以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、発明の実施形態に係るインバータ制御装置のブロック図である。詳細な図示は省略するが、本例のインバータ制御装置を電気自動車に設ける場合に、三相交流電力のモータ3は、走行駆動源として駆動し、電気自動車の車軸に結合されている。なお本実施形態に係るインバータ制御装置は、例えばハイブリッド自動車(HEV)等の電気自動車以外の車両にも適用可能である。また、インバータ制御装置は、車両に限らず他の装置にも適用可能である。
本実施形態に係るインバータ制御装置は、インバータ1と、バッテリ2と、モータ3と、コンデンサ4と、電圧センサ5と、電流センサ6、7と、回転子位置センサ8と、コントローラ10とを備えている。
インバータ1は、複数のスイッチング素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBT)Q1〜Q6と、整流素子(還流ダイオード)D1〜D6とを有し、バッテリ2の直流電力を交流電力に変換して、モータ3に供給する電力変換回路である。複数のスイッチング素子Q1〜Q6は、整流素子(還流ダイオード)D1〜D6にそれぞれ並列接続されている。複数のスイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流の導通方向は、整流素子D1〜D6の電流の導通方向とは逆向きになっている。2つのスイッチング素子Q1〜Q6を直列に接続した3対のアーム回路が並列に接続され、各対のスイッチング素子間とモータ3の三相入力部とがそれぞれ電気的に接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q6には、同一のスイッチング素子が用いられ、例えば、絶縁ゲートパイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられる。
図1に示すように、スイッチング素子Q1とQ2、スイッチング素子Q3とQ4、スイッチング素子Q5とQ6がそれぞれ直列に接続され、スイッチング素子Q1とQ2の間とモータ3のU相、スイッチング素子Q3とQ4の間とモータ3のV相、スイッチング素子Q5とQ6の間とモータ3のW相がそれぞれ接続されている。高電位側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5は、バッテリ2の正極側に電気的に接続されており、低電位側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6は、バッテリ2の負極側に電気的に接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q6のオン及びオフの切り換えは、図示しない駆動回路を介してコントローラ10により制御される。
バッテリ2は、モータ3に電力を供給するための電源であって、インバータ1に接続されている。バッテリ2には、例えばリチウムイオン電池などの二次電池が搭載されている。
モータ3は、車両を駆動するための駆動源であって、インバータ1に接続されている。モータ3には、三相交流同期モータ等が用いられる。また、モータ3は発電機としても機能し、モータ3の回生動作により発電した電力は、インバータ1を介して、モータ3に出力され、バッテリ2が充電される。
コンデンサ4は、平滑用のコンデンサであって、インバータ1とバッテリ2とを接続する一対の電源ライン間に接続されている。コンデンサ4は、バッテリ2の正極及び負極間に接続され、インバータ1に対して並列に接続されている。
電圧センサ5は、バッテリ2の電圧を検出するためのセンサであって、一対の電源ライン間に接続されている。電流センサ6は、バッテリ2の正極側で、バッテリ2とコンデンサ4の間に接続されている。電流センサ6は、バッテリ2の入出力電流に相当する、DC成分の電流値を検出するためのセンサである。電流センサ7は、インバータ1とモータ3との間に接続されており、各相にそれぞれ接続されている。電流センサ7は、インバータ1とモータ3との間の各相の交流電流を検出する。なお、電流センサ7は、UVWの三相のうち、少なくとも二相に接続されていればよい。電圧センサ5、電流センサ6、7の検出値は、コントローラ10に出力される。
回転子位置センサ8は、レゾルバやエンコーダなどのセンサであって、モータ3に設けられ、モータ3の回転子の位置(回転数の相当)を検出し、検出値をコントローラ10に出力する。
次に、コントローラ10の構成を説明する。図2は、コントローラ10の構成を示すブロック図である。コントローラ10は、CPU又はROM等により構成されており、CPU等で実行される各種の機能ブロックとして、以下の構成を有している。コントローラ10は、電流指令値演算部11、電圧指令値演算部12、変調率演算部13、スイッチング信号生成部14、判別部15、及び、動作タイミング設定部16を有している。なお、コントローラ10は、インバータ1の制御のために、図2の構成に限らず、他の構成を有してもよい。
電流指令値演算部11は、トルク指令値(T*)及びモータ3の回転数(N)に基づき電流指令値(Idq *)を演算する。トルク指令値(T*)は、運転手又はシステムが要求するトルクを、モータ3から出力するために必要な出力トルクの目標値であって、アクセル開度等に基づき演算される値である。トルク指令値(T*)は、図示しない車両コントローラにより演算される。なお、コントローラ10がトルク指令値(T*)を演算してもよい。モータ3の回転数(N)は、回転子位置センサ8の出力値から演算により求められる値である。
電流指令値演算部11には、トルク指令値(T*)、モータ回転数(N)及び電流指令値の対応関係を示すマップが予め保存されており、電流指令値演算部11は当該マップを参照することで、電流指令値(Id *、Iq *)を演算し、電圧指令値演算部12に出力する。電流指令値(Id *、Iq *)は、現在のモータ3の状態に対して、トルク指令値(T*)に応じたトルクをモータ3から出力するために必要なモータ3の交流電流の目標値である。
電圧指令値演算部12は、モータ3のロータの位相(θ)、モータ3の相電流(Iu、Iw、Iq)及び電流指令値演算部11の電流指令値(Id *、Iq *)に基づいて、モータ3の交流電圧の指令値である交流電圧指令値(Vu *、Vv *、Vw *)を演算する。電圧指令値演算部12は、モータ3の電流センサにより検出される検出電流(u、v、w相の電流)を、ロータの位相で回転座標系に変換し、dq軸電流(Id、Iq)を演算する。そして、電圧指令値演算部12は、PI制御により、dq軸電流(Id、Iq)を、電流指令値(Id *、Iq *)に一致させる電圧指令値(Vu *、Vv *、Vw *)を演算し、変調率演算部13に出力する。
変調率演算部13は、電圧指令値(Vu *、Vv *、Vw *)及びバッテリ2の検出電圧(Vdc)から変調率(MI)を演算し、変調率(MI)をスイッチング信号生成部14に出力する。変調率は、電源電圧(バッテリ電圧:Vdc)に対するデューティ指令信号の振幅を表している。
スイッチング信号生成部14は、変調率とキャリアとを比較することで、スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフを切り替えるためのスイッチング信号(SW信号)を生成し、動作タイミング設定部16に出力する。スイッチング信号は、各スイッチング素子Q1〜Q6のオン期間及びオフ期間を定めた信号である。すなわち、スイッチング信号生成部14は、スイッチング信号を生成することで、各スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフの切り替えタイイングを設定している。
判別部15は、スイッチング素子Q1〜Q6の状態に応じて、コンデンサ4の電圧変化の傾きの符号を判別し、判別結果を動作タイミング設定部16に出力する。
動作タイミング設定部16は、スイッチング信号(SW信号)により定まる各スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフの切り替えタイミングに対して、判別部15の判定結果に応じて、切り替えのタイミングを補正する。動作タイミング設定部16は、判別部15の判定結果に応じて、切り替えタイミングを補正するか否か判定している。動作タイミング設定部16は、スイッチング素子Q1〜Q6の切り替えのタイミングを補正する場合には、タイミングを補正した後のスイッチング信号を、駆動回路を介して、各スイッチング素子Q1〜Q6に出力する。また、動作タイミング設定部16は、スイッチング素子Q1〜Q6の切り替えのタイミングを補正しない場合には、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチング信号を、駆動回路を介して、各スイッチング素子Q1〜Q6に出力する。なお、判別部15及び動作タイミング設定部16の具体的な制御については、後述する。
ここで、本実施形態とは異なり、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチング信号に対して、動作タイミング設定部16による切り替えタイミングの補正を行わずに、補正前のスイッチング信号のみで、インバータを制御した場合(一般のPWM制御)において、コンデンサ4の電圧変動について、図3及び図4を用いて説明する。
図3は、変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフである。図3のグラフaが変調率の特性を示し、グラフbがキャリアを示し、グラフcがコンデンサの電圧を示す。横軸は、時間である。
PWM制御において、変調率がキャリアよりも大きいときに、スイッチング素子Q1〜Q6がオンになり、変調率がキャリアよりも小さいときに、スイッチング素子Q1〜Q6がオフになる。そして、グラフaで示される変調率と、グラフbで示されるキャリアとの比較により、スイッチング信号が生成され、当該信号スイッチング信号に基づき、スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフが切り替えられると、コンデンサ4の電圧は、グラフcのような特性で変化する。
コンデンサ4の電圧特性のうち、tAで表される期間(グラフcの谷の期間)、及び、tBで表される期間(グラフcの山の期間)では、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、2つのスイッチング素子がオン状態に、1つのスイッチング素子がオフ状態になっている場合に、充電電流がコンデンサ4に流れ、コンデンサ4の電圧が上昇する。期間tAの中で、後の方の期間tA1が、コンデンサ4の電圧の上昇期間となる。また、期間tBの中で、前の方の期間tB1が、コンデンサ4の電圧の上昇期間となる。
さらに、期間tAと期間tBとの間の期間では、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、3つのスイッチング素子がオン状態になり、充電電流がコンデンサ4に流れ、コンデンサ4の電圧が上昇する。
コンデンサ4の電圧が上昇する区間と、コンデンサ4の電圧が下降する区間は、PWM制御において、キャリアに対する変調率の大きさによって決まる。図3に示すように、期間tAと期間tBとの間が離れている場合には、コンデンサ4の電圧が下降から上昇に転じた後、コンデンサ4の電圧の上昇区間が長くなるため、コンデンサ4の電圧の変動幅が大きくなる。言い替えると、コンデンサ4の電圧が下降から上昇に転じる際のコンデンサ電圧が、時間により、大きく異なる値になっている。例えば、期間tA1の始点におけるコンデンサ電圧と、期間tBの終点におけるコンデンサ電圧は、共に、コンデンサ電圧が下降から上昇に転じる際の電圧であるが、大きく異なっている。また、コンデンサ4の電圧が上昇から下降に転じる際のコンデンサ電圧も、時間により、大きく異なっている。すなわち、図3に示すPWM制御では、コンデンサ電圧の上昇する期間と、コンデンサ電圧の下降する期間との間でバランスがとれておらず、コンデンサ4の電圧変動が大きくなっている。
図3のグラフに対して、コンデンサの電圧特性を示すグラフの谷と山が、逆になった場合の特性について、図4を用いて説明する。図4は、変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフである。図4のグラフaが変調率の特性を示し、グラフbがキャリアを示し、グラフcがコンデンサの電圧を示す。横軸は、時間である。
図4に示す特性では、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、2つのスイッチング素子がオン状態に、1つのスイッチング素子がオフ状態になっている場合に、コンデンサ4は放電されており、コンデンサ4の電圧は下降する。コンデンサ4の電圧特性のうち、tCで表される期間(グラフcの山の期間)、及び、tDで表される期間(グラフcの谷の期間)では、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、2つのスイッチング素子がオン状態に、1つのスイッチング素子がオフ状態になっている場合に、コンデンサ4から放電電流が出力されて、コンデンサ4の電圧が下降する。期間tCの中で、後の方の期間tC1が、コンデンサ4の電圧の下降期間となる。また、期間tDの中で、前の方の期間tD1が、コンデンサ4の電圧の下降期間となる。期間tCと期間tDとの間の期間では、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、3つのスイッチング素子がオン状態になり、充電電流がコンデンサ4に流れ、コンデンサ4の電圧が上昇する。
図4に示すように、期間tCと期間tDとの間が近づき過ぎている場合には、コンデンサ4の電圧が下降から上昇に転じた後、コンデンサ4の電圧が十分に高くなる前に、コンデンサ4の電圧降下が開始する。そのため、コンデンサ4の電圧の変動幅が大きくなる。すなわち、図4に示すPWM制御では、コンデンサ電圧の上昇する期間と、コンデンサ電圧の下降する期間との間でバランスがとれていないため、コンデンサ4の電圧変動が大きくなっている。
上記のように、一般的なPWM制御では、コンデンサ4の電圧変動が大きいため、バッテリ2とコンデンサ4との間で、電流のリプルが発生する。本実施形態に係るインバータ制御装置は、コンデンサ4の電圧変動における山の期間と谷の期間のバランスをとることで、コンデンサ4の電圧変動を低減させている。以下、インバータ制御装置の判別部15及び動作タイミング設定部16の具体的な制御を説明する。
図5は、判別部15及び動作タイミング設定部16の制御フローを示すフローチャートである。
ステップS1にて、判別部15は、変調率(MI)、DC電流(idc)、AC電流(ibb)及びコンデンサ電圧(C)に基づき、コンデンサ4の電圧変動量(ΔV)を演算する。変調率(MI)は、変調率演算部13で演算された変調率である。DC電流(idc)は、電流センサ6の検出電流である。コンデンサ電圧(C)は、電圧センサ5の検出電圧である。
AC電流(ibb)は、スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフにより発生する交流成分の電流であって、インバータ1からコンデンサ4への入出力電流である。例えば、スイッチング素子Q1、Q4、Q6がオン状態で、スイッチング素子Q2、Q3、Q5がオフ状態である場合に、AC電流(ibb)は、U相の相電流(iu)となる。また、例えば、上アームの全てのスイッチング素子Q1、Q3、Q5がオン状態で、下アームの全てのスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオフ状態である場合には、AC電流(ibb)はゼロとなる。各スイッチング素子Q1〜Q6のオン、オフの状態は変調率により決まる。そのため、AC電流(ibb)は、変調率(MI)と電流センサ7で検出された相電流(Iu、Iv、Iw)から演算できる。
コンデンサ4の電圧変動量(ΔV)を演算するための演算式は、スイッチング素子Q1〜Q6の状態より異なる。図6は、変調率及びキャリアの特性を示すグラフであって、スイッチング素子Q1〜Q6の状態とコンデンサ4の電圧変動量(ΔV)との関係を説明するための図である。図6のグラフaが変調率を示し、グラフbがキャリアを示す。横軸は時間を示す。
図6に示すように、上アームの全てのスイッチング素子Q1、Q3、Q5がオン状態で、下アームの全てのスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオフ状態である場合の電圧変動量をΔV0とする。上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、2つのスイッチング素子がオン状態で、1つのスイッチング素子がオフ状態の場合(下アームのスイッチング素子Q2、Q4、Q6のうち、2つのスイッチング素子がオフ状態で、1つのスイッチング素子がオン状態の場合)の電圧変動量をΔV1とする。上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、1つのスイッチング素子がオン状態で、2つのスイッチング素子がオフ状態の場合(下アームのスイッチング素子Q2、Q4、Q6のうち、1つのスイッチング素子がオフ状態で、2つのスイッチング素子がオン状態の場合)の電圧変動量をΔV2とする。また、上アームの全てのスイッチング素子Q1、Q3、Q5がオフ状態で、下アームの全てのスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオン状態である場合の電圧変動量をΔV3とする。
電圧変動量ΔV
0、ΔV
1、ΔV
2、ΔV
3は、下記式(1)〜(4)でそれぞれ表される。
ただし、MI
minは、各相の変調率のうち、最も低い変調率を示し、MI
maxは、各相の変調率のうち、最も高い変調率を示し、MI
midは、MI
minとMI
maxとの間の変調率を示す。
判別部15は、変調率(MI)とキャリアから、スイッチング素子のオン、オフ状態を特定し、上記の式(1)〜式(4)の中から電圧変動量を求める式を選択する。そして、判別部15は、変調率(MI)、DC電流(idc)、AC電流(ibb)及びコンデンサ電圧(C)を、選択した式に代入して、スイッチング素子Q1〜Q6の状態に応じた、コンデンサ4の電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)を演算する。これにより、判別部15は、変調率(MI)等に対する上記式を用いた演算によって、スイッチング素子Q1〜Q6の状態に応じた、コンデンサ4の電圧変動量を特定する。
ステップS2にて、判別部15は、電圧変動量(ΔV1)がゼロ以上であるか否かを判別し、判別結果を動作タイミング設定部16に出力する。電圧変動量ΔV1は、スイッチング素子Q1〜Q6が所定の状態である場合の、コンデンサ4の電圧変化の傾きを表している。所定の状態とは、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、2つのスイッチング素子がオンで状態あり、1つのスイッチング素子がオフ状態である場合を示す。
電圧変動量(ΔV1)がゼロ以上である場合、すなわちコンデンサ4の電圧変化の傾きの符号が正である場合には、ステップS3にて、動作タイミング設定部16は、オフセット値(α)を演算する。オフセット値(α)は、変調率(MI)のオフセット値である。
ステップS3の制御フローにおけるオフセット値の演算について、図7を用いて説明する。図7は、変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフであって、図3と同様の図である。変調率は、オフセット前の変調率である。図7の横軸は時間を示す。そして、横軸に表された電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)は、該当する期間において変動する、コンデンサ4の電圧変動量である。
オフセット前の変調率とキャリアとの比較により決まるスイッチング信号で、インバータ1が制御された場合に、コンデンサ4の電圧は、グラフcのような特性となる。コンデンサ4の全体の電圧変動量(図7の矢印Pで示される幅の大きさ)を小さくするためには、各期間の電圧変動量の関係が下記式(5)を満たすとよい。
また、式(1)〜式(4)で示される電圧変動量の変調率を、オフセット後の変調率に置き換えると、各電圧変動量(ΔV
0、ΔV
1、ΔV
2、ΔV
3)は、下記式(6)〜(9)で表される。ただし、変調率のオフセットは、変調率を減算する方向の補正とする。αはオフセット値を示す。
上記の電圧変動の式を、式(5)に代入することで、式(5)は、下記式(10)のように展開される。
コントローラ10は、電圧の利用率を制御しているため、変量率は下記式(11)を満たす。
式(11)を式(10)に代入することで、オフセット値(α)は下記式(12)で表される。
ただし、DC電流がゼロの場合には、オフセット値(α)は下記式(13)で表される。
動作タイミング設定部16は、DC電流(idc)、AC電流(ibb)及び変調率(MImid、MImin)を、演算式(12)に代入することで、オフセット値(α)を演算する。ただし、DC電流(idc)がゼロの場合には、動作タイミング設定部16は、AC電流(ibb)及び変調率(MImid、MImin)を、演算式(13)に代入することで、オフセット値(α)を演算する。
ステップS4にて、動作タイミング設定部16は、演算したオフセット値(α)が負の値であるか否かを判定する。オフセット値(α)を用いた補正では、変調率を減算することを前提としているため、オフセット値(α)が正になる場合には、変調率を補正することができない。そのため、オフセット値(α)がゼロ以上である場合(α≧0)には、動作タイミング設定部16は、変調率をオフセットすることなく、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチング信号を、そのままスイッチング素子Q1〜Q6に出力する(ステップS4:「No」)。
一方、オフセット値(α)が負である場合(α<0)には、ステップS5にて、動作タイミング設定部16は、オフセット値(α)が下記式(14)の条件を満たすか否かを判定する。
オフセット値(α)が(−1−MImin)より小さい(負方向へのオフセットが大きい)場合には、オフセット後の変調率の最小値が、−1.0よりも小さくなる場合があり、過変調になってしまう。そのため、オフセット値が式(14)の条件を満たさない場合には、動作タイミング設定部16は、オフセット値(α)を用いた変調率の補正を行わず、後述する制御モード3でスイッチング素子Q1〜Q6を制御する。
一方、オフセット値が式(14)の条件を満たす場合には、ステップS6にて、動作タイミング設定部16は、制御モード1を適用する。
制御モード1が適用された場合には、ステップS7にて、動作タイミング設定部16は、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)に対して、負のオフセット値(α)をそれぞれ加算することで、変調率をオフセットする。
ステップS8にて、動作タイミング設定部16は、オフセット後の変調率(MI’ min、MI’ mid、MI’ max)とキャリアとを比較することで、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング信号を生成し、スイッチング素子Q1〜Q6に出力する。スイッチング信号の生成方法は、スイッチング信号生成部14と同様であるが、変調率がオフセットされているため、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチングの動作タイミングと、動作タイミング設定部16で生成されたスイッチングの動作タイミングは、以下で説明するように、異なったタイミングとなる。
図8は、オフセット前の変調率でインバータ1を制御した場合のコンデンサ4の電圧変動と、オフセット後の変調率でインバータ1を制御した場合のコンデンサ4の電圧変動とを説明するためのグラフである。図8(a)は、図3又は図7と同様のグラフである。図8(b)は、オフセット後の変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフである。
図8(b)に示す変調率(MI’ min、MI’ mid、MI’ max)は、図8(a)と比較してオフセット値(α)分、低くなっている。そして、オフセット値(α)は、コンデンサ4の充電期間中の電圧変動が上記の式(5)を満たすような値になっているため、図8(b)のグラフcに示すように、コンデンサ4の充電による電圧は、放電期間を間に挟みつつ、一定の傾き、かつ、一定の期間で、周期的に上昇する。そのため、放電から充電に切り替わる時のコンデンサ電圧(コンデンサ電圧の最小値)は一定になり、充電から放電に切り替わる時のコンデンサ電圧(コンデンサ電圧の最大値)も一定になる。そのため、コンデンサ4の全体の電圧変動量(図8(a)の矢印Qで示される幅の大きさ)は、オフセット前の電圧変動量(図8(b)の矢印Pで示される幅の大きさ)と比べて小さくなっている。
また、オフセット値(α)による変調率の補正は、図8(a)のコンデンサ電圧特性のグラフで示される期間tA(グラフの谷の期間)を遅らせつつ、コンデンサ電圧特性のグラフで示される期間tB(グラフの山の期間)を早めていることになる。
ここで、期間tAにおけるスイッチングQ1〜Q6のスイッチング動作をオン動作と称し、期間tBにおけるスイッチングQ1〜Q6のスイッチング動作をオフ動作と称する。オン動作は、複数のスイッチング素子Q1、Q3、Q5の全てがオフ状態である時点から、1つ目のスイッチング素子(例えばスイッチング素子Q1)がオン状態になり、2つ目のスイッチング素子(例えばスイッチング素子Q3)がオン状態になり、全てのスイッチング素子Q1、Q3、Q5がオン状態になる時点までのスイッチング動作を示す。また、オフ動作は、スイッチング素子Q1、Q3、Q5の全てがオン状態である時点から、1つ目のスイッチング素子(例えばスイッチング素子Q1)がオフ状態になり、2つ目のスイッチング素子(例えばスイッチング素子Q3)がオフ状態になり、全てのスイッチング素子がオフ状態になる時点までのスイッチング動作を示す。
図8に示すように、動作タイミング設定部16は、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるオン動作のタイミング(期間:tA)よりも、オフセット後のオン動作のタイミング(期間:t’ A)を遅らせて、かつ、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるオフ動作のタイミング(期間:tB)よりも、オフセット後のオフ動作のタイミング(期間:t’ B)を早めるように、スイッチング動作のタイミングを設定している。これにより、本実施形態は、コンデンサ電圧の上昇する期間と、コンデンサ電圧の下降する期間との間でバランスをとり、コンデンサ4の電圧変動を低減させている。
また、変調率がオフセットされることで、オン動作のタイミングが遅れた場合には、オン動作を遅らせた期間の分だけ、オフ動作のタイミングが早まっている。そのため、キャリアの半周期でみたときに、スイッチング素子のQ1〜Q6のオン時間とオフ時間は、オフセットの前後で変わっていない。すなわち、動作タイミング設定部16は、変調率をオフセットする際に、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるスイッチング素子Q1〜Q6のデューティ比を維持しつつ、オン動作のタイミング及びオフ動作のタイミングを設定している。
ステップS8の判定で、電圧変動量(ΔV1)がゼロ未満である場合には、ステップS9にて、電圧変動量(ΔV2)がゼロ以上であるか否かを判別し、判別結果を動作タイミング設定部16に出力する。電圧変動量ΔV2は、スイッチング素子Q1〜Q6が所定の状態である場合の、コンデンサ4の電圧変化の傾きを表している。所定の状態とは、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5のうち、1つのスイッチング素子がオンで状態あり、2つのスイッチング素子がオフ状態である場合を示す。
電圧変動量(ΔV2)がゼロ以上である場合には、ステップS9にて、動作タイミング設定部16は、オフセット値(β)を演算する。オフセット値(β)は、変調率(MI)のオフセット値である。
ステップS10の制御フローにおけるオフセット値の演算について、図9を用いて説明する。図9は、変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフであって、図4と同様の図である。変調率は、オフセット前の変調率である。図9の横軸は時間を示す。そして、横軸に表された電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)は、該当する期間において変動する、コンデンサ4の電圧変動量である。
オフセット前の変調率とキャリアとの比較により決まるスイッチング信号で、インバータ1が制御された場合に、コンデンサ4の電圧は、グラフcのような特性となる。コンデンサ4の全体の電圧変動量(図9の矢印Pで示される幅の大きさ)を小さくするためには、各期間の電圧変動量の関係が下記式(15)を満たすとよい。
また、式(16)〜式(19)で示される電圧変動量の変調率を、オフセット後の変調率に置き換えると、各電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)は、下記式(16)〜(19)で表される。ただし、変調率のオフセットは、変調率を加算する方向の補正とする。βはオフセット値を示す。
上記の電圧変動の式を、式(15)に代入することで、式(15)は、下記式(20)のように展開される。
コントローラ10は、電圧の利用率を制御しているため、変調率は下記式(21)を満たす。
式(21)を式(10)に代入することで、オフセット値(β)は下記式(22)で表される。
ただし、DC電流がゼロの場合には、オフセット値(β)は下記式(23)で表される。
動作タイミング設定部16は、DC電流(idc)、AC電流(ibb)及び変調率(MImid、MImin)を、演算式(22)に代入することで、オフセット値(β)を演算する。ただし、DC電流(idc)がゼロの場合には、動作タイミング設定部16は、AC電流(ibb)及び変調率(MImid、MImin)を、演算式(23)に代入することで、オフセット値(β)を演算する。
ステップS11にて、動作タイミング設定部16は、演算したオフセット値(β)が正の値であるか否かを判定する。オフセット値(β)を用いた補正では、変調率を加算することを前提としているため、オフセット値(α)が負になる場合には、変調率を補正することができない。そのため、オフセット値(β)がゼロ以下である場合(β≦0)には、動作タイミング設定部16は、変調率をオフセットすることなく、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチング信号を、そのままスイッチング素子Q1〜Q6に出力する(ステップS11:「No」)。
一方、オフセット値(β)が正である場合(β>0)には、動作タイミング設定部16は、オフセット値(β)が下記式(24)の条件を満たすか否かを判定する。
オフセット値(β)が(1−MImax)より大きい場合には、オフセット後の変調率の最大値が、1.0よりも大きくなる場合があり、過変調になってしまう。そのため、オフセット値が式(24)の条件を満たさない場合には、動作タイミング設定部16は、オフセット値(β)を用いた変調率の補正を行わず、後述する制御モード4でスイッチング素子Q1〜Q6を制御する。
一方、オフセット値が式(24)の条件を満たす場合には、ステップS13にて、動作タイミング設定部16は、制御モード2を適用する。
制御モード2が適用された場合には、ステップ13にて、動作タイミング設定部16は、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)に対して、正のオフセット値(β)をそれぞれ加算することで、変調率をオフセットする。
ステップS15にて、動作タイミング設定部16は、オフセット後の変調率とキャリアとを比較することで、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング信号を生成し、スイッチング素子Q1〜Q6に出力する。スイッチング信号の生成方法は、スイッチング信号生成部14と同様であるが、変調率がオフセットされているため、スイッチング信号生成部14で生成されたスイッチングの動作タイミングと、動作タイミング設定部16で生成されたスイッチングの動作タイミングは、以下で説明するように、異なったタイミングとなる。
図10は、オフセット前の変調率でインバータ1を制御した場合のコンデンサ4の電圧変動と、オフセット後の変調率でインバータ1を制御した場合のコンデンサ4の電圧変動とを説明するためのグラフである。図10(a)は、図4又は図9と同様のグラフである。図10(b)は、オフセット後の変調率の特性、キャリア、及び、コンデンサ4の電圧特性を示すグラフである。
図10(b)に示す変調率(MI’ min、MI’ mid、MI’ max)は、図10(a)と比較してオフセット値(β)分、高くなっている。そして、オフセット値(β)は、コンデンサ4の充電期間中の電圧変動が上記の式(15)を満たすような値になっており、図10(b)のグラフcに示すように、コンデンサ4の放電による電圧は、充電期間を間に挟みつつ、一定の傾き、かつ、一定の期間で、周期的に下降する。そのため、放電から充電に切り替わる時のコンデンサ電圧(コンデンサ電圧の最小値)は一定になり、充電から放電に切り替わる時のコンデンサ電圧(コンデンサ電圧の最大値)も一定になる。コンデンサ4の全体の電圧変動量(図8(a)の矢印Qで示される幅の大きさ)は、オフセット前の電圧変動量(図8(b)の矢印Pで示される幅の大きさ)と比べて小さくなっている。
また、オフセット値(β)による変調率の補正は、図10(a)のコンデンサ電圧特性のグラフで示される期間tC(グラフの山の期間)を早めつつ、コンデンサ電圧特性のグラフで示される期間tB(グラフの谷の期間)を遅らせていることになる。
ここで、期間tCにおけるスイッチングQ1〜Q6のスイッチング動作をオン動作と称し、期間tDにおけるスイッチングQ1〜Q6のスイッチング動作をオフ動作と称する。オン動作におけるスイッチング素子Q1〜Q6の動作、及び、オフ動作におけるスイッチング素子Q1〜Q6の動作は、上記と同様である。
図10に示すように、動作タイミング設定部16は、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるオン動作のタイミング(期間:tC)よりも、オフセット後のオン動作のタイミング(期間:t’ C)を早めて、かつ、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるオフ動作のタイミング(期間:tD)よりも、オフセット後のオフ動作のタイミング(期間:t’ D)を遅らせるように、スイッチング動作のタイミングを設定している。これにより、本実施形態では、コンデンサ電圧の上昇する期間と、コンデンサ電圧の下降する期間との間でバランスをとり、コンデンサ4の電圧変動を低減させている。
また、変調率がオフセットされることで、オン動作のタイミングが早まる場合には、オン動作を早めた期間の分だけ、オフ動作のタイミングが遅くなっている。そのため、キャリアの半周期でみたときに、スイッチング素子のQ1〜Q6のオン時間とオフ時間は、オフセットの前後で変わっていない。すなわち、動作タイミング設定部16は、変調率をオフセットする際に、オフセット前の変調率とキャリアとの比較で定まるスイッチング素子Q1〜Q6のデューティ比を維持しつつ、オン動作のタイミング及びオフ動作のタイミングを設定している。
ステップS5の判定で、オフセット値(α)が式(14)の条件を満たさない場合には、ステップS16にて、動作タイミング設定部16は、制御モード3を適用する。
制御モード3が適用された場合には、ステップS17にて、動作タイミング設定部16は、オフセット値(γ)を演算する。オフセット値(γ)は、変調率(MI)のオフセット値である。
制御モード3では、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)のうち、最も高い変調率(MImax)を最大値(1)に固定し、残りの相の変調率(MImid、MImin)を、変調率(MImax)と最大値(1)との差分(1−MImax)だけ、オフセットする。すなわち、動作タイミング設定部16は、最大値(変調の上限値)から変調率(MImax)を減算することで、オフセット値(γ)を演算する。
ステップS18にて、動作タイミング設定部16は、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)に対して、正のオフセット値(γ)をそれぞれ加算することで、変調率をオフセットする。
ステップS19にて、動作タイミング設定部16は、オフセット後の変調率とキャリアとを比較することで、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング信号を生成する。動作タイミング設定部16は、各相のスイッチング信号のうち、変調率(電圧指令値に相当)が最も高い相のスイッチング信号と、変調率が最も低い相のスイッチング信号を、スイッチング素子Q1〜Q6に出力する実際のスイッチング信号として設定する。これにより、3相のうち、2相のスイッチング信号が設定される。
ステップS20にて、動作タイミング設定部16は、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を分割し、分割されたスイッチング信号を、残り1相のスイッチング信号に設定する。
ステップS18からステップS20までの制御フローについて、図11及び図12を用いて説明する。
図11(a)〜(c)は、キャリア、変調率、各相のスイッチング信号、及び、コンデンサ4の電圧変動の特性を示したグラフである。図11(a)はオフセット前の特性を示し、図11(b)はオフセット後の特性を示し、図11(c)はスイッチング信号の分割後の特性を示す。図11(a)、(b)、(c)において、グラフaが変調率を示し、グラフbがキャリアを示し、グラフcがコンデンサの電圧を示す。また、パルスは、各相のスイッチング信号を示す。なお、図11を用いた説明では、説明の便宜上、最も高い電圧指令値の相をu相とし、最も低い電圧指令値の相をw相としている。横軸は時間を示す。
ステップS18の制御フローによって、オフセット後の変調率(MImax ’、MImid ’、MImin ’)は、変調率演算部13で演算された各変調率(MImax、MImid、MImin)に、正のオフセット値(γ)を加えた値となる。オフセット後の変調率(MImax ’)は、インバータ制御における変調の上限値(1.0)となる。
ステップS19の制御フローにより、オフセット後の変調率(MImax ’)とキャリアとの比較により演算されるスイッチング信号が、U相のスイッチング信号となる。また、オフセット後の変調率(MImin ’)とキャリアとの比較により演算されるスイッチング信号が、W相のスイッチング信号となる。なお、U相のスイッチング素子は常にオン状態となる。
変調率をオフセットした後のコンデンサ4の電圧変動量を小さくするためには、キャリアの半周期内で、放電期間の前後に位置する充電期間におけるコンデンサ電圧の変動量が、同程度になればよい。
図11(c)に示すコンデンサ電圧の特性が、本実施形態において、コンデンサ4の電圧変動量を小さくしたときの特性である。オフセット後の変調率から得られる電圧変動量(ΔV1)を、電圧変動量(x・ΔV1)と電圧変動量((1−x)・ΔV1)に分割する。xは、オフセット後の変調率に対して、分割された電圧変動量の割合を表す係数であって、v相のスイッチング信号で表されるオン期間の分配比を示す。分割された電圧変動量を用いて、オフセットした後のコンデンサ4の電圧変動量を表すと、キャリアの半周期内で前に位置する電圧変動量は、ΔV0+xΔV1となり、後に位置する電圧変動量は、(1−x)ΔV1となる。
オフセット後の変調率とスイッチング信号との比較から得られる電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)は、下記式(25)〜下記式(28)で表される。
そして、コンデンサ4の全体の電圧変動量を抑制するためには、各充電期間の電圧変動量の関係が下記式(29)を満たすとよい。
式(29)を展開して、式(25)及び式(26)を代入することで、xは下記式(30)で表される。
動作タイミング設定部16は、DC電流(i
dc)、AC電流(i
bb)、及び変調率を用いて、式(30)より、分割係数(x)を演算する。また、動作タイミング設定部16は、分割係数(x)を用いて、下記式(31)及び(32)より、分割パルスを生成するための変調率(MI
000、MI
180)を演算する。
図12は、変調率(MI000、MI180)、キャリア及び分割されたスイッチング信号を示すグラフである。
変調率(MI000、MI180)を演算した後、動作タイミング設定部16は、変調率(MI000)とキャリアとを比較することでパルスPaを生成する。動作タイミング設定部16は、変調率(MI000)がキャリアより高い期間を、パルスPaのハイレベルの期間とする。図12(a)に示すパルスが、パルスPaを表している。
また、動作タイミング設定部16は、変調率(MI180)とキャリアとを比較することでパルスPbを生成する。変調率(MI180)と比較されるキャリアは、変調率(MI000)と比較されたキャリアに対して、π/2分ずれている。動作タイミング設定部16は、変調率(MI180)がキャリアより高い期間を、パルスPbのハイレベルの期間とする。図12(b)に示すパルスが、パルスPbを表している。
そして、動作タイミング設定部16は、パルスPaとパルスPbとの論理和をとることで、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を生成する。図12(c)に示すパルスが、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号である。これにより、動作タイミング設定部16は、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を分割し、分割されたスイッチング信号を、残り1相(V相)のスイッチング信号に設定する。動作タイミング設定部16は、ステップS19の制御フロー及びステップS20の制御フローで設定されたスイッチング信号を、各スイッチング素子Q1〜Q6に出力して、インバータ1を制御する。
上記のように、ステップS20の制御フローにおいて、動作タイミング設定部16は、キャリアの半周期でみたときに、放電期間より前の充電期間における電圧変動量と、放電期間より後の充電期間における電圧変動量が同程度になるように、中間変調率の相のスイッチング信号が補正される。図11に示すように、インバータ1が補正後のスイッチング信号で制御された場合に、コンデンサ4の電圧変動量(図11(c)の矢印Qで示される幅の大きさ)は、スイッチング信号を補正しないときの電圧変動量(図11(b)の矢印P2で示される幅の大きさ)よりも小さく、かつ、変調率を補正しないときの電圧変動量(図11(a)の矢印P1で示される幅の大きさ)よりも小さくなる。
ステップS12の判定で、オフセット値(β)が式(24)の条件を満たさない場合には、ステップS21にて、動作タイミング設定部16は、制御モード4を適用する。
制御モード4が適用された場合には、ステップS22にて、動作タイミング設定部16は、オフセット値(δ)を演算する。オフセット値(δ)は、変調率(MI)のオフセット値である。
制御モード3では、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)のうち、最も低い変調率(MImin)を最小値(−1.0)に固定し、残りの相の変調率(MImid、MImax)を、変調率(MImin)と最小値(−1.0)との差分(−1−MImin)だけ、オフセットする。すなわち、動作タイミング設定部16は、最小値(変調の下限値)から変調率(MImin)を減算することで、オフセット値(δ)を演算する。オフセット値(δ)は、負の値となる。
ステップS23にて、動作タイミング設定部16は、変調率演算部13で演算された各変調率(MI)に対して、負のオフセット値(δ)をそれぞれ加算することで、変調率をオフセットする。
ステップS24にて、動作タイミング設定部16は、オフセット後の変調率とキャリアとを比較することで、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング信号を生成する。動作タイミング設定部16は、各相のスイッチング信号のうち、変調率(電圧指令値に相当)が最も高い相のスイッチング信号と、変調率が最も低い相のスイッチング信号を、スイッチング素子Q1〜Q6に出力する実際のスイッチング信号として設定する。これにより、3相のうち、2相のスイッチング信号が設定される。
ステップS25にて、動作タイミング設定部16は、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を分割し、分割されたスイッチング信号を、残り1相のスイッチング信号に設定する。
ステップS23からステップS25までの制御フローについて、図13及び図14を用いて説明する。
図13(a)〜(c)は、キャリア、変調率、各相のスイッチング信号、及び、コンデンサ4の電圧変動の特性を示したグラフである。図13(a)はオフセット前の特性を示し、図13(b)はオフセット後の特性を示し、図13(c)はスイッチング信号の分割後の特性を示す。図13(a)、(b)、(c)において、グラフaが変調率を示し、グラフbがキャリアを示し、グラフcがコンデンサの電圧を示す。また、パルスは、各相のスイッチング信号を示す。なお、図13を用いた説明では、説明の便宜上、最も高い電圧指令値の相をU相とし、最も低い電圧指令値の相をW相としている。横軸は時間を示す。
ステップS23の制御フローによって、オフセット後の変調率(MI’ max、MI’ mid、MI’ min)は、変調率演算部13で演算された各変調率(MImax、MImid、MImin)に、負のオフセット値(δ)を加えた値となる。オフセット後の変調率(MImin ’)は、インバータ制御における変調の下限値(−1.0)となる。
ステップS24の制御フローにより、オフセット後の変調率(MI’ max)とキャリアとの比較により演算されるスイッチング信号が、U相のスイッチング信号となる。また、オフセット後の変調率(MI’ min)とキャリアとの比較により演算されるスイッチング信号が、W相のスイッチング信号となる。なお、W相のスイッチング素子は常にオフ状態となる。
変調率をオフセットした後のコンデンサ4の電圧変動量を小さくするためには、キャリアの半周期内で、放電期間の前後に位置する充電期間におけるコンデンサ電圧の変動量が、同程度になればよい。
図13(c)に示すコンデンサ電圧の特性が、本実施形態において、コンデンサ4の電圧変動量を小さくしたときの特性である。オフセット後の変調率から得られる電圧変動量(ΔV2)を、電圧変動量(x・ΔV2)と電圧変動量((1−x)・ΔV2)に分割する。xは、オフセット前の変調率に対して、分割された電圧変動量の割合を表す係数である。分割された電圧変動量を用いて、スイッチング信号の分割後のコンデンサ4の電圧変動量を表すと、キャリアの半周期内で前に位置する電圧変動量は、(1−x)ΔV2となり、後に位置する電圧変動量は、xΔV2+ΔV3となる。
オフセット後の変調率とスイッチング信号との比較から得られる電圧変動量(ΔV0、ΔV1、ΔV2、ΔV3)は、下記式(33)〜下記式(36)で表される。
そして、コンデンサ4の全体の電圧変動量を抑制するためには、各充電期間の電圧変動量の関係が下記式(37)を満たすとよい。
式(37)を展開して、式(35)及び式(36)を代入することで、xは下記式(38)で表される。
動作タイミング設定部16は、DC電流(i
dc)、AC電流(i
bb)、及び変調率を用いて、式(30)より、分割係数(x)を演算する。また、動作タイミング設定部16は、分割係数(x)を用いて、下記式(39)及び(40)より、分割パルスを生成するための変調率(MI
000、MI
180)を演算する。
図14は、変調率(MI000、MI180)、キャリア及び分割されたスイッチング信号を示すグラフである。
変調率(MI000、MI180)を演算した後、動作タイミング設定部16は、変調率(MI000)とキャリアとを比較することでパルスPcを生成する。動作タイミング設定部16は、変調率(MI000)がキャリアより高い期間を、パルスPcのハイレベルの期間とする。図14(a)に示すパルスが、パルスPcを表している。
また、動作タイミング設定部16は、変調率(MI180)とキャリアとを比較することでパルスPdを生成する。変調率(MI180)と比較されるキャリアは、変調率(MI000)と比較されたキャリアに対して、π/2分ずれている。動作タイミング設定部16は、変調率(MI180)がキャリアより高い期間を、パルスPdのハイレベルの期間とする。図14(b)に示すパルスが、パルスPdを表している。
そして、動作タイミング設定部16は、パルスPcとパルスPdとの論理積をとることで、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を生成する。図14(c)に示すパルスが、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号である。これにより、動作タイミング設定部16は、変調率の大きさが中間になる相のスイッチング信号を分割し、分割されたスイッチング信号を、残り1相(V相)のスイッチング信号に設定する。動作タイミング設定部16は、ステップS24の制御フロー及びステップS25の制御フローで設定されたスイッチング信号を、各スイッチング素子Q1〜Q6に出力して、インバータ1を制御する。
上記のように、ステップS25の制御フローにおいて、動作タイミング設定部16は、キャリアの半周期でみたときに、放電期間より前の充電期間における電圧変動量と、放電期間より後の充電期間における電圧変動量が同程度になるように、中間変調率の相のスイッチング信号が補正される。図13に示すように、インバータ1が補正後のスイッチング信号で制御された場合に、コンデンサ4の電圧変動量(図13(b)の矢印Qで示される幅の大きさ)は、スイッチング信号を補正しないときの電圧変動量(図13(a)の矢印P2で示される幅の大きさ)よりも小さく、かつ、変調率を補正しないときの電圧変動量(図13(a)の矢印P1で示される幅の大きさ)よりも小さくなる。
上記のように、本実施形態では、スイッチング素子Q1〜Q6の状態に応じて、コンデンサ4の電圧変化(ΔV1、ΔV2)を特定し、電圧変化(ΔV1、ΔV2)の傾きの符号を判別する。そして、電圧変化(ΔV1)の傾きの符号が正である場合には、電圧指令値とキャリアとの比較により定まるスイッチング動作のタイミングよりも、オン動作のタイミングを遅らせオフ動作のタイミングを早める。また、電圧変化(ΔV1)の傾きの符号が負であり、かつ、電圧変化(ΔV2)の傾きの符号が正である場合には、電圧指令値とキャリアとの比較により定まるスイッチング動作のタイミングよりも、オン動作のタイミングを早めてオフ動作のタイミングを遅らせる。これにより、本実施形態では、コンデンサ電圧の上昇期間と下降期間のバランスが保たれるように、スイッチング素子Q1〜Q6の動作タイミングが制御されるため、コンデンサの電圧の変動を抑制できる。その結果として、リップル電流を抑制できる。
また本実施形態では、電圧指令値とキャリアとの比較により定まる複数のスイッチング素子Q1〜Q6のデューティ比を維持しつつ、オン動作のタイミングとオフ動作のタイミングをそれぞれ設定する。これにより、コンデンサの電圧の変動を抑制しつつ、モータ3の出力変動を抑制できる。
また本実施形態では、電圧変化(ΔV1)の傾きの符号が正である場合に、各相の電圧指令値に対して負のオフセット値(α)を加えた指令値と、キャリアとを比較することで、オン動作のタイミングと、オフ動作のタイミングとをそれぞれ設定する。また、電圧変化(ΔV1)の傾きの符号が負であり、かつ、電圧変化(ΔV2)の傾きの符号が正である場合に、各相の電圧指令値に対して正のオフセット値(β)を加えた指令値と、キャリアとを比較することで、オン動作のタイミングと、オフ動作のタイミングとをそれぞれ設定する。これにより,既存のインバータの制御システムに、本実施形態に係るインバータ制御を適用できる。
また本実施形態では、式(5)を満たすように負のオフセット値(α)を演算し、式(15)を満たすように正のオフセット値(β)を演算する。これにより、通常動作時(idc≠0のとき)に、最適なオフセット値を演算できる。
また本実施形態では、DC電流(idc)がゼロである場合には、式(13)を満たすように負のオフセット値(α)を演算し、式(23)を満たすように正のオフセット値(β)を演算する。これにより、特異動作時(idc=0のとき)に、最適なオフセット値を演算できる。
なお、本実施形態では、オフセット値(α)等の演算を説明するために、演算式を用いたが、オフセット値(α)等の演算は、例えば、変調率(MI)とオフセット値との対応関係を示すマップを予め記憶しておき、当該マップを参照することで、オフセット値を演算してもよい。また、本実施形態では、オフセットされる対象を、変調率(MI)として説明しているが、電圧指令値をオフセットすることで、上記の制御を行ってもよい。
上記スイッチング信号生成部14及び動作タイミング設定部16が本発明に係る「タイミング設定部」に相当する。なお、本実施形態では、電圧指令値を変調率に変換しているため、変調率をオフセットしたが、電圧指令値をオフセットしてもよい。