オオスズメバチ、キイロスズメバチ等、従来より国内に生息するスズメバチ駆除は、その多くが専門性を有する人の手作業により行なわれてきた。一般的に駆除の過程は次の二段階に大別される。第一段階は襲来する働き蜂の制圧および捕殺作業、そして第二段階が巣の撤去に必要な障害物除去、巣の撤去および女王蜂の捕獲作業である。
このような二段階による駆除作業が一般的である背景には、営巣の規模によっては1000匹を超えるといわれる攻撃力を持つ働き蜂の群れを最初に除去しない限り、効率よく安全に巣の周辺にある障害物を除去し、その後の巣の撤去と女王蜂の捕獲ができないという理由がある。
従ってこのようなスズメバチ駆除に係わる段階的な作業工程は、多くの駆除作業者の経験および蜂の行動様式を研究した成果に基づいているといわれている。
ところが2012年頃から長崎県対馬市に生息圏を拡大しつつあるツマアカスズメバチという外来の蜂が注目されている。その蜂は国内に生息するスズメバチと同等以上の攻撃性をもつうえに、5000匹を超えるといわれる働き蜂を抱えるほど営巣規模が大きいうえに、通常地上10mを超える高所に営巣するなど、本土にそれが定着した場合には、従来のスズメバチの駆除方法が大きく見直される可能性がある。
なぜなら対馬市では概ね2013年以後、ツマアカスズメバチ駆除のための高所作業に重機を用いることが半ば常識となっていることや、一般的に営巣規模がオオスズメバチやキイロスズメバチよりも大きいことから働き蜂の数も多く、スズメバチと格闘する作業者がその制圧および捕殺等に比較的時間を要し、結果的に蜂刺リスクの増加がみとめられたためである。
ところで一般的に攻撃性を有するスズメバチは、どの種類のスズメバチにおいても雄の働き蜂であり、巣内に常駐する繁殖専用の雄蜂と女王蜂が巣外に出て攻撃性を発揮することはほぼない。ついては以後、ここでは便宜上の措置として特別な場合を除き、襲来することで捕殺対象となる働き蜂のことをスズメバチあるいは単に蜂と称す。
襲来する蜂の制圧および捕殺手段としては、電気掃除機に似た空気吸引装置に専用蜂捕獲装置を取り付け、作業者が巣から出動する蜂をすべて吸い取り捕獲して処分する方法(例えば特許文献1)や竿の先に網のついた捕獲具で蜂を捕獲、捕殺する方法(例えば特許文献2)などがある。
当然、それらの駆除作業では作業者の身体の安全確保を要する。現在は各種の有効な防護服が開発され、それらを着用して蜂刺を防止しながら作業を行うことが一般的である。
一方、先人は蜂との格闘を回避する方法も模索してきた。例えば夜間、蜂が比較的静穏なときに作業者が巣に近づき、巣穴よりアルコールを徐々に噴霧することで、巣内の温度効果により気化したアルコールが蜂をその場で一時的な酩酊状態にさせ、その行動力を制限させたうえで捕獲、薬殺あるいは捕殺する方法である。
また例えば特許文献3にあるような、粘着剤散布による蜂の巣内への封じ込めとその後の駆除という方法がある。アルコール噴霧と同様に夜間に巣に近づき、巣の出入り口付近を中心に粘着スプレーを一気に噴霧する。そして蜂が巣から出られない状況を形成し、直後に薬殺等により巣内全体の蜂を制圧する方法である。
さらに、煙によりスズメバチの行動力抑制を図る方法がある。やはり夜間で蜂の行動が比較的静穏なときに作業者が巣に近づき、営巣付近あるいは巣を取り囲む空間に煙を充満させて蜂の行動力を一時的に奪い、その後薬殺や捕殺をする方法である。煙で蜂の行動力を一時的に奪う方法は、対象がスズメバチに限られるものではなく、ミツバチの行動抑制に至るまでその活用範囲は幅広い。養蜂家が使用する専用の発煙装置はその一例である。
ところで近年、スズメバチの本能の一つである動く濃色の物体を攻撃するという習性を逆手にとり捕殺するという手法がある。例えば特許文献4では、スズメバチとの格闘の際に、作業者が羽子板状の黒色粘着板を振り回すことで、蜂に濃色で動く物体という攻撃要件を備えた目標を与え、蜂が積極的に粘着板を攻撃すればするほど、粘着板が蜂を捕殺するというトラップ式捕殺方法を用いている。
さらに特許文献5では、濃色で振動音に反応する蜂の攻撃性に着目し、営巣至近まで届く竿の先端に濃色の振動発生装置を取り付けた蜂の攻撃目標物および熱水噴霧装置を配置し、振動音により攻撃本能を刺激された蜂が、目標物を積極的に攻撃するところを目視しながら熱水を噴射し、攻撃対象物に襲来する蜂を熱殺駆除するという手法を用いている。
その他、例えば前述の特許文献5に関しては、振動発生体のスイッチ入切を無線による遠隔操作で行うという手法を用いている。
また、例えば特許文献6に示す蜂捕獲具は、長尺の棒に吊り下げた粘着プレート面に粘着剤を塗布し、それを蜂の営巣付近に設置することで、無人で蜂の捕殺を行うというものである。
以上従来のスズメバチの駆除方法およびスズメバチ駆除に係わる先行技術について述べる中で、現状におけるスズメバチ駆除の第一段階である、襲来する蜂を制圧し駆除する主な方法、および蜂との格闘を回避する主な手段を例示した。これらすべてに共通する蜂駆除作業の特徴は、駆除作業者の手作業を基本とし、蜂の本能的な警戒範囲内である営巣至近での作業を要することである。
基本的にスズメバチは強い縄張り意識を持ち、巣や主な餌場では半径10m程度の警戒範囲をもつといわれる。そして警戒範囲に侵入する物体を本能的に敵とみなす習性がある。このときスズメバチの敵となりやすい攻撃対象の特徴は一般的に動く物体、黒色等濃色の物体、音を出す物体、臭気を出す物体および直接巣を刺激する物体等である。
それらの物体が巣に近づくなど、スズメバチの警戒範囲に入ると、蜂はまずカチカチという威嚇音を発し、物体を攻撃対象と認識したうえで仲間を集めるための警報フェロモンを体から放つ。そして対象物が長時間にわたりその場所に停滞したり、さらに接近すると、集団で対象物を積極的に襲来するという習性を有する。
さらに蜂が対象物を攻撃している最中は、攻撃中の蜂が前述の警報フェロモンを出し続けるので、それを受けた巣内の蜂が次々に巣から出て対象物を攻撃するための応援に駆けつけるという習性を持っている。
このような蜂の基本的な習性から、蜂の警戒範囲内において駆除作業の殆どを行うという従来の駆除手段では、作業者もまた蜂に襲われるという大きなリスクを背負って作業を行わなければならないという問題が存在する。
しかし現状では相変わらず蜂刺のリスクを冒して営巣の至近距離で蜂と格闘したり、それによる蜂刺から人身を守るために防護服に大きく依存するという、蜂の習性を半ば無視した安全性の低い駆除方法が主流となっている。
つまり蜂を駆除する手段の基本として、現時点で明らかになっている蜂の習性をいかに利用できるかが、今後の安全で合理的な蜂の駆除手段となると思われる。その意味で、まず蜂の制圧と捕殺を目的とする作業者は、基本的に捕殺作業中に蜂の警戒範囲外にいて蜂の攻撃を回避することが必要であり、それに見合う器機あるいは用具の開発が必要となる。
そして、その点で課題があるという意味では、前述の特許文献5および特許文献6についても例外ではない。なぜなら例えば特許文献5のように攻撃目標物を積極的に蜂に攻撃させる手法を用いた用具であっても、蜂の攻撃がすべてそこに集中するとは限らず、襲来する蜂の一部は、蜂の警戒範囲内で用具を操作する人間もまた動体として認知し、本能的に攻撃対象とすることが容易に想像できるからである。
つまり作業者が仮に白色の防護服を着用していても、人が動く物体である以上、蜂の警戒範囲内にいる限り、それは蜂の攻撃本能を刺激する要因の一つとなり、ひいては攻撃の対象になるのである。
確かに特許文献5の一部では、遠隔操作により、震動発生体のスイッチの入切が行われるという手法を採用しているが、基本的に蜂の警戒範囲内に熱水を噴霧する器機の設置作業が要であり、またそれによる熱殺作業を目視により行うという特徴があるため、遠隔地における作業は限定的となり、蜂の警戒範囲内における作業者が負う蜂刺のリスクを回避するという問題を解決できない。
一方、特許文献6に示される蜂捕獲具は、自然に蜂が張り付くのを待つという手法のため、その待機期間は作業者が蜂の警戒範囲外に身を置くことができるが、蜂の捕殺状況を何度も目視で確認する必要があり、当該確認中に蜂の警戒範囲内に侵入する作業者は蜂刺からのリスクを回避できず、作業の安全性を確保するという課題を解決できない。
つまりこれらのことから従来、発明、考案されてきた蜂駆除にかかわる関連用具の多くは、作業者の手作業を効率的に遂行することを主眼としていることがわかる。そしてそのため、蜂の警戒範囲内で関連用具を使用することが前提となる傾向がみられる。
一方、前述した従来の防護服着用による蜂駆除作業については、作業者が防護服を着用しているにもかかわらず、蜂刺事故、それに付帯する転倒、転落事故等が少なからず発生する。
その理由は、スズメバチの営巣場所が軒下、屋根裏、家屋の壁の中、橋の下、藪の中、土の中、老木内の空隙あるいは電柱の上部など千差万別であるため、巣の周辺環境によっては作業者が作業中に予期せぬ事態に陥るためである。
例えば、作業者の転倒等による防護服の部分的誤脱とその後の露出部位への蜂刺、作業中における突起物への接触等による防護服の破れからの蜂侵入による蜂刺の被害、あるいは防護服着用における視界の制約や行動力の制限および蜂の襲来による精神的負担等から不意の躓き等による転倒や高所からの落下等による事故がそれにあたる。
もっとも現状における蜂駆除の実態は、防護服の着用が作業者の安全を図る唯一の手段であり、それに依存せざるを得ない状況である。
しかし本来、防護服は蜂との臨戦態勢をつくるための必要条件として着用するのではなく、蜂の駆除作業全般において、作業者が蜂の警戒範囲内外における不測の蜂刺のリスクを回避するという観点で着用すべきものである。
なぜなら防護服そのものはあくまで蜂の攻撃を人が防ぐためだけに存在する受動的で消極的な安全対策に過ぎず、駆除作業には前述のような安全性へのリスクが存在するため、現状のような蜂の警戒範囲内において過度に防護服に依存する駆除作業自体に大きな問題があるからである。
ところが現状で主流となっているスズメバチ駆除の作業工程では、防護服の着用とそれによる非合理的な蜂との格闘が半ば当然のこととして社会通念化されており、作業者の防護服着用時の蜂刺事故等があるにもかかわらず、依然としてそれを回避して蜂を駆除する用具や方法の開発が乏しい。
このように現状におけるスズメバチの駆除作業の第一段階における蜂の制圧と捕殺作業では、作業者が蜂と格闘することも含め、蜂の警戒範囲内で作業および用具の使用を余儀なくされるという作業方法と用具の双方においてその合理性に問題があるため、作業者が抱える蜂刺へのリスクを含めた作業の安全性が改善されないのである。
以上のような問題点を踏まえると、今後、スズメバチの駆除作業の第一段階における蜂の制圧と捕殺作業を合理的に改善する一つの方法として、作業者が蜂の捕殺現場および蜂の警戒範囲内で作業を要さない手段、および作業者の現場における直接操作を必要としない器機や用具により蜂を捕殺する手段が求められる。
ついては前述したスズメバチ駆除の第一段階となる襲来する蜂の制圧および捕殺作業に関し、蜂の警戒範囲内における作業者の作業を要さず、襲来する蜂を安全に制圧、捕殺することが本発明の課題となる。
そのため本発明では、スズメバチ駆除の第一段階において、スズメバチの攻撃本能を引き出し、器機そのものが蜂の攻撃対象となるような装置構成、設置後に作業者の現場での操作を要さず自動的に作動する装置構成、あるいは遠隔操作が可能となる装置構成により、状況を遠隔地から確認しながら襲来するスズメバチを制圧し、それらを捕殺するための自動式スズメバチ捕殺機を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するために、本発明は以下に示す構成とする。
本発明は蜂を捕殺する器機を蜂の警戒範囲内に設置し、それを蜂の習性により意図的に攻撃させ、器機の機能により蜂を制圧し捕殺するという特徴を有し、かつ蜂の攻撃から捕殺までの過程において、蜂の警戒範囲内における作業者の作業を要しないという特徴を併せ持つ。
上述における蜂の捕殺を実現する器機となる請求項1における自動式スズメバチ捕殺機では、図1に示すように濃色の粘着パッドにより蜂を捕殺する蜂捕殺部、蜂を刺激して当該蜂捕殺機に誘引する三種類の装置を有する蜂刺激部、および当該蜂捕殺機の動力源となる電源スイッチ、蓄電池および動作遅延タイマーを有する電源部の三部構成とすることを特徴とする。そして、必要に応じて予め蜂刺激部の各装置を着脱したり、装着したまま一部の機能を停止して使用することができる特徴をもつ。そしてこれらの機能により、作業者は電源スイッチを投入後、蜂の捕殺が完了するまで蜂の警戒範囲外の遠隔地から、その状況を観察することができるため、当該作業における作業者の現場作業を要さないという特徴をもつ。
請求項2では、図2に示すように請求項1の自動式スズメバチ捕殺機の蜂刺激部の装置出力のすべてを無段階に遠隔操作できる機能を付加し、当該蜂捕殺機から独立した子機に配置した遠隔操作部とする。そして、当該蜂捕殺機に設置されたCCDカメラと集音マイクにより捕殺状況を監視し、それを外部に送信する機能を有する情報収集部がある。またその情報を子機のモニター画面による蜂の飛翔状況とスピーカーによる蜂の羽音で確認し、蜂の制圧、捕殺状況を評価する捕殺評価部の機能を併せ持つ六部構成の器機となることを特徴とする。それにより作業者は目視できない遠隔地から捕殺作業を監視できる他、必要に応じて蜂刺激部の各装置の出力調整ができ、また、捕殺の終了と評価を遠隔地において行なうことができるという特徴がある。
請求項3では請求項2の自動式スズメバチ捕殺機を遠隔操作できる車両に搭載することで、車両そのものに蜂刺激部における、器機に動きを与える装置の機能を持たせるとともに、林の中等で蜂の営巣状況が目視できず、詳しく巣の場所が特定できない状況でも、前述の子機における捕殺評価部のモニター画面とスピーカーの使用により、自動式スズメバチ捕殺機を安全に蜂の警戒範囲内に移動させ、蜂の捕殺ができることを特徴とする。
請求項4では請求項2の自動式スズメバチ捕殺機を遠隔操作できる無線誘導による空中飛翔体に搭載することで、空中飛翔体そのものに蜂刺激部における、器機に動きを与える装置の機能を持たせるとともに、蜂の巣が樹木の高所や電柱の頂上付近、あるいは河川に架かる橋の下面にあるときなどに、安全に目視できる場所から当該蜂捕殺機を蜂の警戒範囲内に移動させ、蜂の捕殺ができることを特徴とする。
次に本発明による自動式スズメバチ捕殺機の各部における装置の機能について説明する。
まず図5に示すように、蜂捕殺部には前述した黒色や紺色など、蜂の視覚に刺激を与えて攻撃性を喚起させる濃色の粘着パッド506で、蜂がそれを攻撃するために一度張り付いたら動けない程度の粘着性を有するものを使用する。また蜂捕殺羽510には文房具のプラスチック製下敷きに似た、前述の粘着パッドを両面に貼り付けることができる板状のもので、揺動しながら蜂を誘引するために、外力により容易にたわむ材質を有することが必要となる。
次に上述の蜂刺激部にかかわる三種類の装置の内訳は、器機に動きを与える装置、音響発生装置および臭気発生装置とし、それらの全部あるいは一部を選択して使用できる他、必要に応じて装置ごとに当該蜂捕殺機への脱着が可能となる仕様とする。
その際、器機に動きを与える装置という表現は、その装置の稼動により当該蜂捕殺機に揺動、振動、跳動、直線運動、往復運動あるいは回転運動を含む機械的な動きを与える装置という意味である。
前述したように、スズメバチは一般的に動く物体を攻撃対象とする性質があるため、蜂捕殺機をその動きの効果で意図的に蜂に攻撃させる場合、それが大きく動いていることを蜂に見せることが最も重要である。ついては蜂捕殺機の形状や色などにより、蜂がその動きを認知しやすいものとするためには、器機に見合う動き提供する必要がある。
但し機械的運動要素のほとんどは、原動機等の回転運動から変換された限定的な運動形態であるため、器機に動きを与える装置という表現が包含する範囲は、あくまでも前述したような機械要素としての運動形態に限られる。
本発明では、当該蜂捕殺機の外装に設置された蜂捕殺部の蜂捕殺羽が大きく揺れ動く状態を蜂に見せるという視覚効果を実現するため、蜂刺激部における器機に動きを与える装置として図3に示す形状の1ヘルツ程度で、あきらかに蜂の警戒範囲内における目視で上下運動していることが確認できる揺動発生装置により、主に蜂捕殺部の蜂捕殺羽に揺動効果を与え、ひいてはそれを蜂への視覚的効果とする。
その際、動力源は低回転高トルクのモーター306を用い、さらにギア307により回転数を調整することで、クランクを形成する円盤308に一定の長さの連接棒303を取り付けてそれを固定させることにより、クランクの回転による上下運動を発現させるものである。
この動作の主目的は前述のように当該蜂捕殺機外装と蜂捕殺羽が大きく揺れ動く状態を形成することにある。つまり揺動発生装置からの出力効果として、まず蜂捕殺羽のたわみをなるべく大きくさせることである。そして次にたわみ効果をほとんどもたない鉛直に配置された蜂捕殺羽をなるべく大きく上下動させることである。それには低周波でかつ振幅の大きい揺動が必要となることから、本発明ではこのような揺動発生装置を使用する。
また請求項3では請求項2の自動式スズメバチ捕獲機に搭載した揺動発生装置を当該蜂捕殺機から外し、代わりに当該蜂捕殺機を車両に搭載させることで、車両そのものを、蜂刺激部の器機に動きを与える装置として活用する。
同様に請求項4では請求項2の自動式スズメバチ捕獲機に搭載した揺動発生装置を当該蜂捕殺機から外し、代わりに当該蜂捕殺機を空中飛翔体に搭載させることで、空中飛翔体そのものを、蜂刺激部の器機に動きを与える装置として活用する。
蜂刺激部における音響発生装置については、蜂が音響を発生する物体を聴覚的に敵として認知し、攻撃を仕掛けるという習性に基づいて当該蜂捕殺機に設置する。なお効果音としては、単なるベルやサイレン等の音に加え、人の音声データ等も活用する。
蜂刺激部における臭気発生装置については、蜂の習性にもとづき、蜂が敵の襲来を仲間に伝達するための警報フェロモンに似た成分を含むフローラル系の香水等により強い臭気を発生させる当該蜂捕殺機が、巣で待機する蜂に仲間からの攻撃要請であるように錯覚させて攻撃を促し、当該蜂捕殺機の蜂捕殺部に蜂を確実に誘引するために設置する。
なお請求項2では、前述した蜂刺激部の三装置にそれぞれ有線あるいは無線による遠隔制御装置を設け、蜂の警戒範囲外となる遠隔地から子機を操作することにより、各装置の出力レベルを無段階調節できる遠隔操作部の機能を付加する。
電源部については当該蜂捕殺機内のすべての装置の動力源となる電源スイッチおよび蓄電池により構成される。但し請求項1の発明における自動式スズメバチ捕殺機については、蜂の警戒範囲外から捕殺現場を目視できる環境下において使用するものであることを前提にしているため、遠隔操作部および評価捕殺部が存在しない。ついては当該蜂捕殺機の電源スイッチ投入後は器機が稼働し、蜂の捕殺が開始されるまでの遅延時間を設け、作業者が電源スイッチを投入してから安全な場所まで退避できる時間的余裕を設けるために遅延タイマーを設置する。
情報収集部については請求項2の発明において付加した機能である。自動式スズメバチ捕殺機の稼働状況を蜂の警戒範囲外から目視できない状況では、蜂の制圧と捕殺状況が確認できないため、それを克服するためにCCDカメラを使用した映像装置およびマイクを使用した集音装置で情報を収集する。そしてそれによって得た情報を子機に送信する機能を含め情報収集部の機能とする。
捕殺評価部は、前述の情報収集部で得た情報を、作業者が遠隔地にてモニター画面と音声で確認できるようにした自動式スズメバチ捕殺機の子機に搭載された機能である。情報収集部の映像装置により粘着パッドに張り付いた蜂の捕殺状況を確認し、集音装置により蜂が周辺を飛翔する羽音を収集できるため、作業者は有線あるいは無線により安全な遠隔地においてそれを子機により受信し、随時モニタリングすることで捕殺状況を評価するとともに、当該蜂捕殺機の正常動作を確認する。
なお請求項2の発明における子機は、自動式スズメバチ捕殺機の遠隔操作部、および捕殺評価部の機能を併せ持つ一体型の器機である。
その際、子機の主な機能および目的は遠隔地からのモニタリングおよび蜂刺激部各装置の無段階出力調整であるが、子機の操作により当該蜂捕殺機の稼動を実質的にOFFの状態にすることができるため、副次的機能として当該蜂捕殺機に異常がみられたときの緊急停止等にも応用する。
本発明では、自動式スズメバチ捕殺機における蜂刺激部の構成要素である器機に動きを与える装置を前述した揺動発生装置とすることで、当該蜂捕殺機外装に設置された濃色の蜂捕殺羽を上下に大きく揺動させ、その視覚効果で蜂にそれを動く物体として確実に敵であることを認知させることができるため、蜂の攻撃対象とさせる自動的な誘引を実現できる。
次に当該蜂捕殺機の蜂刺激部の構成要素である音響発生装置からの警報音等の発生により、音源方向に敵がいることを、蜂に聴覚的に知らせることができ、前述の視覚効果とあわせて蜂の攻撃対象を当該蜂捕殺機に集中させることができる。
またこの音源をパトロールサイレンおよび「ただいま蜂駆除中です。注意してください」という音声メッセージにすることにより、蜂には攻撃対象への効果音となり、副次的にその音声がスズメバチ駆除中であることを周辺地域の人々に周知するための警戒情報発現のために利用することができる。
特にこの効果音は強風時において、周辺域の樹木や洗濯物等が揺動する環境下で、前述した、器機に動きを与える装置による蜂捕殺羽の揺動が、蜂を刺激するための視覚効果を与えにくいときでも、音の情報を効果的に与えることができるため、蜂が当該蜂捕殺機を積極的に攻撃する条件を満足させることができる。
さらに当該蜂捕殺機の蜂刺激部の構成要素である臭気発生装置の臭気源には、スズメバチの警報フェロモンに似た成分を含むフローラル系の香水等を使用することにより、巣で待機する蜂がその臭気を仲間からの攻撃要請と錯覚するため、当該蜂捕殺機を積極的に攻撃させる手段とすることができる。
特にこの臭気効果は主に家の軒下等で、屋根に当たる雨音のレベルが高くなる位置への営巣など、様々な音が雨にかき消されてしまう環境下では、蜂を聴覚的に刺激する音響効果より強い刺激を与えやすい。ついては臭気発生装置の出力による強い嗅覚的刺激を蜂に与えることにより、蜂が当該蜂捕殺機を積極的に攻撃する条件を満足させることができる。
上述のような蜂の攻撃本能を刺激する多角的な要素を用いて、蜂の攻撃目標設定を多重に満足させることで、本発明による自動式スズメバチ捕殺機を積極的に攻撃する蜂は、蜂捕殺部の蜂捕殺羽の両面および外装側面に設置された濃色粘着パッドに攻撃を集中させるため、蜂のほとんどがパッドの粘着力により制圧され捕殺される状況形成が可能となる。
請求項1の発明では、目視による捕殺状況が可能なことを前提に、当日の気象状況を勘案したうえで、蜂刺激部の機能の全部あるいは一部の効果を予想して機能設定を行った上で蜂の捕殺のために当該蜂捕殺機の運用を開始するが、請求項2の発明では、情報収集部に設置したCCDカメラによる映像装置およびマイクによる集音装置、モニター画面とスピーカーによる子機の捕殺評価部において蜂の警戒範囲の外から、蜂の攻撃状況、制圧および捕殺状況をモニタリングできるため、現場がどのような状況であるかを確認しながら、蜂刺激部の各装置出力を変化させたり、適宜捕殺作業を終了させることができる。
さらに副次的な効果として、捕殺評価部におけるモニター画面やスピーカーからの情報により、当該蜂捕殺機の故障や異常を発見することができる。そしてそのような不測の事態が発生したときは遠隔操作部となる子機の操作により、蜂刺激部における各装置の機能の一部を制限したり、当該蜂捕殺機の稼働を実質的に停止させることが可能となる。
ところで請求項3の発明では、遠隔地より車両に搭載した自動式スズメバチ捕殺機をモニター画面で監視しながら蜂の警戒範囲内に誘導することができるため、例えば林の中にある樹木の切り株や土の中等で正確に蜂の営巣位置が目視できない状況下で、一定の見当をつけて蜂の捕殺を開始させることができるので、蜂が活発に活動する中で、作業者が直接営巣箇所の位置確認のために林の中に侵入する必要がなく、巣の探索中における蜂の襲撃やそれによる蜂刺等の事故を回避することができる。
さらに請求項4の発明では、遠隔地よりドローン等の空中飛翔体に搭載した自動式スズメバチ捕殺機を営巣付近まで誘導し停滞させることができるため、高所作業車等に依存せずに樹木や電柱の頂上等の高所であっても、営巣するスズメバチの制圧と捕殺が安全に実施できることに加え、駆除のために足場を確保することが難しい河川に架かる橋の下面付近に蜂が営巣する場合でも、蜂の制圧と捕殺が安全に実施できる。
なお請求項3および請求項4の発明では、自動式スズメバチ捕殺機が実際に動く車両や空中飛翔体に搭載されるため、蜂刺激部において器機に動きを与える揺動発生装置が不要になることから、それを取り外した自動式スズメバチ捕殺機を車両あるいは空中飛翔体に搭載することで、当該蜂捕殺機の軽量化と安定した移動を実現できる。
以上のように、本発明は、蜂の誘引、制圧および捕殺に至る一連の工程が自動的に、あるいは遠隔操作により実施できることから、作業者が蜂捕殺中に巣に接近することや、蜂の警戒範囲に身を置く必要がないため、作業中における蜂との格闘を要しない。ついては作業者の蜂刺リスクを軽減し、安全にスズメバチの捕殺作業を実施することが可能となる。
なお本発明では、蜂捕殺部で使用する粘着パッドに塗布する粘着剤は強力な粘着性能のみを有し、薬剤としての殺虫能力を有しないものとすることで、粘着パッドを攻撃する蜂は粘着剤で身動きがとれないため結果的に絶命するが、本発明による自動式スズメバチ捕殺機を使用した蜂の捕殺に関して、作業者等への健康被害や捕殺場所周辺が薬物汚染されずに蜂の捕殺を実現することができる。
さらに、本発明の自動式スズメバチ捕殺機では、蜂の制圧に煙などの火気使用をともなわないことから火災発生へリスクが低く、その点でも作業の安全を確保することができる。
図2は本例の自動式スズメバチ捕殺機の装置構成図を示す。装置構成は当該蜂捕殺機の外装側面および外装上面から突出する両面に粘着パッドを塗布した五枚の蜂捕殺羽による蜂捕殺部、器機に動きを与える装置としての揺動発生装置、音響発生装置および臭気発生装置の三装置により構成する蜂刺激部、それを遠隔地で出力調整できる子機に搭載した遠隔操作部、外装上面後部から突出するフレキシブル管の先に搭載されたCCDカメラ、外装前面に配置された集音マイクおよび内蔵アンテナにより構成される情報収集部、その情報を受信して捕殺状況を評価する子機に搭載したモニター画面とスピーカーによる捕殺評価部、および電源スイッチと蓄電池による電源部となる。
図5は請求項2の発明による自動式スズメバチ捕殺機から揺動発生装置を外した、当該蜂捕殺機の外観を示す。外装505側面および上面に設置された蜂捕殺羽固定具509に挟み込む形で設置する脱着可能な5枚のプラスチック製の板に黒色粘着パッド506を両面に貼り付けて蜂捕殺羽510を形成する。そしてそれらの蜂捕殺羽を外装底部に設置する揺動発生装置(図3および図4参照)により揺動させる。
また当該蜂捕殺機の内部に設置された音響発生装置からの出力として外装前面には音響用スピーカー507を配置し、内部に設置された臭気発生装置(図8参照)からの出力として外装上面前部に臭気発生口508を配置する。このとき出力用の臭気源として、スズメバチが攻撃性をもって近づくことが知られている市販の液体フローラル系芳香剤を用いる。
次に本例における臭気発生装置の原理図を図8に示す。前述した液体のフローラル系芳香剤を臭気源804として臭気源投入口803から予め投入し、匂いが出ないように投入口と臭気発生口801に蓋をしておく。そして使用時に臭気発生口の蓋を外すと、ユニット内部のモーター806および送風ファン805により吸気口802から吸入された空気は、ユニット底部の臭気源を通過する際に臭気となり、それが臭気発生口から排出される。なお吸気口と臭気発生口には、蜂侵入防止網807が設置されている。
また外装底部には前述した揺動発生装置を配置、外装上面後部には手動により方向を自在に変更できるフレキシブル管の先に搭載されたCCDカメラ501、外装前面の音響用スピーカーの隣には集音用マイク(図6の608参照)を配置する。
さらに子機の機能は、前述のように蜂刺激部各装置の出力調整をする遠隔操作部、およびモニター画面とスピーカーで捕殺状況を遠隔地より確認する捕殺評価部による構成である。
上述した自動式スズメバチ捕殺機を用いた本例捕殺作業の手順は、以下のとおりである。
図11のように本実施例では、蜂の営巣場所が家屋が散在する地域での一般住宅に従属する5m×5mの面積で周囲三面に壁を有する一階建の物置内部1101とする。屋根は金属ナマコ製による片屋根方式で、開口部1106より奥に向かって下り傾斜をもつ構造である。蜂の種類はオオスズメバチで、その営巣状況は物置開口部から見て左奥角の天井付近から吊り下げられた直径30cm程度の球状のもの1102とする。
なお本事例においては請求項2の発明による自動式スズメバチ捕殺機を使用する。そして蜂刺激部と遠隔操作部間、および情報収集部と捕殺評価部間における情報伝達手段は無線方式による子機を使用するものとし、警戒範囲外の安全な場所からの目視はできない状況とする。なお蜂駆除実施日の天候は前日夜より継続した1時間に5mm程度の雨、風は終日弱いものとする。
本発明の自動式スズメバチ捕殺機による捕殺方法では、蜂を極度に興奮させることを前提とするため、当該現場の周辺域で活動する人々に対して、スズメバチを駆除する事実と日程を伝え、付近への接近を避けるように依頼する。そして付近を往来する人のために、必要に応じて許可を得た上で注意喚起の規制線や立て看板等を設置する。
駆除前日の夜間に物置開口部付近の屋根下に静かに自動式スズメバチ捕殺機1104を設置し、物置の開口部全体を黒色の農業用寒冷紗1107で覆う。これは営巣箇所から捕殺機までの距離が約5mしかないため、捕殺中に興奮した蜂の飛翔範囲を概ね物置の内部に限定するための作業である。
翌日、作業者は防護服を着用し、現場周辺に人がいないことを確認した後、物置の照明をONにしてCCDカメラのモニタリング状況を子機で確認後、蜂の警戒範囲から一時退去する。そして無線操作による各装置の出力レベルを中程度とし、雨天による営巣付近の雨音を考慮して、音響発生装置の出力を少々上げて蜂への刺激を助長するとともに、音源には「蜂駆除中です注意してください」という音声を使用し、近くを通りかかる人に警戒情報を与える。
当該蜂捕殺機の稼働により動く物体、音響、匂いという3種類の刺激を一度に受けたスズメバチは、一斉に巣から飛び出て主に物置の中で飛翔し、攻撃対象となる当該蜂捕殺機を襲来する。そして時間の経過とともに当該捕殺機外装と蜂捕殺羽に設置した黒色粘着パッドに自ら張り付いて捕殺される。
前述したように当該蜂捕殺機を使用した蜂の捕殺中は蜂が極度に興奮状態にあるため、その間は不測の事態に備えて防護服着用のまま安全な場所から無線による捕殺評価部のモニター画面を注視することで蜂の制圧状況の経過および当該蜂捕殺機の稼働状況を把握する。
但し当該蜂捕殺機が揺動している状況では、CCDカメラとモニター画面による捕殺状況の確認ができないため、揺動発生装置の出力レベルを0にすること、およびモニター画面による観察を適宜連携させることにより経過観察を行なう。
また集音については音響発生装置からの高レベル音声が集音されないように、捕殺開始後一定時間が経過した後に音響発生装置のレベルを0にしてから集音を開始し、当該蜂捕殺機周辺で飛翔するスズメバチの有無やおおよその残数を確認する。そして最終的に蜂の制圧および捕殺状況を評価することにより、蜂駆除の第一段階である蜂捕殺機使用による蜂の捕殺作業を終了する。
その後作業者は、なお巣周辺および当該蜂捕殺機周辺に残存する若干の蜂の行動に注意しながら、物置の開口部に設置した寒冷紗を残したまま駆除の第二段階となるスズメバチの巣を確保するための現場作業を開始する。これにより障害物除去作業となる営巣下部の床面の物品等1105を一時除去することにより、巣を撤去するための安定した足場を確保する。
最後に巣を切り離して物置の外に出し、中を開けて残存蜂および女王蜂を殺虫スプレー等ですべて駆除して駆除作業を完了する。
作業終了後は当該現場の周辺域の人々に対して、スズメバチの巣の駆除が終了したことを伝え、駆除協力へのお礼と暫時残存するスズメバチに注意を払うようお願いする。また許可を得て設置した注意喚起の規制線や立て看板等を撤去して作業の全工程を完了する。
以上、本発明による自動式スズメバチ捕殺機を使用した一連の作業により、スズメバチ駆除の第一段階となる襲来する働き蜂の制圧および捕殺作業に関し、作業者の蜂の警戒範囲内での作業を要さず、襲来する働き蜂を安全に制圧、捕殺することができ、作業者の蜂刺からのリスクを回避することができた。