以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
まず、本発明の一実施形態による油圧回路装置を備えた車両の駆動装置について説明する。図1は、この一実施形態による駆動装置の構成を示す。
図1に示すように、車両Veは、エンジン10、トルクコンバータ20、エンジン軸スプロケット31、ポンプ軸スプロケット32、駆動チェーン33、可変容量ポンプ40、クラッチ50、動力伝達機構60、出力軸70、および駆動輪80を備える。内燃機関としてのエンジン10は、気筒内で燃焼させる燃料の燃焼エネルギーを出力軸11の回転エネルギーに変換して出力する。
トルクコンバータ20は、エンジン10の出力軸11が連結されたポンプインペラ21と、クラッチ50が連結されたタービンランナ22とを備え、作動流体を介してポンプインペラ21とタービンランナ22との間でエンジン10の出力トルクを伝達する。トルクコンバータ20は、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを機械的に結合するロックアップ機構23を備える。
可変容量ポンプ40は、伝達経路30を介して駆動力が伝達され、トルクコンバータ20や動力伝達機構60などに作動油を供給する。可変容量ポンプ40は、可変容量型の機械式オイルポンプ、具体的には、カムリングが揺動することでロータに対するカムリングの偏心量を変化させて容量を変化させる可変容量型ベーンポンプからなる。なお、可変容量ポンプの詳細については後述する。
伝達経路30は、エンジン軸24と、エンジン軸24に連結されるエンジン軸スプロケット31と、ポンプ軸スプロケット32と、駆動チェーン33とから構成される。エンジン軸24は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21に連結され、ポンプインペラ21と一体回転可能に設けられている。すなわち、エンジン軸24は、トルクコンバータ20での流体伝達は介さずに、エンジン10から伝達される駆動力により回転可能に構成される。ポンプ軸スプロケット32は、可変容量ポンプ40のポンプ軸41に連結され、ポンプ軸41と一体回転可能に設けられている。駆動チェーン33は、エンジン軸スプロケット31とポンプ軸スプロケット32とを連結する。
伝達経路30によって、エンジン10からの駆動力は、次のようにして可変容量ポンプ40に伝達される。すなわち、エンジン10からトルクコンバータ20に伝達された駆動力の一部は、エンジン軸24を介してエンジン軸スプロケット31に伝達される。エンジン軸スプロケット31に伝達された駆動力は、駆動チェーン33によってポンプ軸スプロケット32に伝達され、ポンプ軸スプロケット32が取り付けられたポンプ軸41を介して可変容量ポンプ40に伝達される。すなわち、エンジン10で発生した駆動力の一部は、クラッチ50や動力伝達機構60を介することなく、伝達経路30を介して、可変容量ポンプ40に伝達される。
トルクコンバータ20のタービンランナ22に連結された出力軸25は、クラッチ50に連結され、クラッチ50の係合状態および開放状態に応じて、動力伝達機構60の入力軸61との間で連結状態および遮断状態を切り替え可能に設けられている。動力伝達機構60は、トルクコンバータ20からクラッチ50を介して伝達された駆動力を、出力軸70を通じて駆動輪80に伝達する。以上により車両Veの駆動装置が構成される。
次に、本発明の一実施形態による油圧回路装置に用いられる可変容量ポンプ40について説明する。図2および図3はそれぞれ、最大吐出状態および最小吐出状態における可変容量ポンプ40を示す断面図である。図2および図3に示すように、可変容量ポンプ40は、ポンプボデー110の内部に、シャフト111、ロータ112、ベーン113、カムリング114、揺動ピン115、コイルスプリング116、およびレバー部117を有して構成される。また、可変容量ポンプ40には、ポンプボデー110に、吸入ポート118、第1吐出ポート119、および第2吐出ポート120が形成されているとともに、第1油室としてのバネ油室121および第2油室としての制御油室122が設けられている。
カムリング114は、ポンプボデー110の内部にほぼ環状をなして収容されている。カムリング114は、外周の一部分に介在させた揺動ピン115を介してポンプボデー110に対して揺動可能に保持される。すなわち、カムリング114の外周面の一部とポンプボデー110の内周面の一部との間に揺動ピン115が挟み込まれている。レバー部117は、カムリング114の外周部のうち揺動ピン115に対して円周方向に1/2回転ずれて、中心を挟んだ反対側に設けられている。換言すると、揺動ピン115およびレバー部117とは中心部についてほぼ対称となる位置に設けられている。これにより、レバー部117を揺動させることより、カムリング114が揺動ピン115を中心に揺動される。
制御油室122は、ポンプボデー110の内面とカムリング114の外面との間において、揺動ピン115およびレバー部117によって区画されている。ポンプボデー110には、制御油室122に対して油圧を給排可能なポート(図示せず)が設けられ、供給される作動油によって制御油室122内の油圧を制御可能に構成されている。制御油室122内の油圧がカムリング114の推力(カムリング推力F_act)となる。レバー部117には、制御油室122に供給された作動油の油圧、すなわちカムリング推力F_actに対抗する向きに弾性力F_springを作用可能な弾性体としてのコイルスプリング116が当接されている。カムリング114の内周側には、シャフト111に取付けた略Y字形断面で環状をなすロータ112が設けられている。ロータ112の円周にスリット溝が放射状に形成されている。それぞれのスリット溝には、ベーン113の基端部である内周側の端部が収容されて、それぞれのベーン113を放射方向へ移動自在としている。それぞれのベーン113は、先端部である外周側端部がカムリング114の内周面に摺接している。
カムリング114は、ロータ112に対して偏心している。互いに隣り合う一対のベーン113の間において、ベーン113とカムリング114の内周面、ロータ112の外周面およびポンプボデー110の内周面によって油室が液密に区画形成され、区画形成された油室の容積は、ロータ112およびベーン113の回転に伴って増減する。ベーン113の回転領域のうちの左側の半分の領域が、ロータ112が図中右回りに回転する際に油室の容積が次第に増大する吸入領域である。吸入領域に開口するように吸入ポート118が形成されている。ベーン113の回転領域のうちの右側の半分は油室の容積が次第に減少する吐出領域である。吐出領域に開口するように第1吐出ポート119および第2吐出ポート120が形成されている。また、ベーン113を収容したそれぞれのスリット溝の中心側端には、このスリット溝の溝幅を円形に拡大した油路穴が形成されており、それぞれのベーン113を放射方向外側へ押し出すように作用する油圧であるベーン下端圧が、ベーン113がスリット溝に最も退入した状態においてもロータ112の両側へ流通できるようになっている。
以上のように構成された可変容量ポンプ40において、作動油の吐出量が最大になるのは、図2に示すように、ロータ112の回転中心ORとカムリング114の揺動中心OCとの偏心量が最大になる場合である。回転中心ORと揺動中心OCとの偏心量が最大になる状態は、カムリング推力F_actを、コイルスプリング116の弾性力F_spring未満(F_act<F_spring)に制御することで実現できる。一方、可変容量ポンプ40において、作動油の吐出量を最小にするには、図3に示すように、ロータ112の回転中心ORとカムリング114の揺動中心OCとの偏心量を最小(例えば0)にする。回転中心ORと揺動中心OCとの偏心量が最小になる状態は、カムリング推力F_actを、コイルスプリング116の弾性力F_spring以上(F_act≧F_spring)に制御することで実現できる。
しかしながら、上述した可変容量ポンプ40を有する駆動装置においては、次のような問題があった。すなわち、第1の問題として、可変容量ポンプ40のフェールによって、油圧回路装置から駆動装置に実際に供給される作動油の流量が必要流量を下回る可能性がある。この場合、作動油のライン圧が低下して、動力伝達機構60などが備えるベルトの滑りやクラッチ50の断接が発生して、走行が継続できなくなる可能性がある。
また、オイルポンプとして、可変容量ポンプ40の代わりに一定の流量の作動油を吐出する定容量ポンプを用いた場合、定容量ポンプは、吐出する作動油の流量が所定の流量以下にならないように、すなわち不足しないように設計されている。そのため、上述のように駆動装置に供給される作動油のライン圧が低下した場合、ライン圧の低下の原因は、ライン圧制御バルブにおける調圧の不良であると判断できる。
ここで、図4に示すように、時点T11において、定容量ポンプを備えた油圧回路装置から吐出される作動油の流量が低下してライン圧PLが低下する、いわゆるフェールが発生した場合を想定する。なお、フェールの判定や油圧回路装置の制御は電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)(図示せず)により行われる。ECUは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)などを有するマイクロコンピュータを主体にして構成される。ECUは、入力されたデータおよび予めROMやRAMに記憶されているデータおよびプログラムを使用して演算を行い、その演算結果を指令信号として出力する。
この際、ECUは、油圧振動などによる瞬間的なライン圧PLの低下をフェール状態と誤判定しないように、実際に吐出されている流量(実流量)が必要流量を下回った状態が時間t1以上継続した場合にフェールと判定する。この場合、実際のライン圧(実PL)は目標のライン圧(目標PL)より下回って、閾値を下回る状態が時間t1の間継続する。この場合、ECUは、時点T12の時点で油圧回路装置をフェールと判定することができる。
これに対し、可変容量ポンプ40を備えた油圧回路装置においては、定容量ポンプを備えた油圧回路装置と同様の方法ではフェールを判定することができない。すなわち、可変容量ポンプ40を備えた油圧回路装置においては、油圧回路装置におけるフェールの原因が、ライン圧制御バルブにおける調圧の不良であるのか、可変容量ポンプ40の不良であるのかのいずれか不明である。
そこで、図4に示すように、フェールが発生した時点T11から、流量が必要流量を下回って、ライン圧PLが閾値を下回った状態が所定時間t1だけ経過した時点T12において、ECUは、調圧フェールのフラグを立てる。これは、ライン圧の低下の原因を、まずはライン圧制御バルブにおける調圧の不良であるとしたためである。これとともに、ECUは目標PLを増加させる。目標PLは、ライン圧制御バルブにおける調圧が不良であったとしても、実PLが閾値を上回るようなライン圧PLとする。そのため、フェールの原因がライン圧制御バルブの調圧の不良であれば、ライン圧PLは増加して閾値を上回る。これに反し、ライン圧PLの実PLが、目標PLを増加させた時点T12から所定時間t2だけ経過した時点T13まで、閾値を下回っている場合、時点T13においてECUは、可変容量ポンプフェールのフラグを立てる。すなわち、ECUは、時点T13において可変容量ポンプ40のフェールが、油圧回路装置から供給される作動油のライン圧の低下の原因であると判定する。その後、ECUは、可変容量ポンプ40におけるカムリング114の推力を制御することによって、可変容量ポンプ40からの吐出量を増加させる制御を行う。これにより、油圧回路装置から吐出される作動油の実流量は増加して、ライン圧PLも増加し、閾値を上回ることができる。このように、可変容量ポンプ40を備えた油圧回路装置においては、フェールを検出するまでに、t1+t2の時間が必要になる。すなわち、定容量ポンプを備えた油圧回路装置に比してフェールを検出するまでにより長い時間を要し、フェールの発生からライン圧PLの実PLを目標PLに増加させるまでに長い時間を要するという第2の問題がある。
さらに、従来技術においては、ライン圧PLの実PLは、ライン圧PLを調圧するリニアソレノイドの指示値などから推定していた。ところが、オイルポンプとして可変容量ポンプ40を用いた場合、作動油の必要な吐出量を精度良く見積もるためには、実際の油圧(実PL)を検出する必要があり、油圧センサを設ける必要がある。油圧回路装置に油圧センサを新たに設けると、油圧回路装置の大型化および高コスト化を招くという第3の問題が生じる。
そこで、本発明者は、上述した問題を解決するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、可変容量ポンプ40を備えた油圧回路装置において、可変容量ポンプ40がフェールした場合であっても、油圧センサを設けることなく短時間でライン圧PLを所定圧力以上に制御できる方法を想起した。
次に、本発明の一実施形態による油圧回路装置に用いられるフェールセーフバルブについて説明する。図5および図6は、本発明者が案出したフェールセーフバルブ300および可変容量ポンプ40を示す。図5は、フェールセーフバルブ300のオフ状態を示し、図6は、フェールセーフバルブ300のオン状態を示す。
図5および図6に示すように、フェールセーフバルブ300は、筐体301と、筐体301に形成された第1ポート311、第2ポート312、第3ポート313、第4ポート314、第5ポート315、第6ポート316、およびドレンポート317,318を有する。第1ポート311〜第6ポート316、およびドレンポート317,318はそれぞれ、収納部319に連通している。
第2ポート312および第6ポート316には、ライン圧PLの作動油が流入する。第1ポート311は、後述するリニアソレノイドからレギュレータバルブ信号圧Psltの作動油を流入可能に構成されている。すなわち、第1ポート311は、レギュレータバルブ信号圧Psltの作動油が供給されるポートである。第3ポート313は、可変容量ポンプ40のバネ油室121に連通され、作動油をバネ油室121に供給可能に構成されている。すなわち、第3ポート313は、バネ油室121に作動油を供給するためのポートである。第4ポート314には、可変容量ポンプ40の制御油室122にカムリング推力F_actを発生させるためのカムリング制御圧Pactの作動油が流入する。第5ポート315は、可変容量ポンプ40の制御油室122に連通している。カムリング制御圧Pactの作動油は、第4ポート314から収納部319を通じて第5ポート315から可変容量ポンプ40の制御油室122に供給される。カムリング制御圧Pactが供給された制御油室122においては、レバー部117にカムリング推力F_actが作用する。ドレンポート317,318は、作動油をオイルパンにドレンするためのポートである。
また、フェールセーフバルブ300の収納部319は、第1円筒部319aと、第1円筒部319aの軸線方向に垂直な方向に沿った断面積より小さい断面積の第2円筒部319bからなる。収納部319内には、複数のポートのそれぞれを開閉するための、第1スリーブ321、第2スリーブ322、第3スリーブ323、および第4スリーブ324が設けられている。第1スリーブ321〜第4スリーブ324はそれぞれ、円柱状の主軸325に連結され、主軸325の軸線方向に沿って収納部319中を連動して往復移動可能である。第1スリーブ321〜第3スリーブ323は、第1円筒部319a内に収容され、第4スリーブ324は、第2円筒部319bに収容されている。
第1スリーブ321〜第4スリーブ324は、主軸325よりも外径が大きく、かつ主軸と同心の円柱状である。これらのうちの第1スリーブ321〜第3スリーブ323はそれぞれ、互いに略同一の外径を有し、軸線方向(図中、一点鎖線)と垂直な方向の切断面が略同形状である。すなわち、第1スリーブ321〜第3スリーブ323は、それらの切断面の断面積A1が互いに略同じ大きさである。また、第4スリーブ324は、第1スリーブ321〜第3スリーブ323の外径に対して小さい外径を有し、軸線方向と垂直な方向の切断面の形状は、第1スリーブ321〜第3スリーブ323と略同形状である。すなわち、第4スリーブ324の断面積である第2円筒部319bの軸線方向に直角な断面積A2は、第1スリーブ321〜第3スリーブ323の断面積である第1円筒部319aの軸線方向に直角な断面積A1未満(A1>A2)に設計されている。
第1スリーブ321〜第4スリーブ324を互いに軸線方向に間隔を空けて配置することにより、それぞれの端面の間に環状の空間が形成される。これらの空間内を作動油が通過する。第1スリーブ321〜第4スリーブ324と収納部319を構成する筐体301の壁面との間には、所定間隔の隙間が形成されている。第1スリーブ321〜第4スリーブ324は、第2円筒部319b内に設けられた弦巻バネなどの弾性部材302の弾性力f_springによって筐体301の第1スリーブ321側に付勢されている。
この一実施形態によるフェールセーフバルブ300において、第3スリーブ323の断面積A1と第4スリーブ324の断面積A2とは、以下の(1)式が成立するように設計される。すなわち、第3スリーブ323に作用する第1所定油圧としてのレギュレータバルブ信号圧Psltと第3スリーブ323の断面積A1との積が、正常に調圧された状態での第4スリーブ324に作用する第2所定油圧としてのライン圧PLと第4スリーブ324の断面積A2との積に等しくなるように設計される。
Pslt×A1=PL×A2 …(1)
そのため、この一実施形態によるフェールセーフバルブ300においては、ライン圧PLが正常に調圧されている場合には、以下の(2)式が成立する。
Pslt×A1≦PL×A2+f_spring …(2)
この場合、図5に示すように、第2ポート312にライン圧PLの作動油が供給されていることによって、上方向に作用する力の方が大きくなって、フェールセーフバルブ300はオフ状態になる。フェールセーフバルブ300がオフ状態の場合、第4ポート314および第5ポート315が開放され、カムリング制御圧Pactの作動油が第4ポート314から流入して第5ポート315から流出する。第5ポート315から流出したカムリング制御圧Pactの作動油は、制御油室122に流入して、レバー部117をカムリング推力F_actで押圧する。この際、第1スリーブ321は、第6ポート316を遮断する位置に配置されて第6ポート316を遮断する。この結果、第1円筒部319a内へのライン圧PLの作動油の流入が遮断される。また、第3ポート313が開放されるとともにドレンポート318と連通する。その結果、第3ポート313から流出する作動油はオイルパンにドレンされて、バネ油室121内の圧力の増加に寄与しなくなるので、カムリング制御圧Pactが制御されることによって、可変容量ポンプ40から吐出される作動油の流量が制御される。
一方、フェールの発生によりライン圧PLの調圧が正常に行われず、ライン圧PL(実PL)が所定の閾値を下回る(図4参照)ことによって、以下の(3)式が成立する場合がある。
Pslt×A1>PL×A2+f_spring …(3)
この場合、図6に示すように、第2ポート312にライン圧PLの作動油が供給されていても、下方向に作用する力の方が大きくなるため、フェールセーフバルブ300はオン状態になる。フェールセーフバルブ300がオン状態の場合、第3スリーブ323によって第4ポート314および第5ポート315が遮断される。その結果、カムリング制御圧Pactの作動油における制御油室122への流入が遮断される。制御油室122への作動油の供給が遮断されると、制御油室122においてレバー部117に油圧が作用しなくなる。これとともに、第6ポート316が開放されて、第6ポート316と第3ポート313とが第1円筒部319aを介して連通する。その結果、第6ポート316から流入して第3ポート313から流出したライン圧PLの作動油は、バネ油室121に供給される。
バネ油室121にライン圧の作動油が流入すると、レバー部117にはコイルスプリング116の弾性力F_spring以外に、ライン圧PLの作動油に起因する力が作用される。このように作用する力によって、カムリング114は、吐出容量が増加する側に揺動される。これにより、可変容量ポンプ40から吐出される作動油の流量が増加する。
すなわち、可変容量ポンプ40から吐出される作動油の流量は、ライン圧PLが正常に調圧されて(2)式が成立している状態の場合はカムリング制御圧Pactによって制御される一方、ライン圧PLが低下して(3)式が成立した場合には機械的に増加される。このように動作するフェールセーフバルブ300の切替の一例を図7に示す。
図7に示すように、フェール等によって吐出される作動油の流量が不足した時点T21において、実際のライン圧(実PL)が所定の閾値PL0を下回ると、フェールセーフバルブ300がオン状態に切り替わる。ここで、閾値PL0は、以下の(4)式を満たす値であるとともに、レギュレータバルブ信号圧Psltに対して、以下の(5)式で決定される。
Pslt×A1=PL0×A2+f_spring …(4)
PL0=a×Pslt+b …(5)
すなわち、係数aおよび定数bは、所望とするライン圧PLやフェールセーフバルブ300の設計などによって決定されるパラメータである。
時点T21において、実際のライン圧(実PL)が閾値PL0を下回ると、フェールセーフバルブ300は、機械的にオフ状態からオン状態に切り替わる。フェールセーフバルブ300がオン状態に切り替わると、可変容量ポンプ40の吐出流量が増加する方向に、カムリング114が揺動する。これにより、時点T22において実際のライン圧PLを閾値PL0より大きくなるように復帰できる。
また、図7に示す実際のライン圧PLがS.F=1(安全率=1)より下回ると、動力伝達機構60における変速機のベルト滑りや、クラッチ50の断接などが生じる。この一実施形態においては、フェールセーフバルブ300の切り替わりが機械的に行われ、切り替わりのライン圧PLは、S.F=1のライン圧PLよりも高いライン圧PLである。そのため、予期しない動力伝達機構60における変速機のベルト滑りやクラッチ50の断接の発生を抑制できる。さらに、フェールセーフバルブ300の切り替わりを、ライン圧PLが(2)式および(3)式のいずれであるかによって、機械的に行っている。そのため、フェールによってライン圧PLが低下した場合であっても、油圧センサ等の油圧計測手段を設けることなく、ライン圧PLの低下と連動して、可変容量ポンプ40の吐出流量を自動的に増加させることができる。
さらに、従来技術においては、カムリング114を揺動させるためにレバー部117に作用できる力は、コイルスプリング116の弾性力F_springのみであった。そのため、可変容量ポンプ40のフェールの発生原因がカムリング114の固着であった場合、フェール状態を解消することができない可能性があった。これに対し、この一実施形態においては、レバー部117には、コイルスプリング116の弾性力F_springと、バネ油室121に供給される作動油のライン圧による力との合力を作用させることができる。これにより、固着したカムリング114を揺動できる可能性が向上するので、可変容量ポンプ40のフェール状態を自動的に解消できる可能性を向上できる。
次に、以上のように構成されたフェールセーフバルブ300を用いた油圧回路装置について説明する。図8は、本発明の一実施形態による油圧回路装置の構成を主に示すブロック図である。
図8に示すように、油圧回路装置200においては、可変容量ポンプとして可変容量型の2ポートオイルポンプ201を用いる。2ポートオイルポンプ201は、ライン圧PLの作動油を吐出するメインポート201mと、ライン圧PL、セカンダリ圧、または必要に応じて潤滑圧の作動油を吐出するサブポート201sとを有する。
メインポート201mから吐出されるライン圧PLの作動油の一部は、ソレノイドモジュレータバルブ202およびリニアソレノイドバルブ203を通じて、プライマリレギュレータバルブ204およびフェールセーフバルブ300に信号圧として供給される。なお、フェールセーフバルブ300には、2ポートオイルポンプ201からカムリング制御圧Pactが供給される。
プライマリレギュレータバルブ204は、リニアソレノイドバルブ203から供給された作動油に応じて、2ポートオイルポンプ201のメインポート201mおよびサブポート201sから供給された作動油を調圧する。調圧された作動油は、油圧回路装置200の外部のクーラや潤滑系に供給される。プライマリレギュレータバルブ204からクーラや潤滑系への供給経路には、油圧計210aが設けられている。
メインポート201mから吐出されるライン圧PLの作動油の一部は、サーキュレーションモジュレータバルブ206によって調圧されて、トルクコンバータ20に供給される。サーキュレーションモジュレータバルブ206からトルクコンバータ20までの供給経路には油圧計210bが設けられている。また、メインポート201mから吐出されるライン圧PLの作動油の残部は、ソレノイドバルブ207を通じてトルクコンバータ20に供給される。ソレノイドバルブ207からトルクコンバータ20までの供給経路には油圧計210cが設けられている。
また、2ポートオイルポンプ201から吐出されたライン圧PLの作動油は、クラッチ制御用ソレノイド208を通じ、シールリング205を介してクラッチ50に供給される。2ポートオイルポンプ201のメインポート201mからクラッチ制御用ソレノイド208までの供給経路には、油圧計210dが設けられているが、油圧計210dは設けないことも可能である。クラッチ制御用ソレノイド208からクラッチ50までの供給経路には、油圧計210eが設けられている。
逆止弁209は、サブポート201sから吐出される作動油の油圧がライン圧である場合に、サブポート201sに接続されたサブ油路から、メインポート201mに接続されたメイン油路にライン圧の作動油を供給するための弁である。すなわち、サブ油路は、逆止弁209を介してメイン油路に接続される。なお、逆止弁209が設けられていることによって、作動油はメイン油路からサブ油路には供給されない。以上のように、この一実施形態による油圧回路装置200が構成されている。
(第1変形例)
次に、上述した一実施形態による油圧回路の第1変形例について説明する。図9は、一実施形態の第1変形例による油圧回路の構成を主に示すブロック図である。
図9に示すように、第1変形例による油圧回路装置250は、一実施形態と異なり、可変容量オイルポンプとして可変容量型の1ポートオイルポンプ251を用いる。これに伴って、油圧回路装置250においては、プライマリレギュレータバルブ204の代わりに、プライマリレギュレータバルブ212を用いる。その他の構成は、上述した一実施形態と同様である。
(第2変形例)
次に、上述した一実施形態による油圧回路の第2変形例について説明する。図10は、一実施形態の第2変形例による油圧回路の構成を主に示すブロック図である。
図10に示すように、第2変形例による油圧回路装置260は、一実施形態と異なり、可変容量オイルポンプとして、2基の可変容量型の1ポートオイルポンプ261a,261bを用いる。すなわち、図8に示す2ポートオイルポンプ201のメインポート201mの代わりに、可変容量型の1ポートオイルポンプ261aを用いるとともに、サブポート201sの代わりに可変容量型の1ポートオイルポンプ261bを用いる。その他の構成は、上述した一実施形態と同様である。
(第3変形例)
次に、上述した一実施形態による油圧回路の第3変形例について説明する。図11は、一実施形態の第3変形例による油圧回路の構成を主に示すブロック図である。
図11に示すように、第3変形例による油圧回路装置270は、一実施形態による第2変形例と同様に、可変容量オイルポンプとして、2基の可変容量型の1ポートオイルポンプ271a,271bを用いる。一方の可変容量型の1ポートオイルポンプ271aが機械式オイルポンプからなるとともに、他方の可変容量型の1ポートオイルポンプ271bがモータ272により駆動される電動オイルポンプからなる点が第2変形例と異なる。その他の構成は、上述した一実施形態の第2変形例と同様である。
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた油圧回路装置の構成はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成を用いてもよい。