JP6512681B2 - カイガラムシ由来のポリペプチド - Google Patents

カイガラムシ由来のポリペプチド Download PDF

Info

Publication number
JP6512681B2
JP6512681B2 JP2014179175A JP2014179175A JP6512681B2 JP 6512681 B2 JP6512681 B2 JP 6512681B2 JP 2014179175 A JP2014179175 A JP 2014179175A JP 2014179175 A JP2014179175 A JP 2014179175A JP 6512681 B2 JP6512681 B2 JP 6512681B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
polypeptide
hemolytic
present
composition
fraction
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2014179175A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2016053003A (ja
Inventor
伸光 宮西
伸光 宮西
賢樹 金児
賢樹 金児
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Toyo University
Original Assignee
Toyo University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toyo University filed Critical Toyo University
Priority to JP2014179175A priority Critical patent/JP6512681B2/ja
Publication of JP2016053003A publication Critical patent/JP2016053003A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6512681B2 publication Critical patent/JP6512681B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
  • Medicines Containing Material From Animals Or Micro-Organisms (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)

Description

本発明は、カイガラムシ由来のポリペプチドに関する。本発明はさらに、カイガラムシ由来のポリペプチドを含む溶血剤組成物、およびカイガラムシ由来のポリペプチドを用いた溶血方法に関する。本発明はさらに、カイガラムシ由来のポリペプチドを含む細胞毒性組成物、およびカイガラムシ由来のポリペプチドを含む抗腫瘍組成物にも関する。
溶血剤は、赤血球の細胞膜を破壊して原形質を漏出させる物質である。溶血剤は、ヘモグロビン量の測定や、赤血球の除去および白血球の分類などに用いられる(特許文献1)。溶血剤はさらに、種々の疾患の検査・診断にも使用され得(非特許文献1)、例えば血栓関連疾患等における治療的応用の可能性も考えられる。
溶血は様々な方法で達成され得る。例えば、赤血球を機械的に損傷させたり、低張液に晒したりすることにより、物理的に溶血が達成される。また、有機溶媒や界面活性剤により化学的に溶血を誘導することもできる。
生物学的な溶血の例としては、赤血球に対する抗体を介した生体内での溶血現象が知られている。また、レンサ球菌等の細菌が溶血活性を有する因子(溶血素)を産生することが知られている。さらに、ナマコ類の動物やキノコに由来するレクチン(糖結合タンパク質)にも溶血活性を有するものが存在することが知られている(非特許文献2)。しかしながら、生物由来の溶血素はその実体が詳細に理解されていないことが多く、産業的な利用例はまだ乏しい。
特開2003-344387
第52回東北地区医学検査学会講演抄録集(2011年) 生物物理49(2)、第075〜079頁(2009年)
上記のように、溶血剤には多様な応用可能性が存在し、新規な溶血剤に対するニーズが存在し続けている。特に、安価な材料から簡便に入手できる溶血剤に対するニーズが存在する。特に、生物由来、とりわけポリペプチドに基づく溶血剤は、多様な生化学的および遺伝子工学的技術の適用による開発も可能であり、臨床分野その他において新たなツールとして高い有用性を提供することが期待される。
カイガラムシは、カメムシ目ヨコバイ亜目カイガラムシ上科に属する昆虫である。本発明においては、ツノロウムシ(角蝋虫)(ツノロウカイガラムシともいう。学名Ceroplastes ceriferus)というカイガラムシが溶血剤の供給源として利用される。
ツノロウムシは、体長6〜9ミリメートルで、大きな蝋殻を有して厚みがあり、淡紅色をわずかに帯びた灰白色の昆虫である(図1 )。成熟した殻はドーム状に丸くなる。ツノロウムシは、年1回発生し、越冬成虫は5月に産卵し、6月中旬から下旬にかけて幼虫が孵化し、9〜10月に成虫となる。ツノロウムシは、ミカン、チャ、ツバキ、ケヤキなど、多くの植物に寄生し、すす病を引き起こして大害を与える。ツノロウムシは、本州の宮城県・山形県以南の日本全土および世界各地に分布する。
ツノロウムシの蝋殻の内部は赤色であり(図1)、この赤色色素のコチニールが食品添加物として利用されている。また、ロウの部分は、床のワックスやコーティング剤として使用されている。このように、広く生息しかつ駆除対象となる害虫であるツノロウムシから、有用な物質を採取して活用することは、産業的観点から非常に有意義かつ効率的である。
本発明者らは、驚くべきことに、ツノロウムシが産生するポリペプチドの中に溶血活性を有するものが存在することを発見し、そのポリペプチドを単離することに成功した。本発明者らはさらに、そのポリペプチドが、非赤血球細胞に対する細胞毒性を有することを発見した。本発明はこれらの発見に基づいて完成された。
従って、本発明は以下の側面を含む。
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、ツノロウムシ由来のポリペプチド。
[2]前記[1]に記載のポリペプチドを含む、溶血剤組成物。
[3]赤血球を含む液体試料に、前記[1]に記載のポリペプチドまたは前記[2]に記載の組成物を接触させることを含む、溶血方法。
[4]前記液体試料が血液を含む、[3]に記載の溶血方法。
[5]前記[1]に記載のポリペプチドを含む、細胞毒性組成物。
[6]前記[1]に記載のポリペプチドを含む、抗腫瘍組成物。
図1は、ツノロウムシの分類学上の位置づけ、および外観の写真を示す。 図2は、ツノロウムシのホモジナイズ液のゲル濾過クロマトグラフィ分離により得られたクロマトグラムを示す。CC-IVポリペプチドの溶出位置を矢印で示している。 図3は、ゲル濾過クロマトグラフィの各画分を血液と混合する実験の結果を示す。CC-IVポリペプチドを含む画分が入ったウェルを黒枠で囲って示している。 図4は、精製過程における各サンプルのSDS-PAGEの結果を示す。左から、1. サイズマーカー、2. 透析後のサンプル、3. 陰イオンクロマトグラフィ後の素通り画分のサンプル、および4. ゲル濾過クロマトグラフィのCC-IV画分のサンプルが電気泳動されている。14 kDaのサイズマーカーの位置を矢印で示している。 図5は、pH安定性試験の結果を示す。32および64という数字は、それぞれ、32倍希釈および64倍希釈のCC-IVポリペプチド画分液で溶血活性が確認されたことを表す。 図6は、温度安定性試験の結果を示す。CC-IVポリペプチド画分液を、横軸に示された温度でインキュベートした後、溶血活性を測定した。 図7は、様々な単糖類、二糖類、糖タンパク質、またはタンパク質をウェルに添加して、CC-IVポリペプチドの溶血活性の阻害の有無を調べた実験の結果を示す。「NC」は、CC-IVポリペプチドの代わりにPBSを添加した陰性対照である。 図8は、異なる動物種の血液に対する溶血活性の比較実験を示す。数字はCC-IVポリペプチド画分液の希釈率を示す。「凝集」は凝集素RCA120を用いた凝集についての陽性対照であり、「NC」はCC-IVポリペプチドの代わりにPBSを添加した陰性対照であり、「溶血」は界面活性剤Triton X-100を用いた溶血についての陽性対照である。 図9は、ベロ細胞を用いた細胞毒性試験の結果を示す。横軸は添加されたCC-IV溶血性ポリペプチドの濃度、縦軸はベロ細胞の生存率を示す。+および−は、培地へのFBS添加の有り無しを表す。 図10は、U937細胞を用いた細胞毒性試験の結果を示す。横軸は添加されたCC-IV溶血性ポリペプチドの濃度、縦軸はU937細胞の生存率を示す。+および−は、培地へのFBS添加の有り無しを表す。
本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、ツノロウムシ由来のポリペプチドを提供する。本発明のポリペプチドは、ツノロウムシから採取し精製することによって得ることができる。使用するツノロウムシの数または重量は特に限定されないが、効率よく採取・精製を行うためには、例えば湿重量で少なくとも10 g、より好ましくは少なくとも100 g、さらに好ましくは約150 g(約3200匹に相当)のツノロウムシを使用することができる。さらに多数の個体を出発材料としてさらに多量のポリペプチドを取得することもできる。
ツノロウムシ全体をホモジナイズした試料を、適切なクロマトグラフィで分画し、溶血活性を示す画分を分離することによって、本発明のポリペプチドを取得することができる。具体的には、上記クロマトグラフィの各画分を、赤血球含有液体試料(通常は血液またはその希釈液)と混合することにより、溶血活性を有する画分、すなわち本発明のポリペプチドを含む画分を同定することができる。溶血活性を有する画分が赤血球含有液体試料と混合された場合には、赤血球が溶解して、ヘモグロビンをはじめとする細胞内部の成分が混合液中に放出され、混合液が均一な赤色溶液となることが視認される。これに対し、溶血活性を有さない画分の場合には、血球が混合液の底部に沈殿するか、または、血球の凝集が起こって、肉眼的もしくは顕微鏡的に上記溶解液とは区別できる懸濁液が得られる。
溶血活性同定の目的で使用される赤血球含有液体試料は、例えばヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ニワトリ等、各種動物由来の血液またはその希釈液であってよい。例えば、血球成分が2体積%程度となるように血液をリン酸緩衝食塩水等で希釈し、その希釈液に同体積のクロマトグラフィ画分を混合することにより、溶血活性のスクリーニングを行うことができる。例えば低張液中では血球が自発的に溶血してしまうなど、溶血活性の検出は浸透圧によって影響を受けるので、希釈液および混合液は等張液とすることが好ましい。クロマトグラフィ画分と上記赤血球含有液体試料との混合は、例えば96ウェルプレートのウェル中で簡便に行うことができ、肉眼または顕微鏡により溶血活性含有画分を確認することができる。
上記クロマトグラフィの例としては、陰イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ、およびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。陰イオン交換クロマトグラフィ用のカラムの例としては、架橋アガロースをマトリックスとし、官能基として四級アンモニウム基を有するものが挙げられ、具体的には、GEヘルスケア社のQ-Sepharose Fast Flowが好適に使用され得る。ゲル濾過クロマトグラフィ用のカラムの例としては、デキストランと高度架橋アガロースからなるものが挙げられ、具体的にはGEヘルスケア社のSuperdex 75(1.6×60 cm、オープンカラム)が好適に使用され得る。分子量3,000〜70,000の範囲の分離能を有するカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィは、本発明のポリペプチドを実質的に純粋な状態で分離することができるので、特に好ましい。陰イオン交換クロマトグラフィを行った後に、その素通り画分を用いてゲル濾過クロマトグラフィを行い、そのゲル濾過クロマトグラフィの各画分を上記のように溶血活性についてアッセイすることによって、本発明のポリペプチドを含む画分を同定することが最も好ましい。クロマトグラフィの前後に、適宜、遠心分離や透析等、追加的な精製工程を行ってもよい。
上記および実施例に示す精製方法は、あくまで一例であり、当業者は、クロマトグラフィの種類および適切な精製工程を適宜選択してタンパク質の分離を行い、分離された画分における溶血活性の存在を指標にして、本発明のポリペプチドを精製・単離することができる。
本発明のポリペプチドは、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で決定される分子量が約10〜11kDaである。従って、本発明のポリペプチドを含有する画分を同定する際に、溶血活性に加えて、この分子量を指標とすることもできる。
本発明のポリペプチドは、GSGSVLVRNSGGYVATFSMA(配列番号1)というアミノ酸配列を含む。このアミノ酸配列は、成熟ポリペプチドのN末端に見出される。しかしながら、最末端のアミノ酸がメチオニンではないことから、翻訳直後のポリペプチドにおいては、上記アミノ酸配列はN末端ではなくポリペプチド内部、すなわちシグナルペプチドに対してC末端側に存在することが理解される。ポリペプチドのN末端または内部の配列を決定する手法は当業者によく知られている。また、シグナルペプチドの切断を阻害する等して翻訳直後のポリペプチドを得る方法も当業者に知られている。分離された画分に含まれるポリペプチドの一部分または全長のアミノ酸配列を決定し、配列番号1のアミノ酸配列が含まれていることを確認することにより、本発明のポリペプチドが単離されたことを確認することができる。
さらに、当業者には理解されるように、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドに対する抗体を作成して、その抗体に対する結合に基づいて本発明のポリペプチドを精製・単離するアプローチも可能である。そのようなアプローチの具体例としては、抗体親和性クロマトグラフィ、免疫沈降、および発現ライブラリースクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の別の側面では、上記ポリペプチドを含む、溶血剤組成物が提供される。この組成物中に含まれる上記ポリペプチドの濃度は、望まれる溶血の程度にも依存するし、また、使用前の希釈または濃縮を前提とする形態として提供することも可能であることから、特に限定されない。通常は、本組成物は、上記ポリペプチドを0.1〜99.9重量%、1〜99重量%、または10〜90重量%含み得る。あるいは、本組成物は、上記ポリペプチドを、10〜20重量%、20〜30重量%、30〜40重量%、40〜50重量%、50〜60重量%、60〜70重量%、70〜80重量%、または80〜90重量%含んでいてもよい。
本発明の溶血剤組成物は、液状、固形状、または半固形状の組成物として提供され得る。液状組成物である場合には、上記ポリペプチド以外の成分は、典型的には水であるが、当業者に知られるその他の適切な溶媒や、複数の溶媒の混合物であってもよい。本発明の液状組成物は、塩、緩衝剤、安定化剤、防腐剤等の、当業者に知られるその他の成分を含んでいてもよい。本発明の液状組成物のpHは、好ましくは、pH 4.0〜11.5の範囲内である。ポリペプチドの変性をきたすことが知られる成分組成は使用するべきではない。
固形状組成物は、粉末、錠剤、カプセル剤等、当業者に知られる形態で提供することができ、上記ポリペプチド以外の成分としては、当業者に知られる賦形剤、結合剤、コーティング剤、乾燥剤等を適宜使用することができる。本発明のポリペプチドの水溶液を凍結乾燥することにより、固形状態のポリペプチドを得ることができ、それを本発明の固形状組成物に含ませることができる。
本発明の別の側面では、赤血球を含む液体試料に、本発明のポリペプチドまたは本発明の組成物を接触させることを含む、溶血方法が提供される。赤血球を含む液体試料は、典型的には血液またはその希釈液であり、例えばヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ウサギ、ニワトリ等、各種動物由来の血液またはその希釈液であり得る。この方法は、液体試料に、本発明のポリペプチドまたは本発明の組成物を液体または固体の状態で混合ないし溶解することにより実施される。この接触反応混合物における赤血球と本ポリペプチドとの量比は、望まれる溶血の程度等に応じて当業者が適宜調節することができるため、特に限定されない。例えば、上述したクロマトグラフィ画分のスクリーニングと同様に、血球成分が2体積%程度となるように液体試料を調製して、その液体試料に、例えば1〜100μg/mlの濃度のポリペプチド溶液を同体積混合することにより、溶血を起こさせることができる。
本発明の溶血方法における反応pHとしては、広範囲のpHが利用可能であり、例えばpH 4.0〜11.5における範囲において溶血が達成され得る。これらのpHを維持するために、クエン酸バッファー、リン酸バッファー、トリスバッファー、グリシンバッファー等、各種バッファー液を反応液とすることができる。所望のpHに対応する適切な緩衝剤の種類および濃度は、当業者が適宜選択することができる。
本発明のポリペプチドは、50℃以上の温度において失活する。従って、本発明の溶血反応における反応温度は、40℃以下とすることが好ましい。反応温度は、4℃以上であることが好ましい。本発明の溶血反応は、室温において好適に実施することができる。
本発明のポリペプチドは、赤血球に対する溶血活性に加えて、赤血球以外の細胞に対する細胞毒性を示す。従って本発明の別の側面では、本発明のポリペプチドを含む、細胞毒性組成物が提供される。本明細書において「細胞毒性」とは、物質が細胞を殺す能力を意味する。本発明の細胞毒性組成物における上記ポリペプチドの濃度、上記ポリペプチド以外の成分、液状/固形状の別等については、上記溶血剤組成物の場合に準じるため、特に限定されず、当業者が適宜調節できる。
本発明のポリペプチドは、腫瘍細胞に対して強い細胞毒性を有するため、抗腫瘍剤、すなわち腫瘍の治療、検査、研究等に使用するための細胞毒性剤として有用である。従って本発明の別の側面では、本発明のポリペプチドを含む、抗腫瘍組成物が提供される。ここでいう腫瘍は、上皮性腫瘍または非上皮性腫瘍、例えばリンパ腫であり得、良性腫瘍または悪性腫瘍であり得る。本発明の抗腫瘍組成物における上記ポリペプチドの濃度、上記ポリペプチド以外の成分、液状/固形状の別等については、上記溶血剤組成物の場合に準じるため、特に限定されず、当業者が適宜調節できる。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[ツノロウムシのホモジナイズ液の分画]
東洋大学板倉キャンパス(群馬県邑楽郡板倉町)内のユキヤナギに寄生しているツノロウカイガラムシを採取した。採取したツノロウカイガラムシのホモジナイズ液を調製するために、約3200匹(湿重量で約150 g)にPBS(リン酸緩衝食塩水、0.15 M NaCl、pH7.4)を加えながらホモジナイザーを用いてホモジナイズした。PBS懸濁液となった状態のホモジナイズ液の体積は約200 mlであった。このホモジナイズ液を遠心分離(4℃、8,000G、20分間)に掛けて、不溶性のロウ部分等を沈殿として分離除去した。上清(約120 ml)をセルロースチューブ(三光純薬株式会社)中に回収し、PBSに対して透析を行って低分子夾雑物等を除去した。透析済みサンプルは、500 ml 容量のガラス製ブフナ型濾過器(三商製)を用いて、陰イオンクロマトグラフィによる精製に付した。すなわち、上記濾過器に入れた強陰イオン交換樹脂(Q-Sepharose Fast Flow、GEヘルスケア社)をPBSで平衡化し、上記透析済みサンプルを静かにアプライした。PBS で溶出を行い、素通り画分を回収した。回収した素通り液に対して、スピンカラムチューブ(50 ml Macrosep、10K MWCO)を用いた遠心分離(4℃、5,000G、30分間)を行い、得られた上清を次工程のためのサンプルとした。このサンプルについて、限外濾過フィルター(NMWL:10,000、ミリポア社)が装着された限外濾過器を用いて限外濾過濃縮を行った。限外濾過濃縮後のサンプルを、HiLoad 16/60 Superdex 75 prep gradeカラム(0.5×0.5×60 cm、GEヘルスケア社)にアプライした。流速1.0 ml/分にて、バッファーはPBSを使用して、ゲル濾過クロマトグラフィを行った。試験管1本当たり2 ml分取して、96本の画分に分画し、60本目付近の画分を回収した。
図2に、ゲル濾過クロマトグラフィのクロマトグラムを示す。後述するCC-IV画分(本発明のポリペプチドを含む画分)に対応する溶出位置を矢印で示している。分子量3,000〜70,000の範囲の分離能を有するSuperdex 75カラムを用いた場合において、本発明のポリペプチドは最後に溶出するピークに含まれることがわかる。
[溶血活性を有する画分の同定]
図3に示すように、96ウェルプレートの各ウェルに、PBSで血球分2%(v/v)に希釈したヒツジの血液を入れ、同体積のゲル濾過クロマトグラフィ画分を、溶出順に従って左上から右下のウェルへと加えていった。ここでは、96ウェルプレートの横の並びを「行」と呼び、縦の並びを「列」と呼ぶ。
第1行目や第8行目においては、赤血球が画分による影響を受けずにウェルの底に沈殿していることがわかる。第3行目前後の画分においては、血液凝集活性が存在し、赤血球が凝集してウェル中でネットワーク構造を形成して液の懸濁を生じさせている。一方、第6行目の第2〜7列目においては、赤血球が溶解して均一な赤色溶液を生じる溶血活性が見られた(なお、図3の写真では、凝集しているウェルと溶血しているウェルとが区別しにくいが、実際にはこれらは肉眼または顕微鏡によって明確に区別され得る)。この第6行目第2〜7列目の範囲の画分を合わせたものをCC-IV画分と呼び、これは、図2において矢印で示したピークに対応する。
図4は、サイズマーカー(第1レーン)、透析後のサンプル(第2レーン)、陰イオンクロマトグラフィ後の素通り画分サンプル(第3レーン)、およびCC-IV画分のサンプル(第4レーン)をSDS-PAGEで分析した結果を示す。CC-IVは約10〜11 kDaの単一のポリペプチドを実質的に純粋な状態で含むことが示されている。また、同サンプルについて質量分析(MALDI-TOF/MS)を行うことより、この本発明のポリペプチドの分子量が10.9 kDaであることが確認された(データは図示していない)。なお、図4において、レーン間の濃度は統一されておらず、特にCC-IVのレーンには濃縮された試料が適用されている。
[pH安定性試験]
CC-IVサンプルの溶血活性についてのpH安定性を調べるために、以下の緩衝液を、各pHについて0.1 Mの濃度で調製した:クエン酸緩衝液(pH 4.0、5.0、5.8)、リン酸緩衝液(pH 5.7、6.0、7.0、8.0)、トリス緩衝液(pH 7.2、8.0、9.0)、グリシン緩衝液(pH 8.6、9.0、10.0、10.6、11.0、11.5)。これらの緩衝液をサンプルと等倍(緩衝液25μl:サンプル25μl)にし、2倍希釈系列で2%(v/v)ヒツジ血液に添加し、室温で1時間放置した。
図5にpH安定性試験の結果を示す。表内の数値は、希釈倍率を表す。広いpH範囲において、32倍あるいは64倍にまで希釈したサンプルによる溶血活性が検出された。
[温度安定性試験]
CC-IVサンプルの溶血活性についての温度安定性を調べるために、0℃から70℃までの温度(10℃間隔)にて、2倍希釈のCC-IVサンプルを10分間放置した。それからすぐに4℃に置いた後、上記pH安定性試験と同様に、96ウェルUボトムプレート中にサンプル(25μl)を2倍希釈系列で調製し(希釈溶媒はPBS)、これに2%(v/v)赤血球浮遊液を同体積(25μl)添加し、プレートを振とう後、室温で1〜2時間静置した。その後、溶血状態を確認した。
図6に温度安定性試験の結果を示す。縦軸はAU(Activity Unit)を表し、希釈率に対応する。0〜40℃の温度におけるインキュベート後には安定して溶血活性が維持されていたが、50℃以上の温度では溶血活性が失活したことが示されている。これらの結果は、CC-IVポリペプチド(タンパク質)によって溶血活性が提供されており、50℃以上の温度ではこのポリペプチドが熱変性するということと適合する。なお、データは図示していないが、CC-IVポリペプチドにプロテアーゼ活性は検出されず、CC-IVポリペプチドはプロテアーゼ酵素活性とは異なる機能により溶血を達成していると見られる。
[糖による溶血阻害の検証]
ある種の生物由来のレクチン(糖結合タンパク質)は溶血活性を有することが知られている(非特許文献2)。そこで、CC-IVのポリペプチドがレクチンであるという仮説を検証するべく、糖による阻害実験を行った。結果を図7に示す。多様な単糖類、二糖類、および糖タンパク質を、図7の上部に示す異なる濃度で添加した(ただし、BSA(ウシ血清アルブミン)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、ムチン、および卵アルブミンに関しては、一番左側のウェルが終濃度0.5 mg/mlによる添加であり、右側の各ウェルはその2倍ごとの段階希釈である)。しかしながら、いずれにおいても、糖によるCC-IVの溶血活性の阻害は検出されなかった(図7)。この結果は、CC-IVのポリペプチドはレクチンではないことを示唆するものである。
[動物種特異性の評価]
異なる動物種(ヒツジ、ウシ、ウマ、ニワトリ)の血液を用いて、CC-IVの溶血活性を調べた。2%(v/v)の血液希釈液に対して2倍希釈系列のCC-IV溶液を添加した点は上記の実験と同様である。図8に示すように、CC-IVポリペプチドは、いずれの動物種の血液に対しても溶血活性を示したが、動物種によって溶血の強さに違いがあることが確認された。これは、この溶血性ポリペプチドが、動物種間の細胞膜の構造の違いを認識している可能性を示唆するものである。
[細胞毒性の評価]
非特許文献2には、溶血活性を有するレクチンが、溶血活性と同様の機序を通じて、非赤血球細胞に対する細胞毒性をも有する例が記載されている。CC-IVポリペプチドが、赤血球以外の細胞に対して毒性を有する可能性を検証するべく、ベロ(Vero)細胞(1×104細胞/ウェル)を使用して、当業者に知られる標準的なMTTアッセイによって細胞毒性試験を行った。ベロ細胞は、アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞に由来する接着性の不死化細胞株であり、毒素のスクリーニングに一般的に用いられる。図9に細胞毒性試験の結果を示す。横軸は添加されたCC-IVポリペプチドの濃度、縦軸はベロ細胞の生存率を示す。プラス(+)はFBS(ウシ胎児血清)添加培地(すなわち、細胞培養用の通常の培地)を表し、マイナス(−)はFBS無添加培地を表す。例えばレクチンの細胞毒性を評価する際には、FBSに含まれる種々の糖成分等がアッセイに影響することが知られているため、FBSマイナスで試験することが一般的である。CC-IVポリペプチドの場合、FBSマイナス培地中のベロ細胞に対して、20μg/mlの濃度において細胞毒性が検出された。これは毒素として一般的な毒性である。
[血球系悪性腫瘍に対する細胞毒性の評価]
U937細胞(1×104細胞/ウェル)を用いて、上記ベロ細胞の実験と同様にして細胞毒性を調べた。U937細胞は、ヒト血球(リンパ系)由来の悪性腫瘍(がん)であり、浮遊性の細胞株である。図10に結果を示す。図9と同じく、横軸は添加されたCC-IVポリペプチドの濃度、縦軸はU937細胞の生存率を示す。U937細胞に対しては、ベロ細胞よりもさらに強い毒性が検出された。
[N末端アミノ酸配列の決定]
図4に示した例と同様にCC-IVサンプルを電気泳動したSDS-PAGEのゲルから、バンドの部分を切り出して約14μgのポリペプチドを取得し、これをプロテインシーケンサーを用いたエドマン分解法に供して、N末端のアミノ酸配列決定を行った。その結果、GSGSVLVRNSGGYVATFSMA(配列番号1)という配列が得られた。
NCBI(The National Center for Biotechnology Information)のウェブサイトにて利用可能であるBLASTアルゴリズムを用いたホモロジーサーチにより、GenBankデータベース中に配列番号1と類似の配列が存在するか否かを調べたところ、完全同一の配列はデータベース中に存在していなかった。一方で、配列番号1の最初の15アミノ酸のみが、Leifsonia xyli(サトウキビわい化病の原因となる細菌)の1-ホスホフルクトキナーゼのC末端寄り内部配列と88%の同一性を有することが見出された。その他、より類似性の低い(すなわち、同一性のパーセンテージがより低いか、またはアラインメント可能な配列がより短い)配列が多数見出された。これらは主に細菌の配列であり、昆虫の配列は含まれていなかった。
以上のように、BLASTアルゴリズムによる「ヒット」を示す一定数の配列が見出されたものの、配列番号1に対するそれらの配列類似性は非常に限定的であり、そのような限定的な配列類似性が生物学的意義を有するか否かを判断することは不可能であった。いずれにせよ、溶血活性または細胞毒性を明らかに示唆するタンパク質配列は、BLASTアルゴリズムによるホモロジーサーチの結果中に見出されなかった。
本発明は、溶血活性または細胞毒性を活用する医学・薬学・獣医学・畜産分野等において利用することができる。本発明における活性成分はポリペプチドであり、従って、ポリペプチドの分野で知られる様々な化学修飾もしくは類似体の適用、または遺伝子組換え技術の適用によって、機能調節および大量生産の可能性が存在する。例えば、本発明のポリペプチドの細胞結合能について、化学修飾または配列改変を通して細胞特異性を付与することによって、特定の細胞を標的とする細胞毒性を提供し得る。従って本発明は、さらに幅広く農薬や殺菌剤としての応用可能性も有する。

Claims (7)

  1. 配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み10.9 kDaの分子量を有し溶血活性を有する、ツノロウムシ由来のポリペプチド。
  2. 前記アミノ酸配列をN末端に含む、請求項1に記載のポリペプチド。
  3. 請求項1または2に記載のポリペプチドを含む、溶血剤組成物。
  4. 赤血球を含む液体試料に、請求項1もしくは2に記載のポリペプチドまたは請求項3に記載の組成物を接触させることを含む、溶血方法。
  5. 前記液体試料が血液を含む、請求項4に記載の溶血方法。
  6. 請求項1または2に記載のポリペプチドを含む、細胞毒性組成物。
  7. 請求項1または2に記載のポリペプチドを含む、抗腫瘍組成物。
JP2014179175A 2014-09-03 2014-09-03 カイガラムシ由来のポリペプチド Active JP6512681B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014179175A JP6512681B2 (ja) 2014-09-03 2014-09-03 カイガラムシ由来のポリペプチド

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014179175A JP6512681B2 (ja) 2014-09-03 2014-09-03 カイガラムシ由来のポリペプチド

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2016053003A JP2016053003A (ja) 2016-04-14
JP6512681B2 true JP6512681B2 (ja) 2019-05-15

Family

ID=55744170

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014179175A Active JP6512681B2 (ja) 2014-09-03 2014-09-03 カイガラムシ由来のポリペプチド

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6512681B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN113287574B (zh) * 2021-04-30 2022-07-19 中国热带农业科学院环境与植物保护研究所 一种扩繁蓝色长盾金小蜂的方法

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS60209530A (ja) * 1984-04-02 1985-10-22 Yoshitomi Pharmaceut Ind Ltd 殺腫瘍性物質
JPH0778079B2 (ja) * 1986-09-12 1995-08-23 三菱化学株式会社 制癌活性を有する蛋白
JPH05331194A (ja) * 1992-06-03 1993-12-14 Daicel Chem Ind Ltd カリウドバチ由来の生物活性ペプチド
JPH09143082A (ja) * 1995-11-28 1997-06-03 Terumo Corp モンシロチョウ由来蛋白質
JP3579711B2 (ja) * 2000-03-22 2004-10-20 独立行政法人農業生物資源研究所 ガン細胞増殖抑制剤

Also Published As

Publication number Publication date
JP2016053003A (ja) 2016-04-14

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Torrent et al. Eosinophil cationic protein high-affinity binding to bacteria-wall lipopolysaccharides and peptidoglycans
Batista et al. New insights into the structure and mode of action of Mo-CBP3, an antifungal chitin-binding protein of Moringa oleifera seeds
Zhang et al. C-terminal domain of hemocyanin, a major antimicrobial protein from Litopenaeus vannamei: structural homology with immunoglobulins and molecular diversity
Gifoni et al. A novel chitin‐binding protein from Moringa oleifera seed with potential for plant disease control
Tóth et al. NFAP2, a novel cysteine-rich anti-yeast protein from Neosartorya fischeri NRRL 181: isolation and characterization
Grassi et al. Proteomic profile of the hard corona of charged polystyrene nanoparticles exposed to sea urchin Paracentrotus lividus coelomic fluid highlights potential drivers of toxicity
de Melo et al. HGA-2, a novel galactoside-binding lectin from the sea cucumber Holothuria grisea binds to bacterial cells
Santos et al. Strategies to obtain lectins from distinct sources
Frazão et al. Jellyfish bioactive compounds: Methods for wet-lab work
Jiang et al. Separation of antioxidant peptides from pepsin hydrolysate of whey protein isolate by ATPS of EOPO co-polymer (UCON)/phosphate
Kim et al. Purification and characterization of a lectin, bryohealin, involved in the protoplast formation of a marine green alga Bryopsis plumosa (Chlorophyta) 1
Oyama et al. Buwchitin: a ruminal peptide with antimicrobial potential against Enterococcus faecalis
Harm et al. Blood compatibility—an important but often forgotten aspect of the characterization of antimicrobial peptides for clinical application
Rakitov et al. Brochosomins and other novel proteins from brochosomes of leafhoppers (Insecta, Hemiptera, Cicadellidae)
Balciunaite et al. Identification of Echinacea purpurea (L.) moench root LysM lectin with nephrotoxic properties
DE69933679T2 (de) Darstellung des profils und katalogisierung von exprimierten proteinmarkern
Holch et al. Respiratory ß-2-Microglobulin exerts pH dependent antimicrobial activity
Mao et al. Large-scale plasma peptidomic profiling reveals a novel, nontoxic, Crassostrea hongkongensis-derived antimicrobial peptide against foodborne pathogens
CN103788190B (zh) β-1,3-葡聚糖识别蛋白及其制备方法和应用
Malafaia et al. Selection of a protein solubilization method suitable for phytopathogenic bacteria: a proteomics approach
JP6512681B2 (ja) カイガラムシ由来のポリペプチド
Shrestha et al. A GLYCOPROTEIN NONCOVALENTLY ASSOCIATED WITH CELL‐WALL POLYSACCHARIDE OF THE RED MICROALGA PORPHYRIDIUM SP.(RHODOPHYTA) 1
CN106632664B (zh) 载脂蛋白ii/i及其制备方法、生物学功能及应用
Lin et al. Study on the structure-activity relationship of an antimicrobial peptide, Brevinin-2GUb, from the skin secretion of Hylarana guentheri
Songnaka et al. Purification and characterization of novel anti-MRSA peptides produced by Brevibacillus sp. SPR-20

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20170719

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180508

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180704

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20181002

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20181130

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20190326

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20190408

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6512681

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250