木材の防腐性、耐候性等を高めるために、その表面を火炎に曝して炭化することが古くから知られている。例えばカンナ屑や新聞紙を燃やして板の片面を焼き、焼かれた面が外部に面するようにして家屋の外壁や塀に用いると、風雨に曝されても100年近く持つことが知られている。現在ではこのような方法は殆ど行われなくなり、ガスバーナーやオイルバーナーで板を焼いて、その表面層を炭化することが一部で実施されている。このような方法で形成された炭化層は厚いが、表面が平滑、平坦ではなく、無数のヒダ(ヒビ割れのような外観で、以後ヒビ割れを単にクラックと記載する)が形成されている。この表面層は機械的強度が小さく、手指で軽く擦っただけで黒い粉が指に付着する。また、手で強く擦った場合や、器物がぶつかるとクラックの部分を境として容易に剥離してしまう。このクラックの底部分の炭化層の厚さはクラックが無い部分の厚さより大幅に小さい。このクラックから水が浸入する恐れがあるので、クラックの発生は避ける必要がある。クラックが形成されなければ表面層が炭化された板の寿命が更に延びることは明白である。
図1の(a)、(b)、(c)は本発明者が、エゾ松の板A(厚さ24mm、幅60mm、長さ65mm)、杉辺材B(厚さ14mm、幅45mm、長さ90mm)および杉辺材C(厚さ14mm、幅45mm、長さ65mm)の表面にガスバーナー(キンボシ株式会社製HBA−1700G)の炎(1000℃以上)を吹付けたことにより、多数のクラックが形成された表面の写真である。写真(a)はエゾ松Aに30秒間、写真(b)は杉辺材Bに30秒間、写真(c)は杉辺材Cに10秒間ガスバーナーの炎を吹き付けて焼いたものである。図2はそれらのクラックの1本を含む断面の顕微鏡写真であり、写真(a)はエゾ松Aの、写真(b)は杉辺材Bの、写真(c)は杉辺材Cの断面顕微鏡写真である。図2から分かるように、クラックの断面はクレーターの断面状であり、クラックの底部の炭化層の厚さはクラックが無い部分の厚さより大幅に小さくなっている。図2の写真(a)のクラック底部の炭化層の厚さが1.0mmであるのに対し、クラックの無い部分の炭化層の厚さは1.7mmである。図2の写真(b)のクラック底部の炭化層の厚さが0.8mmであるのに対しクラックの無い部分の厚さは1.8mmである。このようにクラックの部分では炭化層の厚さが大幅に小さくなっている。
クラックが形成される理由は、板が空気中で高温の炎に曝され、熱分解して生じた揮発成分が表面の一部分で燃えると、その部分で優先的に揮発・燃焼し、その部分の体積が急激に減少したためであるか、或いは高温の炎に曝された全面から熱分解成分が揮発、燃焼して体積が減少し、浅い湖の水が干上がって湖底の泥が乾燥した際に発生するクラックのようになると考えられる。
図3は本発明者が市販のガスバーナー(藤原産業株式会社 ワンタッチガストーチSK−11)を用いてエゾ松の板(断面が14×45mm)に火炎(1000℃以上)を放射し、火炎の放射時間に対する炭化層の厚さをプロットしたグラフである。このガスバーナーの火炎の強さは、前述のキンボシ株式会社製のそれより遥かに弱いものであった。火炎の強さとエゾ松表面からバーナーまでの距離を一定に保ち、それぞれ同一放射時間で3個ずつのサンプルを作成し、それらの炭化層厚をプロットし、その多項式近似曲線を示している。放射時間が4秒以上になるとクラックが発生するのが目視で分かる。更に放射を続けるとクラックが増加する。放射時間が4秒の時のクラックが無い部分の炭化層の厚さは約0.4mmである。このようにクラックが発生しない範囲で炭化できる炭化層の厚さは非常に小さいのである。
特許文献1には、木材の表面をガスバーナーで加熱し、0.2mmの厚さの炭化層を形成することにより、高吸湿性を有する腐朽防止木材が得られることが示されている。このように薄い炭化層が表面層に形成されるだけでも、腐朽防止効果があることが知られているが、このように薄い炭化層では、十分な耐候性、防腐性、防蟻性は得られない。外壁や塀などの風雨に曝される場所で使用される建材としては、通常3mmの厚さが要求される。ガスバーナーによる表面炭化では、この厚さの炭化層を得ようとすると、表面にクラックが発生してしまうのである。
特許文献3には、460℃の溶融亜鉛に赤松の全体を10秒間浸漬して、表面に炭化層を設けること、及び300℃の溶融塩に赤松を5〜10秒間浸漬して、表面に炭化層を設けることが記載されている。
しかし、本発明の図9及び表2に示されているように、500℃の溶融スズに15秒間浮かせた場合、表面層にクラックが発生する。本発明の図9及び表2には示されていないが、本発明者の実験結果によれば、500℃の溶融スズに木材を10秒間浮かせた場合、クラックは発生しないが、その時の炭化層の厚さは0.45〜0.52mmと非常に小さかった。300℃の溶融塩の代わりに、300℃のスズ浴に木材を10秒間浸漬した実験によれば、表面炭化層の厚さは0.2mm程度である。
特許文献3に示された条件によって得られる炭化層の厚さでは、実用上十分な厚さの炭化層ではなく、防腐性、耐候性、防蟻性等の性能が不十分である。外壁や塀などの風雨に曝される場所で使用される建材としては、通常3mmの厚さが要求される。また、特許文献3には、炭化層を厚くするための条件は示されておらず、また、厚くするための条件下で炭化した場合に生じるクラックの発生についての記載が全く無い。当然この文献には、炭化層を0.7mm以上にした場合に生じるクラックの発生を、どのように防止するかについての記載もない。
特許文献4には、三次元加工のための金型により、木材を加圧挟持し、金型の一方を木材の炭化温度よりも高温にして、木材の一方の面を炭化することが記載されている。しかし、このような条件下で、如何にしてクラックが発生しないように炭化できるのかについては、何の記載も示唆もない。本発明では、金型を使用するのではなく、後述のように熱板を接触させた状態で、加熱温度と加熱時間を広範囲に検討することにより、クラックを発生させない方法を見つけたのである。
特許文献4の発明の課題は、炭化層を導電性にして電磁遮蔽の目的に使用することである。しかるに、木材を炭化して導電性にするためには、非特許文献4のV−5頁、16行〜18行に記載されているように、木材を不活性雰囲気において、800℃以上の高温で炭化することが必要である。約600℃の温度までは、体積抵抗率が1012Ω・cm以上の絶縁性であり、これを超える600〜700℃の加熱温度では、体積抵抗率が102〜109Ω・cmの半導体に転じ、800℃を超えると10Ω・cm以下の導電性を示すようになって、昇温とともに導電性は向上することが示されている。木材を空気中で800℃の金属に接触させると、木材の表面には瞬時にクラックが発生する。そして800℃の金属板を、木材表面から離すと、木材表面は燃えだしてしまう。
特許文献4には、ガスバーナーによって木材表面を炭化して導電性にすることが記載されている。実際には、ガスバーナーで短時間焼いても、炭化層は導電性にならない。何故ならば、ガスバーナーにより木材が燃焼すると、気化熱により木材表面の温度上昇が抑制されるからである。このことは、人工衛星が地球に帰還する際に、空気との摩擦熱により燃え尽きないようにする原理して知られている。木材を燃焼して導電性の炭化層を得るには、木材の内部が赤熱するまで燃焼し、空気の無い所で冷却するか、水をかけて鎮火することが必要である。数mm厚の木材を、このように燃焼したのでは、燃え尽きてしまう。従って、ガスバーナーで木材表面を導電性にすることは、現実には不可能である。
以上に述べた火炎による炭化方法に代わって、最近では薬剤による木材の防腐処理が一般的になっている。この目的のために多種の薬剤が開発され、使用されている。薬剤を木材の内部に浸透させるために、木材に割れ目や穴を形成したり、減圧下で薬剤を注入したり、薬剤の減圧注入後加圧して更に内部深く注入させたり、色々な工程が使用されている。しかし、木材を建材或いは土木材料として使用する場合、薬剤が人間や自然環境に与える影響が懸念されている。
一方、北欧では数10年前から、木材を高温処理して防腐性、耐候性、耐熱性、防蟻性等を高めることが行われている。例えば、木材を180〜220℃の水蒸気が存在する雰囲気に2時間〜20時間前後放置すると、木材内部まで均一に着色(軽い炭化が行われたと考えられている)し、処理温度が高いほど着色が濃くなり、防腐性、耐候性等が向上する。日本でも最近知られるようになったが、まだあまり普及していない。北欧ではサーモウッドと呼ばれ、広く使われている。上記の温度範囲が選ばれているのは、この温度より低いと効果が殆ど現れず、この温度より高いと、木材の機械的強度が急激に低下するためであることが非特許文献1の第4章の5−4頁に記載されている。この高温処理により防腐性、耐候性等はかなり向上するが、防蟻性は殆ど無いと記載されている。非特許文献1の17−4及び18−4頁には、220℃の処理温度では防腐性能は不十分であるので、地中での使用は推奨しないと記載されている。しかし、第4章の18−4頁の図13−4には、処理温度が240℃以上であれば防腐性能及び防蟻性能は完全であることが示されている。また、220℃の処理温度でも機械的強度は処理前の木材より低下しているので、基礎部分や構造材料としては使用しないように警告されている。機械的強度と防腐性能がほどほどに満足される程度に処理温度と処理時間が選ばれているのがサーモウッドの製造法の特徴である。本発明によれば、サーモウッドの製造法における温度より高温で炭化することができるだけでなく、機械的強度を維持することが可能である。サーモウッドは表面から内部まで木材全体が炭化されている。
特許文献2には木材を高温の気体雰囲気で加熱すること以外に、高温の液体(例えば、シリコン系オイル、パラフィン)或いは高温の粒状物(例えば、砂)の浴に長時間接触させて木材の内部まで炭化処理してサーモウッド化する方法が記載されている。これらの液体や粒状物は熱伝導率が非常に小さいので、木材に熱を伝達する効率が悪い。熱伝導率が小さいので、表面層をある程度の深さ(例えは5mm前後)まで炭化しようとすると、数10分以上の時間をかけて炭化しないとならないので、砂の温度が高温の場合には木材が発火、燃焼する恐れがある。
非特許文献2には100℃以上に加熱した溶融ワックス、180℃〜220℃に加熱した菜種油、綿実油等で熱処理することが記載されている。更に鉱物油やシリコンオイルによる熱処理についても記載されている。しかし、これらのオイルでは木材を炭化させるほど高温に加熱するのが困難であるという問題がある。ワックス、鉱物油、植物油、シリコンオイル等は240℃以上に加熱すると成分が揮発したり、燃えたりする問題があるので最高使用温度が制限される。又、繰り返し使用により油が劣化するという問題もある。更に、後述(特に実施例5)のように、全表面が同時に加熱されることによる問題が発生する。
非特許文献3には放射加熱による合板の炭化についての研究結果が記載されている。放射加熱により、合板の表面から内部に向かって10mm前後の深さに炭化されることが示されているが、クラックについての記載は全く無い。しかし、非特許文献3に記載されているような強力な放射加熱を行うと極めて短時間でクラックが発生してしまうことが確認された。
電気炉或いは高温度のチャンバーで木材を加熱することは公知であるが、例えば角材を、内部の温度が300℃の電気炉に入れて、表面が十分に着色(濃い茶褐色〜黒色)するまで放置すると、角材のコーナーが強く炭化されてもろくなるという問題がある。更に、表面が十分に着色するまでの時間は数分ないし10数分であるが、これを電気炉から取り出して室温に冷却後に角材を切断して断面を観察すると内部深くまで着色が進んでおり、表面層炭化を行うことが困難である。表面層炭化の深さを小さくおさえると、表面の着色が不十分になってしまうのである。このような現象は、前記の砂による加熱の場合も同様であることが確認された。このような現象が起こるのは、木材が四方(周囲)から同時に加熱されるためであることが判明した。
古くから焼き印技術が用いられている。例えば、木箱やかまぼこの台板、或いは皮革の表面に焼き印を形成することも一般的である。これらのケースでは、焼き型が赤熱するほど高温に加熱され、瞬間的に対象物に押し当てられるのが特徴である。また、焼き印はその部分が熱分解により蒸発してかなり窪んでいるのも特徴の一つである。これらのケースでは焼き印形成が短時間(ほぼ瞬間的)で終わることが要求されており、焼き型を赤熱するほど高温に加熱し、瞬間的ないし非常に短時間の押し当てで終了されている。焼き印方式では、表面を十分に濃く着色(炭化)することが可能であるが、内部深くまで炭化することは困難である。
約400℃以上に加熱された熱ペン、電気鏝等で木材、皮、樹脂板等にフリーハンドで画像を描くことが趣味として知られている。これらの趣味においても、上記の焼き印技術においても、短時間で刻印或いは描画することが求められるので、当然焼き型や鏝の温度は400℃程度の高温であることが必要である。温度が低いと焼き型を押し当てている時間、或いは鏝を一箇所に押し当てている時間が長くなり実用が困難になる。このように焼き印技術や鏝による描画では、非常に高温の焼き型或いは鏝が使用されるのであるが、このように高温の焼き型や鏝を数秒間同じ場所に押し当てていると、その部分が非常に濃く(黒く)炭化され、表面を指で擦ると黒い粉が指に付着するばかりでなく、炭化された部分がかなり窪んでしまうのである。焼き印形成やフリーハンドでの描画の場合はこのような現象はあまり問題にならないが、建築等に使用されるような木材の大きな面積を有する表面層を均一に炭化する場合は大きな問題になるのである。また、焼き印や熱ペン技術で炭化深さを大きくしようとして、木材表面の同一場所にコテや熱ペンを押し当てていると、必要な厚さの炭化深さが得られないうちにクラックが発生してしまう。
以上のような背景技術に鑑み、本発明者は火炎方式による炭化は空気中で行われることが問題であると推測し、ハンダ浴に木の角材を浸漬したところ、クラックの無い見事な炭化層が得られることを発見した。次に、火炎より遥かに温度が低い熱風(ヒートガン)を吹き付けたところ、ガスバーナーによる炭化の場合より遥かに軽減されたが、クラックが発生しやすいことが分かった。火炎による加熱、ハンダ浴による加熱及び熱風による加熱を比較し、火炎や熱風による加熱では熱分解成分が自由に揮発できるのに対し、ハンダ浴による加熱では熱分解成分の揮発が防止されるのでクラック発生が防止されるのであるという仮説を立てた。そこで、ホットプレートの上に木の角材を置いて加熱したところ、ハンダ浴と同様にクラックが無く厚い炭化層が得られることを発見した。また、木の角材の上にガラス板を載せ、その上方から赤外線を放射して加熱したところ、クラックの発生が大幅に改善された。これらの結果から、加熱による熱分解成分の揮発が防止されていると考えられる。更に、木材の表面層に水ガラスを含浸させてから熱風加熱をしたところ、やはりクラックの発生が大幅に改善された。木材の表面層に水ガラスを含浸させると、他の加熱方式においても大きな効果があることが分かった。水ガラスの存在が熱分解成分の揮発を防止したのである。これらの結果から本発明が導かれたのである。
特許文献5には、難燃剤を含浸させた木材に、更に、水ガラスを含浸させることが記載されている。その目的は、木材表面を840℃の炎に炙り、木材が燃焼して裏側に貫通し、燃焼した部分が脱落するのを遅延させるためである。水ガラスで処理されない場合は、28分で裏側に貫通したが、処理された場合は30分で貫通している。引用文献5の発明では、水ガラスが「高温過熱下で溶融してガラス状態となって炭化残渣を固定するように作用し、」と記載されている。これに対して本発明では、450℃以下にしか加熱されないので、水ガラスがガラス状態に溶融することはない。また、本発明では、木材が燃焼する温度領域を含んでいない。特許文献5には、水ガラスがクラック発生に、どのように影響するのかについて、全く考察も記載もない。
熱分解成分の揮発を防止する方法Aにおいて使用される溶融金属は、240℃以上の温度で溶融する金属で、高温溶融状態で空気中に於いて比較的安定であること、比較的安価であること、高温溶融状態で空気中において揮発しないこと、環境に悪影響がないこと等が望ましい。これらの条件をほぼ満足するものとして、スズ或いははんだに代表されるスズ合金があげられる。この中でスズは、広く鋼材の表面処理に使用されているので特に望ましい。鉛も使用可能であるが、環境に悪影響があるので好ましくない。必ずしも金属である必要は無く、熱伝導率が大きい溶融塩のようなものが存在すれば、それも使用できる筈である。
熱分解成分の揮発を防止する方法Aの一つである溶融金属方式では、高温溶融金属の浴に木材を浮かべたり、一部或いは全部を浸漬して処理するのであるが、木材の比重は金属に較べて非常に小さいので、木材を金属浴に浮かしただけでは一部分しか浴に浸漬されない。そこで丸太状、円柱状、或いは角柱状木材を木材の長さ方向の軸を中心として回転させるか、適当な治具で木材を浴内部に沈めてやるか、或いは浴に浮いている木材の上から溶融金属を流して浴面より上に出ている部分の木材にも溶融金属を接触させるか、更にこれらの方法の組み合わせを用いて木材表面層が均一に加熱されるようにすることができる。木材が板状の場合、その片面のみ処理する場合は浴に浮かすだけでよいが、両面を処理する場合は板の片面を処理した後裏返すことによって達成される。板の一面は表面層炭化され、反対面は木材の地肌を残したままにしておくことも可能である。又、木材の含水率は通常10数%或いはそれ以上であり、この状態の木材を高温浴に浸漬すると激しく水蒸気ガスがでるので、あらかじめ適当な方法により木材を乾燥しておいてもよい。木材を充分に乾燥しておけば、本発明による処理を施した後も、長期間変形が発生しにくいので、割れや反りが生じにくい利点もある。
溶融金属は必ずしも浴槽に入れられている必要は無く、上方から木材にかけ流すか、或いは流下した溶融金属を回収して加熱し、再び木材にかけ流すという具合に循環使用してもよい。このようにすれば処理浴槽は小さくて済む。
本発明の一つの最も重要な点は、表面層は充分に炭化されるが、内部は炭化されないことである。炭化された表面層により防腐性、耐候性、防蟻性、防湿性等を発現し、内部は炭化されずに元の木材のままであることにより、機械的強度を保持させるのである。従って、木材を高温浴に接触させている時間及び高温浴の温度が極めて重要な要因である。接触時間が短すぎると炭化表面層の厚さが小さく、長すぎると内部まで炭化が進み機械的強度が低下してしまう。高温浴の温度が低いと炭化速度が小さく、温度が高すぎるとクラックが発生する場合がある。望ましい接触時間と浴温度は、木材の材質、及び太さ、厚さ等の形状により異なるが、接触時間は15秒〜120分、浴温度は約240〜450℃の範囲が適当である。更に望ましい範囲は280℃〜380℃である。この温度範囲において、クラックが発生しない状態で炭化深さを大きくすることができ、また表面を指で擦っても黒い粉が取れにくい。
溶融金属方式によれば、炭化は高温溶融金属浴中或いは溶融金属に接触された状態で行われるので、空気(酸素)からほぼ遮断された状態で炭化される。従って、表面に図1のようなクラックが発生しないで均一に炭化される理由は、被炭化中の表面が溶融金属によって塞がれているので、木材中の熱分解による揮発可能成分の揮発が防止され、その結果表面層の体積が減少しにくいためであると考えられる。更に、揮発分が表面層内の道管、仮道管等の内壁に付着し、更に壁孔を通して内部にも閉じ込められる。その結果、空気中炭化であれば外に揮発或いは燃焼する成分が表面層及び更に深い部分に残るので、いわゆるタール分が表面層及び更に深い部分に多く存在し、表面層及び更に深い部分の空隙を一層小さくするので防湿性が高く、風雨に曝された場合の劣化防止に有利になる。又、タール分が表面層に多く存在するので、防蟻性、防腐性にとっても有利である。空気中で火炎炭化される場合は、これらの揮発成分、タール分等は容易に燃焼してしまうか、揮発してしまうのである。
溶融金属方式においても、溶融金属の温度が高すぎたり、溶融金属と木材との接触時間が長すぎると、クラックが発生することがある。前述の望ましい温度範囲及び接触時間はこのような観点から決められたのである。図4は杉辺材ブロック(断面16×20mm、長さ30mm)を、20×30mmの面を下にして450℃の熔融スズの浴に約8mmの深さに2分間浸漬した後に、表面に形成されているクラックを示す写真(図4(a))と、クラックの断面顕微鏡写真(図4(b))である。ガスバーナーにより発生したクラック(図1)とは外観が全く異なっている。断面顕微鏡写真から明らかなように、クラックは炭化層の浅い部分にしか到達していない。
溶融金属方式によれば、実施例1に記載されているようにクラックが発生しない状態で炭化される層の厚さを約0.5〜10数mm程度に容易にコントロールすることができる。従って、炭化による木材強度の低下は無視できる程度に小さくすることができる。この理由は下記のように考えられる。柱、梁、土台等の構造材として使われる木材は、通常かなり太いものである。柱の場合、断面の一辺は通常10.5〜12cmである。このように太い木材は、その表面層が炭化されてその部分の機械的強度が小さくなっても、その内側は元の木材の強度を有する。例えば、12cm角の木材で、炭化表面層の厚さが(木材の太さ方向)2mmの場合、炭化する前の木材の断面積の約3.3%が炭化され、炭化する前の木材断面の約96.7%が元の木材強度を有することになる。木材が構造材として用いられない場合は、木材の全断面積に対して炭化層の断面積を更に大きくしても構わない。柱の場合、表面に黒色の炭化層が露出するのを避けたいなら、炭化層の上に薄い木材を貼り付けることもできる。構造材でない場合、例えば、合板ならば炭化した板を内部に積層し、表面には炭化層が露出しないようにしてもよい。また、板の一面のみ炭化し、炭化層が表側にならないように(直接見えないように)使用することもできる。LVL、CLT材の場合も、同様に炭化層を有する板を内部に積層することもできる。
本発明の溶融金属方式では、木材を溶融金属の浴に浸漬した場合、木材が丸棒であれば表面から内部に向かって同心円状に炭化されていくが、木材が角材の場合は同心角状には炭化されない。この理由は角材の角部では、角の両側の面から熱が加わるので平面部よりも強く加熱されるためである。その結果、炭化後の角材の断面には、同心角状と同心円状の中間的な、角が丸みを帯びた炭化層が形成されるのである。この現象は電気炉で木材を加熱炭化する場合も同様である。このような現象が起こると、角材の角部の炭化度が側面部よりも進んでいるので、機械的に弱くなるのがこの方法の欠点である。また、角材内部の非炭化部の面積が小さくなるので、角材の機械的強度も小さくなる欠点がある。角材が非常に太い場合はこのような現象はあまり問題にならない。本発明においては、一つの面だけを加熱することができるので、このような問題は起こさないようにすることができる。
溶融金属方式において、上記のような問題を避ける方法として、例えば角材を横にして角材の自重により溶融金属の浴面に浮かせて任意の時間加熱炭化し、次いで角材を転がして隣の面が下になるように浮かせて任意の時間加熱炭化する。このようにして次々に別の面を加熱炭化するのである。角材の自重により、角材は溶融金属の浴に少しだけ沈むので、角材の面は一様に加熱され、角部がより強く加熱されることが極めて少なくなるのである。
溶融金属方式により製作された炭化木材の表面に、ごく稀ではあるがタール分が析出してベタつきが生ずることがある。そのような場合、表面のタール分を除去するために、タール分を溶解する有機溶剤で洗い流すことができる。また、表面を短時間(数秒程度)ガスバーナー等の強い火炎で燃焼除去することができる。長時間火炎に曝すと、焼杉の場合のように表面にクラックが発生するので、2〜3秒程度にするのがよい。表面に塗料を塗布して、ベタつきを防ぐことも可能である。
溶融金属方式により製作された炭化木材を、実際に工事或いは建築の現場で使用する場合、例えばのこぎりで必要な長さに切断することがある。切断面は炭化されていないので、その部分が露出した状態になると、そこから木材の劣化が始まってしまう恐れがある。そこで、そのような場合、本発明の他の方式である熱風或いは赤外線方式により、露出した切断面を炭化することができる。
溶融金属方式によって表面層を炭化する場合、木材の表面に割れ、ささくれ、或いは窪みがあったりすると、溶融金属槽から表面層炭化された木材を引き上げる際に、上記の割れ目や、ささくれ部、窪みに溶融金属が入り込んで残る恐れがある。このような現象を抑えるために、木材が炭化処理される前に、表面をカンナがけ、研摩等により平滑にしておくことが望ましい。また、炭化された木材を溶融金属槽から引き上げる際に、金属の溶融温度以上の高温高圧気体を吹きつけて付着している溶融金属を除去することもできる。溶融金属浴の表面には金属の酸化膜やスラグが存在するので、これらが炭化された木材の表面に付着していることもある。このような場合、冷却後に高圧エアージェットで吹き飛ばすことも可能である。また、刷毛で擦って落とすこともできる。その他適当な方法で除去することができる。木材表面にヤニが存在すると、金属酸化膜やスラグが付着し易いので、木材はあらかじめいわゆる脱脂処理されていることが望ましい。
溶融金属の表面が空気に長時間曝されていると、特に溶融温度が高いほど、表面が酸化されて金属酸化物が形成される。その結果、溶融金属浴面に酸化物の膜ができる。又、木材を溶融金属浴に浸漬或いは接触すると、メカニズムは不明であるがスラグ状のものが発生する。酸化膜やこのスラグ状のものを含めて、いわゆるスラグが溶融金属浴表面に溜まる。そこで、必要に応じて浴面からそのスラグを除去することが望ましい。スラグを浴槽の端の方に追いやってもよい。溶融金属槽の下部から溶融金属を送り込み、浴槽の一部から溶融金属が溢れる構造とし、浴面に発生したスラグが常に浴槽外に流れだすようにすることもできる。浴槽の上部から、常に溶融金属が溢れ出るようにしておき、その液面に木材が接触するようにしながら、木材をスライドさせて炭化することもできる。
溶融金属浴面に金属酸化物が発生しないようにするため、溶融金属浴面を不活性ガスで覆ってもよい。例えば、溶融金属浴槽を密閉室内に配置し、その室内に窒素ガスを送ることによって、窒素ガス雰囲気にすることができる。
木材は通常10%以上の含水率を有しており、木材を溶融金属浴に浸漬或いは接触すると、木材中の水分が加熱されて水蒸気ガスとして木材から揮発し、金属浴の中を上昇して浴面から吹き出す。この際、溶融金属が、噴出するガスに押し上げられて微小な金属液滴となって飛散する現象が発生することがある。特に道管或いは仮道管が露出している場合、そこからのガス噴出が激しいので道管或いは仮道管の露出部が溶融金属層の深い所にあると、溶融金属の飛散が激しくなる。この現象を軽減ないし防止するために、あらかじめ木材を脱水処理しておくことが有効である。
木材中の水分が完全に除去されても、高温浴により加熱された木材中のミクロフィブリルやリグニンが熱分解され、分解された成分の一部が木材からガスとして揮発し、水蒸気ガスと同じように高温浴面から噴出して金属を飛散させる。高温浴槽が木材サイズに比べて十分に大きければ、溶融金属が飛散しても、浴槽の外に飛び出す恐れはない。しかし、溶融金属が飛散すると、空気との接触面積が増大するので、金属酸化物が多く発生する恐れがある。これら2つの問題を解決する簡便な方法として、溶融金属浴面に溶融金属の飛散防止材として、溶融金属より比重が小さく、溶融金属に溶けずまた溶融金属と反応しない微小な物質例えば微小なガラスビーズの層を設けることが有効である。木材から発生するガスは浴面から噴出する際、金属を飛散させようとするが、浴面上部にガラスビーズの層があると、金属の飛散は防止される。ガスはガラスビーズの間隙を通って空気中に出て行く。
飛散防止材の存在は溶融金属の表面酸化を軽減する効果もある。ガラスビーズのサイズは約1mm〜約5mm径が適当である。小さすぎると木材を浴から引き上げる際に、炭化された木材表面に付着しやすくなる。サイズが大きすぎると、隙間から金属が飛散する恐れが有る他に、金属の酸化防止効果が小さくなる。ビーズのサイズは均一である必要はなく、分布を有していてもよい。ビーズ層の厚さは、約5mm〜20mmが適当である。ビーズ層の厚さが小さいと、金属の飛散防止及び酸化防止の効果が小さくなる。厚すぎるのは無駄である。ビーズとしてはガラスビーズ、シリカビーズ、アルミナビーズ等を利用することができる。ビーズのように球体でなくても顆粒状、棒状、平板状のもので、高温で安定な材質のものであれば使用可能である。これらのもののサイズは上記のビーズと同程度であればよい。
溶融金属浴に浸漬される部分の木材をアルミ箔でカバーしてから浸漬すると、木材から発生した揮発成分が溶融金属に接触する割合が大幅に減少し、スラグの発生を著しく低減できる。アルミ箔の合わせ目部分から揮発成分が溶融金属浴内で漏れることがあっても、木材が直接溶融金属浴に浸漬される場合より遥かにスラグの発生は少ない。
通常、木材は長さ方向が道管或いは仮道管の方向と一致しており、木材の両端面(切り口)は道管或いは仮道管の方向に対して直角である。木材が高温に加熱されて熱分解により発生したガスは、道管或いは仮道管の方向には流れやすく、それと直角の方向には流れにくい。従って、木材を溶融金属浴に浸漬すると、木材の端面(切り口)からは激しくガスがでるが、木材の他の表面からは発生が少ないのである。その結果、木材の端面は炭化されにくいことがある。木材の端面以外の表面が十分に炭化されているのに、端面が炭化不足の場合、端面のみを追加で炭化するのが望ましい。追加の炭化が必要な場合は、本発明の熱風或いは赤外線方式が適している。
熱分解成分の揮発を防止する方法Aの一つである熱板方式では、熱板として金属板例えばいわゆるホットプレートとして知られている加熱装置が一般的であるが、それに類するものも使用できる。熱溶融している金属の代わりに熱板が使用されるので、温度条件も熱溶融金属の場合と殆ど同じである。炭化される木材の形状に応じて、平板状、レール状、アングル状、曲面状等の熱板の使用が可能である。例えば杭の如き円柱状の木材を加熱する場合は、筒状の加熱炉が適している。この場合、炉壁と木材とのギャップを出来るだけ小さくすることが望ましい。筒状加熱炉を長さ方向に平行に2分割し、木材を挿入し易いようにしておき、挿入後に合体させて筒状にしてもよい。2分割加熱炉を蝶板で結合しておくのが便利である。熱板は金属板の表面が耐熱性保護膜で覆われたものでもよい。熱板は十分な熱容量を持っているか、常にエネルギーが供給されて表面温度が維持されることが望ましい。例えばニクロム線の如き通電発熱体と温度制御機構を内蔵した熱板装置が利用できる。また、熱伝導性の大きな熱板であることが望ましい。アルミ箔、銅箔のような薄い金属箔でも金属板と同様に使用できる。例えばアルミ箔で木材表面をカバーし、その上から熱風を吹き付けながらアルミ箔の温度を高温に保つこともできる。金属板、金属箔等を赤外線で加熱して熱板とする場合、赤外線を反射しないように少なくとも表面が黒色の如く赤外線を吸収する色に処理されていることが望ましい。
熱板へのエネルギー供給方法は上記の方法以外に、木材やオイルの燃焼熱を利用することもできる。例えば、廃木材や間伐材の枝等を燃焼室で燃焼させ、燃焼室の上壁を平坦な鉄板にしておき、この鉄板を熱板とすることができる。このようにすれば、廃木材や間伐材の有効利用になるばかりでなく、環境にも有益である。
熱板へのエネルギー供給方法として、熱熔融状態の熔融金属を利用することもできる。例えば、熱熔融金属浴の上に金属板を載せ、この金属板を熱板として使うことができる。金属板の代わりにアルミ箔を浮かべ、その上に木材を置いても同様に加熱することができる。図5は熔融金属浴の上にアルミ箔を浮かべ、その上に木材を載せ木材の上に力を加えて木材を少し沈ませた状態の即断面図である。図5において、1は木材、2はアルミ箔、4は熔融状態の金属浴、5は金属浴の容器である。木材1の上に力6を加えると、木材1はアルミ箔2を変形させて浴中に少し沈む。即ち金属浴に木材を載せたアルミ箔のボートが浮かんでいるような状態である。木材の自重が大きい場合は上から力を加えなくとも木材は少し沈む。浴中のアルミ箔は、金属浴の浮力により浴中の木材の下部の周辺部末端において上方に折れ曲り、木材下部の周辺部末端に密接するため、熱分解成分の揮発が抑制される。これによって末端の炭化部のクラック発生が抑制される。アルミ箔の使用は極めて簡便で有効である。木材のコーナー部のアルミ箔にしわができることもあるが、木材の下面及び側面に接するアルミ箔は完全に平坦になり、炭化への影響はない。
熱板方式では、熱板と木材が接触されるが、木材の表面は一般に粗面であるので、熱板と木材の間には空気層が存在している。溶融金属方式では、溶融金属が自由に変形可能なので、木材表面が粗面であっても木材と溶融金属との間には空気層が存在しない。従って、熱板方式の場合は、木材の表面層炭化のされ方が溶融金属を使用する場合とかなり異なるであろうと推測された。ところが、驚くべきことに殆ど同じように炭化されたのである。木材と熱板は接触しているので、加熱により木材から発生した揮発成分が自由に木材表面から逃げることが防止され、木材内部に閉じ込められるのだと推測される。
熱板方式では、通常熱板は平板状なので、木材の一つの面しか加熱できない。一つの面の加熱が終了したら次の面の加熱が行われる。複数の面を同時に加熱するためには、それに適した形状の熱板を準備しなければならない。例えば、相隣る2つの面を同時に加熱するためには、アングル状の熱板が必要になる。アングル状の熱板で加熱すると角部の炭化が優先的に進む問題が発生するが、アングルの角部にスリット状の隙間を設けることによりこの問題を解決することができる。角材状の木材表面層を炭化する場合、2枚の熱板でサンドイッチした状態で加熱すると、2つの面を同時に炭化することができる。平板状の熱板で木材の一つの面を加熱する場合は、溶融金属方式で木材を浴面に浮かして加熱するのと殆ど同じ効果と結果が得られる。
炭化される木材と熱板とは、接触した状態で保持されて静止していてもよいが、木材と熱板とが接触した状態で相対的にスライドするように移動させてもよい。例えば、熱板の上に木材を載せ、熱板は固定しておいて、木材を熱板の上で、設定した時間接触させつつスライドするように移動させてもよい。温度の違う、或いは同一温度の熱板を複数個並べて配置し、それらの上で木材を順次スライドしながら移動するようにしてもよい。
熱板或いは溶融金属で木材表面を加熱炭化する前に、木材表面に赤外線を照射するか、或いは熱風を吹き付けて加熱することによって、木材表面を予備炭化することができる。この場合、予備炭化の段階で、木材表面にクラックが発生しない条件で加熱することが必要である。
次に熱分解成分の揮発を防止する方法Bについて説明する。その方法に使用される気体不透過性部材としては、ガラス板、石英板、セラミック板等の赤外線透過性で且つ気体を透過させない部材である。赤外線とは、遠赤外線、近赤外線の一部、可視光線の一部をも含むが、主として近赤外線或いは/及び遠赤外線を含む赤外線のことである。本発明に好適な遠赤外線光源の具体例として、石英ガラス管ヒーターが挙げられる。家庭用、工業用として広く使用されており、比較的安価に入手可能である。以下この方法Bを赤外線方式とも記載する。赤外線を木材表面に照射すると、木材表面の温度はいくらでも上昇していく。この点が前記の溶融金属、熱板、熱風による加熱方式と大きく異なる点である。溶融金属、熱板、熱風による加熱では木材表面の温度は、これらの熱源の温度より上昇することは無いが、赤外線の場合はエネルギーが木材表面に加速度的に蓄積されて温度が上昇していく。そこで木材表面の温度が450℃を超えないように、赤外線の放射エネルギー或いは照射時間を制御することが必要である。
赤外線を木材に照射すると木材が焦げることは非特許文献3からも明らかであるが、非特許文献3にはクラックについての記載が無い。赤外線発生源(ヒーター、ランプ等)のエネルギー強度、発生源から木材までの距離、照射時間等を適当に選ぶことにより、木材表面の温度を450℃以下に保ちながら加熱すればクラックが発生しないことを見つけた。また、木材表面に石英板、ガラス板等の気体不透過性透明部材を密着して覆い、これを通して照射することにより、クラックが発生せずに表面から内部に向かって溶融金属方式や熱板方式と同程度に炭化できる。
炭化される木材と透明部材(ガラス板、石英板等)とを相対的に移動させてもよい。例えば、赤外線ランプを固定して配置し、その下方に配置された透明部材の下面に接触させながら、搬送装置の上に載せた木材をスライドさせてもよい。この場合、木材表面の荒れや凹凸に対応させるために、透明部材が上下に可動できるようにしておくのが望ましい。木材の上に透明部材が置かれた状態で、木材と透明部材を一緒に移動させてもよい。木材の上に透明部材を載せ、その上方に赤外線ランプを配置し、赤外線ランプを移動させることもできる。
木材と赤外線ランプが、上記と上下が逆の関係になってもよい。この場合、木材の炭化される面に、透明部材が接触するように配置される。また、複数本の赤外線ランプを配置してもよい。後述の実施例4から明らかなように、透明部材が配置されると、透明部材が無い場合に比べて炭化速度が低下している。従って、クラックの発生が起こらない範囲で、透明部材を配置しない状態で炭化し(0060項で述べた予備炭化と同様である)、その部分を通過してから透明部材を配置してもよい。例えば、複数本の赤外線ランプを平行に配置し、初めの1本〜複数本は、透明部材を配置せずに木材の被炭化面を照射し、次の1〜複数本は、木材の被炭化面に透明部材を接触させた状態で、木材の被炭化面を照射するように配置してもよい。このように配置することによって、炭化の効率を上げることが可能である。木材に赤外線を照射して予備炭化する代わりに、熱風を吹き付けて予備炭化してもよい。
上記のように、木材と透明部材或いは熱板を相対的にスライドさせる場合に共通して言えることであるが、木材の先端が、熱板或いは透明部材の端部に到達する際に、木材の先端が熱板或いは透明部材の端部に衝突して移動が妨害される恐れがある。これを避けるために、木材の先端と出会う熱板或いは透明部材の端部は、テーパー状に加工されていることが望ましい。
次に熱分解成分の揮発を防止する方法Cについて述べる。その方法は、水ガラスを表面層に含浸させた木材を使用することが基本である。本発明に使用される水ガラスとして、例えば1号珪酸ナトリウム溶液(例えば水ガラス1号)を使用する場合、これを原液(非常に粘稠な流体)として水で希釈して、ケイ酸ナトリウムの重量が約20〜60%の水溶液として使用することが好ましい。20%以下だと水ガラスの効果が小さく、60%以上だと木材表面に水ガラスの膜が形成されやすい。単位面積当たりの含浸量で表現すると15g/m2〜80g/m2の範囲が好ましい。水ガラスを木材に供給する方法は、公知の塗布法、水ガラス水溶液に木材を浸漬後に引き上げて乾燥する方法等適当な方法を用いることができる。水ガラスの使用は本発明の課題を解決するためのA及びBの方法においても適用することができる。
本発明において、木材に含浸させる水ガラスの量は、水ガラス水溶液を適当な方法により木材に供給し、乾燥後に木材表面に水ガラスの膜が形成されない程度であることが望ましい。具体的には水ガラス水溶液の水ガラスの割合が大きい場合、木材表面に水ガラスの膜が形成される。水ガラスの割合が小さくても、複数回の塗布により木材表面に水ガラスの膜が形成される。水ガラスの膜が明確に形成されると、本発明方法により加熱した際に、木材表面の水ガラス膜が発泡して白い発泡膜が形成される。この現象は加熱温度が高い時に特に顕著である。このような発泡現象が発生しても、加熱を続けていくと発泡膜で覆われた木材は炭化されるので、炭化の妨害にはならない。木材の炭化が進むにつれて、初め白かった発泡膜は次第に黒化していき、冷却後にスポンジやブラシで擦るだけで簡単に除去することができる。従って、形成される炭化層には悪影響は無いのであるが、取扱い上面倒なのでこのような現象が起こらないようにすることが望ましい。
本発明の課題を解決する第2の方法は、木材或いは木質材料の炭化される領域の表面に、280℃〜480℃の温度の熱風を吹き付けることにより、前記領域をその表面から内部に向かって必要な深さ即ち希望の深さに炭化することである。この第2の方法を以後熱風方式と記載する。本発明者は、高温溶融金属と同程度の温度の熱風を木材表面に吹き付けることにより、高温溶融金属の場合と同程度の厚さのクラックが無い炭化層が得られるのではないかと推測し、実施してみたところ溶融金属の場合ほど厚い炭化層は得られなかったが、ガスバーナーの火炎による場合より遥かに厚い炭化層が得られることを発見した。火炎の温度は1000℃前後も有り、短時間の処理の間にクラックが発生してしまうのである。クラックが発生しない程度の短時間処理では、炭化層の厚さは極めて小さく、ごく表面に近い層のみしか炭化されないのである。ところが、480℃以下の熱風であれば、熱風の温度と吹き付け時間を制御することにより、クラックの発生無しに3mm程度の厚さに炭化できる。溶融金属方式や熱板方式と比較して、クラックが発生しない範囲で得られる炭化層の厚さは小さいが、用途によってはそれでも十分である。
熱風による炭化の場合であっても、熱風の温度が高く、吹き付けている時間が長くなると、ガスバーナーの場合と類似のクラックが発生する。図6はエゾ松(厚さ14mm、幅45mm、長さ58mm)を、ヒートガン(熱風温度480℃)で2分間加熱、炭化したサンプルの写真である。写真(a)はクラックが多数発生した表面の写真、写真(b)はその中の1本のクラック近傍の断面顕微鏡写真である。このように熱風でも高温になると短時間の吹き付けでも、ガスバーナーによる炭化と同様にクラックが発生するが、熱風炭化とガスバーナー炭化では断面の形状が大きく違っていることが分かる。図2のクラック断面周辺は窪んでいるが、図6のクラック断面周辺は逆に膨らんでいる。このような相違が起こる理由は、ガスバーナー方式では燃焼が起こるが、熱風方式では燃焼が起こらないためであると推測される。
ガスバーナーによる火炎処理も、熱風吹付けによる処理も空気中で行われるので、熱分解した木材中の揮発成分が酸化(燃焼)してクラックが発生し易い可能性があると考えられたので、炭酸ガスの熱風で処理したところ、空気の熱風処理と殆ど差が無いことが確認された。図7は空気の熱風と炭酸ガスの熱風によるエゾ松(厚さ14mm、幅45mm、長さ57mm)の炭化結果を比較した写真である。写真(a)は空気熱風により炭化されたサンプル、写真(b)は炭酸ガス熱風により炭化されたサンプルの写真である。両者の熱風の温度(480℃)と吹付け時間(60秒)は全く同じである。図7から分かるように、空気でも炭酸ガスでも炭化状況に殆ど相違が無いことが確認された。従って、熱分解した成分の揮発が防止されていることが、溶融金属や熱板による炭化処理の重要な条件であることが分かる。熱風方式においても、例えば表面に金属板或いは金属泊を置き、その上から熱風を吹き付けると、金属板或いは金属箔が高温になり熱板方式と同様に炭化できることも確認された。木材を金属箔或いは薄い金属板でカバーしその上から熱風を吹き付ける方法は、実用的で非常に有効である。金属箔で木材をカバーし、その上から熱風を吹き付ける方法は、特に現場での作業に好都合である。
熱分解した木材の揮発性成分の揮発を、木材の表面を覆っている溶融金属或いは熱板が防止しているという上記の推測が正しければ、木材の表面に樹脂(塗料、接着剤等も含む)や無機物(水ガラス、ポリシロキサン等)の薄膜を形成した後に、熱風を吹き付けて炭化処理を行うことが有利であると推測される。樹脂系の薄膜であれば、熱風により薄膜自体も炭化されるが、薄膜の炭化膜が揮発成分の透過を防止できれば推測が正しいことになる。水ガラスやポリシロキサンは炭化されないが、木材の表面層に含浸されて揮発成分の透過を防止すると期待される。
そこで具体例として、市販の塗料(固形主成分がアクリル樹脂のクリヤーラッカー)、市販の水溶性接着剤(主成分はポリビニルアルコール)を乾燥厚さが20〜30μmになるように、杉材(厚さ5mm、幅14mm)に塗布し、乾燥後に熱風を吹き付けてクラックの発生状況を確認した。いずれの場合も塗膜が有る方が、クラックが発生しにくいことが確認された。しかし、その効果は僅かであり、塗膜無しで2分間の加熱でクラックが発生したものが、塗膜を設けることにより2分30秒でクラックが発生するという程度の改善であった。塗膜が薄いので揮発成分が通過したのであると考えられる。次いで、市販の水ガラス水溶液を表面層に含浸させたところ、クラックが発生しにくく、且つ炭化深さも大きくできることが確認された。水ガラス成分が揮発成分の揮発を防止したのであると考えられる(実施例7参照)。更に、炭化後の表面を指で擦った場合、黒い粉が指に殆ど付着しなくなることも確認された。これらの事実は本発明の一つの特徴である。水ガラスの他に、市販のポリシロキサンを木材の表面層に含浸させても同様の効果があることが判明したが、水ガラスの効果の方が遥かに大きいことが確認された。更に、コスト的にも水ガラスの方が圧倒的に有利である。水ガラスの効果は以上のようにして発見された。
溶融金属或いは熱板と、熱風では、熱容量、熱伝導等が違うので、溶融金属或いは熱板の方が炭化能力が大きい。溶融金属或いは熱板による炭化では、240〜280℃の温度範囲でも数分間〜数10分間の加熱で十分な炭化の度合い(黒化度)と炭化の深さが得られるのに対し、熱風による加熱では、この温度範囲では前記の時間範囲の加熱で殆ど着色されないか、薄く着色される程度である。熱風を吹き付ける速度を大きくするほど炭化の度合いも大きくなることが確認されたが、この温度範囲では実用的な吹付け速度(風速)では十分に炭化できないことが判明した。熱風の温度範囲は280〜480℃が望ましい。更に望ましくは300〜400℃の範囲である。280℃以下の温度の熱風では、表面層を炭化するのに非常に長時間を必要とするので非現実的である。480℃以上では10秒前後でクラックが発生し、しかも炭化深さが小さいので実用的ではない。
従来から電気炉、加熱炉等で木材を熱処理することは実施されているが、炉内の空気は静止或いは撹拌ないし循環されている程度である。本発明の熱風方式による炭化では従来よりも高い温度範囲でしかも吹付けていることが特徴である。従来の木材の熱処理では、木材の内部まで処理することが目的であり、長時間をかけて木材の全表面を同時に加熱していた。これに対し、本発明では従来よりも高温の熱風を木材の一部(一つの面)に吹き付けることが特徴である。そのために熱風を高速で吹き付けることは極めて重要である。静止ないし循環程度の雰囲気では、表面層を十分に炭化しようとすると内部深くまで弱く炭化され、その結果木材の機械的強度が低下してしまうのである。ある程度以上の風速で吹き付けることにより、内部深くまで炭化されずに表面層を十分に炭化することができるのである。比較例2および比較例3を参照することにより、この相違を容易に理解することができる。
上述のように本発明の熱風方式では熱風の風速が極めて重要である。望ましい風速の範囲は毎秒4m以上、更に望ましくは毎秒6m以上である。上限は熱風装置或いは周囲の環境により制限される。現実的には毎秒15〜20mの風速が上限である。木材に熱風を吹き付ける向きは、木材の表面に対してほぼ直角から30度程度の範囲が望ましい。この角度がこの範囲を超えて大きくなるほど、木材を加熱する効率が悪くなる。
熱風発生装置としては市販のいわゆるヒートガンがあげられる。市販のヒートガンは手軽に入手でき、使用方法も簡単であるが、熱風の温度、風量等が必ずしも十分ではないことがある。木材の小さな面積とか、板や柱の切断面を炭化するには十分であるが、広い面積を炭化するのには能力が不足である。そのような場合には、大容量の熱源を用いて熱交換器を加熱し、加熱された熱交換器を通過した熱風を利用することができる。大容量の熱源としては、発熱量の大きな電熱ヒーター、ガスバーナー、オイルバーナー等がある。この大容量の熱源で熱交換器を加熱し、加熱された熱交換器を通過した熱風を吹き付けるのである。ガスバーナーであれば、コンパクトで大容量の炭化装置が可能である。エネルギーを節約するために、吹付けに使用された熱風を回収し、再び熱交換器を通過させることもできる。
以上に本発明の各種方式について説明したが、これらの方式と従来方式の特徴とをまとめたのが表1である。表1には水ガラスの効果は含まれていない。表1から明らかなように、溶融金属方式、熱板方式、赤外線方式(赤外線透過性で気体不透過性部材有りの場合)及びガスバーナー(木材の上に金属板を載せ、金属板にガスバーナー炎放射)による結果は酷似している。これに対して、大気中に露出している木材に、熱風方式と赤外線方式で炭化を行う場合は全く違う特徴を有している。気体不透過性部材が接触している方式ではクラックの発生無しに大きな厚さの炭化層(炭化深さ)を得ることが可能であるが、気体不透過性部材が接触していない方式では、クラックが発生しない条件では小さな厚さの炭化層しか得られない。
以上に説明した本発明の各方法において、木材の端部(コーナー、エッジ、縁、稜を含む)が優先的に炭化され、その結果面内より先にクラックが発生する傾向があるので、それを防止するために端部を金属薄板、金属箔等でカバーすることが有効である。例えば、熱板方式の具体例として、熱板の上に木材の角材を置いて加熱する場合、角材と熱板の接触部の角材の4辺(全周)から揮発成分が煙となって上昇する。揮発成分が空間に速やかに連続的に逃げることは、クラックの発生を促進することになるので、角材全体を金属箔例えばアルミ箔で被覆するか、或いは少なくとも木材の端部とその近傍の熱板と接触する面と側面を被覆するとよい。
図8は角材の熱板に面する表面の端部の4辺(角部)をアルミ箔でカバーする具体例を示す側断面図である。図8において、1は角材、2はアルミ箔、3は熱板である。図ではアルミ箔の厚さが誇張して描がれているが、実際の厚さは13〜17μ程度である。驚いたことに木材1と熱板3が接触しておらず、これだけの微小間隙があってもよいことが判明した。その理由は角材1の周囲がアルミ箔2で覆われているので熱分解成分がこの間隙内に閉じ込められるからであると考えられる。上記のように熱板と対面する角材の周囲をアルミ箔でカバーすることにより、角材の端部が面内より先にクラックを発生することが防止される。角材1と熱板3との間には微小間隔が存在するが、アルミ箔が存在する部分とは炭化の度合いに差が無いことが確認された。この間隙がどれだけ大きくなっても炭化の度合いに影響が無いかを確認するため、アルミ箔を複数枚重ねて実験を繰り返し、約0.3mmまでは影響が無いことを確認した。アルミ箔ではなく0.3mm以下の金属板でもよい。このように大きな間隙が存在しても、熱分解成分の揮発を防止できるのである。角材と熱板との間隙が0.3mmを超えると、アルミ箔で被覆されていない部分の炭化の度合いが低下することが認められた。実際にはアルミ箔2と角材1との間に微小な間隙が存在し、熱分解成分の一部はこの間隙を通って揮発するが、揮発の防止効果は存在しているのである。
実際に木材特に板の表面層炭化を行う場合は、木材のサイズについて注意が必要である。板の短辺が10cm程度以上になる場合、片面のみ強く炭化すると炭化部が熱収縮するので、炭化面が凹になるようにカールすることがある。そこで、両面を交互に炭化するのが望ましい。また、両面を同時に短時間加熱した後しばらく放置冷却し、再び両側から加熱をするという方法を繰り返せばカールを防ぐことができる。板の厚さが小さい場合は特に注意が必要である。板が非常に厚い場合或いは太い角材の場合にはこのような注意は不要である。
本発明方法によれば、上記のように従来の方法より遥かに優れた炭化層を有する木材が得られる。しかし、炭化された表面層には道管、仮道管、壁孔、その他木材に由来する微小な孔が多数残っているので、長年月に亘って風雨を完全に遮断することは困難である。そこで、本発明方法により得られた炭化層に、適当な材料を塗布或いは含浸させて諸特性を一層長期間維持できるようにすることも有効である。この目的のためには、公知の諸技術を利用することができる。例えば、水ガラスを含浸させる方法、特許文献2に記載の樹脂を塗布或いは含浸させる方法等を利用することができる。又、本発明方法により得られる表面層炭化された木材は、茶色〜黒色の色合いを有するが、これらの色以外の外観を希望する場合は、希望の色に塗装着色してもよい。炭化層の機械的強度を上げたい場合(例えば指で強く擦ると黒い粉が指にとれてくるのを防止したい場合)は、表面を塗装することによりその欠点を解決することができる。
本発明は木材に限定されるものではなく、一般に木質材料と呼ばれるものにも適用できる。木質材料として合板、集成材、OSB、パーティクルボード(特にMDFが好適)、LVL、CLT、圧縮木材等が含まれる。高温高圧水蒸気で圧縮された木材は、元の木材の1/2〜1/3に圧縮され、その外観は高級感のある褐色に変化し、耐久性、防腐性等が向上することが知られている。この圧縮木材に本発明方法を適用すると、一層防腐性、防蟻性等を高めることができる。
本発明の溶融金属方式の一つの応用例として、極めて短時間で木炭を製造することが挙げられる。具体例として、直径20mmの樫の棒を400℃の溶融スズ浴に5分間浸漬したところ、棒の中心までほぼ炭化された。表面にはかなりクラックが発生しているが、木炭としては問題ない。従来の木炭製造方法では、林業試験場「木材工業ハンドブック」によると400℃での木炭収率は30%とされている。それに対して本具体例(5分浸漬)では55.9%であった。400℃の溶融スズに12分間浸漬し、完全に気化ガスが発生しなくなった時点での棒の色は真黒で収率は33%となり、上記ハンドブックの値とほぼ同じになった。わずか12分で木炭が完成するメリットがある。
以下に本発明の実施例を記載する。以下の実施例では、木材と熱板との間、木材と熱風との間、及び木材と赤外線との間に相対運動が無い状態が記載されているが、これらの間に相対運動が有ってもよい。例えば、回転する熱ロールの上を木材が移動する系でもよい。また、木材の上を熱ロールが回転しながら移動してもよい。この際、熱ロールは複数個であってもよい。平板状の熱板の上をロール状の木材を転がしながら加熱することも可能である。これらの場合、木材と加熱部材との接触部の幅が小さく、熱分解揮発成分が容易に揮発するので、木材の加熱される面が気体不透過性の部材、例えばアルミ箔で覆われているのが望ましい。ローラが回転しながら移動する他に、熱分解成分の揮発防止部材と木材とがスライドして相対移動してもよい。また、移動する木材に熱風を吹き付けながら、或いは赤外線を照射しながら相対移動させてもよい。
図9は溶融金属方式において、溶融金属としてスズを用いた場合の熔融温度と加熱時間を変化させて作成したサンプルの炭化された側の表面写真である。木材として、縦20mm、横(仮道管方向)30mm、高さ16mmの杉辺材を使用した。スズはステンレス製のバットに入れ、バットをガスコンロの上に載せてコンロの火力を調節して熔融スズの温度を調整した。熔融したスズの深さが50mm程度になるようにスズを熔解した。角材をステンレス製のトングで咥えて角材が熔融スズの中に表面から、高さ方向の約10mm程度浸漬するように保持した。熔融スズに浸漬されている部分の角材の表面にはスラグが発生するので、15秒に1回程度の頻度で浸漬した状態で場所を変えたり、角材を持ち上げてスラグの無い場所に浸漬したりした。全体の浸漬時間が30秒以下の短い場合は、5秒に1回程度の頻度で上記の場所替えを実施した。図9には本発明の範囲外の温度で作成したサンプルの写真も表示した。450℃を超えた加熱処理では1分で顕著なクラックが発生し、しかも表面を指で軽く擦るだけで黒い粉が付着し、また、炭化層の厚さは2mm以下と小さいことが判明したので、本発明の加熱温度範囲を450℃以下とした。
表2は、図9のサンプル作成と同様にして熔融スズへの浸漬時間を更に長くした場合に炭化の深さがどのように変化するかを測定した結果を示す。各サンプルは天然物であり、バラつきがあるので各温度と時間に対応するサンプルを3個ずつ作成し、3個の炭化深さを記入した。溶融金属の温度を240℃から420℃の範囲で、浸漬時間を40分までの範囲内でサンプルを作成した。炭化後の各サンプルの縦の長さ20mmの中央部を仮道管に対して平行な方向に鋭利なナイフ(カッターナイフ)で縦割りし、その断面を顕微鏡で観測しながら炭化層の深さを測定した。カッターナイフで縦割りした面が荒れている場合は、カンナがけして平滑な見やすい面にしてから観測した。表2の中で×印は、その温度と時間でクラックが発生したことを示す。
図10は、表2の各温度と浸漬時間における3個のサンプルの炭化深さの平均値をプロットしたグラフである。340℃より低い熔融温度では、40分までしか測定していないが、浸漬時間を更に増加することにより、炭化深さを15mm前後まで増大させることが、実施例2の熱板方式の結果から明らかである。340℃では20分の浸漬でクラックが発生しないが、25分の浸漬時間ではクラックが発生したので、グラフは340℃、20分のポイントで止まっている。図10において、グラフの点線で表示されている部分は、木材表面層に水ガラスが含浸されている場合に、360℃で加熱したデータである。これについては実施例7で詳細に記載されている。
表3は、木材として縦20mm、横(仮道管方向)30mm、高さ16mmの杉辺材を使用し、熱板の温度と加熱時間の変化によって炭化の深さがどのように変化するかを測定した結果を示す。熱板装置としてホットプレート(アズワン株式会社 ND−1)を使用した。実施例1と同様に、各温度と時間に対応するサンプルを3個ずつ作成し、3個のサンプルの炭化深さを記入した。熱板の温度を240℃から340℃の範囲で、加熱時間を15秒から120分までの範囲内でサンプルを作成した。ホットプレートの最高温度は350℃なので、それ以上の温度では実施例1の溶融スズの上に、10mm厚で100×100mmサイズのアルミ板を置き、その上に角材を乗せて炭化した。表3ではこの場合も含めてホットプレートと記載されている。炭化後の各サンプルの中央部を仮道管の方向にカッターナイフで縦割りし、その断面を顕微鏡で観測しながら炭化層の深さを測定した。カッターナイフで縦割りした面が荒れている場合は、カンナがけして見やすい面にしてから観測した。表3の中で×印は、その温度と時間でクラックが発生したことを示す。
上記のようにアルミ板を熔融スズの上に浮かべる代わりに、アルミ箔を浮かべその上に木材を置いても同様に加熱することができた。厚さ13μ、サイズ90×60mmのアルミ箔を熔融スズ浴の上に浮かべ、上記と同サイズの木材をアルミ箔の中央部に置いても、アルミ箔は木材の重力により殆ど沈下しなかった。そこで、木材をトングでくわえて8mm程度押し下げたところ、図5に示されているように、浴中のアルミ箔は、木材の下部の周辺部末端において上方に折れ曲り、木材下部の周辺部末端に密接するため、熱分解成分の揮発が防止された。その結果、アルミ板の場合には末端の炭化部にクラックが発生するような温度と時間でもクラックの発生が防止された。
図11は、表3の各温度と加熱時間における3個のサンプルの炭化深さの平均値をプロットしたグラフである。280℃以下の熱板温度では、加熱時間を更に延長することが可能である。炭化深さは15mm前後までクラックの発生なく到達させることができた。図10と図11から、溶融金属方式と熱板方式では、殆ど同じ結果が得られることが分かった。図11において、グラフの点線で表示されている部分は、木材表面層に水ガラスを含浸させ、340℃で加熱した場合のデータである。これについては実施例7で詳細に説明するが、水ガラスを含浸させることにより、含浸させない場合より長い時間の加熱でも或いはより高温でもクラックの発生が無く、炭化深さも大きくなることを示している。
表4は、縦20mm、横(仮道管方向)30mm、高さ16mmの杉辺材に、熱風発生装置として市販のヒートガン(エボリューションパワーツール株式会社 ヒートガン熱風機HDG200JP)を用いて20mm×30mmの面に熱風を吹き付け、熱風の温度と熱風吹き付け時間によって炭化の深さがどのように変化するかを測定した結果を示す。各サンプルは天然物であり、バラつきがあるので各温度と時間に対応するサンプルを3個ずつ作成し、3個のサンプルの炭化深さを記入した。熱風の温度を280℃から480℃の範囲で、吹き付け時間を20分までの範囲内でサンプルを作成した。280℃以下では長時間の加熱でも炭化が不十分であった。炭化後の各サンプルの縦の長さの中央部を仮道管の方向にカッターナイフで縦割りし、その断面を顕微鏡で観測しながら炭化層の深さを測定した。カッターナイフで縦割りした面が荒れている場合は、カンナがけして見やすい面にしてから観測した。表4の中で×印は、その温度と時間でクラックが発生したことを示す。
図12は、表4の各温度と熱風吹き付け時間における3個のサンプルの炭化深さの平均値をプロットしたグラフである。炭化深さは3mm前後までしか到達させられないことが分かった。しかし、用途によってはこの程度の炭化深さであっても十分である。熱風方式は現場で簡単に炭化できることが最大の魅力である。例えば、現場で切断した木材の切断面に熱風を吹き付けることにより容易に炭化させることができる。
表4のデータは木材の表面層に水ガラスを含浸させていない場合のものであるが、実施例7のA角材(水ガラス含浸量が29.0g/m2)を熱風方式で加熱し、クラックの発生状況を観察し、炭化深さを測定した。角材の水ガラス含浸面に360℃の熱風を、時間をパラメータとして吹き付けた。水ガラスの含浸が無い角材では、クラックが発生しない加熱時間は4分までであったのに、A角材のクラックが発生しない加熱時間が15分まで延びた。実に3倍以上に延びたのである。また、炭化深さも2.31mmから4.78mmまで2倍に増加した。これらの結果が図12の点線グラフで示されている。更に、炭化された面を指で擦っても黒い粉が殆ど付着しないようになった。
熱風方式では、加熱中に木材表面が気体不透過性部材で覆われていないので、加熱により発生した熱分解気化成分が自由に木材表面から発散する。そのために炭化深さが小さいにもかかわらずクラックが発生すると考えられる。例えば、360℃の熱風を使用した場合は5分でクラックが発生するが、同温度の熱板を使用した場合は10分でクラックが発生している。380℃では、熱風では3分で、熱板では5分でクラックが発生しているように、加熱中の木材表面が気体不透過性部材で覆われているとクラック発生が防がれていることが分かる。
赤外線ランプとして、石英ガラス管ヒーター(外形12mm、有効発光長さ約200mm、出力560W)を使用し、このヒーターの両端に100Vの交流電圧を印加してスイッチでオンオフできるようにした。木材として縦20mm、横(仮道管方向)30mm、高さ16mmの杉辺材を使用し、赤外線ランプの表面からサンプル表面までの距離を10mm又は20mmとした。同一加熱時間に対してそれぞれ3個のサンプルを作成した。照射時間が長くなると或いはランプ(ヒーターと同意)とサンプルとの距離が小さいと木材表面の温度上昇が速く、煙が発生した。クラックが発生しない条件に注目して測定した。10mmより小さい距離では1〜2分間の照射で煙が激しく発生し、3〜5分間の照射で発火に至ることもあった。被炭化面が開放されているとクラック発生なしに深く炭化できないが、角材の上に石英板を載せ、その上から赤外線を照射するとクラックが発生しにくいことが確認できた。
表5に測定結果を示した。表5のランプと木材の距離にQが付されているのは、木材の表面に厚さ2.4mmの石英板を載せた場合を示している。表5から分かるように石英板が無い場合は、3分間の照射で木材にクラックが発生してしまうが、石英板が有る場合は10分間の照射で初めてクラックが発生した。しかも炭化深さが、石英板が無い場合の2倍程度に増大することが確認された。この実施例からも、加熱中に木材表面が気体不透過性部材で覆われていないと、加熱により発生した気化成分が木材表面から気化することによりクラックが発生し易いことが確認された。表5の中で×印は、その温度と時間でクラックが発生したことを示す。
図13は、表5における各測定点の3個のサンプルの炭化深さの平均値をプロットしたグラフである。図13からも、石英板(気体不透過性、赤外線透過性)の効果が明確に分かる。図10、図11、図12ではグラフの形が類似していたが、図13のグラフの形はこれらと全く相違していることが分かる。つまり図13においては、時間とともに炭化深さは急上昇している。この相違は、前三者では木材表面の温度は一定であるのに対し、後者では木材表面に蓄積されるエネルギーが時間とともに上昇し、木材表面の温度が時間とともに上昇するということによると考えられる。クラックを発生させない条件として、木材表面の温度が450℃を超えないようにすることが重要である。
後記の実施例7のA角材(水ガラス含浸量29.0g/m2)及びB角材(水ガラス含浸量72.9g/m2)をサンプルとし、石英板を使用しない場合と同様にしてA角材、B角材を赤外線方式で加熱し、クラックの発生状況を観察し、炭化深さを測定した。角材の水ガラスが含浸されている面をヒーターと対面させた。ヒーターと角材表面との距離10mmとした場合はA角材を、距離20mmとした場合はB角材を使用した。図13において、点線で表示されているグラフが、木材の表面層に水ガラスを含浸させた場合のデータである。左側の点線グラフは木材とランプとの距離が10mm、右側の点線グラフは20mmの場合である。距離が10mmでは、クラックが発生しない時間が2倍にのび、しかも炭化深さが2.24mmから3.68mmに増大した。また、距離が20mmの場合でも、クラックが発生しない時間が2倍にのび、炭化深さは4.97mmから9.10mmに増大した。このように、水ガラスが表面層に含浸されていることにより、クラックが発生しない照射時間が大幅に延び、しかも、炭化深さも大幅に増大したのである。更に、炭化された面を指で擦っても黒い粉が殆ど付着しないようになった。
断面が30mm角のエゾ松角材の先端から50mmまでの部分を、300℃の溶融スズに5分間浸漬後引き上げた。炭化後の表面は均一に炭化されており、ほぼ真黒でクラックは皆無であり、指で擦っても黒い粉は殆どとれなかった。先端から15mmの所で長さ方向に直角にバンドソーで切断し、切断面を撮影した写真が図14の(a)である。次に、断面が45mm角のエゾ松角材を2本用意し、その先端から25mmまでの部分を、300℃の溶融スズに1本は4分間、他方は10分間浸漬した後引き上げ、炭化部の先端から10mmの所で長さ方向に直角にバンドソーで切断し、切断面を撮影した写真がそれぞれ図14の(b)及び(c)である。図14の(a)、(b)、(c)から、角材の太さが小さいほど炭化層の断面が円に近づき、浸漬時間が長いほど円に近づくことが分かる。
次に断面が30mm角と45mm角のエゾ松角材を長さ40mmに切断した。これらの角材を、長さ方向が水平になるように300℃の溶融スズの表面に浮かせ、30mm角の角材は5分毎に、45mm角の角材は10分毎に長さ方向の全ての面が溶融スズ浴に接するようにして回転した。このようにして長さ方向の4面が炭化された後、スズ浴から取り出して放冷した。30mm角の角材は合計20分、45mm角の角材は合計40分間スズ浴に浮かせていた。冷却後、長さ方向に対して直角に中央部をバンドソーで切断し、それぞれの切断面を撮影した写真が図14の(d)及び(e)である。いずれのものの炭化層の最内部の形状が正方形に近い。図14から明らかなように、4面を同時に溶融金属浴に浸漬するよりも、1面ずつ浸漬していく方が角材の形状に沿って炭化され、炭化層の厚さの制御も確実になる。また、角材の断面外形も完全な正方形が維持されている。それに対して角材全体をスズ浴に浸漬した場合は、角材の断面外形が図14の(c)から分かるように少し歪んでいる。
(比較例1)
通常の電気炉で加熱炭化した場合の問題点を示すために、次のようなテストを実施した。電気炉(米国Paragon Industries, Inc.製 MODEL VIKING 66)内に内径230mm、高さ220mmの常滑焼き瓶を入れ、その中に瓶の内壁に沿って長さ150mmの3本のセラミック製アングル棒を、ほぼ正三角形の頂点の位置にそれぞれ立て、その上にステンレス製金網(線径0.45mm、目開き2.09mm、10メッシュ)を水平に敷いて、電気炉を300℃に昇温した。常滑焼き瓶及び金網が完全に300℃になるように、炉内設定温度が300℃に到達してから1時間以上経過した後に、断面が30mm角、長さ50mmのエゾ松角材を金網の上に、一方の断面が下になるように垂直に載せ、300℃で5分間加熱した後、電気炉から取り出し放冷した。このように2重構造にしたのは、電気炉内のヒーターからの赤外線がサンプルに照射されないようにするためである。次に、同様にして断面が45mm角、長さ50mmのエゾ松角材も300℃で5分間加熱した後、電気炉から取り出した。次いで上記と同様に2種のエゾ松角材を用意し、加熱時間をそれぞれ10分間としたサンプルを作成した。
図15は上記サンプルの写真で、図15(a)、図15(b)は断面がそれぞれ30mm角、45mm角のエゾ松を300℃で5分間加熱したもの、図15(c)、(d)は断面が30mm角、45mm角のエゾ松を300℃で10分間加熱したものである。図15の最上段の写真は各サンプルの上面(金網から遠い方の面)、2段目の写真は各サンプルの側面(中央の水平な直線は炭化後の切断部)、3段目の写真は各サンプルの底面、最下段の写真は各サンプルの切断面のそれぞれの写真である。図15から明らかなように、このような通常の電気炉による加熱ではコーナー部が優先的に炭化され、コーナーから遠い面内の炭化は非常に遅い速度でしか進まないのである。コーナー部の炭化は進みすぎて、指で擦ると容易に黒い粉が指に付着するようになった。本発明の溶融金属方式や熱板方式で、一つの面だけを加熱する場合はこのようなことが無く、加熱される面内が均一に炭化される。また、コーナー部だけが強く炭化されることもない。図15(d)の最上段の写真には3個のクラック(割れ)が、3段目の写真には6個のクラックが確認できる。加熱により熱分解した成分が自由に空間に揮発できるため、角材が収縮した際に発生したためと考えられる。更に、外形も正方形から少し歪んでいることも分かる。金網が有る分だけ加熱の度合いが大きく、炭化が進むと同時にクラックも多く発生したのである。これに対して本発明では、熱分解した成分の揮発が防止されるため、熱収縮が起こりにくく従って、クラックも発生しにくいのである。
(比較例2)
本発明と電気炉での加熱炭化との差異を一層明確に示すために次のようなテストを実施した。比較例1の金網に代えて厚さ10mm、サイズ100mm×160mmの鉄板を用い、断面が45mm角、長さ50mmのエゾ松角材を、比較例1と同様にして10分間加熱した。加熱後すぐに電気炉からサンプルを取出し、放冷した。図16(a)は得られたサンプルの上面の写真で、比較例1の図15(a)の上面とほぼ同じ形状に炭化されていることが分かる。図16(b)はサンプルの側面写真(中央の水平な直線は切断部)で、図15(d)の側面写真とほぼ同じである。図16(c)はサンプルの底面写真で、底面が金属板に接していたのでほぼ均一に、且つ濃く炭化されている。図16(d)はサンプルの切断面の写真である。コーナー部が濃く炭化されているが、面内はあまり炭化されていないことが分かる。上面(図16(a))には1本のクラック(割れ)が発生しているが、底面には割れが全く無かった。このように被炭化面が気体不透過性の部材で覆われていると、炭化が均一に行われると同時に割れも発生しにくいことが確認された。図15(d)の底面(金網に接していた面)では、炭化の進み方が上面よりやや大きくなっているが、クラックが6本も発生していた。金網の隙間から熱分解成分が揮発したためと考えられる。この事実によっても、本発明の気体不透過性部材の効果が確認された。図16(e)は実施例5の図14(c)のサンプル(溶融スズに10分間浸漬されていた45mm角エゾ松)の先端(底面)の写真である。図16(c)から明らかなように、鉄板に接していた面は炭化の度合いも均一性もほぼ完全である。図16(c)と図16(e)を比較すると、図16(c)の方が濃度が小さいが、これは本比較例の鉄板が完全な熱板ではなく、サンプルを載せたことにより鉄板の温度が低下し、300℃に回復するのに時間を要したためである。
(比較例3)
市販の川砂(セメントに砂利とともに混合して使用する為の砂)を常滑焼の瓶(内径165mm、高さ175mm)の約8分目の高さまで入れた。これを比較例1の電気炉に入れて300℃に2時間保った後、断面が30mm角、長さ200mmのエゾ松角棒をこの砂の中に、先端から50mm位が砂の中に入るように約45℃の傾斜で斜めに刺し込んだ。エゾ松角棒の先端は砂に入りやすいように、あらかじめ槍状に加工しておいた。角棒を挿入して5分間放置後とりだしたところ、比較例1と同様に角部が優先的に炭化され、面内は殆ど炭化されていなかった。
市販のMDF板(厚さ14mm)、市販のラジアタパイン集成材(厚さ18mm)、市販のベニヤ合板(厚さ12mm)、市販のOSB合板(厚さ12mm)を20×30mmサイズに3個ずつ切断してそれぞれ3枚のサンプルを用意した。実施例2のホットプレートを300℃に設定し、これら4種の切断された板4枚1組のサンプルを同時にホットプレートにのせ10分間加熱した。この操作を各組について同様に行い、4種の木材についてそれぞれ3個のサンプルの炭化層厚を測定しその平均値を算出した。その結果、MDF板は4.93mm、集成材は4.28mm、ベニヤ合板は4.72mm、OSB合板は4.40mmであった。いずれも実施例2の結果に近い結果になった。
水ガラスを木材表面層に含浸させると、実施例1及び実施例2の両方式による木材の表面層炭化が一層有効に行われることを示す。すなわち、クラックが発生しない範囲で加熱時間或いは加熱温度を増加することができ、しかも炭化深さをより大きくすることができるのである。
水ガラス(昭和科学株式会社 1号珪酸ナトリウム溶液(水ガラス1号、非常に粘稠な流体)、以後単に水ガラスと記載)を水で希釈し、水ガラスの重量割合が34%及び58%の水溶液を作成した。これらの水溶液を実施例1と同様の多数の杉角材に少量滴下しガラス棒で均一に広げた後、水平に放置乾燥した。乾燥後の木材表面にはガラス質の膜は形成されておらず、木材表面層に含浸されたと推測される。木材表面と断面の含浸部分は色が少し濃くなっており、含浸の深さは0.2mm程度であった。水ガラスを木材に含浸させ、それを十分に乾燥させた後の木材の平均重量増加は、水ガラス34%液では0.47%、58%液では1.10%であった。前者をA角材、後者をB角材と命名する。平均塗布量に換算すると、それぞれA角材が29.0g/m2、B角材が72.9g/m2であった。
A角材を実施例1と同様に、360℃の溶融スズに水ガラス含浸面を下にして約10mm程度浸漬し、15秒に1回程度の頻度で浸漬した状態で場所を変えたり、角材を持ち上げたりしてスラグの無い場所に浸漬するようにした。5分後にA角材を引き上げて放置冷却した。同様にして合計3個のサンプルを作成し、炭化深さを測定した。3個のサンプルの平均炭化深さは6.54mmであった。クラックは発生していなかった。次に、同様にしてA角材を10分間、360℃の溶融スズに浸漬した後、クラックの発生状況観察、炭化深さの測定をしたところ、クラックの発生はなく、3個の平均炭化深さは9.26mmであった。次いでA角材を同様にして15分間同温度の溶融スズに浸漬した。3個の角材のうち2個にクラックが発生した。B角材について同様の実験をしたところ、3個のうち1個にクラックが発生した。13分の段階ではいずれの場合もクラックは発生していなかった。水ガラスを含浸していない角材は、クラックが発生しないのは5分までであったが、水ガラスを含浸しているとクラックが発生しない時間が2倍に延び、しかも炭化深さも2倍近くまで増加した。これらの結果が図10の点線で示されている。他の温度条件でも類似の効果が得られる。更に驚いたことに、水ガラスを含浸させた場合は、炭化面を指で擦っても黒い粉が殆ど指に付着しないことが確認された。水ガラスが含浸されていない角材で上記と同様なテストを行い、同じ炭化深さのサンプルを比較したところ、水ガラスが含浸されている方が遥かに指に汚れが付着しにくかった。この効果は実用上非常に有利である。
A角材、B角材を実施例2と同様に、340℃のホットプレートに水ガラス含浸面を下にして載せ、加熱時間をパラメータとしてクラックの発生状況の観察及び炭化深さを測定した。その結果、A角材は20分までクラックが発生せず、30分でクラックが発生した。B角材は30分までクラックが発生しなかった。図11から分かるように水ガラスを含浸していない角材は、340℃の加熱温度でクラックが発生しないのは15分までであったから、クラックが発生しない時間が2倍に伸び、しかも炭化深さも5割程度増加している。これらの結果が図11の点線で示されている。他の温度条件でも類似の効果が得られた。上記の溶融スズでの炭化の場合と同様に、炭化面を指で擦っても黒い粉が殆ど指に付着しないことが確認された。
実施例3と同寸法の杉辺材を、厚さ13μmのアルミ箔で杉辺材の上面と側面をカバーした。杉辺材の上面とアルミ箔との間に空隙が生じないように、アルミ箔をしごいて密着させた。アルミ箔が浮き上がらないように側面にも押しつけた。このように準備したサンプルのアルミ箔でカバーされた面(上面)を下にして、実施例2と同様にして340℃のホットプレートの上に載せ、15分間加熱した。冷却後、アルミ箔を取り除いて炭化面を観察したところ、アルミ箔が無い場合に比べて面状は非常にきめ細かく平滑であった。クラックも発生していなかった。炭化層の厚さはアルミ箔が無い場合に9mm程度であったのに対し、アルミ箔がある場合は10mm程度と、やや増加していた。炭化面を指で擦っても黒い粉は殆ど付着しなかった。
実施例3と同寸法の杉辺材4個を作業台の上に5mmの間隔をあけて2行2列に並べ、それらの上面(20×30mmの表面)に5mm厚でサイズが100mm角のステンレス板を載せた。4個のサンプルがステンレス板のほぼ中央部になるように配置した。ステンレス板の上方からガスバーナー(藤原産業株式会社 ワンタッチガストーチSK−11)の炎を、ステンレス板の全面に均一に放射されるように移動させながら1分間放射したところ、少し煙が発生した。そこで、30秒間消火し煙が完全に出なくなってから20秒間放射したところ、再び煙が少し発生した。そこで、また30秒間消火して煙が消えてから20秒間放射という具合に、以後30秒間消火と20秒間放射を9回繰り返した。合計11回の繰り返しを行なった。最後の20秒放射後、放冷しステンレス板を外して角材の炭化表面を観察したところ、クラックの発生はなく、3個のサンプルの炭化表面層の厚さは平均で5.82mmであった。煙の発生状況から、サンプル表面の温度は常に340℃以下に保たれたと推定される。
次に上記のステンレス板に代えて厚さ1mm、サイズ60×50mmの鉄板を、実施例3と同じ杉角材1個の上に載せ、上記と同様にしてガスバーナーを10秒間放射したところ、煙が少し発生した。そこで、10秒間消火したら煙が出なくなった。この繰り返しを12回行なった。その後放置して冷却後鉄板を外してサンプルの表面炭化層の厚さを測定したら、2.39mmであった。炭化された面は非常に平滑でクラックもなかった。煙の発生状況から判断してサンプルの表面温度は300℃以下に保たれたと推定される。次に上記の鉄板の代わりに、厚さ0.3mm、サイズ60×50mmの鉄板を上記と同様の杉角材1個の上に載せ、上記と同じサイクルでガスバーナー放射と消火を繰り返そうとして、ガスバーナーを10秒間放射したところ、角材から激しく煙が発生し、端部が着火したがまもなく自然に消えた。鉄板を外して炭化された面を観察したところ、クラックが多数発生していた。サンプルの表面温度は450℃以上になったと推定される。そこで、ガスバーナー放射と消火のサイクルを5秒間放射、10秒間消火の繰り返しとし、この繰り返を5回行った後放置冷却した。クラックの発生はなく表面炭化層の厚さは2.09mmであった。このように角材の上に載せる金属板の厚さが小さくなると、ガスバーナー放射により金属板の温度が急激に上昇するので、金属板の厚さに応じて、ガスバーナー放射と消火の時間を適当に選ぶことが重要である。
実施例3と同寸法の杉辺材の上面(20×30mmの表面)に、1mm厚でサイズが60mm×50mmの鉄板を載せ、実施例3と同じヒートガンを用い、鉄板に340℃の熱風を5分間吹き付けたところ、木材の表面は殆ど着色しなかった。そこで、熱風の温度を400℃に上げて10分間加熱したところ、少し濃く(茶褐色)なった。表面層の炭化深さは2.46mmであった。次に、上記の厚さ1mmの鉄板の代わりに厚さ0.3mm、サイズ60×50mmの鉄板を用いて同様の実験を行なったところ、クラックが無く厚さが3.21mmの黒色炭化層が得られた。一方、厚さ17μのアルミ箔で杉辺材の上面(20×30mmの表面)と側面(高さ方向の表面全体)をカバーし、杉辺材の上面とアルミ箔との間に空隙が生じないように、アルミ箔をしごいて密着させた。このように準備したサンプルの、アルミ箔の上方から400℃の熱風を5分間吹き付けた後、アルミ箔を取り除いたところ、炭化層の表面に多数のクラックが発生していた。アルミ箔が薄い金属なので、400℃の熱風によりサンプル表面の温度が400℃近くになり、しかも加熱時間が5分と長くなったのでクラックが発生したのである。鉄板或いはアルミ箔が熱板になり熱板方式と同様に木材が加熱されたのであるが、金属板の厚さが大きいと熱風による加熱の効率が悪く、逆にアルミ箔のように薄くなると、加熱されやすいので温度と時間を適当に選ぶことが重要である。
角材サンプルとして実施例3と同寸法の杉辺材を用い、その上面(20×30mmの表面)に、1mm厚でサイズが60mm×50mmの黒色表面処理された鉄板を載せ、実施例4と同様に石英ガラス管ヒーターを、ヒーターからサンプルの上面までの距離が10mmになるように配置した。ヒーターに電圧を印加して、2分間赤外線を照射した後、5秒間電圧印加を停止し、次いで25秒間電圧を印加した後、5秒間電圧印加を停止した。以後このように25秒間電圧印加、5秒間電圧印加停止を16回繰り返した後、放冷してからサンプルを確認したところ、炭化された面は非常に平滑でクラックの発生も無かった。このようにして作成された2個のサンプルの表面炭化層の平均厚さは3.70mmであった。電圧印加のオンオフを繰り返した間中煙の発生は殆どなかったので、サンプル表面の温度は300℃以下に保たれたと推定される。尚、黒色鉄板の代わりにアルミ箔を用いて同様の実験を行なったところ、角材は殆ど着色しなかった。即ち、アルミ箔が赤外線を反射してあまり加熱されなかったのである。従って、この目的のためには赤外線をよく吸収する部材が必要である。
実施例12は熱ロールを板状木材の面上で回転移動して木材の表面層を炭化する例であるが、ヒーターを内蔵した熱ロールの入手が困難であるため、その代用として熱熔融金属浴にアルミロールを浮かべたものを利用した。アルミロールとして、直径30mm、長さ100mmのものを用いた。実施例1と同様にしてステンレス製バット内に熔融されたスズ浴にアルミロールを浮かべたところ、アルミロールは浴面から垂直に約18mmが浴面から露出した。スズ浴の温度は400℃に設定した。次いで断面が30×14mm、長さ300mmの杉板を、30×14mmの面がアルミロールに接するように、且つアルミロールと杉板が直交するようにアルミロールの上に載せ、少し荷重をかけてアルミロールの約3分の2がスズ浴に浸漬される状態で、杉板をゆっくり水平に移動させた。杉板を移動させるとアルミロールは杉板の移動に同期してゆっくり回転した。杉板を5分間かけて50mm移動させた。この間、煙は発生しなかった。従ってアルミロールと杉板が接している部分の杉板の表面温度は340℃以下であったと推定される。炭化された面は十分に黒化しており、炭化深さは1.19mmであった。以上の実験から熱ロールにより木材表面を炭化できることが確認された。
実施例2と同様にしてホットプレートを340℃に設定加熱した。このホットプレートの上に直径20mm、長さ30mmの樫丸棒を載せ、ゆっくり回転させながら移動し、8分かけて約半周回転した時点で樫丸棒をホットプレートから取り出して放置、冷却した。冷却後、炭化深さを測定したところ、1.34mmであった。
次に、上記と同寸法の樫丸棒と、13μ厚のアルミ箔でほぼ半周をカバーした同寸法の樫丸棒を並べて340℃のホットプレートの上に載せ、15分間放置後アルミ箔でカバーしてない方の樫丸棒をトングでつかんで持ち上げ、樫丸棒のホットプレートに接していた部分を観察したところ、クラックは発生していなかった。この確認作業に要した時間は7〜8秒である。そこで、直ぐにこの樫丸棒を同じ場所が加熱されるようにホットプレートの上に戻し、両者を5分間追加加熱した後ホットプレートから外して放置冷却した。アルミ箔でカバーされてない樫丸棒の方には多数の大きなクラックが発生していたが、アルミ箔でカバーした方の樫丸棒にはクラックが全く発生していなかった。このようにホットプレートとの接触面積が小さい場合、アルミ箔でカバーする効果は絶大である。
実施例2において熱板方式により、ホットプレートの温度を340℃とし、15分間加熱したサンプルの炭化面を指で擦っても殆ど黒い粉は付着しないが、ティッシュペーパーで強く擦ると少し黒い粉がティッシュペーパーに付着した。このようなサンプルの炭化面に、実施例7と同様にして水ガラスを含浸させたところ、ティッシュペーパーで強く擦っても全く粉が付着しなくなった。水ガラスの代わりに塗料(アトムサポート株式会社 水性スプレー アイボリー)をスプレー塗布したところ、外観はアイボリーになった。十分に乾燥後、粘着テープ(住友スリーエム株式会社 スコッチ超透明テープS)を貼付けた後、剥離したところ、いずれも部分的に剥離した。テープに付着して剥離した部分には炭化層が薄く付着していた。炭化層は表面側ほど比較的に脆いので、水ガラス及び水性スプレーが炭化層内部まで到達していないことが原因と考えられる。炭化層は比較的親油性なので、水性塗布剤は炭化層との接着性が良くないことも考えられる。
次に、上記と同様の炭化サンプルの表面にポリシロキサンの有機溶剤液(品川白煉瓦株式会社製(現品川リフラクトリーズ株式会社) NIC−C5 テトラメトキシシランの加水分解物であるポリシロキサンをキシレンと酢酸ブチルの混合溶剤に溶解したもの)をスポイトで3滴滴下し、ガラス棒で全面に広げた。滴下された液は10数秒で浸透したので、この操作を再度繰り返した後、放置して自然乾燥させた。溶剤が完全に乾燥後、サンプルの表面をティッシュペーパーで強く擦っても黒い粉は付着しなかった。次に、上記と同様にして粘着テープ剥離テストを行なったところ、全く剥離しなかった。
上記のポリシロキサンに代えて有機溶剤系塗料(アトムサポート株式会社 ラッカースプレーE 茶色)を1回スプレー塗布した。塗膜は非常に平滑で光沢があった。3時間乾燥後に上記と同様にして粘着テープ剥離テストを行なったところ、全く剥離しなかった。