JP6449666B2 - エンジンバルブ - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンバルブに関する。詳しくは、軸部から傘部にかけて形成された中空部に冷媒が封入されたエンジンバルブに関する。
従来、エンジンバルブ(ポペットバルブ)の軸部から傘部にかけて形成された中空部に、金属ナトリウムからなる冷媒が封入されたナトリウム封入バルブが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。封入された金属ナトリウムは、エンジンの運転中に液化し、エンジンバルブの開閉動作に伴って中空部内を移動する。これにより、燃焼室内の排気から受けた熱をバルブガイドに逃がすことで、燃焼室内を冷却する。そのため、このナトリウム封入バルブは、中実バルブと比べて、高負荷時における燃費向上目的で点火時期を進角させたときに生じ易いノッキングを抑制できる。
ところが、このナトリウム封入バルブは、ノッキングが生じるノック域に限らず、低負荷でノッキングが生じないMBT域においても、燃焼室から熱を奪う。その結果、熱損失が増加するため、燃費が悪化する。
また、ナトリウムは常温で固体であるが、融点が98℃で低温であるため、エンジン始動後直ぐに液化する。冷間始動時においては、燃焼安定化の観点から燃焼室内が早期に暖められるのが求められるところ、ナトリウム封入バルブでは液化した金属ナトリウムを介して燃焼熱が奪われるため、燃焼の安定化まで長時間を要する。
さらには、金属ナトリウムは非常に酸化し易く、酸化物になると熱伝導率が著しく低下する。そのため、金属ナトリウムは取り扱いが容易ではなく、ナトリウム封入バルブの価格高騰の一因となっている。以上を踏まえ、金属ナトリウム以外の冷媒について、種々の検討がなされている(例えば、特許文献3〜7参照)。
特開昭60−145410号公報 特開2012−87620号公報 特開平11−117718号公報 特開平09−184404号公報 国際公開第2014/054613号 実開昭56−142204号公報 実開昭58−151306号公報
しかしながら、特許文献3のエンジンバルブでは冷媒が粉体であるところ、冷媒の対流による熱伝導は液体ほどではないものの、エンジンバルブの開閉動作によって紛体が中空部内で撹拌されることで、MBT域においても熱引きが行われ、熱損失が生じる。また、ノック域においても粉体が液化しないため、冷媒の対流による熱引き効果は得られず、ノッキング抑制効果は得られない。
また、特許文献4のエンジンバルブでは冷媒が低融点合金であるところ、ガソリンエンジンの排気温度は最も低いアイドリング中でも150℃〜190℃であるため、暖気完了後のエンジン運転中は常時液体となる。そのため、MBT域においても熱引きが行われ、熱損失が生じる。
また、特許文献5〜7のエンジンバルブでは冷媒がアルミニウム合金やマグネシウム合金であるところ、これら合金の組成については何ら検討がなされていない。さらには、上述したような低負荷時等のエンジン低温域での熱引きによる熱損失や、中高負荷時等のエンジン高温域での熱引きによるノッキング抑制については何ら言及されてはいない。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジン低負荷時では熱損失を抑制でき、エンジン高負荷時では熱引きを行うことでノッキングを抑制できるエンジンバルブを提供することにある。
(1)本発明は、軸部(例えば、後述の軸部11)と、該軸部の軸方向一端側に一体的に設けられた傘部(例えば、後述の傘部12)と、を含んで構成され、前記軸部から前記傘部にかけて中空部(例えば、後述の中空部13)が形成されたエンジンバルブ(例えば、後述のエンジンバルブ1)であって、前記中空部に封入されたアルミニウム合金からなる冷媒(例えば、後述の冷媒10)を備え、前記アルミニウム合金は、アルミニウムを50質量%〜86質量%含有するとともに、マグネシウムを14質量%〜50質量%含有するか、又は、マグネシウムと、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる合金元素を合計で14質量%〜50質量%含有するエンジンバルブを提供する。
(1)の発明によれば、マグネシウムで合金化されたアルミニウム合金、又は、マグネシウムを含む所定量の合金元素で合金化されたアルミニウム合金を冷媒として用いることで、その融点をおよそ450℃に低下させることができる。これにより、アイドリング運転時、MBT域のうち正味燃料消費率(BSFC)が最も少ない運転時又は低負荷運転時等のエンジン低温域において、冷媒が固体状態を維持できるため、エンジンバルブからの熱引きを抑制できる。従って、エンジンバルブからの熱損失を抑制できるため、燃費を向上できる。
また、定格点運転時、トルク点運転時等のノック域運転時や中高負荷運転時等のエンジン高温域において、冷媒が液体状態を維持できるため、エンジンバルブから熱引きを行うことで、燃焼室を冷却してノッキングを抑制できる。ひいては、ノッキングを抑制できるため、点火時期を進角させることができ、出力及び燃費を向上できる。
(2)本発明は、軸部(例えば、後述の軸部11)と、該軸部の軸方向一端側に一体的に設けられた傘部(例えば、後述の傘部12)と、を含んで構成され、前記軸部から前記傘部にかけて中空部(例えば、後述の中空部13)が形成されたエンジンバルブ(例えば、後述のエンジンバルブ1)であって、前記中空部に封入されたマグネシウム合金からなる冷媒(例えば、後述の冷媒10)を備え、前記マグネシウム合金は、マグネシウムを50質量%〜85質量%含有するとともに、アルミニウムを15質量%〜50質量%含有するか、又は、アルミニウムと、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる合金元素を合計で15質量%〜50質量%含有するエンジンバルブを提供する。
(2)の発明によれば、アルミニウムで合金化されたマグネシウム合金、又は、アルミニウムを含む所定量の合金元素で合金化されたマグネシウム合金を冷媒として用いることで、その融点をおよそ437℃に低下させることができる。これにより、(1)の発明と同様の効果が奏される。
(3)本発明は、軸部(例えば、後述の軸部11)と、該軸部の軸方向一端側に一体的に設けられた傘部(例えば、後述の傘部12)と、を含んで構成され、前記軸部から前記傘部にかけて中空部(例えば、後述の中空部13)が形成されたエンジンバルブ(例えば、後述のエンジンバルブ1)であって、前記中空部に封入されたナトリウム合金からなる冷媒(例えば、後述の冷媒10)を備え、前記ナトリウム合金は、バリウムを含有し且つナトリウムを50モル%〜72モル%含有するナトリウム合金、ビスマスを含有し且つナトリウムを50モル%〜75モル%含有するナトリウム合金、又は、スズを含有し且つナトリウムを50モル%〜79モル%含有するナトリウム合金であるエンジンバルブを提供する。
(3)の発明によれば、バリウム、ビスマス又はスズを所定量含んで合金化されたナトリム合金を冷媒として用いることで、その融点をそれぞれ、およそ197℃、444℃又は357℃〜441℃に高めることができる。これにより、(1)の発明と同様の効果が奏される。
(4)(1)の発明において、前記軸部及び前記傘部は、耐熱鋼からなり、前記アルミニウム合金の合金元素は、マグネシウムと、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなることが好ましい。
リチウム及び亜鉛は、オーステナイト系ステンレス等の耐熱鋼からなる軸部及び傘部で構成されたエンジンバルブを液体金属脆化させる特性を有する。これに対して(4)の発明によれば、合金元素としてリチウム及び亜鉛を含まないアルミニウム合金を冷媒として用いるため、エンジンバルブの脆弱化を抑制できる。
(5)(2)の発明において、前記軸部及び前記傘部は、耐熱鋼からなり、前記マグネシウム合金の合金元素は、アルミニウムと、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなることが好ましい。
(5)の発明によれば、合金元素としてリチウム及び亜鉛を含まないマグネシウム合金を冷媒として用いるため、(4)の発明と同様の効果が奏される。
本発明によれば、エンジン低負荷時では熱損失を抑制でき、エンジン高負荷時では熱引きを行うことでノッキングを抑制できるエンジンバルブを提供できる。
本発明の一実施形態に係るエンジンバルブの縦断面図であり、冷媒が固体のときにエンジンバルブが閉じた状態を示す図である。 上記実施形態に係るエンジンバルブの縦断面図であり、冷媒が固体のときにエンジンバルブが開いた状態を示す図である。 上記実施形態に係るエンジンバルブの縦断面図であり、冷媒が液体のときにエンジンバルブが閉じた状態を示す図である。 上記実施形態に係るエンジンバルブの縦断面図であり、冷媒が液体のときにエンジンバルブが開いた位状態を示す図である。 エンジンのBSFCマップを示す図である。 エンジントルク曲線及びエンジン出力曲線を示す図である。 エンジンのMBT域とノック域を示す図である。 通常のガソリンエンジンの運転エリアを示す図である。 ハイブリッドエンジンの運転エリアを示す図である。 2成分系アルミニウム−マグネシウム合金の状態図である。 2成分系ナトリウム−バリウム合金の状態図である。 2成分系ナトリウム−ビスマス合金の状態図である。 2成分系ナトリウム−スズ合金の状態図である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジンバルブ1の縦断面図であり、後述する冷媒10が固体のときにエンジンバルブ1が閉じた状態を示す図である。図1では、本実施形態に係るエンジンバルブ1をガソリンエンジンの排気バルブとして適用した例を示している(図2〜図4も同様)。
本実施形態に係るエンジンバルブ1は、エンジンのシリンダヘッド2に設けられ、シリンダヘッド2内に形成された排気通路3の燃焼室4側に配置される。エンジンバルブ1は、図示しないエンジンの回転に応じて回転するカムに連動したバルブリフタにより往復運動することで、排気通路3と燃焼室4とを連通する排気ポート5を開閉する。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジンバルブ1は、軸部11と、傘部12と、を含んで構成される。エンジンバルブ1は、鉄の含有量が50質量%以上の合金からなる耐熱鋼により構成される。
軸部11は、棒状に延びる略円柱形状を有する。この軸部11は、シリンダヘッド2に形成されたバルブ挿通孔21内に挿通される。より詳しくは、バルブ挿通孔21の内周面に設けられた円筒状のバルブガイド22に摺接するように挿通される。即ち、軸部11は、エンジンバルブ1の往復運動によりバルブガイド22内を摺動する。
傘部12は、軸部11の軸方向一端側(燃焼室4側の下端側)に、軸部11と一体的に設けられる。傘部12は、その横断面形状(エンジンバルブ1の中心軸線に直交する方向の断面形状)が略円形状であり、その先端(燃焼室4側の下端、以下同じ。)に向かうに従い拡径された形状を有する。即ち、傘部12の外側壁121は、エンジンバルブ1の中心軸線に対して傾斜している。
傘部12の外側壁121の先端側には、その周方向全体に亘ってテーパ状に形成されたバルブフェイス122が設けられる。バルブフェイス122は、先端側ほど拡径している。エンジンバルブ1が上方の排気通路3側に移動すると、このバルブフェイス122がシリンダヘッド2の排気ポート5の内周面に設けられた略円環状のバルブシート23に圧接されることで、排気ポート5が閉じた状態となる。一方、エンジンバルブ1が下方の燃焼室4側に移動すると、このバルブフェイス122がバルブシート23から離間することで、排気ポート5が開いた状態となる。このようにして、バルブフェイス122がバルブシート23と離接することにより、排気ポート5が開閉される。
また、図1に示すように、軸部11から傘部12にかけて、これらの内部には中空部13が形成されている。中空部13は、略円柱状を有し、エンジンバルブ1の中心軸線上に形成される。中空部13の上端は、中空部13がバルブガイド22の全長のおよそ7割の範囲とラップするような位置に位置している。中空部13の下端は、傘部12の下端12a近傍に位置している。
上述の中空部13には、冷媒10が封入されている。冷媒10は、中空部13内の少なくとも50〜60容量%を満たすように、空気とともに中空部13内に密封される。冷媒10は、燃焼室4内の排気から受けた熱を、シリンダヘッド2内に設けられた図示しないオイルやウォータージャケットの冷却水によって冷却されるバルブガイド22に逃がすことで、熱引きを行う。即ち、冷媒10による熱引きは、エンジンバルブ1の軸部11を介してバルブガイド22に熱が伝達されることで行われる。ここで、バルブガイド22は、後述するようにオーステナイト系ステンレス等で構成されるエンジンバルブ1と比べて、より熱伝導率が高い真鍮等の材料で構成される。そのため、冷媒10とバルブガイド22の距離が近いほど、熱引き効率は高くなる。
冷媒10としては、後段で詳述するが、従来の金属ナトリウム等と比べて融点が高いものが用いられる。従って、エンジン運転中において、冷媒10は固体状態と液体状態を取り得る。以下、冷媒10が固体のときと液体のときにおける挙動について、図1〜図4を参照して説明する。
図2は、エンジンバルブ1の縦断面図であり、冷媒10が固体のときにエンジンバルブ1が開いた状態を示す図である。
図1及び図2に示すように、冷媒10が固体の場合は、中空部13内で冷媒10自体が移動することはなく、冷媒10内で対流が生じることもない。そのため、エンジンバルブ1が開いて燃焼室4内の排気から冷媒10が受けた熱の移動は、後述する冷媒10が液体の場合よりも少ない。従って、例えばアイドリング運転等のエンジン低負荷時において、燃焼室4内の排気温度が低温であるため冷媒10が固体である場合には、冷媒10が液体である場合と比べて、エンジンバルブ1による熱引きが小さい。即ち、エンジンバルブ1からの熱損失が小さく、燃費が向上する。
一方、図3は、エンジンバルブ1の縦断面図であり、冷媒10が液体のときにエンジンバルブ1が閉じた状態を示す図である。図4は、エンジンバルブ1の縦断面図であり、冷媒10が液体のときにエンジンバルブ1が開いた状態を示す図である。
図3及び図4に示すように、冷媒10が液体の場合は、エンジンバルブ1が下方に移動して開いたときに、冷媒10内で対流が生じるとともに冷媒10が強制的に撹拌されて中空部13内の上部に移動し、中空部13内の上部が冷媒10で満たされる(図4参照)。そのため、エンジンバルブ1が開いて燃焼室4内の排気から冷媒10が受けた熱の移動は、上述の冷媒10が固体の場合よりも多い。加えて、冷媒10とバルブガイド22との距離が近くなるため、エンジンバルブ1からバルブガイド22に効率良く熱が伝達される。従って、例えばノック域運転時や中高負荷運転時等のエンジン高温域において、燃焼室4内の排気温度が高温であるため冷媒10が液体である場合には、冷媒10が固体である場合と比べて、エンジンバルブ1による熱引きが大きい。即ち、エンジンバルブ1からの熱損失が大きく、エンジン高温域で生じ易いノッキングが抑制される。さらには、ノッキングが抑制されるため、点火時期を進角させることができ、出力及び燃費が向上する。
従って本実施形態では、冷媒10として、最もエンジンの負荷が低いアイドリング運転時において固体である冷媒が用いられる。そのため、ノッキングが発生しないアイドリング運転時では、冷媒10が固体になることで、中空部13内での冷媒10の移動による熱引きが抑制される。またこれにより、エンジンバルブ1からの熱損失が低減され、燃費が向上する。
また本実施形態では、冷媒10として、MBT域のうち正味燃料消費率(BSFC)が最も少ない運転領域において固体である冷媒が好ましく用いられる。
ここで、図5は、エンジンのBSFCマップを示す図である。図5中、横軸はエンジン回転数を表し、縦軸はエンジントルクを表している。図5のBSFCマップは、要求されたエンジントルクに対して最も効率の良いエンジン回転数を表しており、図5中の運転領域a<運転領域b<運転領域c<運転領域dの順に、燃料消費率(g/kWh)が大きい。そのため、有段ギアを有する変速機の多段化や無段変速機の適用により、エンジンの運転が、最も燃費が良い、即ちBSFCが最も少ない運転領域a内で行われるように、ギア比が制御される。図5に示すように、通常この運転領域aはMBT域内であり、MBT域のうちBSFCが最も少ない運転領域aでは、排気温度が比較的低温となるため、このときに冷媒10が固体になることで、エンジンバルブ1からの熱損失が低減され、燃費がさらに向上する。
また本実施形態では、冷媒10として、最もエンジンの負荷が高い定格点運転時において液体である冷媒が用いられる。さらには、冷媒10として、トルク点運転時において液体である冷媒が好ましく用いられ、ノッキングが発生するノック域の全域において液体である冷媒がより好ましく用いられる。
ここで、図6は、エンジントルク曲線及びエンジン出力曲線を示す図である。図6中、横軸はエンジン回転数を表し、縦軸はエンジントルク又はエンジン出力を表している。図6に示すように、エンジン出力が最高となる定格点において、エンジンの負荷は最も高くなる。この最もエンジンの負荷が高い定格点運転時には、ノッキングが生じ易く、排気温度が最も高くなる。そのため、この定格点運転時に冷媒10が液体となることで、冷媒10の対流及び移動によるバルブガイド22への熱引きにより、燃焼室4内が冷却され、ノッキングが抑制される。さらには、ノッキングが抑制されるため、点火時期を進角させることができ、出力及び燃費が向上する。
また、高回転域である定格点では回転数が早過ぎて燃焼が十分追い付かないため、より低回転域であるトルク点の方がよりノッキングが生じ易い。そのため、このトルク点運転時に冷媒10が液体となることで、ノッキングがより抑制され、出力及び燃費をより向上できる。
図7は、エンジンのMBT域とノック域を示す図である。図7中、横軸はエンジン回転数を表し、縦軸はエンジントルクを表している。図7に示すように、ノック域はMBT域の外側に位置し、エンジン回転数やトルクを大きくすることでMBT域を逸脱し、ノッキングが発生する運転領域である。上述の定格点及びトルク点を含むこのノック域の全域において、冷媒10が液体となることで、ノッキングがさらに抑制され、出力及び燃費をさらに向上できる。
ここで、本明細書では、アイドリング運転時、定格点運転時、トルク点運転時、ノック域運転時とは、エンジンが安定的にアイドリング、定格点、トルク点、ノック域にて運転されている状態を表す。即ち、これらに冷間始動時は含まれない。
なお、本実施形態に係るエンジンバルブ1は、ハイブリッドエンジンに対して好ましく適用される。ここで、図8Aは、通常のガソリンエンジンの運転エリアを示す図であり、図8Bは、ハイブリッドエンジンの運転エリアを示す図である。
通常のガソリンエンジン及びハイブリッドエンジンいずれも、最も燃費の良い領域を走行するのが通常である。通常のガソリンエンジンの場合、運転者の要求に対してダイレクトに出力を出す必要があることから、低負荷時や高負荷時に燃費の悪い領域での運転を余儀なくされることがあり、その運転エリアNAは図8A中に破線で示す通りとなる。
これに対して、ハイブリッドエンジンの場合、低負荷時には燃費最適領域で運転され、余剰トルクはバッテリーに回収される。また、高負荷時には燃費最適領域で運転し、不足トルクはバッテリーから補われる。従って、ハイブリッドエンジンにおいては、燃費最適領域での運転割合が通常のガソリンエンジンに比べて高く、その運転エリアHAは図8B中に破線で示す通りとなる。従って、この運転エリアHAにおいて、冷媒10が固体であるのが好ましく、これにより、エンジンバルブ1からの熱損失による燃費ロスが回避される。
以上を踏まえ、本実施形態に係るエンジンバルブ1では、冷媒10として、上述の好ましい態様を含めた冷媒を実現できる具体的なものとして、特定のアルミニウム合金、特定のマグネシウム合金又は特定のナトリウム合金が用いられる。
以下、これらの各合金について、詳しく説明する。
[アルミニウム合金]
本実施形態の冷媒10として用いるアルミニウム合金は、2元素以上を含有するアルミニウム合金である。具体的には、アルミニウムを50質量%〜86質量%含有するとともに、マグネシウムを14質量%〜50質量%含有するか、又は、マグネシウムと、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる合金元素を合計で14質量%〜50質量%含有する。即ち、本実施形態のアルミニウム合金は、合金元素として少なくともマグネシウムを含み、加えて上記列挙した合金元素を1種以上含んでもよい。
ここで、図9は、2成分系アルミニウム−マグネシウム合金の状態図である。図9中、横軸はマグネシウムの質量%を表し、縦軸は温度(℃)を表している。
図9に示すように、アルミニウム−マグネシウム合金は、マグネシウム含有量が14質量%〜85質量%、即ちアルミニウム含有量が15質量%〜86質量%の範囲内であれば、その融点はおよそ437℃〜450℃であることが分かる。
従って、合金元素としてマグネシウムを含むアルミニウム合金でアルミニウム含有量が50質量%〜86質量%である本実施形態の冷媒10は、およそ450℃までは固体であることが分かる。これにより、排気温度が150℃〜190℃であるアイドリング運転時において、本実施形態の冷媒10は固体状態を維持できる。
一方、高負荷時には、排気温度は通常700℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。また、中負荷時には、排気温度は通常450℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。
ここで、図9から分かるように、アルミニウム合金中のアルミニウム含有量が86質量%を超えると、その融点は450℃から急激に上昇し、純アルミニウムに至るとその融点は660℃と非常に高温となる。そのため、アルミニウム含有量が86質量%を超えたアルミニウム合金を冷媒に用いた場合には、中高負荷時のノック域においても融解せずにノッキングを改善できない。そこで本実施形態では、アルミニウム含有量が50質量%〜86質量%の範囲内となるようにアルミニウムを合金化することで、融点を低下させて冷媒として用いている。これにより、ノック域で確実に融解し、ノッキングを抑制できるようになっている。
また、純アルミニウムの熱伝導率は、約230(W/(m・K))であり、エンジンバルブ1を構成する耐熱鋼の熱伝導率に比して高い。これに対して本実施形態では、アルミニウムを合金化して固体のときの熱伝導率を低下させて冷媒として用いている。これにより、MBT域で熱引きを抑制し、熱損失をさらに低下できるようになっている。
また、2成分系のアルミニウム−マグネシウム合金に対して、アルミニウム及びマグネシウム以外の特定の合金元素を含有させることにより、融点を低下させることができる。特定の合金元素としては、融点の低い典型元素が挙げられ、中でも、上記で列挙したように、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。これにより、冷媒10の融点を低下させることができ、上記合金元素の含有量を合計で14質量%〜50質量%の範囲内とすることで、MBT域のうちBSFCが最も少ない運転領域において固体状態を維持できる冷媒とすることができる。
ところで、合金元素としては、エンジンバルブ1を構成する耐熱鋼に対して液体金属脆化を起こさない元素であることが好ましい。液体脆化を起こす元素を用いた場合、合金が液化した際に耐熱鋼が脆化し、最悪の場合エンジンバルブが破損するおそれがある。例えば、ニッケルを含有するオーステナイト系ステンレスであるSUH35を用いる場合に、合金元素としてリチウムや亜鉛を用いると、冷媒10が液体状態のときにSUH35が液体金属脆化を引き起こすおそれがある。
従って本実施形態では、マグネシウムを除く上記で列挙した合金元素のうち、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
[マグネシウム合金]
本実施形態の冷媒10として用いるマグネシウム合金は、2元素以上を含有するマグネシウム合金である。具体的には、マグネシウムを50質量%〜85質量%含有するとともに、アルミニウムを15質量%〜50質量%含有するか、又は、アルミニウムと、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる合金元素を合計で15質量%〜50質量%含有する。即ち、本実施形態のマグネシウム合金は、合金元素として少なくともアルミニウムを含み、加えて上記列挙した合金元素を1種以上含んでもよい。
上述した図9に示すように、合金元素としてアルミニウムを含むマグネシウム合金でマグネシウム含有量が50質量%〜85質量%である本実施形態の冷媒10は、およそ437℃付近までは固体であることが分かる。これにより、排気温度が150℃〜190℃であるアイドリング運転時において、本実施形態の冷媒10は固体状態を維持できる。
一方、高負荷時には、排気温度は通常700℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。また、中負荷時には、排気温度は通常450℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。
ここで、図9から分かるように、マグネシウム合金中のマグネシウム含有量が85質量%を超えると、その融点は437℃から急激に上昇し、純マグネシウムに至るとその融点は650℃と非常に高温となる。そのため、マグネシウム含有量が85質量%を超えたアルミニウム合金を冷媒に用いた場合には、中高負荷時のノック域においても融解せずにノッキングを改善できない。そこで本実施形態では、マグネシウム含有量が50質量%〜85質量%の範囲内となるようにマグネシウムを合金化することで、融点を低下させて冷媒として用いている。これにより、ノック域で確実に融解し、ノッキングを抑制できるようになっている。
また、純マグネシウムの熱伝導率は、約160(W/(m・K))であり、エンジンバルブ1を構成する耐熱鋼の熱伝導率に比して高い。これに対して本実施形態では、マグネシウムを合金化して固体のときの熱伝導率を低下させて冷媒として用いている。これにより、MBT域で熱引きを抑制し、熱損失をさらに低下できるようになっている。
また、上述したアルミニウム合金と同様に、本実施形態のマグネシウム合金も、アルミニウム以外の特定の合金元素を含有させることにより、融点を低下させることができる。特定の合金元素は上述した通りであり、これらのうち、エンジンバルブ1を構成する耐熱鋼に対して液体金属脆化を起こさない元素が好ましいことも同様である。
[ナトリウム合金]
本実施形態の冷媒10として用いるナトリウム合金は、2元素以上を含有するナトリウム合金である。具体的には、ナトリウム合金は、バリウムを含有し且つナトリウムを50モル%〜72モル%含有するナトリウム合金、ビスマスを含有し且つナトリウムを50モル%〜75モル%含有するナトリウム合金、又は、スズを含有し且つナトリウムを50モル%〜79モル%含有するナトリウム合金である。
ここで、図10は、2成分系ナトリウム−バリウム合金の状態図である。図10中、上横軸はバリウムの質量%を表し、下横軸はバリウムのモル%を表し、縦軸は温度(℃)を表している。
図10に示すように、ナトリウム含有量が50モル%以上のナトリウム−バリウム合金は、バリウム含有量が28モル%〜50モル%の範囲内、即ちナトリウム含有量が50モル%〜72モル%であれば、その融点はおよそ197℃であることが分かる。このように、通常の金属は合金化すると単一金属よりも融点が低下するところ、ナトリウム合金は純ナトリウム(融点98℃)よりも融点が高くなる特性を有する。
従って、合金元素としてバリウムを含むナトリウム合金でナトリウム含有量が50モル%〜72モル%である本実施形態の冷媒10は、およそ197℃付近までは固体であることが分かる。これにより、排気温度が150℃〜190℃であるアイドリング運転時において、本実施形態の冷媒10は固体状態を維持できる。
一方、高負荷時には、排気温度は通常700℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。また、中負荷時には、排気温度は通常450℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。
なお、図10から分かるように、ナトリウム−バリウム合金中のナトリウム含有量が72モル%を超えると、その融点は197℃から急激に低下する。そのため、ナトリウム含有量が72モル%を超えたナトリウム−バリウム合金を冷媒に用いた場合には、アイドリング運転時において固体状態を維持できない。そこで本実施形態では、ナトリウム含有量が50モル%〜72モル%の範囲内となるようにナトリウムをバリウムで合金化することで、上述の効果が得られるようになっている。
また、図11は、2成分系ナトリウム−ビスマス合金の状態図である。図11中、上横軸はナトリウムの質量%を表し、下横軸はナトリウムのモル%を表し、縦軸は温度(℃)を表している。
図11に示すように、ナトリウム含有量が50モル%以上のナトリウム−ビスマス合金は、ナトリウム含有量が50モル%〜75モル%の範囲内であれば、その融点はおよそ444℃であることが分かる。
従って、合金元素としてビスマスを含むナトリウム合金でナトリウム含有量が50モル%〜75モル%である本実施形態の冷媒10は、およそ444℃付近までは固体であることが分かる。これにより、排気温度が150℃〜190℃であるアイドリング運転時において、本実施形態の冷媒10は固体状態を維持できる。
一方、高負荷時には、排気温度は通常700℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。また、中負荷時には、排気温度は通常450℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。
なお、図11から分かるように、ナトリウム−ビスマス合金中のナトリウム含有量が75モル%を超えると、その融点はおよそ97.8℃に急激に低下する。そのため、ナトリウム含有量が75モル%を超えたナトリウム−ビスマス合金を冷媒に用いた場合には、アイドリング運転時において固体状態を維持できない。そこで本実施形態では、ナトリウム含有量が50モル%〜72モル%の範囲内となるようにナトリウムをビスマスで合金化することで、上述の効果が得られるようになっている。
また、図12は、2成分系ナトリウム−スズ合金の状態図である。図12中、上横軸はスズのモル%を表し、下横軸はスズの質量%を表し、縦軸は温度(℃)を表している。
図12に示すように、ナトリウム含有量が50モル%以上のナトリウム−スズ合金は、スズ含有量が21モル%〜50モル%、即ちナトリウム含有量が50モル%〜79モル%の範囲内であれば、その融点はおよそ357℃〜441℃であることが分かる。
従って、合金元素としてスズを含むナトリウム合金でナトリウム含有量が50モル%〜79モル%である本実施形態の冷媒10は、およそ357℃〜441℃までは固体であることが分かる。これにより、排気温度が150℃〜190℃であるアイドリング運転時において、本実施形態の冷媒10は固体状態を維持できる。
一方、高負荷時には、排気温度は通常700℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。また、中負荷時には、排気温度は通常450℃を超えるため、冷媒10は液体状態を維持できる。
なお、図12から分かるように、ナトリウム−スズ合金中のナトリウム含有量が79モル%を超えると、その融点はおよそ97.8℃に急激に低下する。そのため、ナトリウム含有量が79モル%を超えたナトリウム−スズ合金を冷媒に用いた場合には、アイドリング運転時において固体状態を維持できない。そこで本実施形態では、ナトリウム含有量が50モル%〜79モル%の範囲内となるようにナトリウムをスズで合金化することで、上述の効果が得られるようになっている。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
1…エンジンバルブ
2…シリンダヘッド
3…排気通路
4…燃焼室
5…排気ポート
10…冷媒
11…軸部
12…傘部
13…中空部
21…バルブ挿通孔
22…バルブガイド
23…バルブシート
121…外側壁
122…バルブフェイス

Claims (3)

  1. 軸部と、該軸部の軸方向一端側に一体的に設けられた傘部と、を含んで構成され、前記軸部から前記傘部にかけて中空部が形成されたエンジンバルブであって、
    前記中空部に封入されたアルミニウム合金からなる冷媒を備え、
    前記アルミニウム合金は、
    アルミニウムを50質量%〜86質量%含有するとともに、
    マグネシウムを14質量%〜50質量%含有するか、又は、
    マグネシウムと、リチウム、ベリリウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる合金元素を合計で14質量%〜50質量%含有するエンジンバルブ。
  2. 軸部と、該軸部の軸方向一端側に一体的に設けられた傘部と、を含んで構成され、前記軸部から前記傘部にかけて中空部が形成されたエンジンバルブであって、
    前記中空部に封入されたナトリウム合金からなる冷媒を備え、
    前記ナトリウム合金は、バリウムを含有し且つナトリウムを50モル%〜72モル%含有するナトリウム合金、ビスマスを含有し且つナトリウムを50モル%〜75モル%含有するナトリウム合金、又は、スズを含有し且つナトリウムを50モル%〜79モル%含有するナトリウム合金であるエンジンバルブ。
  3. 前記軸部及び前記傘部は、耐熱鋼からなり、
    前記アルミニウム合金の合金元素は、マグネシウムと、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、インジウム、スズ、バリウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなる請求項1に記載のエンジンバルブ。
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