以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
まず、ウェハ1の構造について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るウェハの構造を例示する図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿う断面図である。図1を参照するに、第1の実施の形態に係るウェハ1は、シリコン基板10上に、シリコン酸化膜(SiO2膜)11、酸化チタン膜(TiOx膜)12、白金膜(Pt膜)13及び複合酸化物膜14が順次積層された構造である。
シリコン基板10の厚さは、例えば、650μm程度とすることができる。シリコン酸化膜11の厚さは、例えば、600nm程度とすることができる。酸化チタン膜12の厚さは、例えば、50nm程度とすることができる。白金膜13の厚さは、例えば、100nm程度とすることができる。複合酸化物膜14の厚さは任意に決定できるが、例えば、30nm〜2μm程度とすることができる。
複合酸化物膜14は、例えば、鉛(Pb)とチタン(Ti)とジルコニウム(Zr)とを含む膜(PZT膜)である。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体である。例えば、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を用いることができる。なお、PZTは強誘電材料である。
以降、複合酸化物膜14がPZT膜である場合を例にして説明する(従って、複合酸化物膜14をPZT膜14と称する場合がある)。
PZT膜14は、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15と、所定領域以外の領域に形成されたPZT結晶質膜16とを有する。このような構造の技術的な意義については後述する。
なお、シリコン基板10の外周部をどの程度の大きさ(広さ)とするかは、要求仕様に応じて適宜決定できるが、シリコン基板10の外縁から5mm以内の領域とすることが好ましく、シリコン基板10の外縁から10mm以内の領域とすることがより好ましい。この程度の領域が汚染領域となる場合が多いからである。
次に、ウェハ1の製造方法について説明する。図2は、第1の実施の形態に係るウェハの製造方法を例示する図である。まず、図2(a)に示す工程では、シリコン基板10上にシリコン酸化膜11、酸化チタン膜12及び白金膜13を順次積層し、更に白金膜13上にアモルファスPZT膜15を形成する。
具体的には、例えば、厚さ650μm程度のシリコン基板10の表面に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法や熱酸化法等により、膜厚600nm程度のシリコン酸化膜11を形成する。そして、シリコン酸化膜11上に、例えば、スパッタリング法やCVD法等により、膜厚50nm程度の酸化チタン膜12を積層する。更に、酸化チタン膜12上に、例えば、スパッタリング法やCVD法等により、膜厚100nm程度の白金膜13を積層する。なお、白金膜13は、シリコン基板10の一方側の反対側である他方側から照射されるレーザ光を吸収して白金膜13上に形成される被加熱層を加熱する光吸収層としての機能を有する。
アモルファスPZT膜15は、例えば、スパッタリング法やCSD(Chemical Solution Deposition)法等を用いて、白金膜13の一方側に形成できる。なお、本実施の形態では、アモルファスPZT膜15は、光吸収層である白金膜13の一方側に直接形成されている。アモルファスPZT膜15の膜厚は、例えば、45nm程度とすることができる。
CSD法によりアモルファスPZT膜15を形成する場合には、まず、例えば、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料に使用し、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させて均一溶媒を作製する。この均一溶媒をPZT前駆体溶液と称する。PZT前駆体溶液の複合酸化物固体分濃度は、例えば、0.1〜0.7モル/リットルとすることができる。なお、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物の混合量は、所望のPZTの組成(PbZrO3とPbTiO3の比率)に応じて、当業者が適宜選択できるものである。例えば、前述のPZT(53/47)を用いることができる。
次に、例えば、スピンコート法等により、白金膜13の一方側にPZT前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する。そして、塗布膜を例えば120℃程度のホットプレートで1分間程度熱処理した後、180℃〜500℃程度のホットプレートで1〜10分間程度熱処理することにより、白金膜13の一方側にアモルファスPZT膜15が形成される。
次に、図2(b)に示す工程では、シリコン基板10の他方側(アモルファスPZT膜15が形成されていない側)から光を照射し、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させる。具体的には、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化せずに残存し、所定領域以外の領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化してPZT結晶質膜16となるようにレーザ光71xを照射する。
レーザ光71xは、シリコン基板10の外周部を除く領域においてシリコン基板10の他方側から照射され、シリコン基板10、シリコン酸化膜11及び酸化チタン膜12を透過して白金膜13の他方側に達する。レーザ光71xとしては、例えば、波長1500nm付近の連続発振のレーザ光を用いることができる。レーザ光71xのスポット形状は、例えば、略長方形とすることができる。又、その場合の略長方形の大きさは、例えば、0.35mm×1mm程度とすることができる。
白金膜13は、波長1500nm付近の吸収係数が非常に大きく、およそ7×105cm−1である。又、例えば、膜厚100nmの白金膜13において、波長1500nm付近の光の透過率は1%以下である。従って、白金膜13に照射された波長1500nm付近のレーザ光71xの光エネルギーは殆ど白金膜13に吸収される。
白金膜13に吸収されたレーザ光71xの光エネルギーは、熱に変わって白金膜13を加熱する。白金膜13の熱は、白金膜13の一方側に形成されているアモルファスPZT膜15に伝わり(拡散し)、アモルファスPZT膜15は、白金膜13側から局部的に加熱される。アモルファスPZT膜15の加熱された部分は膜質が変えられ(結晶化され)、PZT結晶質膜16となる。
一般的に、アモルファスPZT膜の結晶化温度は約600℃〜850℃であり、白金の融点(1768℃)よりかなり低い。従って、白金膜13に入射するレーザ光71xのエネルギー密度及び照射時間の制御によって、白金膜13にダメージを与えることなく、アモルファスPZT膜15を局部的に加熱して結晶化できる。レーザ光71xのエネルギー密度は、例えば、1×102〜1×106W/cm2程度とすることができる。レーザ光71xの照射時間は、例えば、1ms〜200ms程度とすることができる。
更に、シリコン基板10の外周部を除く領域において、レーザ光71xとシリコン基板10とを相対的に移動させながら、レーザ光71xを白金膜13に照射する。例えば、シリコン基板10の外周部を除く領域において、アモルファスPZT膜15を紙面左側前面の領域から紙面奥行き方向に順次結晶化する。そして、同様な動作を紙面右側の部分についても順次実行する。
これにより、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化せずに残存し、所定領域以外の領域(図1(a)の点線内の領域等)に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化してPZT結晶質膜16となる。つまり、アモルファスPZT膜15とPZT結晶質膜16とにより構成されたPZT膜14が作製される。
なお、PZT結晶質膜16は、(100)、(110)及び(111)の何れかに優先配向するように結晶化する。PZT結晶質膜16は配向性によって特性が異なり、用途も違う。例えば、主配向が(100)方向であるPZT結晶質膜は比誘電率が高いため、DRAM(Dynamic Random Access Memory)に用いると好適である。又、主配向が(110)方向であるPZT結晶質膜は強誘電特性や焦電特性に優れているため、センサやアクチュエータに用いると好適である。又、主配向が(111)方向であるPZT結晶質膜は変位量の劣化が小さいため、圧電素子に用いると好適である。又、主配向が(111)方向であるPZT結晶質膜は残留分極が大きいため、FRAM(登録商標)(Ferroelectric Random Access Memory)に用いると好適である。
ここで、シリコン基板10の外周部にレーザ光を照射しない理由について説明する。図2(a)及び図2(b)に示す工程でシリコン基板10を取り扱いする際に、一般的に、少なくともシリコン基板10の外周部の一部はピンセットや装置のハンドリングフォーク等に接触することになる。そして、接触した部分のシリコン基板10の他方側の外周部(裏面外周部)には、例えば図3に示すような傷61が形成されやすい。特に、多層膜を形成する場合、シリコン基板10の取り扱い回数の増加により、傷61が増えるおそれがある。
又、シリコン基板10の外周部には一般的にチッピング62が存在する。更に、CSD法によってアモルファスPZT膜15を形成する場合、スピンコートで膜を塗布するとき、液の流れによって、シリコン基板10の他方側の外周部に液による汚れ63が付着する場合もある。
このような傷61、チッピング62及び液による汚れ63等が存在する汚染領域は、シリコン基板10に対して透明な波長1500nm付近のレーザ光71xを吸収する。そのため、アモルファスPZT膜15からPZT結晶質膜16を作製中に、もしレーザ光71xがシリコン基板10の他方側の外周部の汚染領域に照射されると、汚染領域においてレーザ光71xが吸収され、汚染領域に予想以上の熱を生じさせる。
汚染領域に生じた熱は、シリコン基板10の一方側に拡散し、シリコン基板10の一方側の汚染領域に対応する位置に形成されたPZT結晶質膜16にクラックや膜剥がれを引き起こすおそれがある。更に、膜の結晶によって、このクラックや膜剥がれがシリコン基板10の一方側の外周部から中心部へ延びて、外周部以外のPZT結晶質膜16にも影響を与える懸念がある。
このような現象を避けるため、図2(b)に示す工程では、少なくともシリコン基板10の外周部にはレーザ光71xを照射しない。この方法によって、シリコン基板10の中心部にはPZT結晶質膜16が形成され、レーザ光が照射されてない外周部にはアモルファスPZT膜15が残存する状態となる。
シリコン基板10の他方側の外周部に汚染領域が存在しても、汚染領域にはレーザ光71xが照射されないため、汚染領域において異常な熱を生じることがなく、シリコン基板10の中心部に影響を与えることもない。その結果、シリコン基板10の中心部に高品質のPZT結晶質膜16を形成できる。
このように、第1の実施の形態に係るウェハ1の製造方法では、シリコン基板10の一方側にアモルファスPZT膜15を形成し、シリコン基板10の他方側から光を照射し、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させてPZT結晶質膜16とする。但し、結晶化の際の光の照射は、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化せずに残存し、所定領域以外の領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化してPZT結晶質膜16となるように行う。
これにより、ウェハ1の製造工程中のハンドリング等によって、シリコン基板10の他方側の外周部に汚染領域が形成された場合でも、汚染領域を含む所定領域にはレーザ光が照射されないため、汚染領域に異常な高熱が生じることを回避できる。その結果、シリコン基板10の一方側に均一な高品質のPZT結晶質膜16が形成されたウェハ1を製造できる。
又、第1の実施の形態に係るウェハ1の製造方法によれば、光吸収層である白金膜13に殆ど熱の影響を及ぼすことなく、被加熱層であるアモルファスPZT膜15から局部的にPZT結晶質膜16を形成できる。そのため、被加熱層以外の構造や素子等を有するデバイスに適用する場合であっても、加熱処理が不要な他の部材(他の構造や素子等)まで加熱されないので、熱的なダメージや熱応力による寸法精度のずれ等が生じ難く、デバイスの性能低下を回避できる。
従って、第1の実施の形態に係るウェハ1の製造方法を、被加熱層以外の構造や素子等を有するデバイスであるセンサやアクチュエータ等に適用すると好適であり、特に精密制御が行われる微小デバイスに適用すると好適である。
なお、上記説明では、一層のPZT膜14を有するウェハについて説明したが、多層のPZT膜14を形成する場合には、アモルファスPZT膜15の形成及びレーザ光の照射というプロセスを繰り返すことにより、狙い厚さを備える膜を形成できる。もちろん、この場合、2層目以降のPZT膜14は白金膜13上には直接形成されず、その前に形成されたPZT膜14上に積層される。
又、上記説明では、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域の平面形状(PZT結晶質膜16の平面形状)が1つの長方形(又は、正方形)である場合(図1(a)参照)を例示した。しかし、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域の平面形状(PZT結晶質膜16の平面形状)は、例えば、図4(a)に示すような長方形(例えば、短冊状)の複数の領域としてもよい。図4(a)のようにする場合には、例えば、シリコン基板10の外周部を除く領域において、アモルファスPZT膜15を部分的に直線状にスキャンして結晶化すればよい。
又、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域の平面形状(PZT結晶質膜16の平面形状)は、例えば、図4(b)に示すような円形としてもよい。図4(b)のようにする場合には、例えば、シリコン基板10の外周部を除く領域において、アモルファスPZT膜15を螺旋状にスキャンして結晶化すればよい。
又、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域の平面形状(PZT結晶質膜16の平面形状)は、図1(a)、図4(a)及び図4(b)に示していない他の四方形、三角形、ライン等としても構わない。つまり、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域の平面形状(PZT結晶質膜16の平面形状)は、レーザ光とシリコン基板10とを相対的に移動させる方式によって形成できる任意の形状とすることができる。なお、平面形状とは、シリコン基板10のシリコン酸化膜11が形成されている面の法線方向から対象物を視たときの形状を指す。
又、上記説明では、白金膜13上にPZT膜14を形成する例を示したが、PZT膜14に代えて、例えば、Pb、La、Ni、Cr、CoTi、Zr、Ba、Nb、Bi、Fe、Mnの少なくとも1つを有する酸化物膜又は複合酸化物膜を用いてもよい。
又、上記説明では、光吸収層として白金膜13をシリコン基板10上に形成する例を示したが、シリコン基板10に代えて金属基板、例えば、SUS或いはPt、Pb、Cu、Ni、Wの何れかの金属を含む金属基板を用いた場合、金属基板自体が光吸収層になる。このような金属基板を用いた場合には、金属基板上に白金膜13を形成することなく、金属基板自体を光吸収層として、金属基板の他方側からレーザ光を照射する方法で金属基板上に直接PZT膜14等を形成することができる。
又、上記説明では、シリコン基板10を用いる例を示したが、シリコン基板10に代えて、サファイア、SiC、GaAs、MgO、SrTiO3等の化合物基板を用いても構わない。
又、上記説明では、光吸収層として白金膜13を用いる例を示したが、白金膜13に代わる光吸収層として、融点が1000℃以上の他の耐熱性の膜を用いてもよい。他の耐熱性の膜としては、例えば、Ir、Pd、Rh、W、Fe、Ni、Ta、Cr、Zr、Ti、Auの何れかの金属を含む金属膜を挙げられる。又、前記何れかの金属の合金を含む金属合金膜、又は、前記金属膜若しくは前記金属合金膜を任意に選択して複数層積層した積層膜等を挙られる。
又、上記説明では、光吸収層である白金膜13に連続発振のレーザ光71xを照射したが、連続発振のレーザ光71xに代えて、パルス発振のレーザ光を照射してもよい。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、シリコン基板の外周部に中心部よりも弱いレーザ光を照射する例を示す。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図5は、第2の実施の形態に係るウェハの製造方法を例示する図である。まず、第1の実施の形態の図2(a)に示す工程と同様にして、シリコン基板10上にシリコン酸化膜11、酸化チタン膜12及び白金膜13を順次積層し、更に白金膜13上にアモルファスPZT膜15を形成する。
そして、図5に示す工程では、シリコン基板10の他方側から光を照射し、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させる。但し、本実施の形態では、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に対応するシリコン基板10の他方側にも光を照射する。
具体的には、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に対応するシリコン基板10の他方側には第1の照射パワーのレーザ光71yを照射する。そして、所定領域以外の領域に対応するシリコン基板10の他方側には第1の照射パワーよりも大きな第2の照射パワーのレーザ光71xを照射する。なお、レーザ光71xとレーザ光71yとは、同じ波長(例えば、波長1500nm付近)として構わない。
レーザ光71yの第1の照射パワーは、アモルファスPZT膜15が結晶化しない程度の照射パワーであり、レーザ光71xの第2の照射パワーは、アモルファスPZT膜15が結晶化する照射パワーである。レーザ光71yの第1の照射パワーは、例えば、レーザ光71xの第2の照射パワーの1/2程度とすることができる。
なお、レーザ光71x及び71yは、第1の実施の形態と同様に、レーザ光71x及び71yとシリコン基板10とを相対的に移動させながら照射する。
これにより、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化せずに残存し、所定領域以外の領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化してPZT結晶質膜16となる。つまり、アモルファスPZT膜15とPZT結晶質膜16とにより構成されたPZT膜14が作製される。
第2の実施の形態に係るウェハ1の製造方法では、第1の実施の形態に係るウェハ1の製造方法の奏する効果に加え、更に以下の効果を奏する。すなわち、シリコン基板10の外周部においてレーザ光71yを照射することにより、ウェハを予熱できるため、更に均一な大面積のPZT結晶質膜を形成できる。なお、レーザ光71yの照射パワーが低いため、レーザ光71yが傷等の欠陥に照射されても、生じる熱はPZT膜14にダメージを発生させない程度に抑えることができる。
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、シリコン基板の外周部に遮光マスクを設置する例を示す。なお、第3の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図6は、第3の実施の形態に係るウェハの製造方法を例示する図である。まず、第1の実施の形態の図2(a)に示す工程と同様にして、シリコン基板10上にシリコン酸化膜11、酸化チタン膜12及び白金膜13を順次積層し、更に白金膜13上にアモルファスPZT膜15を形成する。
そして、図6に示す工程では、シリコン基板10の他方側から光を照射し、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させる。但し、本実施の形態では、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させる工程よりも前に、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に対応するシリコン基板10の他方側にレーザ光71xを遮光する物体を配置する。
具体的には、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に対応するシリコン基板10の他方側に遮光マスク69(金属製、樹脂製等)を配置する。その後、第1の実施の形態と同様に、シリコン基板10の他方側から光を照射し、アモルファスPZT膜15の一部を結晶化させる。
レーザ光71xを一定の照射パワーでシリコン基板10の他方側の全体に照射しても、シリコン基板10の他方側に遮光マスク69が配置されている領域ではレーザ光71xが白金膜13に到達せず、この領域の白金膜13は加熱されない。なお、レーザ光71xは、第1の実施の形態と同様に、レーザ光71xとシリコン基板10とを相対的に移動させながら照射する。
これにより、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化せずに残存し、所定領域以外の領域に形成されたアモルファスPZT膜15が結晶化してPZT結晶質膜16となる。つまり、アモルファスPZT膜15とPZT結晶質膜16とにより構成されたPZT膜14が作製される。
第3の実施の形態に係るウェハ1の製造方法では、第1の実施の形態に係るウェハ1の製造方法の奏する効果に加え、更に以下の効果を奏する。すなわち、アモルファスPZT膜15を結晶化する領域を遮光マスクの有無により決定できるため、一定の照射パワーのレーザ光71xをスキャンさせる範囲はシリコン基板10より広くてもよい。その結果、レーザ光の制御が容易となる。
なお、上記説明における光を遮光する物体は、光を完全に遮光する物体のみではなく、光を部分的に遮光する(光が部分的に透過できる)物体であってもよい。例えば、光を遮光する物体として、光が部分的に透過できるND(Neutral density)フィルタ等を用いても構わない。この場合、光を遮光する物体の透過率を50%程度に設定すれば、シリコン基板10の一方側の外周部を含む所定領域もある程度加熱されるため、第2の実施の形態と同様に、ウェハを予熱する効果が期待できる。
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、第1の実施の形態に係るウェハを用いた圧電素子の例について説明する。なお、第4の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図7は、第4の実施の形態に係る圧電素子を例示する断面図である。図7を参照するに、圧電素子2は、ウェハ1と、白金膜17とを有する。但し、ウェハ1において、PZT膜14は、パターニングされてアモルファスPZT膜15が除去され、PZT結晶質膜16のみとされている。PZT結晶質膜16の膜厚は、例えば、1μm程度とすることができる。
PZT結晶質膜16上の所定領域には導電膜である白金膜17が形成されている。白金膜17の膜厚は、例えば、100nm程度とすることができる。白金膜17は、例えば、スパッタリング法により形成することができる。
圧電素子2において、白金膜13が下部電極、PZT結晶質膜16が圧電膜、白金膜17が上部電極として機能する。すなわち、下部電極として機能する白金膜13と上部電極として機能する白金膜17との間に電圧が印加されると、圧電膜であるPZT結晶質膜16が機械的に変位する。
このように、第1の実施の形態に係るウェハ1から形成することにより、均一な高品質のPZT結晶質膜16を有する圧電素子2が得られる。又、局部加熱によりPZT結晶質膜16を形成できるので、他の素子と容易に集積でき、かつ、安定性が良い圧電素子2が得られる。
〈第5の実施の形態〉
第5の実施の形態では、第4の実施の形態に係る圧電素子を備えた液滴吐出ヘッドの例を示す。なお、第5の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図8は、第5の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドを例示する断面図である。図8を参照するに、液滴吐出ヘッド3は、圧電素子2と、ノズル板40とを有する。ノズル板40には、インク滴を吐出するノズル41が形成されている。ノズル板40は、例えばNi電鋳等で形成できる。
ノズル板40、シリコン基板10、及び振動板となるシリコン酸化膜11により、ノズル41に連通する圧力室10x(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。振動板となるシリコン酸化膜11は、インク流路の壁面の一部を形成している。換言すれば、圧力室10xは、ノズル41が連通してなり、シリコン基板10(側面を構成)、ノズル板40(下面を構成)、シリコン酸化膜11(上面を構成)で区画されてなる。
圧力室10xは、例えば、エッチングを利用してシリコン基板10を加工することにより作製できる。この場合のエッチングとしては、異方性エッチングを用いると好適である。異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。その後、シリコン基板10の下面にノズル41を有するノズル板40を接合する。なお、図8において、液滴供給手段、流路、流体抵抗等についての記述は省略している。
圧電素子2は、圧力室10x内のインクを加圧する機能を有する。酸化チタン膜12は、下部電極となる白金膜13と振動板となるシリコン酸化膜11との密着性を向上する機能を有する。酸化チタン膜12に代えて、例えば、Ti、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等からなる膜を用いてもよい。但し、酸化チタン膜12は、圧電素子2の必須の構成要素ではない。
圧電素子2において、下部電極となる白金膜13と上部電極となる白金膜17との間に電圧が印加されると、圧電膜となるPZT結晶質膜16が機械的に変位する。PZT結晶質膜16の機械的変位にともなって、振動板となるシリコン酸化膜11が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室10x内のインクを加圧する。これにより、ノズル41からインク滴を吐出させることができる。
なお、図9に示すように、液滴吐出ヘッド3を複数個並設し、液滴吐出ヘッド4を構成することもできる。
〈第6の実施の形態〉
第6の実施の形態では、液滴吐出ヘッド4(図9参照)を備えた液滴吐出装置の一例としてインクジェット記録装置を例示する。なお、第6の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図10は、インクジェット記録装置を例示する斜視図である。図11は、インクジェット記録装置の機構部を例示する側面図である。
図10及び図11を参照するに、インクジェット記録装置5は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した液滴吐出ヘッド4の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を収納する。又、インクジェット記録装置5は、インクジェット記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。
記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができる。又、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93には、インクジェット記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。なお、インクジェット記録ヘッド94は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する。又、キャリッジ93は、インクジェット記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。又、インクジェット記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドを用いてもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
又、インクジェット記録装置5には、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104を設けている。更に、インクジェット記録装置5には、搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインクジェット記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。更に、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインクジェット記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェット記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。又、記録途中等に、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。又、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。更に、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、インクジェット記録装置5は、液滴吐出ヘッド4の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を搭載している。そのため、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上できる。
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上記の実施の形態に係る圧電素子は、前述のように、インクジェット記録装置等において使用する液滴吐出ヘッドの構成部品として用いることができるが、これには限定されない。上記の実施の形態に係る圧電素子を、例えば、マイクロポンプ、超音波モータ、加速度センサ、感温センサ、プロジェクター用2軸スキャナ、輸液ポンプ等の構成部品として用いてもよい。
又、光吸収層に照射する光はレーザ光には限定されず、光吸収層を加熱できる光(光吸収層に吸収される光)であれば、どのようなものを用いてもよい。例えば、フラッシュランプ等を用いることができる。