図1は、本実施形態に係るアレイスピーカ装置2を備えたAVシステム1の概略図である。AVシステム1は、アレイスピーカ装置2、およびテレビ4を備えている。アレイスピーカ装置2は、テレビ4に接続される。アレイスピーカ装置2には、テレビ4で再生される映像に応じたオーディオ信号や不図示のコンテンツプレーヤからのオーディオ信号が入力される。
アレイスピーカ装置2は、図1に示すように、例えば、直方体形状の筐体を備え、テレビ4の近傍(テレビ4の表示画面の下部)に設置される。アレイスピーカ装置2は、前面(聴者に対向する面)に、例えば16個のスピーカユニット21A〜21P、ウーファ33L、およびウーファ33Rを備えている。
スピーカユニット21A〜21Pは、聴者から見て横方向に沿って一列に配置されている。スピーカユニット21Aは、聴者から見て最も左側に配置され、スピーカユニット21Pは、聴者から見て最も右側に配置されている。ウーファ33Lは、スピーカユニット21Aのさらに左側に配置されている。ウーファ33Rは、スピーカユニット21Pのさらに右側に配置されている。
この例では、スピーカユニット21A〜21Pからなるスピーカアレイが本発明の第1放音部に相当し、ウーファ33Lおよびウーファ33Rが本発明の第2放音部に相当する。
なお、スピーカユニットの数は、16個に限らず、例えば8個等であってもよい。また、配置態様も横方向に沿って1列に配置する例に限らず、例えば横方向に沿って3列に配置する等であってもよい。
図2は、アレイスピーカ装置2の構成を示すブロック図である。アレイスピーカ装置2は、入力部11、デコーダ10、帯域分割部14、帯域処理部45、ビーム化処理部20、加算処理部32、およびバーチャル処理部40を備えている。
入力部11は、HDMIレシーバ111、DIR112、およびA/D変換部113を備えている。HDMIレシーバ111は、HDMI規格に適合したHDMI信号を入力し、デコーダ10に出力する。DIR112は、デジタルオーディオ信号(SPDIF)を入力し、デコーダ10に出力する。A/D変換部113は、アナログオーディオ信号を入力し、デジタルオーディオ信号に変換してデコーダ10に出力する。
デコーダ10は、DSPからなり、入力された信号をデコードする。デコーダ10は、例えば、AAC(登録商標)、Dolby Digital(登録商標)、DTS(登録商標)、MPEG−1/2、MPEG−2マルチチャンネル、MP3等の各種フォーマットの信号を入力し、マルチチャンネルオーディオ信号(FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号。以下、単にオーディオ信号と称す場合は、デジタルオーディオ信号を示すものとする。)に変換して出力する。図2に示す太い実線は、マルチチャンネルオーディオ信号を示すものである。なお、デコーダ10は、例えばステレオチャンネルのオーディオ信号をマルチチャンネルオーディオ信号に拡張する機能も有する。
デコーダ10から出力されたマルチチャンネルオーディオ信号は、帯域分割部14および帯域処理部45に入力される。帯域分割部14は、デコーダ10から出力されたマルチチャンネルオーディオ信号の周波数帯域を分割し、高域側をビーム化処理部20に出力し、低域側を加算処理部32に出力する。帯域処理部45は、デコーダ10から出力されたマルチチャンネルオーディオ信号の所定帯域を制限してバーチャル処理部40に出力する。
図3は、帯域分割部14、帯域処理部45、および加算処理部32の構成を示すブロック図である。
帯域分割部14は、FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号をそれぞれ入力するHPF14FL、HPF14FR、HPF14C、HPF14SL、およびHPF14SRを備えている。また、帯域分割部14は、FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号をそれぞれ入力するLPF15FL、LPF15FR、LPF15C、LPF15SL、およびLPF15SRを備えている。
HPF14FL、HPF14FR、HPF14C、HPF14SL、およびHPF14SRは、それぞれ入力された各チャンネルのオーディオ信号の高域を抽出して出力する。HPF14FL、HPF14FR、HPF14C、HPF14SL、およびHPF14SRのカットオフ周波数は、スピーカユニット21A〜21Pの再生周波数の下限(例えば400Hz)に合うように設定されている。HPF14FL、HPF14FR、HPF14C、HPF14SL、およびHPF14SRの出力信号は、ビーム化処理部20に出力される。
LPF15FL、LPF15FR、LPF15C、LPF15SL、およびLPF15SRは、それぞれ入力された各チャンネルのオーディオ信号の低域(例えば400Hz未満)を抽出して出力する。LPF15FL、LPF15FR、LPF15C、LPF15SL、およびLPF15SRのカットオフ周波数は、上記HPF14FL、HPF14FR、HPF14C、HPF14SL、およびHPF14SRのカットオフ周波数に対応している(例えば400Hzである)。
LPF15FL、LPF15C、およびLPF15SLの出力信号は、加算処理部32における加算部16Lで加算され、Lチャンネルオーディオ信号となる。Lチャンネルオーディオ信号は、ゲイン調整部31Lでゲイン調整された後、加算部32Lを経てウーファ33Lに入力される。
LPF15FR、LPF15C、およびLPF15SRの出力信号は、加算処理部32における加算部16Rで加算され、Rチャンネルオーディオ信号となる。Rチャンネルオーディオ信号は、ゲイン調整部31Rでゲイン調整された後、加算部32Rを経てウーファ33Rに入力される。
一方、帯域処理部45は、FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号をそれぞれ入力するHPF40FL、HPF40FR、HPF40C、HPF40SL、およびHPF40SRを備えている。
HPF40FL、HPF40FR、HPF40C、HPF40SL、およびHPF40SRは、それぞれ入力された各チャンネルのオーディオ信号の高域を抽出して出力する。HPF40FL、HPF40FR、HPF40C、HPF40SL、およびHPF40SRのカットオフ周波数は、例えばビーム化処理部20に入力される各オーディオ信号と同じ周波数(400Hz)に設定される。
次に、ビーム化処理部20について説明する。図4は、ビーム化処理部20の構成を示すブロック図である。ビーム化処理部20は、FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号をそれぞれ入力するゲイン調整部18FL、ゲイン調整部18FR、ゲイン調整部18C、ゲイン調整部18SL、およびゲイン調整部18SRを備えている。
ゲイン調整部18FL、ゲイン調整部18FR、ゲイン調整部18C、ゲイン調整部18SL、およびゲイン調整部18SRは、各チャンネルのオーディオ信号のゲインを調整する。ゲイン調整された各チャンネルのオーディオ信号は、それぞれ指向性制御部91FL、指向性制御部91FR、指向性制御部91C、指向性制御部91SL、および指向性制御部91SRに入力される。指向性制御部91FL、指向性制御部91FR、指向性制御部91C、指向性制御部91SL、および指向性制御部91SRは、各チャンネルのオーディオ信号をスピーカユニット21A〜21Pに分配する。分配されたスピーカユニット21A〜21Pに対するオーディオ信号は、合成部92で合成されてスピーカユニット21A〜21Pに供給される。このとき、指向性制御部91FL、指向性制御部91FR、指向性制御部91C、指向性制御部91SL、および指向性制御部91SRは、各スピーカユニットに供給するオーディオ信号の遅延量を調整する。
スピーカユニット21A〜21Pから出力される音は、位相が揃う箇所において互いに強められ、指向性を有した音声ビームとして出力される。例えば、全スピーカから同じタイミングで音が出力されると、アレイスピーカ装置2の前方に指向性を有する音声ビームが出力される。指向性制御部91FL、指向性制御部91FR、指向性制御部91C、指向性制御部91SL、および指向性制御部91SRは、各オーディオ信号に付与する遅延量を変更することで、音声ビームの出力方向を変更することができる。
また、指向性制御部91FL、指向性制御部91FR、指向性制御部91C、指向性制御部91SL、および指向性制御部91SRは、スピーカユニット21A〜21Pから出力される各音の位相が所定位置でそろうように遅延量を付与し、当該所定位置で焦点を結ぶ音声ビームを形成することもできる。
音声ビームは、アレイスピーカ装置2から直接、または室内の壁等に反射して聴取位置に到達させることができる。例えば、図5に示すように、Cチャンネルオーディオ信号の音声ビームは、正面方向に出力させて、Cチャンネルの音声ビームが聴取位置の正面から到達させることができる。また、FLチャンネルオーディオ信号およびFRチャンネルオーディオ信号の音声ビームは、アレイスピーカ装置2の左右方向に出力させ、聴取位置の左右に存在する壁に反射させて、それぞれ聴取位置の左方向および右方向から到達させることができる。また、SLチャンネルオーディオ信号およびSRチャンネルオーディオ信号の音声ビームを左右方向に出力させ、聴取位置の左右に存在する壁および後方に存在する壁に2回反射させて、それぞれ聴取位置の左後方方向および右後方方向から到達させることができる。
次に、バーチャル処理部40について説明する。図6は、バーチャル処理部40の構成を示すブロック図である。バーチャル処理部40は、定位付加部42、補正部51、加算部52L、加算部52R、遅延処理部60L、および遅延処理部60Rを備えている。
定位付加部42は、入力されたFLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのオーディオ信号を所定の位置に仮想音源として定位させる処理を行う。仮想音源として定位させるためには、所定位置と聴者の耳との間の伝達関数を示す頭部伝達関数(以下、HRTFと称す。)を用いる。
HRTFは、ある位置に設置した仮想スピーカからそれぞれ左右の耳に至る音の大きさ、到達時間、および周波数特性等を表現したインパルス応答である。定位付加部42は、入力された各チャンネルのオーディオ信号にHRTFを付与して、ウーファ33Lまたはウーファ33Rから放音させることにより、聴者に仮想音源を定位させることができる。
図7(A)は、定位付加部42の構成を示すブロック図である。定位付加部42は、各チャンネルのオーディオ信号にHRTFのインパルス応答を畳み込むためのFLフィルタ421L、FRフィルタ422L、Cフィルタ423L、SLフィルタ424L、およびSRフィルタ425Lと、FLフィルタ421R、FRフィルタ422R、Cフィルタ423R、SLフィルタ424R、およびSRフィルタ425Rと、を備えている。
例えば、FLチャンネルのオーディオ信号は、FLフィルタ421LおよびFLフィルタ421Rに入力される。FLフィルタ421Lは、FLチャンネルのオーディオ信号に、聴者の左前方の仮想音源VSFL(図5を参照。)の位置から左耳に至る経路のHRTFを付与する。FLフィルタ421Rは、FLチャンネルのオーディオ信号に、仮想音源VSFLの位置から右耳に至る経路のHRTFを付与する。同様にして、各チャンネルについて、聴者の周囲の仮想音源の位置から各耳に至るHRTFが付与される。
加算部426Lは、FLフィルタ421L、FRフィルタ422L、Cフィルタ423L、SLフィルタ424L、およびSRフィルタ425LでそれぞれHRTFが付与されたオーディオ信号を合成して、オーディオ信号VLとして補正部51に出力する。加算部426Rは、FLフィルタ421R、FRフィルタ422R、Cフィルタ423R、SLフィルタ424R、およびSRフィルタ425RでそれぞれHRTFが付与されたオーディオ信号を合成して、オーディオ信号VRとして補正部51に出力する。
補正部51は、クロストークキャンセル処理を行う。図7(B)は、補正部51の構成を示すブロック図である。補正部51は、ダイレクト補正部511L、ダイレクト補正部511R、クロス補正部512L、およびクロス補正部512Rを備えている。
オーディオ信号VLは、ダイレクト補正部511Lおよびクロス補正部512Lに入力される。オーディオ信号VRは、ダイレクト補正部511Rおよびクロス補正部512Rに入力される。
ダイレクト補正部511Lは、ウーファ33Lから出力された音が左耳付近で放音されたように聴者に知覚させる処理を行う。ダイレクト補正部511Lは、ウーファ33Lから出力された音の周波数特性が左耳の位置でフラットになるようなフィルタ係数が設定されている。ダイレクト補正部511Lは、入力されたオーディオ信号VLを当該フィルタで処理して、オーディオ信号VLDを出力する。ダイレクト補正部511Rは、ウーファ33Rから出力された音の周波数特性が右耳の位置でフラットになるようなフィルタ係数が設定されている。ダイレクト補正部511Rは、入力されたオーディオ信号VLを当該フィルタで処理して、オーディオ信号VRDを出力する。
クロス補正部512Lは、ウーファ33Lから右耳に回り込む音の周波数特性を付与するためのフィルタ係数が設定されている。このウーファ33Lから右耳に回り込む音(VLC)を合成部52Rで逆相にしてウーファ33Rから放音させることにより、ウーファ33Lの音が右耳に聞こえるのを抑制する。これにより、ウーファ33Rから放音される音が右耳付近で放音されたように聴者に知覚させる。
クロス補正部512Rは、ウーファ33Rから左耳に回り込む音の周波数特性を付与するためのフィルタ係数が設定されている。このウーファ33Rから左耳に回り込む音(VRC)を合成部52Lで逆相にしてウーファ33Lから放音させることにより、ウーファ33Rの音が左耳に聞こえるのを抑制する。これにより、ウーファ33Lから放音される音が左耳付近で放音されたように聴者に知覚させる。
合成部52Lから出力されたオーディオ信号は、遅延処理部60Lに入力される。遅延処理部60Lによって所定時間遅延されたオーディオ信号は、加算処理部32に入力される。また、合成部52Rから出力されたオーディオ信号は、遅延処理部60Rに入力される。遅延処理部60Rによって所定時間遅延されたオーディオ信号は、加算処理部32に入力される。
遅延処理部60Lおよび遅延処理部60Rによる遅延時間は、例えば、ビーム化処理部20の指向性制御部で与えられる遅延時間のうち、最長の遅延時間よりも長く設定される。これにより、仮想音源を知覚させる音が、音声ビームの形成を阻害することがない。なお、ビーム化処理部20の後段に遅延処理部を設け、音声ビーム側に遅延を加えて、音声ビームが仮想音像を定位させる音を阻害しないようにする態様であってもよい。
遅延処理部60Lから出力されたオーディオ信号は、加算処理部32のゲイン調整部61Lでゲイン調整される。ゲイン調整部61Lでゲイン調整されたオーディオ信号は、加算部32Lにおいて、ゲイン調整部31Lから出力されたオーディオ信号(原信号のLチャンネルの低域成分)と加算される。ゲイン調整部32Lおよびゲイン調整部61Lにより、原信号の低域成分とバーチャル処理部40の出力信号の加算比率が変更される。
同様に、遅延処理部60Rから出力されたオーディオ信号は、加算処理部32のゲイン調整部61Rでゲイン調整される。ゲイン調整部61Rでゲイン調整されたオーディオ信号は、加算部32Rにおいて、ゲイン調整部31Rから出力されたオーディオ信号(原信号のRチャンネルの低域成分)と加算される。ゲイン調整部32Rおよびゲイン調整部61Rにより、原信号とバーチャル処理部40の出力信号の加算比率が変更される。
なお、アレイスピーカ装置2は、上述したビーム化処理部20におけるゲイン調整部18FL、ゲイン調整部18FR、ゲイン調整部18C、ゲイン調整部18SL、およびゲイン調整部18SRのゲインを調整することで、バーチャル処理部40の出力信号と、原信号の低域成分と、音声ビームと、のレベル比率を調整することができる。
次に、アレイスピーカ装置2が生成する音場について図5を用いて説明する。図5において、実線矢印は、アレイスピーカ装置2から出力される音声ビームの経路を示す。図5において、白い星印は、音声ビームが生成する実音源の位置を示し、黒い星印は、仮想音源の位置を示す。
図5の例では、アレイスピーカ装置2は、音声ビームを5本出力する。Cチャンネルのオーディオ信号は、アレイスピーカ装置2の後方の位置に焦点を結ぶ音声ビームが設定される。これにより、聴者は、音源SCが聴者の前方にあると知覚する。
同様に、FLチャンネルのオーディオ信号は、部屋Rの左前方の壁の位置に焦点を結ぶ音声ビームが設定され、聴者は、音源SFLが聴者の左前方の壁にあると知覚する。FRチャンネルのオーディオ信号は、部屋Rの右前方の壁の位置に焦点を結ぶ音声ビームが設定され、聴者は、音源SFRが聴者の右前方の壁にあると知覚する。SLチャンネルのオーディオ信号は、部屋Rの左後方の壁の位置に焦点を結ぶ音声ビームが設定され、聴者は、音源SSLが聴者の左後方の壁にあると知覚する。SRチャンネルのオーディオ信号は、部屋Rの右後方の壁の位置に焦点を結ぶ音声ビームが設定され、聴者は、音源SSRが聴者の左後方の壁にあると知覚する。
さらに、定位付加部42は、上記音源SFL,SFR,SC,SSL,およびSSRの位置と略同じ位置に仮想音源の位置を設定する。したがって、聴者は、図5に示すように、仮想音源VSC,VSFL,VSFR,VSSL,およびVSSRを音源SFL,SFR,SC,SSL,およびSSRの位置と略同じ位置に知覚する。なお、仮想音源の位置は、音声ビームの焦点と同じ位置に設定する必要はなく予め定めた方向としてもよい。例えば、仮想音源VSFLは左30度、仮想音源VSFRは右30度、仮想音源VSSLは左120度、仮想音源VSSRは右120度等に設定する。
これにより、アレイスピーカ装置2は、音声ビームによる定位感を仮想音源によって補うことができ、音声ビームだけを用いた場合または仮想音源だけを用いた場合に比べて、定位感を向上させることができる。特に、SLチャンネルおよびSRチャンネルの音源SSLおよび音源SSRは、音声ビームが壁に2度反射することにより生成されるため、フロント側のチャンネルに比べて明瞭な定位感が得られない場合がある。しかし、アレイスピーカ装置2は、ウーファ33Lおよびウーファ33Rにより聴者の耳に直接届く音で生成される仮想音源VSSLおよび仮想音源VSSRで定位感を補うことができ、SLチャンネルおよびSRチャンネルの定位感を損なうことがない。
そして、本実施形態のアレイスピーカ装置2は、帯域処理部45により、頭部伝達関数によるフィルタ処理が行われる帯域が制限される。図8(A)は、スピーカユニット21A〜21Pに入力されるオーディオ信号の帯域を示した概念図である。図8(B)は、ウーファ33Lおよびウーファ33Rに入力されるオーディオ信号の帯域を示した概念図である。
図8(A)に示すように、スピーカユニット21A〜21Pには、周波数F1(例えば400Hz)以上の帯域のオーディオ信号が入力される。当該周波数F1は、帯域分割部14により、スピーカユニット21A〜21Pの下限周波数に合わせて設定されている。 また、図8(B)に示すように、ウーファ33Lおよびウーファ33Rには、帯域分割部14により周波数F1(例えば400Hz)未満の帯域のオーディオ信号が入力される。
低域は指向性が低く、音声ビーム等の指向性を有する音が聴者に到達する帯域は、主に数百Hz以上の中高域となる。したがって、スピーカユニット21A〜21Pに中高域のオーディオ信号を入力し、ウーファ33Lおよびウーファ33Rに低域のオーディオ信号を入力することで、音声ビームによって実音源を定位させながら、低域の音を補強することができる。
そして、ウーファ33Lおよびウーファ33Rには、バーチャル処理部40において頭部伝達関数によるフィルタ処理が行われたオーディオ信号も入力される。当該オーディオ信号は、帯域処理部45が周波数F1(例えば400Hz)以上の帯域だけ通過させるため、スピーカユニット21A〜21Pに入力されるオーディオ信号と同じ帯域となっている。
頭部伝達関数に基づくフィルタ処理は、元のオーディオ信号の周波数特性を変化させるため、音質の変化がある。したがって、全帯域で頭部伝達関数によるフィルタ処理を行うと、音質の変化が目立つことになる。しかし、アレイスピーカ装置2は、帯域処理部45が周波数F1(例えば400Hz)以上の帯域だけ通過させ、頭部伝達関数によるフィルタ処理を行う帯域を制限しているため、音質の変化を最低限に抑えることができる。そして、頭部伝達関数のうち定位感に寄与する周波数帯域は、主に数kHz程度であり、数百Hz未満の信号が入力されていない場合でも、定位感は損なわれない。
したがって、アレイスピーカ装置2は、音声ビームによる定位感を仮想音源による定位感で補うことができ、音質の変化を抑えながら音源を明瞭に定位させることができる。また、頭部伝達関数によるフィルタ処理後のオーディオ信号の周波数帯域(図8(B)の仮想音源)と、元のオーディオ信号のうち分割された低周波数帯域(図8(B)の原信号)と、が重複することがないため、これら仮想音源と原信号の低域成分と、が互いに干渉することがない。
なお、帯域分割部14は、スピーカユニット21A〜21Pの下限周波数(例えば400Hz)に合わせて周波数F1を設定しているが、必ずしも当該下限周波数に合わせる必要はない。例えば、当該下限周波数よりも高い周波数で分割するようにしてもよい。
また、帯域処理部45は、オーディオ信号を通過させる帯域の下限周波数を、帯域分割部14が分割する周波数F1と同一に設定しているが、必ずしも同一(または近接する)周波数に設定する必要はない。例えば、図8(C)に示すように、周波数F1(例えば400Hz)よりも高い周波数F2(例えば1kHz)としてもよい。
次に、図9は、変形例1に係るアレイスピーカ装置2Aを備えたAVシステム1Aの概略図である。図1と共通する構成については同一の符号を付し、説明を省略する。AVシステム1Aは、図1のアレイスピーカ装置2に変えてアレイスピーカ装置2Aを備えている。アレイスピーカ装置2Aは、アレイスピーカ装置2に対して、外観上、ウーファ34Lおよびウーファ34Rをさらに備えている点で異なる。
図10は、アレイスピーカ装置2Aの構成を示すブロック図である。アレイスピーカ装置2Aは、アレイスピーカ装置2に対して、加算処理部32が設けられていない点で異なる。
バーチャル処理部40の出力するオーディオ信号は、ウーファ33Lおよびウーファ33Rに入力される。帯域分割部14の出力するオーディオ信号は、ウーファ34Lおよびウーファ34Rに入力される。
このように、頭部伝達関数によるフィルタ処理後のオーディオ信号の周波数帯域(図8(B)の仮想音源)と、元のオーディオ信号のうち分割された低周波数帯域(図8(B)の原信号)と、をそれぞれ別のスピーカユニットに入力してもよい。
次に、図11は、変形例2に係るアレイスピーカ装置2Bの構成を示すブロック図である。図2に示したアレイスピーカ装置2と共通する構成については同一の符号を付し、説明を省略する。アレイスピーカ装置2Bは、アレイスピーカ装置2の帯域処理部45および加算処理部32に変えて、帯域処理部45Bおよび加算処理部32Bを備え、当該帯域処理部45Bが加算処理部32Bにオーディオ信号を出力する。
図12は、帯域処理部45Bおよび加算処理部32Bの構成を示すブロック図である。図3に示した帯域処理部45および加算処理部32と共通する構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
帯域処理部45Bは、FLチャンネル、FRチャンネル、Cチャンネル、SLチャンネル、およびSRチャンネルのデジタルオーディオ信号をそれぞれ入力するLPF41FL、LPF41FR、LPF41C、LPF41SL、およびLPF41SRを備えている。
LPF41FL、LPF41FR、LPF41C、LPF41SL、およびLPF41SRは、それぞれ入力された各チャンネルのオーディオ信号の低域を抽出して出力する。LPF41FL、LPF41FR、LPF41C、LPF41SL、およびLPF41SRのカットオフ周波数は、HPF40FL、HPF40FR、HPF40C、HPF40SL、およびHPF40SRのカットオフ周波数(例えば400Hz)にそれぞれ対応している。
LPF41FL、LPF41C、およびLPF41SLの出力信号は、加算処理部32Bの加算部17Lでバーチャル処理部40の出力信号(遅延処理部60Lの出力信号)と加算される。加算部17Lで加算されたオーディオ信号は、ゲイン調整部61Lでゲイン調整された後に加算部32Lに入力される。
LPF41FR、LPF41C、およびLPF41SRの出力信号は、加算処理部32Bの加算部17Rでバーチャル処理部40の出力信号(遅延処理部60Rの出力信号)と加算される。加算部17Rで加算されたオーディオ信号は、ゲイン調整部61Rでゲイン調整された後に加算部32Rに入力される。
次に、図13は、変形例3に係るアレイスピーカ装置2Cを示す図である。アレイスピーカ装置2と共通する構成については、同一の符号を付し、説明は省略する。
アレイスピーカ装置2Cは、サブウーファ3をさらに備えている。サブウーファ3には、帯域分割部140Cから低域(例えば100Hz未満)のオーディオ信号が入力される。図14は、帯域分割部140Cの構成を示すブロック図である。帯域分割部14と共通する構成については同一の符号を付し、説明は省略する。
帯域分割部140Cは、加算部160、加算部170、HPF150L、HPF152R、LPF151L、LPF153R、および加算部700を備えている。
加算部160は、LPF15FL、LPF15C、およびLPF15SLの出力信号を加算する。加算部170は、LPF15FR、LPF15C、およびLPF15SRの出力信号を加算する。加算部160の出力信号は、HPF150LおよびLPF151Lに入力される。加算部170の出力信号は、HPF152RおよびLPF153Rに入力される。
HPF150Lは、入力されたオーディオ信号の高域を抽出して出力する。LPF151Lは、入力されたオーディオ信号の低域を抽出して出力する。HPF150LおよびLPF151Lのカットオフ周波数は、ウーファ33Lとサブウーファ3とのクロスオーバ周波数(例えば100Hz)に対応する。なお、当該クロスオーバ周波数は、聴者により変更できるようにしてもよい。
同様に、HPF152Rは、入力されたオーディオ信号の高域を抽出して出力する。LPF153Rは、入力されたオーディオ信号の低域を抽出して出力する。HP152RおよびLPF153Rのカットオフ周波数は、ウーファ33Rとサブウーファ3とのクロスオーバ周波数(例えば100Hz)に対応する。なお、当該クロスオーバ周波数も、聴者により変更できるようにしてもよい。
図15(A)は、スピーカユニット21A〜21Pに入力されるオーディオ信号の帯域を示した概念図であり、図15(B)は、ウーファ33Lおよびウーファ33Rに入力されるオーディオ信号の帯域を示した概念図である。図15(C)は、サブウーファ3に入力されるオーディオ信号の帯域を示した概念図である。
アレイスピーカ装置2Cでは、図15(C)に示すように、サブウーファ3に、周波数F3(例えば100Hz)未満の帯域のオーディオ信号が入力される。また、図15(B)に示すように、ウーファ33Lおよびウーファ33Rに、帯域分割部140Cにより周波数F3(例えば100Hz)以上、周波数F1(例えば400Hz)未満の帯域のオーディオ信号が入力される。
このように、アレイスピーカ装置2Cは、サブウーファ3をさらに備え、ウーファ33Lおよびウーファ33Rが出力可能な周波数よりもさらに低域側の音を補強する態様である。この場合においても、帯域処理部45は、バーチャル処理部40に通過させる帯域の下限周波数(図15の例では周波数F1=400Hz)をサブウーファの上限周波数(図15の例ではF3=100Hz)よりも高くしているため、サブウーファの出力する音とフィルタ処理後の音との帯域が重複することがない。したがって、サブウーファ3の出力する音と仮想音源の音とが互いに干渉することがない。
なお、図示は省略するが、サブウーファ3を備えた態様においても、図11および図12に示したように帯域処理部45Bで低域のオーディオ信号を抽出してバーチャル処理部40の後段で加算するようにしてもよい。
次に、図16(A)は、変形例4に係るアレイスピーカ装置2Dを示す図である。アレイスピーカ装置2と共通する構成については、同一の符号を付し、説明は省略する。
アレイスピーカ装置2Dは、ウーファ33Lおよびウーファ33Rから出力する音をそれぞれスピーカユニット21Aおよびスピーカユニット21Pから出力する点において、アレイスピーカ装置2と相違する。
アレイスピーカ装置2Dは、仮想音源を知覚させる音をスピーカユニット21A〜21Pのうち、両端のスピーカユニット21Aおよびスピーカユニット21Pから出力する。
スピーカユニット21Aおよびスピーカユニット21Pは、アレイスピーカにおける最も端部に配置されたスピーカユニットであり、聴者から見てそれぞれ最も左側および右側に配置されている。したがって、スピーカユニット21Aおよびスピーカユニット21Pは、それぞれLチャンネルおよびRチャンネルの音を出力する場合に好適であり、仮想音源を知覚させる音を出力するスピーカユニットとして好適である。
アレイスピーカ装置2Dにおいても、バーチャル処理部40において頭部伝達関数によるフィルタ処理が行われるオーディオ信号の帯域が制限されているため、音声ビームによる定位感を仮想音源による定位感で補うことができ、音質の変化を抑えながら音源を明瞭に定位させることができる。
また、アレイスピーカ装置2は、一つの筐体にスピーカユニット21A〜21P、ウーファ33Lおよびウーファ33Rを全て備える必要はない。例えば、図16(B)に示すスピーカセット2Eのように、各スピーカユニットを個別の筐体に設けて、各筐体を並べて配置する態様であってもよい。
また、実音源は、音声ビームを用いて定位させる例に限るものではない。例えば、図17に示すように、聴取位置の周囲に設置されるサラウンドスピーカ(スピーカユニット21FL、スピーカユニット21FR、スピーカユニット21C、スピーカユニット21SL、およびスピーカユニット21SR)により実現することも可能である。