JP6467177B2 - 花の香り由来の天敵昆虫誘引成分およびその利用 - Google Patents

花の香り由来の天敵昆虫誘引成分およびその利用 Download PDF

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Description

本発明は、花の香りに由来する天敵昆虫誘引成分に関するものであり、より詳細には、天敵昆虫を圃場内に効率よく誘引して天敵昆虫に採餌を促す成分およびその利用に関するものである。
近年の農業では、害虫を防除するために化学農薬が広く使用されているが、その一方で、使用した化学農薬に対する抵抗性を獲得した害虫の出現や、食品中および農地・水系などの環境中への化学農薬の残留といった諸問題が生じている。このような化学農薬の使用に代わる技術として、害虫の天敵となる生物を利用する生物的防除法(バイオロジカル・コントロール)が国内外で実用化されつつある。生物的防除には、(i)圃場内または圃場周辺に生息している天敵(土着天敵)にとって好ましい環境を整え、その働きを高める方法(土着天敵の保護・強化)、(ii)圃場から離れた土地に生息している国内外の天敵を、必要に応じて増殖させてから圃場へ放飼する方法(導入天敵の放飼)などがある。
害虫に寄生するタイプの天敵である寄生蜂では、寄主の害虫が食害した時にだけ植物から顕著に放出される揮発性成分を寄主探索の手掛かりとして利用している。そこで、土着天敵の保護・強化の方法として、このような植物揮発性成分を徐放させることにより、周辺に生息する寄生蜂を圃場内へ誘い寄せる手法が考案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、寄生蜂などの雌成虫の多くは、寄主を探す一方で、寄主と異なる場所にある花蜜などの餌を摂取することが必要である。アブラナ科植物の害虫であるコナガ幼虫に産卵する寄生蜂コナガサムライコマユバチの雌成虫の場合、空腹時には前述の植食者誘導性植物揮発性成分に対する反応が低下し、誘引されない(非特許文献1参照)。また、十分に給餌されていないと、寿命が短くなるだけでなく、寄生効率も低下することが報告されている(非特許文献2参照)。これらの事項は、土着天敵および導入天敵のいずれにも該当する。また、同様のことが、寄生性の天敵(寄生性天敵)だけでなく、害虫を捕食する天敵(捕食性天敵)についてもあてはまる。すなわち、獲物の害虫を食べ尽くしたときに代替餌が存在しなければ、天敵は圃場内に定着せず、その結果、次の害虫発生時に十分な防除効果が得られない。
特開2005−272436号(2005年10月6日公開) 特開2006−149256号(2006年6月15日公開)
Kugimiya S, Shimoda T, Uefune M, Takabayashi J (2010) Applied Entomology and Zoology 45: 369-375 Mitsunaga T, Shimoda T, Yano E (2004) Applied Entomology andZoology, 39: 691-697 Kugimiya S, Shimoda T, Tabata J, Takabayashi J (2010) Journal of Chemical Ecology 36: 620-628
従って、何らかの方法で天敵を圃場内に誘引して留めておく技術が求められる。既に、人工的な餌源を圃場に設置することで天敵の能力を活性化させる技術(特許文献2参照)も知られているが、空腹の天敵を効率良く誘引することは解決されていない。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、寄生蜂を効率よく誘引し、給餌を促進し、害虫の防除を効率化する技術を提供することにある。
本発明者らは、独自の観点に基づき、試行錯誤を繰り返した結果、寄生蜂を誘引する成分が花の香りに含まれることを見出し、この誘引成分に含まれる単独化合物であっても寄生蜂を誘引したり、その給餌を促進して植物の害虫を防除または予防したりし得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、天敵昆虫を誘引するための組成物を提供し、本組成物は、花の香りに由来する成分の少なくとも1つを含有することを特徴としている。
本発明はまた、天敵昆虫の給餌を促進するための組成物を提供し、本組成物は、上記組成物を含有することを特徴としている。
本発明はさらに、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させるための組成物を提供し、本組成物は、上記組成物を含有することを特徴としている。
上述した組成物において、上記天敵昆虫は寄生性昆虫であっても捕食性昆虫であってもよい。
本発明は、天敵昆虫を誘引する方法を提供し、本方法は、天敵昆虫を誘引するための上記組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程を包含することを特徴としている。
本発明はまた、天敵昆虫の給餌を促進する方法を提供し、本方法は、天敵昆虫の給餌を促進するための上記組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程を包含することを特徴としている。
本発明はさらに、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させる方法を提供し、本方法は、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させるための上記組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程、あるいは上記組成物を圃場の内部または周辺部に配置する工程を包含することを特徴としている。
上述した方法において、上記天敵昆虫は寄生性昆虫であっても捕食性昆虫であってもよい。
本発明は、植物用害虫防除剤を提供し、本防除剤は、上述した組成物のいずれか1つを含有することを特徴としている。
本発明は、植物の害虫を防除または予防する方法を提供し、本方法は、上記植物用害虫防除剤を、害虫の付着を抑制または排除すべき植物の近傍、あるいは該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に配置する工程を包含することを特徴としている。
本発明は、天敵昆虫捕獲用トラップを提供し、本トラップは、上述した組成物のいずれか1つと、誘引された天敵昆虫を捕捉する捕捉手段とを備えていることを特徴としている。
上記トラップにおいて、上記天敵昆虫は寄生性昆虫であっても捕食性昆虫であってもよい。
本発明は、天敵昆虫を誘引する花香成分をスクリーニングする方法を提供し、本方法は、目的の天敵昆虫の採餌行動の頻度が高い時期を調べる第1工程;第1工程で得られた時期に放出量が高い花香成分を選択する第2工程;および、選択された花香成分が目的の天敵昆虫を誘引するか否かを確認する第3工程を包含することを特徴としている。上記時期は、一日における時間的なタイミングであっても、一年における季節的なタイミングであってもよい。
上述した方法において、第1工程に用いられる餌は人為的な調製物であることが好ましいが、花そのものや、花蜜、花粉、蜂蜜等が用いられてもよい。
本発明の天敵誘引成分を用いることにより、寄生蜂を効率良く誘引することができ、これにより、食餌条件に関わらず寄生蜂を誘引することが可能となるとともに、空腹の個体に採餌を促すことができるという、効果的な生物的防除技術を提供することができる。
また、本発明の天敵誘引成分は花の香りに由来するものであるため、自然環境への悪影響が少なく、環境保全に貢献することができる。
コマツナ食害株に対する寄生蜂の選好性を示す図である。 コマツナ花序に対する寄生蜂の選好性を示す図である。 コマツナ花香成分の放出量の日周変動を示す図である。 寄生蜂がコマツナの花を訪れる行動の日周変動を示す図である。 コマツナ花香成分によって寄生蜂が餌源へ誘引されることを示す図である。 コマツナ花香成分を徐放する器具を近傍に配置することによって、食害株上にて生育するコナガへの寄生蜂の寄生率が高くなることを示す図である。 コマツナ花香成分を徐放する捕獲用トラップによって、寄生性の天敵昆虫だけでなく捕食性の天敵昆虫も効率的に捕獲し得ることを示す図である。
〔1〕花香成分
植物が害虫の食害を受けると、天敵誘引成分を誘導的に生産しかつ放出し、これにより、食害している害虫の天敵を誘引し、結果として、害虫からの被害を防ぐという、植物−害虫−天敵の相互作用を利用した「誘導的間接防衛戦略」が知られている(特許文献1等)。一部の天敵昆虫が標的とする害虫は当該分野において周知であり、例えば、コナガサムライコマユバチはコナガに対する天敵である。特許文献1では、コナガに食害された植物が放出する天敵誘引成分を開示している。特許文献1に開示された天敵誘引成分は、複数の化合物が混合された物質であり、これらは単独でコナガサムライコマユバチを誘引することができない。
本発明では、天敵昆虫を誘引するために、食害された植物の葉から放出される天敵誘引成分でなく、花の香りに由来する成分が用いられる。本明細書中で用いられる場合、「花の香りに由来する成分」は、「花香成分」と置換可能に用いられ、「天然の花」の香りから抽出した「天然」の化合物であってもよいし、公知の方法で人工的に合成された化合物であってもよい。なお、見た目が互いに似ており、敏捷に動き回る微小な寄生蜂の異なる種を目視で識別することは甚だ難しく、どの種がどこへ飛んでいき、どの花へ誘引されるのか、あるいは、どの花を餌源として利用しているのかを野外で追跡することは極めて困難であった。
本明細書中で用いられる場合、用語「天敵昆虫」は寄生性昆虫および捕食性昆虫が意図され、寄生性昆虫としては、寄生蜂または寄生蠅が好ましく、寄生蜂がより好ましく、コナガサムライコマユバチが最も好ましい。また、捕食性昆虫としては、テントウムシがより好ましく、ヒメカメノコテントウが最も好ましい。天敵昆虫は、圃場内または圃場周辺に生息している天敵(土着天敵)であっても圃場から離れた土地に生息している国内外の天敵(導入天敵)であってもよく、必要に応じて増殖させてから圃場へ放飼することもできる。
コナガサムライコマユバチを誘引する場合、アブラナ科植物の花が好適に用いられる。本発明に用いられるアブラナ科植物としては、Brassica属、Arabidopsis属、Rorippa属が挙げられ、Brassica rapa(コマツナ、アブラナ、ミズナ、ハクサイ等)が好ましく、コマツナがより好ましい。本発明に好適に用いられるコマツナの花香成分としては、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、α−ピネン、(E,E)−α−ファーネセン、(Z)−3−ヘキセニルアセテート、リモネン、(E)−β−オシメン、リナロールオキシド、プレニルアセトン、ゲラニルアセトン、(Z,Z)−α−ファーネセン、(Z,E)−α−ファーネセン、(E,Z)−α−ファーネセン、ファルネサール等が挙げられ、α−ピネン、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、プレニルアセトン、ゲラニルアセトン、および(E,E)−α−ファーネセンからなる群より選択される化合物が好ましく、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、(S)−α−ピネン、(E,E)−α−ファーネセンがより好ましい。これらの化合物は、単独で用いられても複数組み合わせて用いられても空腹のコナガサムライコマユバチおよびヒメカメノコテントウをも首尾よく誘引することができる。
上述した花香成分は、開花している植物の周囲の大気を回収し、公知の方法に従って抽出/精製することができる。また、上記花香成分は、開花している植物の周囲の大気から抽出/精製した化合物に限定されず、同一の化学構造を有する化合物を公知の合成法に従って人工的に合成してもよい。特に、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、(Z)−3−ヘキセニルアセテート、リモネン、ゲラニルアセトンは、安価に製造および/または入手することができるため、本発明に好適に用いられる。
〔2〕花香成分の利用
〔2−1〕天敵昆虫の誘引および害虫の防除/予防
本発明は、天敵昆虫を誘引するための組成物を提供し、本組成物は、少なくとも1つの花香成分を含有することを特徴としている。本発明を用いることによって天敵昆虫を誘引することができるので、天敵昆虫の標的である害虫の防除を効率よく行うことができる。すなわち、本発明はまた、植物用害虫防除剤を提供し、本防除剤は、上記花香成分、または天敵昆虫を誘引するための組成物を含有することを特徴としている。
本発明を用いることによって、害虫駆除のために大量に使用されていた農薬の量を低減させることができ、環境に対する農薬の悪影響を回避することができるという利点を有している。それゆえ、本発明は、農業的および/または社会的に大きな波及効果を期待することができる。
本発明の植物用害虫駆除剤は、上記花香成分だけでなく副成分が含まれていてもよい。上記副成分としては、例えば、pH緩衝液、安定化剤、抗菌剤、抗生物質等が挙げられる。また、天敵昆虫以外の昆虫による餌利用を防ぐために、寄生蜂には効かず、害虫にだけ選択的に効くような農薬等が適宜添加されていてもよい。
上記植物用害虫防除剤は、上記花香成分を最適比率かつ最適濃度にて調整すればよい。希釈される場合、その媒体は、水系でも有機系でもよく、有機系の媒体が用いられる場合、植物の生育に悪影響をおよぼさない物質であることが好ましい。このような媒体として、トリエチルシトレイト(以下、TECという。)などが挙げられる。TECのような、低揮発性の媒体を用いれば、本発明の花香成分以外の溶媒等の匂いが揮発することが少なく、天敵の誘引性をマスクすることがない。また、低揮発性の媒体によって天敵誘引成分を徐放することができる。それゆえ、低揮発性の媒体を用いれば、天敵の誘引性をさらに長時間高めるという効果を奏する。
なお、コナガサムライコマユバチおよびヒメカメノコテントウを対象とする実施形態において、本発明の植物用害虫防除剤は、特許文献1および非特許文献3に記載の化合物がさらに含まれてもよい。
本発明はまた、天敵昆虫を誘引する方法を提供し、本方法は、天敵昆虫を誘引するための上記組成物を所望の位置に配置する工程を包含することを特徴としており、天敵昆虫の標的である害虫によって食害される可能性のある植物の近傍に配置する、あるいは、当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に配置することによって害虫の防除を効率よく行うことができる。すなわち、本発明は、植物の害虫を防除または予防する方法を提供し、本方法は、上記植物用害虫防除剤を、害虫の付着を抑制または排除すべき植物の近傍に配置する工程、あるいは、当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に配置する工程を包含することを特徴としている。
本発明の適用対象となる植物は特に限定されるものではなく、例えば、食用植物、果実や野菜、花・木その他の有効樹木を含む園芸作物、工芸作物、さらには飼肥料作物等が挙げられる。コナガサムライコマユバチを対象とする実施形態において、本発明の適用対象となる植物としては、アブラナ、コマツナ、キャベツ、ミズナ、カブ、ハクサイ、ダイコン、ワサビ、カラシ、ナズナなどを挙げられ、これら以外に、トマト、キュウリ、メロン、ピーマン等の果実または野菜にもまた本発明を適用することができる。コナガサムライコマユバチの標的であるコナガによって食害される可能性のある植物としては、アブラナ科に属する植物が好ましく、コマツナ、ミズナ、ハダイコン、キョウナ、ミブナ、アブラナ、カラシナ、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、カブ等がより好ましい。コナガ幼虫は、アブラナ科の植物を好んで食害するため、上記植物はいずれも、虫が付着することによって収穫高が下がってしまう。ヒメカメノコテントウを対象とする実施形態において、本発明の適用対象となる植物としては、ヒメカメノコテントウの標的であるアブラムシ類によって食害される可能性のある作物として、トマト、キュウリ、メロン、ナス、ピーマン等の果菜類または果実が挙げられ、これら以外に、コマツナ、キャベツ、ミズナ、ハクサイ、レタス、ホウレンソウ、キクナなどの葉菜類にもまた本発明を適用することができる。これらの植物に対して本発明を適用することによって、害虫の付着を抑制または排除することができるので、高い収穫高を得ることができる。
上記植物用害虫防除剤を、植物の近傍あるいは当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に配置する工程は、充填した容器(スプレー等)から、本発明の適用対象である植物へ向けて上記植物用害虫防除剤が噴霧されることによって実現されても、徐放性を付与する保持担体から、本発明の適用対象である植物の近傍あるいは当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部にて上記植物用害虫防除剤が拡散されることによって実現されてもよい。後者の場合、上記植物用害虫防除剤を浸透させた脱脂綿、スポンジ等を、適用対象である植物の近傍あるいは当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に設置し、次いで、これらから上記植物用害虫防除剤を蒸発させてもよい。また、ポリ塩化ビニルに封入して徐放性を確保した上記植物用害虫防除剤を設置してもよい。ハウスや温室等の半密閉系にて対象植物を栽培している場合、上記植物用害虫防除剤を、空調によって適用対象である植物の近傍あるいは当該植物を栽培した圃場の内部または周辺部へ輸送すれば、上記植物用害虫防除剤をまんべんなく拡散させることができ、天敵昆虫を誘引しやすい環境を提供することでき、その結果、害虫の付着を抑制または排除することができる。
このように、例えば、食用の作物に対して本発明を適用すれば、害虫を駆除するための農薬の散布量を低減させることができ、人体に対して安全性の高い作物を収穫することができる。また、自然環境に対しても悪影響の少ない農業を実現することができる。
無農薬で栽培した農作物、あるいは農薬の使用量を減らして栽培した農作物は、消費者によってその付加価値が認められてきている。このように、本発明は、環境保全に寄与するとともに、農作業者の負担の少ない防除手段の確立につながり、地域における持続的農業の発展・活性化に貢献することができる。
本発明の植物用害虫駆除剤において、含有する化合物(花香成分)の、天敵昆虫を誘引するために最適な濃度や、混合比率は、天敵昆虫の誘引性を調べる従来公知の方法を用いて、適宜設定することができる。例えば、コナガサムライコマユバチおよびヒメカメノコテントウを対象とする実施形態では、上述したように、コマツナの花香成分である、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、α−ピネン、(E)−β−オシメン、(E,E)−α−ファーネセン、(Z)−3−ヘキセニルアセテート、リモネン、リナロールオキシド、プレニルアセトン、ゲラニルアセトン、(Z,Z)−α−ファーネセン、(Z,E)−α−ファーネセン、(E,Z)−α−ファーネセン、ファルネサールが好適に用いられる。このような花香成分は、媒体としてTECを用いる場合に100mg/L以上の濃度範囲にて本発明に好適に用いられる。TEC以外の媒体を用いる場合、花香成分の濃度範囲は、用いる媒体の揮発性を考慮して適宜設計されればよい。なお、天敵昆虫の誘引性を調べる方法としては、例えば特許文献1に記載の選択室実験が挙げられるがこれに限定されない。
〔2−2〕天敵昆虫の給餌および定着
本発明にかかる天敵昆虫を誘引するための組成物は餌源と組み合わせて用いられてもよい。これにより、空腹の天敵昆虫への給餌を促進させることができる。すなわち、本発明は、天敵昆虫の給餌を促進するための組成物を提供し、本組成物は、上記花香成分、または天敵昆虫を誘引するための組成物を含有することを特徴としている。
本発明にかかる天敵昆虫を誘引する方法において、天敵昆虫を誘引するための組成物を餌源の近傍に配置することによって空腹の天敵昆虫への給餌を促進させることができる。すなわち、本発明は、天敵昆虫の給餌を促進するための方法を提供し、本方法は、天敵昆虫を誘引するための組成物を餌源の近傍に、必要に応じて餌源と混合した上で、配置する工程を包含することを特徴としている。
天敵昆虫を誘引するための組成物を餌源の近傍に配置する工程は、上述した、上記植物用害虫防除剤を適用する対象の植物の近傍に餌源とともに配置することによって実現されてもよい。また、上記組成物を餌源と混合して用いる場合は、上記組成物を構成する個々の花香成分を餌源に混入して用いる態様であってもよい。餌源は、繊維、紙、またはスポンジなどからなる部材に天敵昆虫の飼料を浸透させて構成されることが好ましく、特許文献2に記載の給餌装置が本発明に好適に利用される。餌源を構成する成分は、給餌する目的の天敵昆虫の種類によって適宜選択すればよく、蜂蜜、ショ糖、グルコース、フルクトースなどが挙げられるが、これらに限定されない。最も好ましくは、餌源を構成する成分は蜂蜜(例えば、レンゲ蜂蜜)の水溶液であり、その濃度は、10〜50%が好ましく、20〜50%がより好ましい。
また、天敵昆虫の給餌を促進させることによって、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させることができる。すなわち、本発明は、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させるための組成物を提供し、本組成物は、天敵昆虫を誘引するための組成物を含有することを特徴としている。また、本発明は、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させる方法を提供し、本方法は、天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させるための上記組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程を包含することを特徴としている。
従来、寄生蜂のような天敵昆虫を圃場や温室において長く生存させることは困難であったが、本発明を用いれば、空腹の個体に採餌を促すことができるとともに、未開花時期(一日における未開花の時間帯、あるいは一年における未開花の期間)であっても天敵昆虫の給餌を促進することができるので、天敵昆虫の生存期間を延長することができる。
〔2−3〕天敵昆虫の捕獲
本発明にかかる天敵昆虫を誘引するための組成物は、誘引された天敵昆虫を捕捉する捕捉手段と組み合わせて用いられてもよい。すなわち、本発明は、天敵昆虫を捕獲するためのシステム(捕獲トラップ)を提供し、本組成物は、上記花香成分、または天敵昆虫を誘引するための組成物を、誘引された天敵昆虫を捕捉する捕捉手段とともに備えていることを特徴としている。
コナガサムライコマユバチ、ヒメカメノコテントウ等の日本土着の天敵を利用して害虫を防除する際には、防除しようとする土地の農生態系にどの程度の天敵が生息しているのかを予め推定することが必要である。このような推定は、天敵の生息密度を測定することによって行われる。本発明の捕獲トラップを用いれば、害虫を防除しようとする土地における天敵昆虫の生息密度を効率的に推定することができるため、土着の天敵昆虫を利用した減農薬または無農薬による農業に貢献することができる。
捕獲対象である天敵昆虫は特に限定されないが、寄生蜂およびテントウムシであることが好ましく、寄生蜂の中でもコナガサムライコマユバチであることが特に好ましく、テントウムシの中でもヒメカメノコテントウであることが特に好ましい。上述した花香成分は、天敵昆虫のうち、寄生蜂およびテントウムシ、中でもコナガサムライコマユバチおよびヒメカメノコテントウを効果的に誘引するものであるので、上記構成によれば、コナガサムライコマユバチおよびヒメカメノコテントウを効果的に誘引及び捕捉して、生息密度を推定することができる。
また、捕捉手段は、誘引された天敵昆虫を捕捉するものであれば特に限定されず、本発明に好適に用いられる捕捉手段としては、特許文献1に記載された粘着シート(例えば商品名:ホリバー(販売元:アリスタライフサイエンス))が挙げられる。前記ホリバーをはじめとする粘着シートを用いることによって、誘引した天敵昆虫を粘着性によって捕捉することができる。また、内部へ一度侵入すると外部へ容易には脱出することができない構造を有する容器を用いれば、天敵昆虫をその容器の内部へ誘引することによって、粘着シートを用いることなく天敵昆虫を生きたまま捕捉することができる。これにより、捕捉した天敵昆虫の再放飼が可能となる。
さらに、捕捉手段をより一層効果的なものにするために、捕捉手段は黄色であってもよい。黄色は一部の昆虫が好む色であるため、捕捉手段に用いることにより、天敵昆虫を一層効果的に誘引することができる。なお、上記「黄色」とは、L*a*b*表色系色度において、20≦L*≦100、かつ、−30≦a*≦30、かつ、b*≧20である色であり、好ましくは、40≦L*≦80、かつ、−20≦a*≦20、かつ、b*≧40である色をいう。(以下、同じ)。
また、天敵昆虫を捕捉し、生息密度を推定する際に、他の大型昆虫等が捕捉されると、測定の対象である天敵昆虫の捕捉数に悪影響を及ぼし、精確な生息密度の推定を妨げるおそれがある。従って、本発明に捕獲トラップは、目的の天敵昆虫以外が捕捉されるのを防ぐために、選択的遮断手段を備えていることが好ましい。ここで、「選択的遮断手段」とは、トラップする天敵昆虫を通過させ、それ以外の生物及び/又はゴミ等の無生物を選択的に遮断することによって、結果的に捕捉する対象となる天敵昆虫のみを捕捉手段が効率的に捕捉することを目的とするものをいう。
また、選択的遮断手段は、所定の大きさの開口部を有するものであってもよい。選択的遮断手段が所定の大きさの開口部を有していれば、捕捉手段を選択的手段で被包することによって、開口部を通過できない程度に大きい昆虫等を遮断することができる。このように、開口部に対する大小によって、通過しようとする生物及び/又は無生物を選択的に遮断することができる。ここで、開口部は、捕捉する対象となる天敵昆虫が通過することができる程度に大きく、遮断しようとする生物及び/又は無生物が通過できない程度に小さいことが好ましい。上記開口部のサイズとしては、例えばコナガサムライコマユバチを捕捉する場合、0.8mm×0.8mm以上、10mm×30mm以下が好ましく、0.8mm×0.8mm以上、10mm×10mm以下がより好ましく、0.8mm×0.8mm以上、1mm×1mmがさらに好ましい。これにより、コナガサムライコマユバチを支障なく通過させる一方で、他の大型の昆虫を選択的に阻止することができる。ヒメカメノコテントウを捕捉する場合、5mm×5mm以上、10mm×30mm以下が好ましく、5mm×5mm以上、7mm×7mm以下がより好ましい。なお、このような選択的遮断手段としては、例えば適切な大きさの目合いを有する金網又はネット等も挙げられる。また、選択的遮断手段は、上記捕捉手段と同様に黄色であっても良い。
また、上述したように、本発明の天敵昆虫の給餌を促進するための組成物を餌源とともに用いれば、天敵昆虫の生存期間を延長することができるので、圃場から離れた土地に生息している天敵昆虫を、本発明の捕獲トラップを用いて捕獲して一定期間維持した上で、必要に応じて増殖させてから、目的の圃場へ放飼する(導入天敵の放飼)ことが容易となる。
〔3〕天敵昆虫の誘引物質のスクリーニング
後述する実施例に示すように、本発明に用いられる花香成分は、天敵昆虫の採餌行動が活発な時期に多く放出される傾向が見出された。この知見に基づけば、天敵昆虫の採餌行動が活発な時期に多く放出される化合物により注目して、空腹の天敵昆虫を誘引するために利用することができる。すなわち、天敵昆虫の誘引物質を容易に同定することができる。
本発明は、天敵昆虫を誘引する花香成分をスクリーニングする方法を提供し、本方法は、目的の天敵昆虫の採餌行動の頻度が高い時期を調べる第1工程;第1工程で得られた時期に放出量が高い花香成分を選択する第2工程;および、選択された花香成分が目的の天敵昆虫を誘引するか否かを確認する第3工程を包含することを特徴としている。
第1工程は、目的の天敵昆虫の採餌行動の頻度の経時的な変動を調べることによって行われることが好ましく、目的の天敵昆虫の採餌行動の頻度を調べる際に用いられる餌は、天然物であっても人為的な調製物であってもよいが、人為的な調製物であれば植物の開花時期(一日における開花の時間帯、あるいは一年における開花の期間)にかかわらず上記経時的な変動を調べることが可能である。また、天敵昆虫を目視で十分に追跡できる場合には、野外にて採餌行動を直接的に観察してもよい。
本方法は、第1工程で得られた時期に放出量が高い花香成分を選択する第2工程をさらに包含する。第2工程は、候補となる花香成分の放出量の経時的な変動(花香成分の日周性)と、目的の天敵昆虫の採餌行動の頻度の経時的な変動(例えば訪花のタイミング)とを比較し、天敵昆虫の採餌行動の頻度のピークと一致する放出量のピークを示す花香成分が選択されればよい。本方法を行うために、種々の花に由来する種々の花香成分の放出量の経時的な変動が、予め調べられていることが好ましいが、調べたい植物の開花時期であれば、本方法は各花香成分の放出量の経時的な変動を調べる工程をさらに包含してもよい。なお、本方法によってスクリーニングされた花香成分を、天敵昆虫を誘引、給餌または定着する方法に用いる場合、本方法によってスクリーニングされない花香成分(例えば、時期を問わず常に一定量が放出され続けている花香成分や、第2工程にて選択されない花香成分)を、本方法によってスクリーニングされた花香成分と混合して用いてもよい。
本方法は、選択された花香成分によって目的の天敵昆虫が実際に誘引されるか否かを調べて、目的の天敵昆虫を誘引する物質を同定する第3工程をさらに包含する。
本発明によってスクリーニングされる花香成分が由来する植物は特に限定されず、上述したように、食用植物、果実や野菜、花・木その他の有効樹木を含む園芸作物、工芸作物、さらには飼肥料作物等が挙げられる。コナガサムライコマユバチを対象とする実施形態において、コマツナ以外の、ミズナ、ハダイコン、キョウナ、ミブナ、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、カブ等であってもよく、その開花時期は特に限定されない。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔1〕食害株による誘引試験
食害を被っているコマツナ(食害株)と、食害を被っていないコマツナ(非食害株)とを、選択箱(30×35×25cm)内の壁際に離して配置した。上述した2種のコマツナの中間点に寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭(3〜10日齢)を放した。空腹の寄生蜂として、本実験の約15時間前に試験管へ移して蒸留水のみを含む脱脂綿を与えた寄生蜂を用いた。給餌した寄生蜂として、同様に試験管へ移して蜂蜜を含む脱脂綿を与えた寄生蜂を用いた。30分間に上記の食害株または非食害株へ降り立った寄生蜂の数を調べた。同じ組合せのサンプル当たり、これを6回繰り返し、反復毎にサンプルの位置(左右)を入れ換え、述べ60頭のデータを収集した。
Figure 0006467177
図1に示すように、給餌した寄生蜂が有意に食害株へ好んで定位したのに対して、空腹の寄生蜂の選好性に有意差はなかった。
〔2〕花による誘引試験
食害を被っていないコマツナの花序と、食害を被っていないコマツナの花枝(花を除いたもの)とを、選択箱(30×35×25cm)内の壁際に離して配置した。上記花序と上記花枝との中間点に寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭(3〜10日齢)を放した。30分間に上記花序または上記花枝へ降り立った寄生蜂の数を調べた。同じ組合せのサンプル当たり、これを6回繰り返し、反復毎にサンプルの位置(左右)を入れ換え、述べ60頭のデータを収集した。
Figure 0006467177
図2に示すように、空腹の寄生蜂が有意に花序へ好んで定位したのに対して、給餌した寄生蜂は花序への選好性を示さなかった。また、図1および2に示した結果から、満腹であるかあるいは空腹であるかによって、寄生蜂は寄主探索と餌探索との間で行動を切り換えており、異なる情報を利用していることが示唆された。
〔3〕花の香りの捕集方法と捕集成分
上述した結果から、花は空腹の寄生蜂を有意に誘引する因子を有していることが推測された。そこで、花の香りが上記因子を含んでいるのかどうかを調べるために、圃場で採集したコマツナの花序から花の香りの捕集を行った。具体的には、コマツナの花序を圃場で採集し、蓋に二つ口のある捕集容器内(セパラブルフラスコ)に水差しの状態で入れた。一方の口をシリカゲルと活性炭のフィルターに接続し、清浄な空気が流入するように施した。もう一方の口には、吸着剤(Tenax,100mg)を詰めた吸着管を取り付け、その先を吸引ポンプに接続した。捕集容器内のヘッドスペース中に放出された花の揮発性成分(花香成分)を吸着管へ下流からポンプで引き込み、花香成分の捕集を行った。
〔4〕花の香りの捕集成分による誘引試験
上記の方法によってコマツナ花序の花香成分を捕集し、吸着された成分をエーテルで再溶出して花香成分のサンプルを調製した。紙で作製した擬似花の中心部に脱脂綿を詰めたマイクロチューブを配し、ここへ花香成分の溶出液を塗布し、誘引試験に用いた。誘引試験は二択実験によって行った。選択箱(30×35×25cm)内の片方の壁際に花香サンプルを塗布した擬似花を固定し、反対側の壁際には対照区としてエーテルのみを塗布した擬似花を固定し、中央から空腹の寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭を放して、30分間に各々の擬似花に降り立った寄生蜂の数を調べた。同じ組み合わせのサンプル当たり、これを6回繰り返し、反復毎にサンプルの位置(左右)を入れ換えた。
〔5〕昼間または夜間の花の香りの寄生蜂誘引性
コマツナの昼間の花の香りまたは夜間の花の香りに対する寄生蜂の選好性を調べるために、圃場で採集したコマツナの花序から、昼間の花の香り(i)および夜間の花の香り(ii)を、上述した手順に従って捕集したものを再溶出し、擬似花に塗布した(それぞれ擬似花1および2)。花の香りなしのコントロール(iii)として、溶出溶媒のエーテルを、擬似花に塗布した(擬似花3)。
擬似花1〜3から2つを選択箱(30×35×25cm)内の壁際に離して配置した。それらの中間点から空腹の寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭(3〜10日齢)を放した。30分間に各擬似花へ降り立った寄生蜂の数を調べた。同じ組合せのサンプル当たり、これを6回繰り返し、反復毎にサンプルの位置(左右)を入れ換え、述べ60頭のデータを収集した。
Figure 0006467177
表3に示すように、寄生蜂はコントロール(擬似花3)よりも昼間の花の香り(擬似花1)に対して有意な選好性を示したが、夜間の花の香り(擬似花2)に対する選好性は示さなかった。昼間の香り(擬似花1)および夜間の香り(擬似花2)を同時に提示した場合、寄生蜂は昼間の香りに対して有意な選好性を示した。
〔6〕花香成分の化学分析
吸着剤で捕集した花香成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析した。コマツナの花香成分として、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、α−ピネン、(E,E)−α−ファーネセン、(Z)−3−ヘキセニルアセテート、リモネン、(E)−β−オシメン、リナロールオキシド、プレニルアセトン、ゲラニルアセトン、(Z,Z)−α−ファーネセン、(Z,E)−α−ファーネセン、(E,Z)−α−ファーネセン、ファルネサール等を同定した。これらのうち、図3に示すように、α−ピネン、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、プレニルアセトン、ゲラニルアセトン、および(E,E)−α−ファーネセンは、昼間に放出量が増加することが明らかになった(図中それぞれ1〜7)。また、特許文献1において寄生蜂を誘引することが実証された(Z)‐3‐ヘキセニルアセテートおよびリナロールオキシドの放出量に顕著な日周変動は見られなかった(図中それぞれaおよびb)。
〔7〕単独成分による誘引試験
同定した上記成分のうち、市販で入手可能なものについて、それぞれをTECの希釈溶液としてサンプルを調製し、それらを上述した擬似花の中心部に塗布した。香りなしのコントロールとして、TECのみを、擬似花に塗布した。
サンプルの擬似花およびコントロールの擬似花を選択箱(30×35×25cm)内の壁際に離して配置した。上記サンプルと上記コントロールとの中間点から空腹の寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭(3〜10日齢)を放した。30分間に上記サンプルまたは上記コントロールへ降り立った寄生蜂の数を調べた。同じ組合せのサンプル当たり、これを6回繰り返し、反復毎にサンプルの位置(左右)を入れ換え、述べ60頭のデータを収集した。
Figure 0006467177
表4に示すように、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、(1S)−α−ピネン、(E,E)−α−ファーネセンは、単独で用いられた場合であっても、空腹の寄生蜂を誘引することが示された。
なお、特許文献1には、短鎖脂肪族アルデヒドが寄生蜂を誘引することが開示されているが、これらは、表4に示された芳香族アルデヒドと構造および機能が全く異なる。しかも、特許文献1には、寄生蜂の誘引成分として、1つの化合物単独で用いた場合、天敵の誘引性を示すことがない旨が記載されており、単独で機能し得る天敵誘引成分が存在することは、当業者の予測の範囲を超えている。
また、非特許文献3には、リモネン、(E)−β−オシメン、(1R)−α−ピネン、(1S)−α−ピネン、(E,E)−α−ファーネセンのようなテルペン化合物が、単独で用いられた場合に寄生蜂を誘引しないことが開示されている。このような開示に基づけば、寄生蜂を空腹の場合にだけ誘引するテルペン化合物が存在することや、しかも単独のテルペン化合物や単独の芳香族化合物に対しても空腹の寄生蜂が誘引されることは、当業者の予測の範囲を超えている。
〔8〕寄生蜂の訪花観察
昼間に放出量が増加する花香成分は時刻によってその放出量が変動することがわかった(図3)。そこで、寄生蜂が花へ立ち寄る(訪花する)タイミングを室内で調べた。具体的には、箱(30×35×25cm)内に寄生蜂コナガサムライコマユバチ雌成虫10頭(3日齢)を前日の消灯前に放しておき、翌日点灯する直前にコマツナの花序3本を箱内に配置し、点灯した後(午前6時)から寄生蜂が訪花する回数を30分間毎にカウントした。3回反復して得られた値の平均を算出した。その結果、寄生蜂は点灯直後の午前6時〜午前9時に訪花する頻度が高いことがわかった(図4)。このタイミングが、特に、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、α−ピネンの放出量が増加するタイミングとほぼ一致していることから、特に、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−アミノベンズアルデヒド、α−ピネンにおいて、空腹の寄生蜂に対する誘引性がより強いことが示唆された。
〔9〕香りによる餌源への誘引
選択箱(30×35×25cm)内に擬似花を置き、その中心部に餌源としてマイクロチューブを配置した。マイクロチューブには脱脂綿を詰め、ここへショ糖の飽和溶液を塗布した。
脱脂綿を詰めたマイクロチューブを別途用意し、そこへ、ベンズアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドのTEC希釈溶液(各々100mg/L)を100μLずつ塗布したものを擬似花の胴元に固定した。その後、チャンバー内に空腹の雌寄生蜂10頭(3〜10日齢)を放し、これらが餌源である擬似花に接触するまでの時間を計測した。15分間で試験を打ち切り、これを5回繰り返すことによって、香り有りの餌源に対し、合計50頭の寄生蜂を用いた(図5中実線)。
対照実験として、擬似花の胴元に固定するマイクロチューブの脱脂綿に、上記希釈用液の代わりにTECのみを200μL塗布し、同様に擬似花に寄生蜂が接触するまでの時間を計測した。15分間で試験を打ち切り、これを5回繰り返すことによって、香り無しの餌源に対し、合計50頭の寄生蜂を用いた(図5中点線)。
図5に示すように、50頭中35頭の寄生蜂が香り有りの餌源(擬似花)へ到達したのに対し、香り無しの餌源へ到達した寄生蜂数はそれよりも有意に少なく、50頭中18頭であり、香り有りの場合の約半数にとどまった。このように、本発明の花香成分を用いれば空腹の寄生蜂を首尾よく餌源へ誘導することができる。
〔10〕標的への寄生に対する花の香りによる効果
コマツナの圃場へ寄生蜂コナガサムライコマユバチ(雌成虫100頭)を放飼した。その翌日に、コナガ2齢幼虫30頭に1日間食害させたコマツナのポット株(食害株)を、圃場の畝間に配置した。食害株の配置と同時に、花香成分を徐放する器具(徐放用器具)を食害株の近傍に配置した。上記徐放用器具は、ガラスバイアルに、ベンズアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドのTEC希釈溶液(各々1mg/L)10mLを入れ、その開口部にファイバー芯を詰めたものである。
3日後に、食害株を回収した。徐放用器具を近傍に配置した食害株(処理株)について、株上にて生育するコナガを引き続いて室内で飼育し、出現した寄生蜂の繭の数およびコナガの蛹の数を計数し、寄生率を算出した。これを6回反復し、得られた値の平均値および標準誤差を算出した。
対照実験として、上記徐放用器具を配置せずに食害株のみを放置し、3日後に回収した食害株(対照株)について、処理株と同様に寄生率の算出を6回反復し、得られた値の平均値および標準誤差を算出した。同じコマツナ圃場内において、処理株と対照株とを同時に等間隔の距離をあけて交互に設置した。
その結果、処理株における寄生率は対照株における寄生率よりもやや高くなる傾向が見られた(図6)。
このように、花の香りは、圃場のような解放された空間であっても、害虫の付着を抑制または排除すべき植物の近傍に配置するだけで、寄生蜂を誘引する効果を示すといえる。しかも、この効果は、食害株による寄生蜂の誘引、および寄生蜂による標的への寄生を妨げないので、害虫の効果的な防除を実現する。
〔11〕花の香りを用いて寄生性および捕食性の天敵昆虫を誘引および捕獲する効果
雑草圃場へ寄生蜂コナガサムライコマユバチ(雌成虫100頭)を放飼した。その翌日に、粘着トラップ板を圃場の畝間に設置した。設置した粘着トラップ板の半数の近傍に、上述した徐放用器具を配置した(処理トラップ)。残りの粘着トラップ板の近傍には上記徐放用器具を配置せず、対照とした(対照トラップ)。
3日後に、粘着トラップ板を回収し、捕捉された寄生蜂を計数した。これを12回反復し、得られた値の平均値および標準誤差を算出した。
図7に示されるように、寄生蜂(図中a)は処理トラップにて2倍ほど多く捕捉される傾向が見られた。それだけでなく、寄生蜂を放飼するよりも前から圃場に生息していたヒメカメノコテントウ(図中b)までも、処理トラップにて多く捕捉される傾向が見られた。ヒメカメノコテントウについては、8回反復データが得られ、捕獲個体数の平均値および標準誤差を算出した。
このように、花の香りは、野外圃場のような解放された空間であっても、寄生性の天敵昆虫だけでなく捕食性の天敵昆虫も誘引する効果を示すといえ、また、生息密度推定にも利用することができる。つまり、本発明は寄生性昆虫に対して用いられることに限定されず、捕食性昆虫に対しても好適に用いられる。
身近な環境に生育している花の香りの成分を主要な活性成分としているので、環境に新たに加わる負荷を低減することができる。また、本組成物自体は害虫に対する殺虫性を有しておらず、天敵昆虫を介して害虫駆除を実現するものであることから、作用機序および効果の点から化学合成農薬と明らかに異なるので、害虫の薬剤抵抗性を発達させにくい。このように、本発明は、農業分野に限らず、社会的に大きな波及効果を期待し得る。本発明の利用分野としては、農業、農薬(特に生物農薬)関連産業、または、香料製造関連産業が挙げられる。

Claims (8)

  1. 花の香りに由来する成分の少なくとも1つを含有する、天敵昆虫を誘引するための組成物であって、
    上記花の香りに由来する成分は、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒドおよび2−アミノベンズアルデヒドからなる群より選択される化合物であり、
    上記天敵昆虫は、コナガサムライコマユバチまたはヒメカメノコテントウである、組成物。
  2. 請求項1に記載の組成物を含有する、上記天敵昆虫の給餌を促進するための組成物。
  3. 請求項1に記載の組成物を含有する、上記天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させるための組成物。
  4. 請求項に記載の組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程を包含する、上記天敵昆虫の給餌を促進する方法。
  5. 請求項に記載の組成物を餌源の近傍に、あるいは餌と混合して、配置する工程、あるいは上記組成物を圃場の内部または周辺部に配置する工程を包含する、上記天敵昆虫を圃場内または圃場周辺に定着させる方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物を含有する、植物用害虫防除剤。
  7. 請求項に記載の植物用害虫防除剤を、害虫の付着を抑制または排除すべき植物の近傍、あるいは該植物を栽培した圃場の内部または周辺部に配置する工程を包含する、植物の害虫を防除または予防する方法。
  8. 請求項1に記載の組成物と、誘引された上記天敵昆虫を捕捉する捕捉手段とを備えている、天敵昆虫捕獲用トラップ。
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