JP6501251B2 - 慢性疼痛の治療薬 - Google Patents

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Description

本発明は、慢性疼痛の治療薬に関する。
痛みには、急性におこる生体への自己警告としての痛みと、慢性的におこる病気としての痛みがある。慢性疼痛では薬物をはじめとした治療による回復が望まれる一方で、発症機構が原因不明であるために治療法が確立されていない難治性疾患に悩まされる患者も少なくない。その一つに、全身性疼痛症候群がある。全身性疼痛症候群は、身体の広範囲に強い痛みを引き起こす原因不明の疾患で、検査による生態的異常所見の発見が難しい。全身性疼痛症候群は、慢性化する傾向が多くみられることから、難治性慢性疼痛として位置づけられている。患者においては日常生活や仕事に支障を及ぼすだけではなく、何科にかかればよいのかわからない、専門の医師が少なく検査によっても確定診断されない、治療薬がない、怠け病とみられるなど精神的な不安を抱えるケースも少なくない。事実、痛み以外に疲労感、うつ、不安などを合併することが多く知られている。また、全身性疼痛症候群の一例である線維筋痛症は、中高年の女性に圧倒的に多く発症しており、手術や事故による身体的外傷であったりストレスによる精神的要因が発症する背景に大きく関与していることが分かっている。
侵害性あるいは炎症性の急性痛は臨床現場では抗炎症薬やオピオイドにより適正に治療がなされるが、神経障害や心因性または情動性にもとづく慢性疼痛はこれらの薬剤に抵抗性を示し、昨今で数少ない治療薬の承認はなされているものの、治療方法はまだ確立されておらず、疼痛管理が不十分なままである。
リゾホスファチジン酸(LPA)は、組織傷害時に産生される脂質メディエーターであり、各種のGタンパク質(Gq/11/14、G12/13、Gi/o)と共役する7回膜貫通型受容体(LPA1、LPA2、LPA3、LPA4、LPA5、LPA6)に作用し、神経およびグリア細胞を始めとする各種の細胞に対して栄養因子として働くことが知られている。
本発明者は、これまでの研究から神経障害性疼痛(神経因性疼痛)発症の原因分子としてリゾホスファチジン酸(LPA)を同定している(非特許文献1〜4)。この一連の研究ではマウスにおける坐骨神経部分結紮誘発性の数週間以上にも及ぶ神経障害性疼痛(非特許文献1)や、マウス中大脳動脈梗塞再還流により誘発される脳卒中モデル(非特許文献5)における慢性疼痛はLPA1受容体遺伝子欠損マウスを用いたときに消失するという事実に基づいている。この他、神経障害性疼痛モデルでは脊髄においてLPA産生が顕著に誘発され、詳細な解析からLPA産生は自身のLPA1あるいはLPA3受容体を介した機構により自己増幅されるという知見を得ている。また、LPA産生は初期には細胞質性ホスホリパーゼA2(cPLA2)とカルシウム非依存性ホスホリパーゼA2(iPLA2)の活性化によること、その後産生されるLPCは細胞外のリゾホスホリパーゼD活性を示すオートタキシン(ATX)によりLPAに変換される。実際、これらの機序はLPA1受容体のみならずLPA3受容体遺伝子欠損マウス、ATX遺伝子欠損(ヘテロ接合体)マウス、cPLA2やiPLA2阻害剤処置により慢性疼痛が顕著に消失し、さらにLPAによるミクログリアの活性化と関連していることが明らかとなっている(非特許文献4)。
この一連の研究とは別に、本発明者は、くり返し冷温ストレスにより誘発される線維筋痛症マウスモデルを作製しており(特許文献1)、様々な機能解析を通じてこの動物モデルが臨床所見と酷似することを証明してきた(非特許文献6〜8)。これらの研究では、このモデルは臨床所見と同様に、全身性、雌性優位性、慢性疼痛、モルヒネ抵抗性および抗うつ薬gabapentinoids(ガバペンチンやプレガバリンなどに対する総称)感受性を示す事を明らかにしてきた。また、LPA1やATX遺伝子欠損マウスではこの動物モデルにおける慢性疼痛が消失することも明らかにしてきた(特許文献2)。
特開2009−195200号公報 国際公開第2010/0169590号
Inoue M, et al Nature Medicine 10: p.712-718, 2004 Ueda H, Pharmacology and Therapeutics 109: p.57-77, 2006 Ueda H, Molecular Pain, 4:11, 2008 Ueda et al., Biochem Biophys Acta, 1831, p.61-73, 2013 Halder et al., Neuroscience, 235, p.10-15, 2013 Nishiyori and Ueda, Molecular Pain, 4:52, 2008 Nishiyori et al., Neurosci Lett, 472, p.184-187, 2010 Nishiyori et al., Molecular Pain, 7:69, 2011
しかし、これまでの研究からではLPAの慢性疼痛形成における役割は証明できるが、治療薬を想定した慢性疼痛維持機構における役割は明白ではなかった。本発明の目的は、治療薬を想定した慢性疼痛維持機構を明らかにし、作用機序のより明確な慢性疼痛の治療薬を提供することにある。
本発明者の最近の研究成果から、
1)坐骨神経傷害後7日経過し、慢性疼痛が形成した条件下において、
LPA1/3受容体拮抗薬Ki16425を1週間連続投与した時、この慢性疼痛が消失し正常疼痛閾値に回復すること(図1)、
2)LPA拮抗薬投与を終了してもその後の疼痛閾値は変化せず、正常閾値を保ち続けること(図1)、すなわち慢性疼痛が完治すること、
3)神経傷害後の脊髄におけるLPA産生は3時間をピークに最大に達するが、その後6−24時間後には一度低下するが、3日後以降LPA産生は再び増加しはじめ、10日以上持続する有意なLPA産生上昇が観察された(図2)。
4)神経傷害後1時間では脊髄cPLA2とiPLA2の酵素活性上昇は確認されたが、分泌型PLA2(sPLA2)酵素活性の上昇は観察されなかった(図3)。この事実はcPLA2阻害剤(AACOCF3/arachidonyltrifluoromethyl ketone)とiPLA2酵素阻害剤(BEL/bromoenol lactone)はいずれも初期のLPA産生と神経障害性疼痛を抑制したが、sPLA2阻害剤(Indoxam)は神経障害性疼痛に対して無効であった事実と一致する(図4)。
5)しかしながら、遅延型のLPA産生との関連でLPC合成酵素である様々なアイソフォームのcPLA2、iPLA2およびsPLA2の遺伝子発現を測定したとき、分泌型sPLA2のアイソフォームの一つであるPLA2g12Aのみ神経傷害後1週間以上持続する発現上昇が観察された(図5、6)。
6)この事実を受け、PLA2g12Aのアンチセンスオリゴヌクレオチドの脊髄くも膜下腔内投与障害後5日から9日まで5日間繰り返し処置したとき神経障害性疼痛の抑制が観察された(図7A)。
7)さらに、PLA2g12AのsiRNAの脊髄くも膜下腔投与を神経障害3日後に処置したときLPA産生と神経障害性疼痛の抑制が観察された(図7B)。
8)そこで、線維筋痛症モデルにおけるLPA産生との関連性を調べるため、線維筋痛症モデルとなる、ICSくり返しストレス後3−11日のマウス(特開2009-195200号公報、国際公開第2010/0169590号)の脳室内にPLA2g12Aのアンチセンスオリゴを毎日、あるいは3日にsiRNAの脳室内投与を1回行った時、この慢性疼痛は有意に抑制された(図8A、B)。
9)この事実から、PLA2g12Aの抗体を用いてマウス脳全領域について免疫組織化学を行った時、視床下部paraventricular nucleus(室傍核/PVN)とLocus Ceruleus(青斑核/LC)に特に強い免疫活性が見出された(図9)。
10)実際PLA2g12AのsiRNAをストレス負荷後3日にPVN内微量注入(0.1μg、1μL)を行ったところ、慢性疼痛の有意な抑制が観察された(図10)。一方、LC内に投与したとき、慢性疼痛の弱い抑制は観察されたが、PVN内投与と比べると弱いものであった(図11)。
11)くり返しストレスのモデルにおいて、後根神経節(DRG)でのPLA2g12Aの発現をwestern blot法と免疫組織化学法により蛋白質レベルで観察したとき、少なくともストレス後2から12日に至るまで発現上昇が観察された(図12)。
12)そこで、PLA2g12AのsiRNAをストレス負荷後3日に脊髄くも膜下腔に(i.t.)投与したとき、慢性疼痛の弱い抑制効果が観察された(図13)。
以上の事実から、PLA2g12Aは広く慢性疼痛維持に関する重要な責任分子となるLPA産生に重要な役割を果たすこと、またその機能阻害は神経障害性疼痛やストレス性の線維筋痛症治療薬としての可能性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 分泌型ホスホリパーゼA2−12A(PLA2g12A)阻害物質を有効成分として含有してなる慢性疼痛の治療薬。
〔2〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体ならびにPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物からなる群より選ばれるものである、〔1〕記載の治療薬。
〔3〕 慢性疼痛が慢性期神経障害性疼痛、慢性期線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎または顎関節症である、〔1〕または〔2〕に記載の治療薬。
〔4〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脊髄くも膜下腔内または全身に投与されるものである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の治療薬。
〔5〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脳室内または全身に投与されるものである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の治療薬。
〔6〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物であり、脳室内または全身に投与されるものである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の治療薬。
〔7〕 有効量のPLA2g12A阻害物質をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、慢性疼痛の治療方法。
〔8〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するアンチセンス核酸、siRNAおよびアンタゴニスト抗体、ならびにPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物からなる群より選ばれるものである、〔7〕記載の治療方法。
〔9〕 慢性疼痛が慢性期神経障害性疼痛、慢性期線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎または顎関節症である、〔7〕または〔8〕に記載の治療方法。
〔10〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脊髄くも膜下腔内または全身に投与される〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載の治療方法。
〔11〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脳室内または全身に投与される〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載の治療方法。
〔12〕 PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物であり、脳室内または全身に投与される〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載の治療方法。
〔13〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の慢性疼痛の治療薬を製造するための、PLA2g12A阻害物質の使用。
本発明の慢性疼痛の治療薬によると、これまで原因が不明で治療法が確立されていなかった慢性疼痛の有効かつ的確な治療方針および予防法の策定に大きく貢献することができる。
図1は、坐骨神経傷害後の慢性疼痛モデルマウスに対するLPA1/3アンタゴニストの1週間連続投与の実験結果を示す。 図2は、神経傷害後の脊髄におけるLPAの産生の経時的変動を示す図である。 図3は、神経傷害後の脊髄におけるホスホリパーゼA2群の酵素活性の経時的変動を示す図である。 図4は、ホスホリパーゼA2に対する阻害剤を投与した場合の神経障害性疼痛(A-C)およびLPA産生(D,E)の抑制効果を示す図である。 図5は、神経傷害後の脊髄におけるホスホリパーゼA2の他のアイソフォームの遺伝子発現(cPLA2,iPLA2)の変動を示す図である。 図6は、神経傷害後の脊髄における分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)のアイソフォームの遺伝子発現(pla2g3,pla2g5,pla2g12a)の変動を示す図である。 図7Aは、PLA2g12Aのアンチセンスオリゴヌクレオチドを連日繰り返し脊髄くも膜下腔投与した場合の神経障害性疼痛の抑制効果を示す図である。 図7Bは、PLA2g12AのsiRNAを脊髄くも膜下腔投与(0.5μg、5μL)した場合の神経障害性疼痛の抑制効果およびLPA産生の抑制効果を示す図である。 図8Aは、線維筋痛症モデルにおけるPLA2g12Aのアンチセンスオリゴヌクレオチドを連日繰り返し脳室内投与した場合の慢性疼痛の抑制効果を示す図である。 図8Bは、線維筋痛症モデルにおけるPLA2g12AのsiRNA(0.5μg、5μL)を脳室内投与した場合の慢性疼痛の抑制効果を示す図である。 図9は、マウス脳全領域について、抗PLA2g12A抗体を用いて免疫組織化学を行った結果を示す。視床下部のparaventricular nucleus(PVN:室傍核)とLocus Ceruleus(LC:青斑核)に特に強い免疫活性が見出された。 図10は、マウスへのICSストレス負荷後3日目に、PLA2g12AのsiRNAをPVN内に微量(0.1μg、1μL)注入した結果を示す図である。 図11は、ICS型線維筋痛症モデルマウスに、PLA2g12AのsiRNAを両側の青班核(LC)内に微量(0.1μg、1μL)ずつ投与し、疼痛抑制効果評価した図である。 図12は、マウスの後根神経節(DRG)でのPLA2g12Aの発現をウエスタンブロット法または免疫染色法により調べた図である。ストレス負荷後2ないし21日目に至るまでPLA2g12aの発現が観察された。 図13は、ICS型線維筋痛症モデルマウスに、PLA2g12aのsiRNAをくも膜下腔内投与(0.5μg、5μL)し、疼痛抑制効果評価した図である。 図14は、化合物1−4のPLA2g12Aに対する酵素活性を測定した結果を示す図である。 図15は、化合物1のICS型線維筋痛症モデルマウスへの腹腔内投与による治療効果を示す図である。Drug(3)、Drug(10)およびDrug(30)は、それぞれ化合物1の3、10および30mg/kgの用量を示す。 図16は、化合物1(Orlistat)の別の線維筋痛症Slukaモデルへの腹腔内投与による治療効果を経時的に調べた結果を示す図である。 図17は、化合物2−4のICS型線維筋痛症モデルマウスへの脳室内投与による治療効果を示す図である。 図18は、化合物3のICS型線維筋痛症モデルマウスへの全身投与(腹腔内投与)による治療効果を示す図である。 図19は、化合物3の類似化合物(NULSc-004〜NULSc-022)のPLA2g12Aに対する酵素活性を測定した結果を示す図である。 図20は、化合物7、11および13のICS型線維筋痛症モデルマウスへの腹腔内投与による治療効果を示す図である。コントロールの化合物5は、脳室内投与による結果である。 図21は、化合物1−23のヒトPLA2g12Aに対する酵素活性を高感度系で測定した結果を示す図である。DMSOは、コントロール(溶媒のみ添加)の結果である。 図22は、化合物3、7、11、12、13および18のヒトPLA2g12Aに対する酵素活性の阻害効果(IC50)を示す図である。 図23は、ヒトPLA2g12Aの代わりにハチ毒(Bee Venom)由来の酵素を用いて酵素活性の阻害効果を高感度系で測定した結果を示す図である。 図24は、化合物3、7、11、12、13および18のヒトPLA2g10に対する酵素活性の阻害効果(IC50)を示す図である。
本発明の治療薬は、分泌型ホスホリパーゼA2-12A(PLA2g12A)阻害物質を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明においてLPA1(リゾホスファチジン酸受容体1)とは、LPA(リゾホスファチジン酸)をリガンドとし、Gタンパク質と共役する7回膜貫通型受容体の1種を言い、EDG2(内皮分化リゾホスファチジン酸Gタンパク質共役型受容体2)とも称する。リゾホスファチジン酸受容体は、現在までLPA1、LPA2、LPA3、LPA4、LPA5、およびLPA6が知られている。
ホスホリパーゼA2(PLA2)は、グリセロリン脂質の2位のエステル結合を加水分解して脂肪酸とリゾリン脂質を産生する酵素である。PLA2は、構造上の特徴から、細胞内に存在する細胞質型PLA2(cPLA2)群、Ca2+非依存性PLA2(iPLA2)群、および細胞外に放出される分泌性PLA2(sPLA2)群に分類される。
本発明において分泌型ホスホリパーゼA2−12A(PLA2g12A)とは、sPLA2群のアイソザイムXII群A種およびB種のうちA種をいう。PLA2g12Aをコードする遺伝子は、いかなる動物由来の塩基配列を有するものであってもよい。例えば、ヒトの治療薬の開発のためにはヒトPLA2g12A遺伝子が好ましい。また、実験動物として利用しやすいマウスを用いる場合、マウスでの解析結果はヒトを始めとする他の哺乳動物での病態を反映することが十分期待できることから、マウスPLA2g12A遺伝子を用いることも好ましい。本明細書においては、ヒトPLA2g12A遺伝子は、Genbank Accession No. NM_030821.4で公表された塩基配列(配列番号1)を基準とする。また、マウスPLA2g12A遺伝子は、Genbank Accession No. NM_023196.3で公表された塩基配列(配列番号3)を基準とする。その他の動物由来のPLA2g12Aホモログは、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)として他生物種の遺伝子を選抜することができる。
同様に、本発明においてヒトPLA2g12Aタンパク質は、Genbank Accession No. NM_030821.4で公表されたアミノ酸配列(配列番号2)を基準とする。また、マウスPLA2g12Aタンパク質は、Genbank Accession No. NM_023196.3で公表されたアミノ酸配列(配列番号4)を基準とする。
本発明においてPLA2g12A阻害物質とは、PLA2g12Aの発現を阻害する物質およびPLA2g12Aの酵素活性を阻害する物質の総称である。PLA2g12Aの酵素活性を阻害する物質には、PLA2g12Aと相互作用して当該酵素活性を阻害する物質の他、PLA2g12Aと基質との結合を阻害する物質なども含まれる。
PLA2g12Aの発現を阻害する物質は、PLA2g12A発現細胞におけるPLA2g12AのmRNAまたはタンパク質の発現レベルを測定し、無添加のコントロールと比較して有意に発現レベルを低下させることを確認して選別することができる。PLA2g12Aの酵素活性を阻害する物質は、PLA2g12Aとその基質(標識した基質、例えば、Diheptanoyl thio-phosphatidylcholine)を含む系に当該物質を加え、無添加のコントロールと比較して有意に当該基質から離脱する標識の量を低下させることを確認して選別することができる。
PLA2g12A阻害物質としては、現在までに阻害作用が知られている物質または後述するストレス誘発性慢性疼痛モデルを用いて阻害作用を確認することができるあらゆる物質が含まれる。具体的には、PLA2g12Aに対するアンチセンス核酸、siRNA、ウイルスベクターに組換えたshRNA、microRNA、中和抗体およびPLA2g12Aに結合して酵素活性を阻害する低分子量化合物ならびにMOEまたはGROMAXというソフトウエアによるPLA2g12A酵素についての基質阻害部位のホモロジー構造解析により高い親和性が推定される低分子化合物からなる群より選ばれるものが例示される。これらは、天然の物質であっても人工的に合成された物質であってもよい。投与方法としては経口投与を含む全身性投与のほか、関節腔内投与、皮下局所投与、皮膚への直接塗布、貼付、脳室内投与や脊髄くも膜下腔投与が用いられる。
前記PLA2g12Aアンチセンス核酸は、例えば、配列番号1もしくは3の塩基配列または配列番号2もしくは4のアミノ酸配列をコードする塩基配列から選ばれる少なくとも一部の塩基配列と相補的な一本鎖核酸をいう。当該核酸は、天然由来または人工核酸でもよく、DNAまたはRNAに基づくものでもよい。アンチセンス核酸の長さは、通常約15塩基〜mRNAの全長と同じ長さであり、約15〜約30塩基長が好ましい。アンチセンス核酸の相補性は必ずしも100%である必要はなく、生体内でPLA2g12AのDNAまたはRNAと相補的に結合しうる程度でよい。
前記siRNAは、PLA2g12Aの遺伝子発現抑制に使用するため、PLA2g12A遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を引き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖RNA、または当該二本鎖RNAを生体内で供給することのできるベクターをいう。本発明のsiRNAまたはsiRNA発現ベクターを使用することにより、PLA2g12Aの発現を低下させ、LPAの産生を抑制することにより、慢性疼痛を抑制する作用を奏することができる。siRNAまたはsiRNA発現ベクターの構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500)。siRNAの長さは、19〜27bpが好ましく、21〜25bpがより好ましい。shRNAやmicroRNAにおいては、PLA2g12A遺伝子の部分遺伝子を適切なウイルスベクターに組換え、ウイルスとして全身性、あるいは脳や脊髄に投与することでPLA2g12A遺伝子のノックダウンをはかるものである。部分遺伝子の長さはそれぞれ60〜70bpが好ましい。
前記PLA2g12A中和抗体とは、PLA2g12Aに特異的に結合する抗体であって、結合することによりPLA2g12Aの酵素活性を阻害する抗体をいう。
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。
結合性断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilized Fv)、dAb(single domain antibody)等があげられる(Exp. Opin. Ther. Patents,Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、既知の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに、モノクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスターに免疫する。
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパット内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清が取得される。
血清をポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより単離および/または精製される。
モノクローナル抗体は、上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた免疫原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞を取得する。
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature, Vol.256, p.495-497, 1975)およびそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により調製される。
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11またはCEM-T15を使用することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫原に対する反応性を、例えばELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
前記ハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、本ハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様に、単離および/または精製されることが好ましい。
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。
ファージディスプレイによる抗体作製は、抗体スクリーニング用に作製されたファージライブラリーから、例えば、バイオパニングにより抗原に親和性を有するファージを回収、濃縮することにより、Fab等の抗体等を容易に得ることができる。ファージディスプレイによる抗体作製については、「Nature, Vol.348, p.552-554, 1990」、「”Phage display a laboratory manual” In cold spring harbor laboratory press, 2001」、「Antibody Engineering - a Practical Approach, IRL Press, Oxford, 1996」を参照のこと。
F(ab')2およびFab'は、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンまたはパパインで処理することによりそれぞれ製造することができる。Fabは、Fab発現ファージライブラリーを上記ファージディスプレイによる抗体作製法と同様にスクリーニングすることにより、製造することができる。
前記低分子量化合物に関して、以下のようにしてリード化合物を見出すことができる。PLA2g12A酵素についての基質阻害部位のホモロジー構造解析をMOEとGROMAXというソフトウエアを用いてPC上で行い、既存の公開化合物ライブラリー等から候補化合物を選択することができる。
本発明の好ましい一態様として、既存の公開化合物ライブラリーであるZinc化合物ライブラリー(University of California, San Francisco)の中から、PLA2g12A酵素阻害活性を有すると思われる5個の化合物候補を選択した。
上記候補化合物のうち、PLA2g12A酵素阻害活性を有する化合物3について、化学構造の類似する化合物(化合物5〜23:表3にリスト)をさらに検討し、化合物3、7、11、12、13および18を有効成分として選択した。化合物1は、オルリスタット(商品名)として市販されている医薬品の有効成分である。化合物1は、PLA2g12A酵素阻害活性は弱いが、線維筋痛症モデル動物に全身投与した場合に、治療効果を有し、本発明においても好適に使用することができる。
本発明において、低分子量化合物は、その塩またはその溶媒和物を含む概念である。
塩としては、薬理学的に許容し得る塩、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などがあげられる。
無機酸との塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩があげられる。
有機酸との塩の例としては、安息香酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩があげられる。
塩基性アミノ酸との塩の例としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩があげられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩があげられる。
溶媒和物としては、好ましくは水和物(例、一水和物、二水和物など)、エタノレートなどがあげられる。
本発明の治療薬の対象とする疾患は、慢性疼痛である。慢性疼痛とは、原因が解明されていないか、治療方法が確立されていない慢性の痛みを伴う疾患の総称である。
前記慢性疼痛には、神経障害性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎(あるいは顎関節症)などが包含される。これらの疾患のうち、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎(あるいは顎関節症)は、ストレスが発症に大きく関係しているとされている。中でも、上位脳中枢神経系でのLPAの作用の関与が予想される線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎などが本発明の治療対象として好ましい。特に、線維筋痛症の患者の大半は、過去に傷害(例、むち打ち、手術)を受けている既往歴を有しており、視床下部におけるLPAの作用が関与している可能性が高い。LPAは、前記疾患の痛みの形成とその維持に寄与しているものと思われる。
したがって、本発明の治療薬は、その効果を十分に発揮するためには、中枢神経系に投与されることが好ましい。またコラーゲン製剤などにより全身的に投与し、脳移行を促す方法もある。
本発明の治療薬を中枢神経系に到達させるためにはどのような投与経路でも構わないが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、静脈内注射(点滴)、皮下投与、硬膜内投与、髄膜内投与、脊髄硬膜外投与、脊髄くも膜下腔内投与、側脳室内投与、大槽内投与などがあげられ、上位脳が関与する可能性があることから、側脳室内投与、大槽内投与がより好ましい。
本発明の治療薬は、有効成分であるPLA2g12A阻害物質の種類とその投与経路に応じて、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。当業者であればかかる状況に適切な担体を適宜選択することができる。選択可能な担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等のpH調節剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水、エタノール、プロピレングリコール等の溶解剤;グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の等張化剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどがあげられるが、それらに限定されるものではない。また、これらの担体は単独の作用に限定されず、複数の作用を発揮する目的で使用することができる。
本発明の治療薬に含まれる前記有効成分の割合は、所望の効果を奏することができる範囲で適宜設定することができるが、通常、0.01〜100重量%であり、好ましくは0.1〜99.9重量%、より好ましくは0.5〜99.5重量%である。
本発明の治療薬の投与量としては、有効成分の種類、投与対象の体重や年齢、症状などにより一概に規定されるものではないが、1回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。
本発明の治療薬の投与対象としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒト等の哺乳動物があげられる。
本発明の治療薬の投与回数は、特に限定されるものではないが、通常、1日当たり1〜5回程度である。治療対象とする前記疾患においてLPAが痛みの形成と維持に寄与している可能性が高いので、数日〜1ヶ月程度の長期服用が好ましい。かかる投与回数により、痛みの形成と維持の消滅が達成される。なお、相当程度の間隔を置いて前記疾患が再発した場合、本発明の治療薬の再度の投与が可能である。
PLA2g12AのsiRNAを神経障害性疼痛の慢性期治療薬として投与する場合、好ましい投与方法は、神経障害発生後、3日目以降に脊髄くも膜下腔内への1回投与である。この場合、マウスではsiRNA量を0.1- 1μgを適切な導入促進剤と同時投与法を用い、総液量1-10μLの範囲内で行う事が望ましい。ヒトへの投与の場合、siRNA量を0.02-0.2mgと導入促進剤を0.2-2mLの液量の範囲内で行う事が望ましい。適切なDDSを用いる場合、全身投与も可能である。
PLA2g12Aの酵素活性阻害剤(低分子量化合物)を神経障害性疼痛の慢性期治療薬として投与する場合、好ましい投与方法は、神経障害発生後、3日目以降に腹腔内投与を含む全身投与である。この場合、投与量はマウス等の哺乳動物では1-10 mg/kgを1日1回3日から1週間あるいはそれ以上の期間連続投与し、疼痛閾値が正常時まで回復するまで継続することが望ましい。かかる投与レジメンにより、疼痛緩解が長期にわたり持続する事が期待される。
PLA2g12AのsiRNAを線維筋痛症の慢性期治療薬として投与する場合、好ましい投与方法は、高度の繰り返し冷温ストレス、繰り返し筋肉内酸刺激ならびに繰り返し精神ストレス後、顕著な疼痛が確認される3日目以降に脳室内、視床下部室傍核内、脊髄くも膜下腔内への1回投与である。この場合、投与量はマウス等の哺乳動物ではsiRNA量を0.1- 1μgを導入促進剤と同時投与法を用い、総液量1-10μLの範囲内で行うことが望ましい。ヒトへの投与の場合、siRNA量を0.02-0.2mgと導入促進剤を0.2-2mLの液量の範囲内で行うことが望ましい。適切なDDSを用いるならば全身投与も可能である。
PLA2g12Aの酵素活性阻害剤(低分子量化合物)を線維筋痛症の慢性期治療薬として投与する場合、好ましい投与方法は、神経障害発生後、3日目以降に腹腔内投与を含む全身投与である。この場合、投与量はマウス等の哺乳動物では1-10 mg/kgを1日1回3日から1週間あるいはそれ以上の期間連続投与し、疼痛閾値が正常時まで回復するまで継続することが望ましい。かかる投与レジメンにより、疼痛緩解が長期にわたり持続する事が期待される。
本発明の治療薬の有効成分であるPLA2g12A阻害物質は、以下に述べる方法にて作出した線維筋痛症動物モデルを用いて、その効果を確認することができる。本明細書に記載した動物モデルは、繰り返しストレス負荷終了後、少なくとも2〜3週間、疼痛の閾値の低下が観察される。疼痛の閾値は、熱刺激誘発性試験法(Paw pressure test)によりPWL値(Paw withdrawal latency、肢引っ込め潜時(秒))で表される。ストレスを負荷しない動物を対照として、PWL値が有意に低下した場合、慢性の疼痛が続いていると判断され、対照と同じレベルまで上昇した場合、慢性疼痛が治癒したと判断される。
用いられる動物としては、ヒト以外の動物であれば特に限定されるものではない。好適な動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物ならびにウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜があげられるが、様々な疾患モデルがこれまで確立されている点および遺伝子工学的に利用が容易であるところから、マウスがより好ましい。
ICSストレスによる線維筋痛症モデル
常温と寒冷環境を反復負荷させる(ICS)ストレスモデルは、自律神経失調症のモデルとして一般に知られており、持続的低血圧、免疫バランスの異常、痛覚過敏など多種の異常が報告されている。一方で、ICSストレスモデルは線維筋痛症をはじめとした全身性疼痛症候群の動物モデルとしても有用であると言われている。ICSストレスによるモデルの作出方法は、マウス等の動物の飼育環境を室温(24℃前後)と冷温(4℃前後)下に反復して変化させる方法であるが、慢性疼痛を示さない対照ストレスとして室温に戻さない冷温ストレスのみの条件、constant cold stress(CCSストレス)と対比させるためintermittent cold stress(ICS)と呼ぶことが望ましい。実施例に記載されているように、ICSストレスは従来報告されてきたSARTストレスに比べて、より厳密に定義している。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(参考例1)
神経障害性疼痛モデルマウスの作出
ペントバルビタール(Nacalai Tesque Kyoto、 Japan)50 mg/kgで麻酔後、右側後肢部分の皮膚を切開し坐骨神経を露出させ縫合針(松吉医科器械、Tokyo、 Japan、マイスコ縫合針眼科弯弾0000)を通してすくい上げ、縫合糸(夏目製作所、 Tokyo、 Japan、絹製縫合糸軟質No1)で坐骨神経の半分を一回強く縛り結紮させた。その後開いた皮膚を同様に縫合糸で2回縛り傷口を閉じ、5倍希釈ポピヨンヨードにて消毒した。対照群としては坐骨神経を露出させるが縫合糸で神経を結紮しないモデル(control群)を用いた。
(参考例2)
繰り返し酸筋注モデルの作成
ペントバルビタール(Nacalai Tesque Kyoto、 Japan)50 mg/kgもしくはイソフルラン吸入麻酔下のもと、20 μl のacidic saline (pH 4)を0日目および5日目にマウスの左腓腹筋に繰り返し投与した。acidic salineは生理食塩水に塩酸(Nacalai Tesque Kyoto、 Japan)を用いてpH Meter (BECKMAN)の値がpH 4.0±0.1になるよう調整した。対照群には生理食塩水(大塚生食注)を同様に投与した。
(実施例1)
神経障害性疼痛の慢性期のモデル動物にPLA2g12AのsiRNAを投与した実施例を図7Bに示す。Sigma-aldrich社から購入したPLA2g12AのsiRNA(下記表1参照)を神経障害後5日後において、脊髄クモ膜下腔内(0.5μg,5μl)に投与すると、その投与3日後に治療効果が見いだされた。
siRNAの具体的配列は以下の通りである。
SASI_Mm02_00326922
Sense: ccuaauguugccuuaguuuTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 7)
Antisense: aaacuaaggcaacauuaggTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 8)
SASI_Mm02_00326923
Sense: gugugacuugguguucauaTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 9)
Antisense: uaugaacaccaagucacacTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 10)
SASI_Mm02_00326924
Sense: guguucauaguuguacuuaTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 11)
Antisense: uaaguacaacuaugaacacTT (Tはdeoxythymidine) (SEQ ID NO: 12)
(実施例2)
Sigma-aldrich社から購入したpla2g12aのsiRNA(上記実施例1と同一試薬)をICSストレス3日後において、脳室内投与(0.5μg,5μl)行うと、投与3日後以降から治療効果が見いだされた(図8B)。
(参考例3)
リゾホスファチジン酸(以下、LPAと記載)受容体1および3に対するアンタゴニスト(Ki-16425)を用いて、参考例1で作出した神経障害性疼痛の慢性期のモデル動物に対する効果を調べた。
坐骨神経傷害後数日経過し、慢性疼痛が形成した条件下において、Ki-16425を1週間連続で全身投与した場合、慢性疼痛が消失し正常疼痛閾値に回復した(図1)。LPAアンタゴニスト投与を終了しても、その後の疼痛閾値は変化せず、正常閾値を保ち続けること、すなわち、慢性疼痛が完治することがわかった(図1)。
(参考例4)
神経傷害後の脊髄におけるLPA産生は3時間をピークに最大に達するが、その後6時間後には一度低下するが、3日後以降LPA産生は再び増加しはじめ、10日目に最大に達し、10日以上有意なLPA産生上昇が観察された(図2)。LPAの分子種については、脂肪鎖アルキルの数と不飽和の数によって、複数種知られているが、特に16:0-、18:0-、18:1-LPAが主に増加していた(図2)。
(参考例5)
LPAの前駆体のLPCの合成酵素には、cPLA2、iPLA2、分泌型PLA2(sPLA2)等が知られている。神経傷害後の脊髄において、経時的にこれらの酵素活性について活性化測定キット(Cayman Chemicals社)を用いて測定した。神経傷害後1時間ではcPLA2とiPLA2の酵素活性上昇は確認されたが、sPLA2酵素活性の上昇は観察されなかった(図3)。
(参考例6)
cPLA2阻害剤(AACOCF3/arachidonyltrifluoromethyl ketone)とiPLA2酵素阻害剤(BEL/bromoenol lactone)の前投与により、神経障害疼痛およびLPA産生は抑制されるが、sPLA2阻害剤(Indoxam)は神経障害性疼痛に対して無効であった事実と一致する(図4)。
(参考例7)
慢性疼痛の維持期(遅延型)のLPA産生との関連で様々なアイソフォームのcPLA2、iPLA2およびsPLA2の遺伝子発現を測定したとき、PLA2g12Aのみ神経傷害後1週間以上持続する発現上昇が観察された(図5、6)。
(参考例8)
PLA2g12Aのアンチセンスオリゴヌクレオチドの脊髄くも膜下腔投与を障害後3日に処置したとき、神経障害性疼痛の抑制が観察された(図7A)。
一方、PLA2g12AのsiRNAを脊髄くも膜下腔投与した場合、神経障害性疼痛とLPA産生が抑制された(図7B)。LPA定量については、MALDI-TOF-MSを用いて、LPAのリン酸基を修飾した形で分子種を区別して定量解析を用いた。
(参考例9)
線維筋痛症モデルにおけるPLA2g12Aとの関連性を調べるため、線維筋痛症モデルとなる、ICSくり返しストレス後3−11日のマウス(特開2009-195200号公報、国際公開第2010/0169590号)の脳室内にPLA2g12Aのアンチセンスオリゴヌクレオチドを連日投与行ったとき、ICSストレスモデルによる慢性疼痛の治療効果が観察された(図8A)。また、ICSくり返しストレス3日にsiRNAの脳室内投与を1回行った時においても、この慢性疼痛は有意に抑制された(図8B)。
(参考例10)
参考例9の事実から、PLA2g12Aの抗体を用いてマウス脳全領域について免疫組織化学を行った時、視床下部paraventricular nucleus(室傍核/PVN)とLocus Coeruleus(青斑核/LC)に特に強い免疫活性が見出された(図9)。
(参考例11)
PLA2g12AのsiRNAをICSストレス負荷後3日にPVN内微量注入(0.1μg、1μL)を行ったところ、慢性疼痛の有意な抑制が観察された(図10)。一方、PLA2g12AのsiRNAをICSストレス負荷後3日にLC内微量注入(0.1μg、1μL)処置しても、その治療効果はPVNより弱かった(図11)。
(参考例12)
ICSストレスのモデルにおいて、後根神経節(DRG)でのPLA2g12Aの発現をwestern blot法と免疫組織化学法により蛋白質レベルで観察したとき、少なくともストレス後2から12日に至るまで発現上昇が観察された(図11)。
(参考例13)
PLA2g12AのsiRNAをICSストレス負荷後3日に脊髄くも膜下腔 (i.t.)投与したとき、慢性疼痛の弱い抑制は観察されたが、いずれも脳室内投与やPVN内投与と比べると弱いものであった(図12)。
以上の事実から、PLA2g12Aは広く慢性疼痛維持に関する重要な責任分子となるLPA産生に重要な役割を果たすこと、またその機能阻害は神経障害性疼痛やストレス性の線維筋痛症治療薬としての可能性を有することを見出した。
(実施例4)
実施例4では、実施例5および参考例1に基づき作出した線維筋痛症モデルマウスおよび神経障害性疼痛モデルマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、熱性刺激疼痛試験法により経日的な疼痛閾値を評価した。
Thermal paw-withdrawal 試験 (熱性刺激疼痛試験法)
使用するマウスを、ガラス板の上に置いたプラスチックのケージの中に置き、30分以上同じ環境下において適応化させた。測定にはPlantar Test Analgesia Meter Model 390(IITC Inc.)を用いた。熱刺激をガラス板の下から後肢足蹠の中心に投射し、マウスが後肢の逃避反応を示すまでの潜時(Paw Withdrawal Latency : PWL)を測定し評価した。
(実施例5)
ICSモデルの作出
線維筋痛症モデルマウスの作出のため、ICS(Intermittent Cold Stress)を負荷した。マウスの飼育環境温度を昼間は30分毎に室温(24±2℃)と低温(4±2℃)を繰り返し、夜間は低温下で飼育した。飼育環境は、湿気をさけるためケージを上下反転させたものをケージの網の上に置き、ケージと網の間には一般実験用の固形飼料(MF, オリエンタル酵母, 東京)のかけらを使用して隙間をつくった。また、固形飼料および水分として水道水を寒天で固め約1cm角に切ったものを自由に摂取させ恒湿(55±5%)で昼夜自然条件下にて飼育した。ひとつのケージで2匹または1匹ずつマウスを飼育した。
初日に、16時30分に低温条件下(4℃)である冷蔵庫内へ使用するマウスを移動し、翌日の10時まで飼育した。10時に室温に移し、以後16時30分まで30分ごとに低温条件下と室温条件下で交互に飼育した。この日を繰り返しストレス開始日とし、ストレス1日目とした。16時30分からストレス2日目の10時までは、ストレス前日と同様に4℃で飼育した。2日目も1日目と同様に繰り返しストレスを与えた。3日目の10時に室温に移し終了とした。また、終了日をP1(Post Stress day 1)とした。
対照群(Control)は、同様の時間(ストレス負荷前日の16時30分から3日目の10時まで)を3日間終始室温で飼育した。
(実施例6)
疼痛関連行動評価法
下記1)〜2)の試験法は、10分程度の間隔をあけて測定した。連続測定による組織障害を防ぐためである。
1) Thermal paw-withdrawal 試験 (熱性刺激疼痛試験法)
実験前にマウスをガラス板の上に置き、上からケージをかぶせ1時間以上実験と同じ環境に慣れさせた。マウスの後肢足蹠に熱刺激を与え、マウスが刺激からの逃避行動を示したときに、自動的に測定された値を読み取った。刺激となるビームは、正常マウスにおいて10秒前後の測定になるように設定した。組織損傷を避けるためにカットオフ時間は20秒とした。測定は3回以上行ない、平均値を採用した。
2) 自動デジタル式von Frey試験:機械的侵害試験法
実験前にマウスを網目上のラックの上に置き、上からケージをかぶせ1時間以上実験と同じ環境に慣れさせた。プラスチックのチップの先端をラックの下からマウスの後肢足蹠の中心に対して垂直に押し付け、該マウスが後肢の逃避行動を示したときに、自動的に測定された値を読み取った。刺激の強さは、正常マウスにおいて10g前後になるように設定した。測定は3回以上行ない、平均値を採用した。
3) 疼痛過敏の経日的評価
ICSの負荷終了日をP1とし、P3、P5、P12およびP19に疼痛閾値を測定した。
(実施例7)
低分子量化合物の治療薬候補物質の選定
市販の低分子量化合物を収容したデータベース(Zinc化合物ライブラリー、University of California, San Francisco)の中から、PLA2g12A酵素阻害活性を有すると思われる5個の化合物候補を見出し、天然物を除く4個の化合物を、キシダ化学から購入した。化合物の詳細は、以下の通りである。
化合物1〜4について、リコンビナントPLA2g12Aの基質(Diheptanoyl thio-phosphatidylcholine)に対する酵素活性を評価した。結果を図14に示す。化合物1は、Orlistatとして市販されている。
本測定系では、化合物3のみがPLA2g12Aの阻害活性を示すことがわかった。
(実施例8)
ICS線維筋痛症モデルにおける化合物1〜4の効果
実施例5で作出したICSモデル(線維筋痛症モデル)マウスに、化合物1を、ICSの負荷終了日をP1とし、P5〜P11に、3、10または30mg/kgの用量で腹腔内に投与した。P5〜P19に疼痛閾値を測定した。その結果、化合物1は、腹腔内投与により線維筋痛症に対する治療効果を示した。化合物1に関する結果を図15に示す。
図15より、化合物1は用量依存的に線維筋痛症に対する治療効果を示し、10または30mg/kgの投与で優れた治療効果を有することがわかった。
(実施例9)
線維筋痛症モデルにおける化合物1の効果
別の線維筋痛症モデルであるSlukaモデルラット(Sluka KA et al., Muscle Nerve 2001, 24: 37-46)に、化合物1を酸性食塩水の2回目投与後をP1とし、P7〜P13に、30mg/kgの用量で腹腔内に投与した。P7〜P20まで疼痛閾値を測定した。結果を図16に示す。
図16より、化合物1は別の線維筋痛症モデルにおいても治療効果を示すことがわかった。
(実施例10)
ICS線維筋痛症モデルにおける化合物2〜4の効果
実施例5で作出したICSモデルマウスに、化合物2〜4を、ICSの負荷終了日をP1とし、P5〜P11に、1nmol/5μl(化合物2のみ0.1nmol/5μl)の用量で連日脳室内に投与し、P12に疼痛閾値を測定した。結果を図17に示す。
図17より、化合物3のみが脳室内投与により、線維筋痛症に対する治療効果を示すことがわかった。
(実施例11)
ICS線維筋痛症モデルにおける化合物3の全身投与による効果
実施例5で作出したICSモデルマウスに、化合物3を、ICSの負荷終了日をP1とし、P5〜P11に、10mg/kgの用量で腹腔内内に投与し、P5、P12およびP19に疼痛閾値を測定した。結果を図18に示す。
図18より、化合物3は7日間の連日腹腔内投与により、線維筋痛症に対する治療効果を示すことがわかった。
(実施例12)
化合物3および類似化合物の酵素阻害活性
化合物3と化学構造が類似する化合物を、Zinc化合物ライブラリーから選択し、インビトロにおける酵素阻害活性について活性化測定キット(Cayman Chemicals社)に基づいて測定した。化合物3の類似化合物(NULSc-005〜NULSc-022)のリストおよび酵素阻害率を表3および図19に示す。
表3および図19より、化合物7(NULSc-007)、化合物11(NULSc-011)、化合物12(NULSc-012)および化合物13(NULSc-013)は、酵素阻害活性を示した。
(実施例13)
化合物3および類似化合物のICS線維筋痛症モデルにおける効果
化合物3の類似化合物の中から、実施例12において酵素阻害活性を示した化合物を選択し、実施例5で作出したICSモデルマウスに、ICSの負荷終了日をP1とし、P5〜P11に、10mg/kgの用量で腹腔内に投与し、投与前(Pre)、P12およびP19に疼痛閾値を測定した。NULSc-005(1nmol)をP5〜P11の間、連日投与(合計7回)で脳室内投与(5μl)した。化合物は、粉末を10mMのDMSOに溶かしたものをa-CSFで投与量 1 nmol/5 μl になるように調整した。結果を図20に示す。
図20より、化合物7(NULSc-007)、化合物11(NULSc-011)および化合物13(NULSc-013)は、ICS線維筋痛症モデルにおける治療効果が観察された。
以上の結果をまとめて、表4に示す。
(参考例14)
Bis-BODIPY(登録商標:1,2-bis-(4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-undecanoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine)を用いた高感度の酵素阻害活性の測定系による化合物の酵素阻害活性の測定
蛍光ホスホリパーゼAの基質Bis-BODIPY(Invitrogen、登録商標:1,2-bis-(4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-undecanoyl)-sn-glycero-3-phosphocholine)を購入し、製造業者の指示書に従って、高感度のPLA2g12A酵素活性の測定系を確立し、化合物1〜23のPLA2g12Aの酵素阻害活性を再度検討した。測定条件は、基質(Bis-BODIPY:10nM)、酵素(ヒトPLA2g12A:15ng/ml)および化合物10μMの濃度で、37℃で測定した。
結果を図21〜図24に示す。
図21より、化合物3、7、11、12、13および18において酵素活性の阻害効果が観察された。
図22より、化合物3、7、11、12、13および18のIC50は、それぞれ、0.54μM、4.80μM、0.37μM、0.91μM、0.94μMおよび3.25μMであった。
図23より、ヒトPLA2g12Aの代わりにハチ毒(Bee Venom)由来の酵素を用いて酵素活性の阻害効果を調べた結果、化合物3、7、11、12、13は、10μMの濃度で阻害効果を有するものの、活性は弱かった。化合物18については、酵素特異性がなかった。
ヒトPLA2g12Aの代わりにヒトPLA2g10を用いて化合物3、7、11、12、13および18の酵素活性の阻害効果を調べた結果、10μMの濃度で阻害効果を有するものの、活性は弱かった(図24)。化合物11、12および13のIC50は、数μM程度であった。
上記を総合して、化合物1、3、7、11、12、13の結果を下記表5に示す。
(実施例14)
統計処理
全てのデータの統計学上の分析に関して、有意差検定は、等分散性を確認して、Student’s t-testもしくは重複分散分析処理後にTurkey-Kramer testを行った。*または♯印1つが危険率5%以下、2つが危険率1%以下と定めた。すべての結果は(平均値)±S.E.M.で表した。
本発明の慢性疼痛の治療薬によると、これまで原因が不明で治療法が確立されていなかった線維筋痛症および神経障害性疼痛等の有効かつ的確な治療方針および予防法の策定に大きく貢献することができる。

Claims (8)

  1. 分泌型ホスホリパーゼA2−12A(PLA2g12A)阻害物質を有効成分として含有してなる慢性疼痛の治療薬であって、PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するアンチセンス核酸およびsiRNAならびに以下の化合物:

    、および

    からなる群から選択されるPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物からなる群より選ばれるものである、治療薬
  2. 慢性疼痛が慢性期神経障害性疼痛、慢性期線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎または顎関節症である、請求項1に記載の治療薬。
  3. 分泌型ホスホリパーゼA2−12A(PLA2g12A)阻害物質を有効成分として含有してなる、慢性疼痛の治療薬であって、PLA2g12A阻害物質が、

    であって、慢性疼痛が慢性期神経障害性疼痛、慢性期線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性大腸炎または顎関節症である、治療薬。
  4. PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脊髄くも膜下腔内または全身に投与されるものである請求項1または2に記載の治療薬。
  5. PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aに対するsiRNAであり、脳室内または全身に投与されるものである請求項1または2に記載の治療薬。
  6. PLA2g12A阻害物質がPLA2g12Aの酵素活性を阻害する低分子量化合物であり、脳室内または全身に投与されるものである請求項1または2に記載の治療薬。
  7. PLA2g12A阻害物質が脳室内または全身に投与されるものである請求項3に記載の治療薬。
  8. 請求項1〜のいずれか1項に記載の慢性疼痛の治療薬を製造するための、PLA2g12A阻害物質の使用。
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