以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
図1は、プリンター1の内部構成を説明する正面図、図2は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置2は、例えばコンピューター、デジタルカメラ、携帯電話機などの電子機器である。この外部装置2は、プリンター1と無線又は有線で電気的に接続されており、記録用紙等の記録媒体(液体の着弾対象)に画像やテキストの記録(吐出処理)を指示・命令するため、指示・命令と共にその画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
本実施形態におけるプリンター1は、プリンターコントローラー7とプリントエンジン13とを有している。液体吐出ヘッドの一種である記録ヘッド6は、インクカートリッジ(液体供給源)を搭載したキャリッジ16の底面側に取り付けられている。そして、当該キャリッジ16は、キャリッジ移動機構4によってガイドロッド18に沿って往復移動可能に構成されている。すなわち、プリンター1は、紙送り機構3によって記録媒体をプラテン12上に順次搬送すると共に、記録ヘッド6を記録媒体の幅方向(主走査方向)に相対移動させながら当該記録ヘッド6のノズル37(図3参照)から本発明における液体の一種であるインクを吐出させて、記録媒体上に着弾させることにより画像等を記録する。なお、インクカートリッジ17がプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジ17のインクが供給チューブを通じて記録ヘッド6側に送られる構成を採用することもできる。
プラテン12に対して主走査方向の一端側(図2中、右側)に外れた位置には、記録ヘッド6の待機位置であるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、一端側から順にキャッピング機構20、および、ワイピング機構22が設けられている。キャッピング機構20は、例えば、エラストマー等の弾性部材からなるキャップ21を有しており、当該キャップ21を記録ヘッド6のノズル面(ノズルプレート25)に対して当接させて封止した状態(キャッピング状態)あるいは当該ノズル面から離隔した待避状態に変換可能に構成されている。キャッピング機構20は、記録ヘッド6が、プラテン12上の記録媒体に対して記録動作を行っていない待機状態、或は、プリンター1の電源がオフの状態において、記録ヘッド6のノズル面をキャッピング状態とする。
ワイピング機構22は、ワイパー23を主走査方向に対して交差する方向(ノズル列方向あるいは副走査方向)に沿って移動可能に有しており、当該ワイパー23を記録ヘッド6のノズル面に対して当接した状態あるいは当該ノズル面から離隔した待避状態に変換可能に構成されている。ワイパー23は、種々の構成のものを採用することができるが、例えば、弾性を有するブレード本体の表面が布で被覆されたものからなる。ワイピング機構22は、当該ワイパー23をノズル面に当接させた状態で、ノズル列の一方から他方に向けて摺動させることでノズル面を払拭する。
プリンターコントローラー7は、プリンター1における各部の制御を行う制御ユニットである。本実施形態におけるプリンターコントローラー7は、インターフェース(I/F)部8と、主制御回路9と、記憶部10と、駆動信号発生回路11(本発明における駆動パルス発生回路に相当)と、を有する。インターフェース部8は、外部装置2からプリンター1へ印刷データや印刷命令を受け取ったり、プリンター1の状態情報を外部装置2側に出力したりする。記憶部10は、主制御回路9のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。
主制御回路9は、記憶部10に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。また、本実施形態における主制御回路9は、外部装置2からの印刷データに基づき、記録動作時にどのノズル37からどのタイミングでインクを吐出させるかを示す吐出データを生成し、当該吐出データを記録ヘッド6のヘッドコントローラー15に送信する。また、リニアエンコーダー5から出力されるエンコーダーパルスからタイミングパルスPTSを生成する(図4参照)。そして、主制御回路9は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号発生回路11による駆動信号の生成等を制御する。また、主制御回路9は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッドコントローラー15に出力する。さらに、主制御回路9は、印刷命令に基づき記録動作が開始された時点(記録ヘッド6のノズル面がキャッピング状態から解放された時点)から、或は、印刷命令に基づく一連の記録動作において前回(最後)に吐出された時点から、その後にインクが吐出されない非吐出状態(但し、後述するように微振動動作は行われる)での経過時間(以下、空走時間と呼ぶ)をノズル37毎に計時する計時手段としても機能する。すなわち、記録動作が開始されると同時にノズル37毎に空走時間の計時が開始され、当該ノズル37でインクが吐出される(フラッシング動作における吐出も含む)毎にリセットされ(初期値に戻され)つつ、一連の記録動作が終了するまで計時される。
ヘッドコントローラー15は、上記吐出データおよびタイミング信号に基づき駆動信号を選択的に圧電素子23に印加する。これにより圧電素子23が駆動されてノズル37からインク滴が吐出されたり、インク滴が吐出されない程度に微振動動作が行われたりする。
駆動信号発生回路11は、記録媒体に対してインクを吐出して画像等を記録するための駆動パルスを含む駆動信号を発生する。また、本実施形態における駆動信号発生回路11は、複数の振動駆動波形(微振動パルスPv1〜Pv3)を含む駆動信号COMvbを発生する。この振動駆動波形を用いた微振動動作の詳細については後述する。
次に、プリントエンジン13について説明する。このプリントエンジン13は、図2に示すように、紙送り機構3、キャリッジ移動機構4、リニアエンコーダー5及び、記録ヘッド6等を備えている。キャリッジ移動機構4は、記録ヘッド6が取り付けられたキャリッジ16と、このキャリッジ16を、タイミングベルト等を介して走行させる駆動モーター(例えば、DCモーター)等からなり(図示せず)、キャリッジ16に搭載された記録ヘッド6を主走査方向に移動させる。紙送り機構3は、紙送りモーター及び紙送りローラー等(いずれも図示せず)からなり、記録媒体をプラテン12上に順次送り出して副走査を行う。また、リニアエンコーダー5は、キャリッジ16に搭載された記録ヘッド6の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報としてプリンターコントローラー7に出力する。プリンターコントローラー7の主制御回路9は、リニアエンコーダー5側から受信したエンコーダーパルスに基づいて記録ヘッド6の走査位置(現在位置)を把握することができる。
図3は、記録ヘッド6の内部構成を示す要部断面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。本実施形態における記録ヘッド6は、ノズルプレート25、連通基板26、および圧力室形成基板27が、この順で積層されて互いに接着剤により接合されてユニット化されている。このユニットにおける圧力室形成基板27の連通基板26側とは反対側の面には、弾性膜28、圧電素子29(アクチュエーターの一種)、および保護基板30が積層されて、圧電デバイス31が構成されている。そして、この圧電デバイス31がケース32に取り付けられて記録ヘッド6が構成されている。
ケース32は、底面側に圧電デバイス31が固定される合成樹脂製の箱体状部材である。このケース32の下面側には、当該下面からケース32の高さ方向の途中まで直方体状に窪んだ収容空部33が形成されており、圧電デバイス31が下面に接合されると、圧電デバイス31における圧力室形成基板27、弾性膜28、圧電素子29、および保護基板30が、収容空部33内に収容される。また、ケース32には、インク導入路34が形成されている。上記インクカートリッジ17側からのインクは、インク導入路34を通じて後述する共通液室35に導入される。
本実施形態における圧力室形成基板27は、シリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板とも言う。)から作製されている。この圧力室形成基板27には、圧力室38を区画する圧力室空部が、ノズルプレート25の各ノズル37に対応して異方性エッチングによって複数形成されている。圧力室形成基板27における圧力室空部の一方(上面側)の開口部は、弾性膜28によって封止される。また、圧力室形成基板27における弾性膜28とは反対側の面には、連通基板26が接合され、当該連通基板26によって圧力室空部の他方の開口部が封止される。これにより、圧力室38が区画形成される。ここで、圧力室38の上部開口が弾性膜28により封止された部分は、圧電素子29の駆動により変位する可撓面である。なお、圧力室形成基板27と可撓面が一体である構成を採用することもできる。すなわち、圧力室形成基板27の下面側からエッチング処理が施されて、上面側に板厚の薄い薄肉部分を残して圧力室空部が形成され、この薄肉部分が可撓面として機能する構成を採用することもできる。
本実施形態における圧力室38は、ノズル37の並設方向に直交する方向に長尺な空部である。この圧力室38の第2の方向の一端部は、連通基板26のノズル連通口36(本発明における空間の一種)を介してノズル37と連通する。また、圧力室38の第2の方向の他端部は、連通基板26の個別連通口39(本発明における空間の一種)を介して共通液室35(本発明における空間の一種)と連通する。そして、圧力室38は、ノズル37毎に対応してノズル列方向に沿って複数並設されている。
連通基板26は、圧力室形成基板27と同様にシリコン基板から作製された板材である。この連通基板26には、圧力室形成基板27の複数の圧力室38に共通に設けられる共通液室35(リザーバーあるいはマニホールドとも呼ばれる)となる空部が、異方性エッチングによって形成されている。この共通液室35は、各圧力室38の並設方向に沿って長尺な空部である。本実施形態における共通液室35は、連通基板26の板厚方向を貫通した第1液室35aと、連通基板26の下面側から上面側に向けて当該連通基板26の板厚方向の途中まで上面側に薄肉部を残した状態で形成された第2液室35bと、から構成される。この第2液室35bの第2の方向における一端部(ノズル37から遠い側の端部)は、第1液室35aと連通する一方、同方向の他端部は、圧力室38の下方に対応する位置に形成されている。この第2液室35bの他端部、すなわち、第1液室35a側とは反対側の縁部には、薄肉部を貫通する個別連通口39が、圧力室形成基板27の各圧力室38に対応してノズル列方向に沿って複数形成されている。この個別連通口39の下端は第2液室35bと連通し、個別連通口39の上端は圧力室38と連通する。
上記のノズルプレート25は、複数のノズル37が列状に開設された板材である。本実施形態では、ドット形成密度に対応したピッチでノズル37が複数列設されてノズル列が構成されている。本実施形態におけるノズルプレート25は、シリコン基板から作製され、当該基板に対してドライエッチングにより円筒形状のノズル37が形成されている。そして、本実施形態における圧電デバイス31には、上記の共通液室35から個別連通口39、圧力室38、およびノズル連通口36を通ってノズル37に至るまでのインク流路が形成されている。
圧力室形成基板27の上面に形成された弾性膜28は、例えば厚さが約1μmの二酸化シリコンから構成される。また、この弾性膜28上には、図示しない絶縁膜が形成される。この絶縁膜は、例えば、酸化ジルコニウムから成る。そして、この弾性膜28および絶縁膜上における各圧力室38に対応する位置に、圧電素子29がそれぞれ形成されている。本実施形態における圧電素子29、弾性膜28および絶縁膜上に、金属製の下電極膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層、および、金属製の上電極膜(何れも図示せず)が順次積層されて構成される。この構成において、上電極膜または下電極膜の一方が共通電極とされ、他方が個別電極とされる。また、個別電極となる電極膜および圧電体層が圧力室38毎にパターニングされる。この圧電素子29において、上電極膜および下電極膜によって圧電体層が挟まれた領域が、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる圧電能動部である。そして、印加電圧の変化に応じて圧電能動部が撓み変形することにより、圧力室38の一面を区画する可撓面、すなわち、弾性膜28が、ノズル37に近づく側またはノズル37から遠ざかる方向に変位する。これにより、圧力室38内のインクに圧力振動が生じ、この圧力振動を利用してノズル37からインクが吐出される。
次に、プリンター1において記録動作中に実行される微振動動作について説明する。
図4は、駆動信号発生回路11により発生される駆動信号の一例を説明する波形図であり、微振動動作に用いられる駆動信号COMvbを示している。この駆動信号COMvbの繰り返し周期である単位周期Tは、インクの吐出に用いられる駆動信号の単位周期Tと同じであり、上記タイミング信号PTSに基づいて生成されるラッチ信号LATによって規定される。この駆動信号COMvbは、記録ヘッド6が記録媒体Sに対する記録動作(インクの吐出処理)を行っている最中において、所定の周期でインクが吐出されないノズル37(非吐出ノズル)について微振動動作を実行するための駆動信号である。また、微振動動作は、ノズル37内あるいは圧力室38内のインクを撹拌する目的として、ノズル37からインクが吐出されない程度に圧力室38内のインクに圧力振動を生じさせる動作である。なお、吐出処理は、記録ヘッド6全体として記録媒体に対して所定のノズルからインクを吐出して画像等の記録を行う1まとまり(全体)のジョブとしての処理を意味する。そして、吐出動作は、所定ノズル37において所定の周期で実際にインクが吐出される際の動作を意味し、吐出処理よりも狭い概念として用いる。
本実施形態において、単位周期Tは、合計3つのパルス発生周期t1〜t3に区分されている。第1のパルス発生周期t1では第1パルス部P1が、第2のパルス発生周期t2で第2パルス部P2が、第3のパルス発生周期t3で第3パルス部P3が、それぞれ発生される。そして、ヘッドコントローラー15は、切替信号CH1〜CH3に基づいて駆動信号COMvb中の何れか1つあるいは複数のパルス部を選択して圧電素子29に印加する。各パルス部P1〜P3の一部またはこれらの組み合わせが圧電素子29に選択的に印加されることで、微振動動作の強さや効果が変化する。発生周期t1で発生される第1パルス部P1は、単独で第1微振動パルスPv1としても機能する。また、第1パルス部P1と第2パルス部P2との組み合わせは、第2微振動パルスPv2として機能する。そして、第1パルス部P1、第2パルス部P2、および第3パルス部P3の組み合わせは、第3微振動パルスPv3として機能する。これらの微振動パルスの詳細については後述する。なお、第2パルス部P2および第3パルス部P3は、それぞれ単独で圧電素子29に印加されることはない。
まず、各パルス部P1〜P3を構成している各波形要素について説明する。なお、第1の膨張要素p1、第1の収縮要素p3、第2の膨張要素p5、および第2の収縮要素p7の各電位勾配(単位時間あたりの電位変化率)は、圧電素子29に印加されたときにノズル37からインクが吐出されない程度の値にそれぞれ設定されている。第1の膨張要素p1は、圧力室38の基準容積(膨張又は収縮の基準となる容積)に対応する基準電位Ebから当該基準電位Ebよりも負極性(第1の極性)側の膨張電位E1(第1電位)まで所定の勾配で電位を降下させる。また、第1のホールド要素p2は、第1の膨張要素p1の終端電位である第1の膨張電位E1を一定時間維持する。
第1の収縮要素p3は、第1のホールド要素p2に続いて発生される波形要素であり、第1の膨張電位E1から基準電位Ebを超えて当該基準電位Ebよりも正極性(第2の極性)側の収縮電位E2(第2電位)まで一定勾配で電位を上昇させる。この第1の収縮要素p3は、基準電位Ebを境として、これよりも負極側の前段収縮要素p3aと、これよりも正極側の後段収縮要素p3bと、に区分される。前段収縮要素p3aは、第1のパルス発生周期t1で発生され、第1パルス部P1(第1微振動パルスPv1)の一要素である。一方、後段収縮要素p3bは、第2のパルス発生周期t2で発生され、第2パルス部P2の一要素である。
第2のホールド要素p4は、第1の収縮要素p3の終端電位である収縮電位E2を一定時間維持する。第2の膨張要素p5は、収縮電位E2から第1の膨張電位E1まで負極性側に電位が所定の勾配で変化する波形要素である。この第2の膨張要素p5は、上記第1の収縮要素p3と同様に、基準電位Ebよりも正極側の前段膨張要素p5aと、基準電位Ebよりも負極側の後段膨張要素p5bと、に区分される。前段膨張要素p5aは、第2のパルス発生周期t2で発生され、第2パルス部P2の一要素である。一方、後段膨張要素p5bは、第3のパルス発生周期t3で発生され、第3パルス部P3の一要素である。第3のホールド要素p6は、第1の膨張電位E1を一定時間維持する波形要素である。また、第2の収縮要素p7は第1の膨張電位E1から基準電位Ebまで一定勾配で電位が復帰する波形要素である。
図5は、第1微振動パルスPv1の波形図である。第1パルス部P1からなる第1微振動パルスPv1は、上記各微振動パルスの中で微振動動作の効果、すなわち、インクの撹拌効果が最も弱い駆動パルスであり、液体吐出装置において微振動動作用に一般的に用いられる微振動パルスである。この第1微振動パルスPv1は、第1の膨張要素p1と、第1のホールド要素p2と、第1の収縮要素p3の前段収縮要素p3aとからなる。このような構成の第1微振動パルスPv1は、基準電位Ebから電位変化の極性を交互に異ならせて電位が合計2回変化して基準電位Ebに戻る駆動パルス(本発明における第3振動駆動パルスに相当)である。なお、前段収縮要素p3aは、膨張電位E1から基準電位Ebまで電位を上昇させる波形要素である。第1微振動パルスPv1が圧電素子29に印加されると、まず、第1の膨張要素p1により圧電素子29が基準電位Ebに対応する初期位置から圧力室38の外側(ノズルプレート25から離れる側)に撓み、圧力室38が基準電位Ebに対応する基準容積から第1の膨張電位E1に対応する膨張容積まで膨張する。この圧力室38の膨張状態は、第1のホールド要素p2の印加期間中に亘って維持される。続いて、前段収縮要素p3aにより圧電素子29が圧力室38の内側(ノズルプレート25に近づく側)に撓み、圧力室38が第1の膨張電位E1に対応する膨張容積から基準容積まで復帰する。このように、第1の膨張要素p1による圧力室38の膨張、および、前段収縮要素p3aによる圧力室38の収縮により、圧力室38内のインクには圧力振動が生じ、これにより圧力室38内およびノズル37内のインクが攪拌される。
このような第1微振動パルスPv1による微振動動作では、インクの撹拌効果は各微振動パルスによるもののうち最も弱いが、必要以上にインクを撹拌することがないので、微振動動作後の残留振動を抑制することができる。また、第1微振動パルスPv1は、パルス長(始端から終端までの時間)が各微振動パルスの中で最も短く、パルスの終端から次の周期までの時間が最も長いので、その間に残留振動をより確実に収束させることができる。このため、第1微振動パルスPv1による微振動動作後の吐出動作を最も安定させることができる。つまり、微振動動作の後の次の周期でインクの吐出が行われる場合に、ノズル37から吐出されるインクの量や飛翔速度が微振動動作後の残留振動に起因して変動することがより確実に抑制される。
図6は、第2微振動パルスPv2の波形図である。第1パルス部P1および第2パルス部P2の組み合わせからなる第2微振動パルスPv2は、第1微振動パルスPv1の場合よりも微振動動作におけるインクの撹拌効果が高められた駆動パルスである。この第2微振動パルスPv2は、第1の膨張要素p1と、第1のホールド要素p2と、第1の収縮要素p3と、第2のホールド要素p4と、前段膨張要素p5aとからなる。本実施形態における第2微振動パルスPv2は、基準電位Ebから電位変化の極性を交互に異ならせて電位が合計3回変化して基準電位Ebに戻る駆動パルス(本発明における第1振動駆動パルスに相当)である。なお、前段膨張要素p5aは、収縮電位E2から基準電位Ebまで電位を降下させる波形要素である。この第2微振動パルスPv2が圧電素子29に印加されると、まず、第1の膨張要素p1により圧電素子29が初期位置から圧力室38の外側に撓み、圧力室38が基準電位Ebに対応する基準容積から第1の膨張電位E1に対応する膨張容積まで膨張する。この圧力室38の膨張状態は、第1のホールド要素p2の印加期間中に亘って維持される。続いて、第1の収縮要素p3により圧電素子29が圧力室38の内側に撓み、圧力室38が第1の膨張電位E1に対応する膨張容積から収縮電位E2に対応する収縮容積まで急激に収縮する。この圧力室38の急激な収縮により圧力室38内のインクが加圧されて圧力振動が生じ、これにより圧力室38内およびノズル37内のインクが攪拌される。圧力室38の膨張状態は、第2のホールド要素p4の印加期間中に亘って維持された後、前段膨張要素p5aにより圧電素子29が初期位置まで戻り、圧力室38の容積が基準容積まで復帰する。
このような第2微振動パルスPv2により微振動動作が行われることにより、特に第1の収縮要素p3によって圧力室38の容積をより大きく変化させることができ、第1微振動パルスPv1による微振動動作よりもインクの攪拌効果が向上する。また、第1の収縮要素p3によって生じた圧力振動は、後述するように前段膨張要素p5aにより制振される。
図7は、第3微振動パルスPv3の波形図である。第1パルス部P1、第2パルス部P2、および第3パルス部P3の組み合わせからなる第3微振動パルスPv3は、第1の膨張要素p1と、第1のホールド要素p2と、第1の収縮要素p3と、第2のホールド要素p4と、第2の膨張要素p5と、第3のホールド要素p6と、第2の収縮要素p7とからなる。本実施形態における第3微振動パルスPv3は、基準電位Ebに対して電位変化の極性を交互に異ならせて電位が合計4回変化する駆動パルス(本発明における第2振動駆動パルスに相当)である。
上記のように構成された第3微振動パルスPv3が圧電素子29に印加されると、まず、第1の膨張要素p1により圧電素子29が基準電位Ebに対応する初期位置から圧力室38の外側に撓み、圧力室38が基準電位Ebに対応する基準容積から第1の膨張電位E1に対応する膨張容積まで膨張する。この圧力室38の膨張状態は、第1のホールド要素p2の印加期間中に亘って維持される。続いて、第1の収縮要素p3により圧電素子29が圧力室38の内側に撓み、圧力室38が第1の膨張電位E1に対応する膨張容積から収縮電位E2に対応する収縮容積まで急激に収縮する。この圧力室38の急激な収縮により圧力室38内のインクが加圧されて圧力振動が生じ、これにより圧力室38内およびノズル37内のインクが攪拌される。圧力室38の膨張状態は、第2のホールド要素p4の印加期間中に亘って維持された後、第2の膨張要素p5により圧電素子29が圧力室38の外側に撓み、圧力室38は収縮容積から上記膨張容積まで再度膨張する。続いて、圧力室38の収縮状態は、第3のホールド要素p6の印加期間に亘って維持される。第3のホールド要素p6の後、第2の収縮要素p7により圧電素子29が初期位置まで戻り、圧力室38の容積が基準容積まで復帰する。
このような第3微振動パルスPv3により微振動動作が行われることにより、特に第1の収縮要素p3および第2の膨張要素p5によって圧力室38の容積をより大きく変化させることができ、他の微振動パルスの場合と比較して最も高いインクの攪拌効果が得られる。また、第2の膨張要素p5および第2の収縮要素p7を、圧力室38内に生じた圧力振動を抑制する波形要素として機能させることができる。このため、第3微振動パルスPv3による微振動動作後のメニスカスの動きが抑えられるので、その後の吐出動作におけるインクの吐出安定性を確保することが可能となる。
ここで、本実施形態において、第1の収縮要素p3が圧電素子29に印加されるタイミングに関し、第1の膨張要素p1により圧力室38が膨張される際に生じる圧力振動を加振し得るタイミングとなるように設定されている。具体的には、図4に示すように、第1の膨張要素p1の始端から第1の収縮要素p3の始端までの時間Δt1が、圧力室38内のインクに生じる圧力振動の周期(固有振動周期)Tcの1/2となるように設定されている。これにより、第1の膨張要素p1により生じた圧力振動に対して同位相となる圧力振動が第1の収縮要素p3によって励起されるので、振動を強め合い、これによりインクの撹拌効果をより高めることができる。また、第1の収縮要素p3によって生じた圧力振動を抑制させるタイミングで第2の膨張要素p5が圧電素子29に印加されるように構成されている。具体的には、第1の収縮要素p3の始端から第2の膨張要素p5の始端までの時間Δt2が、固有振動周期Tcと等しく(若しくはTcの自然数倍)なるように設定されている。これにより、第1の収縮要素p3により生じた圧力振動に対して逆位相となる圧力振動が第2の膨張要素p5によって励起されるので、振動を弱め合い、これにより第1の収縮要素p3により生じた圧力振動を制振することができる。なお、第2の膨張要素p5が、収縮電位E2から膨張電位E1まで変化することで、第1の収縮要素p3により生じた圧力振動が制振される一方で第2の膨張要素p5による圧力振動が残るので、これによりインクの撹拌効果が得られる。同様に、第2の膨張要素p5によって生じた圧力振動を抑制させるタイミングで第2の収縮要素p7が圧電素子29に印加されるように構成されている。すなわち、第2の膨張要素p5の始端から第2の収縮要素p7の始端までの時間Δt3が、固有振動周期Tcと等しく(若しくはTcの自然数倍)なるように設定されている。これにより、第2の膨張要素p5により生じた圧力振動に対して逆位相となる圧力振動が第2の収縮要素p7によって励起されるので、第2の膨張要素p5により生じた圧力振動を制振することができる。
このような構成を採用することで、特に、第2微振動パルスPv2および第3微振動パルスPv3による微振動動作において、ノズル37や圧力室38におけるインクを効果的に攪拌させつつ、圧力振動が低減される。したがって、微振動動作が行われた周期の次の周期でインクを吐出するような場合においても、微振動動作後の残留振動の影響が抑制されるので、吐出安定性を確保することが可能となる。上記Δt1乃至Δt3に関し、例示した値には限られず、より大きな圧力振動を生じさせてインクの撹拌効果を向上させる場合にはTcの1/2に設定し、残留振動を抑制して吐出安定性を向上させる場合にはn×Tc(n:自然数)に設定すればよい。
ここで、上記のTcは、一般的には次式で表すことができる。
Tc=2π√〔(Mn+Ms)/(Mn×Ms×(Cc+Ci))〕
上記式において、Mnはノズル37におけるイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量)、Msは個別連通口39におけるイナータンス、Ccは圧力室38のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)、Ciはインクのコンプライアンス(Ci=体積V/〔密度ρ×音速c2〕)である。
図8は、空走時間に対する微振動パルスの選択例とその場合の間欠能力および吐出安定性の効果について示した表である。図8の例1は、所定のノズル37についての空走時間Tiが2.5秒である場合に、上記第1微振動パルスPv1が選択されて微振動動作が行われた例を示している。空走時間Tiが2.5秒である場合、インクの増粘の度合が比較的軽微であるため、第1微振動パルスPv1による微振動動作のインク撹拌効果により、その後の吐出動作(特に、当該微振動動作が行われた周期の次の周期における吐出動作)においてインクの増粘に起因した吐出不良が防止される(○)。また、第1微振動パルスPv1による微振動動作では、次の周期までには残留振動が確実に収束されるので、残留振動に起因した吐出不良も防止され、吐出安定性も良好となる(○)。一方、例2および例3の場合のように、空走時間Tiが5.0秒以上の場合、第1微振動パルスPv1による微振動動作では、増粘したインクを十分に撹拌することができず、吐出安定性は良好(○)であるものの、その後の吐出動作においてインクの増粘に起因した吐出不良が生じる(×)。
例4は、空走時間Tiが5.0秒である場合に、上記第2微振動パルスPv2が選択されて微振動動作が行われた例を示している。第2微振動パルスPv2は、第1微振動パルスPv1と比較して微振動動作における撹拌効果が高められているので、空走時間Tiが5.0秒である場合においてもインクの増粘に起因した吐出不良が防止される(○)。また、制振要素としての前段膨張要素p5aにより残留振動が抑制される上、増粘したインクは、その粘性抵抗により残留振動を抑制するので、吐出安定性も良好(○)となる。しかしながら、例5の場合のように、空走時間Tiが10.0秒以上の場合、インクの増粘が一層進むので、第2微振動パルスPv2による微振動動作では、増粘したインクを十分に撹拌することができず、その後の吐出動作においてインクの増粘に起因した吐出不良が生じる(×)。
例6は、空走時間Tiが5.0秒である場合に、上記第3微振動パルスPv3が選択されて微振動動作が行われた例を示している。第3微振動パルスPv3は、微振動動作における撹拌効果が、各微振動パルスの中で最も高いので、空走時間Tiが5.0秒である場合においても、増粘インクを十分に撹拌することができ、インクの増粘に起因した吐出不良が防止される(○)。また、第2の膨張要素および第2の収縮要素p7が制振要素として機能する上、上記したように増粘したインクには振動が残りにくいので、吐出安定性も良好(○)となる。また、例7の場合のように、空走時間Tiが10.0秒の場合であっても、第3微振動パルスPv3による微振動動作では、インクの増粘による吐出不良が防止され(○)、また、吐出安定性も良好(○)である結果が得られた。なお、例8のように、空走時間Tiが2.5秒である場合、すなわち、インクの増粘があまり進んでいない場合に、上記第3微振動パルスPv3が選択されて微振動動作が行われると、必要以上にインクが撹拌されることになるため、残留振動が大きくなる。この場合、インクの増粘による吐出不良は防止される(○)ものの、吐出安定性が悪化する(×)結果となる。このため、インクの増粘による吐出不良を防止して間欠能力を向上させることと、吐出安定性を両立させるためには、空走時間Tiに応じて、より最適な振動駆動パルスで微振動動作を行うことが重要となる。
図9は、微振動パルスの選択処理について説明するフローチャートである。本発明に係るプリンター1では、図8に示す結果に基づき、予め空走時間について閾値が設定され、当該閾値とノズル37毎の空走時間とを比較した結果に基づき駆動信号COMvbの中からいずれかの微振動パルスPv1〜Pv3が選択的に当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加されて微振動動作が行われる。具体的には、例えば、第1の閾値th1として4秒が、第2の閾値th2として8秒が、それぞれ設定されている。そして、記録動作中においてノズル37毎に空走時間が計時され、所定の記録周期でインクの吐出を行わないノズル37について、以下のような処理が行われる。すなわち、まず、空走時間Tiが第1の閾値th1を超えたか否かが判定され(ステップS1)、空走時間Tiが閾値th1を超えていない(Ti≦th1)と判定された場合(No)、今回の記録周期では第1微振動パルスPv1が選択されて当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加されて微振動動作が行われる(ステップS2)。一方、空走時間Tiが閾値th1を超えた(Ti>th1)と判定された場合(Yes)、続いて、空走時間Tiが第2の閾値th2を超えたか否かが判定される(ステップS3)。空走時間Tiが閾値th2を超えていない(th1<Ti≦th2)と判定された場合(No)、今回の記録周期では第2微振動パルスPv2が選択されて当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加されて微振動動作が行われる(ステップS4)。一方、空走時間Tiが閾値th2を超えた(Ti>th2)と判定された場合(Yes)、今回の記録周期では第3微振動パルスPv3が選択されて当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加されて微振動動作が行われる(ステップS5)。
このように、記録動作における空走時間Tiに応じて駆動信号COMvb中の各微振動パルスPv1〜Pv3の何れかが選択的に圧電素子29に印加されることにより、空走時間(インクの増粘の度合)に応じて、より過不足なくより適切な微振動動作が実行される。これにより、間欠能力の向上と吐出安定性の確保の両立が可能となる。そして、間欠能力が向上することにより、フラッシング動作やクリーニング動作等の回復処理を実行する頻度を低減することができるので、その分、インクの消費を抑制することが可能となる。
なお、上記第1の実施形態においては、第1の閾値th1および第2の閾値th2と各ノズル37についての空走時間Tiとの比較結果に応じて第1微振動パルスPv1乃至第3微振動パルスPv3の3つのうちの何れかが選択されて微振動動作が行われる構成を例示したが、これには限られず、例えば、空走時間について1つの閾値が設定され、当該閾値と各ノズル37の空走時間Tiとの比較結果に応じて、第2微振動パルスPv2または第3微振動パルスPv3の何れか一方が選択されて微振動動作が行われる構成とすることもできる。すなわち、この構成では、ノズル37の空走時間Tiが予め定められた閾値以下である場合、第2微振動パルスPv2が選択されて当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加される一方、空走時間Tiが上記閾値を超えた場合、第3微振動パルスPv3が選択されて当該ノズル37に対応する圧電素子29に印加されて、微振動動作が行われる。
また、上記実施形態においては、同一の駆動信号COMvb内にパルス部P1〜P3の一部またはこれらの組み合わせを選択することで、第1微振動パルスPv1、第2微振動パルスPv2、および第3微振動パルスPv3が圧電素子29に印加される構成を例示したが、これには限られない。例えば、第1微振動パルスPv1、第2微振動パルスPv2、および第3微振動パルスPv3が、それぞれ別の駆動信号に含まれ、これらの駆動信号からの1つが空走時間と閾値との比較に基づき選択されて圧電素子29に印加される構成であってもよい。
さらに、インクの吐出に係る駆動パルスが含まれる駆動信号中に、これらの微振動パルスが含まれる構成を採用することもできる。
また、上記実施形態では、圧電素子として、所謂撓み振動型の圧電素子29を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。この場合、上記実施形態で例示した各微振動パルスに関し、電位の変化方向、つまり上下(極性)が反転した波形となる。
そして、本発明は、微振動動作を行う液体吐出装置であれば、上記のプリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置、あるいは、着弾対象の一種である布帛(被捺染材)に対して液体吐出ヘッドからインクを着弾させて捺染を行う捺染装置、または、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。