〔第1の実施形態〕
本発明の一実施形態に係るアンテナ装置1について、図1〜図4を参照して説明する。本実施形態に係るアンテナ装置1は、本発明の一実施形態に係るフィルムアンテナ11、支持体12、及び給電線である同軸ケーブル13を備えている。
図1は、アンテナ装置1の斜視図である。図2は、フィルムアンテナ11の展開図である。図3は、アンテナ装置1を支持体12と、フィルムアンテナ11及び同軸ケーブル13とに分解した平面図である。図4は、アンテナ装置1が備えている支持体の外部に引き出された同軸ケーブル13を配線する経路1〜3を示す平面図である。
以下において、アンテナ装置1の「上、下、左、右、前、後」は、図1〜図4の各図に示したxyz座標系に基づき、「z軸正方向を上」、「z軸負方向を下」、「x軸正方向を左」、「x軸負方向を右」、「y軸正方向を前」、「y軸負方向を後」として説明する。したがって、図1〜図4の各図に示した状態におけるアンテナ装置1の上下、左右及び前後と、例えば車体等へ搭載した状態におけるアンテナ装置1の上下、左右及び前後とは、必ずしも一致するものではない。
〔アンテナ装置1の構成〕
アンテナ装置1は、図1に示すように、フィルムアンテナ11、支持体12、及び同軸ケーブル13を備えている。同軸ケーブル13は、フィルムアンテナ11の給電領域(図1には図示せず)に接続される給電線の一例である。給電領域については、図2を参照して後述する。
(支持体12)
図3の上図に示すように、支持体12は、樹脂を成形することによって得られる構造物であり、ブロック部121と板部122とからなる。
ブロック部121は、4つの側壁(前壁、後壁、右壁、及び左壁)と、上壁と、下壁とからなる直方体状の形状を有する。図1において、前壁及び後壁の各々は、それぞれ、zx平面に沿って配置されている。前壁は、y軸正方向側に配置されており、後壁は、y軸負方向側に配置されている。右壁及び左壁の各々は、それぞれ、yz平面に沿って配置されている。右壁は、x軸負方向側に配置されており、左壁は、x軸正方向側に配置されている。上壁及び下が部の各々は、それぞれ、xy平面に沿って配置されている。上壁は、z軸正方向側に配置されており、下壁は、z軸負方向側に配置されている。
板部122は、前壁の下端部からy軸正方向に沿って延伸された板状部材である。板部122を構成する上面及び下面の各々は、それぞれ、xy平面に沿って配置されている。上面は、z軸正方向側に配置されており、下面は、z軸負方向側に配置されている。
ブロック部121の下壁及び板部122の下面は、何れも、xy平面に沿う平面である第1平面P1に沿っており、請求の範囲に記載の第1支持面に対応する。
ブロック部121の後壁は、zx平面に沿う平面である第2平面P2に沿う平面部を含んでいる。ブロック部121の後壁の下端部には、当該平面部と第1平面とを滑らかに接続する第1曲面部が設けられており、ブロック部121の後壁の上端部には、当該平面部分と第3平面とを滑らかに接続する第2曲面部が設けられている。したがって、ブロック部121の後壁は、平面部、第1曲面部及び第2曲面部からなり、請求の範囲に記載の第2支持面に対応する。
ブロック部121の上壁は、xy平面に沿い、且つ、第1平面よりもz軸正方向側の平面である第3平面P3に沿っており、請求の範囲に記載の第3支持面に対応する。
第2平面P2は、第1平面P1に交わっており(本実施形態では直交)、第3平面P3は、第1平面P1と対向(本実施形態では平行)し、且つ、第2平面P2と交わっている(本実施形態では直交)。
(フィルムアンテナ11)
フィルムアンテナ11は、図2に示すように、基板111と、基板111のおもて面に形成された2つの放射素子112,113とを備えている。放射素子112及び放射素子113の各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1の放射素子及び第2の放射素子に対応する。なお、図2には、同軸ケーブル13を二点鎖線にて示している。
放射素子112,113の各々は、導体箔(本実施形態においては銅箔)を所定の形状に成形することによって得られる導体パターンである。放射素子112,113の各々には、アンテナ装置1のアンテナ特性(利得及びVSWR(Voltage Standing Wave Ratio))を改善するためにいくつかの構造が設けられている。具体的には、放射素子112には、首部1122、スリット1123、枝部1125、及び開口1126(請求の範囲に記載の第2の開口に対応する)が設けられており、放射素子113には、開口1134(請求の範囲に記載の開口及び第1の開口に対応する)が設けられている。
これらの構成については後述するが、これらの構成が設けられていない状態の放射素子112,113の各々は、帯状の導体箔であり、図14に示した比較例のフィルムアンテナ31と同様に構成されている。
基板111は、可撓性を有し且つ帯状に成形された誘電体製の基板である。基板111としては、例えばポリイミド製のフィルムを採用することができる。以下において、基板111の形状は、長方形であり、放射素子112,113の形状に応じて過不足のない形状を適宜選択することができる。
基板111は、放射素子112,113と共に、そのおもて面が支持体12を構成する各面(ブロック部121の下壁及び板部122の下面、ブロック部121の後壁、及び、ブロック部121の上壁)に接するように、支持体12に対して巻き付けられている。その結果、基板111は、その裏面が支持体12の外側に面し、且つ、第1平面、第2平面、及び第3平面の各々に沿ってJ字型に折り曲げられた状態になるように、支持体12によって支持されている(図1参照)。
基板111は、支持体12を構成する各面のうち何れの面に接するかに応じて、2つの直線(直線AA及び直線BB)により3つの領域に分割される。直線AAは、基板111のうち、ブロック部121の下壁及び板部122の下面に接する部分(第1平面P1に沿った部分)である第1部分1111と、ブロック部121の後壁に接する部分(第2平面P2に沿った部分)である第2部分1112との境界を示す。直線BBは、基板111のうち、ブロック部121の後壁に接する第2部分1112と、ブロック部121の上壁に接する部分(第3平面P3に沿った部分)である第3部分1113との境界を示す。
以下において、フィルムアンテナ11のうちブロック部121の上壁に接する部分のことを対向領域1135と称し、フィルムアンテナ11のうちブロック部121の下壁に接する部分のことを被対向領域1121と称する。
このように構成されたフィルムアンテナ11は、放射素子112,113を第1〜第3平面に沿ってJ字型に折り曲げて配置することができる。したがって、フィルムアンテナ11は、狭小なスペースに実装可能なコンパクトなフィルムアンテナである。
放射素子112は、基板111の第1部分1111に配置されており、第1の共振周波数を有する。本実施形態においては、第1の共振周波数を698MHzとして放射素子112を設計している。
放射素子113は、第1部分1131、第2部分1132、及び第3部分1133からなる。第1部分1131は、基板111の第1部分1111に配置されている部分を指し、第2部分1132は、基板111の第2部分1112に配置されている部分を指し、第3部分1133は、基板111の第3部分1113に配置されている部分を指す。放射素子113は、第1の共振周波数より周波数が高い第2の共振周波数を有する。本実施形態においては、第2の共振周波数を1400MHzとして放射素子113を設計している。
したがって、放射素子113の全長(後述する給電領域から放射素子113の先端までの長さ)は、放射素子112の全長(後述する給電領域から放射素子112の先端までの長さ)よりも短い。
また、フィルムアンテナ11においては、同軸ケーブル13を接続するための給電領域114を、第1部分1111内における直線AAの近傍に配置している。給電領域114の近傍において、放射素子112の端部には矩形状の切り欠きが形成されており、放射素子113の端部である第1部分1131は、この切り欠きの形状に沿うように矩形状に成形されている。給電領域114の近傍において、放射素子112の端部と、放射素子113の第1部分1131とは、互いに近接して配置されている。
なお、給電領域114において、同軸ケーブル13の中心導体131は、放射素子113に接続され、同軸ケーブル13の外側導体132は、放射素子112に接続される。これらの接続は、例えば半田を用いて行われる。
第2部分1132において、放射素子113の幅(x軸方向に沿って測った長さ)は、第1部分1131の幅から第3部分の幅1133まで拡幅される。ここで、第1部分1131の幅から第3部分の幅1133まで滑らかに連続して変化させるために、幅を変化させる区間の輪郭は、楕円弧により構成されている。本実施形態において、給電領域114から放射素子113の幅が拡幅される区間の末端までの電気長は、およそ2GHzの電磁波の実効波長に対応する。
開口1134が設けられていない状態の第3部分1133は、第2部分1132の給電領域114と逆側の端辺から延伸された長方形の導体箔である。このように構成された放射素子113において、給電領域114に含まれる第1部分1131の先端部から第3部分1133の先端部までの電気長は、1400MHzの電磁波の実効波長に対応する。
フィルムアンテナ11を直線AA及び直線BBを稜線としてJ字型に折り曲げた場合、基板111及び放射素子113の直線BBからフィルムアンテナ11の一方の末端までの区間は、基板111及び放射素子112の給電領域114を含む区間に対向する(図3の下図参照)。図2に示すように、基板111及び放射素子113の直線BBからフィルムアンテナ11の一方の末端までの区間を対向領域1135と称する。
対向領域1135は、基板111及び放射素子113のうち、支持体12を構成するブロック部121の上壁1217によって支持される区間である。また、被対向領域1121は、基板111及び放射素子112のうち、ブロック部121の下壁1216によって支持される区間である。支持体12については、図3を参照して後述する。
<開口1134>
放射素子113には、放射素子113の外縁に沿った形状を有する開口1134が設けられている。開口1134は、直線BBの両側にまたがって設けられている。すなわち、開口1134は、第2部分1132に設けられた第1領域11341と、第3部分1133に設けられた第2領域11342とにより構成されている。
第2領域11342は、J字型に折り曲げられた状態において、対向領域1135のうち給電領域114に対向する領域を包含するように設けられている。給電領域114は、同軸ケーブル13の、中心導体131が放射素子113に接続され、且つ、外側導体132が放射素子112に接続される領域である。そのため、給電領域114は、フィルムアンテナ11のうち最も電流密度が高い領域である。
したがって、対向領域1135のうち給電領域114に対向する領域に第2領域11342が設けられていない場合には、給電領域114に含まれる放射素子112と対向領域1135に含まれる放射素子113の第3部分1133との間に静電容量が生じる。そのため、フィルムアンテナ11を平面に展開した状態で測定した放射特性と比較して、J字型に折り曲げたフィルムアンテナの放射特性は、劣化する。
それに対して、対向領域1135に第2領域11342が設けられていることによって、上述した静電容量を抑制することができる。したがって、フィルムアンテナ11は、J字型に折り曲げたときに生じる放射特性の劣化を抑制することができる。したがって、フィルムアンテナ11は、放射特性の劣化を抑制しつつ、狭小なスペースにも実装可能なフィルムアンテナを実現することができる。
また、第2部分1132に第1領域11341が設けられていることにより、放射素子112と、対向領域1135に含まれる放射素子113との間に生じる静電容量を抑制可能なことに加えて、更に、放射素子112と、放射素子113の第2部分1132との間に生じる静電容量を抑制可能である。したがって、フィルムアンテナ11は、J字型に折り曲げたときに生じる放射特性の劣化を更に抑制することができる。
また、第1領域11341が設けられていることにより、放射素子112から放射された電磁波は、第1領域11341を透過して、図2及び図3に図示したy軸負方向側に対しても放射されやすくなる。したがって、フィルムアンテナ11は、開口1134が第2領域11342のみからなる場合と比較して、y軸負方向側に対する放射特性を高めることができる。
また、開口1134が設けられていることにより、放射素子113は、環状の導体箔となる。この環状の放射素子113において、その外縁(輪郭)と内縁(開口1134の輪郭)との間隔を幅と定義する。放射素子113において、開口1134の設けられている領域を拡大すること、すなわち、放射素子113の幅を狭小化することによって、上述した静電容量を抑制することができる。その一方で、放射素子113の幅を狭くしすぎた場合には、電流密度が高まりすぎることに起因して、フィルムアンテナ11の放射特性は、劣化してしまう。したがって、開口1134は、電流密度が高まりすぎない範囲内においてできるだけ広範囲に設けられていることが好ましい。
図2に示すように、放射素子113のうち第3部分1133は、U字型の形状を有し3つの帯状導体11331〜11333により構成されている。帯状導体11331,11332は、直線BBに交わる方向(図2に図示されたy軸方向)に沿って延伸されている。帯状導体11331は、x軸正方向側に配置されており、帯状導体11332は、x軸負方向側に配置されている。帯状導体11333は、直線BBに沿う方向(x軸方向)に沿って延伸された帯状導体11333である。
ここで、帯状導体11331のx軸方向に沿って測った場合の長さを幅W1とし、帯状導体11332のx軸方向に沿って測った場合の長さを幅W2とし、帯状導体11333のy軸方向に沿って測った場合の長さを幅W3とする。
幅W3は、少なくとも幅W1及び幅W2の何れか一方よりも広く構成されていることが好ましい。
この構成によれば、フィルムアンテナ11の利得が高い方向を第1平面P1及び第3平面P3に沿った方向、すなわちxy平面に近づけることができる。たとえば、第1平面P1及び第3平面P3が車体のルーフに沿うように、このフィルムアンテナ11を車体のルーフの後端に搭載する場合に、この構成によれば、フィルムアンテナ11の利得が強い方向を、ルーフに沿った方向、すなわち水平面に近づけることができる。換言すれば、フィルムアンテナ11の利得の高い方向の仰角を小さくすることができる。
また、上述したように、帯状導体11333の幅W3が狭くなるにしたがって、この領域に分布する電流密度は、高まる。
例えば、ルーフの後端にこのフィルムアンテナ11を搭載する場合、帯状導体11333における電流密度が高まることに伴い、帯状導体11333とルーフの後端との結合が強まることに起因して、フィルムアンテナ11の放射特性が悪化することがある。この放射特性の悪化は、帯状導体11333とルーフの後端との間隔が狭くなるにしたがって、より顕著になる。
幅W3を少なくとも幅W1及び幅W2の何れかよりも広くすることによって、上述した放射特性の悪化を緩和することができ、結果として、所望の放射特性を得つつ、フィルムアンテナ11をルーフの後端により近づけることができる。すなわち、フィルムアンテナ11をルーフの後端に搭載する場合の搭載位置に関する自由度を高めることができる。
<首部1122>
図2に示すように、放射素子112を直線AAに沿って測った場合の長さ、すなわち、x軸方向に沿って測った場合の長さを幅W4とする。また、放射素子112において、被対向領域1121の第2領域11212に含まれる部分には、幅W4が絞り込まれた首部1122が設けられていることが好ましい。
ここで、第2領域11212は、被対向領域1121を直線AAと平行な直線CCによって2つの領域(第1領域11211及び第2領域11212)に二分(本実施形態においては二等分)した場合における給電領域114から遠い側の領域であり、第1領域11211は、上記2つの領域のうち給電領域114から近い側の領域である。なお、放射素子112が配置されている領域のうち被対向領域1121に含まれていない領域を非対向領域1124と称する。
この構成によれば、図3の下図に示すように、対向領域1135に含まれる放射素子113と、被対向領域1121に含まれる放射素子112との間に生じる静電容量を更に抑制することができる。また、第2領域11212は、第1領域11211と比較して、電流密度が低い領域である。そのため、首部1122において過度に電流密度が高まることを防止できる。したがって、フィルムアンテナ11は、J字型に折り曲げたときに生じる放射特性の劣化を更に抑制することができる。なお、首部1122における電流密度が高くなりすぎることを防ぐために、幅W4の極小値は、6mm以上であることが好ましい。
なお、放射素子112が配置されている領域のうち被対向領域1121に含まれていない領域を非対向領域1124と称する。
<スリット1123>
図2に示すように、放射素子112の第1領域11211に含まれる部分には、スリット1123が設けられていることが好ましい。スリット1123は、放射素子112の外縁から内側に向かって形成されたスリットであり、且つ、直線AAに沿って形成されたスリットである。
層状の導体中を流れる電流は、該導体の外縁近傍に集中して流れる傾向がある。したがって、該導体中の電流密度は、その外縁近傍において高く、その内側において低くなる。したがって、フィルムアンテナ11においては、放射素子112中の電流密度及び放射素子113中の電流密度の各々は、何れも放射素子112,113の外縁において高くなる。
更に、対向領域1135の外縁と被対向領域1121の外縁とは、互いに近接しているため、この外縁同士が近接する部分においては、大きな静電容量が生じる。その結果、上述したスリット1123が第1領域11211に設けられていない場合、放射素子113の共振周波数である第2の共振周波数よりも高周波側の周波数帯域(例えば1.7GHz以上1.8GHz以下の周波数帯域)において、放射特性が悪化することを本発明の発明者らは見出した。
スリット1123が第1領域11211に設けられているフィルムアンテナ11は、スリット1123を設ける位置(y軸方向における位置)を適宜調整することによって上述した第2の共振周波数よりも高周波側の周波数帯域において生じる放射特性の悪化を抑制することができる。これは、スリット1123を設けることによって、給電領域114から放射素子112の外縁に沿って流れてきた電流が第1領域11211の内側(スリット1123が設けられていない場合には電流密度が低い領域)に導かれるためである。これにより、対向領域1135と被対向領域1121との間に生じる静電容量を分割することができ、結果として第2の共振周波数よりも高周波側の周波数帯域(例えば1.7GHz以上1.8GHz以下の周波数帯域)における放射特性の悪化を抑制することができる。
<枝部1125>
図2に示すように、非対向領域1124に含まれる放射素子112には、その共振周波数が放射素子113の動作帯域に含まれる枝部1125が形成されていることが好ましい。
枝部1125は、放射素子112の外縁からL字型のスリットを設けることによって形成される。L字型のスリットは、その短辺部分がx軸方向に沿い、その長辺部分がy軸方向に沿うように設けられている。その結果、枝部1125は、y軸方向に沿って延伸された帯状導体によって構成される。
放射素子112に枝部1125が設けられていることにより、放射素子112は、第1の共振周波数を含む周波数帯域電磁波に加えて、放射素子113の動作帯域に含まれる電磁波を放射することができる。その結果として、放射素子113の第3部分1133が放射素子112に対向する構成を採用した場合であっても、放射素子113の動作帯域における放射特性が劣化することを抑制することができる。
また枝部1125がy軸方向に沿って延伸されていることにより、放射素子112が延伸されている方向と、枝部1125が延伸されている方向とは、互いに沿う。そのため、枝部1125は、放射素子112の指向性を変化させることなく放射素子113の動作帯域における放射特性が劣化することを抑制することができる。
また、枝部1125がy軸方向に沿って延伸されているため、放射素子112の幅(x軸方向に沿って測った場合の長さ)を増大させることない。
<開口1126>
図2に示すように、放射素子112の非対向領域1124に含まれる部分には、開口1126が設けられていることが好ましい。
放射素子112の非対向領域1124に含まれる部分に開口1126が設けられていることにより、放射素子112に給電された電流が流れる経路として、放射素子112の外縁に沿って放射素子112の端辺1127に至る経路に加えて、開口1126の外縁(輪郭)に沿って、換言すれば、放射素子112の内縁に沿って端辺1127に至る経路が存在する。したがって、112放射素子の被対向領域1121に含まれる部分は、複数の共振周波数を有することができ、結果として、所望の動作帯域をきめ細やかにカバーすることができる。換言すると、フィルムアンテナ11の動作帯域における放射特性を平坦化することができる。なお、放射素子112の内縁に沿って端辺1127に至る経路は、(1)首部1122から、(2)放射素子112のうち開口1126を取り囲む領域を経て、(3)端辺1127に至る、y軸正方向に凡そ沿った経路とも説明できる。
本実施形態において、開口1126の形状は、点P11261、点P11262、及び点P11263によって構成された三角形である。点P11261は、開口1126の給電領域114側の端部、すなわち、y軸負方向側の端部を構成する点(請求の範囲に記載の近接点)である。点P11262は、開口1126の給電領域114と逆側の端部、すなわち、y軸正方向側の端部を構成する点(請求の範囲に記載の遠隔点)である。
開口1126の形状が三角形であることにより、開口1126における一方の輪郭(点11261から点11262に直接至る経路)の輪郭長と、開口1126における他方の輪郭(点11261から点11263を経て点11262に至る経路)の輪郭長とが互いに異ならせることができる。
その結果として、首部1122から放射素子112の内縁(開口1126を取り囲む領域)に沿って端辺1127に至る経路の経路長を複数にすることができ、放射素子112の共振周波数を更に増やすことができる。結果として、フィルムアンテナ11は、所望の動作帯域を更にきめ細やかにカバーすることができる。換言すると、フィルムアンテナ11の動作帯域における放射特性を更に平坦化することができる。
<無給電素子115>
図2に示すように、フィルムアンテナ11は、放射素子112の端辺1127(給電領域114と逆側の端辺)に近接する領域に配置された無給電素子115を備えていることが好ましい。無給電素子115は、帯状の無給電素子であって、その長軸が直線AAに沿って(図2に図示したx軸方向に沿って)配置されている。
この構成によれば、放射素子112から放射される電磁波の利得を高めることができる。無給電素子115が配置されていることにより、放射素子112から放射される電磁波の位相を調整することができるためと考えられる。
無給電素子115の長軸方向に沿った長さは、放射素子112の端辺1127の長さと同じであることが好ましい。また、無給電素子115の短軸方向に沿った長さ(無給電素子115の幅)、及び、無給電素子115と放射素子112との間隔の各々は、何れも1mm以下であることが好ましい。
なお、無給電素子の幅及び放射素子112との間隔は、フィルムアンテナ11の放射特性を最適化するように定めることが好ましい。
(同軸ケーブルの配線経路)
支持体12のブロック部121の内部には、給電領域114において放射素子112,113に接続された同軸ケーブル13を、給電領域114から支持体12の外部まで引き出す配線経路1218が設けられている。ここでは、支持体12のブロック部121の具体的な形状と配線経路1218の形状とについて図3を参照して説明する。
図3は、アンテナ装置1を支持体12(図3の上図)とフィルムアンテナ11及び同軸ケーブル13(図3の下図)とに分解した状態を示す。なお、図3の上図においては、同軸ケーブル13の配線経路を分かりやすくするために、同軸ケーブル13を二点鎖線にて図示している。
上述したように、ブロック部121は、直方体状の形状を有する。図3に示すように、右壁1211、左壁1212、前壁1213、及び後壁1214の各々によって、ブロック部121の側面は、四方から取り囲まれている。なお、後壁1214は、請求の範囲に記載の第2支持面を構成する。
ブロック部121の内部には、格子状のリブ1215が形成されている。リブ1215の上面(図3において斜線を付した部分)は、xy平面に沿うように平坦に成形されており、請求の範囲に記載の第3支持面を構成する。このリブ1215の上面は、ブロック部121の上壁1217を構成する。リブ1215の下面は、リブ1215の上面と同様に、xy平面に沿うように平坦に成形されており、請求の範囲に記載の第1支持面の一部を構成する。リブ1215の下面は、ブロック部121の下壁1216を構成する。
このように構成された支持体12の第1支持面、第2支持面、及び第3支持面に対して、フィルムアンテナ11は、J字型に巻き付けられている。アンテナ装置1をこのように構成することにより、フィルムアンテナ11の基板111として可撓性を有する材料からなる基板を用いた場合であっても、支持体12は、フィルムアンテナ11を予め設計された通りの形状であるJ字型に支持することができる。したがって、フィルムアンテナ11は、予め設計された通りの放射特性を確実に実現することができる。その結果、アンテナ装置1は、放射特性の劣化を抑制しつつ、狭小なスペースにも実装可能なフィルムアンテナを確実に実現することができる。
本実施形態において、フィルムアンテナ11の給電領域114は、ブロック部121の下壁1216に沿い、且つ、直線AAの近傍に配置される。以下において、第1支持面と第3支持面とが対向する領域をブロック部121における対向領域1219と称する。
ブロック部121の内部であって、給電領域114に対応する位置には、同軸ケーブル13の一方の端部を収容するための空隙が形成されている。この空隙は、リブ1215の一部を除去することによって得られる。
給電領域114においてその一端が放射素子112,113に接続された同軸ケーブル13は、上述した空隙からブロック部121の内部に設けられた配線経路1218を経て支持体12の外部(ブロック部121の外部)へ引き出される。
具体的には、配線経路1218は、対向領域1219内において、(1)給電領域114に対応する上記空隙から、放射素子112の第1部分1111に沿ってx軸正方向に沿って同軸ケーブル13を導き、(2)放射素子113の帯状導体11331に沿ってy軸正方向に同軸ケーブル13を導き、(3)x軸負方向に沿って同軸ケーブル13を導き、(4)ブロック部121の前壁1213に形成された切り欠き1213aからブロック部121の外部へ、且つ、y軸正方向に沿って同軸ケーブル13を導く。切り欠き1213aは、前壁1213のx軸方向における中央部に形成されている。したがって、同軸ケーブル13は、前壁1213のx軸方向における中央部からブロック部121の外部へ引き出される。
上述した(2)のように、同軸ケーブル13のうち直線AAに交わり且つ直線AAから遠ざかる方向(y軸正方向)に沿って延伸された部分を、帯状導体11331に重畳する位置に配線することによって、同軸ケーブル13のy軸方向に沿って延伸された部分を給電領域114から遠ざけて配線することができる。したがって、電流密度が高い領域である給電領域114と、同軸ケーブルとの間に生じる静電容量を抑制することができるため、アンテナ装置1の放射特性を更に向上させることができる。
なお、被対向領域1121内において、放射素子112は、同軸ケーブル13のy軸方向に沿って延伸された部分と重畳しないように、直線AAに沿った方向(x軸方向)の長さが絞り込まれていることが好ましい。この構成によれば、放射素子112と同軸ケーブル13との間に生じる寄生容量を抑制することができるため、アンテナ装置1の放射特性を更に向上させることができる。
上述した(3),(4)のように、配線経路1218は、直線AAに沿い且つ前記2つの帯状領域の一方(帯状導体11331)から他方(帯状導体11332)へ向かう方向(x軸負方向)に同軸ケーブル13を導き、且つ、2つの帯状領域である帯状導体11331と帯状導体11332とのx軸方向における中間付近の領域から支持体12の外部に同軸ケーブル13を引き出す、ように構成されていることが好ましい。同軸ケーブル13が支持体30の外部に引き出される方向は、直線AAに交わり且つ直線AAから遠ざかる方向(y軸正方向)に沿っている。
この構成によれば、アンテナ装置1は、同軸ケーブル13のうち支持体12の外部に引き出された部分が、その配線される経路に応じてアンテナ装置1の放射特性に与える影響を抑制することができる。換言すれば、同軸ケーブル13のうち支持体12の外部に引き出された部分を配線する経路を選択する場合の自由度を向上させることができる。
例えば、同軸ケーブル13のうち支持体12の外部に引き出された部分の配線経路を、図4に示した経路1〜経路3のように変化させた場合であっても、同程度の放射特性を得ることができる。結果として、例えば、アンテナ装置1を車体のルーフの後端に配置するような場合に、同軸ケーブル13のうち支持体12の外部に引き出された部分の配線経路を様々な車種に応じて柔軟に変更することができるので、多数の車種に共用可能なアンテナ装置1を得ることができる。
なお、上述した(3)において、配線経路1218は、同軸ケーブル13のx軸負方向に導かれる部分が放射素子112の首部1122の近傍と重畳するように、同軸ケーブル13を配線することが好ましい。換言すれば、首部1122は、同軸ケーブル13のx軸負方向に導かれる部分の近傍に位置するように、設けられていることが好ましい。同軸ケーブル13のx軸負方向に導かれる部分が首部1122の近傍と重畳することによって、放射素子112と同軸ケーブル13との間に生じる静電容量を抑制することができる。したがって、アンテナ装置1は、フィルムアンテナ11をJ字型に折り曲げたときに生じる放射特性の劣化を更に抑制することができる。
上述のように構成された配線経路1218は、ブロック部121の内部に同軸ケーブル13を配線可能な幅の溝部を形成することによって得られる。この溝部において同軸ケーブル13を挟み込む側壁は、リブ1215の側面によって構成されていてもよいし、リブ1215に設けられた切り欠きによって構成されていてもよい。
なお、リブ1215に設ける切り欠きの幅を同軸ケーブル13の外径よりもわずかに小さく構成し、この切り欠きに同軸ケーブル13を押し込むことによって、この切り欠きは、同軸ケーブル13を把持することができる。この構成によれば、同軸ケーブル13が引っ張られた場合に、給電領域114に生じ得る引っ張り負荷を抑制することができる。
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るアンテナ装置が備えているフィルムアンテナ21について、図5を参照して説明する。図5は、フィルムアンテナ21の展開図である。
図5に示したフィルムアンテナ21は、図2に示したフィルムアンテナ11と比較して、被対向領域2121(被対向領域1121に対応する)に含まれる放射素子212(放射素子112に対応する)の構成(具体的には、首部2122及びスリット2123a,b)を変更し、且つ、無給電素子115を省略したものである。そこで、本実施形態では、フィルムアンテナ11との差異となる首部2122、及びスリット2123a,2123bについて説明し、それ以外のフィルムアンテナ11の各部材と対応する部材の説明を省略する。
フィルムアンテナ21は、フィルムアンテナ11と同様に、基板211と、第1の放射素子である放射素子212と、第2の放射素子である213とを備えている。基板211、放射素子212、及び放射素子213の各々は、それぞれ、フィルムアンテナ11における基板111、放射素子112、及び放射素子113の各々に対応する。このように、フィルムアンテナ21の各部材番号は、フィルムアンテナ11の上一桁の数字を「1」から「2」に変更することにより得られる。
フィルムアンテナ21においては、被対向領域2121の第1領域21211に含まれる放射素子212の部分に2つのスリット2123a,2123bが設けられている。このように、第1領域21211に含まれる放射素子212には、2つのスリット2123a,2123bが設けられていてもよい。
スリットの数を1つ(フィルムアンテナ11の場合)から2つに増やすことによって、放射素子213の共振周波数である第2の共振周波数よりも高周波側の周波数帯域(例えば1.7GHz以上1.8GHz以下の周波数帯域)における放射特性の悪化を更に抑制することができる。換言すれば、フィルムアンテナ21の動作帯域における放射特性を更に平坦化することができる。
例えば、LTE(Long Term Evolution)用あるいは4G用の周波数帯域のうち、1.7GHz以上1.8GHz以下の周波数帯域における放射特性を重視する場合には、2つのスリット2123a,2123bを採用したフィルムアンテナ21を選択し、698MHz以上1GHz以下の周波数帯域における放射特性を重視する場合には、1つのスリット1123を採用したフィルムアンテナ11を選択することができる。
〔第1の実施例〕
図6は、アンテナ装置1の第1の実施例が備えているフィルムアンテナ21の展開図である。本実施例のアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ21は、図5に示したフィルムアンテナ21において、各部のサイズを図6に示すように定めたものである。図6における各サイズの単位は、ミリメートル(mm)である。
また、フィルムアンテナ21が備えている基板211の比誘電率は、3.3である。
本実施例のアンテナ装置1が備えている支持体12は、ブロック部121の下壁1216と上壁1217との間隔(ブロック部121の厚さ)として17mmを採用している。したがって、支持体12に巻き付けられたフィルムアンテナ21において、図5に図示した直線AAと直線BBとの間隔は、17mmとなる。
本実施例のアンテナ装置1において、第1の共振周波数は、698MHzであり、第2の共振周波数は、1400MHzである。また、本実施例のアンテナ装置1において、周波数が698MHzである電磁波の実効長は、456mmであり、当該実効長の1/16は、28.5mmである。すなわち、本実施例における支持体30の厚さは、上記実効長の1/16よりも薄い。
(比較例)
また、本実施例のアンテナ装置1に対する比較例として、図14に示したフィルムアンテナ31を備えたアンテナ装置を用いる。この比較例のアンテナ装置は、本実施例のアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ21をフィルムアンテナ31に置換することによって得られる。したがって、フィルムアンテナ31を支持する支持体は、支持体12と同じものであり、放射素子313の対向領域3134と放射素子312の被対向領域3121との間隔が17mmとなるようにフィルムアンテナ31を支持する。
フィルムアンテナ31は、基板311と、放射素子312と、放射素子313とを備えている。フィルムアンテナ31は、フィルムアンテナ21から、(1)開口2134、(2)首部2122、(3)スリット2123a,2123b、(4)枝部2125の各構成を省略することによって得られる。したがって、図14に示すように、フィルムアンテナ31は、放射素子312の形状が略長方形であり、且つ、放射素子313の形状が盃型であるダイポールアンテナである。
(参考例)
また、上述したフィルムアンテナ31を支持体に対して巻き付けず、平面に展開した状態で運用する場合を本実施例のアンテナ装置1に対する参考例として用いる。
(第1の実施例のVSWR)
本実施例のアンテナ装置1、比較例のアンテナ装置、及び参考例のフィルムアンテナ31の放射特性の1つとして、VSWRを測定した。それらのVSWRの結果を図7に示す。図7に示した、「完成品」とのプロットが本実施例のアンテナ装置1のVSWRを示し、「17mm曲げ」とのプロットが比較例のアンテナ装置のVSWRを示し、「展開ダイポール」とのプロットが参考例のフィルムアンテナ31のVSWRを示す。
図7から分かるように、参考例のフィルムアンテナ31は、698MHz以上3GHz以下の周波数帯域、すなわち、LTE用の周波数帯域の全域においてVSWRが3以下となる良好な放射特性を示した。
一方、そのフィルムアンテナ31を支持体12と同じ支持体に対して巻き付けた比較例のアンテナ装置は、フィルムアンテナ31をコンパクトなJ字型に折り曲げたことに起因して、VSWRが以下のように著しく悪化することが分かった。
また、比較例のアンテナ装置のVSWRは、参考例のフィルムアンテナ31のVSWRと比較して、その周波数依存性のスペクトル形状が高周波側へ移動していることが分かった。具体的には、図7に示した矢印のように、参考例において700MHz近傍において認められる裾野が比較例では1GHz近傍へ移動し、参考例において1.2GHz近傍に認められるピークが比較例では1.6GHz近傍に移動し、参考例において2.4GHz近傍に認められるピークが2.9GHz近傍に移動していることが分かった。
その結果として、1.2GHz近傍の周波数帯域と、1.8GHz以上2.6GHz未満の周波数帯域とを除いて、比較例のアンテナ装置のVSWRは、3を超えることが分かった。3を超えるVSWRは、LTE用のアンテナ装置として用いる場合に好ましくない。
それに対して、本実施例のアンテナ装置1のVSWRを参照すると、比較例のアンテナ装置のVSWRと比較して、1.2GHz以上1.4GHz未満の周波数帯域を除いて良好なVSWRを得ることができた。1.2GHz以上1.4GHz未満の周波数帯域においてVSWRが3を超えているが、この1.2GHz以上1.4GHz未満の周波数帯域は、LTE用として用いられない不使用帯域である。そこで、本実施例のアンテナ装置1では、VSWRが3を超える周波数帯域がこの不使用帯域内に収まるように、放射素子112,113の形状を適宜調整した。
このように、本実施例のアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ21は、複数の共振周波数で動作するフィルムアンテナ21であって、放射特性の劣化を抑制しつつ、狭小なスペースにも実装可能なフィルムアンテナ21であることが分かった。
(変形例群)
上述した第1の実施例のアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ21を変形した場合に得られたVSWRの周波数依存性を図8に示す。
図8に示した「SWR 穴調整品」のプロットは、上述した第1の実施例のアンテナ装置1のVSWRを示し、図7に示した「完成品」のプロットに対応する。図8に示した各プロットから分かるように、第1の実施例のアンテナ装置1は、2.1GHz近傍に認められるピークの値が最も小さく、最も良好な放射特性を示した。
図8に示した「SWR 穴有」のプロットは、図5,6に示したフィルムアンテナ21の各構成から開口2134の第1領域21341を省略したフィルムアンテナ21を備えたアンテナ装置1によって得られた。開口2134の第1領域21341を省略することによって、2.1GHz近傍に認められるピークの値が2.5程度に悪化するものの3は超えず、良好な放射特性を示すことが分かった。
図8に示した「スリット無し」のプロットは、図5,6に示したフィルムアンテナ21の各構成からスリット2123a,2123bを省略したフィルムアンテナ21を備えたアンテナ装置1によって得られた。スリット2123a,2123bを省略することによって、2.1GHz近傍に認められるピークの値が3に迫る程度に悪化するものの3は超えず、良好な放射特性を示すことが分かった。
(比較例群)
図8に示した「SWR 穴無し」のプロットは、図5,6に示したフィルムアンテナ21の各構成から開口2134を省略したフィルムアンテナを備えたアンテナ装置によって得られた。開口2134を省略することによって、2.1GHz近傍に認められるピークの値が3を超えることが分かった。このことから、放射素子213に設けられた開口2134は、フィルムアンテナがJ字型に折り曲げられたことに伴い生じる放射特性の劣化を効果的に抑制できることが分かった。
図8に示した「整合部無し」のプロットは、図5,6に示したフィルムアンテナ21の各構成から首部2122を省略したフィルムアンテナを備えたアンテナ装置によって得られた。首部2122を省略することによって、2.1GHz近傍に認められるピークの値が3を大きく超え、5に到達するほどに悪化することが分かった。このことから、放射素子212に設けられた首部2122は、フィルムアンテナがJ字型に折り曲げられたことに伴い生じる放射特性の劣化を効果的に抑制できることが分かった。
(模擬車体へ搭載した場合)
後述するように、フィルムアンテナ11あるいはフィルムアンテナ21を備えたアンテナ装置1は、自動車などの移動体の車体に搭載して運用することを想定している。
そこで、上述した第1の実施例のアンテナ装置1を自動車の車体を模した模擬車体のルーフに搭載した場合の、利得及びVSWRを図9に示し、利得の方位依存性を図10の(a)〜(c)に示す。図10の(a)〜(c)の各々は、それぞれ、698MHz、2026MHz、及び2170MHzにおける利得の方位依存性を示す。図10の(a)〜(c)の各々におけるφ=180deg.が図3に図示したy軸負方向、すなわち、アンテナ装置1を車体50に搭載した場合における車体50の後方向に対応する。また、図10の(a)〜(c)の各々における、「Eθ」のプロットは、水平偏波に対する利得を示し、「Eφ」のプロットは、垂直偏波に対する利得を示し、「Etotal」のプロットは、水平偏波に対する利得と垂直偏波に対する利得との和を示している。
ここで用いた模擬車体は、図13に示した車体50のルーフ51に相当する導体板を備えている。ここでは、フィルムアンテナ21の非対向領域2124の一部が上述した導体板に重畳し、且つ、フィルムアンテナ21の対向領域2135及び被対向領域2121の双方が導体板に重畳しないように、アンテナ装置1を模擬車体に搭載した。
図9を参照すれば、模擬車体に搭載されたアンテナ装置1は、698MHz以上2.7GHz以下の周波数帯域の全域において−5dBiを上回る良好な利得を示し、且つ、698MHz以上3GHz以下の周波数帯域の全域において3を下回る良好なVSWRを示すことが分かった。
以上のように、第1の実施例のアンテナ装置1は、自動車などの車体に搭載して運用する車載用アンテナ装置として好適に用いることができる。
図10を参照すれば、模擬車体に搭載した状態において、アンテナ装置1は、車体50の後方向(φ=180deg.の方向)及び左右方向(φ=90deg.及びφ=270deg.の方向)に対して良好な利得を示すことが分かった。
(車体へ搭載した場合)
次に、第1の実施例のアンテナ装置1を実際の車体50のルーフ51の後端に搭載した場合の利得の方位依存性を図11に示し、VSWRの周波数依存性を図12に示す。ルーフ51は、外装パネルの一態様である。ここで、アンテナ装置1は、車体50のルーフ51の後端に搭載されるスポイラー52を筐体として(図13の(a)参照)、スポイラー52の内部に収容されている(図13の(b)参照)。図13の(a)は、アンテナ装置1を内蔵するスポイラー52を搭載した車体50の斜視図である。図13の(b)は、スポイラー52の斜視図である。
図13の(a)に示すように、車体50のルーフ51の後端には、スポイラー52が搭載されている。スポイラー52は、一体成形された樹脂部材である。スポイラー52には、ルーフ51の後端に対するスポイラー52の位置を所定の位置に定めるための構造(図13の(b)には不図示)、及び、ルーフ51の所定の位置にスポイラー52を固定するための構造(図13の(b)には不図示)が形成されている。これらの構造を用いて、スポイラー52は、ルーフ51の所定の位置に固定される。
スポイラー52は、車体50の後部における気流の乱れを抑制する(気流を整流する)、車体50の美観を向上させるなどの機能を有する。気流を整流するために、スポイラー52は、後端に近づくにしたがって、天地方向のサイズが徐々に小さくなるように構成されている。すなわち、スポイラー52の後部は、くさび型であり、且つ、そのくさび型の内側に空隙が形成されるように(中空構造となるように)構成されている(図13の(b)参照)。
ここでは、上記空隙にアンテナ装置1を収容することによって、アンテナ装置1を内蔵するスポイラー52を実現している。アンテナ装置1は、(1)フィルムアンテナ11の第1の平面P1が第3の平面P3よりも車体50の上側に位置するように、かつ、(2)給電領域114から端辺1127に向かう方向が車体50の前進方向に沿うように、スポイラー52内に載置されている。図1に図示した座標系を用いて説明すれば、図1のz軸負方向が天頂から地面へ向かうように、y軸を回転の中心軸としてアンテナ装置1を180°回転させ、かつ、y軸正方向が車体50の前進方向に沿うような向きで、アンテナ装置1は、スポイラー52内に載置されている。換言すれば、スポイラー52は、フィルムアンテナ11の第1平面P1及び第3平面P3がルーフ51の表面に沿うように、且つ、アンテナ装置1の放射素子113がルーフ51に重畳しないように前記アンテナ装置を保持する。したがって、アンテナ装置1は、車載用アンテナ装置として機能し、スポイラー52は、アンテナ装置1を収容する筐体として機能する。
図11には、698MHz、760MHz、830MHz、900MHz、及び960MHzにおける利得の方位依存性を示す。図11における0deg.がアンテナ装置1の前方向(図3に図示したy軸正方向)、すなわち、車体50の前方向に対応する。
図11を参照すると、698MHz以上960MHz以下の周波数帯域において、車体50に搭載されたアンテナ装置1は、その利得において、等方的な方位依存性を示すことがわかった。
また、図12を参照すると、698MHz以上2.6GHz以下のLTE用の周波数帯域のうち不使用帯域を除いた周波数帯域(図12に示した2点鎖線で囲まれた周波数帯域)において、3を下回る良好なVSWRを示すことが分かった。
このように、第1の実施例のアンテナ装置1は、車載用アンテナ装置として好適に利用可能なことが分かった。
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係るアンテナ装置が備えているフィルムアンテナ41について、図15を参照して説明する。本実施形態に係るアンテナ装置は、第1の実施形態に係るアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ11をフィルムアンテナ41に置換することによって得られる。そこで、本実施形態においては、フィルムアンテナ41について説明し、支持体12及び同軸ケーブル13に関する説明は、省略する。
図15の(a)は、フィルムアンテナ41の展開図である。図15の(b)は、フィルムアンテナ41を支持体12に対して巻き付けた状態におけるフィルムアンテナ41の平面図である。なお、図15の(b)において支持体12の図示を省略している。
図15の(a)に示すように、フィルムアンテナ41は、フィルムアンテナ11と同様に、基板411と、第1の放射素子である放射素子412と、第2の放射素子である413とを備えている。基板411、放射素子412、及び放射素子413の各々は、それぞれ、フィルムアンテナ11における基板111、放射素子112、及び放射素子113の各々に対応する。このように、フィルムアンテナ41を構成する各部材の部材番号は、フィルムアンテナ11の上一桁の数字を「1」から「4」に変更することにより得られる。
基板411は、図2に示す基板111と同一である。ここでは、基板411の説明を省略する。
放射素子412,413は、図2に示す放射素子112,113と同様に、導体箔を所定の形状に成形した導体パターンである。放射素子413は、放射素子113に対応しており、その幅(第1の境界線(直線AA)及び第2の境界線(直線BB)に沿う方向(x軸方向)の長さ)を放射素子113よりも狭くすることによって得られる。また、放射素子413にも、放射素子113と同様に、第1領域41341及び第2領域41342からなる開口4134が設けられている。開口4134は、図15の(b)に示した状態において、開口4134のy軸正方向側の端辺が、後述する切り欠き4123a及び切り欠き4123bが設けられている領域の内側に位置するように設けられている。別の言い方をすれば、図15の(b)に示した状態において、上記の条件を満たすように、放射素子413の帯状導体41333(図15の(a)参照)の幅W5(y軸方向に沿って測った場合の長さ)が定められている。
なお、放射素子413の幅を放射素子113の幅から狭めることによって、その生じたスペースに、放射素子412の一方の端辺(給電領域414側の端辺)の一部から直線AAに交わる方向(y軸負方向)に延伸された帯状導体を配置することができる。この帯状導体は、フィルムアンテナ41の共振周波数を増やし、フィルムアンテナ41の放射特性を平坦化する効果を奏する。
放射素子412は、図2に示す放射素子112のパターンを変形することによって得られる。放射素子412において注目すべき構成は、2つの切り欠き4123a,4123bである。本実施形態では、これらの切り欠き4123a,4123bについて重点的に説明する。
切り欠き4123aは、放射素子412の長手方向に沿う外縁のうちx軸正方向側の外縁から、x軸負方向に向かって導体箔を切り取り、その後、y軸正方向に向かって導体箔を切り取ることによって設けられる。切り欠き4123aは、L字型の形状を有する。
図15の(b)に示すように、支持体12に対して巻き付けた状態のフィルムアンテナ41をz軸正方向側から平面視した場合、切り欠き4123aは、対向領域4135の外側から開口4134の第2領域41342に至る。
切り欠き4123bは、放射素子412の長手方向に沿う外縁のうち切り欠き4123aとは逆側の外縁、すなわちx軸負方向側の外縁から、x軸正方向に向かって導体箔を切り取り、その後、y軸正方向に向かって導体箔を切り取ることによって設けられる。切り欠き4123bは、切り欠き4123aと同様に、L字型の形状を有する。
支持体12に対して巻き付けた状態のフィルムアンテナ41を平面視した場合、切り欠き4123bは、対向領域4135の外側から開口4134の第2領域41342に至る。
(1)放射素子412に切り欠き4123a,4123bが設けられており、且つ、(2)図15の(b)に示した状態において、開口4134のy軸正方向側の端辺が、後述する切り欠き4123a及び切り欠き4123bが設けられている領域の内側に位置することによって、フィルムアンテナ41を支持体12に対して巻き付けた場合に、対向領域4135と、被対向領域4121とが重畳しない領域Ra,Rbが開口4134の第2領域41342内に生じる。放射素子412に切り欠き4123a,4123bが設けられていることによって、放射素子412と放射素子413とが対向する(換言すれば重畳する)領域は、その面積が縮小され、かつ、小領域41361,41362,41363,41364の4つに分割されている(図15の(b)参照)。
フィルムアンテナ41においては、放射素子412と放射素子413とが対向する領域の面積を小さくすることによって、放射利得を高めることができる。また、フィルムアンテナ41においては、放射素子412と放射素子413とが対向する領域を分割することによって、VSWRの周波数依存性を向上させることができる。なお、以下において、VSWRの周波数依存性のことをVSWR特性と称する。
また、2つの切り欠き4123a,4123bは、放射素子412の幅(放射素子412を直線AAに平行な方向に沿って測った場合の長さ)を両側から狭めるように設けられた一対の切り欠きである。
これにより、放射素子413の対向領域4135と、放射素子412の被対向領域4121との間に生じる容量を複数の小領域(本実施形態においては、小領域41361〜41364)に分割する場合に、容量が何れかの小領域に片寄って分布することを防止できる。すなわち、容量を全ての小領域41361〜41364にバランスよく分布させることができる。したがって、何れかの小領域(例えば小領域41361)における容量が他の小領域(小領域41362〜41364)の容量と比べて極端に大きくなることを防止できるので、VSWR特性を確実に向上させることができる。
また、被対向領域4121は、直線AA(第1の境界線)と平行な直線CC(第3の境界線)によって、給電領域414を含む領域である第1領域41211と、給電領域414を含まない領域である第2領域41212とに二分される。図15の(a)に示すように、切り欠き4123a,4123bは、被対向領域4121のうち、第2領域41212内に設けられている。
切り欠き4123a,4123bが第1領域に設けられている場合、もともと電流密度が高い給電領域414近傍における電流密度を更に高めることになる。その結果、給電領域414近傍における電流密度が過度に高まり低周波側の帯域が狭くなることが考えられる。切り欠き4123a,4123bを第2領域41212に設けることによって、給電領域414近傍における電流密度が過度に高まることを防止するため、低周波側の帯域が狭くなることを防ぐことができる。
なお、フィルムアンテナ41において、放射素子412に設けられる切り欠きの数は、2つに限定されるものでなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。すなわち、フィルムアンテナ41において、1又は複数の切り欠きが放射素子412に設けられていればよい。
また、放射素子412の非対向領域4124には、開口4126a,4126bの2つが形成されている。開口4126a,4126bの各々は、請求の範囲に記載の第2の開口である。開口4126aは、図2に示した開口1126と同様の構成を有する。開口4126bは、形状が長方形である点が開口4126aと異なるものの、開口4126aと同様の働きを有する。
(フィルムアンテナ41の変形例)
図16の(a)〜(d)の各々は、フィルムアンテナ41の変形例の概略図である。図16の(a)〜(d)に示すように、本発明の一態様であるフィルムアンテナ41A〜41Dにおいて、切り欠きを設ける前の放射素子412A〜412Dの形状は、単なる長方形であってもよい。また、以下に示す各変形例に示す切り欠きは、図2に示したフィルムアンテナ11、図5に示したフィルムアンテナ21、及び図15に示したフィルムアンテナ41に適用可能である。
以下、フィルムアンテナ41の変形例であるフィルムアンテナ41A〜フィルムアンテナ41Dについて説明する。ここでは、フィルムアンテナ41とフィルムアンテナ41A〜フィルムアンテナ41Dのそれぞれとの差異となる切り欠き(部材番号については、それぞれの説明にて後述)について説明し、それ以外のフィルムアンテナ41の各部材と対応する部材の説明を省略する。
図16の(a)に示すフィルムアンテナ41Aの各部材番号は、フィルムアンテナ41の各部材番号と対応しており、フィルムアンテナ41の数字に「A」を追加することにより得られる。フィルムアンテナ41Aにおいては、1つの切り欠き4123Aが、放射素子413Aを横断するように設けられている。具体的に、切り欠き4123Aは、帯状導体41331Aを横断するように設けられている。そして、放射素子412Aと放射素子413Aとが対向する領域は、切り欠き4123Aを設けない場合と比較してその面積が小さくなっており、かつ、領域41361A,41362Aの2つに分割されている。
図16の(b)に示すフィルムアンテナ41Bの各部材番号は、フィルムアンテナ41の各部材番号と対応しており、フィルムアンテナ41の数字に「B」を追加することにより得られる。フィルムアンテナ41Bにおいては、2つの切り欠き4123Ba,4123Bbが、放射素子413Bを横断するように設けられている。具体的に、切り欠き4123Baは、帯状導体41331Bを横断するように設けられており、切り欠き4123Bbは、帯状導体41332Bと帯状導体41333Bとの境界およびその周りを横断するように設けられている。そして、放射素子412Bと放射素子413Bとが対向する領域は、切り欠き4123Ba,4123Bbを設けない場合と比較してその面積が小さくなっており、かつ、領域41361B,41362B,41363Bの3つに分割されている。
図16の(c)に示すフィルムアンテナ41Cの各部材番号は、フィルムアンテナ41の各部材番号と対応しており、フィルムアンテナ41の数字に「C」を追加することにより得られる。フィルムアンテナ41Cにおいては、2つの切り欠き4123Ca,4123Cbが、放射素子413Cを横断するように設けられている。具体的に、切り欠き4123Caは、帯状導体41331Cを横断するように設けられており、切り欠き4123Cbは、帯状導体41332C,41333Cを横断するようにL字に設けられている。そして、放射素子412Cと放射素子413Cとが対向する領域は、切り欠き4123Ca,4123Cbを設けない場合と比較してその面積が小さくなっており、かつ、領域41361C,41362C,41363C,41364Cの4つに分割されている。
図16の(d)に示すフィルムアンテナ41Dの各部材番号は、フィルムアンテナ41の各部材番号と対応しており、フィルムアンテナ41の数字に「D」を追加することにより得られる。フィルムアンテナ41Dにおいては、3つの切り欠き4123Da,4123Db,4123Dcが、放射素子413Dを横断するように設けられている。具体的に、切り欠き4123Daは、帯状導体41331Dを横断するように設けられており、切り欠き4123Dbは、帯状導体41332Dを横断するように設けられており、切り欠き4123Dcは、帯状導体41333Dを横断するように設けられている。そして、放射素子412Dと放射素子413Dとが対向する領域は、切り欠き4123Da,4123Db,4123Dcを設けない場合と比較してその面積が小さくなっており、かつ、領域41361D,41362D,41363D,41364Dの4つに分割されている。
〔第2の実施例〕
図17は、アンテナ装置1の第2の実施例が備えているフィルムアンテナ41の展開図である。本実施例のアンテナ装置1が備えているフィルムアンテナ41は、図15に示したフィルムアンテナ41において、各部のサイズを図17に示すように定めたものである。図17における各サイズの単位は、ミリメートル(mm)である。
また、フィルムアンテナ41が備えている基板411の比誘電率は、3.3である。
図15に図示した直線AAと直線BBとの間隔は、図5に図示した直線AAと直線BBとの間隔と同様に、17mmとなる。
本実施例のアンテナ装置1において、第1の共振周波数は、698MHzであり、第2の共振周波数は、1400MHzである。また、本実施例のアンテナ装置1において、周波数が698MHzである電磁波の実効長は、456mmであり、当該実効長の1/16は、28.5mmである。すなわち、本実施例における支持体(図示しない)の厚さは、上記実効長の1/16よりも薄い。
また、アンテナ装置1の比較例であるアンテナ装置が備えているフィルムアンテナとして、放射素子413に設けられている開口4134の第2領域41342のy軸方向の長さを縮小したフィルムアンテナを用いた。具体的には、フィルムアンテナ41における帯状導体41333の幅W5(y軸方向に沿って測った場合の長さ、図17参照)を拡幅することによって比較例のフィルムアンテナを得た。フィルムアンテナ41の帯状導体41333の幅W5が10mmであるのに対して、比較例のフィルムアンテナの帯状導体41333に対応する帯状導体の幅は、20mmに拡幅されている。なお、以下においては、比較例のアンテナ装置が備えているフィルムアンテナのことを比較例のフィルムアンテナと称する。
比較例のフィルムアンテナを支持体12に対して巻き付けた場合、幅W5が20mmに拡幅されていることによって、開口4134のy軸正方向側の端辺は、後述する切り欠き4123a及び切り欠き4123bが設けられている領域の外側(y軸負方向側)に位置する。したがって、本実施例のアンテナ装置1においては生じていた領域Ra,Rb(図15の(b)参照)の各々は、何れも、比較例のアンテナ装置において拡幅された上記帯状領域によってふさがれる。すなわち、比較例のフィルムアンテナにおいて、切り欠きは、開口の第2領域に至らない。
(第2の実施例のVSWR)
図18には、本実施例のフィルムアンテナ41によって得られた反射損失の周波数依存性を実線で示し、比較例のフィルムアンテナによって得られた反射損失の周波数依存性を破線で示した。以下において、反射損失の周波数依存性のことを反射特性と呼ぶ。なお、図18に付した一点鎖線は、650MHz及び800MHzを示し、図18に示した二点鎖線は、1.65GHz及び2.2GHzを示す。
図18を参照すれば、比較例のフィルムアンテナにおいて、LTE用の低周波側の周波数帯域(698MHz以上960MHz以下)のうち700MHz近傍において反射損失が増大すること、すなわち、反射特性が悪化することが分かった。反射特性が悪化することは、VSWR特性が悪化することと等価である。このように反射特性が悪いフィルムアンテナを車体に搭載する場合、その放射特性は、車体に対する搭載位置に対して敏感に依存する。その結果として、フィルムアンテナを車体に搭載可能な搭載位置が限定されるため、フィルムアンテナを車体に搭載する場合の自由度が低下する。
一方、本実施例のフィルムアンテナ41の反射特性を参照すれば、650MHz以上800MHz以下の周波数帯域における反射特性が改善されており、比較例の反射特性の700MHz近傍に見られた反射損失の増大が解消されたことが分かる。この反射特性の改善、すなわちVSWR特性の改善は、放射素子412に対して切り欠き4123a,4123bを設け、かつ、領域Ra,Rbが生じたことに起因する。このように、LTE用の低周波側の周波数帯域においてVSWR特性が良好なフィルムアンテナ41は、車体に対する搭載位置を変更した場合であっても、その放射特性は、搭載位置に対して敏感に反応しない。したがって、本実施例のアンテナ装置1は、比較例のアンテナ装置と比較して、車体に搭載する場合の自由度を高めることができる。
なお、LTE用の高周波側の周波数帯域(1.4GHz以上2.69GHz以下)のうち、1.65GHz以上2.2GHz以下の周波数帯域において、フィルムアンテナ41の反射特性は、比較例のフィルムアンテナの反射特性に比べて悪化している。しかし、この状態であってもなお、フィルムアンテナ41の高周波側の周波数帯域における反射特性すなわちVSWR特性は、LTE用のアンテナとして十分実用の範囲内である。したがって、フィルムアンテナ41が備えている切り欠きは、LTE用のアンテナとして求められるVSWR特性を満足したうえで、車体に搭載する場合の自由度を高めることができる。
〔付記事項〕
本発明の一態様に係るフィルムアンテナ及び該フィルムアンテナを備えたアンテナ装置は、以下のようにも表現できる。
本発明の態様1に係るアンテナ装置は、低周波側放射素子(給電点位置を境にして長い方)と高周波側放射素子(給電点を中心にして短い方)が折り曲げて重なる部分に寄生容量が発生してVSWR特性が悪化するのを防止する為に重なり部分に空間を設け寄生容量の低減を行うパターン形状を有する。
また、本発明の態様1に係るアンテナ装置は、折り曲げて搭載するアンテナ装置に於いて何れかの放射素子形状に於いて放射素子の一部を切り取り寄生容量を低減する為に放射素子導体の面積を少なくするパターン形状を有する。
上記の構成によれば、態様1に係るアンテナ装置は、高周波側帯域に於いては帯域が狭くなる(共振は出来るが帯域幅が狭くなる)事を防止してより広帯域(1427MHz〜2690MHz帯域に於いてVSWR特性を2以下に抑える)になる様に上下間の寄生容量を低下する事が出来るので帯域内のVSWR特性が改善出来る。
本発明の態様2に係るアンテナ装置は、上述した態様1に係るアンテナ装置と同様に重なり部分の寄生容量を低下させるために低周波側放射素子の導体部分に切り込みを設け(狭くし)、帯域全体(698MHz〜960MHz)のVSWR特性を改善し、特に給電ケーブルと車体金属間に於ける寄生容量変化に対して、698MHz〜960MHzの帯域を低周波側に拡大する事でVSWR特性の変化を抑える事が出来る。
ケーブルの取り回しを変えると、VSWR特性も影響を受ける事となり、その発生した寄生容量分の共振点が移動する事となる。しかし、上記の構成のように、予め寄生容量による変化分の補正帯域を確保しておけばVSWR特性は帯域内に留まる事となり、ケーブルの引き回しには影響を受けにくい。即ち、車体のデザインによるCableの引き回しが変化しても特性に影響を及ぼす事を回避できる。したがって、汎用性を持たせる事が出来る。
本発明の態様3に係るアンテナ装置は、上述の態様1又は2に係るアンテナ装置において、高周波側放射素子と低周波側放射素子とを折り曲げ、重なる部分に相当し、この部分は略1.7GHz帯域に相当する位置になり、VSWR特性を改善する為にスリットを設け、容量分割した事を特徴としたパターンを設けている。
上記の構成によれば、本アンテナ装置は、VSWR特性のより平坦化を行うために略1.7GHz帯域のVSWR特性を改善して、より特性の平坦化を行う事が出来た。
本発明の態様4に係るアンテナ装置は、上述の態様1〜3の何れか一態様に係るアンテナ装置において、帯域中のVSWR特性を改善する為に、その帯域に相当する部分にスリットを設け、VSWR特性に於いて、特性の悪化する部分にスリットを設け容量分割する事を目的にスリットを設ける構造にした。
VSWR特性に於いて1.7GHz〜1.8GHz帯域内にVSWR特性に持ち上がり部分(VSWR特性が悪くなる部分)が発生する。この時、高周波側放射素子中の帯域である1.4GHz帯域を低周波側放射素子の一端に設ける事で、VSWR特性を平坦化できる。しかし、重なり部分の寄生容量の影響を受ける帯域に相当する為に、1.7GHz近傍の特性を平坦化するには、1.7GHz帯域に相当する重なり部分にスリットを設け、発生する寄生容量の分割を行う事で連続してVSWR特性の悪くなる部分を短縮することが好ましい。この構成によれば、VSWR特性を総合的に平坦化する事が出来た。
本発明の態様5に係るアンテナ装置は、上述の態様1〜4の何れか一態様に係るアンテナ装置において、高周波側放射素子の略中心部(アンテナ装置の幅が狭い方の中心)には給電ケーブルを厚さ方向の中間に挿入する方法で給電ケーブルの取り回しを行える様にする為に、高周波側放射素子の内部導体を刳り抜いて、且つ、先端部で再結合する形状にした構造を持つことが好ましい。
上記の構成は、電磁波の放射角度(仰角)を抑制する為に高周波側放射素子の形状を給電点近傍から分離し、更に先端部で再結合させた事を特徴とするアンテナ装置のパターン形状に関する。
本アンテナ装置を車体後部のスポイラー部へ搭載すると車体前部方向への電磁波の放射が低下する。これは電磁波の放射角度に起因するものであり、放射角度(仰角)を抑える為に高周波側放射素子の先端を左右分離して再結合させる事で放射仰角を低くする事が出来る。
本発明の態様6に係るアンテナ装置は、上述の態様1〜5の何れか一態様に係るアンテナ装置において、低周波側放射素子先端に於いて寄生容量を持つパターン構造にしたアンテナ装置で、その間隔を1mm以下導体幅を1mm以上とした構造を持つことが好ましい。
上記の構成によれば、低周波側放射素子先端に寄生容量を持つ間隔0.5mm、幅1mmの導体を設ける事で、電磁波の放射仰角が低くなることを確認できた。電磁波の放射角度は通常では車体前方への地上と平行方向への放射は少ない。しかし、本構造とする事で僅か0.5dBi程度であるが放射利得が増加する事を確認した。
図7には、基本ダイポールアンテナの展開時と17mm間隔で曲げた状態でのVSWR特性変化と、完成品のVSWR特性変化とを示した。
展開状態でのVSWR特性は、良好な特性を示しているが、17mmの間隔を置いて略コの字型に折り曲げると低周波側の特性が高周波側に移動すると共に、全体のVSWR特性が悪化する事が判る。その理由は折り曲げた事による、給電点の電流密度が低下し、仮想的に給電点が拡大した事による実行長の短縮に起因する。
グラフ内の↑(矢印)の始発点が↑(矢印)の先端部へ移動している事が移動量と一致する事が判り、帯域の移動(ズレ)が明らかである。本アンテナ装置が解決すべき課題は折り曲げても、展開状態のVSWR特性に戻す形状を考案する事にある。
図7に調整品(完製品)と基本型ダイポールアンテナの展開特性比較を図示する。仕様帯域に於いてVSWR特性が2以下で有る事が判る。帯域が高周波側に移動しているが、誘電体スポイラーに搭載する事で帯域は低周波側に移動するので問題は無い。
図8には、高周波側放射素子に穴を(刳り抜き部を設ける)空け高周波側給電点位置からZ軸方向への寄生容量を低減する事で2GHz帯域のVSWR特性が良好な値になった。
(考察)
本データは、上述した本発明の態様5に相当する部分の評価結果である。空間を設けない場合ともうけた場合とではVSWR特性に於いて大きく改善がなされている事が判る。この位置は給電点から低周波側放射素子のインダクタンス整合パターン部と重なるために、電流密度が最も大きい場所に相当する事から、高周波側放射素子とインダクタンス整合パターン間の寄生容量を低下させなければ整合が取れなくなる事から、そのZ軸方向へ空間を空ける事で改善出来た。
又、インダクタンス整合用パターンはX−Y面で整合を行える様に給電線の取り回しを行う事から整合パターンのZ軸方向と給電点位置に空間を設ける必要が有る。折り曲げ間隔が十分有る場合にはこの限りでは無い。
同様に、上述した本発明の態様2に対する部分も寄生容量を低減する目的で、低周波側放射素子と高周波側放射素子の重なり部分に於いて連続した平行板を無くし寄生容量を低減した。
高周波側放射素子の形状をU字型としたので、放射電流密度は放射素子周辺のエッジ近傍へ集中する事からエッジ周辺(外周近傍)と相対する低周波側放射導体の幅を狭くし容量を低減する為の形状である。
以下に、上述した本発明の態様2の有効性を示すグラフである図7の説明を示す。低周波側放射素子の給電部近傍に於いて高周波側放射素子と重なり合う部分の関係を述べた。即ち寄生容量の低減方法に於いて高周波側放射素子の縁を流れる電流を阻害させない為に低周波側放射素子の重複部分を狭くしてくびれを持たせる事で、低周波側帯域(698MHz〜960MHz)のVSWR特性を改善するパターン形状にした。
又、くびれを持たせる事が有効であるが、極端に低周波側放射素子の導体部分(首部)を狭くすると電流集中を起こし、抵抗が増える事で、VSWR特性は良くなるが、放射特性は悪化する事から、最低6mm程度の導体幅をキープする必要が有る。
導体部分を狭くしすぎた場合、VSWR特性において、帯域の中心でのVSWRの値(ピーク値)が非常に良好な特性を示すようになるものの、その弊害として低周波側の帯域が狭くなる。低周波側の帯域幅とVSWR特性のピーク値とを両立することが、首部の幅を調整するときの判断目安になる。この部分が限りなく1に近づくと、698MHz近傍や960MHz近傍のVSWR特性が悪くなり放射特性も悪くなり、車体に搭載し、給電ケーブルを取回した時に増減する寄生容量によって帯域幅をキープ出来ない事となり、搭載不可となる。
図8には、整合パターン有無VSWR特性を示す。整合パターン有りは、図8に示したSWR穴調整品のプロットに対応する。
上述した本発明の態様3に相当する。本特性は上述した本発明の態様3に相当するパターンの有無を比較した特性である。整合用パターンを付加する事で全体のVSWR特性は良好な特性に成る事が判る。インダクタンス整合では高周波側放射素子と低周波側放射素子の近接する間隔とケーブルの芯線側の導体幅によってインピーダンスがケーブルのインピーダンスと同様になる様に形状を決定するが、本形状は、高周波側放射素子先端が重なり合う事による寄生容量を整合させるためのパターンであり、高周波側放射素子が持っている帯域全体の安定化をする為のパターンである事が判る。特に無くした場合には2.2GHz近傍に於いてVSWR特性の悪化している事が鮮明であり、有効なパターン構成で有る。
前記整合部(上述した本発明の態様3)パターンに於いて形状を分割した物が上述した本発明の態様4に相当する。
図8には、スリットパターン有無VSWR特性も示している。本特性は上述した本発明の態様4に相当する特性である。特に2GHz〜2.2GHz帯域のVSWR特性を抑える効果が有り、全体的に良好な特性になっている事が判る。特性的にはパターンの有無は問題の無いレベルであるが、帯域中に不自然に一部特性が悪化した部分が有る事で全体の特性が悪く見える事が有り、顧客に於いて評価が分かれる事も念頭に設計するには、微調整用のスリットを設ける事が必要である。
本発明の一実施形態に係るアンテナ装置1は、図2に図示したフィルムアンテナ11を支持体12に巻き付けることによって得られる。
アンテナ装置1を搭載する対象は、限定されるものではないが、自動車などの車体に好適に搭載することができる。例えば、自動車の車体に搭載されるスポイラー内に収容することによって、アンテナ装置1は、車載用アンテナ装置として利用できる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。