吸蔵量Asが読み込まれる(ステップS3)。ここで、フラグFpは、NOxパージが必要な状態か否かを判断するためのものであり、Fp=1はNOxパージが必要な状態に対応し、Fp=0はNOxパージが不要な状態に対応する。
NOx吸蔵量Asが第一閾値A1以上(As≧A1)であるとき(ステップS4)、フラグFpがFp=1に設定される(ステップS5)。一方、NOx吸蔵量Asが第一閾値A1未満であれば、このフローをリターンする。すなわち、触媒32Aに吸蔵したNOxの量が第一閾値A1以上となった場合には、NOxパージが必要と判定され、次の判定へと進む。次いで、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるとき(ステップS6)、後述する図4のNOxパージが実施される(ステップS7)。そして、推定部2で推定されたNOx吸蔵量Asが再び読み込まれる(ステップS8)。
NOx吸蔵量Asが第二閾値A2を下回っていない場合(ステップS9)、このフローをリターンし、再びセンサ値が取得されて(ステップS1)、フラグ判定が行われる(ステップS2)。この場合はフラグFpがFp=1に設定されているので、NOxパージの実施可能判定が行われる(ステップS6)。そして、実施可能であればNOxパージが継続され(ステップS7)、As<A2となったとき(ステップS9)、エンジン10の運転状態がNOxパージから通常燃焼に切り替えられて(ステップS10)、フラグFpがFp=0にリセットされる(ステップS11)。
一方、エンジン10がNOxパージを実施できない運転状態の場合(ステップS6)、NOxパージの実施中であれば(ステップS12)、NOxパージを中断し、エンジン10の運転状態を通常燃焼へと切り替えて(ステップS13)、このフローをリターンする。この場合は、フラグFpがFp=1に設定されているため、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態になった時点でNOxパージが復帰される。なお、NOxパージの実施中でなければ、通常燃焼のままこのフローをリターンする。
ステップS7に進んだ場合、図4に示すように、スロットル弁22がNOxパージでのスロットル開度に制御されることで吸気が絞られ(ステップS20)、規定時間の経過後に(ステップS21)、筒内噴射弁12の目標噴射圧PTGTがNOxパージ中の目標噴射圧PpTGTに設定される(ステップS22)。そして、噴射圧センサ37から実噴射圧PACTが取得される(ステップS23)。
通常燃焼からNOxパージへと切り替えた直後は目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとに差ΔPが生じることから、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束していない状態では(ステップS24)、これらの差ΔPがずれ量として取得される(ステップS25)。次いで、開始筒内温度Tcpが取得され(ステップS26)、差ΔP及び開始筒内温度Tcpに基づいてポスト噴射時期tpが進角される(ステップS27)。すなわち、ステップS27では、差ΔPに応じた進角量Δtpだけポスト噴射時期tpが進角されるとともに、開始筒内温度Tcpに応じて進角量Δtpが補正される。そして、メイン噴射時期tmにメイン噴射量Qmの燃料が噴射されるとともに、ステップS27で進角されたポスト噴射時期tpにポスト噴射量Qpの燃料が噴射される(ステップS29)。
実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束したとき(ステップS24)、ポスト噴射時期tpが予め設定されたポスト噴射時期tpoに設定される(ステップS28)。つまり、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとが略一致した状態では、ポスト噴射時期tpが所定の噴射タイミングtpoに固定され、メイン噴射が行われたのちにポスト噴射が行われる(ステップS29)。
[1−4.効果]
(1)上述の制御装置1では、図2(a)〜(e)に示すように、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとのずれ量(例えば差ΔP)に基づいて、ポスト噴射時期tpを、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束したときのポスト噴射時期tpoよりも進角させる。これにより、ポスト噴射の総噴射量(ポスト噴射量Qp)に占めるトルク寄与分の割合が増加することから、ポスト噴射によるトルク発生量を増加させることができる。したがって、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに達していない状態でも(ポスト噴射の総噴射量が少ない場合でも)、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンを抑制することができる。
また、噴射タイミングが早いほどポスト噴射した燃料がシリンダ11内で燃えやすくなるため、筒内温度Tcが上昇しやすくなり、ポスト噴射によるトルクの発生量を増加させることができる。つまり、ポスト噴射時期tpを進角させることで、上記のようにポスト噴射量Qpのうちトルクに寄与する燃料割合を増やすことができるとともに、筒内温度Tcを高めることができることから、実噴射圧が低い状態でもトルクダウンを抑制することができる。
なお、筒内温度Tcが上昇しやすくなるので、筒内温度Tcをパージ処理に適した温度まで早期に高めることができる。これにより、触媒32Aに吸蔵されたNOxが早期に放出,還元されることになるため、パージ処理時間を短縮でき、燃費を向上させることができる。
(2)上述の制御装置1では、噴射圧のずれ量が大きいほどポスト噴射時期tpを進角させるため、ポスト噴射量Qpに占めるトルク寄与分の割合を、ずれ量が大きいほど高くすることができる。つまり、ずれ量の大きさに応じて、ポスト噴射によるトルク発生量を増加させることができるため、NOxパージへの切り替え直後で実噴射圧PACTが低い状態でも、トルクダウンを効果的に抑制することができる。
(3)上述の制御装置1では、取得部4によって取得された開始筒内温度Tcpが低いほどポスト噴射時期tpを進角させるため、ポスト噴射した燃料がシリンダ11内でより燃焼しやすくなる。これにより、筒内温度Tcが上昇しやすくなるため、トルク発生量を増加させることができ、より効果的にトルクダウンを抑制することができる。また、NOxパージに適した筒内温度Tcになるまでの時間を短縮できることから、触媒32Aに吸蔵されたNOxが早期に放出,還元されることになり、パージ処理時間の長期化を抑制することができる。
(4)上述の制御装置1では、開始筒内温度Tcpが、エンジン10の低負荷運転の継続時間LE,燃料カット時間FC,水温WTの三つのパラメータのうちの少なくとも一つから推定される。このため、筒内温度Tcを直接的に検出するセンサがなくてもポスト噴射時期tpを進角させることができ、コストを低減することができる。また、これらのパラメータを組み合わせて開始筒内温度Tcpを推定して取得することで、推定精度を高めることができる。
[2.第二実施形態]
[2−1.構成]
次に、第二実施形態に係る制御装置1について説明する。本実施形態の制御装置1は、通常燃焼からの切り替え直後におけるトルクダウンの発生を抑制すべく、第一実施形態と同様にポスト噴射時期tpを制御するとともに、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを制御する。本実施形態の制御装置1は、各噴射量Qm,Qpを設定するための機能要素として、図1中に二点鎖線で示すように設定部6を備える点で、上述した第一実施形態と異なる。なお、第一実施形態と同様の構成については第一実施形態と同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の判定部3は、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であると判定した場合には、その判定結果を制御部5に伝達するとともに、設定部6にも伝達する。
設定部6は、判定部3からエンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるという判定結果が伝達された場合に、NOxパージ中の一回の燃焼サイクルにおけるメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを、上述した噴射圧のずれ量に基づいて設定する。なお、本実施形態においても、ずれ量として、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔPを用いる。
まず、メイン噴射量Qmの設定について説明する。設定部6は、判定部3から上記の判定結果が伝達されると、メイン噴射量Qmとして、NOxパージへの切り替え直前のメイン噴射量Qmnの値を設定する。設定部6は、実噴射圧PACTが上昇して差ΔPが小さくなると、差ΔPの減少に伴ってメイン噴射量Qmを小さな値に変更していく。すなわち、差ΔPが小さくなるに連れて、メイン噴射量Qmを徐々に小さな値に変更して設定する。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した(差ΔPが略ゼロである)ときに、メイン噴射量Qmを予め設定された所定のメイン噴射量Qmoに設定する。所定のメイン噴射量Qmoは、NOxパージ中のメイン噴射量Qmの最小値であり、NOxパージ中の目標空燃比,スロットル開度,筒内温度Tc等に基づいて、ゼロよりも大きな値に設定される。
次に、ポスト噴射量Qpの設定について説明する。設定部6は、判定部3から上記の判定結果が伝達されると、ポスト噴射量Qpとして、NOxパージへの切り替え直前のポスト噴射量Qpnの値を設定する。設定部6は、実噴射圧PACTが上昇して差ΔPが小さくなると、差ΔPの減少に伴ってポスト噴射量Qpを大きな値に変更していく。すなわち、差ΔPが小さくなるに連れて、ポスト噴射量Qpを徐々に大きな値に変更して設定する。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した(差ΔPが略ゼロである)ときに、ポスト噴射量Qpを予め設定された所定のポスト噴射量Qpoに設定する。所定のポスト噴射量Qpoは、NOxパージ中のポスト噴射量Qpの最大値であり、NOxパージ中の目標空燃比,スロットル開度,筒内温度Tc等に基づいて、上記の最小値Qmoよりも大きな値に設定される。
本実施形態の設定部6は、以下の式1及び式2を用いてメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpをそれぞれ算出して設定する。なお、式1中のQmoは上記のメイン噴射量Qmの最小値であり、式2中のQpoは上記のポスト噴射量Qpの最大値である。
メイン噴射量Qm=Qmo+Km×ΔQm ・・・式1
ポスト噴射量Qp=Qpo−Kp×ΔQp ・・・式2
式1中のΔQmは、NOxパージに切り替える直前のメイン噴射量Qmnから最小値Qmoを減算した値(ΔQm=Qmn−Qmo)である。また、式2中のΔQpは、最大値QpoからNOxパージに切り替える直前のポスト噴射量Qpnを減算した値(ΔQp=Qpo−Qpn)である。なお、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼においてポスト噴射がされていない場合には、NOxパージに切り替える直前のポスト噴射量Qpnはゼロとなるため、ΔQpは最大値Qpoと等しい値となる。
また、上記の式1,2中のKm,Kpはそれぞれ、0以上かつ1以下の範囲で差ΔPに応じて設定された係数であり、設定部6によって差ΔPに応じた値が選択される。係数Km,Kpと差ΔPとの各関係は、例えば図5(a),(b)に示すようなマップとして予め設定される。ここでは、差ΔPが大きいほど係数Km,Kpが線形的に増加するように設定されたマップを例示する。なお、係数Km,Kpを取得するマップは図5(a),(b)のものに限られず、差ΔPが大きいほど係数Km,Kpが曲線的に増加するように設定されたものであってもよい。また、係数Kmを取得するマップと係数Kpを取得するマップとが、同一のマップであってもよいし、一方が線形的,他方が曲線的に増加するように設定されたマップでもよい。
設定部6は、判定部3から上記の判定結果が伝達されると、差ΔPに応じた係数Km,Kpを選択するとともに、NOxパージへの切り替え直前のメイン噴射量Qmn及びポスト噴射量Qpnを取得する。そして、上記の式1及び式2を用いて、一回の燃焼サイクルにおけるメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを算出して設定する。設定部6は、設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを制御部5へ伝達する。
本実施形態の制御部5は、設定部6から伝達されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを用いる点で第一実施形態と異なり、他の制御内容は第一実施形態と同様である。すなわち、本実施形態の制御部5は、予め設定されたメイン噴射時期tmに筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたメイン噴射量Qmの燃料をメイン噴射期間km内に噴き切る。また、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとがずれている場合には、その差ΔPに基づいてポスト噴射時期tpを所定のポスト噴射時期tpoよりも進角させる。さらに、その噴射時期tpに筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたポスト噴射量Qpの燃料をポスト噴射期間kp内に噴き切る。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した後は、所定のポスト噴射時期tpoに燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたポスト噴射量Qpoの燃料をポスト噴射期間kp内に噴き切る。なお、制御部5は、第一実施形態と同様に、取得部4から伝達された開始筒内温度Tcpが低いほど進角量Δtpを増大補正して、ポスト噴射時期tpをより進角させる。
[2−2.作用,効果]
図6(a)は、エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられたときの噴射圧の変化を示したグラフであり、上述の図2(a)と同一である。図6(b)は、噴射圧のずれ量に基づいて設定されるメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを説明するための図であり、図6(c)〜(e)は、これらの噴射量Qm,Qpと、噴射圧のずれ量に対するポスト噴射時期tpの進角補正とを併せて示した図である。なお、本実施形態では、第一実施形態と同様に、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼においてポスト噴射がされていないものとする。
図6(a),(b)に示すように、エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられた直後の時刻t2では、差ΔPが最大であるため、図5(a),(b)のマップを用いると、上記の式1,2中の係数Km,Kpが何れも1となる。これらの係数Km,Kpが式1,2に代入されることで、メイン噴射量Qmは切り替え直前のメイン噴射量Qmnに設定され、ポスト噴射量Qpはゼロに設定される。したがって、図6(c)に示すように、時刻t2まではメイン噴射のみが所定のメイン噴射時期tmに開始される。
実噴射圧PACTが上昇して差ΔPが小さくなった時刻t3では、係数Km,Kpが1よりも小さい値となり、メイン噴射量Qmは時刻t2のときよりも小さな値に設定され、ポスト噴射量Qpはゼロよりも大きな値に設定される。したがって、図6(d)に示すように、時刻t3では、メイン噴射量Qmの燃料が所定のメイン噴射時期tmに噴射されるとともに、進角されたポスト噴射時期tpにおいてポスト噴射量Qpの燃料が噴射される。
差ΔPが小さくなるに連れ、係数Km,Kpが0に近い値となることから、差ΔPが小さいほど、メイン噴射量Qmが最小値Qmoに近づくように減らされるとともにポスト噴射量Qpが最大値Qpoに近づくように増やされる。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した時刻t4以降は、メイン噴射量Qmが最小値Qmoに固定され、ポスト噴射量Qpが最大値Qpoに固定される。したがって、図6(e)に示すように、例えば時刻t5では、メイン噴射量Qmoの燃料が所定のメイン噴射時期tmに噴射されるとともに、所定のポスト噴射時期tpoにおいてポスト噴射量Qpoの燃料が噴射される。
このように、本実施形態の制御装置1では、噴射圧のずれ量(例えば差ΔP)に基づくポスト噴射時期tpの進角に加えて、ずれ量に基づいてメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを設定する。このため、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTまで変動しつつある燃圧過渡状態において、燃料が燃えやすいメイン噴射での燃料量Qmを多くするように設定することができる。これにより、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに達していない状態でも、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンをより効果的に抑制することができる。
また、メイン噴射量Qmを多く設定した分、ポスト噴射での燃料量Qpを減らすような設定を行うことで、一回の燃焼サイクルで噴射される総噴射量の増大を抑制することができる。これにより、燃費悪化を抑制することができる。さらに、本実施形態の制御装置1では、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを、上記の式1,2及び図5(a),(b)に示すマップを用いて算出するため、各噴射量Qm,Qpを簡単に設定することができ、制御構成を簡素化することができる。
また、本実施形態の制御装置1では、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束する過程で、メイン噴射量Qmが最小値Qmoに近づくとともにポスト噴射量Qpが最大値Qpoに近づくように制御されるため、図6中における時刻t4の前後でのトルク変動や燃焼状態の急変を招くおそれがなく、エンジン10の作動状態をより安定化させることができる。なお、第一実施形態と同様の構成からは、同様の作用効果を得ることができる。
[3.第三実施形態]
[3−1.構成]
次に、第三実施形態に係る制御装置1について説明する。本実施形態の制御装置1は、通常燃焼からの切り替え直後におけるトルクダウンの発生を抑制すべく、第一実施形態と同様にポスト噴射時期tpを制御するとともに、第二実施形態と同様にメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを制御する。そのため、本実施形態の制御装置1にも、第二実施形態と同様に設定部6が設けられる。ただし、本実施形態の設定部6は、上述した噴射圧のずれ量に基づいてメイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率を設定する点で、上述の第二実施形態と異なる。なお、第一,第二実施形態と同様の構成については第一,第二実施形態と同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の設定部6は、判定部3からエンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるという判定結果が伝達された場合に、NOxパージ中の一回の燃焼サイクルにおける全燃料噴射量である総噴射量Qtを算出するとともに、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率を設定する。そして、これらの総噴射量Qt及び噴射比率から、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpのそれぞれを設定し、設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを補正部6へ伝達する。
具体的には、設定部6は、NOxパージに切り替える直前の燃料量QmnとNOxパージ中の目標空燃比とエアフローセンサ38で検出された吸気量とに基づき、総噴射量Qtを算出する。また、設定部6は、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとのずれ量に基づいて噴射比率を設定するとともに、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した場合には、噴射比率を予め設定された所定の噴射比率に固定する。なお、本実施形態においても、ずれ量として、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔPを用いる。
メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率の設定手法としては、例えば以下の二つが挙げられる。
(A)メイン噴射量Qmに対するポスト噴射量Qpの比率R(=Qp/Qm)を設定する。
(B)総噴射量Qtに対するメイン噴射量Qmの比率Rm(=Qm/Qt),総噴射量Qtに対する
ポスト噴射量Qpの比率Rp(=Qp/Qt)をそれぞれ設定する(ただしRm+Rp=1)。
上記(A)の場合、設定部6は、差ΔPが大きいほど比率Rを所定比率Roよりも低くなるように(差ΔPが小さくなるほど、所定比率Ro以下の範囲内で比率Rが上昇しながら所定比率Roへと近づくように)設定する。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した(差ΔPが略ゼロになった)時点で比率Rを所定比率Roに設定し、その後は所定比率Roに固定する。この所定比率Roは、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束したときの比率であり、NOxパージ中の目標空燃比,スロットル開度,筒内温度Tc等に基づいて予め設定される。つまり、設定部6は、差ΔPが略ゼロの場合には、比率Rを所定比率Roで固定し、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように比率Rを変更する。
設定部6は、以下の式3に示すように、総噴射量Qtと比率Rとからメイン噴射量Qmを算出して設定する。また、式4に示すように、総噴射量Qtからメイン噴射量Qmを減算することでポスト噴射量Qpを算出して設定する。
メイン噴射量Qm=Qt/(1+R) ・・・式3
ポスト噴射量Qp=Qt−Qm ・・・式4
また、上記(B)の場合、設定部6は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmの比率Rmが高くなるように設定し、差ΔPが略ゼロになった時点で、比率Rm,Rpをそれぞれ、予め設定された所定の比率に設定する。つまりこの場合においても、設定部6は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように、差ΔPが略ゼロのときに設定される所定の比率から比率Rmを変更する。この場合のメイン噴射量Qmは総噴射量Qtに比率Rmを乗算した値として算出される(Qm=Qt×Rm)。なお、ポスト噴射量Qpは、総噴射量Qtに比率Rpを乗算した値として算出してもよく、上記の式4を用いてもよい。
ところで、NOxパージ中のメイン噴射量Qmの中には最小値Qmoが必ず含まれるため、総噴射量Qtからこの最小値Qmoを減じた残りの噴射量(以下、割振量Qrという。Qr=Qt-Qmo)を、メイン噴射とポスト噴射とに割り振る噴射比率を設定してもよい。なお、本実施形態においても、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼において、ポスト噴射はされていないものとする。
最小値Qmoを考慮した噴射比率の設定手法としては、例えば以下の二つが挙げられる。ここで、メイン噴射量Qmから最小値Qmoを減算した値のことを「変動メイン噴射量Qmx」と呼ぶ(Qmx=Qm-Qmo)。
(C)変動メイン噴射量Qmxに対するポスト噴射量Qpの比率Rx(=Qp/Qmx)を設定
する。
(D)割振量Qrに対する変動メイン噴射量Qmxの比率Rmx(=Qmx/Qr),割振量Qrに
対するポスト噴射量Qpの比率Rpx(Qp/Qr)をそれぞれ設定する
(ただしRmx+Rpx=1)。
上記(C)の場合、比率Rxに基づいて、割振量Qrが変動メイン噴射量Qmxとポスト噴射量Qpとに割り振られる。設定部6は、比率Rxを、差ΔPが大きいほど低く設定するとともに、差ΔPがゼロに近づくほど増大させて、差ΔPが略ゼロとなった時点で予め設定された所定の比率に設定する。つまりこの場合においても、設定部6は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qm(変動メイン噴射量Qmx)が多くなるように、差ΔPが略ゼロのときに設定される比率から比率Rxを変更する。
設定部6は、以下の式5に示すように、割振量Qrと比率Rxとから変動メイン噴射量Qmxを算出し、これに最小値Qmoを加算してメイン噴射量Qmを設定する。また、ポスト噴射量Qpは、上記の式4を用いて設定する。
メイン噴射量Qm=〔Qr/(1+Rx)〕+Qmo ・・・式5
上記(D)の場合、設定部6は、差ΔPの減少に伴って比率Rmxを100%から0%に向けて減少させるとともに、比率Rpxを0%から100%に向けて増大させる。つまり、差ΔPが大きいほど比率Rmxを高く設定し、差ΔPが略ゼロになった時点で比率Rmxを0%にするとともに比率Rpxを100%に設定する。この場合のメイン噴射量Qmは、割振量Qrに比率Rmxを乗算した値に最小値Qmoを加算して算出される(Qm=Qr×Rmx+Qmo)。なお、ポスト噴射量Qpは、割振量Qrに比率Rpxを乗算した値として算出してもよく、上記の式4を用いてもよい。
本実施形態の制御部5は、第二実施形態と同様、設定部6から伝達されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを用い、所定の噴射時期に筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、所定の噴射期間内に燃料を噴き切る。すなわち、制御部5は、予め設定されたメイン噴射時期tmに筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたメイン噴射量Qmの燃料をメイン噴射期間km内に噴き切る。また、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとがずれている場合には、その差ΔPに基づいてポスト噴射時期tpを所定のポスト噴射時期tpoよりも進角させる。さらに、その噴射時期tpに筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたポスト噴射量Qpの燃料をポスト噴射期間kp内に噴き切る。そして、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した後は、所定のポスト噴射時期tpoに燃料を噴射させ、設定部6から伝達されたポスト噴射量Qpの燃料をポスト噴射期間kp内に噴き切る。なお、制御部5は、第一実施形態と同様に、取得部4から伝達された開始筒内温度Tcpが低いほど進角量Δtpを増大補正して、ポスト噴射時期tpをより進角させる。
[3−2.作用,効果]
図7(a)は、エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられたときの噴射圧の変化を示したグラフであり、上述の図2(a)と同一である。図7(b),(c)は、噴射圧のずれ量に基づいて設定される噴射比率,噴射量を説明するための図である。なお、図7(b)には、噴射比率として、上述したメイン噴射量Qmに対するポスト噴射量Qpの比率Rを挙げ、三つのグラフを例示する。
図7(a)〜(c)に示すように、NOxパージに切り替える直前の通常燃焼では、燃料量Qmnがメイン噴射され、ポスト噴射はされていないため、図7(b)中に太実線に示すように、時刻t2までの比率Rはゼロに設定される。比率Rは、時刻t2以降では、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔTが小さくなるほど上昇し、差ΔPが略ゼロとなる時刻t4に所定比率Roに設定されて、その後は所定比率Roに固定される。なお、比率Rは、図7(b)中に細実線や一点鎖線で示すように、曲線的に変化するように設定されてもよい。
比率Rがこのように設定されることで、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpは、時刻t2から時刻t4にかけて徐々に変更され、時刻t4以降では一定の値に設定される。具体的には、細実線で示すメイン噴射量Qmが、燃料量Qmnから徐々に減らされ、時刻t4において最小値Qmoに設定される。一方、太実線で示すポスト噴射量Qpが、ゼロから徐々に増やされ、時刻t4において最大値Qpoに設定される。このようにメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpが設定されることで、エンジン10の運転状態がNOxパージに切り替えられた直後のトルクダウンが防止される。なお、一点鎖線で示す総噴射量Qtは、時刻t4に空燃比がNOxパージでの目標空燃比となるように、時刻t2から徐々に増大される。
なお、仮に時刻t1又は時刻t2において、メイン噴射量Qmが燃料量Qmnから最小値Qmoにステップ状に切り替えられ、ポスト噴射量Qpもゼロから最大値Qpoにステップ状に切り替えられたとする。この場合、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに達していないことから、ポスト噴射期間kpの間に所定のポスト噴射量Qpを噴き切ることが難しく、トルクに寄与するポスト噴射量Qpが不足する。さらに、メイン噴射量Qmが最小値Qmoに設定されているため、トルクに寄与するメイン噴射量Qmも減量されている。このように、トルクに寄与する燃料量が少ないことから、ポスト噴射時期tpを進角したとしても僅かなトルクの落ち込みが発生するおそれがある。これに対して、本実施形態のNOxパージでは、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差ΔPに基づいて比率Rを設定し、この比率Rを用いて設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpの燃料が所定の噴射期間内に噴射されるので、トルクダウンの発生がより効果的に抑制される。
このように、本実施形態の制御装置1では、噴射圧のずれ量(例えば差ΔP)に基づくポスト噴射時期tpの進角に加えて、ずれ量に基づいてメイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率(例えば比率R)を設定する。このため、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTまで変動しつつある燃圧過渡状態において、燃料が燃えやすいメイン噴射での燃料量Qmが多くなるように噴射比率を設定することができる。これにより、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに達していない状態でも、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンをより効果的に抑制することができる。
また、燃料の噴射比率は、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの加算値である総噴射量Qtとは独立して制御可能であることから、総噴射量Qtの大小に左右されることなくトルクの落ち込みを回避することができる。例えば、吸気量がNOxパージへの切り替え直後に変動した場合であっても、実空燃比を目標空燃比に追従させたままの状態でメイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとを同時に増減させることができる。したがって、エンジン10のトルクダウンを抑制しつつ作動状態を安定化させることができる。
本実施形態の制御装置1では、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束した場合に、噴射比率が予め設定された所定の噴射比率に固定されるので、制御構成を簡素化することができる。また、実噴射圧PACTが目標噴射圧PpTGTに収束する過程で、噴射比率が所定の噴射比率に近づくように制御されるため、図7中における時刻t4の前後でのトルク変動や燃焼状態の急変を招くおそれがなく、エンジン10の作動状態をより安定化させることができる。
また、本実施形態の制御装置1では、噴射圧のずれ量が大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように(ずれ量が大きいほどメイン噴射量Qmの割合が増大するように)噴射比率が変更される。つまり、ずれ量が大きいほど、燃料が燃えやすいメイン噴射によって多くの燃料が噴射されることになるので、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの間にずれがあっても、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンを効果的に抑制することができる。
なお、第一,第二実施形態と同様の構成からは、同様の作用効果を得ることができる。
[4.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上述の各実施形態では、目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとのずれ量として差ΔPが用いられる場合を例示したが、噴射圧のずれ量はこれに限られず、目標噴射圧PpTGTに対する実噴射圧PACTの比をずれ量としてもよい。あるいは、パージ処理の前後における目標噴射圧PTGTの変化量(PpTGT−PnTGT)に対する、実噴射圧PACTの変化量の比をずれ量としてもよいし、パージ処理の前後における目標噴射圧PTGTの変化量(PpTGT−PnTGT)に対する目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとの差の比をずれ量としてもよい。
上述の各実施形態では、開始筒内温度Tcpが低いほど進角量Δtpを増大補正する場合を例示したが、開始筒内温度Tcpに基づく補正は上述した手法に限られない。例えば、開始筒内温度Tcpが所定温度以上の場合には、補正量をゼロ、或いは、補正係数を1に設定し、開始筒内温度Tcpが所定温度よりも低い場合にポスト噴射時期tpを進角補正する構成にしてもよい。なお、開始筒内温度Tcpに基づく補正を省略してもよい。この場合、取得部4を省略可能であり、制御構成を簡素化することができる。
上述の各実施形態では、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼において、ポスト噴射はされていないものとしたが、通常燃焼時の噴射形態は特に限られず、ポスト噴射が行われていてもよい。この場合、上述の第二,第三実施形態において、通常燃焼からNOxパージへ切り替えられたときの噴射量や噴射比率の設定に際し、通常燃焼時のポスト噴射量を考慮すればよい。また、上述の第二,第三実施形態では、メイン噴射量Qmの最小値Qmoが固定値として設定されている場合を例示したが、最小値Qmoはこれに限られない。例えば、総噴射量Qtに対する最小値Qmoの割合を予め設定しておき、総噴射量Qtを算出したうえで最小値Qmoを算出する構成であってもよい。すなわち、最小値Qmoが総噴射量Qtに応じた変数として与えられてもよい。
上述の各実施形態では、進角量Δtpの基準となる時期(タイミング)が所定のポスト噴射時期tpoとなっているが、所定のポスト噴射時期tpoの代わりに所定のクランク角θを基準としてもよいし、メイン噴射時期tmを基準としてもよい。例えば、ずれ量(例えば差ΔP)が大きいほど、メイン噴射時期tmとポスト噴射時期tpとの間隔(すなわち、クランク角θの間隔であって、クランク角度差Δθ)が狭くなるように、ポスト噴射時期tpを制御してもよい。つまり、制御部5が、パージ処理での筒内噴射弁12の目標噴射圧PpTGTと実噴射圧PACTとのずれ量に基づき、メイン噴射時期tmとポスト噴射時期tpとのクランク角度差Δθを増減させてもよい。この場合、ずれ量が大きいほどクランク角度差Δθを小さく設定し、ずれ量が減少するに連れてクランク角度差Δθを大きく設定することが考えられる。このような制御であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
上述の実施形態では、パージ処理としてNOxパージを例示したが、上述したNOxパージに関する制御を、触媒32Aから硫黄成分を放出,除去させるSパージに適用してもよい。
なお、エンジン10は、上述した構成のディーゼルエンジンに限られず、他の構成のディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンであってもよい。