JP6515002B2 - 複合繊維とその製造方法、並びに、複合材とその製造方法 - Google Patents
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Description
そこで、上記用途では、引張強度が高く、弾性率の高い強化繊維をマトリクス樹脂に複合した繊維強化樹脂(FRP)が好ましく用いられる。
ガラス繊維および炭素繊維等の無機繊維;
並びに、
PVA系繊維等の樹脂繊維が挙げられる。
本明細書において、「VA系樹脂」はビニルアルコール系樹脂の略号であり、完全けん化物であるポリビニルアルコール、および、部分けん化物であるビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む共重合体が含まれる。
本明細書において、「PVA系繊維」は、1種または2種以上のVA系樹脂を主成分とする繊維である。
また、PVA系繊維は、ヒドロキシ基由来の親水性を有するため、親水性を有するマトリクス樹脂、あるいはヒドロキシ基と反応性を有するマトリクス樹脂等に複合される強化繊維の用途に好ましく用いられる。
なお、強化繊維は樹脂以外のマトリクス材に複合される場合もある。
しかしながら、樹脂繊維は、無機繊維に比較して、引張強度等の機械物性に優れるものの、曲げ弾性率等の機械物性が劣る傾向がある。
マトリクス樹脂と強化繊維とを含む複合材の製造方法としては、
強化繊維にマトリクス樹脂となる液状の原料を含浸させた後、液状の原料を固化させる方法;
および、
強化繊維とマトリクス樹脂となる液状の原料とを混合した後、液状の原料を固化させる方法等がある。
しかしながら、複合材中の強化繊維の割合を増加する場合、前者の製造方法では、強化繊維にマトリクス樹脂となる液状の原料を含浸させることが難しくなる。
後者の製造方法では、マトリクス樹脂と強化繊維との混合物の流動性が低下することにより、マトリクス樹脂と強化繊維との界面にボイドが形成され、複合材の機械強度が低下する恐れがある。また、マトリクス樹脂中に強化繊維が偏在することにより、1つの複合材内または複数の複合材間に機械強度のばらつきが生ずる恐れもある。
しかしながら、無機物を添加すると、材料全体の流動性が低下して、マトリクス樹脂と強化繊維との界面、あるいは、マトリクス樹脂と無機物との界面にボイドが形成され、複合材の機械強度が低下する恐れがある。また、無機物の粒子径等によっては、マトリクス樹脂中に無機物が偏在することにより、1つの複合材内または複数の複合材間に機械強度のばらつきが生ずる恐れもある。
特許文献1では、VA系樹脂(けん化度99モル%)を水に溶解した後、ホウ酸と炭酸カルシウム粒子と添加して紡糸原液を得、この紡糸原液を用いて紡糸を行い、複合繊維を製造している(実施例1等)。
特許文献1では、セメント製品の曲げ強度の向上効果が報告されている(段落0026等)。
この方法では、紡糸原液中の炭酸カルシウム粒子の存在により、VA系樹脂の紡糸が阻害される恐れがある。そのため、得られるPVA系繊維の結晶化度等の繊維特性が低下する恐れがある。また、PVA系繊維の表面に炭酸カルシウム粒子が食い込むことで、繊維形状が悪化する恐れもある。これらは、引張強度の低下を招く恐れがある。
特許文献2において、
ポリアクリル酸(PAA)、ポリグルタミン酸、ポリビニルピロリドン、PVA、およびポリエチレングリコール等の親水性ポリマーと、アモルファス炭酸カルシウムとを含む複合材料を開示している(段落0035、0040、および図1等)。
特許文献2にはまた、親水性ポリマーとカルシウムイオンとを含む第1溶液と、炭酸イオンを含む第2溶液とを混合し、アモルファス構造である複合材料を製造する方法が開示されている(請求項10、請求項12等)。
例えば、アモルファス状炭酸カルシウム/ポリアクリル酸複合材料が、以下方法にて製造されている(請求項10、請求項12、段落0037、および図3等)。
PAAとカルシウムイオンとを含む第1水溶液と、炭酸イオンを含む第2水溶液とを別々に作製する。これらの水溶液を混合し、数時間静置する。得られた沈殿生成物を回収し、乾燥させる。
特許文献2にはまた、親水性ポリマーとカルシウムイオンとを含む第1溶液と、炭酸イオンを含む第2溶液とを混合して、コロイド分散液を形成し、このコロイド分散液を基板上に塗布して、アモルファス構造である複合材料を有する薄膜を形成する方法が開示されている(請求項16、および段落0074等)。
また、特許文献2に開示の複合材料中の炭酸カルシウムは、アモルファス構造である。
下記一般式[I]で表される少なくとも1種のビニルアルコール系樹脂を主成分とする極性繊維の少なくとも一部の表面上に、
カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を有する少なくとも1種の親水性ポリマーと、主結晶がカルサイト結晶およびバテライト結晶であり、結晶子のサイズが0.01〜0.1μmである炭酸カルシウム結晶とを含む被覆層が形成されており、
前記被覆層は平均厚みが0.01〜20μmであり、
前記被覆層による前記極性繊維の表面被覆率が80〜100%である、
複合繊維である。
(式[I]中、mは100以上の整数であり、nは0以上の整数である。)
マトリクス材と、上記の本発明の複合繊維とを含むものである。
下記一般式[II]で表される少なくとも1種のカルシウムイオン源を20mM以上含むと共に、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を有する少なくとも1種の親水性ポリマーをモノマー換算で10〜80mM含む第1水溶液と、下記一般式[III]で表される少なくとも1種の炭酸イオン源を20mM以上含む第2水溶液とを反応させて、アモルファス炭酸カルシウムと前記親水性ポリマーとを含む炭酸カルシウム水溶液を得る工程と、
前記炭酸カルシウム水溶液に、下記一般式[I]で表される少なくとも1種のビニルアルコール系樹脂を主成分とする極性繊維を浸漬させて、当該極性繊維の少なくとも一部の表面上に、炭酸カルシウム結晶と前記親水性ポリマーとを付着させる工程とを有するものである。
(式[I]中、mは100以上の整数であり、nは0以上の整数である。)
(式[II]中、Xはハロゲン原子を表し、nは0以上の実数を表す。)
(式[III]中、各記号は以下の意味を示す。
Mは、少なくとも1種の金属原子、アンモニウム、または水素原子を表す。
aおよびbは1以上の整数であり、nは0以上の実数を表す。)
上記の本発明の複合繊維の製造方法により得られた前記複合繊維に対して、マトリクス材となる液状の原料を含浸させた後、前記液状の原料を固化させるものである。
上記の本発明の複合繊維の製造方法により得られた前記複合繊維と、マトリクス材となる液状の原料とを混合した後、前記液状の原料を固化させるものである。
本明細書において、特に明記しない限り、「主成分」は、50質量%以上の成分と定義する。
本明細書において、特に明記しない限り、「PVA系繊維の繊維径」は、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)観察にて、測定するものとする。
なお、SEMとしては、KEYENCE社製「VE−9800」を用いる。
本明細書において、特に明記しない限り、「PVA系繊維の結晶化度、結晶配向度、および結晶子のサイズ」は、広角X線回折(WAXD)測定により算出するものとする。
測定装置としては、Bruker社製の「D8Discover with GADDS」を用いる。検出器としては、「PSPC・HI−Star」を用いる。
結晶化度(%)=(結晶ピークの全面積)÷(全ピーク面積)×100
結晶配向度(−)=(180−半価幅)÷180
D(100)は、赤道線データを変換し、2θ=5〜20°の回折ピークの半価幅から、Scherrerの式を用いて算出する。
D(002)は、子午線データを変換し、2θ=65〜85°の回折ピークの半価幅から、Scherrerの式を用いて算出する。
なお、Scherrerの定数Kは0.94とする。
本明細書において、特に明記しない限り、「樹脂の重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
本明細書において、特に明記しない限り、VA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して、極限粘度から導かれる粘度平均重合度で示される値である。
本明細書において、特に明記しない限り、「極性繊維に付着した炭酸カルシウムの結晶構造」は、大型放射光施設SPring−8の「BL03XU」を用い、MICRO−WAXD(Wide-Angle X-Ray Diffraction)分析により、評価するものとする。
(X線測定条件)
X線波長は0.13051nmである。X線は、アッテネータおよびチョッパー等で減衰させずに、ヘリウム雰囲気下で試料に照射する。
X線の輝度は、照射領域に対しておよそ6×109 photon/secである。
露光時間は5秒間とする。なお、5秒間の照射では、炭酸カルシウム結晶に対するダメージはなく、炭酸カルシウム結晶の融解等が生じないことを事前に確認している。
試料からのMICRO−WAXD測定のカメラ距離はおよそ44mmとする。
検出器としては、FPD検出器を使用する。
(測定方法)
測定サンプル繊維に対して、繊維の外側から繊維の径方向(繊維軸方向に対して垂直方向)にX線を1μmずつ走査しながら測定を実施する。これにより、測定サンプル繊維の断面において、径方向の一端から他端まで、1μm間隔でWAXDデータを得る。
(解析方法)
上記測定を行った後、各測定位置についての全方位WAXDデータにおいて円環平均を求め、1次元のWAXDパターンを得る。
その他の測定条件は、後記[実施例]の項に記載の通りとする。
上記分析にて、回折ピークが検出された場合、検出された回折ピークについて、標準サンプル結晶の回折ピークのデータと比較することで、結晶構造を同定することができる。
なお、上記分析にて、明確な回折ピークが検出されない場合、「アモルファス」と判定される。
一般的に、炭酸カルシウム結晶の種類としては、アラゴナイト結晶、カルサイト結晶、およびバテライト結晶がある。
本明細書では、上記分析にて明確に検出される回折ピークを示す1種または2種以上の結晶を、「主結晶」と定義する。
付着物には、装置の検出限界以下の量で、主結晶以外の微量の結晶が含まれる場合があり得る。
付着物には、炭酸カルシウム結晶の他に、アモルファスの炭酸カルシウムが含まれる場合があり得る。
本明細書において、特に明記しない限り、「炭酸カルシウム結晶の結晶子のサイズ」は、上記分析において検出された回折ピークの半値幅を求め、Scherrerの式を用いて算出するものとする。なお、Scherrerの定数Kは0.94とする。
本明細書において、特に明記しない限り、「被覆層による極性繊維の表面被覆率、および、被覆層の平均厚み」は、下記方法にて評価するものとする。
SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、複合繊維の断面観察を行い、得られた画像または写真上で被覆層による極性繊維の表面被覆率、および、被覆層の全体的な平均厚みを測定する。
本明細書において、特に明記しない限り、「極性繊維に対する付着物(被覆層)の密着性」は、下記方法にて評価するものとする。
界面密着性は、付着物(被覆層)と極性繊維との密着界面との面積に対する、付着物(被覆層)と極性繊維との界面方向へのせん断応力から算出される界面せん断応力(IFSS)を指標とする。
界面せん断応力(IFSS)は、複合材界面特性評価装置を用いたマイクロドロップレット法により測定するものとする。
具体的な測定方法は、後記[実施例]の項に記載の通りである。
本発明の複合繊維は、極性繊維の少なくとも一部の表面上に、親水性ポリマーと炭酸カルシウム(CaCO3)結晶とを含む付着物が形成されたものである。
本発明において、付着物は、極性繊維の少なくとも一部の表面を覆う被覆層を形成することができる。
本発明の複合繊維は、後記する本発明の製造方法によって製造することができる。
本発明の複合繊維において、極性繊維としては、下記一般式[I]で表される少なくとも1種のビニルアルコール(VA)系樹脂を主成分とするPVA系繊維を用いる。
PVA系繊維は、1種または2種以上用いることができる。
(式[I]中、mは100以上の整数であり、nは0以上の整数である。)
VA系樹脂は、その製法によって特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニルにアルカリまたは酸などを用いてけん化して、製造される。ポリ酢酸ビニルの部分けん化物は、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む共重合体である。
「VA系樹脂」には、完全けん化物であるポリビニルアルコール、および、部分けん化物であるビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む共重合体が含まれる。
一般的に、VA系樹脂は、水酸基を有するため親水性を有する。
一般的に、VA系樹脂は、けん化度が高くなる程、結晶性が高くなり、また、親水性が向上する傾向がある。
本明細書において、「PVA系繊維」は、1種または2種以上のVA系樹脂を主成分とする繊維である。
PVA系繊維中の上記主成分樹脂の量は多い方が好ましい。
PVA系繊維中の上記主成分樹脂の量は、50質量%以上、好ましくは70%質量以上、より好ましくは90%質量以上である。
PVA系繊維が良好な結晶性を有していることで、PVA系繊維の結晶配向に沿って、炭酸カルシウムが結晶成長しやすいと考えられる。
したがって、本発明では、良好な結晶性を有するPVA系繊維を用いることが好ましい。
PVA系繊維の結晶性は、「結晶化度」および「結晶配向度」を指標とすることができる。
PVA系繊維は概略、繊維原料を紡糸し、必要に応じて乾燥し、必要に応じて熱処理し、必要に応じて延伸し、必要に応じて切断することで、製造される。
本発明では、繊維原料は、1種または2種以上のVA系樹脂を主成分とし、必要に応じて任意成分を含むことができる。
したがって、本発明では、延伸処理が施されたPVA系繊維が好ましく用いられる。
延伸倍率により、PVA系繊維の結晶性を調整することができる。
延伸倍率が高くなる程、PVA系繊維の結晶性が高くなる傾向がある。
PVA系繊維の結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。本発明において、PVA系繊維の結晶配向度は特に制限されず、高い方が好ましい。
PVA系繊維の結晶配向度は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である。
なお、PVA系繊維の結晶性は、上記したように、ポリ酢酸ビニルのけん化度および延伸倍率によって調整することができる。
なお、けん化度が高くなる程、VA系樹脂中のビニルアルコール単位のモル比率は増加する傾向がある。
親水性および結晶性に優れることから、VA系樹脂中のビニルアルコール単位のモル比率は、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。
繊維化等を考慮すれば、平均重合度は、好ましくは300以上、より好ましくは1500以上である。
繊維化等を考慮すれば、平均重合度は、好ましくは10000以下、より好ましくは2400以下である。
本発明で用いられる親水性ポリマーは、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を有するポリマーである。
以下、特に明記しない限り、「親水性基」は、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を意味するものとする。
親水性ポリマーは、上記親水性基を1種または2種以上含むことができる。
親水性ポリマーは、1種または2種以上用いることができる。
かかる親水性基を有する親水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリアリルアミン、ポリグルタミン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルアルコール(VA)系樹脂、およびポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
なお、親水性ポリマーとして用いられるビニルアルコール(VA)系樹脂は、良好な親水性および水溶性を呈することから、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む共重合体(部分けん化物)であることが好ましい。
カルボキシ基および/またはアミノ基を有する親水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリアリルアミン、およびポリグルタミン酸等が挙げられる。
用途等によっては、PVA系繊維の表面に形成する、親水性ポリマーと炭酸カルシウム結晶とを含む付着物(被覆層)に、好適な各種物性(機械物性および熱物性等)がある場合がある。この場合、付着物(被覆層)の所望の物性に応じて、好適な範囲のMwの親水性ポリマーを選択することができる。
本発明の製造方法では、PVA系繊維の表面上に、炭酸カルシウムを結晶成長させる。
一般的に、炭酸カルシウム結晶の種類としては、アラゴナイト結晶、カルサイト結晶、およびバテライト結晶がある。
なお、検出限界以下の量のアラゴナイト結晶が成長する可能性もある。
本発明の製造方法では、PVA系繊維の表面上に、炭酸カルシウム結晶を板状または粒子状等の形態で形成することができる(後記[実施例]の項のSEM写真を参照されたい。)。
板状または粒子状等の炭酸カルシウムの径(平均径)は、特に制限されない。
用途等によっては、本発明の複合繊維または本発明の複合材に、好適な各種物性(機械物性および熱物性等)がある場合がある。この場合、所望の物性に応じて、好適な範囲の径の板状または粒子状等の炭酸カルシウムを成長させることができる。
本発明の製造方法では、製造条件を調整することで、板状または粒子状等の炭酸カルシウムの径(平均径)を調整することができる。
本発明の複合繊維では、極性繊維の少なくとも一部の表面が、少なくとも1種の親水性ポリマーと炭酸カルシウム結晶とを含む付着物で覆われる。
本発明の製造方法では、付着物は、極性繊維の少なくとも一部の表面を覆う被覆層を形成することができる。
本発明の製造方法では、極性繊維の表面上に、高い表面被覆率で被覆層を形成することができる。
具体的には、被覆層による極性繊維の表面被覆率は、80〜100%であり、好ましくは90〜100%である。
本発明の複合繊維において、被覆層の平均厚みは、0.01〜20μmである。
本発明では、極性繊維の表面上に、高い表面被覆率で被覆層を形成することができるので、極性繊維に対してより多くの量の炭酸カルシウム結晶を複合させることができる。
炭酸カルシウム結晶を含む付着物(被覆層)の密着性は例えば、炭酸カルシウム結晶を含む付着物(被覆層)と極性繊維との密着界面の面積に対する、付着物(被覆層)と極性繊維との界面方向へのせん断応力から算出される界面せん断応力(IFSS)により見積もることができる。
界面せん断応力(IFSS)は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは15MPa以上、特に好ましくは25MPa以上である。
本発明では、かかる界面せん断応力を有する、炭酸カルシウム結晶を含む付着物(被覆層)と極性繊維との密着性に優れた複合繊維を提供することができる。
したがって、本発明によれば、樹脂繊維と無機物とがそれぞれの長所を活かして効果的に複合され、強化繊維等として好適な機械物性を有する複合繊維を提供することができる。
逆に、無機物は、曲げ弾性率等の機械物性に優れるものの、引張強度等の機械物性が劣る傾向がある。
本発明では、樹脂繊維の表面上に無機物を複合しても、樹脂繊維が本来有する良好な引張強度は損なわれず、例えば、元の極性繊維に対して、同等以上の引張強度を有する複合繊維を提供できる。さらに本発明では、樹脂繊維の表面上に無機物を複合することで、曲げ弾性率を向上することができる。
したがって、本発明によれば、樹脂繊維が本来有する良好な引張強度と、無機物が本来有する良好な曲げ弾性率とを兼ね備えた複合繊維を提供することができる。
また、極性繊維の表面上に、極性繊維の結晶配向に沿って炭酸カルシウムを結晶成長させることができるため、単に極性繊維の表面上にアモルファスの炭酸カルシウムを付着させる場合に比して、極性繊維に対する炭酸カルシウムの密着性が強固となる。
これらの効果が相俟って、本発明によれば、より効果的に曲げ弾性率を向上させることが可能である。
本発明の複合繊維は、以下の製造方法により製造することができる。
はじめに、極性繊維としてPVA系繊維を用意する。
PVA系繊維は、市販のものを用いてもよいし、公知方法により製造して用いてもよい。
PVA系繊維は概略、繊維原料を紡糸し、必要に応じて乾燥し、必要に応じて熱処理し、必要に応じて延伸し、必要に応じて切断することで、製造される。
溶融紡糸法は、加熱溶融したポリマーをノズルから繊維状に押出ながら冷却して、繊維化する方法である。
乾式紡糸法は、ポリマーを揮発性の溶媒に溶解させた紡糸原液を用意し、これをノズルから繊維状に押出しながら加熱により溶媒を気化させて、繊維化する方法である。
湿式紡糸法は、ポリマーを揮発性の低い溶媒に溶解させた溶解させた紡糸原液を用意し、これをノズルから繊維状に押出した後、凝固液中で固化して、繊維化する方法である。
湿式紡糸法では、紡糸原液の粘度が低くてもよいため、高重合度のポリマーでも紡糸可能であり、高張力な繊維を得ることができる。
極性繊維の原料である1種または2種以上のVA系樹脂を揮発性の低い溶媒に溶解させて、紡糸原液を得る。
溶媒としては特に制限されず、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、メタノール、グリセリン、およびN―メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
溶解方法は特に制限されない。
例えば、溶媒を攪拌しつつ、溶媒にVA系樹脂を添加し、昇温して、VA系樹脂を溶解することができる。
紡糸原液中のVA系樹脂の濃度および溶解温度は、安定な紡糸に好適な範囲内で、適宜調整される。
例えば、平均重合度が1700程度のVA系樹脂を使用する場合、紡糸原液中のVA系樹脂の濃度は好ましくは13〜20質量%であり、溶解温度は好ましくは70〜120℃程度である。
凝固液は、ポリマーは溶解せず、紡糸原液の溶媒と良好な相溶性を有する液である。
PVA系繊維の場合、凝固液としては例えば、メタノール、トルエン、アセトン、およびエタノール等が好適に用いられる。
凝固液には必要に応じて、凝固性を向上させる物質、例えば、水あるいはケトン類等を添加することができる。
紡糸性および経済性の観点から、凝固液の温度は0〜20℃が好ましい。
上記の反応性物質としては、ホルムアルデヒドおよびベンズアルデヒド等が好適に用いられる。
結晶化向上の観点から、乾燥方法としては加熱乾燥が好ましい。
乾燥温度は、80〜200℃が好ましい。
熱処理を行うことで、PVA系繊維の結晶性を向上させ、張力を向上させることができる。
繊維の結晶化向上の観点から、熱処理温度は200〜260℃が好ましい。
長時間の熱処理は通常、VA系樹脂の結晶化度向上には寄与しない。
熱処理時間は例えば、2秒間程度で充分である。
延伸処理を行うことで、PVA系繊維の結晶性を効果的に向上させ、張力を一層向上させることができる。
繊維の結晶化向上の観点から、延伸方法としては、乾熱延伸方法が好ましい。
乾熱延伸方法においては例えば、80〜230℃で1.3〜3倍の延伸倍率で一次延伸することができる。さらに、160〜230℃で全延伸倍率が3〜24倍となるように二次延伸することができる。
本発明では、全延伸倍率が3〜24倍のPVA系繊維が好ましく用いられる。
以上のようにして、PVA系繊維が製造される。
PVA系繊維に対して、機械捲縮または牽切等の処理を施し、紡績または不織布の加工を行ってもよい。
複数本のPVA系繊維を一方向に引き揃えてヤーンを得、さらに、複数のヤーンを繊維方向に対して垂直方向に並列配置した異方性二次元構造体に加工してもよい。
織機を用いて、PVA系繊維を平織または綾織の布状としてもよい。さらにブレーディング処理により、三次元構造体としてもよい。
極性繊維として、PVA系繊維と他の樹脂繊維との混糸を用いてもよい。
はじめに、以下の第1水溶液と第2水溶液とを用意する。
(式[II]中、Xはハロゲン原子を表し、nは0以上の実数を表す。)
かかる親水性基を有する親水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリアリルアミン、ポリグルタミン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルアルコール(VA)系樹脂、および、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
なお、親水性ポリマーとして用いられるビニルアルコール(VA)系樹脂は、良好な親水性および水溶性を呈することから、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む共重合体(部分けん化物)であることが好ましい。
カルボキシ基および/またはアミノ基を有する親水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリアリルアミン、および、ポリグルタミン酸等が挙げられる。
第1水溶液中のカルシウムイオン源の濃度の上限は特に制限されず、第1水溶液中のカルシウムイオン源の濃度は、好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下である。
第1水溶液中のポリアクリル酸(PAA)の濃度は、その重量平均分子量を基にPAAの原料モノマー(アクリル酸(AA))の量に換算して、求めるものとする。
なお、実際のポリマー製造方法にモノマーが使用されないビニルアルコール(VA)系樹脂等の濃度は、その平均重合度を基に各構造単位を原料モノマー由来と見なして、原料モノマーの量に換算して、求めるものとする。
第1水溶液中のカルシウムイオン源の濃度および親水性ポリマーの濃度を上記のように規定することで、カルシウムイオンに対して、好適な範囲でカルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を配位させることができる。
一方、カルシウムイオンに対して、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基の量が過多では、カルシウムイオンの表面エネルギー低下の効果が過剰となり、PVA系繊維の表面上の炭酸カルシウムの結晶成長速度が著しく低下してしまう。
第1水溶液中のカルシウムイオン源の濃度および親水性ポリマーの濃度を上記のように規定することで、溶液中での炭酸カルシウムの過度の結晶析出を抑制しつつ、PVA系繊維の表面上に炭酸カルシウムを良好に結晶成長させることができる。
下記一般式[III]で表される少なくとも1種の炭酸イオン源を含む第2水溶液を用意する。
(式[III]中、各記号は以下の意味を示す。
Mは、少なくとも1種の金属原子、アンモニウム、または水素原子を表す。
aおよびbは1以上の整数であり、nは0以上の実数を表す。)
第2水溶液中の炭酸イオン源の濃度の上限は特に制限されず、第2水溶液中の炭酸イオン源の濃度は、好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下である。
この工程では、第1工程で得られた上記第1水溶液と、第2工程で得られた上記第2水溶液とを混合し、反応させる。これによって、アモルファス炭酸カルシウムと親水性ポリマーとを含む炭酸カルシウム水溶液が得られる。
例えば、第1水溶液中のカルシウムイオンと、第2水溶液中の炭酸イオンとは、等モルまたはそれに近い関係とし、第1水溶液と第2水溶液とを等体積またはそれに近い関係で混合することが好ましい。
ただし、混合水溶液中で炭酸カルシウムが良好に生成される範囲内で、混合水溶液中のカルシウムイオンと炭酸イオンとは、等モルまたはそれに近い関係からずれてもよい。
この工程では、第2工程で得られた、アモルファス炭酸カルシウムと親水性ポリマーとを含む炭酸カルシウム水溶液に、上記極性繊維(極性繊維を加工したものでもよい。)を浸漬させる。
これによって、極性繊維の少なくとも一部の表面上に、炭酸カルシウム結晶と親水性ポリマーとが付着した複合繊維が製造される。
析出時間が長くなる程、付着量が増加する傾向があるが、ある程度の析出時間を超えても、その効果は飽和する。
析出時間は、好ましくは24時間〜3週間程度、より好ましくは24時間〜1週間程度である。
例えば、後記実施例1−7〜1−9、8−7〜8−9では、1〜3週間の範囲内であれば、2週間以上浸漬させても、1週間浸漬に対して付着量の顕著な増加は見られず、1週間程度で充分であった。
ただし、好適な析出時間は、用いる第1水溶液と第2水溶液の濃度等に応じて異なると考えられる。
浸漬処理後、炭酸カルシウム水溶液中から得られた複合繊維を取り出す。
ただし、第4工程については、60℃以上では反応が進みすぎて、炭酸カルシウム結晶が比較的大きな塊となって、極性繊維に付着する可能性がある。
第1工程〜第4工程は、10〜50℃の範囲内で実施することが好ましく、10〜40℃の範囲内で実施することがより好ましく、10〜30℃の範囲内で実施することが特に好ましい。
第1工程〜第4工程は、通常の室温下(例えば、20〜30℃)で実施することができる。
第1工程〜第4工程はまた、通常の大気圧下で実施することができる。
炭酸カルシウム水溶液中から取り出した複合繊維は、必要に応じて洗浄することができる。
例えば、カルシウムイオン源として塩化カルシウムを用い、炭酸イオン源として炭酸ナトリウムを用いた場合、塩化ナトリウムが副生成される。このような副生成物を除去するために、炭酸カルシウム水溶液中から取り出した極性繊維を水洗等により洗浄することができる。
最後に、得られた複合繊維を乾燥させる。これによって、複合繊維に付着した水分を除去することができる。
乾燥方法は特に制限されず、公知方法を適用することができる。
以上のようにして、本発明の複合繊維が製造される。
炭酸カルシウム水溶液中の炭酸カルシウムはアモルファスであるが、本発明では、PVA系繊維が良好な結晶性を有していることで、PVA系繊維の結晶配向に沿って、繊維の表面上に炭酸カルシウムを良好に結晶成長させることができると考えられる。
PVA系繊維の結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。
本発明において、PVA系繊維の結晶配向度は特に制限されず、高い方が好ましい。
PVA系繊維の結晶配向度は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である。
なお、PVA系繊維の結晶性は、ポリ酢酸ビニルのけん化度および延伸倍率によって調整することができる。
なお、PVA系繊維の表面上には、炭酸カルシウム結晶と共に、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を含む親水性ポリマーも同時に付着すると考えられる。
付着物中の炭酸カルシウム結晶および親水性ポリマーの分布は特に制限されない。
付着物の形態としては、板状または粒子状等の炭酸カルシウム結晶の周りに親水性ポリマーが付着した形態、および、炭酸カルシウム結晶と親水性ポリマーとを含む板状物または粒子状物等が生成される形態等が挙げられる。
その結果、本発明では、炭酸カルシウム結晶と親水性ポリマーとを含む付着物によって、極性繊維の少なくとも一部の表面を覆う被覆層を形成することができる。
本発明ではまた、PVA系繊維の表面被覆率が80〜100%である被覆層を形成することができる。
被覆層による極性繊維の表面被覆率は、好ましくは90〜100%であある。
したがって、本発明によれば、樹脂繊維と無機物とがそれぞれの長所を活かして効果的に複合され、強化繊維等として好適な機械物性を有する複合繊維を提供することができる。
逆に、無機物は、曲げ弾性率等の機械物性に優れるものの、引張強度等の機械物性が劣る傾向がある。
本発明では、樹脂繊維の表面上に無機物を複合しても、樹脂繊維が本来有する良好な引張強度は損なわれず、例えば、元の極性繊維に対して、同等以上の引張強度を有する複合繊維を提供できる。さらに本発明では、樹脂繊維の表面上に無機物を複合することで、曲げ弾性率を向上することができる。
したがって、本発明によれば、樹脂繊維が本来有する良好な引張強度と、無機物が本来有する良好な曲げ弾性率とを兼ね備えた複合繊維を提供することができる。
また、極性繊維の表面上に、極性繊維の結晶配向に沿って炭酸カルシウムを結晶成長させることができるため、単に極性繊維の表面上にアモルファスの炭酸カルシウムを付着させる場合に比して、極性繊維に対する炭酸カルシウムの密着性が強固となる。
これらの効果が相俟って、本発明によれば、より効果的に曲げ弾性率を向上させることが可能である。
本発明の複合材は、マトリクス材と、上記の本発明の複合繊維とを含むものである。
本発明の第1の複合材の製造方法は、複合繊維と、マトリクス材となる液状の原料とを混合した後、液状の原料を固化させる方法である。
例えば、内部に空隙を有して複数の繊維が集合した繊維集合体等が好ましく用いられる。
少なくとも1種の樹脂からなるマトリクス材(マトリクス樹脂)と、本発明の複合繊維を含む複合材は、いわゆる繊維強化樹脂(FRP)として好適に使用することができる。
不飽和ポリエステル、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、およびフェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂;
および、
(メタ)アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
熱硬化性の液体原料は公知のものを使用することができ、熱硬化性樹脂のモノマー、ダイマー、または、比較的低分子の熱硬化性樹脂の前駆体ポリマー等を含むことができる。
熱硬化性の液体原料は、熱硬化により固化させることができる。
熱可塑性樹脂の加熱溶融物は、冷却により固化させることができる。
熱可塑性樹脂の溶液または分散液は、溶媒または分散媒を乾燥除去することで、固化させることができる。
本発明の複合繊維は強化繊維として好適であり、本発明の複合繊維およびこれを用いた複合材は、航空機部材、自動車部材、家電部材、および建材等の用途に好適に用いることができる。
[極性繊維の製造例1]
極性繊維の樹脂原料として、ビニルアルコール単位のみからなるポリビニルアルコール(完全けん化物)である(株)クラレ社製「クラレポバール PVA−117」(平均重合度約1700、ビニルアルコール単位量100モル%、製品中のポリビニルアルコール濃度94%以上)を用意した。
乾燥温度は95℃、乾燥時間は5分間とした。
この時点のPVA系繊維を「繊維サンプル8」として、後記実施例および比較例の複合繊維の製造に供した。
繊維サンプル1は相対的に結晶化度の高いサンプルであり、その結晶化度は70.1%であった。
繊維サンプル8は相対的に結晶化度の低いサンプルであり、その結晶化度は57.6%であった。
以下の原料を用意した。
(カルシウムイオン源)
カルシウムイオン源として、塩化カルシウム(WAKO社製、Calcium Chloride, Anhydrous、純度95%)を用意した。
(炭酸イオン源)
炭酸イオン源として、炭酸ナトリウム(KANTO CHEMICAL CO., INC.社製、 Sodium Carbonate、純度99.8%、無水物)を用意した。
(親水性ポリマー)
カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を側鎖に有する親水性ポリマーとして、ポリアクリル酸(PAA)(ALDRICH社製、Poly(acrylic acid)、粉末、純度90%、平均重合度25、重量平均分子量1800)を用意した。
はじめに、20mMの塩化カルシウムと、1.1×10−1質量%のポリアクリル酸(PAA)とを水に溶解させて、第1水溶液を得た。
第1水溶液中のPAA量は、モノマー換算で15Mであった。
目視観察にて、炭酸カルシウム水溶液中に炭酸カルシウムの析出物は見られなかった。
実施例1−7:1週間、
実施例1−8:2週間、
実施例1−9:3週間。
実施例8−7:1週間、
実施例8−8:2週間、
実施例8−9:3週間。
以上のようにして、複合繊維を製造した。
第1水溶液中にポリアクリル酸(PAA)を添加しなかった以外は、実施例1−7と同様にして、複合繊維を得た。
第1水溶液中にポリアクリル酸(PAA)を添加しなかった比較例1−1では、第1水溶液と第2水溶液とを混合した後、直ちに、目視観察にて、水溶液中にアモルファス炭酸カルシウムが大きな固形物となって、析出および沈殿する様子が見られた。
この炭酸カルシウムの析出物を含む炭酸カルシウム水溶液中に極性繊維として繊維サンプル1を浸漬させたが、目視観察にて、繊維の表面上に炭酸カルシウム結晶が成長する前に、極性繊維にアモルファス炭酸カルシウムが大きな塊で多数付着する様子が見られた。
実施例1−7〜1−9、実施例8−7〜8−9、および、比較例1−1の各例で得られた複合繊維について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、複合繊維の表面観察および断面観察を実施した。
SEMとしては、KEYENCE社製「VE−9800」を用いた。
実施例1−9および実施例8−9で得られた複合繊維について、MICRO−WAXD(Wide-Angle X-Ray Diffraction)分析を実施した。
測定装置として、大型放射光施設SPring−8の「BL03XU」を利用した。
測定サンプル繊維に対して、繊維の外側から繊維の径方向(繊維軸方向に対して垂直方向)にX線を1μmずつ走査しながら測定を実施した。
これにより、測定サンプル繊維の断面において、径方向の一端から他端まで、1μm間隔でWAXDデータを得た。
全方位について、上記測定を行い、各径方向位置についてWAXDデータの円環平均を求め、WAXDパターンを得た。
測定条件は以下の通りとした。
X線波長:0.13051nm、
X線の径:強度分布をガウス関数近似したときの半値全幅が約1μm、
露光時間:5秒間、
アッテネータおよびチョッパー:不使用、
位置分解能:1μm。
アラゴナイト結晶:(111)、
カルサイト結晶:(104)、
バテライト結晶:(112)。
なお、積分強度は、炭酸カルシウム結晶を含む付着物の付着量の指標となる。
また、ピーク幅から半値幅を求め、Scherrerの式を用いて、結晶子のサイズを求めた。Scherrerの定数Kは0.94とした。
実施例1−9で得られた複合繊維について、以下の評価を実施した。
PVA系繊維に対する炭酸カルシウム結晶を含む付着物(被覆層)の界面密着性の評価として、複合材界面特性評価装置を用いたマイクロドロップレット法により、炭酸カルシウム結晶を付着させる前の元のPVA系繊維および得られた複合繊維の界面せん断強度(IFSS)を測定した。
測定装置としては、東栄産業株式会社製「HM410」を用いた。
測定サンプル繊維に対して、熱硬化性エポキシ系樹脂のモノマーを含むエポキシ系硬化液を滴下した。この操作を繰り返して、測定サンプル繊維の複数箇所に、間隔を空けてエポキシ系硬化液の液滴を付着させた。その後、付着させたエポキシ系硬化液を大気雰囲気中、80℃で3時間加熱して熱硬化させて、複数のマイクロドロップレットを形成した。
次に、得られたサンプルを複合材界面特性評価装置の台座にセットし、一対のブレードで上記複数のマイクロドロップレットを挟んで固定した。
次に、台座を移動させて引抜試験を行い、引抜荷重をロードセルで検出した。
引抜荷重のデータから、下記式に基づいて、界面せん断強度(IFSS)が算出される。
τ=F/π・d・L
(上記式中、各記号は以下の意味を示す。
τ:界面せん断強度、
F:引抜荷重、
d:繊維径、
L:ドロップレット長。)
炭酸カルシウム結晶を付着させる前の元のPVA系繊維および得られた複合繊維について、以下の引張試験を実施した。
測定装置として、Textechno社製「fafegraph」を用いた。
測定項目は以下の通りとした。
繊度[dtex]:単位長さあたりの繊維の質量、
引張伸度[%]:引張試験における繊維の破断伸度、
引張強力[cN]:引張試験における繊維の破断強度、
DYM[cN]:初期弾性領域の一定歪みに対する引張強力、
引張強度[cN/dtex]:引張強力/繊度の値、
引張ヤング率[cN/dtex]:DYM/繊度の値。
(SEM観察およびMICRO−WAXD分析の結果)
<実施例1−7〜1−9>
SEM観察から、以下のことが明らかとなった。
実施例1−7〜1−9ではいずれも、PVA系繊維の表面に主に炭酸カルシウム結晶からなる付着物が形成された複合繊維が得られた。
実施例1−7〜1−9では、付着物はPVA系繊維の少なくとも一部の表面を覆う被覆層を形成していた。
なお、付着物(被覆層)には、ポリアクリル酸(PAA)も含まれていると推察される。
図1Aおよび図1Bは、SEM表面写真である。
図1Cおよび図1Dは、SEM断面写真である。
断面視にて、PVA系の全体表面上に、矩形に近い比較的幅広な大きな複数の結晶がPVA系繊維の表面に沿って横に並んだ層が、約1μmの厚みで形成されている様子が観察された。便宜上、以下、この層は「板状層」と呼ぶ。
さらに、断面視にて、上記板状層の外側に、比較的小さい径の多数の粒子状の結晶が200〜300nm程度の厚みで付着している様子が観察された。便宜上、以下、この層を「粒子状層」と呼ぶ。粒子状層については、SEM表面写真も参照されたい。
実施例1−7および実施例1−8で得られた複合繊維についても、同様の構造であった。
図2Aおよび図2Bに、実施例1−9で得られた複合繊維のWAXDパターンを示す。
実施例1−9で得られた複合繊維は、PVA系繊維の外側に、主にカルサイト結晶とバテライト結晶とからなる層が存在する構造であった。
結晶子のサイズは、以下の通りであった。
カルサイト結晶の結晶子のサイズ:25nm以上、
バテライト結晶の結晶子のサイズ:約20nm。
結晶配向はなく、ランダム配向であった。
SEM観察から、以下のことが明らかとなった。
実施例8−7〜8−9ではいずれも、PVA系繊維の表面に主に炭酸カルシウム結晶からなる付着物が形成された複合繊維が得られた。
実施例8−7〜8−9では、付着物はPVA系繊維の少なくとも一部の表面を覆う被覆層を形成していた。
付着物(被覆層)には、ポリアクリル酸(PAA)も含まれていると推察される。
代表例として、図4A〜図4Dに、実施例8−9で得られた複合繊維のSEM写真を示す。
図4Aおよび図4Bは、SEM表面写真である。
図4Cおよび図4Dは、SEM断面写真である。
断面視にて、PVA系繊維の全体表面上に、厚み方向に細く伸びた矩形に近い比較的小さな多数の結晶がPVA系繊維の表面に沿って横に並んだ層が、約1μmの厚みで形成されている様子が観察された。便宜上、以下、この層は「板状層」と呼ぶ。
さらに、断面視にて、上記板状層の外側に、無定形の比較的厚く大きな結晶が緻密に並んだ層が、約2μmの厚みで形成されている様子が観察された。便宜上、以下、この層は「緻密層」と呼ぶ。
さらに、上記緻密層の外側に、比較的小さい径の多数の粒子状の結晶が約1μmの厚みで付着している様子が観察された。便宜上、以下、この層を「粒子状層」と呼ぶ。粒子状層については、SEM表面写真も参照されたい。
実施例8−7および実施例8−8で得られた複合繊維についても、同様の構造であった。
図5Aおよび図5Bに、実施例8−9で得られた複合繊維のWAXDパターンを示す。
実施例8−9で得られた複合繊維は、PVA系繊維の外側に、主にカルサイト結晶からなる層が存在し、さらにその外側に主にバテライト結晶からなる層が存在する構造であった。
結晶子のサイズは、以下の通りであった。
カルサイト結晶の結晶子のサイズ:20〜50nm、
バテライト結晶の結晶子のサイズ:10〜20nm。
結晶配向はなく、ランダム配向であった。
実施例8−9で得られた複合繊維の模式斜視図を図6に示す。
図7に、元のPVA系繊維(繊維サンプル1)および実施例1−9で得られた複合繊維の界面せん断強度(IFSS)の測定結果を示す。
図7に示すように、炭酸カルシウム結晶を付着させた複合繊維は、界面せん断強度(IFSS)の向上効果が見られた。
このことは、PVA系繊維に対する炭酸カルシウム結晶を含む付着物(被覆層)の界面密着性が良好であることを示す。
図8A〜図8Dに、引張強力とDYMの測定結果を示す。
図8Aは、元のPVA系繊維(繊維サンプル1)および実施例1−7〜1−9で得られた複合繊維の引張強力の測定結果を示すグラフである。
図8Bは、元のPVA系繊維(繊維サンプル1)および実施例1−7〜1−9で得られた複合繊維のDYMの測定結果を示すグラフである。
図8Cは、元のPVA系繊維(繊維サンプル8)および実施例8−7〜8−9で得られた複合繊維の引張強力の測定結果を示すグラフである。
図8Dは、元のPVA系繊維(繊維サンプル1)および実施例8−7〜8−9で得られた複合繊維のDYMの測定結果を示すグラフである。
Claims (8)
- 下記一般式[I]で表される少なくとも1種のビニルアルコール系樹脂を主成分とする極性繊維の少なくとも一部の表面上に、
カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を有する少なくとも1種の親水性ポリマーと、主結晶がカルサイト結晶およびバテライト結晶であり、結晶子のサイズが0.01〜0.1μmである炭酸カルシウム結晶とを含む被覆層が形成されており、
前記被覆層は平均厚みが0.01〜20μmであり、
前記被覆層による前記極性繊維の表面被覆率が80〜100%である、
複合繊維。
(式[I]中、mは100以上の整数であり、nは0以上の整数である。) - 前記親水性基は、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、およびアミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種である、
請求項1に記載の複合繊維。 - 前記親水性ポリマーは、ポリアクリル酸、エチレンとアクリル酸との共重合体、ポリアリルアミン、およびポリグルタミン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である、
請求項1または2に記載の複合繊維。 - マトリクス材と、請求項1〜3のいずれかに記載の複合繊維とを含む、複合材。
- 前記マトリクス材は、少なくとも1種の樹脂からなる、請求項4に記載の複合材。
- 下記一般式[II]で表される少なくとも1種のカルシウムイオン源を20mM以上含むと共に、カルシウムイオンに対する配位能を有する親水性基を有する少なくとも1種の親水性ポリマーをモノマー換算で10〜80mM含む第1水溶液と、下記一般式[III]で表される少なくとも1種の炭酸イオン源を20mM以上含む第2水溶液とを反応させて、アモルファス炭酸カルシウムと前記親水性ポリマーとを含む炭酸カルシウム水溶液を得る工程と、
前記炭酸カルシウム水溶液に、下記一般式[I]で表される少なくとも1種のビニルアルコール系樹脂を主成分とする極性繊維を浸漬させて、当該極性繊維の少なくとも一部の表面上に、炭酸カルシウム結晶と前記親水性ポリマーとを付着させる工程とを有する、
複合繊維の製造方法。
(式[I]中、mは100以上の整数であり、nは0以上の整数である。)
CaX2・nH2O・・・[II]
(式[II]中、Xはハロゲン原子を表し、nは0以上の実数を表す。)
Ma(CO3)b・nH2O・・・[III]
(式[III]中、各記号は以下の意味を示す。
Mは、少なくとも1種の金属原子、アンモニウム、または水素原子を表す。
aおよびbは1以上の整数であり、nは0以上の実数を表す。) - 請求項6に記載の複合繊維の製造方法により得られた前記複合繊維に対して、マトリクス材となる液状の原料を含浸させた後、前記液状の原料を固化させる、
複合材の製造方法。 - 請求項6に記載の複合繊維の製造方法により得られた前記複合繊維と、マトリクス材となる液状の原料とを混合した後、前記液状の原料を固化させる、
複合材の製造方法。
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