JP6471290B2 - 炭素繊維強化複合積層シートのレーザー加工方法及びレーザー加工された炭素繊維強化複合積層シート - Google Patents
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Description
本発明は、炭素繊維強化複合積層シートの炭酸ガスレーザーを用いたレーザー加工方法、及び、この方法で加工された炭素繊維強化複合積層シートに関する。更に詳しくは、樹脂で含浸された炭素繊維シートを二枚のフレキシブルボードで挟着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シート、あるいは、樹脂で含浸された炭素繊維シートと一枚のフレキシブルボードとを接着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シートを、炭酸ガスレーザーを用いて切断又は穴開けするレーザー加工方法、及び、この方法で加工された炭素繊維強化複合積層シートに関する。
既設コンクリート構造物の材料的・構造的要因による経年劣化は、ひび割れが発生した内部の鉄筋の腐食や断面欠損等を生じ、その構造耐力が低下するため、状態に応じた補強が施される必要があり、様々な補強方法が開発されてきた(特許文献1)。例えば、鋼板巻き工法、炭素繊維シート巻き工法、コンクリート増し厚工法等が挙げられる。
鋼板巻き工法は、既設コンクリート構造物の外側に鋼板を設置し、既設コンクリート構造物と鋼板の間隙にセメント系高強度無収縮モルタルを充填し一体化する工法である。また、炭素繊維シート巻き工法は、既設コンクリート構造物の表面を平滑にした後、炭素繊維シートをエポキシ樹脂で貼着する工法である。そして、コンクリート増し厚工法は、既設コンクリート構造物の表面を平滑にした後、既設コンクリート構造物表面に型枠を配置し、既設コンクリート構造物と型枠の間隙に鉄筋とコンクリートとを打設し一体化する工法である。
しかしながら、これらの補強方法には、それぞれ、次のような問題がある。鋼板巻き工法では、重くて錆び易い鋼板を用いるため、施工性が悪く、防錆対策が必要であり、5年程度のメンテナンスが必要である上、施工時の鋼板同士の溶接における火気対策も必要である。しかも、溶接による品質のバラツキが懸念されるという問題もある。また、炭素繊維シート巻き工法では、既設コンクリート構造物表面の下地処理を入念に実施しないと、施工後に炭素繊維シートが剥離する危険性が高いという問題がある。そして、コンクリート増し厚工法では、既設コンクリート構造物の外側に厚い鉄筋コンクリートを打設するため、構造物が重くなり、既設コンクリート構造物の基礎の補強が必要であると共に、既設コンクリート構造物とその外周の鉄筋コンクリートとの間にセメントの水和熱による熱応力が生起し、施工後にひび割れが発生するという問題がある。
そこで、これらの補強方法の問題を解決する方法であって、所望の構造耐力を確保し、錆の発生や剥離等がなく、施工後においても良好な品質を保持できると共に、施工性に優れた既設コンクリート構造物の補強方法が開発されている。
この既設コンクリート構造物の補強方法は、図1に示すように、炭素繊維強化複合積層シートAを用いることに特徴があり、二種類に大別される。一つは、樹脂で含浸された炭素繊維シート2が、二枚のフレキシブルボード1によって挟着された炭素繊維強化複合積層シートA−1であり、一つは、樹脂で含浸された炭素繊維シート2とフレキシブルボード1とが接着された炭素繊維強化複合積層シートA−2である。ここで、接着剤層3は、含浸する樹脂と共用することも、又、含浸する樹脂と異なる接着剤とすることもある。
フレキシブルボード1は、セメントと有機繊維(パルプ)とを主原料としていることに特徴があり、これらを用いて抄造、高圧プレス成型した後、高温高圧蒸気養生した製品である。JIS A 5430に定められた繊維強化セメント板の中でも、高い強度と靭性を有する耐衝撃性に優れた、最高グレードの難燃性スレートボードであり、他のスレートボードと比較すると比重も大きい。
炭素繊維シート2は、ポリアクリルニトリル系、ピッチ系、レーヨン系の炭素繊維を、単一に配向、積層した1方向シート、又は、単一配向シートをクロス状に積層した2方向シート等の炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂を含浸させたもので、その硬化物は、いわゆる、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)といわれるものである。この硬化物は、鉄と比較して、比重は約1/4にもかかわらず、引張り強度は約5〜6倍もあり、薄膜で鉄筋コンクリートと同等以上の構造耐力を発揮する。
そして、炭素繊維強化複合積層シートA−1は、用途に応じた目付量(単位面積当たりの炭素繊維の重量)及び配向形態の炭素の繊維シートを所定の枚数を所定の方向に重畳させ、フレキシブルボード1に積層し、エポキシ樹脂系接着剤等で含浸した後、炭素繊維シート2をもう一枚のフレキシブルボード1で挟着させて硬化させ、接合一体化される。あるいは、上記炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂等を含浸させて硬化又は半硬化させた炭素繊維シート2を、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)樹脂系、アクリル樹脂系、クロロプレンゴムやスチレン・ブタジエンゴム等のゴム系、セメント系、石膏系等の接着剤で二枚のフレキシブルボード1と挟着させ、強固に接合一体化される。一方、炭素繊維強化複合積層シートA−2は、炭素の繊維シートを同様に重畳させ、上記フレキシブルボード1に積層し、エポキシ樹脂系接着剤等で含浸した後硬化させ、接合一体化される。あるいは、上記炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂等を含浸させて硬化又は半硬化させた炭素繊維シート2を、上記接着剤でフレキシブルボード1と接着させて強固に接合一体化される。しかし、便宜上、図1の炭素繊維強化複合積層シートAの接着剤層3は、含浸する樹脂の場合と含浸する樹脂と同一又は異なる接着剤の場合があるが、区別して描いていない。
このような炭素繊維強化複合積層シートAを用いた既設コンクリート構造物の補強は、主として、充填剤を用いる方法、接着剤を用いる方法、及び、充填剤又は接着剤とアンカーボルトを併用する方法がある。充填剤を用いる方法は、既設コンクリート構造物表面から10〜15mmの間隔を設けて炭素繊維強化複合積層シートAを配置し、両者の間隙に、超早強セメント、膨張材、高性能減水剤を主原料として混合した充填剤、あるいは、エポキシ樹脂系、EVA樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、ゴム系、シリコーン系等の高分子材料を主原料とした充填剤等を埋入して両者を一体化する方法である。接着剤を用いる方法は、炭素繊維強化複合積層シートAの片側面にエポキシ樹脂系等の接着剤を塗布し、炭素繊維強化複合積層シートAと既設コンクリート構造物とを一体化する方法である。また、充填剤材又は接着剤とアンカーボルトを併用する方法は、既設コンクリート構造物に、充填剤又は接着剤により接合された炭素繊維強化複合積層シートA側から所定数のアンカーボルトを挿通して一体化する方法である。
このように、炭素繊維強化複合積層シートAを用いて既設コンクリート構造物を補強するには、炭素繊維強化複合積層シートAは、補強部の大きさや形状等に応じて、また、アンカーボルトの大きさや形状等に応じて成形加工される必要がある。しかし、炭素繊維強化複合積層シートAの構成から分かるように、射出成形等の樹脂加工方法とは異なり、炭素繊維強化複合積層シートAを製造する時点で、大きさや形状等を制御することはできず、予め比較的大面積の炭素繊維強化複合積層シートAを製造した後、切断や穴開け等の加工を施さざるを得ない。
従来、このようなCFRP及びCFRPを含む材料は、超硬チップ又はダイヤモンド等がろう付けされた工具による機械加工、例えば、ランニングソーやルーターを用いた機械加工、あるいは、ウォータージェットに研磨材微粒子を混入させたアブレッシブジェット加工等によって切断又は穴開けが行われてきた。
しかし、CFRPは、剛性に優れた疎水性の炭素繊維の織物が、それと比較すれば、粘弾性を有し、親水性である樹脂に包埋されており、力学的性質及び化学的性質の異なる材料が、積層化、複合化された材料である。そのため、薄膜で鉄筋コンクリートと同等以上の構造耐力を有するが、その機械加工やウォータージェット加工には、様々な問題点がある(特許文献2〜6)。
第一に、加工断面における織物を構成する炭素繊維のほぐれやバリが発生し、曲線の切断や穴開けを精度よく行うことが困難であるという加工品質の問題がある。第二に、超硬チップ又はダイヤモンド等がろう付けされた工具の摩耗が激しく、加工速度が遅く、加工費が高価になるという問題がある。第三に、加工時における炭素繊維の飛散が人体に悪影響を及ぼすという労働環境の問題もある。
第一の問題は、主として炭素繊維の剛性に起因し、第二及び第三の問題は、複合材料が本質的に有する異種材料間の相互作用の不足に起因している。
この異種材料の相互作用の不足は、CFRPが、古くから水の接触角が約90°で、疎水性であることが知られているグラファイトを成分とする疎水性の炭素の繊維シート(非特許文献1)に、水酸基を数多く有し、水の接触角が約60°で、親水性であることが知られているエポキシ樹脂(特許文献7)を含浸した複合材料であることに基づいて生じる。そのため、炭素繊維には、炭素繊維の収束性を改善させ、エポキシ樹脂との接着性を向上させるため、サイジング剤の塗布(非特許文献2及び3)やプラズマ処理(非特許文献1)等が施されているが、機械加工やジェット加工では両者の界面破壊が生じやすいため、上記加工品質及び労働環境の問題が生じてきた。
そこで、CFRP及びCFRPを含む材料の加工は、機械加工やジェット加工に代わり、レーザー加工の検討が積極的に進められている(特許文献2〜6)。
しかしながら、レーザー加工によるCFRP及びCFRPを含む材料の加工においても次のような問題がある。従来からよく使用されている炭酸ガスレーザー等のような赤外線レーザーを用いたレーザー加工は、これまではパルス幅がミリ秒以上である場合が一般的で、材料に吸収されたレーザー光が熱に変換され、その熱エネルギーによる溶融加工を行う熱加工となるため、材料に与える熱損傷が大きい上、炭素繊維が熱伝導の経路の役割を果たし、加工部周辺への熱損傷を拡大させる(特許文献6)。従って、エポキシ樹脂の炭化、加工された材料のCFRP層間の剥離、炭素繊維とエポキシ樹脂との剥離、及び、それらの領域の拡大によって、品質の良い加工が行えないばかりか(特許文献2)、加工された材料の力学的特性を低下させることになる(非特許文献4)。例えば、パルス幅がマイクロ秒オーダーの炭酸ガスレーザーで切断されたCFRPの力学的特性が、機械加工の一種であるミリング加工で切断されたCFRPよりも劣っていることが報告されている(非特許文献4)。
そこで、ナノ秒、ピコ秒、あるいは、フェムト秒の超短パルスのレーザー光を用いた加工が、CFRP等の複合材料や金属の加工法として注目を浴びており、様々な超短パルスのレーザー光を用いた加工法が検討されている(特許文献3〜5)。これは、超短パルスのレーザー光は、ピーク出力及びエネルギー密度が大きく、熱の伝導時間よりもパルスの時間幅が短いので、材料に照射されると、その照射点近傍だけが瞬時に8000℃以上に加熱され、溶融、分解、蒸発が生じ、加工部周辺への熱伝達はほとんどなく、熱損傷を拡大することがない非熱加工、すなわち、アブレーション加工を施すことができると言われているためである。
しかしながら、アブレーション加工の場合、加工コストの問題がある。アブレーション加工で用いられる超短パルスレーザーは、炭酸ガスレーザーよりも波長が短い固体レーザー等が用いられ、ピーク出力及びエネルギー密度は大きいが、平均出力が炭酸ガスレーザー等よりも小さいため、超短パルスレーザーを用いるアブレーション加工の方が、炭酸ガスレーザーを用いた熱加工よりも装置価格が高価になる(非特許文献5)。また、加工作業時間(タクトタイム)についても、超短パルスレーザーを用いるアブレーション加工の方が、炭酸ガスレーザーを用いた熱加工よりも長くなり、加工コストを高める要因となる。この解決策として、単純にアブレーション加工におけるタクトタイムを向上させると、熱加工と同様の熱損傷が生じることになり、レーザー加工のタクトタイムについては、解決困難な矛盾がある(非特許文献6)。このように、レーザー加工のコストは、品質と比例して、超短パルスレーザー>固体レーザー>赤外線レーザーという順に高くなるという問題がある(非特許文献6及び7)。
更に、レーザー光と材料とのマッチングという問題もある。レーザー光による切断や穴開け等の加工は、上述したように、基本的に材料に吸収されたレーザー光が熱に変換されて、溶融、分解、蒸発というプロセスを経て行われるが、材料により吸光特性、すなわち、材料の吸収する波長領域が異なるため、材料がよく吸収する波長のレーザー光を選択する必要がある(非特許文献7)。特に、炭酸ガスレーザー等を用いた熱加工は、レーザー光の吸収率は低いが、照射されるレーザー光の総エネルギーが多いのに対し、超短パルスレーザーを用いたアブレーション加工は、ピーク出力及びエネルギー密度は大きいが、照射されるレーザーの総エネルギーが少ないため、材料の吸光特性に合致した波長のレーザー光が必要である。従って、CFRP等の様々な異種材料からなる複合材料は、その成分によって吸光特性が異なるため、材料に応じた波長のレーザー光を用いたアブレーション加工を行わなければならない。
しかしながら、良好な結果が得られている超短パルスレーザーを用いたCFRP等の複合材料の加工に関する報告は、レーザー照射条件だけに焦点が絞られており、使用された複合材料の成分が不明瞭で、成分や構成等が多種多様な複合材料に関する検討が行われていないと考えられる(特許文献3〜5、並びに、非特許文献8及び9)。
従って、複合材料に関するレーザー加工技術は、加工品質と加工コストの両立が困難である上、あらゆる複合材料に万能なレーザー加工技術が確立されていないと考えられる。
このような状況において、上述した既設コンクリート構造物の補強材料として使用する、炭素繊維強化複合積層シートAは、従来、機械加工によって切断及び穴開け等が行われてきた。これは、炭素繊維強化複合積層シートAは、炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂を含浸させた複数の炭素繊維シート2と、セメントと有機繊維(パルプ)とを主原料としているフレキシブルボード1とをエポキシ樹脂系接着剤3で強固に接合一体化された構成であって、材料及び構造共にCFRPよりも一層複雑である上、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する炭素繊維強化複合積層シートAは、材料信頼性の問題が最も重要な要素であることに起因しており、未だ実績のある機械加工に頼っているのが現状である。しかし、加工品質、加工コスト、及び、労働環境の問題からレーザーによる加工が求められている。
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従来、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する、エポキシ樹脂で含浸された炭素繊維シートを二枚のフレキシブルボードで挟着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シート、あるいは、エポキシ樹脂で含浸された炭素繊維シートと一枚のフレキシブルボードとを接着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シートは、実績のあるランニングソーやルーター等の機械加工によって切断、穴開け等の加工が施されてきた。
しかし、第一に、加工断面における織物を構成する炭素繊維のほぐれやバリが発生し、曲線の切断や穴開けを精度よく行うことが困難であるという加工品質の問題がある。第二に、超硬チップ又はダイヤモンド等がろう付けされた工具の摩耗が激しく、加工速度が遅いという加工コストの問題がある。第三に、加工時における炭素繊維の飛散が人体に悪影響を及ぼすという労働環境の問題もある。
一方、複合材料へのレーザー加工技術の適用は、最近、CFRPを中心にようやく着手され、信頼性という観点からの損傷評価技術の確立が求められているところである(非特許文献5)。特に、既設コンクリート構造物の補強材料として使用される炭素繊維強化複合積層シートは、信頼性が最も重要な要素であるため、実績のある機械加工が採用されており、補強材料の力学的特性に悪影響を及ぼす可能性がある炭酸ガスレーザーを用いた加工は未だ検討されていない。
また、このような炭酸ガスレーザーを用いた加工の熱損傷の問題を解決する、超短パルスのレーザー加工は、装置が高価で、タクトタイムが長いという加工コストの問題がある上、炭素繊維強化複合積層シートの加工に適用されたことがなく、信頼性の問題を完全に払拭するものでもない。
本発明は、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する炭素繊維強化複合積層シートについて、上記種々の問題を解決した、加工品質、加工コスト、及び、労働環境を改善し、かつ、加工された炭素繊維強化複合積層シートの信頼性に優れた炭素繊維強化複合積層シートを提供することができるレーザー加工方法及びその方法で加工された炭素繊維強化複合積層シートを提供することを目的としている。
本発明者らは、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する、エポキシ系樹脂で含浸された炭素繊維シートをセメントと有機繊維(パルプ)とを主原料とする二枚のフレキシブルボードで一体成形した炭素繊維強化複合積層シートを炭酸ガスレーザーで切断した引張強度試験片の力学的特性が、同じ炭素繊維強化複合積層シートをランニングソーで切断した引張強度試験片の力学的特性よりも優れていることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する、エポキシ樹脂で含浸された炭素繊維シートを二枚のフレキシブルボードで挟着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シート、あるいは、エポキシ樹脂で含浸された炭素繊維シートと一枚のフレキシブルボードとを接着して一体成形した炭素繊維強化複合積層シートの炭酸ガスレーザーを用いた加工において、フレキシブルボードに炭酸ガスレーザーの焦点を合わせて炭酸ガスレーザーを照射し、切断又は穴開けすることを特徴とする炭素繊維強化複合積層シートのレーザー加工方法である。より好ましくは、フレキシブルボード最表面に炭酸ガスレーザーの焦点を合わせて炭酸ガスレーザーを照射し、切断又は穴開けすることを特徴とする炭素繊維強化複合積層シートのレーザー加工方法である。
また、本発明は、上記レーザー加工方法で切断又は穴開けされたことを特徴とする力学的特性に優れた炭素繊維強化複合積層シートである。
本発明で切断又は穴開けされる炭素繊維強化複合積層シートは、図1の炭素繊維強化複合積層シートA−1に示すように、エポキシ系樹脂等で含浸された炭素繊維シート2が、含浸するエポキシ系樹脂等を接着剤層3として形成され二枚のフレキシブルボード1によって挟着されている構成、あるいは、エポキシ系樹脂等で含浸され硬化又は半硬化した炭素繊維シート2が、含浸するエポキシ系樹脂と同一又は異なる接着剤が接着剤層3を形成して二枚のフレキシブルボード1によって挟着されている構成のいずれであってもよい。また、本発明で切断又は穴開けされる炭素繊維強化複合積層シートは、図1の炭素繊維強化複合積層シートA−2に示すように、エポキシ系樹脂等で含浸された炭素繊維シート2が、含浸するエポキシ系樹脂等を接着剤層3として形成され一枚のフレキシブルボード1と接着されている構成、あるいは、エポキシ系樹脂等で含浸され硬化又は半硬化した炭素繊維シート2が、含浸するエポキシ系樹脂と同一又は異なる接着剤が接着剤層3を形成して一枚のフレキシブルボード1と接着されている構成のいずれであってもよい。
フレキシブルボード1は、セメントと有機繊維(パルプ)とを主原料とし、これらを用いて抄造、高圧プレス成型した後、高温高圧蒸気養生した製品である。JIS A 5430に定められた繊維強化セメント板の中でも、高い強度と靭性を有する耐衝撃性に優れた、他のスレートボードと比較すると比重が約1.6と大きく、最高グレードの難燃性スレートボードであるものが好ましい。特に、原料として、普通ポルトランドセメント35〜45質量%、ケイ酸質原料30〜40質量%、有機繊維5〜8質量%、及び、無機質混和材15〜20質量%を含むフレキシブルボードがより好ましく、アイカテック建材(株)製フレキシブルボードN、(株)ノザワ製フレキシブルシートN、(株)エーアンドエーマテリアル製セルフレックス、チヨダセラ(株)製チヨダセラフレキ(フレキシブルボードNM−2694)等を用いることができる。
炭素繊維シート2は、炭素繊維の素線(フィラメント)をより集めた紐状のストランドを、単一方向に配向、積層した1方向シート、又は、単一配向シートをクロス状に積層した2方向シート等の炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂等を含浸させたものが好ましく用いられる。
炭素繊維のフィラメントは、ポリアクリルニトリル系、ピッチ系、及び、レーヨン系、いずれの炭素繊維を用いることができるが、含浸するエポキシ系樹脂との接着力を向上させるサイジング処理やプラズマ処理等が施されたものが好ましい。特に、炭素繊維としてはポリアクリルニトリル系が好ましく、サイジング処理は、サイジング剤として、低分子エポキシ系樹脂や低分子ビニルエステル系樹脂を用いたものが好ましい。
また、炭素繊維のシートの形状を保持するため、炭素繊維のストランドに対して直交するようにガラス繊維等を織り込んだ織物とするクロスタイプと、シートの両面に直交したガラス繊維等を融着させて両面メッシュとするタイプがあり、限定されるものではない。そして、炭素繊維のシートの目付量は、200〜1800g/m2のものが用いられるが、好ましくは、200〜1200g/m2、より好ましくは、200〜600g/m2のものが用いられる。代表的なエポキシ系樹脂等を含浸する前の炭素繊維のシートとしては、前田工繊(株)製FFシート、東レ(株)製トレカ(登録商標)クロス、新日鉄住金マテリアルズ(株)コンポジット製FORCAトウシートFTS−Cシリーズ、三菱ケミカルインフラテック(株)製リペラーク(登録商標)MRKシリーズ、三菱ケミカル(株)製パロフィル(登録商標)炭素繊維クロス等を用いることができる。
上記炭素繊維のシートに含浸するエポキシ系樹脂としては、主剤がエポキシ系樹脂で、硬化剤がアミン類である二液硬化型エポキシ系樹脂、主剤がエポキシ系樹脂で、硬化剤が酸無水物と第三級アミンである加熱硬化型エポキシ系樹脂等を用いることができる。ただし、硬化物の力学的特性等の各種物性及び切断等の加工適性に優れ、硬化条件が温和である、主剤がエポキシ系樹脂で、硬化剤がアミン類である二液硬化型エポキシ系樹脂が好ましく用いられる。
この二液硬化型エポキシ系樹脂を構成するエポキシ系樹脂は、ビスフェノール系エポキシ樹脂、フェノール系エポキシ樹脂、ポリグリコール系エポキシ樹脂、エステル系エポキシ樹脂等を用いることができるが、硬化物の物性上、ビスフェノール系エポキシ樹脂、特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及び、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物が好ましい。具体的には、(株)アルテコ製CFボンド主剤、(株)スリーボンド製Three Bond 2022及び2023等の2000シリーズ、2081、2083、2086、及び、2088等の2080シリーズの主剤、三菱ケミカル(株)製各種jER(登録商標)エポキシ樹脂等を単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。
一方、アミン類は、第一級、第二級、又は、第三級のアミン又はポリアミンをいずれも用いることができ、これらを二種以上混合して用いることもできる。また、これらのアミン類は、脂肪族系アミンであっても芳香族アミンであっても良い。更に、硬化物の物性、揮発性、エポキシ系樹脂との相溶性、硬化速度、及び、毒性等の改善及び調整のために、これらのアミンに、分子量の大きなグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及び、エポキシ化合物等を付加した変性アミン又は変性ポリアミン、シアノエチル及びフッ化ホウ素等を付加した変性アミン又は変性ポリアミンを用いることもできる。特に、物性上、変性脂肪族ポリアミンが好ましい。具体的には、(株)アルテコ製CFボンド硬化剤、(株)スリーボンド製Three Bond 2102、2103、2105、2106、2107、2163、及び、2131等の2100シリーズ、三菱ケミカル(株)製jERキュア(登録商標)T、T0184、U,113、及び、W等の各種jERキュア(登録商標)シリーズ等を単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。
このようなエポキシ系樹脂は、炭素繊維のシートを含浸すると共に、フレキシブルボード1との接着剤層3を形成するが、炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂が含浸され、硬化又は半硬化された炭素繊維シート2とフレキシブルシートの接着剤層3としても使用される。なお、これらの配合比は、エポキシ系樹脂とアミン類との組み合わせにより適宜決定される。
そして、本発明のレーザー加工に供しされる炭素繊維強化複合積層シートAの両面フレキシブルボードタイプA−1は、単一方向に配向、積層した1方向シート、又は、単一配向シートをクロス状に積層した2方向シートであって、目付量200〜600g/m2である炭素繊維のシートを、用途に応じて所定の枚数及び所定の方向に重畳させ、一枚のフレキシブルボード1の上に積層し、主剤がエポキシ系樹脂で、硬化剤がアミン類である二液硬化型エポキシ系樹脂を含浸した後、もう一枚のフレキシブルボード1で挟み込み、二液硬化型エポキシ系樹脂が硬化することによって炭素繊維シート2とフレキシブルボード1とを強固に接合一体化させて製造される。予め、エポキシ系樹脂が含浸、硬化又は半硬化した炭素繊維シート2を作製し、それらを所定の枚数及び所定の方向に重畳させ、二液硬化型エポキシ系樹脂を用いて、二枚のフレキシブルボード1で挟着させることも可能であるが、接着性の観点から、上述したように一体接合することが好ましい。
片面フレキシブルボードも、同様に、上記炭素繊維の炭素繊維のシートを重畳させ、フレキシブルボード1の上に積層し、主剤がエポキシ系樹脂で、硬化剤がアミン類である二液硬化型エポキシ系樹脂を含浸した後、二液硬化型エポキシ系樹脂が硬化することによって炭素繊維シート2とフレキシブルボード1とを強固に接合一体化させて製造される。予め、エポキシ系樹脂が含浸、硬化又は半硬化した炭素繊維シート2を作製し、それらを所定の枚数及び所定の方向に重畳させ、二液硬化型エポキシ系樹脂を用いてフレキシブルボード1と接着させることも可能であるが、接着性の観点から、上述したように一体接合することが好ましい。
本発明の炭素繊維強化複合積層シートAの切断又は穴開け等を行うレーザー加工方法は、装置が安価で、タクトタイムが短く、加工コストの低い炭酸ガスレーザーを用い、レーザービームの焦点をフレキシブルボード1に合わせることを特徴としており、特に、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する炭素繊維強化複合積層シートAに対して有効な方法である。更に、レーザービームの焦点をフレキシブルボード1の最表面に設定することがより好ましい。このような炭酸ガスレーザーの加工方法が有効である原因は、炭素繊維強化複合積層シートAが、炭素繊維のシートにエポキシ系樹脂を含浸させた複数の炭素繊維シートを所定の方向に重畳させ、その両側から、セメントと有機繊維(パルプ)とを主原料としているフレキシブルボード1で挟み込んで、それぞれを、エポキシ樹脂系接着剤で強固に接合一体化された構成であって、CFRPよりも複雑な材料及び構造になっていることと関連しているものと考えられる。すなわち、炭酸ガスレーザーの焦点をフレキシブルボード又はその最表面に設定することによって、炭酸ガスレーザーのCFRPである炭素繊維シート2に対する熱損傷を防止することができ、炭素繊維を経路として伝わる熱が、加工部周辺への熱損傷の拡大を低減することができたものと考えられる。従って、エポキシ系樹脂の炭化、フレキシブルボード1と炭素繊維シート2との層間剥離離、炭素繊維とエポキシ系樹脂との剥離、及び、それらの領域の拡大が発生することなく、外観的にも物性的にも品質の良い加工が行えるようになった。外観的には、加工断面における織物を構成する炭素繊維のほぐれやバリの発生がなく、曲線の切断や穴開けを精度よく行え、加工時における炭素繊維の飛散が人体に悪影響を及ぼすという労働環境の問題も解決することができた。物性的には、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する炭素繊維強化複合積層シートAに求められる安定した材料信頼性(機械的特性)の加工品を供給することができるようになった。
外観的にも物性的にもより品質の良い切断及び穴開け等の炭酸ガスレーザーによる加工を行うためには、次のように、炭酸ガスレーザーの発振形態及び照射条件を制御することが望ましい。第一に、発振形態としては、ノーマルパルス発振で、パルス幅が5〜10μsであることが好ましい。第二に、出力は300〜500Wであることが好ましい。第三に、繰り返し駆動周波数は、50,000〜100,000Hzであることが好ましい。第四に、スポット径は、50〜300μmであることが好ましい。第五に、プロッタスピードは、50〜100cm/minであることが好ましい。これらの上限値以上に設定されると、炭酸ガスレーザーの熱損傷が発生し始め、これらの下限値以下に設定されると、切断及び穴開け等の加工スピードが遅くなるという問題が生じる。
このような炭酸ガスの発振形態及び照射条件は、レーザービームの焦点をフレキシブルボード1に合わせることと並んで重要な要素である。従来、炭酸ガスレーザーは、パルス幅がミリ秒以上である場合が一般的で、材料に吸収されたレーザー光が熱に変換され、その熱エネルギーによる溶融加工を行う熱加工であるため、材料に与える熱損傷が大きい上、炭素繊維が熱伝導の経路の役割を果たし、加工部周辺への熱損傷を拡大させる要因となっていた。パルス幅を、マイクロ秒オーダーの炭酸ガスレーザーとすることに加え、上述した出力、繰り返し駆動周波数、スポット径、プロッタスピードとすることによって、超短パルスレーザーを用いたアブレーション加工と類似の効果をもたらし、炭酸ガスレーザーではあるが、タクトタイムが長くなることなく、熱損傷を低減できたものと考えられる。
そして、炭酸ガスレーザー加工装置は、特に限定されるものではなく、ワークエリアが広く、パターン照射可能で、入力されたデータに基づき、ワーキングエリア内のX−Y軸方向を自在に移動することによって、切断及び穴開けできるものであればよい。具体的な炭酸ガスレーザー加工装置としては、smartDIYs社製Smart Laser CO2、Universal Laser Systems社製VLSシリーズ、PLSシリーズ、ILSシリーズ、及び、PLS6MW、Trotec社製Speedyシリーズ、SPシリーズ、及び、GSシリーズ、Epilog社製各種Epilog Laser及び各種LaserLife、Gravograph社製LSシリーズ、GCC社製LaserPro(登録商標)シリーズ、SEI社製XYシリーズ等を挙げることができる。中でも、ワーキングエリアが広く、連続的な製造が可能な、Universal Laser Systems社製ILSシリーズ及びPLS6MW、Trotec社製GSシリーズ、Epilog社製LaserLifeのCBFシリーズ、CSHシリーズ、LCRシリーズ、LCGシリーズ、LCIシリーズ、CSEシリーズ、及び、LEWシリーズ、Gravograph社製LS1000Xp、及び、SEI社製MERCURY609シリーズが好ましい。
本発明により、炭素繊維強化複合積層シートAの品質に優れた切断又は穴開け等を、装置が安価で、タクトタイムが短く、加工コストの低い炭酸ガスレーザーを用いて行うことが可能になった。特に、既設コンクリート構造物の補強材料として使用する炭素繊維強化複合積層シートAに対して有効な方法で、炭酸ガスレーザーのCFRPである炭素繊維シート2に対する熱損傷を防止することができ、炭素繊維を経路として伝わる熱が、加工部周辺への熱損傷の拡大を低減することができた。従って、エポキシ系樹脂の炭化、フレキシブルボード1と炭素繊維シート2との層間剥離、炭素繊維とエポキシ系樹脂との剥離、及び、それらの領域の拡大が発生することなく、外観的にも物性的にも品質に優れた加工が行える。外観的には、ランニングソーやルーター等の機械加工で認められた加工断面における織物を構成する炭素繊維のほぐれやバリの発生がなく、曲線の切断や穴開けを精度よく行え、加工時における炭素繊維の飛散が人体に悪影響を及ぼすという労働環境の問題も解決することができた。物性的には、従来採用されてきたランニングソーやルーター等の機械加工で切断及び穴開けされた加工品の材料信頼性(機械的特性)となる同等まで大幅に改善することが可能となった。
以下、本発明を、実施形態を用いてより具体的に説明するが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
本発明の炭酸ガスレーザーを用いて加工する炭素繊維強化複合積層シートAは、次のようにして製造した。
フレキシブルボード1は、普通ポルトランドセメント35〜45質量%、けい酸質原料30〜40質量%、有機質繊維5〜8質量%、及び、無機質混和材15〜20質量%を原料として、これらを用いて抄造、高圧プレス成型した後、高温高圧蒸気養生した(株)ノザワ製フレキシブルボードN品(厚さ:約3mm)を用いた。炭素繊維のシートとしては、目付量200g/m2の前田工繊(株)製一方向炭素繊維シートFF−CR120−50−Eを用い、二液硬化型エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物を主剤とし、変性脂肪族ポリアミンを硬化剤とする、(株)アルテコ製CFボンドを用いた。
そして、これらの材料を用い、一枚のフレキシブルボード1上に炭素繊維のシートを1枚積層し、炭素繊維のシートに二液硬化型エポキシ系樹脂を含浸した後、もう一枚のフレキシブルボード1を積層して加圧し、二液硬化型エポキシ系樹脂が硬化することによって炭素繊維シート2とフレキシブルボード1とを接合一体化させて両面フレキシブルボードタイプの炭素繊維強化複合積層シートA−1を製造した。その結果、CFRP層の厚さは約1mmとなった。
この炭素繊維強化複合積層シートA−1は、炭酸ガスレーザー装置として、SEI社製MERCURY609NRGを用い、図3に示す引張強度試験に使用する試験片の形状に切断した。比較のため、機械加工であるランニングソーを用い、図3に示す引張強度試験に使用する試験片の形状に切断した。
炭酸ガスレーザーの発振形態及び条件は、次のように設定して切断した。発振形態は、ノーマルパルス発振で、最大出力、放出率(P%)、出力、繰り返し駆動周波数(F)、スポット径、及び、プロッタスピードは、それぞれ、467W、80%、374W、500〜100,000Hz、155μm、及び、60cm/minとし、繰り返し駆動周波数(F)によりパルス幅(PW)を変化させた各条件に設定し、図2に示すように、焦点をフレキシブルボードの最表面5の位置に合わせて切断した。なお、ここで変化させたパルス幅(PW)は、本実施例で使用した炭酸ガスレーザーの発振装置の特性に基づく関係式、PW=0.6×P/(100×F)により求められた。また、比較のために行ったランニングソーの切断は、炭酸ガスレーザーの切断速度に相当するプロッタ速度で行った。切断された各試験片の物性は、引張強度試験機を用い、引張速度10mm/minで行った。
ここで、切断された試験片の物性測定法として引張強度試験を採用したのは、これが、材料の強度を測定する最も基本的で信頼性のある試験方法として広く認知されているためである。この試験は,変位(歪み)として伸びを試験片に与えたときの荷重を、連続的に変化する伸びに対して測定できるものである。図4に示した引張強度試験システムの概要図は、特に、ネジ式又はインストロン型引張試験システムという。クロスヘッド6上部に荷重を検出するロードセル7が備えられ、これに上部試験片固定チャック8−1を連結し、引張強度試験片Cの上部を掴む。一方、引張強度試験片Cの下部は、下部試験片固定チャック8−2で掴む。クロスヘッド6は、サーボモーター9で、両側の(図4では、右側のネジ棹を省略)ネジ棹を回転させることによって上下し、引張強度試験片Cは一定の速度で引き伸ばされ、引張強度試験片Cに与えられる荷重がロードセルによって電気信号に変換され増幅される。伸びは、クロスヘッド6の移動量に相当するネジ棹の回転量が電気信号に変換され増幅される。そして、これらの電気信号は、XY記録計13を用い、荷重信号をY軸に、伸びの信号をX軸に入力することによって、連続的に荷重−伸び曲線、すなわち、図5(a)及び(b)に示したような試験力(荷重)−変位(歪み)曲線として記録することができ、この試験力(荷重)−変位(歪み)曲線から材料の引張に対する力学的特性が評価される。ここでは、図3に示したように、上部試験片固定チャック8−1及び下部試験片固定チャック8−2の先端が引張強度試験片Cの(1)及び(3)の位置となるように掴み、(2)の位置で破断したものについて、破断荷重実測値と引張強度試験片Cの断面積から単位断面積当たりの破断荷重を求め、力学的特性である破断強度として評価している。
引張試験の結果として得られる試験片の試験力(荷重)−変位(歪み)曲線の代表例として、図5(a)には、960μsのパルス幅の炭酸ガスレーザーで切断した試験片の試験力(荷重)−変位(歪み)曲線を、図5(b)には、5μsのパルス幅の炭酸ガスレーザーで切断した試験片の試験力(荷重)−変位(歪み)曲線を示した。そして、このような曲線の解析結果は、ランニングソーで切断した試験片から得られた曲線の解析結果も含めて表1にまとめた。なお、表1の解析結果は、図5から分かるように、引張強度試験は10個の試験片を用いて行い、図3の(2)の領域で破断した7つの試験結果から、破断荷重実測値の最大値と最小値を削除し、単位断面積当たりの破断荷重を力学的特性である破断強度として評価したものである。
従来から使用されており、ランニングソーで切断された炭素繊維強化複合積層シートは十分に信頼性があると認知されているので、炭酸ガスレーザーで切断した炭素繊維強化複合積層シートをランニングソーで切断した炭素繊維強化複合積層シートとの物性を比較することによって、本発明の炭酸ガスレーザーの加工方法が、従来の問題点であった熱損傷を解決する手段として有効な方法であるか否かを判断することができる。
ランニングソーで切断された引張強度試験片Cの破断強度の標準偏差σは23.2N/mm2、3σは68.2N/mm2であり、引張強度試験片Cの破断強度の99.7%、すなわち、99.7%破断強度が425N/mm2以上の力学的特性を有している。従って、炭酸ガスレーザーで切断された引張強度試験片Cの破断強度の標準偏差σがこれ以下であり、99.7%破断強度がこれ以上に入れば、炭酸ガスレーザーの熱損傷の問題を解決することができたものとみなすことができる。
表1から明らかなように、パルス幅が5μs及び10μsにおける破断強度の標準偏差σ及び3σは、それぞれ、17.9N/mm2及び22.4N/mm2であり、ランニングソーで切断した場合の破断強度よりも安定した破断強度を示した。そして、これらの引張強度試験片Cの99.7%破断強度も、それぞれ、474N/mm2以上、及び、471N/mm2以上を示した。これは、ランニングソーの結果と比較すると、本発明のレーザー加工が、炭素繊維強化複合積層シートA−1に対する物性的損傷を与えることなく切断できたことを示している。すなわち、炭酸ガスレーザーを用いたレーザー加工の熱損傷を、炭酸ガスレーザービームの焦点の位置をフレキシブルボードの最表面にすると共に、炭酸ガスレーザーの発振形態及び照射条件、特に、パルス幅を5〜10μsの範囲に制御することによって達成することができたものと考えられる。
更に、表1の切断された断面積の結果から明らかなように、引張強度試験片Cの厚さは一定であるので、ランニングソーで加工された引張強度試験片Cの幅よりも、炭酸ガスレーザーで加工された引張強度試験片Cの幅の方が均一で、精度よく切断できることが分かる。また、切断面の目視観察から、ランニングソーの場合、織物を構成する炭素繊維のほぐれやバリが発生し、加工時における炭素繊維の飛散があるのに対し、炭酸ガスレーザーでは、このような現象は認められなかった。
本発明の炭素繊維強化複合積層シートの炭酸ガスレーザーの加工方法は、CFRP等の炭素繊維シートとフレキシブルボード以外の有機質又は無機質のシートとの複合積層シートの切断及び穴開け等の加工方法にも適用することができ、炭酸ガスレーザーによる熱損傷が少ない加工品を提供できる。また、従来炭酸ガスレーザーを用いて加工されてきた種々の複合材料にも適用し、熱損傷の削減を図ることが可能である。その結果、本発明の炭酸ガスレーザーの加工方法により製造された炭素繊維強化複合積層シートは、力学的特性が均一な信頼性の高いものであり、既設コンクリート構造物の補強だけでなく、様々な構造部として利用することができる。
A 炭素繊維強化複合積層シート
A−1 両面フレキシブルボードタイプ
A−2 片面フレキシブルボードタイプ
1 フレキシブルボード
2 樹脂を含浸した炭素繊維シート
3 接着剤層
4 炭酸ガスレーザー
5 炭酸ガスレーザーの焦点の位置
B 引張強度試験システム
6 クロスヘッド
7 ロードセル
8−1 上部試験片固定チャック
8−2 下部試験片固定チャック
9 サーボモーター
10 ネジ棹
11 増幅器1
12 増幅器2
13 XY記録計
C 引張強度試験片
A−1 両面フレキシブルボードタイプ
A−2 片面フレキシブルボードタイプ
1 フレキシブルボード
2 樹脂を含浸した炭素繊維シート
3 接着剤層
4 炭酸ガスレーザー
5 炭酸ガスレーザーの焦点の位置
B 引張強度試験システム
6 クロスヘッド
7 ロードセル
8−1 上部試験片固定チャック
8−2 下部試験片固定チャック
9 サーボモーター
10 ネジ棹
11 増幅器1
12 増幅器2
13 XY記録計
C 引張強度試験片
Claims (6)
- エポキシ系樹脂で含浸された炭素繊維シートを、セメントと有機繊維とを主原料とするフレキシブルボード二枚で挟着して一体成形された炭素繊維強化複合積層シート、又は、前記炭素繊維シートを前記フレキシブルボード一枚と接着して一体成形された炭素繊維強化複合積層シートの炭酸ガスレーザーを用いた加工において、前記炭酸ガスレーザーとしてノーマルパルス発振の炭酸ガスレーザーを用い、前記炭酸ガスレーザーの焦点を前記フレキシブルボードの最表面に固定し、前記炭酸ガスレーザーのパルス幅を5〜10μsの範囲で照射して切断又は穴開けすることを特徴とする炭素繊維強化複合積層シートのレーザー加工方法。
- 前記炭酸ガスレーザーの出力が300〜500Wであることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工方法。
- 前記炭酸ガスレーザーの繰り返し駆動周波数が50,000〜100,000Hzであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー加工方法。
- 前記炭酸ガスレーザーのスポット径が50〜300μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザー加工方法。
- 前記炭酸ガスレーザーのプロッタスピードが、50〜100cm/minであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザー加工方法。
- 請求項1〜5に記載のレーザー加工方法で切断又は穴開けされた炭素繊維強化複合積層シートであって、引張強度試験における引張速度10mm/minで測定した破断強度をK、前記破断強度の標準偏差をσとしたとき、K−3σ≧425N/mm 2 であることを特徴とする炭素繊維強化複合積層シート。
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